(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記粉末状接着剤を除去する前および/または除去する際に、前記積層体の前記第1の部分とする部分に付与された前記粉末状接着剤を加熱する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合材料の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
<第1実施形態>
以下、
図1〜10を参照して本発明に係る第1実施形態について説明する。
【0013】
図1は、第1実施形態に係る複合材料400の製造装置100および製造方法の全体の流れを説明するための図である。
図2、
図4、
図5は、第1実施形態に係るプリフォーム500を成形する予備成形装置200の各部の構成を説明するための図である。
図3は、第1実施形態に係る除去部240および拘束治具250の作用を説明するための図である。
図6(A)は強化基材510における接着剤520の含有密度分布を示す図、
図6(B)は予備成形したプリフォーム500の接着剤520の含有密度分布を示す図である。
図7は、第1実施形態に係るプリフォーム500を用いて複合材料400を形成する複合材料形成装置300の概略図である。
図8は、第1実施形態に係る製造方法および製造装置100によって製造される複合材料400の適用例を示す図である。
図9は、第1実施形態に係るプリフォーム500の成形方法を示すフローチャートである。
図10は、第1実施形態に係る複合材料400の成形方法を示すフローチャートである。
【0014】
本実施形態に係る製造装置100および製造方法によって製造される複合材料400は、強化基材510が予め所定の形状に予備成形されたプリフォーム500に樹脂600を含浸させて硬化させることによって形成される。まず、本実施形態に係るプリフォーム500について説明する。
【0015】
(プリフォーム)
本実施形態に係るプリフォーム500は、
図1の上段および中段に示すように、強化基材510を積層した積層体511に接着剤520を含浸させて所定の形状に予備成形して形成される。
【0016】
強化基材510は、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリアミド(PA)繊維、ポリプロピレン(PP)繊維、アクリル繊維等によって形成することができる。本実施形態では、強化基材510として炭素繊維を使用した例を説明する。炭素繊維は、熱膨張係数が小さく、寸法安定性に優れ、高温下においても機械的特性の低下が少ないという特徴があるため、自動車の車体700(
図8(B)を参照)等の複合材料400の強化基材として好適に使用することができる。
【0017】
炭素繊維510の目付量は、例えば、50〜400g/m
2とすることができ、好ましくは、150g/m
2である。
【0018】
積層体511は、シート状の炭素繊維510を積層して形成する。積層体511は、例えば、繊維が一方向に引き揃えられたUD(一方向)材や繊維が一方向に引き揃えられた複数のシートをそれぞれ異なる方向に重ねて補助繊維で一体化したいわゆるNCF(ノンクリンプファブリック)材等のシート状の炭素繊維510を使用することができる。
【0019】
積層構成は、成形品である複合材料400に求められる材料特性によるが、一般的に複数の配向角度を備えるように積層する。本実施形態では、繊維配向が±45°方向のNCF材、90°方向のUD材、0°方向のUD材の3種類を積層する積層構成とする。
【0020】
接着剤520は、接着性を発現する前の状態において粉末状(固体)であり、加熱によって溶融または軟化して接着性を発現する。なお、本明細書中では、接着性を発現する前の粉末状の接着剤520を「粉末状接着剤521」と称し、接着性を発現した接着剤520を「接着剤522」と称する。また、「接着剤520」と称する場合、粉末状接着剤521または接着剤522のいずれかを意味する場合があるし、両方を意味する場合もある。
【0021】
粉末状接着剤521は、炭素繊維510に付与されて、加熱によって溶融または軟化して接着性を発現した接着剤522となる。接着性を発現した接着剤522は、炭素繊維510同士を接着する。これにより、炭素繊維510の積層体511を所望の形状に賦形した際に、その形態を保持する役割を果たす。また、積層体511を搬送する際に、炭素繊維510の配置のばらつきを抑制することができる。
【0022】
接着剤520を構成する材料は、温度変化によって溶融・固化の状態変化が起こる材料であれば特に限定されず、例えば、低分子量エポキシ樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂などを用いることができる。本実施形態では、後述する複合材料400に使用する樹脂600と同じエポキシ樹脂であり、溶融粘度が低いため流動性が高く、耐熱性、耐湿性に優れる低分子量エポキシ樹脂を使用する。低分子量エポキシ樹脂は、硬化前において炭素繊維510に含浸できる程度の低い粘度を備えるものであれば特に限定されず、公知の低分子量エポキシ樹脂を使用することができる。
【0023】
プリフォーム500は、
図6(B)に示すように、接着性を発現した接着剤522が積層体511に含浸した第1の領域501と、第1の領域501よりも接着剤522の含有密度が低い第2の領域502とを有する。なお、本明細書中において「接着剤522の含有密度が低い」とは、接着剤522の含有密度が0(ゼロ)の状態も含む。
【0024】
上記のようなプリフォーム500によれば、第2の領域502における曲率を第1の領域501よりも大きくなるように予備成形することによって、接着剤522の含有密度が低い第2の領域502は、第1の領域501に比べて炭素繊維510間にかかる接着力が弱いため、変形が比較的容易である。よって、プリフォーム500の成形時に、特に曲率の大きい部分に生じるしわやよれ等の発生を抑制することができる。
【0025】
次に、本実施形態に係る製造装置100および製造方法によって製造される複合材料400について説明する。
【0026】
(複合材料)
複合材料400は、炭素繊維510および樹脂600を組み合わせることにより、樹脂600単体で構成される成形品に比べて高い強度および剛性を備えたものとなる。例えば、
図8(A)に示すような自動車の車体700に使用されるフロントサイドメンバー701やピラー702等の骨格部品、ルーフ703等の外板部品に複合材料400を適用することができる。複合材料400は鉄鋼材料よりも軽量なため、鉄鋼材料からなる部品を組み付けて構成した車体と比べて、
図8(B)に示すような車体700の軽量化を図ることができる。
【0027】
本実施形態に係る複合材料400は、プリフォーム500に樹脂600を含浸することによって形成される。また、本実施形態では、剛性向上のために複合材料400の内部に、
