(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を説明するが、これらに本発明が限定されるものではない。
【0018】
本発明に係る染毛剤組成物は、油剤、水性成分および染料を含み、油剤の少なくとも一部が、水酸基を有する重縮合ポリマー粒子で包囲された構造体の内側に位置しており、水性成分の少なくとも一部が、前記構造体の外側に位置し、O/W型エマルションであることを特徴とする。具体的に、水酸基を有する重縮合ポリマー粒子が、外相をなす水相と、内相をなす油相との界面に介在して前記油相を包囲する。これにより、毛髪に対して低刺激であるにもかかわらず、染毛性を向上することができる。
【0019】
重縮合ポリマー粒子は、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体と同様、親水性の粒子であり、ファンデルワールス力によって水相と油相との界面に介在することで、乳化状態を維持する。この作用は、親水性部分および疎水性部分をそれぞれ水相および油相に向け、相間の界面張力を下げることで乳化状態を維持する界面活性剤とは全く異なる(例えば特許3855203号公報参照)。
【0020】
前記効果が奏される機構は、特に限定されないが、次のように推測される。
前記構造体は、油剤が表面親水性の閉鎖小胞体または重縮合ポリマー粒子で包囲された構造を有しており、分子として遊離する染料やカチオン性界面活性剤などの界面活性剤に比べてサイズが大きい。したがって、前記構造体の移動速度は、染料やカチオン性界面活性剤などの界面活性剤に比べて遅い。そのため、前記構造体がキューティクルに付着するよりも前に、多くの染料は毛髪内に侵入または毛髪に付着することができると考えられる。よって、前記構造体は、染料の毛髪内への侵入または毛髪への付着を阻害しにくい。しかも、染料が毛髪内に侵入又付着した後、前記構造体がキューティクル表面に付着することにより、侵入または付着した染料が流失することを抑制できる。これにより、染毛性が向上するので、短時間で効率良く染毛を終えて、染毛剤組成物を毛髪から洗い流すことが可能となる。そのため、染毛剤組成物が毛髪に接触する時間が短くなるため、毛髪へのダメージ(毛髪への刺激)を抑制することができる。
また、染毛剤組成物による毛髪へのダメージは、染料を浸透させるために行う毛髪の酸やアルカリ処理によって、毛髪のタンパク質が変性してしまうことに起因する。更に、ダメージを受けてキューティクルが開いた毛髪がそのままの状態で乾燥してしまうことにより、毛髪のダメージはより一層大きくなる。従来の染毛剤組成物の場合、カチオン性界面活性剤などの界面活性剤がキューティクルの隙間に入り込み吸着するため、キューティクルの開きが元に戻りにくくなり、毛髪がダメージを受けやすい。一方、本願発明の染毛剤組成物の場合、前記構造体が毛髪の表面に付着することにより、開いたキューティクルが元に戻りやすくなり、毛髪のダメージが軽減される。しかも、前記構造体は、カチオン性界面活性剤などの界面活性剤に比べ抱水力に優れており、付着することによって毛髪に潤いを与えるため、キューティクルが開いた状態のまま毛髪が乾燥することを抑制できる。その結果、毛髪へのダメージは軽減(つまり低刺激)される。また、これにより、毛髪内に侵入または毛髪に付着した染料がキューティクルの隙間から流失することも抑制されるため、染毛性が相乗的に向上するという利点もある。前記の機構により、本願発明の染毛剤組成物は、従来の染毛剤組成物に比べて、毛髪への刺激が低減するにもかかわらず、染毛性が向上すると考えられる。このような機構を
図1に概略的に示した。
【0021】
本発明の染毛剤組成物とは、毛髪などの体毛を染色することを目的として使用される組成物を意味する。具体的には、例えば、永久染毛剤(パーマネントヘアカラー)、半永久染毛料(セミパーマネントヘアカラー)、一時染毛料などが、本発明の染毛剤組成物に含まれる。また、パーティーなどで使用されるヘアカラースプレーなどの雑貨も、染色することを目的として使用される組成物であるため、本発明の染毛剤組成物に含まれる。中でも、本発明による前記作用効果が発揮されやすい点で、染料が毛髪内へと侵入する永久染毛剤または半永久染毛料が好ましい。
【0022】
エマルションとは、互いに混ざり合わない2相間で、一方が他方の相に粒子状に分散している分散系をいう。本願におけるエマルションとは、流動性が高いエマルション(例えば、ローション状、ミルク状などのエマルション)だけでなく、流動性が低いエマルション(例えば、クリーム状やゲル状などのエマルション)も含むものとする。なお、エマルションの流動性は高いことが多いが、水性成分や油剤の組成やその他の条件によっては、低くなる場合もある。
【0023】
本発明の染毛剤組成物は、毛髪に使用されることが望ましいが、例えば、眉毛、すね毛など、毛髪以外の体毛にも使用することができる。また、本発明の染毛剤組成物は、ヒトに使用することが望ましいが、例えば、イヌ、ネコなど、ヒト以外の動物の体毛にも使用することができる。
【0024】
染毛剤組成物は、従来公知のように、そのタイプ、組成、使用方法に応じ、一剤または二剤以上であってよい。二剤以上である場合における本発明の染毛剤組成物では、前記構造体および水性成分が二剤以上の少なくともいずれか1剤に含まれていればよい(構造体および水性成分が含有される剤は、他の剤と組み合わされるか否かにかかわらず、染毛剤組成物に該当する)。ただし、本明細書における各成分の染毛剤組成物に対する含有量とは、二剤以上の合計量に対する含有量を指す。
【0025】
構造体の含有量は、所望の染毛性向上の程度に応じて適宜調整すれば良く、特に制限されない。本願において「構造体の含量」とは、構造体の表面を包囲する自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体または水酸基を有する重縮合ポリマー粒子の含有量と、前記閉鎖小胞体または水酸基を有する重縮合ポリマー粒子に包囲されて内包される成分の含有量とを合計した含有量のことを意味する。なお、本願における「構造体の含有量」は特に限定されないが、具体的には、例えば、染毛剤組成物に対し0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.5質量%以上であってよい。
