(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の振動子が列設されたプローブが接続可能に構成されており、前記プローブに被検体内の特定部位に集束するプッシュ波を送信させ、当該プッシュ波の音響放射圧により生じたせん断波の伝播速度を検出する超音波診断装置であって、
前記複数の振動子にプッシュ波パルスを供給することにより、前記複数の振動子に前記特定部位に集束するプッシュ波を送信させるプッシュ波パルス送信部と、
前記プッシュ波パルスに続き、前記複数の振動子に検出波パルスを供給して前記複数の振動子に被検体中の解析対象範囲を表す関心領域を通過する検出波を複数回送信させる検出波パルス送信部と、
前記複数回の検出波の各々に対応して前記複数の振動子にて時系列に受信された被検体組織からの反射検出波に基づき、前記関心領域内の複数の観測点について音響線信号を生成して音響線信号フレームデータのシーケンスを生成する検出波受信部と、
前記音響線信号フレームデータのシーケンスから、前記反射検出波の受信時刻それぞれにおける前記関心領域内の組織の変位を検出して変位量フレームデータのシーケンスを生成する変位検出部と、
各前記受信時刻における前記変位量フレームデータからせん断波の波面位置を抽出して波面フレームデータのシーケンスを生成し、複数の前記波面フレームデータそれぞれに含まれる波面の位置と前記受信時刻とを対応させることにより波面到達時間フレームデータを生成する伝播情報解析部と、
前記波面到達時間フレームデータ中の波面到達時間データの信頼度を評価し、前記波面到達時間フレームデータ中の所定の条件を満たさない信頼度不適合波面到達時間データを、所定の条件を満たす前記波面到達時間データに基づき補間して補償波面到達時間データを生成し、前記信頼度不適合波面到達時間データを前記補償波面到達時間データに置き換えて補償波面到達時間フレームデータを生成する伝播情報推定部と、
前記補償波面到達時間フレームデータに基づき、前記関心領域内のせん断波の伝播速度、又は、弾性率を算出する弾性率算出部とを備えた
超音波診断装置。
前記伝播情報推定部は、前記波面到達時間フレームデータ中の、当該フレームデータが依拠した前記音響線信号フレームデータにおける音響線信号の信号強度が閾値以下である信頼度不適合領域に含まれる前記波面到達時間データを前記信頼度不適合波面到達時間データとする
請求項1に記載の超音波処理装置。
前記伝播情報推定部は、前記波面到達時間フレームデータ中の、当該フレームデータが依拠した前記変位量フレームデータにおける変位量データの絶対値が閾値以下である信頼度不適合領域に含まれる前記波面到達時間データを前記信頼度不適合波面到達時間データとする
請求項1に記載の超音波処理装置。
前記伝播情報解析部は、前記変位量フレームデータのシーケンスに基づいて着目観測点と所定距離離れた参照観測点における変位の時系列変化データをそれぞれ算出し、前記複数の時系列変化データ間において相互相関処理を行うことにより、前記着目観測点と前記参照観測点間における変位の移行時間を算出し、前記所定距離を前記移行時間で除することにより前記着目観測点に対するせん断波の伝播速度を算出し、前記関心領域内の複数の観測点を前記着目観測点としてせん断波の伝播速度を算出することにより伝播速度フレームデータをダイレクトに生成する相関処理部を備え、
前記弾性率算出部は、前記波面到達時間フレームデータ中の信頼度不適合波面到達時間データが得られた前記関心領域内の信頼度不適合領域については、前記補償波面到達時間フレームデータに依拠した伝播速度データに基づき弾性率データを算出し、
前記関心領域内の前記信頼度不適合領域以外の領域については、前記ダイレクトに生成した伝播速度データに基づき弾性率データを算出する
請求項1から4の何れか1項に記載の超音波処理装置。
前記弾性率算出部は、前記補償波面到達時間データに依拠する前記弾性率データを前記補償波面到達時間データに依拠しない弾性率データと異なる態様にて表示するように弾性画像を生成する、
請求項6に記載の超音波診断装置。
複数の振動子が列設されたプローブが接続可能に構成されており、前記プローブに被検体内の特定部位に集束するプッシュ波を送信させ、当該プッシュ波の音響放射圧により生じたせん断波の伝播速度を検出する超音波診断装置の制御方法であって、
前記複数の振動子にプッシュ波パルスを供給することにより、前記複数の振動子に前記特定部位に集束するプッシュ波を送信させる、
前記プッシュ波パルスに続き、前記複数の振動子に検出波パルスを供給して前記複数の振動子に被検体中の解析対象範囲を表す関心領域を通過する検出波を複数回送信させ、
前記複数回の検出波の各々に対応して前記複数の振動子にて時系列に受信された被検体組織からの反射検出波に基づき、前記関心領域内の複数の観測点について音響線信号を生成して音響線信号フレームデータのシーケンスを生成し、
前記音響線信号フレームデータのシーケンスから、前記反射検出波の受信時刻それぞれにおける前記関心領域内の組織の変位を検出して変位量フレームデータのシーケンスを生成し、
各前記受信時刻における前記変位量フレームデータからせん断波の波面位置を抽出して波面フレームデータのシーケンスを生成し、複数の前記波面フレームデータそれぞれに含まれる波面の位置と前記受信時刻とを対応させることにより波面到達時間フレームデータを生成し、
前記波面到達時間フレームデータ中の波面到達時間データの信頼度を評価し、前記波面到達時間フレームデータ中の信頼度不適合波面到達時間データを、所定の条件を満たす前記波面到達時間データに基づき補間して補償波面到達時間データを生成し、前記信頼度不適合波面到達時間データを前記補償波面到達時間データに置き換えて補償波面到達時間フレームデータを生成し、
前記補償波面到達時間フレームデータに基づき、前記関心領域内のせん断波の伝播速度、又は、弾性率を算出する
超音波診断装置の制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪実施の形態1≫
超音波診断装置100は、超音波弾性率計測法により組織の弾性率を表すせん断波の伝播速度を算出する処理を行う。
図1は、超音波診断装置100における超音波弾性率計測法によるSWSシーケンスの概要を示す概略図である。
図1中央の枠内に示すように、超音波診断装置100の処理は、「基準検出波パルス送受信」、「プッシュ波パルス送信」、「検出波パルス送受信」、「弾性率算出」の工程から構成される。
【0011】
「基準検出波パルス送受信」の工程では、超音波プローブに基準検出波パルスpwp0を送信して、複数の振動子に被検体中の関心領域roiに対応する範囲に検出波pw0の送信と反射波ec1〜4の受信とを行わせて、組織の初期位置の基準となる音響線信号を生成する。「プッシュ波パルス送信」の工程では、超音波プローブにプッシュ波パルスpppを送信して、複数の振動子に被検体内の特定部位に超音波を集束させたプッシュ波ppを送信させて、被検体組織にせん断波励起させる。その後、「検出波パルス送受信」の工程で、超音波プローブに検出波パルスpwpl(lは1から検出波パルスpwpの送信回数mまでの自然数、番号を区別しない場合は検出波パルスpwplとする)を送信して、複数の振動子に検出波pwlの送信と反射波ec1〜4の受信とを複数回繰り返し行わせることで、せん断波を計測する。「弾性率算出」の工程では、先ず、プッシュ波の音響放射圧により生じたせん断波の伝播に伴う組織の変位分布ptlを時系列に算出し、次に、得られた変位分布ptlの時系列な変化から組織の弾性率を表すせん断波の伝播速度を算出するせん断波伝搬解析を行い、最後に組織弾性の分布を、例えば画像化して弾性率画像として表示する。
【0012】
以上に示した、プッシュ波pp送信に基づく1回のせん断波励起に伴う一連の工程を「SWSシーケンス」((SWS:Shear Wave Speed)、複数回の「SWSシーケンス」が統合された工程を「統合SWSシーケンス」とする。
<超音波診断システム1000>
1.構成概要
実施の形態1に係る超音波診断装置100を含む超音波診断システム1000について、図面を参照しながら説明する。
図2は、実施の形態1に係る超音波診断システム1000の機能ブロック図である。
図2に示すように、超音波診断システム1000は、被検体に向けて超音波を送信し、その反射波の受信する先端表面に列設された複数の振動子(振動子列)101aを有する超音波プローブ101(以下、「プローブ101」とする)、プローブ101に超音波の送受信を行わせプローブ101からの出力信号に基づき超音波画像を生成する超音波診断装置100、検査者からの操作入力を受け付ける操作入力部102、超音波画像を画面上に表示する表示部114を有する。プローブ101、操作入力部102、表示部114は、それぞれ、超音波診断装置100に各々接続可能に構成されている。
図1は超音波診断装置100に、プローブ101、操作入力部102、表示部114が接続された状態を示している。
【0013】
次に、超音波診断装置100に外部から接続される各要素について説明する。
2.プローブ101
プローブ101は、例えば一次元方向(以下、「振動子列方向」とする)に配列された複数の振動子101aからなる振動子列(101a)を有する。プローブ101は、後述の送信部106から供給されたパルス状の電気信号(以下、「送信信号」とする)をパルス状の超音波に変換する。プローブ101は、プローブ101の振動子側外表面を超音波ジェル等を介して被検体の皮膚表面に当てた状態で、複数の振動子から発せられる複数の超音波からなる超音波ビームを測定対象に向けて送信する。そして、プローブ101は、被検体からの複数の反射検出波(以下、「反射波」とする)を受信し、複数の振動子101aによりこれら反射波をそれぞれ電気信号に変換して超音波診断装置100に供給する。
【0014】
3.操作入力部102
操作入力部102は、検査者からの超音波診断装置100に対する各種設定・操作等の各種操作入力を受け付け超音波診断装置100の制御部116に出力する。
操作入力部102は、例えば、表示部114と一体に構成されたタッチパネルであってもよい。この場合、表示部114に表示された操作キーに対してタッチ操作やドラッグ操作を行うことで超音波診断装置100の各種設定・操作を行うことができ、超音波診断装置100がこのタッチパネルにより操作可能に構成される。また、操作入力部102は、例えば、各種操作用のキーを有するキーボードや、各種操作用のボタン、レバー等を有する操作パネルやマウス等であってもよい。
【0015】
4.表示部114
表示部114は、いわゆる画像表示用の表示装置であって、後述する表示制御部113からの画像出力を画面に表示する。表示部114には、液晶ディスプレイ、CRT、有機ELディスプレイ等を用いることができる。
<超音波診断装置100の構成概要>
次に、実施の形態1に係る超音波診断装置100について説明する。
【0016】
超音波診断装置100は、プローブ101の複数ある振動子101aのうち、送信又は受信の際に用いる振動子を各々に選択し、選択された振動子に対する入出力を確保するマルチプレクサ部107、超音波の送信を行うためにプローブ101の各振動子101aに対する高電圧印加のタイミングを制御する送信部106と、プローブ101で受信した反射波に基づき、受信ビームフォーミングして音響線信号を生成する検出波受信部108を有する。
【0017】
また、操作入力部102からの操作入力に基づき被検体内の解析対象範囲を表す関心領域roiを複数の振動子101aを基準に設定する関心領域設定部103、複数の振動子101aにプッシュ波パルスpppを送信させるプッシュ波パルス発生部104、プッシュ波パルスpppに続き検出波パルスpwplを複数回送信させる検出波パルス発生部105を有する。
【0018】
また、音響線信号から関心領域roi内の組織の変位を検出する変位検出部109、検出した組織の変位からせん断波の伝播情報解析を行い関心領域roi内の各観測点におけるせん断波の波面到達時間を算出する伝播情報解析部110、関心領域roi内の特定の各観測点についてせん断波の波面到達時間を推定する伝播情報推定部111、関心領域roi内の各観測点におけるせん断波の伝播速度、又は、弾性率を算出する弾性率算出部110を有する。
【0019】
また、検出波受信部108が出力する音響線信号、変位検出部109が出力する変位量データ、伝播情報解析部110が出力する波面データ及び波面到達時間データ、伝播情報推定部111が出力する補償波面到達時間データ、弾性率算出部110が出力する波面データ及び弾性率データ等を保存するデータ格納部115、表示画像を構成して表示部114に表示させる表示制御部113、さらに、各構成要素を制御する制御部116を備える。
【0020】
このうち、マルチプレクサ部107、送信部106、検出波受信部108、関心領域設定部103、プッシュ波パルス発生部104、検出波パルス発生部105、変位検出部109、伝播情報解析部110、伝播情報推定部111、弾性率算出部110は、超音波信号処理回路150を構成する。
超音波信号処理回路150を構成する各要素、制御部116、表示制御部113は、それぞれ、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Aplication Specific Integrated Circuit)などのハードウェア回路により実現される。あるいは、CPU(Central Processing Unit)やGPGPU(General−Purpose computing on Graphics Processing Unit)やプロセッサなどのプログラマブルデバイスとソフトウェアにより実現される構成であってもよい。これらの構成要素は一個の回路部品とすることができるし、複数の回路部品の集合体にすることもできる。また、複数の構成要素を組合せて一個の回路部品とすることができるし、複数の回路部品の集合体にすることもできる。
【0021】
データ格納部115は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、MO、DVD、DVD−RAM、半導体メモリ等を用いることができる。また、データ格納部115は、超音波診断装置100に外部から接続された記憶装置であってもよい。
なお、本実施の形態1に係る超音波診断装置100は、
図1で示した構成の超音波診断装置に限定されない。例えば、マルチプレクサ部107が不要な構成もあるし、プローブ101に送信部106や検出波受信部108、またその一部などが内蔵される構成であってもよい。
