特許第6600560号(P6600560)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6600560-抗血栓性コーティング材の製造方法 図000012
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6600560
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】抗血栓性コーティング材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 4/02 20060101AFI20191021BHJP
   C08F 2/10 20060101ALI20191021BHJP
   C08F 20/28 20060101ALI20191021BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20191021BHJP
   A61L 33/00 20060101ALN20191021BHJP
【FI】
   C09D4/02
   C08F2/10
   C08F20/28
   C09D7/63
   !A61L33/00
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-592(P2016-592)
(22)【出願日】2016年1月5日
(65)【公開番号】特開2017-25285(P2017-25285A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年10月10日
(31)【優先権主張番号】特願2015-47610(P2015-47610)
(32)【優先日】2015年3月10日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-150087(P2015-150087)
(32)【優先日】2015年7月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】安齊 崇王
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平4−152952(JP,A)
【文献】 特開2004−161954(JP,A)
【文献】 特開平9−183819(JP,A)
【文献】 特開2008−264266(JP,A)
【文献】 特開2014−161675(JP,A)
【文献】 特開2014−147638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 4/00−7/80
C09D 101/00−201/10
C08F 2/00−2/60
C08F 6/00−246/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される単量体を含むメタノール溶液を調製する工程;および
10時間半減期温度が60℃以下のラジカル重合開始剤を前記メタノール溶液に加えて重合反応液を調製し、前記単量体を重合させる工程、
を含む抗血栓性コーティング材の製造方法;
【化1】
ただし、上記一般式(1)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数1〜4のアルキレン基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。
【請求項2】
前記重合反応液に含まれる前記単量体の含量が、10重量%以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記重合反応液に含まれる前記単量体の含量が、20重量%以上飽和濃度以下である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記単量体の重合によって得られた重合体の重量平均分子量が、20万以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記単量体の重合によって得られた重合体の重量平均分子量が、30万を超えて100万以下である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記単量体が、メトキシエチル(メタ)アクリレートである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
下記一般式(2)で示される構造単位(A)を含み、かつ20万以上の重量平均分子量であるポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレートが、メタノールまたは水/メタノール混合液に溶解されてなる抗血栓性コーティング材;
【化2】
ただし、上記一般式(2)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数1〜4のアルキレン基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。
【請求項8】
平衡含水させた前記ポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレートについて下記数式(1)で算出される中間水の割合が、32%を超える、請求項7に記載の抗血栓性コーティング材;
【数1】
ただし、上記数式1中、aおよびxは、平衡含水させた前記ポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレートにおける中間水含有率(重量%)および平衡含水率(重量%)をそれぞれ示す。
【請求項9】
前記ポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレートの重量平均分子量が100万未満である、請求項7または8に記載の抗血栓性コーティング材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗血栓性コーティング材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種の高分子材料を利用した医療材料の検討が進められており、人工腎臓用膜、血漿分離用膜、カテーテル、ステント、人工肺用膜、人工血管、癒着防止膜、人工皮膚等への利用が期待されている。これらにおいては、生体にとって異物である合成高分子材料を生体組織や血液等の体液と接触させて使用することとなる。したがって、医療材料は、生体適合性を有することを要求される。医療材料に要求される生体適合性はその目的や使用方法によって異なるが、血液と接する材料として使用する医療材料には、血液凝固系の抑制、血小板の粘着・活性化の抑制、補体系の活性化の抑制という特性(抗血栓性)が求められる。
【0003】
通常、医療用具への抗血栓性の付与は、医療用具を構成する基材を抗血栓性材料(抗血栓性コーティング材)で被覆する方法や、基材の表面に抗血栓性材料を固定する方法により行われる。
【0004】
例えば、特許文献1には、血小板の粘着・活性化の抑制、補体系の活性化の抑制効果、生体内組織との親和性といった生体適合性を同時に満たす合成高分子を表面に有する、生体内組織や血液と接して使用される人工臓器用膜および医療用具が開示されている。特許文献1には、抗血栓性材料である合成高分子として、ポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−152952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)は、抗血栓性、生体適合性に優れる親水性高分子材料であり、血液と接触する医療用具の表面コーティング材の抗血栓性成分として活用されている。PMEAは親水性であるため、抗血栓性コーティング材に用いる場合は、分子量が大きいほうがコート層の安定性が高まるため好ましい。
【0007】
PMEAの重合方法としては、ラジカル重合開始剤を用いた溶液重合法が一般に用いられている。溶液重合法は触媒等の残留がなく、安価に実施できるという利点があるが、ラジカル重合開始剤を用いた溶液重合法により分子量の大きな重合体を得ることは従来困難であった。
【0008】
