特許第6601139号(P6601139)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6601139軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金及びFe系非晶質合金薄帯
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6601139
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金及びFe系非晶質合金薄帯
(51)【国際特許分類】
   C22C 45/02 20060101AFI20191028BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20191028BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20191028BHJP
【FI】
   C22C45/02 A
   H01F1/153 108
   !C21D6/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-205637(P2015-205637)
(22)【出願日】2015年10月19日
(65)【公開番号】特開2017-78186(P2017-78186A)
(43)【公開日】2017年4月27日
【審査請求日】2018年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 有一
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−240147(JP,A)
【文献】 特開2006−310787(JP,A)
【文献】 特開2005−307291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/12
H01F 1/12− 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子%で、Feを80.0%以上88.0%以下、Bを6.0%以上12.0%以下、Cを2.0%以上8.0%以下、Siを0.10%以上3.0%以下、Alを0.10%以上2.0%以下含有し、さらに、Moを0.10%以上6.0%以下含有し、残部不可避的不純物からなり、
磁束密度1.3T、周波数50Hzにおける鉄損(W13/50)が0.100W/kg以下であり、かつ、飽和磁束密度が1.60T以上であることを特徴とする、軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金。
【請求項2】
Ni、Cr、Coのうち少なくとも1種以上で、請求項1に記載のFe系非晶質合金のFeを10.0原子%以下の範囲で、代替したことを特徴とする、軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のFe系非晶質合金からなることを特徴とするFe系非晶質合金薄帯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力トランス、高周波トランスなどの鉄心等に用いられるFe系非晶質合金及びFe系非晶質合金薄帯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合金を溶融状態から急冷することによって、連続的に薄帯や線を製造する方法として遠心急冷法、単ロ−ル法、双ロ−ル法等が知られている。これらの方法は、高速回転する金属製ドラムの内周面または外周面に溶融金属をオリフィス等から噴出させることによって、急速に溶融金属を凝固させて薄帯や線を製造するものである。また、合金組成を適正に選ぶことによって、液体金属に類似した非晶質合金を得ることができ、磁気的性質あるいは機械的性質に優れた材料を製造することができる。
【0003】
このような急冷凝固により得られる非晶質合金として、これまで多くの成分が提案されている。例えば、特許文献1では、原子%で、Fe、Ni、Cr、Co、Vからの少なくとも1種で60〜90%、P、C、Bからの少なくとも1種で10〜30%、Al、Si、Sn、Sb、Ge、In、Beからの少なくとも1種で0.1〜15%からなる合金成分が提案されている。特許文献1に記載の技術は非晶質相が得られる合金成分を提案したもので、特に電力トランスや高周波トランスなどの鉄心等の用途に限定した、いわゆる磁気的性質のみに注目した成分の提案ではない。
【0004】
