(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、特許文献1に記載されているような、支持体上の流延膜を乾燥させるために、乾燥風を吹き出す乾燥装置を用いた場合、その乾燥風が、流延リボンに影響を与えることに着目し、以下のような本発明に想到するに到った。
【0014】
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0015】
本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、透明性樹脂を含有する樹脂溶液(ドープ)を、走行する支持体上に流延ダイから流延して流延膜(ウェブ)を形成する流延工程と、前記流延膜を前記支持体からフィルムとして剥離する剥離工程とを備える、いわゆる溶液流延製膜法による製造方法である。また、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、前記支持体上の流延膜を剥離する前に、乾燥装置(流延膜乾燥装置)から吹き出された乾燥風をあてて、前記流延膜を乾燥させる乾燥工程(流延膜乾燥工程)を備える。そして、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、前記流延ダイと前記流延膜乾燥装置との間の前記流延膜の上方での、前記流延ダイから吐出された樹脂溶液が前記支持体上に接地するまでの流延リボンに向かう前記乾燥風の流動を防止する防止機構を用いる。さらに、樹脂フィルムの製造方法としては、上記各工程に加えて、剥離したフィルムを延伸させる延伸工程や剥離したフィルムを乾燥させる乾燥工程(フィルム乾燥工程)を備えていてもよい。そして、樹脂フィルムの製造方法としては、例えば、
図1に示すような溶液流延製膜法による樹脂フィルムの製造装置等によって行う方法等が挙げられる。なお、樹脂フィルムの製造装置は、
図1に示すもの限定されず、他の構成のものであってもよい。また、
図1は、本発明の実施形態における、樹脂フィルムの製造装置の基本的な構成の一例を示す概略図である。また、ここでのフィルムとは、支持体上に流延されたドープからなる流延膜(ウェブ)が支持体上で乾燥され、支持体から剥離しうる状態となった以後のものをいう。
【0016】
樹脂フィルムの製造装置は、無端ベルト支持体11、流延ダイ20、流延膜乾燥装置31,32、剥離ローラ13、延伸装置16、フィルム乾燥装置17、及び巻取装置19等を備える。流延ダイ20は、透明性樹脂を含有する樹脂溶液(ドープ)14をリボン状に吐出して、無端ベルト支持体11の表面上に流延する。前記無端ベルト支持体11は、一対のローラ12によって駆動可能に支持され、流延ダイ20から流延された樹脂溶液14からなる流延膜(ウェブ)を形成し、搬送する。流延膜乾燥装置31,32は、前記無端ベルト支持体11や、前記無端ベルト支持体11上の流延膜に、乾燥風をあてて、前記流延膜を乾燥させる。前記無端ベルト支持体11上の流延膜は、流延膜の搬送時における乾燥や流延膜乾燥装置31,32による乾燥により、前記剥離ローラ13で剥離可能な程度まで乾燥される。そして、前記剥離ローラ13は、ある程度乾燥した流延膜を前記無端ベルト支持体11から剥離して、フィルム15を得る。剥離されたフィルム15は、延伸装置16によって、幅方向等の所定の方向に延伸される。また、延伸されたフィルム15は、フィルム乾燥装置17によって、さらに乾燥され、乾燥されたフィルムFを樹脂フィルムとして巻取装置19によって、ロール状に巻き取る。
【0017】
前記流延ダイ20は、ドープ14をリボン状に吐出して、無端ベルト支持体11の表面上に流延することができれば、特に限定されない。また、前記流延ダイ20は、
図2及び
図3に示すように、流延ダイ本体21とドープ供給管22とを備えている。前記ドープ供給管22は、前記流延ダイ本体21の上端部に接続され、流延ダイ本体21内にドープ14を供給する。前記流延ダイ本体21は、ドープを前記無端ベルト支持体11に安定して流延させるためのマニホールド部21a、ドープ14を吐出することによりドープ14を無端ベルト支持体11に流延させるための吐出口21b、及び前記マニホールド部21aと前記吐出口21bとの間に形成され、前記マニホールド部21aから前記吐出口21bに向かって、ドープ14を通過させるためのスリット部21cを備える。なお、
図2及び
図3は、
図1に示す樹脂フィルムの製造装置における、流延ダイ及び流延膜乾燥装置の周辺を示す概略断面図である。また、前記流延ダイ20から吐出された樹脂溶液(ドープ)14は、前記流延ダイ20から吐出され、前記無端ベルト支持体11上に接地するまでを、流延リボン14aとも呼び、前記無端ベルト支持体11上に接地された以後を、流延膜(ウェブ)14bとも呼ぶ。
【0018】
無端ベルト支持体11は、
図1に示すように、無限に走行する無端ベルトであり、例えば、表面が鏡面の、無限に走行する金属製の無端ベルト等が好ましく用いられる。無端ベルトとしては、流延膜の剥離性の点から、例えば、ステンレス鋼等からなるベルトが好ましく用いられる。流延ダイ20によって流延する流延膜の幅は、無端ベルト支持体11の幅を有効活用する観点から、無端ベルト支持体11の幅に対して、80〜99%とすることが好ましい。そして、例えば、最終的に1500〜4000mmの幅の樹脂フィルムを得るためには、無端ベルト支持体11の幅は、1800〜4500mmであることが好ましい。また、無端ベルト支持体の代わりに、ドラム支持体を用いてもよい。このドラム支持体としては、例えば、表面が鏡面の、回転する金属製のドラム等が好ましく用いられる。
【0019】
