特許第6602016号(P6602016)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱瓦斯化学株式会社の特許一覧

特許6602016シアン酸エステル化合物、該化合物を含む硬化性樹脂組成物及びその硬化物
<>
  • 特許6602016-シアン酸エステル化合物、該化合物を含む硬化性樹脂組成物及びその硬化物 図000013
  • 特許6602016-シアン酸エステル化合物、該化合物を含む硬化性樹脂組成物及びその硬化物 図000014
  • 特許6602016-シアン酸エステル化合物、該化合物を含む硬化性樹脂組成物及びその硬化物 図000015
  • 特許6602016-シアン酸エステル化合物、該化合物を含む硬化性樹脂組成物及びその硬化物 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6602016
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】シアン酸エステル化合物、該化合物を含む硬化性樹脂組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 8/28 20060101AFI20191028BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20191028BHJP
   C09J 161/08 20060101ALI20191028BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20191028BHJP
【FI】
   C08G8/28 A
   C08J5/24CEZ
   C09J161/08
   C09J163/00
【請求項の数】10
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-16459(P2015-16459)
(22)【出願日】2015年1月30日
(65)【公開番号】特開2016-141700(P2016-141700A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年11月28日
【審判番号】不服2019-3063(P2019-3063/J1)
【審判請求日】2019年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】片桐 誠之
(72)【発明者】
【氏名】徳住 啓太
(72)【発明者】
【氏名】嶋 建也
【合議体】
【審判長】 佐藤 健史
【審判官】 井上 猛
【審判官】 大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−237060(JP,A)
【文献】 特表平05−500079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 4/00-16/06
C08G 73/00-73/26
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造を有するシアン酸エステル化合物を含む硬化性樹脂組成物であって、
構造材料用プリプレグ、封止用材料、繊維強化複合材料、又は接着剤に用いられる硬化性樹脂組成物。
【化1】
(式中、nは1以上の整数を表す。)
【請求項2】
前記シアン酸エステル化合物が、フラン環含有フェノールノボラック樹脂をシアネート化して得られる、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記フラン環含有フェノールノボラック樹脂が、フルフラールとフェノールとを塩基性触媒の存在下に反応させたものである、請求項2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記シアン酸エステル化合物の重量平均分子量Mwが100〜3500である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記シアン酸エステル化合物以外のシアン酸エステル化合物、マレイミド化合物、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂及び重合可能な不飽和基を有する化合物からなる群から選択される、少なくとも1種以上を更に含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を硬化させてなる、硬化物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を基材に含浸又は塗布し、乾燥させてなる、構造材料用プリプレグ。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を含む、封止用材料。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を含む、繊維強化複合材料。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を含む、接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアン酸エステル化合物、該化合物を含む硬化性樹脂組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
シアン酸エステル化合物は、硬化によってトリアジン環を生じ、その高い耐熱性及び優れた電気特性から、構造用複合材料、接着剤、電気用絶縁材料、電気電子部品等、種々の機能性高分子材料の原料として幅広く用いられている。しかしながら、近年これらの応用分野における要求性能の高度化に伴い、機能性高分子材料として求められる諸物性はますます厳しくなってきている。かかる物性として、例えば、難燃性、耐熱性、低熱膨張率、低吸水性、低誘電率、低誘電正接、耐候性、耐薬品性、及び、高破壊靭性等が挙げられる。しかしながら、これまでのところ、これらの要求物性は必ずしも満足されてきたわけではない。
【0003】
例えば、半導体パッケージ材料の分野では、基板の薄葉化に伴い、半導体チップと基板材料との間で熱膨張係数のミスマッチから反りが生じるという問題点がある。これを解決する手段として、基板材料に用いられる機能性高分子材料自体に対して、低熱膨張及び高耐熱性を向上させることが求められている。また、プリント配線板の半田付けには、人体及び環境への配慮から、無鉛半田を用いることが促進されている。それに伴う高温でのリフロー工程に耐えうる点からも、機能性高分子材料自体に対して、低熱膨張及び高耐熱性を向上させることが求められている。
【0004】
また、機能性高分子材料の難燃性を高める観点から、従来、その機能性高分子材料にハロゲン原子又はリン原子を含有させる場合がある。しかしながら、ハロゲン原子は、燃焼時に環境汚染の恐れのあるハロゲン系ガスを発生させる可能性があり、且つ最終製品の絶縁性を低下させる。また、リン原子は、難燃性以外の要求物性(耐熱性、耐湿性及び低吸水性等)を低下させる場合が多い。そこで、機能性高分子材料にハロゲン原子及びリン原子を含有させることなく、難燃性を向上させることも求められている。
【0005】
更に、プリント配線板用途等の積層板を製造する場合、まず、機能性高分子材料の前駆体である硬化前のモノマーを、メチルエチルケトン等の溶剤に溶解させてワニスを調製した後、これをガラス繊維に含浸させ、乾燥せしめることでプリプレグを作製する。そのため、上記モノマーに対して、溶剤溶解性を向上させることも求められている。
【0006】
半導体封止材料の分野では、電力損失の低減(省エネルギー)を狙い、半導体素子をケイ素(Si)から炭化ケイ素(SiC)等のワイドギャップ半導体へ置き換える検討が盛んに行われている。SiC半導体はSi半導体よりも化学的に安定である為、200℃を超える高温動作が可能となり、装置として小型化も期待されている。これに伴い、封止材料に使用される機能性高分子材料を含む組成物へは、耐熱性、低熱膨張、及び、長期に亘る高温での耐熱性(以下、長期耐熱性)等が求められている。
【0007】
低熱膨張及び耐熱性を備えた、シアン酸エステル化合物単体の硬化物が得られる例として、シアナトフェニル基同士を結合するメチレン基の水素を特定のアルキル基で置換した2官能シアナトフェニルタイプのシアン酸エステル化合物(1,1−ビス(4−シアナトフェニル)イソブタン)を用いることが提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、2官能シアナトフェニルタイプのシアン酸エステル化合物において、シアナトフェニル基同士を結合するメチレン基の水素をアルキル基で置換すると難燃性(高温下での難分解性)は低下してしまう。また、特許文献1には、難燃性及び長期耐熱性に関する記載は一切ない。
【0008】
低熱膨張及び難燃性を備えた、シアン酸エステル化合物単体の硬化物が得られる例として、アラルキル構造のシアン酸エステル化合物(特許文献2参照)を用いることが提案されている。しかしながら、アラルキル構造のシアン酸エステル化合物は、溶剤に溶けにくく、取扱いが困難である。
【0009】
難燃性及び/又は耐熱性を備えた、シアン酸エステル化合物単体の硬化物が得られる例として、イソシアヌル酸骨格含有シアン酸エステル化合物(特許文献3参照)、トリアジン骨格含有シアン酸エステル化合物(特許文献4参照)、シアナトフェニル基同士を結合するメチレン基の水素をビフェニル基で置換した2官能シアナトフェニルタイプのシアン酸エステル化合物(特許文献5参照)、フェノール変性キシレンホルムアルデヒド樹脂のシアネート化物(特許文献6参照)を用いること、3官能シアナトフェニルタイプ(トリスフェノールアルカン型)のシアン酸エステル化合物と2官能シアナトフェニルタイプのシアン酸エステル化合物を組み合わせること(特許文献7参照)やビスフェノールA型シアン酸エステル化合物にイミド骨格含有シアン酸エステル化合物を組み合わせること(特許文献8参照)が提案されている。しかしながら、いずれの場合も、熱膨張率、長期耐熱性及び/又は溶剤溶解性に関する記載は一切ない。
【0010】
