特許第6600270号(P6600270)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6600270
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】振動抑制装置
(51)【国際特許分類】
   F01M 1/06 20060101AFI20191021BHJP
   F01M 11/00 20060101ALI20191021BHJP
   F01M 11/02 20060101ALI20191021BHJP
   F02F 7/00 20060101ALI20191021BHJP
   F01M 1/16 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   F01M1/06 Z
   F01M11/00 Z
   F01M11/02
   F02F7/00 L
   F02F7/00 K
   F01M1/16 E
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-66688(P2016-66688)
(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-180223(P2017-180223A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東郷 正樹
【審査官】 種子島 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−187068(JP,A)
【文献】 特開平09−144994(JP,A)
【文献】 実開昭60−155709(JP,U)
【文献】 特開2011−106381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/06
F01M 1/16
F01M 11/00
F01M 11/02
F02F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された膜面振動体の振動を抑制する振動抑制装置であって、
前記膜面振動体の内部に複数並んで形成され、液体が流通する流路と、
複数の前記流路それぞれに設けられ、該流路を開閉する開閉弁と、
複数の前記開閉弁の開閉を制御する弁制御部と、
を備えることを特徴とする振動抑制装置。
【請求項2】
前記弁制御部は、エンジン回転数に応じて、前記開閉弁を開く前記流路の数を決定することを特徴とする請求項1に記載の振動抑制装置。
【請求項3】
前記弁制御部は、前記エンジン回転数が高くなるほど、前記開閉弁を開く前記流路の数を少なく決定することを特徴とする請求項2に記載の振動抑制装置。
【請求項4】
前記弁制御部は、さらに、エンジン負荷に応じて、前記開閉弁を開く前記流路の数を決定することを特徴とする請求項2に記載の振動抑制装置。
【請求項5】
前記液体はエンジンオイルであって、
前記弁制御部は、さらに、前記エンジンオイルの温度に応じて、前記開閉弁を開く前記流路の数を決定することを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の振動抑制装置。
【請求項6】
前記弁制御部は、前記膜面振動体の共振周波数の次数が高くなるほど、前記開閉弁を開く前記流路の数を少なく決定することを特徴とする請求項1に記載の振動抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜面振動体の振動を抑制する振動抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンでは、ロッカーカバーやチェーンカバーといった部材がピストンやシャフトの軸受などから生じる振動に共振すると、騒音の要因となる。例えば、特許文献1には、エンジンに搭載されたオイルパンに、エンジンオイルを貯留する貯留室を設け、貯留室に貯留するエンジンオイルの量を制御することでオイルパンの共振周波数を変化させ、共振を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−187068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載の技術では、貯留室に貯留するエンジンオイルの量を変化させるのに時間がかかり、エンジンの振動周波数変化に対し、共振を抑制する処理の応答性が低かった。また、貯留室を設置するため、オイルパンなどの共振を抑制する対象部材(膜面振動体)が大型化してしまう。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑み、膜面振動体の大型化を抑制しつつ、振動周波数の変化に対し膜面振動体の共振抑制処理の応答性を向上することが可能な振動抑制装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の、車両に搭載された膜面振動体の振動を抑制する振動抑制装置は、膜面振動体の内部に複数並んで形成され、液体が流通する流路と、複数の流路それぞれに設けられ、流路を開閉する開閉弁と、複数の開閉弁の開閉を制御する弁制御部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
