特許第6600346号(P6600346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6600346高流動水素化スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマーおよびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6600346
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】高流動水素化スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマーおよびその用途
(51)【国際特許分類】
   C09J 153/02 20060101AFI20191021BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   C09J153/02
   C09J11/06
【請求項の数】6
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2017-237375(P2017-237375)
(22)【出願日】2017年12月12日
(62)【分割の表示】特願2016-525394(P2016-525394)の分割
【原出願日】2014年7月7日
(65)【公開番号】特開2018-95873(P2018-95873A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2017年12月21日
(31)【優先権主張番号】13/940,663
(32)【優先日】2013年7月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510145211
【氏名又は名称】クレイトン・ポリマーズ・ユー・エス・エル・エル・シー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キャスリン・ライト
(72)【発明者】
【氏名】加藤 博
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−228853(JP,A)
【文献】 特開2011−084654(JP,A)
【文献】 国際公開第01/034719(WO,A1)
【文献】 特開2000−186257(JP,A)
【文献】 特開平11−199839(JP,A)
【文献】 特開平05−194684(JP,A)
【文献】 特表2003−503552(JP,A)
【文献】 特表2003−503551(JP,A)
【文献】 特表2003−503553(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0092722(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高メルトフローレート、低粘度、高強度および良好な弾性特性を有するラミネート接着剤であって、スチレン系ブロックコポリマーと粘着付与樹脂とのブレンドを含み、前記スチレン系ブロックコポリマーは、選択的に水素化されたスチレン−ジエン−スチレンまたは選択的に水素化された制御分布スチレン−ジエン/スチレン−スチレンであり、ここで、ジエンが、ブタジエン、イソプレン、またはこれらの混合物であり、
前記スチレン系ブロックコポリマーが、45,000の最小直鎖の真のピーク分子量(Mp)、18から45%の間のポリスチレン含有率、65から80%のビニル含有率および60から97%のカップリング効率を有し、ならびに
前記スチレン系ブロックコポリマーは、230℃および2.16kgにおいて100g/10分以上のメルトフローレートを有する、ラミネート接着剤。
【請求項2】
記ブレンドが、160℃および2.16kgにおいて15g/10分超のメルトフローレートを有する、請求項1に記載のラミネート接着剤。
【請求項3】
前記粘着付与樹脂が、前記スチレン系ブロックコポリマーの100重量部に対して5ら250重量部存在する、請求項1に記載のラミネート接着剤。
【請求項4】
前記粘着付与樹脂が、部分水素化または完全水素化C樹脂である、請求項1に記載のラミネート接着剤。
【請求項5】
前記粘着付与樹脂が、ロジンエステルである、請求項1に記載のラミネート接着剤。
【請求項6】
前記スチレン系ブロックコポリマー、18から33%の間のポリスチレン含有率を有する、請求項1に記載のラミネート接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択的水素化高メルトフロー低粘度スチレン−ブタジエン−スチレン(hSBS、SEBSとしても知られる。)または選択的に水素化された制御分布スチレン−ブタジエン/スチレン−スチレン(hS−B/S−S、スチレン−エチレンブタジエン/スチレン−スチレン(S−EB/S−S)としても知られる。)のブロックコポリマーおよびその用途に関する。ここで、メルトフローレートは、ASTM D1238による230℃、2.16kg荷重下において、少なくとも100g/10分である。これらのブロックコポリマーは新規であり、他の公知のスチレン系ブロックコポリマーと比べて極めて高いメルトフローレートを有し、さらに驚くべき高い強度および弾性を示す。上記ブロックコポリマーの用途は、本発明以前にはスチレン系ブロックコポリマーのメルトフローレートが通常では低いために不可能だった。
【背景技術】
【0002】
メルトフローレート(MFR)は、ポリマーの粘度に逆相関する。高いメルトフローレートは、当該ポリマーが低粘度を有することを意味し、逆も同様である。いくつかのスチレン系ブロックコポリマーは高いメルトフローレートを有するが、高いジブロック含有率(60重量%超)により高メルトフローレートを実現しているため、機械的特性が相対的に劣っている。粘度を低下させ、従ってメルトフローレートを増大させるための添加剤の非存在下における、スチレン系ブロックコポリマーに関して報告された最大のメルトフローレートは、81g/10分である。(特許請求の範囲を含む本明細書において用いるとき、「メルトフロー」とは、特に記載のない限り、ASTM D−1238による230℃、2.16kg荷重下において測定されるメルトフロー値を意味するものとする。)上記メルトフローレートは以下の特許に開示されている。
【0003】
Handlin,Jr.の米国特許第7,439,301号明細書は、高メルトフローおよび高弾性を有する、カップリングされたブロックコポリマーに関する。当該ブロックコポリマーの真の分子量は40,000から70,000の間であり、ポリスチレン含有率(PSC)は13から25%の間、ビニル含有率は60から85%の間、カップリング効率は89から97%である。
【0004】
Beningらの米国特許第7,169,848号明細書は、選択的に水素化された制御分布hS−B/S−Sを開示している。当該実施例において最も高いMFRは17g/10分である。
【0005】
これまで、複合材系は、バイダーに加えて、ガラス繊維マット積層材または層をベースとしていた。バインダーには、ポリエステル、ビニルエステルもしくはエポキシ樹脂などの非反応性もしくは反応性ポリマーバインダー、またはアスファルトもしくはビチューメンなどの非反応性樹脂が挙げられる。ガラス繊維マット積層材は一般に、複合材の構造支持部材として用いられる。複合材は、多くの場合、重量を最小限に抑えられるよう低密度を保ちながら、耐衝撃性が最大になるように設計される。従来の複合材設計は、亀裂成長を抑える分散ゴム粒子の添加により反応性樹脂を強靭化するか、またはガラス繊維と反応性樹脂バインダーとの間の接着性を向上させるためにガラス繊維に対して最適なサイジングを用いるかのいずれかにより、靭性を実現する。両方の強靭化機構を同時に用いることもできる。低密度を維持しながら、強靭化性能を向上させる新しい複合材設計もしくは構造を可能にする材料、または新しい複合材設計もしくは加工技術を可能にする材料は、工業的に重要であり、望ましいものである。これらの樹脂はレイアップ時間が長く、硬化時間も長い。これらの樹脂の揮発性および遊離したガラス繊維ストランドの危険性のため、従来の複合材の製造工程は、健康、安全および環境上の有害な問題の影響を受ける。艇体および甲板、車体パネル、航空宇宙用部品は、これらのタイプの複合材の用途が見いだされる主要な例である。艇体や甲板のような大きな部品は、多くの場合、屋外または屋根で頭上を覆っただけの場所で組み立てられ、煙霧を周囲に排出して作業員への曝露を低減できるようにしている。
【0006】
スチレン系ブロックコポリマーは通常ではそのような高い粘度を有するため、スチレン系ブロックコポリマーを用いる低粘度コーティング剤はほとんど知られていない。多くの場合、低比率の揮発性有機化合物(VOC)、高比率の固形分および低粘度の間でバランスを取らなければならない。コーティング剤の基材への吹付またはロール塗布ができるように、hSBSおよびhS−B/S−Sをベースにした低粘度コーティング剤を得るには、一般に大量の有機溶媒を使用する必要があるが、そうすると逆にVOC含有率が高くなり、固形分含有率が低くなる。従って、スチレン系ブロックコポリマーは、これまで、VOCの要件が350g/L未満である低粘度コーティング剤に用途が限られていた。
【0007】
