特許第6601183号(P6601183)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6601183
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 13/00 20060101AFI20191028BHJP
【FI】
   B60C13/00 E
   B60C13/00 H
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-227604(P2015-227604)
(22)【出願日】2015年11月20日
(65)【公開番号】特開2017-94840(P2017-94840A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年11月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】清水 栄星
(72)【発明者】
【氏名】酒井 智行
(72)【発明者】
【氏名】北村 臣将
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−101211(JP,A)
【文献】 特開平07−276909(JP,A)
【文献】 特開昭62−199506(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/152188(WO,A1)
【文献】 特開2000−052721(JP,A)
【文献】 特開平08−085303(JP,A)
【文献】 特開平05−070631(JP,A)
【文献】 特開2015−113043(JP,A)
【文献】 特開平11−028908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間にカーカス層が装架された空気入りタイヤにおいて、
前記サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向外側のゴム層が発泡ゴムで構成されており、タイヤ断面高さをhとし、リムベースラインからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.7倍の位置からタイヤ径方向内外にタイヤ断面高さhの0.1倍ずつ離れた位置の間に含まれる領域を外側領域とし、前記リムベースラインからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.2倍の位置からタイヤ径方向内外にタイヤ断面高さhの0.1倍ずつ離れた位置の間に含まれる領域を内側領域としたとき、前記発泡ゴムの前記内側領域での比重dINが前記発泡ゴムの前記外側領域での比重dOUT よりも大きいことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記発泡ゴムの前記外側領域での比重dOUT が0.6〜0.95であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記発泡ゴムの100%伸長時におけるモジュラスが0.6MPa〜1.5MPaであることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記リムベースラインからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.3倍の位置からタイヤ径方向内外にタイヤ断面高さhの0.1倍ずつ離れた位置の間に含まれる領域の少なくとも一部に前記発泡ゴムからなりタイヤ幅方向外側に突き出てタイヤ周方向に延在した膨出部を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記膨出部の子午線断面における断面積SR と比重dR との積SR ×dR が35mm2 〜60mm2 であることを特徴とする請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向外側のゴム層の最小厚さが1.2mm〜2.6mmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向外側のゴム層の厚さが前記外側領域で最小になることを特徴とする請求項6に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドウォール部に発泡ゴムが用いられた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、操縦安定性を良好に維持しながら、タイヤ重量を軽減し、更に乗り心地性を改善することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気入りタイヤでは、省資源化や省エネルギーの観点から、タイヤを構成する材料の使用量を抑えたり、燃費を低減するために、タイヤ重量を軽減することが行われている。このようなタイヤの軽量化の手法としては、例えば、サイドウォール部を構成するゴムとして発泡ゴムを用いることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
