(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光コヒーレンストモグラフィ装置によって取得された干渉信号を処理することで被検物の内部情報を取得する処理装置において実行される干渉信号処理プログラムであって、
前記光コヒーレンストモグラフィ装置は、
測定光源と、
前記測定光源から出射された測定光と参照光が合成された干渉光を、複数の干渉光に分割する分割光学系と、
前記分割光学系によって分割された複数の干渉光のうち、1つまたは複数の干渉光を検出して第1干渉信号を出力する第1チャンネルと、
前記分割光学系によって分割された複数の干渉光のうち、前記第1チャンネルによって検出される干渉光とは異なる1つまたは複数の干渉光を検出して第2干渉信号を出力する第2チャンネルと、
を備え、
前記処理装置のプロセッサが前記干渉信号処理プログラムを実行することで、
前記第1チャンネルと前記第2チャンネルの間の特性差に起因する、前記第1干渉信号と前記第2干渉信号の間の波長帯域のずれである帯域ずれを補償して、前記内部情報を取得する処理ステップを前記処理装置に実行させることを特徴とする干渉信号処理プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<概要>
本開示で例示する実施形態(以下、「本実施形態」という)では、OCT装置は、OCT光学系、分割光学系、第1チャンネル、第2チャンネル、および制御部を備える。
【0011】
OCT光学系は、被検物の内部情報を取得するための光干渉光学系である。OCT光学系は、測定光源、光分割器、および光合成器を備える。測定光源は、被検物の内部情報を取得するための光を出射する。光分割器は、測定光源から出射された光を、測定光と参照光に分割する。光合成器は、被検物に照射されて反射された測定光と、参照光路を通過した参照光とを合成することで、干渉光を生成する。
【0012】
なお、光分割器と光合成器は別部材であってもよいし、1つの部材(例えばカップラー)が光分割器と光合成器を兼ねてもよい。また、本実施形態では、光分割器としてカップラーが用いられており、光合成器としてビームスプリッタが用いられている。しかし、光分割器および光合成器の構成を変更することも可能である。例えば、光分割器としてビームスプリッタを使用してもよいし、光合成器としてカップラーを使用してもよい。
【0013】
分割光学系は、測定光と参照光が合成された干渉光を、複数の干渉光に分割する。第1チャンネルは、分割光学系によって分割された複数の干渉光のうち、1つまたは複数の干渉光を検出して第1干渉信号を出力する。第2チャンネルは、分割光学系によって分割された複数の干渉光のうち、第1チャンネルによって検出される干渉光とは異なる1つまたは複数の干渉光を検出して第2干渉信号を出力する。なお、OCT装置が3つ以上のチャンネルを備えている場合でも、本実施形態で例示する技術の少なくとも一部を適用できる。
【0014】
制御部は、複数のチャンネルの各々から出力される複数の干渉信号(本実施形態では第1干渉信号および第2干渉信号)を入力して処理することで、被検物の内部情報を取得する。詳細には、本実施形態の制御部は、第1チャンネルと第2チャンネルの間の特性差に起因する、複数の干渉信号の間の波長帯域のずれ(以下、「帯域ずれ」という)を補償して、被検物の内部情報を取得する。この場合、複数のチャンネル間に特性差が存在する場合でも、特性差による影響が低下する。その結果、取得される内部情報の正確性が向上する。
【0015】
なお、制御部が補償する帯域ずれは、複数の干渉信号間における波長帯域の範囲のずれ(位相ずれ)、および、波長帯域の幅の大きさのずれの少なくともいずれかであってもよい。波長帯域の範囲のずれが生じている場合とは、例えば、第1干渉信号の波長帯域の範囲が1000〜1100nmであるのに対し、第2干渉信号の波長帯域の範囲が1001〜1101nmである場合等を示す。また、波長帯域の幅の大きさのずれが生じている場合とは、例えば、第1干渉信号の波長帯域の帯域幅が100nmであるのに対し、第2干渉信号の波長帯域の帯域幅が101nmである場合等を示す。
