特許第6601483号(P6601483)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6601483蒸着マスク、蒸着マスク準備体、蒸着マスクの製造方法、及び有機半導体素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6601483
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】蒸着マスク、蒸着マスク準備体、蒸着マスクの製造方法、及び有機半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20191028BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20191028BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20191028BHJP
【FI】
   C23C14/04 A
   H05B33/14 A
   H05B33/10
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-253046(P2017-253046)
(22)【出願日】2017年12月28日
(62)【分割の表示】特願2014-240433(P2014-240433)の分割
【原出願日】2014年3月24日
(65)【公開番号】特開2018-59211(P2018-59211A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2017年12月28日
(31)【優先権主張番号】特願2013-63295(P2013-63295)
(32)【優先日】2013年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】小幡 勝也
(72)【発明者】
【氏名】武田 利彦
(72)【発明者】
【氏名】川崎 博司
(72)【発明者】
【氏名】西村 祐行
(72)【発明者】
【氏名】真木 淳
(72)【発明者】
【氏名】落合 洋光
(72)【発明者】
【氏名】廣部 吉紀
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/039196(WO,A1)
【文献】 特開2013−021165(JP,A)
【文献】 特開2004−190057(JP,A)
【文献】 特開2003−100452(JP,A)
【文献】 特開2003−272838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H01L 51/50
H05B 33/00−33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その表面から裏面に至る内壁面によって形作られる空間によって規定される金属開口部を有する金属層と、前記金属開口部と重なる位置に蒸着パターンの形成に必要な複数の樹脂開口部を有する樹脂層とが積層され、
前記金属層は、一般領域と、前記一般領域よりも厚肉な厚肉領域を有し、
前記金属開口部は、前記金属層の前記一般領域内の一部に位置し、
前記厚肉領域が、何れかの前記樹脂開口部同士の間に位置している、
蒸着マスク。
【請求項2】
前記金属開口部を複数有し、
前記厚肉領域が、何れかの前記金属開口部同士の間に位置している、
請求項1に記載の蒸着マスク。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の蒸着マスクが、フレームに固定されてなる、
フレーム付き蒸着マスク。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の蒸着マスクを得るための蒸着マスク準備体であって、
金属開口部を有する金属層と、前記樹脂開口部が形成される前の樹脂層とが積層された、
蒸着マスク準備体。
【請求項5】
蒸着マスクの製造方法であって、
その表面から裏面に至る内壁面によって形作られる空間によって規定される金属開口部を有する金属層と、樹脂開口部が形成される前の樹脂層とが積層された樹脂層付き金属層を準備する工程と、
前記金属層側からレーザーを照射し、前記樹脂層付き金属層の前記樹脂層に蒸着パターンの形成に必要な樹脂開口部を複数形成する工程と、
を備え、
製造された蒸着マスクは、前記金属層、一般領域と、前記一般領域よりも厚肉な厚肉領域を有し、前記金属開口部が、前記金属層の前記一般領域内の一部に位置し、前記厚肉領域が、何れかの前記樹脂開口部同士の間に位置している、
蒸着マスクの製造方法。
【請求項6】
前記金属層として、前記金属開口部を複数有し、前記厚肉領域が、何れかの前記金属開口部同士の間に位置している、金属層を用いる、
請求項5に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項7】
有機半導体素子の製造方法であって、
蒸着マスクを用いて、蒸着対象物に蒸着パターンを形成する工程を含み、
前記蒸着マスクとして、請求項1又は2に記載の蒸着マスク、請求項3のフレーム付き蒸着マスク、請求項5又は6に記載の蒸着マスクの製造方法で製造された蒸着マスクの何れかを用いる、
有機半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着マスク、蒸着マスク準備体、蒸着マスクの製造方法、及び有機半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機EL素子の製造において、有機EL素子の有機層或いはカソード電極の形成には、例えば、蒸着すべき領域に多数の微細なスリットを微小間隔で平行に配列してなる金属から構成される蒸着マスクが使用されていた。この蒸着マスクを用いる場合、蒸着すべき基板表面に蒸着マスクを載置し、裏面から磁石を用いて保持させているが、スリットの剛性は極めて小さいことから、蒸着マスクを基板表面に保持する際にスリットにゆがみが生じやすく、高精細化或いはスリット長さが大となる製品の大型化の障害となっていた。
【0003】
スリットのゆがみを防止するための蒸着マスクについては、種々の検討がなされており、例えば、特許文献1には、複数の開口部を備えた第一金属マスクを兼ねるベースプレートと、前記開口部を覆う領域に多数の微細なスリットを備えた第二金属マスクと、第二金属マスクをスリットの長手方向に引っ張った状態でベースプレート上に位置させるマスク引張保持手段を備えた蒸着マスクが提案されている。すなわち、2種の金属マスクを組合せた蒸着マスクが提案されている。この蒸着マスクによれば、スリットにゆがみを生じさせることなくスリット精度を確保できるとされている。
【0004】
ところで近時、有機EL素子を用いた製品の大型化或いは基板サイズの大型化にともない、蒸着マスクに対しても大型化の要請が高まりつつあり、金属から構成される蒸着マスクの製造に用いられる金属板も大型化している。しかしながら、現在の金属加工技術では、大型の金属板にスリットを精度よく形成することは困難であり、たとえ上記特許文献1に提案されている方法などによってスリット部のゆがみを防止できたとしても、スリットの高精細化への対応はできない。また、金属のみからなる蒸着マスクとした場合には、大型化に伴いその質量も増大し、フレームを含めた総質量も増大することから取り扱いに支障をきたすこととなる。
【0005】
上記で提案がされている蒸着マスクにおいて、蒸着マスクの軽量化を図るためには、金属から構成される蒸着マスクの厚みを薄くすることが必要となる。しかしながら、金属から構成される蒸着マスクの厚みを薄くしていった場合には、そのぶん蒸着マスクの強度が低下していき、蒸着マスクに変形が生じる場合や、ハンドリングが困難になるといった新たな問題が生ずることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−332057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、大型化した場合でも高精細化と軽量化の双方を満たすことができ、かつ、強度を保ちつつも、高精細な蒸着パターンの形成が可能な蒸着マスクを提供すること、及び、この蒸着マスクを簡便に製造することができる蒸着マスク準備体や、蒸着マスクの製造方法を提供すること、さらには、有機半導体素子を精度よく製造することができる有機半導体素子の製造方法を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の蒸着マスクは、その表面から裏面に至る内壁面によって形作られる空間によって規定される金属開口部を有する金属層と、前記金属開口部と重なる位置に蒸着パターンの形成に必要な複数の樹脂開口部を有する樹脂層とが積層され、前記金属層は、一般領域と、前記一般領域よりも厚肉な厚肉領域を有し、前記金属開口部は、前記金属層の前記一般領域内の一部に位置し、前記厚肉領域が、何れかの前記樹脂開口部同士の間に位置している。