【0026】
本発明において構造体を含むエマルションを添加する場合、構造体を含むエマルションの含有量は、所望の染毛性向上の程度に応じて適宜調整すれば良く、特に制限されない。本願において「構造体を含むエマルションの含有量」とは、染毛剤組成物に添加する構造体を含むエマルションの染毛剤組成物に対する含有量のことであり、構造体および構造体の外側にある水性成分の含有量を合計した含有量のことを意味する。なお、本願における「構造体を含むエマルションの含有量」は特に限定されないが、具体的には、例えば、染毛剤組成物に対し0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.2質量%以上であってよい。
【0027】
油剤は、染毛剤組成物で使用可能な油剤であればよく、極性または非極性、常温(20℃)において液体または固体であってよい。ただし、キューティクルを保護し、染毛性および低刺激性を実現しやすい点で、油剤は、抱水性油剤、または20℃において固形である固形油を含有することが好ましい。抱水性油剤または固形油が構造体に包含される場合、毛髪の周囲に前記構造体が付着した後も、構造体は変形せずに、球状のままの立体的形状を保ちやすい。その結果、毛髪に付着した隣接する構造体同士の間に立体的な隙間が生じ、その隙間を通じて染料が毛髪内に侵入することが可能となる。そのため、抱水性油剤または固形油が構造体に含まれる場合、染毛剤組成物の染毛性が高まると考えられる。
【0028】
抱水性油剤は、特に限定されないが、分子内に1以上の極性基を有し、常温で液体もしくはペースト状や固体の油溶性物質であってよい。例えば、イソステアリン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、リシノレイン酸などの脂肪酸、ラノリン、ラノリンアルコール、水素添加ラノリンアルコールなどのラノリン誘導体、セタノール、ヘキシルデカノール、ステアリルアルコール、オクチルドデカノール、オレイルアルコール、セトステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、ベヘニルアルコールなどの高級アルコール、コレステロール誘導体およびフィトステロール誘導体などの動植物油由来の脂肪酸エステルおよび脂肪酸オリゴマーエステルが挙げられ、これらの1種または2種以上であってよい。前記コレステロール誘導体およびフィトステロール誘導体としては、マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル、マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリル、ラノリン脂肪酸コレステリル、12−ヒドロキシステアリン酸コレステリルなどが挙げられる。
【0029】
本願において、「20℃において固形である固形油」とは、20℃において流動性がない油のことを意味する。「20℃において固形である固形油」としては、20℃において流動性がない、炭化水素、ロウ、硬化油、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル類、シリコーン類、水添植物油などが使用できる。具体的には、パラフィンワックス、ワセリン、ミツロウ、ステアリン酸、ミリスチン酸、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ヒドロキシステアリン酸コレステリルなどのコレステロール脂肪酸エステル、マカデミアンナッツ油脂肪酸フィトステリルなどのフィトステロール脂肪酸エステル、水添ホホバ油などが挙げられる。
【0030】
油剤の含有量は、染毛剤組成物に対して0.001質量%以上、0.01質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上であってもよく、30質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、5質量%以下であってもよい。
【0031】
水性成分は、精製水、温泉水、深層水、または植物などの水蒸気蒸留水などの水、もしくは水と親和性のある溶媒であれば特に限定されず、例えばグリセリン、1,3−ブチレングリコールなどの多価アルコール、エチルアルコールなどの低級アルコールなどが例示され、これらの1種または2種以上が用いられる。
【0032】
染料は、O/W型エマルションの任意の箇所に含まれてよいが、染料の少なくとも一部は、前記構造体の外側に位置することが好ましい。
【0033】
染料は、染毛剤組成物で使用可能な染料であればよく、染毛剤組成物のタイプに応じ適宜選択されてよい。
例えば、永久染毛剤においては、5−アミノオルトクレゾール、2−アミノ−4−ニトロフェノール、2−アミノ−5−ニトロフェノール、1−アミノ−4−メチルアミノアントラキノン、3,3’−イミノジフェノール、塩酸2,4−ジアミノフェノキシエタノール、塩酸2,4−ジアミノフェノール、塩酸トルエン−2,5−ジアミン、塩酸ニトロパラフェニレンジアミン、塩酸パラフェニレンジアミン、塩酸N−フェニルパラフェニレンジアミン、塩酸メタフェニレンジアミン、オルトアミノフェノール、酢酸N−フェニルパラフェニレンジアミン、1,4−ジアミノアントラキノン、2,6−ジアミノピリジン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、トルエン−2,5−ジアミン、トルエン−3,4−ジアミン、ニトロパラフェニレンジアミン、パラアミノフェノール、パラニトロオルトフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