弁制御部は、エンジン回転数に応じて、開閉弁を開く流路の数を決定してもよい。
【0008】
弁制御部は、エンジン回転数が高くなるほど、開閉弁を開く流路の数を少なく決定してもよい。
【0009】
弁制御部は、さらに、エンジン負荷に応じて、開閉弁を開く流路の数を決定してもよい。
【0010】
液体はエンジンオイルであって、弁制御部は、さらに、エンジンオイルの温度に応じて、開閉弁を開く流路の数を決定してもよい。
【0011】
弁制御部は、膜面振動体の共振周波数の次数が高くなるほど、開閉弁を開く流路の数を少なく決定してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、膜面振動体の大型化を抑制しつつ、振動周波数の変化に対し膜面振動体の共振抑制処理の応答性を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】エンジンの構成を説明する概略図である。
図2】エンジンの構成を説明する概略図である。
図3】エンジンの正面図である。
図4】振動抑制装置を説明するためのブロック図である。
図5】弁制御部の制御処理を説明するための説明図である。
図6】振動抑制装置による共振抑制作用を説明するための説明図である。
図7】弁制御部の弁制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1および図2は、エンジン100の構成を説明する概略図である。なお、図1は、エンジン100の正面図であり、図2は、エンジン100の図1に対する右側面図であり、チェーンカバー110を断面で示している。図1および図2に示すように、エンジン100は、2つのシリンダブロック102a、102bと、2つのシリンダヘッド104a、104bと、2つのキャリア106a、106bと、2つのロッカーカバー108a、108b(膜面振動体)と、チェーンカバー110(膜面振動体)とが設けられている。本実施形態のエンジン100は、チェーンカバー110が車両の前方向に位置するように、ボンネット内に配置される。
【0016】
エンジン100は、図1中、右側から左側に向かって、ロッカーカバー108a、キャリア106a、シリンダヘッド104a、シリンダブロック102a、シリンダブロック102b、シリンダヘッド104b、キャリア106b、ロッカーカバー108bが水平方向に並んで配置される水平対向エンジンである。
【0017】
また、シリンダブロック102a、102b、シリンダヘッド104a、104b、キャリア106a、106b、ロッカーカバー108a、108bの前面側には、これらの前面を覆うようにチェーンカバー110が接合されている。そして、シリンダブロック102a、102b、シリンダヘッド104a、104b、キャリア106a、106b、および、ロッカーカバー108a、108bの前面と、チェーンカバー110とにより囲まれた空間がチェーン室112として形成される。また、シリンダヘッド104a、キャリア106a、ロッカーカバー108aに囲まれた空間、および、シリンダヘッド104b、キャリア106b、ロッカーカバー108bに囲まれた空間がロッカー室114として形成される。
【0018】
2つのシリンダブロック102a、102bの間には、クランクシャフト116が回転自在に支持される。キャリア106aには、吸気ポートを開閉する吸気弁を移動させるためのカムが固定された吸気用カムシャフト118a、および、排気ポートを開閉する排気弁を移動させるためのカムが固定された排気用カムシャフト120aが回転自在に支持されている。同様に、キャリア106bには、吸気用カムシャフト118bおよび排気用カムシャフト120bが回転自在に支持されている。
【0019】
なお、詳しい説明は省略するが、シリンダブロック102a、102bには、複数のシリンダボアが形成されており、それぞれのシリンダボアには、クランクシャフト116に対してコンロッド(不図示)を介して接続されたピストン(不図示)が水平方向に摺動可能に配置されている。そして、ピストンの往復動により、クランクシャフト116が回転駆動される。
【0020】
