【実施例1】
【0007】
図1の固定子鉄心1はハイブリッド車両の駆動源として使用される三相同期モータを構成するものである。この固定子鉄心1は複数の固定子打抜板4を軸方向に積層することで構成されたものであり、ヨーク5と複数のティース6と複数の取付片7を有している。ヨーク5は円筒状をなすものであり、複数のティース6はヨーク5の内周面から内側へ突出し、複数の取付片7はヨーク5の外周面から外側へ突出している。これら複数の取付片7のそれぞれは貫通孔8を有するものであり、固定子鉄心1は複数の貫通孔8のそれぞれを通して座面にネジを螺合することで固定される。この固定子鉄心1は積層鉄心に相当し、固定子打抜板4は打抜板に相当する。
【0008】
図2の順送プレス装置10はアンコイラー11とレベラー12とプレス機13を備えている。アンコイラー11は上駆動シャフト14および下駆動シャフト15を有するものであり、上駆動シャフト14および下駆動シャフト15のそれぞれは軸心線を中心に回転可能にされている。これら上駆動シャフト14および下駆動シャフト15は上下方向および左右方向に位置をずらして配置されたものであり、上駆動シャフト14および下駆動シャフト15のそれぞれにはコイル状に巻回された帯状鋼板16が装着されている。この帯状鋼板16は帯状板に相当する。
【0009】
両帯状鋼板16のそれぞれは板厚と幅寸法とグレードと材質と方向性等を含む全てが同一な電磁鋼板から構成されたものであり、板厚が0.3mm以下に設定されている。これら両帯状鋼板16のそれぞれは、
図2に示すように、矢印X方向に向けて巻戻され、両帯状鋼板16の巻戻し部分間は上駆動シャフト14の帯状鋼板16が上で下駆動シャフト15の帯状鋼板16が下となるように上下方向に重ねられている。
【0010】
レベラー12は、
図2に示すように、アンコイラー11の矢印X方向側に設置されたものであり、上ローラー17および下ローラー18を有している。これら上ローラー17および下ローラー18のそれぞれは軸心線を中心に回転可能にされたものであり、上下方向に互いに対向している。これら上ローラー17および下ローラー18間には両帯状鋼板16の巻戻し部分が上下方向に重ねられた状態で挿入されている。これら上ローラー17および下ローラー18は両帯状鋼板16に外力を加えることで両帯状鋼板16を塑性変形させるものであり、両帯状鋼板16を塑性変形させることで両帯状鋼板16から巻癖を除去する。
【0011】
両帯状鋼板16のうち上側の一方には、
図2に示すように、油膜19が形成されている。この油膜19は上側の帯状鋼板16の下面に打抜き油を霧吹きで付着させることで形成されたものであり、打抜き油の付着作業は両帯状鋼板16が上下方向に重なる前に作業者によってアンコイラー11およびレベラー12間で行われる。この油膜19は潤滑性によって円滑にせん断を行わせるものであり、両帯状鋼板16間はレベラー12を通過するときに油膜19の粘性で接触状態に仮止めされる。
【0012】
プレス機13は、
図2に示すように、レベラー12の矢印X方向側に設置されたものであり、フィーダーを備えている。このフィーダーは軸心線を中心に回転可能な2つのローラーを有するものである。これら2つのローラーは上下方向に対向するものであり、両帯状鋼板16は互いに接触した状態で2つのローラー間に挿入されている。これら2つのローラーのうち一方は電気的な駆動源に連結されている。この駆動源は一方のローラーを一方向へ回転操作するものであり、両帯状鋼板16は一方のローラーが回転操作されることに応じて矢印X方向へ互いに接触したまま搬送される。
【0013】
プレス機13はプレスモータの回転運動を直線的な往復運動に変換する機械式プレスからなるものであり、
図2に示すように、上型20および下型21を備えている。上型20はパンチP1とパンチP2とパンチP3を支持するものであり、プレスモータの運転状態において上死点および下死点間で往復動を繰返す。下型21はダイD1とダイD2とダイD3を支持するものである。これらダイD1〜D3は反矢印X方向から矢印X方向に向けて一列に等ピッチPで配列されたものであり、上型20の上昇状態でパンチP1はダイD1に上から対向し、パンチP2はダイD2に上から対向し、パンチP3はダイD3に上から対向している。
【0014】
プレス機13のフィーダーは両帯状鋼板16を反矢印X方向から矢印X方向へ断続的に搬送するものである。この搬送ピッチはダイD1〜D3の配列ピッチと同一値Pに設定されており、両帯状鋼板16は搬送ピッチPで断続的に搬送されることに応じて互いに接触したまま「ダイD1およびパンチP1間」→「ダイD2およびパンチP2間」→「ダイD3およびパンチP3間」に順に供給される。これらダイD1〜D3およびパンチP1〜P3は、
