【実施例】
【0022】
以下に、本願発明の実施例を示すが、本願発明の実施に際しては、当業者の常識及び先行技術の開示に従い、実施例を適宜に変更できる。一例として、正極格子、正極ストラップの合金組成や、正極/負極活物質ペーストの組成、正極/負極格子の寸法、デザイン、製造方法等は任意である。
【0023】
(正極板の作製)
Caを0.06質量%、Snを1.5質量%、Alを0.02質量%以下含有し、残部がPbと不可避不純物である合金を用いて、厚さ3.8mmの正極格子を鋳造した。
未化成の正極活物質として、ボールミル法による鉛粉99.9質量%と、合成樹脂繊維0.1質量%とを、25℃で比重が1.16の硫酸でペースト化し、正極格子に充填して、熟成と乾燥を行った。
【0024】
(負極板の作製)
CaおよびSnを表2に示す組成で含有し、他にAlを0.02質量%以下含有し、残部がPbと不可避不純物である合金を用いて、厚さ2.0mmの負極格子を鋳造した。
未化成の負極活物質として、ボールミル法の鉛粉98.3質量%と、合成樹脂繊維0.1質量%、カーボンブラック0.1質量%、BaSO
41.4質量%、及びリグニン0.1質量%を、25℃で比重が1.14の硫酸でペースト化し、負極格子に充填して、熟成と乾燥を行った。
【0025】
(鉛蓄電池の組立)
正極板4枚と負極板5枚を、微細ガラスマットセパレータを介して積層して極板群とし、極板群の長さが電槽内寸法になるまで圧迫を加えて電槽内に収容した。各正極板耳部の上部とポール(極柱)の台座部とを、純鉛の足し鉛を用い、バーナーで溶かしながら溶接することにより、正極ポール−ストラップを形成した。負極も同様の方法にてストラップを形成するが、足し鉛には表2に示す組成のPb、Pb−Sn合金、Pb−Ca合金、Pb−Ca−Sn合金を用いた。
【0026】
電槽に蓋体を接着した後、蓋体の注液部から電解液として硫酸を加え、電槽化成を施して、容量が50A・hの制御弁式鉛蓄電池を作製した。
化成後の負極活物質密度は、表2に示すとおりである。
【0027】
(寿命特性の評価)
上記のようにして作製したNo.1〜87の鉛蓄電池について、以下の条件で連続過充電試験を行った。
試験条件
充電電圧 :2.23V
試験環境 :60℃気槽
期間 :6か月(25℃換算で約5.7年相当)
連続過充電試験後の電池を解体して切り出した負極板に、1枚以上の耳部破断があった場合、耳部破断「有」、耳部破断が無かった場合「無」とした。
耳部破断が「無」の場合に、負極ストラップと耳部の溶接部の断面を金属顕微鏡で観察し、耳部の残存厚みを一つのストラップにつき3か所測定した。測定値の平均値から以下の式による粒界腐食の割合を求めた。
粒界腐食割合=(初期厚み−残存厚み)/初期厚み×100(%)
(初期厚みは2.0mm)
以下の基準により粒界腐食の進行度を評価した。
粒界腐食割合 10〜19% :1
粒界腐食割合 20〜29% :2
粒界腐食割合 30〜19% :3
粒界腐食割合 40〜49% :4
粒界腐食割合 50〜59% :5
粒界腐食割合 60%以上 :6
結果を表2、表3に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
No.1〜21の電池は、負極格子に耳部の合金組成において、Caが0.04質量%、0.06質量%と少ない。したがって、結晶粒が粗大であるため、粒界腐食が進行しやすく、耳部破断が生じると考える。
【0031】
No.22〜49の電池は、負極格子耳部の合金組成が、微細な結晶粒が生じるものとなっている。しかし、No.22〜24、No.26〜31、No.39、No.42、No.45〜47の電池は、ストラップ合金の組成において、Caが少ないかCaを含んでいない。そのため、ストラップ部分の結晶粒が粗大であるため、粒界腐食が進行しやすく、耳部破断に至る。
これに対して、No.25、No.32〜38、No.40、No.41、No.43、No.44、No.48〜49の電池は、耳部及びストラップ合金が微細な結晶組織を有するため、耳部破断に至らない。
【0032】
これらの中で、No.32〜37の電池は、耳部及びストラップが微細な結晶粒を有する点で共通するが、負極既化成活物質密度が2.7〜4.2g/cm
3の範囲で異なるものである。これらの電池の活物質密度と粒界腐食の進行度の関係を
図6に示す。
No.32の電池は、本発明の範囲より活物質密度が小さい2.7g/cm
3であり、No.37の電池は、活物質密度が大きい4.2g/cm
3である。これらの電池においては、負極板には酸素吸収反応が適切に行われる反応面積が確保されていないことから、耳部破断は免れているものの、粒界腐食進行度が大きいと推察される。
【0033】
No.50〜55、No.73〜78、No.85〜87の電池は、耳部の合金組成において、Snが0.80質量%、0.90質量%、又は1.20質量%である。また、No.57の電池は、耳部の合金組成において、Snが不含有である。いずれの電池の場合も、微細な結晶粒が得られる組成に対して、Snが多すぎるか、少なすぎるため、耳破断が生じている。
【0034】
No.56、No.58〜72、No.79〜84の電池は、負極格子耳部の合金組成が、微細な結晶粒が生じるものとなっている。しかし、No.56、No.58、No.62、No.72、No.79、No.84の電池は、ストラップ合金において、CaとSnの少なくとも一方の組成比が、結晶粒を微細化する範囲を外れている。そのため、耳部破断が起こっている。
これに対して、No.59〜61、No.63〜71、No.80〜83の電池は、耳部及びストラップの両方の合金が、微細な結晶粒を有する組成範囲であるため、耳部破断に至っていない。
【0035】
これらの中で、No.66〜71の電池は、耳部及びストラップの両方の合金が微細な結晶組織を有する点で共通し、負極既化成活物質密度が2.7〜4.2g/cm
3と異なるものである。これらの電池の活物質密度と粒界腐食の進行度の関係を
図7に示す。
負極既化成活物質密度が2.7g/cm
3であるNo.66、及び4.2g/cm
3であるNo.71の電池については、No.32、No.37と同様に、粒界腐食の進行度が大きかった。これに対して、負極既化成活物質密度が2.9〜3.9g/cm
3を満たすNo.67〜70の電池は、粒界腐食の進行が抑えられている。
【0036】
以上の結果により、負極板耳部の合金組成、及び負極ストラップの合金組成を、Caを0.07質量%以上0.12質量%以下、Snを0.10質量%以上0.75質量%以下含むPb−Ca−Sn系合金とし、かつ、負極既化成活物質密度を2.9g/cm
3以上3.9g/cm
3以下とすることにより、耐食性に優れ、寿命特性の改善された制御弁式鉛蓄電池が得られることが確認された。
【0037】
なお、市販の電池について、負極活密度を確認するためには、既化成で満充電状態(100%以上充電した状態)の負極活物質を水洗乾燥し、未粉砕の状態で水銀圧入法による測定を行い、得られた開放細孔容積と見かけ密度を次の式に代入すればよい。
単位質量当たりの内部細孔を含む負極活物質の体積[cm
3/g]=1÷負極活物質の見かけ密度[g/cm
3]
負極活物質密度[g/cm
3]=1÷(単位質量当たりの内部細孔を含む負極活物質の体積[cm
3/g])+単位質量当たりの開放細孔容積[cm
3/g])