その後、磁気的性質に注目した非晶質合金としての合金成分も多く提案されている。例えば、特許文献2では、原子%で、Feが75〜78.5%、Siが4〜10.5%、Bが11〜21%からなる合金成分が提案されている。
【0005】
一方、特許文献3では、Fe、Coからの少なくとも1種で70〜90%、B、C、Pからの少なくとも1種で10〜30%、さらに、Fe、Coの含有量を、Niでその3/4まで、V、Cr、Mn、Mo、Nb、Ta、Wでその1/4まで代替でき、又、B、C、Pの含有量を、Siでその3/5まで、Alでその1/3まで代替できる合金成分が提案されている。
【0006】
特許文献1、3で提案された非晶質合金成分の中でも、エネルギ−損失である鉄損が低いこと、飽和磁束密度および透磁率が高いこと、さらには安定して非晶質相が得られる等の理由から、例えば特許文献2に示すようなFeSiB系非晶質合金が、電力トランスや高周波トランスの鉄心等の用途として有望視されるようになった。
【0007】
以来、軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金の合金成分に関する開発は、このFeSiB系を中心にして進められた。すなわち、FeSiB系非晶質合金においての一層の鉄損低減開発が盛んに行われ、多くの成果が生み出された。
【0008】
非晶質合金における鉄損の改善はかなり進められ、例えば、特許文献4により、単板測定による鉄損W13/50(磁束密度1.3T、周波数50Hzにおける鉄損)で、安定して0.100W/kg以下の低鉄損を実現可能となるまでに至った。
【0009】
つまり、特許文献4では、原子%で、Feを78%以上86%以下、Bを8%以上18%以下、Cを3%以上10%以下、Siを0.1%以上5%以下、さらに、Alを0.1%以上3%以下含有し、残部不可避的不純物からなる合金成分が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭49−91014号公報
【特許文献2】特開昭57−116750号公報
【特許文献3】特開昭61−30649号公報
【特許文献4】特開2008−240147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来、非晶質合金における鉄損低減開発はかなり進んでいるものの、一方で、電力トランスや高周波トランスなどの鉄心等の用途での磁束密度の改善が強く要求されている。しかし、従来、低鉄損を維持しながら飽和磁束密度が安定して1.60T以上となる非晶質合金を得ることは非常に困難であった。
【0012】
本発明は、このような磁束密度改善のニーズに応えるべく、低鉄損を維持しながら一層の高磁束密度化を実現できるFe系非晶質合金及びFe系非晶質合金薄帯の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、これまで提案された各種合金成分の構成元素のうち、先に述べた例えば、特許文献4に記載のFeをメインとし、B、C、Si及びAlからなる成分系に注目し、低鉄損を維持しながら更なる高磁束密度化について検討及び実験を行った。そして、Feをメインとし、添加元素がB、C、Si、Alを主体とする成分系を基本として、さらに他の元素も組み合わせて詳細実験を行った結果、飽和磁束密度が安定して1.60T以上になる非晶質合金の成分を見出した。そして、この知見を基に検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、その要旨は、以下のとおりである。
【0015】
(1)原子%で、Feを80.0%以上88.0%以下、Bを6.0%以上12.0%以下、Cを2.0%以上8.0%以下、Siを0.10%以上3.0%以下、Alを0.10%以上2.0%以下含有し、さらに、Moを0.10%以上6.0%以下含有し、残部不可避的不純物からなり、磁束密度1.3T、周波数50Hzにおける鉄損(W13/50)が0.100W/kg以下、かつ、飽和磁束密度が1.60T以上であることを特徴とする軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金。
(2)Ni、Cr、Coのうち少なくとも1種以上で、上記(1)に記載の合金のFeを10.0原子%以下の範囲で、代替することを特徴とする、軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金。
上記(1)または(2)に記載のFe系非晶質合金からなることを特徴とするFe系非晶質合金薄帯。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低鉄損を維持したまま飽和磁束密度が1.60T以上となるFe系非晶質合金を提供できる。
