(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1温度特性値の変化量と前記第2温度特性値の変化量とが検出されるタイミングは、前記定着装置が搭載されている画像形成装置の電源がオンされてから前記定着ローラの加熱が初めて停止されたタイミングである、請求項1または2に記載の定着装置。
前記補正部による前記温度予測式の補正処理は、前回の補正処理が実行されてから所定時間が経過したこと、前回の補正処理が実行されてからの前記定着装置による印刷枚数が所定枚数を超えたこと、および前回の補正処理が実行されてからの前記定着装置の加熱時間が所定時間を経過したことのいずれかのタイミングで実行される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の定着装置。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明に従う各実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらについての詳細な説明は繰り返さない。なお、以下で説明される各実施の形態および各変形例は、適宜選択的に組み合わされてもよい。
【0024】
[画像形成装置100]
図1を参照して、実施の形態に従う画像形成装置100について説明する。
図1は、画像形成装置100の構造の一例を示す図である。
【0025】
図1には、カラープリンターとしての画像形成装置100が示されている。以下では、カラープリンターとしての画像形成装置100について説明するが、画像形成装置100は、カラープリンターに限定されない。たとえば、画像形成装置100は、モノクロプリンターであってもよいし、モノクロプリンター、カラープリンターおよびFAXの複合機(MFP:Multi-Functional Peripheral)であってもよい。
【0026】
画像形成装置100は、画像形成ユニット1A〜1Dと、中間転写ベルト11と、一次転写部12と、二次転写部13と、クリーニング部15と、トレー16と、カセット17と、露光制御部19と、制御装置102と、定着装置200とを備える。
【0027】
画像形成ユニット1Aは、ブラック(BK)のトナー像を形成する。画像形成ユニット1Bは、イエロー(Y)のトナー像を形成する。画像形成ユニット1Cは、マゼンタ(M)のトナー像を形成する。画像形成ユニット1Dは、シアン(C)のトナー像を形成する。中間転写ベルト11は矢印21の方向に回転し、画像形成ユニット1A〜1Dは、それぞれ、中間転写ベルト11の回転方向に沿って順に配置されている。
【0028】
画像形成ユニット1A〜1Dは、それぞれ、感光体2と、帯電部3と、現像部4と、クリーニング部5と、露光部9とを備える。
【0029】
感光体2は、トナー像を担持する像担持体である。感光体2は、中間転写ベルト11の回転方向に対応する方向に回転する。帯電部3は、感光体2の表面を一様に帯電する。露光部9は、露光制御部19からの制御信号に応じて感光体2にレーザーを照射し、指定された画像パターンに従って感光体2の表面を露光する。これにより、入力画像に応じた静電潜像が感光体2上に形成される。
【0030】
現像部4は、感光体2上に形成された静電潜像をトナー像として現像する。一例として、現像部4は、トナーおよびキャリアを含む現像剤を用いて静電潜像を現像する。
【0031】
感光体2と中間転写ベルト11とは、一次転写部12が設けられている部分で接触している。この接触部分に所定の転写バイアスが印加され、当該転写バイアスによって、感光体2上のトナー像が中間転写ベルト11に転写される。このとき、ブラック(BK)のトナー像、イエロー(Y)のトナー像、マゼンタ(M)のトナー像、およびシアン(C)のトナー像が順に重ねられて中間転写ベルト11に転写される。これにより、カラーのトナー像が中間転写ベルト11上に形成される。
【0032】
クリーニング部5は、クリーニングブレードを備える。クリーニングブレードは、感光体2に圧接され、トナー像の転写後に感光体2の表面に残留するトナーを回収する。
【0033】
