(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
W、Mo、Sn、及び、Sbは、塗装欠陥部の腐食の抑制に有効な元素であるが、本発明者らの検討の結果、鋼中に形成されたMnSが塗装欠陥部の耐食性を劣化させる場合があることがわかった。Mnの含有量を制限すればMnSを低減することが可能であるが、強度の低下が問題になる。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑み、船舶用鋼として十分な強度を有し、バラストタンク内の腐食環境下における塗装耐食性に優れたバラストタンク用耐食鋼材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、バラストタンク用耐食鋼材の塗装欠陥部の耐食性の向上及び強度の確保を目的として種々の検討を行った。その結果、まず、S添加量[S]とO添加量[O]とCa添加量[Ca]とが特定の関係式を満たし、更に、Sn、Sbの一方又は両方を添加することにより、塗膜欠陥部の腐食の進展が大幅に抑制されることを見出した。
【0010】
次に、強度を確保するためには、Cuを0.05%以上、Niを0.03%以上添加し、焼入れ性の指標であるCeqの値を0.300%以上にする必要があることがわかった。また、強度を適正な範囲に制御するには、圧延方向と平行となる板厚断面の金属組織をフェライトと面積率で5〜25%の硬質相(パーライト、ベイナイト、及び、マルテンサイトの1種又は2種以上)とからなるものにする必要があることを見出した。
【0011】
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)質量%で、
C :0.03〜0.25%、
Si:0.05〜0.50%、
Mn:0.10〜1.40%、
S :0.0001〜0.020%、
Cu:0.05〜1.00%、
Ni:0.03〜1.00%、
Al:0.001〜0.100%、
Ca:0.0001〜0.0100%、及び、
O :0.0001〜0.0100%
を含有し、更に、
Sb:0.010〜0.300%、及び、
Sn:0.010〜0.300%
の少なくとも一方を含有し、
P :0.025%以下
に制限し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、下記(式1)によって求められるESSPが0.050以上であり、下記(式2)によって求められるCeqが0.300以上であり、圧延方向と平行となる板厚断面の金属組織がフェライトと面積率で5〜25%の硬質相とからなり、表面にエポキシ系塗膜を有することを特徴とするバラストタンク用耐食鋼材。
ESSP=[Ca]×(1−124×[O])/(1.25×[S])・・・(式1)
Ceq =[C]+[Mn]/6+([Cr]+[Mo]+[V])/5
+([Cu]+[Ni])/15 ・・・(式2)
ただし、[S]、[O]、及び、[Ca]は、それぞれ、S、O、及び、Caの含有量[質量%]であり、[C]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Cu]、及び、[Ni]は、それぞれ、C、Mn、Cr、Mo、V、Cu、及び、Niの含有量[質量%]であり、元素を含有しない場合は0として計算する。
(2)更に、質量%で、
Cr:0.40%以下、
Mo:0.50%以下、及び、
W :1.00%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記(1)に記載のバラストタンク用耐食鋼材。
(3)更に、質量%で、
Ti:0.100%以下、
Zr:0.10%以下、
Nb:0.20%以下、及び、
V :0.20%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のバラストタンク用耐食鋼材。
(4)更に、質量%で、
B :0.0030%以下
を含有することを特徴とする上記(1)〜(3)の何れかに記載のバラストタンク用耐食鋼材。
(5)更に、質量%で、
Mg:0.0100%以下、
REM:0.015%以下、及び、
Y :0.100%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記(1)〜(4)の何れかに記載のバラストタンク用耐食鋼材。