【0016】
第1チャンネルは、第1検出器および第1AD変換器を備えていてもよい。第1検出器は干渉光を検出する。第1AD変換器は、第1検出器によって検出されたアナログの信号からデジタルの第1干渉信号を生成して出力する。第2チャンネルは、第2検出器および第2AD変換器を備えていてもよい。。第2検出器は干渉光を検出する。第2AD変換器は、第2検出器によって検出されたアナログの信号からデジタルの第2干渉信号を生成して出力する。この場合、制御部は、干渉信号をそれぞれのチャンネルから適切に入力することができる。
【0017】
帯域ずれは、第1検出器と第2検出器の間の個体差、第1AD変換器および第2AD変換器の各々から制御部が干渉信号を入力するタイミング(サンプリングタイミング)の差、および、複数の検出器の各々によって検出される干渉光の光路長差の少なくともいずれかに起因する帯域ずれであってもよい。この場合、OCT装置は、複数のチャンネルを使用しつつ、それぞれのチャンネル間の特性差の影響を適切に抑制することができる。
【0018】
本実施形態では、分割光学系で分割されて第1チャンネルに向かう干渉光と、分割光学系で分割されて第2チャンネルに向かう干渉光の位相差が、分割光学系によって所定値に定まる。制御部は、第1干渉信号および第2干渉信号における位相差を、分割光学系によって定まる所定値に調整する(近づける)ことで、帯域ずれを補償してもよい。この場合、OCT装置は、それぞれのチャンネル間に特性差が存在する場合でも、複数の干渉信号の位相差を所定値に近づけて内部情報を取得することができる。なお、本実施形態では、分割光学系によって定まる2つの干渉信号の位相差の所定値はπである。しかし、位相差の所定値がπに限定されないことは言うまでもない。位相差の所定値が「0」であっても良い。
【0019】
OCT装置は、第1干渉信号および第2干渉信号に定常パターンノイズ(以下、「FPN」と表す場合もある)を発生させる光学部材を備えていてもよい。制御部は、第1干渉信号および第2干渉信号に含まれる、FPNに対応する信号成分に基づいて、帯域ずれを補償してもよい。この場合、光学部材の影響で実際に検出される固定ノイズを基準として、帯域ずれが補償される。その結果、補償の精度が向上する。
【0020】
なお、OCT装置は、FPNを発生させずに帯域ずれを補償することも可能である。例えば、OCT装置は、チャンネル間の特性差に関する特性差情報を、理論値または実験値に基づいて予め取得していてもよい。この場合、OCT装置は、複数の干渉信号間の帯域ずれを、特性差情報に基づいて補償してもよい。例えば、OCT装置は、第1AD変換器および第2AD変換器の各々から制御部が干渉信号を入力するタイミングの差を、特性差情報として取得していてもよい。この場合、OCT装置は、干渉信号を入力するタイミングの差から、帯域ずれの補償量を決定してもよい。
【0021】
OCT装置は、PS−SS−OCTの構成を備えていてもよい。PS−OCTとは、偏光感受OCT(polarization sensitive OCT)であり、被検物の内部の複屈折性(リタデーション)、偏光軸(アクシスオリエンテーション)、複減衰(ダイアッテネーション)等の少なくともいずれかを取得することができる。SS−OCTとは、波長掃引光源を用いたSwept Source OCTである。
【0022】
詳細には、OCT装置は、第1分割部材と第2分割部材を備えていてもよい。第1分割部材は、所定の位相差を有する複数の干渉光を生成する。第2分割部材は、偏光方向が異なる複数の干渉光を生成する。第1チャンネルは、偏光方向が互いに共通(本実施形態では水平偏光)し、且つ互いの間に位相差を有する2つの干渉光を平衡検出してもよい。第2チャンネルは、偏光方向が互いに共通(本実施形態では垂直偏光)し、且つ互いの間に位相差を有する2つの干渉光を平衡検出してもよい。第1チャンネルが検出する干渉光の偏光方向と、第2チャンネルが検出する干渉光の偏光方向は異なる。この場合、OCT装置は、垂直偏光成分および水平偏光成分を持つ各波長での干渉信号に基づいて、被検物の偏光特性を、それぞれのチャンネル間の特性差の影響が低下された状態で取得することができる。
