(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6600514
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】銅の電解精製装置および電解精製方法
(51)【国際特許分類】
C25C 7/00 20060101AFI20191021BHJP
C25C 1/12 20060101ALI20191021BHJP
C25C 7/06 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
C25C7/00 301
C25C1/12
C25C7/06 301A
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-174402(P2015-174402)
(22)【出願日】2015年9月4日
(65)【公開番号】特開2017-48438(P2017-48438A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2018年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(72)【発明者】
【氏名】川村 茂
(72)【発明者】
【氏名】柴山 敦
(72)【発明者】
【氏名】高崎 康志
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 一寿
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誉也
【審査官】
北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−178893(JP,A)
【文献】
特開平08−178894(JP,A)
【文献】
特開昭53−010325(JP,A)
【文献】
特開昭48−030605(JP,A)
【文献】
実開昭49−009801(JP,U)
【文献】
特公昭43−017044(JP,B1)
【文献】
特開2008−266766(JP,A)
【文献】
特開昭63−297583(JP,A)
【文献】
特開2010−065263(JP,A)
【文献】
特開昭61−106788(JP,A)
【文献】
特開2003−183870(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/073434(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00−7/08
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅の電解精製装置であって、
電解液が貯留する電解槽と、
前記電解槽に浸漬するように支持された粗銅陽極および陰極と、
前記電解液を攪拌する攪拌機とを備え、
前記電解液に浸漬する前記攪拌機の攪拌部が、前記粗銅陽極と前記陰極との間に設けられ、
前記攪拌部は、
前記粗銅陽極の表面に対して平行に延びる回転軸と、
前記回転軸に取り付けられ、かつ、前記回転軸の長手方向に延びる、前記電解液を攪拌する平板状のブレードと、を有している、銅の電解精製装置。
【請求項2】
前記攪拌機が間欠的に作動するように構成されている、請求項1に記載の銅の電解精製装置。
【請求項3】
銅の電解精製方法であって、
粗銅陽極の表面に対して平行に延びる回転軸に、該回転軸の長手方向に延びる、電解液を攪拌する平板状のブレードが取り付けられた攪拌機を用い、
電解精製中に、電解液に浸漬するように支持された前記粗銅陽極と陰極との間において、前記電解液が前記粗銅陽極の表面に対して垂直な流れを形成するように前記電解液の攪拌を実施する、銅の電解精製方法。
【請求項4】
前記攪拌を間欠的に実施する、請求項3に記載の銅の電解精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅の電解精製装置および電解精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅の電解精製において、銅と標準電極電位が近いヒ素、アンチモン、ビスマスや、銅よりも標準電極電位が高い銀は、陽極中の主要な不純物として各工場でその量の上限値が決められ、管理されている。銅の電解精製においては、これらの不純物に起因する陽極表面におけるスライム層の発生、付着が避けられない。
【0003】
