特許第6601342号(P6601342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6601342
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】リチウム空気電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/08 20060101AFI20191028BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20191028BHJP
【FI】
   H01M12/08 K
   H01M4/90 X
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-154631(P2016-154631)
(22)【出願日】2016年8月5日
(65)【公開番号】特開2018-22655(P2018-22655A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2018年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】密岡 重日
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−238985(JP,A)
【文献】 特表2009−505355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/00−16/00
H01M 4/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面状の正極と、水系電解液と、固体電解質と、前記正極面に前記系電解液を封止する第一のフィルムとを備え、
前記第一のフィルムは、前記水系電解液を収める凹み部と、該凹み部に設けた孔とを有し、
前記固体電解質が前記孔を塞いでいるリチウム空気電池。
【請求項2】
第二のフィルムをさらに備え、前記第二のフィルムは凹み部を有し、該凹み部は、前記第一のフィルムの凹み部を覆っている、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項3】
負極集電体と、前記負極集電体に積層した金属リチウム、リチウムを主成分とする合金、またはリチウムを主成分とする化合物を、前記第一のフィルムと前記第二のフィルムとの間に備えた、請求項2に記載のリチウム空気電池。
【請求項4】
前記正極は、カーボンクロス、カーボン不織布、カーボンペーパーのいずれかである請
求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のリチウム空気電池。
【請求項5】
前記第一のフィルムと前記固体電解質とが、熱溶着フィルムによって接合されている請
求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載のリチウム空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム空気電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、従来のリチウムイオン電池よりも高いエネルギー密度を得られる次世代の電池として、金属空気電池が提案されている。金属空気電池は、金属を負極活性物質とし、空気中の酸素を正極活性物質とする電池である。また、この金属空気電池においては、負極活性物質に金属リチウムを用いた場合、理論上の単位重量あたりの発生エネルギーがより大きくなると言われており、特に注目されている。このように、負極活性物質に金属リチウムを用いた金属空気電池は、リチウム空気電池と呼ばれる。
【0003】
金属空気電池においては、種々の軽量化、小型化、低コスト化等の技術が開発されている。例えば、特許文献1には、外装容器をラミネートシートによって作ることで、低コスト化を図ったものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−288571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、リチウム空気電池においては、リチウム金属と水系電解液の接触を防止するために、両者を隔離する必要がある。また、電池のエネルギー密度を高めるためには、水系電解液が、正極と固体電解質との間に安定的に保持されている必要がある。一方で、特許文献1に開示される金属空気電池においては、亜鉛合金粉と水系電解液とを混合した負極金属ゲルを負極集電体に設置した構造を採用している。そのため、このような構造をリチウム空気電池に採用することは困難である。