しかしながら、サイドウォール部に発泡ゴムを用いた場合、サイドウォール部の剛性が低下して操縦安定性や乗り心地性が悪化し易くなるという問題があった。そのため、サイドウォール部に発泡ゴム層を採用してタイヤ重量の軽減を図るにあたって、軽量化の効果を損なうことなく、操縦安定性や乗り心地性の低下を防止するための対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07‐101211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、サイドウォール部に発泡ゴムが用いられた空気入りタイヤであって、操縦安定性を良好に維持しながら、タイヤ重量を軽減し、更に乗り心地性を改善することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間にカーカス層が装架された空気入りタイヤにおいて、前記サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向外側のゴム層が発泡ゴムで構成されており、タイヤ断面高さをhとし、リムベースラインからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.7倍の位置からタイヤ径方向内外にタイヤ断面高さhの0.1倍ずつ離れた位置の間に含まれる領域を外側領域とし、前記リムベースラインからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.2倍の位置からタイヤ径方向内外にタイヤ断面高さhの0.1倍ずつ離れた位置の間に含まれる領域を内側領域としたとき、前記発泡ゴムの前記内側領域での比重dINが前記発泡ゴムの前記外側領域での比重dOUT よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、サイドウォール部におけるカーカス層のタイヤ幅方向外側のゴム層を発泡ゴムで構成してタイヤの軽量化を図るにあたって、この発泡ゴムの比重を前述のように設定しているので、操縦安定性と乗り心地性を改善することができる。即ち、内側領域での比重dINが相対的に大きいことで、サイドウォール部のビード部側の横剛性を高めることができ、操縦安定性を向上することができる。その一方で、外側領域での比重dOUTが相対的に小さいことで、サイドウォール部のトレッド部側(接地踏面近傍)の縦剛性を低減して路面追従性を向上することができ、乗り心地性を向上することができる。
【0008】
本発明では、発泡ゴムの外側領域での比重dOUT が0.6〜0.95であることが好ましい。このように外側領域での比重dOUT を適切な範囲に設定することで、外側領域における縦剛性を充分に低減することができ、乗り心地性を向上するには有利になる。
【0009】
本発明では、発泡ゴムの100%伸長時におけるモジュラスが0.6MPa〜1.5MPaであることが好ましい。このように発泡ゴムのモジュラスを設定することで、縦剛性と横剛性とをバランスよく両立することが可能になり、操縦安定性および乗り心地性を向上するには有利になる。尚、本発明において、発泡ゴムの100%伸長時におけるモジュラスとは、JIS K6251に準拠して、3号型ダンベル試験片を用い、引張速度500mm/分、温度23℃の各条件で測定した値である。
【0010】
本発明では、リムベースラインからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.3倍の位置からタイヤ径方向内外にタイヤ断面高さhの0.1倍ずつ離れた位置の間に含まれる領域の少なくとも一部に、発泡ゴムからなりタイヤ幅方向外側に突き出してタイヤ周方向に延在した膨出部を備えた仕様にすることが好ましい。このように膨出部を設けることで、サイドウォール部のタイヤ径方向内側の領域においてゴム厚さが大きくなって、タイヤ横剛性が大きくなるので、操縦安定性を向上するには有利になる。
【0011】
このとき、膨出部の子午線断面における断面積SR と比重dR との積SR ×dR が35mm2 〜60mm2 であることが好ましい。尚、膨出部の子午線断面における断面積Sとは、子午線断面において膨出部に隣接する部位のサイドウォール部の外表面の延長線よりもタイヤ幅方向外側の部分の面積である。
【0012】
本発明では、サイドウォール部におけるカーカス層のタイヤ幅方向外側のゴム層の最小厚さが1.2mm〜2.6mmであることが好ましい。このように厚さを設定することで、縦剛性を低減することができ、更なる乗り心地性の改善を図ることができる。
【0013】
このとき、サイドウォール部におけるカーカス層のタイヤ幅方向外側のゴム層の厚さが外側領域で最小になることが好ましい。このようにゴム層が最小厚さとなる位置を設定することで、トレッド部近傍において路面追従性を高めることができ、更なる乗り心地性の改善を図ることができる。
【0014】
尚、本発明において、発泡ゴムの「比重」とは、気泡を含んだ発泡ゴム全体の見かけ比重であって、発泡ゴム中の気泡の大きさや分布密度によって変量するものである。その数値としては、JIS K6268に準拠して測定した値を用いる。
【0015】