【0022】
<超音波診断装置100の各部構成>
次に、超音波診断装置100に含まれる各ブロックの構成について説明する。
1.関心領域設定部103
一般に、表示部114にプローブ101によりリアルタイムに取得された被検体の断層画像であるBモード画像が表示されている状態において、操作者は、表示部114に表示されているBモード画像を指標として、被検体内の解析対象範囲を指定し操作入力部102に入力する。関心領域設定部103は、操作入力部102から操作者により指定された情報を入力として設定し、制御部116に出力する。このとき、関心領域設定部103は、被検体内の解析対象範囲をあらわす関心領域roiをプローブ101にある複数の振動子101aからなる振動子列(101a)の位置を基準に設定してもよい。例えば、関心領域roiは、複数の振動子101aからなる振動子列(101a)を含む検出波照射領域Ax内の全部又は一部領域であってもよい。
【0023】
2.プッシュ波パルス発生部104
プッシュ波パルス発生部104は、制御部116から関心領域roiを示す情報を入力し、関心領域roi内の所定位置に特定点を設定する。そして、複数の振動子101aに送信部106からプッシュ波パルスpppを送信させることにより、複数の振動子101aに特定点(以後、「送信焦点F」とする)に対応する被検体中の特定部位に超音波ビームが集束するプッシュ波ppを送信させる。あるいは、関心領域roiの近傍であって関心領域roi外の所定位置に送信焦点Fを設定する構成としてもよい。関心領域roiの近傍に設定する場合には、送信焦点Fは関心領域roiに対してせん断波が関心領域roiへ到達可能な距離に設定される。
【0024】
具体的には、プッシュ波パルス発生部104は、関心領域roiを示す情報に基づき、プッシュ波の送信焦点Fの位置とプッシュ波を送信させる振動子列(以後、「プッシュ波送信振動子列Px」とする)を以下に示すように決定する。
図3(a)は、プッシュ波パルス発生部104で発生させるプッシュ波の送信焦点Fの位置を示す模式図である。関心領域roiの列方向長さw及び被検体深さ方向の長さhが、平面波による超音波照射範囲の列方向長さa及び被検体深さ方向の長さbに対し数分の一程度であり、超音波照射範囲の中心付近に関心領域roiが設定される場合を例に説明する。本実施の形態では、
図3(a)に示すように、送信焦点Fの位置のうち、例えば、列方向送信焦点位置fxは関心領域roiの列方向中心位置wcと一致し、深さ方向送信焦点位置fzは関心領域roi中心までの深さdと一致する構成とした。
【0025】
また、プッシュ波送信振動子列Pxは、深さ方向送信焦点位置fzに基づき設定される。本実施の形態では、プッシュ波パルス送信振動子列長aは複数の振動子101a全部の列長とする構成とした。しかしながら、関心領域roiと送信焦点Fとの位置関係は上記に限られず、被検体の検査すべき部位の形態等により適宜変更してもよい。
例えば、
図3(a)に示す例を、送信焦点Fの位置のうち列方向送信焦点位置fxが関心領域roiの列方向中心位置wcからX軸の正又は負の方向にオフセットされた構成に変更してもよい。この場合、関心領域幅wと振動子列の列方向中心は異なる構成となる。さらに、送信焦点Fの位置のうち列方向送信焦点位置fxが、関心領域roiの列方向中心位置wcからX軸の正又は負の方向にオフセットされ関心領域roi外に位置するような構成としてもよい。
【0026】
また、関心領域幅wが相対的に大きい場合には、送信焦点F位置が異なる複数のプッシュ波を発生する構成としてもよい。
なお、プッシュ波による超音波ビームが「集束」するとは、超音波ビームが絞られフォーカスビームであること、すなわち、超音波ビームに照射される面積が送信後に減少し特定の深さにおいて最小値を採ることを指し、超音波ビームが1点にフォーカスされる場合に限られない。この場合、「送信焦点F」とは、超音波ビームが集束する深さにおける超音波ビーム中心をさす。
【0027】
送信焦点Fの位置と、プッシュ波送信振動子列Pxを示す情報は、プッシュ波パルスpppのパルス幅とともに、送信制御信号として送信部106に出力される。
3.検出波パルス発生部105
検出波パルス発生部105は、制御部116から関心領域roiを示す情報を入力し、複数の振動子101aに送信部106から検出波パルスpwplを複数回送信させることにより超音波ビームが関心領域roiを通過するよう、検出波パルス送信振動子列Txに属する複数の振動子101aに検出波pwを送信させる。具体的には、検出波パルス発生部105は、関心領域roiを示す情報に基づき、超音波ビームが関心領域roiを通過するよう、検出波パルスpwplを送信させる振動子列(以後、「検出波送信振動子列Tx」とする)を決定する。
【0028】
図3(b)は、検出波パルス発生部105で発生させる検出波パルスpwplの構成概要を示す模式図である。
図3(b)に示すように、検出波パルス発生部105は、検出波パルス送信振動子が同位相で駆動されるいわゆる平面波である検出波が関心領域roi全体を通過するように検出波パルス送信振動子列Txを設定する。検出波パルス送信振動子列Txの長さaは関心領域幅wよりも大きく設定されることが好ましい。本例では、関心領域幅wは検出波パルス送信振動子列Txの列方向の端部よりも所定距離βだけ内方に位置するように設定される。検出波pwは平面波であるので振動子列方向と垂直なZ方向に伝播する。したがって、関心領域roiは、X方向両端において距離βだけマージンを持って超音波照射領域Axに含まれる。これより、1回の検出波の送受信により関心領域roi全体にある観測点について音響線信号を生成できるとともに、超音波ビームが確実に関心領域roi全体を通過するように前記検出波パルスpwplを送信することができる。
【0029】
また、検出波パルス送信振動子列Txは複数の振動子101a全部とする構成としてもよい。超音波照射領域Axを、平面波による最大超音波照射領域Axmaxとすることができる。
検出波パルス送信振動子列Txを示す情報は、検出波パルスpwplのパルス幅とともに、送信制御信号として送信部106に出力される。
【0030】
4.送信部106
送信部106は、マルチプレクサ部107を介してプローブ101と接続され、プローブ101から超音波の送信を行うために、プローブ101に存する複数の振動子101aの全てもしくは一部に当たるプッシュ波送信振動子列Px又は検出波送信振動子列Txに含まれる複数の振動子各々に対する高電圧印加のタイミングを制御する回路である。なお、
図2に示すように、プッシュ波パルス発生部104と送信部106とを含む構成をプッシュパルス送信部1041とし、送信部106と検出波パルス発生部105とを含む構成を検出波パルス送信部1051とする。
【0031】
図4(a)は、送信部106の構成を示す機能ブロック図である。
図4(a)に示すように、送信部106は、駆動信号発生部1061、遅延プロファイル生成部1062、駆動信号送信部1063を含む。
(1)駆動信号発生部1061
駆動信号発生部1061は、プッシュ波パルス発生部104又は検出波パルス発生部105からの送信制御信号のうち、プッシュ波送信振動子列Px又は検出波送信振動子列Txとパルス幅を示す情報とに基づき、プローブ101に存する振動子101aの一部又は全部に該当する送信振動子から超音波ビームを送信させるためのパルス信号spを発生する回路である。
【0032】
(2)遅延プロファイル生成部1062
遅延プロファイル生成部1062では、プッシュ波パルス発生部104又は検出波パルス発生部105から得られる送信制御信号のうち、プッシュ波送信振動子列Px又は検出波送信振動子列Txと送信焦点Fの位置を示す情報とに基づき、超音波ビームの送信タイミングを決める遅延時間tpk(kは、1から振動子101aの数nまでの自然数)を振動子毎に設定して出力する回路である。これにより、遅延時間分だけ振動子毎に超音波ビームの送信を遅延させて超音波ビームのフォーカシングを行う。
【0033】
(2)駆動信号送信部1063
駆動信号送信部1063は、駆動信号発生部1061からのパルス信号spと遅延プロファイル生成部1062からの遅延時間tpkとに基づき、プローブ101に存する複数の振動子101a中、プッシュ波送信振動子列Pxに含まれる各振動子にプッシュ波を送信させるためのプッシュ波パルスpppを供給するプッシュ波送信処理を行う。プッシュ波送信振動子列Pxは、マルチプレクサ部107によって選択される。しかしながら、プッシュ波パルスpppを供給に係る構成には上記に限定されず、例えば、マルチプレクサ部107を用いない構成としてもよい。
【0034】
図5は、プッシュ波の概要を示す模式図である。プッシュ波送信振動子列Pxに対し、振動子列の中心に位置する振動子に対して大きな遅延時間tpkが適用されたプッシュ波パルスpppが送信される。これにより、
図5に示すように、プッシュ波送信振動子列Pxから送信焦点Fに対応する被検体中の特定部位に超音波ビームが集束するプッシュ波ppが送信させる。
【0035】
また、駆動信号送信部1063は、プローブ101に存する複数の振動子101a中、検出波送信振動子列Txに含まれる各振動子に超音波ビームを送信させるための検出波パルスpwplを供給する検出波送信処理を行う。検出波送信振動子列Txは、マルチプレクサ部107によって選択される。しかしながら、検出波パルスpwpl供給に係る構成には上記に限定されず、例えば、マルチプレクサ部107を用いない構成としてもよい。
【0036】
図6(a)は、検出波送信の概要を示す模式図である。検出波送信振動子列Txに含まれる振動子に対しては遅延時間tpkが適用されず、検出波送信振動子列Txに対して位相が等しい検出波パルスpwplが送信される。これにより、
図6(a)に示すように、検出波送信振動子列Tx中の各振動子から被検体深さ方向に進行する平面波が送信させる。検出波が到達する被検体内の範囲に対応し検出波送信振動子列Txを含む平面内の領域が検出波照射領域Axとなる。
【0037】
送信部106は、プッシュ波パルスppp送信後に、検出波パルス発生部105からの送信制御信号に基づき検出波パルスpwplを複数回送信する。1回のプッシュ波パルスppp送信後に、同一の検出波送信振動子列Txから複数回行われる一連の検出波パルスpwpl送信の各回を「送信イベント」と称呼する。
2.検出波受信部108の構成
検出波受信部108は、複数回の検出波パルスpwplの各々に対応して複数の振動子101aにおいて時系列に受信された被検体組織からの反射波に基づき、検出波照射領域Ax内の複数の観測点Pijに対する音響線信号を生成して音響線信号フレームデータdsl(lは1からmまでの自然数、番号を区別しない場合は音響線信号フレームデータdslとする)のシーケンスを生成する回路である。すなわち、検出波受信部108は、検出波パルスpwplを送信した後、プローブ101で受信した反射波に基づき、複数の振動子101aで得られた電気信号から音響線信号を生成する。ここで、iは検出波照射領域Axにおけるx方向の座標を示す1からnまでの自然数であり、jはz方向の座標を示す1からzmaxまでの自然数である。なお、「音響線信号」とは、受波信号(RF信号)を整相加算処理した信号である。
【0038】
図4(b)は、検出波受信部108の構成を示す機能ブロック図である。検出波受信部108は、入力部1081、受波信号保持部1082、整相加算部1083を備える。
2.1 入力部1081
入力部1081は、マルチプレクサ部107を介してプローブ101と接続され、プローブ101において反射波に基づき受波信号(RF信号)を生成する回路である。ここで、受波信号rfk(kは1からnまでの自然数である)とは、検出波パルスpwplの送信に基づいて各振動子にて受信された反射波から変換された電気信号をA/D変換したいわゆるRF信号であり、受波信号rfkは各受波振動子rwkにて受信された超音波の送信方向(被検体の深さ方向)に連なった信号の列(受波信号列)から構成されている。
【0039】
入力部1081は、受波振動子rwkの各々が得た反射波に基づいて、送信イベントごとに各受波振動子rwkに対する受波信号rfkの列を生成する。受波振動子列はプローブ101に存する複数の振動子101aの一部又は全部にあたる振動子列から構成されており、制御部116からの指示に基づきマルチプレクサ部107によって選択される。本例では、複数の振動子101aの全部が受波振動子列として選択される構成とした。これにより、1回の受信処理により検出波照射領域Ax内全域に存する観測点からの反射波を全ての振動子を用いて受波して全ての振動子に対する受波振動子列を生成することができる。生成された受波信号rfkは、受波信号保持部1082に出力される。
【0040】
2.2 受波信号保持部1082
受波信号保持部1082は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、半導体メモリ等を用いることができる。受波信号保持部1082は、送信イベントに同期して入力部1081から、各受信振動子rwkに対する受波信号rfkを入力し、1枚の音響線信号フレームデータが生成されるまでこれを保持する。
【0041】
なお、受波信号保持部1082は、データ格納部115の一部であってもよい。
2.3 整相加算部1083
整相加算部1083では、送信イベントに同期して関心領域roi内の観測点Pijから、検出波パルス受信振動子列Rxに含まれる受信振動子Rpkが受信した受波信号rfkに遅延処理を施した後、全ての受信振動子Rpkについて加算して音響線信号dsを生成する回路である。検出波パルス受信振動子列Rxはプローブ101に存する複数の振動子101aの一部又は全部にあたる受信振動子Rpkから構成されており、制御部116からの指示に基づき整相加算部1083とマルチプレクサ部107によって選択される。本例では、反射波受信振動子列Rxとして、各送信イベントにおける検出波パルス送信振動子列Txを構成する振動子を少なくとも全て含む振動子列が選択される構成とした。
【0042】
整相加算部1083は、受波信号rfkに対する処理を行うための遅延処理部10831、加算部10832を備える。
(1)遅延処理部10831
遅延処理部10831は、検出波パルス受信振動子列Rx内の受信振動子Rpkに対する受波信号rfkから、観測点Pijと受信振動子Rpk各々との間の距離の差を音速値で除した受信振動子Rpk各々への反射超音波の到達時間差(遅延量)により補償して、観測点Pijからの反射超音波に基づく受信振動子Rpkに対応する受信信号として同定する回路である。