また、無端ベルト支持体11の走行速度は、特に限定されないが、例えば、50〜200m/分程度であることが好ましい。また、流延ダイ20からのドープ14の吐出速度に対する無端ベルト支持体11の走行速度の比であるドラフト比は、特に限定されないが、例えば、0.8〜5.0程度であることが好ましい。前記ドラフト比がこの範囲内であると、安定して流延膜を形成させることができる。例えば、ドラフト比が大きすぎると、流延膜が幅方向に縮小されるネックインという現象を発生させる傾向があり、そうなると、広幅のフィルムを形成できなくなる。
【0020】
そして、無端ベルト支持体11は、その表面上に形成された流延膜(ウェブ)14bを搬送しながら、ドープ中の溶媒を乾燥させる。前記流延膜14bは、まず、前記無端ベルト支持体11の回転により、搬送される際に、ドープ中の溶媒が徐々に揮発して、乾燥される。また、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法では、流延膜乾燥装置31から吹き出された乾燥風を前記無端ベルト支持体11上の流延膜14bにあてて、前記流延膜14bを乾燥する。また、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法では、流延膜乾燥装置31からの乾燥風だけではなく、前記無端ベルト支持体11の、流延膜14bが形成されていない側の面に、乾燥風をあてる流延膜乾燥装置32を用いて乾燥する。本実施形態では、流延膜乾燥装置32を用いているが、流延膜乾燥装置32は用いなくてもよい。なお、本実施形態において、流延膜にあてる乾燥風を吹き出す乾燥装置は、前記流延膜乾燥装置31である。
【0021】
前記流延膜乾燥装置31は、前記無端ベルト支持体11上の流延膜14bに、乾燥風をあてて、流延膜14bを乾燥させる装置である。この流延膜乾燥装置31は、流延膜14bの上方に位置し、流延膜側に複数のスリット34が形成された装置本体31aと、装置本体31a内に乾燥風35を供給するための乾燥風供給管33とを備える。この流延膜乾燥装置31は、乾燥風供給管33から装置本体31a内に乾燥風35が供給されると、その供給された乾燥風が、スリット34から流延膜14bにむかって吹き出される。この乾燥風が、流延膜14bにあたることで、流延膜を乾燥させる。また、この乾燥風は、流延膜の乾燥性を高めるために、加熱風であってもよい。
【0022】
また、スリット34は、乾燥風が流延膜14bにむかって吹き出されるスリットであれば、特に限定されないが、乾燥風の流動方向が、無端ベルト支持体11の走行方向下流に向かって傾斜して吹き出されるスリットであることが、乾燥風が流延リボン14aに与える影響が低減する点から好ましい。また、前記スリット34から吹き出される乾燥風と、前記無端ベルト支持体11の表面とのなす角が、0〜45°であることが好ましく、15〜30°であることがより好ましい。この角が小さすぎると、スリット34から吹き出された乾燥風が、無端ベルト支持体11上の流延膜14bに到達するまでの距離が長くなり、乾燥風が流延膜14bに衝突する速度が遅くなりすぎて、乾燥効率が低下するという傾向がある。また、この角が大きすぎると、乾燥風の流動方向が、無端ベルト支持体11の走行方向下流に向かう傾斜が小さくなり、さらに、前記角が大きくなると、乾燥風の流動方向が、無端ベルト支持体11の走行方向上流に向かって傾斜して吹き出されることになる。このような場合、乾燥風が流延リボンに向かって流れやすくなり、前記乾燥風が、流延リボンに向かうことを防止しにくくなる傾向がある。
【0023】
また、前記流延膜乾燥装置32は、前記無端ベルト支持体11の、流延膜が形成されていない側の面(裏面)に、乾燥風をあてて、流延膜を乾燥させる装置である。この流延膜乾燥装置32は、流延膜乾燥装置31と同様の構成をしており、複数のスリット37が形成された装置本体32aと、装置本体32a内に乾燥風38を供給するための乾燥風供給管36とを備える。この乾燥風38は、流延膜に直接あてるのではないので、流延膜の乾燥に寄与するために、無端ベルト支持体11を加熱できる加熱風であることが好ましい。また、乾燥風が流延リボンに与える影響を勘案する必要がないので、この流延膜乾燥装置32におけるスリット37は、乾燥風が無端ベルト支持体11に直交する方向に吹き出されるものであってもよい。
【0024】
上記の流延膜乾燥装置31,32による乾燥の際、ウェブの温度が、ドープの溶媒等によっても異なるが、溶媒の蒸発時間に伴う搬送速度や生産性等を考慮して、例えば、−5〜70℃となるように、乾燥風の温度を高めることが好ましい。また、ウェブの温度が、0〜60℃となるように、乾燥風の温度を高めることがより好ましい。ウェブの温度は、高いほど溶媒の乾燥速度を速くできるので好ましいが、高すぎると、発泡したり、平面性が劣化する傾向がある。
【0025】
また、乾燥風の風圧は、溶媒蒸発の均一性等を考慮し、例えば、50〜5000Paであることが好ましい。
【0026】
また、樹脂フィルムの製造装置は、前記防止機構40を備える。この防止機構40としては、流延ダイ20と流延膜乾燥装置31との間の流延膜14bの上方での、流延リボン14aに向かう前記乾燥風の流動を防止することができれば、特に限定されない。前記防止機構40としては、例えば、流延ダイ20と流延膜乾燥装置31との間において、流延膜乾燥装置31に近い側(流延ダイ20から遠い側)が、流延ダイ20に近い側(流延膜乾燥装置31から遠い側)より、気圧を低くすることができる機構が挙げられる。このような機構によって、流延膜乾燥装置31から吹き出された乾燥風が、無端ベルト支持体11の走行方向上流に向かって流れることを抑制することができる。また、流延膜乾燥装置31の近傍と、流延ダイ20の近傍との圧力の差は、乾燥風が、無端ベルト支持体11の走行方向上流に向かって流れることを抑制する圧力差である。この圧力差が、大きすぎると、乾燥風が、無端ベルト支持体11の走行方向上流に向かって流れることを抑制することができても、流延ダイ20と流延膜乾燥装置31との間の流延膜14bの上方において、流延膜乾燥装置31に向かう空気の流れが大きくなる傾向がある。