、パラメチルアミノフェノール、ピクラミン酸、ピクラミン酸ナトリウム、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−2,5−ジアミノ−1,4−キノンジイミン、5−(2−ヒドロキシエチルアミノ)−2−メチルフェノール、N−フェニルパラフェニレンジアミン、メタアミノフェノール、メタフェニレンジアミン、硫酸5−アミノオルトクレゾール、硫酸2−アミノ−5−ニトロフェノール、硫酸オルトアミノフェノール、硫酸オルトクロルパラフェニレンジアミン、硫酸4,4’−ジアミノジフェニルアミン、硫酸2,4−ジアミノフェノール、硫酸トルエン−2,5−ジアミン、硫酸ニトロパラフェニレンジアミン、硫酸パラアミノフェノール、硫酸パラニトロオルトフェニレンジアミン、硫酸パラニトロメタフェニレンジアミン、硫酸パラフェニレンジアミン、硫酸パラメチルアミノフェノ−ル、硫酸メタアミノフェノール、硫酸メタフェニレンジアミンなどの1種以上と、カテコ−ル、ジフェニルアミン、α−ナフトール、ヒドロキノン、ピロガロール、フロログルシン、没食子酸、レゾルシンなどの1種以上と、の組合せが挙げられる。
例えば、染毛料(半永久染毛料または一時染毛料)においては、2−ニトロパラフェニレンジアミン、4−ニトロオルトフェニレンジアミン、HC赤3、HC黄2、HC黄4、HC青1、HC赤1、HC橙1、酸性橙3などの1種以上が挙げられる。
【0034】
染料の含有量は、特に限定されず、染毛剤組成物に対して0.01質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上であってもよく、5質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下であってもよい。ただし、本発明の染毛剤組成物は染毛性に優れるため、過剰量の染料を用いなくてもよいため、染料の含有量は、染毛剤組成物に対して1〜2質量%であってよい。
【0035】
水性成分の含有量は、染毛剤組成物に対して70〜99.99質量%であってよい。
【0036】
閉鎖小胞体および重縮合ポリマー粒子は、エマルション形成前では平均粒子径8nm〜800nm程度であるが、O/W型エマルション構造においては平均粒子径8nm〜500nm程度である。なお、水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子は、単独で含まれても、両親媒性物質の閉鎖小胞体との組合せで含まれてもよい。組合せで含まれる場合には、例えば、別々に乳化したエマルションを混合してよい。
【0037】
自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質としては、特に限定されないが、リン脂質やリン脂質誘導体など、ポリグリセリン脂肪酸エステルなど、特に疎水基と親水基とがエステル結合したものを採用してもよい。また、刺激緩和性に優れる点で、ジラウロイルグルタミン酸リシンNaも好ましい。
【0038】
リン脂質としては、下記の一般式1で示される構成のうち、炭素鎖長12のDLPC(1,2−Dilauroyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−choline)、炭素鎖長14のDMPC(1,2−Dimyristoyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−choline)、炭素鎖長16のDPPC(1,2−Dipalmitoyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−choline)が採用可能である。
【0040】
また、下記の一般式2で示される構成のうち、炭素鎖長12のDLPG(1,2−Dilauroyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−glycerol)のNa塩またはNH4塩、炭素鎖長14のDMPG(1,2−Dimyristoyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−glycerol)のNa塩またはNH4塩、炭素鎖長16のDPPG(1,2−Dipalmitoyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−glycerol)のNa塩またはNH4塩を採用してもよい。
【0042】
更に、リン脂質として卵黄レシチンまたは大豆レシチンなどのレシチンまたはそれを水素化したものを採用してもよい。
【0043】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、ポリグリセリンと直鎖脂肪酸または分岐脂肪酸のエステルであり、具体的には、モノパルミチン酸ポリグリセリル、ジパルミチン酸ポリグリセリル、トリパルミチン酸ポリグリセリル、モノステアリン酸ポリグリセリル、ジステアリン酸ポリグリセリル、トリステアリン酸ポリグリセリル、モノイソステアリン酸ポリグリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル、トリイソステアリン酸ポリグリセリルなどが挙げられる。
【0044】
また、両親媒性物質として、下記の一般式3で表されるポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体、もしくは一般式4で表されるジアルキルアンモニウム誘導体、トリアルキルアンモニウム誘導体、テトラアルキルアンモニウム誘導体、ジアルケニルアンモニウム誘導体、トリアルケニルアンモニウム誘導体、またはテトラアルケニルアンモニウム誘導体のハロゲン塩の誘導体を採用しても良い。
【0046】
式中、エチレンオキシドの平均付加モル数であるEは、3〜100である。Eが過大になると、両親媒性物質を溶解する良溶媒の種類が制限されるため、親水性ナノ粒子の製造の自由度が狭まる。Eの上限は好ましくは50であり、より好ましくは40であり、Eの下限は好ましくは5である。