【0043】
図7は、遅延処理部10831において、超音波の伝播経路の計算方法の概要を示す模式図である。検出波パルス送信振動子列Txから放射され関心領域roi内の任意の位置にある観測点Pijにおいて反射され受信振動子Rpkに到達する超音波の伝播経路を示したものである。
a)送信時間の算出
検出波送信振動子列Tx(振動子列(101a)全体)から送信される検出波pwlは上述のとおり平面波である。したがって、遅延処理部10831は、送信イベントに対応して、観測点Pijまでの送信経路を、検出波送信振動子列Txから振動子列に垂直に発された検出波pwlが観測点Pijに到達するまでの最短経路401として算出し、これを音速で除して送信時間を算出する。
【0044】
b)受信時間の算出
遅延処理部10831は、送信イベントに対応して、観測点Pijについて、観測点Pijで反射され検出波受信振動子列Rxに含まれる受信振動子Rpkに到達するまでの受信経路を算出する。観測点Pijでの反射波が受信振動子Rpkに戻っていくときの受信経路は、任意の観測点Pijから各受信振動子Rpkまでの経路402の長さは幾何学的に算出する。これを音速で除して受信時間を算出する。
【0045】
c)遅延量の算出
次に、遅延処理部10831は、送信時間と受信時間とから各受信振動子Rpkへの総伝播時間を算出し、当該総伝播時間に基づいて、各受信振動子Rpkに対する受波信号列rfkに適用する遅延量を算出する。
d)遅延処理
次に、遅延処理部10831は、各受信振動子Rpkに対する受波信号列rfkから、遅延量に相当する受波信号rfk(遅延量を差引いた時間に対応する受波信号)を、観測点Pijからの反射波に基づく受信振動子Rpkに対応する信号として同定する。
【0046】
遅延処理部10831は、送信イベントに対応して、受波信号保持部1082から受波信号rfkを入力として、関心領域roi内に位置する全ての観測点Pijについて、各受信振動子Rpkに対する受波信号rfkを同定する。
(2)加算部10832
加算部10832は、遅延処理部10831から出力される受信振動子Rpkに対応して同定された受波信号rfkを入力として、それらを加算して、観測点Pijに対する整相加算された音響線信号dsijを生成する回路である。
【0047】
さらに、各受信振動子Rpkに対応して同定された受波信号rfkに対し、受信アポダイゼーション(重み数列)を乗じた後加算して、観測点Pijに対する音響線信号dsijを生成してもよい。受信アポダイゼーションは、検出波受振動子列Rx内の受信振動子Rpkに対応する受信信号に適用される重み係数の数列である。受信アポダイゼーションは、検出波受振動子列Rxの列方向の中心に位置する振動子に対する重みが最大となるよう設定され、受信アポダイゼーションの分布の中心軸は検出波受振動子列中心軸Rxoと一致し、分布は中心軸に対し対称な形状をなす。分布の形状は特に限定されない。
【0048】
加算部10832は、関心領域roi内に存在する全ての観測点Pijについて音響線信号dsijを生成して音響線信号フレームデータdslを生成する。
そして、送信イベントに同期して検出波パルスpwplの送受信を繰り返し、全ての送信イベントに対する音響線信号フレームデータdslを生成する。生成された音響線信号フレームデータdslは、送信イベントごとにデータ格納部115に出力され保存される。
【0049】
3.変位検出部109
変位検出部109は、音響線信号フレームデータdslのシーケンスから、検出波照射領域Ax内の組織の変位を検出する回路である。
図8は、変位検出部109、伝播情報解析部110、伝播情報推定部111、弾性率算出部112の構成を示す機能ブロック図である。変位検出部109は、音響線信号フレームデータdslのシーケンスに含まれる変位検出の対象となる1フレームの音響線信号フレームデータdslと、基準となる1フレームの音響線信号フレームデータds0(以下、「基準音響線信号フレームデータds0」とする)とを、制御部116を介してデータ格納部115から取得する。基準音響線信号フレームデータds0とは、各送信イベントに対応する音響線信号フレームデータdslにおけるせん断波による変位を抽出するための基準となる信号であり、具体的には、プッシュ波パルスppp送信前に検出波照射領域Axから取得した音響線信号のフレームデータである。そして、変位検出部109は、音響線信号フレームデータdslと基準音響線信号フレームデータds0との差分から、音響線信号フレームデータdslの検出波照射領域Ax内の観測点Pijの変位(画像情報の動き)Ptijを検出し、変位Ptijを観測点Pijの座標と関連付けて変位量フレームデータptl(lは1からmまでの自然数、番号を区別しない場合は変位量フレームデータptlとする)を生成する。変位検出部109は、生成した変位量フレームデータptlをデータ格納部115に出力する。
【0050】
4 伝播情報解析部110
伝播情報解析部110は、関心領域roi内の複数の観測点pijについて波面到達時間データatijを算出し、関心領域roiに対する波面到達時間フレームデータatlを算出する回路である。伝播情報解析部110は、波面検出部1101、波面到達時間検出部1102とから構成される。
【0051】
波面検出部1101は、送信イベントごとに、変位量フレームデータptlのシーケンスから、関心領域roi内の観測点pijについて、複数回の検出波パルスpwplのそれぞれに対応する時間軸上の複数時点におけるせん断波の波面位置wfijを表した波面フレームデータwfl(lは1からmまでの自然数、番号を区別しない場合は波面フレームデータwflとする)のシーケンスを生成してデータ格納部115に出力する。
【0052】
具体的には、波面検出部1101は、変位量フレームデータptlをデータ格納部115から取得する。伝播情報解析部110は、変位量フレームデータptlから変位データptijの極大点を検出し、XZ平面内で連続している変位データptijの極大点をその座標ijをせん断波の波面位置wfijとして抽出する。各送信イベントにおける関心領域roiについて波面位置wfijを抽出して波面フレームデータwflのシーケンスを生成する。
【0053】
波面到達時間検出部1102は、波面フレームデータwflのシーケンスから、波面フレームデータwflの依拠する変位量フレームデータptlを取得した各時刻における、せん断波の波面wfとその位置wfij、進行方向を検出し、波面フレームデータwflの波面位置wfijとフレームデータ取得時刻tlとに基づき、波面到達時間フレームデータato(oは異なる波面の数をあらわす自然数、番号を区別しない場合は波面到達時間フレームデータatとする)を生成してデータ格納部115に出力する。
【0054】
5 伝播情報推定部111
伝播情報推定部111は、波面到達時間フレームデータato中の波面到達時間データatの信頼度を評価し、信頼度不適合波面到達時間データatijを、所定の条件を満たす波面到達時間データatijに基づき補間して生成した補償波面到達時間データcatijに置き換えた補償波面到達時間フレームデータcato(oは異なる波面の数をあらわす自然数、番号を区別しない場合は補償波面到達時間フレームデータcatとする)を生成する回路である。
【0055】
伝播情報推定部111は、信頼度不適合領域検出部1111、波面到達時間補間部1112とから構成される。
信頼度不適合領域検出部1111は、輝度不適合領域検出部11111、変位不適合領域検出部11112、加算器11113とから構成される。
輝度不適合領域検出部11111は、波面到達時間フレームデータatoが依拠した音響線信号フレームデータdslにおける音響線信号dsijのデータ信頼度が閾値以下である信頼度不適合領域Llrに含まれる信頼度不適合観測点Llijを検出する。具体的には、輝度不適合領域検出部11111は、送信イベントごとに音響線信号フレームデータdslを取得し、関心領域roi内の観測点pijについて、音響線信号dsijの信号強度が閾値以下である輝度不適合点Ldsijを検出する。そして、検出した観測点Ldsijの座標ijを加算器11113に出力する。被検体中の組織中に反射波が得にくい部分があり検出された音響線信号dsの絶対値が小さく閾値以下である場合には、検出の精度が低く音響線信号から所定の精度以上で変位を算出することが難しいためである。
【0056】
変位不適合領域検出部11112は、波面到達時間フレームデータatoが依拠した変位量フレームデータptlにおける変位量データptijのデータ信頼度が閾値以下である信頼度不適合領域Llrに含まれる信頼度不適合観測点Llijを検出する。具体的には、変位不適合領域検出部11112は、送信イベントごとに変位量フレームデータptlを取得し、関心領域roi内の観測点pijについて、変位量データptijの変位量の絶対値が閾値以下である変位不適合点Lptijを検出する。そして、検出した変位不適合点Lptijの座標ijを加算器11113に出力する。被検体中の組織に固い部分があり検出された変位量データptの絶対値が小さく閾値以下である場合には、検出の精度が低く変位量から所定の精度以上で波面を算出することが難しいためである。
【0057】
加算器11113は、輝度不適合点Ldsijの座標と、変位不適合点Lptijの座標とを加算して信頼度不適合観測点Llijの座標を算出し、信頼度不適合観測点Llijが含まれる領域を信頼度不適合領域Llrとして波面到達時間補間部1112に出力する。
波面到達時間補間部1112は、信頼度不適合観測点Llijを入力として、波面到達時間フレームデータato中の信頼度不適合領域Llrを特定する。信頼度不適合観測点Llijにおける波面到達時間データat(信頼度不適合波面到達時間データat)を、所定の条件を満たす波面到達時間データatに基づき補間して補償波面到達時間データcatijを算出する。そして、波面到達時間フレームデータato中の信頼度不適合波面到達時間データatを補償波面到達時間データcatijに置き換えた補償波面到達時間フレームデータcato(oは異なる波面の数をあらわす自然数、番号を区別しない場合は補償波面到達時間フレームデータcatとする)を生成してデータ格納部115に出力する。
【0058】
係る構成により、超音波弾性率計測において、測定した波面到達時間データの信頼度が低い領域における弾性画像の画像抜けを抑制することができる。
信頼度不適合波面到達時間データatの補間方法としては、スプライン補間法、折れ線近似補間法を用いることができる。あるいは、波面到達時間データの両側の領域をせん断波到達前と到達後との境界時刻とし、境界検出処理に基づいてせん断波到達時刻を推定する構成としてもよい。境界検出処理方法として、動的輪郭モデル、動的計画法などを用いることができる。
【0059】
6 弾性率算出部112
弾性率算出部112は、関心領域roi内の観測点Pijについてせん断波の伝播速度、又は、弾性率を算出し、関心領域roiに対する弾性率フレームデータelfを算出する回路である。弾性率算出部112は、伝播速度変換部1121、弾性率変換部1122とから構成される。
【0060】
伝播速度変換部1121は、波面到達時間フレームデータatoを、関心領域roi内の観測点pijにおける伝播速度データvijに変換して、関心領域roiに対する伝播速度フレームデータvo(oは異なる波面の数をあらわす自然数、番号を区別しない場合は伝播速度フレームデータvとする)を生成してデータ格納部115に出力する。補償波面到達時間フレームデータcatが複数存在する場合には、それぞれの補償波面到達時間フレームデータcatoから算出した伝播速度フレームデータvoを座標ijを基準に平均することにより、伝播速度フレームデータvfを算出する。
【0061】
弾性率変換部1122は、伝播速度データvoを入力として、伝播速度データvを関心領域roi内の観測点pijにおける弾性率データelに変換して、関心領域roiに対する弾性率フレームデータelfを生成してデータ格納部115に出力する。
弾性率算出部112は、生成した弾性率フレームデータelfをデータ格納部115に、制御部116を介してそれぞれ出力する。
【0062】
8.その他の構成
データ格納部115は、生成された受波信号列rf、音響線信号フレームデータdslのシーケンス、変位量フレームデータptlのシーケンス、波面フレームデータwflのシーケンス、波面到達時間フレームデータat、補償波面到達時間フレームデータcat、伝播速度フレームデータvl、弾性率フレームデータelを逐次記録する記録媒体である。
【0063】
制御部116は、操作入力部102からの指令に基づき、超音波診断装置100内の各ブロックを制御する。制御部116にはCPU等のプロセッサを用いることができる。
また、図示しないが、超音波診断装置100は、プッシュ波パルスpppを送信することなく、送信部106及び検出波受信部108においてされた検出波の送受信に基づいて出力される音響線信号のうち、被検体の組織からの反射成分に基づき時系列に超音波画像(Bモード画像)を生成するBモード画像生成部を有する。Bモード画像生成部は、データ格納部115から音響線信号のフレームデータを入力して、音響線信号に対して包絡線検波、対数圧縮などの処理を実施してその強度に対応した輝度信号へと変換し、その輝度信号を直交座標系に座標変換を施すことでBモード画像のフレームデータを生成する。なお、Bモード画像生成のための音響線信号を取得するための送信部106及び検出波受信部108における超音波の送受信には公知の方法を用いることができる。生成されたBモード画像のフレームデータはデータ格納部115に出力され保存される。表示制御部113はBモード画像を表示画像として構成して表示部114に表示させる。
【0064】
また、弾性率算出部112は、弾性率フレームデータelfが表す弾性率に基づいて、色情報をマッピングした弾性画像を生成し表示する構成としてもよい。例えば、弾性率が一定値以上の座標は赤、弾性率が一定値未満の座標は緑、弾性率が取得できなかった座標は黒、というように色分けした弾性画像を生成してもよい。操作者の利便性を向上することができる。弾性率算出部112は、生成した弾性率フレームデータelfと弾性画像とをデータ格納部115に出力し、制御部116は弾性画像を表示制御部113に出力する。さらに、表示制御部113は、弾性画像に対して画面表示用の画像データとなるよう幾何変換を行い、幾何変換後の弾性画像を表示部114に出力する構成としてもよい。
【0065】