【0027】
前記防止機構40としては、具体的には、
図2及び
図3に示す防止機構40等が挙げられる。
【0028】
前記防止機構40は、具体的には、
図2に示すように、流延ダイ20と流延膜乾燥装置31との間に、流延膜乾燥装置31に近い側と、流延ダイ20に近い側とに分ける仕切板41を設け、流延膜乾燥装置31に近い側を減圧する機構が挙げられる。この仕切板41は、無端ベルト支持体11から所定の間隔をあけて設けられる。そして、仕切板41より流延膜乾燥装置31側が、仕切板41より流延ダイ20側より減圧されるように、流延膜乾燥装置31側を減圧する。この減圧する方法としては、例えば、仕切板41より流延膜乾燥装置31に設けた減圧装置によって、流延膜乾燥装置31側全体を減圧する等の方法が挙げられる。このように、仕切板41で仕切られた流延膜乾燥装置31に近い側の空間を減圧することで、流延膜乾燥装置31から吹き出された乾燥風が、流延リボン14aに向かって流動することを防止する。よって、流延ダイ20と流延膜乾燥装置31との間の流延膜14bの上方での、流延リボン14aに向かう前記乾燥風の流動を防止することができる。
【0029】
また、前記防止機構40は、
図3に示すように、流延膜乾燥装置31の、無端ベルト支持体11の走行方向上流側に、無端ベルト支持体側が開放された減圧室42と、減圧室42の内部を吸気するための吸気管43とを備える。このように、吸気管43から、減圧室42内部を吸気することにより、流延膜乾燥装置31の、無端ベルト支持体11の走行方向上流側に備えられる減圧室42内が減圧される。このことにより、流延膜乾燥装置31から吹き出された乾燥風が、流延リボン14aに向かって流動することを防止する。よって、流延ダイ20と流延膜乾燥装置31との間の流延膜14bの上方での、流延リボン14aに向かう前記乾燥風の流動を防止することができる。
【0030】
本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、上記のように、無端ベルト支持体11上の流延膜14bを乾燥させるための乾燥風が、前記防止機構40によって、流延リボン14aに向かうことを防止できる。このため、乾燥風に起因した風により、流延リボンが揺れ、そのことにより、製造された樹脂フィルムにむらが発生することを充分に抑制できる。このことから、厚みが薄い樹脂フィルムを製造する場合であっても、上記製造方法により製造することによって、高品質な樹脂フィルムを製造することができる。
【0031】
また、流延ダイ20と流延膜乾燥装置31との間の流延膜14bの上方においては、上述したように、乾燥風が流延リボン14aに向かって吹くことを防止する。そして、流延ダイ20と流延膜乾燥装置31との間の流延膜14bの上方における、前記流延リボン14aから前記流延膜乾燥装置31に向かう風速としては、上記のように、乾燥風が流延リボン14aに向かって吹くことが防止されていればよいが、例えば、0〜2m/秒であることが好ましく、0〜1m/秒であることがより好ましい。前記流延リボンから前記乾燥装置に向かう風速が高すぎると、乾燥風に起因した風が流延リボンにあたることは防止できても、風によるすじの発生を充分に抑制できない傾向がある。また、前記流延リボンから前記乾燥装置に向かう風速が低すぎると、乾燥風が流延リボンに向かって吹くことを充分に防止できていないことになる。なお、ここでの風速は、例えば、無端ベルト支持体11の表面から10mmの高さの位置での風速等が挙げられる。さらに具体的には、無端ベルト支持体11の表面から10mmの高さであって、流延ダイ20の吐出口21bから流延膜乾燥装置31に向かって10mmの位置での風速等が挙げられる。また、この風速は、例えば、風速計で測定することができる。
【0032】
また、流延膜乾燥装置31の位置は、この装置の、無端ベルト支持体11の走行方向上流側端面が、流延ダイ20の吐出口21bから500〜1500mmであることが好ましい。流延膜乾燥装置31が流延ダイ20に近すぎると、流延膜乾燥装置31に到達した流延膜の乾燥が不充分であることから、流延膜乾燥装置31から吹き出された乾燥風があたることによる不具合が発生する傾向がある。このため、得られた樹脂フィルムにすじが発生する傾向がある。また、流延膜乾燥装置31が流延ダイ20から遠すぎると、流延膜乾燥装置31に到達するまでに、流延膜の乾燥が進行しすぎて、流延膜の適切な乾燥ができない傾向がある。このため、得られた樹脂フィルムの平面性が低下する傾向がある。
【0033】
剥離ローラ13は、無端ベルト支持体11のドープが流延される側の表面近傍に配置されており、無端ベルト支持体11と剥離ローラ13との距離は、1〜100mmであることが好ましい。また、剥離ローラ13は、無端ベルト支持体11上の、ある程度乾燥したウェブを剥離する際に用いる。この剥離ローラ13を支点として、乾燥されたウェブに張力をかけて引っ張ることによって、乾燥されたウェブがフィルム15として剥離される。また、無端ベルト支持体11からフィルムを剥離する際に、剥離張力及びその後の搬送張力によってフィルム15は、フィルムの搬送方向(Machine Direction:MD方向)に延伸される。
【0034】
延伸装置16は、無端ベルト支持体11から剥離されたフィルム15を、ウェブの搬送方向と直交する方向(Transverse Direction:TD方向)に延伸させる。具体的には、フィルムの搬送方向に垂直な方向の両端部をクリップ等で把持して、対向するクリップ間の距離を大きくすることによって、TD方向に延伸する。