スチレン系ブロックコポリマー(SBC)は、接着剤市場において、ホットメルト、易剥離性カバー、感圧接着材に用いられてきた。従来のhSBS(SEBS)で製造された接着剤は一般に高性能で高コストであるが、従来のSBSで製造された接着剤は、コストおよび性能が中程度の市場に向いている。これらの接着剤は一般に、低コスト接着剤市場または325°F未満の低い吹付温度である必要のある用途には向いていない。通常、メタロセンポリオレフィンまたは非晶質ポリアルファオレフィン(APO)は、低コスト・低性能用途に利用されるが、その結果、特定のホットメルト接着剤用途において重要な接着強さおよび耐熱性は低くなっている。Gellesの米国特許第7,348,376号明細書は、低メルトフローレートhSBSポリマーとAPOとの組み合わせを記載している。しかし、当該配合物は、325°F未満の低い吹付温度での用途に必要とされる粘度を備えていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7,439,301号明細書
【特許文献2】米国特許第7,169,848号明細書
【特許文献3】米国特許第7,348,376号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の新規化合物は、非常に高いメルトフローレート、相応の低粘度、ならびに良好な引張強度および弾性を有しているため、従来のhSBSまたは制御分布hS−B/S−Sとは異なる。このため、強靭化ガラス繊維、低粘度・低VOCポリマーコーティング剤、加工性改善のために低粘度を必要とするブレンド系ベース接着剤、ならびにフィルムおよび不織布の保健衛生用途などの通常は考慮されない市場に、かかるポリマーで参入することも可能となる。従って、良好な強度および弾性などの性能特性を有する高メルトフローレートhSBC製品が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書および特許請求の範囲に記載の全ての範囲には、範囲の端点だけでなく、範囲の端点の間にある考えられる全ての数も含まれ、これがまさしく範囲の定義であるからである。例えば、分子量、ポリスチレン含有率、ビニル含有率、カップリング効率などを明示する範囲は、上記定義による範囲を含むように意図されている。
【0011】
本発明は、高メルトフローレート、低粘度、高強度および良好な弾性特性を備えた新規のhSBS(S−EB−S)またはhS−B/S−S(S−EB/S−S)を包含する。特に、上記スチレン系ブロックコポリマーは、100g/10分以上のメルトフローレート、約45,000の最小直鎖の真のピーク分子量(Mp)、約18から約45%の間のPSC、約65から80%のビニル含有率および約60から約97%のカップリング効率を備え、前記スチレン系ブロックコポリマーは各ブロックポリマーの逐次重合、またはジブロック(S−EBまたはS−EB/S)が形成され、2つ以上のジブロックがカップリング剤を介してカップリングされる、カップリング重合のいずれかに合致する構造を有する。従って、上記スチレン系ブロックコポリマーは、選択的に水素化されたポリ(モノアルケニルアレーン−ジエン−モノアルケニルアレーン)もしくはポリ(モノアルケニルアレーン−ジエン)nXまたは制御分布ポリ(モノアルケニルアレーン−ジエン/モノアルケニルアレーン−モノアルケニルアレーン)もしくはポリ(モノアルケニルアレーン−ジエン/モノアルケニルアレーン)nXであってよい。上記モノアルケニルアレーンモノマーは、スチレン、アルファ−メチルスチレン、パラ−メチルスチレン、tert−ブチルスチレン、ビニルトルエン等またはこれらの混合物からなる群から選択されることが好ましく、これらのうちスチレンが最も好ましい。上記ジエンモノマーは、1,3−ブタジエンもしくはイソプレンなどの置換ブタジエンを含むどのような脂肪族共役ジエンまたはこれらの混合物でもよく、これらのうち1,3−ブタジエンが最も好ましい。本明細書および特許請求の範囲において用いられるとき、「ブタジエン」とは、具体的には「1,3−ブタジエン」を指す。従って、Sは、スチレン、アルファ−メチルスチレン、パラ−メチルスチレン、tert−ブチルスチレン、ビニルトルエン等またはこれらの混合物からなる群から選択され、Bは、1,3−ブタジエンもしくはイソプレン等の置換ブタジエンまたはこれらの混合物から選択される。本発明を説明する目的で、Sはスチレンとして、Bはブチレンとして記載されるが、広範な本発明はSおよびBの基をそれぞれ包含する。選択的に水素化されたポリ(スチレン−ブタジエン−スチレン)であるhSBSはS−EB−Sとしても知られ、選択的に水素化された制御分布ポリ(スチレン−ブタジエン/スチレン−スチレン)であるhSBSSはS−EB/S−Sとしても知られる。これらのスチレン系ブロックコポリマーは、いくつかの方法で官能化されて、カルボン酸およびその塩、無水物、エステル、イミド、アミド、アミド基および酸塩化物基などの反応性基を含んでいてもよい。
【0012】
本発明はまた、複合材用途向け強靱化ガラス繊維hSBSまたはhSBSS強化マット、工業用途向け低粘度hSBSまたはhSBSSコーティング剤、APOとのhSBSまたはhSBSSブレンドから調製されるホットメルト接着剤、弾性フィルム、メルトブロー繊維および物品、ならびにスラッシュ成形、回転成形または射出成形などの低粘度成形用途などの種々の使用分野を包含する。最後に、カップリングされたhSBSと粘着付与剤とのブレンドは、160℃および2.16kgで、少なくとも約15g/10分から>200g/10分の範囲のMFRを有する。本願におけるその他の全てのMFRは230℃で測定される。
【0013】
特に、コーティングされたセラミックもしくはポリマー繊維または繊維束は、多くの場合、ポリマー材料および構造物の強化に用いられる。繊維強化ポリマー(FRP)は、熱硬化性または熱可塑性のものでもよい。熱硬化性ポリマーを強化する場合、繊維強化材は通常、チョップド、不織布または湿式マットもしくはスクリム織物の形態である。熱可塑性材料を強化する場合、繊維強化材は通常、寸法が短いまたは長いチョップド繊維の形態である。セラミック繊維またはポリマー繊維により応力がポリマーマトリックスに伝達されるように、サイジングまたはコーティングが繊維または繊維束の表面に施されることがある。セラミックまたはポリマー繊維または繊維束をコーティングするために、多くの異なる技術が開発されてきた。これらの技術は、ポリマーコーティング剤の高い溶融粘度または溶液粘度により制限されることがある。従って、低粘度hSBSもしくはhSBSSまたはマレイン化hSBSもしくはhSBSSは、個々のセラミックまたはポリマー繊維または繊維束の表面に結合させるときのサイジング剤またはコーティング剤として有用である。「セラミック」および「ポリマー」繊維という用語には、ガラス繊維(またはガラス繊維)、炭素繊維、アラミド繊維およびポリエステル繊維が含まれるが、これらに限定されない。
【0014】
具体的には、ガラス繊維強化マットは、織布、不織布、チョップドまたは湿式ガラス繊維マットまたはスクリム(本明細書においてマットと呼ぶ。)および前記マットに結合したhSBSまたはhSBSSブロックコポリマー物品を含み、前記hSBSまたはhSBSSブロックコポリマーは100g/10分以上のメルトフローレートを有し、前記スチレン系ブロックコポリマー140g/m2(グラム毎平方メートル)を前記マットに適用したときの平均衝撃エネルギーは前記スチレン系ブロックコポリマーがない場合と比較して少なくとも3倍大きい。強化マットまたはスクリム中の本発明によるスチレン系ブロックコポリマーの量は、約50から約500g/m2である。強化マットまたはスクリム中の本発明によるスチレン系ブロックコポリマーの量は、約50から約200g/m2であるのが好ましい。かかる強化マットは、本発明のhSBSまたはhSBSSブロックコポリマーがないマットと比べて、少なくとも2倍、好ましくは少なくとも3倍(またはそれ以上)の平均衝撃エネルギーを持つ。マレイン化hSBSまたはhSBSSは、個々のガラス繊維の表面に結合させる場合、サイジング剤として有用である。あるいは、炭素繊維などの複合物品において通常使用される他の硬質繊維を、ガラス繊維の代わりに用いてもよい。
【0015】
溶媒および本発明のスチレン系ブロックコポリマーを含有する低粘度コーティング剤は、工業および船舶用途において、金属の腐食を防止するためのコーティングまたは油などの特定の薬品侵食からコンクリートを保護するためのコーティングに主に用いられる。かかるコーティング剤は、保護塗装などの前記コーティングを除去可能にする成分である滑剤、腐食防止剤、破砕防止剤、プライマー添加剤または酸化鉄などの保守用腐食防止剤をさらに含んでもよい。
【0016】
具体的には、低粘度hSBSまたはhSBSSポリマーコーティング剤の配合物は、溶媒とhSBSまたはhSBSSブロックコポリマーとのブレンドを含み;前記ブロックコポリマーは、100g/10分以上のメルトフローレートを有し、前記溶媒は規制対象有機溶媒もしくは規制免除溶媒またはこれらの混合物のクラスから選択される。規制免除溶媒には、メチルアセテート、パラ−クロロベンゾトリフルオリド、tert−ブチルアセテートまたはアセトンが含まれ、ここで前記ブレンドは少なくとも50重量%が固形分である。前記ブレンドは、エンドブロック樹脂、ミッドブロック樹脂、ポリイソブチレンポリマー、ポリフェニレンエーテル、および/またはTiO2、CaCO3、カーボンブラック、もしくは他の顔料などの1種以上のフィラーからなる群から選択される少なくとも1種の他の成分を含んでもよく、前記コーティング剤はASTM D2196Aにより測定したとき150,000cps未満のブルックフィールド粘度を有する。これらの低粘度ポリマーコーティング剤配合物は、エポキシ、アクリル、スチレン、ビニルエステルまたはポリエステル樹脂などの反応性モノマーを含んでもよい。かかるコーティング剤は工業および船舶用途において有用である。hSBSまたはhSBSSポリマーの骨格上にグラフト化されたマレイン酸無水物などの本発明の官能化ポリマーも、低粘度ポリマーコーティングにおいて有用である。
