特許第6601558号(P6601558)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6601558レーザ加工方法及びマイクロニードルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6601558
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】レーザ加工方法及びマイクロニードルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20191028BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20191028BHJP
【FI】
   A61M37/00 505
   B23K26/352
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-517041(P2018-517041)
(86)(22)【出願日】2017年5月9日
(86)【国際出願番号】JP2017017588
(87)【国際公開番号】WO2017195790
(87)【国際公開日】20171116
【審査請求日】2018年12月29日
(31)【優先権主張番号】特願2016-93632(P2016-93632)
(32)【優先日】2016年5月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514277260
【氏名又は名称】シンクランド株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100154634
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 みさ子
(72)【発明者】
【氏名】宮地 邦男
(72)【発明者】
【氏名】及川 陽一
(72)【発明者】
【氏名】尾松 孝茂
【審査官】 後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/181890(WO,A2)
【文献】 特許第5531261(JP,B2)
【文献】 特開2009−061212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
B23K 26/352
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子化合物を主成分とする被加工物に対し、
1.0〜10.0μmの波長を有し、円偏光の回転方向と光渦レーザービームの回転方向が同一である円偏光の光渦レーザービームのパルス光を照射することにより、前記被加工物に微少な突起を形成する
ことを特徴とするマイクロニードルの製造方法。
【請求項2】
光渦レーザービームの波長が、
1.0〜7.0μmである
ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロニードルの製造方法。
【請求項3】
光渦レーザービームの波長が、
1.5〜4.0μmである
ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロニードルの製造方法。
【請求項4】
前記被加工物は、
前記光レーザビーム照射時において、記被加工物における全体重量の20%〜70%を占める加工用剤を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロニードルの製造方法。
【請求項5】
前記加工用剤は、
加熱により容易に除去できる溶媒である
ことを特徴とする請求項4に記載のマイクロニードルの製造方法。
【請求項6】
前記加工用剤は、
水又はエチルアルコールであ
ことを特徴とする請求項4に記載のマイクロニードルの製造方法。
【請求項7】
前記光渦レーザビームの波長が、
1.0〜3.5μmである
ことを特徴とする請求項6に記載のマイクロニードルの製造方法。
【請求項8】
前記被加工物は、
加工用剤として、水又は有機溶媒、若しくはこれらの混合溶媒を含有し、
前記パルス光の照射後、前記加工溶剤を乾燥により除去する
ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロニードルの製造方法。
【請求項9】
前記加工用剤として少なくとも水を含有し、
光渦レーザービームの波長が、
1.7〜3.5μmである
ことを特徴とする請求項4に記載のマイクロニードルの製造方法。
【請求項10】
生体吸収高分子を主成分とする被加工物に対し、
1.0〜10.0μmの波長を有し、円偏光の回転方向と光渦レーザービームの回転方向が同一である円偏光光渦レーザービームのパルス光を照射することにより、前記被加工物に微少な突起を形成する
ことを特徴とするレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば円偏光の回転方向と光渦レーザービームの回転方向が同一である円偏光光渦レーザービームのパルス光を用いて生体吸収高分子からなるマイクロニードルを製造する際に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、円偏光の回転方向と光渦レーザービームの回転方向が同一である円偏光光渦レーザビームを用いる光渦技術が種々の分野で注目を浴びている。円偏光光渦レーザビームは、円偏光レーザビームに特殊な螺旋位相板を通過させることにより、螺旋状の位相を有するレーザビームであり、通常の円偏光レーザビームとは相違する特性を有する。
【0003】
被加工物に対してこの円偏光光渦レーザビームを照射することにより、被加工物表面を蒸発させるアブレーション現象を利用して、被加工物表面に突起(針状体)を生成する技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5531261号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した光渦技術は、被加工物として半導体や金属を前提にしており、プラスチック材料や生体高分子などの、いわゆる有機高分子化合物を想定したものではないという問題があった。
【0006】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的は、有機高分子化合物に対して微小突起を形成可能なレーザ加工方法及びマイクロニードルの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため、本発明のレーザ加工方法は、高分子化合物を主成分とする被加工物に対し、
1.0〜10.0μmの波長を有し、円偏光の回転方向と光渦レーザービームの回転方向が同一である円偏光光渦レーザービームのパルス光を照射することにより、前記被加工物状に微少な突起を形成する
ことを特徴とする。
【0008】
また、本発明のマイクロニードルの製造方法は、生体吸収高分子を主成分とする被加工物に対し、
1.0〜10.0μmの波長を有し、円偏光の回転方向と光渦レーザービームの回転方向が同一である円偏光光渦レーザービームのパルス光を照射することにより、前記被加工物状に微少な突起を形成することを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、高分子化合物に対して微小突起を形成可能なレーザ加工方法及びマイクロニードルの製造方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】微小突起物形成概略図である。
図2】レーザー加工方法を実施するための光学系の一例の概略図である.