【0035】
フィルム乾燥装置17は、複数の搬送ローラを備え、そのローラ間をフィルムを搬送させる間にフィルムを乾燥させる。その際、
図1に示すように、加熱空気18を、フィルム乾燥装置17内に流通させることによって乾燥してもよいし、赤外線等を用いて乾燥してもよいし、または、加熱空気と赤外線とを併用して乾燥してもよい。簡便さの点から加熱空気を用いることが好ましい。
【0036】
巻取装置19は、フィルム乾燥装置17で所定の残留溶媒率となったフィルムFを、巻き芯に巻き取る。また、フィルムFを巻き芯に巻き取る前に、フィルムの幅方向両端部にホットエンボス機構によりエンボス加工を施してもよい。なお、巻き取る際の温度は、巻き取り後の収縮によるすりきず、巻き緩み等を防止するために室温まで冷却することが好ましい。使用する巻取装置は、特に限定なく使用でき、一般的に使用されている巻取装置でよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の巻き取り方法で巻き取ることができる。
【0037】
また、樹脂フィルムの製造装置は、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法を実施できれば、特に限定されない。具体的には、樹脂フィルムの製造装置は、延伸装置や乾燥装置を備えていなくてもよく、また、それぞれが1つずつではなく、複数個ずつ備えられたものであってもよい。
【0038】
また、樹脂フィルムの製造装置は、上記で説明した態様では、支持体として、無端ベルト支持体を備えたものを例示したが、ドラム支持体を備えたものであってもよい。具体的には、無端ベルト支持体11の代わりに、ドラム支持体を備えたこと以外、
図1に示す樹脂フィルムの製造装置と同様の樹脂フィルムの製造装置等が挙げられる。また、ドラム支持体としては、例えば、表面にハードクロムめっき処理を施したステンレス鋼製の回転駆動ドラム等が挙げられる。
【0039】
以下、本実施形態で使用する樹脂溶液(ドープ)の組成について説明する。
【0040】
本実施形態で使用する樹脂溶液(ドープ)は、透明性樹脂を溶媒に溶解させたものである。
【0041】
前記透明性樹脂は、溶液流延製膜法等によって基板状に成形したときに透明性を有する樹脂であればよく、特に制限されないが、溶液流延製膜法等による製造が容易であること、ハードコート層等の他の機能層との接着性に優れていること、光学的に等方性であること等が好ましい。なお、ここで透明性とは、可視光の透過率が60%以上であることであり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。
【0042】
前記透明性樹脂としては、具体的には、例えば、セルロースジアセテート樹脂、セルローストリアセテート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂等のセルロースエステル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリメチルメタクリレート樹脂等のアクリル系樹脂;ポリスルホン(ポリエーテルスルホンも含む)系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、セロファン、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、シンジオタクティックポリスチレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリメチルペンテン樹脂等のビニル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルケトンイミド樹脂;ポリアミド系樹脂;フッ素系樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、セルロースエステル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンを含む)系樹脂が好ましい。さらに、セルロースエステル系樹脂が好ましく、セルロースエステル系樹脂の中でも、セルロースアセテート樹脂、セルロースプロピオネート樹脂、セルロースブチレート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルローストリアセテート樹脂が好ましく、セルローストリアセテート樹脂が特に好ましい。また、前記透明性樹脂は、上記例示した透明性樹脂を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
次に、前記セルロースエステル系樹脂について説明する。
【0044】
セルロースエステル系樹脂の数平均分子量は、30000〜200000であることが、樹脂フィルムに成型した場合の機械的強度が強く、かつ、溶液流延製膜法において適度なドープ粘度となる点で好ましい。また、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が、1〜5の範囲内であることが好ましく、1.4〜3の範囲内であることがより好ましい。
【0045】
また、セルロースエステル系樹脂等の樹脂の平均分子量及び分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーを用い測定できる。よって、これらを用いて数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を算出し、その比を計算することができる。
【0046】
