特許第6601075号(P6601075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6601075プッシュスイッチ、およびプッシュスイッチの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6601075
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】プッシュスイッチ、およびプッシュスイッチの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01H 13/14 20060101AFI20191028BHJP
   H01H 11/00 20060101ALI20191028BHJP
   H01H 13/48 20060101ALI20191028BHJP
   H01H 13/52 20060101ALI20191028BHJP
【FI】
   H01H13/14 Z
   H01H11/00 D
   H01H13/48
   H01H13/52 F
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-177612(P2015-177612)
(22)【出願日】2015年9月9日
(65)【公開番号】特開2017-54691(P2017-54691A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 文香
【審査官】 太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−077552(JP,A)
【文献】 特開2014−216190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 13/00−13/88
H01H 3/00− 7/16
H01H 11/00−11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を有しているケースと、
前記凹部内に配置されている複数の固定電極と、
前記凹部内に配置されており、前記複数の固定電極同士を電気的に絶縁する第一状態と電気的に導通する第二状態との間で弾性変形可能とされている可動電極と、
第一可撓性を有しており、前記凹部を覆っている第一樹脂カバーと、
前記第一可撓性よりも低い第二可撓性を有しており、前記可動電極と対向するように前記第一樹脂カバーに固定されている第二樹脂カバーと、
前記第一樹脂カバーと前記第二樹脂カバーの間に配置されており、前記第一樹脂カバーの変形に応じて、前記第二樹脂カバーを介して前記可動電極を弾性変形させるように構成されている押圧部材と、を備えている、
プッシュスイッチ。
【請求項2】
前記第一樹脂カバーは、ナイロン製またはPPS製である、
請求項1に記載のプッシュスイッチ。
【請求項3】
前記押圧部材の変位方向と交差する方向における前記ケースの最大幅寸法は、2.5mm以下である、
請求項1または2に記載のプッシュスイッチ。
【請求項4】
プッシュスイッチの製造方法であって、
凹部内に複数の固定電極が配置されているケースを用意し、
前記複数の固定電極同士を電気的に絶縁する第一状態と電気的に導通する第二状態との間で弾性変形可能となるように、前記凹部内に可動電極を配置し、
第一可撓性を有している第一樹脂カバーに押圧部材を固定し、
前記第一可撓性よりも低い第二可撓性を有している第二樹脂カバーを、前記押圧部材を覆うように前記第一樹脂カバーに固定し、
前記押圧部材と前記第二樹脂カバーが固定された前記第一樹脂カバーを、前記凹部を覆うように前記ケースに固定する、
製造方法。
【請求項5】
前記押圧部材と前記第二樹脂カバーの前記第一樹脂カバーへの固定は、レーザ溶着により行なわれる、
請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第一樹脂カバーが前記ケースに固定された後に、アニール処理を行なう、
請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
凹部を有しているケースと、
前記凹部内に配置されている複数の固定電極と、
前記凹部内に配置されており、前記複数の固定電極同士を電気的に絶縁する第一状態と電気的に導通する第二状態との間で弾性変形可能とされている可動電極と、
第一可撓性を有しており、前記凹部を覆っている第一樹脂カバーと、
前記第一可撓性よりも低い第二可撓性を有しており、接着面を介して前記第一樹脂カバーに固定されている第二樹脂カバーと、
前記第一樹脂カバーに固定されており、前記第一樹脂カバーの変形に応じて、前記可動電極を弾性変形させるように構成されている押圧部材と、を備えており
前記第一樹脂カバーの周縁部は、前記ケースに固定されており、