陽極表面にスライム層が付着する要因については様々な研究がなされているが、ヒ素、アンチモン、ビスマスといった不純物の場合には、一旦陽極から3価で溶解し、さらに酸化が進むことで、砒酸アンチモンや砒酸ビスマス等の複合酸化物が形成されることが要因となっている。これらの複合酸化物は晶析物であることから粒度が小さく、スライムとして陽極に付着した場合には、電解液中への銅イオン溶出の阻害要因となる。
【0004】
不純物が銀である場合には、陽極中の銀の存在状態によって挙動が異なる。銀が偏析している場合は、銀濃度の高い部分が粗大粒子となって陽極表面から電解液中に剥落する。一方、陽極中に分散して存在している銀については、銀が電解液に対してある程度溶解度があることから、その一部が電解液中に銀イオンとなって溶出する。ただし、銀イオンは、陽極中の酸化銅(CuO)が化学的に溶解する際に生成される銅粉との置換反応によって銀粉となる場合がある。この銀粉は微粒であり、スライムとして陽極表面に付着した場合には、電解液中への銅イオン溶出の阻害要因となる。
【0005】
上記の不純物が多い場合には、電解精製中に陽極表面に形成されるスライム層が厚くなり、その層の厚さと緻密性により銅イオンの拡散が抑制される。これにより、陽極の表面近傍において銅イオン濃度が高くなる。電解精製中の陽極表面の銅イオンは、濃度差拡散を主体とする物質移動によりスライム層を通過し、陰極における電子の受け取りを駆動力として電解析出するが、陽極の表面近傍で銅イオンが高くなると、陽極表面に硫酸銅が析出して不動態被膜が形成され、陽極からの銅イオンの溶出が停止する。これにより、陽極は酸素発生電極となり、電解精製が停止してしまう。
【0006】
これを避けるため、ヒ素、アンチモン、ビスマスといった不純物を減少させる技術として、電解液の浄液を強化あるいは元素単独の浄液を強化することが知られている。一例として、アンチモンの浄液であるキレート浄液については操業事例も報告されている。また、電解液中に溶出した銀イオンは、塩素イオンを電解液に添加し、塩化銀として塩析沈殿させることが知られている。このようにして陽極のスライム付着の抑制を試みていた。
【0007】
しかしながら、このような方法には限界がある。例えば電解液の浄液量を増加させた場合には、電解液中の銅イオン濃度の低下をもたらし、電気銅の品質を保つことができないおそれがある。また、陽極中の銀含有率が高い場合、微細な銀粒が一旦陽極に付着すると、塩素イオンの添加ではこれに対応しきれず、不動態化が進行し、電解精製が困難となる。
【0008】
これらのことを解決する電解精製装置として、極板間に直接電解液を給液する装置(特許文献1)や、電解槽下部に攪拌装置を取り付けて極板間の流速を上げる装置(特許文献2)の提案がなされてきた。これにより、陽極表面における銅イオンの溶出を促進させようとしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2014−189851号公報
【特許文献2】特開2003−183870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の装置の給液方法では、陽極表面の銅イオンの溶出を促進するには限界があった。また、特許文献2の装置では、陽極から落下したスライムならびに槽底に存在するスライムを巻き上げてしまい、不純物によって物理的に陰極を汚染するという問題があった。
【0011】
特に、近年は銅鉱石の採掘深さがより深い場所に移行してきており、銅鉱石中の銅含有量の低下と不純物含有量の上昇が続いている。また、製錬所におけるリサイクル原料の処理量も増加してきていることから、粗銅陽極中の銀、ヒ素、アンチモン等の不純物が今後も増加することが見込まれている。このため、陽極に付着するスライム層が以前よりも厚くなっていくことが考えられ、陽極が不動態化しやすくなると推測される。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、陰極へのスライム付着を抑制しつつ、陽極表面における銅イオンの溶出を促進し、陽極の不動態化を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明は、銅の電解精製装置であって、電解液が貯留する電解槽と、前記電解槽に浸漬するように支持された
粗銅陽極および陰極と、前記電解液を攪拌する攪拌機とを備え、前記電解液に浸漬する前記攪拌機の攪拌部が、前記
粗銅陽極と前記陰極との間に設けられ、
前記攪拌部は、前記粗銅陽極の表面に対して平行に延びる回転軸と、前記回転軸に取り付けられ、かつ、前記回転軸の長手方向に延びる、前記電解液を攪拌する平板状のブレードと、を有していることを特徴としている。
【0014】