また、本発明において、タイヤの寸法は、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した無負荷状態で測定したものであり、「リムベースライン」とは、空気入りタイヤが装着される正規リムのリム径位置を示す基準線である。尚、「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”であり、「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが乗用車である場合には180kPaとする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線半断面図である。
図2】本発明の別の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線半断面図である。
図3】本発明の別の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。尚、図1では、タイヤ赤道CLに対して一方側のみを示しているが、タイヤ赤道CLに対して他方側も同様の構造を有する。
【0019】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図1では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7の外周側にはベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°〜5°に設定されている。
【0020】
本発明は、後述のようにサイドウォール部2におけるカーカス層4のタイヤ幅方向外側に位置するサイドゴム層G(図の斜線部)の構造を規定するものであるので、その断面構造は上述の基本構造に限定されるものではない。
【0021】
本発明では、サイドゴム層Gが発泡ゴムで構成されている。発泡ゴムとは、例えば成形時に発泡剤を添加して加硫時に気泡を発生させることで得られた連続気泡または独立気泡を含んだゴム組成物である。このような発泡ゴムは、通常の非発泡のゴムと比較して比重が小さいので、サイドゴム層Gに採用することで、タイヤを軽量化することができる。
【0022】
このとき、発泡ゴムの比重はサイドゴム層Gの全体で一定ではなく、トレッド部1側よりもビード部3側で大きくなるように設定されている。具体的には、タイヤ断面高さをhとし、リムベースラインBLからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.7倍の位置からタイヤ径方向内外にタイヤ断面高さhの0.1倍ずつ離れた位置の間に含まれる領域を外側領域AOUT とし、リムベースラインBLからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.2倍の位置からタイヤ径方向内外にタイヤ断面高さhの0.1倍ずつ離れた位置の間に含まれる領域を内側領域AINとしたとき、発泡ゴムの内側領域AINでの比重dINが発泡ゴムの外側領域AOUT での比重dOUT よりも大きくなっている。このように発泡ゴムの比重が設定されているので、トレッド部1側(内側領域AIN)では縦剛性を低減して路面追従性を高めることができ、乗り心地性を向上することができる。その一方で、ビード部3側(外側領域AOUT )では横剛性を高めることができ、操縦安定性を高めることができる。これにより、操縦安定性と乗り心地性とをバランスよく両立することができる。このとき、上述の構造ではビード部3側の比重が相対的に大きくなっているが、サイドゴム層Gは発泡ゴムで構成されることで全体として充分に低比重になっているので、充分にタイヤ重量を軽減することができる。
【0023】
発泡ゴムの外側領域AOUT での比重dOUT が小さいほど、タイヤ重量を軽減することができるうえ、縦剛性の低減による乗り心地性の改善を図れるが、発泡ゴムの外側領域AOUT での比重dOUT が極端に小さくなると、外側領域AOUTにおいて横剛性が小さくなって操縦安定性に悪影響が出る虞がある。そのため、発泡ゴムの外側領域AOUT での比重dOUT は好ましくは0.6〜0.95、より好ましくは0.74〜0.89に設定するとよい。このとき、発泡ゴムの外側領域AOUT での比重dOUT が0.6よりも小さいと、上述のように外側領域AOUTにおいて横剛性が小さくなって充分な操縦安定性を得ることが難しくなる。発泡ゴムの外側領域AOUT での比重dOUT が0.95よりも大きいと、縦剛性を充分に低減することができず、乗り心地性を十分に向上することが難しくなる。
【0024】
このとき、発泡ゴムの外側領域AOUT での比重dOUT と発泡ゴムの内側領域AINでの比重dINとの差が極端に大きくなると、各領域やサイドウォール部2全体での縦剛性と横剛性とのバランスとを良好に保つことが難しくなる。そのため、発泡ゴムの外側領域AOUT での比重dOUT と発泡ゴムの内側領域AINでの比重dINとの比dOUT /dINは、例えば0.55〜0.98の範囲に設定することが好ましい。
【0025】