また、上記の蒸着マスクは、前記金属開口部を複数有し、前記厚肉領域が、何れかの前記金属開口部同士の間に位置していてもよい。
また、上記課題を解決するための本発明のフレーム付き蒸着マスクは、フレームに上記の蒸着マスクが固定されている。
また、一実施形態の蒸着マスクは、スリットが設けられた金属マスクと、前記スリットと重なる位置に蒸着作製するパターンに対応した開口部が設けられた樹脂マスクとが積層され、前記金属マスクは、前記スリットが設けられている一般領域と、当該一般領域よりも厚肉な厚肉領域とを有していることを特徴とする。
【0009】
上記の蒸着マスクにおいて、前記一般領域の厚みが、5μm以上25μm以下であってもよい。
【0010】
また、上記課題を解決するための本発明の蒸着マスク準備体は、上記の蒸着マスクを得るための蒸着マスク準備体であって、金属開口部を有する金属層と、前記樹脂開口部が形成される前の樹脂層とが積層されている。
また、一実施形態の蒸着マスク準備体は、スリットが設けられた金属マスクと、前記スリットと重なる位置に蒸着作製するパターンに対応した開口部が設けられた樹脂マスクとが積層されてなる蒸着マスクを得るための蒸着マスク準備体であって、樹脂板の一方の面上にスリットが設けられた金属マスクが積層されてなり、前記金属マスクは、前記スリットが設けられている一般領域と、当該一般領域よりも厚肉な厚肉領域とを有していることを特徴とする。
【0011】
また、上記課題を解決するための本発明の蒸着マスクの製造方法は、その表面から裏面に至る内壁面によって形作られる空間によって規定される金属開口部を有する金属層と、樹脂開口部が形成される前の樹脂層とが積層された樹脂層付き金属層を準備する工程と、前記金属層側からレーザーを照射し、前記樹脂層付き金属層の前記樹脂層に蒸着パターンの形成に必要な樹脂開口部を複数形成する工程と、を備え、製造された蒸着マスクは、前記金属層が、一般領域と、前記一般領域よりも厚肉な厚肉領域を有し、前記金属開口部が、前記金属層の前記一般領域内の一部に位置し、前記厚肉領域が、何れかの前記樹脂開口部同士の間に位置している。
また、上記の蒸着マスクの製造方法において、前記金属層として、前記金属開口部を複数有し、前記厚肉領域が、何れかの前記金属開口部同士の間に位置している、金属層を用いてもよい。
また、一実施形態の蒸着マスクの製造方法は、スリットが設けられた金属マスクと、樹脂板とを貼り合わせる工程と、前記金属マスク側からレーザーを照射し、前記樹脂板に蒸着作製するパターンに対応した開口部を形成する工程と、を備え、前記金属マスクとして、前記スリットが設けられている一般領域と、当該一般領域よりも厚肉な厚肉領域とを有している金属マスクが用いられることを特徴とする。
【0012】
また、上記の製造方法で用いられる前記金属マスクが、金属板の前記厚肉領域となる部分をマスキングし、当該金属板のマスキングがされていない領域をスリミング加工することで、前記一般領域を形成する工程と、前記一般領域内に、前記スリットを形成する工程と、によって得られる金属マスクであってもよい。
【0013】
また、上記の製造方法において、フレーム上に、前記樹脂板が貼り合わされた金属マスクを固定した後に、前記金属マスク側からレーザーを照射し、前記樹脂板に蒸着作製するパターンに対応した開口部を形成する工程を行ってもよい。
【0014】
また、上記課題を解決するための本発明の有機半導体素子の製造方法は、蒸着マスクを用いて、蒸着対象物に蒸着パターンを形成する工程を含み、前記蒸着マスクとして、上記の蒸着マスク、フレーム付き蒸着マスク、上記の蒸着マスクの製造方法で製造された蒸着マスクの何れかを用いる。
また、一実施形態の有機半導体素子の製造方法、フレームに蒸着マスクが固定されたフレーム付き蒸着マスクを用いて蒸着対象物に蒸着パターンを形成する工程を含み、前記蒸着パターンを形成する工程において、前記フレームに固定される前記蒸着マスクが、スリットが設けられた金属マスクと、前記スリットと重なる位置に蒸着作製するパターンに対応した開口部が設けられた樹脂マスクとが積層され、前記金属マスクは、前記スリットが設けられている一般領域と、当該一般領域よりも厚肉な厚肉領域と、を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態の蒸着マスクによれば、大型化した場合でも高精細化と軽量化の双方を満たすことができ、かつ、強度を保ちつつも、高精細な蒸着パターンの形成が可能となる。また、本発明の一実施形態の蒸着マスク準備体や、蒸着マスクの製造方法によれば、上記特徴の蒸着マスクを簡便に製造することができる。また、本発明の一実施形態の有機半導体素子の製造方法によれば、有機半導体素子を精度よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)は、一実施形態の蒸着マスクを金属マスク側から見た正面図であり、(b)は一実施形態の蒸着マスクの概略断面図である。
図2】(a)〜(d)は、一実施形態の蒸着マスクを金属マスク側から見た正面図である。
図3】一実施形態の蒸着マスクを金属マスク側から見た正面図である。
図4】一実施形態の蒸着マスクを金属マスク側から見た正面図である。
図5】一実施形態の蒸着マスクを金属マスク側から見た正面図である。
図6】一実施形態の蒸着マスク100の部分拡大断面図である。
図7】(a)は樹脂マスクの別の態様の斜視図であり、(b)はその断面図である。
図8】シャドウと、金属マスクの厚みとの関係を示す概略断面図である。
図9】金属マスクのスリットと、樹脂マスクの開口部との関係を示す部分概略断面図である。
図10】金属マスクのスリットと、樹脂マスクの開口部との関係を示す部分概略断面図である。
図11】一実施形態の蒸着マスクを金属マスク側から見た正面図である。
図12】一実施形態の蒸着マスクを金属マスク側から見た正面図である。
図13】一実施形態の蒸着マスクを金属マスク側から見た正面図である。
図14】一実施形態の蒸着マスクの概略断面図である。
図15】一実施形態の蒸着マスクを金属マスク側から見た正面図である。
図16】一実施形態の蒸着マスクの製造方法を説明するための工程図である。なお(a)〜(c)はすべて断面図である。
図17】金属マスクの形成方法の例を説明するための工程図である。なお(a)〜(h)はすべて断面図である。
図18】一実施形態のフレーム付き蒸着マスクを樹脂マスク側から見た正面図である。
図19】一実施形態のフレーム付き蒸着マスクを樹脂マスク側から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態の蒸着マスク100について図面を用いて具体的に説明する。
【0018】
図1(a)は、本発明の一実施形態の蒸着マスクを金属マスク側から見た正面図であり、図1(b)は、図1(a)の概略断面図である。また、図2図4は、一実施形態の蒸着マスクを金属マスク側から見た正面図である。なお、図1(a)、(b)、図2図4における斜線部で示される領域は厚肉領域10bであり、金属マスク10は、一般領域10aと、厚肉領域10bとによって一体をなしている。以下、図示する形態の蒸着マスクを中心に説明するが、本発明は、図示する形態に限定されるものではない。
【0019】
図1(b)に示すように、一実施形態の蒸着マスク100は、スリット15が設けられた金属マスク10と、金属マスク10の表面(図1(b)に示す場合にあっては、金属マスク10の下面)に位置し、スリット15と重なる位置に蒸着作製するパターンに対応した開口部25が設けられた樹脂マスク20とが積層された構成をとる。
【0020】
