特許第6600511号(P6600511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6600511直流電鉄き電回路の故障点標定システム及び故障点標定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6600511
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】直流電鉄き電回路の故障点標定システム及び故障点標定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/08 20060101AFI20191021BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   G01R31/08
   H02J13/00 301A
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-172060(P2015-172060)
(22)【出願日】2015年9月1日
(65)【公開番号】特開2017-49093(P2017-49093A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2018年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000215110
【氏名又は名称】津田電気計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 晃
(72)【発明者】
【氏名】森野 昇平
【審査官】 島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−196911(JP,A)
【文献】 特開昭61−196712(JP,A)
【文献】 特開昭51−044568(JP,A)
【文献】 米国特許第04559491(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/08
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する電車に、少なくとも2つの変電所から直流電圧を供給する直流電鉄き電回路における故障点標定システムであって、
前記各変電所は、
送出電圧を測定する電圧測定器と、
送出電流を測定する電流測定器と、
時刻を計時し時刻情報を計時する時計装置と、
前記送出電圧、前記送出電流及び前記時刻情報をそれぞれ周期的に取得して時系列情報として保存すると共に、故障が発生した場合に保存された前記時系列情報を送信する情報処理装置と、
を備え、前記電流測定器は応答速度が10ms以下の測定器であり、前記電圧測定器は前記電流測定器よりも応答速度の遅い測定器であり、
前記情報処理装置から前記各変電所における前記時系列情報を受信し、該時系列情報に含まれる前記時刻情報に対応した各変電所の前記送出電圧及び前記送出電流の中から所定の時間幅における前記送出電圧及び前記送出電流を抽出し、抽出した各変電所の前記送出電圧及び前記送出電流に平均化処理を行い、平均化処理された各変電所の前記送出電圧及び前記送出電流を、標定式
【数1】
Lx:一方の変電所から故障点までの距離
L:変電所間距離
E’a:一方の変電所の送出電圧(変電所母線〜レール間電圧
E’b:他方の変電所の送出電圧(変電所母線〜レール間電圧
ia:一方の変電所の送出電流(故障電流)
ib:他方の変電所の送出電流(故障電流)
l:単位長さ(km)あたりの線路インダクタンス
la:一方の変電所の内部インダクタンス
lb:他方の変電所の内部インダクタンス
に入れて計算し、故障点を標定して結果を表示する故障点標定装置と
を備えることを特徴とする故障点標定システム。
【請求項2】
走行する電車に、少なくとも2つの変電所から直流電圧を供給する直流電鉄き電回路における故障点標定方法であって、
応答速度が10ms以下の電流測定器と前記電流測定器よりも応答速度の遅い電圧測定器を用いて、各変電所の母線〜レール間電圧、母線〜レール間電流を、前記各変電所の送出電圧、送出電流として、時刻情報とともに、それぞれ周期的に取得して時系列情報として保存するステップと、
故障が発生した場合に前記時刻情報に対応して保存された各変電所の前記送出電圧及び前記送出電流の中から所定の時間幅に含まれる前記送出電圧及び前記送出電流を抽出するステップと、
抽出された各変電所の前記送出電圧及び前記送出電流に平均化処理を行うステップと、
