(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記支持基板上にクラッド層を設ける工程を有しており、前記クラッド層上に前記多層膜を設け、前記端面をエッチングした後、前記支持基板および前記クラッド層を前記チップごとに切断することを特徴とする、請求項2記載の方法。
前記多層膜の表面をエッチングすることによってリッジ溝を設け、前記リッジ溝の間に前記光導波路を設けることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の方法。
前記光学材料膜をイオンアシスト蒸着法によって成膜し、前記光学材料膜のイオンアシスト条件を制御することによって前記エッチングレート差を生じさせることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の方法。
前記多層膜をエッチングするのに際して、前記支持基板および前記クラッド層を保護膜によって被覆することを特徴とする、請求項3〜5のいずれか一つの請求項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1〜
図3の例では、支持基板2の上面2aにクラッド層3を介して多層膜4が設けられている。2cは支持基板2の側面であり、2bは底面である。製造条件の異なる光学材料膜5と6とを交互に積層することによって、多層膜4が形成されている。多層膜4の端面4a、4b、4c、4dはエッチング面であり、それぞれ、光学材料膜5と6とのエッチングレート差に起因する凹凸7が設けられている。具体的には、光学材料膜6のエッチングレートは相対的に大きくなっており、光学材料膜7のエッチングレートは相対的に小さくなっている。dは、凹凸7の段差である。
【0010】
図2、
図3に示すように、光学材料層4には例えば一対のリッジ溝8が形成されており、リッジ溝8の間にリッジ型光導波路9が形成されている。光は、光導波路9の入射側端面9aから入射し、光導波路9内を矢印Aのように伝搬し、出射側端面9bから出射する。各端面9a、9bは、端面4a、4bの一部をなしているので、光学材料膜5と6とのエッチングレート差に起因する凹凸7が設けられている。
【0011】
図4の例では、支持基板2の上面2a上に、複数の多層膜4を形成する例を示す。
図4では、多層膜4の数は2つであるが、むろん多層膜の数は適宜選択できる。
【0012】
支持基板2の上面2上にはクラッド層3が設けられており、クラッド層3上には保護層10を介して複数の多層膜4が設けられている。クラッド層3がウエットエッチング時にエッチングされやすい材料である場合には、その上に保護層10を設けることによって、クラッド層3のエッチングを避けることが好ましい。
【0013】
製造条件の異なる光学材料膜5と6とを交互に積層することによって、各多層膜4が形成されている。各多層膜4の各端面4a、4bはエッチング面であり、それぞれ、光学材料膜5と6とのエッチングレート差に起因する凹凸7が設けられている。具体的には、光学材料膜6のエッチングレートは相対的に大きくなっており、光学材料膜5のエッチングレートは相対的に小さくなっている。dは、凹凸7の段差である。隣接する多層膜4の間には隙間30が設けられている。これらの各多層膜4は、スラブ型光導波路として使用することができるが、
図2、
図3のようなチャネル型光導波路を形成することが好ましい。
【0014】
次いで、隣接する多層膜4の隙間30に沿って、点線29のように支持基板2、クラッド層3を切断することによって、各素子を分離する。
【0015】
次いで、光導波路基板の好適な製造プロセスについて述べる。
図5(a)、(b)に示すように、支持基板2を準備する。支持基板の具体的材質は特に限定されず,ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、AlN、SiC、ZnO、石英ガラスなどのガラス、合成石英、水晶、Siなどを例示することができる。
【0016】
支持基板の厚さは、ハンドリングの観点からは、250μm以上が好ましく、また小型化という観点からは、1mm以下が好ましい。
【0017】
次いで、