図1の下段、
図6(B)に示すようなコア材530を挿入する。
【0028】
樹脂600は、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂、フェノール樹脂等が用いられる。本実施形態においては、機械的特性、寸法安定性に優れたエポキシ樹脂を用いる。エポキシ樹脂は2液タイプが主流であり、主剤および硬化剤を混合して使用する。主剤はビスフェノールA型のエポキシ樹脂、硬化剤はアミン系のものが一般的に用いられるが、特にこれに限定されるものではなく、所望の材料特性に合わせて適宜選択できる。また、樹脂600には、複合材料400を成形した後の脱型を容易に行い得るように、内部離型剤を含ませている。内部離型剤の種類は、特に限定されず、公知のものを使用することができる。
【0029】
コア材530は、炭素繊維510によって被覆し、当該炭素繊維510に樹脂600を含浸させることによって複合材料400の内部に形成される。コア材530を構成する材料は、特に限定されないが、軽量化の観点から発泡体(フォームコア)が好ましく用いられる。発泡体を構成する材料は、例えば、ポリウレタン、塩化ビニル、ポリオレフィン、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂(PMI(ポリメタクリルイミド)、PEI(ポリエーテルイミド))などを使用することができる。
【0030】
(製造装置)
図1〜6を参照して、複合材料400の製造装置100について説明する。本実施形態に係る複合材料400の製造装置100は、大きく分けて、
図1の上段および中段に示すプリフォーム500を成形する予備成形装置200と、
図1の下段に示すプリフォーム500を用いて複合材料400を形成する複合材料形成装置300と、から構成される。また、複合材料400の製造装置100は、製造装置100全体の作動を制御する制御部110を有する(
図2、
図4(A)、
図5(A)、
図7を参照)。
【0031】
まず、プリフォーム500を成形する予備成形装置200について説明する。
【0032】
予備成形装置200は、概説すると、
図1の上段、中段に示すように、炭素繊維510を搬送する搬送部210と、粉末状接着剤521を付与する付与部220と、積層体511を形成する積層部230と、を有する。予備成形装置200は、粉末状接着剤521を除去する除去部240と、積層体511の一部を拘束する拘束治具250と、切断部260と、加熱部270と、予備成形型280と、をさらに有する。
【0033】
搬送部210は、
図1の上段、中段に示すように、炭素繊維510を付与部220、積層部230、除去部240、拘束治具250、切断部260、加熱部270および予備成形型280へ連続的に搬送する。搬送部210は、複数の搬送ローラ211およびベルトコンベア212を備えている。なお、本明細書中では、
図1中の矢印で示す炭素繊維510の搬送方向の流れに沿って上流に位置する側を上流側、下流に位置する側を下流側と称する。
【0034】
搬送ローラ211は、
図1の上段、
図2(A)に示すように、略円柱形状を有し、モータ等に連結されて軸の周りに回転駆動する。搬送ローラ211は、巻回されてなる基材ロール510aから供給されたシート状の炭素繊維510を下流側(
図2(A)中の矢印方向)へ搬送する。
【0035】
ベルトコンベア212は、
図1の中段、
図4(A)、
図5(A)に示すように、切断部260によって切断された積層体511を加熱部270へ搬送する。ベルトコンベア212は、切断部260および加熱部270の配置に合わせて設けられ、搬送経路に沿って連続的に作業が行えるように構成されている。
【0036】
なお、搬送部210は、上記構成に限定されず、例えば、ベルトコンベア212の代わりに搬送用ロボットなどによって構成してもよい。
【0037】
付与部220は、
図2(A)に示すように、シート状の炭素繊維510の平面方向に移動可能に構成されている。付与部220は、搬送部210の上流側から連続的に送り出される炭素繊維510に対して粉末状接着剤521をほぼ均一に付与する。粉末状接着剤521の付与量は、使用する接着剤520の種類、物性によるが、例えば、10〜100g/m
3とすることができる。
【0038】
付与部220は、炭素繊維510に対して粉末状接着剤521を付与することができるものであれば特に限定されず、例えば、量産性が高く、付与精度の高いスクリーン印刷装置を用いることができる。スクリーン印刷装置は、
図2(A)に示すように、粉末状接着剤521を霧状に噴射して、炭素繊維510に対して直接的に吹き付けてほぼ均一に付与する。
【0039】
積層部230は、
図1の上段、
図2(A)に示すように、炭素繊維510の搬送経路に沿って設けられ、炭素繊維510を挟んで対向する複数の積層ローラ231によって構成されている。積層ローラ231は、炭素繊維510に対して圧接して回転することによって、搬送ローラ211から搬送された複数のシート状の炭素繊維510を積層しながら下流側へ送り出す。積層ローラ231は、前述した搬送ローラ211と同様に構成することができる。
【0040】
なお、予備成形装置200に設けられる搬送ローラ211や積層ローラ231の数や配置等は、
図1に示す例に限定されず、適宜変更することができる。
【0041】
除去部240は、
図2(B)に示すように、積層体511に対し、炭素繊維510の積層方向に一方の面511aから他方の面511bへ流れる気流Vを発生させることによって、積層体511の層間に付与された粉末状接着剤521の一部を除去して、粉末状接着剤521の付与密度分布を形成する。なお、本明細書中では、粉末状接着剤521の付与密度分布において、粉末状接着剤521の付与密度が比較的高い部分を「第1の部分541」と称し、第1の部分541よりも粉末状接着剤521の付与密度が低い部分を「第2の部分542」と称する。
【0042】
除去部240は、積層体511の一方の面511aに対向して配置された噴気部241と、積層体511の他方の面511bに対向して配置された吸気部242とを備えている。噴気部241および吸気部242は、互いに積層体511を介して対向している。
【0043】
噴気部241は、積層体511の一方の面511aに対して気体を噴射する。吸気部242は、積層体511の他方の面511bから気体を吸引する。これによって、除去部240は、積層体511の一方の面511aから他方の面511bへ流れる気流Vを発生させる。当該気流Vは、積層体511の層間から
図3(C)に示すように粉末状接着剤521の一部を積層体511の外へ排出する。
【0044】
噴気部241は、
図2(B)に示すように、気体を供給する気体供給部241aと、気体供給部241aから供給された気体を積層体511の一方の面511aへ噴射する噴射ノズル241bと、噴射ノズル241bと気体供給部241aとを連結する給気ホース241cと、を備えている。