セルロースエステル系樹脂は、置換基として、アシル基、具体的には、炭素数が2〜4のアシル基を有しているものが好ましい。このアシル基の置換度としては、例えば、2.2〜2.95であることが好ましい。また、その置換度としては、例えば、アセチル基の置換度をX、プロピオニル基又はブチリル基の置換度をYとした時、XとYとの合計値が2.2以上2.95以下であって、Xが0より大きく2.95以下であることが好ましい。
【0047】
また、アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在している。これらのセルロースエステル系樹脂は、公知の方法で合成することができる。アシル基の置換度の測定方法は、ASTM−D817−96の規定に準じて測定することができる。
【0048】
本実施形態で使用される溶媒は、前記透明性樹脂に対する良溶媒を含有する溶媒を用いることができる。前記良溶媒は、使用する透明性樹脂によって異なる。例えば、透明性樹脂がセルロースエステル系樹脂の場合、セルロースエステルのアシル基置換度によって、良溶媒と貧溶媒とが変わり、例えばアセトンを溶媒として用いる時には、セルロースエステルの酢酸エステル(アセチル基置換度2.4)、セルロースアセテートプロピオネートでは良溶媒になり、セルロースの酢酸エステル(アセチル基置換度2.8)では貧溶媒となる。したがって、使用する透明性樹脂により、良溶媒及び貧溶媒が異なってくるので、一例としてセルロースエステル系樹脂の場合について説明する。
【0049】
セルロースエステル系樹脂に対する良溶媒としては、例えば、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、ジオキソラン誘導体、シクロヘキサノン、蟻酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等が挙げられる。これらの中でも、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物、ジオキソラン誘導体、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン等が好ましい。これらの中でも、メチレンクロライドが好ましい。これらの良溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
また、ドープには、透明性樹脂が析出してこない範囲で、貧溶媒を含有させてもよい。セルロースエステル系樹脂に対する貧溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等の炭素原子数1〜8のアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸プロピル、モノクロルベンゼン、ベンゼン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、エタノールが好ましい。これらの貧溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
また、本実施形態で使用される樹脂溶液は、本発明の効果を阻害しない範囲で、前記透明性樹脂、及び前記溶媒以外の他の成分(添加剤)を含有してもよい。前記添加剤としては、例えば、微粒子、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定化剤、導電性物質、難燃剤、滑剤、及びマット剤等が挙げられる。
【0052】
次にドープを調製する方法の一例として、透明性樹脂としてセルロースエステル系樹脂を用いた場合について説明する。
【0053】
ドープを調製する時の、セルロースエステル系樹脂の溶解方法としては、特に限定なく、一般的な方法を用いることができる。加熱と加圧を組み合わせることによって、常圧における溶媒の沸点以上に加熱できることを利用し、常圧における沸点以上で溶媒にセルロースエステル系樹脂を溶解させることが、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止する点から好ましい。また、セルロースエステル系樹脂を貧溶媒と混合して湿潤又は膨潤させた後、さらに良溶媒を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
【0054】
次に、得られたセルロースエステル系樹脂の溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。
【0055】
以上のような、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法によれば、厚みが薄い樹脂フィルムであっても、高品質な樹脂フィルムを製造することができる。よって、得られた樹脂フィルムは、膜厚が薄くても、高品質なものである。
【0056】
また、前記樹脂フィルムの厚み(膜厚)は、10〜40μmであることがより好ましい。このような膜厚であれば、液晶表示装置の薄型化や樹脂フィルムの安定生産性等から好ましい。一方で、膜厚の薄い樹脂フィルムを製造しようとすると、ドラフト比が低い場合における不具合も、ドラフト比が高い場合における不具合も発生しやすい傾向がある。そうであったとしても、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法であれば、これらの不具合の発生を充分に抑制できる。よって、液晶表示装置の薄型化等を好適に実現できる樹脂フィルムが得られる。なお、ここでの膜厚とは、平均膜厚のことである。この測定方法としては、例えば、株式会社ミツトヨ製の接触式膜厚計により、光学フィルムの幅方向に20〜200箇所、膜厚を測定し、その測定値の平均値を膜厚として算出する。
【0057】
