(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、セメント硬化体挿入後の孔にできる窪みがモルタルで埋められているが、モルタルは乾燥収縮するため、モルタルと孔の壁面との間に隙間ができやすい。このような隙間には、金属腐食因子が躯体コンクリートの外部から侵入し、侵入した金属腐食因子によって通常より早く鉄箔センサが反応してしまう。このため、躯体コンクリート内への金属腐食因子の浸透が正確に検出されない。さらに、セメント硬化体と孔の壁面との間が、モルタル又はペーストからなる被覆物によって充填されているが、セメント硬化体と孔の壁面との間に空隙ができやすく、さらに、セメント硬化体が孔内で径方向に移動することによって、鉄箔センサと孔の壁面との間の距離に、壁面の周方向で場所による偏りが生じ、鉄箔センサの検出精度にも同様の偏りが生じる。よって、鉄箔センサが反応しても、躯体コンクリート内への金属腐食因子の浸透を正確に反映するものとはならない。
【0006】
本発明は上記のような問題を解決するためになされたものであり、コンクリート内への金属腐食因子の浸透についてのセンサによる検知精度の向上を図る金属腐食因子検知ユニット及び金属腐食因子検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係る金属腐食因子検知ユニットは、コンクリート内への金属腐食因子の浸透を検知する金属腐食因子検知ユニットにおいて、鉄筋コンクリートに設けられた孔の壁面に貼り付けられ、金属腐食因子を検知する腐食センサと、貼り付けられた腐食センサを包むように孔内に充填され、鉄筋コンクリートの外部から腐食センサへの金属腐食因子の侵入を阻止する充填樹脂材とを備える。
【0008】
上記金属腐食因子検知ユニットは、貼り付けられた腐食センサから間隙をあけて孔内に設けられ且つ無機系材料から形成される埋戻体をさらに含み、充填樹脂材は、埋戻体と孔の壁面との間に充填されてよい。
上記金属腐食因子検知ユニットは、孔の壁面と腐食センサとの間に介在し且つ腐食センサを上記壁面に貼り付ける薄膜状セメントペーストから構成される接着材をさらに備えてよい。
腐食センサは、孔の壁面の周方向に沿って延在するシート状のセンサであり、複数の腐食センサが、孔の深さ方向に並んで設けられてよい。
【0009】
また、本発明に係る金属腐食因子検知方法は、コンクリート内への金属腐食因子の浸透を検知する金属腐食因子検知方法において、鉄筋コンクリートに設けられた孔の壁面に、金属腐食因子を検知する腐食センサを貼り付けるステップと、腐食センサが貼り付けられた孔内に液体状態の充填樹脂材を充填し硬化させるステップとを含む。
上記金属腐食因子検知方法は、腐食センサが貼り付けられた孔内に、腐食センサから間隙をあけて無機系材料から形成される埋戻体を設置するステップをさらに含み、充填樹脂材は、埋戻体と孔の壁面との間に位置してよい。
腐食センサを貼り付けるステップでは、薄膜状セメントペーストから構成される接着材を、孔の壁面と腐食センサとの間に介在するように塗布してよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る金属腐食因子検知ユニット及び金属腐食因子検知方法によれば、コンクリート内への金属腐食因子の浸透についての腐食センサによる検知精度を向上することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について添付図面に基づいて説明する。
図1を参照すると、本発明の実施の形態に係る金属腐食因子検知ユニット100は、鉄筋コンクリート構造物1の既設の孔又はコアドリル等によって穿孔した孔2の内部に、設置される。
金属腐食因子検知ユニット100は、孔2の壁面を構成する内周面2aにペースト3によって貼り付けられる複数のシート状の腐食センサ10と、孔2内に挿入される柱状の埋戻体4と、孔2の内周面2aと埋戻体4との間に充填される充填樹脂材5とを含む。
【0013】
図8及び