ここで、一実施形態の蒸着マスク100の質量と、従来公知の金属のみから構成される蒸着マスクの質量とを、蒸着マスク全体の厚みが同一であると仮定して比較すると、従来公知の蒸着マスクの金属材料の一部を樹脂材料に置き換えた分だけ、本発明の蒸着マスク100の質量は軽くなる。また、金属のみから構成される蒸着マスクを用いて、軽量化を図るためには、当該蒸着マスクの厚みを薄くする必要などがあるが、蒸着マスクの厚みを薄くした場合には、蒸着マスクを大型化した際に、蒸着マスクに歪みが発生する場合や、耐久性が低下する場合が起こる。一方、本発明の一実施形態の蒸着マスクによれば、大型化したときの歪みや、耐久性を満足させるべく、蒸着マスク全体の厚みを厚くしていった場合であっても、樹脂マスク20の存在によって、金属のみから形成される蒸着マスクよりも軽量化を図ることができる。以下、それぞれについて具体的に説明する。
【0021】
(樹脂マスク)
樹脂マスク20は、樹脂から構成され、図1(b)に示すように、スリット15と重なる位置に蒸着作製するパターンに対応した開口部25が設けられている。なお、本願明細書において蒸着作製するパターンとは、当該蒸着マスクを用いて作製しようとするパターンを意味し、例えば、当該蒸着マスクを有機EL素子の有機層の形成に用いる場合には、当該有機層の形状である。また、図示する形態では、開口部が縦横に複数列配置された例を挙げて説明をしているが、開口部25は、スリット15と重なる位置に設けられていればよく、スリット15が、縦方向、或いは横方向に1列のみ配置されている場合には、当該1列のスリット15と重なる位置に開口部25が設けられていればよい。
【0022】
樹脂マスク20は、従来公知の樹脂材料を適宜選択して用いることができ、その材料について特に限定されないが、レーザー加工等によって高精細な開口部25の形成が可能であり、熱や経時での寸法変化率や吸湿率が小さく、軽量な材料を用いることが好ましい。このような材料としては、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂、エチレン−メタクリル酸共重合体樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、セロファン、アイオノマー樹脂等を挙げることができる。上記に例示した材料の中でも、その熱膨張係数が16ppm/℃以下である樹脂材料が好ましく、吸湿率が1.0%以下である樹脂材料が好ましく、この双方の条件を備える樹脂材料が特に好ましい。この樹脂材料を用いた樹脂マスクとすることで、開口部25の寸法精度を向上させることができ、かつ熱や経時での寸法変化率や吸湿率を小さくすることができる。本発明では、樹脂マスク20が上述したように金属材料と比較して、高精細な開口部25の形成が可能な樹脂材料から構成される。したがって、高精細な開口部25を有する蒸着マスク100とすることができる。
【0023】
樹脂マスク20の厚みについても特に限定はないが、本発明の一実施形態の蒸着マスク100を用いて蒸着を行ったときに、蒸着作成するパターンに不充分な蒸着部分、つまり目的とする蒸着膜厚よりも薄い膜厚となる蒸着部分、所謂シャドウが生じることを防止するためには、樹脂マスク20は可能な限り薄いことが好ましい。しかしながら、樹脂マスク20の厚みが3μm未満である場合には、ピンホール等の欠陥が生じやすく、また変形等のリスクが高まる。一方で、25μmを超えるとシャドウの発生が生じ得る。この点を考慮すると樹脂マスク20の厚みは3μm以上25μm以下であることが好ましい。樹脂マスク20の厚みをこの範囲内とすることで、ピンホール等の欠陥や変形等のリスクを低減でき、かつシャドウの発生を効果的に防止することができる。特に、樹脂マスク20の厚みを、3μm以上10μm以下、より好ましくは4μm以上8μm以下とすることで、300ppiを超える高精細パターンを形成する際のシャドウの影響をより効果的に防止することができる。なお、本発明の一実施形態の蒸着マスク100において、金属マスク10と樹脂マスク20とは、直接的に接合されていてもよく、粘着剤層を介して接合されていてもよいが、粘着剤層を介して金属マスク10と樹脂マスク20とが接合される場合には、上記シャドウの点を考慮して、樹脂マスク20と粘着剤層との合計の厚みが3μm以上25μm以下、好ましくは3μm以上10μm、特に好ましくは、4μm以上8μm以下の範囲内となるように設定することが好ましい。
【0024】
開口部25の形状、大きさについて特に限定はなく、蒸着作製するパターンに対応する形状、大きさであればよい。また、図1(a)に示すように、隣接する開口部25の横方向のピッチP1や、縦方向のピッチP2についても蒸着作製するパターンに応じて適宜設定することができる。
【0025】
開口部25を設ける位置や、開口部25の数についても特に限定はなく、スリット15と重なる位置に1つ設けられていてもよく、縦方向、或いは横方向に複数設けられていてもよい。例えば、図5に示すように、スリットが縦方向に延びる場合に、当該スリット15と重なる開口部25が、横方向に2つ以上設けられていてもよい。
【0026】
開口部25の断面形状についても特に限定はなく、開口部25を形成する樹脂マスクの向かいあう端面同士が略平行であってもよいが、図1(b)、図6に示すように、開口部25はその断面形状が、蒸着源に向かって広がりをもつような形状であることが好ましい。換言すれば、金属マスク10側に向かって広がりをもつテーパー面を有していることが好ましい。開口部25の断面形状を当該構成とすることにより、本発明の一実施形態の蒸着マスクを用いて蒸着を行ったときに、蒸着作成するパターンにシャドウが生じることを防止することができる。テーパー角θについては、樹脂マスク20の厚み等を考慮して適宜設定することができるが、樹脂マスクの開口部における下底先端と、同じく樹脂マスクの開口部における上底先端を結んだ直線と、樹脂マスク底面とのなす角度(θ)、換言すれば、樹脂マスク20の開口部25を構成する内壁面の厚み方向断面において、開口部25の内壁面と樹脂マスク20の金属マスク10と接しない側の面(図示する形態では、樹脂マスクの下面)とのなす角度(θ)は、5°〜85°の範囲内であることが好ましく、15°〜80°の範囲内であることがより好ましく、25°〜65°の範囲内であることがさらに好ましい。特には、この範囲内の中でも、使用する蒸着機の蒸着角度よりも小さい角度であることが好ましい。さらに、図1(b)、図6にあっては、開口部25を形成する端面25aは直線形状を呈しているが、これに限定されることはなく、外に凸の湾曲形状となっている、つまり開口部25の全体の形状がお椀形状となっていてもよい。このような断面形状を有する開口部25は、例えば、開口部25の形成時における、レーザーの照射位置や、レーザーの照射エネルギーを適宜調整する、或いは照射位置を段階的に変化させる多段階のレーザー照射を行うことで形成可能である。なお、図6は、本発明の一実施形態の蒸着マスク100の一例を示す部分拡大断面図である。
【0027】
樹脂マスク20は、樹脂材料が用いられることから、従来の金属加工に用いられる加工法、例えば、エッチング加工法や切削等の加工方法によらず、開口部25の形成が可能である。つまり、開口部25の形成方法について特に限定されることなく、各種の加工方法、例えば、高精細な開口部25の形成が可能なレーザー加工法や、精密プレス加工、フォトリソ加工等を用いて開口部25を形成することができる。レーザー加工法等によって開口部25を形成する方法については後述する。
【0028】
エッチング加工法としては、例えば、エッチング材を噴射ノズルから所定の噴霧圧力で噴霧するスプレーエッチング法、エッチング材が充填されたエッチング液中に浸漬エッチング法、エッチング材を滴下するスピンエッチング法等のウェットエッチング法や、ガス、プラズマ等を利用したドライエッチング法を用いることができる。
【0029】
また、本発明では、蒸着マスク100の構成として樹脂マスク20が用いられることから、この蒸着マスク100を用いて蒸着を行ったときに、樹脂マスク20の開口部25には非常に高い熱が加わり、樹脂マスク20の開口部25を形成する端面25a(図6参照)から、ガスが発生し、蒸着装置内の真空度を低下させる等のおそれが生じ得る。したがって、この点を考慮すると、図6に示すように、樹脂マスク20の開口部25を形成する端面25aには、バリア層26が設けられていることが好ましい。バリア層26を形成することで、樹脂マスク20の開口部25を形成する端面25aからガスが発生することを防止できる。