耐熱性と長期に亘る高温での耐熱性を備えた、シアン酸エステル化合物を用いた組成物として、ノボラック型シアネート、ノボラック型フェノール樹脂及び無機充填材を含む組成が提案されている(特許文献9)。しかしながら、特許文献9における長期耐熱性の試験は50時間程度(250℃)であり、試験時間としては十分でない。また、熱膨張率や溶剤溶解性に関する記載は一切ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2012/057144号パンフレット
【特許文献2】特許第4407823号公報
【特許文献3】特許第4654770号公報
【特許文献4】特開2012−036114号公報
【特許文献5】特許第5104312号公報
【特許文献6】国際公開第2013/21869号パンフレット
【特許文献7】特許第2613056号公報
【特許文献8】特開2010−180147号公報
【特許文献9】特開2013−053218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これまでのところ、溶剤溶解性を有したシアン酸エステル化合物を用いて、低熱膨張、難燃性及び耐熱性を高次元で備える実用的なシアン酸エステル化合物単体の硬化物は得られていない。
本発明の課題は、優れた溶剤溶解性を有し、且つ、熱膨張率が低く、優れた難燃性及び耐熱性を有する硬化物が得られる、新規なシアン酸エステル化合物並びに該化合物を含む硬化性樹脂組成物等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、フラン環含有フェノールノボラック樹脂をシアネート化して得られるシアン酸エステル化合物が優れた溶剤溶解性を有し取扱性に優れること、及びそのようなシアン酸エステル化合物を用いた硬化性樹脂組成物は、熱膨張率が低く、且つ優れた難燃性及び耐熱性を有する硬化物等を実現し得ることを見出し、本発明に到達した。即ち、本発明は以下の通りである。
【0014】
1.下記一般式(1)で表される構造を有する、シアン酸エステル化合物。
【化1】
(式中、nは1以上の整数を表す。)
【0015】
2.フラン環含有フェノールノボラック樹脂をシアネート化して得られる、1.に記載のシアン酸エステル化合物。
【0016】
3.前記フラン環含有フェノールノボラック樹脂が、フルフラールとフェノールとを塩基性触媒の存在下に反応させたものである、2.に記載のシアン酸エステル化合物。
【0017】
4.重量平均分子量Mwが100〜3500である、1.〜3.のいずれか一項に記載のシアン酸エステル化合物。
【0018】
5.1.〜4.のいずれか一項に記載のシアン酸エステル化合物を含む、硬化性樹脂組成物。
【0019】
6.1.〜4.のいずれか一項に記載のシアン酸エステル化合物以外のシアン酸エステル化合物、マレイミド化合物、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂及び重合可能な不飽和基を有する化合物からなる群から選択される、少なくとも1種以上を更に含む、5.に記載の硬化性樹脂組成物。
【0020】
7.5.又は6.に記載の硬化性樹脂組成物を硬化させてなる、硬化物。
【0021】
8.5.又は6.に記載の硬化性樹脂組成物を基材に含浸又は塗布し、乾燥させてなる、構造材料用プリプレグ。
【0022】
9.5.又は6.に記載の硬化性樹脂組成物を含む、封止用材料。
【0023】
10.5.又は6.に記載の硬化性樹脂組成物を含む、繊維強化複合材料。
【0024】
11.5.又は6.に記載の硬化性樹脂組成物を含む、接着剤。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1で得られたフラン環含有フェノールノボラック樹脂のGPCチャート。
図2】実施例1で得られたシアン酸エステル化合物FPRCNのGPCチャート。
図3】実施例1で得られたフラン環含有フェノールノボラック樹脂及びシアン酸エステル化合物FPRCNのFT−IRチャート。
図4】実施例2で得られたシアン酸エステル化合物E−CNのH−NMRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、フラン環含有フェノールノボラック樹脂をシアネート化して得られるシアン酸エステル化合物、及び該シアン酸エステル化合物を含んでなる硬化性樹脂組成物である。
【0027】
また、本発明の別の態様においては、前記硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物、前記硬化性樹脂組成物を含んでなる封止用材料、繊維強化複合材料及び接着剤も提供される。
【0028】
<フラン環含有フェノールノボラック樹脂>
本発明のシアン酸エステル化合物の原料となるフラン環含有フェノールノボラック樹脂は、フラン環を有するノボラック樹脂であれば特に限定されないが、例えば特開平10−237060号公報や特開2007−211254号公報等の方法に従い、フルフラールとフェノールとを塩基性触媒存在下に反応させて得ることができる。
【0029】
フルフラールとフェノールの反応に用いられる塩基性触媒としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウム−tert−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド等のアルカリ土類金属アルコキシド等が挙げられる。これらは1種類又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
前記塩基性触媒の使用量は、フェノール1モルに対し、通常0.005〜2.0モル、好ましくは0.01〜1.1モルである。
【0031】
またフルフラールとフェノールの反応においては、必要に応じて前記反応に不活性な溶媒を使用することもできる。該溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒等の有機溶媒が挙げられる。これらは1種類又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。溶媒を使用する場合、その使用量はフェノール100質量部に対し、通常5〜500質量部、好ましくは10〜300質量部である。
【0032】
前記反応における反応温度は、0〜200℃、好ましくは50〜150℃である。
【0033】
前記反応における反応時間は、1〜200時間、好ましくは5〜100時間である。
【0034】
前記反応において、フェノールの使用量は、フルフラール1モルに対して、1.5〜20モル、好ましくは1.8〜10モルである。
【0035】
前記反応は、フルフラールとフェノール(必要により溶媒)の混合物中に塩基性触媒を加えて加熱して行う。また、フェノールと触媒(必要により溶媒)の混合物を加熱しているところにフルフラールを徐々に添加してもよい。攪拌しながら行ってもよく、空気中又は不活性雰囲気(窒素、ヘリウム、アルゴンなどの)中で行ってもよく、常圧又は加圧下で行ってもよい。なお、反応の進行は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)等により確認(又は追跡)することができる。
【0036】
反応終了後の反応混合物には、未反応のフルフラール、未反応のフェノール、塩基性触媒、副反応生成物などが含まれている。そのため、慣用の方法、例えば、中和、水洗、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段によって分離精製してもよい。
【0037】
上記製造法によって得られた、フラン環含有フェノールノボラック樹脂は(特に限定されるものではないが)、下記一般式(2)において表すことができる。
【0038】
【化2】
(式中、nは1以上の整数を表す。nが異なる化合物の混合物であってもよい。)
【0039】
<シアン酸エステル化合物>
本発明のシアン酸エステル化合物は、フラン環含有フェノールノボラック樹脂が有するヒドロキシ基をシアネート化することで得られる。シアネート化方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を適用することができる。具体的には、フラン環含有フェノールノボラック樹脂とハロゲン化シアンを、溶媒中で、塩基性化合物存在下で反応させる方法、溶媒中、塩基の存在下で、ハロゲン化シアンが常に塩基より過剰に存在するようにして、フラン環含有フェノールノボラック樹脂とハロゲン化シアンを反応させる方法(米国特許3553244号)や、塩基として3級アミンを用い、これをハロゲン化シアンよりも過剰に用いながら、溶媒の存在下、フラン環含有フェノールノボラック樹脂に3級アミンを添加した後、ハロゲン化シアンを滴下する、或いは、ハロゲン化シアンと3級アミンを併注滴下する方法(特許3319061号公報)、連続プラグフロー方式で、フラン環含有フェノールノボラック樹脂、トリアルキルアミン及びハロゲン化シアンを反応させる方法(特許3905559号公報)、フラン環含有フェノールノボラック樹脂とハロゲン化シアンとを、tert−アミンの存在下、非水溶液中で反応させる際に副生するtert−アンモニウムハライドを、カチオン及びアニオン交換対で処理する方法(特許4055210号公報)、フラン環含有フェノールノボラック樹脂に対して、水と分液可能な溶媒の存在下で、3級アミンとハロゲン化シアンとを同時に添加して反応させた後、水洗分液し、得られた溶液から2級若しくは3級アルコール類又は炭化水素の貧溶媒を用いて沈殿精製する方法(特許2991054号公報)、更には、フラン環含有フェノールノボラック樹脂、ハロゲン化シアン、及び3級アミンを、水と有機溶媒との二相系溶媒中、酸性条件下で反応させる方法(特許5026727号公報)等により、本発明のシアン酸エステル化合物を得ることができる。
【0040】
上記した、フラン環含有フェノールノボラック樹脂とハロゲン化シアンを、溶媒中で、塩基性化合物存在下で反応させる方法を用いる場合、反応基質であるフラン環含有フェノールノボラック樹脂を、ハロゲン化シアン溶液及び塩基性化合物溶液のいずれかに予め溶解させた後、ハロゲン化シアン溶液と塩基性化合物溶液とを接触させる。
該ハロゲン化シアン溶液と塩基性化合物溶液を接触させる方法(接触方法)としては、(A)撹拌混合させたハロゲン化シアン溶液に塩基性化合物溶液を注下していく方法、(B)撹拌混合させた塩基性化合物溶液にハロゲン化シアン溶液を注下していく方法、(C)ハロゲン化シアン溶液と塩基性化合物溶液を連続的に交互に又は同時に供給していく方法等が挙げられる。