また、ここで得られる樹脂フィルムの幅は、大型の液晶表示装置への使用、偏光板加工時の樹脂フィルムの使用効率、生産効率の点から、1000〜4000mmであることが好ましい。
【0058】
(偏光板)
本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法によって得られた樹脂フィルムは、偏光板の保護フィルムとして用いることができる。このように樹脂フィルムを保護フィルムとして用いた偏光板は、偏光素子と、前記偏光素子の表面上に配置された透明保護フィルムとを備え、前記透明保護フィルムが、前記樹脂フィルムである。前記偏光素子とは、入射光を偏光に変えて射出する光学素子である。
【0059】
前記偏光板としては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素溶液中に浸漬して延伸することによって作製される偏光素子の少なくとも一方の表面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて、前記樹脂フィルムを貼り合わせたものが好ましい。また、前記偏光素子のもう一方の表面にも、前記樹脂フィルムを積層させてもよいし、別の偏光板用の透明保護フィルムを積層させてもよい。
【0060】
前記偏光板は、上述のように、偏光素子の少なくとも一方の表面側に積層する保護フィルムとして、前記樹脂フィルムを使用したものである。その際、前記樹脂フィルムが位相差フィルムとして働く場合、樹脂フィルムの遅相軸が偏光素子の吸収軸に実質的に平行または直交するように配置されていることが好ましい。
【0061】
このような偏光板は、透明保護フィルムとして、本実施形態に係る樹脂フィルムを用いている。この樹脂フィルムは、薄くても、高品質である。このため、得られた偏光板も、薄くても、高品質である。よって、得られた偏光板は、例えば、液晶表示装置に適用した際に、液晶表示装置の高画質化を実現できるものである。
【0062】
(液晶表示装置)
また、前記偏光板は、液晶表示装置の偏光板として用いることができる。前記偏光板を備えた液晶表示装置は、液晶セルと、前記液晶セルを挟むように配置された2枚の偏光板とを備え、前記2枚の偏光板のうち少なくとも一方が、前記偏光板である。なお、液晶セルとは、一対の電極間に液晶物質が充填されたものであり、この電極に電圧を印加することで、液晶の配向状態が変化され、透過光量が制御される。このような液晶表示装置は、偏光板用の透明保護フィルムとして、前記偏光板を用いる。そうすることによって、コントラスト等が向上された、高画質な液晶表示装置が得られる。
【0063】
本明細書は、上述したように、様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0064】
本発明の一局面は、透明性樹脂を含有する樹脂溶液を、走行する支持体上に流延ダイから流延して流延膜を形成する流延工程と、乾燥装置から吹き出された乾燥風を、前記支持体上の流延膜にあてて、前記流延膜を乾燥させる乾燥工程と、乾燥させた前記流延膜を前記支持体から剥離する剥離工程とを備え、前記流延ダイと前記乾燥装置との間の前記流延膜の上方での、前記流延ダイから吐出された樹脂溶液が前記支持体上に接地するまでの流延リボンに向かう前記乾燥風の流動を防止する防止機構を用いることを特徴とする樹脂フィルムの製造方法である。
【0065】
このような構成によれば、厚みが薄い樹脂フィルムであっても、高品質な樹脂フィルムを製造することができる樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。具体的には、以下のことによると考えられる。
【0066】
前記支持体上の流延膜を乾燥させるための乾燥風が、前記防止機構によって、流延リボンに向かうことを防止できる。このため、流延ダイから吐出された流延膜である流延リボンに対する、乾燥風の影響を低減させることができる。具体的には、乾燥風に起因した風により、流延リボンが揺れ、そのことにより、製造された樹脂フィルムにむらが発生することを充分に抑制できる。よって、上記構成によれば、厚みが薄い樹脂フィルムであっても、高品質な樹脂フィルムを製造することができる。
【0067】
また、前記樹脂フィルムの製造方法において、前記流延ダイと前記乾燥装置との間の前記流延膜の上方における、前記流延リボンから前記乾燥装置に向かう風速が、0〜2m/秒であることが好ましい。
【0068】
このような構成によれば、厚みが薄い樹脂フィルムであっても、より高品質な樹脂フィルムを製造することができる。すなわち、前記流延膜の上方における風速が上記範囲内であれば、乾燥風に起因した風が、流延リボンに与える影響を好適に抑制できる。よって、流延リボンの揺れによるむらの発生を充分に抑制でき、より高品質な樹脂フィルムを製造することができる。
【0069】
また、前記樹脂フィルムの製造方法において、前記乾燥装置の、前記支持体の走行方向上流側端面と、前記流延ダイの吐出口との距離が、500〜1500mmであることが好ましい。
【0070】
このような構成によれば、乾燥装置から吹き出された乾燥風が、支持体上の流延膜を、むら等の発生を抑制しつつ、好適に乾燥させることができる。よって、より高品質な樹脂フィルムを製造することができる。
【0071】
また、前記樹脂フィルムの製造方法において、前記防止機構が、前記流延ダイと前記乾燥装置との間を仕切る仕切板を備え、前記仕切板の、前記支持体の走行方向下流側の気圧が、上流側の気圧より低くすることが好ましい。
【0072】
このような構成によれば、仕切板で隔てて、隣接する空間に気圧差を生じさせることにより、前記流延ダイと前記乾燥装置との間の前記流延膜の上方での、前記流延リボンに向かう前記乾燥風の流動を防止することができる。よって、厚みが薄い樹脂フィルムであっても、高品質な樹脂フィルムを容易に製造することができる。