また、本発明によれば、低鉄損を維持したまま飽和磁束密度が1.60T以上となるFe系非晶質合金薄帯を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係るFe系非晶質合金について詳細に説明する。
本実施形態のFe系非晶質合金の特徴は、Fe、B、C、Si、Alからなる合金に、更にMoを添加し、構成元素の含有量を最適化したことにより、軟磁気特性、特に低鉄損を維持したまま飽和磁束密度を製造ロット内で安定して一層高くすることを実現したことにある。また、本実施形態のFe系非晶質合金は、ベースであるFeの一部をNi、Cr、Coで代替することで更なる軟磁気特性の改善を実現したことにある。低鉄損とは、単板測定による鉄損W13/50(磁束密度1.3T、周波数50Hzにおける鉄損)で、安定して0.100W/kg以下を示すことであり、本実施形態では、この低鉄損特性を備えたまま1.60T以上の高い飽和磁束密度を示すFe系非晶質合金を実現できる。
【0018】
はじめに、本実施形態のFe系非晶質合金において、各元素の含有量を限定した理由について述べる。
【0019】
BおよびCは、本実施形態のFe系非晶質合金において、非晶質相形成及び非晶質相の熱的安定性を向上させるために添加する。さらに、これら元素の含有量を最適化することで、軟磁気特性を一層改善することが可能であり、例えば、飽和磁束密度を安定して1.60T以上を実現することができる。Bが6.0原子%未満、Cが2.0原子%未満ではFe系非晶質合金において、非晶質合金が安定して得られないことから、飽和磁束密度を安定して1.60T以上とすることが困難となる。一方、Bを12.0原子%超、Cを8.0原子%超としても、鉄損を安定して0.100W/kg以下を維持したまま、飽和磁束密度を安定して1.60T以上とすることは困難となる。従って、Bを6.0原子%以上12.0原子%以下、Cを2.0原子%以上8.0原子%以下の範囲に限定した。
【0020】
さらに、本実施形態のFe系非晶質合金において、Si,Alを添加すると非晶質相形成能が改善し、非晶質相の熱的安定性が一層向上する。Si、Alの含有量はそれぞれ、0.10原子%以上、3.0原子%以下、0.10原子%以上、2.0原子%以下とする。Si及びAlが0.10原子%未満では非晶質相形成能の改善が認められず、Siが3.0原子%超、Alが2.0原子%超では非晶質相形成能の改善があまり認められないからである。
【0021】
Moの添加も非晶質相形成能を一層向上させる。Moの含有量は0.10原子%以上、6.0原子%以下とする。Moが、0.10原子%未満では非晶質相形成能のより一層の向上が認められず、6.0原子%超では非晶質相形成能の向上があまり認められないからである。
【0022】
Fe系非晶質合金において、Feの含有量は通常、70原子%以上であれば一般的な鉄心としての実用的なレベルの飽和磁束密度が得られるが、1.60T以上の高い飽和磁束密度を得るためには、Feを80.0原子%以上にする必要がある。一方、Feの含有量が88.0原子%超となると、非晶質相の形成が困難となり、非晶質合金特有の良好な軟磁気特性(例えば、鉄損W13/50を安定して0.100W/kg以下)を得ることが難しくなる。よって、本実施形態のFe系非晶質合金において、Fe含有量を80.0原子%以上88.0原子%以下の範囲と限定した。
【0023】
一般的に、飽和磁束密度はFeの含有量でほぼ決まり、Feの含有量が高い程、飽和磁束密度が高くなる。本実施形態のFe系非晶質合金の場合、非晶質相を形成するためにBやCなどの元素を添加するが、その分Feの含有量が低くなり、得られる飽和磁束密度には制限があった。本実施形態のFe系非晶質合金では新たにMoを添加することで非晶質相形成能を向上させたことでFeの含有量を多くすることが可能となり、これが1つのポイントとなって本実施形態のFe系非晶質合金を実現できた。
【0024】
また、本実施形態のFe系非晶質合金において、飽和磁束密度1.65T以上を得るためのFeのより好ましい範囲は84.0〜88.0原子%とすることができ、更に好ましくは84.0原子%超〜88.0原子%とすることができる。
また、本実施形態のFe系非晶質合金において、0.090W/kg以下の低鉄損を得るためには、Feのより好ましい範囲は80.0〜84.0原子%とすることができる。
【0025】
本実施形態のFe系非晶質合金では、Feの一部をNi、Cr、Coの少なくとも1種で、10.0原子%以下の範囲で代替することで、高飽和磁束密度を維持したまま鉄損などの軟磁気特性の改善も実現できる。これら元素による代替量に上限を設けたのは、10.0原子%超となると、飽和磁束密度が低くなることや原料コストが嵩むためである。