図9をあわせて参照すると、腐食センサ10は、フレキシブル性が高く且つ電気的な絶縁性を有する樹脂材料から形成されるシート状の基材13と、基材13に一体化された検知部11と、検知部11から延びる配線等からなる2つの接続部12とを含む。
検知部11は、鉄箔材等の導電性を有する金属箔材を基材13の検知面13a上にパターン形成したものである線状材11aと、カソード部11bとにより構成される。
【0014】
線状材11aのパターン形状は、細長の検知面13aの長手方向に対して多数回横断する連続したS字形状、つまりつづら折り状の形状を呈するつづら折り部位11a1と、つづら折り部位11a1に隣り合いつつ検知面13aの長手方向に沿って延在する直線部位11a2とによって、構成されている。しかしながら、線状材11aの形状は、つづら折り状の形状に限定されるものでなく、いかなる形状であってもよい。
線状材11aは、例えば、圧延して作製され検知面13a上に配置された鉄箔材上に、線状材11aのパターン形状となるようにレジスト膜を形成したのち、ケミカルエッチングを行うことによって作製することができる。なお、鉄箔材等の金属箔材を所要の線状材として形成できれば、上記の手法に限定されない。
【0015】
カソード部11bは、導電性を有する金属から形成され、細長いシート状の形状を有している。カソード部11bは、線状材11aの直線部位11a2の上面に薄膜状に形成されている。カソード部11bの薄膜は、金属スパッタや金属箔材の貼付、電解メッキ、無電解メッキ、金属ペースト等を用いて直線部位11a2の直上に施工され、線状材11aと共に検知面13a上で露出する。
あるいは、カソード部11bは、検知面13a上に直接的に薄膜状に形成され、線状材11aに電気的に接続されるように構成されてもよい。薄膜状のカソード部11bの形成手法は、所定の形状が形成できれば上記の方法に限定されない。
【0016】
線状材11aのつづら折り部位11a1は、2つの接続部12の一方と電気的に接続されている。
線状材11aの直線部位11a2は、カソード部11bに電気的に接続されている。さらに、カソード部11bは、2つの接続部12の他方と電気的に接続されている。
【0017】
金属腐食因子との反応などにより露出する線状材11aに変状が発生する場合に、線状材11aの変状を電気化学的に促進するために、線状材11aとカソード部11bとは、異種金属から形成されることが好ましい。例えば、線状材11aが鉄から形成される場合、カソード部11bは、金属電位として鉄よりも貴な電位を有する銅、金、白金、チタン等の金属から形成されることが好ましく、カソード部11bにスパッタ処理等により貴金属の被覆が施されてもよい。
【0018】
図1及び
図8をあわせて参照すると、腐食センサ10は、検知部11及び検知面13aを孔2の内周面2aに対面させるようにして、基材13を内周面2aの周方向に沿わせるように内周面2a上に配置される。基材13は、内周面2aの設置深さにおいて、内周面2aの全周を囲んでも囲まなくてもよい。複数の腐食センサ10が、孔2の軸方向に沿って互いに等間隔をあけて配置される。各腐食センサ10の接続部12は、内周面2aと埋戻体4との間を通って孔2の外部に引き出される。また、接続部12は、直接外部に引き出されなくとも、電気的に接続されたリード線を用いて外部に引き出されてもよい。
【0019】
ペースト3は、腐食センサ10の基材13の検知面13aに塗られ、検知部11及び基材13を孔2の内周面2aに貼り付ける。そして、ペースト3は、露出する検知部11の線状材11a及びカソード部11bと孔2の内周面2aとの間に介在する。
ペースト3は、接着性を有し、且つ固化後に塩化物イオン等の金属腐食因子を浸透させて通過させやすいポーラス状の性状を有する材料から形成される。さらに、ペースト3は、接触する線状材11a及びカソード部11bへ酸化等の変状を与えないように、アルカリ性であることが好ましい。
【0020】