【0030】
バリア層26は、無機酸化物や無機窒化物、金属の薄膜層または蒸着層を用いることができる。無機酸化物としては、アルミニウムやケイ素、インジウム、スズ、マグネシウムの酸化物を用いることができ、金属としてはアルミニウム等を用いることができる。バリア層26の厚みは、0.05μm〜1μm程度であることが好ましい。
【0031】
さらに、バリア層は、樹脂マスク20の蒸着源側表面を覆っていることが好ましい。樹脂マスク20の蒸着源側表面をバリア層26で覆うことによりバリア性が更に向上する。バリア層は、無機酸化物、および無機窒化物の場合は各種PVD(physical vapor deposition)法、CVD(chemical vapor deposition)法によって形成することが好ましい。金属の場合は、スパッタリング法、イオンプレーティング、真空蒸着法等の各種PVD法、特には、真空蒸着法によって形成することが好ましい。なお、ここでいうところの樹脂マスク20の蒸着源側表面とは、樹脂マスク20の蒸着源側の表面の全体であってもよく、樹脂マスク20の蒸着源側の表面において金属マスクから露出している部分のみであってもよい。
【0032】
図7(a)は樹脂マスクの別の態様の斜視図であり、(b)はその断面図である。
【0033】
図7に示すように、樹脂マスク20上には、樹脂マスク20の縦方向、或いは横方向(図7の場合は縦方向)にのびる溝28が形成されていることが好ましい。蒸着時に熱が加わった場合、樹脂マスク20が熱膨張し、これにより開口部25の寸法や位置に変化が生じる可能性があるが、当該溝28を形成することで樹脂マスクの膨張を吸収することができ、樹脂マスクの各所で生じる熱膨張が累積することにより樹脂マスク20が全体として所定の方向に膨張して開口部25の寸法や位置が変化することを防止することができる。
【0034】
なお、図7では、開口部25の間に縦方向に延びる溝28が形成されているが、これに限定されることはなく、開口部25の間に横方向に延びる溝を形成してもよい。さらには、開口部25の間に限定されることはなく、開口部25と重なる位置に溝を形成してもよい。さらには、これらを組み合わせた態様で溝を形成することも可能である。
【0035】
溝28の深さやその幅については特に限定はないが、溝28の深さが深すぎる場合や、幅が広すぎる場合には、樹脂マスク20の剛性が低下する傾向にあることから、この点を考慮して設定することが必要である。また、溝の断面形状についても特に限定されることはなくU字形状やV字形状など、加工方法などを考慮して任意に選択すればよい。
【0036】
また、一実施形態の蒸着マスクを用いて蒸着対象物に蒸着を行うにあたり、蒸着対象物後方に磁石等を配置して蒸着対象物前方の蒸着マスク100を磁力によって引きつけることで、一実施形態の蒸着マスクと蒸着対象物とを密着させる場合には、樹脂マスク20の金属マスク10と接しない側の面に、磁性材料から構成される磁性層(図示しない)を設けることが好ましい。磁性層を設けることで、当該磁性層と、蒸着対象物とを磁力によって引きつけて、一実施形態の蒸着マスクと蒸着対象物を隙間なく十分に密着させることができ、蒸着マスクと蒸着対象物との隙間に起因して生じ得る蒸着パターン太りを防止することができる。なお、蒸着パターン太りとは、目的とする蒸着パターンよりも大きな形状の蒸着パターンが形成される現象を言う。
【0037】
(金属マスク)
金属マスク10は、金属から構成され、該金属マスク10の正面からみたときに、開口部25と重なる位置、換言すれば、樹脂マスク20に配置された全ての開口部25がみえる位置に、縦方向或いは横方向に延びるスリット15が複数列配置されている。なお、このことは、本発明における金属マスク10のスリット15が、全ての開口部25がみえる位置に配置されていることを限定するものではなく、開口部25の一部がみえないようにスリット15が配置されていてもよい。なお、図1(b)、図2図4では、金属マスク10の縦方向に延びるスリット15が横方向に連続して配置されている。また、本発明では、スリット15が縦方向、或いは横方向に延びるスリット15が複数列配置された例を挙げて説明をしているが、スリット15は、縦方向、或いは横方向に1列のみ配置されていてもよい。また、スリット15が横方向に複数列配置される場合において、当該複数列配置されたスリット15の一部は、図15に示すように、開口部25と重ならない位置に配置されていてもよい。なお、図15では、開口部25と重ならないスリットの横方向の幅が、開口部25と重なるスリットの横方向の幅よりも狭くなっているが、開口部25と重ならないスリット15の横方向の幅は、開口部25と重なるスリットの横方向の幅と同じ幅であってもよく、幅広であってもよい。また、開口部と重ならないスリット15は、図15に示すように複数列配置されていてもよく、横方向に一列のみ配置されていてもよい。また、図示しないが、開口部15と重ならないスリット15は、一般領域10aと、厚肉領域10bの境界をまたぐように設けられていてもよい。或いは、厚肉領域10b内に設けられていてもよい。
【0038】
本発明における金属マスク10の説明を行うにあたり、図8(a)〜図8(c)を用いてシャドウの発生と、金属マスク10の厚みとの関係について具体的に説明する。図8(a)に示すように、金属マスク10の厚みが薄い場合には、蒸着源から蒸着対象物に向かって放出される蒸着材は、金属マスク10のスリット15の内壁面や、金属マスク10の樹脂マスク20が設けられていない側の表面に衝突することなく金属マスク10のスリット15、及び樹脂マスク20の開口部25を通過して蒸着対象物へ到達する。これにより、蒸着対象物上へ、均一な膜厚での蒸着パターンの形成が可能となる。つまりシャドウの発生を防止することができる。一方、図8(b)に示すように、金属マスク10の厚みが厚い場合、例えば、金属マスク10の厚みが25μmを超える厚みである場合には、その厚みによって、金属マスク10の耐久性を向上させることができ、ハンドリング性能の向上や、破断や、変形のリスクを低減させることができる利点を有するが、蒸着源から放出された蒸着材の一部は、金属マスク10のスリット15の内壁面や、金属マスク10の樹脂マスク20が形成されていない側の表面に衝突し、蒸着対象物へ到達することができない。蒸着対象物へ到達することができない蒸着材が多くなるほど、蒸着対象物に目的とする蒸着膜厚よりも薄い膜厚となる未蒸着部分が生ずる、シャドウが発生することとなる。つまり、金属マスクにおいて、耐久性を向上させることと、シャドウの発生を防止することはトレードオフの関係にあるといえる。
【0039】
したがって、シャドウの発生を防止する点からは、金属マスク10の厚みは、可能な限り薄いことが好ましく、具体的には、25μm以下であることが好ましく、15μm以下であること特に好ましい。しかしながら、金属マスク10全体の厚みが、25μmを下回るにつれ金属マスクの耐久性、例えば、剛性が低下し、金属マスク10に破断や、変形が生じやすくなり、また、ハンドリングが困難となる別の問題が発生する。特に、蒸着マスクを大型化していった場合には、これらの問題がより顕著に発生する。
【0040】
そこで、本発明では、図1(a)、図2図4に示すように、金属マスク10が、スリット15が形成されている一般領域10aと、当該一般領域10aよりも厚肉な厚肉領域10bを有している。そして、厚肉領域10bによって、金属マスク10の耐久性を向上させている。また、スリット15は厚肉領域10bよりも、薄肉な一般領域10aに形成されていることから、金属マスクの耐久性を保持しつつも、シャドウの発生を防止できるスリット15とすることができる。
【0041】
図1(a)に示す金属マスクの形態では、一般領域10a内にスリット15が形成されており、縦方向に延びる厚肉領域10bが金属マスク10の外縁に沿って設けられている。厚肉領域10bの配置箇所は、図示する形態に限定されるものではなく、シャドウの影響が生じにくい箇所に適宜配置すればよい。なお、シャドウの影響が生じにくい箇所とは、蒸着源と、蒸着マスクとの位置関係によって決定されるものであり、厚肉領域10bの配置箇所についていかなる限定もされることはない。例えば、蒸着源から放出された蒸着材料が、金属マスク10のスリット15に対し、90°±20°の角度で通過するような箇所においては、その近傍に厚肉領域10bが配置されていてもシャドウの影響を殆ど受けることがない。したがって、このような場合には、図2(c)、(d)や、図3に示すように、金属マスク10の端部近傍以外の箇所に、厚肉領域10bを配置することもできる。また、金属マスク10の端部近傍は、蒸着源と、蒸着マスク100との位置関係にかかわらず、スリットが形成されない領域となることから、厚肉領域10bを配置する箇所として好ましい。