カセット17は、画像形成装置100の下部に設けられている。カセット17には、紙等の印刷物14がセットされる。印刷物14は、カセット17から1枚ずつ二次転写部13に送られる。印刷物14の送り出しおよび搬送のタイミングと、中間転写ベルト11上のトナー像の位置とを同期させることで、印刷物14の適切な位置にトナー像が転写される。その後、印刷物14は、定着装置200に送られる。
【0034】
定着装置200は、熱で印刷物14にトナー像を定着させる。定着装置200の詳細については後述する。その後、印刷物14は、トレー16に排紙される。
【0035】
クリーニング部15は、クリーニングブレードを備える。クリーニングブレードは、中間転写ベルト11に圧接され、トナー像の転写後に中間転写ベルト11に残留するトナーを回収する。
【0036】
制御装置102は、たとえばCPU(Central Processing Unit)であり、画像形成装置100を制御する。制御装置102は、たとえば、露光制御部19や定着装置200を制御する。制御装置102は、定着ローラ30に設けられているモータ(図示しない)を制御することにより定着ローラ30の回転速度や回転時間等を調整する。また、制御装置102は、ヒータ33を駆動することにより定着ローラ30の温度を制御する。
【0037】
[定着装置200]
図2を参照して、
図1に示される定着装置200についてさらに説明する。
図2は、定着装置200の構造の一例を示す図である。
【0038】
定着装置200は、定着ローラ30と、加圧ローラ32と、メイン温度センサ71(第1温度センサ)と、サブ温度センサ72(第2温度センサ)とを含む。
【0039】
定着ローラ30は、内部にヒータ33が設けられている。定着装置200は、ヒータ33を駆動して定着ローラ30を加熱するとともに、定着ローラ30と加圧ローラ32との間を通過する印刷紙を加圧ローラ32によって定着ローラ30に圧接する。これにより、トナー像は、融解し印刷紙に定着する。
【0040】
メイン温度センサ71は、たとえば、サーミスタやサーモパイルである。メイン温度センサ71は、定着ローラ30の表面温度を計測するために設けられている。メイン温度センサ71は、定着ローラ30に対向するように非接触に設けられている。メイン温度センサ71と定着ローラ30との間の距離は、たとえば、1mmである。
【0041】
サブ温度センサ72は、たとえば、サーミスタやサーモパイルである。サブ温度センサ72は、メイン温度センサ71の周囲の温度を計測するために設けられている。サブ温度センサ72は、定着ローラ30とメイン温度センサ71とを結ぶ直線上に設けられており、定着ローラ30からの距離がメイン温度センサ71よりも離れている場所に設けられている。メイン温度センサ71とサブ温度センサ72との間の距離は、たとえば、6mmである。
【0042】
[機能構成]
画像形成装置100の印刷品質を高めるためには、定着装置200において温度を意図する通りに制御することが重要である。そのためには、定着装置200の温度は、正確に測定される必要がある。メイン温度センサ71およびサブ温度センサ72によって計測される温度は、各温度センサから定着ローラ30までの距離に応じて変化する。当該距離は、定着装置200の品質のばらつき等によって変わる。このようなばらつきを補正する方法として、たとえば、出荷時に予め正確な温度が求められている対象物を測定し、各温度センサからの出力値と正確な測定値とのずれを補正する方法がある。あるいは、定着ローラの温度を非接触で正確に測定可能な別の測定装置を用いて測定し、各温度センサからの出力値と正確な測定値とのずれを補正する方法がある。
【0043】
定着装置200が使用され続けると、定着装置200の筐体のひずみや定着ローラ30の摩耗等により、定着ローラ30と各温度センサとの間の距離が変動してしまう。そのため、温度測定のずれは、画像形成装置100の使用とともに再び大きくなってしまう。したがって、定着ローラ30の温度は、出荷時に補正されるだけでは正確に測定され得ない。
【0044】
そこで、本実施の形態に従う画像形成装置100は、このようなずれを抑制するように定着ローラ30の温度を推定する。以下では、
図3を参照して、定着ローラ30の表面の温度推定方法について説明する。