平均化処理された各変電所の前記送出電圧及び前記送出電流を、標定式
【数2】
Lx:一方の変電所から故障点までの距離
L:変電所間距離
E’a:一方の変電所の送出電圧(変電所母線〜レール間電圧
E’b:他方の変電所の送出電圧(変電所母線〜レール間電圧
ia:一方の変電所の送出電流(故障電流)
ib:他方の変電所の送出電流(故障電流)
l:単位長さ(km)あたりの線路インダクタンス
la:一方の変電所の内部インダクタンス
lb:他方の変電所の内部インダクタンス
に入れて計算し、故障点を標定するステップと
を含むことを特徴とする故障点標定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電鉄き電回路の故障点標定システム及び故障点標定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの変電所で挟まれる区間を走行する電車に直流電圧を供給する直流電鉄き電回路において、故障等が生じた場合には、遮断器が作動して当該区間の直流電圧の供給を停止する技術がある。
【0003】
このような、故障区間への直流電圧の供給停止処理において、故障発生から復旧までの時間を短縮するために、故障等の故障点を演算により標定する故障点標定方法(或いは、故障点標定システム)として、従来より種々の方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、2つの変電所の送出電圧の値が異なる場合であっても精度良く故障点の標定を行うことができる直流電鉄き電回路の故障点標定システム及び故障点標定方法が開示されている。
【0005】
特許文献1に記載された故障点標定システムにおいては、各種定数を、
Lx:一方の変電所から故障点までの距離
L:変電所間距離
Ea:一方の変電所の送出電圧(整流子PN間電圧)
Eb:他方の変電所の送出電圧(整流子PN間電圧)
ia:一方の変電所の送出電流(故障電流)
ib:他方の変電所の送出電流(故障電流)
l:単位長さ(km)あたりの線路インダクタンス
la:一方の変電所の内部インダクタンス
lb:他方の変電所の内部インダクタンス
とした場合、以下に示す標定式により、一方の変電所から故障点までの距離Lxを標定することができる。
【0006】
【数1】
【0007】
但し、実際に変電所で測定される電圧は、変電所母線〜レール間の電圧Ea’、Eb’であり、電圧Ea’、Eb’と、変電所の整流子PN間電圧Ea、Ebとの関係は、
【0008】
【数2】

で表される。[数1]の標定式を、このように実際に測定される変電所母線〜レール間の電圧Ea’、Eb’を用いて表した標定式は、
【0009】
【数3】

となる。
そして、[数3]の標定式を用いて標定することにより、[数1]の標定式を用いる場合と比較して標定誤差を改善することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2014−196911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、直流電鉄き電回路における故障電流は10ms程度の短時間で急激に立ち上がるため、変電内部インダクタンスに生じる電圧降下は大きくなる。このような電圧降下に起因して、変電所の母線電圧が大きく変動するものの、一般に、直流変電所に設置されている電圧測定器は応答速度が遅い(約500ms)ため、このような急峻な電圧降下に追従して測定することできない。
【0012】
このように、応答速度の遅い電圧測定器により測定された電圧降下に追従できていない電圧値を、[数3]の標定式の変電所送電電圧(E’aやE’b)に代入して標定を行った場合、標定される故障点までの距離Lxに大きな誤差が含まれてしまうといった問題点があった。
【0013】
勿論、従来の応答速度の遅い電圧測定器を、応答速度が早い電圧測定器に置き換えれば、急峻な電圧降下に追従した電圧値を測定できる。このため、当該測定値を、[数3]の標定式の変電所送電電圧(E’aやE’b)に代入して標定を行えば、精度良く故障点の標定を行うことができるものの、応答速度が早い電圧測定器は価格が高価であるため、各変電所にこのような電圧測定器を設置することにより、コストアップを招いてしまうといった問題点があった。
【0014】
本発明の課題は、コストアップを招くことなく、より精度良く故障点の標定を行うことができる直流電鉄き電回路の故障点標定システム及び故障点標定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を達成するため、この発明は、