【0045】
気体供給部241aは、ポンプやブロワーなどから構成され、所定の圧力によって気体を加圧して正圧を発生させた状態で、給気ホース241cを介して気体を噴射ノズル241bに送り出す。
【0046】
噴射ノズル241bは、給気ホース241cを介して供給された気体を積層体511の一方の面511aへ向けて噴射して気流Vを発生させる。
【0047】
給気ホース241cには、バルブ243が設けられ、バルブ243の開度によって噴射ノズル241bから噴射する気体の供給量を調整することができる。気体の供給量を調整することによって、発生する気流Vの強さ(気体の圧力)を調整することができる。気流Vの強さは、粉末状接着剤521を押し流す際に粉末状接着剤521が受ける力に比例する。このため、気流Vの強さを調整することによって、積層体511から除去する粉末状接着剤521の量を調整することができる。積層体511から除去する粉末状接着剤521の量を調整することによって、粉末状接着剤521の付与密度分布を複数の段階をもって形成することができる。これによって、粉末状接着剤521を溶融させて接着性を発現した接着剤522を積層体511に含浸させた後、
図6(A)に示すように、接着剤522の含有密度分布を複数の段階をもって形成することができる。
【0048】
吸気部242は、負圧を発生させる負圧発生部242aと、負圧発生部242aによって発生した負圧によって積層体511から排出される気体および接着剤520を吸引する吸引ノズル242bと、吸引ノズル242bと負圧発生部242aとを連結する吸引ホース242cと、を備えている。
【0049】
負圧発生部242aは、吸引ホース242cを介して吸引ノズル242bに連結している。負圧発生部242aは、例えば、吸引した粉末状接着剤521を回収する回収タンク(図示せず)と、負圧発生部242aの外へ気体を排出することによって当該回収タンク内に負圧を発生させる排風機(図示せず)を備えている。排風機によって負圧を発生し、当該負圧によって吸引ノズル242bから回収タンクへ向けて気体および粉末状接着剤521を送り出す気流Vを発生させる。回収タンクは、粉末状接着剤521を捕獲するフィルターを備え、粉末状接着剤521を回収タンク内に保持した状態で、気体を排風機から外へ排出する。
【0050】
拘束治具250は、
図1の上段、
図2(B)に示すように、積層体511の第1の部分541を積層方向から挟持して拘束する。拘束治具250は、例えば、互いに接近離反移動可能に設けられた2対の挟持部材251から構成することができる。
【0051】
除去部240および拘束治具250は、同一の可動部252に固定され、一体となって積層体511に対して接近離反移動可能に構成されている。なお、除去部240と拘束治具250は、上記構成に限定されず、それぞれ独立した可動部を備えることによって独立に移動可能に構成してもよい。
【0052】
切断部260は、
図1の上段、
図4(A)に示すように、積層体511を予め決められた切断線Lに沿って切断する。切断部260は、例えば、超音波カット、レーザーカット、丸鋸カット、プレスカット、はさみカットなど様々な切断機構を使用することができる。本実施形態においては、比較的短時間によって正確に切断することができる超音波カットを使用する。
【0053】
加熱部270は、
図1の上段、中段に示すように、拘束治具250を加熱する治具加熱部271と、切断部260によって切断された積層体511を再加熱する再加熱部272と、を備えている。加熱部270は、付与部220によって粉末状接着剤521を加熱して接着性を発現させる。
【0054】
治具加熱部271は、
図2(B)、
図3(B)に示すように、拘束治具250が備える挟持部材251のうち積層体511に対向する面を含む領域(
図3(B)中の破線で囲まれた部分)を所定の温度まで加熱する。治具加熱部271は、例えば、熱電素子および電源から構成される熱源を備える。
【0055】
再加熱部272は、
図5(A)に示すように、積層体511の全体を加熱する。加熱温度は、使用する接着剤520の溶融温度によるが、例えば、70℃〜150℃とする。これによって、粉末状接着剤521を軟化または溶融させて接着性を発現した接着剤522を積層体511に含浸させることができる。接着剤522を含浸させた結果、積層体511の単位面積あたりの接着剤522の含有量、すなわち、含有密度が定まる。加熱部270は、特に限定されないが、瞬間的かつ均等に積層体511を加熱可能なものから構成されていることが好ましく、例えば、連続炉または高周波コイル、遠赤外線ヒータ、熱風器などの加熱ヒータを使用することができる。
【0056】
予備成形型280は、積層体511を定められた立体形状に予備成形する。
図1の中段に示すように、プリフォーム500の対象となる積層体511が配置される下型281と、下型281に対して接近離反移動自在な上型282と、を有している。上型282の下型281に対向する面には、プリフォーム500の形状に応じた成形面が形成されている。積層体511を下型281に配置した状態で上型282を下型281に接近移動させて、積層体511に対して加圧力を付与することによって、積層体511をプリフォーム500に成形することが可能となっている。
【0057】
本実施形態のように、コア材530を挿入して閉断面を形成するプリフォーム500の場合、
図6(B)に示すような曲率の大きい角部を有することが多い。積層体511を予備成形する際に、当該角部の内側と外側とで変形量が大きく異なる。したがって、曲率の少ない平面部に比べて積層体511の層間のずれが大きくなる。積層体511の層間が接着性を発現した接着剤522によって接着されていると炭素繊維510同士が拘束されているため、接着剤522の接着力によって積層体511の変形が制限されてしてしまう。積層体511の変形が制限されている状態で予備成形を行うと、成形後のプリフォーム500の曲率の大きい部分にしわやよれ等が生じてしまう。
【0058】
本実施形態では予備成形する立体形状の曲率が大きく、成形時の変形量が大きい部分を、接着剤522の含有密度が比較的低い部分である第2の領域502としている。これにより、積層体511の層間において接着剤522による接着力が比較的弱いため、第2の領域502において容易に変形可能となる。よって、曲率の大きい部分において、プリフォーム500のしわやよれ等の発生を抑制することができる。これにより、プリフォーム500の形状の自由度が高まり、複合材料400の形状選択の幅を広げることができる。
【0059】
次に、プリフォーム500を用いて複合材料400を形成する複合材料形成装置300について説明する。
【0060】
図7を参照して、本実施形態に係る複合材料形成装置300は、概説すると、プリフォーム500が配置されるキャビティ350を形成する開閉自在な成形型310と、成形型310に型締圧力を負荷するプレス部320と、キャビティ350内に溶融した樹脂600を注入する樹脂注入部330と、成形型310の温度を調整する成形型温度調整部340と、を有する。
