【実施例】
【0037】
[実施例1]
図2に示した光学系を用いて、被加工物4に対する微小突起の形成を行った。
【0038】
レーザー発振器1はNd:YAGレーザーであり、出力は0.05 mJであり、パルス光2のパルス幅は20ns、波長は2480nmであった。対物レンズ12の焦点距離は50mm、倍率は20倍であった。螺旋状位相板13の分割数は16であった。被加工物4は、シート状のヒアルロン酸ナトリウム(100%)であった。また、発生させた光渦レーザービームのパルス光3は、ラゲールガウスビームのパルス光であり、その渦次数は1であった。光渦レーザービームのパルス光3(ラゲールガウスビームのパルス光)の被加工物4上でのスポット径は、50μmであった。
【0039】
この結果、
図3に示すように、根元部分の直径Wが約20μm、高さHが約25μmの微小突起を形成することができた。アスペクト比(高さH/直径W)はほぼ1.25であった。なお、根元部分の直径は、被加工物4表面のベースライン(すなわち表面4a)上の直径であり、高さは同じくベースラインからの高さである。
【0040】
<第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同一箇所についての説明は省略する。
【0041】
本発明では、被加工物4に乾燥によって除去可能な加工用剤を含有させておく。加工用剤としては、量平均分子量Mwが300未満の化合物が好適に用いられる。加熱によって容易に除去できる水又は有機溶媒や、光渦レーザービームの波長に対して吸収特性を有する化合物などが特に好ましく、特に注射用途のマイクロニードルを作製する場合には、人体に影響の小さい水やエチルアルコールなどが好適に用いられる。加工用剤の含有量に特に制限はないが、被加工物4における総量(重量換算)の95.0%〜2.0%程度、より好ましくは70.0%〜5.0%であることが好ましい。
【0042】
例えば、予め加工用剤に対して高分子化合物を分散させ、乾燥により被加工物4を作製する場合、乾燥条件の設定により、加工用剤を一定量残留させた状態にする。また、被加工物4の作製後に被加工物4を加工用剤の高湿下に一定時間置いて吸湿させたり、含浸させたりすることによって加工用剤を含有させることもできる。
【0043】
これにより、高分子化合物間に加工用剤が入り込むため、高分子化合物がいわば解けた状態となる。この結果、加工用剤を含まない場合と比較して、アブレーションが生じやすくなり、微小突起の形成が容易となる。
【0044】
微小突起を形成した後、被加工物4は乾燥機などで乾燥されても良い。乾燥条件に制限はないが、例えば50〜80℃で1〜5時間程度乾燥させる。なお、加工用剤として人体に影響のない化合物(水やエチルアルコールなど)を使用した場合には、加工用剤を含んだまま製品としても良い。もちろん、乾燥させないでそのまま使用することも可能である。
【0045】
[実施例2]
被加工物4は、シート状のヒアルロン酸ナトリウム(100%)に対して、水を含有させたものを使用した。水の含有量は、被加工物4全体の30%程度であった。水に分散したヒアルロン酸ナトリウムをシート状に形成する際に、乾燥工程を短縮することにより、水分を被加工物4に残留させた。
【0046】
レーザー発振器1として、1064nmの波長を使用した以外は同一の条件で光渦レーザービームのパルス光3を被加工物4に照射した。
【0047】
この結果、
図4に示すように、高さHが40μm、根元の直径Wが110μmの微小突起を形成することができた。
【0048】
[実施例3]
被加工物4として、ヒアルロン酸ナトリウム(100%)に対して、多量の水を含有させてから所定の温度(例えば40〜60℃)で乾燥させたものを使用した。水の含有量は、被加工物4全体の50%程度であった。水に分散したヒアルロン酸ナトリウムをシート状に形成する際に、乾燥温度及び湿度を調整することにより、一定量の水分を被加工物4に残留させた。
【0049】
レーザー発振器1として、1064nmの波長を使用した以外は同一の条件で光渦レーザービームのパルス光3を被加工物4に照射した。
【0050】
この結果、
図5に示すように、高さHが47μm、根元の直径Wが78μmの微小突起を形成することができた。
【0051】
このように、ヒアルロン酸ナトリウムシートにおける水分含有量を増大させることにより、根元直径に対する高さの比率であるアスペクト比を高くすることができることが確認された。これは、加工用剤である水に起因するものと考えられる。同じく保水能力が高い保水性高分子(高分子化合物本体に対して30%、より好ましくは100%以上の水を含有することができる高分子化合物)であるコラーゲンなどでも、全体重量に対して30%以上の水を含有させることにより、アスペクト比の高いマイクロニードルを製造することが可能である。