図3】実施例1によって作製された微小突起の拡大図である。
図4】実施例2によって作製された微小突起の拡大図及びその断面波形である。
図5】実施例3によって作製された微小突起の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1の実施の形態>
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0012】
近年、美容や医療用途において、皮膚をできるだけ傷付けないように美容成分や薬剤を皮膚に注入することを目的として、直径が小さい微小突起でなるマイクロニードルが提案されている(例えば特許第5495034号参照)。このマイクロニードルでは、マイクロニードルそのものが美容成分や薬剤を含んでおり、皮膚に刺さったマイクロニードルがそのまま体内に吸収される。
【0013】
これらのマイクロニードルでは、マイクロニードルの径が小さいほど患者が感じる痛みや皮膚につく傷が小さくなることから、直径をより小さく、かつアスペクト比を大きくすることが切望されていた。このパターン転写方式では、微小突起の根元部分の直径が最小でも200μm程度である。パターン転写方式では、直径が小さくなるほど、またアスペクト比が大きくなるほど鋳型を取り外す際に針が折れてしまうリスクが増大してしまい、さらに微細なマイクロニードルの製造が困難とされている。
【0014】
また、有機物である高分子化合物に微小突起を形成できれば、上述したマイクロニードル以外にも種々の用途に利用できると考えられる。
【0015】
上述したように、光渦技術は、被加工物として半導体や金属を前提にした加工技術であり、高分子化合物を対象にして加工した例はない。
【0016】
本願発明人は、円偏光光渦レーザビームを用いる、いわゆる光渦技術を用いて微小突起を形成する試みの結果、本願発明に至った。この結果、本願発明では、根元部分の直径が20μm若しくはそれ以下の微小突起でなるマイクロニードルを製造可能であることが見出された。
【0017】
図1に示すように、本願発明では、被加工物4の表面4aに対し、円偏光光渦でなるレーザービームのパルス光2を照射することにより、被加工物4から突出する微小突起101を形成する。
【0018】
被加工物としては、高分子化合物を主成分とする。本明細書において、高分子化合物とは、量平均分子量Mwが5000以上の有機化合物を意味する。主成分とは、高分子化合物が被加工物全体の50重量%以上であることを意味する。高分子化合物としては、Tg(ガラス転移点)が50℃以上、より好ましくは70℃以上であることが好ましい。Tgが低いと、常温での取り扱いがしづらくなるからである。
【0019】
高分子化合物としては、1種類のみ含有しても良く、2種類以上混合しても良い。なお、この主成分の割合は、被加工物の全加工工程終了後の重量であり、微少突起の形成後の乾燥工程で意図して蒸発させる、いわゆる溶媒成分を含まない。すなわち、被加工物の加工終了後における割合である。
【0020】
高分子化合物としては、既知の化合物(合成高分子及び天然高分子)を使用することができる。例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)や、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレンなど、種々のプラスチック材料の他、生体吸収高分子を使用することができる。
【0021】
生体吸収高分子としては、既知の化合物(合成高分子及び天然高分子)を使用することができる。例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ−εカプロラクトン、ポリ−ρ−ジオキサン、ポリリンゴ酸などのエステル化合物、ポリ酸無水物などの酸無水物、ポリオルソエステルなどのオルソエステル化合物、ポリカーボネートなどのカーボネート化合物、ポリジアミノホスファゼンなどのホスファゼン化合物、合成ポリペプチドなどのペプチド化合物、ポリホスホエステルウレタンなどのリン酸エステル化合物、ポリシアノアクリレートなどの炭素−炭素化合物、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸、ポリリンゴ酸などのエステル化合物、ポリアミノ酸、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、ペクチン酸、ガラクタン、デンプン、デキストラン、デキストリン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、セルロース化合物(エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース)、ゼラチン、寒天、ケルトロール、レオザン、キサンタンガム、プルラン、アラビアゴムなどのグリコシド化合物(多糖類)、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、グルテン、血清アルブミンなどのペプチド化合物(ペプチド、タンパク質)、デオキシリボ核酸、リボ核酸などのリン酸エステル化合物(核酸)、ポリビニルアルコールなどのビニル化合物などが挙げられる。
