【文献】
Int. Rev. Cell Mol. Biol., 2011, Vol. 288, pp. 1-41
【文献】
Biochim. Biophys. Res. Commun., 2012, Vol. 418, pp. 191-197
【文献】
Mol. Cells, 2012, Vol. 34, pp. 517-522
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜3のいずれか一項に記載の標的化分子、請求項4に記載の標的化剤、請求項5に記載の担体、および請求項6もしくは7に記載の複合体からなる群から選択される成分を含む、組成物。
星細胞および腫瘍細胞からなる群から選択される標的細胞の活性または増殖を制御する薬物を含む、前記標的細胞の活性または増殖を制御するための、請求項8に記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において別様に定義されない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書中で参照する全ての特許、出願、公開された出願および他の出版物(オンライン情報を含む)は、その全内容を参照により本明細書に援用する。
【0021】
本発明の一側面は、星細胞、筋線維芽細胞、がん随伴線維芽細胞、腫瘍細胞およびSTRA6発現細胞からなる群から選択される標的細胞を標的とする標的化分子であって、該標的化分子が、
(1)RBPの細胞結合領域のアミノ酸配列を含むペプチド、
(2)(1)のペプチドと同等の標的化能を有する該ペプチドの変異ペプチド、
(3)(1)または(2)のペプチドと同等の標的化能を有するペプチド模倣物
からなる群から選択される、前記標的化分子に関する。
【0022】
本明細書において、「標的化分子」は、それに結合した物質の、特定の標的への送達を促進する標的化能を有する分子を意味する。本発明において、標的は、星細胞、筋線維芽細胞、がん随伴線維芽細胞、腫瘍細胞およびSTRA6発現細胞からなる群から選択される標的細胞であり、本発明の標的化分子は、これに結合した物質のこれらの標的細胞への送達を促進する能力、すなわち、標的化能を有する。ここで「送達を促進する」とは、標的化分子が存在しない場合に比べて、物質を迅速かつ/または大量に標的細胞に送達し、かつ/または取り込ませることを意味し、これは、例えば、標識や薬物を付した標的化分子や、標識や薬物を含む組成物に結合した標的化分子を標的細胞の培養物に添加し、所定時間後の標識の存在部位や薬物の効果を、標的化分子が結合していない標識や薬物などを添加した場合と比較することにより容易に確認することができる(例えば、本明細書の例2〜6参照)。標的化分子が存在する場合の標的細胞における標識の量や、薬物の作用が、標的化分子が存在しない場合のものに比べて増大していれば、送達が促進されたことになる。増大の程度としては、限定されずに、例えば、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上、150%以上、200%以上、300%以上などであってよい。また、標的化分子が存在する場合の標的細胞における標識の量や、薬物の作用が、標的化分子が存在しない場合と比べて、統計学的な有意差を伴って増大していることが好ましい。
【0023】
本明細書において、「星細胞」は、典型的にはビタミンA(VA)貯蔵能を有する星状の細胞を指す。この性質のため、「星細胞」は「ビタミンA貯蔵細胞」と呼ばれることもある。星細胞としては、肝臓の肝星細胞(伊東細胞とも呼ばれる)がよく知られているが、肝臓以外にも、膵臓や声帯などにも同様の細胞が存在することが知られており(例えば、Madro et al., Med Sci Monit. 2004 Jul;10(7):RA166-70、Jaster, Mol Cancer. 2004 Oct 06;3(1):26、Fuja et al., Cell Tissue Res. 2005;322(3):417-24など参照)、本発明における星細胞はこれらの細胞を包含する。星細胞は炎症などの刺激により活性化すると、α平滑筋アクチン(αSMA)の発現を特徴とする筋線維芽細胞様の表現型を呈し、増殖するとともに線維症の原因となるコラーゲンを大量に産生するようになることが知られている(例えば、Fallowfield and Iredale, Expert Opin Ther Targets. 2004 Oct;8(5):423-35、上記Madro et al., 2004、上記Jaster, 2004など)。本発明における星細胞は、活性化していない静止(quiescent)星細胞および活性化星細胞の両方を包含する。
【0024】
本明細書において、「筋線維芽細胞」は、αSMAの発現を特徴とする線維芽細胞を指し、各種臓器に出現する。筋線維芽細胞は各種臓器や循環血液中に存在する線維芽細胞などの間葉系細胞から分化し、各種臓器線維症や各種の臓器の再生に関与していると考えられている(例えば、Selman et al., Ann Intern Med. 2001 Jan 16;134(2):136-51など)。筋線維芽細胞は、検出可能に標識された抗α−SMA抗体を用いた免疫染色などによって同定することができる。
【0025】
本明細書において、「がん随伴線維芽細胞(CAF)」は、がん病変の内部および/または周囲に存在する、α−SMA(平滑筋アクチン)陽性の線維芽細胞を意味する(例えば、特許文献2など参照)。CAFは、その近傍に存在するがん細胞の増殖を補助し、がんの進行などに関与していると考えられている。CAFは、がん組織や、がん組織から単離した細胞を、検出可能に標識された抗α−SMA抗体を用いて免疫染色することなどにより同定することができる。
【0026】