走行する電車に、少なくとも2つの変電所から直流電圧を供給する直流電鉄き電回路における故障点標定システムであって、
前記各変電所は、
送出電圧を測定する電圧測定器と、
送出電流を測定する電流測定器と、
時刻を計時し時刻情報を出力可能な時計装置と、
前記送出電圧、前記送出電流及び前記時刻情報をそれぞれ周期的に取得して時系列情報として保存すると共に、故障が発生した場合に保存された前記時系列情報を送信する情報処理装置と
を備え、
前記情報処理装置から前記各変電所における前記時系列情報を受信し、該時系列情報に含まれる前記時刻情報に対応した各変電所の前記送出電圧及び前記送出電流の中から所定の時間幅における前記送出電圧及び前記送出電流を抽出し、抽出した各変電所の前記送出電圧及び前記送出電流に平均化処理を行い、平均化処理された各変電所の前記送出電圧及び前記送出電流を、標定式
【数4】

Lx:一方の変電所から故障点までの距離
L:変電所間距離
E’a:一方の変電所の送出電圧(変電所母線〜レール間)
E’b:他方の変電所の送出電圧(変電所母線〜レール間)
ia:一方の変電所の送出電流(故障電流)
ib:他方の変電所の送出電流(故障電流)
l:単位長さ(km)あたりの線路インダクタンス
la:一方の変電所の内部インダクタンス
lb:他方の変電所の内部インダクタンス
に入れて計算し、故障点を標定して結果を表示する故障点標定装置と
を備えるようにしたものである。
【0016】
故障点標定システムに使用している電圧測定器の応答速度が、電流測定器に比べて遅いものであったとしても、応答速度の遅い電圧測定器により測定された送出電圧を、測定された送出電流により補正する上記標定式に適用することにより、応答速度が早い電圧測定器への置き換えが不要になり、コストアップを招くことなく、より精度良く故障点の標定を行うことができる。
【0017】
また、本出願の他の発明は、
走行する電車に、少なくとも2つの変電所から直流電圧を供給する直流電鉄き電回路における故障点標定方法であって、
前記各変電所の送出電圧、送出電流及び時刻情報をそれぞれ周期的に取得して時系列情報として保存するステップと、
故障が発生した場合に前記時刻情報に対応して保存された各変電所の前記送出電圧及び前記送出電流の中から所定の時間幅に含まれる前記送出電圧及び前記送出電流を抽出するステップと、
抽出された各変電所の前記送出電圧及び前記送出電流に平均化処理を行うステップと、
平均化処理された各変電所の前記送出電圧及び前記送出電流を、標定式
【数5】

Lx:一方の変電所から故障点までの距離
L:変電所間距離
E’a:一方の変電所の送出電圧(変電所母線〜レール間)
E’b:他方の変電所の送出電圧(変電所母線〜レール間)
ia:一方の変電所の送出電流(故障電流)
ib:他方の変電所の送出電流(故障電流)
l:単位長さ(km)あたりの線路インダクタンス
la:一方の変電所の内部インダクタンス
lb:他方の変電所の内部インダクタンス
に入れて計算し、故障点を標定するステップと
を含むようにしたものである。
【0018】
使用している電圧測定器の応答速度が、電流測定器に比べて遅いものであったとしても、応答速度の遅い電圧測定器により測定された送出電圧を、測定された送出電流により補正する上記標定式に適用することにより、応答速度が早い電圧測定器への置き換えが不要になり、コストアップを招くことなく、より精度良く故障点の標定を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、2つの変電所における送出電圧、送出電流及び時刻情報を取得し、故障が発生した場合に、時刻情報に基づき送出電圧及び送出電流の中から所定の時間幅に含まれる送出電圧及び送出電流を抽出し、抽出した送出電圧及び送出電流に平均化処理を行い、平均化処理した前記送出電圧及び前記送出電流に基づき、応答速度の遅い電圧測定器により測定された送出電圧を、測定された送出電流により補正する標定式に適用することにより、応答速度が早い電圧測定器への置き換えが不要になり、コストアップを招くことなく、より精度良く故障点の標定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施の形態に係る直流電鉄き電回路の故障点標定システムの構成の一例を示す概略構成図である。
図2】本実施の形態に係る直流電鉄き電回路の情報処理装置等の構成の一例を示すブロック図である。
図3】本実施の形態に係る直流電鉄き電回路の故障点標定装置の構成の一例を示すブロック図である。