【0006】
以上のような事情に対して、本発明の目的は、水系電解液を正極面と固体電解質との間に安定的に保持することができるリチウム空気電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明に係るリチウム空気電池は、平面状の正極と、水系電解液と、固体電解質と、前記正極面に前記系電解液を封止する第一のフィルムとを備え、前記第一のフィルムは、前記水系電解液を収める凹み部と、該凹み部に設けた孔とを有し、前記固体電解質が前記孔を塞いでいる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水系電解液を正極面と固体電解質との間に安定して保持することができるリチウム空気電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施例に係るリチウム空気電池の断面図である。
図2】第1の実施例に係るリチウム空気電池の第一のフィルムを示す斜視図である。
図3】第1の実施例に係るリチウム空気電池の負極複合体を示す斜視図である。
図4】第1の実施例に係るリチウム空気電池の第二のフィルムを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態に係るリチウム空気電池は、平面状の正極の下側に、第一のフィルムを備えている。また、この第一のフィルムは、凹み部を備えている。さらに、凹み部には、孔が設けられている。そして、この孔は、固体電解質によって塞がれている。さらに、平面状の正極と、第一のフィルムにおける凹み部とで形成される空間には、水系電解液が封入されている。
ここでいう固体電解質とは、電圧を印可することによりイオン(リチウムイオン)を透過することができる固体の物質をいう。本実施形態においては、この固体電解質は、比較的薄いプレート状とすることができる。
【0011】
ここで、第一のフィルムに、凹み部が存在することによって、水系電解液を、第一のフィルムの凹み部内に安定的に保持することができる。これにより、水系電解液が、エネルギー生成に寄与しないその他の場所に流れることを防止できる。そのため、余剰な電解液の存在を削減することができ、エネルギー密度の高いリチウム空気電池を提供することができる。また、本実施形態に係るリチウム空気電池を製造する過程において、水系電解液を注入する際に、あらかじめ凹み部が存在することによって水系電解液がこぼれにくくなる。
【0012】
また、水系電解液の注入方法に関しては、固化していないポリマー(例えばポリアクリルアミド)を第一のフィルムにおける凹み部に注入し、固化させるという方法を採用することができる。このような方法を採用することで、ポリマーと正極との密着性を向上させることができる。これにより、本実施形態にかかるリチウム空気電池の出力効率を高めることができる。
【0013】
また、本実施形態によれば、正極は平面形状となっている。そのため、正極に変形を加える加工の必要がなくなり、生産性が向上する。さらに、例えばカーボンペーパーのような、形状の加工が難しい材料を正極に採用することが可能となる。
【0014】
また、本発明の別の形態では、本実施形態に係るリチウム空気電池は、前記第一のフィルムを前記正極に封止する第二のフィルムを有し、前記第二のフィルムは凹み部を有し、該凹み部は、前記第一のフィルムの凹み部を覆っているものとすることができる。
【0015】
ここで、本実施形態において、第二のフィルムは、リチウム空気電池の最外殻の一部を形成する外装材となる。そこで、このように、凹み部を設けることで、薄い素材で作製された第二のフィルムの形状が安定する。これにより、非水系電解液の注入作業を安定的に行うことができる。したがって、本実施形態におけるリチウム空気電池の生産性が向上する。
【0016】
また、本発明の別の形態では、本実施形態に係るリチウム空気電池は、負極と、負極に積層した金属リチウム、リチウムを主成分とする合金、またはリチウムを主成分とする化合物を、第一のフィルムと第二のフィルムとの間に備えたものとすることができる。
【0017】
なお、本実施形態において、負極は、第一のフィルムの凹み部の周縁部、及び、第二のフィルムの凹み部の周縁部の間で、熱溶着フィルムを介して第一のフィルムに溶着されている。これにより、第一のフィルムと第二のフィルムとの間に注入された非水系電解液を安定的に封止することができる。