【0017】
具体的には、純粋なワックスの用途は、その脆弱性ならびに低い強度および弾性のために限定される。従って、ミッドブロック樹脂、EVAまたは/およびPEワックスなどの添加剤、有機フィラー、ならびに水素化スチレン系ブロックコポリマーを添加した変性ワックス組成物は、インベストメント鋳造、軟包装材ワックス(紙/フィルム/箔ベースのインモールドラベル、菓子用包装材、チーズ・バター包装材、コーヒー包装材)、ホットメルト接着剤ワックス、一般産業用ワックス、化粧用および製薬用ワックス(クリームおよび軟膏、装飾的な化粧品、脱毛ワックス、医療用ワックス)、紙およびボード板紙加工(板紙・シートラミネート、多層紙袋・包装袋、封筒、セキュリティバッグ・書類袋、紙管、ケース・カートン、ラベル)、建築(屋根断熱材、ルーフィング膜、サンドイッチパネル)、製品組立(ストラッピング、エアフィルター)、エマルジョン、ワックスコーティング、食品(チューインガムおよび乳製品)、ワックス押出成形、タイヤ・ゴム(タイヤ、工業用ゴム物品)、ならびにその他の工業用途などの用途において有用である。しかし、これらの分野においてさえ、変性ワックスの靭性および弾性を向上させる能力は、従来のhSBSポリマーの低メルトフローレート(高粘度)によって制限されてきた。例えば、比較的低分子量のhSBSと考えられるKraton G1652の添加によるワックスの改質は、十分な加工性を得るための粘度に上限があるため、5%未満に制限される。
【0018】
好適なミッドブロック相溶性樹脂は、C5樹脂(ペンタジエン樹脂、ペンテンなど)、水素化C5樹脂、テルペン樹脂、ロジンエステル樹脂またはこれらの組み合わせである。
【0019】
好適な有機フィラーは、架橋ポリスチレン、ビスフェノール酸、テレフタル酸またはこれらの組み合わせであり、200μm未満の粒径を有する。
【0020】
ミクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ナフタレンワックス、パラフィンワックスおよび低精製ワックスまたはこれらの組み合わせを含むブレンドにおける本発明の高メルトフローhSBSポリマーは、強度、靭性および弾性を改善するための変性ワックス用途において重要であるが、十分な剛性を維持しながら、140°Fおよび50秒−1でコーン・プレート型レオメトリーにより測定される配合後の粘度を約2,000から10,000cps、より好ましくは3,000から5,000cpsに保つ。低温、耐衝撃性、低透湿度、改善された耐屈曲亀裂性も、低粘度ポリマーが変性ワックス用途にもたらす有益な特徴である。用途例にはインベストメント鋳造があり、大型の金型または非常に薄い部材に対してワックスは脆弱である。利益率の高いインベストメント鋳造金型は、自動車、航空宇宙、医療用人工装具(例えば、膝および腰部)およびレジャースポーツ(例えば、ゴルフ用具)の産業分野で用いられる。
【0021】
高メルトフロー(低粘度)hSBSポリマーはまた、スケールワックスなどの油の染み出しを制御しなければならない低精製ワックス改質でも重要である。低精製ワックスは安価で豊富に存在するため、高メルトフローhSBSポリマーを使用して低精製ワックスの強度、靭性および弾性が向上することで、当該系の経済的価値が高まる。
【0022】
具体的に、接着剤組成物は、非晶質ポリ−アルファ−オレフィン、hSBSまたはhSBSSブロックコポリマーおよび粘着付与剤のブレンドを含み:前記ブロックコポリマーは100g/10分以上のメルトフローレートを有し、前記非晶質ポリ−アルファ−オレフィンは前記組成物中に約30から約80重量%存在し、前記ブロックコポリマーは前記組成物中に約10から約35重量%存在し、前記粘着付与剤は前記組成物中に約20から約60重量%存在する。
【0023】
具体的に、hSBSおよび粘着付与剤を含有する感圧接着剤は、160℃で125g/10分と2.16kgの間のメルトフローレートを有する。前記粘着付与剤は、一部または全部が水素化されたC9樹脂、またはロジンエステルのいずれかである。粘着付与剤は、100部のポリマーあたり100重量部に対して、約5から250重量部の範囲で存在する。ナイロン基材上に前記ポリマーをラミネートすることにより、剛性のために強度が周期的に変動するまで、優れた接着強度が得られた。典型的に一部または全部が水素化されたC9粘着付与剤は、Eastman Chemical Co.によるRegalite S5100およびR1100だった。前記粘着付与剤は、Arakawa ChemicalのKE−311などのロジンエステルであってもよい。
【0024】
具体的には、45,000から65,000の範囲の低分子量を有するhSBSまたはhSBSSを含有し、100g/10分以上のメルトフローレートを有するフィルムまたはメルトブロー物品は、100%伸長後のヒステリシス設定が約5%であることに加えて、10MPa超の引張強度および500%超の伸長率を有するフィルム物品により規定されているように、優れた強度および弾性を有する。50g/m2(グラム毎平方メートル)のメルトブロー弾性物品は、400%超の極限引張伸びを有することにより規定される優れた弾性を有し、80%超の100%ヒステリシス回収エネルギーおよび10%未満の永久歪みを有する。
【0025】
メルトブロー布は、幼児用おむつ物品、成人失禁用物品、または女性用ナプキン物品などの吸着性保健衛生製品の組み立てに用いられるスパンボンド、2成分スパンボンド、メルトブロー、またはボンデッドカーデッドウェブ層を含む、熱可塑性ポリマーからなる少なくとも1つの別の不織布層をさらに含んでもよい。さらに不織布ラミネート物は、幅出し、延伸およびリングロールなどの活性化工程により弾性を高めることができる。メルトブロー物品は、追加成分として、40g/10分超のメルトフローレートを有する高流動ポリオレフィン、ポリイソブチレン、ポリブテン、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性コポリエステル、油、100g/10分未満のメルトフローレートを備えるスチレン系ブロックコポリマー、および/またはOppera 100A、Regalrez 1126もしくはKristalex 5140などのミッドブロックもしくはエンドブロック樹脂を含んでもよい。
【0026】
具体的に、EP0733677またはWO2011/092071に開示されているスラッシュ成形または回転成形組成物はスチレン系ブロックコポリマーを用い、当該成形組成物は5から75の範囲のメルトインデックスを有するが、実施例では190℃、2.16kg荷重において、40から89g/10分という例を開示している。
【0027】
具体的には、上記の低メルトフローレートおよび分子量を有する本発明のスチレン系ブロックコポリマー(hSBSおよび/またはhS−B/S−S)の水性エマルジョンを、コーティング剤として用いてもよい。前記コーティング剤は、本発明の官能化スチレン系ブロックコポリマー、20重量%未満の有機溶媒および/または粘着付与樹脂を場合によって含んでもよい。
【0028】
上記の溶媒系または水性コーティング剤はいずれも、布(織布もしくは不織布)またはフェルトに含浸させることで有用になり得る。さらに前記コーティング剤は、起泡剤を含んでもよく、発泡物品に混合されてもよい。
【0029】
100g/10分超のメルトインデックスを有する、選択的に水素化されたスチレン系ブロックコポリマーは新規であり、少なくとも前述の全ての分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】表1にまとめた、全衝撃エネルギー(インチ−ポンド力)により示されるチョップドガラス繊維マットの強靱化を、hSBS重量(グラム/平方メートル)に対して示したグラフである。
図2】表10および11に関連する試験片の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書において用いられる用語「分子量」とは、別途注記のない限り、当該ポリマーまたはコポリマーのブロックの真の分子量(g/モル)を指す。本明細書および特許請求の範囲において参照されている分子量は、ASTM3536に従って行われているような、ポリスチレン較正標準を用いてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。GPCはポリマーを分子サイズに従って分離する周知の方法であり、最大の分子が最初に溶出する。当該クロマトグラフは、市販のポリスチレン分子量標準を用いて較正される。このように較正されたGPCを用いて測定されるポリマーの分子量は、スチレン当量分子量であり、見かけ分子量としても知られる。スチレン当量分子量は、ポリマーのスチレン含有率およびジエンセグメントのビニル含有率が既知のとき、真の分子量に換算することができる。使用する検出器は、紫外線検出器と示差屈折率検出の組み合わせが好ましい。本明細書において表される分子量は、GPCトレースのピークにおいて測定され真の分子量に換算されたものであり、一般に「ピーク分子量」と呼ばれている。見かけ分子量として表される場合、ブロックコポリマー組成物を考慮せず測定後に真の分子量への換算を行わない点を除き、同様に測定される。