図4】故障点標定システムの動作の一例を示すフローチャートである。
図5】送出電流の時間変動の一例を示す説明図である。
図6】故障が発生した場合の直流電鉄き電回路の等価回路を示す回路図である。
図7】送出電圧、送出電流及び測定電圧の波形の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[1.構成の説明]
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態である直流電鉄き電回路の故障点標定システム及び故障点標定方法を詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものでない。
【0022】
(実施形態)
図1は、直流電鉄き電回路の故障点標定システム100の構成例を示す概略構成図である。
図1に示す2つの変電所50及び51で挟まれる区間を走行する電車1に直流電圧を供給する直流電鉄き電回路において、電車1は、電車1の集電装置であるパンタグラフにより電車線2(以下、架線と呼ぶ)から直流電圧の供給を受けて、当該直流電圧により電車1のモータ(図示せず)を回転させることによって、帰線3(以下、レールと呼ぶ)上を走行する。また、整流器4及び5は、変電所50及び51で受電した交流を直流に変換して架線2とレール3との間に供給する。さらに、変電所50及び51には、故障等が生じた場合に故障発生区間の架線への電圧の供給を遮断する遮断器61及び62がそれぞれ設けられている。
【0023】
整流器4における送出電圧及び送出電流(故障等が生じた場合は故障電流)は、変電所50及び51に設置された測定器6及び7によってそれぞれ測定され、測定されたデータは、変電所50に設置された情報処理装置52及び53によって取得されて記憶装置に保存される。この時、情報処理装置52及び53は、送出電圧や送出電流のデータを、変電所50及び51に設置されたGPS(Global Positioning System)時計装置8及び9において計時される時刻情報と共に逐次保存する。
【0024】
また、本実施例のシステムにおいては、遠方制御装置12が設けられていると共に、情報処理装置52及び53にデータを送信する通信手段10及び11が設けられ、遠方制御装置12と情報処理装置52及び53とは、伝送線によって相互にデータの送受信が可能に接続されている。遠方制御装置12は、変電所を遠方から監視するために設けられている制御所54に設置され、遠方制御装置12からの指令等により、被制御側である変電所50及び51に設置された情報処理装置52及び53の制御を行うように構成されている。
【0025】
図2は、変電所50に設置された情報処理装置52等の機能をブロック図として表したものである。図2に示すように、変電所50には、電流や電圧の測定器6、GPS時計装置8及び情報処理装置52が設置されており、情報処理装置52は、制御手段15、入力手段16、記憶手段17及び通信手段10などを有する。なお、変電所51に設置された情報処理装置53等については、図2と同一の構成であるため説明は省略する。
【0026】
制御手段15は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を有しており、RAMの作業領域に展開されたROMや記憶手段17に記憶されたプログラムデータとCPUとの協働により各手段を統括制御する。
【0027】
入力手段16は、測定器6である電流測定器13、電圧測定器14で測定された送出電流(故障電流を含む)、送出電圧、及び、GPS時計装置8で計時された時刻情報にそれぞれ対応した信号を取得してディジタル信号に変換して、制御手段15へ入力する。
具体的には、入力手段16は、入力バッファや、入力バッファが取得した信号(アナログ信号)をディジタル信号に変換するA/D変換回路等により構成される。なお、入力手段16は、電流測定器13、電圧測定器14及びGPS時計装置8から直接ディジタルデータとして各種データを取得するものであっても構わない。
【0028】
記憶手段17は、プログラムデータや各種設定データ等のデータを制御手段15から読出し書込み可能に記憶する。例えば、記憶手段17は、HDD(Hard Disk Drive)、半導体メモリ等であって、電圧測定器等から取り込んだ整流器4における送出電圧、送出電流及び時刻情報を逐次保存する。
【0029】