ペースト3として、アルカリ性であり固化後にポーラス状となるセメントペーストを使用することができる。セメントペーストを使用する場合、鉄筋コンクリート構造物1のコンクリートよりも高い水セメント比とし、例えば、60%以上の水セメント比とされる。これにより、腐食センサ10の基材13に塗られるセメントペーストが、鉄筋コンクリート構造物1のコンクリートよりもポーラスな構造を有することができ、鉄筋コンクリート構造物1のコンクリートからの金属腐食因子の通過を妨げずに腐食センサ10の反応性を確保することができる。使用するセメント材料として、普通セメントを使用しても速硬性のジェットセメントを使用してもよく、セメントペーストの配合及びセメント材料を適宜設計することによって、セメントペーストを、塩化物イオン等の金属腐食因子を浸透させて通過させやすい性状とすることができる。
ペースト3を介して腐食センサ10の検知部11及び基材13が孔2の内周面2aに対して空隙なく貼り付けられればよいため、孔2は、正確な円以外の断面形状を有していてもよい。
【0021】
埋戻体4は、充填樹脂材5を介して鉄筋コンクリート構造物1と同様の挙動をする無機系の材料から形成され、好ましくはコンクリート又はモルタルから形成されている。無機系の材料は、温度による体積の変化率がコンクリートに近い。埋戻体4がコンクリート又はモルタルから形成される場合、水セメント比が高くなると耐久性が低下するため、埋戻体4の水セメント比は、鉄筋コンクリート構造物1のコンクリートの水セメント比よりも低くされる。
埋戻体4は、その円筒状の側面4aと各腐食センサ10との間に間隙を形成するようにして、孔2内に挿入されている。本実施の形態では、埋戻体4は、円柱形状を有しているが、側面4aと各腐食センサ10との間に間隙を形成することができれば、その形状を問わない。
また、埋戻体4は、埋戻体4及び充填樹脂材5によって充填された孔2に強度が必要とされる場合、鉄筋コンクリート構造物1のコンクリートよりも高い強度を有するように配合されたコンクリート又はモルタルから形成される。
【0022】
充填樹脂材5は、液体状態で、孔2の内周面2aと埋戻体4の側面4aとの間の円筒状の空隙部2c内に充填される。充填樹脂材5は、液体状態での低い粘性と、硬化する過程での高い脱気性とを有し、さらに、塩化物イオン等の金属腐食因子の遮断性と接着性とを有する樹脂材料から形成される。上記樹脂材料は、腐食センサ10同士の間での電気的な導通を防ぐために、電気的な絶縁性を有することが好ましい。さらに、上記樹脂材料は、外部からの腐食センサ10への物質の侵入を防ぐために、硬化後に気密性を有することが好ましい。さらにまた、上記樹脂材料は、硬化後に充填樹脂材5と孔2の内周面2a及び埋戻体4と間での空隙の発生を確実に防ぐために、硬化後の体積減少率が低いことが好ましい。上述のような樹脂材料として、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂等を使用することができる。上記樹脂の特性として、とくに粘度5000mPa・s以下のものが好ましく、さらには粘度2000mPa・sの以下のものがより好ましい。粘度が5000mPa・sより高くなると、樹脂の硬化前の流体の状態で気泡を巻き込みやすくなるため好ましくない。樹脂が気泡を巻き込み、気泡が鉄筋コンクリート構造物1のコンクリートとの境界に留まった場合には、樹脂と境界面との付着性能が低下し、遮塩性が低下する。また、上記樹脂の特性として、ISO62:1999による吸水率において、1.5%以下となることが好ましい。吸水率が1.5%よりも高くなると、樹脂の寸法安定性や遮水性が低下するため好ましくない。
【0023】
次に、金属腐食因子検知ユニット100を、鉄筋コンクリート構造物1に穿孔した孔2内に設置する方法を説明する。
まず、
図2の手順Aに示すように、鉄筋コンクリート構造物1に、検査用の孔2をコアドリルを用いて穿孔する。孔2の寸法は、鉄筋コンクリート構造物1の粗骨材最大寸法よりも大きくすることが好適であり、例えば、粗骨材最大寸法が25mmである場合、孔2の寸法を、直径50mm×深さ100mmとすることができる。