【0023】
測定光源は、出射波長を時間的に掃引させる波長掃引光源であってもよい。制御部は、例えば、波長掃引光源による出射波長の変化に応じて測定光と参照光との干渉信号をサンプリングし、サンプリングによって得られた各波長での干渉信号に基づいて被検物の内部情報を取得してもよい。
【0024】
第1分割部材によって分割された複数の干渉光の光路のうち、一部の干渉光の光路にのみ、FPNを発生させる光学部材(以下、「FPN光学部材」という)が設けられていてもよい。この場合、FPN光学部材を経た干渉光は、第1チャンネルおよび第2チャンネルの各々に入射する。従って、制御部は、第1干渉信号の平衡検出と第2干渉信号の平衡検出を行いつつ、第1干渉信号および第2干渉信号の各々に含まれるFPNに基づいて適切に帯域ずれを補償することができる。
【0025】
なお、本実施形態では、FPN光学部材としてカバーガラスが用いられている。しかし、他の光学部材(例えば、偏光板等)をFPN光学部材として用いることも可能である。また、FPN光学部材を設置する位置を変更することも可能である。例えば、OCT装置は、光分割器によって分割された測定光をさらに分割する光学素子を備え、分割された測定光の光路のうちの一部の光路にFPN光学部材(例えば、カバーガラス、偏光板、ミラー等)を備えていてもよい。
【0026】
なお、本実施形態で例示する技術の少なくとも一部は、PS−SS−OCTとは異なる構成を備えたOCT装置にも適用できる。
【0027】
例えば、OCT装置は、PS−SD−OCTの構成を備えていてもよい。SD−OCT(Spectral domain OCT)は、波長掃引光源の代わりに、広帯域で固定された波長の光を出射する光源を、測定光源として備えてもよい。また、SD−OCTは、干渉光を波長に応じて分解する光分解器(例えば回折格子)を備えていてもよい。この場合、各チャンネルは、光分解器によって波長に応じて分解された光を検出する検出器(例えばラインセンサ)を備えていてもよい。また、SD−OCTは、所定の位相差を有する複数の干渉光を生成する第1分割部材を備えずに、第2分割部材のみを備えていてもよい。
【0028】
また、本実施形態で例示する技術の少なくとも一部は、ドップラーOCTの構成を備えたOCT装置にも適用できる。また、本実施形態で例示する技術の少なくとも一部は、互いに異なる波長の光を検出する複数のチャンネルを備えたOCT装置にも適用できる。この場合、OCT装置は、干渉光を波長に応じて複数の干渉光に分割し、分割した複数の干渉光の各々を、複数のチャンネルの各々によって検出してもよい。また、それぞれのチャンネルが複数の干渉光の平衡検出を行わない場合でも、本実施形態で例示する技術の少なくとも一部を適用できる。つまり、1つのチャンネルが1つの干渉光を検出してもよい。複数のチャンネルを備えたOCT装置の他の例としては、例えば、Dual Beam SS−OCT(眼底上の2つの領域を同時に撮影するOCT)、Dual Beam Doppler SS−OCT(ビーム間にディレイをつけてドップラー信号を得るOCT)、偏光を利用したフルレンジSS−OCT等がある。これらのOCT装置に、本実施形態で例示した技術の少なくとも一部を適用してもよい。
【0029】
制御部は、第1干渉信号に含まれるFPNに対応する信号成分と、第2干渉信号に含まれるFPNに対応する信号成分の位相差を算出してもよい。制御部は、算出した位相差と、帯域ずれが存在しないと仮定した場合の所定の位相差(本実施形態では、分割光学系によって定まる所定値)との差分を、補償する帯域ずれとして算出してもよい。この場合、OCT装置は、補償する帯域ずれを、FPNを用いて適切に算出することができる。
【0030】
<実施形態>
以下、本開示における典型的な実施形態の一例について、図面を参照して説明する。まず、