CAFは、大腸癌、肺癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、胆管癌、基底細胞癌等、種々のがんについてその存在が確認されている。
本発明では、ある細胞がCAFであるかは次の手法で判定する。すなわち、がん病変の内部および/または周囲に存在する細胞を、CAFのマーカーであるα−SMAに対する標識抗体、例えば、FITC標識抗α−SMA抗体やCy3標識抗α−SMA抗体で免疫染色し、α−SMAが検出されるものが、CAFであると判定する。
【0027】
本発明におけるCAFを伴うがんは特に限定されないが、例えば、脳腫瘍、頭頚部癌、乳癌、肺癌、食道癌、胃癌、十二指腸癌、虫垂癌、大腸癌、直腸癌、肝癌、膵癌、胆嚢癌、胆管癌、肛門癌、腎癌、尿管癌、膀胱癌、前立腺癌、陰茎癌、精巣癌、子宮癌、卵巣癌、外陰癌、膣癌、皮膚癌などの固形癌が挙げられる。また、CAFは、典型的には癌に随伴するものであるが、同様の性質を有する限り、癌以外の悪性固形腫瘍、例えば、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、血管肉腫、カポジ肉腫、リンパ管肉腫、滑膜肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫などの肉腫に随伴するものであってもよく、これらも本発明の範囲に含まれる。
CAFは、上記のがんが存在する各種臓器、例えば、脳、頭頚部、胸部、四肢、肺、心臓、胸腺、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸(結腸、盲腸、虫垂、直腸)、肝臓、膵臓、胆嚢、肛門、腎、尿管、膀胱、前立腺、陰茎、精巣、子宮、卵巣、外陰、膣、皮膚、横紋筋、平滑筋、滑膜、軟骨、骨、甲状腺、副腎、腹膜、腸間膜などに存在し得る。
【0028】
本明細書において「腫瘍」は、良性腫瘍および悪性腫瘍(がん)を含む。本発明において、「がん」は、上皮性悪性腫瘍および非上皮性悪性腫瘍の両方を包含し、例えば、限定されずに、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、血管肉腫、カポジ肉腫、リンパ管肉腫、滑膜肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫などの肉腫、脳腫瘍、頭頚部癌、乳癌、肺癌、食道癌、胃癌、十二指腸癌、虫垂癌、大腸癌、直腸癌、肝癌、膵癌、胆嚢癌、胆管癌、肛門癌、腎癌、尿管癌、膀胱癌、前立腺癌、陰茎癌、精巣癌、子宮癌、卵巣癌、外陰癌、膣癌、皮膚癌などの癌腫、さらには白血病や悪性リンパ腫などを含む。
本発明における腫瘍細胞は、身体の任意の部位、例えば、脳、頭頚部、胸部、四肢、肺、心臓、胸腺、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸(結腸、盲腸、虫垂、直腸)、肝臓、膵臓、胆嚢、肛門、腎、尿管、膀胱、前立腺、陰茎、精巣、子宮、卵巣、外陰、膣、皮膚、横紋筋、平滑筋、滑膜、軟骨、骨、甲状腺、副腎、腹膜、腸間膜、骨髄、血液、血管系、リンパ節等のリンパ系、リンパ液などに存在し得る。
【0029】
本明細書において、「STRA6発現細胞」は、STRA6を細胞表面に発現している細胞を意味する。STRA6(stimulated by retinoic acid 6)は、RBP(retinol binding protein)の高親和性受容体であり、細胞表面に存在する。したがって、RBPの細胞結合領域のアミノ酸配列を含むペプチドをベースとする本発明の標的化分子は、STRA6発現細胞への標的化能を有すると考えられる。STRA6は、RBPが運搬するレチノールを細胞内に取り込む機能を有していると考えられている。STRA6は、がん細胞(例えば、大腸がん細胞)、網膜色素上皮(RPE)細胞、セルトリ細胞、星状細胞などでその発現が確認されている(Sun and Kawaguchi, Int Rev Cell Mol Biol. 2011;288:1-41)。
【0030】
STRA6の遺伝子配列は既知であり(例えば、GenBankアクセッション番号AY359089、AY358748(ヒト)、NM_001029924(ラット)、AF062476(マウス)など)、抗体も開発されているため、STRA6の発現は、既知の核酸またはタンパク質検出手法、例えば、限定されずに、抗STRA6抗体を利用した免疫沈降法、EIA(enzyme immunoassay)(例えば、ELISA(emzyme-linked immunosorbent assay)など)、RIA(radio immuno assay)(例えば、IRMA(immunoradiometric assay)、RAST(radioallergosorbent test)、RIST(radioimmunosorbent test)など)、ウェスタンブロッティング法、免疫組織化学法、免疫細胞化学法、フローサイトメトリー法、STRA6をコードする核酸もしくはそのユニークな断片または該核酸の転写産物(例えば、mRNA)もしくはスプライシング産物に特異的にハイブリダイズする核酸を利用した、種々のハイブリダイゼーション法、ノーザンブロット法、サザンブロット法、種々のPCR法などにより検出することができる。STRA6の発現はタンパク質レベルで検出することが好ましいが、遺伝子レベルの検出で代用することも可能である。したがって、本発明における「STRA6発現細胞」は、STRA6の発現が知られている細胞のみならず、上記のような手法でSTRA6の発現が確認される任意の細胞を含む。
【0031】
一態様において、標的細胞は、星細胞、筋線維芽細胞、がん随伴線維芽細胞および腫瘍細胞からなる群から選択される。特定の態様において、標的細胞は、星細胞、筋線維芽細胞およびがん随伴線維芽細胞からなる群から選択される。さらに特定の態様において、標的細胞は、星細胞および筋線維芽細胞からなる群から選択される。