【0061】
成形型310は、開閉可能な一対の上型311(雄型)と、下型312(雌型)と、を有する。上型311と下型312の間に、密閉自在なキャビティ350を形成する。プリフォーム500は、キャビティ350内に配置する。
【0062】
成形型310は、キャビティ350内に樹脂600を注入する注入口313をさらに有する。注入口313は、キャビティ350および樹脂注入部330に連通する。樹脂注入部330から注入された樹脂600は、プリフォーム500の表面から内部に含浸する。なお、成形型310の構成は上記に限定されず、例えば、下型312にキャビティ350内を真空引きして空気を吸引する吸引口を設けてもよい。また、キャビティ350内を密閉状態にするために、上型311と下型312の合わせ面にシール部材等を設けてもよい。
【0063】
プレス部320は、例えば、油圧等の流体圧を用いたシリンダー321を備え、油圧等を制御することによって型締圧力を調整自在なプレス機により構成することができる。
【0064】
樹脂注入部330は、主剤タンク331から供給される主剤と、硬化剤タンク332から供給される硬化剤とを循環させつつ、成形型310へ供給可能な公知の循環式のポンプ機構により構成することができる。樹脂注入部330は、注入口313に連通してキャビティ350内に樹脂600を注入する。
【0065】
成形型温度調整部340は、成形型310を樹脂600の硬化温度まで加熱して、キャビティ350内に注入された樹脂600を硬化させる。成形型温度調整部340は、加熱を行うための機構として、例えば、成形型310を直接的に加熱する電気ヒータや、油などの熱媒体を循環させることによって温度調整を行う温度調整機構等を備えていてもよい。
【0066】
制御部110は、製造装置100全体の作動を制御する。具体的には、
図7を参照して、制御部110は、記憶部111と、演算部112と、各種データや制御指令の送受信を行う入出力部113と、を有する。入出力部113は、除去部240、拘束治具250などの装置各部に電気的に接続している。
【0067】
記憶部111は、ROMやRAMから構成し、炭素繊維510に対する粉末状接着剤521の付与密度分布や接着剤522の含有密度分布等のデータを記憶する。演算部112は、CPUを主体に構成され、入出力部113を介して搬送部210による炭素繊維510の送り速度等のデータを受信する。演算部112は、記憶部111から読み出したデータおよび入出力部113から受信したデータに基づいて、粉末状接着剤521を除去するタイミングや発生させる気流Vの強さ、治具加熱部271による拘束治具250の加熱温度等を算出する。算出したデータに基づく制御信号は、入出力部113を介して除去部240、拘束治具250などの装置各部へ送信する。このようにして、制御部110は、粉末状接着剤521の除去量および除去位置、拘束治具250の加熱温度等を制御する。
【0068】
(製造方法)
次に、実施形態に係る複合材料400の製造方法を説明する。
【0069】
複合材料400の製造方法は、
図9に示すように、プリフォーム500を成形する工程および、
図10に示すように、プリフォーム500を用いて複合材料400を形成する工程の大きく分けて2つの工程を有している。
【0070】
まず、プリフォーム500を成形する工程について説明する。
【0071】
プリフォーム500を成形する工程は、
図9に示すように、炭素繊維510素材を供給する供給工程(ステップS101)と、シート状の炭素繊維510に粉末状接着剤521を付与する付与工程(ステップS102)と、積層体511を形成する積層工程(ステップS103)と、積層体511に除去部240および拘束治具250を配置する配置工程(ステップS104)と、積層体511の一部を加熱する加熱工程(ステップS105)と、積層体511の一部から粉末状接着剤521を除去する除去工程(ステップS106)と、積層体511を所定形状に切断する切断工程(ステップS107)と、積層体511を加熱する再加熱工程(ステップS108)と、積層体511を搬送する搬送工程(ステップS109)と、積層体511を予備成形してプリフォーム500を形成する予備成形工程(ステップS110)と、プリフォーム500を予備成形型280から脱型する脱型工程(ステップS111)と、を有する。
【0073】
まず、
図1上段および
図2(A)に示すように、炭素繊維510が巻回されてなる複数の基材ロール510aからシート状の炭素繊維510を引き出し、連続的に炭素繊維510を供給する(ステップS101)。供給された炭素繊維510は、搬送ローラ211によって下流側へ送り出される。
【0074】
次に、搬送部210によって連続的に送り出される炭素繊維510の少なくとも一方の面に対して、付与部220によって接着性を発現する前の粉末状接着剤521を付与する(ステップS102)。この際、炭素繊維510の一方の面の全面に対して粉末状接着剤521がほぼ均一に付与されるように調整する。
【0075】
次に、積層ローラ231によって連続的に送り出される炭素繊維510を積層して積層体511を形成する(ステップS103)。本実施形態においては、積層配向の異なる炭素繊維510を積層して、所定の積層構成とする。具体的には、繊維配向が±45°方向のNCF材、90°方向のUD材、0°方向のUD材の3種類の基材ロール510aを用いて、所定の配向順序によって積層し積層体511を形成する。
【0076】
次に、
図2(B)、
図3(A)に示すように、拘束治具250によって積層体511の一部を積層方向から挟持する。このとき、積層体511の上流側から下流側への連続的な流れを一旦停止する。本実施形態において、除去部240は、拘束治具250と一体となって積層体511に対して接近離反移動可能に構成されているため、拘束治具250とともに積層体511の両面に対向するように配置される(ステップS104)。
【0077】
次に、
図3(B)に示すように、粉末状接着剤521が均一に付与された状態の積層体511の一部を加熱して粉末状接着剤521を溶融または軟化させて接着性を発現した接着剤522を形成する(ステップS105)。具体的には、拘束治具250が備える挟持部材251のうち積層体511に対向する面を含む領域(
図3(B)中の破線で囲まれた部分)を加熱する。挟持部材251および積層体511の接触面から熱を伝導して、積層体511の層間に配置された粉末状接着剤521の一部を加熱する。加熱温度は、接着剤520が軟化または溶融して接着性を発現する温度であれば特に限定されず、例えば、溶融温度とすることができる。また、挟持部材251は、予め所定の温度まで加熱しておいてもよい。これにより、成形時間の短時間化を図ることができる。
【0078】
次に、挟持部材251によって積層体511を挟持した状態において、
