(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6600282
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】転覆防止構造
(51)【国際特許分類】
B61F 9/00 20060101AFI20191021BHJP
E01B 5/18 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
B61F9/00
E01B5/18
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-152409(P2016-152409)
(22)【出願日】2016年8月3日
(65)【公開番号】特開2018-20648(P2018-20648A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2018年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】飯田 浩平
(72)【発明者】
【氏名】片岡 宏夫
(72)【発明者】
【氏名】宮本 岳史
【審査官】
志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−201179(JP,A)
【文献】
特開2008−213693(JP,A)
【文献】
実開昭61−172859(JP,U)
【文献】
特開2011−79506(JP,A)
【文献】
米国特許第2228029(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 9/00
E01B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右レールの外側の道床上にレール長手方向に沿って配置された地上側支持体と、
当接部の車両長手方向の長さが少なくとも車両長の1/3の長さを有し、車両前方から見て左右車輪の外側の車体下で、且つ、車両上方から見て前後の台車間に車両長手方向に沿って配置された車上側支持体と、
を具備し、隣り合う前記地上側支持体の間隔が、前記車上側支持体の前記当接部の長さよりも短い長さとなるように前記地上側支持体が配置され、車両が転覆方向へ傾斜した際に前記車上側支持体の前記当接部が前記地上側支持体に接触して転覆を防止する転覆防止構造。
【請求項2】
前記車上側支持体は、前記当接部が、車両前方から見て車両限界の底部の左右両端に位置するように設けられている、
請求項1に記載の転覆防止構造。
【請求項3】
前記車上側支持体は、車両長手方向の両端部に傾斜面を有する、
請求項1又は2に記載の転覆防止構造。
【請求項4】
前記地上側支持体は、上面の高さが、レール頭頂面より高く、且つ、建築限界を満たす位置に配置された、
請求項1〜3の何れか一項に記載の転覆防止構造。
【請求項5】
前記台車はボギー台車であり、
前記地上側支持体は、曲線区間では、直線区間に比べて、曲線内側の前記地上側支持体が直近レールから離隔し、曲線外側の前記地上側支持体が直近レールに接近して、走行する車両の前記車上側支持体と対向するように位置決めされた、
請求項1〜4の何れか一項に記載の転覆防止構造。
【請求項6】
前記地上側支持体は、上面左右幅が、前記車上側支持体の前記当接部の下面左右幅よりも広い、
請求項1〜5の何れか一項に記載の転覆防止構造。
【請求項7】
前記地上側支持体は、上面左右幅が300〜340mmであり、
前記車上側支持体は、前記当接部の下面左右幅が100〜150mmである、
請求項6に記載の転覆防止構造。
【請求項8】
前記車上側支持体は、トラス構造を有する、
請求項1〜7の何れか一項に記載の転覆防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の転覆を防止するための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が限界風速以上の強い横風を受けると車体がレールから持ち上がり側方へ転覆する。転覆を防止するための技術としては、例えば、車体下部の車両限界内にパンタグラフ構造で電磁石を垂下する一方で車両の姿勢を監視し、転覆の危険性が高くなると電磁石を通電させてレールに接近させ、電磁石をレールに吸着させて転覆を防止する技術(例えば、特許文献1を参照)などが知られるところである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−201179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄道車両の転覆は、地震によって車体が横揺れした場合にも起こり得る。特許文献1で開示されている技術によれば、電磁石を作動させる電力が確保できる限りにおいては地震に起因する転覆も防止できる。しかし、昨今の大型地震を鑑みれば必ずしも常に電力を確保できるとは限らない。例えば、新幹線においては大型地震発生時に電車線への通電が遮断される。
