(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の弾性波装置では、レイリー波を利用しているが、例えば、弾性波共振子の場合、共振周波数と反共振周波数との間の周波数域に、あるいは、帯域通過型フィルタにおける通過帯域内に、SH波によるスプリアスが現れることがあった。
【0005】
本発明の目的は、共振周波数と反共振周波数との間の周波数域内に、あるいは、帯域通過型フィルタにおける通過帯域内に、SH波によるスプリアスが生じ難い、弾性波装置、高周波フロントエンド回路及び通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある広い局面では、LiNbO
3基板と、前記LiNbO
3基板上に設けられたIDT電極と、前記IDT電極を覆うように前記LiNbO
3基板上に設けられており、上面に凸部を有する、誘電体膜とを備え、前記IDT電極によって励振された弾性波の主モードが、レイリー波を利用しており、前記IDT電極の厚みは、SH波による応答が現れる周波数が前記レイリー波の共振周波数より低くなる厚みとされている、弾性波装置が提供される。
【0007】
本発明の他の広い局面では、LiNbO
3基板と、前記LiNbO
3基板上に設けられたIDT電極と、前記IDT電極を覆うように前記LiNbO
3基板上に設けられており、上面に凸部を有する、誘電体膜とを備え、前記IDT電極が、Pt、W、Mo、Ta、Au及びCuからなる群から選択された少なくとも一種の金属を含む主電極層を有し、該主電極層の膜厚が、前記IDT電極の電極指ピッチで定まる波長λに対し、下記の表1に示す膜厚範囲とされている、弾性波装置が提供される。
【0008】
【表1】
【0009】
本発明に係る弾性波装置のある特定の局面では、前記凸部の高さは、前記IDT電極の電極指ピッチで定まる波長をλとした場合に、前記λの0.5%以上、3.0%以下である。
【0010】
本発明に係る弾性波装置の他の特定の局面では、前記凸部の高さは、前記IDT電極の電極指ピッチで定まる波長をλとした場合に、前記λの0.5%以上、1.0%未満である。
【0011】
本発明に係る弾性波装置のある特定の局面では、前記LiNbO
3基板のオイラー角が、(0°±5°,θ,0°±5°)において、θが27.5°以上、31.5°以下の範囲にある。この場合には、SH波スプリアスをより一層小さくすることができる。
【0012】
本発明に係る弾性波装置の他の特定の局面では、前記誘電体膜が、酸化ケイ素からなる。この場合には、弾性波装置の周波数温度係数TCFの絶対値を小さくすることができる。
【0013】
本発明に係る弾性波装置の他の特定の局面では、前記IDT電極が、前記主電極層と、他の電極層とを含む積層金属膜からなる。
【0014】
本発明に係る弾性波装置の別の特定の局面では、弾性波装置として、帯域通過型フィルタが構成されている。この場合には、帯域通過型フィルタにおける通過帯域内において、SH波によるスプリアスが生じ難い。
【0015】
本発明に係る高周波フロントエンド回路は、本発明に従って構成された弾性波装置と、パワーアンプと、を備える。
【0016】
本発明に係る通信装置は、前記高周波フロントエンド回路と、RF信号処理回路と、ベースバンド信号処理回路と、を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る弾性波装置によれば、SH波スプリアスの周波数位置が、共振周波数と反共振周波数の間にある周波数域の外や、帯域通過型フィルタにおける通過帯域外に配置されるため、SH波スプリアスによる特性の劣化が生じ難い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る弾性波装置の平面図であり、
図1(b)は、その要部を示す部分拡大正面断面図である。
【
図2】
図2は、IDT電極がPt膜からなる場合の、Pt膜の膜厚と、レイリー波の音速及びSH波の音速との関係を示す図である。
【
図3】
図3は、IDT電極がW膜からなる場合の、W膜の膜厚と、レイリー波の音速及びSH波の音速との関係を示す図である。
【
図4】
図4は、IDT電極がMo膜からなる場合の、Mo膜の膜厚と、レイリー波の音速及びSH波の音速との関係を示す図である。
【
図5】
図5は、IDT電極がTa膜からなる場合の、Ta膜の膜厚と、レイリー波の音速及びSH波の音速との関係を示す図である。
