(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6600164
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】かご形回転子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20191021BHJP
【FI】
H02K15/02 J
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-103634(P2015-103634)
(22)【出願日】2015年5月21日
(65)【公開番号】特開2016-220419(P2016-220419A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄司
【審査官】
宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/102942(WO,A1)
【文献】
特開平08−237919(JP,A)
【文献】
特開2014−099966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸が設けられた回転子鉄心に形成されたスロットに導体バーを設ける工程と、
前記回転軸の負荷側からねじり力を加えるようにし、前記回転軸の回転方向にあって第1方向とこれとは反対の第2方向の両方向にねじり力を加えることにより前記回転子鉄心にねじり力を加えて前記スロットの内面と前記導体バーの外面との間に隙間を形成する工程と、
前記隙間に充填部材を充填する工程と、を備えるかご形回転子の製造方法。
【請求項2】
前記隙間に前記充填部材を充填する前に前記回転子鉄心に衝撃を加えるようにした請求項1に記載のかご形回転子の製造方法。
【請求項3】
回転軸が設けられた回転子鉄心に形成されたスロットに導体バーを設ける工程と、
前記回転子鉄心を液体状の充填部材中に入れた状態で、前記回転軸の負荷側からねじり力を加えるようにし、前記回転軸の回転方向にあって第1方向とこれとは反対の第2方向の両方向にねじり力を加えることにより前記回転子鉄心にねじり力を加えて前記スロットの内面と前記導体バーの外面との間に隙間を形成するとともに、前記隙間に前記充填部材を充填する工程と、を備えるかご形回転子の製造方法。
【請求項4】
前記回転子鉄心を液体状の前記充填部材中に入れて前記隙間に前記充填部材を充填する際に、前記回転子鉄心に衝撃を加えるようにした請求項3記載のかご形回転子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、かご形回転子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かご形回転子は、回転子鉄心が有するスロットに、アルミニウムなどの導体バーが設けられる。導体バーとしては、鋳造(ダイカスト)により設けられる場合と、予め形成された導体バーをスロットに挿入して設けられる場合とがある。
【0003】
導体バーを鋳造により設ける場合、回転子鉄心と導体バーの線膨張係数の違いにより、導体バーの冷却後に、スロットの内面と導体バーの外面との間に微少な隙間が形成される。また、予め形成された導体バーをスロットに挿入して設ける場合でも、スロットの内面と導体バーの外面との間に微少な隙間が形成されることが避けられない。前記隙間が形成された状態で、電動機の回転子に使用されると、回転子の起動や停止の際に、導体バーが隙間を介して回転子鉄心に衝突し、損傷が発生するおそれがある。このようなことに対処するため、前記隙間に樹脂などの充填部材を充填することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−237919号公報
【特許文献2】特開2001−25222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、導体バーを鋳造で設ける場合も、予め形成されたものを挿入して設ける場合も、前記隙間は場所によって不均一になりやすく、このため充填部材の充填も不均一になりやすく、品質が不安定になりやすい。
【0006】
そこで、スロットの内面と導体バーの外面との間の隙間を極力均一に形成することができ、これに伴いその隙間へ充填される充填部材を極力均一に充填することが可能となり、品質の安定化を図ることができるかご形回転子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態のかご形回転子の製造方法は、
回転軸が設けられた回転子鉄心に形成されたスロットに導体バーを設ける工程と、
前記回転軸の負荷側からねじり力を加えるようにし、前記回転軸の回転方向にあって第1方向とこれとは反対の第2方向の両方向にねじり力を加えることにより前記回転子鉄心にねじり力を加えて前記スロットの内面と前記導体バーの外面との間に隙間を形成する工程と、前記隙間に充填部材を充填する工程と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態におけるかご形回転子にねじり力を加える状態を概略的に示す正面図