そして、孔2からコンクリートコアを採取後、腐食センサ10の接着性を向上させるために、孔2内の清掃を行う。孔2内のゴミ、切削粉などは、吸引等によって除去し、孔2内が濡れている場合は、乾燥を行う。
【0024】
次いで、
図3の手順Bに示すように、腐食センサ10を設置する位置を決めるために、孔2の内周面2aに、周方向に沿ったマーキング6を施す。例えば、本実施の形態では、孔2に深さ方向に等間隔に4段にわたって、ケガキ等によってマーキング6を施す。本実施の形態では、鉄筋コンクリート構造物1の表面1aからの鉄筋の位置を80mmとし、表面1aから深さ方向で20mm、40mm、60mm及び80mmの4つの位置に、表面1aと平行なマーキング6を施している。
【0025】
その後、
図4の手順Cに示すように、本実施の形態ではセメントペーストとするペースト3を用いて、4つの腐食センサ10をそれぞれ、4つのマーキング6に沿って孔2の内周面2aに貼り付ける。このとき、腐食センサ10の検知部11を覆うようにペースト3を塗り、検知部11を内周面2aに対面させ且つマーキング6に沿って表面1aと平行に延在させるように、腐食センサ10を貼り付ける。ペースト3は、内周面2aと検知部11とを互いに接着するものであるため、検知部11の全体にわたって途切れなく、内周面2aと検知部11との間に介在することが、好ましい。さらに、ペースト3が内周面2aから検知部11への塩化物イオン等の金属腐食因子への浸透を妨げないようにするために、ペースト3の厚さは、薄いほど好ましい。例えば、ペースト3の厚さは、3mm以下であることが好ましく、2mm以下であればより好ましい。しかしながら、ペースト3の厚さが0.1mm以下の場合は、内周面2a上に残留する切削粉、内周面2a上に現れる鉄筋コンクリート構造物1の細骨材による凹凸等が、内周面2aと検知部11との間でのペースト3の介在及び接着を途切れさすため、好ましくない。
【0026】
次いで、
図5の手順Dに示すように、孔2内の腐食センサ10の内側に、円柱状の埋戻体4を挿入し設置する。本実施の形態では、埋戻体4は、鉄筋コンクリート構造物1のコンクリートよりも高強度のモルタルから形成されている。埋戻体4の直径は、孔2に設置された腐食センサ10の内径よりも小さくなるように設定され、埋戻体4の長さは、孔2の深さとほぼ同等となるように設定されている。
埋戻体4は、埋戻体4の平坦な底面4bにペースト3が塗られ、この底面4bを孔2の平坦な底面2bに対面させるように、孔2内に設置される。このとき、埋戻体4の側面4aと全ての腐食センサ10との間に空隙が形成されるように、埋戻体4が位置決めされる。
【0027】
その後、
図6の手順Eに示すように、孔2内における内周面2aと埋戻体4の側面4aとの間の空隙部2c内に、液状の樹脂材料からなる充填樹脂材5を、表面1aにまで充填する。この際、腐食センサ10の
図8に示す接続部12は、空隙部2cから孔2の外部に引き出されている。上述のような接続部12の周囲は充填樹脂材5によって囲まれることになるため、接続部12と充填樹脂材5との界面を通じて、鉄筋コンクリート構造物1の外部から金属腐食因子等の異物が侵入することが防がれる。接続部12にリード線が接続されて充填樹脂材5内を通る場合でも、リード線と充填樹脂材5との界面を通じて異物が侵入することが防がれる。
【0028】
孔2が鉛直下方以外の方向に延在する場合、
図7の手順Fに示すように、表面1aへの充填樹脂材5の流出を防止するために、空隙部2cの上部を塞ぐ封止体7を表面1aに貼り付けてもよい。この場合、封止体7にあけた穴から空隙部2cに充填樹脂材5を注入する。封止体7は、テープ、板材等から形成される。
埋戻体4を配置することによって小さい容積及び径方向の幅で形成される空隙部2c内に対して、充填樹脂材5を充填するため、充填樹脂材5の硬化後の収縮体積を小さくすることができる。
【0029】
充填樹脂材5の硬化後、封止体7が取り外され、金属腐食因子検知ユニット100の設置が完了する。
表面1aから突出する腐食センサ10の接続部12は、図示しない計測器に電気的に接続される。計測器は、電気信号を送ることによって、腐食センサ10の検知部11の電気的特性の変化を検出する。