従って、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、ラジカル重合開始剤を用いた溶液重合法により分子量の大きな重合体を得ることが可能な、抗血栓性コーティング材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、メトキシエチルアクリレート等の単量体を含むメタノール溶液を調製する工程;および10時間半減期温度が60℃以下のラジカル重合開始剤を前記メタノール溶液に加え、前記単量体を重合させる工程、を含む抗血栓性コーティング材の製造方法によって上記課題が解決されることを見出し、本願発明の完成に至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラジカル重合開始剤を用いた溶液重合により分子量の大きな重合体を得ることが可能な、抗血栓性コーティング材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例6で得られた重合体を含む抗血栓性コーティング材のキャスト膜を、フェノールレッド染色した写真である。
図2】比較例2で得られた重合体を含む抗血栓性コーティング材のキャスト膜を、フェノールレッド染色した写真である。
図3】無処理のポリプロピレン製フィルム(図3a)、比較例2で得られた重合体を含む抗血栓性コーティング材のキャスト膜を形成したフィルム(図3b)、および実施例7で得られた重合体を含む抗血栓性コーティング材のキャスト膜を形成したフィルム(図3c)についてのタンパク吸着試験結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、メトキシエチルアクリレート等の単量体を含むメタノール溶液を調製する工程;および10時間半減期温度が60℃以下のラジカル重合開始剤を前記メタノール溶液に加えて重合反応液を調製し、前記単量体を重合させる工程、を含む抗血栓性コーティング材の製造方法に関する。本発明に係る製造方法は、ラジカル重合開始剤を用いた溶液重合法を採用しつつも、得られる重合体の分子量を大きくすることができる。抗血栓性コーティング材に含まれる重合体の分子量が大きいと、コート層の安定性が向上する。本発明の技術的範囲を制限するものではないが、これは、重合体の分子量が大きいほど、重合体同士が絡まり合いやすくなり、このため基材上に形成されたコート層が安定するのではないかと考えられる。
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0014】
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
【0015】
本発明に係る製造方法は、下記一般式(1)で示される単量体を含むメタノール溶液を調製する工程(メタノール溶液調製工程)を含む。
【0016】
【化1】
【0017】
一般式(1)中、Rは水素原子またはメチル基であり、好ましくは水素原子である。
【0018】
一般式(1)中、Rは、炭素数1〜4の環状、直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であることが好ましい。具体的には、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、シクロプロピレン基、テトラメチレン基、シクロブチレン基などが挙げられる。これらのうち、抗血栓性の向上効果を考慮すると、炭素数1〜3の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であることが好ましく、メチレン基またはエチレン基であることが特に好ましい。
【0019】
一般式(1)中、Rは、炭素数1〜4の環状、直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖のアルキル基であることが好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロプロピル基などが挙げられる。これらのうち、抗血栓性の向上効果を考慮すると、炭素数1〜3の直鎖または分岐鎖のアルキル基であることが好ましく、メチル基またはエチル基であることがより好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0020】
上記一般式(1)で示される単量体としては、具体的には、メトキシメチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート(MEA)、メトキシプロピルアクリレート、メトキシブチルアクリレート、エトキシメチアクリレートル、エトキシエチルアクリレート、エトキシプロピルアクリレート、エトキシブチルアクリレート、プロポキシメチルアクリレート、プロポキシエチルアクリレート、プロポキシプロピルアクリレート、プロポキシブチルアクリレート、ブトキシメチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、ブトキシプロピルアクリレート、ブトキシブチルアクリレート、メトキシメチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、メトキシプロピルメタクリレート、メトキシブチルメタクリレート、エトキシメチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、エトキシプロピルメタクリレート、エトキシブチルメタクリレート、プロポキシメチルメタクリレート、プロポキシエチルメタクリレート、プロポキシプロピルメタクリレート、プロポキシブチルメタクリレート、ブトキシメチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、ブトキシプロピルメタクリレート、ブトキシブチルメタクリレートが挙げられる。上記一般式(1)で示される単量体としては、好ましくはメトキシメチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート(MEA)、エトキシメチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシメチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシメチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレートであり、入手が容易であるという観点から、より好ましくはメトキシエチル(メタ)アクリレートである。これらの単量体を1種単独で、または2種以上を混合して用いることもできる。
【0021】
なお、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」および/または「メタアクリレート」を意味する。
【0022】
本発明に係る方法においては、上記の一般式(1)で示される単量体に加え、さらに、上記一般式(1)で示される単量体と共重合可能な他の単量体(以下、単に「他の単量体」とも称する。)を用いてもよい。一般式(1)で示される単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、アミノメチルアクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノイソプロピルアクリレート、ジアミノメチルアクリレート、ジアミノエチルアクリレート、ジアミノブチルアクリレート、メタアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、アミノメチルメタクリレート、アミノエチルメタクリレート、ジアミノメチルメタクリレート、ジアミノエチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、エチレン、プロピレン等がある。
【0023】
メタノール溶液調製工程において他の単量体を用いる場合、単量体全体に対する他の単量体の割合は、例えば10〜50重量%であり、好ましくは15〜30重量%である。
【0024】
本発明の一実施形態では、メタノール溶液調製工程において用いる単量体は、一般式(1)で示される単量体である。
【0025】
本発明においては、重合溶媒の主成分としてメタノールを用いる。重合溶媒の主成分としてメタノール以外の溶媒を用いると、重合体の分子量を大きくすることが困難となる。本発明の技術的範囲を制限するものではないが、これは、重合中の成長ラジカルの運動性によるものと考えられる。
【0026】