【0048】
式中、R1およびR2は、各々独立して炭素数8〜22のアルキル基またはアルケニル基であり、R3およびR4は、各々独立して水素または炭素数1〜4のアルキル基であり、XはF、Cl、Br、IまたはCH3COOである。
【0049】
水酸基を有する重縮合ポリマーは、天然高分子又は合成高分子のいずれであってもよく、乳化剤の用途に応じて適宜選択されてよい。ただし、安全性に優れ、一般的に安価である点で、天然高分子が好ましく、乳化機能に優れる点で以下に述べる糖ポリマーがより好ましい。なお、粒子とは、重縮合ポリマーが単粒子化したもの、又はその単粒子同士が連なったもののいずれも包含する一方、単粒子化される前の凝集体(網目構造を有する)は包含しない。
【0050】
糖ポリマーは、セルロース、デンプンなどのグルコシド構造を有するポリマーである。例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース誘導体、スルホン化セルロース誘導体などの合成高分子が挙げられる。
【0051】
また、水酸基を有する重縮合ポリマーは、カチオン性の重縮合ポリマーであっても良い。カチオン性の重縮合ポリマーは、特に限定されないが、例えば、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドなどのカチオン化グアーガム、ヒドロキシエチルセルロースヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドエーテルなどのカチオン化セルロースなどが挙げられる。
【0052】
本発明の染毛剤組成物は、更に界面活性剤を含有することができる。界面活性剤は、本発明の染毛剤組成物が、前記構造体中の油剤以外の油性成分を含有する場合に、この油性成分を乳化するために特に有用である。界面活性剤は、染毛剤組成物に含有される水性成分と油性成分(含有される場合)とを乳化させる機能を有する。また、キューティクルの隙間に入り込み吸着して、キューティクルの開きを大きくすることにより、染料を毛髪内に侵入または毛髪へ付着しやすくする機能を有する。他方、従来の染毛剤組成物は、界面活性剤がキューティクルを過剰に開かせてしまいやすく、また、過剰に開いたキューティクルがもとに戻ることを妨げるため、刺激性が高いという問題を有する。一方、本願発明の染毛剤組成物は、前記のように、前記構造体によってキューティクルの過剰な開きが抑制させるため、従来の染毛剤組成物が有する界面活性剤によるデメリットを抑えることができる。このため、本発明で用いられる界面活性剤は、染料の侵入または付着の促進機能に優れるカチオン性界面活性剤を含むことが好ましい。
【0053】
カチオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム(ステアリルトリモニウムクロリド)、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウムサッカリン、セチルトリメチルアンモニウムサッカリン、塩化メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム、メチル硫酸ベヘニルトリメチルアンモニウム、ポリクオタニウム−7などの1種以上が挙げられる。
【0054】
本発明で用いられる界面活性剤は、カチオン性界面活性剤とともにまたはカチオン性界面活性剤を含まずに、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤を含んでもよい。
【0055】
アニオン性界面活性剤としては、アルキル(またはアルケニル)硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル(またはアルケニル)エーテル硫酸塩、アルカンスルホン酸塩、オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル(またはアルケニル)スルホコハク酸塩、ジアルキル(またはジアルケニル)スルホコハク酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル(またはアルケニル)スルホコハク酸塩、アルキル(またはアルケニル)エーテルカルボン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル(またはアルケニル)エーテルカルボン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル(またはアルケニル)エーテルリン酸塩、脂肪酸塩、N−アシルグルタミン酸塩、N−アシルタウリン酸塩、N−アシルメチルタウリンなどの1種以上が挙げられる。
【0056】
両性界面活性剤としては、ココベタイン、ラウラミドプロピルベタイン、コカミドプロピルベタイン、ラウロアンホ酢酸ナトリウム、ココアンホ酢酸ナトリウム、およびラウリルベタイン(ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン)などの1種以上が挙げられる。
【0057】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、高級脂肪酸ショ糖エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、高級脂肪酸モノまたはジエタノールアミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド、アルキルアミンオキサイド、アルキルアミドアミンオキサイドなどの1種以上が挙げられる。
【0058】
ただし、本発明の染毛剤組成物では、重縮合ポリマー粒子が優れた乳化性能を有するので、界面活性剤を更に含有しなくてもよい。本発明の染毛剤組成物では、重縮合ポリマー粒子が、前記構造体中の油剤以外の油性成分も乳化する機能があるため、界面活性剤を含有する必要性が小さい。
