(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
[発明の実施形態の説明]
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
本発明の一実施形態に係る燃料電池用固体電解質層は、(1)ペロブスカイト型構造を有し、かつ下記式(1):
Ba
xZr
yCe
zM
1-(y+z)O
3−δ
(ただし、元素Mは、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、ホルミウム(Ho)、ツリウム(Tm)、ガドリニウム(Gd)、およびスカンジウム(Sc)からなる群より選択される少なくとも一種であり、0.85≦x<0.98、0.70≦y+z<1.00、比y/zは0.5/0.5〜1/0であり、δは酸素欠損量である)
で表されるプロトン伝導体を含む。
【0014】
(2)本発明の他の一実施形態は、カソードと、アノードと、カソードおよびアノードの間に介在し、プロトン伝導性を有する固体電解質層と、を備えるセル構造体に関する。
セル構造体において、固体電解質層は、プロトン伝導体を含み、プロトン伝導体は、ペロブスカイト型構造を有し、かつ上記式(1)で表される。
【0015】
(3)本発明の一実施形態に係る燃料電池は、上記のセル構造体を備え、カソードに酸化剤を供給するための酸化剤流路、および、アノードに燃料を供給するための燃料流路を有する。
(4)本発明の一実施形態に係るプロトン伝導体は、ペロブスカイト型構造を有し、かつ上記式(1)で表される。
【0016】
Baを含むプロトン伝導体は、耐湿性が低く、水分の存在下ではBaが析出し易くなる。Baが析出すると、Ba(OH)
2やBaCO
3などの副生物が生成することで腐食が進行する。このような副生物が生成すると、電池反応自体の効率が低下するとともに、Ba
xZr
yCe
zM
1-(y+z)の相の比率が少なくなるため、プロトン伝導性が低下し、固体電解質層の性能が低下する。本実施形態では、Baの比率xが上記の範囲であることで、Baの析出が抑制されるため、Ba(OH)
2やBaCO
3(特に、Ba(OH)
2)の生成が抑制され、Ba
xZr
yCe
zM
1-(y+z)の相の比率を高めることができる。よって、固体電解質層の耐湿性を向上することができる。そして、耐湿性が高い固体電解質層を、燃料電池のセル構造体に用いることで、耐久性を向上することができる。
また、高いプロトン伝導性を確保し易いため、高い出力を維持することができる。
【0017】
(5)xは、0.85≦x≦0.96を充足することがより好ましい。xがこのような範囲では、高いプロトン伝導性を確保しながらも、耐湿性をさらに高めることができる。
【0018】
(6)0.75≦y+z≦0.90であることが好ましい。y+zがこのような範囲である場合、高いプロトン伝導性をさらに確保し易くなる。
【0019】
(7)元素Mは、YおよびYbからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。このような元素Mは、高いプロトン伝導性を確保し易い観点から有利である。
【0020】
(8)好ましい実施形態では、固体電解質層の厚みをTとするとき、固体電解質層の一方の表面から0.25Tの位置におけるBaの比率x1と、固体電解質層の他方の表面から0.25Tの位置におけるBaの比率x2とが、x1>x2を満たし、他方の表面を、燃料電池のカソードと接触させる。このような固体電解質層では、アノード側の領域よりもカソード側の領域においてBaの比率が小さく、高い耐湿性が得られる。そのため、燃料電池のカソードでプロトンの酸化により水が生成しても、固体電解質層の腐食をより効果的に抑制できる。また、固体電解質層のアノード側の領域では、Baの比率を大きくできるため、高いプロトン伝導性を確保することができる。
【0021】
固体電解質層の元素の比率は、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)を用いて、元素分布状態(デプスプロファイル)を評価することによって求めることができる。例えば、固体電解質の厚み方向の断面の任意の複数点(例えば、5点)について、固体電解質層を構成するプロトン伝導体の元素の比率をEDXで測定し、平均化することにより、固体電解質層(具体的には、プロトン伝導体)における元素の平均的な比率を求めることができる。
【0022】