さらに、弾性率算出部112は、補償波面到達時間データcatoに依拠する弾性率データelijを補償波面到達時間データcatoに依拠しない弾性率データelijと異なる態様にて表示するように弾性画像を生成し、表示制御部113は補償された弾性率データelijを他の部分と異なる態様にて表示部114に表示させる構成としてもよい。係る構成により、操作者は、補償波面到達時間データに依拠する弾性画像の部分を測定した波面到達時間データの信頼度が低い領域であることを認識することができ、操作者の利便性を向上することができる。
【0066】
<動作について>
以上の構成からなる超音波診断装置100の統合SWSシーケンスの動作について説明する。
1.動作の概要
図9は、超音波診断装置100における統合SWSシーケンスの工程の概要を示す概略図である。超音波診断装置100によるSWSシーケンスは、基準検出波送受信を行い、以後の各送信イベントに対応するせん断波による変位を抽出するための基準音響線信号フレームデータds0を取得する工程(1a)、プッシュ波パルスpppを送信して被検体内の特定部位Fに集束するプッシュ波ppを送信して被検体中にせん断波励起する工程(1b)、関心領域roiを通過する検出波pwiの送受信を複数(m)回繰り返す検出波パルスpwpi送受信する工程(1c)、せん断波伝搬解析を行いせん断波の伝播速度vfと弾性率elfを算出する弾性率算出の工程(1d)から構成される。
【0067】
2.SWSシーケンスの動作
以下、公知の方法に基づき被検体の組織からの反射成分に基づき組織が描画されたBモード画像が表示部114に表示された後の超音波弾性率計測処理の動作を説明する。
なお、Bモード画像のフレームデータは、プッシュ波パルスpppを送信されることなく、送信部106及び検出波受信部108においてされた超音波の送受信に基づいて被検体の組織からの反射成分に基づき時系列に音響線信号のフレームデータが生成され、音響線信号に対して包絡線検波、対数圧縮などの処理がされて輝度信号へと変換された後、輝度信号を直交座標系に座標変換して生成する。表示制御部113は被検体の組織が描画されたBモード画像を表示部114に表示させる。
【0068】
図10は、超音波診断装置100における超音波弾性率算出の動作を示すフローチャートである。
[ステップS100〜S140]
ステップS100では、表示部114にプローブ101によりリアルタイムに取得された被検体の断層画像であるBモード画像が表示されている状態において、関心領域設定部103は、操作入力部102から操作者により指定された情報を入力として、被検体内の解析対象範囲をあらわす関心領域roiをプローブ101の位置を基準に設定し、制御部116に出力する。
【0069】
操作者による関心領域roiの指定は、例えば、表示部114にデータ格納部115に記録されている最新のBモード画像を表示し、タッチパネル、マウスなどの入力部(図示しない)を通して関心領域roiを指定することによりされる。なお、関心領域roiは、例えば、Bモード画像の全域を関心領域roiとしてもよいし、あるいは、Bモード画像の中央部分を含む一定範囲としてもよい。
【0070】
ステップS120では、プッシュ波パルス発生部104は、制御部116から関心領域roiを示す情報を入力し、プッシュ波パルスpppの送信焦点Fの位置とプッシュ波送信振動子列Pxを設定する。本例では、
図3(b)に示すように、列方向送信焦点位置fxは検出波照射領域Axの列方向中心位置wcと一致し、深さ方向送信焦点位置fzは検出波照射領域Ax中心までの深さdと一致する構成とした。また、プッシュ波送信振動子列Pxは、複数の振動子101a全部とした。しかしながら、検出波照射領域Axと送信焦点Fとの位置関係は上記に限られず、被検体の検査すべき部位の形態等により適宜変更してもよい。
【0071】
送信焦点Fの位置と、プッシュ波送信振動子列Pxを示す情報は、プッシュ波パルスpppのパルス幅とともに、送信制御信号として送信部106に出力される。
ステップS130では、送信部106は、検出波送信振動子列Txに含まれる振動子に検出波パルスpwp0を送信し、被検体内に向けて検出波pw0をさせ、検出波受信部108は、検出波pw0の反射波ecの受波を行い組織の変位の基準となる基準音響線信号フレームデータds0を生成する。基準音響線信号フレームデータds0はデータ格納部115に出力され保存される。音響線信号フレームデータの生成方法については後述する。
【0072】
ステップS140では、送信部106は、プッシュ波送信振動子列Pxに含まれる振動子にプッシュ波パルスpppを送信させることにより、当該振動子に送信焦点Fに対応する被検体中の特定部位に超音波ビームが集束するプッシュ波ppを送信させる。
具体的には、送信部106は、プッシュ波パルス発生部104より取得した送信焦点Fの位置とプッシュ波送信振動子列Pxを示す情報、プッシュ波パルスpppのパルス幅からなる送信制御信号に基づき送信プロファイルを生成する。送信プロファイルは、プッシュ波送信振動子列Pxに含まれる各送信振動子に対するパルス信号spと遅延時間tpkからなる。そして、送信プロファイルに基づき各送信振動子にプッシュ波パルスpppを供給する。各送信振動子は被検体内の特定部位に集束するパルス状のプッシュ波ppを送信する。
【0073】
ここで、プッシュ波ppによるせん断波の生成について、
図11(a)から(e)の模式図を用いて説明する。
図11(a)から(e)は、プッシュ波ppによるせん断波の生成の様子を示す模式図である。
図11(a)は、検出波照射領域Axに対応した被検体内の領域の、プッシュ波pp印加前における組織を示した模式図である。
図11(a)から(e)において、個々の“○”は、被検体内の組織の一部を、破線の交点は、負荷がない場合の組織”○“の中心位置を、それぞれ示している。
【0074】
ここで、プローブ101を皮膚表面600に密接させた状態で送信焦点Fに対応する被検体中の焦点部位601に対してプッシュ波ppを印加すると、
図11(b)の模式図に示すように、焦点部位601に位置していた組織632が、プッシュ波ppの進行方向に押されて移動する。また、組織632からプッシュ波ppの進行方向側にある組織633は、組織632に押されてプッシュ波ppの進行方向に移動する。
【0075】
次に、プッシュ波ppの送信が終了すると、組織632、633が元の位置に復元しようとするので、
図11(c)の模式図に示すように、組織631〜633がプッシュ波ppの進行方向に沿った振動を開始する。
すると、
図11(d)の模式図に示すように、振動が組織631〜633に隣接する、組織621〜623および組織641〜643に伝播する。
【0076】
さらに、
図11(e)の模式図に示すように、振動がさらに組織611〜663および組織651〜653に伝播する。したがって、被検体内において、振動が振動の方向と直交する向きに伝播する。すなわち、せん断波がプッシュ波ppの印加場所に発生し、被検体内を伝播する。
[ステップS150]
図10に戻って説明を続ける。
【0077】
ステップS150では、関心領域roiに検出波パルスpwplを複数回送受信し、取得した音響線信号フレームデータdslのシーケンスを保存する。具体的には、送信部106は、検出波送信振動子列Txに含まれる振動子に被検体に向けて検出波パルスpwplを送信させ、検出波受信部108は、検出波パルス受信振動子列Rxに含まれる振動子により受信した反射波ecに基づき音響線信号フレームデータdslを生成する。プッシュ波ppの送信終了の直後から、例えば、秒間1万回、上記処理を繰り返し行う。これにより、せん断波の発生直後から伝播が終わるまでの間、被検体の検出波照射領域Ax内の音響線信号フレームデータdslを繰り返し生成する。生成された音響線信号フレームデータdslのシーケンスはデータ格納部115に出力され保存される。
【0078】
ステップS150における、音響線信号フレームデータdslの生成方法の詳細は後述する。
[ステップS151]
ステップS151では、変位検出部109は、各送信イベントにおける関心領域roi内の観測点pijの変位を検出する。
【0079】
図12は、変位検出及びせん断波の伝播解析の動作を示す模式図である。
先ず、変位検出部109は、ステップS130でデータ格納部115に保存された基準音響線信号フレームデータds0を取得する。上述したように、基準音響線信号フレームデータds0は、プッシュ波ppの送信前、すなわち、せん断波の発生前に取得された音響線信号フレームデータである。
【0080】
次に、変位検出部109は、ステップS150でデータ格納部115に保存された各音響線信号フレームデータdslに対し、基準音響線信号フレームデータds0との差分から、当該音響線信号フレームデータdslが取得された時刻における、各画素の変位を検出する。
図12におけるA列は、基準音響線信号フレームデータds0、各送信イベントにて生成した音響線信号フレームデータdslを示し、B列は、ステップS150において、各送信イベントに対して算出する変位量フレームデータptlを示したものである。
図12、A列及びB列に示すように、変位量フレームデータptlは、音響線信号フレームデータdslと基準音響線信号フレームデータds0を比較し、基準音響線信号フレームデータds0中の観測点Pijの音響線信号dsijが音響線信号フレームデータdslにおけるどの観測点P´ijの音響線信号dsijと類似するのかを検出して、観測点P´ijの観測点Pijに対する位置変化量を算出することにより検出する。
【0081】
具体的には、例えば、音響線信号フレームデータdslを8ピクセル×8ピクセルなどの所定の大きさの領域に分割し、各領域と基準音響線信号フレームデータds0とをパターンマッチングすることで、音響線信号フレームデータdslの各画素の変位を検出する。
パターンマッチングの方法としては、例えば、各領域と基準音響線信号フレームデータds0内の同サイズの基準領域との間で、対応する画素毎に輝度値の差分を算出してその絶対値の合計値を算出し、その合計値が最も小さくなる領域と基準領域との組み合わせについて、領域と基準領域とが同一の領域であるものとし、領域の基準点(例えば、左上の角)と基準領域の基準点との距離を変位として検出する方法を用いることができる。
【0082】
なお、領域のサイズは8ピクセル×8ピクセル以外であってもよいし、輝度値の差分の絶対値の合計値に替えて、例えば、輝度値の差分の2乗の合計値を用いてもよい。また、変位として、領域の基準点と基準領域の基準点とのy座標の差(深さの差)を算出してもよい。これにより、各音響線信号フレームデータdslの各観測点Pijに対応する被検体の組織が、プッシュ波ppまたはせん断波によってどれだけ動いたかが変位として算出される。
【0083】
なお、変位の検出方法はパターンマッチングに限られず、例えば、音響線信号フレームデータdslと基準音響線信号フレームデータds0との相関処理など、2つの音響線信号フレームデータdsl間の動き量を検出する任意の技術を用いてもよい。変位検出部109は、1フレームの音響線信号フレームデータdslに係る各観測点Pijの変位を当該観測点の座標ijと対応付けることで関心領域roi内の観測点の変位量データptijを生成し、生成した関心領域roiについての変位量フレームデータptlをデータ格納部115に出力する。
【0084】
[ステップS152〜S155]
伝播情報解析部110は、生成した変位量フレームデータptlをデータ格納部115に出力し保存する(ステップS173)。規定されている全ての送信イベントについてステップS151の処理が完了したか否かを判定し(ステップS152)、完了していない場合にはステップS151に戻り、次の検出波パルスpwplの送信イベントについての一連の処理を行い、完了している場合にはステップS153に進む。
【0085】
ステップS153では、伝播情報解析部110は、変位量フレームデータptlのシーケンスを入力として、各送信イベントにおける関心領域roi内の観測点pijの変位量データptijからせん断波の波面を検出して、波面位置wfijを表した波面フレームデータwflのシーケンスを生成する。さらに、伝播情報解析部110は、波面フレームデータwflのシーケンスから、フレームデータの依拠する変位量フレームデータptlを取得した各時刻における、せん断波の波面wfと位置wfijとを検出し、波面ごとに波面到達時間フレームデータatoを生成してデータ格納部115に出力する。ステップS153における、せん断波の伝播情報解析方法の詳細は後述する。
【0086】
ステップS154では、伝播情報推定部111は、波面到達時間フレームデータatoを入力とし、波面到達時間データatijの信頼度を評価し、信頼度を表す指標が閾値以下である所定の条件を満たさない信頼度不適合波面到達時間データatijを検出し、信頼度不適合波面到達時間データatijを所定の条件を満たす波面到達時間データatijに基づき補間して補償波面到達時間データcatijを生成する。そして、信頼度不適合波面到達時間データatijを補償波面到達時間データcatijに置き換えた補償波面到達時間フレームデータcatoを生成してデータ格納部115に出力する。ステップS154における、せん断波の伝播情報推定方法の詳細は後述する。
【0087】
ステップS155では、弾性率算出部112は、関心領域roi内の観測点pijについてせん断波の伝播速度データvij、又は、弾性率データelijを算出し、関心領域roiに対する弾性率フレームデータelfを算出してデータ格納部115に出力する。ステップS155における、弾性率フレームデータelfの算出方法の詳細は後述する。
ステップS156では、弾性率算出部112は、弾性率フレームデータelfが表す弾性率に基づいて、色情報をマッピングした弾性画像を生成し、表示制御部113は、弾性画像に対して画面表示用の画像データとなるよう幾何変換を行い、幾何変換後の弾性画像を表示部114に出力する。
【0088】
以上により、
図10に示したSWSシーケンスの処理が終了する。以上の超音波弾性率計測処理により、SWSシーケンスによる弾性率フレームデータelfを算出することができる。
3.ステップS153における処理の詳細について
ステップS153では、伝播情報解析部110は、各送信イベントにおける関心領域roi内の観測点pijの変位量フレームデータptlから波面を検出する。
【0089】
詳しくは、
図13のフローチャートを用いて説明する。
図13は、せん断波の伝播情報解析の動作を示すフローチャートである。
図14(a)から(f)は、せん断波の伝播解析の動作を示す模式図である。