(6)前記エポキシ系塗膜の下地にジンクプライマー塗膜を有することを特徴とする上記(1)〜(5)の何れかに記載のバラストタンク用耐食鋼材。
【発明の効果】
【0012】
本発明のバラストタンク用耐食鋼材は、適正な強度を有し、かつ、バラストタンク内の腐食環境下で優れた塗装耐食性を示すので、過酷な腐食環境に曝されるバラストタンクヘ適用した場合、初期コスト及び補修再塗装等の保守費用を大幅に削減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、エポキシ系塗料を塗布した種々の耐食鋼材を用いて、エポキシ系塗膜の欠陥部の腐食について、以下の検討を行った。
【0014】
種々の合金元素を添加した鋼を溶製し、熱間圧延して板厚が5mmの鋼板を作製し、長さ150mm、幅70mmの試験片を採取した。試験片の表面のスケールをショットブラスによって除去し、塗膜厚が300〜400μmになるようにエポキシ系塗料を2回塗布した。その後、塗膜の欠陥部の耐食性を評価するため、試験片の中央に、幅2mmのエンドミルで地鉄表面まで達する50mm長さの疵を一文字状に付与した。
【0015】
耐食性は、複合サイクル試験によって評価した。バラストタンクの環境に合わせるために、腐食液には、5%NaCl水溶液ではなく、人工海水を用いた。サイクル条件は、腐食液噴霧(温度35℃)1時間、乾燥(60℃、湿度20〜30%)2時間、湿潤(50℃、湿度95%以上)1時間とした。このサイクルを300サイクル行った後、付与した疵部の塗装膨れの最大長さを測定した。
【0016】
その結果、Sn、Sbの一方又は両方を添加した場合、塗装欠陥部の塗膜膨れや腐食が抑制されている試験片と、抑制されていない試験片が見られることがわかった。これらを詳細に調査した結果、塗装欠陥部の膨れが抑制されていないものには、MnSが多く生成していることが判明した。
【0017】
次に、表面を鏡面研磨し、観察されたMnSの周囲にビッカース硬度計でマーキングを施して、その位置に疵を入れた試験片を用いて耐食性評価を行った。その結果、塗膜膨れは抑制されず、MnSが塗装欠陥部の耐食性に悪影響を及ぼしていることが明らかになった。SnやSbを含む耐食鋼材であっても、MnSが多く生成している場合、塗膜欠陥部の腐食が抑制されない理由は、MnSの加水分解によって硫酸が生じ、pHが大きく低下したためではないかと推定している。
【0018】
一方、Sn、Sbの一方又は両方を添加した耐食鋼材のうち、Caを添加したものの一部は、塗装欠陥部の塗膜膨れや腐食が著しく抑制されていることが判明した。そして、塗膜欠陥部の塗膜膨れが著しく抑制された耐食鋼材は、下記(式1)によって求められるESSPが0.050以上であることがわかった。
【0019】
ESSP=[Ca]×(1−124×[O])/(1.25×[S])・・・(式1)
ここで、[S]、[O]、及び、[Ca]は、それぞれ、S(硫黄)、O(酸素)、及び、Caの含有量[質量%]である。
【0020】
また、塗装欠陥部の塗膜膨れや腐食が著しく抑制された耐食鋼材に生じている介在物を調査した結果、CaSが形成されていることがわかった。これらの結果から、Sn、及び、Sbの一方又は両方を含有し、上記(式1)のESSPが0.050以上である耐食鋼材では、塗膜欠陥部で、鋼中のCaSが溶け出し、鋼材の表面にCa化合物が形成され、いわゆるエレクトロコーティングによって腐食の進展が著しく抑制されたのではないかと推定している。
【0021】
このような検討結果に基づいて、本発明のバラストタンク用耐食鋼材(以下、「本発明の耐食鋼材」という)では、Sb、Snの一方又は両方を含有し、更に、Caを添加して、上記(式1)によって求められるESSPが0.050以上である成分組成にすることとした。また、必要に応じて、Cu、Ni、Cr、Mo、及び、Wの1種又は2種以上を添加すると、更に優れた耐食性が得られる。
【0022】
次に、バラストタンク用耐食鋼材の強度及び金属組織について検討を行った。強度を確保するためには、フェライト以外の硬い相、即ち、硬質相を利用することが有効である。本発明では、硬質相は、ベイナイト、マルテンサイト、及び、パーライトの1種又は2種以上とする。そして、適正な強度を有するバラスト用耐食鋼材は、圧延方向と平行となる板厚断面で、硬質相の面積率が5〜25%であり、残部がフェライトからなる金属組織に制御されていることがわかった。