また、固体電解質層の一方の表面から0.25Tの位置におけるBaの比率x1と、他方の表面から0.25Tの位置におけるBaの比率x2は、電子線マイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe MicroAnalyser )を用いて測定することができる。例えば、固体電解質層のある一点を通る、固体電解質層の主面に対する法線を引いたとき、法線上にある、カソードと固体電解質層との境界から固体電解質層とアノードとの境界までを、固体電解質層の厚み(T)とする。この厚みTを4等分して、固体電解質層の一方の主面から0.25T内部の位置および他方の主面から0.25T内部の位置において、EPMAによりBaの濃度を測定する。同様の測定を、任意の複数点(例えば、5点)に対して行って、平均化することによって、Baの比率x1およびx2を求めることができる。
【0023】
(9)ZrとCeとの比y/zは、0.5/0.5〜0.9/0.1であることが好ましい。比y/zがこのような範囲である場合、耐久性が高く、燃料電池に用いたときに高い発電性能が得られる固体電解質層を形成することができる。
【0024】
[発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態の具体例を、適宜図面を参照しつつ以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0025】
[プロトン伝導体]
プロトン伝導体は、ペロブスカイト型構造(Perovskite structure、ABO
3)を有し、かつ上記式(1)で表される。式(1)の化合物のAサイトにはBaが入り、Bサイトには、ZrおよびCeが入る。Bサイトの一部は、ZrおよびCe以外の元素M(ドーパント)で置換されており、高いプロトン伝導性を確保することができる。
【0026】
式(1)の化合物において、Bサイトに入る元素(Zr、Ceおよび元素M)の合計に対するBaの比率xを0.85≦x<0.98の範囲とすることで、Baの析出が抑制され、水分の作用によりプロトン伝導体が腐食することを抑制できる。また、高いプロトン伝導性を確保し易い。耐湿性をさらに高める観点からは、xは、0.85≦x≦0.97であることが好ましく、0.85≦x≦0.96であることがより好ましい。xの下限値は、0.85であればよく、好ましくは0.87または0.88であってもよい。
【0027】
Bサイトに入る元素に占めるZrの比率yおよびCeの比率zの合計:y+zは、0.70≦y+z<1.0であり、好ましくは0.70≦y+z≦0.95、さらに好ましくは0.75≦y+z≦0.90または0.75≦y+z≦0.85である。y+zがこのような範囲である場合、高いプロトン伝導性を確保し易い。
【0028】
比y/zは、0.5/0.5〜1/0であり、好ましくは0.5/0.5〜0.9/0.1であり、さらに好ましくは0.6/0.4〜0.9/0.1または0.7/0.3〜0.9/0.1である。比y/zがこのような範囲である場合、高い耐湿性が得られ易く、固体電解質層の耐久性を高め易い。また、燃料電池に用いた場合に高い発電性能も得られ易い。
【0029】
プロトン伝導体が元素Mを含むことで、高いプロトン伝導性が得られる。高いプロトン伝導性を確保し易い観点からは、元素Mのうち、Yおよび/またはYbが好ましい。プロトン伝導性の観点から、元素Mに占めるYおよびYbの比率は、YおよびYbの合計で、50原子%以上であることが好ましく、80原子%以上であることが好ましい。元素MをYおよび/またはYbのみで構成してもよい。
式(1)の化合物において、酸素欠損量δは、元素Mの量に応じて決定でき、例えば、0≦δ≦0.15である。
【0030】
[固体電解質層]
固体電解質層は、上記のプロトン伝導体を含む。固体電解質層は、上記式(1)の化合物以外の成分を含み得るが、高い耐湿性およびプロトン伝導性を確保し易い観点から、その含有量は少ないことが好ましい。例えば、固体電解質層の50質量%以上または70質量%以上が、式(1)の化合物であることが好ましく、固体電解質層全体の平均的組成が式(1)の組成であってもよい。式(1)の化合物以外の成分としては特に限定されず、固体電解質として公知の化合物(プロトン伝導性を有さない化合物を含む)を挙げることができる。
【0031】
固体電解質層の厚みは、例えば、1μm〜50μm、好ましくは3μm〜20μmである。固体電解質層の厚みがこのような範囲である場合、固体電解質層の抵抗が低く抑えられる点で好ましい。