制御手段15は、電圧測定器等から取り込んだ変電所母線〜レール間の送出電圧、送出電流に基づいて故障等の発生を検知する機能を備えており、故障等の発生を検知した場合、通信手段10によって、伝送線あるいはネットワーク等を介して記憶手段17に保存されている送出電圧、送出電流及び時刻情報等のデータを制御所54に設置された遠方制御装置12へ送信する。通信手段10は無線通信手段であってもよい。
【0030】
図3は、制御所54に設置された故障点標定装置55の機能をブロック図として表したものである。図3に示すように、故障点標定装置55は、制御手段19、通信手段20、記憶手段21及び表示手段22を有する。
【0031】
制御手段19は、CPU、ROM、RAM等を有しており、RAMの作業領域に展開されたROMや記憶手段21に記憶されたプログラムデータとCPUとの協働により各手段を統括制御する。
【0032】
通信手段20は、変電所50又は51から送信されて来る送出電圧、送出電流及び時刻情報等のデータを受信して制御手段19に入力する。
【0033】
記憶手段21は、プログラムデータや各種設定データ等のデータを制御手段19から読出し書込み可能な状態に記憶する。例えば、記憶手段21は、HDD、半導体メモリ等であって、2つの変電所の間隔、各変電所内部のインダクタンス値、架線の単位長さ(km)当たりの抵抗値及びインダクタンス値等の各種情報や、故障点標定のための標定式等が予め保存されている。プログラムデータには、故障点を標定するための演算プログラム(標定式)が含まれる。また、記憶手段21には、予め測定もしくは演算された各変電所の送電回路の内部インダクタンスの値や変電所間距離L、標定式に使用する係数等も記憶されている。
【0034】
表示手段22は、制御手段19から出力された表示制御信号に基づいた情報や画像を表示画面に表示するもので、例えば、CRT(Cathode Ray Tube)やLCD(Liquid Crystal Display)等で構成される。有機EL(Electro Luminescence)素子を用いたFPD(Flat Panel Display)であってもよい。
【0035】
[2.動作の説明]
ここで、本発明の実施形態における故障点標定システム100を構成する情報処理装置52及び故障点標定装置55による故障点標定処理の具体的な手順の説明を図4図5図6及び図7を用いて詳細に行う。図4において、ステップS1からS4までは、変電所の情報処理装置52による処理、ステップS5からS8までは、制御所の故障点標定装置55による処理である。但し、変電所51に設置された情報処理装置53の動作は、変電所50に設置された情報処理装置52の動作と同じであるため重複する説明は省略する。
【0036】
図4のフローチャートに示すように、変電所50に設置された情報処理装置52の制御手段15は、測定器6及び7によってそれぞれ測定される、変電所母線〜レール間の送出電圧及び送出電流を一定周期毎に取得し、同時にGPS時計装置8から取得した時刻情報と共に記憶手段17に逐次保存する(ステップS1)。
【0037】
そして、情報処理装置52の制御手段15は、測定された送出電流の変化に基づいて電鉄き電回路において、故障FAが発生したか否かを判断し(ステップS2)、もし、故障FAが発生していないと判断した場合(ステップS2:No)、ステップS1に戻り、送出電圧、送出電流及び時刻情報のデータの取得及び保存を繰り返し行う。
【0038】
一方、故障FAが発生したと判断した場合(ステップS2:Yes)、情報処理装置52の制御手段15は、送出電圧、送出電流及び時刻情報のデータの取得を中止し(ステップS3)、記憶手段17に保存されている変電所50における送出電圧、送出電流及び時刻情報の履歴データを、通信手段10によって、制御所54へ送信する(ステップS4)。また、変電所51に設置された情報処理装置53の制御手段も、故障FAが発生したことを検出した場合には、記憶手段に保存されている変電所51における送出電圧、送出電流及び時刻情報のデータを、通信手段11によって、制御所54へ送信する。
【0039】
一方、制御所54の通信手段20は変電所50及び51から送信されてきたデータを受信して、故障点標定装置55の制御手段19へ渡す。すると、制御手段19は、受信した変電所50及び51における送出電圧、送出電流及び時刻情報のデータを記憶手段21に記憶すると共に、時刻情報に基づき当該データの中から所定の時間幅に含まれる送出電圧及び送出電流のデータを抽出する(ステップS5)。
【0040】
例えば、図5は送出電流(故障電流)の時間変動の一例を示す説明図であり、図5に示すように、時刻T0で故障FAが発生した場合であっても、送出電流CTは、直ちに流れ出すものではなく、その電流値はゼロであり、その後、送出電流CTの電流値は、遮断器が作動する時刻TDまで順次増加するように変化する。