前記(A)、(B)及び(C)の方法の中でも副反応を抑制し、より高純度のシアン酸エステル化合物を高収率で得ることができるため、(A)の方法が好ましい。
また、前記ハロゲン化シアン溶液と塩基性化合物溶液の接触方法は、半回分形式又は連続流通形式のいずれであってもよい。
特に(A)の方法を用いた場合、フラン環含有フェノールノボラック樹脂が有するヒドロキシ基を残存させずに反応を完結させることができ、かつ、より高純度のシアン酸エステル化合物を高収率で得ることができることから、塩基性化合物を分割して注下するのが好ましい。分割回数は特に制限はないが、1〜5回が好ましい。また、塩基性化合物の種類としては、1分割ごとに同一でも異なるものでもよい。
【0041】
本発明で用いるハロゲン化シアンとしては、塩化シアン及び臭化シアンが挙げられる。ハロゲン化シアンは、シアン化水素又は金属シアニドとハロゲンとを反応させる方法等の公知の製造方法により得られたハロゲン化シアンを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。また、シアン化水素又は金属シアニドとハロゲンとを反応させて得られたハロゲン化シアンを含有する反応液をそのまま用いることもできる。
【0042】
本発明のシアネート化工程におけるハロゲン化シアンのフラン環含有フェノールノボラック樹脂に対する使用量は、フラン環含有フェノールノボラック樹脂のヒドロキシ基1モルに対して0.5〜5モル、好ましくは1.0〜3.5モルである。
その理由は、未反応のフラン環含有フェノールノボラック樹脂を残存させずにシアン酸エステル化合物の収率を高めるためである。
【0043】
ハロゲン化シアン溶液に用いる溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロぺンタノンなどのケトン系溶媒、n−ヘキサン、シクロヘキサン、イソオクタンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジメチルセルソルブ、ジグライム、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メチルソルソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリドン、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル系溶媒、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ系溶媒、酢酸エチル、安息香酸エチルなどのエステル系溶媒、水溶媒が挙げられる。これらは、反応基質に合わせて、1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
本発明のシアネート化工程に用いられる塩基性化合物としては、有機及び無機塩基のいずれでも用いることができ、それらのうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0045】
有機塩基としては、特にトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリアミルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジエチル−n−ブチルアミン、メチルジ−n−ブチルアミン、メチルエチル−n−ブチルアミン、ドデシルジメチルアミン、トリベンジルアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、ジフェニルメチルアミン、ピリジン、ジエチルシクロヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン等の3級アミンが好ましい。これらの中でも、収率よく目的物が得られることなどから、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンがより好ましく、トリエチルアミンが特に好ましい。
【0046】
前記有機塩基の使用量は、フラン環含有フェノールノボラック樹脂のヒドロキシ基1モルに対して、好ましくは0.1〜8モル、より好ましくは1.0〜3.5モルである。
その理由は、未反応のフラン環含有フェノールノボラック樹脂を残存させずにシアン酸エステル化合物の収率を高めるためである。
【0047】
無機塩基としては、アルカリ金属の水酸化物が好ましい。アルカリ金属の水酸化物としては、特に限定されないが工業的に一般的に用いられる水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。安価に入手できる点から、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0048】
前記無機塩基の使用量は、フラン環含有フェノールノボラック樹脂のヒドロキシ基1モルに対して、好ましくは1.0〜5.0モル、より好ましくは1.0〜3.5モルである。
その理由は、未反応のフラン環含有フェノールノボラック樹脂を残存させずにシアン酸エステル化合物の収率を高めるためである。
【0049】
本発明の反応において、塩基性化合物は上述した通り、溶媒に溶解させた溶液として用いることができる。溶媒としては、有機溶媒又は水を用いることができる。
【0050】
塩基性化合物溶液に用いる溶媒の使用量は、フラン環含有フェノールノボラック樹脂を塩基性化合物溶液に溶解させる場合、フラン環含有フェノールノボラック樹脂1質量部に対して、好ましくは0.1〜100質量部、より好ましくは0.5〜50質量部である。
フラン環含有フェノールノボラック樹脂を塩基性化合物溶液に溶解させない場合、溶媒の使用量は、塩基性化合物1質量部に対して、好ましくは0.1〜100質量部、より好ましくは0.25〜50質量部である。
【0051】
塩基性化合物を溶解させる有機溶媒は、該塩基性化合物が有機塩基の場合に好ましく用いられ、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジメチルセルソルブ、ジグライム、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メチルソルソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリドン、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル系溶媒、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ系溶媒、酢酸エチル、安息香酸エチルなどのエステル系溶媒、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素系溶媒が挙げられる。有機溶媒は、塩基性化合物、反応基質及び反応に用いられる溶媒に合わせて適宜選択することができる。これらは1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
塩基性化合物を溶解させる水は、該塩基性化合物が無機塩基の場合に好ましく用いられ、特に制約されず、水道水であっても、蒸留水であっても、脱イオン水であってもよい。効率良く目的とするシアン酸エステル化合物を得る観点から、不純物の少ない蒸留水及び脱イオン水が好ましい。
【0053】
塩基性化合物溶液に用いる溶媒が水の場合、界面活性剤として触媒量の有機塩基を用いることが、より十分な反応速度を確保する観点から好ましい。中でも副反応の少ない3級アミンが好ましい。3級アミンとしては、アルキルアミン、アリールアミン、シクロアルキルアミン何れであってもよく、具体的にはトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリアミルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジエチル−n−ブチルアミン、メチルジ−n−ブチルアミン、メチルエチル−n−ブチルアミン、ドデシルジメチルアミン、トリベンジルアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、ジフェニルメチルアミン、ピリジン、ジエチルシクロヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、及び、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネンが挙げられる。これらの中でも、水への溶解度の観点、及び、より収率よく目的物が得られる観点から、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、及び、ジイソプロピルエチルアミンがより好ましく、トリエチルアミンが特に好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0054】
本発明のシアネート化工程に用いられる溶媒の総量としては、フラン環含有フェノールノボラック樹脂1質量部に対し、2.5〜100質量部であることがフラン環含有フェノールノボラック樹脂をより均一に溶解させ、シアン酸エステル化合物をより効率良く製造する観点から好ましい。
【0055】
本発明のシアネート化工程において、反応液のpHは特に限定されないが、pHが7未満の状態を保持したまま反応させることが好ましい。pHを7未満に抑えることで、イミドカーボネート及びシアン酸エステル化合物の重合物等の副生成物の生成が抑制されて、効率的にシアン酸エステル化合物を製造できる。反応液のpHが7未満の状態を保持するには、酸を反応液に添加する方法が好ましい。シアネート化工程直前のハロゲン化シアン溶液に酸を添加しておくこと、及び、反応中に適宜反応液のpHをpH計で測定しながら反応系に酸を添加し、pH7未満の状態を保持するようにすることがより好ましい。
その際に用いる酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、燐酸等の無機酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸等の有機酸が挙げられる。