【0059】
本発明の染毛剤組成物が界面活性剤(特にカチオン性界面活性剤)を含有しない場合には、特に、閉鎖小胞体を構成する両親媒性物質、または重縮合ポリマー粒子を構成する重縮合ポリマーがカチオン性であることが好ましい。これにより、前記構造体から離脱した閉鎖小胞体または重縮合ポリマー粒子が、毛髪のキューティクルの隙間に入り込み吸着して、染料の毛髪内への侵入または毛髪への付着を一層促進するため、界面活性剤不含であっても、優れた染毛性能を有する染毛剤組成物を提供することができる。
【0060】
両親媒性物質のカチオン化は、両親媒性物質を、カチオン性界面活性剤などにより処理することで行うことができる。より具体的には以下のような方法が採用できる。
【0061】
両親媒性物質として公知のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(HCO−X:Xは10〜100)をカチオン界面活性剤(CTABセチルトリメチルアンモニウムブロマイドなど)でカチオン化する場合、HCO−Xと炭素数14以上の前記カチオン界面活性剤をモル分率Xs=0.1以下になるように混合・撹拌した後、HCO−Xが所定の濃度になるように蒸留水を加え撹拌することでカチオン化された閉鎖小胞体を得ることができる。カチオン界面活性剤をモル分率0.1以上添加しても、閉鎖小胞体のζ電位はそれ以上変化しないで、カチオン界面活性剤が閉鎖小胞体中に可溶化するだけでなく、水中に溶出する可能性があるので、モル分率0.1が最も良いと考えられる。
【0062】
閉鎖小胞体を形成する物質をリン脂質に変えたときも、カチオン化閉鎖小胞体の調製方法は同様である。しかし、リン脂質の場合、カチオン界面活性剤の可溶化に時間がかかることがあるので、下記の混合結晶を作成してから水に添加する方法にて調製してもよい。リン脂質にエタノールなどの良溶媒を加えVortexで撹拌し、均一に溶解させる。一方でカチオン界面活性剤もまた同様にエタノール溶液を調製する。リン脂質/エタノール溶液およびカチオン界面活性剤/エタノール溶液をそれぞれ所定の混合組成になるように混合し、十分撹拌する。乾燥によりエタノールを完全に除去しリン脂質とカチオン界面活性剤の混合固体を作製する。次に、この混合結晶にリン脂質が所定の濃度となるように水を加え、分散することでカチオン化された閉鎖小胞体を得ることができる。
【0063】
本発明の染毛剤組成物は、前記構造体中の油剤の他に、油性成分を更に含有してもよい。油性成分としては、例えば油脂(オリーブ油、ツバキ油、シア脂、アーモンド油、サフラワー油、ヒマワリ油、大豆油、綿実油、ゴマ油、トウモロコシ油、ナタネ油、コメヌカ油、コメ胚芽油、ブドウ種子油、アボカド油、マカダミアナッツ油、ヒマシ油、ヤシ油、および月見草油など)、ロウ、炭化水素(ミネラルオイル、パラフィン、流動パラフィン、軽質流動イソパラフィン、オレフィンオリゴマー、ポリイソブテン、水添ポリイソブテン、スクワラン、ポリブテン、ポリエチレン、マイクロクリスタリンワックス、およびワセリンなど)、アルキルグリセリルエーテル、エステル、およびシリコーンなどが挙げられる。
【0064】
ただし、本発明の染毛剤組成物は、前記構造体中の油剤の他に、油性成分を更に含有しなくてもよい。この場合、水性成分は、その少なくとも一部がゲル状態であってもよい。染毛剤組成物のゲル状水性成分の調製手段は、従来公知である(例えば、特許4080444号公報)ため、省略する。
【0065】
本発明の染毛剤組成物は、そのタイプ、剤型などに応じ、アルカリ剤、酸化剤、水溶性高分子、高級アルコール、多価アルコール、糖類、防腐剤、キレート剤、安定剤、pH調整剤、植物抽出物、生薬抽出物、ビタミン類、香料、紫外線吸収剤、酸化助剤など、従来公知の成分を更に含有してもよい。詳細は省略する。
【0066】
本発明の染毛剤組成物は、毛髪などの体毛への染毛に広く使用することができる。前記のように、本発明の染毛剤組成物は、前記構造体が毛髪の表面に付着することにより、開いたキューティクルを元に戻しやすいことから、キューティクルが開き、毛髪に侵入または付着した染料が流失しやすいダメージ毛に好適に使用されることができる。なお、ダメージ毛とは、パーマネントウエーブ処理、脱色処理、染毛処理の1以上を受けた毛髪部分を指す。
【0067】
ただし、本発明の染毛剤組成物は、界面活性剤がキューティクルの隙間に入り込んだまま乾燥してダメージを蓄積させる従来の染毛剤組成物と異なり、毛髪に対して低刺激であるから、非ダメージ毛に用い、ダメージ化の予防に用いることもできる。
【0068】
本発明の染毛剤組成物は、特許3855203号公報などを参照し、適宜調製することができる。例えば、両親媒性物質の二分子膜の層状体を水に分散させ、または水酸基を有する重縮合ポリマーを水中に単粒子化させ、両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体または重縮合ポリマーの粒子を含む乳化剤分散液を形成する工程と、乳化剤分散液および油剤を混合することでO/W型エマルションを形成する工程と、を経て、前記構造体を作製することができる。次に、この構造体を、水性成分、および油性成分などの任意成分(構造体と混合する前に、各成分が界面活性剤で乳化されていてもよい)と混合し、染毛剤組成物を調製することができる。染料の添加は、構造体と水性成分との混合前または後のいずれで行ってもよい。
【実施例】
【0069】
<半永久染毛料の調製>
水、ステアリルアルコール、ミネラルオイル、ミリスチルアルコール、ステアリルトリモニウムクロリド、ポリクオタニウム−7、ヒドロキシエチルセルロース、並びに、染料として塩基性茶16、塩基性青99、HC黄2、HC青2、およびHC黄4を適量ずつ撹拌し、O/W型エマルションの半永久染毛料(染毛剤組成物)を調製した。
【0070】