【0032】
固体電解質層は、カソードおよびアノードとともにセル構造体を形成し、燃料電池に組み込むことができる。セル構造体において、固体電解質層は、カソードとアノードとの間に挟持されており、固体電解質層の一方の主面は、アノードに接触し、他方の主面はカソードと接触している。燃料電池において、カソードではプロトンの酸化により水が発生するため、固体電解質層の特にカソード側の領域は、カソードで発生する水により腐食し易い。本発明の実施形態では、固体電解質層の少なくともカソード側の領域を上記式(1)のプロトン伝導体で形成することにより、固体電解質層の腐食を効果的に抑制することができる。
【0033】
このような固体電解質層では、固体電解質層の厚みをTとするとき、固体電解質層の一方の表面から0.25Tの位置におけるBaの比率x1と、他方の表面から0.25Tの位置におけるBaの比率x2とが、x1>x2を満たすことが好ましい。この他方の表面をカソードと接触させると、カソードで水が生成しても、固体電解質層のカソード側の領域の高い耐湿性を有効利用でき、固体電解質層の腐食を効果的に抑制できる。
【0034】
固体電解質層におけるBaの比率は、カソード側からアノード側に向かうに従って、大きくなるように変化していてもよい。この変化は、連続的であっても良いし、段階的であってもよい。Ba比率の変化は、固体電解質層における全体的な傾向として把握できる程度であればよい。
【0035】
カソード側の領域は、式(1)のプロトン伝導体で構成されるため、この領域におけるBa比率x2は、xについて例示した範囲から選択される値とすることができる。アノード側の領域におけるBa比率x1は、x1>x2である限り特に制限されない。x1は、0.98≦x1であることが好ましく、0.98≦x1≦1.10であってもよい。x1とx2との差は、例えば、0.05以上または0.10以上であることが好ましい。x1および/またはx1とx2との差がこのような範囲である場合、固体電解質層の腐食を抑制する効果がさらに高まるとともに、高いプロトン伝導性を確保し易い。
【0036】
式(1)のプロトン伝導体は、構成元素を含む原料を、Ba、Zr、Ceおよび元素Mの比率が式(1)の組成となるような割合で混合し、焼成することにより製造できる。焼成温度は、例えば、1200℃〜1800℃であり、1400℃〜1700℃であることが好ましい。焼成は、大気中などの酸素雰囲気下で行うことができる。原料としては、例えば、酸化物、炭酸塩などが挙げられる。原料のうち、Ba源としては、酸化バリウム、炭酸バリウムなどを用いることが好ましい。Zr源としては、酸化ジルコニウムを用いることが好ましく、Ce源としては、酸化セリウムを用いることが好ましい。元素M源としては、酸化イットリウム、酸化イッテルビウムなどの酸化物を用いることが好ましい。各原料は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0037】
原料として複合酸化物を用いてもよい。例えば、Zr(またはZrおよびCe)と元素M(Yなど)とを含む複合酸化物と、酸化バリウムおよび/または炭酸バリウムとを混合し、上記と同様に焼成することにより式(1)のプロトン伝導体を得ることもできる。
【0038】
固体電解質層は、プロトン伝導体と、バインダと、分散媒(水および/または有機溶媒など)とを含む電解質ペーストの塗膜を焼成することにより形成できる。塗膜は、例えば、アノードやカソードの主面に電解質ペーストを塗布することにより形成できる。焼成に先立って、加熱によりバインダを除去する脱バインダ処理を行ってもよい。焼成は、比較的低温で行う仮焼成と、仮焼成よりも高い温度で行う本焼成とを組み合わせてもよい。プロトン伝導体に代えて原料を用いた電解質ペーストを用い、焼成により固体電解質層を形成する際に、原料をプロトン伝導体に変換させてもよい。
【0039】
バインダとしては、燃料電池の固体電解質層に使用される公知の材料、例えば、エチルセルロースなどのセルロース誘導体(セルロースエーテルなど)、酢酸ビニル系樹脂(ポリビニルアルコールなどの酢酸ビニル系樹脂のケン化物も含む)、アクリル樹脂などのポリマーバインダー;および/またはパラフィンワックスなどのワックスなどが挙げられる。バインダの量は、プロトン伝導体100質量部に対して、例えば、3質量部〜100質量部であってもよい。
【0040】