また、チェーン室112には、吸気用カムシャフト118a、118bの一端に設けられたカムスプロケット130a、130b、排気用カムシャフト120a、120bの一端に設けられたカムスプロケット132a、132bが配置されている。
【0021】
また、チェーン室112には、クランクシャフト116の一端に設けられた駆動用のスプロケット134が配置されている。そして、チェーン室112内では、駆動用のスプロケット134と、カムスプロケット130aと、カムスプロケット132aとにタイミングチェーン136aが掛け渡され、駆動用のスプロケット134と、カムスプロケット130bと、カムスプロケット132bとにタイミングチェーン136bが掛け渡されている。
【0022】
これにより、クランクシャフト116が回転すると、タイミングチェーン136aを介して吸気用カムシャフト118aおよび排気用カムシャフト120aが回転駆動されるとともに、タイミングチェーン136bを介して吸気用カムシャフト118bおよび排気用カムシャフト120bが回転駆動される。なお、本実施形態では、クランクシャフト116は、図1中、時計回りに回転駆動し、タイミングチェーン136a、136bは、クランクシャフト116の回転に伴って、時計回りに移動する。
【0023】
また、クランクシャフト116には、チェーンカバー110に内蔵されたオイルポンプ138が接続されている。また、シリンダブロック102a、102bの下側にはオイルパン140が設けられており、オイルパン140内にはオイルが貯留されている。オイルポンプ138は、オイルパン140内に貯留されているオイルを吸引し、吸引したエンジンオイルをエンジン100各部に供給する。
【0024】
チェーンカバー110には、ポンプ油路150、分配流路152a、152bが形成されている。ポンプ油路150は、図1に示すように、チェーンカバー110の内部に形成され、オイルパン140の周りをクランクシャフト116の回転方向に延在しており、一端がオイルポンプ138に連通されるとともに、2つの分配流路152a〜152bが連通されている。
【0025】
分配流路152aは、チェーンカバー110の内部に形成され、ロッカーカバー108aの内部まで延在している。分配流路152bは、チェーンカバー110の内部に形成され、ロッカーカバー108bまで延在している。
【0026】
図2に示すように、ロッカーカバー108aの内部には、複数(ここでは、6つ)の分岐流路154a〜154f(流路)が形成されている。分岐流路154a〜154fは、ロッカーカバー108aの内部に形成された不図示の流路を介し、分配流路152aに連通しており、ロッカーカバー108aの内部で、図2中、左右方向(ロッカーカバー108aの面方向)に延在している。複数の分岐流路154a〜154fは、図2中、上下方向(ロッカーカバー108aの面方向)に並列に配される。
【0027】
分岐流路154a〜154fそれぞれの上流側(図2中、右側)には、開閉弁156a〜156fが設けられる。開閉弁156a〜156fは、例えば電磁弁で構成され、後述する弁制御部174(図4参照)の制御により、分配流路152aと分岐流路154a〜154fとをそれぞれ連通させる開弁状態と、分配流路152aと分岐流路154a〜154fとをそれぞれ分断する閉弁状態とに切り換えられる。開閉弁156a〜156fが開弁状態となると、オイルポンプ138で昇圧されたエンジンオイル(液体)が分配流路152aを通って分岐流路154a〜154fに流入する。
【0028】
また、分岐流路154a〜154fには、ロッカーカバー108aの中央部108aに、流路断面積が大きくなる拡大流路部154a〜154fが形成されている。すなわち、分岐流路154a〜154fは、ロッカーカバー108a、108bのうち、振幅が大きくなる中央部108aの流路断面積が、振幅が小さい端部108a、108a側の部位108a、108aの流路断面積よりも大きくなるように流路幅が拡大されている。
【0029】
分岐流路154a〜154fの下流側は、ロッカー室114に開口している。ロッカー室114は、図1に示すチェーンカバー110の内部に形成された排油路158aに連通しており、分岐流路154a〜154fに流入したエンジンオイルは、排油路158aを介してオイルパン140に排出される。
【0030】
ここでは、ロッカーカバー108a側について説明したが、ロッカーカバー108bについてもロッカーカバー108aと同様に、6本の分岐流路および6つの開閉弁が設けられ、分配流路152bから分岐流路に流入したエンジンオイルがロッカー室114を通って、排油路158bを介してオイルパン140に排出される。
【0031】