図3は、定着装置200の機能構成の一例を示す図である。
【0045】
図3に示されるように、画像形成装置100は、記憶装置120と、定着装置200とを備える。定着装置200は、推定部210と、補正部220とを含む。
【0046】
推定部210は、メイン温度センサ71から温度値と、サブ温度センサ72から温度値とを温度予測式122に適用することにより、定着ローラ30の温度を推定する。温度予測式122は、たとえば、記憶装置120に予め格納されている。温度予測式122は、メイン温度センサ71から予め得られた温度値と、サブ温度センサ72から予め得られた温度値と、定着装置200の正確な温度との間の相関関係を利用して画像形成装置100の製造時や設計時等に予め算出されている。
【0047】
メイン温度センサ71から出力される温度の変化の仕方は、メイン温度センサ71と定着ローラ30との間の距離に応じて変わる。同様に、サブ温度センサ72から出力される温度の変化の仕方は、サブ温度センサ72と定着ローラ30との間の距離に応じて変わる。これらの点に着目して、補正部220は、定着ローラ30の加熱を停止してから所定時間が経過するまでの間における、メイン温度センサ71から出力される温度の変化量とサブ温度センサ72から出力される温度の変化量とを用いて、温度予測式122を補正する。
【0048】
これにより、各温度センサと定着ローラ30との間の距離が変動したとしても、画像形成装置100は、その変動に合わせて温度予測式122を補正することができる。画像形成装置100は、補正後の温度予測式122を用いることで定着ローラ30の表面温度を正確に制御することができる。これにより、画像形成装置100は、定着ローラ30の表面温度を目標温度に正確に近付けることができる。
【0049】
[温度予測式122の初期値]
以下では、初期値としての温度予測式122の生成方法に詳細に説明する。
【0050】
画像形成装置100は、定着ローラ30の正確な表面温度Trを接触熱電対等で測定するとともに、メイン温度センサ71から出力される温度T1、サブ温度センサ72から出力される温度T2を得る。この状態で、画像形成装置100は、定着装置200の加熱や通紙等を行い、メイン温度センサ71およびサブ温度センサ72のそれぞれから定着ローラ30の温度を得る。
【0051】
下記式(1)に示されるように、画像形成装置100は、定着ローラ30の正確な表面温度Trを目的変数とし、メイン温度センサ71からの温度T1とサブ温度センサ72の温度T2とを説明変数として、重回帰分析を行う。これにより、係数A1,A2の初期値が決定される。その結果、定着ローラ30の表面温度Trは、温度T1と温度T2とを変数とする一次結合の関数で表わされる。式(1)の「A4」は、定数であり、典型的には、0である。
【0052】
Tr=A1×T1+A2×T2+A4・・・(1)
上記式(1)は、温度予測式122に相当する。すなわち、温度予測式122は、メイン温度センサ71から出力される温度T1と、サブ温度センサ72から出力される温度T2と変数とする関数で表わされている。
【0053】
なお、温度予測式122は、下記式(2)に示されるように、所定時間当たりの温度T1の変化量を変数とする項「A3×(dT1/dt)」をさらに含んでもよい。変数「dT1/dt」は、温度T1の温度変化速度に相当する。温度変化速度は、たとえば1秒間の温度変化量として求められる。
【0054】
Tr=A1×T1+A2×T2+A3×(dT1/dt)+A4・・・(2)
図4は、上記式(1)を採用した場合と上記式(2)を採用した場合との温度推定精度の違いを示す図である。より具体的には、グラフ(A)は、定着ローラ30の実際の表面温度と、メイン温度センサ71によって計測された温度T1と、サブ温度センサ72によって計測された温度T2とを示す。グラフ(B)は、上記式(1)を用いた場合における定着ローラ30の推定温度と実際の温度との差を示す。グラフ(C)は、上記式(2)を用いた場合における定着ローラ30の推定温度と実際の温度との差を示す。
【0055】