【
図4】回転子鉄心のスロットとこのスロットに鋳造により設けられた導体バーの熱収縮の差を模式的に説明する図であり、(a)は鋳造時の状態を示す図、(b)は冷却後の状態を示す図
【
図5】かご形回転子を槽内に収容して樹脂(充填部材)を隙間に充填する状態を示す縦断正面図
【
図6】スロット内面と導体バー外面との間の隙間に樹脂(充填部材)を充填した状態を模式的に示す断面図
【
図7】第2実施形態を示すもので、かご形回転子に衝撃を付与する状態を概略的に示す正面図
【
図8】第3実施形態を示すもので、かご形回転子を槽内に収容した状態でかご形回転子にねじり力を加えるとともに、樹脂(充填部材)を隙間に充填する状態を示す縦断正面図
【
図9】第4実施形態を示すもので、かご形回転子を槽内に収容した状態でかご形回転子にねじり力および衝撃を加えながら樹脂(充填部材)を隙間に充填する状態を示す縦断正面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、複数の実施形態によるかご形回転子の製造方法について図面を参照しながら説明する。なお、各実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0010】
(第1実施形態)
第1実施形態について
図1から
図6を参照して説明する。まず、
図1から
図3において、かご形回転子を構成する回転子1は、回転子鉄心2と、複数の導体バー3と、エンドリング4と、回転軸5を備えている。このうち回転子鉄心2は、磁性材製の例えばけい素鋼板を多数枚積層して構成されている。この回転子鉄心2には、中央部に軸挿入孔6が形成され、外周部に開放形のスロット7が複数個形成されている。これら軸挿入孔6およびスロット7は、回転子鉄心2の軸方向に延びている。軸挿入孔6に回転軸5が圧入されていて、回転子鉄心2と回転軸5は一体に回転される。回転軸5の軸方向の両端部は回転子鉄心2から外方へ突出していて、一方が負荷が接続される負荷側5aとされ、他方は反負荷側5bとされる。
【0011】
回転子鉄心2の各スロット7に、例えばアルミニウム製の導体バー3が設けられている。導体バー3は、鋳造、この場合アルミダイカストにより形成されたもので、各スロット7に沿って軸方向に延びている。エンドリング4は、回転子鉄心2の軸方向の両端面に位置させて、各導体バー3に接続された状態で円環状に設けられている。エンドリング4も、導体バー3をアルミダイカストにより形成する際に同時に形成されている。
【0012】
導体バー3およびエンドリング4をアルミダイカストにより設ける場合、溶融したアルミニウムが回転子鉄心2の各スロット7に流れて充填される。この状態では、
図4(a)に示すように、導体バー3を形成するアルミニウムがスロット7内に隙間なく充填された状態となる。
【0013】
この後、冷却されてアルミニウムが固化すると、回転子鉄心2を構成するけい素鋼板と、導体バー3を構成するアルミニウムの線膨張率の差により、
図4(b)に示すように、回転子鉄心2におけるスロット7の内面と導体バー3の外面との間に微少な隙間Gが形成されるようになる。
図4(b)においては、その隙間Gは、導体バー3の周りにほぼ均一に形成された状態で示されているが、実際にはほぼ均一に形成されるとは限らない。
【0014】
このように、回転子鉄心2におけるスロット7の内面と導体バー3の外面との間に微少な隙間Gが形成されたままの回転子1が電動機として組み立てられて使用されると、特に回転子1の起動や停止に伴い、導体バー3が隙間Gを介して回転子鉄心2に衝突し、損傷が発生しやすくなる。これに対処するため、前記隙間Gに充填部材として樹脂を充填するのであるが、本実施形態においては、樹脂を充填する前に、次のことを行う。
【0015】
図1に示すように、回転子鉄心2に回転軸5を圧入した状態で、回転軸5の反負荷側5bを、図示しない固定装置で回転しないように固定し、回転軸5の負荷側5aに回転軸5の回転方向(円周方向)にねじり力を加える(矢印A参照)。このとき、ねじり力は、回転子1の回転方向の第1方向およびこれとは反対の第2方向の両方向に加える。このように回転軸5にねじり力を加えることで、回転子鉄心2にもねじり力が加えられる。これにより、回転子鉄心2におけるスロット7の内面と導体バー3の外面との間の隙間Gが極力均一に形成されることが期待できる。
【0016】
この後、
図5に示すように、槽8内に収容された液体状の充填部材である樹脂9、例えば溶融状態のエポキシ樹脂中に回転子1を入れる。これにより、前記隙間Gに溶融状態の樹脂9が充填されるようになる。この後、回転子1を槽8から取り出して、樹脂9を固化させる。これにより、
図6に示すように、各スロット7の隙間Gに充填部材である樹脂9が充填され固化された状態となる。この後、回転子1は、バランス調整をして、製造が終了する。
【0017】