【0052】
<動作及び効果>
以上の構成において、本発明のレーザ加工方法は、
高分子化合物を主成分とする被加工物に対し、
1.0〜10.0μmの波長を有し、円偏光の回転方向と光渦レーザービームの回転方向が同一である円偏光光渦レーザービームのパルス光を照射することにより、前記被加工物状に微少な突起を形成することを特徴とする。
【0053】
これにより、被加工物の主成分である高分子化合物を炭化させることなく、アブレーションを生じさせることができ、被加工物上に微小突起を形成させることができる。
【0054】
光渦レーザービームの波長が、1.2〜7.0μmであることにより、適切なエネルギー及び被加工物の吸収特性を有する波長でアブレーションを生じさせることができる。
【0055】
光渦レーザービームの波長が、1.5〜4.0μmであることにより、比較的大きな吸収により効果的に被加工物のアブレーションを生じさせることができる。
【0056】
前記被加工物は、加熱により容易に除去できる溶媒である加工用剤を含有することにより、高分子化合物同士の絡み合いを低下させて加工用剤のアブレーションを促進することができる。
【0057】
前記加工用剤は、加熱により容易に除去できる溶媒であることにより、溶媒のアブレーションによるエネルギーの吸収や気体状態で生じるエネルギー吸収により被加工物の高分子化合物の炭化を防止することができる。
【0058】
前記加工用剤は、照射する光渦レーザービームの波長に吸収特性を有することにより、被加工物の発熱を促進し、効果的にアブレーションを生じさせることができる。
【0059】
前記加工用剤は、水又はエチルアルコールであることにより、光渦レーザービームの吸収、高分子化合物の絡み合い低下を生じさせるだけでなく、人体や環境に害を及ぼさない。
【0060】
前記被加工物は、加工用剤として、水又は有機溶媒、若しくはこれらの混合溶媒を含有し、前記パルス光の照射後、前記加工溶剤を乾燥により除去する。これにより、加工後には本来の被加工物と同じ組成のものを得ることができる。また、大きく形成した微小突起を乾燥による収縮を利用して小さくすることもできる。
【0061】
前記加工用剤として少なくとも水を含有し、光渦レーザービームの波長が、1.7〜3.5μmであることにより、水が有するOH基による光渦レーザビームの大きな吸収を利用して効果的にアブレーションを生じさせることができる。
【0062】
前記加工用剤は、水又はエチルアルコールを主成分とし、
前記光渦レーザビーム照射時において、前記被加工物における全体重量の20%〜70%を占めることを特徴とする。なお、主成分とは、加工用剤の全体重量のうち50%以上を占めることをいう。
【0063】
これにより、水及びエチルアルコールが有する水酸基由来の吸収特性を利用して、光産レーザービームによるアブレーションを効果的に生じさせることができる。例えば、実施例2及び実施例3では、水を加工用剤として多量に含有させることにより、ヒアルロン酸ナトリウム自体が殆ど吸収しない1064nmの光渦レーザービームに対するアブレーションの効率を高めることが可能となっている。
【0064】
前記光渦レーザビームの波長が、1.0〜3.5μmであることを特徴とする。これにより、エネルギーが比較的高い波長領域を使用してマイクロニードルを製造することができる。
【0065】
以上の構成によれば、本発明のマイクロニードルの製造方法では、生体吸収高分子を主成分とする被加工物に対し、1.0〜10.0μmの波長を有し、円偏光の回転方向と光渦レーザービームの回転方向が同一である円偏光光渦レーザービームのパルス光を照射することにより、前記被加工物状に微少な突起を形成する。
【0066】
これにより、被加工物の主成分である生体吸収高分子を炭化させることなく、アブレーションを生じさせることができ、被加工物上に微小突起を形成させ、生体吸収高分子を主成分とするマイクロニードルを製造することが可能となる。
【0067】
<他の実施の形態>
なお上述実施形態では、孔のない微小突起を形成したが、注射針のように中心に孔を有する微小突起を形成しても良い。微小突起として初めから中心に孔を形成する他、後から微小突起に孔を形成しても良い。
【0068】
また上述実施形態では、医療及び美容用途におけるマイクロニードルの製造に本発明を適用したが、例えば工業用途でプラスチック材料などの高分子材料の表面に微小突起を形成しても良い。また、被加工物表面は平面である必要はなく、例えば球の表面など曲面上に微小突起を形成しても良い。