仮焼成の温度は、例えば、800℃以上1200℃未満である。本焼成の温度は、例えば、1200℃〜1800℃または1400℃〜1700℃である。仮焼成および本焼成は、それぞれ、大気雰囲気下で行ってもよく、大気よりも多くの酸素を含む酸素ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0041】
脱バインダ処理の温度は、バインダの種類に応じて決定でき、仮焼成を行う場合には、仮焼成の温度よりも低くてもよい。脱バインダ処理の温度は、例えば、400℃以上800℃未満であってもよい。脱バインダ処理は、大気雰囲気下で行ってもよい。
【0042】
カソード側領域とアノード側領域とでBaの比率が異なる固体電解質層は、Baの比率が異なる複数の電解質ペーストを用いることにより作製できる。より具体的には、例えば、アノードの一方の主面に、第1電解質ペーストを塗布して第1塗膜を形成し、第1塗膜の表面にBaの比率が第1電解質ペーストよりも小さい第2電解質ペーストの第2塗膜を形成し、焼成することにより固体電解質層を形成できる。第2塗膜の形成に先立って、第1塗膜を乾燥してもよく、脱バインダ処理や仮焼成などを行ってもよい。Baの比率が異なる2種類の電解質ペーストを用いる場合に限らず、3種類以上の電解質ペーストを用いてもよい。
【0043】
[セル構造体]
本発明の一実施形態に係るセル構造体の断面模式図を
図1に示す。
セル構造体1は、カソード2と、アノード3と、これらの間に介在する固体電解質層4とを含む。固体電解質層4としては上述の固体電解質層が使用される。図示例では、アノード3と固体電解質層4とは一体化され、電解質層−電極接合体5を形成している。
【0044】
アノード3の厚みは、カソード2よりも大きくなっており、アノード3が固体電解質層4(ひいてはセル構造体1)を支持する支持体として機能している。なお、図示例に限らず、アノード3の厚みを、必ずしもカソード2よりも大きくする必要はなく、例えば、アノード3の厚みとカソード2の厚みとは同程度であってもよい。
【0045】
(カソード)
カソードは、酸素分子を吸着し、解離させてイオン化することができる多孔質の構造を有している。カソード2では、固体電解質層4を介して伝導されたプロトンと、酸化物イオンとの反応(酸素の還元反応)が生じている。酸化物イオンは、酸化剤流路から導入された酸化剤(酸素)が解離することにより生成する。
【0046】
カソードの材料としては、例えば、燃料電池のカソードとして用いられる公知の材料を用いることができる。なかでも、ランタンを含み、かつペロブスカイト構造を有する化合物(フェライト、マンガナイト、および/またはコバルタイトなど)が好ましく、これらの化合物のうち、さらにストロンチウムを含むものがより好ましい。具体的には、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF、La
1−x3Sr
x3Fe
1−y1Co
y1O
3−δ、0<x3<1、0<y1<1、δは酸素欠損量である)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM、La
1−x4Sr
x4MnO
3−δ、0<x4<1、δは酸素欠損量である)、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC、La
1−x5Sr
x5CoO
3−δ、0<x5≦1、δは酸素欠損量である)等が挙げられる。
なお、これらのペロブスカイト型酸化物において、酸素欠損量δは、0≦δ≦0.15であってもよい。
【0047】
カソードは、例えば、上記の材料を焼結することにより形成することができる。必要に応じて、上記の材料とともに、バインダ、添加剤、および/または分散媒などを用いてもよい。
プロトンと酸化物イオンとの反応を促進させる観点から、カソード2は、Pt等の触媒を含んでいても良い。触媒を含む場合、カソード2は、触媒と上記材料とを混合して、焼結することにより形成することができる。
カソード2の厚みは、特に限定されないが、5μm〜40μm程度であれば良い。
【0048】
(アノード)
アノード4は、多孔質の構造を有している。アノード4では、後述する流路から導入される水素などの燃料を酸化して、プロトンと電子とを放出する反応(燃料の酸化反応)が行われる。
【0049】
アノードの材料としては、例えば、燃料電池のアノードとして用いられる公知の材料を用いることができる。具体的には、触媒成分である酸化ニッケル(NiO)と、プロトン伝導体(酸化イットリウム(Y
2O