上記した実施形態においては、回転子鉄心2の各スロット7に導体バー3を設けた後、回転子鉄心2にねじり力を加えてスロット7の内面と導体バー3の外面との間に隙間Gを強制的に形成し、この後、前記隙間Gに充填部材である樹脂9を充填するようにした。これによれば、回転子鉄心2にねじり力を加えることで、前記隙間Gを全体にほぼ均一に形成することが可能になる。これに伴い、その隙間Gに充填される樹脂9を極力均一に充填することが可能となり、品質の安定化を図ることが可能となる。
【0018】
また、回転子鉄心2に設けられた回転軸5を利用し、この回転軸5の負荷側5aからねじり力を加えることで、回転子鉄心2にねじり力を良好に加えることが可能となる。さらに、回転軸5の回転方向にあって第1方向とこれとは反対の第2方向の両方向にねじり力を加えるようにしたことにより、一方向のみに比べて、隙間Gを一層均一に、しかも良好に形成することが可能となる。
【0019】
(第2実施形態)
第2実施形態について主に
図7を参照して説明する。この実施形態においては、前記隙間Gに樹脂9を充填させる前において、衝撃付与装置11により回転子鉄心2に衝撃を加えるようにする。衝撃付与装置11としては、例えばピストンバルブ12により往復駆動される衝撃部材13を備えていて、その衝撃部材13を往復動させて回転子鉄心2の表面に衝突させることで、回転子鉄心2に衝撃を加える構成となっている。
【0020】
この衝撃付与装置11を用いて回転子鉄心2に衝撃を加えるタイミングとしては、回転子鉄心2にねじり力を加えながら行ってもよいし、あるいはねじり力を加えた後、またはねじり力を加える前に行うようにしてもよい。このように回転子鉄心2に衝撃を加えるようにすることで、前記隙間G(
図4(b)参照)を一層均一に、しかも一層良好に形成することが期待できるようになる。
【0021】
なお、このように隙間Gを形成した後は、第1実施形態と同様に、槽8内に収容された液体状の樹脂9中に回転子1を入れて、隙間Gに樹脂9を充填させ、この後、回転子1を取り出してその樹脂9を固化させる。
【0022】
(第3実施形態)
第3実施形態について主に
図8を参照して説明する。この実施形態においては、槽8内に収容された液体状の樹脂9中に回転子1を入れた状態で、第1実施形態と同様に、回転軸5の反負荷側5bを、図示しない固定装置で回転しないように固定し、回転軸5の負荷側5aに回転軸5の回転方向(円周方向)にねじり力を加えるようにする(矢印A参照)。このときも、ねじり力は、回転子1の回転方向の第1方向およびこれとは反対の第2方向の両方向に加える。このように回転軸5にねじり力を加えることで、回転子鉄心2にもねじり力が加えられる。
【0023】
これにより、回転子鉄心2におけるスロット7の内面と導体バー3の外面との間の隙間Gが極力均一に形成されることが期待できるとともに、その隙間Gに樹脂9が良好に充填されるようになる。
【0024】
(第4実施形態)
第4実施形態について主に
図9を参照して説明する。この実施形態においては、第3実施形態と同様に、槽8内に収容された液体状の樹脂9中に回転子1を入れた状態で、回転軸5の反負荷側5bを、図示しない固定装置で回転しないように固定し、回転軸5の負荷側5aに回転軸5の回転方向(円周方向)にねじり力を加えるようにする(矢印A参照)。このときも、ねじり力は、回転子1の回転方向の第1方向およびこれとは反対の第2方向の両方向に加える。これにより、回転子鉄心2におけるスロット7の内面と導体バー3の外面との間の隙間Gが極力均一に形成されることが期待できるとともに、その隙間Gに樹脂9が良好に充填されるようになる。
【0025】
さらにこのとき、樹脂9中において、第2実施形態と同様な衝撃付与装置11を用いて、回転子鉄心2に衝撃を加えるようにする。回転子鉄心2に衝撃を加えることで、隙間Gに入っていた空気がその隙間Gから出やすくなるので、樹脂9を隙間Gに一層良好に充填することができるようになることが期待できる。
【0026】
(その他の実施形態)
スロット7内に設けられる導体バー3は、アルミニウムに限られず、例えば銅でもよい。また、鋳造(ダイカスト)に限られず、予め形成されたものをスロット7内に挿入して設ける構成のものでもよい。
隙間Gに充填部材を充填させるには、例えば回転子1を真空槽内に入れて真空引きした状態で、液体状の充填部材を真空槽内に入れて隙間Gに含浸させることで、充填させることもできる。
【0027】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、回転子鉄心にねじり力を加えてスロットの内面と導体バーの外面との間に隙間を形成するようにしたことにより、前記隙間を極力均一に形成することができ、これに伴いその隙間へ充填される充填部材を極力均一に充填することが可能となり、品質の安定化を図ることが可能となる。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0029】
図面中、1は回転子(かご形回転子)、2は回転子鉄心、3は導体バー、4はエンドリング、5は回転軸、5aは負荷側、7はスロット、8は槽、9は樹脂(充填部材)、11は衝撃付与装置、Gは隙間を示す。