【0018】
また、本発明の別の形態では、本実施形態に係るリチウム空気電池は、正極の材料として、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン不織布等を使用することができる。
【0019】
なお、ここでいうカーボンクロスとは、カーボンファイバー等で織られた布状のシートのことを指し、カーボン不織布とは、カーボンファイバー等をランダムに絡み合わせたフェルト状のシートを指す。
【0020】
本実施形態のように、電解液に水系の電解液を用いる場合、正極には、電解液に対する耐腐食性が必要となる。そこで、正極の材料として、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン不織布等を使用することで、酸及びアルカリ水溶液に対する高い耐腐食性を確保することができる。また、これらの材料は、導電性が高く、軽量であるため、質量あたりのエネルギー密度の高いリチウム空気電池を提供することができる。
【0021】
これらのカーボン系材料を正極に用いた場合、形状を加工することが困難な場合がある。しかしながら、本実施形態においては、正極を平面形状とするため、困難な形状の加工が不要である。また、正極を平面形状とすることで、正極の重量を最小にすることができる。
【0022】
また、本発明の別の形態では、本実施形態に係るリチウム空気電池は、第一のフィルムと固体電解質とが、熱溶着フィルムによって接合されているものとすることができる。
【0023】
このように、熱による溶着を可能とすることで、本実施形態に係るリチウム空気電池の生産を容易にすることができる。また、熱溶着フィルムによって接合することで、強固に接合することができる。これにより、水系電解液及び非水系電解液の漏えいを、容易かつ強固に防止することができる。
【実施例1】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係るリチウム空気電池の実施例1を詳細かつ具体的に説明する。
【0025】
まず、図1を用いて、実施例1に係るリチウム空気電池の構造について説明する。図1に示すように、実施例1に係るリチウム空気電池1は、平面状の正極3の下側に、第一のフィルム5、負極集電体7、第二のフィルム9が層状に備えられている。
【0026】
第一のフィルム5は、中央部付近に矩形状の凹み部を有している。この凹み部は、第一のフィルム5と正極3とが積層された際に、両者の間に空間を作り出す。また、この凹み部の底部には、孔57が設けられている。さらに、この凹み部の底部には、熱溶着フィルム15を介して、固体電解質2が接合されている。そして、固体電解質2は、孔57を塞いでいる。
【0027】
図1に示すように、正極3、第一のフィルム5、固体電解質2で囲まれた空間には、図示しない水系電解液が封入されている。水系電解液には、例えば、塩化リチウム(LiCl)のような潮解性物質の飽和水溶液、又は、この水溶液をポリマーに吸水させたものを用いる。
【0028】
第一のフィルム5の図1中下側には、第二のフィルム9が設けられている。第二のフィルム9は、第一のフィルム5の凹み部よりも深く作られた凹み部を備えている。この第二のフィルム9の凹み部は、第一のフィルム5の凹み部と対応する箇所に作られている。これにより、第二のフィルム9の凹み部は、第一のフィルム5の凹み部の外周を覆っている。
【0029】
第二のフィルム9と、負極集電体7との間には、熱溶着フィルム13が配置されている。この熱溶着フィルム13を介して、第二のフィルム9と負極集電体7とは、熱溶着されている。また、第一のフィルム5と、第二のフィルム9とは、熱溶着フィルムを介さずに熱溶着により溶着されている。なお、第一のフィルム5、固体電解質2、第二のフィルム9で囲まれる領域には、図示しない非水系電解液が封入されている。
【0030】
図1に示すように、第一のフィルム5の下側、かつ第二のフィルム9の上側には、負極集電体7が配置されている。負極集電体7は、第一のフィルム5の凹み部の外壁に沿って湾曲した形状となっている。また、負極集電体7の、上側の面のうち、固体電解質2に対応する位置にはリチウム金属4が設けられている。このとき、リチウム金属4と固体電解質2の間に多孔性樹脂シートのようなセパレータを配置して直接の接触を防ぐこともできる。
【0031】