【0041】
しかし、図5における故障発生時刻T0の付近はデータが乱れることが予想されており、このようなデータを故障点の標定に用いることは適当ではなく、当該不要なデータを除去することが好ましい。
【0042】
そこで、故障点標定装置55の制御手段19は、故障FAが発生した時刻T0直後の不要なデータを使用することなく、図5に示すように、故障発生時刻T0からそれぞれ所定の時間経過後の時刻T1及び時刻T2を予め設定しておき、取得したデータの中から時刻T1と時刻T2との間に含まれるデータを抽出して標定に使用する。
そして、故障点標定装置55の制御手段19は、抽出した送出電圧及び送出電流の平均化処理を行い(ステップS6)、平均化処理した送出電圧及び送出電流を標定式に適用して故障点を標定する(ステップS7)。
【0043】
具体的には、平均化処理としては、抽出された時刻T1〜T2の時間帯に含まれる送出電圧及び送出電流のうち、図5の特定の時間幅T3における送出電圧及び送出電流の測定値を移動平均処理する。
【0044】
抽出された送出電圧及び送出電流にはノイズやリップル等が重畳されており、故障点の標定に誤差が生じてしまうおそれがあるが、このような移動平均処理によって、抽出された送出電圧及び送出電流における循環的や不規則的な変動部分を除去することができ、それにより、故障点の標定を精度良く行うことができる。
【0045】
ここで、故障点の標定式について説明する。図6は故障等が発生した場合の直流電鉄き電回路の等価回路を示す回路図である。図6において、変電所50の送出電圧Eaは、変電所50の内部インダクタンスlaを介して架線2に印加される。同様に、図6において、変電所51の送出電圧Ebは、変電所51の内部インダクタンスlbを介して架線2に印加される。また、送出電流(故障電流)ia及びibが、変電所50及び51からそれぞれ送出される。
【0046】
ここで、変電所50から故障点PTまでの距離を「Lx」、変電所50及び51の間隔を「L」、架線2の単位長さ(km)当たりの抵抗値及びインダクタンス値を「r」及び「l」とした場合、変電所50から故障点PTまでの架線2の抵抗及びインダクタンスは、「rLx」及び「lLx」となり、変電所51から故障点PTまでの架線2の抵抗及びインダクタンスは、「r(L−Lx)」及び「l(L−Lx)」となる。
なお、故障点PTにおいて、架線2は故障点抵抗rg及び故障点アーク電圧eを介してレール3に接続されるとみなすことができる。
【0047】
図7は、送出電圧、送出電流及び測定電圧の波形の一例を示す説明図であり、送出電流(故障電流)CT71は、10ms程度の短時間で急激に立ち上り、一方、送出電圧VT71もまた、変電内部インダクタンスに生じる電圧降下に起因して、変電所の母線電圧に大きく急峻な変動DR71が現れる。
【0048】
一方、測定器6及び7によってそれぞれ実際に測定される送出電圧は、変電所母線〜レール間の送出電圧Ea’、Eb’であり、且つ、従来の応答速度の遅い電圧測定器により測定された送出電圧である。
例えば、図7の測定電圧VT72に示すように、応答速度の遅い電圧測定器により測定されたため、送出電圧VT71で生じている変電所の母線電圧の変動DR71が全く捉えられていない。
【0049】
すなわち、測定器6及び7によってそれぞれ実際に測定される送出電圧Ea’、Eb’は、事故の前後数10ms間において変動は小さく、ほぼ同じ値であると考えられるので、逆に、一定である送出電圧Ea’、Eb’に変動DR71分を付加するような補正する。
【0050】
具体的には、測定された送出電流(故障電流)ia及びibを用いて、変電所の母線電圧の変動DR71分を加味した[数6]を想定して、送出電圧Ea’、Eb’を置換する。
【0051】
【数6】
【0052】
[数6]において、それぞれの第2項(ia及びibの微分項)は、送出電流(故障電流)ia及びibの時間変動に伴う、変電内部インダクタンスla及びlbに生じる電圧降下の寄与分を表している。このため、当該第2項により補正された送出電圧は、変電所の母線電圧の変動DR71分を有することになり、送出電圧VT71の波形に近似させることができる。
【0053】
ここで、[数3]における送出電圧Ea’、Eb’を、[数6]の送出電圧Ea’−la×dia/dt、Eb’−lb×dib/dtで置換すると、下記の標定式となる。
【0054】
【数7】
【0055】