3)、BCY、BZYまたは上記式(1)の化合物(以下、BZCYと称す場合がある)など)との複合酸化物等が挙げられる。BZCYを用いると、アノード4と固体電解質層3に含まれる金属元素の実質的な相互拡散が抑制されるため、抵抗が高くなり難い。
【0050】
このような複合酸化物を含むアノード4は、例えば、NiO粉末とプロトン伝導体の粉末等とを混合して焼結することにより形成することができる。アノードの厚みは、例えば、10μm〜2mmから適宜決定でき、10μm〜100μmであってもよい。アノードの厚みを大きくして、固体電解質層を支持する支持体として機能させてもよい。この場合、アノードの厚みは、例えば、100μm〜2mmの範囲から適宜選択できる。
【0051】
アノードに、分解して水素を生成するアンモニア、メタン、プロパン等の気体を含むガスを導入すると、アノードでは、これらの気体の分解反応が起こり、水素が発生する。つまり、セル構造体は、ガス分解性能を備えており、このセル構造体をガス分解装置に用いることが可能である。
【0052】
例えば、アンモニアの分解により発生した水素は、アノードによって酸化され、プロトンが生成する。生成したプロトンは、固体電解質層3を通って、カソード2に移動する。
一方、アンモニアの分解により同時に生成したN
2は、排気ガスとして後述する燃料ガス出口から排出される。アノードには、上記ガスを分解する機能を有する触媒を含ませてもよい。アンモニア等のガスを分解する機能を有する触媒としては、Fe、Co、Ti、Mo、W、Mn、RuおよびCuよりなる群から選択される少なくとも1種の触媒成分を含む化合物が挙げられる。
【0053】
[燃料電池]
図2は、
図1のセル構造体を含む燃料電池(固体酸化物型燃料電池)を模式的に示す断面図である。
燃料電池10は、セル構造体1と、セル構造体1のカソード2に酸化剤を供給するための酸化剤流路23が形成されたセパレータ22と、アノード3に燃料を供給するための燃料流路53が形成されたセパレータ52とを含む。燃料電池10において、セル構造体1は、カソード側セパレータ22と、アノード側セパレータ52との間に挟持されている。
カソード側セパレータ22の酸化剤流路23は、セル構造体1のカソード2に対向するように配置され、アノード側セパレータ52の燃料流路53は、アノード3に対向するように配置されている。
【0054】
酸化剤流路23は、酸化剤が流入する酸化剤入口と、反応で生成した水や未使用の酸化剤などを排出する酸化剤排出口を有する(いずれも図示せず)。酸化剤としては、例えば、酸素を含むガスが挙げられる。燃料流路53は、燃料ガスが流入する燃料ガス入口と、未使用の燃料、反応により生成するH
2O、N
2、CO
2等を排出する燃料ガス排出口を有する(いずれも図示せず)。燃料ガスとしては、水素、メタン、アンモニア、一酸化炭素等の気体を含むガスが例示される。
【0055】
燃料電池10は、カソード2とカソード側セパレータ22との間に配置されるカソード側集電体21と、アノード3とアノード側セパレータ52との間に配置されるアノード側集電体51とを、備えてもよい。カソード側集電体21は、集電機能に加え、酸化剤流路23から導入される酸化剤ガスをカソード2に拡散させて供給する機能を果たす。アノード側集電体51は、集電機能に加え、燃料流路53から導入される燃料ガスをアノード3に拡散させて供給する機能を果たす。そのため、各集電体は、十分な通気性を有する構造体であることが好ましい。燃料電池10において、集電体21および51は必ずしも設ける必要はない。
【0056】
燃料電池10は、プロトン伝導性の固体電解質を含むため、700℃未満、好ましくは、400℃〜600℃程度の中温域で作動させることができる。
【0057】
(セパレータ)
複数のセル構造体が積層されて、燃料電池が構成される場合には、例えば、セル構造体1と、カソード側セパレータ22と、アノード側セパレータ52とが、一単位として積層される。複数のセル構造体1は、例えば、両面にガス流路(酸化剤流路および燃料流路)を備えるセパレータにより、直列に接続されていてもよい。
【0058】
セパレータの材料としては、プロトン伝導性および耐熱性の点で、ステンレス鋼、ニッケル基合金、クロム基合金等の耐熱合金が例示できる。なかでも、安価である点で、ステンレス鋼が好ましい。プロトン伝導性固体酸化物型燃料電池(PCFC:Protomic Ceramic Fuel Cell)では、動作温度が400℃〜600℃程度であるため、ステンレス鋼をセパレータの材料として用いることができる。
【0059】
(集電体)