本発明では、発泡ゴムの比重を変化させるにあたって、例えばトレッド部1側からビード部3側に向かって比重が漸増する仕様にすることもできる。或いは、図2に示すように、比重の異なる発泡ゴムをタイヤ径方向に組み合わせてサイドゴム層Gを構成して、比重が段階的に変化する仕様にすることもできる。図2の例では、比重の異なる2種類の発泡ゴムが用いられ、相対的に比重の小さい発泡ゴムが外側領域AOUT を含む部位に配置され、相対的に比重の大きい別の発泡ゴムが内側領域AINを含む部位に配置されることで、内側領域AINでの比重dINが外側領域AOUT での比重dOUT よりも大きくなっている。このように比重を段階的に変化させる場合、比重の異なる発泡ゴムの境界は、図2に示すように、タイヤ幅方向に対して傾斜していることが好ましい。
【0026】
前述のように、発泡ゴムは、連続気泡または独立気泡を含んだゴム組成物であるが、連続気泡を含む発泡ゴムと独立気泡を含む発泡ゴムとを比較すると、両者が同等の比重を有する場合には、独立気泡からなる発泡ゴムの方が連続気泡からなる発泡ゴムよりも破断強度が高い。そのため、本発明では、同じ比重で高い破断強度が得られる独立気泡からなる発泡ゴムを用いることが好ましい。これにより、発泡ゴムを用いていても、タイヤとしての耐外傷性を、従来の非発泡ゴムを用いた空気入りタイヤと同程度に発揮することができる。このように独立気泡からなる発泡ゴムを用いる場合、独立気泡の平均気泡径は例えば10μm〜100μmであるとよい。
【0027】
本発明では、発泡ゴムについて、上述のように比重を設定するだけでなく、100%伸長時におけるモジュラスを0.6MPa〜1.5MPaに設定することが好ましい。このようにモジュラスを適切な範囲に設定することで、発泡ゴムの縦剛性と横剛性とをよりバランスよく両立することが可能になり、操縦安定性と乗り心地性とを両立するには有利になる。このとき、発泡ゴムの100%伸長時におけるモジュラスが0.6MPaよりも小さいと、横剛性が充分に得られなくなり、操縦安定性を向上する効果が充分に得られなくなる。発泡ゴムの100%伸長時におけるモジュラスが1.5MPaよりも大きいと、縦剛性を充分に低減できなくなり、乗り心地性を向上する効果が充分に得られなくなる。尚、モジュラスについても、比重と同様に内側領域AINにおける値が外側領域AOUT における値よりも大きくなるようにすることが好ましい。
【0028】
上述の構成に加えて、サイドゴム層Gの厚さを小さくすることで、更なるタイヤの軽量化を図ることができるうえ、縦剛性も低減できるので、乗り心地性の改善も見込める。しかしながら、ゴム層Gが極端に薄くなるとサイドウォール部2の横剛性が低下して、操縦安定性が悪化する傾向にある。そのため、ゴム層Gの最小厚さは、好ましくは1.2mm〜2.6mm、より好ましくは1.6mm〜2.3mmに設定するとよい。このとき、ゴム層Gの最小厚さが1.2mmよりも小さいと、上述のようにサイドウォール部2の横剛性が低下して操縦安定性を良好に維持することが難しくなる。ゴム層Gの最小厚さが2.6mmよりも大きいと、乗り心地性の更なる改善は見込めなくなる。
【0029】
尚、操縦安定性への寄与が大きい内側領域AIN近傍での横剛性の低下を避けるために、サイドゴム層Gの厚さが最小になる部位は、リムベースラインBLからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.3倍よりもタイヤ径方向外側に位置するようにすることが好ましい。これにより、内側領域AINで横剛性が極端に低下することを防ぐことができるので、操縦安定性と乗り心地性とをバランスよく両立するには有利になる。このとき、特に、サイドウォール部2におけるサイドゴム層Gの厚さが外側領域AOUT で最小になるようにすることが好ましい。これにより、外側領域AOUT の近傍(即ち、タイヤ踏面に近い位置)が変形し易くなり、路面追従性が向上するので、乗り心地性の更なる向上を図ることができる。
【0030】
本発明では、図3に示すように、リムベースラインBLからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.3倍の位置PR からタイヤ径方向内外にタイヤ断面高さhの0.1倍ずつ離れた位置の間に含まれる領域の少なくとも一部に、発泡ゴムからなりタイヤ幅方向外側に突き出てタイヤ周方向に延在した膨出部Rを備えた仕様にすることもできる。このように膨出部Rを設けた仕様は、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側の領域(内側領域AINの近傍)においてゴム厚さを大きくして、タイヤ横剛性を大きくし、操縦安定性をより向上することができるので好ましい。
【0031】
膨出部Rは、図示のように、子午線断面において、この膨出部Rに隣接する部位のサイドウォール部2の外表面の延長線(図3の点線)よりもタイヤ幅方向外側に突出していればよいので、その子午線断面における断面形状としては、例えば図3に示すような台形状にする他、三角形状、矩形状、円弧状などを採用することができる。これら断面形状の中では台形状、三角形状、円弧状が好ましい。特に、最もタイヤ幅方向外側に突出した点が、リムベースラインBLからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.3倍の位置PR よりもタイヤ径方向内側(即ち、リムベースラインBLからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.25倍〜0.35倍の範囲)に位置していることが好ましい。この膨出部Rは、上述のようにビード部3に近い領域に設けられるので、リムプロテクトバーを兼ねることもできる。