【0030】
図1及び
図8をあわせて参照すると、金属腐食因子検知ユニット100の設置完了後、鉄筋コンクリート構造物1に既存する塩化物イオン等の金属腐食因子が、ペースト3に浸透して通過し腐食センサ10の検知部11に到達する。到達した金属腐食因子は、検知部11の線状材11aを腐食させる、つまり線状材11aの電気化学的特性を変化させる。線状材11aの電気化学的特性の変化は、腐食センサ10につながれた計測器によって検出される。
鉄筋コンクリート構造物1には、表面1aから塩化物等の金属腐食因子が浸透し、時間の経過と共に金属腐食因子が浸透している深さが大きくなる。4つの腐食センサ10の検知部11は、金属腐食因子の浸透深さの増加に合わせて、表面1a側のものから深さ方向に向かって順次電気化学的特性を変化させる。従って、電気化学的特性を変化させた腐食センサ10を検出することによって、塩化物の浸透深さを検出することができる。さらには、表面1aからの線状材11aの設置深さ(位置)と、塩化物の浸透を検出した時間(時期)とから、今後の鉄筋コンクリート構造物1のコンクリートへの塩化物の浸透を予測することも可能となる。
【0031】
上述で説明したように、本発明の実施の形態に係る金属腐食因子検知ユニット100は、鉄筋コンクリート構造物1に設けられた孔2の内周面2aに貼り付けられ且つ金属腐食因子を検知する腐食センサ10と、貼り付けられた腐食センサ10を包むように孔2内に充填され且つ鉄筋コンクリート構造物1の外部から腐食センサ10への金属腐食因子の侵入を阻止する充填樹脂材5とを備える。
【0032】
上述の構成において、孔2の内周面2aに貼り付けられた腐食センサ10では、腐食センサ10における内周面2aに対面する部分を除き、充填樹脂材5によって腐食センサ10の周囲が包まれ、上記周囲からの金属腐食因子の浸透が阻止される。腐食センサ10は、内周面2aを介して鉄筋コンクリート構造物1から浸透する金属腐食因子を検知する。よって、金属腐食因子検知ユニット100は、鉄筋コンクリート構造物1内への金属腐食因子の浸透の検知精度を向上することができる。
【0033】
また、金属腐食因子検知ユニット100は、貼り付けられた腐食センサ10から間隙をあけて孔2内に設けられ且つ無機系材料から形成される埋戻体4をさらに含み、充填樹脂材5は、埋戻体4と孔2の内周面2aとの間に充填される。上述の構成によって、充填樹脂材5の容積と充填樹脂材5における孔2の径方向の厚さとを低減することができるため、硬化後の充填樹脂材5の収縮体積を低減することができる。よって、充填樹脂材5と内周面2aとの間での空隙の形成の防止を、より確実にすることができる。
さらに、充填樹脂材5と埋戻体4とによって空隙無く充填されている孔2は、周囲の鉄筋コンクリート構造物1のコンクリートと同等以上の強度を有するように且つ密に充填されていることになる。このため、孔2が、鉄筋コンクリート構造物1における強度及び耐候性の弱点部となることがない。
【0034】
また、金属腐食因子検知ユニット100は、孔2の内周面2aと腐食センサ10との間に介在し且つ腐食センサ10を内周面2aに貼り付ける薄膜状セメントペーストから構成されるペースト3をさらに備える。上述の構成において、ペースト3は、内周面2aと腐食センサ10との間への充填樹脂材5の侵入を防ぎ且つこの間を途切れなく埋める。さらに、薄膜状セメントペーストは、鉄筋コンクリート構造物1内の金属腐食因子を浸透させて通過させ、腐食センサ10に支障なく到達させることができる。よって、腐食センサ10を内周面2aに確実に貼り付けると共に、鉄筋コンクリート構造物1内の金属腐食因子を腐食センサ10に確実に到達させることができる。
【0035】