【0032】
本発明のブロックコポリマーを調製するための出発材料には、初期モノマーが含まれる。アルケニルアレーンは、スチレン、アルファ−メチルスチレン、パラ−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレンおよびパラ−ブチルスチレンまたはこれらの混合物から選択することができる。中でも、スチレンが最も好ましく、種々の製造者から比較的安価に市販されている。
【0033】
本明細書において用いる共役ジエンは、1,3−ブタジエン、ならびにイソプレン、ピペリレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンおよび1−フェニル−1,3−ブタジエンなどの置換ブタジエン、またはこれらの混合物である。中でも、1,3−ブタジエンが最も好ましい。本明細書および特許請求の範囲において用いられるとき、「ブタジエン」とは、具体的には「1,3−ブタジエン」を指す。
【0034】
アニオン共重合のための他の重要な出発原料には、1種以上の重合開始剤が挙げられる。本発明において、かかる重合開始剤としては、例えば、m−ジイソプロペニルベンゼンのジ−sec−ブチルリチウム付加体などの二重開始剤を含む、s−ブチルリチウム、n−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、アミルリチウム等のアルキルリチウム化合物および他の有機リチウム化合物が挙げられる。他に、かかる二重開始剤は、米国特許第6,492,469号明細書に開示されている。種々の重合開始剤の中で、s−ブチルリチウムが好ましい。開始剤は、所望のポリマー鎖につき開始剤分子1つを基準に計算した量を、重合混合物(モノマーおよび溶媒を含む。)中で使用することができる。リチウム開始剤工程は周知であり、例えば、米国特許第4,039,593号明細書および第Re.27,145号明細書に記載されており、当該記載は参照により本明細書に組み込まれる。
【0035】
重合用媒体として用いられる溶媒は、生成するポリマーのリビングアニオン鎖末端と反応せず、市販の重合単位内での扱いが容易であり、生成物ポリマーに適切な溶解性を付与するいずれかの炭化水素であってよい。例えば、一般にイオン化可能水素原子を欠く非極性脂肪族炭化水素は、特に好適な溶媒となる。しばしば用いられるのは、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタンおよびシクロオクタンなどの環状アルカンであり、これらは全て相対的に非極性である。その他の好適な溶媒は、当業者には公知であり、温度を考慮される主要因子の1つとする所与の処理条件において、有効に機能するよう選択することができる。
【0036】
放射状(分岐)ポリマーの調製には、「カップリング」と呼ばれる後重合ステップが必要である。選択的に水素化された分岐ブロックコポリマーおよび/または調整済み分岐軟化改質剤のいずれを得ることも可能である。選択的に水素化されたブロックコポリマーの上記の放射状の構造式において、nは2から約30の整数であり、約2から約15であるのが好ましく、Xはカップリング剤の残分または残基である。種々のカップリング剤が当技術分野において知られており、例えば、ジハロアルカン、ハロゲン化ケイ素、シロキサン、多官能性エポキシド、シリカ化合物、一価アルコールとカルボン酸のエステル(例えば、ジメチルアジペート)およびエポキシ化油が挙げられる。星型ポリマーは、例えば米国特許第3,985,830号明細書;第4,391,949号明細書;および第4,444,953号明細書;カナダ国特許第716,645号明細書に開示されているように、ポリアルケニルカップリング剤を用いて調製される。好適なポリアルケニルカップリング剤としてはジビニルベンゼンが挙げられ、m−ジビニルベンゼンが好ましい。好ましいのは、テトラエトキシシラン(TEOS)およびテトラメトキシシランなどのテトラアルコキシシラン、メチルトリメトキシシラン(MTMS)などのアルキルトリアルコキシシラン、ジメチルアジパートおよびジエチルアジパートなどの脂肪族ジエステル、ならびにビスフェノールAとエピクロロヒドリンの反応から誘導されるジグリシジルエーテルなどのジグリシジル芳香族エポキシ化合物である。
【0037】
カップリング効率はブロックコポリマーの合成において極めて重要であり、コポリマーは架橋技術により調製される。典型的なアニオンポリマー合成において、カップリング反応前には、未架橋の腕は1つのハードセグメント(通常はポリスチレン)のみを有する。材料の強度発現機構に寄与するには、ブロックコポリマー中に2つのハードセグメントが必要となる。腕がカップリングされないと、ブロックコポリマーの強度形成網目構造が希薄になり、材料が脆弱になる。本発明において実現される非常に高いカップリング効率は、カップリングされた高強度ブロックコポリマーを作製する鍵となる。
【0038】
本発明の別の重要な態様は、Bブロック中の共役ジエンのミクロ組織またはビニル含有率を制御することである。用語「ビニル」は、1,2−付加機構により1,3−ブタジエンが重合されたときに生成されるポリマー生成物を記述するために用いられる。その結果、ポリマー骨格に懸垂する一置換オレフィン基であるビニル基が得られる。イソプレンのアニオン重合の場合、3,4−付加機構によるイソプレンの挿入により、ポリマー骨格に懸垂するジェミナルジアルキルC=C部位が得られる。ブロックコポリマーの最終的特性に対するイソプレンの3,4−付加重合の効果は、ブタジエンの1,2−付加による効果と同様のものになる。共役ジエンモノマーとしてのブタジエンの使用については、ポリマーブロック中の縮合ブタジエン単位の約10から80モル%が1,2−付加配置を有することが好ましい。縮合ブタジエン単位の約30から約80モル%が1,2−付加配置を有するのが好ましい。共役ジエンとしてのイソプレンの使用については、ブロック中の縮合イソプレン単位の約5から80モル%が3,4−付加配置を有することが好ましい。ポリマーのミクロ組織(共役ジエン付加のモード)は、ジエチルエーテルなどのエーテル、1,2−ジエトキシプロパンなどのジエーテル、またはアミンをミクロ組織改質剤として希釈剤に添加することにより効果的に制御される。ミクロ組織改質剤のリチウムポリマー鎖末端に対する好適な比率は、米国特許第Re.27,145号明細書に開示および教示されている。
【0039】
共役ジエンブロックの重合を調整してビニル含有率を制御することは、当技術分野において周知である。上記重合調整は、大まかに述べて、環状エーテル、ポリエーテルおよびチオエーテルを含むエーテルまたは第二級および第三級アミンを含むアミンなどの極性有機化合物を利用することにより実施することができる。非キレート型とキレート型のいずれの極性化合物も用いることもできる。
【0040】
本発明の一態様において添加してよい極性化合物には、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジオキサン、ジベンジルエーテル、ジフェニルエーテル、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、テトラメチレンオキシド(テトラヒドロフラン)、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジンおよびキノリンならびにこれらの混合物がある。
【0041】
本発明において「キレート型エーテル」とは、式R(OR’)m(OR”)o ORにより例示される2つ以上の酸素を有するエーテルを意味し、式中、各Rは1から8個、好ましくは2から3個の炭素原子のアルキル基から個別に選択される;R’およびR”は1から6個、好ましくは2から3個の炭素原子のアルキレン基から個別に選択される;mおよびoは独立して選択される、1から3、好ましくは1から2の整数である。好ましいエーテルの例としては、ジエトキシプロパン、1,2−ジオキシエタン(ジオキソ)および1,2−ジメトキシエタン(グリム)が挙げられる。その他の好適な材料としては、CH3 OCH2 CH2 OCH2 CH2 OCH3 (C6H14O3−ジグリム)およびCH3CH2 OCH2 CH2 OCH2CH2 −−OCH2 CH3が挙げられる。「キレート型アミン」とは、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンなどの、窒素を2つ以上有するアミンを意味する。
【0042】
極性改質剤の量は、共役ジエンブロック中で所望のビニル含有率を得るために、制御される。極性改質剤は、リチウム化合物1モル当たり少なくとも0.1モルの量だけ用いられ、リチウム化合物1モル当たり好ましくは1から50モル、より好ましくは2から25モルの促進剤である。あるいは、前記濃度は、溶媒およびモノマーの総重量に対する重量百万分率で表すことができる。この基準に基づくと、10ppmから約1重量%、好ましくは100ppmから2000ppmが用いられる。しかし一部の好ましい改質剤は極少量で極めて効果的であるため、上記の使用量は大幅に変動し得る。逆に、特に効果が弱い改質剤では、改質剤自体が溶媒になりうる。これらの技術も当技術分野において周知であり、例えば、Winklerの米国特許第3,686,366号明細書(1972年8月22日)、Winklerの米国特許第3,700,748号明細書(1972年10月24日)およびKoppesらの米国特許第5,194,535号明細書(1993年3月16日)に開示されており、当該開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0043】
