【実施例1】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係るリチウム空気電池の実施例1を詳細かつ具体的に説明する。
【0025】
まず、
図1を用いて、実施例1に係るリチウム空気電池の構造について説明する。
図1に示すように、実施例1に係るリチウム空気電池1は、平面状の正極3の下側に、第一のフィルム5、負極集電体7、第二のフィルム9が層状に備えられている。
【0026】
第一のフィルム5は、中央部付近に矩形状の凹み部を有している。この凹み部は、第一のフィルム5と正極3とが積層された際に、両者の間に空間を作り出す。また、この凹み部の底部には、孔57が設けられている。さらに、この凹み部の底部には、熱溶着フィルム15を介して、固体電解質2が接合されている。そして、固体電解質2は、孔57を塞いでいる。
【0027】
図1に示すように、正極3、第一のフィルム5、固体電解質2で囲まれた空間には、図示しない水系電解液が封入されている。水系電解液には、例えば、塩化リチウム(LiCl)のような潮解性物質の飽和水溶液、又は、この水溶液をポリマーに吸水させたものを用いる。
【0028】
第一のフィルム5の
図1中下側には、第二のフィルム9が設けられている。第二のフィルム9は、第一のフィルム5の凹み部よりも深く作られた凹み部を備えている。この第二のフィルム9の凹み部は、第一のフィルム5の凹み部と対応する箇所に作られている。これにより、第二のフィルム9の凹み部は、第一のフィルム5の凹み部の外周を覆っている。
【0029】
第二のフィルム9と、負極集電体7との間には、熱溶着フィルム13が配置されている。この熱溶着フィルム13を介して、第二のフィルム9と負極集電体7とは、熱溶着されている。また、第一のフィルム5と、第二のフィルム9とは、熱溶着フィルムを介さずに熱溶着により溶着されている。なお、第一のフィルム5、固体電解質2、第二のフィルム9で囲まれる領域には、図示しない非水系電解液が封入されている。
【0030】
図1に示すように、第一のフィルム5の下側、かつ第二のフィルム9の上側には、負極集電体7が配置されている。負極集電体7は、第一のフィルム5の凹み部の外壁に沿って湾曲した形状となっている。また、負極集電体7の、上側の面のうち、固体電解質2に対応する位置にはリチウム金属4が設けられている。このとき、リチウム金属4と固体電解質2の間に多孔性樹脂シートのようなセパレータを配置して直接の接触を防ぐこともできる。
【0031】
このような構造とすることで、リチウム空気電池1の製造時に、負極集電体7を第二のフィルム9の凹み部に収めることができ、生産が容易となる。また、負極集電体7は銅箔のような変形が容易で軽量の材料であるため、第一のフィルム5の凹み部と、第二のフィルム9の凹み部との間に配置することで、正極3の形状を加工する必要がなくなる。したがって、正極3を平面状とすることができる。
【0032】
ここで、
図1に示すように、第二のフィルム9における上部91は、第一のフィルム9の上部51の形状と、ほぼ対応する形状をしている。また、第二のフィルム9の壁部93は、第一のフィルム5の壁部53及び負極集電体7の壁部73の長さよりも長く形成されている。さらに、第二のフィルム9の底部95の上側の面の大きさは、負極集電体7の底部75の下側の面の大きさよりも大きく形成されている。
【0033】
これらのような形状及び構成により、第二のフィルム9は、第一のフィルム5及び負極集電体7を、下側から覆っている。このとき、第二のフィルムにおける凹み部は、第一のフィルム5における凹み部(壁部53、底部55)、固体電解質2、負極集電体7における壁部73、底部75、リチウム4を、下側から覆っている。
【0034】
図1に示すように、本実施例1においては、第一のフィルム5と固体電解質2とが、間に熱溶着フィルム15を介して熱溶着されている。
【0035】
また、第二のフィルム9と負極集電体7とは、熱溶着フィルム13を介すことにより熱溶着されている。また、第一のフィルム5と第二のフィルム9とは、フィルム同士を熱溶着することにより、接合されている。
【0036】
さらに、固体電解質2とリチウム4との間には、図示しないセパレーターが設けられている。このセパレーターが介在することによって、固体電解質2とリチウム4とが、接触しないようになっている。ここでいうセパレーターとは、多孔質樹脂フィルムのようなリチウムイオン等を透過する性質のものをいう。このセパレーターにより、固体電解質とリチウムとが、直接接触することを防ぐことができる。
【0037】
図2は、第一のフィルム5の斜視図である。
図2に示すように、第一のフィルム5は、中央部に矩形状の凹み部を備えている。そして、この凹み部を囲う枠状の平面である上部51、凹み部の壁面を形成する壁部53、凹み部の底部を形成する底部55を備えている。また、底部55の中央部付近には、矩形状の孔(
図1における孔57)が設けられている。さらに、底部55の下面側には、固体電解質2が熱溶着フィルム(
図1における熱溶着フィルム15)を介して取り付けてある。これにより、固体電解質2が、底部55の孔を塞いでいる。
【0038】
図3は、負極集電体7の斜視図である。