【0023】
硬質相を生成させるには、焼入れ性を高める元素を添加することが必要であり、安価なMnが利用されることが多い。しかし、MnはMnSを形成する元素であるため、Mn量を1.40%以下に制限する必要がある。そこで、本発明では、焼入れ性を高める元素であるCuを0.05%以上、Niを0.03%以上、同時に添加する。Cuは、鋼材の表面性状を損なう元素であるが、Niを同時に添加することによって、表面性状の劣化を抑制することもできる。
【0024】
また、本発明者らの検討により、硬質相を確保するためには、焼入れ性の指標であるCeqを0.300以上にする必要があることがわかった。Ceqは、C、Mn、Cr、Mo、V、Cu、及び、Niの含有量[質量%]([C]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Cu]、及び、[Ni])から、下記(式2)によって求めることができる。なお、下記(式2)では、選択元素を含有しない場合は0として計算する。
【0025】
Ceq=[C]+[Mn]/6+([Cr]+[Mo]+[V])/5
+([Cu]+[Ni])/15 ・・・(式2)
【0026】
以下に、本発明の耐食鋼材の成分組成について具体的に説明する。なお、特に断りのない限り、「%」は、「質量%」を示す。
【0027】
(C:0.03〜0.25%)
Cは、鋼材強度を上昇させるのに有効な元素であり、所望の強度を得るために0.03%以上の含有を必要とする。好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.08%以上とする。一方、0.25%を超えてCを含有させると、溶接熱影響部(HAZ)の靭性を低下させるため、Cの含有量を0.25%以下とする。好ましくは0.20%以下、より好ましくは0.17%以下とする。
【0028】
(Si:0.05〜0.50%)
Siは、脱酸剤として、また、鋼材の強度を高めるために添加される元素であり、0.05%以上を含有させる。好ましくは0.10%以上、より好ましくは0.15%以上含有させる。しかし、0.50%を超えて含有させると、鋼の靭性を劣化させるので、0.50%以下とする。好ましくは0.40%以下、より好ましくは0.30%以下とする。
【0029】
(Mn:0.10〜1.40%)
Mnは、鋼材の強度を高める元素であり、0.10%以上添加する。好ましくは0.50%以上、より好ましくは0.70%以上とする。しかし、1.40%を超えてMnを含有させると、MnSを増加させて塗膜欠陥部の耐食性を低下させるため、1.40%以下とする。好ましくは1.00%以下、より好ましくは0.90%以下とする。
【0030】
(S:0.0001〜0.020%)
Sは、MnSを生成させて塗膜欠陥部の耐食性を低下させるため、Sの含有量を0.020%以下とする。好ましくは0.015%以下、より好ましくは0.010%以下含有させる。Sの含有量は、耐食性の観点からは低減することが好ましいが、0.0001%未満にすると製鋼上の負荷が大きくコストが高くなるため、下限を0.0001%とする。
【0031】
(Cu:0.05〜1.00%)
Cuは、耐食性を向上させ、かつ、強度を確保するために、0.05%以上を添加する。好ましくは0.10%以上を添加する。一方、1.00%を超えてCuを添加すると脆化を生じることからC量を1.00%以下とする。好ましくは、0.50%以下、より好ましくは0.30%以下である。
【0032】
(Ni:0.03〜1.00%)
Niは、耐食性を向上させ、かつ、強度を確保するため、0.03%以上を添加する。Cuを添加する場合、Niを同時に添加すると鋼材の表面性状の劣化を抑制することもできる。一方、Niは高価な元素であり、1.00%を超えて添加するとコストが高くなることからNi量を1.00%以下とする。好ましくは、0.50%以下、より好ましくは0.30%以下である。
【0033】
(Al:0.001〜0.100%)
Alは、脱酸剤として添加する元素であり、0.001%以上添加する。好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.010%以上含有させる。しかし、0.100%を超えてAlを含有させると、母材靭性が低下するため、0.100%以下とする。好ましくは0.080%以下、より好ましくは0.060%以下とする。