水素化は、先行技術において公知であるいくつかの水素化または選択的水素化工程のいずれかを用いて実施することができる。例えば、かかる水素化は、米国特許第3,595,942号明細書;第3,634,549号明細書;第3,670,054号明細書;第3,700,633号明細書;および第Re.27,145号明細書において教示されている方法などを用いて行われており、当該開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。これらの方法は、芳香族またはエチレン性不飽和結合を含むポリマーを水素化するように作用し、好適な触媒の作用に基づくものである。かかる触媒または触媒前駆体は、アルキルアルミニウムまたは元素周期表の第I−A、II−AもしくはIII−B族から選択される金属、特にリチウム、マグネシウムもしくはアルミニウムの水素化物などの好適な還元剤と組み合わされる、ニッケルまたはコバルトなどの第VIII族金属を含むことが好ましい。上記調製は好適な溶媒または希釈剤中において約20℃から約80℃の温度で行うことができる。その他の有用な触媒としては、チタンベース触媒系が挙げられる。
【0044】
本発明において適用される選択的に水素化された制御分布スチレン−ジエン/スチレン−スチレンブロックコポリマーは、Beningらの米国特許第7,169,848号明細書に記載されている。これらのブロックコポリマーは、モノマー付加のための特有の制御と溶媒成分としてのジエチルエーテルまたはその他の改質剤(「分布薬剤」と呼ぶ。)の使用との組み合わせにより作製される混合モノマーゴム状ブロック(共役ジエン/モノアルケニルアレーン)を有し、この結果、2つのモノマーの特定の特徴的分布(本明細書において「制御分布」重合と呼ばれる。即ち「制御分布」構造を生じる重合である。)が生じ、さらに、モノアルケニルアレーンに富んだ特定の領域および共役ジエンに富んだ特定の領域がポリマーブロック内に存在することになる。本明細書において、「制御分布」とは、下記の特質:(1)共役ジエン単位に富んだ(即ち、平均量より多くの共役ジエン単位を有する。)モノアルケニルアレーンホモポリマー(「A」)ブロックに隣接する末端領域;(2)モノアルケニルアレーン単位に富んだ(即ち、平均量より多くのモノアルケニルアレーン単位を有する。)Aブロックに隣接していない1つ以上の領域;および(3)比較的低いブロック率(blockiness)を有する全体構造を有する分子構造を指すものと定義される。本明細書において、「に富んだ」とは、平均量を超える、好ましくは平均量を5%上回るものと定義される。上記の比較的低いブロック率は、示差走査熱量測定(「DSC」)熱分析法もしくは機械的方法により分析したときに、各モノマー単独のガラス転移温度(「Tg」)間に存在する単一のTg中間値により示されるか、またはプロトン核磁気共鳴(「H−NMR」)法により示され得る。また、潜在的ブロック率は、Bブロックの重合中に、ポリスチリルリチウム末端基の検出に適した波長範囲でUV−可視吸光度を測定することにより推測することもできる。上記UV−可視吸光度の値の急激で大幅な増加は、ポリスチリルリチウム鎖末端の大幅な増加を指し示すものである。本工程において、この現象は共役ジエン濃度が制御分布重合を維持できる臨界濃度を下回った場合にのみ発生する。この時点で存在するスチレンモノマーは全て、ブロック状の形態で付加される。当業者によりプロトンNMRを用いて測定される「スチレンブロック率」という用語は、ポリマー鎖上に2つのS最近接単位(nearest neighbors)を有するポリマー中のS単位の割合と定義される。スチレンブロック率は、以下のようにH−1 NMRを用いて2つの実験量を測定した後に求められる。
【0045】
まず、H−1 NMRスペクトルの7.5から6.2ppmにある全てのスチレンの芳香族シグナルを積分し、その値を各スチレン芳香環上の5個の芳香族水素と同数の5で割ることで、スチレン単位(即ち、比率で表すときに相殺される任意の計測単位)の総数を求める。
【0046】
次に、H−1 NMRスペクトルの6.88から6.80ppmの間で最小のシグナルから6.2ppmまでの芳香族シグナルの部分を積分し、その値を各ブロック状スチレン芳香環上の2個のオルト水素と同数の2で割ることにより、ブロック状スチレン単位を求める。上記シグナルを、2個のスチレン最近接単位を有するスチレン単位の芳香族環上の2個のオルト水素に帰属することについては、F.A.Bovey,High Resolution NMR of Macromolecules(Academic Press,New York and London,1972),Chapter 6に報告されている。
【0047】
スチレンブロック率は単純に、スチレン単位全体に対するブロック状スチレンの百分率である:
ブロック率(%)=100×(ブロック状スチレン単位/スチレン単位全体)
従って、ポリマー−Bd−S−(S)n−S−Bd−ポリマーと表される式(式中、nは0より大きい。)は、ブロック状スチレンと定義される。例えば、上記の例においてnが8である場合、ブロック率指数は80%となる。ブロック率指数は約40未満であることが好ましい。スチレン含有率が10重量%から40重量%である一部のポリマーについては、ブロック率指数が約10未満であることが好ましい。
【0048】
水素化は、共役ジエン二重結合の少なくとも約90%が還元されており、アレーン二重結合の0から10%が還元されているという条件下で実施することができる。少なくとも約95%の範囲の共役ジエン二重結合が還元されていることが好ましく、共役ジエン二重結合の約98%が還元されていることがより好ましい。あるいは、芳香族の不飽和も上記の10%の水準を超えて還元されるようにポリマーを水素化することも可能である。かかる包括的水素化は通常、高温で達成される。上記の場合、共役ジエンおよびアレーンの二重結合はいずれも、90%以上還元することができる。
【0049】
水素化が完了したら、ポリマー溶液1部に対して酸性水溶液約0.5部の容積比で、比較的大量の酸性水溶液(好ましくは20から30重量%)をポリマー溶液と一緒に撹拌することにより、触媒を抽出することが好ましい。好適な酸としては、リン酸、硫酸および有機酸が挙げられる。上記撹拌は、窒素と酸素の混合気体でスパージングしながら、約50℃で約30から約60分間続ける。このステップでは、酸素と炭化水素の爆発性混合物が生成しないように注意しなければならない。
【0050】
使用できる各種フィラーの例は、1971−1972 Modern Plastics Encyclopedia、240−247頁に記載されている。強化材は単に、ポリマーの強度を向上させるために樹脂性マトリックスに加えられる材料として定義されてもよい。これらの強化材料の大部分は、無機生成物または高分子量の有機生成物である。各種例としては、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、粘土、ガラス繊維、アスベスト、ボロン繊維、炭素およびグラファイト繊維、ウィスカ、石英およびシリカ繊維、セラミック繊維、金属繊維、天然有機繊維、ならびに合成有機繊維が挙げられる。特に好ましいのは、得られた強化ブレンドの総重量に対して約2から約80重量%の炭酸カルシウムを含む、本発明の強化ポリマーブレンドである。
【0051】
本発明のポリマーブレンドには、本発明の範囲から逸脱することなく、他のポリマー、油、フィラー、強化材、酸化防止剤、安定剤、難燃剤、ブロッキング防止剤、潤滑剤、ならびにその他のゴムおよびプラスチック配合成分をさらに配合してもよい。
【0052】
粘着付与樹脂としては、ポリスチレンブロック適合性樹脂およびミッドブロック適合性樹脂が挙げられる。ポリスチレンブロック適合性樹脂は、クマロン−インデン樹脂、ポリインデン樹脂、ポリ(メチルインデン)樹脂、ポリスチレン樹脂、ビニルトルエン−アルファメチルスチレン樹脂、アルファメチルスチレン樹脂およびポリフェニレンエーテル、特にポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)からなる群から選択され得る。かかる樹脂は、例えば「HERCURES」、「ENDEX」、「KRISTALEX」、「NEVCHEM」および「PICCOTEX」の商標で販売されている。水素化(ミッド)ブロックとの適合性がある樹脂は、適合性C炭化水素樹脂、水素化C炭化水素樹脂、スチレン化C樹脂、C/C樹脂、スチレン化テルペン樹脂、完全水素化または部分水素化C炭化水素樹脂、ロジンエステル、ロジン誘導体およびこれらの混合物からなる群から選択され得る。これらの樹脂は、例えば「REGALITE」、「REGALREZ」、「ESCOREZ」および「ARKON」の商標で販売されている。粘着付与樹脂の使用量は、ゴムまたはブロックコポリマー100重量部当たり約5から約100重量部までの間で変動するが、約20から約50重量部が好ましい。また、ポリスチレンブロック適合性樹脂およびミッドブロック適合性樹脂の両方を用いてもよい。