前記第二樹脂カバーの周縁部は、前記凹部に対向している、
プッシュスイッチ。
【請求項8】
プッシュスイッチの製造方法であって、
凹部内に複数の固定電極が配置されているケースを用意し、
前記複数の固定電極同士を電気的に絶縁する第一状態と電気的に導通する第二状態との間で弾性変形可能となるように、前記凹部内に可動電極を配置し、
第一可撓性を有している第一樹脂カバーに押圧部材を固定し、
前記第一可撓性よりも低い第二可撓性を有している第二樹脂カバーを、接着面を介して前記第一樹脂カバーに固定し、
前記押圧部材と前記第二樹脂カバーが固定された前記第一樹脂カバーの周縁部熱溶着で前記ケースに固定することにより、前記凹部を前記第一樹脂カバーで覆いつつ、前記第二樹脂カバーの周縁部を前記凹部に対向させる
製造方法。
【請求項9】
前記押圧部材は、前記第一樹脂カバーよりも高い剛性を有する材料からなる、
請求項7に記載のプッシュスイッチ。
【請求項10】
前記押圧部材は、前記第一樹脂カバーよりも高い剛性を有する材料からなる、
請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器などに搭載されるプッシュスイッチに関する。また、本発明は、電子機器などに搭載されるプッシュスイッチの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているプッシュスイッチは、凹部を有するケースを備えている。当該凹部内には、複数の固定電極と可動電極が配置されている。可動電極は、複数の固定電極同士を導通する状態と絶縁する状態との間で弾性変形可能とされている。無負荷時において、複数の固定電極は絶縁されている。凹部は、樹脂(ナイロンまたはPPS)製のカバーで覆われている。カバーと可動電極の間には押圧部材が配置されている。外部より押圧力が加えられると、押圧部材は、凹部内の可動電極を変形させる。これにより、複数の固定電極は導通される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−058380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているプッシュスイッチにおいては、樹脂製のカバーがケースに対してレーザ溶着されている。これにより、プッシュスイッチの小型化に伴いカバーとケースの接触面積が小さくなっても、カバーのケースに対する固定強度を確保可能にしている。
【0005】
しかしながら、本願発明者は、上記のような構成を有するプッシュスイッチにおいて機械的特性の低下を見出した。図4の(A)は、プッシュスイッチの操作量(押圧部材の変位量)と操作力の関係を示している。破線は、プッシュスイッチの組立時における特性を示している。一点鎖線は、当該プッシュスイッチが電子機器に搭載される回路基板に実装された後の特性を示している。実線は、熱負荷をかけるためのアニール処理が行なわれた後の特性を示している。
【0006】
操作開始後の特性曲線の一般的な傾向として、まず押圧部材の変位量の増加とともに操作力が増していく。この傾向は、押圧部材が可動電極を変形させるべく変位するのに伴い、可動電極の弾性抵抗が増していく現象に対応している。押圧部材の変位量がある程度の値に達すると、操作力は急激に低下する。この傾向は、可動電極がクリック感を実現するための変形を行ない、操作力を受け流す現象に対応している。
【0007】
図4の(A)に示された結果からは、プッシュスイッチが熱処理を経ることにより段階Aの立ち上がりが右方へ移動していることがわかる。この事実は、押圧部材を変位させる力が効率よく可動電極に伝達されていないことを意味している。また、図示を省略するものの、上記の操作力が急激に低下する段階において、操作力が滑らかに低下しないという現象も確認された。これらの結果より、プッシュスイッチについて当初意図されていた挙動、すなわち所望の押圧操作感が安定的に維持されていないことが判る。
【0008】
本発明は、熱処理を経てもプッシュスイッチにおける所望の押圧操作感を維持できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明がとりうる第一の態様は、プッシュスイッチであって、
凹部を有しているケースと、
前記凹部内に配置されている複数の固定電極と、
前記凹部内に配置されており、前記複数の固定電極同士を電気的に絶縁する第一状態と電気的に導通する第二状態との間で弾性変形可能とされている可動電極と、
第一可撓性を有しており、前記凹部を覆っている第一樹脂カバーと、
前記第一可撓性よりも低い第二可撓性を有しており、前記可動電極と対向するように前記第一樹脂カバーに固定されている第二樹脂カバーと、
前記第一樹脂カバーと前記第二樹脂カバーの間に配置されており、前記第一樹脂カバーの変形に応じて、前記第二樹脂カバーを介して前記可動電極を弾性変形させるように構成されている押圧部材と、