すなわち、[数7]に示す標定式を用いることにより、応答速度の遅い電圧測定器により測定された送出電圧Ea’、Eb’を代入した場合であっても、測定された送出電流(故障電流)ia及びibを用いて、変電所の母線電圧の変動DR71分が加味されるので、標定誤差を抑えることができる。
【0056】
ここで、[表1]は、[数7]に示す標定式を用いた本実施の形態に係る直流電鉄き電回路の故障点標定システムの標定誤差と、従来の故障点標定システムの標定誤差を、シミュレーションによる波形で確認したものである。
【0057】
【表1】
【0058】
[表1]において、実施例は、[数7]の標定式を用いた場合、比較例は、[数3]の標定式を用いた場合である。また、実電圧に追従「あり」は、応答速度が早い電圧測定器により測定された送出電圧Ea’、Eb’(図7における送出電圧VT71に相当)を標定式に代入した場合、実電圧に追従「なし」は、従来の応答速度の遅い電圧測定器により測定された送出電圧Ea’、Eb’(図7における測定電圧VT72に相当)を標定式に代入した場合を示している。
【0059】
[表1]から分かるように、比較例であっても、応答速度が早い電圧測定器により測定された送出電圧Ea’、Eb’(図7における送出電圧VT71に相当)を標定式に代入した場合には、標定誤差が低く抑えられているものの、従来の応答速度の遅い電圧測定器により測定された送出電圧Ea’、Eb’(図7における測定電圧VT72に相当)を標定式に代入した場合には、標定誤差が極めて大きくなってしまう。
【0060】
これに対して、実施例では、従来の応答速度の遅い電圧測定器により測定された送出電圧Ea’、Eb’(図7における測定電圧VT72に相当)を標定式に代入した場合であっても、標定誤差を一桁に抑えることができ、より精度良く故障点の標定を行うことができて、[数7]の標定式の有効性が確認できる。
【0061】
すなわち、従来の応答速度の遅い電圧測定器を、応答速度が早い電圧測定器に置き換えてコストアップを招くことなく、より精度良く故障点の標定を行うことができる。
【0062】
以上のように、本発明によれば、2つの変電所における送出電圧、送出電流及び時刻情報を取得し、故障が発生した場合に、時刻情報に基づき送出電圧及び送出電流の中から所定の時間幅に含まれる送出電圧及び送出電流を抽出し、抽出した送出電圧及び送出電流に平均化処理を行い、平均化処理した前記送出電圧及び前記送出電流に基づき、応答速度の遅い電圧測定器により測定された送出電圧を、測定された送出電流により補正する標定式に適用することにより、応答速度が早い電圧測定器に置き換えが不要になり、コストアップを招くことなく、より精度良く故障点の標定を行うことができる。
【0063】
なお、実施形態の説明においては、故障点標定装置55の表示手段22に故障点の標定結果を表示させる旨説明しているが、単に標定結果を表示させただけでは、作業者や操作者は、表示を見落とす可能性も否定できないので、警報(警報表示や発音による警報)と共に故障点の標定結果を表示させても構わない。この場合には、作業者や操作者は当該警報によって注意喚起されるので、表示手段の表示内容を直ちに確認でき、標定結果の見落としを防止することができる。
【0064】
また、実施形態では、変電所の遮断器が作動するような故障が発生した場合について説明したが、本発明は、遮断器が作動するまでに至らない比較的急速な送出電流、送出電圧の変動を伴う異常が発生した場合にも、その異常発生地点を標定する場合にも適用することができる。
さらに、実施形態では、図4のフローチャートのステップS5の所定時間幅のデータ抽出及びステップS6の抽出データの平均化処理を制御所54の故障点標定装置55が行うと説明したが、所定時間幅のデータ抽出及び抽出データの平均化処理を変電所50、51の情報処理装置52、53で行い、平均化処理で得られたデータを制御所54の故障点標定装置55へ送信して、故障点標定装置55が[数7]の標定式を用いて故障点の標定を行うように構成してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 電車
2 電車線(架線)
3 帰線(レール)
4、5 整流器
6、7 測定器
8、9 GPS時計装置
10、11 通信手段
12 遠方制御装置
13 電流測定器
14 電圧測定器
15、19 制御手段
16 入力手段
17、21 記憶手段
20 通信手段
22 表示手段
50、51 変電所
52、53 情報処理装置
54 制御所
55 故障点標定装置
61、62 遮断器
100 故障点標定システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7