【
図6】
図6は、IDT電極がAu膜からなる場合の、Au膜の膜厚と、レイリー波の音速及びSH波の音速との関係を示す図である。
【
図7】
図7は、IDT電極がCu膜からなる場合の、Cu膜の膜厚と、レイリー波の音速及びSH波の音速との関係を示す図である。
【
図8】
図8は、凸部の高さと、レイリー波の応答の共振周波数及びSH波の応答の共振周波数との関係を示す図である。
【
図9】
図9は、凸部の高さと、レイリー波の共振周波数とSH波の共振周波数との差である周波数差との関係を示す図である。
【
図10】
図10は、凸部の頂点の弾性波伝搬方向のずれである凸部のずれ量と、レイリー波の応答の共振周波数との関係を示す図である。
【
図11】
図11は、凸部の高さと、レイリー波の共振周波数の周波数ばらつきとの関係を示す図である。
【
図12】
図12は、本発明の変形例に係る弾性波装置の要部を示す部分拡大正面断面図である。
【
図13】
図13は、実施例1としての弾性波共振子のSパラメータの周波数特性を示す図である。
【
図14】
図14は、実施例1としての弾性波共振子のインピーダンス特性を示す図である。
【
図15】
図15は、実施例1としての弾性波共振子における凸部のずれ量と、レイリー波の応答の周波数との関係を示す図である。
【
図16】
図16は、LiNbO
3のオイラー角のθと、SH波によるリップルの大きさとの関係を示す図である。
【
図17】
図17は、本発明の他の実施形態としてのラダー型フィルタを示す回路図である。
【
図18】
図18は、実施例1のインピーダンス特性と、比較例のインピーダンス特性を示す図である。
【
図19】
図19は、高周波フロントエンド回路の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0020】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0021】
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る弾性波装置の平面図であり、
図1(b)は、その要部を示す部分拡大正面断面図である。
【0022】
弾性波装置1は、LiNbO
3基板2を有する。LiNbO
3基板2上に、IDT電極3が設けられている。IDT電極3は、複数本の電極指3aを有する。IDT電極3の弾性波伝搬方向両側に、反射器4,5が設けられている。それによって、1ポート型弾性波共振子が構成されている。
【0023】
弾性波装置1では、IDT電極3を覆うように、誘電体膜6が設けられている。本実施形態では、誘電体膜6はSiO
2からなる。誘電体膜6が、SiO
2からなるため、弾性波装置1では、周波数温度係数TCFの絶対値を小さくすることが可能とされている。もっとも、誘電体膜6は、酸化ケイ素以外の酸窒化ケイ素などの他の誘電体材料により形成されていてもよい。
【0024】
上記誘電体膜6は、LiNbO
3基板2上に蒸着などの堆積法により形成されている。従って、IDT電極3の厚みに応じた凸部6aが電極指3aの上方において誘電体膜6の上面に現れることとなる。この凸部6aの高さをHとする。高さHは、
図1(b)に示すように、凸部6aの頂点と、凸部6a以外の領域における誘電体膜6の上面との高さの差である。
【0025】
弾性波装置1は、レイリー波を利用している。この場合、SH波による応答がスプリアスとなる。SH波による応答とは、SH波による共振現象をいい、共振周波数と反共振周波数とを含む周波数域における共振特性である。弾性波共振子において、共振周波数と反共振周波数との間の周波数域にSH波スプリアスが現れると、特性の劣化が著しい。本実施形態の弾性波装置1の特徴は、上記IDT電極がPt、W、Mo、Ta、Au及びCuからなる群から選択された1種の金属からなる主電極層を有し、該主電極層の膜厚が、上記IDT電極の電極指ピッチで定まる波長λに対し、下記の表1に示す膜厚範囲とされていることにある。
【0027】
弾性波装置1では、IDT電極の主電極層の膜厚が、電極材料に応じて上記表1に示す範囲内とされているため、SH波スプリアスを共振周波数と反共振周波数との間の周波数域の外側に位置させることができる。これを、以下において、
図2〜
図7を参照して説明する。
【0028】
図2〜
図7は、IDT電極の電極膜厚と、レイリー波の音速及びSH波の音速との関係を示す図である。