【0005】
また、地震発生時に限らず、無電源で転覆を防止することができれば、省電力の観点から有用である。
【0006】
本発明は、無電源で鉄道車両の転覆を防止する技術を提供するために考案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するための第1の発明は、左右レールの外側の道床上にレール長手方向に沿って配置された地上側支持体と、当接部の車両長手方向の長さが少なくとも車両長の1/3の長さを有し、車両前方から見て左右車輪の外側の車体下で、且つ、車両上方から見て前後の台車間に車両長手方向に沿って配置された車上側支持体と、を具備し、隣り合う前記地上側支持体の間隔が、前記車上側支持体の前記当接部の長さよりも短い長さとなるように前記地上側支持体が配置され、車両が転覆方向へ傾斜した際に前記車上側支持体の前記当接部が前記地上側支持体に接触して転覆を防止する転覆防止構造である。
【0008】
第1の発明によれば、車両へロール方向の力が作用して車体が傾くと、車上支持体が地上側支持体に当たってロール方向の力を支え、車体のローリングを抑制して転覆を防止できる。車上側支持体と地上側支持体の何れも電気的な制御や電気的な駆動要素を持たないので、無電源でパッシブな方法で鉄道車両の転覆を防止することができる。よって、大きな地震など、電源が断たれる可能性のある異常な状況でも確実に転覆を防止できる。
【0009】
また、地上側支持体にはレールに沿った切れ目のない連続的な設置が望まれるところであるが、道床上には信号線やポイントなどを配置せざるを得ず、それらを避けるためにどうしても地上側支持体の配置には欠損部ができてしまう。それでも、第1の発明によれば、車上側支持体の長さを少なくとも車両長の1/3以上とし、隣り合う地上側支持体の間隔が車上側支持体の長さよりも短い長さとなるように地上側支持体を配置することで、欠損部があったとしても当該欠損部を跨ぐようにして車上側支持体と地上側支持体との十分な接触を確保できる。
【0010】
第2の発明は、前記車上側支持体の前記当接部が、車両前方から見て車両限界の底部の左右両端に位置するように設けられている、第1の発明の転覆防止構造である。
【0011】
第2の発明によれば、車両限界の規定を守りつつ効果的に転覆を防止する構造とすることができる。
【0012】
第3の発明は、前記車上側支持体が、車両長手方向の両端部に傾斜面を有する、第1又は第2の発明の転覆防止構造である。
【0013】
第3の発明によれば、走行中に車両が傾斜した際に、最初に車上側支持体が地上側支持体に接触する際の衝突角を緩やかにして、車上側支持体が地上側支持体にめり込むのを防ぎ、衝撃荷重の発生を逃がすことができる。
【0014】
第4の発明は、前記地上側支持体の上面の高さが、レール頭頂面より高く、且つ、建築限界を満たす位置に配置された、第1〜第3の何れかの発明の転覆防止構造である。
【0015】
第4の発明によれば、建築限界の規定を守りつつ効果的に転覆を防止する構造とすることができる
【0016】
第5の発明は、前記台車がボギー台車であり、前記地上側支持体は、曲線区間では、直線区間に比べて、曲線内側の前記地上側支持体が直近レールから離隔し、曲線外側の前記地上側支持体が直近レールに接近して、走行する車両の前記車上側支持体と対向するように位置決めされた、第1〜第4の何れかの発明の転覆防止構造である。
【0017】
第5の発明によれば、ボギー車両であっても、また曲線区間走行時であっても、同様に転覆を防止することができるようになる。
【0018】
第6の発明は、前記地上側支持体の上面左右幅が、前記車上側支持体の前記当接部の下面左右幅よりも広い、第1〜第5の何れかの発明の転覆防止構造である。
【0019】
第6の発明によれば、走行中の車両の車上側支持体が確実に地上側支持体の上面に接触できるようになる。
【0020】
第7の発明は、前記地上側支持体が、上面左右幅が300〜340mmであり、前記車上側支持体は、前記当接部の下面左右幅が100〜150mmである、第6の発明の転覆防止構造である。
【0021】
第7の発明によれば、国内の一般的な鉄道において適切なサイズの転覆防止構造を実現できる。
【0022】