図3に示すように、両帯状鋼板16にせん断加工を施すことで両帯状鋼板16から短手方向に2列に固定子打抜板4を打抜くものであり、フィーダーは両帯状鋼板16にせん断加工が施されるタイミングで両帯状鋼板16を搬送停止する。
【0015】
ダイD1およびパンチP1は、
図3に示すように、加工ステージS1を構成するものであり、加工ステージS1では両帯状鋼板16に複数の長孔22が短手方向に2列にせん断加工される。これら各列の複数の長孔22のそれぞれは固定子鉄心1のスロットとなるものであり、円形軌跡上に配列されている。
【0016】
ダイD2およびパンチP2は、
図3に示すように、加工ステージS2を構成するものであり、加工ステージS2では両帯状鋼板16から円板3が短手方向に2列に打抜かれる。ダイD3およびパンチP3は加工ステージS3を構成するものであり、加工ステージS3では両帯状鋼板16から固定子打抜板4が短手方向に2列に打抜かれる。この固定子打抜板4はダイD3内に落下するものであり、ダイD3内には固定子打抜板4の打抜きが繰返されることに応じて固定子打抜板4が下から上に向けて順に積層される。
【0017】
下型21は、
図2に示すように、かしめダイKD1を支持するものである。このかしめダイKD1はダイD1の反矢印X方向側に配置されたものであり、上型20にはかしめパンチKP1が支持されている。このかしめパンチKP1は上型20の上昇状態でかしめダイKD1に上から対向するものであり、
図3の符号KS1はかしめダイKD1およびかしめパンチKP1から構成されるかしめステージである。
【0018】
かしめステージKS1は、
図3に示すように、両帯状鋼板16に6つのV型かしめ部23を短手方向に2列に成形するものである。これら各列の6つのV型かしめ部23のそれぞれは、
図4に示すように、円周方向の中央部が最も下へ凹むV字状をなすものであり、両帯状鋼板16間は各列の6つのV型かしめ部23のそれぞれで係合されている。
【0019】
両帯状鋼板16の各列の6つのV型かしめ部23は、
図3に示すように、円形軌跡上に配列されている。これら各列の6つのV型かしめ部23は両帯状鋼板16のうちヨーク5となる部分に成形されるものであり、加工ステージS3ではせん断加工が行われる毎に2枚の固定子打抜板4がV型かしめ部23を介した係合状態で下型21のダイD3内に落下する。この固定子打抜板4はダイD3内から取出された後に2枚を1組として軸方向へ積層されるものであり、6つのV型かしめ部23のそれぞれを軸方向に隣接する1組の固定子打抜板4のV型かしめ部23内に圧入することで積層状態に結合される。
【0020】
かしめステージKS1は、
図3に示すように、両帯状鋼板16に円形状をなす2つの下孔24(
図5のa参照)を成形するものである。これら2つの下孔24のうち一方は両帯状鋼板16の短手方向の一端部に成形され、他方は両帯状鋼板16の短手方向の他端部に成形されるものであり、いずれも両帯状鋼板16のうち固定子打抜板4とならない残材となる部分に成形される。
【0021】
下型21は、
図2に示すように、かしめダイKD2を支持するものである。このかしめダイKD2はかしめダイKD1およびダイD1間に配置されたものであり、上型20にはかしめパンチKP2が支持されている。このかしめパンチKP2は上型20の上昇状態でかしめダイKD2に上から対向するものであり、
図3の符号KS2はかしめダイKD2およびかしめパンチKP2から構成されるかしめステージである。
【0022】
かしめステージKS2は、
図5の(b)に示すように、両帯状鋼板16に2つのパイロット孔25を成形するものである。これら2つのパイロット孔25のそれぞれは下孔24にバーリング加工を施したものであり、
図5の(a)および(b)に示すように、下孔24に比べて直径寸法が大きな円形状をなしている。これら2つのパイロット孔25内のそれぞれはパイロットピンが挿入されるものである。これら2つのパイロットピンのそれぞれは上型20に支持されたものであり、両帯状鋼板16は上型20が上死点から下死点へ下降する途中で2つのパイロットピンのそれぞれがパイロット孔25内に進入することに応じてプレス機13の目標位置に位置決めされる。このパイロット孔25は位置決め孔に相当し、パイロットピンは位置決めピンに相当する。
【0023】
両帯状鋼板16には、