このような構造とすることで、リチウム空気電池1の製造時に、負極集電体7を第二のフィルム9の凹み部に収めることができ、生産が容易となる。また、負極集電体7は銅箔のような変形が容易で軽量の材料であるため、第一のフィルム5の凹み部と、第二のフィルム9の凹み部との間に配置することで、正極3の形状を加工する必要がなくなる。したがって、正極3を平面状とすることができる。
【0032】
ここで、図1に示すように、第二のフィルム9における上部91は、第一のフィルム9の上部51の形状と、ほぼ対応する形状をしている。また、第二のフィルム9の壁部93は、第一のフィルム5の壁部53及び負極集電体7の壁部73の長さよりも長く形成されている。さらに、第二のフィルム9の底部95の上側の面の大きさは、負極集電体7の底部75の下側の面の大きさよりも大きく形成されている。
【0033】
これらのような形状及び構成により、第二のフィルム9は、第一のフィルム5及び負極集電体7を、下側から覆っている。このとき、第二のフィルムにおける凹み部は、第一のフィルム5における凹み部(壁部53、底部55)、固体電解質2、負極集電体7における壁部73、底部75、リチウム4を、下側から覆っている。
【0034】
図1に示すように、本実施例1においては、第一のフィルム5と固体電解質2とが、間に熱溶着フィルム15を介して熱溶着されている。
【0035】
また、第二のフィルム9と負極集電体7とは、熱溶着フィルム13を介すことにより熱溶着されている。また、第一のフィルム5と第二のフィルム9とは、フィルム同士を熱溶着することにより、接合されている。
【0036】
さらに、固体電解質2とリチウム4との間には、図示しないセパレーターが設けられている。このセパレーターが介在することによって、固体電解質2とリチウム4とが、接触しないようになっている。ここでいうセパレーターとは、多孔質樹脂フィルムのようなリチウムイオン等を透過する性質のものをいう。このセパレーターにより、固体電解質とリチウムとが、直接接触することを防ぐことができる。
【0037】
図2は、第一のフィルム5の斜視図である。図2に示すように、第一のフィルム5は、中央部に矩形状の凹み部を備えている。そして、この凹み部を囲う枠状の平面である上部51、凹み部の壁面を形成する壁部53、凹み部の底部を形成する底部55を備えている。また、底部55の中央部付近には、矩形状の孔(図1における孔57)が設けられている。さらに、底部55の下面側には、固体電解質2が熱溶着フィルム(図1における熱溶着フィルム15)を介して取り付けてある。これにより、固体電解質2が、底部55の孔を塞いでいる。
【0038】
図3は、負極集電体7の斜視図である。図3に示すように、負極集電体7は、上部71、壁部73、底部75を備えている。これらの構成があることによって、負極集電体7は、第一のフィルム5の凹み部の外側に沿って配置されている。具体的には、負極集電体7の上部71は、第一のフィルム5の上部51の外側に沿うように配置されている。また、負極集電体7の壁部73は、第一のフィルム5の壁部53の外側に沿うように配置されている。さらに、負極集電体7の底部75は、第一のフィルム5の底部55の下側に、略平行に位置するように形成されている。ここで、壁部73は、壁部53の長さよりも若干長く形成されている。これにより、第一のフィルム5の下面と、負極集電体7の下面との間には若干の隙間が形成される。
【0039】
図4は、第二のフィルム9の斜視図である。図4に示すように、第二のフィルム9は、中央部に矩形状の凹み部を備えている。そして、この凹み部を囲う枠状の平面である上部91、凹み部の壁面を形成する壁部93、凹み部の底部を形成する底部95を備えている。
【0040】
ここで、本実施例1に係るリチウム空気電池1の放電及び充電時の作用について説明する。
【0041】
まず放電時の作用について説明する。負極集電体7に備えられたリチウム4(金属)は、式1に示すように、リチウムイオン(Li)と電子(e)となる。そして、リチウムイオン(Li)は、非水系電解液に溶解する。また、電子(e)は負極集電体7を介して電池の外部に供給される。ここで、リチウム4の厚さや面積を変えることで、電池容量の設計値をコントロールすることができる。
【0042】
【化1】
【0043】
また、正極3には、電子が供給され、空気中の酸素と水が反応して水酸イオン(OH)が生じる(式2)。さらに、この水酸イオン(OH)が正極でリチウムイオン(Li)と反応し、水酸化リチウム(LiOH)となる。
【0044】
【化2】
【0045】
次に、充電時の作用について説明する。本実施例に係るリチウム空気電池1を充電する際には、負極集電体7では、正極3から供給されたリチウムイオンが固体電解質2、及び、図示しないセパレーターを通り抜けて負極集電体7に達することで、金属リチウムの析出反応が生じる(式3)。