図1を参照して、本実施形態のOCT装置1の概略構成について説明する。本実施形態のOCT装置1は、OCT光学系10、分割光学系20、第1チャンネル30、第2チャンネル40、および制御部50を備える。
【0031】
本実施形態のOCT光学系10は、SS−OCT方式の干渉光学系である。OCT光学系10は、測定光源11、カップラー12、サーキュレータ13、測定光学系14、参照光学系18、およびビームスプリッタ21を備える。
【0032】
測定光源11は、被検物(本実施形態では被検眼E)の内部情報を取得するための光を出射する。本実施形態の測定光源11は、波長掃引光源(波長走査型光源)であり、出射波長を時間的に高速で変化させる。波長掃引光源は、例えば、レーザ媒体、共振器、および波長選択フィルタを備えてもよい。波長選択フィルタには、例えば、回折格子とポリゴンミラーの組み合わせ、または、ファブリー・ペローエタロンを用いたフィルタ等が用いられてもよい。なお、SS−OCT方式以外の方式を用いる場合には、測定光源11は波長掃引光源である必要は無い。
【0033】
カップラー12は、測定光源11から出射された光を測定光と参照光に分割する光分割器として用いられている。サーキュレータ13は、カップラー12からの測定光を測定光学系14の光ファイバ15に導光すると共に、光ファイバ15からの光を光ファイバ17に導光する。なお、サーキュレータ13はカップラーであってもよい。
【0034】
測定光学系14は、測定光を被検物(例えば、被検眼Eの眼底または前眼部等)に導くと共に、被検物によって反射された測定光の反射光を光ファイバ17に導く。本実施形態の測定光学系14は、光ファイバ15、光スキャナ16、および対物レンズ系を備える。測定光は、サーキュレータ13および光ファイバ15を介して光スキャナ16に向かう。光スキャナ16は、測定光の反射方向を変更する。光スキャナ16によって偏向された測定光は、対物レンズ系によって平行ビームとなって被検物に入射する。光スキャナ16は、被検物内でXY方向(横断方向)に測定光を走査させることができる。光スキャナ16には、光の進行方向を変更することが可能な各種構成(例えば、ガルバノミラー、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ、および音響光学素子等)を用いることができる。一例として、本実施形態では2つのガルバノミラーが光スキャナ16として用いられている。
【0035】
被検物からの測定光の反射光(後方散乱光)は、対物レンズ系、光スキャナ16、光ファイバ15、サーキュレータ13、および光ファイバ17を経て、ビームスプリッタ21に達する。
【0036】
参照光学系18は、測定光の反射光と合成される参照光を生成する。参照光学系18は、マイケルソンタイプであってもよいし、マッハツェンダタイプであってもよい。本実施形態の参照光学系18は、透過光学系(例えば光ファイバ)を備え、カップラー12からの光を戻さずに透過させてビームスプリッタ21へ導く。なお、参照光学系18は反射光学系を備えていてもよい。この場合、参照光学系18は、カップラー12からの光を反射光学系によって反射させることで、参照光を生成してもよい。
【0037】
本実施形態のOCT光学系10は、測定光と参照光の光路長差を調整するための光学部材を備える。例えば、OCT装置10は、参照光学系18の光路に配置された光学部材を光軸方向に移動させることで、測定光と参照光の光路長差を調整してもよい。光路長差を調整するための光学部材は、測定光の光路中に設けられていてもよい。
【0038】
ビームスプリッタ21は、測定光の反射光と、参照光学系18を経た参照光とを合成(合波)させて、干渉光を生成する。つまり、ビームスプリッタ21は、測定光と参照光を合成する光合成器として機能する。また、詳細は後述するが、ビームスプリッタ21は、干渉光を複数の干渉光に分割する分割光学系20の少なくとも一部を兼ねる。ただし、光合成器の構成を変更することも可能である。例えば、光合成器が分割光学系20とは別に設けられていてもよい。光合成器としてカップラーが使用されてもよい。測定光源11から出射された光を分割するカップラー12(光分割器)が、光合成器を兼ねてもよい。