ただし、本発明における「メタノール溶液」は、重合溶媒の主成分としてメタノールを含むものであれば、本発明の目的効果が損なわれない範囲において、メタノール以外の溶媒をも含むことは妨げられない。なお、上記「主成分として」とは、メタノール溶液に用いられる溶媒全体のうち、95重量%以上、好ましくは99重量%以上(上限100重量%)がメタノールであることをいう。「メタノール溶液」に含まれるメタノール以外の重合溶媒としては、例えば、水;エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のアルコール類;クロロホルム、テトラヒドロフラン、アセトン、ジオキサン、ベンゼン等の有機溶媒等から選択される1種または2種以上が挙げられるが、これらに限定されない。「メタノール溶液」にメタノール以外の溶媒が含まれる場合、これらメタノール以外の溶媒の含有量(複数種含む場合は、その総量)は、メタノール100重量部に対して、例えば5重量部以下であり、好ましくは1重量部以下である。
【0027】
好ましい実施形態では、「メタノール溶液」に含まれる重合溶媒は、メタノールのみからなる。
【0028】
メタノール溶液に含まれる一般式(1)で示される単量体の含量は、得られる分子量の大きさの観点から、メタノール溶液全体に対して、10重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましく、25重量%以上であることが更に好ましく、30重量%以上であることが特に好ましい。メタノール溶液中の単量体含量が高いほど得られる重合体の分子量が大きくなるので、メタノール溶液中の一般式(1)で示される単量体含量について上限は特に制限されないが、例えば飽和濃度以下であり、例えば70重量%以下、好ましくは60重量%以下である。また、メタノール溶液が他の単量体を含む場合、メタノール溶液中の全単量体含量(一般式(1)で示される単量体、および他の単量体の総量)は、例えば飽和濃度以下である。メタノール溶液調製時は、必要に応じて攪拌してもよい。
【0029】
メタノール溶液調製工程においては、単量体を添加したメタノール溶液を、重合開始剤の添加前に、脱気処理を行ってもよい。脱気処理は、例えば、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスにて、メタノール溶液を0.5〜5時間程度バブリングすればよい。脱気処理の際は、メタノール溶液を30℃〜80℃程度、好ましくは下記の重合工程における重合温度に調温しても良い。
【0030】
本発明に係る方法は、10時間半減期温度が60℃以下のラジカル重合開始剤を前記メタノール溶液に加えて調製される重合反応液(「10時間半減期温度が60℃以下のラジカル重合開始剤を前記メタノール溶液に加えて調製される重合反応液」を、単に「重合反応液」とも称する。)を調製し、単量体を重合させる工程(重合工程)を含む。
【0031】
重合工程においては、10時間半減期温度が60℃以下のラジカル重合開始剤を用いる。2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、T10=65℃)やジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(T10=66℃)のような10時間半減期温度が60℃を超えるラジカル重合開始剤を用いると、重合を60℃を超える高温で行うことが必要となる。このため、単量体濃度が低い場合、ラジカル重合において溶媒、単量体、及び重合体への連鎖移動反応が起こりやすくなり、高分子量の重合体を得ることが困難になる。また、単量体濃度が高い場合、重合を高温で行うため重合速度が上昇し、かつ、成長ラジカルが拡散しにくくなるため、重合体自体がゲル化して不溶となる。
【0032】
なお、本明細書において「10時間半減期温度(T10)」とは、ベンゼン等のラジカル不活性溶媒において、濃度が初期値(例えば、0.01モル/L)の半分まで10時間で減少するのに必要な温度である。
【0033】
10時間半減期温度が60℃以下のラジカル重合開始剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(T10=30℃)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(T10=51℃)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド(T10=44℃)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジスルフェートジハイドレート(T10=46℃)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド(T10=56℃)、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン)]ハイドレート(T10=57℃)、3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルパーオキシネオデカノエート(T10=37℃)、α−クミルパーオキシネオデカノエート(T10=38℃)、1,1,3,3−テトラブチルパーオキシネオデカノエート(T10=44℃)、t−ブチルパーオキシネオデカノエート(T10=48℃)、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート(T10=53℃)、t−ブチルパーオキシピバレート(T10=58℃)、t−アミルパーオキシネオデカノエート(T10=46℃)、t−アミルパーオキシピバレート(T10=55℃)、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート(T10=49℃)、ジ(セカンダリーブチル)パーオキシジカーボネート(T10=51℃)等が例示できる。
【0034】
この中でも、10時間半減期温度が50℃以下のラジカル重合開始剤が好ましく、10時間半減期温度が40℃以下と特に低い2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルパーオキシネオデカノエート、α−クミルパーオキシネオデカノエート等がより好ましい。
【0035】
かようなラジカル重合開始剤としては市販品を用いても良く、例えばV−70(T10=30℃)、V−65(T10=51℃)、VA−044(T10=44℃)、VA−046B(T10=46℃)、VA−50(T10=56℃)、VA−057(T10=57℃)(以上、和光純薬工業株式会社製)、AZOシリーズ ADVN(T10=52℃)(大塚化学株式会社製)、ルペロックス(登録商標)610(T10=37℃)、ルペロックス(登録商標)188(T10=38℃)、ルペロックス(登録商標)844(T10=44℃)、ルペロックス(登録商標)10(T10=48℃)、ルペロックス(登録商標)701(T10=53℃)、ルペロックス(登録商標)11(T10=58℃)、ルペロックス(登録商標)546(T10=46℃)、ルペロックス(登録商標)554(T10=55℃)、ルペロックス(登録商標)223(T10=49℃)、ルペロックス(登録商標)225(T10=51℃)(以上、アルケマ吉富株式会社製)等が例示できる。
【0036】
10時間半減期温度が60℃以下のラジカル重合開始剤の配合量は、例えば、100重量部の単量体(複数種の単量体を用いる場合は、その全体)に対して、好ましくは0.005〜2重量部であり、より好ましくは0.1〜0.5重量部である。10時間半減期温度が60℃以下のラジカル重合開始剤の配合量が、100重量部の単量体に対して0.005重量部以上であることにより、再現よく狙い通りの高分子量体を得られるという利点があり、また、2重量部以下であることにより、低分子化を防ぐという利点がある。
【0037】
上記のラジカル重合開始剤は、任意の濃度でメタノールに添加してから、開始剤メタノール液として上記の単量体を含むメタノール溶液に加えても良い。この場合、開始剤メタノール液中の上記のラジカル重合開始剤の含量は、特に制限されるものでは無いが、例えば0.01〜10重量%である。
【0038】
開始剤メタノール液もまた、本発明の目的効果が損なわれない範囲において、メタノール以外の溶媒が含まれることは妨げられない。例えば、開始剤メタノール液は、上記のメタノール以外の溶媒を、メタノール100重量部に対して、例えば5重量部以下(例えば、1重量部以下)含んでもよい。
【0039】