また、金属腐食因子検知ユニット100において、腐食センサ10は、孔2の内周面2aの周方向に沿って延在するシート状のセンサであり、複数の腐食センサ10が、孔2の深さ方向に並んで設けられる。内周面2aの周方向に沿って延在するシート状の腐食センサ10は、内周面2aの形状にならって変形して貼り付けられることができ、径方向の多方向からの金属腐食因子の浸透を検知することができる。孔2の深さ方向に並んで設けられた複数の腐食センサ10は、鉄筋コンクリート構造物1の深さ方向への金属腐食因子の浸透深さを検知することができる。
【0036】
実施の形態に係る金属腐食因子検知ユニット100を孔2に設置する際、埋戻体4を孔2に設置した後、充填樹脂材5を充填していたが、これに限定されない。充填樹脂材5を注入した孔2内に、埋戻体4を挿入し設置してもよい。
実施の形態に係る金属腐食因子検知ユニット100では、線状材11a及びカソード部11bから構成される検知部11を含む腐食センサ10が用いられていたが、これに限定されない。金属腐食因子と接触することで反応して変状する検知部を有するものであれば、いかなる腐食センサが用いられてもよい。
実施の形態に係る金属腐食因子検知ユニット100では、腐食センサ10の接続部12を孔2の外に引き出していたが、これに限定されない。埋戻体4にRFIDタグを取り付けて接続部12をRFIDタグに接続し、接続部12及びRFIDタグを孔2内に埋め込んでもよい。
【0037】
また、実施の形態の金属腐食因子検知ユニット100における充填樹脂材5の塩化物イオンの遮断効果を検証した結果を示す。
図10を参照すると、充填樹脂材5の塩化物イオンの遮断効果を検証するための供試体20の供試体状況図(A)と、供試体20への塩化物イオンの浸透分布の分析結果図(B)とが、並べて示されている。
【0038】
供試体状況図(A)に示すように、供試体20は、直径28mm×長さ70mmの円柱状の形状を有し、モルタルから形成されている。モルタルの配合については、水セメント比を55%とし、配合材料の含有量を、水244kg/m
3、普通ポルトランドセメント443kg/m
3、細骨材としての砂1503kg/m
3とした。
上記供試体20を、内径55mm×深さ70mmの円筒状容器21内の中央に配置した。
【0039】
さらに、供試体20の配置後、円筒状容器21内の供試体20の周囲に充填樹脂材5を充填した。充填樹脂材5の充填高さは、円筒状容器21の底部から50mmとした。充填樹脂材5には、エポキシ樹脂を使用した。エポキシ樹脂は、主材としてのビスフェノールAエポキシ樹脂(比重1.16)と、硬化剤としての変性脂環式ポリアミン(比重1.00)とを混合して作製したものである。上記エポキシ樹脂は、混合物粘度500mPa・s、吸水率0.2%、離型可能時間26〜36時間とする特性を有している。
充填樹脂材5の硬化後、充填樹脂材5の上面5aから高水圧下において塩水を圧入した。なお、塩水の圧入は、圧力を20MPaとし、圧入時間を20時間として、10%NaCl溶液とする塩水を用いて実施した。塩水の圧入完了後、供試体20への塩化物イオンの浸透分布をEPMAによって面分析した。EPMAによる分析結果が、分析結果図(B)に示されている。
【0040】
分析結果図(B)では、供試体20の色が白くなるほど、塩化物イオンの濃度が高くなる。
供試体20の底部から上方の50mm付近よりも上方の高さの領域の外縁付近、つまり外部に供試体20が露出している領域付近で特に白くなっている。
供試体20の底部から上方の50mm付近までの領域では、高さが低くなるに従い供試体20が黒くなるが、いずれの高さ位置においても、供試体20の径方向である幅方向では供試体20の色が比較的均等となっている。つまり、供試体20の幅方向では、塩化物イオンの濃度が比較的均等となっており、供試体20と充填樹脂材5との界面からの塩水の浸入が阻止されていることがわかる。
【0041】
よって、充填樹脂材5は、コンクリートと樹脂との界面においても優秀な塩化物イオンの遮断能力を有している。
なお、充填樹脂材5として、上述の特性のエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂等を使用した場合でも、充填樹脂材5とコンクリート又はモルタルとの界面における優秀な塩化物イオンの遮断効果が得られる。