【0053】
当該新規なhSBSまたはhSBSSブロックコポリマーは、230℃および2.16kg荷重(ASTM D−1238)において100g/10分以上のメルトフローレート、約45,000から約65,000の最小直鎖分子量、約18から約45%のPSC、約65から80%のビニル含有率および約60から約97%のカップリング効率を有し、前記スチレン系ブロックコポリマーは、選択的に水素化されたスチレン−ブタジエン−スチレン(hSBS)または選択的に水素化された制御分布スチレン−ブタジエン/スチレン−スチレン(hSBSS)である。当該新規hSBSまたはhSBSSは、選択的に水素化されたポリ(モノアルケニルアレーン−ジエン−モノアルケニルアレーン)、ポリ(モノアルケニルアレーン−ジエン)nX、制御分布ポリ(モノアルケニルアレーン−ジエン/モノアルケニルアレーン−モノアルケニルアレーン)またはポリ(モノアルケニルアレーン−ジエン/モノアルケニルアレーン)nXと一致する構造を有するスチレン系ブロックコポリマーである。前記モノアルケニルアレーンモノマーは、スチレン、アルファ−メチルスチレン、パラ−メチルスチレン、tert−ブチルスチレン、ビニルトルエン等またはこれらの混合物からなる群から選択されることが好ましく、これらのうちスチレンが最も好ましい。前記ジエンモノマーは、1,3−ブタジエンもしくはイソプレンなどの置換ブタジエンを含むどのような脂肪族共役ジエンまたはこれらの混合物であってもよく、これらのうち1,3−ブタジエンが最も好ましい。本明細書および特許請求の範囲において用いられるとき、「ブタジエン」とは、具体的には「1,3−ブタジエン」を指す。前記メルトフローレートは、各スチレンブロックが5000から7000の間のピーク分子量を有し、一方のブロックコポリマーの全ピーク重量が45,000から65,000の間である、hSBSまたはhSBSSにより達成される。前記ポリマーは、水素化の前に、それぞれS−D−Sまたは(S−D)nXの構造を有する直鎖または放射状であることができ、式中、nは2から3、Sはスチレン、Dはジエンまたはジエン/スチレン、Xはカップリング剤残基である。前記ジエンは、ブタジエン、イソプレン、またはこれらの混合物であってもよい。カップリング剤としては、具体的に、Epon 825、862、826、メチルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、ジメチルジメトキシシランおよびクロロシランのようなシランが挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
本発明のスチレン系ブロックコポリマーはまた、例えばブロックコポリマーの骨格上にグラフト化マレイン酸無水物を組み込むことでも官能化されていてもよい。その他に、本発明のブロックコポリマーは、複数の方法で官能化されていてもよい。1つの方法は、カルボン酸基およびその塩、無水物、エステル、イミド、アミド、または酸塩化物基などの飽和基またはこれらの誘導体を1つ以上有する不飽和モノマーを用いる処理によるものである。ブロックコポリマー上にグラフト化される好ましいモノマーは、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、またはこれらの誘導体である。米国特許第4,578,429号明細書および第5,506,299号明細書を参照されたい。別の方法では、本発明の選択的に水素化されたブロックコポリマーは、米国特許第4,882,384号明細書により教示されているように、ケイ素またはホウ素含有化合物をポリマーにグラフト化することにより官能化してもよい。さらに別の方法では、本発明のブロックコポリマーをアルコキシシラン化合物と反応させ、シラン変性ブロックコポリマーを生成してもよい。また、本発明のブロックコポリマーは、米国特許第4,898,914号明細書により教示されているように、少なくとも1つのエチレンオキシド分子をポリマーにグラフト化することにより、またはUS4,970,265により教示されているように当該ポリマーを二酸化炭素と反応させることにより、官能化してもよい。
【実施例】
【0055】
[実施例1]:高メルトフローhSBSポリマー
hSBS:シクロヘキサン201kgおよびスチレン9.1kgを約50℃において80ガロンのステンレス鋼製反応器に投入した。次に、約12重量%のs−ブチルリチウム2428mLを反応器に投入して重合を開始した。スチレン重合を完了するまで約50℃で進行させ、GPC用にサンプルを採取した。このステップでの分子量は、4.8kg/モルであることが明らかになった。さらにスチレン0.38kgを加えて重合させた。このポリマーのGPC分析により、分子量は5.0kg/モルであることが示された。ブタジエンを約1kg/分の速度で添加した。ブタジエンの手順を開始して1分未満の間に、1,2−ジエトキシプロパン198gを添加し、次いでブタジエン添加速度を1.5kg/分に上げた。合計36.05kgのブタジエンを添加し、温度を約50℃から55℃の間に保ち、重合を完了まで継続させた。このステップの終了時に採取したサンプルは、分子量26.0kg/モルであり、H NMRによるビニル含有率は73.7%、ポリスチレン含有率は24.1%であった。次に、メチルトリメトキシシラン114mLを添加することにより、S−Bジブロックポリマーをカップリングさせて、ジブロック鎖の94%がカップリングされたポリマーを得たが、この大部分(82%)は直鎖であり、残りの部分は主として3本の腕を有する放射状の構造だった。メタノール55mlを添加し、反応が完全に停止するようにした。次いで、700psiの水素下、85℃において、Co/Al触媒(Al:Coは1.7:1(モル/モル)、Coは約22ppm)を用いて、オレフィン当量で0.12meq/gの残余不飽和結合に水素を付加してこのポリマーを水素化し、選択的に水素化されたスチレン−ブタジエン−スチレンポリマーを生成した。ポリマー溶液の総量125kgのうち約60kgは、最初の一括投入時に添加し、残り部分は、反応温度を所望の範囲内に保つのに必要な速度で添加した。N/O混合気体でスパージングしながら、セメントをリン酸水溶液に接触させることにより、触媒を酸化し抽出した。さらに、約100mLのカプリル酸を添加した。次に、アンモニアでスパージすることにより前記セメントを中和し、脱イオン水を用いて洗浄し、Ethanox330(ポリマーベースで0.2重量%)およびIrgafos168(ポリマーベースで0.3重量%)を添加することにより安定化させた。得られた本発明のhSBSポリマーは、220g/10分のメルトフローレートを有していた。
【0056】
高メルトフローhSBSの用途例
【0057】
[実施例2]:ガラス繊維マットおよびスクリム
本発明の技術は、ガラス繊維マットおよびスクリムを含む複合材に耐衝撃性および向上した靭性をもたらし、製造および健康、安全ならびに環境面での大幅な改善をもたらすと期待される。100g/10分以上のメルトフローレートを有する本発明のhSBSまたはhSBSSは、十分に高い分子量を有するため揮発性でなく、優れた弾性および靭性を示す一方で、その高流動特性により、メルトブロー繊維、布、または低坪量フィルムとしての応用が可能になる。靭性および弾性を有する高流動hSBSまたはhSBSSとガラス繊維マットまたはスクリムとを組み合わせるために、少なくとも3つの異なる工程が想定できる。
【0058】
1.靭性および弾性を有する繊維がガラス繊維マットの厚みを貫通するようにガラス繊維を製造するときに、メルトブロー繊維を共押出することが可能である。
【0059】
2.前記フィルムを既存のガラス繊維マットまたはスクリム上に溶融コーティングすることができる。
【0060】
3.メルトブロー布またはフィルムをガラス繊維マットまたはスクリム上にラミネートすることができる。
【0061】
アスファルトルーフィング用途では、かかる屋根が雹による損傷に耐えられることが重要である。従って、当該ルーフィング材の耐衝撃性を向上させることが望ましい。かかるルーフィング材は、少なくとも1種のガラス繊維マットおよびバインダーとしてのアスファルトを含む複合材である。本実施例では、hSBSまたはhSBSSを低坪量フィルムとして作製し、次いで当該低坪量フィルムをガラス繊維マット上にラミネートした。ガラス繊維マットの耐衝撃性を大幅に向上させるのに必要とされたスチレン系ブロックコポリマーの坪量は、驚くほど小さかった。以下の材料を本実施例において用いた。
材料:
1.13.5osy−オンス/平方ヤード(約450g/m−グラム/平方メートル)のチョップドガラス繊維マットをUS Compositesより購入した。このタイプのマットは一般に、金型、自動車およびボート建造用途に用いられる。このマットは、十分な靭性を付与するために、通常、24osyの樹脂を必要とする。
【0062】
2.厚さ6.5ミル、約4.2osyまたは140g/mのhSBS押出フィルム。
実験条件:
Killion製フィルム押出機において温度を300−330−360−370°Fに設定し、ダイを370°Fに設定して、hSBSフィルムを押し出した。
【0063】
ガラス繊維マットサンプルを15インチ幅の切片に切断した。140、280および560グラム/平方メートルの厚さのhSBSフィルム層をガラス繊維マット片の上に重ねた。この多層構造物を、ロール温度を350°Fに設定した2ロールラミネーターに通した。ラミネートガラス繊維マット片から10cm×10cmの正方形を切り出して、圧力を加えずに450°Fで90秒間焼成した。