【0022】
本発明で使用される円偏光光渦レーザビームは、円偏光のレーザビームに螺旋性を持たせたものであり、円偏光の回転方向と光渦レーザービームの回転方向が同一のパルス光である。パルス光のパルス幅は、被加工物4の材質や形成したい微小突起のサイズなどに応じて適宜選択されるが、10ピコ秒以上、100ナノ秒以下であることが好ましい。
【0023】
円偏光光渦レーザビームとしては、ラゲールガウスビーム、ベッセルガウスビーム、及び波面に位相特異点が複数ある多重光渦が例示される。ラゲールガウスビーム、ベッセルガウスビームは円筒座標系のそれぞれ固有モードで、動径の二乗に比例する屈折率分布や利得分布を有する径では、ラゲールガウスビームになり、それがない径ではベッセルガウスビームとなる。
【0024】
ラゲールガウスビームは、光渦レーザービームの代表的なものであり、光軸上の強度が零(位相特異点)で、光軸断面の強度分布がリング状をなしている。ラゲールガウスビームは、螺旋階段のように、光軸のまわりに1回転した時に位相が2πの整数倍変化するものであり、等位相面が螺旋構造をとる。この整数がラゲールガウスビームの渦次数である。渦次数が、負の整数の場合、回転方向が逆となる。
【0025】
ベッセルガウスビームは、ラゲールガウスビームと同様に、螺旋階段のように、光軸のまわりに1回転した時に位相が2πの整数倍変化するものであり、等位相面が螺旋構造をとる。この整数がベッセルガウスビームの渦次数である。波面に位相特異点が複数ある多重光渦としては、2重光渦、3重光渦などがある。2重光渦では、位相特異点が2つあり、渦が2つあり、それぞれの渦について+1次と−1次の渦次数となる。3重光渦の場合、位相特異点が3つあり、渦が3つあり、それぞれの渦について+1次、+1次、−1次の渦次数となる。
【0026】
すなわち、円偏光光渦レーザービームとは、光渦レーザービームの渦次数に対応する軌道角運動量に、円偏光に対応するスピン角運動量が加わっている光渦レーザービームである。本発明の円偏光光渦レーザービームでは、光渦レーザービームの渦次数に対応する軌道角運動量と円偏光に対応するスピン角運動量の両者の角運動量の符号が同じである。すなわち、光渦の回転の方向と円偏光の回転の方向が同じである。逆符号である場合、つまり回転の方法が逆となると、光渦の軌道角運動量と円偏光のスピン角運動量が打ち消しあってしまうからである。
【0027】
本発明のレーザー加工方法及びマイクロニードルの製造方法において、光渦レーザービームの発生方法は特に限定されるものではなく、光渦レーザービームの発生方法としては、液晶空間変調器に表示したフォーク型のホログラムにより光渦レーザービームを発生させる方法、螺旋状位相板により光渦レーザービームを発生させる方法、エルミートガウシアンモードからの変換により光渦レーザービームを発生させる方法、およびレーザー共振器から直接出す方法が例示される。
【0028】
図2には、螺旋状位相板により光渦レーザビームを発生させるための光学系20を示している。
【0029】
レーザー発振器1は、特に限定されなく、この例においてレーザー発振器1は、Nd:YAGレーザーである。レーザー発振器1は、直線偏光のパルス光2をQスイッチ発振する。直線偏光のパルス光2のパルス幅は、10ピコ秒以上100ナノ秒以下である。該パルス幅が10ピコ秒未満であると、プラズマが発生しにくく、100ナノ秒を超えると、HAZの問題が生じるからである。該パルス幅が10ピコ秒以上であると光と被加工物とが十分に相互作用してくれる。
【0030】
レーザー発振器1から発振される直線偏光のパルス光2の波長としては、1.0μm以上、10.0μm以上が使用される。高分子化合物では、無機物とは異なり、過熱により分解し、炭化してしまう炭化現象が発生する。このため、エネルギーが大きく波長の短いレーザ光を使用すると、アブレーション(昇華)と同時に炭化が生じやすく、レーザ光のコントロールが非常に難しくなる。一方、10.0μm以上の波長では、エネルギーが低くなり過ぎて効率が低下すると共に、収光時の最小径が大きくなるため、スポットサイズの制御がしづらくなる。同様の理由により、パルス光2の波長としてより好ましくは1.2μm以上、7.0μm未満である。
【0031】