【0042】
また、図1(a)に示す金属マスクの形態では、金属マスク10の外縁に沿って、縦方向に延びる厚肉領域10bが配置されているが、この形態において、図13に示すように厚肉領域10bの横方向外方に、一般領域10aが存在していてもよい。つまり、金属マスクの端部近傍に厚肉領域10bが配置されているとは、金属マスク10の外縁に沿って厚肉領域10bが配置されることのみならず、金属マスクの外縁に沿って一般領域10aが配置されるように、金属マスク10の外周近傍に厚肉領域10bが配置されていることも含む概念である。このことは、以下で例示する金属マスク10についても同様である。
【0043】
図2(a)〜(d)は、厚肉領域10bの配置位置の一例を示す、金属マスク側からみた正面図であり、図2(a)では、金属マスク10の外縁に沿って、横方向に延びる厚肉領域10bが配置されている。
【0044】
図2(b)では、金属マスク10の外縁に沿って、縦方向及び横方向に延びる厚肉領域10bが配置されている。すなわち、金属マスク10の外縁全周に沿って、厚肉領域10bが配置されている。この形態によれば、図1や、図2に示す厚肉領域10bを有する金属マスク10よりも、さらに蒸着マスク100の耐久性を向上させることができる。つまり、厚肉領域10bが配置されている領域が大きいほど、蒸着マスク100の耐久性を向上させることができる。なお、このことは、厚肉領域10bの配置領域の大きさを限定するものではなく、厚肉領域10bが配置されている分だけ、厚肉領域10bが配置されていない金属マスクを備える蒸着マスクよりも耐久性を向上させることができる。
【0045】
図2(c)では、金属マスク10の横方向中心位置に、縦方向に延びる厚肉領域10bが配置されており、図2(d)では、金属マスク10の縦方向中心位置に、横方向に延びる厚肉領域10bが配置されている。なお、図2(c)、(d)では、図2(b)に示す形態、すなわち、金属マスク10の外縁全周、及び、金属マスク10の横方向中心位置、或いは縦方向中心位置に厚肉領域10bが配置されているが、図1(a)、図2(b)に示す形態と組合せることもできる。
【0046】
なお、図2(c)、図2(d)では、縦方向中心位置、或いは横方向中心位置に、横方向、或いは縦方向に延びる1列の厚肉領域10bが配置されているが、縦方向或いは、横方向に延びる厚肉領域が、複数列存在していてもよい。また、縦方向中心位置や、横方向中心位置以外の位置に、横方向、或いは縦方向に延びる厚肉領域10bが配置されていてもよい。
【0047】
また、図3に示すように、厚肉領域10bを格子状に配置することもできる。当該形態は、蒸着マスク100が大型化する場合に等に好適である。なお、図3では、一般領域10aのみならず、厚肉領域10bにもスリット15が設けられている。具体的には、図3では、金属マスク10の縦方向略中心位置において横方向に延びる厚肉領域10bをまたぐようにして、縦方向に延びる複数列のスリット15が設けられている。つまり、この場合には、一般領域10a内、及び厚肉領域10b内にスリット15が設けられているといえる。
【0048】
厚肉領域10bは、図1(a)、図2図3に示すように、縦方向、或いは横方向に延びる、換言すれば、帯状に連続するものであってもよく、図4に示すように、柱状の厚肉領域10bが、所定の間隔を配して配置されていてもよい。なお、図4は、図1(a)に示す厚肉領域10bの変形例であるが、各種の厚肉領域10bの配置例にも転用することができる。
【0049】
一般領域10aとの境界部分における、厚肉領域10bの断面形状についても特に限定はなく、図1(b)に示すように、一般領域10aから急峻に厚肉領域10bに入るような断面形状としてもよく、図14(a)、(b)に示すように、厚肉領域の断面形状をテーパー状や、階段状とし、一般領域10aと、厚肉領域10bの境界における厚みの差を見掛け上に穏やかにしてもよい。
【0050】
上記一般領域10a、及び厚肉領域10bのそれぞれの厚みについて特に限定はないが、スリット15が形成されている一般領域10aの厚みは、シャドウの影響がなく、高精細な蒸着パターンを形成することができる厚み、具体的には、25μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。下限値について、特に限定はないが、金属加工精度の点から、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。なお、厚肉領域10bを有しない金属マスクにおいて、シャドウの影響を防止すべく、金属マスクの厚みを15μm以下の厚みまで薄くしていった場合には、ハンドリングが困難となるばかりか、破断や、変形のリスクが高くなる。上記で説明したように、本発明では、厚肉領域10bの存在によって、金属マスク10の耐久性が向上されており、その結果、ハンドリング性能や、破断、変形の防止が図られている。つまり、一般領域10aと、厚肉領域10bとを有する金属マスク10によれば、トレードオフの関係にある、シャドウ発生の防止に対する要求と、蒸着マスクの耐久性の向上に対する要求の双方を同時に満足させることができる。
【0051】
厚肉領域10bの厚みについて特に限定はなく、一般領域10aの厚みよりも厚いとの条件を満たせば、一般領域10aの厚み、金属マスク10の大きさ、厚肉領域10bの配置位置、厚肉領域10bの配置パターン等に応じて適宜設定することができる。ハンドリング性能の向上や、破断や変形のリスクの低減の点からは、厚肉領域10bの厚みは、「一般領域10aの厚み+5μm」以上との条件を満たし、かつ15μm以上、好ましくは25μm以上の厚みとすることが好ましい。厚肉領域10bの厚みの上限値について特に限定はないが、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、35μm以下であることが特に好ましい。なお、厚肉領域10bの厚みとは、図1(b)における「t」を意味する。
【0052】
上記一般領域10aと、厚肉領域10bとを有する金属マスク10の形成方法について、特に限定はなく、例えば、スリットが設けられた、或いはスリットが設けられていない金属板を準備し、この金属板の厚肉領域10bとなる箇所に、金属部材を溶接や、接着等の従来公知の接合方法を用いて接合することで、厚肉領域10bと、一般領域10aとが一体をなす金属マスク、或いは一体型の金属板を得ることができる。この場合には、金属板の厚みと、金属部材との合計の厚みが厚肉領域10bの厚みとなり、金属板の厚みが、そのまま一般領域10aの厚みとなる。また、スリット15が設けられていない金属板を用いて、厚肉領域10bと、一般領域10aとが一体をなす一体型の金属板とした場合には、その後、従来公知の方法、例えば、エッチング加工法や、レーザー加工法によって、一般領域10a、或いは必要に応じて厚肉領域10bにスリット15を形成することで、一般領域10aと、厚肉領域10bとが一体をなす金属マスク10を得ることができる。
【0053】
これ以外にも、スリットが設けられた、或いはスリットが設けられていない金属板を準備し、最終的に厚肉領域10bとなる金属板の表面をマスキングし、当該マスキングされていない金属板の表面をスリミング加工することで、厚肉領域10bと、一般領域10aとが一体をなす金属マスク、或いは一体型の金属板を得ることができる。スリミング加工による金属マスクの形成についての詳細は後述する。この場合には、金属板の厚みが、厚肉領域10bの厚みとなり、金属板の厚みからスリミング加工された部分の厚みを引いた厚みが、一般領域10aの厚みとなる。
【0054】