【0064】
10cm×10cmのラミネートガラス繊維マット片を、Dynatup Instrumented Impact Tester Model8250を用い、4.2ポンドのおもりを速度約8400インチ/分でサンプルに衝突させて試験した。全衝撃力をロードセルにより測定し、全衝撃エネルギーをインチ・ポンドで報告した。衝撃試験温度は23℃であった。
【0065】
驚くべきことに、わずか140gsmで塗布されたhSBSの溶融コーティングにより、全衝撃エネルギーが2インチ・ポンドから20インチ・ポンドへと1桁増加している。表1および図1を参照されたい。この坪量は、十分な強靱化をもたらすと報告されている反応性樹脂の秤量よりも大幅に小さい。ラミネートガラス繊維マットのhSBSの坪量が増加するほど全衝撃エネルギーは増加し続けるため、坪量と耐衝撃性との組み合わせを特定の用途に適合させることが可能である。一般に、50から1000g/mの本発明のhSBSを含む本発明のラミネートガラス繊維マットは、hSBSを有していないマットと比べて、少なくとも2倍、好ましくは少なくとも3倍の平均衝撃エネルギーを有する。
【0066】
【表1】
【0067】
ビチューメン、フィラーおよび表面材と組み合わせたガラス繊維強化マットは、ルーフィングシングル、ルーフィング膜、断熱材、防音物品、制振物品、耐風物品および植物根成長に耐えるジオメンブレンの形成に用いられる。
【0068】
ガラス繊維強化マットを含む熱硬化性複合材であって、当該熱硬化物質がエポキシ、ウレタン、ポリエステル、アクリル、またはビニルエステル樹脂である熱硬化性複合材および本発明のhSBSは、艇体、車体パネル、タービン翼、船体、防音物品、制振物品、耐風物品、植物根成長に耐えるジオメンブレン、または成形シートなどの、工業、自動車、航空宇宙、または消費者用途向け複合物品において有用である。
【0069】
[実施例3]:低粘度コーティング剤
低粘度ポリマー(前述のhSBSおよびhSBSS)は、VOC(揮発性有機炭素)規制を満たさなければならない用途において重要である。hSBSは高メルトフローレート(低粘度)を有し、hSBSを他の低粘度ポリマーと比較した。hSBSとの比較において、4種類のVOC規制免除溶媒、即ち、メチルアセテート、p−クロロベンゾトリフルオリド、t−ブチルアセテートおよびアセトンのみが検討され得ることが決定された。非VOC規制が許容される分野においては、低粘度ポリマーとの相溶性を有する任意の規制対象溶媒(除外されていない有機溶媒)を用いてもよい。規制対象溶媒の例には、Aromatic 100(軽質芳香族ナフサ)、Aromatic 200(重質芳香族ナフサ)、キシレン、トルエン等がある。溶媒(規制免除溶媒、規制対象溶媒、またはこれらの混合物)および少なくとも40重量%の本発明のhSBSまたはhSBSSのスチレン系ブロックコポリマーのブレンドを含むコーティング剤は、450グラム/リットル未満、好ましくは350グラム/リットル未満、より好ましくは250グラム/リットル未満のVOC含有率を有する。
【0070】
高メルトフローポリマーの粘度に対するベースライン効果を明らかにするため、トルエンの溶液を調製し、ブルックフィールド粘度計を用いて室温において粘度を測定した。結果はセンチポアズ(cps)で記録した。表2を参照されたい。結果が示すところによれば、hSBSは他のSEBS(水素化スチレン−ブタジエン−スチレン)ポリマーと比較して最も低い粘度を有している。G1643は約19g/10分のメルトフローレート、G1726は約85g/10分のメルトフローレート、ポリマー2は約43g/10分のメルトフローレートを有する。全てのメルトフローレートは230℃および2.16kg荷重において測定した。
【0071】
【表2】
【0072】
キシレン/PCBTFブレンドのポリマー粘度に対する効果
キシレンとVOC規制免除溶媒のp−クロロベンゾトリフルオリド(PCBTF)とを含む溶媒ブレンドの溶液粘度を測定した。15、20および25重量%の固形分含有率においてG1643およびhSBSポリマーを用いて溶液を作製した。結果はセンチポアズ(cps)で測定したものである。表3を参照されたい。G1643と比較してhSBSが最も低い粘度を有していた。溶液中においてPCBTFがキシレンを置き換えるにつれて、粘度が上昇する。
【0073】
【表3】
【0074】
白色屋根コーティング配合物
エラストマー白色屋根コーティング剤では、VOCが250g/L(グラム/リットル)を超えてはならないなどの厳しい要求が増える。G1643とhSBSポリマーの溶液粘度を比較するために、エラストマー白色屋根コーティング配合物が作製された。配合物は250グラム/リットルのVOCを満たすことを目標とし、全ての成分濃度を重量%で一覧にした。粘度低減は、コーティング剤の塗工坪量および乾燥時間に大きく影響する。hSBSは、G1643よりも特性が適しており、粘度が低いコーティング配合物が得られた。表4を参照されたい。エラストマー屋根コーティング剤に関する要件は、ASTM D6083の一覧表に記載されている。粘度の要件は、ASTM D562の方法A、手順Aによる測定で85から141cpsである。
【0075】
【表4】
Aromatic 100は、欧州内で白色屋根への用途が承認されている唯一の溶媒である。
【0076】
141cps超のストーマー粘度は、ASTM D562の方法A、手順Aを満たさない。しかし、hSBSは、この要件を満たす。
【0077】
[実施例4]:接着剤配合物
前述の通り、APO系接着剤配合物は低コストで低性能である。しかし、これらの配合物は吹付が可能で、幅広い物品に適用できる。APO接着剤配合物の性能は、本発明のhSBSとブレンドすることにより、少なくとも中位の性能にまで高めることができる。メルトフローレート100g/10分未満のSEBSポリマーをベースとする従来のSEBS系配合物を含む、多くの中位の性能のポリマーとは異なり、当該配合物はなお吹付が可能である。接着剤配合物は、感圧接着材、ホットメルト接着剤、建築用接着剤、弾性接着剤などにおいて有用である。一般に、これらの配合物は、本発明のスチレン系ブロックコポリマー、ポリ−アルファ−オレフィン樹脂、粘着付与樹脂および鉱油、酸化防止剤等の任意の成分を含有する。通常、これらの組成物は、前記組成物の約30から約80重量%で存在するポリ−アルファ−オレフィン、前記組成物の約10から約35重量%で存在するスチレン系ブロックコポリマーhSBSおよび/またはhSBSS、ならびに前記組成物の約20から約60重量%の上記粘着付与樹脂を含む。
【0078】
実験条件:
標準的剥離、粘着、凝集および粘度試験を、これらの配合物に対し、感圧テープ評議会(Pressure Sensitive Tape Council)(PSTC)による感圧テープに関する試験法マニュアル(Test method manual for Pressure Sensitive Tapes)、感圧材料に関する標準FINAT試験法(standard FINAT test method for Pressure sensitive materials)、感圧接着テープに関するAFERA試験法(AFERA test methods for Pressure Sensitive Adhesive Tapes)および関連するASTM法に記載の通り実施した。用途における当該配合物の機能を明らかにするにあたり、FINATにより推奨されているクロムメッキされたステンレス鋼プレート(No.304「ss」)およびクラフト紙という異なる試験表面を用いた。
【0079】
・回転ボールタック(RBT)は、鋼球が接着フィルム上を標準初期速度で転がる距離をセンチメートルで表したものである(感圧テープ評議会試験No.6;ASTM D3121−73)。小さい数値は、粘着性が強力であることを示す。
【0080】
・ループタック(LT)は、PSTC−5およびFTM9ループタック法を用いて測定した。大きな数値のLTは、粘着性が強力であることを示す。
【0081】
・180度剥離接着性は、感圧テープ評議会法No.1およびASTM D3330−83により測定した。大きい数値は、鋼基板から試験テープを剥離するときの力が大きいことを示す。
【0082】
・SAFT(剪断接着破壊温度)は、クロムメッキssプレートに対して、1kgのおもりを用い、2.5×2.5cmのMylarにより測定した。サンプルをオーブンに入れ、温度を22℃/分の割合で上げていった。SAFTは、重ねせん断被着材(lap shear assembly)が破壊する時の温度を測定する。
【0083】
・保持力(HP)は、標準荷重(1kg、2または5kg)下において、2°での剪断時に、標準試験表面(鋼=ss)から標準面積(2.5×1.3cm)のテープを引っ張るのに必要とされる時間である(感圧テープ評議会法No.7;ASTMD−3654−82)。長い時間は、接着強度が大きいことを示す。結果は、時間(h)または分(min)で表される。破壊モードのタイプは、接着破壊(AF)または凝集破壊(CF)として表される。本試験は、試験に応じて室温(約23℃)またはより高温で実施することができる。
【0084】
接着剤配合物の調製