なお、転覆防止構造の構造は、適宜選択可能であるが、第8の発明として、前記車上側支持体は、トラス構造を有する、第1〜7の何れかの発明の転覆防止構造を構成すると好適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】転覆防止構造及びその作用効果を説明するための鉄道車両及び軌道を正面から見た模式図。
【
図2】転覆防止構造を説明するための鉄道車両及び軌道の走行方向に向かって左側面の模式図。
【
図3】車両限界及び建築限界と転覆防止構造との位置関係及び寸法関係の一例を示す図。
【
図4】直線区間における地上側支持体の配置例を示す車両及び軌道を上から見た模式図。
【
図5】曲線区間における地上側支持体の配置例を示す車両及び軌道を上から見た模式図。
【
図6】在来線の電車の規格及び使用条件における、線形と、軌道中心と地上側支持体の部材幅中心との間隔と、地上側支持体の左右幅との例を示す表。
【
図7】本発明をコンテナ用の鉄道車両に適用した場合の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を適用した鉄道車両の転覆を防止するための構造である転覆防止構造の実施形態の一例を説明するが、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限られないことは勿論である。
【0025】
図1は、本実施形態における転覆防止構造及びその作用効果を説明するための鉄道車両及び軌道を正面から見た模式図である。
図2は、本実施形態における転覆防止構造を説明するための鉄道車両及び軌道の走行方向に向かって左側面の模式図である。
図3は、車両限界及び建築限界と転覆防止構造との位置関係及び寸法関係の一例を示す図である。なお、
図3における括弧内のイタリック書体の数字は寸法例である。
【0026】
図1に示すように、転覆防止構造2は、鉄道車両8の左右側部より下方に向けて設けられた車上側支持体21と、左右のレール4の外側の道床6の上にレール長手方向に沿って配置された地上側支持体22と、を有する。そして、鉄道車両8が転覆方向へ傾斜した際には、車上側支持体21の下端部が地上側支持体22に接触して転覆を防止する。
【0027】
図2に示すように、本実施形態の鉄道車両8は、前後それぞれに設けられた2台のボギー台車82上に客室が形成されたボギー車両であり、車上側支持体21はその台枠に取り付けられている。客室のフレームが十分な剛性・強度を有する場合には、車上側支持体21を当該フレームに取り付ける構成であってもよい。
【0028】
具体的には、車上側支持体21は、車両側方(又は車両上方)から見ると、前後のボギー台車82の間に車両長手方向に沿って設けられており、車両前方から見ると、ボギー台車の左右車輪の外側の車体下(
図1参照)に、より具体的には車両限界91の底部の左右両端位置(
図3参照)に配置されている。本実施形態では車上側支持体21を左右それぞれ1体として示しているが、左右それぞれで複数体の車上側支持体21を設ける構成も可能である。
【0029】
車上側支持体21それ自体は、鋼材等の金属材のトラス構造で実現できる。トラス構造とすることで、床下機器(
図2では図示省略)との干渉防止と、床下機器の点検スペースの確保、そして、必要十分な強度の確保を同時に実現している。材質は、十分な強度を確保できるならば非金属材料で実現してもよい。なお、車上側支持体21は、トラス構造に限らず、ラーメン構造などその他の構造形式で実現してもよい。
【0030】
車上側支持体21の最下端は、転覆防止として機能する際には、地上側支持体22と接触する当接部213となる。よって、車上側支持体21は、当接部213が地上側支持体22と衝突・接触しても、鉄道車両8に作用しているロール方向の荷重を受けることができるように設計される。
【0031】
また、車上側支持体21の車両長手方向の両端部には、傾斜面211が設けられており、走行中の車上側支持体21と地上側支持体22との衝突角を緩やかにして、車上側支持体21が地上側支持体22にめり込むのを防ぐとともに、衝突時の荷重を逃がして衝撃荷重の発生を抑制することができる。その意味において、傾斜面211と当接部213との接続部は、スキー板の先端部(そり部分)とソール部(滑走部分)との接続のように滑らかに接続させるとよい。
【0032】
地上側支持体22は、鋼やプレキャストコンクリート、木材、樹脂などを素材とする板状又は棒状の矩形断面体(中空・中実は問わない)で実現される。車上側支持体21との衝突に伴って弾性変形や一部破損を伴うことで衝突エネルギーを分散・消耗する内部構造を有するとしてもよい。
【0033】