グラフ(B),(C)に示されるように、上記式(2)が採用される方が、上記式(1)が採用されるよりも、推定温度と実際の温度との誤差が小さい。すなわち、温度予測式122が項「A3×(dT1/dt)」を含むことで、画像形成装置100は、用紙が定着装置200を通過するとき等の急激な温度変化が生じるときであっても、温度誤差を抑えることができる。そのため、温度の推定精度が求められる場合には、上記式(2)が温度予測式122として採用される。
【0056】
一方で、式(1)が採用されると処理が軽減され得る。そのため、推定精度よりも処理時間が求められる場合には、上記式(1)が温度予測式122として採用される。
【0057】
[温度予測式122の原理]
以下では、温度予測式122の原理について説明する。メイン温度センサ71への熱移動式は、下記式(3)で示される。
【0058】
C1×(dT1/dt)=(Tr−T1)/R1+(T2−T1)/R2・・・(3)
上記式(3)に示される「C1」は、メイン温度センサ71の熱容量を表わす。「R1」は、メイン温度センサ71と定着ローラ30との間の熱抵抗を表わす。熱抵抗は、温度の伝わりにくさを表わす指標である。熱抵抗R1は、メイン温度センサ71と定着ローラ30との間の距離に比例する。「R2」は、メイン温度センサ71とサブ温度センサ72との間の熱抵抗を表わす。熱抵抗R2は、メイン温度センサ71とサブ温度センサ72との間の距離に比例する。上記式(3)は、変形すると下記式(4)となる。
【0059】
Tr=(1+R1/R2)×T1−R1/R2×T2+C1×R1×(dT1/dt)・・・(4)
メイン温度センサ71の熱容量C1が十分小さい場合や、メイン温度センサ71の温度変化「dT1/dt」が小さい場合(すなわち、定着ローラ30の温度変化速度が小さい場合)には、上記式(4)は、下記式(5)と近似できる。
【0060】
Tr=(1+R1/R2)×T1−R1/R2×T2・・・(5)
上記式(4)は、上記式(2)に対応する。上記式(5)は、上記式(1)に対応する。上記式(2)と上記式(4)との関係、および上記式(1)と上記式(5)との関係によって、下記式(6)〜(8)が成り立つ。
【0061】
A1=1+R1/R2・・・(6)
A2=−R1/R2・・・(7)
A3=C1×R1・・・(8)
上述したように、熱抵抗R1は、メイン温度センサ71と定着ローラ30との間の距離に比例する。熱抵抗R2は、メイン温度センサ71とサブ温度センサ72との間の距離に比例する。そのため、上記式(6)〜(8)に示されるように、温度予測式122の係数A1〜A3は、これらの比例に相関する。
図5は、メイン温度センサ71と定着ローラ30との間の距離と、重回帰分析によって求められた係数A1〜A3との関係を表わす図である。
【0062】
グラフ(A)に示されるように、係数A1は、メイン温度センサ71とサブ温度センサ72との間の距離に相関している。グラフ(B)に示されるように、係数A2は、メイン温度センサ71とサブ温度センサ72との間の距離に相関している。グラフ(C)に示されるように、係数A3は、メイン温度センサ71とサブ温度センサ72との間の距離に相関している。
【0063】
したがって、係数A1〜A3を正確に求めることは、メイン温度センサ71および定着ローラ30の間の距離(あるいは、メイン温度センサ71およびサブ温度センサ72の間の距離)を正確に補正していることになる。
【0064】
[温度予測式122の補正方法]
以下、補正部220(
図3参照)による温度予測式122の補正方法について説明する。
【0065】
上記式(4)は、所定時間当たりの変化量を表わす記号Δを用いて変形すると下記式(9)となる。当該所定時間は、たとえば、10秒間である。
【0066】
R1/R2=(ΔTr−ΔT1)/(C1×R2×Δ(dT1/dt)−ΔT2−ΔT1)・・・(9)
上記式(9)に示されように、「R1/R2」は、「ΔTr」と、計測可能な「ΔT1」,「ΔT2」,「Δ(dT1/dt)」とで表わされる。以下では、「R1/R2」を補正係数Hともいう。画像形成装置100は、予め定められた基準条件で補正係数Hを算出する。予め定められた基準条件は、たとえば、メイン温度センサ71と定着ローラ30との間の距離が1mmであるという条件である。当該基準条件で求められた補正係数Hを補正係数H0ともいい、当該基準条件の元で重回帰分析により求められた上記式(2)の係数A1〜A3をA10〜A30ともいう。