図2はIDT電極がPt膜からなる場合、
図3はIDT電極がW膜からなる場合、
図4はIDT電極がMo膜からなる場合、
図5はIDT電極がTa膜からなる場合、
図6はIDT電極がAu膜からなる場合、
図7はIDT電極がCu膜からなる場合の結果を示す。いずれの場合においても、LiNbO
3基板としては、オイラー角(0°,30°,0°)のLiNbO
3基板を用いた。IDT電極のデューティは、0.60とした。また、誘電体膜6として、0.35λの厚みのSiO
2膜を形成した。
【0029】
図2〜
図7から明らかなように、IDT電極の厚みがある値を超えると、レイリー波の音速に比べ、SH波の音速が低くなる。例えば、
図2のPt膜の場合、Pt膜の膜厚が0.049λを超えると、SH波の音速が、レイリー波の音速よりも低くなっている。なお、λは、IDT電極3の電極指ピッチで定まる波長である。従って、Pt膜では、膜厚を0.049λ以上とすれば、SH波による応答を、レイリー波の応答の共振周波数より低い周波数域に位置させることができる。
【0030】
図3に示すように、W膜の場合には、IDT電極3の膜厚を0.066λ以上とすれば、同様に、SH波による応答をレイリー波の応答の共振周波数より低い周波数域に位置させることができる。
【0031】
図4に示すように、Mo膜の場合には、膜厚が0.163λ以上であれば、SH波による応答を、レイリー波の応答の共振周波数より低い周波数域に位置させることができる。
【0032】
図5に示すように、Ta膜の場合には、膜厚が0.079λ以上であれば、SH波による応答を、レイリー波の応答の共振周波数より低い周波数域に位置させることができる。
【0033】
図6に示すように、Au膜の場合には、膜厚が0.047λ以上であれば、SH波による応答を、レイリー波の応答の共振周波数より低い周波数域に位置させることができる。
【0034】
図7に示すように、Cu膜の場合には、膜厚が0.158λ以上であれば、SH波による応答を、レイリー波の応答の共振周波数より低い周波数域に位置させることができる。
【0035】
すなわち、上述した表1に示したように、Pt、W、Mo、Ta、AuまたはCuの場合、それぞれ、λの4.9%以上、6.6%以上、16.3%以上、7.9%以上、4.7%以上、15.8%以上であれば、SH波による応答を、レイリー波による応答の共振周波数より低い周波数域に位置させることができる。よって、
図18に実線で示すように、SH波による応答S1を、主応答であるレイリー波の共振周波数より低い周波数域に位置させることができる。この場合、SH波による応答S1が、共振周波数と反共振周波数との間に位置しないため、特性の劣化を効果的に抑制することができる。
【0036】
なお、
図18の破線は比較例のインピーダンス特性を示す。この比較例では、電極膜厚が上記表1に示す範囲よりも薄くされている。この場合、レイリー波の共振周波数と反共振周波数との間の周波数域内に、SH波による応答S2が現れている。従って、十分な共振特性を得ることができない。
【0037】
なお、IDT電極の膜厚の上限はSH波の応答をレイリー波の応答の共振周波数よりも低い周波数域に位置させる点において特に限定されない。もっとも、IDT電極の上記主電極層の膜厚が厚くなりすぎると、コストが高くついたり、電極指の幅がばらついた場合の特性ばらつきが大きくなったりする。従って、本発明の効果を得る上では、上限は特に限定されないが、上記理由により、Pt電極を用いる場合は波長λの10%以下とすることが望ましい。電極指の幅がばらつくことによる影響の大きさは電極材料の密度にほぼ比例するため、Pt以外の電極材料を用いる場合は、10×ρ
Pt/ρ%以下とすれば良い。
【0038】
ところで、
図1(b)で示したように、誘電体膜6の上面には、凸部6aが存在する。この凸部6aの高さHは、好ましくは、波長λの0.5%以上、3.0%以下とすることが望ましい。それによって、SH波スプリアスの影響が小さいだけでなく、周波数ばらつきの小さい弾性波装置を提供することができる。これを、
図8〜
図12を参照して説明する。
【0039】
誘電体膜6の表面の凸部6aの高さHは、波長λの0.5%以上とすることが望ましい理由を下記で説明する。
【0040】
前述したように、SH波の音速がレイリー波の音速よりも低い範囲では、