重合工程における重合反応液に含まれる一般式(1)で示される単量体の含量は、得られる分子量の大きさの観点から、重合反応液全体に対して、重合反応液に含まれる前記単量体の含量が、10重量%以上であることが好ましい。重合反応液に含まれる前記単量体の含量は、重合反応液全体に対して、20重量%以上であることがより好ましく、25重量%以上であることが更に好ましく、30重量%以上であることが特に好ましい。重合反応液中の単量体含量が高いほど得られる重合体の分子量が大きくなるので、重合反応液中の一般式(1)で示される単量体含量について上限は特に制限されないが、例えば飽和濃度以下であり、例えば70重量%以下、好ましくは60重量%以下である。本発明の一実施形態では、重合反応液に含まれる一般式(1)で示される単量体の含量が、20重量%以上飽和濃度以下である。また、重合反応液が他の単量体を含む場合、重合反応液中の全単量体含量(一般式(1)で示される単量体、および他の単量体の総量)は、例えば飽和濃度以下である。重合反応液調製時は、必要に応じて攪拌してもよい。
【0040】
重合体の高分子量化、および重合工程におけるゲル化防止の観点から、重合温度は低温であることが好ましいが、過度に低いと反応の進行が遅くなり、製造効率を低下させる要因となる。重合温度は、例えば30〜60℃であり、好ましくは40〜55℃である。
【0041】
重合時間は、上記の重合温度で例えば1〜24時間であり、好ましくは3〜12時間である。
【0042】
さらに、必要に応じて、重合速度調整剤、界面活性剤、およびその他の添加剤を、重合の際に適宜使用してもよい。
【0043】
重合反応を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、大気雰囲気下、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気等で行うこともできる。また、重合反応中は、反応液を攪拌しても良い。
【0044】
重合後の重合体は、再沈澱法、透析法、限外濾過法、抽出法など一般的な精製法により精製することができる。
【0045】
精製後の重合体は、凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、または加熱乾燥等、任意の方法によって乾燥することもできるが、重合体の物性に与える影響が小さいという観点から、凍結乾燥または減圧乾燥が好ましい。
【0046】
上記のラジカル重合開始剤を用いた溶液重合法によれば、分子量の大きな重合体を得ることができる。単量体の重合によって得られた重合体の重量平均分子量は、コート層の安定性の観点から、好ましくは20万以上であり、より好ましくは30万を超え、さらに好ましくは40万以上である。重合体の分子量の上限は特に制限されないが、重合体自体がゲル化して不溶化しないという観点から、例えば100万以下であり、好ましくは100万未満であり、より好ましくは80万以下である。好ましい一実施形態では、単量体の重合によって得られた重合体の重量平均分子量は、30万を超えて100万以下である。
【0047】
なお、本発明において、「重量平均分子量」は、ポリスチレンを標準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定した値を採用するものとする。具体的には、重合体をTHF(テトラヒドロフラン)に溶解し1mg/mlとする。島津製作所製GPCシステムLC−20にShodex GPCカラムLF−804(昭和電工株式会社製)を取り付け、移動相としてTHFを流し、標準ポリスチレンおよび重合体のGPCを測定する。標準ポリスチレンで較正曲線を作成した後、重合体の重量平均分子量を算出する。
【0048】
本発明に係る製造方法により得られる抗血栓性コーティング材は、上記工程により得られた重合体からなる形態でも良い。本発明に係る製造方法は、ゲル化剤、増粘剤、可塑剤、溶媒等の他の添加剤を上記の重合体に添加し、ゲル状、溶液状等の形態に加工する工程を更に含んでも良い。任意に、架橋剤、増粘剤、防腐剤、pH調整剤等、他の成分を重合体に添加し、組成物とする工程を含んでも良い。抗血栓性コーティング材が架橋剤を含むことにより、重合体がより強固に基材表面へ固定化されうる。
【0049】
組成物の形態で用いる場合、用いる媒質としては重合体を溶解、懸濁または分散できるものであれば特に制限されず、例えば、水、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等が例示できる。上記媒質は、1種単独で、または2種以上を混合して使用してもよい。このうち、重合体の溶解性の観点から、用いる溶媒はメタノールであることが好ましい。
【0050】
組成物に含まれる重合体の量は任意に設定でき、重合体を飽和量まで溶解させた溶液として用いることもできるが、例えば、コーティング材全体に対して0.1〜50重量%である。
【0051】
抗血栓性コーティング材に含まれる未反応の単量体は、重合体全体に対して0.01重量%以下であることが好ましい。未反応の単量体は少ないほど好ましいので下限は特段制限されないが、例えば0重量%である。残留単量体の含量は、例えば高速液体クロマトグラフィーなど、当業者に知られた方法により測定できる。
【0052】
本発明の一実施形態では、下記一般式(2)で示される構造単位(A)を含み、かつ20万以上の重量平均分子量であるポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレート(以下、「下記一般式(2)で示される構造単位(A)を含み、かつ20万以上の重量平均分子量であるポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレート」を、単に「本発明に係るポリマー」とも称する。)が、メタノールまたは水/メタノール混合液に溶解されてなる抗血栓性コーティング材が提供される。すなわち、本実施形態は、下記一般式(2)で示される構造単位(A)を含み、かつ20万以上の重量平均分子量であるポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレートと、メタノールまたは水/メタノール混合液とを含む、抗血栓性を付与するための組成物でもある。コート層に含まれるポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレートの分子量が大きいと、上記のようにコート層の安定性が優れたものとなる。
【0053】
【化2】
【0054】
上記一般式(2)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは炭素数1〜4のアルキレン基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。一般式(2)におけるR、R、およびRについては、一般式(1)について上述したR、R、およびRについての記載がそれぞれ適用される。
【0055】
上記のような高分子量の親水性材料を含む抗血栓性コーティング材は、上記のメタノール溶液調製工程および重合工程を経て得ることができる。より具体的には、上記の重合工程において、重合反応液に含まれる一般式(1)で示される単量体の含量を20重量%以上とすることにより、20万以上の重量平均分子量であるポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレートを得ることができる。
【0056】
ポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、コート層の安定性の観点から、より好ましくは30万を超え、更に好ましくは40万以上である。重合体の重量平均分子量の上限は特に制限されないが、重合体自体がゲル化して不溶化しないという観点から、100万以下であり、より好ましくは100万未満であり、より好ましくは80万以下である。なお、ポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレートの「重量平均分子量」は、上記のポリスチレンを標準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定した値を採用するものとする。
【0057】