を備えている。
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明がとりうる第二の態様は、プッシュスイッチの製造方法であって、
凹部内に複数の固定電極が配置されているケースを用意し、
前記複数の固定電極同士を電気的に絶縁する第一状態と電気的に導通する第二状態との間で弾性変形可能となるように、前記凹部内に可動電極を配置し、
第一可撓性を有している第一樹脂カバーに押圧部材を固定し、
前記第一可撓性よりも低い第二可撓性を有している第二樹脂カバーを、前記押圧部材を覆うように前記第一樹脂カバーに固定し、
前記押圧部材と前記第二樹脂カバーが固定された前記第一樹脂カバーを、前記凹部を覆うように前記ケースに固定する。
【0011】
上記のような構成によれば、第二樹脂カバーによって第一樹脂カバーに適度な張力が与えられ、熱負荷に起因する第一樹脂カバーの変形を抑制できる。したがって、熱処理を経てもプッシュスイッチにおける所望の操作感を維持できる。
【0012】
また、押圧部材は第一樹脂カバーと第二樹脂カバーの間に配置されているため、押圧操作を通じて繰り返し加えられる負荷によって押圧部材が第一樹脂カバーから剥がれることを防止できる。押圧部材と可動電極の位置関係が安定的に維持されるため、長期の繰り返し使用を経てもプッシュスイッチにおける所望の操作感を維持できる。
【0013】
上記第一の態様に係るプッシュスイッチは、以下のように構成されうる。
前記第一樹脂カバーは、ナイロン製またはPPS(ポリフェニレンサルファイド)製である。
【0014】
ナイロンやPPSはレーザの透過性が高い材料である。したがって、第一樹脂カバーをケースに固定するためにレーザ溶着を利用できる。この場合、プッシュスイッチが小型であっても、第一樹脂カバーの位置決めを高精度で遂行できるだけでなく、繰り返し加えられる負荷に対するケースへの固定強度を高めることができる。したがって、プッシュスイッチに対する厳しい小型化の要求に応えつつ、押圧操作感の安定性をより高めることができる。
【0015】
したがって、上記第二の態様に係る製造方法は、以下のように構成されうる。
【0016】
前記押圧部材と前記第二樹脂カバーの前記第一樹脂カバーへの固定は、レーザ溶着により行なわれる。
【0017】
上記第一の態様に係るプッシュスイッチは、以下のように構成されうる。
前記押圧部材の変位方向と交差する方向における前記ケースの最大幅寸法は、2.5mm以下である。
【0018】
上記の構成によれば、このような厳しい小型化の要求に対しても、プッシュスイッチの押圧操作感を安定的に維持できる。
【0019】
上記第二の態様に係る製造方法は、以下のように構成されうる。
前記第一樹脂カバーが前記ケースに固定された後に、アニール処理を行なう。
【0020】
上記の構成によれば、実装環境における熱負荷を想定した処理を経ても、プッシュスイッチの押圧操作感を安定的に維持できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、熱処理を経てもプッシュスイッチにおける所望の押圧操作感を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一実施形態に係るプッシュスイッチを示す分解斜視図である。
図2図1のプッシュスイッチの外観を示す四面図である。
図3図1のプッシュスイッチの内部構造を示す断面図である。
図4図1のプッシュスイッチの機械的特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
添付の図面を参照しつつ、本発明に係る実施形態の例について以下詳細に説明する。なお以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために縮尺を適宜変更している。また「前後」「左右」「上下」という表現は、説明の便宜のために用いるものであり、実際の使用状態における姿勢や方向を限定するものではない。
【0024】
図1は、一実施形態に係るプッシュスイッチ1の構成を示す分解斜視図である。図2は、組み立てられたプッシュスイッチ1の外観を示す四面図である。図2の(A)は、上面図である。図2の(B)は、正面図である。図2の(C)は、底面図である。図2の(D)は、右側面図である。左側面から見た形状は、右側面図に示したものと対称であるため、図示を省略する。背面から見た形状は、正面図に示したものと対称であるため、図示を省略する。図3は、図2の(A)における線III−IIIに沿って矢印方向から見た断面を示している。
【0025】
図1に示されるように、プッシュスイッチ1は、ケース2を備えている。ケース2は、樹脂などの絶縁性材料からなる。ケース2は、凹部21を有している。
【0026】