別の観点による本発明は、銅の電解精製方法であって、
粗銅陽極の表面に対して平行に延びる回転軸に、該回転軸の長手方向に延びる、電解液を攪拌する平板状のブレードが取り付けられた攪拌機を用い、電解精製中に、電解液に浸漬するように支持された
前記粗銅陽極と陰極との間において、前記電解液が前記
粗銅陽極の表面に対して垂直な流れを形成するように前記電解液の攪拌を実施することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、極板間において陽極に向かう電解液が陽極表面に対して垂直な流れを形成することにより、陰極へのスライムの付着を抑制しつつ、陽極表面における銅イオンの溶出を促進することができる。その結果、陽極の不動態化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電解精製装置の構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る電解精製装置の攪拌機の配置を示す概略平面図である。なお、
図2においては、攪拌棒に取り付けられたブレードのうち、最も上にあるブレードのみを図示している。
【
図3】本発明の別の実施形態に係る電解精製装置の構成を示す模式図である。
【
図4】本発明の別の実施形態に係る電解精製装置の攪拌機の配置を示す概略平面図である。
【
図5】本発明に係る攪拌を実施した場合と、攪拌を実施しない場合の槽電圧と経過時間の関係を示す図である。
【
図6】攪拌を実施しない場合における電解精製後の陽極断面のSEM画像および元素マップを示す図である。
【
図7】本発明に係る攪拌を実施した場合における電解精製後の陽極断面のSEM画像および元素マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
図1に示すように、本実施形態に係る電解精製装置1は、電解液Eを貯留する電解槽2と、電解液Eに浸漬するように懸垂支持された板状の陽極3および陰極4と、電解液Eを供給する電解液供給管5と、極板間に電圧を印加する直流電源6と、槽電圧を記録する電圧ログ収集計7とを備えている。陽極3と陰極4は、互いに所定の間隔を有している。また、電解液Eは、循環槽(不図示)から電解槽2に供給されているが、このとき供給される電解液Eの流量は少ないため、電解槽内においては強制対流は発生していない。
【0019】
本実施形態における電解精製装置1は、陽極3と陰極4との間に攪拌機10が設けられている。攪拌機10は、電解槽内の電解液Eを攪拌し、電解液Eに流速を付与する。本実施形態の攪拌機10は、いわゆるインペラー構造となっており、陽極3および陰極4に平行に延びるように設けられた攪拌棒11と、攪拌棒11に取り付けられたブレード12と、攪拌棒11を所定の方向に回転させる駆動制御部13とを備えている。
【0020】
攪拌棒11には、薄い板状のブレード12が5枚取り付けられている。各ブレード12は、攪拌棒11の長手方向に沿って互い違いに配置されており、攪拌棒11の周方向に対する3枚のブレード12の取付位置と、残りの2枚のブレード12の取付位置が180°異なっている。また、攪拌棒11の長手方向に沿って隣り合うブレード12同士は、ブレード1枚分の高さと同等の間隔を開けて配置されている。
図2に示すように、このような攪拌機10は、電解槽2の奥行き方向Lに沿って複数配置されている。
【0021】
本実施形態に係る電解精製装置1は、以上のように構成されている。この電解精製装置1を用いて行われる銅の電解精製は、駆動制御部13の制御により攪拌機10が作動した状態で行われる。このとき、攪拌機10のブレード12が陽極3と陰極4の間に設けられていることから、攪拌機10の作動により攪拌棒11が回転すると、極板間の電解液Eは、
図1および
図2の矢印で示すように流れていく。即ち、攪拌により流速が付与された電解液Eが陽極表面に対して垂直な流れFを形成する。なお、このとき形成される流れFの奥行き方向Lの幅は、陽極の奥行き方向Lの幅より狭くても良い。
【0022】
電解精製中は、陽極表面には不純物のスライム層Sが形成され、電解液Eの銅イオン濃度が高くなった状態となっているが、上記のような電解液Eの流れFが形成されることにより、銅イオン濃度が高い陽極表面近傍の電解液Eに向けて相対的に銅イオン濃度が低い電解液Eを供給することができる。これにより、陽極表面近傍における電解液Eの銅イオン濃度を低下させることが可能となり、陽極3からの銅イオンの溶出を促進することができる。その結果、陽極3の不動態化を防ぐことが可能となる。
【0023】