図8に示すように、上記凸部の高さが大きくなるほど、レイリー波の共振周波数と、SH波の共振周波数との差が大きくなっていく。また、レイリー波の共振周波数に対するSH波の共振周波数が相対的により低くなっていく。
図9は、凸部の高さと、レイリー波の共振周波数とSH波の共振周波数との周波数差との関係を示す図である。
【0041】
図8及び
図9から明らかなように、誘電体膜6の表面の凸部6aの高さHを、電極指ピッチで定まる波長λの0.5%より大きくすることが望ましい。それによって、不要波であるSH波の共振周波数を、レイリー波の共振周波数から、さらに、0.6MHz以上離すことができる。
【0042】
つまり、誘電体膜6の表面の凸部6aの高さHを、電極指ピッチで定まる波長λの0.5%より大きくすると、IDT電極の膜厚を変えずに、不要波であるSH波の共振周波数を、レイリー波の共振周波数から、さらに、0.6MHz以上離すことができる。
【0043】
したがって、IDT電極の膜厚と、凸部の高さを調整することによって、レイリー波の共振周波数の1.3%以上、SH波の応答を離すことができ、より一層良好な共振特性を得ることができる。従って、この弾性波装置1を用いてラダー型フィルタなどを構成した場合、例えば、周波数帯域幅2.35%であるBand12にも対応できるようになる。
【0044】
次に、誘電体膜6の表面の凸部6aの高さHは、波長λの3.0%以下とすることが望ましい理由を下記で説明する。
【0045】
誘電体膜6の表面の凸部6aの高さHがばらついたり、凸部6aの位置がばらつくと、弾性波装置1では、周波数ばらつきが生じるおそれがある。
図10は、凸部6aの頂点の弾性波伝搬方向のずれ量と、レイリー波の共振周波数との関係を示す図である。
【0046】
なお、凸部6aのずれ量とは、
図1(b)においてVで示す量である。すなわち、凸部6aの頂点が、電極指の中心を通る中心線Cから一点鎖線で示すように弾性波伝搬方向にずれた場合の、該頂点の弾性波伝搬方向におけるずれ量である。
【0047】
図10では、凸部6aの高さHが、0%(凸部が存在しない場合)、1.0%、2.0%、3.0%及び4.0%の場合の結果が示されている。
図10において、例えば、凸部6aの高さHが4.0%であり、かつ、凸部のずれが0%の場合には、レイリー波の共振周波数は791.6MHzである。これに対して、凸部のずれが20%になると、共振周波数は789.5MHzとなっている。従って、791.6−789.5=2.1MHzが凸部6aのずれによる周波数ばらつきの大きさである。この2.1MHzは、レイリー波の周波数で規格化すると、0.27%に相当する。
【0048】
図10から明らかなように、凸部6aのずれ量が大きくなるにつれて、上記レイリー波の共振周波数の周波数ばらつきが大きくなることがわかる。また、凸部6aの高さHが高くなるほど上記周波数ばらつきが大きくなっていることもわかる。
【0049】
図11は、凸部6aのずれ量が波長の20%である場合の凸部6aの高さHと、周波数ばらつきとの関係を示す図である。
図11から明らかなように、凸部6aの高さHとほぼ比例して、周波数ばらつきが大きくなっていることがわかる。凸部6aの高さHが波長λの4%では、周波数ばらつきは0.27%に至っている。すなわち、0.25%を超える周波数ばらつきが生じている。
【0050】
従って、好ましくは、誘電体膜6の表面の凸部6aの高さHは、波長λの3.0%以下とすることが望ましく、それによって、周波数ばらつきを小さくすることができる。
【0051】
また、前述したように、上記凸部6aの高さHは波長λの0.5%以上とすることが望ましく、それによって、不要波であるSH波の共振周波数をレイリー波の共振周波数から10MHz以上離すことができる。よって、0.5%以上、3.0%以下であることが望ましい。
【0052】
なお、誘電体膜6の表面の凸部6aの高さHは、波長λの1.0%未満とすることで、周波数ばらつきを0.06%未満にすることができるので、更に好ましい。
【0053】
なお、上記実施形態では、IDT電極3は、Ptなどの主電極のみからなる単一層の電極であった。もっとも、本発明においては、
図12に示すようにIDT電極3は、複数の金属膜を積層してなる積層金属膜であってもよい。
図12に示すIDT電極3では、下から順に密着層11、主電極層12、拡散防止層13、低抵抗層14及び保護層15を有する。主電極層12は、上述したPt、Wなどの主電極層構成金属からなる。密着層11は、例えばTiやNiCr合金などのLiNbO