図1図2の(C)に示されるように、プッシュスイッチ1は、一対の第一固定導電部材3を備えている。各第一固定導電部材3は、銅などの導電性材料からなる。各第一固定導電部材3は、インサート成形などにより、ケース2と一体に固定されている。各第一固定導電部材3の第一部分31は、ケース2の凹部21内に配置され、固定電極として機能する。第一固定導電部材3の第二部分32は、ケース2の側面に露出し、外部端子として機能する。
【0027】
図1図2の(C)に示されるように、プッシュスイッチ1は、第二固定導電部材4を備えている。第二固定導電部材4は、銅などの導電性材料からなる。第二固定導電部材4は、インサート成形などにより、ケース2と一体に固定されている。第二固定導電部材4の第一部分41は、ケース2の凹部21内に配置され、固定電極として機能する。第二固定導電部材4の第二部分42は、ケース2の側面に露出し、外部端子として機能する。
【0028】
図1に示されるように、プッシュスイッチ1は、可動電極5を備えている。可動電極5は、銅などの導電性材料からなる。可動電極5は、中央部51と周縁部52を有するドーム状の外観を呈している。図3に示されるように、可動電極5は、ケース2の凹部21内に配置されている。可動電極5の中央部51は、間隔をあけて第二固定導電部材4の第一部分41と対向するように配置されている。可動電極5の周縁部52は、各第一固定導電部材3の第一部分31と接触している。後述するように、可動電極5の中央部51は、図3において矢印D1で示される方向に弾性変形可能とされている。
【0029】
図1に示されるように、プッシュスイッチ1は、第一樹脂カバー6を備えている。第一樹脂カバー6は、可撓性を有している。第一樹脂カバー6は、中央部61と周縁部62を有している。図3に示されるように、第一樹脂カバー6は、凹部21を覆うようにケース2に固定されている。具体的には、中央部61が凹部21に対向するように、周縁部62がケース2の上面22に固定されている。
【0030】
図1に示されるように、プッシュスイッチ1は、第二樹脂カバー7を備えている。第二樹脂カバー7は、第一樹脂カバー6の可撓性(第一可撓性)よりも低い可撓性(第二可撓性)を有する材料からなる。材料の例としては、アクリル系の接着面が形成されたポリイミドのフィルムが挙げられる。図3に示されるように、第二樹脂カバー7は、可動電極5と対向するように、当該接着面を介して第一樹脂カバー6に固定されている。
【0031】
図1に示されるように、プッシュスイッチ1は、押圧部材8を備えている。押圧部材8は、第一樹脂カバー6よりも高い剛性を有する材料からなる。材料の例としては、ポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、金属やその合金が挙げられる。図3に示されるように、押圧部材8は、第一樹脂カバー6と第二樹脂カバー7の間に配置されている。
【0032】
図2の(C)と図3に示されるように、プッシュスイッチ1は、第三樹脂カバー9を備えている。第三樹脂カバー9は、耐熱性を有する絶縁性材料からなる。材料の例としては、アクリル系の接着面が形成されたポリイミドのフィルムが挙げられる。当該接着面をケース2の底面23に接着することにより、各第一固定導電部材3と第二固定導電部材4が保護される。
【0033】
図3に示された無負荷状態において、可動電極5の中央部51と第二固定導電部材4の第一部分41は離間している。他方、各第一固定導電部材3の第一部分31と第二固定導電部材4の第一部分41も離間している。したがって、各第一固定導電部材3と第二固定導電部材4は電気的に絶縁されている(第一状態の一例)。
【0034】
一定値以上の負荷が上方から第一樹脂カバー6に対して加えられると、押圧部材8は、第一樹脂カバー6の変形に応じて、第二樹脂カバー7を介して可動電極5の中央部51を下方へ弾性変形させる。図示を省略するが、これにより、可動電極5の中央部51は、第二固定導電部材4の第一部分41と接触する。可動電極5は導電性材料からなるため、各第一固定導電部材3と第二固定導電部材4は電気的に接続される(第二状態の一例)。
【0035】
上記のような構成を有するプッシュスイッチ1の製造方法について説明する。
【0036】
まず、押圧部材8が、第一樹脂カバー6の下面(プッシュスイッチ1の完成時にケース2の凹部21と対向する面)に固定される。固定の手法は、接着や溶着など適宜に定められうる。
【0037】
続いて、第一樹脂カバー6が上方より押圧部材8に押し付けられる絞り加工が行なわれる。これにより、上方に凸形状を有する第一樹脂カバー6の中央部61が形成される。
【0038】
次に、第二樹脂カバー7が、押圧部材8を覆うように第一樹脂カバー6の下面に接着される。これにより、押圧部材8は、第一樹脂カバー6と第二樹脂カバー7の間に挟持される。
【0039】