図3に示すように、負極集電体7は、上部71、壁部73、底部75を備えている。これらの構成があることによって、負極集電体7は、第一のフィルム5の凹み部の外側に沿って配置されている。具体的には、負極集電体7の上部71は、第一のフィルム5の上部51の外側に沿うように配置されている。また、負極集電体7の壁部73は、第一のフィルム5の壁部53の外側に沿うように配置されている。さらに、負極集電体7の底部75は、第一のフィルム5の底部55の下側に、略平行に位置するように形成されている。ここで、壁部73は、壁部53の長さよりも若干長く形成されている。これにより、第一のフィルム5の下面と、負極集電体7の下面との間には若干の隙間が形成される。
【0039】
図4は、第二のフィルム9の斜視図である。
図4に示すように、第二のフィルム9は、中央部に矩形状の凹み部を備えている。そして、この凹み部を囲う枠状の平面である上部91、凹み部の壁面を形成する壁部93、凹み部の底部を形成する底部95を備えている。
【0040】
ここで、本実施例1に係るリチウム空気電池1の放電及び充電時の作用について説明する。
【0041】
まず放電時の作用について説明する。負極集電体7に備えられたリチウム4(金属)は、式1に示すように、リチウムイオン(Li
+)と電子(e
−)となる。そして、リチウムイオン(Li
+)は、非水系電解液に溶解する。また、電子(e
−)は負極集電体7を介して電池の外部に供給される。ここで、リチウム4の厚さや面積を変えることで、電池容量の設計値をコントロールすることができる。
【0042】
【化1】
【0043】
また、正極3には、電子が供給され、空気中の酸素と水が反応して水酸イオン(OH
−)が生じる(式2)。さらに、この水酸イオン(OH
−)が正極でリチウムイオン(Li
+)と反応し、水酸化リチウム(LiOH)となる。
【0044】
【化2】
【0045】
次に、充電時の作用について説明する。本実施例に係るリチウム空気電池1を充電する際には、負極集電体7では、正極3から供給されたリチウムイオンが固体電解質2、及び、図示しないセパレーターを通り抜けて負極集電体7に達することで、金属リチウムの析出反応が生じる(式3)。
【0046】
【化3】
【0047】
この際、水系電解液が、第一のフィルム5の凹み部によって、正極3と固体電解質2との間に、安定的に保持されることとなる。これにより、水系電解液の充てん量を必要最低限に抑えることができる。結果として、本実施例に係るリチウム空気電池1の容量、重量あたりのエネルギー密度を高めることができる。
【0048】
一方、非水系電解液は、第一のフィルム5の凹み部と第二のフィルム9の凹み部との間に安定的に保持されることとなる。これにより、非水系電解液が、負極集電体7におけるリチウム4の周囲に安定的に保持される。その結果、非水系電解液の重量も最小限にできるため高いエネルギー密度を得ることができる。
【0049】
また、正極3においては、式4に示すような、酸素発生反応が生じる。
【0050】
【化4】
【0051】
ここで、本実施例1に係るリチウム空気電池1の部品に用いる材料について、以下に説明する。
【0052】
まず、本実施例1においては、第一のフィルム5及び第二のフィルム9は、樹脂層に金属箔を蒸着した金属層と、その金属層の樹脂層と反対側の面に更に別の樹脂層を設けることで作製されている。第一のフィルム5及び第二のフィルム9における樹脂層には、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂を用いることができる。
【0053】
ポリオレフィン系樹脂は、熱可塑性で、ヒートシール(熱溶着)に適しており、電池セルの製造が容易となる。また、ポリオレフィン系樹脂の反対面にポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂や、ナイロン系樹脂を用いることもできる。これらの樹脂材料は、耐熱性及び強度に優れている。そのため、第一のフィルム5及び第二のフィルム9の耐久性、耐熱性、強度等を向上することができる。
【0054】
また、金属層には、アルミ箔、SUS箔、銅箔等の金属箔を使用することができる。これらの層を設けることで、ガスバリア性及び強度を向上することができる。
【0055】
固体電解質2には、例えば、リチウムイオン伝導性に優れ不燃性であるガラスセラミック等を用いることができる。また特に、電解液に水系の電解液を用いた場合には、耐水性の高いLTAP系ガラスセラミック電解質を用いることができる。LTAPとはNASICON型の結晶構造をもつLi、Ti、Al、P、Si、O等からなる酸化物をいう。
【0056】
図示しないセパレーターの材料には、例えば、リチウムイオン電池等のセパレーターとして使用される多孔質のポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、セルロース等のシートが挙げられる。これらの材料以外に、多孔質構造を持つアラミド、ポリテトラフルオロエチレン、毛細管状構造の酸化アルミニウム等の材質が挙げられる。これらのセパレーターに電解液(非水系電解液、有機電解液)又はポリマー電解質等を含浸させたものを用いることができる。
【0057】
電解液には、例えば、水系電解液には、水に溶解させるリチウム塩としては、例えば、LiCl(塩化リチウム)、LiOH(水酸化リチウム)、LiNO3(硝酸リチウム)、CH3COOLi(酢酸リチウム)が挙げられ、それらの混合溶液等を用いてもよい。