また、本実施形態のように、陽極3に向かう電解液Eの流れFが陽極表面に対して垂直である場合には、槽低にあるスライム層Sが巻き上げられることがなく、陰極4の汚染を防ぐこともできる。
【0024】
なお、極板間において陽極3に向かう電解液Eの流速は、陰極4の汚染を防ぐために、陽極表面に付着するスライム層Sが剥がれない程度の速さに設定する必要がある。陽極3に向かう電解液Eの流速は、例えば10〜40mm/sである。ただし、電解液Eの流速は、攪拌機10のブレード12の形状や枚数、攪拌機10と陽極3との距離、陽極の不純物含有量等に応じて適宜決定される。
【0025】
電解液Eの流速を調整する場合、従来のような極板表面に平行な流れを形成する装置では、対向する陽極3と陰極4に挟まれる空間の外方からの流れを調整することになり、陽極表面近傍における電解液Eの流れFを細かく制御することは容易ではない。これに加えて、陽極3と陰極4に挟まれる空間の外方の流れを調整することは、槽内全体の流れにも影響を与えるため、槽内全体の流れを乱すことにも繋がる。
【0026】
一方、本実施形態に係る電解精製装置1によれば、極板間で流れの制御を行うことができるため、陽極3に向かう電解液Eの流れFの制御がしやすく、陽極3からスライム層Sが剥がれないような流れの調整も容易に行うことができる。
【0027】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0028】
例えば、極板間において陽極に向かう電解液Eの流れFは、陽極表面に対して厳密な垂直でなくても良く、本発明の効果が得られる範囲であれば僅かに角度が付いていても良い。本発明に係る「陽極表面に対する垂直な流れ」は、そのような流れも含むものである。
【0029】
また、上記実施形態では、攪拌機10を3つ設けることとしたが、攪拌機10の数は、極板のサイズに応じて適宜変更されるものである。また、攪拌棒11に取り付けられるブレード12の形状も上記実施形態で説明したものに限定されない。例えば、
図3,
図4に示すように、攪拌棒11の長手方向に延びるブレード12を2枚設け、攪拌棒11を中心として各ブレード12を対称に配置しても良い。このような構成の場合、隣り合う攪拌機10と同じ回転方向に攪拌棒11を回転させると、隣り合う攪拌機同士が互いに流れを打消し合うおそれがある。このため、
図4のように隣り合う攪拌機同士を互いに異なる向きに回転させることが好ましい。即ち、攪拌機10の回転制御は、攪拌機10の数や隣り合う攪拌機10の間隔、攪拌機10のブレード形状等に応じて適宜実施すれば良い。
【0030】
また、上記実施形態では、攪拌機10の回転軸として円形の攪拌棒11を用いたが、攪拌機10の回転軸の形状は棒状部材に限定されない。また、攪拌機10は、上記実施形態で説明したインペラー構造のものに限定されず、スプレーノズル等の他の攪拌機構を用いても良い。例えばスプレーノズルが陽極表面に向けて電解液Eを噴射するように設けられていれば、陽極表面に対して垂直な電解液Eの流れFを形成することができる。即ち、本発明に係る電解精製装置1の攪拌機10は、電解液Eに浸漬する攪拌部(上記実施形態においては攪拌棒11とブレード12)が、攪拌機10の作動時において、陽極表面に対して垂直な電解液Eの流れFを形成するような構造を有していれば良い。
【0031】
また、上記実施形態では、攪拌機10を作動させながら電解精製を実施することとしたが、攪拌機10は電解精製中に間欠的に作動させることにしても良い。
【0032】
なお、上記実施形態では、極板として陽極3と陰極4を1枚ずつ設けたが、陽極3と陰極4は複数設けても良い。この場合、攪拌機10は、隣り合う陽極3と陰極4との間に設ければ良い。
【実施例】
【0033】
本発明に係る電解精製装置を用いて、銅の電解精製実験を実施した。本実施例では、陽極表面に対して垂直な電解液の流れを形成する攪拌を行う場合と、攪拌を全く行わない場合について比較した。電解精製装置は、
図1に示すような構成となっている。攪拌機の回転軸としてガラス製の丸棒を用い、ブレード12には平板状ガラス板を用いた。
【0034】
電解液は、温水が貯留する恒温槽(不図示)に電解槽が浸漬することで60℃に維持されており、恒温槽において蒸発する水分は適宜自動で補給される。また、不動態化の尺度となる槽電圧は、1秒に1点自動でデータロガーに取り込んだ。なお、攪拌は電解開始と同時に行うこととした。また、攪拌機から陽極に向かう電解液の流速は、27mm/sであった。電解精製実験の条件を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
陽極の組成は表2の通りである。