【0046】
【化3】
【0047】
この際、水系電解液が、第一のフィルム5の凹み部によって、正極3と固体電解質2との間に、安定的に保持されることとなる。これにより、水系電解液の充てん量を必要最低限に抑えることができる。結果として、本実施例に係るリチウム空気電池1の容量、重量あたりのエネルギー密度を高めることができる。
【0048】
一方、非水系電解液は、第一のフィルム5の凹み部と第二のフィルム9の凹み部との間に安定的に保持されることとなる。これにより、非水系電解液が、負極集電体7におけるリチウム4の周囲に安定的に保持される。その結果、非水系電解液の重量も最小限にできるため高いエネルギー密度を得ることができる。
【0049】
また、正極3においては、式4に示すような、酸素発生反応が生じる。
【0050】
【化4】
【0051】
ここで、本実施例1に係るリチウム空気電池1の部品に用いる材料について、以下に説明する。
【0052】
まず、本実施例1においては、第一のフィルム5及び第二のフィルム9は、樹脂層に金属箔を蒸着した金属層と、その金属層の樹脂層と反対側の面に更に別の樹脂層を設けることで作製されている。第一のフィルム5及び第二のフィルム9における樹脂層には、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂を用いることができる。
【0053】
ポリオレフィン系樹脂は、熱可塑性で、ヒートシール(熱溶着)に適しており、電池セルの製造が容易となる。また、ポリオレフィン系樹脂の反対面にポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂や、ナイロン系樹脂を用いることもできる。これらの樹脂材料は、耐熱性及び強度に優れている。そのため、第一のフィルム5及び第二のフィルム9の耐久性、耐熱性、強度等を向上することができる。
【0054】
また、金属層には、アルミ箔、SUS箔、銅箔等の金属箔を使用することができる。これらの層を設けることで、ガスバリア性及び強度を向上することができる。
【0055】
固体電解質2には、例えば、リチウムイオン伝導性に優れ不燃性であるガラスセラミック等を用いることができる。また特に、電解液に水系の電解液を用いた場合には、耐水性の高いLTAP系ガラスセラミック電解質を用いることができる。LTAPとはNASICON型の結晶構造をもつLi、Ti、Al、P、Si、O等からなる酸化物をいう。
【0056】
図示しないセパレーターの材料には、例えば、リチウムイオン電池等のセパレーターとして使用される多孔質のポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、セルロース等のシートが挙げられる。これらの材料以外に、多孔質構造を持つアラミド、ポリテトラフルオロエチレン、毛細管状構造の酸化アルミニウム等の材質が挙げられる。これらのセパレーターに電解液(非水系電解液、有機電解液)又はポリマー電解質等を含浸させたものを用いることができる。
【0057】
電解液には、例えば、水系電解液には、水に溶解させるリチウム塩としては、例えば、LiCl(塩化リチウム)、LiOH(水酸化リチウム)、LiNO3(硝酸リチウム)、CH3COOLi(酢酸リチウム)が挙げられ、それらの混合溶液等を用いてもよい。
【0058】
また、非水系電解液には、PC(プロピレンカーボネート)、EC(エチレンカーボネート)、DMC(ジメチルカーボネート)、EMC(エチルメチルカーボネート)等の混合溶媒に、電解質であるLiPF6(六フッ化リン酸リチウム)、LiClO4(過塩素酸リチウム)、LiBF4(テトラフルオロほう酸リチウム)、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)等を添加したものを用いることができる。
【0059】
[その他の態様]
前述した実施形態及び実施例の説明は、実施形態、及び実施例1に係るリチウム空気電池の負極複合体構造を説明するための例示であって、特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。また、本発明の各部構成は前述した実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【0060】