【0067】
係数A1〜A3は、上記式(6)〜(8)を補正係数H(=R1/R2)で置き換えると下記式(10)〜(12)で表わされる。
【0068】
A1=1+H ⇒ A1−1∝H・・・(10)
A2=−H ⇒ A2∝H・・・(11)
A3∝H・・・(12)
すなわち、補正係数Hと係数A1〜A3との間には比例関係がある。したがって、任意の条件で測定された補正係数Hと係数A1〜A3との間には、下記式(13)〜(15)の関係がある。
【0069】
A1−1=B1×(H/H0)・・・(13)
A2=B2×(H/H0)・・・(14)
A3=B3×(H/H0)・・・(15)
上記式(13)〜(15)に示される値B1〜B3は、測定されたデータから予め計算され得る定数である。
図6は、補正係数H(=R1/R2)と温度予測式122の係数A1〜A3との関係を示す図である。
図6に示されるように、係数A1〜A3は、補正係数Hと相関し、補正係数Hに比例している。
【0070】
上記式(9)に示されるように、補正係数H(=R1/R2)は、「ΔTr」と、計測可能な「ΔT1」,「ΔT2」,「Δ(dT1/dt)」とで表わされる。すなわち、「ΔTr」が分かれば補正係数Hが算出され得る。「ΔTr」は、予め定められた時間内における定着ローラ30の温度変化を表わす。温度変化ΔTrは、一定であるとみなせるので予め測定され得る。実際に計測した結果として、10秒間における温度変化ΔTrは、−10℃であった。
【0071】
上記式(13)〜(15)に示されるように、補正係数Hが求められれば、係数A1〜A3も求められ得る。これにより、温度予測式122が補正され、画像形成装置100は、温度センサの位置のばらつきを補正することができる。
【0072】
[画像形成装置100の制御構造]
上述したように、温度予測式122としては、上記式(1)が採用されてもよいし、上記式(2)が採用されてもよい。以下では、上記式(1)を採用した場合の画像形成装置100の制御フローと、上記式(2)を採用した場合の画像形成装置100の制御フローとについて順に説明する。
【0073】
(上記式(1)を用いる場合の制御フロー)
図7は、上記式(1)を採用した場合における画像形成装置100の制御フローを表わす図である。
図7の処理は、画像形成装置100の制御装置102(
図1参照)がプログラムを実行することにより実現される。他の局面において、処理の一部または全部が、回路素子またはその他のハードウェアによって実行されてもよい。
【0074】
ステップS10において、制御装置102は、上記式(1)の温度予測式122の補正タイミングであるか否かを判断する。一例として、制御装置102は、画像形成装置100の使用履歴に基づいて、上記式(1)の温度予測式122の補正タイミングであるか否かを判断する。当該補正タイミングは、たとえば、前回の補正処理が実行されてから所定時間が経過したとき、前回の補正処理が実行されてからの定着装置200による印刷枚数が所定枚数を超えたとき、および前回の補正処理が実行されてからの定着装置200の加熱時間が所定時間を経過したときのいずれかである。制御装置102は、温度予測式122の補正タイミングであると判断した場合(ステップS10においてYES)、制御をステップS12に切り替える。そうでない場合には(ステップS10においてNO)、制御装置102は、ステップS10の処理を再び実行する。
【0075】
ステップS12において、制御装置102は、定着ローラ30のヒータ33(
図2参照)を駆動して定着装置200を加熱する。
【0076】
ステップS20において、制御装置102は、定着ローラ30の表面温度が目標温度(たとえば、180度)に達したか否かを判断する。当該表面温度は、温度センサから得られる検出温度を温度予測式122に適用することにより算出される。制御装置102は、定着ローラ30の表面温度が目標温度に達したと判断した場合(ステップS20においてYES)、制御をステップS22に切り替える。そうでない場合には(ステップS20においてNO)、制御装置102は、制御をステップS12に戻す。
【0077】