【0056】
本発明のシアネート化工程における反応温度は、イミドカーボネート、シアン酸エステル化合物の重合物、及びジアルキルシアノアミド等の副生物の生成、反応液の凝結、及び、ハロゲン化シアンとして塩化シアンを用いる場合は塩化シアンの揮発を抑制する観点から、好ましくは−20〜+50℃、より好ましくは−15〜15℃、更により好ましくは−10〜10℃である。
【0057】
本発明のシアネート化工程における反応圧力は常圧でも加圧でも良い。必要に応じて、反応系内に窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを通気しても良い。
また、反応時間は特に限定されないが、前記接触方法が(A)及び(B)の場合の注下時間及び(C)の場合の接触時間は1分〜20時間が好ましく、3分〜10時間がより好ましい。更にその後10分〜10時間反応温度を保持しながら撹拌させることが好ましい。
【0058】
反応条件を上記のような範囲とすることで、目的とするシアン酸エステル化合物がより経済的に、かつより工業的に得られる。
【0059】
シアネート化工程における、反応の進行度は、液体クロマトグラフィー又はIRスペクトル法等で分析することができる。副生するジシアンやジアルキルシアノアミド等の揮発成分は、ガスクロマトグラフィーで分析することができる。
【0060】
反応終了後は、通常の後処理操作、及び所望により分離・精製操作を行うことにより、目的とするシアン酸エステル化合物を単離することができる。具体的には、反応液からシアン酸エステル化合物を含む有機溶媒相を分取し、水洗後、濃縮、沈殿化又は晶析、或いは、水洗後、溶媒置換すればよい。洗浄の際には、過剰のアミン類を除去するため、希薄塩酸などの酸性水溶液を用いる方法も採用できる。十分に洗浄された反応液から水分を除去するために、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムなどを用いた一般的な方法により乾燥することができる。濃縮及び溶媒置換の際には、シアン酸エステル化合物の重合を抑えるため、減圧下、90℃以下の温度に加熱して有機溶媒を留去する。沈殿化又は晶析の際には、溶解度の低い溶媒を用いることができる。例えば、エーテル系の溶剤やヘキサン等の炭化水素系溶剤又はアルコール系溶剤を反応溶液に滴下、又は逆注下する方法を採用することができる。得られた粗生成物を洗浄するために、反応液の濃縮物や沈殿した結晶をエーテル系の溶剤やヘキサン等の炭化水素系溶剤、又はアルコール系の溶剤で洗浄する方法を採用することができる。反応溶液を濃縮して得られた結晶を再度溶解させた後、再結晶させることもできる。また、晶析は、反応液を単純に濃縮又は冷却することで行ってもよい。
【0061】
上記製造方法によって得られたシアン酸エステル化合物は(特に限定されるものではないが)、下記一般式(1)において表すことができる。
【0062】
【化3】
(式中、nは1以上の整数を表す。nは異なる化合物の混合物であってもよい。)
【0063】
本発明のシアン酸エステル化合物の重量平均分子量Mwは、特に限定されないが、100〜3500であることが好ましく、より好ましくは200〜3000であり、更に好ましくは200〜2000である。
【0064】
得られたシアン酸エステル化合物は、NMR等の公知の方法により同定することができる。シアン酸エステル化合物の純度は、液体クロマトグラフィー又はIRスペクトル法等で分析することができる。シアン酸エステル化合物中のジアルキルシアノアミド等の副生物や残存溶媒等の揮発成分は、ガスクロマトグラフィーで定量分析することができる。シアン酸エステル化合物中に残存するハロゲン化合物は、液体クロマトグラフ質量分析計で同定することができ、また、硝酸銀溶液を用いた電位差滴定又は燃焼法による分解後イオンクロマトグラフィーで定量分析することができる。シアン酸エステル化合物の重合反応性は、熱板法又はトルク計測法によるゲル化時間で評価することができる。
【0065】
<硬化性樹脂組成物>
本発明の硬化性樹脂組成物は、上述したシアン酸エステル化合物を含むものである。この硬化性樹脂組成物は、所期の特性が損なわれない範囲において、上述したシアン酸エステル化合物以外のシアン酸エステル化合物(以下、「他のシアン酸エステル化合物」という。)、マレイミド化合物、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ベンゾオキサジン化合物、及び/又は、重合可能な不飽和基を有する化合物等を含有していてもよい。
【0066】
他のシアン酸エステル化合物としては、シアナト基が少なくとも1個置換された芳香族部分を分子内に有する化合物で、一般式(1)で表されるシアン酸エステル化合物以外のものであれば特に限定されない。例えば一般式(3)で表されるものが挙げられる。
【化4】
(式中、Arは、各々独立に、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニレン基を表し、複数ある場合は互いに同一であっても異なっていてもよい。Raは各々独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜6のアルキル基と炭素数6〜12のアリール基とが結合された基を示す。Raにおける芳香環は置換基を有していてもよく、Arは及びRaにおける置換基は任意の位置を選択できる。pはArに結合するシアナト基の数を表し、各々独立に1〜3の整数である。qはArに結合するRaの数を表し、Arがフェニレン基の時は4−p、ナフチレン基の時は6−p、ビフェニレン基の時は8−pである。tは平均繰り返し数を表し、0〜50の整数であり、tが異なる化合物の混合物であってもよい。Xは、各々独立に、単結合、炭素数1〜50の2価の有機基(水素原子がヘテロ原子に置換されていてもよい)、窒素数1〜10の2価の有機基(例えば−N−R−N−(ここでRは有機基を示す))、カルボニル基(−CO−)、カルボキシ基(−C(=O)O−)、カルボニルジオキサイド基(−OC(=O)O−)、スルホニル基(−SO−)、或いは、2価の硫黄原子又は2価の酸素原子のいずれかを示す。)
【0067】
一般式(3)のRaにおけるアルキル基は、直鎖若しくは分枝の鎖状構造、及び、環状構造(例えばシクロアルキル基等)の何れを有していてもよい。
また、一般式(3)におけるアルキル基及びRaにおけるアリール基中の水素原子は、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、メトキシ基、フェノキシ基等のアルコキシ基、シアノ基等で置換されていてもよい。
前記アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、1−エチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
前記アリール基の具体例としては、フェニル基、キシリル基、メシチル基、ナフチル基、フェノキシフェニル基、エチルフェニル基、o−,m−又はp−フルオロフェニル基、ジクロロフェニル基、ジシアノフェニル基、トリフルオロフェニル基、メトキシフェニル基、o−,m−又はp−トリル基等が挙げられる。更にアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられる。
一般式(3)のXにおける2価の有機基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基などのアルキレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、トリメチルシクロヘキシレン基などのシクロアルキレン基、ビフェニルイルメチレン基、ジメチルメチレン−フェニレン−ジメチルメチレン基、フルオレンジイル基、及びフタリドジイル基等の芳香環を有する2価の有機基が挙げられる。該2価の有機基中の水素原子は、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、メトキシ基、フェノキシ基等のアルコキシ基、シアノ基等で置換されていてもよい。
一般式(3)のXにおける窒素数1〜10の2価の有機基としては、−N−R−N−で表される基、イミノ基、ポリイミド基等が挙げられる。
【0068】
また、一般式(3)中のXの有機基として具体的な構造は、下記一般式(4)、又は、下記一般式(5)で表される2価の基も挙げられる。
【化5】
(式中、Arはフェニレン基、ナフチレン基又はビフェニレン基を示し、uが2以上の場合、互いに同一であっても異なっていてもよい。Rb、Rc、Rf、及び、Rgは各々独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、トリフルオロメチル基、又はフェノール性ヒドロキシ基を少なくとも1個有するアリール基を示す。Rd及びReは各々独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はヒドロキシ基のいずれかを示す。uは0〜5の整数を示す。)
【化6】
(式中、Arはフェニレン基、ナフチレン基又はビフェニレン基のいずれか一種から選択される。Ri、Rjは各々独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、ベンジル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、トリフルオロメチル基、又はシアナト基が少なくとも1個置換されたアリール基のいずれかを表す。vは0〜5の整数を示すが、vが異なる化合物の混合物であってもよい。)
【0069】
さらに、一般式(3)中のXとしては、下記式で表される2価の基が挙げられる。
【化7】
(式中、mは4〜7の整数を示す。Rは各々独立に水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基のいずれかを示す。)
一般式(4)のAr及び一般式(5)のArの具体例としては、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、4,4’−ビフェニレン基、2,4’−ビフェニレン基、2,2’−ビフェニレン基、2,3’−ビフェニレン基、3,3’−ビフェニレン基、3,4’−ビフェニレン基、2,6−ナフチレン基、1,5−ナフチレン基、1,6−ナフチレン基、1,8−ナフチレン基、1,3−ナフチレン基、1,4−ナフチレン基、2,7−ナフチレン基等が挙げられる。