【0037】
【表2】
【0038】
表2に示す通り、本実施例で使用した陽極のCu品位は96.6%であり、通常のCu品位(99%以上)よりも極めて低い品位である。即ち、本実施例で使用する陽極は、一般的に使用される陽極よりも不純物が多く含まれたものである。特に、Sb,Agの含有率が高く、Sbは、一般的に使用される陽極のSb含有率の平均値の約6倍、Agは、一般的に使用される陽極のAg含有率の平均値の約30倍となっている。
【0039】
上記実験条件の下で電解精製実験を行い、電解開始からの経過時間と槽電圧の関係について評価した。その結果を
図5に示す。
【0040】
図5に示すように、攪拌を実施しなかった場合は、電解開始から5日経過後に陽極が不動態化した。一方、本発明に係る攪拌を実施した場合は、実験最終日まで陽極が不動態化しなかった。
【0041】
次に、電解開始からの経過日数毎の槽電圧のデータを表3(攪拌なしの場合)および表4(攪拌ありの場合)に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
表3,表4に示すように、本発明に係る攪拌を実施した場合は、ほぼ安定して槽電圧が推移したことが確認できる。
【0045】
次に、陽極表面に付着する付着スライム量、陽極表面から脱落する脱落スライム量および電流効率について評価した。結果を表5に示す。
【0046】
【表5】
【0047】
表5に示すように、本発明に係る攪拌を実施した場合と、攪拌を全く実施しなかった場合では、脱落スライム量に差はなく、本発明に係る攪拌が、陽極表面に付着するスライムを脱落させるようなものではないことがわかる。
【0048】
一方、本発明に係る攪拌を実施した場合の付着スライム量は、攪拌を実施しない場合の半分程度となっている。この結果から、本発明に係る電解液の攪拌は、陽極表面の近傍で発生するスライム量を減少させる効果もあることがわかる。なお、電流効率に関しては、どちらの場合も高い値となっているが、攪拌を実施しなかった場合については、槽電圧の上昇に伴い電解通電を停止したために、電流効率が高い値となっている。
【0049】
次に、電解終了後の陽極表面近傍の層構造について、EDSを備えたSEMを用いて評価した。その結果を
図6および
図7に示す。
図6は攪拌を実施しなかった場合の陽極表面近傍の断面SEM画像および元素マップであり、
図7は本発明に係る攪拌を実施した場合の陽極表面近傍の断面SEM画像および元素マップである。
【0050】
図6に示すように、攪拌を実施しなかった場合には陽極表面近傍において銀の緻密なスライム層が観察された。一方、本発明に係る攪拌を実施した場合にも陽極表面近傍に銀のスライム層が観察されたものの、層内はポーラスな状態となっており、緻密なスライム層は形成されていなかった。即ち、陽極表面近傍では、電解液中に銅イオンが拡散しやすい状態となっており、陽極表面近傍の銅イオン濃度が従来よりも下がっていることが推測される。即ち、本発明に係る攪拌を実施した場合に陽極が不動態化しなかった理由は、陽極表面近傍の銅イオン濃度が攪拌を実施しなかった場合に比べて低く、電解液中への銅イオンの溶出が促進されたためと考えられる。
【0051】
なお、前述の通り、本実施例では、陽極として通常使用される粗銅よりも極めて多くの不純物が含まれたものを用いている。即ち、本実施例では、従来よりもAg等のスライム層が形成されやすい状況で電解精製を実施しているが、それにも関わらず、陽極の不動態化を防ぐことができた。したがって、本発明によれば、従来品位の粗銅陽極の不動態化を防止できることはもちろんのこと、今後ますます使用されることが見込まれる不純物を多く含む粗銅陽極を用いた電解精製においても、陽極の不動態化を防ぐことができる。
【0052】
さらに、陽極が不動態化し難くなる本発明によれば、電解精製の一般的な電流密度である200〜300A/m
2よりも高い電流密度で電解精製を実施したとしても、従来よりも陽極の不動態化が起こりにくい。このため、従来よりも電流密度を上げて電解精製を実施することができ、陽極を不動態化させることなく、電気銅の生産性を向上させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、銅の電解精製に適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 電解精製装置
2 電解槽
3 陽極
4 陰極
5 電解液供給管
6 直流電源
7 電圧ログ収集計
10 攪拌機
11 攪拌棒
12 ブレード
13 駆動制御部
E 電解液
F 電解液の流れ
L 電解槽の奥行き方向
S スライム層