まず、データ格納部115から送信イベントに対応した各観測点Pijの変位量フレームデータptlを取得する(ステップS1531)。
【0090】
次に、変位が相対的に大きい変位領域を抽出する(ステップS1532)。伝播情報解析部110は、変位量フレームデータptlから変位が所定の閾値より大きい変位領域を抽出する。
以下、
図14の模式図を用いて説明する。
図14(a)は、変位量フレームデータが表す変位画像の一例を示している。
図11と同じく、図中の“○”は関心領域roiに対応する被検体内の組織の一部を示しており、プッシュ波ppを印加する前の位置は破線の交点である。また、x軸はプローブ101における振動子の列方向、z軸は、被検体の深さ方向である。伝播情報解析部110は、z座標ごとに変位量δを座標xの関数として、動的閾値を用いることで変位量δが大きい領域を抽出する。また、x座標ごとに変位量δを座標zの関数として、動的閾値を用いて、ある閾値を超える領域を変位量δが大きい領域として抽出する。動的閾値とは、対象領域内について信号解析又は画像解析を行って閾値を決定することである。閾値は一定値ではなく、対象領域の信号の幅や最大値などによって異なる値となる。
図17(a)に、z=z
1の直線710上における変位量をプロットしたグラフ711と、x=x
1の直線720上における変位量をプロットしたグラフ721とを示す。これにより、例えば、変位量δが閾値より大きな変位領域730が抽出できる。
【0091】
また、
図12のB列は、各送信イベントに対して算出した変位量フレームデータptlを示したものであり、各変位量フレームデータptl中のハッチングされた領域は変位量δが閾値より大きな変位領域である。
図12のB列に示すように、時間の経過に伴い変位領域はX方向に移動するとともに、変位領域の大きさは拡大する。
図15(a)は、せん断波の伝播状態を示す模式図であり、横軸に時間、縦軸に変位量として、X方向における1、5、10mmの位置における変位量δの時間変化を示した実験結果である。時間の経過に伴い変位領域はX方向に移動するとともに、変位量のピークは減少し、変位領域の大きさは拡大することがわかる。
【0092】
次に、伝播情報解析部110は、変位領域に細線化処理をおこなって波面を抽出する(ステップS1533)。
図14(b)の模式図に示している変位領域740、750は、それぞれ、ステップS1532において変位領域730として抽出された領域である。伝播情報解析部110は、例えば、Hilditchの細線化アルゴリズムを用いて、波面を抽出する。例えば、
図14(b)の模式図において、変位領域740から波面741が、変位領域750から波面751が、それぞれ抽出される。なお、細線化のアルゴリズムはHilditchに限らず、任意の細線化アルゴリズムを用いてよい。また、各変位領域に対して、変位量δが閾値以下の座標を変位領域から取り除く処理を、変位領域が幅1ピクセルの線になるまで、閾値を大きくしながら繰り返し行ってもよい。伝播情報解析部110は、抽出した波面を波面フレームデータwflとしてデータ格納部115に出力する。
【0093】
次に、伝播情報解析部110は、波面フレームデータwflに対して空間フィルタリングを行い、長さが短い波面を除去する(ステップS1534)。例えば、ステップS1533で抽出した各波面の長さを検出し、全ての波面の長さの平均値の1/2よりも長さが短い波面を、ノイズとして削除する。具体的には、
図14(c)の波面画像に示すように、波面761〜764の長さの平均値を算出し、それよりも短い波面763、764を、ノイズとして消去する。これにより、誤検出された波面を消去できる。
【0094】
伝播情報解析部110は、ステップS1531〜S1534の動作を、全ての変位量フレームデータptlに対して行う(ステップS1535)。これにより、変位量フレームデータptlに対して1対1で波面フレームデータwflが生成される。
図12のC列は、各送信イベントに対して算出した波面フレームデータwflを示したものであり、各波面フレームデータwfl中の円弧状の細線は波面である。
図12のC列に示すように、時間の経過に伴い波面wfはX方向に移動するとともに、波面wfの円弧の長さは増加する。
【0095】
次に、伝播情報解析部110は、複数の波面フレームデータwflに対して時間フィルタリングを行い、伝播していない波面を除去する(ステップS1536)。具体的には、時間的に連続する2以上の波面フレームデータwflにおいて、波面位置の時間変化を検出し、速度が異常である波面をノイズとして除去する。
伝播情報解析部110は、例えば、時刻t=t
1の波面画像770、時刻t=t
1+Δtの波面画像780、時刻t=t
1+2Δtの波面画像790との間で、波面位置の時間変化を検出する。例えば、波面771に対して、波面画像780のうち、波面771と同じ位置を中心に、波面と垂直な向き(
図14においてはx軸方向)にΔtの間にせん断波が移動しうる領域776で、波面771との相関処理を行う。このとき、波面771のx軸の正方向(図の右側)と負方向(図の左側)の双方を含む範囲内で相関処理を行う。これは、透過波と反射波の両方を検出するためである。これにより、波面771の移動先が波面画像780内の波面781であると検出し、時間Δtにおける波面771の移動距離を算出する。同様に、波面772、773のそれぞれについて、波面画像780において当該波面と同じ位置を中心に、波面と垂直な向きにΔtの間にせん断波が移動しうる領域で相関処理を行う。これにより、波面772が波面783の位置に、波面773が波面782の位置に、それぞれ移動したことを検出する。
【0096】
波面画像780と波面画像790との間でも同様の処理を行い、波面781が波面791の位置に、波面782が波面797の位置に、波面783が波面793の位置に、それぞれ移動したことを検出する。ここで、波面773、波面782、波面792で示される1の波面については、他の波面と比べて移動距離が著しく小さい(伝播速度が著しく遅い)。このような波面は誤検知である可能性が高いので、ノイズとして消去する。これにより、
図14(e)の波面フレームデータ300に示すように、波面801、802が検出できる。
【0097】
これらの動作により、時刻ごとの波面フレームデータwflのシーケンスが生成できる。伝播情報解析部110は、生成した複数の波面フレームデータwflのシーケンスをデータ格納部115に出力する。このとき、生成した複数の波面の対応情報もデータ格納部115へ出力してもよい(ステップS1537)。波面の対応情報とは、同一の波面が各波面画像のどの波面に対応するかを示した情報であり、例えば、波面772が波面783の位置に移動したことが検出された場合、波面783と波面772とが同一の波面であるという情報である。
【0098】
次に、伝播情報解析部110は、波面到達時間フレームデータatを生成する(ステップS1538)。具体的には、時刻ごとの波面フレームデータwflと、波面の対応情報とから、各時刻における波面の位置との関係を検出する。
図14(e)を用いて波面到達時間フレームデータatの生成について説明する。
図14(e)は、ある時刻tにおける波面フレームデータwflと、時刻t+Δtにおける波面フレームデータwflを1つの波面フレームデータ810として合成したものである。ここで、時刻tにおける波面811と、時刻t+Δtにおける波面812とが同一の波面であるとする対応情報が存在するものとする。伝播情報解析部110は、対応情報から、波面811上の座標(x
t、z
t)に対応する波面812上の座標(x
t+Δ
t、z
t+Δ
t)を検出する。これにより、時刻tに座標(x
t、z
t)を通過したせん断波が、時刻t+Δtに座標(x
t+Δ
t、z
t+Δ
t)に到達していると推定できる。これより、波面811が座標(x
t、z
t)に到達した時刻t、波面811と同一の波面である波面812が座標(x
t+Δ
t、z
t+Δ
t)した時刻t+Δtを関係図けることができる。同様に、取得時刻が既定されている波面フレームデータwflから検出された波面位置から任意の座標(x、z)に波面が到達する時刻は2次元の補間計算により算出することができる。
【0099】
図12のD列は、各送信イベントに対して算出した波面フレームデータwfl中の波面wfを1枚のフレームに集めて、波面フレームデータwflの取得時刻を関数値としてプロットした波面到達時間フレームデータatであり、波面到達時間フレームデータat中の円弧状の細線は波面の到達時間である。
また、
図15(b)は、せん断波の伝播状態を示す模式図であり、横軸をx方向位置、縦軸を波面到達時間として、x方向における2、4、8mmの位置における波面到達時間を示した実験結果である。x方向位置の増加に伴い波面到達時間はリニアの増加し、波面は一定速度Vで伝播していることがわかる。
【0100】
4.ステップS154における処理の詳細について
ステップS154では、伝播情報推定部111は、波面到達時間フレームデータatoを入力とし、波面到達時間データatijの信頼度を評価し、信頼度不適合波面到達時間データatijを補償波面到達時間データcatijに置き換えた補償波面到達時間フレームデータcatoを生成する。
【0101】
詳しくは、
図16のフローチャートを用いて説明する。
図16は、せん断波の伝播情報推定の動作を示すフローチャートである。
まず、j、iを関心領域roi内の最小値に初期化する(ステップS1541、1542)。伝播情報推定部111は、データ格納部115から送信イベントに対応した観測点Pijの波面到達時間データatijを取得する(ステップS1543)。
【0102】
次に、伝播情報推定部111は、データ格納部115から送信イベントに対応した観測点Pijの音響線信号dsijを取得し(ステップS1544)、音響線信号dsijの信号強度の絶対値が閾値以下である輝度不適合点Ldsijであるか否かを判定する(ステップS1545)。閾値以下でない場合にはステップS1546に進に、閾値以下である場合にはステップS1550に進む。
【0103】
次に、伝播情報推定部111は、データ格納部115から送信イベントに対応した観測点Pijの変位量データptijを取得し(ステップS1546)、変位量データptijの絶対値が閾値以下である変位不適合点Lptijであるか否かを判定する(ステップS1547)。閾値以下でない場合にはステップS1550に進に、閾値以下である場合にはステップS1548に進む。
【0104】
ステップS1548では、伝播情報推定部111は、所定の輝度条件を満たさない輝度不適合点Ldsij又は所定の変位条件を満たさない変位不適合点Lptijを信頼度不適合観測点Llijとして検出し、信頼度不適合観測点Llijにおける波面到達時間データat(信頼度不適合波面到達時間データat)を、所定の条件を満たす波面到達時間データatに基づき補間して補償波面到達時間データcatijを算出してデータ格納部115に保存する(ステップS1549)。信頼度不適合波面到達時間データatの補間方法としては、スプライン補間法、折れ線近似補間法を用いることができる。
【0105】
図17(a)(b)、
図18は、せん断波の伝播推定の動作を示す模式図である。
図17(a)(b)、
図18において、下段に示される弾性画像930は、関心領域roiの弾性画像である。中段に示される画像530は、関心領域roiの弾性画像930に波面フレームデータwfl中の各波面wflを重ねて表示した画像である。ここで、内包物542、543は被検体組織内で周辺組織より硬い部分を表した画像部分である。なお、弾性画像を取得した際のプッシュ波ppの焦点Fは焦点541である。上段に示されるグラフ520は、プッシュ波ppの焦点541を含む一定の深さ上の直線531における、x方向位置と波面wflについての波面到達時間atlとの関係を示すグラフである。せん断波の伝播速度vはグラフ520の傾きとして表される。
【0106】
グラフ520に示すように、せん断波の速度vは、内包物542に対応する区間522、内包物543に対応する区間524では速く、これに対し、その他の区間521、523、525では遅い。内包物542、543は周辺組織より硬いために、せん断波による変位量の絶対値は周辺組織より小さい。そのため、画像530における内包物542及び543に対応する領域では、波面wflを検出できない場合がある。
【0107】
図17(a)は、画像530における内包物542に対応する領域において波面wf3、4が内包物543に対応する領域において波面wf8が正常に検出された場合である。グラフ520上の、内包物542に対応する区間522において波面wf3、4に対応する波面到達時間at3、4と、内包物543に対応する区間524において波面wf8に対応する波面到達時間at8とが正常に算出される。その結果、弾性画像930上の内包物542に対応する画像部分942、内包物543に対応する画像部分943は正常に生成される。
【0108】
図17(b)は、画像530における内包物542に対応する領域において波面wf3、4が内包物543に対応する領域において波面wf8が正常に検出されなかった場合である。グラフ520上の、内包物542に対応する区間522において波面wf3、4に対応する波面到達時間at3、4と、内包物543に対応する区間524において波面wf8に対応する波面到達時間at8とは算出されず空白のデータとなる。その結果、高弾性率として画像表示されるべき弾性画像930上の内包物542に対応する画像部分942、内包物543に対応する画像部分943は空白画像となる。
【0109】
図18は、本実施の形態に係る超音波診断装置100を用いた場合である。画像530における内包物542に対応する領域において波面wf3、4が内包物543に対応する領域において波面wf8が正常に検出されなかった場合において、グラフ520上の、内包物542に対応する区間522において波面到達時間at3、4、内包物543に対応する区間524において波面到達時間at3を、他の区間521、523、525におけるx方向位置と波面到達時間atとの関係に基づき補間計算により算出した場合である。グラフ520上の、内包物542に対応する区間522において波面wf3、4に対応する波面到達時間at3、4と、内包物543に対応する区間524において波面wf8に対応する波面到達時間at8とは、それぞれ補間計算に基づいて算出される。
【0110】