高分子材料に吸水された水は、その状態によって自由水(0℃で凍結し、高分子材料または不凍水と弱い相互作用をしている水)、中間水(昇温過程で0℃より低温で凍結し、高分子材料または不凍水と中間的な相互作用をしている水)、または不凍水(高分子材料との強い相互作用により−100℃でも凍結しない水)に分類される。中間水の割合が多い水和構造の高分子材料では、血液等の生体成分の水和構造と不凍水との接触が抑えられるため、生体成分の水和構造が安定的に維持される。このため、かような高分子材料は生体適合性により一層優れたものとなる。ポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、平衡含水させた場合に下記数式(1)で算出される中間水の割合が、32%を超えるものが好ましい。すなわち、本発明の好ましい一実施形態では、平衡含水させたポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレートについて下記数式(1)で算出される中間水の割合(以下、「平衡含水させた場合における下記数式(1)で算出される中間水の割合」を、単に「中間水割合」とも称する。)が、32%を超える、抗血栓性コーティング材が提供される。
【0058】
【数1】
【0059】
ただし、上記数式1中、aおよびxは、平衡含水させた前記ポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレートにおける中間水含有率(重量%)および平衡含水率(重量%)をそれぞれ示す。なお、本明細書において「平衡含水」とは、25℃の超純水中においてポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレートの水分量が実質的に平衡に達した状態をいい、より具体的には、1時間当たりの重量変化が±1重量%以内になるまで含水させた状態をいう。
【0060】
上記の中間水割合は、以下の手法により求めることができる。すなわち、ポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレート約0.1gを秤量し、過剰量(ポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレートの重量の、少なくとも100倍の重量)の超純水中に25℃で1週間浸漬させ、平衡含水させる。この際、1時間当たりの重量変化が±1重量%以内になっていることを確認する。平衡含水させた試料を適量採取し、試料表面の過剰な水分を低発塵ワイパで吸い取った後、予め重量を測定したガラスシャーレ上に乗せ、3分以内に重量を測定する(Waq(g))。別途、平衡含水させた試料を120℃で1時間真空乾燥させ、デシケーター内で30分間放冷後、重量を測定する(Wdry(g))。測定した重量から、下記の数式2に基づいて平衡含水率(x、重量%)を求める。
【0061】
【数2】
【0062】
上記の平衡含水させた試料について、下記の条件にて示差走査熱量測定(以降、「DSC」)による分析を行い、水の低温結晶化及び融解挙動を測定する。そして、高分子材料に吸着した水を自由水、中間水、不凍水に分類し、平衡含水率と−40℃の低温結晶化熱量(−ΔHcc)および0℃の融解熱量(ΔHm)から、試料中に存在する各水和構造の割合を算出する。具体的には、中間水含有率(a、重量%)、ならびに必要に応じて自由水含有率(重量%)および不凍水含有率(重量%)を求める。
【0063】
(DSC測定条件)
温度範囲: −90℃(10分間保持) → 50℃
昇温速度: 2.5℃/min
測定雰囲気: 窒素 50 ml/min
測定容器: アルミニウム製ハーメチックパン
使用装置: DSC Q100 TA instruments 社製。
【0064】
(各水和構造の重量及び割合の算出方法)
「平衡含水率(wt%)=不凍水(wt%)+中間水(wt%)+自由水(wt%)」と定義し、以下の方法にて、各水和構造の重量と割合を算出する。
【0065】
中間水: −ΔHcc(mJ)を水の凝固熱量334J/gで除算し、中間水の重量(mg)を求める。また、中間水の重量を測定試料量で除算し、中間水含有率(a、重量%)を求める。
【0066】
自由水: ΔHm(mJ)を水の融解熱量334J/gで除算し、中間水と自由水の合計重量(mg)を求める。合計重量から中間水の重量を減算し、自由水の重量(mg)を求める。また、自由水の重量を測定試料量で除算し、自由水含有率(重量%)を求める。
【0067】
不凍水: 測定試料量(mg)に平衡含水率(x、重量%)を乗算し、平衡含水量(mg)を求める。平衡含水量から中間水の重量と自由水の重量を減算し、不凍水の重量(mg)を求める。また、不凍水の重量を測定試料量で除算し、不凍水含有率(重量%)を求める。
【0068】
上記のような中間水割合が高いポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレートをコーティング材に用いることにより、コート層へのタンパク質吸着や血栓の付着がより一層抑制され得る。ポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレートの中間水割合は、35%以上であることがより好ましく、37%以上であることがさらに好ましい。中間水割合の上限は特に制限されない(上限100%)。
【0069】
ポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレートの中間水割合は、例えば、重量平均分子量を適切に調節することによって制御できる。例えば、中間水割合は、重量平均分子量を増加させることによって大きくできる。より具体的には、ポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)の場合には、重量平均分子量を9万超にすることによって、32%を超える高い中間水割合に制御できる。
【0070】
上記一般式(2)で示される構造単位(A)は、上記一般式(1)で示される単量体に由来する。本発明に係るポリマーは、上記一般式(1)で示される単量体と共重合可能な、上述の他の単量体に由来する構造単位を含んでも良い。
【0071】
本発明に係るポリマーは、全構成単位(100モル%)中、構造単位(A)を50〜100モル%有していればよいが、好ましくは70〜100モル%有し、より好ましくは構造単位(A)から構成される(100モル%)。構造単位(A)の割合を上記範囲とすることで、コート層の接着性や抗血栓性を向上させることができる。
【0072】
本発明に係るポリマーにおける構造単位(A)、および他の単量体に由来する構造単位の割合は、重合の際に用いる単量体の割合を変更することで任意に調整できる。
【0073】
本発明に係るポリマーの末端は特に制限されず、使用される原料の種類によって適宜規定されるが、通常、水素原子である。本発明に係るポリマーが共重合体の場合、共重合体の構造も特に制限されず、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0074】
得られた共重合体における構造単位(A)、および他の単量体に由来する構造単位の割合は、NMR法や、赤外線スペクトル解析等により確認すればよい。例えば、構造単位(A)、および他の単量体に由来する構造単位で構成される共重合体の場合、H−NMR測定における積分比によって共重合体における、構造単位(A)と他の単量体に由来する構造単位との割合を解析できる。また、H−NMRの測定においてピークが重なる場合は、13C−NMRを用いて算出することができる。
【0075】
本実施形態に係る抗血栓性コーティング材は、本発明に係るポリマーがメタノールまたは水/メタノール混合液に溶解されてなる。本発明に係るポリマーを溶解する媒質としては、ポリマーの溶解性の観点から、メタノールまたは水/メタノール混合液を用いる。他の媒質を用いると、本発明に係るポリマーを所望の濃度で溶解することが困難となる。媒質として水/メタノール混合液を用いる場合、水とメタノールとの体積比は本発明に係るポリマーを所望の濃度で溶解し得る限り特に制限されないが、水:メタノールの体積比(v/v)として、例えば0.1:99.9〜99:1(v/v)であり、好ましくは80:20〜99:1(v/v)であり、より好ましくは85:15〜97:3(v/v)である。
【0076】
本実施形態に係る抗血栓性コーティング材に含まれる本発明に係るポリマーの量は、任意に設定でき、例えば、コーティング材全体に対して、本発明に係るポリマーを0.01〜50重量%含み、好ましくは0.1〜50重量%含み、より好ましくは0.2〜10重量%含む。
【0077】
本発明に係るポリマーを、メタノールまたは水/メタノール混合液に溶解させる方法は特に制限されず、従来公知の方法を採用することができるが、例えば、攪拌機、ホモジナイザー、超音波処理等により行うことができる。