カソード側集電体およびアノード側集電体に用いられる構造体としては、例えば、銀、銀合金、ニッケル、ニッケル合金等を含む金属多孔体、金属メッシュ、パンチングメタル、エキスパンドメタル等が挙げられる。なかでも、軽量性や通気性の点で、金属多孔体が好ましい。特に、三次元網目状の構造を有する金属多孔体が好ましい。三次元網目状の構造とは、金属多孔体を構成する棒状や繊維状の金属が相互に三次元的に繋がり合い、ネットワークを形成している構造を指す。例えば、スポンジ状の構造や不織布状の構造が挙げられる。
【0060】
金属多孔体は、例えば、連続空隙を有する樹脂製の多孔体を、前記のような金属で被覆することにより形成できる。金属被覆処理の後、内部の樹脂が除去されると、金属多孔体の骨格の内部に空洞が形成されて、中空となる。このような構造を有する市販の金属多孔体としては、住友電気工業(株)製のニッケルの「セルメット」等を用いることができる。
燃料電池は、上記のセル構造体を用いる以外は、公知の方法により製造できる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
実施例1
(1)プロトン伝導体Ba
0.892Zr
0.800Y
0.200O
2.900(a1)の合成
炭酸バリウムと、酸化ジルコニウムと、酸化イットリウムとを、Baと、Zrと、Yとの比率が上記式となるようなモル比でボールミルに入れて混合した。混合物を一軸成形してペレットを得、1300℃で10時間焼成することにより、上記のプロトン伝導体(a1)を合成した。
【0063】
(2)電解質層−アノード接合体の作製
上記(1)で得られたプロトン伝導体(a1)と、NiOとを、バインダ(ポリビニルアルコール)、界面活性剤(ポリカルボン酸型界面活性剤)、および適量のエタノールとともに、ボールミルで混合し、造粒した。このとき、プロトン伝導体とNiOとは体積比40:60で混合した。バインダおよび添加剤の量は、プロトン伝導体およびNiOの総量100質量部に対して、それぞれ、10質量部および0.5質量部とした。得られた造粒物を一軸成形することにより、円盤状のペレット(直径20mm)を形成し、1000℃で仮焼成した。
【0064】
上記(1)で得られたプロトン伝導体(a1)と、エチルセルロース(バインダ)と、界面活性剤(ポリカルボン酸型界面活性剤)と、適量のブチルカルビトールアセテートとを混合することにより電解質ペーストを調製した。電解質ペーストを円盤状のペレットの一方の主面にスピンコートにより塗布して、塗膜を形成した。バインダおよび界面活性剤の量は、プロトン伝導体100質量部に対して、それぞれ、6質量部および0.5質量部とした。
【0065】
塗膜が形成されたペレットを、750℃で10時間加熱することにより脱バインダ処理を行った。次いで、得られたペレットを、1400℃で10時間加熱することにより本焼成した。このようにして、アノードの一方の主面に固体電解質層が一体に形成された電解質層−アノード接合体を得た。得られた接合体における固体電解質層の厚みを走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により測定したところ、10μmであった。また、アノードおよび固体電解質層の合計厚みをノギスで計測したところ、約1.4mmであった。
【0066】
(3)セル構造体の作製
LSCF(La
0.6Sr
0.4Fe
0.8Co
0.2O
3−δ(δ≒0.1))の粉末と界面活性剤(ポリカルボン酸型界面活性剤)と適量の溶媒(トルエンおよびイソプロパノール)とを含むカソード用ペーストを調製した。上記(2)で得られた接合体の固体電解質層の表面に、カソード用ペーストを塗布し、1000℃で2時間加熱することによりカソード(厚み10μm)を形成した。このようにしてセル構造体を形成した。
セル構造体において、固体電解質層の厚み方向の断面の任意の5箇所について元素の比率をEDXにより測定し、固体電解質層全体の平均的な組成がBa
0.892Zr
0.800Y
0.200O
2.900であることを確認した。
【0067】
(4)燃料電池の作製
上記(3)で得られたセル構造体のカソードおよびアノードのそれぞれの表面に、白金ペーストを塗布し、白金メッシュを取り付けることにより、集電体を形成した。さらに、カソード側の集電体の上に、酸化剤流路を有するステンレス鋼製のカソード側セパレータを積層し、アノード側集電体の上に、燃料流路を有するステンレス鋼製のアノード側セパレータを積層して、
図2に示す燃料電池を製作した。