【0034】
(Ca:0.0001〜0.0100%)
Caは、本発明の耐食鋼材の塗装欠陥部の塗膜膨れや腐食を抑制するために必要な元素であり、0.0001%以上を添加する。好ましくは0.0005%以上、より好ましくは0.0010%以上とする。しかし、0.0100%を超えてCaを含有させると、介在物の粗大化により、母材の機械特性や溶接熱影響部(HAZ)の靭性を低下させるため、Ca量を0.0100%以下とする。好ましくは0.0050%以下とし、より好ましくは0.0040%以下とする。
【0035】
(O:0.0001〜0.0100%)
Oは、Caと結合して酸化物を形成すると上述のCaの効果が損なわれるため、制限することが好ましいが、コストの観点から、O量の下限値を0.0001%とする。特に、O量が0.0100%を超えると、粗大な酸化物の形成により、母材の機械特性やHAZの靭性をも低下させるため、0.0100%以下とする。好ましくは0.0030%以下、より好ましくは0.0020%以下とする。
【0036】
(Sb:0.010〜0.300%)
(Sn:0.010〜0.300%)
Sb、Sbは、塗膜欠陥部の耐食性を向上させる効果があり、一方又は両方を添加する。効果を得るには、Sn、Sbとも0.010%以上の含有が必要であり、好ましくは0.020%以上、より好ましくは0.030%以上を添加する。一方、Sn、Sbとも含有量が0.300%を超えると、母材及びHAZの靭性を劣化させる。したがって、Sb及びSnの含有量を、0.300%以下とし、好ましくは0.200%以下、より好ましくは0.150%以下とする。
【0037】
(P:0.025%以下)
Pは、不純物であり、鋼の母材靭性や溶接性、溶接部靭性を劣化させるため、できるだけ低減するのが好ましい。特に、Pの含有量が0.025%を超えると、母材靭性及び溶接部靭性の低下が大きくなるので、0.025%以下に制限する。好ましくはPの含有量を0.020%以下、より好ましくは0.015%以下とする。
【0038】
(ESSP=[Ca]×(1−124×[O])/(1.25×[S])≧0.050)
ESSPは、本発明では、塗膜欠陥部の腐食の抑制に関する指標である。ESSPを0.050以上にすることによって、表面にエポキシ系塗膜を有する耐食鋼材の塗装欠陥部の塗膜膨れや腐食を著しく抑制することができる。この理由は必ずしも明らかではないが、鋼中のCaSが溶け出して、鋼材の表面がCa化合物によって保護される、いわゆるエレクトロコーティングの効果であると推定される。
ESSPの上限は特に規定せず、Ca量の上限値、O量の下限値及びS量の下限値から求められる79.008であってもよい。ただし、S及びOの含有を許容することによってコストの上昇を抑制できるという観点から、好ましくは20.000以下、より好ましくは10.000以下、更に好ましくは5.000以下とする。
【0039】
(Ceq=[C]+[Mn]/6+([Cr]+[Mo]+[V])/5
+([Cu]+[Ni])/15≧0.300)
Ceqは焼入れ性の指標であり、硬質相を生成させて強度を確保するために、0.300以上にする。好ましくは0.310以上とする。Ceqの上限は特に限定せず、C、Mn、Cr、Mo、V、Cu、Niの各元素の含有量の上限によって決まるが、靱性が必要とされる場合は、0.400以下にすることが好ましい。より好ましくは0.380以下、更に好ましくは0.360以下である。
【0040】
本発明の耐食鋼材は、上述された基本成分(必須元素)に加え、更に、塗装欠陥部の耐食性を高めるために、Cr、Mo、及び、Wの1種又は2種以上を選択元素として添加してもよい。
【0041】
(Cr:0.40%以下)
(Mo:0.50%以下)
(W :1.00%以下)
Cr、Mo、及び、Wは、1種又は2種以上を、Sn、Sbの一方又は両方と同時に添加すると、塗装欠陥部の耐食性を更に高める効果が発現する。塗装欠陥部の耐食性を向上させる効果を得るには、Cr、Mo、Wとも、0.01%以上の添加が好ましい。ただし、Cr、Mo、Wを過剰に添加すると、HAZ靭性が劣化する場合がある。Crは0.40%以下、Moは0.50%以下、Wは1.00%以下とすることが好ましい。より好ましくは、Crは0.20%以下、Moは0.20%以下、Wは0.50%以下とする。