図3(C)に示すように、除去部240を駆動して積層体511の一部に一方の面511aから他方の面511bへ流れる気流Vを発生させる。当該気流Vによって、積層体511の層間に付与された粉末状接着剤521を炭素繊維510の繊維と繊維の間の隙間を介して積層体511の外へ排出して、接着剤520の一部を除去する(ステップS106)。これによって、拘束治具250によって拘束されている部分に粉末状接着剤521が積層体511の層間に付与された第1の部分541を形成し、気流Vを発生させた部分に第1の部分541よりも粉末状接着剤521の付与密度が低い第2の部分542を形成する。このように、第1の部分541および第2の部分542によって形成される粉末状接着剤521の付与密度分布は、前述した加熱工程(ステップS105)および後述する再加熱工程(ステップS108)において加熱した後、接着性を発現した接着剤522の含有密度分布である第1の領域501および第2の領域502を形成する。
【0079】
積層体511を形成した後に粉末状接着剤521の一部を一度に除去するため、付与工程において炭素繊維510の一枚ごとに接着剤520の分布を形成する場合に比べて短時間によって、粉末状接着剤521の分布である第1の部分541および第2の部分542を形成することができる。
【0080】
また、粉末状接着剤521を除去する際に、積層体511の第1の領域501とする部分(第1の部分541)を積層方向から挟持して拘束することによって、第1の領域501において粉末状接着剤521を除去するための気流Vが発生することを抑制することができる。これにより、気流Vによって第1の部分541の粉末状接着剤521が除去されることを抑制することができるため、接着剤520の含有密度の分布である第1の領域501および第2の領域502をより確実に形成することができる。
【0081】
本実施形態においては、
図6(A)に示すように、第1の領域501中において、接着剤520の含有密度の高い部分(
図6(A)中の色の濃い部分)と低い部分(
図6(A)中の色の薄い部分)を有する含有密度分布が存在する。同様に、第2の領域502中においても含有密度分布が存在する。このように、含有密度分布が3以上の段階をもって形成される場合は、後述する切断部260によって切断する切断線L周りを、接着剤520の含有密度が最も高い部分に設定することが好ましい。また、
図6(B)に示すように、予備成形型280によって成形する立体形状の曲率が大きい部分(破線で囲まれた部分)を、接着剤520の含有密度が比較的低い部分である第2の領域502となるように含有密度の分布を形成する。
【0082】
本実施形態のように、加熱工程(ステップS105)の後に除去工程(ステップS106)を行うことによって、粉末状接着剤521の一部を加熱して溶融または軟化させてゲル状にした状態において、積層体511のうち加熱していない部分に気流Vを発生させて粉末状接着剤521を除去する。これにより、気流Vによって第1の領域501とする部分の粉末状接着剤521が除去されることをさらに抑制して、第1の領域501と第2の領域502における含有密度の分布をより確実に形成することができる。
【0083】
除去工程(ステップS106)が終了すると、搬送部210による積層体511の上流側から下流側への連続的な流れを再稼働する。その後、
図4(A)に示すように、接着剤520が溶融した状態で炭素繊維510を切断線Lに沿って切断する(ステップS107)。切断線Lは、成形品である複合材料400の展開形状を予め設定し、当該展開形状に応じて決定する。
【0084】
切断線L周りは、接着剤520の含有密度が第2の領域502よりも高い第1の領域501に配置する。
図4(B)に示すように、切断線Lに対して所定の付与幅Wを設けて帯状に接着剤520が付与されるように第1の領域501を形成する。接着剤520の付与幅Wは、予め定められた切断線Lの公差によるが、例えば、1〜20mmとすることができる。これにより、接着剤520の接着性を発現させることによって、切断線L周りが接着剤520によって固定され、切断時や切断後に次工程に搬送する際に切断面のほつれを抑制することができる。また、切断する部位が切断線Lからずれても切断線L周りの接着剤520の含有密度が高いため、切断面のほつれを抑制することができる。切断面にほつれが生じると、複合材料400の成形後にほつれが生じた部分を除去する必要がある。切断面のほつれを抑制することによって、ほつれが生じた部分を除去する後加工を削減することができるため、成形時間を短くできるとともに、ほつれが生じた部分を除去する必要がなくなるため、歩留りを向上させることができる。
【0085】
次に、
図5(A)に示すように、積層体511の全体を再度加熱する(ステップS108)。これによって、加熱工程(ステップS105)において、例えば、積層体511の第2の部分542に加熱されずに残った粉末状接着剤521を加熱して接着性を発現させることができる。また、予備成形工程(ステップS110)前に接着剤520を加熱することによって、接着剤520を軟化させた状態で予備成形を行うことができるため、予備成形が比較的容易になる。なお、積層体511の第2の部分542に粉末状接着剤521が付与されていない場合のように、加熱工程(ステップS105)によって積層体511に付与された粉末状接着剤521の接着性を発現させることができる場合は、再加熱工程(ステップS108)を省略してもよい。
【0086】
次に、
図5(B)に示すように、積層体511を予備成形型280の下型281まで搬送して配置する(ステップS109)。このとき、接着性を発現した接着剤522によって炭素繊維510の層間が接着されているので搬送時の炭素繊維510のばらつきを抑制することができる。
【0087】
次に、
図5(B)に示すように、予備成形型280の下型281に配置された炭素繊維510の積層体511を予備成形してプリフォーム500を成形する(ステップS110)。この際、炭素繊維510によって被覆するようにコア材530を配置する。上型282は、
図1の中段の予備成形工程に示すように、複数の分割された型によって構成してもよいし、分割されていない1つの型からなる上型を使用してもよい。予備成形型280は、例えば、20〜40℃に冷却しておくことが好ましい。これにより、型閉じと同時に接着剤522の冷却が行われ、接着剤522が硬化して予備成形が完了する。
【0088】
次に、予備成形型280を開いて、プリフォーム500を脱型すると、プリフォーム500の成形が完了する(ステップS111)。
図6(B)に示すように、成形されたプリフォーム500の形状において、曲率の少ない平面部は、接着剤522の含有密度が比較的高い部分である第1の領域501であり、曲率が大きい部分(破線で囲まれた部分)は、接着剤522の含有密度が比較的低い部分である第2の領域502である。
【0089】
次に、プリフォーム500を用いて複合材料400を形成する工程について説明する。
【0090】