ステップS22において、制御装置102は、定着ローラ30の加熱を停止し、所定時間(たとえば、10秒間)のメイン温度センサ71の温度変化量ΔT1を取得するとともに、サブ温度センサ72から温度変化量ΔT2を取得する。定着ローラ30と温度センサとの間の距離が同じである場合には、温度変化量ΔT1,ΔT2は一定であることが好ましい。すなわち、温度変化量ΔT1,ΔT2は、定着ローラ30と温度センサとの間の距離以外には影響されないことが好ましい。定着ローラ30の加熱中においては、温度変化量ΔT1,ΔT2は、定着ローラ30のヒータの品質に影響されるため安定しない可能性がある。そのため、制御装置102は、定着ローラ30の加熱停止後に温度変化量ΔT1,ΔT2を計測する。
【0078】
また、温度変化量ΔT1,ΔT2は、定着ローラ30の周辺温度にも影響を受ける。そのため、制御装置102は、画像形成装置100の内部の温度が安定している状態で温度変化量ΔT1,ΔT2を計測する。画像形成装置100の電源がオフされている状態においては内部装置が駆動されていないため、画像形成装置100の内部の温度は、電源がオンされた直後には安定している可能性が高い。そのため、制御装置102は、画像形成装置100の電源がオンされてから定着ローラ30の加熱が初めて停止されたことに基づいて温度変化量ΔT1,ΔT2の計測を開始する。
【0079】
ある局面において、画像形成装置100は、電力の消費を抑制する省エネモードを有し、通常モードから省エネモードに移行するときに定着装置200の加熱を停止する。制御装置102は、画像形成装置100が省エネモードに移行するタイミングで温度変化量ΔT1,ΔT2を計測する。温度計測が省エネモードへの移行後に実行されることで、画像形成装置100は、温度予測式122の補正処理よりも印刷処理やスキャン処理を優先することができる。
【0080】
他の局面において、画像形成装置100は、所定数のジョブの実行終了後に定着装置200の加熱を停止する。制御装置102は、画像形成装置100における所定数のジョブの実行終了後において温度変化量ΔT1,ΔT2を計測する。温度計測がジョブの終了後に実行されることで、画像形成装置100は、温度予測式122の補正処理よりも印刷処理やスキャン処理を優先することができる。
【0081】
ステップS24において、制御装置102は、温度変化量ΔT1,ΔT2を用いて補正係数Hを算出する。温度変化速度dT1/dtを用いない場合には、上記式(9)は、下記式(16)となる。制御装置102は、ステップS22で測定された温度変化量ΔT1,ΔT2を下記式(16)に適用し、補正係数Hを算出する。
【0082】
H=R1/R2=(ΔTr0−ΔT1)/(−ΔT2−ΔT1)・・・(16)
すなわち、制御装置102は、温度変化量ΔTr0から温度変化量ΔT1の変化量を減算した結果を、温度変化量ΔT1および温度変化量ΔT2の合計で除算して補正係数Hを算出する。温度変化量ΔT1,ΔT2は、温度の低下量を表わすため負である。そのため、上記式(16)に示される「−ΔT2−ΔT1」は正となり、温度変化量ΔT1,ΔT2の合計となる。上記式(16)に示される温度変化量ΔTr0は、予め定められた時間内における定着ローラ30の温度変化を表わす。温度変化量ΔTr0は、一定であり、予め測定されている。
【0083】
ステップS26において、制御装置102は、温度予測式122に含まれる係数A1,A2が補正係数Hに応じて変化することを利用して、係数A1,A2の値を補正する。より具体的には、制御装置102は、上記式(13),(14)に補正係数Hを適用し、温度予測式122の係数A1,A2の新たな値を算出する。
【0084】
ステップS28において、制御装置102は、ステップS26で算出された係数A1,A2で現在の温度予測式122を書き換える。
【0085】
ステップS30において、制御装置102は、算出された係数A1,A2を、次回の補正処理で用いる係数A10,A20とする。
【0086】
(上記式(2)を用いる場合の制御フロー)
図8を参照して、上記式(2)を採用した場合における画像形成装置100の制御フローについて説明する。
図8は、上記式(2)を採用した場合における画像形成装置100の制御フローを表わす図である。
図8の処理は、画像形成装置100の制御装置102(