【0042】
本発明の耐食鋼材は、上述された必須元素に加え、更に、母材やHAZの機械特性を向上させるために、Ti、Zr、Nb、V、B、Mg、REM、及び、Yの1種又は2種以上を添加してもよい。
【0043】
(Ti:0.100%以下)
(Zr:0.10%以下)
(Nb:0.20%以下)
(V :0.20%以下)
Ti、Zr、Nb、Vは、いずれも、析出物を生じて鋼材の強度を高める元素であり、必要に応じて含有することができる。Ti、Zr、Nb、Vは、0.001%以上を添加することが好ましい。一方、Ti、Zr、Nb、Vを過剰に添加すると靭性が低下することがあるため、Tiは0.100%以下、Zrは0.10%以下、Nb及びVは0.20%以下として添加するのが好ましい。より好ましくは、Tiは0.020%以下、Zrは0.02%以下、Nb及びVはそれぞれ0.03%以下及び0.10%以下とする。
【0044】
(B:0.0030%以下)
Bは、微量の添加で鋼材の強度を高める元素であり、必要に応じて含有させることができる。B量は0.0003%以上が好ましい。より好ましくは0.0005%以上とする。一方、0.0030%を超えて含有させると、靭性が劣化することがあるため、Bの含有量は0.0030%以下が好ましい。より好ましくは0.0020%以下とする。
【0045】
(Mg:0.0100%以下)
(REM:0.015%)
(Y :0.100%以下)
Mg、REM、Yは、いずれも、溶接熱影響部の靭性向上に効果のある元素であり、必要に応じて選択して含有することができる。Mg、REM、Yは、それぞれ、0.0001%以上を添加することが好ましい。より好ましくは、Mg、REM、Yの含有量を、それぞれ、0.0005%以上とする。一方、これらを過剰に添加すると靭性を低下させることがあるため、Mgは0.0100%以下、REMは0.015%以下、Yは0.100%以下が好ましい。より好ましくは、Mg、REM、Yの含有量を、それぞれ、0.0030%以下とする。
【0046】
本発明の耐食鋼材において、上記以外の成分は、Fe及び不可避的不純物であるが、本発明の効果を害しない範囲内であれば、上記以外の成分の含有は許容される。
【0047】
本発明の耐食鋼材は、上記組成からなる下地鋼材の表面に、エポキシ系塗膜を有する。エポキシ系塗膜は、国際海事機関(International Maritime Organization、IMO)が定めた塗装性能基準を満たすものであれば、特に制限されるものではなく、エポキシ系塗料を塗布し、乾燥させて形成すればよい。
【0048】
また、上記組成からなる下地鋼材の表面に、ジンクリッチプライマー塗膜を形成してから、エポキシ系塗膜を設けることができる。ジンクリッチプライマー塗膜は、特に制限されるものではなく、ジンクリッチプライマーを塗布し、乾燥させて形成すればよい。
【0049】
次に、本発明のバラストタンク用耐食鋼材の金属組織について説明する。本発明のバラストタンク用耐食鋼材は、圧延方向と平行な板厚断面の金属組織がフェライトと硬質相(パーライト、ベイナイト、及び、マルテンサイトの1種又は2種以上)からなる。硬質相は、強度を確保するために面積率で5%を必要とする。好ましくは7%以上、より好ましくは10%以上とする。一方、硬質相の面積率が25%を超えると母材の延性や靭性が劣化するため、上限を25%以下とする。好ましくは20%以下とする。
【0050】
金属組織の観察は、鋼材の圧延方向と平行な板厚断面で、表層から鋼材の板厚の4分の1に当たる部位において行う。金属組織の判別は、100倍の観察倍率にて光学顕微鏡で観察して行い、任意の5視野で画像解析などによって測定された面積率の平均値を採用する。
【0051】
次に、本発明のバラストタンク用耐食鋼材の製造方法について説明する。
【0052】
本発明のバラストタンク用耐食鋼材は表面にエポキシ系塗膜を有するが、母材は常法で製造することができる。
例えば、溶鋼を転炉、電気炉等の公知の方法で溶製し、連続鋳造法、造塊法等の公知の方法でスラブやビレット等の鋼素材とし、熱間圧延に供する。なお、溶鋼に、取鍋精錬や真空脱ガス等の処理を付加してもよい。
【0053】
そして、鋼素材を、好ましくは1050〜1250℃の温度に加熱し、所望の寸法形状に熱間圧延する。鋳造や造塊後の鋼材をそのまま熱間圧延してもよい。熱間圧延後は、空冷してもよいが、加速冷却を行ってもよい。なお、熱間圧延では、金属組織を制御して強度を確保するために、適正な条件で熱間圧延及びその後の冷却を行うことが好ましい。