【0078】
[医療用具]
本発明に係る製造法方法によって得られた抗血栓性コーティング材や、本発明に係るメタノールもしくは水/メタノール混合液に溶解されてなる抗血栓性コーティング材は、医療用具に好適に利用される。すなわち、本発明の一実施形態は、基材と、前記基材表面に、本発明に係る製造法方法によって得られた抗血栓性コーティング材または本発明に係るメタノールもしくは水/メタノール混合液に溶解されてなる抗血栓性コーティング材の塗膜からなるコート層と、を有する医療用具である。
【0079】
医療用具としては、例えば、体内埋入型の人工器官や治療器具、体外循環型の人工臓器類、カテーテル、ガイドワイヤー等を例示できる。具体的には、血管や管腔内へ挿入若しくは置換される人工血管、人工気管、ステント人工皮膚、人工心膜等の埋入型医療器具;人工心臓システム、人工肺システム、人工心肺システム、人工腎臓システム、人工肝臓システム、免疫調節システム等の人工臓器システム;留置針、IVHカテーテル、薬液投与用カテーテル、サーモダイリューションカテーテル、血管造影用カテーテル、血管拡張用カテーテルおよびダイレーター若しくはイントロデューサー等の血管内に挿入若しくは留置されるカテーテル;、または、これらのカテーテル用のガイドワイヤー、スタイレット等;胃管カテーテル、栄養カテーテル、経管栄養用(ED)チューブ、尿道カテーテル、導尿カテーテル、バルーンカテーテル、気管内吸引カテーテルをはじめとする各種の吸引カテーテルや排液カテーテル等の血管以外の生体組織に挿入若しくは留置されるカテーテル類;が例示できる。特に、大量の血液と接する人工肺システム、または人工心肺システムに対して、上記の抗血栓性コーティング材は好適に使用される。例えば、抗血栓性コーティング材の塗膜からなるコート層を中空糸膜外部血液灌流型人工肺の中空糸膜に形成する場合、中空糸膜の肉厚(膜厚、中空糸膜の内表面と外表面との間の肉厚)は、例えば20μm〜100μmである。
【0080】
(基材)
医療用具の基材の材質としては、特に制限されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンや変性ポリオレフィン;ポリアミド;ポリイミド;ポリウレタン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等のポリエステル;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン(PVDC);ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素樹脂等の各種高分子材料、金属、セラミック、カーボン、およびこれらの複合材料等が例示できる。上記の高分子材料は延伸処理がなされたもの(例えば、ePTFE)であっても良い。
【0081】
基材の形状は医療用具の用途等に応じて適宜選択され、例えば、チューブ状、シート状、ロッド状等の形状をとりうる。基材の形態は、上記のような材料を単独で用いた成型体に限定されず、ブレンド成型物、アロイ化成型物、多層化成形物などでも使用可能である。基材は単層であっても、積層されていてもよい。この際、基材が積層されている場合には、各層の基材は同じものであっても、異なるものであってもよい。ただし、溶媒で基材を膨潤させて重合体を強固に固定化したい場合、少なくとも基材表面に存在させる材料としては、上記高分子材料が溶媒により良好に膨潤し得るため好ましい。
【0082】
本発明において、「基材表面」とは、生体組織や血液等の体液と対する基材面である。重合体を有するコート層が基材表面に形成されることにより、基材表面の抗血栓性が向上する。医療用具においては、生体組織や血液等の体液と対する基材面に重合体を有するコート層が形成されていればよいが、コート層がその他の面にも形成されることを妨げるものではない。
【0083】
コート層の基材表面への安定性を高めるため、基材表面にコート層を形成する前に、基材を表面処理しても良い。基材の表面処理の方法としては、例えば、活性エネルギー線(電子線、紫外線、X線等)を照射する方法、アーク放電やコロナ放電、グロー放電等のプラズマ放電を利用する方法、高電界を印加する方法、極性液体(水等)を介した超音波振動を作用させる方法、オゾンガスにより処理する方法等が挙げられる。
【0084】
(コート層)
上記医療用具においては、上記抗血栓性コーティング材の塗膜からなるコート層が、基材表面に形成される。
【0085】
基材表面へのコート層の形成は、上記抗血栓性コーティング材を含む塗布液(例えば、上記の本発明に係るポリマーのメタノール溶解液)を塗布することによって基材表面を被覆する。なお、「被覆」とは、基材の表面全体がコート層により完全に覆われている形態のみならず、基材の表面の一部がコート層により覆われている形態、すなわち、基材表面の一部にコート層が付着した形態をも含むものとする。
【0086】
上記抗血栓性コーティング材を含む塗布液を基材表面へ塗布する方法は公知の方法を採用することができ、特に限定されるものではないが、例えば、ディップコーティング、噴霧、スピンコーティング、滴下、ドクターブレード、刷毛塗り、ロールコーター、エアーナイフコート、カーテンコート、ワイヤーバーコート、グラビアコート等が挙げられる。
【0087】
塗布液の厚さは医療用具の用途によって適宜調整すればよく、特に制限されるものではないが、例えば0.1μmよりも薄く形成される。
【0088】
上記抗血栓性コーティング材を含む塗布液を塗布した基材表面を乾燥させることにより、基材表面にコート層が形成される。乾燥工程は、基材のガラス転移温度等を考慮して適宜設定すればよいが、例えば20〜80℃で0.5〜10時間である。乾燥工程における雰囲気は特に制限されず、大気中、または窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うこともできる。
【実施例】
【0089】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行った。
【0090】
[1.製造例]
(実施例1. 重合体の重量平均分子量:14万)
メトキシエチルアクリレート(MEA)15g(0.115mol)を、80gのメタノールに溶解し、四口フラスコに入れ、50℃でNバブリングを1時間行い、メタノール溶液を調製した(メタノール溶液調製工程)。その後、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70、和光純薬工業株式会社製、10時間半減期温度:30℃)0.015gを5gのメタノールに溶解した開始剤溶液を、MEAを溶解したメタノール溶液に加えて重合反応液(重合反応液の単量体含量:15重量%)を調製した。重合反応液を攪拌しつつ、窒素ガス雰囲気下にて50℃で5時間重合させた。重合後の液をエタノールに滴下し、析出した重合体を回収した。なお、回収した重合体の重量平均分子量は、14万であった。
【0091】
(実施例2. 重合体の重量平均分子量:20万)
メトキシエチルアクリレート(MEA)15g(0.115mol)を、55gのメタノールに溶解し、四口フラスコに入れ、50℃でNバブリングを1時間行い、メタノール溶液を調製した(メタノール溶液調製工程)。その後、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70、和光純薬工業株式会社製、10時間半減期温度:30℃)0.015gを5gのメタノールに溶解した開始剤溶液を、MEAを溶解したメタノール溶液に加えて重合反応液(重合反応液の単量体含量:20重量%)を調製した。重合反応液を攪拌しつつ、窒素ガス雰囲気下にて50℃で5時間重合させた。重合後の液をエタノールに滴下し、析出した重合体を回収した。なお、回収した重合体の重量平均分子量は、20万であった。
【0092】
(実施例3. 重合体の重量平均分子量:25万)
メトキシエチルアクリレート(MEA)15g(0.115mol)を、40gのメタノールに溶解し、四口フラスコに入れ、50℃でNバブリングを1時間行い、メタノール溶液を調製した(メタノール溶液調製工程)。その後、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70、和光純薬工業株式会社製、10時間半減期温度:30℃)0.015gを5gのメタノールに溶解した開始剤溶液を、MEAを溶解したメタノール溶液に加えて重合反応液(重合反応液の単量体含量:25重量%)を調製した。重合反応液を攪拌しつつ、窒素ガス雰囲気下にて50℃で5時間重合させた。重合後の液をエタノールに滴下し、析出した重合体を回収した。なお、回収した重合体の重量平均分子量は、25万であった。