【0032】
本明細書において、「RBP」は、血中に存在する細胞外タンパク質である血清RBPを指す。RBPは種々の動物種でその存在が確認されている既知のタンパク質であり、その核酸配列およびアミノ酸配列はGenBankなどのデータベースから入手可能である。例えば、ヒトRBPの核酸配列は、GenBankアクセッション番号NM_006744(配列番号1)、アミノ酸配列はGenBankアクセッション番号NP_006735(配列番号2)としてそれぞれ登録されている。しかしながら、生物個体間には、タンパク質の生理学的機能を損なわないアミノ酸配列や遺伝子配列の変異が生じる可能性があるため、本発明におけるRBPもしくはRBP遺伝子は、公知配列と同一の配列を有する核酸やタンパク質に限定されず、同配列に対し1個または2個以上、典型的には1個または数個、例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個または10個の塩基またはアミノ酸が相違する配列を有するものを含み得る。本発明におけるRBPは、任意の動物種のものであってよく、好ましくは脊椎動物、より好ましくは哺乳動物、特に好ましくはヒトのRBPである。
【0033】
本明細書において、「RBPの細胞結合領域」は、本発明における標的細胞への結合に関与するRBPの領域を意味する。
一態様において、RBPの細胞結合領域は、ループ1〜3およびその機能的断片からなる群から選択される。ループ1〜3は、レチノールを収容するRBPのポケットの開口部の周囲に突出しているループ状の構造であり、例えばヒトRBPにおいては、配列番号2のアミノ酸配列の46〜59番目、75〜89番目および107〜121番目のアミノ酸でそれぞれ構成される。ループ1〜3の機能的断片は、ループ1〜3の断片のうち、標的細胞への標的化能を有するものであり、これは例えば、本明細書の例2に記載のように、ループ1〜3の異なる断片を複数作製し、これが標的細胞に対する標的化能を有するか否かを調査することなどにより見出すことができる。例えば、本発明におけるヒトRBPのループ1の機能的断片の特定の態様は、最小機能領域である配列番号6のアミノ酸配列を含む断片である。
【0034】
好ましい態様において、RBPの細胞結合領域は、ループ1、ループ2、および、これらの機能的断片からなる群から選択される。より好ましい態様において、RBPの細胞結合領域は、ループ1およびその機能的断片からなる群から選択される。特定の態様において、ループ1およびループ2はヒトRBPのものであり、例えば、それぞれ配列番号3および4のアミノ酸配列を有する。特定の態様において、ヒトRBPのループ1の機能的断片は、配列番号6〜13から選択されるアミノ酸配列からなる。
【0035】
本明細書において、「RBPの細胞結合領域のアミノ酸配列を含むペプチド」(以下、「細胞結合領域含有ペプチド」と略す場合がある)は、上記のRBPの細胞結合領域のアミノ酸配列を含み、かつ、標的細胞への標的化能を有する任意のペプチドを意味する。したがって、前記ペプチドは、RBPの細胞結合領域のアミノ酸配列のみからなるものばかりでなく、RBPの細胞結合領域のアミノ酸配列のN末端、C末端またはその両方に追加のアミノ酸配列を含むものを含む。追加のアミノ酸配列は、当該ペプチドの標的化能を喪失させない任意のものを含む。追加のアミノ酸配列がペプチドの標的化能を喪失させるか否かは、追加のアミノ酸配列とRBPの細胞結合領域のアミノ酸配列とを含むペプチド、RBPの細胞結合領域のアミノ酸配列のみからなるペプチド、および、RBPの細胞結合領域のアミノ酸配列を含まないペプチドの標的化能の実験的な比較や、追加のアミノ酸配列を含むペプチドの立体構造解析や立体構造予測などにより評価することができる。例えば、追加のアミノ酸配列とRBPの細胞結合領域のアミノ酸配列とを含むペプチドの送達能(すなわち、ペプチドに結合した物質を標的細胞へ送達する能力)が、RBPの細胞結合領域のアミノ酸配列のみからなるペプチドの送達能より低く、かつ、RBPの細胞結合領域のアミノ酸配列を含まないペプチドの送達能と同等かそれ未満である場合、または、立体構造解析や立体構造予測から、追加のアミノ酸配列がRBPの細胞結合領域を隠すことが明らかである場合、追加のアミノ酸配列がペプチドの標的化能を喪失させると評価することができる。
【0036】
細胞結合領域含有ペプチドは、典型的には、10アミノ酸長以上であり、好ましくは10〜50アミノ酸長、より好ましくは10〜30アミノ酸長、さらに好ましくは10〜20アミノ酸長、特に10〜14アミノ酸長である。
【0037】
細胞結合領域含有ペプチドは、当該ペプチドの標的化能を喪失させない範囲で修飾されていてもよい。修飾がペプチドの標的化能を喪失させるか否かは、修飾されていない細胞結合領域含有ペプチド、修飾された細胞結合領域含有ペプチド、および、修飾されていない細胞結合領域非含有ペプチドの標的化能の実験的な比較などにより評価することができる。例えば、修飾された細胞結合領域含有ペプチドの送達能が、修飾されていない細胞結合領域含有ペプチドより低く、かつ、修飾されていない細胞結合領域非含有ペプチドの標的化能と同等かそれ未満である場合、その修飾がペプチドの標的化能を喪失させると評価することができる。修飾は、ペプチドの全てのアミノ酸に対して行われても、一部のアミノ酸に対して行われてもよい。修飾が一部のアミノ酸に対して行われる場合、それは特定の種類のアミノ酸に対して行われても、特定の位置のアミノ酸に対して行われてもよい。修飾がなされるアミノ酸の種類や位置を限定することを意図するものではないが、細胞結合領域含有ペプチドの最小機能領域以外のアミノ酸に対する修飾は、当該ペプチドの標的化能を喪失させない可能性が高いと考えられる。細胞結合領域含有ペプチドに対する修飾の非限定例としては、例えば、ビオチン化、ミリストイル化、オクタノイル化、パルミトイル化、アセチル化、マレイミド化、メチル化、マロニル化、アミド化、エステル化、ファルネシル化、ゲラニル化、リン酸化、硫酸化、パルミトレオイル化、PEG化、各種標識(例えば、本明細書に記載のもの)の付加などが挙げられる。