その結果、本来、弾性画像930上の内包物542に対応する画像部分942、内包物543に対応する画像部分943も、波面wfの推定値に基づいて生成される。弾性画像930は、内包物542に対応する画像部分942中の波面wf3、4に対応する画像部分942X、および、内包物543に対応する画像部分943中の波面wf8に対応する画像部分943Xが、推定値に基づいて生成されたことがわかるように異なる態様で表示される画像としてもよい。
【0111】
ステップS1550では、波面到達時間データatijを補償波面到達時間データcatijとしてデータ格納部115に保存し、関心領域roi内の全てのjについて処理を完了したか否か(ステップS1551)、関心領域roi内の全てのiについて処理を完了したか否か(ステップS1553)について判定し、完了していない場合はi、jをインクリメント(ステップS1552、S1554)して観測点Pijについて補償波面到達時間データcatijを生成し(ステップS1549)、完了している場合には処理を終了する。
【0112】
5.ステップS155における処理の詳細について
ステップS155では、弾性率算出部112は、関心領域roi内の観測点pijについて、補償波面到達時間フレームデータcatoに基づいてせん断波の伝播速度、又は、弾性率を算出し、関心領域roiに対する弾性率フレームデータelfを算出する。
図19は、超音波診断装置100における弾性率算出の動作を示すフローチャートである。先ず、弾性率算出部112は、データ格納部115から補償波面到達時間フレームデータcatoの読み出し(ステップS1551)、以下に示す方法により伝播速度フレームデータvfoに変換する(ステップS1552)。
【0113】
図14(f)において、座標(x
t、z
t)を通過したせん断波の速度v(x
t、z
t)は、座標(x
t、z
t)と座標(x
t+Δ
t、z
t+Δ
t)との間の距離をmとしたとき、距離mを所要時間Δtで割った値として推定することができる。すなわち、
v(x
t、z
t)=m/Δt=√{(x
t+Δ
t−x
t)
2+(z
t+Δ
t−z
t)
2}/Δt
となる。弾性率算出部112は、全ての波面に対して補償波面到達時間フレームデータcatoから補償波面到達時間データcatを取り出し上述の処理を行い、波面が通過した全座標についてせん断波の速度vを取得する。
【0114】
図12のF列は、各送信イベントに対して算出した波面到達時間フレームデータatを微分した伝播速度フレームデータvfである。
次に、弾性率算出部112は、伝播速度フレームデータvfoを弾性率フレームデータに変換する(ステップS1553)。弾性率フレームデータは、せん断波の伝播速度を基に各座標における弾性率を算出する。弾性率は、せん断波の速度の2乗に比例し、
el(x
t、z
t)=K × v(x
t、z
t)
2
に基づき算出される。Kは定数であり人体の組織では約3となる。
【0115】
図12のG列は、伝播速度フレームデータvfから上式により算出した弾性率フレームデータelfである。
以上の手順により、弾性率算出部112は、全ての波面oについて弾性率フレームデータelo(oは異なる波面の数をあらわす自然数、番号を区別しない場合は弾性率フレームデータelとする)を合成する(ステップS1554)。弾性率算出部112は、全ての波面oについて弾性率フレームデータeloは座標ijを指標に平均され1フレームの弾性率フレームデータelfを生成してデータ格納部115保存する(ステップS1555)。
【0116】
以上によりせん断波伝播解析に基づく弾性率計測の計算処理を終了する。
6.ステップS150における処理の詳細について
ステップS150における、音響線信号フレームデータdslの生成処理の概要について説明する。
図20は、検出波受信部108のビームフォーミングの動作を示すフローチャートである。
【0117】
先ず、検出波の識別番号lを1に設定し(ステップS151)、送信部106は、プローブ101に存する複数の振動子101a中検出波送信振動子列Txに含まれる各振動子に検出波pwlを送信させるための検出波パルスpwplを送信する送信処理(送信イベント)を行う(ステップS152)。
次に、検出波受信部108は、プローブ101での反射波から得た電気信号に基づき受波信号rfkを生成しデータ格納部115に出力し、データ格納部115に受波信号rfkを保存する(ステップS153)。規定されている全ての送信イベントの回数mについて検出波の送受信が完了したか否かを判定する(ステップS154)。完了していない場合にはlをインクリメント(ステップS155)してステップS152に戻り、検出波送信振動子列Txからの送信イベントを行い、完了している場合にはステップS156に進む。
【0118】
次に、検出波の識別番号lを0に初期化し(ステップS156)、検出波受信部108は、データ格納部115に保存されている受波信号rfkに基づいて、検出波照射領域Ax内の複数の観測点Pijに対する音響線信号を生成して音響線信号フレームデータdslを生成しデータ格納部115に出力し、データ格納部115に音響線信号フレームデータdslを保存する(ステップS157)。ステップS157における、音響線信号フレームデータdslの生成方法の詳細は後述する。
【0119】
全ての送信イベントの回数mについて、検出波パルスpwplに基づく音響線信号フレームデータdslの生成を完了したか否かを判定し(ステップS159)、完了していない場合にはlをインクリメント(ステップS160)してステップS157に戻り、完了している場合には処理を終了する。
以上により、
図19におけるステップS150の処理を終了する。
【0120】
7.ステップS157における処理の詳細について
ステップS157における、音響線信号フレームデータdslの生成処理の詳細について説明する。
図21は、検出波受信部108における音響線信号フレームデータ生成動作を示すフローチャートである。
【0121】
先ず、j、iを検出波照射領域Ax内の最小値に初期化する(ステップS1571、1572)。次に、検出波受信部108は、観測点Pijについて音響線信号dsijを生成する(ステップS1573)。ステップS1573における処理の詳細については後述する。
次に、検出波照射領域Ax内の全てのiについて処理を完了したか否か(ステップS1574)、検出波照射領域Ax内の全てのjについて処理を完了したか否か(ステップS1576)について判定し、完了していない場合はi、jをインクリメント(ステップS1575、S1577)して観測点Pijについて音響線信号を生成し(ステップS1573)、完了している場合にはステップS1578に進む。
【0122】
この段階では、1回の送信イベントに伴う検出波照射領域Axにおける観測点Pijについて音響線信号dsijが生成されており、音響線信号フレームデータdslが生成されている。ステップS1578では、生成された音響線信号フレームデータdslをデータ格納部115に出力され保存される。
以上により、
図20におけるステップS157の処理を終了する。
【0123】
8.ステップS1573における処理の詳細について
次に、ステップS1573における、観測点Pijについて音響線信号を生成する処理の動作について説明する。
図22は、検出波受信部108における観測点Pijについての音響線信号生成動作を示すフローチャートである。
先ず、ステップS15731において、遅延処理部10831は、検出波照射領域Ax内に存在する任意の観測点Pijについて、送信された超音波が被検体中の観測点Pijに到達する送信時間を算出する。送信時間は、上述のとおり、観測点Pijまでの送信経路を、検出波送信振動子列Txから振動子列に垂直に発された検出波pwlが観測点Pijに到達するまでの最短経路401として算出し、送信経路の長さを超音波の音速csで除することにより算出できる。
【0124】
次に、検出波パルス受信振動子列Rxを設定する(ステップS15732)。
次に、検出波受信振動子列Rx内の受波振動子Rwkの振動子識別番号kを検出波受信振動子列Rx内の最小値に初期化し(ステップS15733)、送信された検出波が被検体中の観測点Pijで反射された後、検出波受信振動子列Rxの受波振動子Rwkに到達する受信時間を算出する(ステップS15734)。受信時間は、幾何学的に定まる観測点Pijから受波振動子Rwkまでの経路402の長さを超音波の音速csで除することにより算出できる。さらに、送信時間と受信時間の合計から、検出波送信振動子列Txから送信された超音波が観測点Pijで反射して受波振動子Rwkに到達するまでの総伝播時間を算出し(ステップS15735)、検出波受信振動子列Rx内の各受波振動子Rwkに対する総伝播時間の差異により、各受波振動子Rwkに対する遅延量を算出する(ステップS15736)。
【0125】
ステップS15737において、遅延処理部10831は、検出波受信振動子列Rx内の受波振動子Rwkに対応する受波信号の列から、各受波振動子Rwkに対する遅延量を差引いた時間に対応する受波信号rfkを観測点Pijからの反射波に基づく受波信号として同定する。
次に、重み算出部(不図示)は、検出波受信振動子列Rxの列方向の中心に位置する振動子に対する重みが最大となるよう各受波振動子Rwkに対する受信アポダイゼーションを算出する(ステップS15738)。加算部10832は、各受波振動子Rwkに対応して同定された受波信号rfkに、各受波振動子Rwkに対する重みを乗じて加算して、観測点Pijに対する音響線信号dsijを算出する(ステップS150159)。
【0126】
検出波受信振動子列Rx内に存在する全ての受波振動子Rwkについて音響線信号dsijの算出処理を完了したか否かを判定し(ステップS15740)、完了していない場合にはkをインクリメント(ステップS15741)して、更に受波振動子Rwkについて遅延量の算出し(ステップS15739)、完了している場合にはステップS15742に進む。この段階では、検出波受信振動子列Rx内に存在する全ての受波振動子Rwkについて観測点Pijに対する音響線信号dsijが算出されている。算出された観測点Pijに対する音響線信号dsijはデータ格納部115に出力され保存される(ステップS15762)。
【0127】
以上により、
図21におけるステップS1573の処理を終了する。
<効 果>
従来、被検体中の組織中に反射波が得にくい部分などがあり検出された音響線信号の信号強度が微小である場合には、検出の精度が低く音響線信号から所定の精度以上でせん断波による組織の変位を検出することが難しく、また、組織中に固い部分があり検出された変位量の絶対値が微小である場合には、検出の精度が低く変位量から所定の精度以上でせん断波の波面を算出することが難しかった。そのため、生成された弾性画像上において、本来高弾性率として表示されるべき組織内の固い部分に対応する画像領域において、弾性率が算出されていないことに起因する画像抜けが発生することがあった。
【0128】
しかしながら、本実施の形態1に係る超音波診断装置100によれば、波面到達時間フレームデータ中の波面到達時間データの信頼度を評価し、波面到達時間フレームデータ中の信頼度不適合領域を抽出し、波面到達時間フレームデータ中の信頼度不適合波面到達時間データを、所定の条件を満たす波面到達時間データに基づき補間して補償波面到達時間データを生成し、信頼度不適合波面到達時間データを補償波面到達時間データに置き換えて補償波面到達時間フレームデータを生成する伝播情報推定部と、補償波面到達時間フレームデータに基づき、関心領域内のせん断波の伝播速度、又は、弾性率を算出する弾性率算出部とを備えた構成を採る。
【0129】
係る構成により、測定した波面到達時間データの信頼度が低い領域における弾性画像の画像抜けを抑制することができる。
≪実施の形態2≫
実施の形態1に係る超音波診断装置100では、弾性率算出部112は、関心領域roi内の観測点pijについて、補償波面到達時間フレームデータcatoに基づいてせん断波の伝播速度を算出する構成とした。
【0130】
しかしながら、データ信頼度が閾値以下であることにより所定の条件を満たさない信頼度不適合観測点Llij以外の観測点Pijについては、変位量フレームデータptlに基づいて伝播速度フレームデータを算出する構成としもよい。
実施の形態2に係る超音波診断装置100Aでは、データ信頼度が閾値以下であることにより所定の条件を満たさない信頼度不適合観測点Llijを検出し、信頼度不適合観測点Llij以外の観測点Pijについては、変位量フレームデータptlに基づいて伝播速度フレームデータを算出して伝播速度フレームデータを弾性率フレームデータに変換するとともに、信頼度不適合観測点Llijについては、実施の形態1と同様に弾性率算出部112は補償波面到達時間フレームデータcatoに基づいてせん断波の伝播速度フレームデータを算出して伝播速度フレームデータを弾性率フレームデータに変換する構成を採る点で実施の形態1と相違する。
【0131】
以下、超音波診断装置100Aについて説明する。
<構成>
超音波診断装置100Aでは、伝播情報解析部、弾性率算出部の構成が実施の形態1の構成と相違するため、超音波診断装置100Aに係るこれらの構成について説明する。上記以外の構成については、超音波診断装置100と同じであり説明は省略する。
【0132】
図23は、超音波診断装置100Aにおける、変位検出部109、伝播情報解析部110A、伝播情報推定部111、弾性率算出部112Aの構成を示す機能ブロック図である。このうち、超音波診断装置100Aと異なる伝播情報解析部110A、弾性率算出部112Aの構成について説明する。
伝播情報解析部110Aは、波面検出部1101、波面到達時間検出部1102、相関処理部1103Aとから構成され、相関処理部1103Aを備えた点が超音波診断装置100Aと相違する。
【0133】
相関処理部1103Aは、送信イベントごとに、変位量フレームデータptlのシーケンスから、相互相関処理を用いて伝播速度Cfフレームデータvoをダイレクトに生成してデータ格納部115に出力する。
図24(a)(b)は、超音波診断装置100Aのせん断波の伝播解析の動作を示す模式図である。
図24(a)に示すように、関心領域roi内にあるz方向位置が等しく所定距離Δx離れた観測点Pijと参照観測点Rijとを定義する。