図3は、エンジン100の正面図である。ただし、図3では、分配流路152a、152bおよび排油路158a、158bの図示を省略する。図3に示すように、チェーンカバー110には、左右方向(チェーンカバー110の面方向、図3では上下方向)に延在し、ポンプ油路150と連通する複数(ここでは6本)の分岐流路160a〜160f(流路)が設けられている。分岐流路160a〜160cは、上下方向(チェーンカバー110の面方向、図3では左右方向)に並列に配され、チェーンカバー110の中心側から右側(図3中、上側)に向かって延在している。また、分岐流路160d〜160fは、上下方向(チェーンカバー110の面方向)に並列に配され、チェーンカバー110の中心側から左側(図3中、下側)に向かって延在している。
【0032】
また、分岐流路160a〜160fには、チェーンカバー110の中間部110a、110bに流路断面積が大きくなる拡大流路部160a〜160fが形成されている。中間部110a、110bは、それぞれ、チェーンカバー110のうち、オイルポンプ138とチェーンカバー110の端部110c、110dとの大凡中間に位置する部位である。
【0033】
すなわち、分岐流路160a〜160fは、チェーンカバー110のうち、振幅が大きくなる中間部110a、110bの流路断面積が、振幅が小さい端部110c、110d側の部位110e、110fの流路断面積よりも大きくなるように流路幅が拡大されている。
【0034】
分岐流路160a〜160fとポンプ油路150との連通部分(分岐流路160a〜160fの上流側)には、それぞれ開閉弁162a〜162fが設けられる。開閉弁162a〜162fは、例えば電磁弁で構成され、後述する弁制御部174(図4参照)の制御により、分岐流路160a〜160fとポンプ油路150とをそれぞれ連通させる開弁状態と、分岐流路160a〜160fとポンプ油路150とをそれぞれ分断する閉弁状態とに切り換えられる。開閉弁162a〜162fが開弁状態となると、オイルポンプ138で昇圧されたエンジンオイルが分岐流路160a〜160fに流入する。
【0035】
分岐流路160a〜160fの下流側は、チェーン室112に開口している。分岐流路160a〜160fに流入したエンジンオイルは、チェーン室112を介してオイルパン140に排出される。
【0036】
図4は、振動抑制装置170を説明するためのブロック図である。図4に示すように、振動抑制装置170は、上記の分岐流路154a〜154f、開閉弁156a〜156f、分岐流路160a〜160f、開閉弁162a〜162fと、スロットルセンサS1、油温センサS2、油圧センサS3、回転数センサS4、および、ECU172(Engine Control Unit)を含んで構成される。
【0037】
スロットルセンサS1は、エンジン100の燃焼室に供給される空気量を調整するためのスロットルの開度を検出し、開度を示す開度信号をECU172に送信する。油温センサS2は、シリンダブロック102a、102b内を流れるエンジンオイルの油温を示す油温信号をECU172に送信する。油圧センサS3は、エンジンオイルの油圧を示す油圧信号をECU172に送信する。回転数センサS4は、エンジン100(クランクシャフト116)の回転数を計測し、回転数を示す回転数信号をECU172に送信する。
【0038】
ECU172は、エンジン100および振動抑制装置170を統括制御する。ECU172は、振動抑制装置170を制御する際、弁制御部174として機能する。弁制御部174は、各センサS1〜S4からの信号に基づいて、開閉弁156a〜156fおよび開閉弁162a〜162fを制御する。以下では、開閉弁156a〜156fの制御について説明する。
【0039】
図5は、弁制御部174の制御処理を説明するための説明図であり、弁制御部174が参照する開閉制御マップを概略的に示す。図5に示すように、開閉制御マップは、エンジン回転数と、エンジン負荷(ここでは、例えばスロットルの開度)とに対応付けられているとともに、予め設定された油温の温度範囲ごとに複数設けられており、開閉弁156a〜156fの開閉状態が規定されている。すなわち、開閉制御マップは、エンジン回転数、エンジン負荷、油温の3つのパラメータに対応付けられている。
【0040】
また、開閉制御マップでは、詳しくは後述するように、ロッカーカバー108aの1次、2次および3次の固有振動数を含む所定範囲が、1次振動条件、2次振動条件、3次振動条件として設定される。
【0041】
図6は、振動抑制装置170による共振抑制作用を説明するための説明図である。図6に示すように、エンジン回転数が回転数Aのときに生じるロッカーカバー108a、108bの振動周波数が、1次の共振周波数であるとする。同様に、エンジン回転数が回転数Bのときに生じるロッカーカバー108a、108bの振動周波数が、2次の共振周波数であり、エンジン回転数が回転数Cのときに生じるロッカーカバー108a、108bの振動周波数が、3次の共振周波数であるものとする。