複合材料400を形成する工程は、
図10に示すように、プリフォーム500を成形型310のキャビティ350に配置する工程(ステップS201)と、キャビティ350内に樹脂600を注入する工程(ステップS202)と、樹脂600を硬化させる工程(ステップS203)と、成形した複合材料400を成形型310から脱型する工程(ステップS204)と、を有する。
【0092】
まず、
図7に示すように、プリフォーム500を成形型310のキャビティ350に配置する(ステップS201)。
【0093】
次に、キャビティ350内に樹脂600を注入する(ステップS202)。成形型310は、樹脂600(例えば、エポキシ樹脂)の硬化温度以上(例えば、100℃〜160℃程度)に予熱しておく。
【0094】
次に、炭素繊維510に含浸した樹脂600を硬化させる(ステップS203)。
【0095】
次に、樹脂600が硬化した後、成形型310を開いて、炭素繊維510、樹脂600およびコア材530が一体化された複合材料400を脱型すると、成形が完了する(ステップS204)。
【0096】
以上説明したように、本実施形態に係る複合材料400の製造方法および製造装置100によれば、炭素繊維510の積層方向に発生する気流Vによって積層体511の層間に付与された粉末状接着剤521の一部を除去して、第1の部分541と、第1の部分541よりも粉末状接着剤521の付与密度が低い第2の部分542とを形成する。さらに、粉末状接着剤521の接着性を発現させ、接着性を発現した接着剤522が積層体511に含浸した第1の領域501と、第1の領域501よりも接着剤522の含有密度が低い第2の領域502とを備えるプリフォーム500を形成する。
【0097】
このように構成した複合材料400の製造方法および製造装置100によれば、炭素繊維510の積層方向に発生する気流Vによって接着剤522の含有密度分布を正確に制御することによって、積層体511をプレスしてプリフォーム500に成形する際に、変形しにくい部分におけるしわやよれ等の発生を抑制することができる。当該プリフォーム500から複合材料400を形成することによって、より高品質な複合材料400を形成することができる。積層された炭素繊維510の積層方向ではなく、面内方向に仮に気流を発生させたとしても、粉末状接着剤521の一部は除去できても、その位置を制御できないため、変形しにくい部分におけるしわやよれ等の発生の抑制は困難となる。
【0098】
また、プリフォーム500を形成する際に、第1の領域501よりも第2の領域502の曲率が大きい立体形状になるように形成する。第2の領域502は第1の領域501よりも接着剤522の含有密度が低いため、炭素繊維510が第2の領域502において容易に変形可能となる。曲率の大きい部分において、プリフォーム500のしわやよれ等の発生を抑制することができるため、プリフォーム500の形状の自由度を高めることができる。これにより、接着剤522によって炭素繊維510の配置のばらつきを抑制しつつ、複合材料400の形状選択の幅を広げることができる。
【0099】
また、粉末状接着剤521を除去する際に、積層体511の第1の部分541とする部分を積層方向から挟持する。粉末状接着剤521を除去しない第1の部分541とする部分を挟持して拘束することによって、粉末状接着剤521を除去するための気流Vが発生することを抑制することができる。これにより、気流Vによって第1の部分541とする部分の粉末状接着剤521が除去されることを抑制して、接着性を発現させた後に第1の領域501と第2の領域502における接着剤520の含有密度の分布を形成することができる。
【0100】
また、粉末状接着剤521を除去する前に、積層体511の第1の部分541とする部分に付与された粉末状接着剤521を加熱する。第1の部分541とする部分に付与された粉末状接着剤521を加熱して溶融または軟化させてゲル状にした状態において、第2の部分542とする部分に気流Vを発生させて粉末状接着剤521を除去する。これにより、気流Vによって第1の部分541とする部分の粉末状接着剤521が除去されることをさらに抑制して、接着性を発現させた後に第1の領域501と第2の領域502における含有密度の分布をより確実に形成することができる。
【0101】
また、粉末状接着剤521の接着性を発現させる加熱工程の後であって、プリフォーム500を形成する予備成形工程の前に、炭素繊維510を切断線Lに沿って切断する切断工程を行う。さらに、第1の領域501は、切断線Lを含む。これにより、粉末状接着剤521の接着性を発現させることによって、切断線L周りが接着性を発現した接着剤522によって固定され、切断時や切断後に次工程に搬送する際に切断面のほつれを抑制することができる。切断面のほつれを抑制することによって、ほつれが生じた部分を除去する後加工を削減することができるため、成形時間を短くできるとともに、ほつれが生じた部分を除去する必要がなくなるため、歩留りを向上させることができる。
【0102】
〈変形例〉
図11および
図12を参照して、前述した第1実施形態の変形例を説明する。
【0103】
図11は、第1実施形態の変形例の原理を説明する概念図である。
図12は、第1実施形態の変形例に係る複合材料400の製造方法を実施した際のキャビティ350内の圧力P
rの時間推移を示す図である。なお、
図11中の矢印は、樹脂600の流動方向を示している。
【0104】
変形例に係る複合材料400の製造方法は、
図9に示すプリフォーム500を成形する工程の除去工程(ステップS106)において形成する第1の領域501および第2の領域502の配置が前述した第1実施形態と異なる。製造装置100は、第1実施形態と同様の構成を備えるため、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0105】
炭素繊維510の積層体511を配置した成形型310のキャビティ350を上面方向から見たとき、
図11(B)に示すように、樹脂600は注入口313から同心円状に広がるように流動する。このため、注入口313から離れたキャビティ350の周縁部は、樹脂600が流動しにくい部分352となる。樹脂600が流動しにくい部分352に樹脂600を到達させるためには、
図12の破線に示すように、樹脂600の注入作業における最大注入圧力を高圧に設定せざるを得ない。樹脂600を充填するための最大注入圧力を高圧に設定すると、その分、キャビティ350内の最大圧力P
2も増加する。したがって、注入作業中に成形型310の不用意な型開きが発生するのを防止するために、より大きな型締圧力を付与することが可能な大型のプレス機を使用する必要がある。
【0106】
本実施形態では、