【0054】
熱間仕上圧延の終了温度は700℃以上が好ましく、熱間仕上圧延の終了後の冷却は、空冷するか、又は、冷却速度を15℃/s以下とする加速冷却を行ってもよい。冷却速度が速いと、ベイナイトやマルテンサイトの硬質相が増加することがあり、10℃/s以下が好ましい。更に、焼戻しなどの熱処理を施し、強度や靱性などの機械特性を調整することができる。
【0055】
このようにして製造された鋼材の表面にエポキシ系塗料を塗布し、乾燥させてエポキシ系塗膜を形成させる。エポキシ系塗料を塗布する前にジンクリッチプライマー塗膜を形成してもよい。また、エポキシ系塗料やジンクリッチプライマーを塗布する前に、ショットブラストを施してもよく、酸洗を行ってもよい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0057】
表1に示した成分組成を有する鋼を真空溶解炉又は転炉で溶製して、鋳塊又は鋼スラブとし、これらを表2に示すいずれかの加熱、熱間圧延によって20mm厚の厚鋼板を製造した。表2に示す加熱温度は加熱炉内の温度であり、加熱炉内での保持時間を2時間以上とした。表2に示す冷却速度は、加速冷却の開始温度(780℃)から、停止温度(550〜600℃の範囲内)の冷却速度である。なお、熱間仕上圧延の終了温度は800℃であり、加速冷却の停止後は空冷を行った。熱間仕上圧延の終了温度、加速冷却の開始温度及び停止温度は、製造中の厚鋼板の表面の温度を放射温度計で測定し、伝熱計算によって求めた板厚中心部の温度である。冷却速度は加速冷却の開始温度、停止温度及び所要時間から計算した。
【0058】
得られた厚鋼板の板厚の4分の1に当たる部位で、金属組織中の硬質相の面積率を調査した。100倍の倍率で、任意の5視野の金属組織を光学顕微鏡によって観察し、硬質相(パーライト、ベイナイト、マルテンサイト)の面積率を測定して平均値を求め、硬質相の面積率とした。更に、母材の引張特性及び衝撃特性を調査した。引張試験はJIS Z 2241に準拠して室温で行い、シャルピー衝撃試験はJIS Z 2242に準拠して−40℃で行った。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
次に、それぞれの厚鋼板から、長さ150mm、幅70mm、厚さ5mmの試験片を採取し、試験片の表面のスケールをショットブラスによって除去した後、エポキシ塗料を2回塗布して塗膜厚が300〜400μmとなる試験片を作製した。また、いくつかの鋼板についてはエポキシ塗料による塗布の前にジンクプライマーを10μm塗布したものも用意した。
【0062】
これらの試験片の中央を幅2mmのエンドミルで地鉄表面まで達する50mm長さの疵を横方向に一文字状に付与し、人工海水を用いて複合サイクル試験を行った。サイクル条件は、腐食液噴霧(温度35℃)1時間、乾燥(60℃、湿度20〜30%)2時間、湿潤(50℃、湿度95%以上)1時間とした。このサイクルを300サイクル行った後、付与した疵部の塗装膨れの最大長さを測定した。耐食性は、耐食性向上元素を特に含まないNo.27の鋼をベース鋼(100)として塗装膨れの最大長さの比率を算出し、評価した。
【0063】
表3に腐食試験、引張試験、衝撃試験の結果を示す。本発明の成分組成を満たす発明例のNo.1〜26の鋼は、ベース鋼(No.27)に対する塗装膨れの最大長さの比率が50%以下であり、良好な耐食性を有していることがわかる。また、発明例にジンクプライマーを塗布した鋼材は、ベース鋼(No.27)に対する塗装膨れの最大長さの比率が25%以下であり、良好な耐食性を有していることがわかる。
【0064】
これに対して、本発明の成分組成の条件を満たさないNo.28〜32鋼は、ベース鋼(No.27)に対する塗装膨れの最大長さの比率がいずれも50%を超えている。No.33鋼は、ベース鋼(No.27)に対する塗装膨れの最大長さの比率が50%以下であるが、Ceqが0.30以上ではなく、硬質相の面積率も5%未満であるために必要な母材の強度が得られない。No.34〜37鋼は硬質相が25%を超えているために必要とする母材の延性が得られず、母材靭性も低下している。
【0065】
【表3】