【0042】
図6中、実線で示すように、エンジン回転数が回転数A、B、C付近である場合、ロッカーカバー108a、108bが共振して騒音が大きくなる。
【0043】
そして、1次振動条件、2次振動条件、3次振動条件は、それぞれ、エンジン100で生じる振動が、ロッカーカバー108a、108bの1次、2次、3次の共振周波数を含む所定範囲となるエンジン回転数、エンジン100の負荷、油温の条件に設定されている。
【0044】
弁制御部174は、開閉制御マップと、スロットルセンサS1、油圧センサS3、回転数センサS4からの信号に基づいて、1次振動条件、2次振動条件、3次振動条件のいずれかを満たすか否かを判定する。
【0045】
1次振動条件を満たす場合、すべての開閉弁156a〜156fを開弁する。2次振動条件を満たす場合、開閉弁156a〜156fのうち、3つを開弁する。3次振動条件を満たす場合、開閉弁156a〜156fのうち、2つを開弁する。
【0046】
その結果、開閉弁156a〜156fが開いた分岐流路154a〜154fにエンジンオイルが流れる。そうすると、ロッカーカバー108a、108bにエンジンオイル分だけ重量が付加され、共振周波数が小さくなる。すなわち、1次、2次、3次の共振周波数が、回転数A、B、Cよりも低回転の回転数A’、B’、C’のときの周波数に変わり、ロッカーカバー108a、108bの共振を抑制することができる。
【0047】
このように、弁制御部174は、エンジン回転数、エンジン負荷、油温に応じて、開閉弁156a〜156fを開く分岐流路154a〜154fの数を決定している。また、弁制御部174は、1次振動条件、2次振動条件、3次振動条件の順に、エンジン回転数が高くなるほど、開閉弁156a〜156fを開く分岐流路154a〜154fの数を少なく決定する。
【0048】
すなわち、弁制御部174は、ロッカーカバー108a、108bの共振周波数の次数が高くなるほど、開閉弁156a〜156fを開く分岐流路154a〜154fの数を少なく決定している。次数が低い共振周波数で共振するほど、振幅が大きく騒音が大きくなる。そのため、共振周波数の次数が高くなるほど、開閉弁156a〜156fを開く分岐流路154a〜154fの数を少なくし、共振周波数の次数が低いときに、より多くのエンジンオイルの重量を付加して騒音を抑制している。
【0049】
なお、弁制御部174は、エンジン100の信頼性を確保するために設定された信頼性優先条件を満たす場合、開閉弁156a〜156fを開弁しない。これは、騒音の低減よりもエンジン100の信頼性を優先し、油圧低下を回避するためである。
【0050】
ここで、信頼性優先条件は、以下の第1条件および第2条件のいずれかを満たすことである。第1条件は、アイドルストップ中など、エンジン回転数が第1閾値(例えば、600rpm)以下であること、油圧が所定の油圧下限値以下であること、および、油温が所定の油温上限値(例えば、120℃)以上であることが設定されている。また、第2条件は、エンジン負荷が最大値であり、エンジン回転数が第2閾値(例えば、限界回転数(レムリミット))以上であること、および、油温が所定の油温上限値以上であることが設定されている。
【0051】
図7は、弁制御部174の弁制御処理を示すフローチャートである。図7に示す弁制御処理は、所定周期で繰り返し実行される。
【0052】
(ステップS300)
弁制御部174は、信頼性優先条件を満たすか否かを判定する。信頼性優先条件を満たす場合、ステップS314に処理を移し、信頼性優先条件を満たさない場合、ステップS302に処理を移す。
【0053】
(ステップS302)
弁制御部174は、1次振動条件を満たすか否かを判定する。1次振動条件を満たす場合、ステップS304に処理を移し、1次振動条件を満たさない場合、ステップS306に処理を移す。
【0054】
(ステップS304)
弁制御部174は、開閉弁156a〜156fをすべて開弁し、当該弁制御処理を終了する。
【0055】
(ステップS306)
弁制御部174は、2次振動条件を満たすか否かを判定する。2次振動条件を満たす場合、ステップS308に処理を移し、2次振動条件を満たさない場合、ステップS310に処理を移す。
【0056】
(ステップS308)
弁制御部174は、開閉弁156a〜156fのうち、3つを開弁し、当該弁制御処理を終了する。
【0057】
(ステップS310)
弁制御部174は、3次振動条件を満たすか否かを判定する。3次振動条件を満たす場合、ステップS312に処理を移し、3次振動条件を満たさない場合、ステップS314に処理を移す。
【0058】
(ステップS312)
弁制御部174は、開閉弁156a〜156fのうち、2つを開弁し、当該弁制御処理を終了する。