【0039】
分割光学系20は、測定光(詳細には、測定光の反射光)と参照光とが合成された干渉光を、複数の干渉光に分割する。一例として、本実施形態の分割光学系20は、PS−OCT方式によって被検物の内部の複屈折性を取得するための構成を備える。詳細には、本実施形態の分割光学系20は、ビームスプリッタ21、第1偏光ビームスプリッタ22、および第2偏光ビームスプリッタ23を備える。
【0040】
ビームスプリッタ21は、所定の位相差を互いに有する複数(本実施形態では2つ)の干渉光を生成する第1分割部材として機能する。詳細には、ビームスプリッタ21を透過する光と、ビームスプリッタ21によって反射する光の間には、π/2の位相差が生じる。本実施形態のビームスプリッタ21は、光ファイバ17を経た測定光を透過させつつ、参照光学系18を経た参照光を反射させることで、両者を合成させて第1干渉光を生成する。また、本実施形態のビームスプリッタ21は、光ファイバ17を経た測定光を反射させつつ、参照光学系18を経た参照光を透過させることで、両者を合成させて第2干渉光を生成する。第1干渉光と第2干渉光の位相差はπとなる。
【0041】
偏光ビームスプリッタ22,23は、干渉光を、水平偏光成分(p偏光成分)を持つ干渉光と垂直偏光成分(s偏光成分)を持つ干渉光に分割する第2分割部材として機能する。詳細には、第1偏光ビームスプリッタ22は、第1干渉光を透過させることで、水平偏光成分を持つ干渉光Aを生成すると共に、第1干渉光を反射させることで、垂直偏光成分を持つ干渉光Bを生成する。また、第2偏光ビームスプリッタ23は、第2干渉光を透過させることで、水平偏光成分を持つ干渉光Cを生成すると共に、第2干渉光を反射させることで、垂直偏光成分を持つ干渉光Dを生成する。
【0042】
なお、分割光学系20の構成を変更することも可能である。例えば、本実施形態のビームスプリッタ21は、測定光と参照光を合成して干渉光を生成する光合成器と、干渉光を複数の干渉光に分割する分割部材を兼ねる。しかし、前述したように、光合成器と分割部材が別に設けられていてもよい。また、PS−OCT方式における分割光学系は、光合成器によって生成された干渉光を、偏光方向が異なる複数の干渉光に第2分割部材によって分割した後に、分割したそれぞれの干渉光を、第1分割部材によってさらに分割してもよい。また、PS−OCT方式以外の方式である場合には、分割光学系は、第2分割部材を用いずに複数の干渉光を生成してもよい。第1分割部材としてビームスプリッタ以外の光学部材(例えば、カップラー等)が用いられてもよい。第2分割部材として偏光ビームスプリッタ以外の光学部材が用いられてもよい。
【0043】
第1チャンネル30および第2チャンネル40は、分割光学系20によって分割された干渉光を検出して干渉信号を出力する。本実施形態の第1チャンネル30は、第1検出器31と第1AD変換器(第1デジタイザー)34を備える。第1検出器31は、分割光学系20によって分割された複数の干渉光のうちの1つまたは複数(本実施形態では2つ)を検出する。第1AD変換器34は、第1検出器31によって検出されたアナログの信号からデジタルの第1干渉信号を生成して出力する。また、本実施形態の第2チャンネル40は、第2検出器41と第2AD変換器(第2デジタイザー)44を備える。第2検出器41は、分割光学系20によって分割された複数の干渉光のうち、第1チャンネル30によって検出される干渉光とは異なる1つまたは複数(本実施形態では2つ)の干渉光を検出する。第2AD変換器44は、第2検出器41によって検出されたアナログの信号からデジタルの第2干渉信号を生成して出力する。
【0044】