【0073】
また、前記樹脂フィルムの製造方法において、前記防止機構が、前記乾燥装置の、前記支持体の走行方向上流側に、前記支持体側が開放された減圧室を備え、前記減圧室内を減圧することが好ましい。
【0074】
このような構成によれば、前記乾燥装置の、前記支持体の走行方向上流側に備えられた減圧室を減圧することで、前記流延ダイと前記乾燥装置との間の前記流延膜の上方での、前記流延リボンに向かう前記乾燥風の流動を防止することができる。よって、厚みが薄い樹脂フィルムであっても、高品質な樹脂フィルムを容易に製造することができる。
【0075】
また、前記樹脂フィルムの製造方法において、前記樹脂フィルムの厚みが、10〜40μmであることが好ましい。
【0076】
樹脂フィルムの厚みが薄いと、上述したように、流延リボンに吹き付ける風等の外部環境に影響を受けやすくなる。そして、上記のように薄い樹脂フィルムは、このような外部環境の影響に基づく不具合が発生しやすい。このような不具合の発生しやすい厚みの薄い樹脂フィルムであっても、上記構成の樹脂フィルムの製造方法によれば、高品質な樹脂フィルムを製造することができる。
【0077】
本発明によれば、厚みが薄い樹脂フィルムであっても、高品質な樹脂フィルムを製造することができる樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0078】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
[実施例A]
まず、膜厚が40μmの樹脂フィルムを製造する場合について、検討した。
【0080】
(実施例1)
(ドープの調製)
まず、メチレンクロライド418質量部及びエタノール23質量部を入れた溶解タンクに、透明性樹脂としてセルローストリアセテート樹脂(アセチル基の置換度2.88)100質量部を添加し、さらに、トリフェニルホスフェート8質量部、エチルフタリルエチルグリコール2質量部、チヌビン326(BASFジャパン株式会社製)1質量部、及びアエロジル200V(日本アエロジル株式会社製)0.1質量部を添加した。そして、液温が80℃になるまで昇温させた後、3時間攪拌した。そうすることによって、樹脂溶液が得られた。その後、攪拌を終了し、液温が43℃になるまで放置した。そして、放置後の樹脂溶液を、濾過精度0.005mmの濾紙を使用して濾過した。濾過後の樹脂溶液を一晩放置することにより、樹脂溶液中の気泡を脱泡させた。このようにして得られた樹脂溶液を、ドープとして使用して、以下のように、樹脂フィルムを製造した。
【0081】
(樹脂フィルムの製造)
まず、得られたドープの温度を35℃に、無端ベルト支持体の温度を20℃に調整した。そして、
図1に示すような樹脂フィルムの製造装置を用い、走行速度(流延速度)70m/分の無端ベルト支持体に流延ダイ(コートハンガーダイ)からドープを流延した。なお、最終的に得られる樹脂フィルムの厚みが40μmとなるように、流延ダイのスリット間隔を予め調整しておいた。無端ベルト支持体としては、ステンレス鋼(SUS316製)、かつ走査型原子間力顕微鏡(AFM)による3次元表面粗さ(Ra)が、平均1.0nmの超鏡面に研磨したエンドレスベルトからなる無端ベルト支持体を用いた。そして、無端ベルト支持体上の流延膜に乾燥風をあてるための流延膜乾燥装置を、その無端ベルト支持体の走行方向上流側の端面が、流延ダイの吐出口からの距離Lが、500mmとなるように設置した。また、
図3に示すような防止機構により、流延ダイと乾燥装置との間の流延膜の上方における、流延リボンから乾燥装置に向かう風速Vが0m/秒となるように、流延リボンに向かう乾燥風の流動を防止した。なお、風速Vは、無端ベルト支持体の表面から10mmの高さであって、流延ダイの吐出口から流延膜乾燥装置に向かって10mmの位置で、風速計を用いて測定した風速である。
【0082】
そして、流延膜乾燥装置から、30℃の乾燥風を、無端ベルト支持体上のウェブに送ることによって、ウェブを乾燥させる。その乾燥したウェブを、無端ベルト支持体からフィルムとして剥離した。
【0083】
剥離したフィルムを、搬送ローラで搬送しながら、残留溶媒率が80質量%まで乾燥した。その乾燥したフィルムを、延伸装置(テンター)を用いて、100℃の環境下で、フィルムの両端をクリップで把持しながら、TD方向に6%延伸した後、クリップを解放した。そして、延伸されたフィルムを、搬送ローラで搬送しながら、乾燥装置を用いて125℃で乾燥させた。その後、乾燥したフィルムを巻取装置で巻き取ることによって、ロール状に巻き取られた樹脂フィルムが得られた。
【0084】
このようにして得られた樹脂フィルムは、膜厚40μm、幅2000mm、巻取長3000mのセルローストリアセテートフィルムであった。
【0085】
(実施例2〜6、比較例1,2)
実施例2〜6、比較例1,2は、距離L及び風速Vを、下記表1の値に変更したこと以外、実施例1と同様である。
【0086】
(実施例7)
実施例7は、防止機構として、
図2に示すものを用いたこと以外、実施例1と同様である。
【0087】
[評価]
得られた樹脂フィルムを用いて、下記の方法で偏光板を作成し、それを画像表示装置に貼り付けて、外観評価を行った。
【0088】
(偏光板の作製)
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、ヨウ素1g、ホウ酸4gを含む水溶液100gに浸漬し、50℃で6倍に延伸して、偏光膜を作成した。得られた樹脂フィルムを下記アルカリけん化処理を行い、そのアルカリけん化処理を施した樹脂フィルムを、上記偏光膜の表裏両面に、完全けん化型ポリビニルアルコール5%水溶液を粘着剤として、各々貼り合わせて、偏光板を作製した。