図5(c)に示すように、支持基板2上にクラッド層3を形成する。クラッド層を設ける場合には、クラッド層の厚さを厚くすることによって、伝搬光の支持基板への染み出しを抑制できるので、この観点からは、クラッド層の厚さは0.5μm以上が好ましい。
【0018】
なお、光導波路基板の多層膜上に上側クラッド層をさらに設けることもできる。こうしたクラッド層および上側クラッド層は、多層膜の材質よりも低い屈折率を有する材質から形成するが、たとえば酸化珪素、酸化タンタル、酸化亜鉛によって形成することができる。また、クラッド層や上側クラッド層にドーピングすることによって、その屈折率調整することができる。こうしたドーパントとしては、P、B、Al、Gaを例示できる。
【0019】
次いで、
図6に示すように、クラッド層3上に多層膜14を形成する。多層膜14は、複数の光学材料膜5、6からなっている。14a、14bは各端面である。
【0020】
多層膜を形成する方法としては、CVD法、スパッタ法及びイオンアシスト蒸着法を例示できるが、エッチングレートの制御性の観点からは、イオンアシスト蒸着法が好ましい。
【0021】
多層膜を構成する光学材料は、酸化亜鉛、酸化タンタル、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、五酸化ニオブ、酸化マグネシウム等の光学材料から形成することが好ましい。また、光学材料層の屈折率は、1.7以上が好ましく、2以上がさらに好ましい。
【0022】
多層膜を構成する光学材料中には、希土類元素を含有させることができる。希土類元素としては、特にNd、Er、Tm、Ho、Dy、Prが好ましい。
【0023】
多層膜の全体の厚さは、特に限定されないが、光の伝搬損失を低減するという観点からは、0.5〜3μmが好ましい。
【0024】
ここで、多層膜を構成する各光学材料膜の製造条件を変化させることによって、端面をエッチングする段階で、各光学材料膜のエッチングレートが互いに異なるようにする。
【0025】
具体的には、以下のように製造条件を変化させることによって、各光学材料膜のエッチングレートを制御する。具体的には、イオンアシスト蒸着法にて、イオンソースのビーム電流及びビーム電圧を変化させる事により、エッチングレートを制御する。ビーム電流及びビーム電圧が高い程、エッチングレートは小さくなる。
【0026】
一例として、Ta
2O
5の場合、光学材料膜5のエッチングレートは0.7nm/sec程であり、光学材料膜6のエッチングレートは13nm/sec程である。測定法としては、エッチング前後の素子寸法及びへき開後の断面SEM観察を実施して算出した。
【0027】
多層膜の端面における凹凸の段差dは、目的とする反射特性に応じて適宜設計する。例えば、波長400〜800nmの光に対して、反射率を低く抑えるためには、dが20nm以上であることが好ましく、100nm以上であることが更に好ましい。また、dは800nm以下であることが好ましく、400nm以下であることが更に好ましい。
【0028】
多層膜は、スラブ型光導波路としても使用できるが、好ましくは、多層膜にチャンネル型光導波路を形成する。 チャネル型光導波路はリッジ型光導波路には限定されず、プロトン交換型光導波路や金属拡散型光導波路などであってもよい。
【0029】
例えば、
図7(a)、(b)に示すように、多層膜14上に、光導波路形成用のマスク材料層を形成する。次いで、マスク材料層をパターニングすることによって、リッジ型光導波路形成用のマスク16を得る。マスク16には、リッジ溝を形成するための開口17が所定箇所に形成されている。
【0030】
次いで、多層膜14の表面をエッチングすることによって、
図8(a)、(b)に示すように、多層膜18にリッジ溝を形成する。一対のリッジ溝の間にリッジ型光導波路9が形成される。
【0031】
マスク材料層の材質としては、Cr、Ni、Ti、Al、タングステンシリサイド等及びその多層膜が例示できる。
また、マスク材料層や多層膜のエッチング方法としては、ドライエッチング及びウェットエッチングが例示できる。
ドライエッチングは例えば、反応性エッチング等が有り、ガス種としてフッ素系・塩素系が例示できる。
ウェットエッチングは例えば、フッ酸系やTMAH系が例示できる。
【0032】
図8の状態では、所定個数の光導波路基板用チップが一枚の支持基板2上に形成されている。このため、チップごとに支持基板を切断し、
図1〜