【0026】
本実施形態のFe系非晶質合金は、通常、薄帯の形態で得ることができる。このFe系非晶質合金薄帯は、上述の実施形態において説明した成分からなる合金を溶解し、溶湯をスロットノズル等を通して高速で移動している冷却板上に噴出し、該溶湯を急冷凝固させる方法、例えば、単ロ−ル法、双ロ−ル法によって製造することができる。これらのロール法に用いるロールは金属製であり、ロールを高速回転させ、ロール表面またはロール内面に溶湯を衝突させることで合金の急冷凝固が可能である。
【0027】
単ロ−ル装置には、ドラムの内壁を使う遠心急冷装置、エンドレスタイプのベルトを使う装置、及びこれらの改良型である補助ロ−ルやロ−ル表面温度制御装置を付属させたもの、減圧下あるいは真空中、または不活性ガス中での鋳造装置も含まれる。
【0028】
本実施形態では、薄帯の板厚、板幅などの寸法は特に限定しないが、薄帯の板厚は、例えば、10μm以上100μm以下が好ましい。また、板幅は10mm以上が好ましい。
以上説明の如く得られたFe系非晶質合金薄帯は、電力トランスや高周波トランスでの鉄心等の用途として用いることができる。
【0029】
なお、本実施形態のFe系非晶質合金は、薄帯の他に粉末状とすることも可能である。その場合、上述の組成の合金溶湯を満たしたるつぼのノズルから回転するロールあるいは冷却用の水などの液体の中に高速で合金溶湯あるいは合金溶湯の液滴を噴出して急冷凝固する方法を採用することができる。
【0030】
上述の方法により、軟磁気特性に優れたFe系非晶質合金粉末を得ることができる。
【0031】
上述のように得られたFe系軟磁性合金粉末は、金型等により圧密して目的の形状に成形し、必要に応じ焼結して一体化することで、電力トランスや高周波トランス、コイルの鉄心等の用途として適用することができる。
【0032】
なお、本実施形態のFe系非晶質合金が非晶質組織を有するか否かは、例えば、Fe管球を用いたX線回折装置によるX線回折測定で確認できる。すなわち、X線回折測定において明確な回折ピークが得られない場合は、Fe系非晶質合金が非晶質組織を有していると確認できる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例について説明する。
(実施例1)
以下の表1に示す各種成分の合金をアルゴン雰囲気中で溶解し、単ロ−ル法で薄帯に鋳造した。鋳造雰囲気は大気中であった。そして、得られた薄帯について軟磁気特性を調査した。使用した単ロ−ル薄帯製造装置は、直径300mmの銅合金製冷却ロ−ル、試料溶解用の高周波電源、先端にスロットノズルが付いている石英ルツボ等から構成される。
【0034】
この実験では、長さ20mm、幅0.6mmのスロットノズルを使用した。冷却ロ−ルの周速は24m/秒とした。結果として、得られた薄帯の板厚は約25μmであり、板幅はスロットノズルの長さに依存するので20mmであり、長さはおよそ50mであった。
【0035】
得られた薄帯の飽和磁束密度は、VSM装置(振動試料型磁力計)を用いて測定した。薄帯の鉄損は、SST(Single Strip Tester)を用いて測定した。なお、鉄損測定条件は、磁束密度1.3T、周波数50kHzである。これらの特性測定用の試料は、いずれも1ロットの全長に渡って6箇所から採取し、鉄損測定用のサンプルは120mm長さに切断した薄帯サンプルとした。これら鉄損測定用の薄帯サンプルは360℃にて1時間、磁場中でアニ−ルを行って測定に供した。アニ−ル中の雰囲気は窒素雰囲気とした。一方、VSM装置用の試料は、上記6個所からの薄帯サンプルについていずれも幅中央部から採取した薄片とした。
【0036】
飽和磁束密度及び鉄損の測定結果は6個所でのデ−タの平均値を、表1に示した。
【0037】
【表1】
【0038】
表1の試料No.1〜23の結果から明らかなように、Feを80.0原子%以上88.0原子%以下、Bを6.0原子%以上12.0原子%以下、Cを2.0原子%以上8.0原子%以下、Siを0.10原子%以上3.0原子%以下、Alを0.10原子%以上2.0原子%以下、更に、Moを0.10原子%以上6.0原子%以下の本発明範囲とすることによって、飽和磁束密度1.60T以上、又、磁束密度1.3T、周波数50Hzにおける鉄損が0.100W/kg以下と、良好な軟磁気特性を有するFe系非晶質合金薄帯が得られることがわかった。なお、実施例のFe系非晶質合金薄帯はいずれも、X線回折測定において明確な回折ピークが観察されず、非晶質であることが確認された。
【0039】