【0038】
本明細書において、「RBPの細胞結合領域のアミノ酸配列を含むペプチドと同等の標的化能を有する該ペプチドの変異体ペプチド」(以下、「変異体ペプチド」と略す場合がある)は、細胞結合領域含有ペプチド、特にその細胞結合領域に、1個または2個以上(例えば数個)のアミノ酸の変異を有するが、同ペプチドと同等かそれを上回る標的化能を有する任意のペプチドを包含する。変異としては、例えば、アミノ酸の欠失、置換、付加が挙げられ、変異に係るアミノ酸の個数は、変異が細胞結合領域に係る場合は、例えば、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個の範囲であってよい。より具体的には、細胞結合領域の変異に係るアミノ酸の個数は、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個であってよい。変異に係るアミノ酸の個数は、変異が細胞結合領域含有ペプチドの細胞結合領域以外の部分に係るものである場合は、当該部分がペプチドの標的化能を喪失させないかぎり、細胞結合領域の変異に関して上述した個数より多くてもよい。
【0039】
アミノ酸の置換は、保存的置換であってもよい。保存的置換は、当該技術分野において周知の概念であり、ペプチドの機能を実質的に変更しないように、元のアミノ酸を、物理化学的特性が類似した別のアミノ酸に置換することを意味する。アミノ酸の物理化学的特性は、その側鎖によって特徴づけられるため、保存的置換の一例は、元のアミノ酸と同じ群に属する側鎖を有するアミノ酸への置換を含む。アミノ酸は、側鎖の構造や性質により、塩基性側鎖を有する群(リジン、アルギニン、ヒスチジン等)、酸性側鎖を有する群(アスパラギン酸、グルタミン酸等)、非荷電極性側鎖を有する群(アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン等)、非極性側鎖を有する群(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、システイン等)に分類することができる。したがって、保存的置換としては、上記の各群に属するアミノ酸同士の置換が挙げられる。保存的置換の非限定例としては、例えば、リジンとアルギニン、セリンとトレオニン、グルタミン酸とアスパラギン酸、グルタミンとアスパラギン、バリンとロイシンとイソロイシンからなる各群内のアミノ酸同士の置換が挙げられる。
【0040】
変異体ペプチドが細胞結合領域含有ペプチドと同等かそれを上回る標的化能を有するか否かは、例えば、限定されずに、標識や薬物を付した変異体ペプチドもしくは細胞結合領域含有ペプチド、または、標識や薬物を含む組成物に結合した変異体ペプチドもしくは細胞結合領域含有ペプチドを標的細胞の培養物に添加し、変異体ペプチドを添加した標的細胞における所定時間後の標識の存在部位や薬物の効果を、細胞結合領域含有ペプチドを添加した場合と比較することにより容易に確認することができる。変異体ペプチドを添加した場合の標的細胞における標識の量や、薬物の作用が、細胞結合領域含有ペプチドを添加した場合のものに比べて同程度か、増大していれば、変異体ペプチドが細胞結合領域含有ペプチドと同等かそれを上回る標的化能を有することになる。
【0041】
本明細書において、「ペプチド模倣物」は、所定のペプチド(特に、天然に存在するαペプチド)と同等の性質や機能を有する物質、特に、所定のペプチドの側鎖のトポロジーと同等の官能基の空間的配置を模倣し得る物質を意味する。ペプチド模倣物としては、限定されずに、例えば、レトロインベルソ型ペプチドなどが挙げられる。レトロインベルソ型ペプチドは、基準ペプチドのアミノ酸と逆のキラリティを有するアミノ酸(例えば、基準ペプチドのアミノ酸がL体であれば、D体のアミノ酸)を、基準ペプチドのアミノ酸配列と逆の順序に結合させたものであり、基準ペプチドと同様の側鎖のトポロジーを有する。
【0042】
本発明の標的化分子は、ペプチドやペプチド模倣物を製造するための既知の任意の方法、限定されずに、例えば、固相合成法、液相合成法などの化学合成法や、遺伝子工学的合成法などにより製造することができる(例えば、N. Leo Benoiton, Chemistry of Peptide Synthesis, CRC Press, 2005など参照)。
【0043】
本発明の別の側面は、本発明の標的化分子を含む、星細胞、筋線維芽細胞、がん随伴線維芽細胞、腫瘍細胞およびSTRA6発現細胞からなる群から選択される標的細胞を標的化するための標的化剤(または標的化組成物)に関する。
【0044】
本明細書において、「剤」および「組成物」は互換可能に用いられ、複数の成分(例えば、化合物)の混合物を意味する。「剤」および「組成物」は、特定の用途に向けられたものであってもよく、その場合、当該用途に適した成分を適宜含んでもよい。
【0045】
本発明の標的化剤は、これに結合した物質の標的細胞への送達を促進する能力(標的化能)を有する。ここで、標的化能は、本発明の標的化分子について述べたのと同様の能力、すなわち、標的化剤が存在しない場合に比べて、物質を迅速かつ/または大量に標的細胞に送達し、かつ/または取り込ませる能力を意味する。
【0046】