3に対する密着性が、主電極層12よりも高い金属もしくは合金からなる。拡散防止層13は、Tiなどからなり、低抵抗層14と主電極層12との間の拡散を防止するために設けられている。
【0054】
低抵抗層14は、Al、AlCu合金などの導電性が主電極層よりも高い材料からなる。保護層15は、Tiなどの適宜の金属もしくは合金からなる。
【0055】
このような積層金属膜によりIDT電極を構成してもよい。その場合には、上記主電極層12がレイリー波の応答を得るにあたって支配的である。従って、主電極層12の膜厚を、上述した表1に示した膜厚範囲内とすることが望ましい。
【0056】
また、上記実施形態では、1ポート型弾性波共振子につき説明したが、本発明は、1ポート型弾性波共振子が複数接続されているラダー型フィルタなどの帯域通過型フィルタや、該帯域通過型フィルタを備えるマルチプレクサであってもよい。
【0057】
図17は、このような帯域通過型フィルタの一例としてのラダー型フィルタの回路構成を示す図である。ラダー型フィルタ21は、直列腕共振子S1〜S3及び並列腕共振子P1,P2を有する。この直列腕共振子S1〜S3や並列腕共振子P1,P2として、本発明の実施形態に係る弾性波共振子を用いればよい。
【0058】
次に、具体的な実施例
1を説明する。以下の実施例
1では、弾性波共振子としての弾性波装置1を作製した。
【0059】
(実施例1)
オイラー角(0°,30°,0°)のLiNbO
3基板を用いた。IDT電極として、LiNbO
3基板側から順に、NiCr/Pt/Ti/AlCu/Tiの積層金属膜を用いた。それぞれの膜厚は、10nm/250nm/60nm/340nm/10nmとした。なお、Pt膜の膜厚250nmは、電極指ピッチで定まる波長比で6.25%である。IDT電極の電極指ピッチで定まる波長は4.0μmとし、デューティは0.65とした。
【0060】
誘電体膜として、1200nm、波長比で30%の膜厚のSiO
2膜を形成した。凸部6aの高さHは波長λの2%となるように調整した。また、凸部の位置は、電極指中央に配置した。
【0061】
図13は、実施例1の弾性波装置のS特性を示し、
図14は、インピーダンス特性を示す。
図13及び
図14から明らかなように、SH波による応答が、レイリー波の共振周波数に対して13MHz低い位置に現れている。
【0062】
図15は、実施例1において、上記凸部のずれ量を変化させた場合の共振周波数の変化を示す図である。
図15から明らかなように、凸部の位置が600nmずれた場合であっても、レイリー波の共振周波数のばらつきは最大で2MHz程度とされ得ることがわかる。
【0063】
図16は、実施例1において、オイラー角θを変化させた場合のSH波による応答の大きさの変化を破線で示す図である。
図16から明らかなように、オイラー角θが29.5°付近でSH波の応答の大きさが最小となる。好ましくは、SH波の応答の大きさを、2dB以下とすることが望ましい。その場合には、オイラー角は、(0°,27.5°〜31.5°,0°)であることが望ましい。また、本願発明者らの実験によれば、オイラー角のφ及びψは、0°±5°の範囲内であれば、同様の結果が得られていることが確かめられている。従って、オイラー角は、(0°±5°の範囲内,θ,0°±5°の範囲内)において、θは27.5°以上、31.5°以下の範囲内であることが望ましい。
【0064】
IDT電極の材料としては、先にあげたPt、W、Mo、Ta、Au、Cuに限定されない。
【0065】
SH波による応答をレイリー波の応答の共振周波数より低い周波数域に位置させることができるように、電極材料および厚みを設定することができれば任意の金属を使用し得る。
【0066】
図19は、高周波フロントエンド回路130の構成図である。なお、同図には、高周波フロントエンド回路130と接続される各構成要素(アンテナ素子102、RF信号処理回路(RFIC)103、及び、ベースバンド信号処理回路(BBIC)104)についても併せて図示されている。高周波フロントエンド回路130、RF信号処理回路103及びベースバンド信号処理回路104は、通信装置140を構成している。なお、通信装置140は、電源やCPU、ディスプレイを含んでいても良い。
【0067】