パルス光2の波長としては、特に、1.5μm以上、4.0μm未満であることが好ましい。1.5μm〜2.0μmのいわゆる近赤外領域では、C−H、O−H、N−Hなどの水素結合の結合音吸収が見られると共に、その吸収度が比較的小さく、波長のエネルギーと吸収量との均衡が取れていて好ましい。また、2.0μm〜4.0μmのいわゆる赤外領域では、有機高分子化合物特有の吸収が数多く見られると共に、その吸収度が非常に高く、低い波長のエネルギーでもアブレーションを生じさせることが可能となる。特に、2.0μm〜3.7μmでは、ブロードなヒドロキシル基及びアミド基などの吸収帯が存在し、波長の多少のブレをも吸収でき、好ましい。なお、パルス光2の波長は、例えば光パラメトリック共振(OPO)をKTP結晶(KTiOPO)を用いて構成したものや、COレーザからのアップコンバージョンなどにより変換することが可能である。
【0032】
本発明のレーザー加工方法において、レーザー発振器の出力は、設定するピークパワー密度になるように設定されればよく、光渦レーザービームのパルス光3の被加工物4上でのスポット径、被加工物4の材質やパルス光2の波長などの要因に応じて適宜選択される。好ましくは、レーザー発振器の出力は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.01mJ〜10mJである。出力が小さすぎるとアブレーションが生じない又は不足し、出力が大きすぎると被加工物4の炭化を生じさせるからである。光渦レーザービームのパルス光3の被加工物4上でのスポット径は、形成する微小突起のサイズに応じて適宜選択され、特に限定されるものではないが、10μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0033】
前記レーザー発振器1から発振される該直線偏光のパルス光2は、焦点距離50mmのレンズ5と焦点距離300mmのレンズ6を通ってビームサイズが6倍に拡大され、12分割の螺旋状位相板13によって、光渦レーザービームのパルス光3に変換される。なお、焦点距離50mmのレンズ5と焦点距離300mmのレンズ6との距離は350mmである。螺旋状位相板13の面積を有効に使うことによるビーム品質の向上のためであり、螺旋状位相板13の損傷をなくすためであり、焦点距離は特に限定されるものではない。その後、対物レンズ12(焦点距離50mm)で絞られて、被加工物4に照射される。対物レンズ12の倍率は所望のスポット径に応じて決められるものであり特に限定されなく、この例において対物レンズ12の倍率は5〜50倍である。また、対物レンズ12の焦点距離は、特に限定されるものではない。
【0034】
螺旋状位相板13は、透過させるレーザービームに対して所定の位相分布を与えるように厚さ分布を制御した位相板である。位相板の厚さ分布は、階段状の不連続分布で近似されていて、その階段数が分割数である。螺旋状位相板13の分割数は特に限定されないが、例えば12分割や16分割のものが使用される。なお、螺旋状位相板13の代わりに液晶空間変調器に表示したフォーク型のホログラムにより光渦レーザービームを発生させることも可能である。かかる光学系については、特許文献1に記載されている。また、光渦発信装置としては、特許文献3〜5に記載のものを適宜適用しても良い。
【0035】
【特許文献3】特許第5831896号
【特許文献4】特願2013−519522
【特許文献5】特許第5035803号
【0036】
本発明のレーザー加工方法において、光渦レーザービームがラゲールガウスビームもしくはベッセルガウスビームであり、渦次数が1以上の整数もしくは−1以下の整数であることが好ましく、より好ましくは、渦次数が2以上の整数もしくは−2以下の整数である。ラゲールガウスビームの渦次数が絶対値が高いほど、加工表面が滑らかになるからである。高次の渦次数のラゲールガウスビームを発生させる方法としては、螺旋状位相板を重ねて使用することにより実現できる。例えば、1次の渦を発生させるのに使用するや螺旋状位相板を2重にすることによって、渦次数を2とすることができる。また、液晶空間変調器に表示したフォーク型のホログラムにより光渦レーザービームを発生させる方法の場合は、位相板液晶空間変調器に表示されたフォーク型ホログラムを3本フォーク型にすることにより渦次数を2とすることができる。また、本発明のレーザー加工方法において、光渦レーザービームが波面に位相特異点が複数ある多重光渦であることが好ましい。
【実施例】
【0037】
[実施例1]
図2に示した光学系を用いて、被加工物4に対する微小突起の形成を行った。
【0038】