図24(b)に示すように、相関処理部1103Aは、変位量フレームデータptlのシーケンスに基づいて、着目観測点Pijと参照観測点Rijにおける変位ptijの時系列変化データをそれぞれ抽出して、複数の時系列変化データ間において相互相関処理を行い、着目観測点Pijと参照観測点Rij間における変位ptijの移行時間Δtを算出する。そして、所定距離Δxを移行時間Δtで除することにより着目観測点Pijに対するせん断波の伝播速度vijを算出する。この処理により、関心領域roi内の各着目観測点Pijについてせん断波の伝播速度vijを算出することにより伝播速度Cfフレームデータvoをダイレクトに生成する。
【0134】
弾性率算出部112Aは、伝播速度変換部1121、弾性率変換部1122Aとから構成され、弾性率変換部1122Aを備えた点が超音波診断装置100Aと相違する。
弾性率変換部1122Aは、伝播速度データvo、伝播速度Cfデータvoを入力として、関心領域roi内の観測点Pijが信頼度不適合観測点Llijである場合には伝播速度データvijを観測点pijにおける弾性率データelijに変換し、関心領域roi内の観測点Pijが信頼度不適合観測点Llij以外の観測点である場合には伝播速度データCfvijを観測点pijにおける弾性率データelijに変換する。こうして、関心領域roiに対する弾性率フレームデータelfを生成する。
【0135】
弾性率算出部112Aは、生成した弾性率フレームデータelfをデータ格納部115に、制御部116を介してそれぞれ出力する。
<動作>
超音波診断装置100AのSWSシーケンスの動作について説明する。
超音波診断装置100AのSWSシーケンスの動作は、超音波診断装置100の動作と比較して、
図10に示す超音波診断装置100のSWSシーケンスの動作フローにおいて、ステップS153に係るせん断波の伝播情報解析の動作の詳細を示した
図13とフローの一部が相違する。また、
図10におけるステップS155が示す弾性率算出の動作が相違する。そのため、以後、異なる動作について説明する。
【0136】
1.せん断波の伝播情報解析の動作について
図25は、超音波診断装置100Aにおけるせん断波の伝播情報解析の動作を示すフローチャートである。ステップS1531からS1534までの動作は、
図13に示した超音波診断装置100のものと同じであり説明を省略する
超音波診断装置100Aでは、ステップS1534の後に相関処理部1103Aは、変位量フレームデータptlのシーケンスをデータ格納部115から読み出し(ステップS1531A)、着目観測点Pijと所定距離Δx離れた参照観測点Rijにおける変位ptijの時系列変化データ間において相互相関処理を行い、着目観測点Pijと参照観測点Rij間における変位ptijの移行時間Δtを算出し(ステップS1532A)、ΔxをΔtで除することにより着目観測点Pijに対するせん断波の伝播速度vijを算出する。この処理を関心領域roi内の各着目観測点Pijについて行い伝播速度Cfフレームデータvoをダイレクトに生成する(ステップS1533A)。なお、ステップS1535からS1538までの動作は、
図13に示した超音波診断装置100のものと同じであり説明を省略する。
【0137】
2.弾性率算出の動作について
弾性率算出部112は、関心領域roi内の観測点pijについて、補償波面到達時間フレームデータcatoに基づいてせん断波の伝播速度、又は、弾性率を算出し、関心領域roiに対する弾性率フレームデータelfを算出する。
図26は、超音波診断装置100Aにおける弾性率算出の動作を示すフローチャートである。
図10におけるステップS155における処理の詳細を示したものである。
【0138】
先ず、弾性率変換部1122Aは、送信イベントごとに信頼度不適合領域検出部1111から関心領域roi内の信頼度不適合観測点Llijの座標ijに関する信頼度不適合領域情報を取得する(ステップS1551A)。
次に、i、jを関心領域roi内の最小値に初期化する(ステップS1552A、1553A)。弾性率変換部1122Aは、着目観測点Pijが信頼度不適合領域に含まれるか否かを判定し(ステップS1554A)、着目観測点Pijが信頼度不適合領域に含まれる場合(Yes)には、着目観測点Pijの補償波面到達時間データcatijをデータ格納部115から読み出し(ステップS1555A)、ステップS1552と同様の方法にて伝播速度データvijに変換する(ステップS156A)。着目観測点Pijが信頼度不適合領域に含まれない場合(No)には、弾性率変換部1122Aは、着目観測点Pijの伝播速度Cfデータvijをデータ格納部115から読み出す(ステップS1558A)。次に、弾性率算出部112Aは、伝播速度フレームvij又は伝播速度Cfデータvijを弾性率データelijに変換し(ステップS1557A)、関心領域roi内の全てのjについて処理を完了したか否か(ステップS1559A)、関心領域roi内の全てのiについて処理を完了したか否か(ステップS1561A)について判定し、完了していない場合はi、jをインクリメント(ステップS1560A、S1562A)して新たな観測点Pijについて弾性率データelijを生成し(ステップS1557A)、完了している場合には、弾性率フレームデータelfをデータ格納部115に保存して(ステップS1561A)処理を終了する。
【0139】
以上により弾性率計測の計算処理を終了する。
3.相互相関処理を用いたせん断波の伝播速度vij算出方法
について説明する。
図27は、
図25のステップS1532A、S1533Aと同様のステップで用いることができるせん断波の伝播速度vijの出力データ作成手順を示すフローチャートである。
【0140】
本フローチャートは、変数lについてのループ、変数iについてのループ、変数jについてのループが多重化されている。変数lについてのループは、x方向(振動子列方向)位置iにおける波面の到達時間と、x方向位置i+1における波面の到達時間とのずれを意味する変数lについてのループであり、変数lがとり得る様々な値について、Rfg、Cfgを算出するもためのループである。ここで、fi(t)は、x方向位置(i)における時間軸方向の波面位置の変化量を示し、gi+1(t)は、x方向位置(i+1)における時間軸方向の波面位置の変化量である。変数iについてのループは、1つのz方向(被検体深さ方向)位置における複数x方向位置のそれぞれについて、せん断波の伝播速度を算出するためのループである。変数jについてのループは、z方向位置のそれぞれについて、v(i,j)を繰り返すためのループである
ステップS71では、z方向のそれぞれの位置を示す変数jを1に初期化し、ステップS72では、振動子配列方向のそれぞれの位置を示す変数iを1で初期化する。ステップS73は、変数lを1で初期化する。ステップS74では、変数初期化又は変数更新により一個の値が設定された変数lについて、積和演算を行い、fi(t)と、gi+1(t+l)との相関値Cfgを算出する。ステップS75では、相関値Cfgを正規化して、正規化された相関値Rfgを得る。ステップS76は、変数lについての終了要件であり、lが最大値maxに達していなければ、変数lをインクリメントして(ステップS70)、ステップS74に戻る。変数lが最大値maxに達するまで、変数lのインクリメントと、Cfgの算出、正規化が繰り返される。lが最大値maxに達すると(ステップS76がYes)、ステップS77に移行する。ステップS77は、l=1,2,3,4,5・・・・・nのそれぞれの値についてのRfgのうち、最小のものに変数lを乗ずることで、時間方向のずれ量τを算出する。そしてステップS78では、v←k/(τT)の計算によりせん断波速度の局所値を算出して、座標(i,j)におけるせん断波の伝播速度v(i,j)を得る。
【0141】
ステップS80は、変数iが最大値maxに達したかどうかの判定であり、達していなければ、変数iをインクリメントして(ステップS81)、ステップS73に戻る。ステップS82は、変数jのループの終了要件であり、達していなければ(ステップS82がNo)、ステップS83で変数jをインクリメントして、ステップS72に戻る。変数jが最大値maxに達すれば、ループを抜ける。ステップS84は、全てのループが終了した後の後処理であり、各x方向位置、z位置についてのせん断波の伝播速度v(i,j)の出力データを得る。
【0142】
以上のように、本計算方法では、みかけ上の時間分解能、空間分解能を高めることができる。これにより、硬性組織の通過で局所的に上昇した瞬間のせん断波の速度を算出することができるので、弾性評価を高精度に行うことができる。
以上により、SWSシーケンスの処理が終了する。以上の超音波診断装置100Aの超音波弾性率計測処理により、SWSシーケンス弾性率フレームデータelfを算出することができる。
【0143】
<効果>
以上、説明したように、実施の形態2に係る超音波診断装置100Aでは、データ信頼度が閾値以下であることにより所定の条件を満たさない信頼度不適合観測点Llijを検出し、信頼度不適合観測点Llij以外の観測点Pijについては、変位量フレームデータptlに基づいて伝播速度フレームデータを算出して伝播速度フレームデータを弾性率フレームデータに変換するとともに、信頼度不適合観測点Llijについては、実施の形態1と同様に弾性率算出部112は補償波面到達時間フレームデータcatoに基づいてせん断波の伝播速度フレームデータを算出して伝播速度フレームデータを弾性率フレームデータに変換する構成を採る。
【0144】
係る構成により、超音波弾性率計測において、信頼度不適合観測点Llijについては、測定した波面到達時間データの信頼度が低い領域における弾性画像の画像抜けを抑制するとともに、信頼度不適合観測点Llij以外の観測点Pijについては、時間分解能、空間分解能を高め高精度に伝播速度フレームデータ及び弾性率フレームデータを算出することができる。
【0145】
<その他の変形例>
なお、本発明を上記実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は、上記の実施の形態に限定されず、以下のような場合も本発明に含まれる。
例えば、実施の形態2に係る超音波診断装置100Aでは、データ信頼度が閾値以下である信頼度不適合観測点Llijを検出し、信頼度不適合観測点Llij以外の観測点Pijについては、変位量フレームデータptlに基づいて伝播速度フレームデータを算出して伝播速度フレームデータを弾性率フレームデータに変換するとともに、信頼度不適合観測点Llijについては、実施の形態1と同様に弾性率算出部112は補償波面到達時間フレームデータcatoに基づいてせん断波の伝播速度フレームデータを算出して伝播速度フレームデータを弾性率フレームデータに変換する構成を採る構成とした。しかしながら、データ信頼度が閾値以下である信頼度不適合観測点Llijを検出し、信頼度不適合観測点Llijと信頼度不適合観測点Llij以外の観測点Pijとのそれぞれに適した異なる信号処理を並列に適用して、信頼度不適合観測点Llijと信頼度不適合観測点Llij以外の観測点Pijとに異なる処理から得られた弾性画像を同時に生成して出力する構成であれば、処理方法は伝播速度フレームデータを算出方法に限られないことは言うまでもない。例えば、変位検出、波面検出、弾性率への変換、画像中の形状認識、動き判定等について、信頼度不適合観測点Llijと信頼度不適合観測点Llij以外の観測点Pijとのそれぞれに適した異なる信号処理を施してもよい。
【0146】
また、実施の形態に係る超音波診断装置100では、送信部106、検出波受信部108、変位検出部109、伝播情報解析部110、伝播情報推定部111、弾性率算出部112の構成は、実施の形態に記載した構成以外にも、適宜変更することができる。
例えば、実施の形態では、プローブ101に存する全ての振動子101aからプッシュ波の送信を行う構成としたが、送信部106は、プローブ101に存する複数の振動子101aの一部に当たる振動子列からなるプッシュ波送信振動子列Pxを設定し、SWSシーケンスごとに送信振動子列を列方向に漸次移動させながら超音波送信を繰り返す構成としてもよい。プッシュ波による音響放射圧を増加することができる。
【0147】
また、実施の形態では、関心領域roiは、複数の振動子101aからなる振動子列(101a)を含む検出波照射領域Ax内の一部領域に設定される構成としたが、関心領域roiをその最大範囲である検出波照射領域Ax全体に設定した構成としてもよい。
また、実施の形態では、検出波照射領域Ax内の一部領域に設定し、プッシュ波パルス発生部104は、プッシュ波送信振動子列Pxを、複数の振動子101a全部とし、プッシュ波の送信焦点Fを関心領域roi内に単数設定する構成とし、関心領域roiに検出波pwlの送受信を複数回繰り返すSWSシーケンスを行い、1回のSWSシーケンスにより関心領域roi内に位置する観測点について弾性率フレームデータelを算出する構成とした。しかしながら、関心領域roiを、検出波照射領域Ax内の一部領域に設定し、SWSシーケンス毎に送信焦点Fを列方向に漸次移動させてプッシュ波ppを送信するとともに、送信焦点Fの位置に基づいて関心領域roi内の対象観測領域を異ならせて検出波pwlの送受信を複数回繰り返し、SWSシーケンスごとに関心領域roiの一部領域について算出された合成弾性率フレームデータempを合成して関心領域roi全体に対する統合SWSシーケンス合成弾性率elを算出する構成としてもよい。
【0148】
また、実施の形態では、観測点の存在領域は、受波振動子列と垂直であって振動子列と同幅の領域とした。
しかしながら、これに限定されるものではなく、超音波照射領域に含まれる任意の領域に設定してもよい。例えば、受信振動子列の列中心を通り振動子列に垂直な直線を中心線とする複数の振動子幅の帯状の矩形領域としてもよい。
【0149】
また、本発明は、例えば、マイクロプロセッサとメモリを備えたコンピュータシステムであって、上記メモリは、上記コンピュータプログラムを記憶しており、上記マイクロプロセッサは、上記コンピュータプログラムにしたがって動作するとしてもよい。例えば、本発明の超音波診断装置の診断方法のコンピュータプログラムを有しており、このプログラムに従って動作する(又は接続された各部位に動作を指示する)コンピュータシステムであってもよい。
【0150】
また、上記超音波診断装置の全部、もしくは一部、またビームフォーミング部の全部又は一部を、マイクロプロセッサ、ROM、RAM等の記録媒体、ハードディスクユニットなどから構成されるコンピュータシステムで構成した場合も本発明に含まれる。上記RAM又はハードディスクユニットには、上記各装置と同様の動作を達成するコンピュータプログラムが記憶されている。上記マイクロプロセッサが、上記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、各装置はその機能を達成する。