他方、底面23に第三樹脂カバー9が接着されたケース2の凹部21内に可動電極5が配置される。その後、第二樹脂カバー7と押圧部材8が固定された状態の第一樹脂カバー6の周縁部62が、ケース2の上面22に固定される。これにより、上述した構造を有するプッシュスイッチ1が得られる。
【0040】
本願発明者は、図4の(A)を参照して説明したプッシュスイッチの機械的特性の変化が、ケースの凹部を覆うカバーの材料に起因していることを突き止めた。当該プッシュスイッチにおいては、カバーを固定するためにレーザ溶着が用いられている。レーザ溶着を行なうにあたり、レーザの透過性が高いナイロンあるいはPPS(ポリフェニレンサルファイド)が選ばれている。しかしながら、これらの材料は、はんだ処理やアニール処理を通じて加えられる熱負荷により変形し、ばね性を獲得することが判った。これにより、当初意図されていたプッシュスイッチの機械的特性が変化してしまうことが判った。さらに、熱負荷による変形の仕方も一様でないため、特性変化の仕方も予期できぬ不安定なものになることが判った。
【0041】
本願発明者は、検討を重ねた結果、ケースの凹部を覆う第一のカバーよりも低い可撓性を有する第二のカバーを第一のカバーに装着することにより第一のカバーに適切な張力を与えれば、熱負荷による変形を抑制できるのではないかとの着想を得た。さらに、第一のカバーに固定された押圧部材をこの第二のカバーで覆うことにより、押圧操作を通じて繰り返し与えられる負荷によって押圧部材が第一のカバーから剥がれてしまうことを防止できるのではないかとの着想を得た。
【0042】
この着想に基づき、本実施形態に係るプッシュスイッチ1においては、第一樹脂カバー6に固定された押圧部材8を覆うように、第一樹脂カバー6よりも低い可撓性を有する第二樹脂カバー7が設けられている。押圧部材8は、第一樹脂カバー6と第二樹脂カバー7の間に挟持されている。
【0043】
このように構成されたプッシュスイッチ1に対し、図4の(A)に示されたものと同じ条件で機械的特性の変化を調べた。その結果が図4の(B)に示されている。熱負荷が加えられても、プッシュスイッチ1の機械的特性が安定的に保たれていることが判る。アニール処理後の第一樹脂カバー6の状態を調べたところ、熱負荷による変形は確認されなかった。
【0044】
すなわち、本実施形態に係るプッシュスイッチ1においては、ケース2の凹部21を覆う第一樹脂カバー6よりも低い可撓性を有する第二樹脂カバー7が、第一樹脂カバー6に装着されている。これにより、第一樹脂カバー6に適度な張力が与えられ、熱負荷に起因する第一樹脂カバー6の変形を抑制できる。したがって、熱処理を経てもプッシュスイッチ1における所望の操作感を維持できる。
【0045】
また、押圧部材8は第一樹脂カバー6と第二樹脂カバー7の間に配置されているため、押圧操作を通じて繰り返し加えられる負荷によって押圧部材8が第一樹脂カバー6から剥がれることを防止できる。押圧部材8と可動電極5の位置関係が安定的に維持されるため、長期の繰り返し使用を経てもプッシュスイッチ1における所望の操作感を維持できる。
【0046】
本実施形態においては、第一樹脂カバー6の材料としてナイロンまたはPPSが用いられる。
【0047】
ナイロンやPPSはレーザの透過性が高い材料である。したがって、第一樹脂カバー6をケース2に固定するためにレーザ溶着を利用できる。この場合、プッシュスイッチ1が小型であっても、第一樹脂カバー6の位置決めを高精度で遂行できるだけでなく、繰り返し加えられる負荷に対するケース2への固定強度を高めることができる。したがって、プッシュスイッチ1に対する厳しい小型化の要求に応えつつ、押圧操作感の安定性をより高めることができる。
【0048】
本実施形態においては、可動電極5の変形方向(図3において矢印D1で示される方向)に交差する向き(図3において矢印D2で示される方向)におけるケース2の最大幅寸法は、2.5mm以下である。前述の構成によれば、このような厳しい小型化の要求に対しても、プッシュスイッチ1の押圧操作感を安定的に維持できる。
【0049】
本実施形態においては、プッシュスイッチ1の組立て後に、実装環境における熱負荷を想定したアニール処理が行なわれる。前述の構成によれば、このような熱処理を経ても、プッシュスイッチ1の押圧操作感を安定的に維持できる。
【0050】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための例示にすぎない。上記の実施形態に係る構成は、本発明の趣旨を逸脱しなければ、適宜に変更・改良されうる。また、等価物が本発明の技術的範囲に含まれることは明らかである。
【符号の説明】
【0051】
1:プッシュスイッチ、2:ケース、21:凹部、3:第一固定導電部材、4:第二固定導電部材、5:可動電極、6:第一樹脂カバー、7:第二樹脂カバー、8:押圧部材、D1:可動電極の変位方向、D2:可動電極の変位方向と交差する方向
図1
図2
図3
図4