詳細には、第1検出器31は、干渉光Aを検出する検出部32Aと、干渉光Cを検出する検出部32Cを備える平衡検出器であり、2つの干渉光A,Cを平衡検出する。前述したように、分割光学系20によって分割されて第1チャンネル30(第1検出器31)に向かう干渉光Aと干渉光Cは、偏光方向が互いに共通(本実施形態では水平偏光)し、且つ互いの間に位相差(本実施形態では位相差π)を有する。また、第2検出器41は、干渉光Bを検出する検出部42Bと、干渉光Dを検出する検出部42Dを備える平衡検出器であり、2つの干渉光B,Dを平衡検出する。分割光学系20によって分割されて第2チャンネル40(第2検出器41)に向かう干渉光Bと干渉光Dは、偏光方向が互いに共通(本実施形態では垂直偏光)し、且つ互いの間に位相差(本実施形態では位相差π)を有する。この場合、OCT装置1は、水平偏光成分および垂直偏光成分を持つ各波長での干渉信号に基づいて、被検物の偏光特性を取得することができる。
【0045】
OCT装置1は、第1干渉信号および第2干渉信号に定常パターンノイズ(FPN)を発生させるFPN光学部材25を備える。本実施形態では、FPN光学部材25は、ビームスプリッタ(第1分割部材)21によって分割される複数の干渉光の光路のうち、一部の干渉光の光路に設けられている。詳細には、本実施形態のFPN光学部材25は、ビームスプリッタ21と第1偏光ビームスプリッタ22の間の干渉光の光路に設けられている。この場合、第1干渉信号および第2干渉信号の両方に、共通のFPN光学部材25によってFPNが発生する。従って、例えば、第1偏光ビームスプリッタ22によって分割される2つの干渉光の光路の各々にFPN光学部材を設ける場合等に比べて、FPNを利用した帯域ずれの補償精度が向上する。
【0046】
図2に示すように、本実施形態のFPN光学部材25には、一例として、既知の厚みDを有するカバーガラスが用いられている。FPN光学部材25の前面と後面は、共に、干渉光の光軸に対して垂直に交わるように配置される。FPN光学部材25を通過する干渉光は、FPN光学部材25をそのまま透過する透過光E1と、FPN光学部材25内で2n(n=1,2,3・・・)回反射して透過する透過光(
図2では、2回反射する透過光E2のみを図示)に分けられる。透過光と内部反射光は互いに干渉する。FPN光学部材25によって発生した干渉光は、第1チャンネル30および第2チャンネル40によってFPNとして検出される。FPN光学部材25をそのまま透過する光のピークと、FPN光学部材25内で2n回反射した後に透過する光のピークは、FPN光学部材25の厚さの2n倍離れて検出される。
【0047】
なお、FPN光学部材の配置位置を変更することも可能である。例えば、ビームスプリッタ21と第1偏光ビームスプリッタ22の間でなく、ビームスプリッタ21と第2偏光ビームスプリッタ23の間にFPN光学部材が配置されてもよい。第1偏光ビームスプリッタ22によって分割される2つの干渉光の光路の各々にFPN光学部材が配置されてもよい。第2偏光ビームスプリッタ23によって分割される2つの干渉光の光路の各々にFPN光学部材が配置されてもよい。また、OCT装置1は、光分割器(本実施形態ではカップラー12)によって分割された測定光をさらに分割する光学素子を備え、分割された測定光の光路のうちの一部の光路にFPN光学部材を備えていてもよい。また、カバーガラス以外の光学部材(例えば、偏光板またはミラー等)をFPN光学部材として用いることも可能である。
【0048】
制御部50は、OCT装置1の動作を制御する。例えば、制御部50は、第1チャンネル30と第2チャンネル(詳細には、第1AD変換器34と第2AD変換器44)から第1干渉信号および第2干渉信号を入力して処理することで、被検物の内部情報を取得する。制御部50は、CPU(プロセッサ)51、ROM52、RAM53、および不揮発性メモリ(Non−volatile memory:NVM)54を備える。CPU51は、OCT装置1における各部の制御(例えば、測定光源11の制御、光スキャナ16の制御、干渉信号の処理制御等)を司る。ROM52には、各種プログラム、初期値等が記憶されている。RAM53は、各種情報を一時的に記憶する。不揮発性メモリ54は、電源の供給が遮断されても記憶内容を保持できる非一過性の記憶媒体である。例えば、ハードディスクドライブ、フラッシュROM、および着脱可能なUSBメモリ等を不揮発性メモリ54として使用してもよい。本実施形態では、後述する帯域ずれ補償処理を実行するための干渉信号処理プログラム等が不揮発性メモリ54に記憶される。