レーザー発振器1はNd:YAGレーザーであり、出力は0.05 mJであり、パルス光2のパルス幅は20ns、波長は2480nmであった。対物レンズ12の焦点距離は50mm、倍率は20倍であった。螺旋状位相板13の分割数は16であった。被加工物4は、シート状のヒアルロン酸ナトリウム(100%)であった。また、発生させた光渦レーザービームのパルス光3は、ラゲールガウスビームのパルス光であり、その渦次数は1であった。光渦レーザービームのパルス光3(ラゲールガウスビームのパルス光)の被加工物4上でのスポット径は、50μmであった。
【0039】
この結果、図3に示すように、根元部分の直径Wが約20μm、高さHが約25μmの微小突起を形成することができた。アスペクト比(高さH/直径W)はほぼ1.25であった。なお、根元部分の直径は、被加工物4表面のベースライン(すなわち表面4a)上の直径であり、高さは同じくベースラインからの高さである。
【0040】
<第2の実施の形態>
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同一箇所についての説明は省略する。
【0041】
本発明では、被加工物4に乾燥によって除去可能な加工用剤を含有させておく。加工用剤としては、量平均分子量Mwが300未満の化合物が好適に用いられる。加熱によって容易に除去できる水又は有機溶媒や、光渦レーザービームの波長に対して吸収特性を有する化合物などが特に好ましく、特に注射用途のマイクロニードルを作製する場合には、人体に影響の小さい水やエチルアルコールなどが好適に用いられる。加工用剤の含有量に特に制限はないが、被加工物4における総量(重量換算)の95.0%〜2.0%程度、より好ましくは70.0%〜5.0%であることが好ましい。
【0042】
例えば、予め加工用剤に対して高分子化合物を分散させ、乾燥により被加工物4を作製する場合、乾燥条件の設定により、加工用剤を一定量残留させた状態にする。また、被加工物4の作製後に被加工物4を加工用剤の高湿下に一定時間置いて吸湿させたり、含浸させたりすることによって加工用剤を含有させることもできる。
【0043】
これにより、高分子化合物間に加工用剤が入り込むため、高分子化合物がいわば解けた状態となる。この結果、加工用剤を含まない場合と比較して、アブレーションが生じやすくなり、微小突起の形成が容易となる。
【0044】
微小突起を形成した後、被加工物4は乾燥機などで乾燥されても良い。乾燥条件に制限はないが、例えば50〜80℃で1〜5時間程度乾燥させる。なお、加工用剤として人体に影響のない化合物(水やエチルアルコールなど)を使用した場合には、加工用剤を含んだまま製品としても良い。もちろん、乾燥させないでそのまま使用することも可能である。
【0045】
[実施例2]
被加工物4は、シート状のヒアルロン酸ナトリウム(100%)に対して、水を含有させたものを使用した。水の含有量は、被加工物4全体の30%程度であった。水に分散したヒアルロン酸ナトリウムをシート状に形成する際に、乾燥工程を短縮することにより、水分を被加工物4に残留させた。
【0046】
レーザー発振器1として、1064nmの波長を使用した以外は同一の条件で光渦レーザービームのパルス光3を被加工物4に照射した。
【0047】
この結果、図4に示すように、高さHが40μm、根元の直径Wが110μmの微小突起を形成することができた。
【0048】
[実施例3]
被加工物4として、ヒアルロン酸ナトリウム(100%)に対して、多量の水を含有させてから所定の温度(例えば40〜60℃)で乾燥させたものを使用した。水の含有量は、被加工物4全体の50%程度であった。水に分散したヒアルロン酸ナトリウムをシート状に形成する際に、乾燥温度及び湿度を調整することにより、一定量の水分を被加工物4に残留させた。
【0049】
レーザー発振器1として、1064nmの波長を使用した以外は同一の条件で光渦レーザービームのパルス光3を被加工物4に照射した。
【0050】
この結果、図5に示すように、高さHが47μm、根元の直径Wが78μmの微小突起を形成することができた。
【0051】
このように、ヒアルロン酸ナトリウムシートにおける水分含有量を増大させることにより、根元直径に対する高さの比率であるアスペクト比を高くすることができることが確認された。これは、加工用剤である水に起因するものと考えられる。同じく保水能力が高い保水性高分子(高分子化合物本体に対して30%、より好ましくは100%以上の水を含有することができる高分子化合物)であるコラーゲンなどでも、全体重量に対して30%以上の水を含有させることにより、アスペクト比の高いマイクロニードルを製造することが可能である。
【0052】
<動作及び効果>
以上の構成において、本発明のレーザ加工方法は、
高分子化合物を主成分とする被加工物に対し、