一般式(4)のRb〜Rg及び一般式(5)のRi、Rjにおけるアルキル基及びアリール基は一般式(3)におけるものと同義である。
【0070】
一般式(3)で表されるシアナト置換芳香族化合物の具体例としては、シアナトベンゼン、1−シアナト−2−、1−シアナト−3−、又は1−シアナト−4−メチルベンゼン、1−シアナト−2−、1−シアナト−3−、又は1−シアナト−4−メトキシベンゼン、1−シアナト−2,3−、1−シアナト−2,4−、1−シアナト−2,5−、1−シアナト−2,6−、1−シアナト−3,4−又は1−シアナト−3,5−ジメチルベンゼン、シアナトエチルベンゼン、シアナトブチルベンゼン、シアナトオクチルベンゼン、シアナトノニルベンゼン、2−(4−シアナトフェニル)−2−フェニルプロパン(4−α−クミルフェノールのシアネート)、1−シアナト−4−シクロヘキシルベンゼン、1−シアナト−4−ビニルベンゼン、1−シアナト−2−又は1−シアナト−3−クロロベンゼン、1−シアナト−2,6−ジクロロベンゼン、1−シアナト−2−メチル−3−クロロベンゼン、シアナトニトロベンゼン、1−シアナト−4−ニトロ−2−エチルベンゼン、1−シアナト−2−メトキシ−4−アリルベンゼン(オイゲノールのシアネート)、メチル(4−シアナトフェニル)スルフィド、1−シアナト−3−トリフルオロメチルベンゼン、4−シアナトビフェニル、1−シアナト−2−又は1−シアナト−4−アセチルベンゼン、4−シアナトベンズアルデヒド、4−シアナト安息香酸メチルエステル、4−シアナト安息香酸フェニルエステル、1−シアナト−4−アセトアミノベンゼン、4−シアナトベンゾフェノン、1−シアナト−2,6−ジ−tert−ブチルベンゼン、1,2−ジシアナトベンゼン、1,3−ジシアナトベンゼン、1,4−ジシアナトベンゼン、1,4−ジシアナト−2−tert−ブチルベンゼン、1,4−ジシアナト−2,4−ジメチルベンゼン、1,4−ジシアナト−2,3,4−トリメチルベンゼン、1,3−ジシアナト−2,4,6−トリメチルベンゼン、1,3−ジシアナト−5−メチルベンゼン、1−シアナト又は2−シアナトナフタレン、1−シアナト4−メトキシナフタレン、2−シアナト−6−メチルナフタレン、2−シアナト−7−メトキシナフタレン、2,2'−ジシアナト−1,1'−ビナフチル、1,3−、1,4−、1,5−、1,6−、1,7−、2,3−、2,6−又は2,7−ジシアナトシナフタレン、2,2’−又は4,4’−ジシアナトビフェニル、4,4’−ジシアナトオクタフルオロビフェニル、2,4’−又は4,4’−ジシアナトジフェニルメタン、ビス(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)エタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(2−シアナト−5−ビフェニルイル)プロパン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)イソブタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)−3−メチルブタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)−2−メチルブタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)−2,2−ジメチルプロパン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)−3,3−ジメチルブタン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)ヘキサン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)ヘプタン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)オクタン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)−2−メチルペンタン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)−2−メチルヘキサン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)−2,2−ジメチルペンタン、4,4−ビス(4−シアナトフェニル)−3−メチルヘプタン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)−2−メチルヘプタン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)−2,2−ジメチルヘキサン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)−2,4−ジメチルヘキサン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)−2,2,4−トリメチルペンタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−シアナトフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−シアナトフェニル)ビフェニルメタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−シアナト−3−イソプロピルフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−シアナトフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−シアナトフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−シアナトフェニル)−2,2−ジクロロエチレン、1,3−ビス[2−(4−シアナトフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、1,4−ビス[2−(4−シアナトフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、4−[ビス(4−シアナトフェニル)メチル]ビフェニル、4,4−ジシアナトベンゾフェノン、1,3−ビス(4−シアナトフェニル)−2−プロペン−1−オン、ビス(4−シアナトフェニル)エーテル、ビス(4−シアナトフェニル)スルフィド、ビス(4−シアナトフェニル)スルホン、4−シアナト安息香酸−4−シアナトフェニルエステル(4−シアナトフェニル−4−シアナトベンゾエート)、ビス−(4−シアナトフェニル)カーボネート、1,3−ビス(4−シアナトフェニル)アダマンタン、1,3−ビス(4−シアナトフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン、1,3−ビス(3−メチル−4−シアナトフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)イソベンゾフラン−1(3H)−オン(フェノールフタレインのシアネート)、3,3−ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)イソベンゾフラン−1(3H)−オン(o−クレゾールフタレインのシアネート)、9,9’−ビス(4−シアナトフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2−シアナト−5−ビフェニルイル)フルオレン、トリス(4−シアナトフェニル)メタン、1,1,1−トリス(4−シアナトフェニル)エタン、1,1,3−トリス(4−シアナトフェニル)プロパン、α,α,α’−トリス(4−シアナトフェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼン、1,1,2,2−テトラキス(4−シアナトフェニル)エタン、テトラキス(4−シアナトフェニル)メタン、2,4,6−トリス(N−メチル−4−シアナトアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(N−メチル−4−シアナトアニリノ)−6−(N−メチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ビス(N−4−シアナト−2−メチルフェニル)−4,4’−オキシジフタルイミド、ビス(N−3−シアナト−4−メチルフェニル)−4,4’−オキシジフタルイミド、ビス(N−4−シアナトフェニル)−4,4’−オキシジフタルイミド、ビス(N−4−シアナト−2−メチルフェニル)−4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタルイミド、トリス(3,5−ジメチル−4−シアナトベンジル)イソシアヌレート、2−フェニル−3,3−ビス(4−シアナトフェニル)フタルイミジン、2−(4−メチルフェニル)−3,3−ビス(4−シアナトフェニル)フタルイミジン、2−フェニル−3,3−ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)フタルイミジン、1−メチル−3,3−ビス(4−シアナトフェニル)インドリン−2−オン、2−フェニル−3,3−ビス(4−シアナトフェニル)インドリン−2−オン、フェノールノボラック樹脂やクレゾールノボラック樹脂(公知の方法により、フェノール、アルキル置換フェノール又はハロゲン置換フェノールと、ホルマリンやパラホルムアルデヒドなどのホルムアルデヒド化合物を、酸性溶液中で反応させたもの)、トリスフェノールノボラック樹脂(ヒドロキシベンズアルデヒドとフェノールとを酸性触媒の存在下に反応させたもの)、フルオレンノボラック樹脂(フルオレノン化合物と9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類とを酸性触媒の存在下に反応させたもの)、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂やビフェニルアラルキル樹脂(公知の方法により、Ar−(CHY)で表されるようなビスハロゲノメチル化合物とフェノール化合物とを酸性触媒若しくは無触媒で反応させたもの、Ar−(CHOR)で表されるようなビス(アルコキシメチル)化合物やAr−(CHOH)で表されるようなビス(ヒドロキシメチル)化合物とフェノール化合物を酸性触媒の存在下に反応させたもの、又は、芳香族アルデヒド化合物、アラルキル化合物、フェノール化合物とを重縮合させたもの)、フェノール変性キシレンホルムアルデヒド樹脂(公知の方法により、キシレンホルムアルデヒド樹脂とフェノール化合物を酸性触媒の存在下に反応させたもの)、変性ナフタレンホルムアルデヒド樹脂(公知の方法により、ナフタレンホルムアルデヒド樹脂とヒドロキシ置換芳香族化合物を酸性触媒の存在下に反応させたもの)、フェノール変性ジシクロペンタジエン樹脂、ポリナフチレンエーテル構造を有するフェノール樹脂(公知の方法により、フェノール性ヒドロキシ基を1分子中に2つ以上有する多価ヒドロキシナフタレン化合物を、塩基性触媒の存在下に脱水縮合させたもの)等のフェノール樹脂を上述と同様の方法によりシアネート化したもの等が挙げられるが、特に制限されるものではない。これらの他のシアン酸エステル化合物は1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0071】