図5の(b)に示すように、2つの円型かしめ部26が成形されている。これら2つの円型かしめ部26のそれぞれはパイロット孔25を取囲む円筒状をなすものであり、両帯状鋼板16から下に向けて突出している。これら2つの円型かしめ部26のそれぞれは両帯状鋼板16にバーリング加工を施すことで成形されたものであり、両帯状鋼板16間は2つの円型かしめ部26で係合されている。即ち、V型かしめ部23および円型かしめ部26は加工ステージS1に比べて両帯状鋼板16の搬送方向Xの上流側で両帯状鋼板16間を接合するものであり、加工ステージS1〜S3では両帯状鋼板16間の接合状態で両帯状鋼板16にせん断加工が施される。これらV型かしめ部23および円型かしめ部26のそれぞれはかしめ部に相当する。
【0024】
上記実施例1によれば次の効果を奏する。
加工ステージS1〜S3のうち両帯状鋼板16に最初にプレス加工を施す加工ステージS1に比べて搬送方向Xの上流側で両帯状鋼板16間をかしめ付けしたので、両帯状鋼板16が加工ステージS1〜S3に接合状態で搬送される。従って、加工ステージS1〜S3で両帯状鋼板16にせん断加工を施すときに両帯状鋼板16間がばらけず、両帯状鋼板16相互間の位置関係も安定するので、両帯状鋼板16にせん断加工を互いに重なる状態で円滑に施すことができる。
【0025】
両帯状鋼板16をかしめ付け状態で搬送したので、特に加工ステージS3で両帯状鋼板16の短手方向の両端部の棧幅部が強度不足で垂れ下がることを防止できる。従って、両帯状鋼板16の棧幅部が下型21のダイD3内の固定子打抜板4に引っ掛ることを防止できるので、両帯状鋼板16を円滑に搬送することが可能となる。
【0026】
両帯状鋼板16間を固定子打抜板4となる部分でかしめ付けすることに応じてV型かしめ部23を成形した。従って、複数組の固定子打抜板4間をV型かしめ部23でかしめ付けすることに応じて積層状態に結合することができるので、複数組の固定子打抜板4の積層作業が簡単になる。
【0027】
両帯状鋼板16にバーリング加工を施すことに応じてパイロット孔25および円型かしめ部26を成形したので、両帯状鋼板16間でパイロット孔25の位置関係がずれることがなくなる。従って、両パイロット孔25内のそれぞれに対してパイロットピンを円滑に抜差しすることができるので、両帯状鋼板16にパイロットピンが引っ掛ることに応じて両帯状鋼板16の搬送に支障が生じることを防止できる。
【0028】
両帯状鋼板16の棧幅部にパイロット孔25および円型かしめ部26を成形したので、両帯状鋼板16間が棧幅部で接合される。従って、両帯状鋼板16のうち特に棧幅部の強度が高まるので、両帯状鋼板16の棧幅部が下型21のダイD3内の固定子打抜板4に引っ掛ることを確実に防止できる。
【0029】
両帯状鋼板16が互いに重なる状態となる前に上側の帯状鋼板16の下面に打抜き油を付着させることで油膜19を形成した。従って、両帯状鋼板16間がレベラー12を通過するときに油膜19の粘性で仮止めされるので、両帯状鋼板16にかしめステージKS1でV型かしめ部23および下孔24を成形するときに両帯状鋼板16間がばらけたり、両帯状鋼板16相互間の位置関係が安定しないことを防止できる。しかも、かしめステージKS1〜KS2および加工ステージS1〜S3でせん断加工用の刃物が損傷することを防止できる。
【0030】
上記実施例1においては、3枚以上の帯状鋼板16を上下方向に重ねてプレス機13に搬送しても良い。
上記実施例1においては、プレス機13の反矢印X方向側に別のプレス機を設置し、両帯状鋼板16間を当該別のプレス機でかしめ付けしても良い。
【0031】
上記実施例1においては、両帯状鋼板16として板厚と幅寸法とグレードと材質と方向性等の少なくとも1つが異なる電磁鋼板を用いても良い。
上記実施例1においては、両帯状鋼板16間を固定子打抜板4とならない部分でかしめ付けしても良い。
【0032】
上記実施例1においては、両帯状鋼板16から回転子打抜板を打抜く場合に両帯状鋼板16間を回転子打抜板となる部分または回転子打抜板とならない部分でかしめ付けしても良い。この回転子打抜板は積層されることで回転子となるものである。
【0033】
上記実施例1においては、変圧器等の静止誘導機器の積層鉄心を本発明の順送プレス加工方法によって製造しても良い。
上記実施例1においては、単体で製品となる非積層用の打抜板を複数枚の帯状板から打抜いても良い。
【0034】
以上、本発明の実施例を説明したが、この実施例は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施例やその変形は発明の範囲や要旨に含まれると共に特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。