【0068】
(3)評価
得られたプロトン伝導体の粉末またはこの粉末から作製した焼結体ペレットを用いて、下記の手順で、耐湿性およびプロトン伝導性を評価した。
(a)耐湿性
プロトン伝導体の粉末を、相対湿度100%および温度100℃の条件で、100時間静置した。次いで、X線回折(XRD:X−ray Diffraction)の参照強度比(RIR:Reference Intensity Ratio)法により、粉末を定量分析した。このようにして、加湿後のプロトン伝導体の組成を評価した。
【0069】
(b)プロトン伝導性
プロトン伝導体の粉末にバインダ(ポリビニルアルコール)を加え、ジルコニア乳鉢にて10分間混合した。バインダの量は、プロトン伝導体100質量部に対して、0.15質量部とした。得られた造粒物を一軸成形することにより、円盤状のペレット(直径20mm)を形成した。さらにペレットに対し2トン/cm
2での静水圧プレスを行い、成形体密度を上昇させた。このペレットを、750℃で10時間加熱することにより脱バインダ処理を行った。次いで、得られたペレットを、1600℃で24時間加熱することにより本焼成した。なお、ペレットの加熱は、プロトン伝導体の粉末中に埋めた状態で行った。
【0070】
得られたペレットの両面を研磨することにより、ペレットの厚さを1mmにした。ペレットの両面にスパッタによりPt電極を形成することによりサンプルを作製した。
サンプルの抵抗値を、加湿水素雰囲気下で交流インピーダンス法により測定し、測定値から、サンプルの導電率を算出した。この導電率を、プロトン伝導性の指標とした。
【0071】
実施例2
プロトン伝導体(a1)に代えてプロトン伝導体Ba
0.957Zr
0.800Y
0.200O
2.900(a2)を用いる以外は、実施例1と同様にして、セル構造体を作製し、燃料電池を作製した。プロトン伝導体(a2)は、炭酸バリウムの量を調節した以外は、実施例1の(1)と同様にして合成した。
得られたプロトン伝導体およびセル構造体を用いて、実施例1と同様の評価を行った。
【0072】
比較例1
プロトン伝導体(a1)に代えてプロトン伝導体Ba
0.980Zr
0.800Y
0.200O
2.900(b1)を用いる以外は、実施例1と同様にして、セル構造体を作製し、燃料電池を作製した。プロトン伝導体(b1)は、炭酸バリウムの量を調節した以外は、実施例1の(1)と同様にして合成した。
得られたプロトン伝導体およびセル構造体を用いて、実施例1と同様の評価を行った。
【0073】
比較例2
プロトン伝導体(a1)に代えてプロトン伝導体Ba
1.000Zr
0.800Y
0.200O
2.900(b2)を用いる以外は、実施例1と同様にして、セル構造体を作製し、燃料電池を作製した。プロトン伝導体(b2)は、炭酸バリウムの量を調節した以外は、実施例1の(1)と同様にして合成した。
得られたプロトン伝導体およびセル構造体を用いて、実施例1と同様の評価を行った。
実施例1〜2および比較例1〜2の結果を表1に示す。実施例1および2がA1およびA2であり、比較例1および2がB1およびB2である。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示されるように、Baの比率xが0.98未満である実施例のプロトン伝導体では、加湿後のBa(OH)
2の含有量は0質量%であり、BaCO
3の含有量も12質量%〜16質量%程度と少なく、BZY相の含有量は80質量%を超えている。ところが、比較例2のプロトン伝導体では、加湿後のBa(OH)
2の含有量は35質量%を超え、BZY相の含有量は実施例に比べて、30質量%近くも少ない。また、比較例1のプロトン伝導体でも、加湿後のBaCO
3の含有量は実施例の2倍より多くなっている。これらの結果から、実施例では比較例に比べて、加湿条件でもBaの析出が抑制され、その結果プロトン伝導体の腐食が抑制されたことが分かる。また、実施例でも比較的高いプロトン伝導性を確保できている。電解質膜の厚みをより小さくすれば、実施例のプロトン伝導体のプロトン伝導性をさらに高めることができ、実用上十分な性能を容易に確保することができる。
【0076】
実施例3
プロトン伝導体(a1)に代えてプロトン伝導体Ba
0.945Zr
0.700Ce
0.100Yb
0.200O
2.900(a3)を用いる以外は、実施例1と同様にして、セル構造体を作製し、燃料電池を作製した。得られたプロトン伝導体およびセル構造体を用いて、実施例1と同様の評価を行った。