マレイミド化合物としては、1分子中に1個以上のマレイミド基を有する化合物であれば、一般に公知のものを用いることできる。マレイミド化合物としては、例えば、o−フェニレンビスマレイミド、m−フェニレンビスマレイミド、p−フェニレンビスマレイミド、o−フェニレンビスシトラコンイミド、m−フェニレンビスシトラコンイミド、p−フェニレンビスシトラコンイミド、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、ビス(3,5−ジメチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5−ジエチル−4−マレイミドフェニル)メタン、2,2’−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミド、1,6’−ビスマレイミド−(2,2,4−トリメチル)ヘキサン、4,4−ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4−ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3−ビス(3−マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−マレイミドフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ジフェニルメタンビスシトラコンイミド、2,2’−ビス[4−(4−シトラコンイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス(3,5−ジメチル−4−シトラコンイミドフェニル)メタン、ビス(3−エチル−5−メチル−4−シトラコンイミドフェニル)メタン、ビス(3,5−ジエチル−4−シトラコンイミドフェニル)メタン、ポリフェニルメタンマレイミド、及びこれらマレイミド化合物のプレポリマー、又は上述のマレイミド化合物とアミン化合物とのプレポリマー等が挙げられるが、特に制限されるものではない。これらのマレイミド化合物は、1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0072】
フェノール樹脂としては、1分子中に2個以上のヒドロキシ基を有するフェノール樹脂が好ましく、一般に公知のものを用いることができる。フェノール樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型フェノール樹脂、ビスフェノールE型フェノール樹脂、ビスフェノールF型フェノール樹脂、ビスフェノールS型フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック型フェノール樹脂、グリシジルエステル型フェノール樹脂、アラルキルノボラック型フェノール樹脂、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、クレゾールノボラック型フェノール樹脂、多官能フェノール樹脂、ナフトール樹脂、ナフトールノボラック樹脂、多官能ナフトール樹脂、アントラセン型フェノール樹脂、ナフタレン骨格変性ノボラック型フェノール樹脂、フェノールアラルキル型フェノール樹脂、ナフトールアラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、脂環式フェノール樹脂、ポリオール型フェノール樹脂、リン含有フェノール樹脂、重合性不飽和炭化水素基含有フェノール樹脂及び、水酸基含有シリコーン樹脂類が挙げられるが、特に制限されるものではない。これらのフェノール樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物であれば、一般に公知のものを用いることができる。エポキシ樹脂として、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、キシレンノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、3官能フェノール型エポキシ樹脂、4官能フェノール型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキルノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキルノボラック型エポキシ樹脂、アラルキルノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ポリオール型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、或いはこれらのハロゲン化物が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0074】
オキセタン樹脂としては、一般に公知のものを用いることができる。オキセタン樹脂としては、例えば、オキセタン、2−メチルオキセタン、2,2−ジメチルオキセタン、3−メチルオキセタン、3,3−ジメチルオキセタン等のアルキルオキセタン、3−メチル−3−メトキシメチルオキセタン、3,3’−ジ(トリフルオロメチル)パーフルオキセタン、2−クロロメチルオキセタン、並びに、3,3−ビス(クロロメチル)オキセタンの他、市販品として例えばOXT−101(東亞合成製商品名)及びOXT−121(東亞合成製商品名)が挙げられる。これらのオキセタン樹脂は、1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0075】
ベンゾオキサジン化合物としては、1分子中に2個以上のジヒドロベンゾオキサジン環を有する化合物が好ましく、一般に公知のものを用いることができる。ベンゾオキサジン化合物としては、例えば、ビスフェノールA型ベンゾオキサジンであるBA−BXZ(小西化学製商品名)ビスフェノールF型ベンゾオキサジンであるBF−BXZ(小西化学製商品名)、ビスフェノールS型ベンゾオキサジンであるBS−BXZ(小西化学製商品名)、フェノールフタレイン型ベンゾオキサジンが挙げられる。これらのベンゾオキサジン化合物は、1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0076】
重合可能な不飽和基を有する化合物としては、一般に公知のものを用いることができる。重合可能な不飽和基を有する化合物としては、例えば、エチレン、プロピレン、スチレン、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル等のビニル化合物、メチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の1価又は多価アルコールの(メタ)アクリレート類、ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF型エポキシ(メタ)アクリレート等のエポキシ(メタ)アクリレート類、ベンゾシクロブテン樹脂等が挙げられる。これらの重合可能な不飽和基を有する化合物は、1種又は2種以上混合して用いることができる。尚、上記「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートを包含する概念である。
【0077】
本発明における硬化性樹脂組成物には、上記した化合物及び樹脂に加えて、更に、シアン酸エステル化合物、マレイミド化合物、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、重合可能な不飽和基を有する化合物の重合触媒として作用する化合物を配合することができる。重合触媒としては、例えば、オクチル酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅、アセチルアセトン鉄等の金属塩、オクチルフェノール、ノニルフェノール等のフェノール化合物、1−ブタノール、2−エチルヘキサノール等のアルコール類、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体、ジシアンジアミド、ベンジルジメチルアミン、4−メチル−N,N−ジメチルベンジルアミン等のアミン化合物、ホスフィン系はホスホニウム系のリン化合物が挙げられる。また、エポキシ−イミダゾールアダクト系化合物、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシカーボネート等の過酸化物、又はアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を重合触媒として用いてもよい。これら重合触媒は市販のものを用いてもよく、市販品としては、例えば、アミキュアPN-23(味の素ファインテクノ社製商品名)、ノバキュアHX-3721(旭化成社製商品名)、フジキュアFX-1000(富士化成工業社製商品名)等が挙げられる。これらの重合触媒は、1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0078】