【0059】
(ステップS314)
弁制御部174は、すべての開閉弁156a〜156fを閉弁し、当該弁制御処理を終了する。
【0060】
ここでは、開閉弁156a〜156fの制御処理について説明したが、開閉弁162a〜162fについても、開閉弁156a〜156fと同様の制御処理が、開閉弁156a〜156fの制御処理と並列して実行される。
【0061】
上述したように、振動抑制装置170では、ロッカーカバー108a、108bやチェーンカバー110の共振を抑制し、静音化を図ることができる。また、エンジンオイルを分岐流路154a〜154f、160a〜160fに流通させるか、流通を止めるかによって、共振周波数を変化させるため、振動周波数の変化に対する応答性を高めることが可能となる。その上、ロッカーカバー108a、108bやチェーンカバー110に流路を形成するため、別途、エンジンオイルの貯留室を設ける場合に比べて、部材の小型化を図ることが可能となる。
【0062】
また、信頼性優先条件を満たす場合は、エンジン音が比較的大きく、共振の影響が小さいことが多い。このような場合に、油圧の低下を回避するために、開閉弁156a〜156f、162a〜162fを閉弁する。そのため、エンジン100の信頼性を確保した上で、エンジンオイルの総量を増やさず重量増加を回避しつつ、信頼性優先条件を満たさないような(元々、エンジン100が比較的静かであり、共振による騒音の影響が大きくなる)状態で、静音化を図ることが可能となる。また、開閉弁156a〜156f、162a〜162fの制御のみでよいため、消費電力が少なく、車室全体の静音化を図ることが可能となる。
【0063】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0064】
上述した実施形態では、膜面振動体としてロッカーカバー108a、108b、チェーンカバー110を例に挙げて説明したが、エンジンブロックなどに適用してもよい。
【0065】
また、上述した実施形態では、液体としてエンジンオイルを用いる場合について説明したが、エンジンオイルの代わりに水を用いてもよい。
【0066】
また、上述した実施形態では、分岐流路154a〜154fに拡大流路部154a〜154fが設けられる場合について説明したが、拡大流路部154a〜154fは必須の構成ではない。また、上述した実施形態では、分岐流路160a〜160fに、拡大流路部160a〜160fが設けられる場合について説明したが、拡大流路部160a〜160fは必須の構成ではない。
【0067】
すなわち、分岐流路154a〜154fは、ロッカーカバー108a、108bのうち、振幅が大きい中央部108aの流路断面積が、振幅が小さい端部108a、108a側の部位108a、108aの流路断面積と同じか、小さくともよい。同様に、分岐流路160a〜160fは、チェーンカバー110のうち、振幅が大きい中間部110a、110bの流路断面積が、振幅が小さい端部110c、110d側の部位110e、110fの流路断面積と同じか、小さくともよい。
【0068】
ただし、拡大流路部154a〜154f、拡大流路部160a〜160fを設けることで、共振抑制効果を高めることが可能となる。
【0069】
また、上述した実施形態では、弁制御部174が、2次振動条件を満たす場合、2次の共振周波数が生じる回転数Bが、回転数Aよりも大きい回転数B’に変わるように、開閉弁156a〜156fを開く場合について説明した。また、3次振動条件を満たす場合、3次の共振周波数が生じる回転数Cが、回転数Bよりも大きい回転数C’に変わるように、開閉弁156a〜156fを開く場合について説明した。
【0070】
しかし、開閉弁156a〜156fの総数を増やし、2次振動条件や3次振動条件を満たす場合、2次の共振周波数が生じる回転数Bや、3次の共振周波数が生じる回転数Cが、1次の共振周波数が生じる回転数Aよりも小さい回転数A’に変わるように、開弁する開閉弁156a〜156fの数をより多くしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、膜面振動体の振動を抑制する振動抑制装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
108a ロッカーカバー(膜面振動体)
108a 中央部
108a 端部
108a 端部
108b ロッカーカバー(膜面振動体)
110 チェーンカバー(膜面振動体)
154a〜154f 分岐流路(流路)
156a〜156f 開閉弁
160a〜160f 分岐流路(流路)
162a〜162f 開閉弁
170 振動抑制装置
174 弁制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7