【0058】
また、非水系電解液には、PC(プロピレンカーボネート)、EC(エチレンカーボネート)、DMC(ジメチルカーボネート)、EMC(エチルメチルカーボネート)等の混合溶媒に、電解質であるLiPF6(六フッ化リン酸リチウム)、LiClO4(過塩素酸リチウム)、LiBF4(テトラフルオロほう酸リチウム)、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)等を添加したものを用いることができる。
【0059】
[その他の態様]
前述した実施形態及び実施例の説明は、実施形態、及び実施例1に係るリチウム空気電池の負極複合体構造を説明するための例示であって、特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。また、本発明の各部構成は前述した実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【0060】
例えば、上記の実施形態、及び実施例1において、第一のフィルム及び第二のフィルムの凹み部の形状は、必ずしも矩形状である必要はなく、円形や多角形等、用途に応じて様々な形に変形することができる。また、同様に、負極集電体7に積載したリチウム4は、必ずしも矩形状である必要はなく、円形や多角形であってもよい。さらに、リチウム4、非水系電解液、水系電解液の容量は、所望のエネルギーを得るために、適宜変更が可能である。これに伴い、第一のフィルム5及び第二のフィルム9の凹み部の大きさ及び深さも適宜変更が可能である。
【0061】
ここで、本実施例1に係るリチウム空気電池1の作製方法について、その一具体例を説明する。
【0062】
<負極複合体の作製>
まず、負極複合体の作製方法について説明する。ここでいう負極複合体とは、第一のフィルム5及び第二のフィルム9により囲まれた領域(負極集電体7、固体電解質2、リチウム4、非水系電解液、セパレーターを含む)を指す。
【0063】
第一のフィルム5及び第二のフィルム9には、凹形状を形成する。材料となるラミネートフィルムは、アルミニウム、ステンレスなどの金属箔の両面に樹脂コーティングが施されているものを使用する。また、少なくとも片方の面はポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂がコーティングされているものを使用する。
【0064】
第一のフィルム及び第二のフィルムには、60×60mm程度の同じ型(パンチ、ダイ)を使用して深さ違いの凹み部をそれぞれ製作する。このとき、第二のフィルム9の凹みは、第一のフィルム5の凹み部よりも深く形成する。本実施例においては、第一のフィルム5には、熱可塑性樹脂側の面を凸面とし深さ5mmの凹み部を形成する。また、第二のフィルム9には、熱可塑性樹脂側の面を凹面として深さ9mmの凹み部を形成する。
【0065】
第一のフィルム5の中央に45mm角の穴を開ける。この穴に50mm角の固体電解質薄板(例えば、株式会社オハラ製LICGC)を凸側から口型に打抜いた熱溶着フィルム(酸変性ポリプロピレンフィルム)を使って熱溶着する。さらに固体電解質の表面が金属リチウムと接触しないようにセパレータ(多孔質ポリエチレンフィルム)で覆う。
【0066】
第一のフィルム5と第二のフィルム9を、グローブボックスなどを用いて、水分及び酸素が低濃度な雰囲気下で組み立てる。第一のフィルム5の凸側中央部には、銅箔とリチウム金属箔を貼り合わせた箔を配置する。この箔のうち、銅箔の一部を導電部(タブ)として細長く伸ばし第一のフィルム5の外まで出しておく。この上に第二のフィルム9を、凹み部の方向を第一のフィルム5と同じ方向にして重ねる。さらに、タブを挟んだ辺を含む3辺のフランジを熱溶着する。残った1辺から非水系電解液(1MLiTFSI/PC:EMC=1:1)を負極複合体内に約4mL注入し、内部にガスが残らないようにして最後の1辺を熱溶着し負極複合体とする。
【0067】
<水系電解液の注液>
負極複合体の凹面を上側にして配置し、凹みに水系電解液を入れる。水系電解液は塩化リチウム等の潮解性物質を含むものとし、塩化リチウムであれば重量で負極複合体内の金属リチウムの15倍以上を含ませる。15倍は負極複合体内の金属リチウムが全て反応するために必要となるモル数で1.5倍の水を含む飽和水溶液を作るために必要な塩化リチウムの重量である。なお、この水系電解液はポリアクリルアミド樹脂等でゲル化しても良く、その際にはゲルに必要量の潮解性物質を混合する。
【0068】
<正極の作製>
触媒としてMnO
2を0.8gと、導電助剤としてケッチェンブラック(比表面積800m2/g)0.1gと、バインダー(結着剤)としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)0.1gを計り取り、エタノールを5mL加えてメノウ乳鉢で混練する。混練物を50×50mm程度のシートに圧延し、多孔質のカーボンペーパーなどの60×60mm以上の薄板に圧着する。
【0069】
<空気電池の作製>
水系電解液を封入した第一のフィルム5の凹み部に蓋をするように、正極3を載せて空気電池とする。
【0070】
なお、ここで示したリチウム空気電池1の製造方法は一例であり、これに限られるものではない。