高周波フロントエンド回路130は、アンテナ側スイッチ125と、クワッドプレクサ101と、受信側スイッチ113及び送信側スイッチ123と、ローノイズアンプ回路114と、パワーアンプ回路124とを備える。なお、弾性波装置1は、クワッドプレクサ101であってもよいし、フィルタ111、112、121、122であってもよい。
【0068】
受信側スイッチ113は、クワッドプレクサ101の受信端子である個別端子111A及び個別端子121Aに個別に接続された2つの選択端子、ならびに、ローノイズアンプ回路114に接続された共通端子を有するスイッチ回路である。
【0069】
送信側スイッチ123は、クワッドプレクサ101の送信端子である個別端子112A及び個別端子122Aに個別に接続された2つの選択端子、ならびに、パワーアンプ回路124に接続された共通端子を有するスイッチ回路である。
【0070】
これら受信側スイッチ113及び送信側スイッチ123は、それぞれ、制御部(図示せず)からの制御信号に従って、共通端子と所定のバンドに対応する信号経路とを接続し、例えば、SPDT(Single Pole Double Throw)型のスイッチによって構成される。なお、共通端子と接続される選択端子は1つに限らず、複数であってもかまわない。つまり、高周波フロントエンド回路130は、キャリアアグリゲーションに対応してもかまわない。
【0071】
ローノイズアンプ回路114は、アンテナ素子102、クワッドプレクサ101及び受信側スイッチ113を経由した高周波信号(ここでは高周波受信信号)を増幅し、RF信号処理回路103へ出力する受信増幅回路である。
【0072】
パワーアンプ回路124は、RF信号処理回路103から出力された高周波信号(ここでは高周波送信信号)を増幅し、送信側スイッチ123及びクワッドプレクサ101を経由してアンテナ素子102に出力する送信増幅回路である。
【0073】
RF信号処理回路103は、アンテナ素子102から受信信号経路を介して入力された高周波受信信号を、ダウンコンバート等により信号処理し、当該信号処理して生成された受信信号をベースバンド信号処理回路104へ出力する。また、RF信号処理回路103は、ベースバンド信号処理回路104から入力された送信信号をアップコンバート等により信号処理し、当該信号処理して生成された高周波送信信号をパワーアンプ回路124へ出力する。RF信号処理回路103は、例えば、RFICである。ベースバンド信号処理回路104で処理された信号は、例えば、画像信号として画像表示のために、または、音声信号として通話のために使用される。なお、高周波フロントエンド回路130は、上述した各構成要素の間に、他の回路素子を備えていてもよい。
【0074】
以上のように構成された高周波フロントエンド回路130及び通信装置140によれば、上記クワッドプレクサ101を備えることにより、通過帯域内のリップルを抑制することができる。
【0075】
なお、高周波フロントエンド回路130は、上記クワッドプレクサ101に代わり、クワッドプレクサ101の変形例に係るクワッドプレクサを備えてもかまわない。
【0076】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施形態に係る弾性波装置、高周波フロントエンド回路及び通信装置について、実施形態及びその変形例を挙げて説明したが、本発明は、上記実施形態及び変形例における任意の構成要素を組み合わせて実現される別の実施形態や、上記実施形態に対して本発明の主旨を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例や、本発明に係る高周波フロントエンド回路及び通信装置を内蔵した各種機器も本発明に含まれる。
【0077】
例えば、上記説明では、弾性波装置として、クワッドプレクサであってもよいし、フィルタであってもよいとしたが、本発明は、クワッドプレクサに加えて、例えば、3つのフィルタのアンテナ端子が共通化されたトリプレクサや、6つのフィルタのアンテナ端子が共通化されたヘキサプレクサ等のマルチプレクサについても適用することができる。マルチプレクサは、2以上のフィルタを備えていればよい。
【0078】
さらには、マルチプレクサは、送信フィルタ及び受信フィルタの双方を備える構成に限らず、送信フィルタのみ、または、受信フィルタのみを備える構成であってもかまわない。
【0079】
本発明は、フィルタ、マルチバンドシステムに適用できるマルチプレクサ、フロントエンド回路及び通信装置として、携帯電話等の通信機器に広く利用できる。