【0093】
(実施例4. 重合体の重量平均分子量:32万)
メトキシエチルアクリレート(MEA)15g(0.115mol)を、30gのメタノールに溶解し、四口フラスコに入れ、50℃でNバブリングを1時間行い、メタノール溶液を調製した(メタノール溶液調製工程)。その後、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70、和光純薬工業株式会社製、10時間半減期温度:30℃)0.015gを5gのメタノールに溶解した開始剤溶液を、MEAを溶解したメタノール溶液に加えて重合反応液(重合反応液の単量体含量:30重量%)を調製した。重合反応液を攪拌しつつ、窒素ガス雰囲気下にて50℃で5時間重合させた。重合後の液をエタノールに滴下し、析出した重合体を回収した。なお、回収した重合体の重量平均分子量は、32万であった。
【0094】
(実施例5. 重合体の重量平均分子量:41万)
メトキシエチルアクリレート(MEA)15g(0.115mol)を、25gのメタノールに溶解し、四口フラスコに入れ、50℃でNバブリングを1時間行い、メタノール溶液を調製した(メタノール溶液調製工程)。その後、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70、和光純薬工業株式会社製、10時間半減期温度:30℃)0.015gを3gのメタノールに溶解した開始剤溶液を、MEAを溶解したメタノール溶液に加えて重合反応液(重合反応液の単量体含量:35重量%)を調製した。重合反応液を攪拌しつつ、窒素ガス雰囲気下にて50℃で5時間重合させた。重合後の液をエタノールに滴下し、析出した重合体を回収した。なお、回収した重合体の重量平均分子量は、41万であった。
【0095】
(実施例6. 重合体の重量平均分子量:42万)
メトキシエチルアクリレート(MEA)80g(0.61mol)を115gのメタノールに溶解し、四口フラスコに入れ、50℃でNバブリングを1時間行い、メタノール溶液を調製した(メタノール溶液調製工程)。その後、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70、和光純薬工業株式会社製、10時間半減期温度:30℃)0.08gを5gのメタノールに溶解した開始剤溶液を、MEAを溶解したメタノール溶液に加えて重合反応液(重合反応液の単量体含量:40重量%)を調製した。重合反応液を攪拌しつつ、窒素ガス雰囲気下にて50℃で5時間重合させた。重合後の液をエタノールに滴下し、析出した重合体を回収した。なお、回収した重合体の重量平均分子量は、42万であった。
【0096】
(実施例7. 重合体の重量平均分子量:80万)
メトキシエチルアクリレート(MEA)100g(0.77mol)を95gのメタノールに溶解し、四ツ口フラスコに入れ、50℃でNバブリングを1時間行い、メタノール溶液を調製した(メタノール溶液調製工程)。その後、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70、和光純薬工業株式会社製、10時間半減期温度:30℃)0.1gを5gのメタノールに溶解した開始剤溶液を、MEAを溶解したメタノール溶液に加えて重合反応液(重合反応液の単量体含量:50重量%)を調製した。重合反応液を攪拌しつつ、窒素ガス雰囲気下にて50℃で5時間重合させた。重合後の液をエタノールに滴下し、析出した重合体を回収した。なお、回収した重合体の重量平均分子量は、80万であった。
【0097】
(比較例1. 重合体の重量平均分子量:6万)
メトキシエチルアクリレート(MEA)15g(0.115mol)を、80gのトルエンに溶解し、四口フラスコに入れ、80℃でNバブリングを1時間行い、トルエン溶液を調製した。その後、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V−601、和光純薬工業株式会社製、10時間半減期温度:66℃)0.015gを5gのトルエンに溶解した開始剤溶液を、MEAを溶解したトルエン溶液に加えて反応液(反応液の単量体含量:15重量%)を調製した。反応液を攪拌しつつ、窒素ガス雰囲気下にて80℃で5時間重合させた。重合後の液をノルマルヘキサンに滴下し、析出した重合体を回収した。なお、回収した重合体の重量平均分子量は、6万であった。
【0098】
(比較例2. 重合体の重量平均分子量:9万)
メトキシエチルアクリレート(MEA)15g(0.115mol)を、55gのトルエンに溶解し、四口フラスコに入れ、80℃でNバブリングを1時間行い、トルエン溶液を調製した。その後、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V−601、和光純薬工業株式会社製、10時間半減期温度:66℃)0.015gを5gのトルエンに溶解した開始剤溶液を、MEAを溶解したトルエン溶液に加えて反応液(反応液の単量体含量:20重量%)を調製した。反応液を攪拌しつつ、窒素ガス雰囲気下にて80℃で5時間重合させた。重合後の液をノルマルヘキサンに滴下し、析出した重合体を回収した。なお、回収した重合体の重量平均分子量は、9万であった。
【0099】
(比較例3. 重合体の重量平均分子量:12万)
メトキシエチルアクリレート(MEA)15g(0.115mol)を、40gのトルエンに溶解し、四口フラスコに入れ、80℃でNバブリングを1時間行い、トルエン溶液を調製した。その後、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V−601、和光純薬工業株式会社製、10時間半減期温度:66℃)0.015gを5gのトルエンに溶解した開始剤溶液を、MEAを溶解したトルエン溶液に加えて反応液(反応液の単量体含量:25重量%)を調製した。反応液を攪拌しつつ、窒素ガス雰囲気下にて80℃で5時間重合させた。重合後の液をノルマルヘキサンに滴下し、析出した重合体を回収した。なお、回収した重合体の重量平均分子量は、12万であった。
【0100】
(比較例4.)
メトキシエチルアクリレート(MEA)15g(0.115mol)を、30gのトルエンに溶解し、四口フラスコに入れ、80℃でNバブリングを1時間行い、トルエン溶液を調製した。その後、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V−601、和光純薬工業株式会社製、10時間半減期温度:66℃)0.015gを5gのトルエンに溶解した開始剤溶液を、MEAを溶解したトルエン溶液に加えて反応液(反応液の単量体含量:30重量%)を調製した。ラジカル重合開始剤添加直後、急激な温度と粘度の上昇が確認され、反応液のゲル化が生じたため、加熱撹拌を中止した。
【0101】
(比較例5.)
メトキシエチルアクリレート(MEA)15g(0.115mol)を、25gのトルエンに溶解し、四口フラスコに入れ、80℃でNバブリングを1時間行い、トルエン溶液を調製した。その後、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V−601、和光純薬工業株式会社製、10時間半減期温度:66℃)0.015gを3gのトルエンに溶解した開始剤溶液を、MEAを溶解したトルエン溶液に加えて反応液(反応液の単量体含量:35重量%)を調製した。ラジカル重合開始剤添加直後、急激な温度と粘度の上昇が確認され、反応液のゲル化が生じたため、加熱撹拌を中止した。
【0102】
(比較例6. 重合体の重量平均分子量:9万)
メトキシエチルアクリレート(MEA)15g(0.115mol)を、40gのトルエンに溶解し、四口フラスコに入れ、50℃でNバブリングを1時間行い、トルエン溶液を調製した。その後、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70、和光純薬工業株式会社製、10時間半減期温度:30℃)0.015gを5gのトルエンに溶解した開始剤溶液を、MEAを溶解したトルエン溶液に加えて反応液(反応液の単量体含量:25重量%)を調製した。反応液を攪拌しつつ、窒素ガス雰囲気下にて50℃で5時間重合させた。重合後の液をヘキサンに滴下し、析出した重合体を回収した。なお、回収した重合体の重量平均分子量は、9万であった。
【0103】
【表1】