本発明の標的化剤は、本発明の標的化分子に加えて、標的細胞に送達する物質(例えば、薬物、担体、標識など)との相互作用に有用な成分、限定されずに、例えば、リンカーなどを含んでもよい。リンカーとしては、標的化分子と送達物とを結合し得るものであれば特に限定されず、既知の任意のものを使用することができる。本発明の標的化剤が含み得るリンカーの例としては、例えば、Glycine-Glycine-Glycine(トリグリシン)等のペプチドリンカー、グリセロール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール−プロピレングリコール共重合体、ポリビニルアルコール、単糖類、多糖類、ポリエステル、ポリエーテル、ポリ乳酸等の生分解性ポリマー等の非ペプチドリンカーなどが挙げられる。
【0047】
本発明の別の側面は、本発明の標的化分子で標的化された、星細胞、筋線維芽細胞、がん随伴線維芽細胞、腫瘍細胞およびSTRA6発現細胞からなる群から選択される標的細胞に物質を送達する担体に関する。なお、以下では、本発明の標的化分子で標的化された担体を「標的化担体」、本発明の標的化分子で標的化されていない担体を単に「担体」と称して区別することがある。
【0048】
本明細書において、「担体」は、これに担持された1または2以上の物質(例えば、薬物、標識など)を、体の1つの部分から標的細胞または組織への、および/または標的細胞内または組織内への輸送を容易にする物質を意味する。担体は、単一の化合物から構成されても、複数の同種または異種の化合物から構成されてもよい。好ましい態様において、担体は、本発明の標的化分子により標的化され得る、既知の任意のものを含み得る。かかる標的化(すなわち、アクティブターゲティング)が可能な担体としては、限定されずに、例えば、ポリマー担体などの直鎖状または分枝状の線状構造を有する担体や、リポソーム、デンドリマー、ナノ粒子、高分子ミセルなどの粒子状構造を有する担体(粒子状担体)などが挙げられる(例えば、Marcucci and Lefoulon, Drug Discov Today. 2004 Mar 1;9(5):219-28、Torchilin, Eur J Pharm Sci. 2000 Oct;11 Suppl 2:S81-91等)。担体は、カチオン性であっても、非カチオン性(例えば、アニオン性、中性)であってもよい。一態様において、担体はカチオン性である。また、担体は、担持する物質とリポプレックスまたはポリプレックスを形成し得るものであってもよい。リポプレックスは、例えば、カチオン性脂質と陰性電荷を有する物質(例えば、DNAなどの核酸)との間で、ポリプレックスは、例えば、ポリカチオンと陰性電荷を有する物質との間で、それぞれ形成され得る。
【0049】
本発明の担体は、限定されずに、例えば、脂質、ポリマーなどを構成成分としてもよい。
脂質の非限定例としては、グリセロリン脂質などのリン脂質、スフィンゴミエリンなどのスフィンゴ脂質、コレステロールなどのステロール、大豆油、ケシ油などの植物油、鉱油、卵黄レシチンなどのレシチン類などが挙げられる。脂質のより具体的な例としては、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、コレステロールなどのステロール、N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジドデシル−D−グルタメートクロリド(TMAG)、N,N’,N’’,N’’’−テトラメチル−N,N’,N’’,N’’’−テトラパルミチルスペルミン(TMTPS)、2,3−ジオレイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、ジドデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、1,2−ジオレイルオキシ−3−トリメチルアンモニオプロパン(DOTAP)、3β−[N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC−Chol)、1,2−ジミリストイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE)、O,O’−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミンクロリド(DC−6−14)などが挙げられる。脂質はカチオン性脂質であっても、非カチオン性脂質、例えば、アニオン性脂質や中性脂質であってもよい。一態様において、本発明の担体はカチオン性脂質を含む。カチオン性脂質は、負の電荷を有する核酸分子などを細胞内に導入するのに特に有用である。
【0050】
脂質の別の非限定例としては、WO 2012/170952に記載されたカチオン性脂質およびPEG結合脂質(PEG−脂質)、WO 2013/185116に記載されたイオン化可能脂質などが挙げられる。
前記カチオン性脂質は、式I:
【化1】
式中、R
1およびR
2は独立して、C
10〜C
18アルキル、C
12〜C
18アルケニル、およびオレイル基からなる群から選択され、R
3およびR
4は独立して、C
1〜C
6アルキル、およびC
2〜C
6アルカノールからなる群から選択され、Xは、−CH
2−、−S−、および−O−からなる群から選択されるか、または不在であり、Yは、−(CH
2)
n、−S(CH
2)
n、−O(CH
2)
n−、チオフェン、−SO
2(CH
2)
n−、およびエステルから選択され、n=1〜4であり、a=1〜4であり、b=1〜4であり、c=1〜4であり、Zは対イオンである、
で表される化合物である。
【0051】
前記カチオン性脂質の非限定例としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【化2】
【0053】