図1参照)がプログラムを実行することにより実現される。他の局面において、処理の一部または全部が、回路素子またはその他のハードウェアによって実行されてもよい。なお、ステップS10,S12の処理は
図7で説明した通りであるので、それらの説明については繰り返さない。
【0087】
ステップS20Aにおいて、制御装置102は、定着ローラ30の表面温度が目標温度(たとえば、180度)に達したか否かを判断する。当該表面温度は、上記式(2)の温度予測式122を用いて算出される。制御装置102は、定着ローラ30の表面温度が目標温度に達したと判断した場合(ステップS20AにおいてYES)、制御をステップS22Aに切り替える。そうでない場合には(ステップS20AにおいてNO)、制御装置102は、制御をステップS12に戻す。
【0088】
ステップS22Aにおいて、制御装置102は、定着ローラ30の加熱を停止し、加熱の停止後から所定時間が経過するまでの間におけるメイン温度センサ71からの温度変化量ΔT1とサブ温度センサ72からの温度変化量ΔT2とメイン温度センサ71の温度変化速度の変化量Δ(dT1/dt)とを算出する。
【0089】
ステップS24Aにおいて、制御装置102は、温度変化量ΔT1,ΔT2と温度変化速度の変化量Δ(dT1/dt)とを上記式(9)に適用し、補正係数Hを算出する。より具体的には、制御装置102は、定数である温度変化量ΔTr0から温度変化量ΔT1を減算することで値Aを算出する。制御装置102は、メイン温度センサ71の温度変化速度の変化量Δ(dT1/dt)に予め定められた係数(すなわち、C1×R2)を乗算し、当該乗算結果に温度変化量ΔT1,ΔT2を減算することで値Bを算出する。制御装置102は、値Aを値Bで除算することで補正係数Hを算出する。
【0090】
ステップS26Aにおいて、制御装置102は、温度予測式122に含まれる係数A1〜A3が補正係数Hに応じて変化することを利用して、係数A1〜A3の値を補正する。より具体的には、制御装置102は、上記式(13)〜(15)に補正係数Hを適用し、温度予測式122の係数A1〜A3の新たな値を算出する。
【0091】
ステップS28Aにおいて、制御装置102は、ステップS26で算出された係数A1〜A3で現在の温度予測式122を書き換える。
【0092】
ステップS30Aにおいて、制御装置102は、算出された係数A1〜A3を、次回の補正処理で用いる係数A10〜A30とする。
【0093】
[画像形成装置100のハードウェア構成]
図9を参照して、画像形成装置100のハードウェア構成の一例について説明する。
図9は、画像形成装置100の主要なハードウェア構成を示すブロック図である。
図9に示されるように、画像形成装置100は、ROM(Read Only Memory)101と、制御装置102と、RAM(Random Access Memory)103と、ネットワークインターフェイス104と、スキャナ106と、プリンタ107と、操作パネル108と、記憶装置120と、上述の定着装置200とを備える。
【0094】
ROM101は、画像形成装置100で実行される制御プログラム等を格納する。制御装置102は、画像形成装置100の制御プログラム等の各種プログラムを実行することで、画像形成装置100の動作を制御する。RAM103は、ワーキングメモリとして機能し、制御プログラムの実行に必要な各種データを一時的に格納する。
【0095】
ネットワークインターフェイス104には、アンテナ(図示しない)等が接続される。画像形成装置100は、当該アンテナを介して、他の通信機器との間でデータをやり取りする。他の通信機器は、たとえば、スマートフォン等の携帯通信端末、サーバー等を含む。画像形成装置100は、本実施の形態に従う制御プログラム124を、アンテナを介してサーバーからダウンロードできるように構成されてもよい。
【0096】
スキャナ106は、画像形成装置100にセットされた原稿を光学的に読み取って、原稿の画像データを生成する。
【0097】
プリンタ107は、たとえば電子写真方式により、スキャナ106で読み取られた画像データや、他の通信機器から送信されたプリントデータを、印刷のためのデータに変換し、変換後のデータに基づいて文書等の画像を印刷する装置である。