【0077】
なお、プロトン伝導体(a3)は、次の手順で合成した。
炭酸バリウムと、酸化ジルコニウムと、酸化セリウムと、酸化イッテルビウムとを、Baと、Zrと、Ceと、Ybとの比率が上記式となるようなモル比でボールミルに入れて混合した。混合物を一軸成形してペレットを得、1300℃で10時間焼成することにより、上記のプロトン伝導体(a3)を合成した。
【0078】
比較例3
プロトン伝導体(a1)に代えてプロトン伝導体Ba
0.986Zr
0.700Ce
0.100Yb
0.200O
2.900(b3)を用いる以外は、実施例1と同様にして、セル構造体を作製し、燃料電池を作製した。プロトン伝導体(b3)は、炭酸バリウムの量を調節した以外は、実施例3と同様にして合成した。
得られたプロトン伝導体およびセル構造体を用いて、実施例1と同様の評価を行った。
実施例3(A3)および比較例3(B3)の結果を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表2に示されるように、元素MがYbの場合においてもBaの比率xが0.98未満である実施例のプロトン伝導体では、比較例よりも高い耐湿性を示した。
【0081】
実施例4
プロトン伝導体(a1)に代えてプロトン伝導体Ba
0.951Zr
0.800Yb
0.200O
2.900(a4)を用いる以外は、実施例1と同様にして、セル構造体を作製し、燃料電池を作製した。得られたプロトン伝導体およびセル構造体を用いて、実施例1と同様の評価を行った。
【0082】
なお、プロトン伝導体(a4)は、次の手順で合成した。
炭酸バリウムと、酸化ジルコニウムと、酸化イッテルビウムとを、Baと、Zrと、Ybとの比率が上記式となるようなモル比でボールミルに入れて混合した。混合物を一軸成形してペレットを得、1300℃で10時間焼成することにより、上記のプロトン伝導体(a4)を合成した。
【0083】
比較例4
プロトン伝導体(a1)に代えてプロトン伝導体Ba
0.985Zr
0.800Yb
0.200O
2.900(b4)を用いる以外は、実施例1と同様にして、セル構造体を作製し、燃料電池を作製した。プロトン伝導体(b4)は、炭酸バリウムの量を調節した以外は、実施例4と同様にして合成した。
得られたプロトン伝導体およびセル構造体を用いて、実施例1と同様の評価を行った。
実施例4(A4)および比較例4(B4)の結果を表3に示す。
【0084】
【表3】
【0085】
表3に示されるように、元素MがYbの場合においてもBaの比率xが0.98未満である実施例のプロトン伝導体では、比較例よりも高い耐湿性を示した。
【0086】
実施例5
(1)セル構造体および燃料電池の作製
実施例1の(2)において、比較例2で調製した電解質ペースト(プロトン伝導体(b2)を使用)を、円盤状のペレットの一方の主面に塗布して塗膜を形成した。塗膜が形成されたペレットを750℃で10時間加熱することにより脱バインダ処理した。次いで、脱バインダ処理した塗膜の表面に、実施例1で調製した電解質ペースト(プロトン伝導体(a1)使用)を塗布し、さらに750℃で10時間加熱することにより脱バインダ処理した。得られたペレットを、1400℃で10時間加熱することにより本焼成した。このようにして、アノードの一方の主面に固体電解質層が一体に形成された電解質層−アノード接合体を得た。
【0087】
得られた接合体における固体電解質層の厚み(T)をSEMにより測定したところ、10μmであった。また、アノードおよび固体電解質層の合計厚みをノギスで計測したところ、約1.4mmであった。
固体電解質層とアノードとの界面から0.25Tの位置におけるBaの比x1、および固体電解質層の表面から0.25Tの位置におけるBaの比率x2を、それぞれ、EPMAにより測定した。その結果、x1は、1.000であり、x2は0.892であった。
得られた接合体を用いる以外は実施例1と同様にしてセル構造体および燃料電池を作製した。
【0088】
(2)評価
上記(1)で得られたセル構造体を、600℃で、電流密度を変化させながら出力密度を測定し、出力密度の最大値を求めたところ、312mW/cm
2であった。なお、発電性能の評価の際、セル構造体のアノード側は加湿水素雰囲気に晒し、カソード側は大気雰囲気に晒した状態とした。また、比較例1で得られたセル構造体を用いて、上記と同様に、出力密度を評価したところ、344mW/cm
2であった。このように、実施例5では、比較例1に匹敵する高い出力が得られた。