また、上記一般領域10a、厚肉領域10bを有する金属マスクにおいて、さらに、シャドウ発生を十分に防止するには、図1(b)、図6に示すように、スリット15の断面形状を、蒸着源に向かって広がりをもつような形状とすることが好ましい。このような断面形状とすることで、蒸着マスク100に生じうる歪みの防止、或いは耐久性の向上を目的として、蒸着マスク全体の厚みを厚くしていった場合であっても、蒸着源から放出された蒸着材が、スリット15の当該表面や、スリット15の内壁面に衝突等することなく、蒸着材を蒸着対象物へ到達させることができる。より具体的には、金属マスク10のスリット15における下底先端と、同じく金属マスク10のスリット15における上底先端を結んだ直線と金属マスク10の底面とのなす角度、換言すれば、金属マスク10のスリット15を構成する内壁面の厚み方向断面において、スリット15の内壁面と金属マスク10の樹脂マスク20と接する側の面(図示する形態では、金属マスクの下面)とのなす角度は、5°〜85°の範囲内であることが好ましく、15°〜80°の範囲内であることがより好ましく、25°〜65°の範囲内であることがさらに好ましい。特には、この範囲内の中でも、使用する蒸着機の蒸着角度よりも小さい角度であることが好ましい。このような断面形状とすることで、蒸着マスク100に生じうる歪みの防止、或いは耐久性の向上を目的として金属マスク10の厚みを比較的厚くした場合であっても、蒸着源から放出された蒸着材が、スリット15の内壁面に衝突等することなく、蒸着材を蒸着対象物へ到達させることができる。これにより、シャドウ発生をより効果的に防止することができる。なお、図8は、シャドウの発生と金属マスク10のスリット15との関係を説明するための部分概略断面図である。なお、図8(c)では、金属マスク10のスリット15が蒸着源側に向かって広がりを持つ断面形状となっており、樹脂マスク20の開口部25の向かいあう端面は略平行となっているが、シャドウの発生をより効果的に防止するためには、金属マスク10のスリット、及び樹脂マスク20の開口部25は、ともにその断面形状が、蒸着源側に向かって広がりを持つ形状となっていることが好ましい。
【0055】
スリット15の幅W(図1(a)参照)について特に限定はないが、少なくとも隣接する開口部25間のピッチよりも短くなるように設計することが好ましい。具体的には、図1(a)に示すように、スリット15が縦方向に延びる場合には、スリット15の横方向の幅Wは、横方向に隣接する開口部25のピッチP1よりも短くすることが好ましい。同様に、図示はしないが、スリット15が横方向に伸びている場合には、スリット15の縦方向の幅は、縦方向に隣接する開口部25のピッチP2よりも短くすることが好ましい。一方で、スリット15が縦方向に延びる場合の縦方向の長さLについては、特に限定されることはなく、金属マスク10の縦の長さおよび樹脂マスク20に設けられている開口部25の位置に応じて適宜設計すればよい。
【0056】
また、図11に示すように縦方向、或いは横方向に連続して延びるスリット15が、ブリッジ18によって複数に分割されていてもよい。なお、図11、蒸着マスク100の金属マスク10側から見た正面図であり、図1(a)に示される縦方向に連続して延びる1つのスリット15が、ブリッジ18によって複数(スリット15a、15b)に分割された例を示している。この形態によれば、厚肉領域10bと、ブリッジ18との相乗効果によって、金属マスク10の耐久性をさらに向上させることができ、ハンドリング性能や、破断、変形のリスクを低減させることができる。ブリッジ18の幅について特に限定はないが5μm〜20μm程度であることが好ましい。ブリッジ18の幅をこの範囲とすることで、金属マスク10の剛性を効果的に高めることができる。ブリッジ18の配置位置についても特に限定はないが、分割後のスリットが、2つ以上の開口部25と重なるようにブリッジ18が配置されていることが好ましい。
【0057】
金属マスク10に形成されるスリット15の断面形状についても特に限定されることはないが、上記樹脂マスク20における開口部25と同様、図1(b)、図6に示すように、蒸着源に向かって広がりをもつような形状であることが好ましい。
【0058】
金属マスク10の材料について特に限定はなく、蒸着マスクの分野で従来公知のものを適宜選択して用いることができ、例えば、ステンレス鋼、鉄ニッケル合金、アルミニウム合金などの金属材料を挙げることができる。中でも、鉄ニッケル合金であるインバー材は熱による変形が少ないので好適に用いることができる。
【0059】
また、本発明の一実施形態の蒸着マスク100を用いて、基板上へ蒸着を行うにあたり、基板後方に磁石等を配置して基板前方の蒸着マスク100を磁力によって引きつけることが必要な場合には、金属マスク10を磁性体で形成することが好ましい。磁性体の金属マスク10としては、鉄ニッケル合金、純鉄、炭素鋼、タングステン(W)鋼、クロム(Cr)鋼、コバルト(Co)鋼、コバルト・タングステン・クロム・炭素を含む鉄の合金であるKS鋼、鉄・ニッケル・アルミニウムを主成分とするMK鋼、MK鋼にコバルト・チタンを加えたNKS鋼、Cu−Ni−Co鋼、アルミニウム(Al)−鉄(Fe)合金等を挙げることができる。また、金属マスク10を形成する材料そのものが磁性体でない場合には、当該材料に上記磁性体の粉末を分散させることにより金属マスク10に磁性を付与してもよい。
【0060】
図12は、一般領域10a、厚肉領域10bを有する金属マスク10を備える本発明の一実施形態の蒸着マスク100の別の態様を示す正面図である。図12に示すように、蒸着マスク100の金属マスク10側から見た正面図において、金属マスクのスリット15から見える樹脂マスク20に形成された開口部25を横方向に互い違いに配置してもよい。つまり、横方向に隣り合う開口部25を縦方向にずらして配置してもよい。このように配置することにより、樹脂マスク20が熱膨張した場合にあっても、各所において生じる膨張を開口部25によって吸収することができ、膨張が累積して大きな変形が生じることを防止することができる。また、図12に示すように、樹脂マスク20に形成する開口部25は、1画素に対応させる必要はなく、例えば2画素〜10画素をまとめて一つの開口部25としてもよい。
【0061】
図9(a)〜(d)は、金属マスクのスリットと、樹脂マスクの開口部との関係を示す部分概略断面図であり、図示する形態では、金属マスクのスリット15と樹脂マスクの開口部25とにより形成される開口全体の断面形状が階段状を呈している。図9に示すように、開口全体の断面形状を蒸着源側に向かって広がりをもつ階段状とすることでシャドウの発生を効果的に防止することができる。金属マスクのスリット15や、樹脂マスク20の断面形状は、図9(a)に示すように、向かいあう端面が略平行となっていてもよいが、図9(b)、(c)に示すように、金属マスクのスリット15、樹脂マスクの開口部の何れか一方のみが、蒸着源側に向かって広がりをもつ断面形状を有しているものであってもよい。なお、上記で説明したように、シャドウの発生をより効果的に防止するためには、金属マスクのスリット15、及び樹脂マスクの開口部25は、図1(b)、図6図9(d)に示すように、ともに蒸着源側に向かって広がりをもつ断面形状を有していることが好ましい。
【0062】
上記階段状となっている断面における平坦部(図9における符号(X))の幅について特に限定はないが、平坦部(X)の幅が1μm未満である場合には、金属マスクのスリットの干渉により、シャドウの発生防止効果が低下する傾向にある。したがって、この点を考慮すると、平坦部(X)の幅は、1μm以上であることが好ましい。好ましい上限値については特に限定はなく、樹脂マスクの開口部の大きさや、隣り合う開口部の間隔等を考慮して適宜設定することができ、一例としては、20μm程度である。
【0063】
なお、図9(a)〜(d)では、スリットが縦方向に延びる場合に、当該スリット15と重なる開口部25が、横方向に1つ設けられた例を示しているが、図10に示すように、スリットが縦方向に延びる場合に、当該スリット15と重なる開口部25が、横方向に2つ以上設けられていてもよい。図10では、金属マスクのスリット15、及び樹脂マスクの開口部25は、ともに蒸着源側に向かって広がりをもつ断面形状を有しており、当該スリット15と重なる開口部25が、横方向に2つ以上設けられていている。
【0064】
(蒸着マスクの製造方法)