例えば、上記の実施形態、及び実施例1において、第一のフィルム及び第二のフィルムの凹み部の形状は、必ずしも矩形状である必要はなく、円形や多角形等、用途に応じて様々な形に変形することができる。また、同様に、負極集電体7に積載したリチウム4は、必ずしも矩形状である必要はなく、円形や多角形であってもよい。さらに、リチウム4、非水系電解液、水系電解液の容量は、所望のエネルギーを得るために、適宜変更が可能である。これに伴い、第一のフィルム5及び第二のフィルム9の凹み部の大きさ及び深さも適宜変更が可能である。
【0061】
ここで、本実施例1に係るリチウム空気電池1の作製方法について、その一具体例を説明する。
【0062】
<負極複合体の作製>
まず、負極複合体の作製方法について説明する。ここでいう負極複合体とは、第一のフィルム5及び第二のフィルム9により囲まれた領域(負極集電体7、固体電解質2、リチウム4、非水系電解液、セパレーターを含む)を指す。
【0063】
第一のフィルム5及び第二のフィルム9には、凹形状を形成する。材料となるラミネートフィルムは、アルミニウム、ステンレスなどの金属箔の両面に樹脂コーティングが施されているものを使用する。また、少なくとも片方の面はポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂がコーティングされているものを使用する。
【0064】
第一のフィルム及び第二のフィルムには、60×60mm程度の同じ型(パンチ、ダイ)を使用して深さ違いの凹み部をそれぞれ製作する。このとき、第二のフィルム9の凹みは、第一のフィルム5の凹み部よりも深く形成する。本実施例においては、第一のフィルム5には、熱可塑性樹脂側の面を凸面とし深さ5mmの凹み部を形成する。また、第二のフィルム9には、熱可塑性樹脂側の面を凹面として深さ9mmの凹み部を形成する。
【0065】
第一のフィルム5の中央に45mm角の穴を開ける。この穴に50mm角の固体電解質薄板(例えば、株式会社オハラ製LICGC)を凸側から口型に打抜いた熱溶着フィルム(酸変性ポリプロピレンフィルム)を使って熱溶着する。さらに固体電解質の表面が金属リチウムと接触しないようにセパレータ(多孔質ポリエチレンフィルム)で覆う。
【0066】
第一のフィルム5と第二のフィルム9を、グローブボックスなどを用いて、水分及び酸素が低濃度な雰囲気下で組み立てる。第一のフィルム5の凸側中央部には、銅箔とリチウム金属箔を貼り合わせた箔を配置する。この箔のうち、銅箔の一部を導電部(タブ)として細長く伸ばし第一のフィルム5の外まで出しておく。この上に第二のフィルム9を、凹み部の方向を第一のフィルム5と同じ方向にして重ねる。さらに、タブを挟んだ辺を含む3辺のフランジを熱溶着する。残った1辺から非水系電解液(1MLiTFSI/PC:EMC=1:1)を負極複合体内に約4mL注入し、内部にガスが残らないようにして最後の1辺を熱溶着し負極複合体とする。
【0067】
<水系電解液の注液>
負極複合体の凹面を上側にして配置し、凹みに水系電解液を入れる。水系電解液は塩化リチウム等の潮解性物質を含むものとし、塩化リチウムであれば重量で負極複合体内の金属リチウムの15倍以上を含ませる。15倍は負極複合体内の金属リチウムが全て反応するために必要となるモル数で1.5倍の水を含む飽和水溶液を作るために必要な塩化リチウムの重量である。なお、この水系電解液はポリアクリルアミド樹脂等でゲル化しても良く、その際にはゲルに必要量の潮解性物質を混合する。
【0068】
<正極の作製>
触媒としてMnOを0.8gと、導電助剤としてケッチェンブラック(比表面積800m2/g)0.1gと、バインダー(結着剤)としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)0.1gを計り取り、エタノールを5mL加えてメノウ乳鉢で混練する。混練物を50×50mm程度のシートに圧延し、多孔質のカーボンペーパーなどの60×60mm以上の薄板に圧着する。
【0069】
<空気電池の作製>
水系電解液を封入した第一のフィルム5の凹み部に蓋をするように、正極3を載せて空気電池とする。
【0070】
なお、ここで示したリチウム空気電池1の製造方法は一例であり、これに限られるものではない。
【符号の説明】
【0071】
1 リチウム空気電池
2 固体電解質
3 正極
4 リチウム
5 第一のフィルム
7 負極集電体
9 第二のフィルム
11 熱溶着フィルム
13 熱溶着フィルム
15 熱溶着フィルム
51 上部
53 壁部
55 底部
57 孔
71 上部
73 壁部
75 底部
91 上部
93 壁部
95 底部
図1
図2
図3
図4