表1に示す比率で、水にヒドロキシプロピルメチルセルロース誘導体又はスルホン化セルロース誘導体と1,3−ブチレングリコールとを加えて80℃に加熱して撹拌し、重縮合ポリマー粒子の分散液(重縮合ポリマー粒子0.5%)を調製した。この分散液に、水添ナタネ油アルコールを加えて攪拌し、乳化を行った。その後、1,3−ブチレングリコール及び水を加えて撹拌することで、構造体を含むO/W型エマルションを調製した。なお、前記エマルションにおいて、重縮合ポリマー粒子はヒドロキシプロピルメチルセルロース誘導体又はスルホン化セルロース誘導体により構成され、重縮合ポリマー粒子により包囲されて内包される成分は水添ナタネ油アルコールであるため、前記エマルション中の構造体の重量は12.1質量%である。
【0071】
【表1】
【0072】
<構造体を含む半永久染毛料の調製>
前記半永久染毛料に、前記構造体を含むエマルション1を、添加後の総量に対し0質量%(比較例1)、1質量%(実施例1)、または5質量%(実施例2)となるように、また前記構造体を含むエマルション2を、添加後の総量に対し1質量%(実施例3)、または5質量%(実施例4)となるように、それぞれ混合することで、半永久染毛料を調製した。したがって、調製した半永久染毛料における構造体の含有量は、それぞれ0質量%(比較例1)、0.12質量%(実施例1、3)、0.61質量%(実施例2、4)となる。なお、いずれの半永久染毛料においても、染料の含有量は全体に対し0.01質量%とした。
【0073】
(染毛性評価)
白髪の毛束(ビューラックス社製)を流水で軽く水洗した後、市販品を使ってシャンプーを行い、キッチンペーパーで毛束の水分をしっかりと拭き取った。その後の毛束に対し、比較例1および実施例1〜4の染毛料0.6gを塗り広げ、1分間または5分間に亘って染色を行った。染色後の各毛束を流水で1分間洗浄し、キッチンペーパーで毛束の水分をしっかりと拭き取った後、ドライヤーで乾燥させた。
【0074】
その後の各毛束の外観を視認し、下の基準で染毛性の評価を行った。この結果を表2に示す。
5点:染まりがとても良い
4点:染まりが良い
3点:どちらとも言えない
2点:染まりが悪い
1点:染まりがとても悪い
【0075】
表2より、前記構造体を含有する実施例1〜4では、前記構造体を含有しない比較例1に比べ、染毛開始1分後で既に染毛が良好に進行し、5分後まで持続した。これにより、染毛料が構造体を含むことで、染毛性を向上できることが分かった。
【0076】
(髪への影響評価)
パネラーに頭髪をシャンプーにより洗浄してもらった後、頭髪の半分に比較例1の染毛料を、残り半分に実施例1〜4の各染毛料を適用し、5分後に水洗し、ドライヤーで乾燥させた。翌日の朝に、ヘア用品をつけない状態で頭髪の写真撮影を行った。その写真を用い、下の基準で、「髪のツヤ」、「髪の質感」、「髪のまとまり」を評価した。この結果を表2に示す。
5点:とても良い
4点:良い
3点:どちらとも言えない
2点:悪い
1点:とても悪い
【0077】
表2に示されるように、前記構造体を含有する実施例1〜4では、前記構造体を含有しない比較例1に比べ、染毛後の「髪のツヤ」、「髪の質感」、「髪のまとまり」のいずれもが大幅に優れていた。「髪のツヤ」、「髪の質感」、「髪のまとまり」は、キューティクルの開きに悪影響を及ぼされることは知られているので、前記構造体は、染毛後においてキューティクルが開いた状態で固定化されるのを抑制することが示唆された。
【0078】
(髪への影響評価)
比較例1および実施例1〜4の染毛料1gを白髪の毛束(ビューラックス社製)に塗り広げ、5分間に亘って染色を行った。染色後の各毛束を流水で1分間洗浄し、ドライヤーで乾燥させた。この毛束に対し、摩擦感テスター(カトーテック社製)で毛束の平均摩擦係数を測定した。この結果を表2に示す。
【0079】
表2に示されるように、前記構造体を含有する実施例1〜4では、前記構造体を含有しない比較例1に比べ、平均摩擦係数が有意に低く、髪表面が滑らかに整えられていることが分かった。
【0080】
【表2】
【0081】
<染毛剤(第1剤)の調製>
水、セトスレアリルアルコール、ベヘニルアルコール、パルミチン酸セチル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、並びに、染料としてレゾルシン、パラアミノフェノール、メタアミノフェノール、塩酸2,4−ジアミノフェノキシエタノール、パラフェニレンジアミン、および5−アミノオルトクレゾールを適量ずつ撹拌し、O/W型エマルションの染毛剤(染毛剤組成物)の第1剤を調製した。
【0082】
<染毛剤(第2剤)の調製>
水に、過酸化水素水、セトステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、ポリオキシエチレンセチルエーテル、およびポリオキシエチレンオレイルエーテルを適量ずつ混合することで、染毛剤の第2剤を調製した。
【0083】
(染毛性評価)
使用直前に、前記染毛剤第1剤と、第2剤と、前記構造体を含むエマルション1または2を、表3に記載される配合割合で混合した。混合後における構造体の含有量は、それぞれ0質量%(比較例2)、0.12質量%(実施例5、7)または0.60質量%(実施例6、8)となる。混合後、染毛剤1gを白髪の毛束(ビューラックス社製)に塗り広げ、5分間または15分間に亘って染色を行った。染色後の各毛束を流水で1分間洗浄し、ドライヤーで乾燥させた。
【0084】
その後の各毛束の外観を視認し、下の基準で染毛性の評価を行った。この結果を表3に示す。
5点:染まりがとても良い
4点:染まりが良い
3点:どちらとも言えない
2点:染まりが悪い
1点:染まりがとても悪い
【0085】
表3より、前記構造体を含有する例5〜8では、前記構造体を含有しない比較例5に比べ、染毛開始5分後で既に染毛が良好に進行し、15分後まで持続した。これにより、染毛剤が構造体を含むことで、染毛性を向上できることが分かった。
【0086】
(髪への影響評価)