次に、本発明の一実施形態の蒸着マスクの製造方法について説明する。本発明の一実施形態の蒸着マスク100の製造方法は、図16に示すように、スリット15が設けられた金属マスク10と、樹脂板30とを貼り合わせる工程(図16(a)参照)と、金属マスク側からレーザーを照射し(図16(b)参照)、前記樹脂板30に蒸着作製するパターンに対応した開口部を形成する工程(図16(c)参照)とを有し、金属マスク10として、スリット15が設けられている一般領域10aと、当該一般領域10aよりも厚肉な厚肉領域10bとを有している金属マスクが用いられることを特徴とする。以下、本発明の一実施形態の蒸着マスクの製造方法について具体的に説明する。
【0065】
図16は、蒸着マスクの製造方法を説明するための工程図である。なお、図16(a)〜(c)、図17(a)〜(h)はすべて断面図である。
【0066】
(スリットが設けられた金属マスクと樹脂板とを貼り合わせる工程)
図16(a)に示す、スリットが設けられた金属マスク10と樹脂板30とを貼り合わせた積層体を準備するにあたり、まず、スリットが設けられた金属マスクを準備する。本発明では、ここで準備される金属マスク10が、上記本発明の一実施形態の蒸着マスク100で説明した、一般領域10aと、厚肉領域10bとを有する金属マスク10が用いられる。以下、スリット15が設けられ、一般領域10aと、厚肉領域10bとを有する金属マスク10の好ましい形成方法の一例について説明する。
【0067】
一例としての金属マスク10の形成方法は、図17(a)に示すように、金属板11を準備する。次いで、図17(b)に示すように金属板11の表面の一部分をマスキング部材12によってマスキングする。マスキング部材12としては、例えば、レジスト材や、ドライフィルム等を使用することができる。なお、このマスキングされた部分が最終的に厚肉領域10bとなる。次いで、図17(c)に示すように、金属板11の表面のマスキングがされていない領域をスリミング加工によって、マスキングがされていない金属板11を貫通しない範囲内で除去することで、一般領域10aと、厚肉領域10bとが一体をなす、金属板11aが得られる。なお、マスキング部材12が、スリット15の形成に用いられる加工法に耐性を有するものであれば、特にここでの除去を要しない。
【0068】
一般領域10aを形成するためのスリミング加工は、一般領域10aとなる厚みまで、金属板の表面を除去することができる従来公知の方法を適宜選択して用いることができる。例えば、金属板11をエッチング加工可能なエッチング材を用いたエッチング加工法を挙げることができる。
【0069】
次いで、図17(d)に示すように、一般領域10aと、厚肉領域10bとが一体をなす金属板11aと、樹脂板30とを貼り合わせる。この方法についても特に限定されず、例えば各種粘着剤を用いてもよく、または自己粘着性を有する樹脂板を用いてもよい。なお、金属板11aと樹脂板30の大きさは同一であってもよいが、この後に任意で行われるフレームへの固定を考慮して、樹脂板30の大きさを金属板11aよりも小さくし、金属板11aの外周部分が露出された状態としておくことが好ましい。
【0070】
次いで、図17(e)に示すように、金属板11aの樹脂板30と接しない側であって、一般領域10aの表面にマスキング部材12、例えば、レジスト材を塗工する。なお、スリミング工程で用いたマスキング部材を除去している場合には、厚肉領域10bの表面にもマスキング部材を塗工する。図17(b)で説明したマスキング部材12と、ここで説明するマスキング部材は同一のものであっても、異なるものであってもよい。マスキング部材として用いるレジスト材としては処理性が良く、所望の解像性があるものを用いる。その後、スリットパターンが形成されたマスクを用いて、露光し、現像することで、図17(f)に示すように、レジストパターン13を形成する。次いで、図17(g)に示すように、このレジストパターンを耐エッチングマスクとして用いてエッチング法によりエッチング加工する。エッチングが終了後、レジストパターンを洗浄除去する。これにより、図17(h)に示すように、一般領域10a、厚肉領域10bを有する金属板11aに所望のスリット15が形成された金属マスク10が得られる。
【0071】
上記では、一般領域10a、厚肉領域10bを有する金属板11aを、樹脂板30と貼り合せた後に、当該金属板11aにスリット15を形成する例を説明したが、樹脂板と貼り合せる前に、金属板11aにスリット15を形成してもよい。この場合においては、金属板11aの両面から同時にエッチングを行う方法を用いてもよい。金属マスク10を予め形成した後に、樹脂板30と貼り合せる方法としては、上記で説明した方法をそのまま用いることができる。
【0072】
(フレームに前記樹脂板が貼り合わされた金属マスクを固定する工程)
当該工程は、本発明の一実施形態の製造方法における任意の工程であるが、完成した蒸着マスクをフレームに固定するのではなく、フレームに固定された状態の樹脂板に対し、後から開口部を設けているので、位置精度を格段に向上せしめることができる。なお、完成した蒸着マスク100をフレームに固定する場合には、開口が決定された金属マスクをフレームに対して引っ張りながら固定するために、本工程を有する場合と比較して、開口位置座標精度は低下することとなる。
【0073】
フレームに、樹脂板が貼り合わされた金属マスクを固定する方法について特に限定はなく、例えば、スポット溶接など従来公知の工程方法を適宜採用すればよい。
【0074】
また、この方法にかえて、スリット15が形成され、一般領域10aと厚肉領域10bとを有する金属マスク10を、フレームに固定した後に、フレームに固定された金属マスク10と、樹脂板30とを貼り合わせてもよい。この方法でも、上記と同様に、開口部の位置精度を格段に向上せしめることができる。
【0075】
(金属マスク側からレーザーを照射し、前記樹脂板に蒸着作製するパターンに対応した開口部を形成する工程)
次に、図16(b)に示すように、金属マスク10側からスリット15を通してレーザーを照射し、前記樹脂板30に蒸着作製するパターンに対応した開口部25を形成し、樹脂マスク20とする。ここで用いるレーザー装置については特に限定されることはなく、従来公知のレーザー装置を用いればよい。これにより、図16(c)に示すような、本発明の一実施形態の蒸着マスク100を得る。
【0076】
また、フレームに固定された状態の樹脂板に開口部25を設けるに際し、蒸着作製するパターン、すなわち形成すべき開口部25に対応するパターンが予め設けられた基準板(図示しない)を準備し、この基準板を、樹脂板の金属マスク10が設けられていない側の面に貼り合せた状態で、金属マスク10側から、基準板のパターンに対応するレーザー照射を行ってもよい。この方法によれば、樹脂板に貼り合わされた基準板のパターンを見ながらレーザー照射を行う、いわゆる向こう合わせの状態で、開口部25を形成することができ、開口の寸法精度が極めて高い高精細な開口部25を形成することができる。また、この方法は、フレームに固定された状態で開口部25の形成が行われることから、寸法精度のみならず、位置精度にも優れた蒸着マスクとすることができる。
【0077】
なお、上記方法を用いる場合には、金属マスク10側から、樹脂板30を介して基準板のパターンをレーザー照射装置等で認識することができることが必要である。樹脂板としては、ある程度の厚みを有する場合には透明性を有するものを用いることが必要となるが、上記で説明したように、シャドウの影響を考慮した好ましい厚み、例えば、3μm〜25μm程度の厚みとする場合には、着色された樹脂板であっても、基準板のパターンを認識させることができる。
【0078】
樹脂板と基準板との貼り合せ方法についても特に限定はなく、例えば、金属マスク10が磁性体である場合には、基準板の後方に磁石等を配置して、樹脂板30と基準板とを引きつけることで貼り合せることができる。これ以外に、静電吸着法等を用いて貼り合せることもできる。基準板としては、例えば、所定の開口パターンを有するTFT基板や、フォトマスク等を挙げることができる。
【0079】
また、上記では、一般領域10aを形成する方法として、スリミング工程を説明したが、本発明の一実施形態の製造方法においては、上記で説明した工程間、或いは工程後にスリミング工程を行ってもよい。例えば、上記で説明した金属マスク10の形成方法では、金属板11の厚みが、そのまま厚肉領域10bの厚みとなるが、必要に応じて、スリミングを行い、厚肉領域10bの厚みを調整することもできる。また、同様に、一般領域10aの厚みを調整することもできる。