前記PEG−脂質の非限定例としては、例えば1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−PEG(PEG−DMPE)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−PEG(PEG−DPPE)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−PEG(PEG−DSPE)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−PEG(PEG−DOPE)、PEGセラミドなどが挙げられる。PEGの分子量は特に限定されず、例えば、約550〜約2000、より具体的には、約550、約750、約1000、約1250、約2000等であってよい。PEGの非限定例としては、例えば、PEG550、PEG750、PEG1000、PEG1250、PEG2000等が挙げられる。
【0054】
前記イオン化可能脂質は、式II:
【化4】
式中、nおよびmは、独立して、1、2、3または4であり、R
1およびR
2は、独立して、C
10〜C
18アルキルまたはC
12〜C
18アルケニルであり、Xは、−CH
2−、S、O、Nまたは不在であり、Lは、C
1〜4アルキレン、−S−C
1〜4アルキレン、−O−C
1〜4アルキレン、−O−C(O)−C
1〜4アルキレン、−S(O)
2−C
1〜4アルキレン、
【化5】
または
【化6】
である、
で表される化合物またはその薬学的に許容し得る塩である。
【0055】
前記イオン化可能脂質の非限定例としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【化7】
【0059】
本発明の担体は、1種または2種以上の脂質を含んでいてもよい。一態様において、本発明の担体は、カチオン性脂質とイオン化可能脂質とを含む。特定の態様において、本発明の担体は、カチオン性脂質、イオン化可能脂質およびPEG−脂質を含む。本発明の担体に含まれる脂質の組合せの非限定例としては、例えば、HEDCおよびS104の組合せ、HEDC、S104、DOPE、コレステロールおよびPEG−DMPEの組合せ、DODC、DOPE、コレステロールおよびPEG−脂質の組合せ、HEDODC、DOPE、コレステロールおよびPEG−脂質の組合せ、DC−6−14、DOPEおよびコレステロールの組合せなどが挙げられる。本発明の担体に含まれる脂質の組合せの特定の非限定例としては、例えば、HEDC:S104(1:1のモル比)、HEDC:S104:DOPE:コレステロール:PEG−DMPE(4:4:6:5:1のモル比)、DODC:DOPE:コレステロール:PEG−脂質(25:5:19:1のモル比)、HEDODC:DOPE:コレステロール:PEG−脂質(25:5:19:1のモル比)、DC−6−14:DOPE:コレステロール(4:3:3のモル比)などが挙げられる。
【0060】
ポリマーの非限定例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンイミン(PEI)やポリリジン(例えば、ポリ−L−リジン(PLL))などのカチオン性ポリマー(ポリカチオン)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸−グリコール酸コポリマー(PLGA)などの非カチオン性ポリマーおよび/またはこれらの誘導体をベースとするものが挙げられる。
【0061】
本発明において、「標的化分子で標的化された」とは、標的細胞に誘導すべき物質(例えば、担体、薬物、標識などの送達物)に、標的化分子が、その標的化能を発揮できる様式で相互作用していること(例えば、結合していること)を意味する。標的分子と標的細胞に誘導すべき物質との相互作用の非限定例としては、例えば、共有結合、イオン結合、静電結合、疎水結合、ファンデルワールス力、アビジン−ビオチン結合などの既知の任意の化学結合が挙げられる。標的化分子は、例えば、標的細胞との相互作用が可能なように、標的細胞に誘導すべき物質の外部に、少なくとも標的細胞との相互作用に関与する部分(例えば、RPBのループ1〜3の機能的部分、特に、配列番号6のアミノ酸配列を含むループ2の機能的部分)が露出するような様式で存在してもよい。標的化分子の少なくとも標的細胞との相互作用に関与する部分を担体の外部に露出させる手法としては、例えば、標的化分子と標的に誘導すべき物質とを混合することや、標的化分子を標的に誘導すべき物質に結合させることなどが挙げられる。
【0062】
本発明の標的化担体は、1個または2個以上の標的化分子で標的化されていてもよい。一態様において、本発明の標的化担体は、標的細胞への標的化に有効な量の標的化分子で標的化されている。本発明の標的化担体の標的化に有効な標的化分子の具体的な量(例えば、担体の構成成分に対するモル比など)は、例えば、例2に記載の手法などを用いて、異なる量の標的化分子で標的化された担体の標的化能を調査することなどにより決定することができる。本発明の標的化担体の標的化に有効な標的化分子の量は、限定されずに、例えば、担体の構成成分(複数の構成成分を含む場合は、主成分)に対し、1000:1〜1:1000、100:1〜1:100、50:1〜1:50、40:1〜1:40、30:1〜1:30、25:1〜1:25、20:1〜1:20、10:1〜1:10、8:1〜1:8、6:1〜1:6、5:1〜1:5、4:1〜1:4、3:1〜1:3または2:1〜1:2のモル比であってもよい。
【0063】
本発明の標的化担体に担持される送達物は特に制限されないが、投与部位から標的細胞が存在する部位へ、生物の体内を物理的に移動できるような大きさであることが好ましい。したがって、本発明の標的化担体は、原子、化合物、タンパク質、核酸等の分子はもとより、ベクター、ウイルス粒子、細胞、1以上の要素で構成された薬物放出システム、マイクロマシン等の物体をも運搬することができる。前記送達物は、好ましくは標的細胞に何らかの影響を与える性質を有し、例えば、標的細胞を標識するもの(例えば、標識)や、標的細胞の活性または増殖を制御する(例えば、これを増強または抑制する)もの(例えば、薬物)を含む。