使用直前に、第2剤と、比較例2および実施例5〜8の第1剤とを1:1の質量比で混合し、混合後の染毛剤1gを白髪の毛束(ビューラックス社製)に塗り広げ、15分間に亘って染色を行った。染色後の各毛束を流水で1分間洗浄し、ドライヤーで乾燥させた。この毛束に対し、摩擦感テスター(カトーテック社製)で毛束の平均摩擦係数を測定した。この結果を表3に示す。
【0087】
表3に示されるように、前記構造体を含有する実施例5〜8では、前記構造体を含有しない比較例2に比べ、平均摩擦係数が有意に低く、髪表面が滑らかに整えられていることが分かった。
【0088】
(髪への影響評価)
使用直前に、第2剤と、比較例2および実施例5〜8の第1剤とを1:1の質量比で混合し、混合後の染毛剤1gを白髪の毛束(ビューラックス社製)に塗り広げ、15分間に亘って染色を行った。染色後の各毛束を流水で1分間洗浄し、ドライヤーで乾燥させた。この毛束に対し、摩擦感テスター(カトーテック社製)で毛束の平均摩擦係数を測定した。この結果を表3に示す。
【0089】
表3に示されるように、前記構造体を含有する実施例5〜8では、前記構造体を含有しない比較例2に比べ、平均摩擦係数が有意に低く、髪表面が滑らかに整えられていることが分かった。
【0090】
【表3】
【0091】
[参考例]
<構造体を含むエマルションの調製>
水にレシチン(両親媒性物質)を加えて撹拌し、両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体の分散液を調製した。この分散液にセタノール(抱水性油剤)を加えて撹拌し、レシチンの閉鎖小胞体によってセタノールを包囲させて乳化することにより、構造体を含むO/W型エマルションを調製した。各成分の配合量は、表4に示すとおりである。なお、前記エマルションにおいて、閉鎖小胞体はレシチンにより構成され、閉鎖小胞体により包囲されて内包される成分はセタノールであるため、前記エマルション中の構造体の重量は11質量%である。
【0092】
【表4】
【0093】
<構造体を含む半永久染毛料の調製>
前記半永久染毛料に、前記構造体を含むエマルションを、添加後の総量に対し0質量%(比較例1)、1質量%(参考例1)、または5質量%(参考例2)となるようにそれぞれ混合することで、半永久染毛料を調製した。したがって、調製した半永久染毛料における構造体の含有量は、それぞれ0質量%(比較例1)、0.11質量%(参考例1)、0.55質量%(参考例2)となる。なお、いずれの半永久染毛料においても、染料の含有量は全体に対し0.01質量%とした。
【0094】
(染毛性評価)
白髪の毛束(ビューラックス社製)を流水で軽く水洗した後、市販品を使ってシャンプーを行い、キッチンペーパーで毛束の水分をしっかりと拭き取った。その後の毛束に対し、比較例1および参考例1〜2の染毛料0.6gを塗り広げ、1分間または5分間に亘って染色を行った。染色後の各毛束を流水で1分間洗浄し、キッチンペーパーで毛束の水分をしっかりと拭き取った後、ドライヤーで乾燥させた。
【0095】
その後の各毛束の外観を視認し、下の基準で染毛性の評価を行った。この結果を表5に示す。
5点:染まりがとても良い
4点:染まりが良い
3点:どちらとも言えない
2点:染まりが悪い
1点:染まりがとても悪い
【0096】
【表5】
【0097】
表5より、前記構造体を含有する参考例1および2では、前記構造体を含有しない比較例1に比べ、染毛開始1分後で既に染毛が良好に進行し、5分後まで持続した。これにより、染毛料が構造体を含むことで、染毛性を向上できることが分かった。
【0098】
(髪への影響評価)
パネラーに頭髪をシャンプーにより洗浄してもらった後、頭髪の半分に比較例1の染毛料を、残り半分に参考例2の染毛料を適用し、5〜10分後に水洗し、ドライヤーで乾燥させた。翌日の朝に、ヘア用品をつけない状態で頭髪の写真撮影を行った。その写真を用い、下の基準で、「髪のツヤ」、「髪の質感」、「髪のまとまり」を評価した。この結果を表6に示す。
5点:とても良い
4点:良い
3点:どちらとも言えない
2点:悪い
1点:とても悪い
【0099】
【表6】
【0100】
表6に示されるように、前記構造体を含有する参考例2では、前記構造体を含有しない比較例1に比べ、染毛後の「髪のツヤ」、「髪の質感」、「髪のまとまり」のいずれもが大幅に優れていた。「髪のツヤ」、「髪の質感」、「髪のまとまり」は、キューティクルの開きに悪影響を及ぼされることは知られているので、前記構造体は、染毛後においてキューティクルが開いた状態で固定化されるのを抑制することが示唆された。
【0101】
(刺激性評価)
前記構造体を含むエマルションの含有量が0、1または5質量%、塩基性茶16を0.1質量%、残量が水となるように混合し、染毛料を調製した。なお、この染毛料における構造体の含有量は、それぞれ0、0.11、0.55質量%である。
【0102】
ヒト3次元培養皮膚モデルLabCyte EPIMODEL24(J−TEC社製)を用い、その取扱説明書に従って、培養表皮を取り扱った。具体的には、24ウェルプレートに、ヒト3次元培養表皮用アッセイ培地(J−TEC社製)500μLずつ分注し、培養表皮をアルミ包装から取り出し、培養カップをピンセットで取り出した。培養カップをアッセイ培地の入った24ウェルプレートに移し、37℃、5%CO
2インキュベーター内で24時間前培養した。各ウェルより培地を除去した後、各染毛料を培養カップ内に50μL添加し、CO
2インキュベーター内で18時間培養した。また、ポジティブコントロールとして、0.1%ポリオキシエチレンラウリルエーテルを50μL添加した。培養後、PBS500μg/mLでカップ内を5回洗浄し、更にCO
2インキュベーター内で24時間培養した。MTT(3-(4,5-dimethyl-2-thiazolyl)-2,5-diphenyl-2H-tetrazolium bromide)をDMEM(Dulbeccoo’s Modified Eagle’s Medium)に500μg/mLとなるように溶解し、フィルター処理することでMTT含有培地を調製した。24ウェルプレートにMTT含有培地を500μLずつ添加し、37℃、CO