図3に示すような形態のチップに分割する。次いで、各チップをエッチング処理することによって、各多層膜18の端面18aをエッチング処理し、凹凸7を形成する。
【0033】
こうしたエッチング処理としては、各材料により適切なエッチング方法や使用するガスあるいは薬液を適宜選択することができる。例えば、フッ酸を用いたウェットエッチングが好ましく、Ta
2O
5の場合には、フッ酸によるウェットエッチングが特に好ましい。
【0034】
ただし、多数の光導波路基板用チップを支持基板に形成した場合に、チップごとに切断してからチップ端面のエッチング処理を行うと、エッチング工程が煩雑になる。そこで、
本発明では、多数の光導波路基板用チップを形成した支持基板を切断することなく、多層膜の所定箇所に溝を設けて多層膜だけをチップ単位で分割し、各多層膜の端面を溝に露出させた状態でエッチング処理する。この場合には、多数の光導波路基板用チップを切断することなく同時にエッチング処理できるので、生産性が高い。
【0035】
例えば、多層膜にリッジ溝8を形成した後に、
図9(a)、(b)に示すように、多層膜20の上面20a側に溝30を形成する。ただし、各溝30は、リッジ溝と直交する方向に向かって延びるように形成する。また、各溝30の位置および寸法は、最終的に製造するチップの大きさに合わせる。これによって、隣接する
図4に示すような溝(隙間)を形成し、隣接する多層膜が溝によって分割される。
【0036】
この状態で各多層膜20の端面をエッチング処理すると、各端面において、光学材料膜のエッチングレートの差による凹凸を形成することができる。次いで、各溝に沿って、例えば
図4に示す点線29に沿って支持基板およびクラッド層を切断することによって、各チップを得ることができる。
【0037】
なお、支持基板2やクラッド層3がシリカなどのエッチングされ易い材質からなる場合には、支持基板、クラッド層の露出面を、エッチングレートの低い材料からなる保護膜によって被覆することが好ましい。例えば、
図10の例では、支持基板2の底面2b、端面2cおよびクラッド層3が保護膜25によって被覆されている。
【0038】
こうした保護膜の材質としては、酸化アルミニウム、酸化タンタル等が例示でき、薬液耐性の観点からは酸化アルミニウムが好ましい。
【0039】
また、
図4に示すように、支持基板2上において、複数の多層膜4を溝30によって分割する場合には、各多層膜4の端面をエッチングするときに、支持基板2およびクラッド層3がエッチングされるのを抑制することが好ましい。この観点からは、多層膜4と支持基板2(あるいはクラッド層3)との間に、エッチングレートの相対的に低い光学材料膜10を形成しておくことが好ましい。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
図5〜
図8を参照しつつ説明した方法に従い、
図1〜
図3に示すような光導波路基板を試作した。
【0041】
支持基板2としては、LiTaO
3のyカット基板を用いた。次いで、支持基板2上にアルミナからなる厚さ0.4μmのクラッド層3を形成し、その上に、Ta
2O
3からなる光学材料膜5、6を積層した多層膜14を形成した。各光学材料膜5、6を形成する際には、イオンアシスト条件を交互に変更した。具体的には、最初に高アシスト条件で光学材料膜5を100nm成膜し、続いて低イオンアシスト条件で光学材料膜6を100nm成膜し、この成膜を交互に12回行い、再表面には、高アシスト条件で光学材料膜5を100nm成膜し、総厚約2.5μmの多層膜を成膜した。
イオンアシスト条件は以下のとおりである。
高アシスト条件: 1300V-1300mA
低アシスト条件: 500V-500mA
【0042】
次いで、リッジ型光導波路をフォトリソグラフィーでパターニングし、ドライエッチングによりリッジ溝8を形成した(
図8)。具体的にはアルミニウム膜(厚さ100nm)をマスク材料膜として成膜し、フォトリソグラフィーによってリッジ溝用の開口17を設けた。その後、フッ素系のドライエッチングにより、多層膜14に、深さ1.5μmのリッジ溝8を形成し、リッジ型光導波路9を形成した。リッジ部の幅が3μmとなるように、フォトマスクの線幅で調整した。後のエッチング工程で、下地の支持基板2がエッチングされ難いように、導波路の伝搬方向が結晶のx軸に一致するようにした。