図11(A)に示すように、例えば、注入口313近傍などの樹脂600が流動しやすい部分351に第1の領域501を配置し、例えば、キャビティ350の周縁部などの樹脂600が流動しにくい部分352に第2の領域502を形成するように粉末状接着剤521を除去する(ステップS106)。接着剤522の含有密度が比較的低い第2の領域502は、第1の領域501に比べて樹脂600の流動抵抗が小さくなる。このため、キャビティ350内に樹脂600を注入する工程(
図10のステップS202)において、第2の領域502が配置された樹脂600が流動しにくい部分352において、相対的に樹脂600が流動しやすくなるように制御することができる。これにより、樹脂600の注入圧力を高くしなくても短時間によって全体に樹脂600を到達させることができるため、
図12の実線に示すように、樹脂600の最大注入圧力を低減することができる。キャビティ350内の最大圧力P
1を比較的小さく抑えることができるため、成形時間の短時間化を図るとともに、設備投資費の削減を図ることができる。
【0107】
また、本実施形態において、樹脂600は、エポキシ樹脂によって形成され、接着剤520は、低分子量エポキシ樹脂によって形成される。これにより、複合材料400の成形時に樹脂600および接着剤520が同種の材料によって形成されているため、樹脂600と接着剤520との界面の形成を抑制し、樹脂600と一体化することでより均質な複合材料400を形成することができる。これにより、樹脂600の注入初期段階においては、接着剤520は、樹脂600を流動しにくい部分352に誘導する効果を有し、樹脂600の流動を制御することができる。樹脂600の注入が進むにつれて、樹脂600の硬化に伴う反応熱などによって接着剤520が軟化し、徐々に樹脂600がキャビティ350内全体に広がることによって樹脂600と接着剤520をより均質に混合することができる。
【0108】
以上説明したように、第1実施形態の変形例に係る複合材料400の製造方法および製造装置100によれば、気流Vによって積層体511の層間に付与された粉末状接着剤521の一部を除去して、第1の部分541と、第1の部分541よりも粉末状接着剤521の付与密度が低い第2の部分542とを形成する。さらに、粉末状接着剤521の接着性を発現させ、接着性を発現した接着剤522が積層体511に含浸した第1の領域501と、第1の領域501よりも接着剤522の含有密度が低い第2の領域502とを備えるプリフォーム500を形成する。これにより、第1実施形態と同様の効果が得られる。さらに、接着剤522の含有密度を制御することによって、プリフォーム500の部位に拘わらず樹脂600を含浸しやすくして比較的短時間によって複合材料400を形成することができる。
【0109】
また、キャビティ350のうち積層体511の第2の領域502が配置された部分を第1の領域501が配置された部分に比べて、キャビティ350内に注入した樹脂600が流れやすくする。このため、接着剤520の含有密度が均一なプリフォームをキャビティ350内に配置する場合に比べて、樹脂600が流動しにくい部分352に樹脂600を流れやすくすることができる。これによって、プリフォーム500の部位に拘わらず樹脂600を含浸しやすくして比較的短時間によってキャビティ350内の炭素繊維510全体に樹脂600を到達させることができる。これにより、成形時間の短時間化を図るとともに、キャビティ350内の最大圧力P
1を比較的小さく抑えることができるによって設備投資費の削減を図ることができる。
【0110】
〈第2実施形態〉
図13〜17を参照して、第2実施形態を説明する。
【0111】
図13は、第2実施形態に係る複合材料400の製造装置101および製造方法の全体の流れを説明するための図である。
図14(A)は、第2実施形態に係るプリフォーム500を成形する予備成形装置800の切断部260の概観斜視図、
図14(B)、(C)は、積層体511の層間に板状部材810を挟持する手順を説明するための図である。
図15、
図16は、第2実施形態に係る除去部240および拘束治具250の作用を説明するための図である。
図17は、第2実施形態に係るプリフォーム500の成形方法を示すフローチャートである。
【0112】
シート状の炭素繊維510の積層数は、成形品である複合材料400の設計板厚に対して、炭素繊維510の含有率および目付に応じて決定する。一般的な部材では、炭素繊維510の積層数は4〜5層になることが多いが、比較的大きな構造部材では10層以上になることもある。除去部240によって発生した気流Vは、積層体511の内部を進行する際に炭素繊維510から抵抗を受ける。このため、気流Vの強さ(気体の圧力)は一方の面511aから他方の面511bに向けて除々に弱まる。積層数が多くなるにつれて積層体511の板厚は増加するため、気流Vによる粉末状接着剤521の除去能力が低下する。これによって、接着剤520の含有密度分布の調整が困難となり、第1の領域501および第2の領域502を設計通りの配置に形成できなくなってしまう場合がある。
【0113】
そこで、第2実施形態では、積層数が増加した場合でも粉末状接着剤521を除去して第1の領域501および第2の領域502を設計通りの配置に形成することができるようにするために、気流Vに加えて補助気流V1を発生させる。以下、第2実施形態に係る製造装置101および製造方法について説明する。
【0114】
(製造装置)
第2実施形態に係る複合材料400の製造装置101は、前述した第1実施形態に係る複合材料400の製造装置100と同様に、プリフォーム500を成形する予備成形装置800と、複合材料400を形成する複合材料形成装置300と、から構成される。複合材料形成装置300は、第1実施形態と同様の構成を有するため、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0115】
予備成形装置800は、積層体511の層間に配置する板状部材810をさらに有する点において第1実施形態と異なる。他の構成は第1実施形態と同様のため、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0116】
板状部材810は、
図15(A)に示すように、中空構造を有し、気体が流通可能な流通路811を備えている。
【0117】
除去部240は、積層体511の一方の面511aから他方の面511bへ流れる気流Vを発生するとともに、流通路811を介して積層体511の面方向から流入して当該気流Vに合流する補助気流V1を発生する。補助気流V1を補うことによって粉末状接着剤521を除去する気流の強さが弱まることなく、積層体511の積層数が増加しても粉末状接着剤521を確実に除去することができる。
【0118】
除去部240が備える噴気部241は、流通路811へ気体を供給する。具体的には、流通路811は、給気ホース241cと連結している。気体供給部241aは、給気ホース241cを介して気体を所定の圧力によって加圧して生じた正圧によって流通路811内に送り出す。これにより、積層体511の層間に補助気流V1を発生することができる。
【0119】