本発明における接着剤組成物の調製方法には特定の制限は課されない。従って、ロール、バンバリーミキサーまたはDaltonニーダーを利用する機械的な混合工程、撹拌機、高剪断Zブレードミキサー、単軸または二軸押出機を備えた溶融ケトルを用いることにより加熱および混合が行われることを特徴とするホットメルト工程、配合成分を好適な溶媒に注ぎ込み撹拌することで感圧接着組成物の均質溶液を得る溶媒工程などのいずれの工程を用いてもよい。
【0085】
表5に示す試験配合物は、窒素ブランケットを施した高剪断シグマブレードミキサー内でホットメルト混合されたものである。典型的な添加順序は、安定剤と混ぜ合わせたポリマー、次いで樹脂、続いて油の添加であった。均質な接着剤を調製するための混合時間は、平均約1時間であった。次いで、サンプルを、加熱したドクターブレードにより表5に示す平均フィルム厚さにドローダウンしたホットメルトとして、4ミルMylar(登録商標)フィルム上にコーティングした。試験結果の概要を表6において報告する。ホットメルト試験の結果は表7において報告する。
【0086】
【表5】
【0087】
【表6】
【0088】
【表7】
【0089】
不織布構造物のための吹付可能なホットメルト接着剤というhSBS用途にとって特に有用なのは、(1)熱および色安定性のための飽和ポリマー骨格;(2)接着破壊機構;および(3)許容される吹付性能を可能にする、350°F(典型的な吹付適用温度)で10,000cpsを下回るホットメルト粘度である。APOのみからなる対照配合物(HMA4)は、望ましい低粘度および飽和骨格を有するが、許容されないほど低い接着特性を示す。即ち、粘着性または剥離性はほぼ測定不可能である。HMA4の接着剤配合物は、Mylar(登録商標)(ポリエステル)基板とステンレス鋼基板のいずれに対しても十分に接着しなかった。
【0090】
データから明らかなのは、APOとのブレンドに16.5重量%のブロックコポリマーhSBSを添加すると、適度なバランスの接着特性に加えて、低いホットメルト粘度が得られることである。配合物HMA1およびHMA2のみ接着破壊が観察されたが、これは不織布構造物の接着剤には好ましい破壊機構である。
【0091】
HMA5中にSBSを用いた比較配合物は、不飽和ポリブタジエンゴム相のために、色安定性および長期エージングの問題を有する。HMA5中にSBSを用いるこのタイプの産業界標準の配合物(ポリマー20%、樹脂60%、油20%)は、ポリマー含有率が低く(経済性および低溶融粘度のためである。)、このことが接着剤の破壊機構に悪影響を及ぼしている。
【0092】
[実施例5]:個人衛生用途向けフィルムおよび不織布の実施例
表8は、高メルトフローSEBS(本発明のhSBS)から作製されたフィルムが、より低いメルトフローhSBSポリマー配合物(比較例1および2)から作製されたフィルムと同等またはそれ以上の機械的特性を有することを示している。MD6705およびMD6717について、230℃および2.16kgにおいて測定したメルトフローレートは、それぞれ48g/10分および55g/10分であった。実施例3の回復エネルギーは90%であり、引張歪みは5%であり、このような低分子量ポリマーとしては例外的な弾性を示している。さらに表8は、高メルトフローSEBSが最大300%の破断伸度という優れた弾性を有することを示している。高伸度または歪みにおける良好な弾性は、応力緩和が小さいことの指標でもある。少ない応力緩和は、吸着性の個人衛生衣料品またはおむつなどの物品内の弾性構成要素の経時でのフィット性が向上する。
【0093】
表9は、高メルトフローポリマー(本発明のhSBS)から作製されたメルトブロー布の機械的特性を、保健衛生用途で用いられる同様の坪量の典型的フィルム(比較例3および4)に対して比較したものである。坪量が同様であり、試験サンプルは全て同じ幅であったため、種々の歪みにおける強度および弾性率の指標として力を用いることができる。表9は、本発明のhSBS布が、比較例3および4に対して、縦方向において100%および300%の弾性率、ならびに横方向において100%および300%のヒステリシス性能という同等またはそれ以上の特性を有することを示している。さらに、本発明のhSBS布は、縦方向において比較例4と同等またはそれ以上の性能(弾性率およびヒステリシス)を示す。本発明のhSBS布では、フィルム比較例と比較して破断伸度および引張破断強度が著しく低い。この理由は、メルトブロー布には構造に固有の限界がある一方で、フィルムには歪み硬化が生じるためである。結果的に、大部分の市販の個人衛生用途に300%をはるかに超える歪みは必要とされないため、本発明のhSBS布は、超高メルトフローhSBSが個人衛生用弾性部材において良好に機能し得ることを示している。
【0094】
機械的特性は、横方向(押出方向に対して垂直)に測定されたものである。ヒステリシスは、伸長率100%において測定されたものである。比較例1(MD6705)は、18MFR高ビニルSEBSを用いて作製された化合物である。比較例2(MD6717)も同一の18MFR SEBSを用いて作製された化合物であるが、高メルトフローポリオレフィンをも含有している。本発明のhSBSは、220g/10分のメルトフローレートを有する。比較例3は、比較的分子量が高くMFRが低いhSBS(Kraton G)を用いて作製された、典型的な個人衛生用弾性フィルム化合物である。比較例4は、典型的な個人衛生用SISポリマー(D1114)から作製されたフィルムである。
【0095】
【表8】
【0096】
【表9】
【0097】
[実施例6]:スラッシュおよび回転成形の実施例
本発明のポリマーhSBSをベースとする化合物は、スラッシュ成形および回転成形工程などの低剪断工程で用いられるとき、改善された溶融特性を示す。スラッシュ成形および回転成形化合物の典型的配合は、表10に見ることができる。
【0098】
【表10】
【0099】
これら化合物の製造は、当業者にとって周知の水中ペレット化装置を備えた共回転二軸押出機などの標準的プラスチック配合設備で実施された。押出機バレルゾーン温度はバレルの長さに沿って160℃から210℃に上昇し、アダプターおよびダイの温度は210℃から230℃であった。前述の化合物の溶融温度は、配合物100および104について、それぞれ210℃および240℃であった。スラッシュ成形または回転成形などの低剪断工程に対する適合性の評価は、圧縮成形試験サンプルにおける剪断率ゼロでの流動性を測定することにより定めた。試験片は、名目の厚さが3mmの圧縮成形した飾り板から打ち抜いた。図2を参照されたい。サンプルの高さおよび幅は、サンプルの中心点で測定した。次に試験片を平板上に置き、予熱した230℃の対流式オーブンに90秒間入れた。試験片をオーブンから取り出し、約5分間冷却させ、サンプル中心点でサンプルの厚さを再測定した。(REF)は、非加熱の参照試験片である。配合物(100)の参照試験片に対しては、先行技術に基づく溶融試験を行う。配合物(104)は、hSBSを混合した本発明の配合物である。
【0100】
その後、サンプルの高さおよび幅を再び測定し、溶融%を式1に従って計算した。結果を表11に示す。
【0101】
【数1】
【0102】
【表11】
【0103】
上記表にまとめられた結果および試験片の目視検査は、本発明のhSBSを含む実施例の化合物(104)が、剪断率ゼロの条件下で、より高い流動性を示し、従って式1により計算される溶融%が高くなることを示している。
【0104】
[実施例7] ラミネート接着剤
本発明のhSBSカップリングポリマーと粘着付与剤とを、乾燥ブレンドした(表12の実施例2−7)。当該溶融ブレンドを180℃およびスクリュー速度250rpmで押し出し(二軸押出機)、次いで5MPaで200から220℃において圧縮成形した(厚さ100μm、幅25mm)。厚さ100μmの当該フィルムを2枚のテフロン(登録商標)フィルムの間に挟んだ。テフロンフィルムの片面を剥離し、同様に幅25mmのナイロン布地に接着剤を移した。前記フィルムとナイロンと、160℃、0.5MPaで0.5秒間加熱プレスすることによりラミネートし、次いで他方のテフロンフィルムを取り除き、当該ラミネートを160℃、0.8MPaで5.0秒間にわたり再び加熱プレスした。23℃および相対湿度50%での24時間のエージング後、300mm/分のクロスヘッド速度で幅23mmにわたる180℃剥離強度を測定した。本発明のhSBSは、実施例1に記載されたポリマーである。G1643(MFR=230℃/2.16kgで18g/10分)、G1657(MFR=230℃/2.16kgで10g/10分)およびG1726(MFR=230℃/2.16kgで65g/10分)は、水素化された逐次SBSポリマーである。結果を表12に示す。
【0105】
【表12】
【0106】
好適な粘着付与剤は、ロジンエステル、または部分水素化もしくは完全水素化C樹脂からなる群から選択される。粘着付与剤の量は、当該ポリマー100重量部に対して約5から約150重量部の範囲である。
【0107】
従って、本発明により、230℃および2.16kg荷重で測定されたとき少なくとも100g/10分のMFRを有し、上述の目的、目標および利点を十分に満たす、固有で新規のhSBSまたはhSBSSブロックコポリマーを使用するいくつかの用途が提供されたことは明らかである。本発明はその具体的実施形態と共に記載されているが、上記の説明に照らして、多くの代替手段、改変および変化形態が当業者にとって自明であることは明らかである。従って、かかる全ての代替手段、改変および変化形態は、添付された特許請求の範囲に示される本発明の趣旨および広い範囲に含まれることが意図されている。
図1
図2