【0049】
本実施形態では、OCT光学系10および制御部50等が1つの筐体に内蔵された一体型のOCT装置1を例示する。しかし、OCT装置1は、筐体が異なる複数の装置を備えていてもよいことは言うまでもない。例えば、OCT装置1は、OCT光学系10等を内蔵する光学装置と、光学装置に有線または無線で接続されるパーソナルコンピュータ(以下、「PC」という)とを備えていてもよい。この場合、光学装置が備える制御部と、PCの制御部とが共にOCT装置1の制御部50として機能しても良い。つまり、制御部50は複数のプロセッサを備えていてもよい。また、PCの制御部が単独でOCT装置1の制御部50として機能しても良い。また、本実施形態では、干渉信号を処理して内部情報を取得する処理装置をOCT装置1が兼ねる。しかし、OCT装置1以外の装置(例えばPC)が、OCT装置1によって取得された干渉信号を処理する処理装置として機能してもよい。
【0050】
図3を参照して、本実施形態の制御部50が実行する帯域ずれの補償方法(帯域ずれ補償処理)の一例について説明する。複数のチャンネルを備えたOCT装置では、それぞれのチャンネル間の特性に差が存在する影響で、複数の干渉信号の間の波長帯域のずれ(帯域ずれ)が生じる場合がある。一例として、本実施形態では、第1検出器31と第2検出器41の間の個体差、第1AD変換器34および第2AD変換器44の各々から制御部50が干渉信号を入力するタイミング(サンプリングタイミング)の差、および、複数の検出器31,41の各々によって検出される干渉光の光路長差の少なくともいずれかに起因して、帯域ずれが生じる場合がある。帯域ずれが生じると、被検物の内部情報を正確に取得することが困難になる。特に、高周波になる程、帯域ずれの影響が顕著になる。本実施形態の制御部50は、帯域ずれを補償して被検物の内部情報(例えば、断層画像、複屈折性等の少なくともいずれか)を取得する。
【0051】
一例として、本実施形態の制御部50は、第1干渉信号および第2干渉信号における位相差を、分割光学系20によって定まる所定値に調整することで、2つの干渉信号における帯域ずれを補償する。前述したように、本実施形態の分割光学系20は、第1チャンネル30に検出させる干渉光と、第2チャンネル40に検出させる干渉光の位相差がπとなるように、干渉光を分割する。従って、制御部50は、2つの干渉信号における位相差を所定値πに調整することで、帯域ずれを補償する。
【0052】
本実施形態では、第1干渉信号および第2干渉信号にFPNを発生させるFPN光学部材25が設けられている。制御部50は、第1干渉信号および第2干渉信号に含まれる、FPNに対応する信号成分に基づいて、帯域ずれを補償する。
【0053】
図3で例示する複素平面では、第1チャンネル30から取得される(つまり、水平偏光成分から取得される)第1干渉信号のうち、FPN光学部材25に由来する信号成分のピークの位置が、I
H(peak)で示されている。また、第2チャンネル40から取得される(つまり、垂直偏光成分から取得される)第2干渉信号のうち、FPN光学部材25に由来する信号成分のピークの位置が、I
V(peak)で示されている。I
H(peak)とI
V(peak)は同一のFPN光学部材25に由来しており、且つ、分割光学系20によって定まる2つの干渉信号の位相差はπである。従って、帯域ずれが存在しないと仮定すると、I
H(peak)とI
V(peak)の位相差Δφは所定値πとなるはずである。つまり、本実施形態では、帯域ずれが存在しない場合、複素平面上において、I
H(peak)とI
V(peak)は原点を通る同一直線上に位置する。しかし、
図3に示す例では、帯域ずれの影響で、I