(製造方法)
次に、実施形態に係る複合材料400の製造方法を説明する。
【0120】
複合材料400の製造方法は、前述した第1実施形態と同様に、プリフォーム500を成形する工程およびプリフォーム500を用いて複合材料400を形成する工程の大きく分けて2つの工程を有している。複合材料400を形成する工程は、前述した第1実施形態と同様なので説明を省略する。以下、
図17を参照して、プリフォーム500を成形する工程について説明する。
【0121】
プリフォーム500を成形する工程は、炭素繊維510素材を供給する供給工程(ステップS301)と、シート状の炭素繊維510に粉末状接着剤521を付与する付与工程(ステップS302)と、積層体511を形成する積層工程(ステップS303)と、積層体511を所定の長さに切断する切断工程(ステップS304)と、積層体511の層間に板状部材810を挟み込む挟持工程(ステップS305)と、積層体511に除去部240および拘束治具250を配置する配置工程(ステップS306)と、積層体511の一部を加熱する加熱工程(ステップS307)と、積層体511の一部から粉末状接着剤521を除去する除去工程(ステップS308)と、板状部材810を積層体511の層間から引き抜く抜去工程(ステップS309)と、積層体511を加熱する再加熱工程(ステップS310)と、積層体511を搬送する搬送工程(ステップS311)と、炭素繊維510を予備成形してプリフォーム500を形成する予備成形工程(ステップS312)と、成形したプリフォーム500を予備成形型280から脱型する脱型工程(ステップS313)と、を有する。
【0122】
各工程について説明する。なお、供給工程(ステップS301)、付与工程(ステップS302)、積層工程(ステップS303)、配置工程(ステップS306)、加熱工程(ステップS307)、再加熱工程(ステップS310)、搬送工程(ステップS311)、予備成形工程(ステップS312)および脱型工程(ステップS313)は、前述した第1実施形態と同様なので説明を省略する。
【0123】
積層体511を形成した後(ステップS303)、
図14(A)に示すように、積層体511を所定の長さに切断する(ステップS304)。
【0124】
次に、
図14(B)に示すように、切断した積層体511の上に2枚の板状部材810を配置する。積層体511のうち積層方向に気流Vを発生させる部分には、隙間を設けて板状部材810を配置する。板状部材810の上にさらに切断した積層体511を重ねる。このようにして、
図14(C)に示すように、積層体511の層間に板状部材810を挟み込む(ステップS305)。
【0125】
次に、
図13の中段、
図15(A)に示すように、除去部240および拘束治具250を配置する(ステップS306)。
【0126】
次に、
図15(B)に示すように、粉末状接着剤521が均一に付与された状態の積層体511の一部を加熱して粉末状接着剤521を溶融または軟化させて接着性を発現した接着剤522を形成する(ステップS307)。具体的には、第1実施形態と同様に、拘束治具250が備える挟持部材251のうち積層体511に対向する面を含む領域(
図15(B)中の破線で囲まれた部分)を加熱する。挟持部材251および積層体511の接触面から熱を伝導して、積層体511の層間に配置された粉末状接着剤521の一部を加熱する。
【0127】
次に、除去部240によって気流Vおよび補助気流V1を発生させる。挟持部材251によって積層体511を挟持した状態において、除去部240を駆動して積層体511の拘束治具250によって拘束されている部分および板状部材810が配置されている部分以外の部分に積層方向へ流れる気流Vを発生させる。当該気流Vによって、
図16(A)に示すように、積層体511の層間に付与された粉末状接着剤521を炭素繊維510の繊維と繊維の間の隙間を介して積層体511の外へ排出して、粉末状接着剤521の一部を除去する(ステップS308)。これによって、拘束治具250によって拘束されている部分に接着剤520が層間に付与された第1の部分541を形成し、粉末状接着剤521の一部を除去した部分に第1の部分541よりも粉末状接着剤521の付与密度が低い第2の部分542を形成する。
【0128】
次に、
図16(B)に示すように、積層体511の層間から板状部材810を引き抜く(ステップS309)。このとき、積層体511の上流側から下流側への連続的な流れを妨げないように積層体511の流れ方向に対して積層体511の面方向に垂直な方向に引き抜くことが好ましい。
【0129】
次に、再加熱工程(ステップS310)によって、粉末状接着剤521の接着性を発現させ、接着性を発現した接着剤522が積層体511に含浸した第1の領域501と、第1の領域501よりも接着剤522の含有密度が低い第2の領域502とを備えるプリフォーム500を形成する。
【0130】
その後、前述した第1実施形態と同様に、搬送工程(ステップS311)、予備成形工程(ステップS312)および脱型工程(ステップS313)を経て、プリフォーム500が完成する。
【0131】
以上説明したように、第2実施形態に係る複合材料400の製造方法および製造装置101によれば、粉末状接着剤521を除去する前に、気体が流通可能な流通路811を備える板状部材810を積層体511の間に挟み込み、粉末状接着剤521を除去する際に、積層体511の第2の部分542とする部分において、板状部材810の流通路811を介して気流Vに合流させる補助気流V1を供給する。これにより、第1実施形態と同様の効果を得られるとともに、補助気流V1を補うことによって粉末状接着剤521を除去する気流の強さが弱まることなく、積層体511の積層数が増加しても粉末状接着剤521を確実に除去することができる。
【0132】
以上、実施形態および変形例を通じて複合材料の製造方法および製造装置を説明したが、本発明は実施形態において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0133】
例えば、除去部は、噴気部および吸気部を備えるとしたが、積層体に対し、炭素繊維の積層方向に一方の面から他方の面へ流れる気流を発生させる構成であれば、特に限定されず、噴気部または吸気部のいずれか一方を備える構成としてもよい。
【0134】
また、複合材料は、コア材を有するとしたが、コア材を有さない複合材料であってもよい。
【0135】
また、粉末状接着剤の加熱工程の後に粉末状接着剤の除去工程を行うとしたが、これに限定されず、加熱工程および除去工程を同時に行ってもよいし、除去工程の後に加熱工程を行ってもよい。
【0136】
また、第2実施形態において、板状部材は、積層方向に貫通する貫通穴を設けてもよい。この場合、貫通穴は気流を発生させようとする部分(接着剤を除去する部分)に合わせた形状とすることが好ましい。これにより、貫通穴を介して積層体の積層方向に気流を発生させることができる。