【0151】
また、上記の各装置を構成する構成要素の一部又は全部は、1つのシステムLSI(Large Scale Integration(大規模集積回路))から構成されているとしてもよい。システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどを含んで構成されるコンピュータシステムである。これらは個別に1チップ化されてもよいし、一部又は全てを含むように1チップ化されてもよい。なお、LSIは、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。上記RAMには、上記各装置と同様の動作を達成するコンピュータプログラムが記憶されている。上記マイクロプロセッサが、上記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。例えば、本発明のビームフォーミング方法がLSIのプログラムとして格納されており、このLSIがコンピュータ内に挿入され、所定のプログラム(ビームフォーミング方法)を実施する場合も本発明に含まれる。
【0152】
なお、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路または汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Arra)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサー(Reconfigurable Processor)を利用してもよい。
【0153】
さらには、半導体技術の進歩または派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。
また、各実施の形態に係る、超音波診断装置の機能の一部又は全てを、CPU等のプロセッサがプログラムを実行することにより実現してもよい。上記超音波診断装置の診断方法や、ビームフォーミング方法を実施させるプログラムが記録された非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体であってもよい。プログラムや信号を記録媒体に記録して移送することにより、プログラムを独立した他のコンピュータシステムにより実施するとしてもよい、また、上記プログラムは、インターネット等の伝送媒体を介して流通させることができるのは言うまでもない。
【0154】
上記実施形態に係る超音波診断装置では、記憶装置であるデータ格納部を超音波診断装置内に含む構成としたが、記憶装置はこれに限定されず、半導体メモリ、ハードディスクドライブ、光ディスクドライブ、磁気記憶装置、等が、超音波診断装置に外部から接続される構成であってもよい。
また、ブロック図における機能ブロックの分割は一例であり、複数の機能ブロックを一つの機能ブロックとして実現したり、一つの機能ブロックを複数に分割したり、一部の機能を他の機能ブロックに移してもよい。また、類似する機能を有する複数の機能ブロックの機能を単一のハードウェア又はソフトウェアが並列又は時分割に処理してもよい。
【0155】
また、上記のステップが実行される順序は、本発明を具体的に説明するために例示するためのものであり、上記以外の順序であってもよい。また、上記ステップの一部が、他のステップと同時(並列)に実行されてもよい。
また、超音波診断装置には、プローブ及び表示部が外部から接続される構成としたが、これらは、超音波診断装置内に一体的に具備されている構成としてもよい。
【0156】
また、上記実施の形態においては、プローブは、複数の圧電振動子が一次元方向に配列されたプローブ構成を示した。しかしながら、プローブの構成は、これに限定されるものではなく、例えば、複数の圧電変換振動子を2次元方向に配列した2次元配列振動子や、一次元方向に配列された複数の振動子を機械的に揺動させて三次元の断層画像を取得する揺動型プローブを用いてもよく、測定に応じて適宜使い分けることができる。例えば、2次元に配列されたプローブを用いた場合、圧電変換振動子に電圧を与えるタイミングや電圧の値を個々に変化させることによって、送信する超音波ビームの照射位置や方向を制御することができる。
【0157】
また、プローブは、送受信部の一部の機能をプローブに含んでいてもよい。例えば、送受信部から出力された送信電気信号を生成するための制御信号に基づき、プローブ内で送信電気信号を生成し、この送信電気信号を超音波に変換する。併せて、受信した反射波を受波信号に変換し、プローブ内で受波信号に基づき音響線信号を生成する構成を採ることができる。
【0158】
また、各実施の形態に係る超音波診断装置、及びその変形例の機能のうち少なくとも一部を組み合わせてもよい。更に上記で用いた数字は、全て本発明を具体的に説明するために例示するものであり、本発明は例示された数字に制限されない。さらに、本実施の形態に対して当業者が思いつく範囲内の変更を施した各種変形例も本発明に含まれる。
≪まとめ≫
以上、説明したように、本実施の形態に係る超音波診断装置は、複数の振動子が列設されたプローブが接続可能に構成されており、前記プローブに被検体内の特定部位に集束するプッシュ波を送信させ、当該プッシュ波の音響放射圧により生じたせん断波の伝播速度を検出する超音波診断装置であって、前記複数の振動子にプッシュ波パルスを供給することにより、前記複数の振動子に前記特定部位に集束するプッシュ波を送信させるプッシュ波パルス送信部と、前記プッシュ波パルスに続き、前記複数の振動子に検出波パルスを供給して前記複数の振動子に被検体中の解析対象範囲を表す関心領域を通過する検出波を複数回送信させる検出波パルス送信部と、前記複数回の検出波の各々に対応して前記複数の振動子にて時系列に受信された被検体組織からの反射検出波に基づき、前記関心領域内の複数の観測点について音響線信号を生成して音響線信号フレームデータのシーケンスを生成する検出波受信部と、前記音響線信号フレームデータのシーケンスから、前記反射検出波の受信時刻それぞれにおける前記関心領域内の組織の変位を検出して変位量フレームデータのシーケンスを生成する変位検出部と、各前記受信時刻における前記変位量フレームデータからせん断波の波面位置を抽出して波面フレームデータのシーケンスを生成し、複数の前記波面フレームデータそれぞれに含まれる波面の位置と前記受信時刻とを対応させることにより波面到達時間フレームデータを生成する伝播情報解析部と、前記波面到達時間フレームデータ中の波面到達時間データの信頼度を評価し、前記波面到達時間フレームデータ中の所定の条件を満たさない信頼度不適合波面到達時間データを、所定の条件を満たす前記波面到達時間データに基づき補間して補償波面到達時間データを生成し、前記信頼度不適合波面到達時間データを前記補償波面到達時間データに置き換えて補償波面到達時間フレームデータを生成する伝播情報推定部と、前記補償波面到達時間フレームデータに基づき、前記関心領域内のせん断波の伝播速度、又は、弾性率を算出する弾性率算出部とを備えた超音波診断装置。ことを特徴とする。
【0159】
係る構成により、超音波弾性率計測において、測定した波面到達時間データの信頼度が低い領域における弾性画像の画像抜けを抑制することができる。
また、別の態様では、上記何れかに記載の構成において、前記伝播情報推定部は、前記波面到達時間フレームデータ中の、当該フレームデータが依拠した前記音響線信号フレームデータにおける音響線信号の信号強度が閾値以下である信頼度不適合領域に含まれる前記波面到達時間データを前記信頼度不適合波面到達時間データとする構成であってもよい。
【0160】
係る構成により、検体中の組織中に反射波が得にくい部分などがあり検出された音響線信号の信号強度が微小である場合には、検出の精度が低く音響線信号から所定の精度以上でせん断波による組織の変位を検出することが難しい場合において、測定した波面到達時間データの信頼度が低い領域における弾性画像の画像抜けを抑制することができる。
また、別の態様では、上記何れかに記載の構成において、前記伝播情報推定部は、前記波面到達時間フレームデータ中の、当該フレームデータが依拠した前記変位量フレームデータにおける変位量データの絶対値が閾値以下である信頼度不適合領域に含まれる前記波面到達時間データを前記信頼度不適合波面到達時間データとする構成であってもよい。
【0161】
係る構成により、被検体中の組織中に固い部分があり検出された変位量の絶対値が微小である場合には、検出の精度が低く変位量から所定の精度以上でせん断波の波面を算出することが難において、測定した波面到達時間データの信頼度が低い領域における弾性画像の画像抜けを抑制することができる。
また、別の態様では、上記何れかに記載の構成において、前記伝播情報推定部は、スプライン補間法、又は折れ線近似補間法を用いて前記信頼度不適合波面到達時間データを補償する構成であってもよい。
【0162】
係る構成により、簡易な演算処理により、信頼度不適合観測点Llijにおける波面到達時間データat(信頼度不適合波面到達時間データat)を、所定の条件を満たす波面到達時間データatに基づき補間して補償波面到達時間データcatijを算出することができる。
また、別の態様では、前記伝播情報解析部は、前記変位量フレームデータのシーケンスに基づいて着目観測点と所定距離離れた参照観測点における変位の時系列変化データをそれぞれ算出し、前記複数の時系列変化データ間において相互相関処理を行うことにより、前記着目観測点と前記参照観測点間における変位の移行時間を算出し、前記所定距離を前記移行時間で除することにより前記着目観測点に対するせん断波の伝播速度を算出し、前記関心領域内の複数の観測点を前記着目観測点としてせん断波の伝播速度を算出することにより伝播速度フレームデータをダイレクトに生成する相関処理部を備え、前記弾性率算出部は、前記波面到達時間フレームデータ中の信頼度不適合波面到達時間データが得られた前記関心領域内の信頼度不適合領域については、前記補償波面到達時間フレームデータに依拠した伝播速度データに基づき弾性率データを算出し、前記関心領域内の前記信頼度不適合領域以外の領域については、前記ダイレクトに生成した伝播速度データに基づき弾性率データを算出する構成であってもよい。
【0163】
係る構成により、超音波弾性率計測において、信頼度不適合観測点Llijについては、測定した波面到達時間データの信頼度が低い領域における弾性画像の画像抜けを抑制するとともに、信頼度不適合観測点Llij以外の観測点Pijについては、時間分解能、空間分解能を高め高精度に伝播速度フレームデータ及び弾性率フレームデータを算出することができる。
【0164】
また、別の態様では、上記何れかに記載の構成において、さらに、画像を表示する表示部を備え、前記弾性率算出部は、前記弾性率フレームデータをマッピングして弾性画像を生成し、当該弾性画像を表示用の画像に変換して前記表示部に表示させる構成であってもよい。
係る構成により、例えば、弾性率が一定値以上の座標は赤、弾性率が一定値未満の座標は緑、弾性率が取得できなかった座標は黒、というように色分けした弾性画像を生成することにより、操作者の利便性を向上することができる。
【0165】
また、別の態様では、上記何れかに記載の構成において、前記弾性率算出部は、前記補償波面到達時間データに依拠する前記弾性率データを前記補償波面到達時間データに依拠しない弾性率データと異なる態様にて表示するように弾性画像を生成する構成であってもよい。
係る構成により、操作者は、補償波面到達時間データに依拠する弾性画像の部分を測定した波面到達時間データの信頼度が低い領域であることを認識することができ、操作者の利便性を向上することができる。
【0166】
また、別の態様では、上記何れかに記載の構成において、前記検出波は、被検体中を前記複数の振動子の列と垂直に伝播する平面波である構成であってもよい。
係る構成により、被検体を特定しない場合などにおいて操作が簡便であり、初めてその被検体を測定する場合などにおいて操作者の利便性を向上することができる。
また、別の態様では、上記何れかに記載の構成において、前記検出波パルスの送信振動子の列中心と前記関心領域の前記列方向の中心とは合致する構成であってもよい。
【0167】
係る構成により、1回のSWSシーケンスにより関心領域roi内に位置する観測点について弾性率フレームデータelを算出することができる。
また、本実施の形態に係る超音波診断装置の制御方法は、複数の振動子が列設されたプローブが接続可能に構成されており、前記プローブに被検体内の特定部位に集束するプッシュ波を送信させ、当該プッシュ波の音響放射圧により生じたせん断波の伝播速度を検出する超音波診断装置の制御方法であって、前記複数の振動子にプッシュ波パルスを供給することにより、前記複数の振動子に前記特定部位に集束するプッシュ波を送信させる、前記プッシュ波パルスに続き、前記複数の振動子に検出波パルスを供給して前記複数の振動子に被検体中の解析対象範囲を表す関心領域を通過する検出波を複数回送信させ、前記複数回の検出波の各々に対応して前記複数の振動子にて時系列に受信された被検体組織からの反射検出波に基づき、前記関心領域内の複数の観測点について音響線信号を生成して音響線信号フレームデータのシーケンスを生成し、前記音響線信号フレームデータのシーケンスから、前記反射検出波の受信時刻それぞれにおける前記関心領域内の組織の変位を検出して変位量フレームデータのシーケンスを生成し、各前記受信時刻における前記変位量フレームデータからせん断波の波面位置を抽出して波面フレームデータのシーケンスを生成し、複数の前記波面フレームデータそれぞれに含まれる波面の位置と前記受信時刻とを対応させることにより波面到達時間フレームデータを生成し、前記波面到達時間フレームデータ中の波面到達時間データの信頼度を評価し、前記波面到達時間フレームデータ中の所定の条件を満たさない信頼度不適合波面到達時間データを、所定の条件を満たす前記波面到達時間データに基づき補間して補償波面到達時間データを生成し、前記信頼度不適合波面到達時間データを前記補償波面到達時間データに置き換えて補償波面到達時間フレームデータを生成し、前記補償波面到達時間フレームデータに基づき、前記関心領域内のせん断波の伝播速度、又は、弾性率を算出する超音波診断装置の制御方法であってもよい。
【0168】
係る構成により、超音波診断装置を用いて測定した波面到達時間データの信頼度が低い領域における弾性画像の画像抜けを抑制して弾性計測をすることができる。