【0098】
操作パネル108は、タッチパネルとして構成され、画像形成装置100に対するタッチ操作を受け付ける。一例として、操作パネル108は、表示パネルと、表示パネルに重ねて設けられるタッチセンサとで構成される。操作パネル108は、たとえば、制御プログラム124に関する設定操作や印刷指示等を受け付ける。
【0099】
電源109は、画像形成装置100の電源ボタン(図示しない)が押下されたことに基づいて、画像形成装置100の各種装置に電力を供給する。
【0100】
記憶装置120は、たとえば、ハードディスクや外付けの記憶装置等の記憶媒体である。記憶装置120は、一例として、本実施の形態に従う処理を実現するための制御プログラム124を格納する。
【0101】
なお、本実施の形態に従う制御プログラム124は、単体のプログラムとしてではなく、任意のプログラムの一部に組み込まれて提供されてもよい。この場合、本実施の形態に従う処理は、任意のプログラムと協働して実現される。このような一部のモジュールを含まないプログラムであっても、本実施の形態に従うプログラムの趣旨を逸脱するものではない。さらに、本実施の形態に従う制御プログラム124によって提供される機能の一部または全部は、専用のハードウェアによって実現されてもよい。さらに、少なくとも1つのサーバーが本実施の形態に従う処理を実現する、所謂クラウドサービスのような形態で画像形成装置100が構成されてもよい。
【0102】
[温度予測式の変形例]
定着装置200の変形例について説明する。上述では、温度予測式122は、温度センサから出力される温度値を変数とする例について説明を行ったが、温度予測式122は、その他の温度特性値を変数としてもよい。たとえば、温度予測式122は、温度センサから出力される電圧値を変数としてもよい。
【0103】
温度センサは、温度値自体を出力せずに、温度値と相関のある電圧値を出力する場合もある。
図10は、温度センサからの出力電圧値と温度値との関係を示す図である。
図10に示されるように、温度は、温度センサからの出力電圧値に相関している。したがって、温度予測式122は、温度センサから出力される電圧値を変数としてもよい。この場合、温度予測式122は、下記式(17)で表わされる。
【0104】
Tr=A1×(T1^X1)+A2×(T2^X2)+A3×(dT1/dt)^X3+A4・・・(17)
上記式(17)に示される「X1」〜「X3」は定数である。「T1^X1」は、「T1」の「X1」乗を表わす。「T2^X2」は、「T2」の「X2」乗を表わす。「(dT1/dt)^X3」の「dT1/dt」の「X3」乗を表わす。上記式(17)に示されるように、定着ローラ30の正確な表面温度Trは、各温度センサの出力値を「X1」〜「X3」乗を合計したものに相当する。
【0105】
電圧値と温度値との関係は、予めテーブルで規定されていてもよいし、電圧値と温度値との関係を近似した多項式で規定されてもよい。当該テーブルや当該多項式は、たとえば、画像形成装置100の記憶装置120に予め格納されている。
【0106】
[実験結果]
図11を参照して、温度予測式122の補正処理による効果について説明する。
図11は、温度予測式122の補正処理のシミュレーション結果を示す図である。より具体的には、グラフ(A)は、温度予測式122の補正処理を行わなかった場合における定着ローラ30の推定温度と実際の温度との間の誤差を、定着ローラ30と温度センサとの間の距離別に示す。グラフ(B)は、温度予測式122の補正処理を行った場合における定着ローラ30の推定温度と実際の温度との間の誤差を、定着ローラ30と温度センサとの間の距離別に示す。
【0107】
グラフ(A),(B)に示されるように、温度予測式122の補正処理が実行されることで、定着ローラ30の温度は、定着ローラ30と温度センサとの間の距離に影響されずに正確に推定されている。そのため、温度センサと定着ローラ30との間の距離が変動したとしても、画像形成装置100は、定着ローラ30の表面温度を正確に制御することができる。
【0108】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。