これらに対して、試料No.24〜36に示す比較例のうち、試料No.25、26、28では、破断発生や、表面にうねりが発生し、飽和磁束密度や鉄損の測定ができなかった(表1中の軟磁気特性の欄中に「−」で示す)。
【0040】
試料No.25はFe含有量が望ましい範囲の上限88.0原子%を上回った例であり、試料No.26はB含有量の望ましい範囲の下限6.0原子%を下回った例、そして試料No.28はC含有量が望ましい範囲の下限2.0原子%を下回った例である。
【0041】
一方、試料No.24、27、29〜35では薄帯が得られても飽和磁束密度が1.60T以上及び鉄損が0.100W/kg以下の両者を満足する特性は得られなかった。
【0042】
試料No.24はFe含有量が望ましい範囲の下限80.0原子%を下回った例で飽和磁束密度が低下した例、試料No.27はB含有量が望ましい範囲の上限12.0原子%を上回り鉄損が増加した例、試料No.29はC含有量が望ましい範囲の上限8.0原子%を上回り鉄損が増加した例である。試料No.30はSi含有量が望ましい範囲の下限0.10原子%を下回り鉄損が増加した例、試料No.31はSi含有量が上限の3.0原子%を上回り鉄損が増加した例である。又、試料No.32はAl含有量が下限の0.10原子%を下回り鉄損が増加した例であり、試料No.33はAl含有量が上限の2.0原子%を上回り鉄損が増加した例である。更に、試料No.34はMo含有量が望ましい範囲の下限0.10原子%を下回り鉄損が増加した例、試料No.35はMo含有量が望ましい範囲の上限6.0原子%を上回り鉄損が増加した例である。
【0043】
更に、試料No.36はMoを含有しない例であり、Moを含有しないことから、飽和磁束密度1.60T以上、鉄損0.100W/kg以下の両者とも満足しない特性となった。
【0044】
これらの対比から、本発明により、Fe系非晶質合金において磁束密度1.3T、周波数50Hzにおける鉄損が0.100W/kg以下という優れた鉄損を維持しながら、更なる飽和磁束密度の改善を実現できることがわかった。
【0045】
(実施例2)
表1のNo.1に示す合金について、Feの一部をNi、Cr、Coの少なくとも1種で代替した各種成分の合金を用いて、実施例1と同様の装置、条件により薄帯を鋳造した。なお、用いた合金の具体的な成分については、Ni、Cr、Coについてのみを表2に示した。結果として、得られた薄帯の板厚、板幅、長さはそれぞれ、約25μm、20mm、およそ50mであった。得られた薄帯の飽和磁束密度及び鉄損について評価した。これらの特性評価に用いた試料の採取方法及び測定条件は、実施例1と同じであった。その測定結果を表2に示す。なお、表2での表示要領は、表1の場合と同様である。
【0046】
【表2】
【0047】
表2の試料No.1〜7の結果から明らかなように、Feの一部をNi、Cr、Coの少なくとも1種で、10.0原子%以下の範囲で代替しても、飽和磁束密度が1.60T以上で、鉄損をW13/50で安定して0.100W/kg以下とできることがわかった。また、いずれの試料も、X線回折測定において明確な回折ピークが観察されず、非晶質であることが確認された。
【0048】
(実施例3)
表1のNo.11に示す合金について、Feの一部をNi、Cr,Coの少なくとも1種で代替した各種成分の合金を用いて、実施例1と同様の装置、条件により薄帯を鋳造した。なお、用いた合金の具体的な成分については、Ni、Cr、Coについてのみを表3に示した。結果として、得られた薄帯の板厚、板幅、長さはそれぞれ、約25μm、20mm、およそ50mであった。得られた薄帯の飽和磁束密度及び鉄損について評価した。これらの特性評価に用いた試料の採取方法及び測定条件は、実施例1と同じであった。その測定結果を、表3に示す。なお、表3での表示要領は、表1の場合と同様である。
【0049】
【表3】
【0050】
表3の試料No.1〜7の結果から明らかなように、Feの一部をNi、Cr、Coの少なくとも1種で、10.0原子%以下の範囲で代替しても、飽和磁束密度が1.60T以上で、鉄損をW13/50で安定して0.100W/kg以下にできることがわかった。また、いずれの試料も、X線回折測定において明確な回折ピークが観察されず、非晶質であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明により、飽和磁束密度が高く鉄損が低い、すなわち、品質が良好なFe系非晶質合金、例えば、Fe系非晶質合金薄帯を工業的規模で安定して製造することが可能となった。本発明のFe系非晶質合金の特性は、これまでのFe系非晶質合金より品質が良好であることから、産業上の利用可能性は大きい。