【0089】
(アルカリけん化処理)
工程 処理液 処理温度 処理時間
けん化工程 2モル/L−NaOH 50℃ 90秒間
水洗工程 水 30℃ 45秒間
中和工程 10質量%HCl 30℃ 45秒間
水洗工程 水 30℃ 45秒間
【0090】
上記樹脂フィルムを、上記けん化工程、水洗工程、中和工程、水洗工程の順に行い、次いで80℃で乾燥した。
【0091】
上記作製した偏光板を、液晶表示装置の液晶層に貼り付けることによって、液晶表示装置を作製した。具体的には、以下のようにした。
【0092】
(液晶表示装置)
液晶表示装置(日本電気株式会社製の、カラー液晶ディスプレイ MultiSync LCD1525J:型名 LA−1529HM)に液晶層を挟んで設置されている2対の偏光板のうち、観察者側の片面の偏光板を剥がし、ここに偏光方向を合わせた上記偏光板を貼り付けて、液晶表示装置を作製した。
【0093】
得られた液晶表示装置を用いて、以下のような評価を行った。
【0094】
液晶表示装置について、白色LEDによる照明下で、光学特性として、法線方向から35°の角度より、反射光のむらや表示した画像を観察した。その結果、樹脂フィルムの搬送方向に垂直に延びる段に起因すると思われるむらが全く確認できず、表示した画像にもむらがなく鮮明である場合は、「◎」と評価した。また、前記段に起因すると思われるむらがわずかに確認できるが、表示した画像にむらがなく鮮明である場合は、「○」と評価した。また、前記段に起因すると思われるむらが確認でき、表示した画像にもむらが確認できる場合は、「△」と評価した。また、前記段に起因すると思われるむらがはっきりと確認できる場合は、「×」と評価し、それよりもむらが明らかな場合は、「××」と評価した。
【0095】
この結果を、樹脂フィルムの膜厚、距離L及び風速Vとともに、表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
表1からわかるように、流延リボンに向かう乾燥風の流動を防止する防止機構を用いた場合(実施例1〜7)は、流延リボンに向かう乾燥風の流動を防止していない場合(比較例1,2)より、むらの発生が抑制された樹脂フィルムが製造できることがわかった。このことから、実施例1〜7は、乾燥風に基づくむらの発生を充分に抑制できることがわかった。
【0098】
さらに、流延リボンから流延膜乾燥装置に向かう風速が、2m/秒以下である場合(実施例1〜4)は、2m/秒を超える場合(実施例5,6)よりも、むらの発生をより抑制できることがわかった。このことから、風速Aが、2m/秒以下となるように、すなわち、風速Aが0〜2m/秒となるように、防止機構で乾燥風の流動を防止することが好ましいことがわかる。
【0099】
[実施例B]
次に、膜厚が40μmの樹脂フィルムを製造する場合より、むらが発生しやすい膜厚が10μmの樹脂フィルムを製造する場合について、検討した。
【0100】
(実施例8〜13、比較例3,4)
実施例8〜13、比較例3,4は、樹脂フィルムの膜厚が10μmとなるようにし、さらに、距離L及び風速Vを、下記表2の値に変更したこと以外、実施例1と同様である。
【0101】
その評価も、上記実施例Aと同様の評価を行った。この結果を、樹脂フィルムの膜厚、距離L及び風速Vとともに、表2に示す。
【0102】
【表2】
【0103】
表2からわかるように、膜厚が40μmの樹脂フィルムを製造する場合より、むらが発生しやすい膜厚が10μmの樹脂フィルムを製造する場合であっても、流延リボンに向かう乾燥風の流動を防止する防止機構を用いた場合(実施例8〜13)は、流延リボンに向かう乾燥風の流動を防止していない場合(比較例3,4)より、むらの発生が抑制された樹脂フィルムが製造できることがわかった。このことから、実施例8〜13は、膜厚が10μmの樹脂フィルムを製造する場合であっても、乾燥風に基づくむらの発生を充分に抑制できることがわかった。
【0104】
さらに、流延リボンから流延膜乾燥装置に向かう風速が、2m/秒以下である場合(実施例8〜11)は、2m/秒を超える場合(実施例12,13)よりも、むらの発生をより抑制できることがわかった。このことから、風速Aが、2m/秒以下となるように、すなわち、風速Aが0〜2m/秒となるように、防止機構で乾燥風の流動を防止することが好ましいことがわかる。
【0105】
[実施例C]
次に、距離Lの影響について、検討した。
【0106】
(実施例14〜17)
実施例14〜17は、樹脂フィルムの膜厚、距離L及び風速Vを、下記表3の値に変更したこと以外、実施例1と同様である。
【0107】
【表3】
【0108】
実施例14、15は、乾燥風に基づくむらの発生を充分に抑制できたものの、流延膜乾燥装置が流延ダイに近すぎて、流延膜乾燥装置に到達した流延膜の乾燥が不充分であったことから、流延膜乾燥装置から吹き出された乾燥風があたることによって発生したすじが確認された。
【0109】
また、実施例16,17は、乾燥風に基づくむらの発生を充分に抑制できたものの、流延膜乾燥装置が流延ダイから遠すぎて、流延膜乾燥装置に到達するまでに、流延膜の乾燥が進行しすぎて、樹脂フィルムの平面性が低下した。
【0110】
これらのことから、流延膜乾燥装置の、無端ベルト支持体の走行方向上流側端面と、流延ダイの吐出口との距離Lは、500〜1500mmであることが好ましいことがわかった。
【0111】
この出願は、2014年11月10日に出願された日本国特許出願特願2014−228253号を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0112】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。