H(peak)とI
V(peak)の位相差Δφが所定値πに対してずれている。本実施形態の制御部50は、I
H(peak)とI
V(peak)の位相差Δφを算出する。制御部50は、算出した位相差Δφと、帯域ずれが存在しないと仮定した場合の位相差の所定値πとの差分を、帯域ずれの補償値として算出する。制御部50は、検出された第1干渉信号と第2干渉信号の少なくともいずれかに対して、補償値に基づく処理を行うことで、第1干渉信号と第2干渉信号の波長帯域の関係を適切な関係に補正する。
図3に示す例では、帯域ずれが補償されることで、I
V(peak)がI´
V(peak)に補正されている。その結果、2つの干渉信号の波長帯域の関係が適切な関係(本実施形態では、位相差が所定値πとなる関係)となっている。
【0054】
制御部50が実行する帯域ずれの補償方法の具体例について、さらに詳細に説明する。制御部50は、第1チャンネル30を介して水平偏光成分から取得される第1干渉信号のうち、FPN光学部材25に由来する信号成分I
Hを求める。信号成分I
Hは、以下の(数1)によって表される。なお、I
rは参照光の水平偏光成分に基づく信号、I
pは測定光の水平偏光成分に基づく信号、kは波数、ΔzはI
rとI
pの距離差を示す。
【数1】
【0055】
制御部50は、第2チャンネル40を介して垂直偏光成分から取得される第2干渉信号のうち、FPN光学部材25に由来する信号成分I
Vを求める。信号成分I
Vは、以下の(数2)によって表される。なお、I´
rは参照光の垂直偏光成分に基づく信号、I´
pは測定光の垂直偏光成分に基づく信号、rは帯域ずれ(本実施形態では、2つの干渉信号間における波長帯域の範囲のずれ)を示す。
【数2】
【0056】
制御部50は、信号成分I
Hと信号成分I
Vの位相差Δφを算出する。位相差Δφは、例えば、以下の(数3)によって表される。
【数3】
【0057】
制御部50は、帯域ずれが存在しないと仮定した場合の位相差の所定値(本実施形態ではπ)と、算出した位相差Δφとの差分を、帯域ずれの補償値として算出する。制御部50は、算出した補償値に基づいて、第1干渉信号と第2干渉信号の帯域ずれを補償する。例えば、被検物に由来する干渉信号を含む第2干渉信号に対して補償値に基づく処理を行うことで、第1干渉信号と第2干渉信号の波長帯域の関係を補正することが可能である。この場合、補正後の第2干渉信号I´
Vは、以下の(数4)によって求められる。なお、第1干渉信号に対して補償値に基づく処理を行ってもよいことは言うまでもない。
【数4】
【0058】
なお、本実施形態で説明した帯域ずれの補償方法は一例に過ぎない。従って、他の方法で帯域ずれを補償することも可能である。例えば、上記の(数4)では、第2干渉信号に対して補償値に基づく処理が行われる。しかし、第1干渉信号に対して補償値に基づく処理を行ってもよいことは言うまでもない。また、制御部50は、FPNを利用せずに帯域ずれを補償することも可能である。例えば、制御部50は、チャンネル間の特性差に関する特性差情報を、理論値または実験値に基づいて予め取得していてもよい。この場合、制御部50は、予め取得している特性差情報に基づいて帯域ずれを補償してもよい。特性差情報には、例えば、第1AD変換器34および第2AD変換器44の各々から制御部50が干渉信号を入力するタイミングの差等を用いることができる。また、OCT装置1は、チャンネル間の特性差に基づく補償値を予め取得していてもよい。
【0059】
干渉信号I
H、I
V、I´
V等を求める際に、平行検出器における各サンプリングポイントに対する波数成分のマッピング状態を補正してもよい。マッピング状態を補正する方法については、例えば、特開2015−68775号公報に記載されている。
【0060】
OCT装置1の機械的構成等を変更することも可能である。例えば、本実施形態のOCT装置1は2つのチャンネル30,40を備える。しかし、3つ以上のチャンネルを備えるOCT装置でも、本実施形態で例示した技術の少なくとも一部を適用できる。