【0080】
たとえば、樹脂マスク20となる樹脂板30や、金属マスク10となる金属板11として、上記で説明した好ましい厚みよりも厚いもの、例えば、厚肉領域10bの厚みよりもさらに厚みを有する金属板を用いた場合には、製造工程中において、金属板11や樹脂板30を単独で搬送する際等に、優れた耐久性や搬送性を付与することができる。一方で、シャドウの発生等を防止するためには、本発明の一実施形態の製造方法で得られる蒸着マスク100の厚みは最適な厚みであることが好ましい。スリミング工程は、製造工程間、或いは工程後において耐久性や搬送性を満足させつつ、蒸着マスク100の厚みを最適化する場合に有用な工程である。
【0081】
金属マスク10や、金属板11の厚肉領域10bのスリミングは、上記で説明した工程間、或いは工程後に、金属板11の樹脂板30と接しない側の面、或いは金属マスク10の樹脂板30又は樹脂マスク20と接しない側の面を、金属板11や金属マスク10をエッチング可能なエッチング材を用いてエッチングすることで実現可能である。なお、この場合、一般領域10aをマスキングして、一般領域10aの厚みに、それ以上の変動が生じないようにしてもよく、厚肉領域10bのスリミングと同時に、一般領域10aの厚みの調整を行ってもよい。この場合、一般領域10aへのマスキングは不要となる。
【0082】
樹脂マスク20となる樹脂板30や、樹脂マスク20のスリミング、すなわち、樹脂板30、樹脂マスク20の厚みの最適化についても同様であり、上記で説明した何れかの工程間、或いは工程後に、樹脂板30の金属板11や金属マスク10と接しない側の面、或いは樹脂マスク20の金属マスク10と接しない側の面を、樹脂板30や樹脂マスク20の材料をエッチング可能なエッチング材を用いてエッチングすることで実現可能である。また、蒸着マスク100を形成した後に、金属マスク10、樹脂マスク30の双方をエッチング加工することで、双方の厚みを最適化することもできる。
【0083】
(蒸着マスク準備体)
次に、本発明の一実施形態の蒸着マスク準備体について説明する。本発明の一実施形態の蒸着マスク準備体は、スリットが設けられた金属マスクと、スリットと重なる位置に蒸着作製するパターンに対応した開口部が設けられた樹脂マスクとが積層されてなる蒸着マスクを得るための蒸着マスク準備体であって、樹脂板の一方の面上にスリットが設けられた金属マスクが積層されてなり、金属マスクは、スリットが設けられている一般領域と、当該一般領域よりも厚肉な厚肉領域とを有していることを特徴としている。
【0084】
本発明の一実施形態の蒸着マスク準備体は、樹脂板30に開口部25が設けられていない点以外は、上記で説明した本発明の一実施形態の蒸着マスク100と共通し、具体的な説明は省略する。蒸着マスク準備体の具体的な構成としては、上記蒸着マスクの製造方法における準備工程で準備される樹脂板付き金属マスク(図17(h)参照)を挙げることができる。
【0085】
本発明の一実施形態の蒸着マスク準備体によれば、当該蒸着マスク準備体の樹脂板に開口部を形成することで、大型化した場合でも高精細化と軽量化の双方を満たし、高精細な蒸着パターンの形成が可能な蒸着マスクを得ることができる。
【0086】
(有機半導体素子の製造方法)
本発明の一実施形態の有機半導体素子の製造方法は、フレーム付き蒸着マスクを用いた蒸着法により蒸着パターンを形成する工程を有し、当該有機半導体素子を製造する工程において、以下で説明するフレーム付き蒸着マスクが用いられる点に特徴を有する。
【0087】
フレーム付き蒸着マスクを用いた蒸着法により蒸着パターンを形成する工程を有する一実施形態の有機半導体素子の製造方法は、基板上に電極を形成する電極形成工程、有機層形成工程、対向電極形成工程、封止層形成工程等を有し、各任意の工程においてフレーム付き蒸着マスクを用いた蒸着法により基板上に蒸着パターンが形成される。例えば、有機ELデバイスのR,G,B各色の発光層形成工程に、フレーム付き蒸着マスクを用いた蒸着法をそれぞれ適用する場合には、基板上に各色発光層の蒸着パターンが形成される。なお、本発明の一実施形態の有機半導体素子の製造方法は、これらの工程に限定されるものではなく、蒸着法を用いる従来公知の有機半導体素子の製造における任意の工程に適用可能である。
【0088】
本発明の一実施形態の有機半導体素子の製造方法は、上記蒸着パターンを形成する工程において、フレームに固定される蒸着マスクが、上記で説明した本発明の一実施形態の蒸着マスクであることを特徴とする。
【0089】
本発明の製造方法で製造される有機半導体素子としては、例えば、有機EL素子の有機層、発光層や、カソード電極等を挙げることができる。特に、本発明の有機半導体素子の製造方法は、高精細なパターン精度が要求される有機EL素子のR、G、B発光層の製造に好適に用いることができる。
【0090】
有機半導体素子の製造に用いられるフレーム付き蒸着マスクは、フレームに、上記で説明した本発明の一実施形態の蒸着マスクが固定されているとの条件を満たすものであればよく、その他の条件について特に限定されることはない。フレームについて特に限定はなく、蒸着マスクを支持することができる部材であればよく、例えば、金属フレームや、セラミックフレーム等を使用することができる。中でも、金属フレームは、蒸着マスクの金属マスクとの溶接が容易であり、変形等の影響が小さい点で好ましい。以下、フレームとして金属フレームを用いた例を中心に説明する。例えば、図18に示すように、金属フレーム60に、1つの蒸着マスク100が固定されてなる金属フレーム付き蒸着マスク200を用いてもよく、図19に示すように、金属フレーム60に、複数の蒸着マスク(図示する形態では4つの蒸着マスク)が縦方向、或いは横方向に並べて固定(図示する形態では横方向に並べて固定)されたフレーム付き蒸着マスク200を用いてもよい。なお、図18図19は、一実施形態の金属フレーム付き蒸着マスク200を樹脂マスク20側からみた正面図である。
【0091】
金属フレーム60は、略矩形形状の枠部材であり、最終的に固定される蒸着マスク100の樹脂マスク20に設けられた開口部25を蒸着源側に露出させるための開口を有する。金属フレームの材料について特に限定はないが、剛性が大きい金属材料、例えば、SUSや、インバー材などが好適である。
【0092】
金属フレームの厚みについても特に限定はないが、剛性等の点から10mm〜30mm程度であることが好ましい。金属フレームの開口の内周端面と、金属フレームの外周端面間の幅は、当該金属フレームと、蒸着マスクの金属マスクとを固定することができる幅であれば特に限定はなく、例えば、10mm〜50mm程度の幅を例示することができる。
【0093】
また、蒸着マスク100を構成する樹脂マスク20の開口部25の露出を妨げない範囲で、金属フレームの開口に補強フレーム65等が存在していてもよい。換言すれば、金属フレーム60が有する開口が、補強フレーム等によって分割された構成を有していてもよい。図18に示す形態では、横方向に延びる補強フレーム65が縦方向に複数配置されているが、この補強フレーム65にかえて、或いは、これとともに縦方向に延びる補強フレームが横方向に複数列配置されていてもよい。また、図19に示す形態では、縦方向に延びる補強フレーム65が横方向に複数配置されているが、この補強フレーム65にかえて、或いは、これとともに、横方向に延びる補強フレームが縦方向に複数配置されていてもよい。補強フレーム65が配置された金属フレーム60を用いることで、当該金属フレーム60に、本発明の一実施形態の蒸着マスク100を縦方向、及び横方向に複数並べて固定するときに、当該補強フレームと蒸着マスクが重なる位置においても、金属フレーム60に蒸着マスクを固定することができる。
【0094】
金属フレーム60と、本発明の一実施形態の蒸着マスク100との固定方法についても特に限定はなく、レーザー光等により固定するスポット溶接、接着剤、ねじ止め等を用いて固定することができる。
【符号の説明】
【0095】
10…金属マスク
10a…一般領域
10b…厚肉領域
15…スリット
18…ブリッジ
20…樹脂マスク
25…開口部
60…金属フレーム
100…蒸着マスク
200…フレーム付き蒸着マスク
図1
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