次いで、各光導波路の長さが10mmとなるように切断して各光導波路基板用チップを得、チップの各端面を光学研磨した。
【0043】
その後、各チップを、フッ酸(50%濃度)に13秒間ウェットエッチングすることで、各多層膜の各端面に凹凸を形成した。支持基板およびクラッド層はエッチングを受けていなかった。また、各端面を観察すると、低アシスト条件で成膜した光学材料膜6が162nm凹んでおり、高アシスト条件で成膜した光学材料膜5が9nm凹んでおり、両者の段差dは153nmであった。
【0044】
次いで、波長633nmの赤色レーザー光をレンズで集光してリッジ型光導波路の端面に入射し、結合効率を評価した結果、70%となった。
【0045】
(比較例1)
実施例1と同様にして光導波路基板を作製した。ただし、多層膜の端面をフッ酸によってエッチングする工程を行わなかった。波長633nmの光を光導波路に入射させて結合効率を評価した結果、63%となった。
【0046】
(比較例2)
比較例1の光導波路基板を作製した後、光導波路の両端面に反射防止膜を形成した。波長633nmの光を光導波路に入射させて結合効率を評価した結果、72%となった。このように、本発明の光導波路構造は、反射防止膜を端面に形成した光導波路と同等の反射防止性能を示す。
【0047】
(実施例2)
図5、
図6、
図7、
図8、
図9、
図10および
図4を参照しつつ説明した方法に従い、光導波路基板を試作した。
【0048】
支持基板2としては、LiTaO
3のyカット基板を用いた。次いで、支持基板2上にアルミナからなる厚さ0.4μmのクラッド層3を形成し、その上に、Ta
2O
5からなる光学材料膜5、6を積層した多層膜14を形成した。各光学材料膜5、6を形成する際には、イオンアシスト条件を交互に変更した。具体的には、最初に高アシスト条件で光学材料膜5を100nm成膜し、続いて低イオンアシスト条件で光学材料膜6を100nm成膜し、この成膜を交互に12回行い、再表面には、高アシスト条件で光学材料膜5を100nm成膜し、総厚約2.5μmの多層膜を成膜した。
イオンアシスト条件は以下のとおりである。
高アシスト条件: 1300V-1300mA
低アシスト条件: 500V-500mA
【0049】
次いで、リッジ型光導波路をフォトリソクラフィーでパターニングし、ドライエッチングによりリッジ溝を形成した(
図8)。具体的にはアルミニウム膜(厚さ100nm)をマスク材料膜として成膜し、フォトリソグラフィーによってリッジ溝用の開口17を設けた。その後、フッ素系のドライエッチングにより、多層膜14に、深さ1.5μmのリッジ溝8を形成し、リッジ型光導波路9を形成した。リッジ部の幅が3μmとなるように、フォトマスクの線幅で調整した。後のエッチング工程で、下地の支持基板2がエッチングされ難いように、導波路の伝搬方向が結晶のx軸に一致するようにした。
【0050】
次いで、多層膜上にアルミニウムからなるマスク材料層を形成し、フォトリソグラフィーによって、多層膜に溝30を形成した(
図9)。すなわち、フッ化系ガスによるエッチングによって、多層膜中に深さ2.4μmの溝30を形成し、厚さ0.1μmの光学材料膜5を残した。加工深さの精度が低い場合は、溝の深さを2.3μmと浅めに加工してもよい。
【0051】
その後、支持基板2の底面および側面上に厚さ200nmのMoからなる保護膜25を成膜し、
図10の状態とした。その後、フッ酸(50%濃度)に13秒間ウェットエッチングすることで、各多層膜の各端面に凹凸を形成した。支持基板およびクラッド層はエッチングを受けていなかった。また、各端面を観察すると、低アシスト条件で成膜した光学材料膜6が160nm凹んでおり、高アシスト条件で成膜した光学材料膜5が9nm凹んでおり、両者の段差dは151nmであった。
【0052】
次いで、隣接する多層膜を溝で切断し、チップに分割した。そして端面研磨を行い、各光導波路基板を得た。
次いで、実施例1と同様にして光学特性を評価した。波長633nmの光を入射させて結合効率を評価した結果、68%となった。
【0053】
(比較例3)
実施例2と同様にして光導波路基板を作製した。ただし、多層膜の端面をフッ酸によってエッチングする工程を行わなかった。波長633nmの光を光導波路に入射させて結合効率を評価した結果、61%となった。