2インキュベーター内で1時間加温した。MTT含有培地を添加したプレートに培養カップを移し、37℃、CO
2インキュベーター内で3時間インキュベートした。培養カップ外の培地は回収し、IL−1α Human、EIA kit(Cayman Chemical Company製)に供した。このキットの取扱説明書に従い、各試料のIL−1α量を測定した結果を、
図2に示す。
【0103】
図2に示されるように、構造体の含有量に依存的に、炎症性物質IL−1αの量が減少した。これにより、染毛料における構造体が、毛髪への刺激を抑制できることが分かった。
【0104】
<構造体を含むエマルションの調製>
水にレシチン(両親媒性物質)を加えて撹拌し、両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体の分散液を調製した。この分散液にセタノール(抱水性油剤)を加えて撹拌し、レシチンの閉鎖小胞体によってセタノールを包囲させて乳化することにより、構造体を含むO/W型エマルションを調製した。各成分の配合量は、表7に示すとおりである。なお、前記エマルションにおいて、閉鎖小胞体はレシチンにより構成され、閉鎖小胞体により包囲されて内包される成分はセタノールであるため、前記エマルション中の構造体の重量は11質量%である。
【0105】
【表7】
【0106】
<構造体を含む染毛剤(第1剤)の調製>
前記染毛剤(第1剤)に、前記構造体を含むエマルションを、添加後の第1剤総量に対し0質量%(比較例2)、1質量%(参考例3)または5質量%(参考例4)ずつ混合することで、染毛剤の第1剤を調製した。したがって、調製した染毛剤(第1剤)における構造体の含有量は、それぞれ0質量%(比較例2)、0.11質量%(参考例3)または0.55質量%(参考例4)となる。
【0107】
(染毛性評価1)
使用直前に、第2剤と、比較例2および参考例3の第1剤とを1:1の質量比で混合した。混合後における構造体の含有量は、それぞれ0質量%(比較例2)、0.055質量%(参考例3)または0.275質量%(参考例4)となる。混合後、染毛剤1gを白髪の毛束(ビューラックス社製)に塗り広げ、5分間または15分間に亘って染色を行った。染色後の各毛束を流水で1分間洗浄し、ドライヤーで乾燥させた。
【0108】
その後の各毛束の外観を視認し、下の基準で染毛性の評価を行った。この結果を表8に示す。
5点:染まりがとても良い
4点:染まりが良い
3点:どちらとも言えない
2点:染まりが悪い
1点:染まりがとても悪い
【0109】
【表8】
【0110】
表8より、前記構造体を含有する参考例3では、前記構造体を含有しない比較例2に比べ、染毛開始5分後で既に染毛が良好に進行し、15分後まで持続した。これにより、染毛剤が構造体を含むことで、染毛性を向上できることが分かった。
【0111】
(染毛性評価2)
10%過酸化水素水と10%アンモニア水を1:1で混合し、白髪の毛束(ビューラックス社製)を浸け、室温で30分間静置した後、流水で5分間洗浄し、キッチンペーパーで水気を拭き取った後、ドライヤーで乾燥させた。この工程を3回繰り返した後の毛束を10%(w/w)SDS水溶液に浸し、70℃で72時間静置した後、流水で十分に洗浄することで、ダメージ毛を作成した。
【0112】
比較例2および参考例3〜4の染毛剤第1剤に、1%(w/w)のフルオレセインナトリウムを混合し、第2剤を1:1の質量比で混合した。この混合物に、前記ダメージ毛を速やかに浸漬し、1、5、10、または30分間処理した後、30秒間流水で洗浄した。水気を拭き取った後、凍結ブロックを作製し、その凍結切片を蛍光顕微鏡で観察した。この結果を
図3に示す。
【0113】
図3に示されるように、前記構造体を含有する参考例3および4では、前記構造体を含有しない比較例2に比べ、染毛開始1分後で既に染毛が良好に進行し、30分後まで持続した。具体的に、参考例3および4では、染毛開始1分後で、キューティクルに染料が侵入し、5分後以降にはコルテックス(毛皮質)へと多量の染料が侵入し、内部まで高度に染毛できていた。これに対し、比較例2では、染毛30分後においても、相対的に低程度の染料がキューティクルに侵入するにとどまり、コルテックスへの侵入は極めて限定的であった。このように、染毛剤が構造体を含むことで、染毛性を向上できることが分かった。
【0114】
(髪への影響評価)
使用直前に、第2剤と、比較例2および参考例3の第1剤とを1:1の質量比で混合し、混合後の染毛剤1gを白髪の毛束(ビューラックス社製)に塗り広げ、30分間に亘って染色を行った。染色後の各毛束を流水で1分間洗浄し、ドライヤーで乾燥させた。この毛束に対し、摩擦感テスター(カトーテック社製)で毛束の平均摩擦係数を測定した。この結果を表9に示す。
【0115】
【表9】
【0116】
表9に示されるように、前記構造体を含有する参考例3では、前記構造体を含有しない比較例2に比べ、平均摩擦係数が有意に低く、髪表面が滑らかに整えられていることが分かった。
【0117】
(刺激性評価)
前記構造体を0、1または5質量%、パラアミノフェノールおよびメタアミノフェノールを0.01質量%ずつ、並びに残量の精製水を混合し、染毛剤を調製した。なお、この染毛剤における構造体の含有量は、それぞれ0、0.055、0.275質量%である。その他は、参考例1における刺激性評価試験と同じ手順で、刺激性評価を行った。この結果を
図4に示す。
【0118】
図4に示されるように、前記構造体を含む染毛剤は、構造体を含まない染毛剤に比べて、炎症性物質IL−1αの量が低かった。これにより、染毛剤における構造体が、毛髪への刺激を抑制できることが分かった。なお、構造体の含有量が0.055質量%の場合と0.275質量%の場合を比較しても、IL−1αの量に有意な差は認められなかった。これは、構造体の含有量が0.055質量%の段階で、毛髪の量に対して既に構造体が飽和して付着しているため、構造体の含有量を0.055質量%以上にしても差が出なかったものと推察される。