【0064】
本発明の標的化担体における標的化分子による標的化は、担体と標的化分子とを所定の割合で混合することや、担体の構成成分に標的化分子を結合させることなどにより達成することができる。担体への標的化分子の結合方法は、種々のものが知られている(例えば、Torchilin, Nat Rev Drug Discov. 2005 Feb;4(2):145-60、Nobs et al., J Pharm Sci. 2004 Aug;93(8):1980-92、上記Marcucci and Lefoulon, 2004など)。担体の構成成分への標的化分子の結合は、担体を調製した後で行っても、担体を調製する前に所定の構成成分に対して行っても、担体を調製する最中に行ってもよい。また、標的化分子は、担体の構成成分に直接結合させても、リンカーを介して結合させてもよい。
【0065】
本発明の別の側面は、式
X−Y−Z (1)
式中、
Xは、本発明の標的化分子を含む標的化部分であり、
Yは、結合部分であり、
Zは、薬物、標識および担体からなる群から選択される物質を含む機能的部分である、
で表される、複合体に関する。
【0066】
本発明の複合体における標的化部分は、本発明の標的化分子からなっていても、本発明の標的化分子に、結合部分との結合に適合した連結基などが付着したものであってもよい。標的化部分に含まれる本発明の標的化分子は、結合部分との結合に適合するよう、標的化能が損なわれない程度に修飾されていてもよい。所定の物質との化学結合に適合する連結基や修飾は当技術分野においてよく知られている(例えば、上記Torchilin, 2005、上記Nobs et al., 2004、上記Marcucci and Lefoulon, 2004など)。また、標的化部分は、単一の標的化分子を含んでも、複数の標的化分子を含んでもよい。標的化部分が複数の標的化分子を含む場合、標的化分子は同じであっても異なっていてもよい。さらに、標的化部分は、単一の結合部分を介して単一の機能的部分と結合していてもよいが、単一または複数の結合部分を介して複数の機能的部分と結合していてもよい。標的化部分が複数の結合部分および/または機能的部分と結合している場合、当該結合部分および/または機能的部分は同じであっても異なっていてもよい。
【0067】
本発明の複合体における結合部分は、化学結合であっても、リンカーであってもよい。化学結合は、共有結合、イオン結合、静電結合、疎水結合、ファンデルワールス力、アビジン−ビオチン結合などの既知の任意の結合を含む。リンカーは、自身を介して標的化部分と機能的部分を化学結合により結合できる化学的部分である。所定の異なる2つの物質の化学結合に適合するリンカーは当技術分野においてよく知られている。リンカーの非限定例としては、例えば、Glycine-Glycine-Glycine(トリグリシン)等のペプチドリンカー、グリセロール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール−プロピレングリコール共重合体、ポリビニルアルコール、単糖類、多糖類、ポリエステル、ポリエーテル、ポリ乳酸等の生分解性ポリマー等の非ペプチドリンカーなどが挙げられる。
【0068】
結合部分は、単一の標的化部分と結合していても、複数の標的化部分と結合していてもよい。また、結合部分は、単一の機能的部分と結合していても、複数の機能的部分と結合していてもよい。結合部分が複数の標的化部分および/または機能的部分と結合している場合、当該標的化部分または機能的部分は、同じであっても異なっていてもよい。
【0069】
本発明の複合体における機能的部分に含まれる薬物は特に限定されず、標的細胞と関連する任意のものを含む。かかる薬物は、標的細胞自体と相互作用するものであっても、標的細胞の周囲環境、例えば、標的細胞の周囲に存在する非標的細胞や、細胞間物質(例えば、細胞外マトリックス)と相互作用するものであってもよい。一態様において、薬物は、標的細胞の活性または増殖を制御する(例えば、抑制、維持または促進する)ものである。特定の態様において、薬物は、標的細胞の活性または増殖を抑制するものである。かかる薬物の特定の具体例としては、限定されずに、TGFβ(Transforming growth factor-beta)阻害物質、HGF(Hepatocyte growth factor)またはその産生促進物質、PPARγ(Peroxisome proliferator-activated receptor gamma)リガンド、アンジオテンシン阻害物質、PDGF(Platelet-derived growth factor)阻害物質、リラキシンまたはその産生促進物質、細胞外マトリックス成分の産生および/または分泌を阻害する物質、細胞活性抑制物質、細胞増殖抑制物質、アポトーシス誘導物質、コラーゲン分解促進物質、コラーゲン分解促進物質の阻害物質、PAI−1(Plasminogen activator inhibitor-1)阻害物質、α1アンチトリプシン阻害物質、アンギオテンシノーゲン阻害物質などが挙げられる。
【0070】
TGFβ阻害物質としては、限定することなく、例えば、切断型TGFβII型受容体(Qi et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1999;96(5):2345-9)、可溶性TGFβII型受容体(George et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1999;96(22):12719-24)、抗TGFβ抗体などのTGFβ活性阻害物質や、TGFβに対するRNAi(RNA interference)分子、リボザイム、アンチセンス核酸などのTGFβ産生阻害物質、これらを発現するベクターなどが挙げられる。一態様において、TGFβ阻害物質は、TGFβ1の活性および/または産生を阻害する。