【0032】
膨出部Rは、充分な大きさが無ければ、横剛性を大きくして操縦安定性を高める効果を発揮することができないが、極端に大きくなると、縦剛性が過大になって乗り心地性へ悪影響を与える。そのため、膨出部Rの子午線断面における断面積SR と比重dR との積SR ×dR が35mm2 〜60mm2 になるように膨出部Rを形成することが好ましい。この積SR ×dR が35mm2 小さいと膨出部Rによって操縦安定性を高める効果が充分に得られなくなる。この積SR ×dR が60mm2 よりも大きいと、縦剛性が過大になって乗り心地性を充分に維持することが難しくなる。
【0033】
膨出部Rは、前述のようにリムベースラインBLからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.3倍の位置PR からタイヤ径方向内外にタイヤ断面高さhの0.1倍ずつ離れた位置の間に含まれる領域の少なくとも一部に設けられるが、好ましくは、この領域の70%以上を占めるとよい。即ち、リムベースラインBLからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.3倍の位置PR からタイヤ径方向内外にそれぞれタイヤ断面高さhの0.07倍〜0.1倍ずつ離れた位置の間に亘って膨出部Rが設けられていることが好ましい。
【実施例】
【0034】
タイヤサイズが205/55R16であり、図1に示す基本構造を有し、サイドゴム層Gについて、構成する材質(発泡ゴムまたは非発泡ゴム)、比重(外側領域AOUT での比重dOUT 、内側領域AINでの比重dIN)、100%伸長時のモジュラス、最小厚さ、最小厚さ位置、膨出部の有無、膨出部の断面積と比重の積SR ×dR をそれぞれ表1〜2のように設定した従来例1、比較例1〜3、実施例1〜19の23種類の空気入りタイヤを作製した。
【0035】
尚、膨出部を設けた例において、膨出部は、図3に示すように断面台形状であり、断面高さhの0.3倍の位置PR からタイヤ径方向内外にタイヤ断面高さhの0.1倍ずつ離れた位置から膨出が開始して、リムベースラインBLからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.25倍〜0.35倍の範囲に最も突き出た点が配置されている。
【0036】
表1〜2の「材質」の欄について、サイドゴム層Gを構成する材質が発泡ゴムの場合は「発泡」、非発泡ゴムの場合は「非発泡」と示した。
【0037】
これら23種類の空気入りタイヤについて、下記の評価方法により、タイヤ重量、乗り心地性、操縦安定性を評価し、その結果を表1〜2に併せて示した。
【0038】
タイヤ重量
各試験タイヤの重量を測定した。評価結果は、従来例1の測定値の逆数を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどタイヤ重量が小さいことを意味する。
【0039】
乗心地性
各試験タイヤを、リムサイズ16×6.5JJのホイールに組み付け、空気圧230kPaとして排気量1600ccの試験車両(前輪駆動車)に装着し、凹凸を有する直進テストコースを速度50km/hで走行し、専門パネラー3名による官能評価を行った。評価結果は、従来例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど乗り心地性が優れていることを意味する。
【0040】
操縦安定性
各試験タイヤを、リムサイズ16×6.5JJのホイールに組み付け、空気圧230kPaとして排気量1600ccの試験車両(前輪駆動車)に装着し、平坦な周回路からなるテストコースを速度60km/h〜100km/hで走行し、レーンチェンジ時およびコーナリング時の操舵性と直進時の安定性について、専門パネラー3名による官能評価を行った。評価結果は、従来例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど操縦安定性が優れていることを意味する。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表1〜2から明らかなように、実施例1〜19はいずれも、従来例1に対して、乗り心地性と操縦安定性とをバランスよく両立しながらタイヤ重量を低減した。一方、比較例1は、サイドゴム層Gが非発泡ゴムで構成されるため、タイヤ重量を低減することはできず、また、乗心地性も低下した。比較例2は、サイドゴム層Gの全体を一定の比重(低比重)の発泡ゴムで構成したため、タイヤ重量は大きく軽減でき、乗心地性も改善できるが、操縦安定性が大きく悪化した。比較例3は、比重の大小関係が逆転しているため、タイヤ重量は軽減できるが、乗心地性と操縦安定性とを共に改善することはできなかった。
【符号の説明】
【0044】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルト補強層
G サイドゴム層
R 膨出部
OUT 外側領域
IN 内側領域
CL タイヤ赤道
図1
図2
図3