本発明における硬化性樹脂組成物には、無機充填材を用いることができる。無機充填材としては、例えば、タルク、焼成クレー、未焼成クレー、マイカ、Eガラス、Aガラス、NEガラス、Cガラス、Lガラス、Dガラス、Sガラス、MガラスG20、ガラス短繊維(EガラスやTガラス、Dガラス、Sガラス、Qガラスなどのガラス微粉末類を含む。)、中空ガラス、球状ガラス、シリカ、溶融シリカ等のケイ酸塩、酸化チタン、アルミナ、ギブサイト、ベーマイト、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化モリブデン等の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の炭酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム等の硫酸塩又は亜硫酸塩、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化炭素等の窒化物、炭化ケイ素等の炭化物、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等のチタン酸塩、モリブデン酸亜鉛、シリコーン複合パウダー、シリコーンレジンパウダー等が挙げられる。これらの無機充填材は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらは、その形状(球状あるいは破砕型)、又は大きさの異なるものを混合して充填量を増して使用することもできる。
【0079】
無機充填材は、さらに予め表面処理する処理剤で処理されたものであってよい。処理剤としては、官能基含有シラン類、環状オリゴシロキサン類、オルガノハロシラン類、及びアルキルシラザン類からなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の化合物を好適に使用することができる。これらのなかでも、オルガノハロシラン類及びアルキルシラザン類を用いて球状シリカの表面処理することは、シリカ表面を疎水化するのに好適であり、硬化性樹脂組成物中における球状シリカの分散性に優れる点において好ましい。
【0080】
更に、本発明の硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、熱可塑性樹脂、硬化触媒、硬化促進剤、着色顔料、消泡剤、表面調整剤、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光重合開始剤、蛍光増白剤、光増感剤、染料、顔料、増粘剤、滑剤、流動調整剤、分散剤、レベリング剤、光沢剤、重合禁止剤等の公知の添加剤を含有していてもよい。また、必要に応じて、溶媒を含有していてもよい。これら任意の添加剤は、1種又は2種以上混合して使用することができる。
【0081】
溶媒としては、一般に公知のものを用いることできる。溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のセロソルブ系溶媒、乳酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、乳酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、ヒドロキシイソ酪酸メチル等のエステル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール等のアルコール系溶媒、トルエン、キシレン、アニソール等の芳香族系炭化水素等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0082】
本発明における硬化性樹脂組成物は、上述したシアン酸エステル化合物、並びに必要に応じて、他のシアン酸エステル化合物、マレイミド化合物、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ベンゾオキサジン化合物、及び/又は、重合可能な不飽和基を有する化合物や各種添加剤を、溶媒とともに、公知のミキサー、例えば高速ミキサー、ナウターミキサー、リボン型ブレンダー、ニーダー、インテンシブミキサー、万能ミキサー、ディゾルバー、スタティックミキサー等を用いて混合して得ることができる。混合の際の、シアン酸エステル化合物、各種添加剤、溶媒の添加方法は、特に限定されるものではない。
【0083】
本発明による硬化性樹脂組成物は、熱や光などによって硬化させることにより硬化物とすることができる。硬化物は、例えば、硬化性樹脂組成物を溶融又は溶媒に溶解させた後、型内に流し込み、通常の条件で硬化させることにより得ることができる。熱硬化の場合、硬化温度は、硬化をより進行させ、かつ硬化物の劣化をより抑制する観点から、120℃〜300℃の範囲内が好ましい。
【0084】
<硬化性樹脂組成物の用途>
本発明の封止用材料は、上記硬化性樹脂組成物を含むものであり、その硬化性樹脂組成物を用いて製造することができる。封止用材料の製造方法は、一般に公知のものを適宜適用でき、特に限定されない。例えば、上記硬化性樹脂組成物と、封止用材料を製造する際に用いられることが知られている各種の添加剤又は溶媒等とを、公知のミキサーを用いて混合することで封止用材料を製造することができる。なお、混合の際の、硬化性樹脂組成物、各種添加剤及び溶媒の添加方法は、一般に公知のものを適宜適用でき、特に限定されない。
【0085】
本発明の構造材料用プリプレグは、基材と、その基材に含浸又は塗布した上記硬化性樹脂組成物とを含むものである。構造材料用プリプレグは、上記硬化性樹脂組成物を無機及び/又は有機繊維基材に含浸又は塗布し、更に必要に応じて乾燥することにより、製造することができる。
【0086】
基材としては、特に限定されないが、例えば、ガラス織布及びガラス不織布等のガラス繊維基材などの無機繊維機材、ポリアミド樹脂繊維、芳香族ポリアミド樹脂繊維及び全芳香族ポリアミド樹脂繊維等のポリアミド系樹脂繊維、ポリエステル樹脂繊維、芳香族ポリエステル樹脂繊維及び全芳香族ポリエステル樹脂繊維等のポリエステル系樹脂繊維、ポリイミド樹脂繊維、フッ素樹脂繊維等を主成分とする織布又は不織布で構成される合成繊維基材、クラフト紙、コットンリンター紙、リンターとクラフトパルプの混抄紙等を主成分とする紙基材等の有機繊維基材が挙げられる。プリプレグに要求される性能、例えば、強度、吸水率及び熱膨張係数等に応じて、これら公知のものを適宜選択して用いることができる。また、上記ガラス繊維基材を構成するガラスは、特に限定されないが、例えば、Eガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Dガラス、NEガラス、Tガラス及びHガラスが挙げられる。
【0087】
構造材料用プリプレグを製造する方法は、一般に公知のものを適宜適用でき、特に限定されない。例えば、前述した硬化性樹脂組成物を用いて樹脂ワニスを調製し、基材を樹脂ワニスに浸漬する方法、基材に樹脂ワニスを各種コーターにより塗布する方法、スプレーにより吹き付ける方法等を適用して、プリプレグを製造することができる。これらの中でも、基材を樹脂ワニスに浸漬する方法が好ましい。これにより、基材に対する樹脂組成物の含浸性を向上させることができる。なお、基材を樹脂ワニスに浸漬する場合、通常の含浸塗布設備を使用することができる。例えば、樹脂組成物ワニスを無機及び/又は有機繊維基材に含浸させて乾燥し、Bステージ化してプリプレグを製造する方法が適用できる。
【0088】
本発明の繊維強化複合材料は、上記硬化性樹脂組成物を含むものであり、その硬化性樹脂組成物及び強化繊維を用いて製造することができる。繊維強化複合材料に含まれる強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、PBO繊維、高強力ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、及び炭化ケイ素繊維などの繊維を用いることができる。強化繊維の形態や配列については、特に限定されず、織物、不織布、マット、ニット、組み紐、一方向ストランド、ロービング及びチョップド等から適宜選択できる。また、強化繊維の形態としてプリフォーム(強化繊維からなる織物基布を積層したもの、又はこれをステッチ糸により縫合一体化したもの、あるいは立体織物・編組物などの繊維構造物)を適用することもできる。これら繊維強化複合材料の製造方法として、具体的には、リキッド・コンポジット・モールディング法、レジン・フィルム・インフュージョン法、フィラメント・ワインディング法、ハンド・レイアップ法、及びプルトルージョン法が挙げられる。これらのなかでも、リキッド・コンポジット・モールディング法の一つであるレジン・トランスファー・モールディング法は、金属板、フォームコア及びハニカムコア等、プリフォーム以外の素材を成形型内に予めセットしておくことができることから、種々の用途に対応可能である。そのため、レジン・トランスファー・モールディング法は、比較的、形状が複雑な複合材料を短時間で大量生産する場合に好ましく用いられる。
【0089】
本発明の接着剤は、上記硬化性樹脂組成物を含むものであり、その硬化性樹脂組成物を用いて製造することができる。接着剤の製造方法は、一般に公知のものを適宜適用でき、特に限定されない。例えば、上記硬化性樹脂組成物と、接着剤を製造する際に用いられることが知られている各種の添加剤又は溶媒等とを、公知のミキサーを用いて混合することで接着剤を製造することができる。なお、混合の際の、硬化性樹脂組成物、各種添加剤及び溶媒の添加方法は、一般に公知のものを適宜適用でき、特に限定されない。
【0090】
本発明による硬化性樹脂組成物は、優れた低熱膨張性、難燃性及び耐熱性を有するため、高機能性高分子材料として極めて有用であり、熱的、電気的及び機械物性に優れた材料として、電気絶縁材料、封止用材料、接着剤、積層材料、レジスト、ビルドアップ積層板材料のほか、土木・建築、電気・電子、自動車、鉄道、船舶、航空機、スポーツ用品、美術・工芸などの分野における固定材、構造部材、補強剤、型どり材等に好ましく使用される。これらの中でも、低熱膨張性、耐燃性及び高度の機械強度が要求される、電気絶縁材料、半導体封止材料、電子部品の接着剤、航空機構造部材、衛星構造部材及び鉄道車両構造部材に好適である。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例により特に限定されるものではない。