長手方向については、地上側支持体22は、左右のレール4の外側の道床6上にレール長手方向に沿って、隣り合う地上側支持体22の間隔L(地上側支持体22の配置の欠損部)が、車上側支持体21の当接部213の長さよりも短い長さとなるように配置されている(
図2参照)。道床上に、地上側支持体22を配置することができない箇所(例えば、信号線の設置箇所やポイントのレール交差部など)がある場合には、この間隔Lを利用する。
【0034】
そして、高さ方向については、地上側支持体22は、上面の高さがレール4の頭頂面より高く、且つ、建築限界92を満たす位置に配置されている(
図3参照)。
また、幅方向については、地上側支持体22は、走行中の車体横揺れを考慮して、上面左右幅が車上側支持体21の当接部213の下面左右幅よりも広く設定されている(
図3参照)。概ね、当接部213の下面左右幅よりも3倍程度の幅に設定されている。
【0035】
図4は、直線区間における地上側支持体22の配置例を示す車両及び軌道を上から見た模式図である。すなわち、直線区間においては、レール4の左右それぞれに配置される地上側支持体22は、軌道中心線5(レール間中心線)より等距離又は略等距離の位置にて、仮に鉄道車両8が停止していると仮定した場合に、車上側支持体21が地上側支持体22の左右真上又は略真上に位置する位置関係で設置される。
【0036】
一方、曲線区間においては、
図5に示すように、地上側支持体22は当該区間を走行する鉄道車両8の偏倚量やカント量に応じて軌道中心線5よりオフセットして設置される。具体的には、地上側支持体22は、曲線区間では、直線区間に比べて、曲線内側の地上側支持体22が直近のレール4から離隔し、曲線外側の地上側支持体22が直近のレール4に接近して、曲線区間を走行する鉄道車両8の車体前後中央部が曲線内側方向に偏倚しても、車上側支持体21(より詳細には当接部213)と地上側支持体22とが確実に対向するように位置決めされる。
【0037】
図6に、在来線の電車の規格及び使用条件における線形それぞれに対する、軌道中心と地上側支持体22の部材幅中心との間隔と、地上側支持体22の左右幅(軌道横断方向幅)との例を示す。なお、当接部213における接触面圧等の関係から、車上側支持体21の当接部213の長さを車両長の少なくとも1/3以上として、これらの数値を適用すると好適である。より具体的には、車両長20mとして、当接部213を少なくとも6〜8m程度以上とするのが望ましい。
【0038】
また、地上側支持体22は、上面左右幅を300〜340mmの間の長さとし、車上側支持体21は、当接部213の下面左右幅を100〜150mmの間の長さとすると好適である。
【0039】
以上、本実施形態によれば、車両限界や建築限界の規定を守りつつも、鉄道車両8が転覆しそうになって傾くと、車上側支持体21が地上側支持体22に当たってロール方向の荷重を支え、車体のローリングを抑制して転覆を防止できる。車上側支持体21と地上側支持体22の何れも電気的な制御や電気的な駆動要素を持たないので、無電源でパッシブな方法で鉄道車両8の転覆を防止することができる。よって、例えば大きな地震など、電源が断たれる可能性のある異常な状況でも確実に転覆を防止できる。
【0040】
また、地上側支持体22にはレールに沿った切れ目のない連続的な設置が望まれるところであるが、道床上には信号線の設置箇所やポイントのレール交差部などがあるため、それらを避けるためにどうしても地上側支持体22の配置には欠損部ができてしまう。それでも、車上側支持体21の当接部213の長さを少なくとも車両長の1/3以上とすることで、欠損部があったとしても当該欠損部を跨ぐようにして車上側支持体21と地上側支持体22との接触を確保できる。
【0041】
〔変形例〕
ここまで、本発明を適用した実施形態について説明したが、本発明を適用可能な形態は上記形態に限定されるものではなく適宜構成要素の追加・省略・変更を施すことができる。
【0042】
例えば、上記実施形態では、鉄道車両8を旅客用の車両として例示したが、
図7に示すようなコンテナ3を積載するコンテナ用の鉄道車両8Bや、その他の種類の鉄道車両についても同様に適用することができる。
【0043】
また、地上側支持体22の配置は、車両が走行する全区間とするのではなく、風速の高い横風が発生し得る区間(例えば、海岸沿いを走行する区間など)に限定したり、転覆発生時の危険度の高い橋梁上などの区間に限定したりといった特定区間とすることもできる。
【符号の説明】
【0044】
2…転覆防止構造
21…車上側支持体
211…傾斜面
213…当接部
22…地上側支持体
3…コンテナ
4…レール
5…軌道中心線
6…道床
8…鉄道車両
82…ボギー台車
91…車両限界
92…建築限界