1.0〜10.0μmの波長を有し、円偏光の回転方向と光渦レーザービームの回転方向が同一である円偏光光渦レーザービームのパルス光を照射することにより、前記被加工物状に微少な突起を形成することを特徴とする。
【0053】
これにより、被加工物の主成分である高分子化合物を炭化させることなく、アブレーションを生じさせることができ、被加工物上に微小突起を形成させることができる。
【0054】
光渦レーザービームの波長が、1.2〜7.0μmであることにより、適切なエネルギー及び被加工物の吸収特性を有する波長でアブレーションを生じさせることができる。
【0055】
光渦レーザービームの波長が、1.5〜4.0μmであることにより、比較的大きな吸収により効果的に被加工物のアブレーションを生じさせることができる。
【0056】
前記被加工物は、加熱により容易に除去できる溶媒である加工用剤を含有することにより、高分子化合物同士の絡み合いを低下させて加工用剤のアブレーションを促進することができる。
【0057】
前記加工用剤は、加熱により容易に除去できる溶媒であることにより、溶媒のアブレーションによるエネルギーの吸収や気体状態で生じるエネルギー吸収により被加工物の高分子化合物の炭化を防止することができる。
【0058】
前記加工用剤は、照射する光渦レーザービームの波長に吸収特性を有することにより、被加工物の発熱を促進し、効果的にアブレーションを生じさせることができる。
【0059】
前記加工用剤は、水又はエチルアルコールであることにより、光渦レーザービームの吸収、高分子化合物の絡み合い低下を生じさせるだけでなく、人体や環境に害を及ぼさない。
【0060】
前記被加工物は、加工用剤として、水又は有機溶媒、若しくはこれらの混合溶媒を含有し、前記パルス光の照射後、前記加工溶剤を乾燥により除去する。これにより、加工後には本来の被加工物と同じ組成のものを得ることができる。また、大きく形成した微小突起を乾燥による収縮を利用して小さくすることもできる。
【0061】
前記加工用剤として少なくとも水を含有し、光渦レーザービームの波長が、1.7〜3.5μmであることにより、水が有するOH基による光渦レーザビームの大きな吸収を利用して効果的にアブレーションを生じさせることができる。
【0062】
前記加工用剤は、水又はエチルアルコールを主成分とし、
前記光渦レーザビーム照射時において、前記被加工物における全体重量の20%〜70%を占めることを特徴とする。なお、主成分とは、加工用剤の全体重量のうち50%以上を占めることをいう。
【0063】
これにより、水及びエチルアルコールが有する水酸基由来の吸収特性を利用して、光産レーザービームによるアブレーションを効果的に生じさせることができる。例えば、実施例2及び実施例3では、水を加工用剤として多量に含有させることにより、ヒアルロン酸ナトリウム自体が殆ど吸収しない1064nmの光渦レーザービームに対するアブレーションの効率を高めることが可能となっている。
【0064】
前記光渦レーザビームの波長が、1.0〜3.5μmであることを特徴とする。これにより、エネルギーが比較的高い波長領域を使用してマイクロニードルを製造することができる。
【0065】
以上の構成によれば、本発明のマイクロニードルの製造方法では、生体吸収高分子を主成分とする被加工物に対し、1.0〜10.0μmの波長を有し、円偏光の回転方向と光渦レーザービームの回転方向が同一である円偏光光渦レーザービームのパルス光を照射することにより、前記被加工物状に微少な突起を形成する。
【0066】
これにより、被加工物の主成分である生体吸収高分子を炭化させることなく、アブレーションを生じさせることができ、被加工物上に微小突起を形成させ、生体吸収高分子を主成分とするマイクロニードルを製造することが可能となる。
【0067】
<他の実施の形態>
なお上述実施形態では、孔のない微小突起を形成したが、注射針のように中心に孔を有する微小突起を形成しても良い。微小突起として初めから中心に孔を形成する他、後から微小突起に孔を形成しても良い。
【0068】
また上述実施形態では、医療及び美容用途におけるマイクロニードルの製造に本発明を適用したが、例えば工業用途でプラスチック材料などの高分子材料の表面に微小突起を形成しても良い。また、被加工物表面は平面である必要はなく、例えば球の表面など曲面上に微小突起を形成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、例えば人体に貼るマイクロニードルに適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 :レーザー発振器
2 :パルス光
3 :パルス光
4 :被加工物
4a :表面
12 :対物レンズ
13 :螺旋状位相板
20 :光学系
101 :微小突起




図1
図2
図3
図4
図5