【0092】
(水酸基含有芳香族化合物のOH基(g/eq.)当量の測定)
JIS−K0070に準拠して、ピリジン−塩化アセチル法によりOH基当量(g/eq.)を求めた。
【0093】
(シアン酸エステル化合物の重量平均分子量Mwの測定)
シアン酸エステル化合物1gを100gのテトラヒドロフラン(溶媒)に溶解させた溶液10μLを 高速液体クロマトグラフィー(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製高速液体クロマトグラフLachromElite)に注入し分析を実施した。カラムは東ソー株式会社製TSKgel GMHHR−M(長さ30cm×内径7.8mm)2本、移動相はテトラヒドロフラン、流速は1mL/min.、検出器はRIである。重量平均分子量Mwは、GPC法によりポリスチレンを標準物質として求めた。
【0094】
(実施例1)フラン環含有フェノールノボラック樹脂のシアン酸エステル化合物(以下、FPRCNと略記する。)の合成
下記式(1)で表されるFPRCNを後述のようにして合成した。
【化8】
(式(1)中、nは1〜20の整数を表す)
【0095】
<フラン環含有フェノールノボラック樹脂(以下、「FPROH」と略記する。)の合成>
まず、下記式(2)で表されるFPROHを合成した。
【化9】
(式(1)中、nは1〜20の整数を表す)
【0096】
具体的には、フェノール113g、メタノール28g、水酸化ナトリウム12gを仕込、撹拌、溶解後、加熱して還流状態としたところへ、フルフラール29gを2時間で滴下した。その後、還流温度(90〜100℃)で20時間反応させた後、35%塩酸水溶液30gで中和し、80%ヒドラジン水溶液を5g加えた。次いで、メチルイソブチルケトン150gを加え、水洗を繰り返した後、加熱減圧下において、未反応フェノール、メチルイソブチルケトンを留去して、FPROH332gを得た。得られたFPROHのOH基当量は139g/eq.であった。
【0097】
<FPRCNの合成>
次に、上記方法で得られたFPROH20g(OH基当量139g/eq.)(OH基換算0.14mol)(重量平均分子量Mw500:GPCチャートを図1に示す)及びトリエチルアミン7.3g(0.07mol)(ヒドロキシ基1モルに対して0.5モル)をジクロロメタン182gに溶解させ、これを溶液1とした。
塩化シアン13.3g(0.22mol)(ヒドロキシ基1モルに対して1.5モル)、ジクロロメタン31.0g、36%塩酸32.8g(0.32mol)(ヒドロキシ基1モルに対して2.25モル)、水163.9gを、撹拌下、液温−2〜−0.5℃に保ちながら、溶液1を30分かけて注下した。溶液1注下終了後、同温度にて30分撹拌した後、トリエチルアミン14.6g(0.14mol)(ヒドロキシ基1モルに対して1.0モル)をジクロロメタン14.6gに溶解させた溶液(溶液2)を30分かけて注下した。溶液2注下終了後、同温度にて30分撹拌して反応を完結させた。
その後反応液を静置して有機相と水相を分離した。得られた有機相を、0.1N塩酸 100mLにより洗浄した後、水100gで7回洗浄した。水洗7回目の廃水の電気伝導度は20μS/cmであり、水による洗浄により、除けるイオン性化合物は十分に除けられたことを確認した。
水洗後の有機相を減圧下で濃縮し、最終的に90℃で1時間濃縮乾固させて目的とするシアン酸エステル化合物FPRCN(黒紫色粘性物)を21.2g得た。得られたシアン酸エステル化合物FPRCNの重量平均分子量Mwは930であった。GPCチャートを図2に示す。また、FPRCNのIRスペクトルは2236cm−1及び2264cm−1(シアン酸エステル基)の吸収を示し、且つ、ヒドロキシ基の吸収は示さなかった。IRチャートを図3に示す。FPRCNは、メチルエチルエチルケトンに対し、25℃で50質量%以上溶解することが可能であった。
【0098】
(合成例1)1,1−ビス(4−シアナトフェニル)エタン(以下、E−CNと略記する。)の合成
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(東京化成工業株式会社製)300g(OH基換算2.80mol)及びトリエチルアミン283.4g(2.80mol)(ヒドロキシ基1モルに対して1.0モル)をジクロロメタン1800gに溶解させ、これを溶液1とした。
塩化シアン275.4g(4.48mol)(ヒドロキシ基1モルに対して1.6モル)、ジクロロメタン642.6g、36%塩酸425.4g(4.20mol)(ヒドロキシ基1モルに対して1.5モル)、水2637.6gを、撹拌下、液温−2〜−0.5℃に保ちながら、溶液1を60分かけて注下した。溶液1注下終了後、同温度にて30分撹拌した後、トリエチルアミン283.4g(2.80mol)(ヒドロキシ基1モルに対して1.0モル)をジクロロメタン283.4gに溶解させた溶液(溶液2)を30分かけて注下した。溶液2注下終了後、同温度にて30分撹拌して反応を完結させた。
その後反応液を静置して有機相と水相を分離した。得られた有機相を水1300gで5回洗浄した。水洗5回目の廃水の電気伝導度は20μS/cmであり、水による洗浄により、除けるイオン性化合物は十分に除けられたことを確認した。水洗後の有機相を減圧下で濃縮し、最終的に90℃で1時間濃縮乾固させて目的とするシアン酸エステル化合物E−CNを360g得た。得られたシアン酸エステル化合物E−CNの構造をNMRにて同定した。H−NMRスペクトルを図4に示す。
H−NMR:(270MHz、クロロホルム−d、内部標準TMS)
δ(ppm)=1.62 (d,3H)、4.22(q,1H)、7.42(complex,8H)
【0099】
(実施例2)
<硬化性樹脂組成物の調製及び硬化物の作成>
実施例1で得られたシアン酸エステル化合物FPRCN100質量部をナス型フラスコに投入し、150℃で加熱溶融させ、真空ポンプで脱気した後、JIS−K7238−2−2009に記載の型に流し込み、オーブンに入れ、180℃にて3時間、その後、250℃にて3時間加熱することにより硬化させ、1辺100mm、厚さ2mmの硬化物を得た。
【0100】
(比較例1)
実施例2において、FPRCNを100質量部用いる代わりに、2,2−ビス(4−シアナートフェニル)プロパン(三菱ガス化学製商品名skylex、TAと略記)を100質量部用いたこと以外は、実施例1と同様にして硬化物を得た。なお、2,2−ビス(4−シアナートフェニル)プロパンskylexは、メチルエチルケトンに対し、25℃で50質量%以上溶解することが可能であった。
【0101】
(実施例3)
実施例1で得られたシアン酸エステル化合物FPRCN20質量部と、合成例1で得られたシアン酸エステル化合物E−CN60質量部と、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン(東京化成工業株式会社製、BMIと略記)10質量部と、2,2−ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(和光純薬株式会社製、DABPAと略記)10質量部とをセパラブルフラスコに投入し、真空ポンプで減圧下、150℃で加熱溶融、撹拌混合した後、JIS−K7238−2−2009に記載の型に流し込み、オーブンに入れ、180℃にて3時間、その後、250℃にて5時間加熱することにより硬化させ、1辺100mm、厚さ2mmの硬化物を得た。
【0102】
(比較例2)
実施例3において、FPRCNを20質量部用いる代わりに、TA(三菱ガス化学製商品名skylex)を20質量部用いたこと以外は、実施例2と同様にして硬化物を得た。
【0103】
上記のようにして得られた各硬化物の特性を、以下の方法により評価した。
ガラス転移温度(Tg):JIS−K7244−3(JIS C6481)に準拠し、動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製 型番「AR2000」)を用い、開始温度30℃、終了温度400℃、昇温速度3℃/分、測定周波数1Hzの条件にて、硬化物の動的粘弾性を測定し、その際得られた損失弾性率(E”)の最大値をガラス転移温度とした。ガラス転移温度は耐熱性の指標である。
熱膨張係数:JIS−K−7197−2012(JIS C6481)に準拠し、熱機械的分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 商品名「TMA/SS7100」)を用い、硬化物の試験片5mm×5mm×2mm、開始温度30℃、終了温度330℃、昇温速度10℃/分、加重0.05N(49mN)において、膨張・圧縮モードでの熱機械分析を実施し、60〜120℃における1℃当たりの平均熱膨張量を測定した。
質量減少率(%):JIS−K7120−1987に準拠し、示差熱熱質量同時測定装置(株式会社リガク製 商品名「サーモプラスエボTG8120」)を用い、試験片3mm×3mm×2mm、開始温度40℃、終了温度500℃、昇温速度10℃/分、窒素雰囲気下において、質量を測定し、500℃における質量減少率を下式に基づき算出した。
質量減少率(%)=(D−E)/D×100
Dは開始温度での質量を、Eは500℃での質量を表す。
ここで、本発明における難燃性を、熱分解時の残渣量が多いこと、即ち、質量減少率が低いことと定義する。
長期耐熱性:上記方法にて調製した硬化物について、熱風オーブン中にて空気雰囲気下250℃、360時間で保管し、保管後のガラス転移温度を測定した。ガラス転移温度の減少幅が20%以下のものを合格とし、20%を超えたものを不合格とした。
評価結果を表1に示す。
【0104】
表1からも明らかなように、本発明のフラン環含有フェノールノボラック樹脂のシアン酸エステル化合物は、優れた溶剤溶解性を有し、取扱性にも優れることが確認された。また、本発明のシアン酸エステル化合物を用いた硬化性樹脂組成物の硬化物は、従来品のシアン酸エステル化合物を用いたものに比して、熱膨張率が低く、優れた難燃性及び耐熱性を有することが確認された。
【0105】
【表1】
図1
図2
図3
図4