【0104】
[2.抗血栓性試験]
(コート層の形成)
実施例2、3、5、および比較例2で得た重合体を、それぞれ1重量%の濃度でメタノールに溶解した。
【0105】
ePTFE製人工血管(内径5mm、外径7mm、全長5cm)を、それぞれ上記のメタノール溶液に浸漬し、5分間静置した。人工血管をメタノール溶液から取り出し、60℃に設定したオーブンで3〜4時間加熱乾燥し、コート層を形成した。
【0106】
(抗血栓性試験)
軟質塩化ビニルチューブ(内径6mm、全長27cm)の両端にポリカーボネート製コネクタを接続した。さらにその一方のコネクタに、上記のようにしてコート層を形成した各人工血管の一端を接続した。軟質塩化ビニルチューブの内腔に、へパリンで抗凝固性を高めたヒト血液(へパリン濃度0.2unit/ml)4.5mlを充填した。その後、人工血管と接続されていない方のコネクタと、コネクタと接続されていない側の人工血管端部とを接続し、ループを形成した。円筒型回転装置にループを固定し、14回転/分で120分間、室温(25℃)にて血液をループ内腔中で循環させた。人工血管をループから取り外し、生理食塩水で人工血管内腔を洗浄し、内腔表面(血液接触面)に形成された血栓を1重量%のグルタルアルデヒド水溶液により固定(25℃)した。固定処理後、人工血管を水洗、乾燥し、人工血管の血液接触面を電子顕微鏡で観察し、血栓形成の程度を確認した。電子顕微鏡による観察画面全体の面積に対し、形成された血栓によって被覆された面積の比率を算出した。その結果を表2に示す。
【0107】
【表2】
【0108】
表2に示す通り、高分子量の重合体を含む抗血栓性コーティング材を用いることにより、血栓形成が抑制された。これは、抗血栓性コーティング材の塗膜によって形成されたコート層が安定していることを示す。
【0109】
[3.血液循環試験]
上記実施例5で得られた重量平均分子量41万の重合体をコートした基材(多孔質ポリプロピレン製のガス交換用多孔質中空糸膜、中空糸の肉厚25μm)について、下記方法に従って、抗血栓性を評価した。
【0110】
すなわち、水/メタノール混合液(水:メタノール=95:5(v/v))に0.05重量%の濃度で重合体を溶解して、コーティング材(コート液)を得た。このコーティング材を、模擬製品形態(血液循環モジュール)に血液インポート側から充填し、120秒間静置した。その後、コーティング材を血液循環モジュールから除去し、常温(25℃)で240分間、送風乾燥してコート層を形成した。この血液循環モジュールを体外循環回路中に組み込み、ヘパリン(0.45unit/ml)添加ヒト新鮮血90mlおよび生理食塩水110mlを混合した希釈ヒト新鮮血(へパリン:0.2unit/ml)で充填した。室温(25℃)、500ml/minで、血液循環モジュール内に希釈ヒト新鮮血を循環させた。循環開始から60分後に、血液循環回路から血液をサンプリングし、血小板数を測定し、循環開始前の血小板数(100%)に対する循環後の血小板数の割合(血小板数維持率)を求めた。その結果、血小板数維持率は、91%であった。
【0111】
実施例5の重合体を含むコーティング材をコートした血液循環モジュールにおいては、高い維持率で血小板が維持された。すなわち、凝固系、血小板系の活性化を起点とした血小板の凝集、基材への付着等による血小板数の低下が少なく、優れた抗血栓性を有していることが確認できた。
【0112】
[4.キャスト膜形成性試験]
実施例6で合成した重合体(重量平均分子量=42万)を、重合体の濃度が1重量%となるように、メタノールに溶解させた(コーティング材(1))。別途、比較例2で合成した重合体(重量平均分子量=9万)を、重合体の濃度が1重量%となるように、メタノールに溶解させた(コーティング材(2))。コーティング材(1)およびコーティング材(2)について、下記方法によって、キャスト膜を作製し、膜の形成性を評価した。
【0113】
厚さが50μmで10cm×10cmの大きさの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを準備した。このポリプロピレンフィルム上に、コーティング材を0.1g滴下し、室温(25℃)で5時間乾燥して、コート層(キャスト膜)をポリプロピレンフィルム上に形成した。次いで、コート層(キャスト膜)をフェノールレッド水溶液で染色し、キャスト膜の形態を観察した。
【0114】
コーティング材(1)で作製したキャスト膜は円形を維持しており、キャスト膜が安定であった。それに対し、コーティング材(2)で作製したキャスト膜は、綺麗な膜状を維持できていなかった。コーティング材(1)では、重合体が高分子量化することによって分子鎖同志の絡み合いが増し、強靭なキャスト膜を形成したと考えられる。
【0115】
[5.水和構造の解析]
実施例3、実施例5、実施例7および比較例2で得られた重合体を、それぞれ約0.1gを秤量し、過剰量(重合体重量の100倍の重量)の超純水中に25℃で1週間浸漬させ、平衡含水させた。1時間当たりの重量変化が±1重量%以内になっていることを確認した。平衡含水させた各試料を適量採取し、試料表面の過剰な水分を低発塵ワイパで吸い取った後、予め重量を測定したガラスシャーレ上に乗せ、3分以内に重量を測定した(Waq(g))。別途、平衡含水させた試料を120℃で1時間真空乾燥させ、デシケーター内で30分間放冷後、重量を測定した(Wdry(g))。測定した重量から、上記の方法にて平衡含水率(x、重量%)、中間水含有率(a、重量%)、自由水含有率(重量%)、および不凍水含有率(重量%)を求めた。
【0116】
【表3】
【0117】
[6.タンパク吸着試験]
実施例7および比較例2の重合体をそれぞれ終濃度1重量%となるようにメタノールに溶解させ、コーティング材(3)(Mw=80万)およびコーティング材(4)(Mw=9万)を調製した。ポリプロピレン製2軸延伸フィルム(FOP50、二村化学製、厚さ50μm)に上記コーティング材(3)またはコーティング材(4)をキャストした後、室温(25℃)にて48時間以上、静置乾燥した。その後、下記の手順に従って、タンパク吸着試験を実施した。また、比較としてキャスト膜を形成しないポリプロピレン製2軸延伸フィルムを用いて同様の試験を行った。
【0118】
BSA(ウシ血清アルブミン、Sigma社製)を1重量%の濃度で含むTBS溶液に各フィルムを浸漬し、室温(25℃)で1時間振とうした。その後、フィルムをTBS−T希釈液に浸漬し、5分間洗浄した。洗浄は3回繰り返した。次いで、フィルムを5重量%のスキムミルク(和光純薬製)TBS溶液に浸漬し、室温(25℃)で1時間振とうし、ブロッキングを行った。フィルムをTBS−T希釈液に浸漬し、5分間洗浄した。洗浄は3回繰り返した。次いで、1次抗体(ウサギ抗ウシアルブミン抗体、BETHYL社製)の希釈液(抗体濃度 5μg/ml)に浸漬し、室温(25℃)にて2時間振とうした。フィルムをTBS−T希釈液に浸漬し、5分間洗浄した。洗浄は3回繰り返した。金標識された2次抗体(ヤギ抗ウサギIgG抗体、KPL社製)の希釈液(原液の100倍希釈)に浸漬し、室温(25℃)にて2時間振とうした。フィルムをTBS−T希釈液に入れ、5分間洗浄した。洗浄は3回繰り返した。その後、シルバーエンハンサーキット(Sigma製)で、吸着した金の増感処理を行った。増感処理した表面を白金蒸着した後、走査型電子顕微鏡(機器名:S−3400N、日立ハイテクノロジーズ社製、倍率:5000倍)で観察した。なお、TBSおよびTBS−T希釈液の組成は下記の通りである。
【0119】
TBS: 24.2gのTris(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)、80gのNaClを純水に溶解させ、HClでpHを7.6に調製した。純水を加えて総量を1Lに調製(0.2M Tris)した。
【0120】
TBS−T希釈液: 上記のTBSに終濃度0.05重量%となるようにTween(登録商標)を溶解した。
【0121】
結果を図3に示す。図3に示す通り、コーティング材(4)でコート層を形成したキャストフィルム(図3b)に比べて、コーティング材(3)でコート層を形成したキャストフィルム(図3c)では、銀粒子がほとんどみられず、タンパク吸着量が非常に少なかった。平衡含水させた場合における中間水の割合が多いポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレートを含むコーティング材は、コート性に優れ、タンパク吸着量が非常に少ないことが示された。
図1
図2
図3