【0071】
HGFまたはリラキシンの産生促進物質としては、限定することなく、例えば、HGFまたはリラキシンをコードする核酸、これを含む発現構築物、これらを含む発現ベクターなどが挙げられる。
【0072】
PPARγリガンドとしては、限定することなく、例えば、15−デオキシ−Δ12,14−プロスタグランジンJ2、ニトロリノール酸、酸化LDL(Low density lipoprotein)、長鎖脂肪酸、エイコサノイドといった内因性リガンドや、トログリタゾン、ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、バラグリタゾン、リボグリタゾン等のチアゾリジンジオン系薬剤、非ステロイド性抗炎症薬といった外因性リガンドなどが挙げられる。
【0073】
アンジオテンシン阻害物質としては、限定することなく、例えば、テルミサルタン、ロサルタン、バルサルタン、カンデサルタンシレキセチル、オルメサルタンメドキソミル、イルベサルタン等のアンジオテンシン受容体拮抗物質等が挙げられる。アンジオテンシンには、アンジオテンシンI、II、IIIおよびIVが含まれる。また、アンジオテンシン受容体としては、限定することなく、例えば、アンジオテンシン1型受容体(AT1)等が挙げられる。
【0074】
PDGF阻害物質としては、限定することなく、例えば、抗PDGF抗体などのPDGF活性阻害物質や、PDGFに対するRNAi分子、リボザイム、アンチセンス核酸などのPDGF産生阻害物質、これらを発現するベクターなどが挙げられる。
【0075】
細胞外マトリックス成分の産生および/または分泌を阻害する物質としては、限定することなく、例えば、コラーゲン、プロテオグリカン、テネイシン、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、オステオポンチン、オステオネクチン、エラスチン等の細胞外マトリックス成分の発現を抑制する、RNAi分子、リボザイム、アンチセンス核酸などの物質、もしくはドミナントネガティブ変異体等のドミナントネガティブ効果を有する物質、これらを発現するベクターなどが挙げられる。コラーゲンの産生・分泌を阻害する薬物としては、限定されずに、例えば、様々なタイプのコラーゲンの合成過程で共通する細胞内輸送および分子成熟化に必須のコラーゲン特異的分子シャペロンであるHSP(Heat shock protein)47の阻害物質、例えば、HSP47に対するRNAi分子(例えば、WO 2011/072082に記載のsiRNA分子など)、リボザイム、アンチセンス核酸などのHSP47発現阻害物質、もしくはHSP47のドミナントネガティブ変異体等のドミナントネガティブ効果を有する物質、これらを発現するベクターなどが挙げられる。
【0076】
細胞増殖抑制物質としては、限定することなく、例えば、アルキル化剤(例えば、イホスファミド、ニムスチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、メルファラン、ラニムスチン等)、抗腫瘍性抗生物質(例えば、イダルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ミトキサントロン、マイトマイシンC等)、代謝拮抗剤(例えば、ゲムシタビン、エノシタビン、シタラビン、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトプリン等)、エトポシド、イリノテカン、ビノレルビン、ドセタキセル、パクリタキセル、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチン等のアルカロイド、およびカルボプラチン、シスプラチン、ネダプラチン等の白金錯体、ロバスタチン、シムバスタチン等のスタチンなどが挙げられる。
【0077】
細胞活性抑制物質としては、限定することなく、例えば、アミロライドなどのナトリウムチャンネル阻害物質などが挙げられる。
【0078】
アポトーシス誘導剤としては、限定することなく、例えば、compound 861、グリオトキシン、アトルバスタチンなどが挙げられる。
【0079】
コラーゲン分解促進物質としては、限定することなく、例えば、種々のコラゲナーゼまたはその産生促進物質等が挙げられる。コラゲナーゼの例としては、限定されずに、例えば、MMP(Matrix metalloproteinase)1、2、3、9、13、14等のMMPファミリー等が挙げられる。コラゲナーゼの産生促進物質としては、限定することなく、例えば、コラゲナーゼをコードする核酸、これを含む発現構築物、これらを含む発現ベクターなどが挙げられる。
【0080】
コラーゲン分解促進物質の阻害物質としては、限定することなく、例えば、TIMP(Tissue inhibitor of metalloproteinase、TIMP1およびTIMP2など)が挙げられる。したがって、同物質を阻害する物質としては、限定することなく、例えば、TIMPに対する抗体などのTIMP活性阻害物質、TIMPに対するRNAi分子(例えば、WO 2012/044620に記載のsiRNA分子など)、リボザイム、アンチセンス核酸などのTIMP産生阻害物質、これらを発現するベクターなどが挙げられる。
【0081】
PAI−1阻害物質としては、限定することなく、例えば、PAI−1に対する抗体などのPAI−1活性阻害物質、PAI−1に対するRNAi分子、リボザイム、アンチセンス核酸などのPAI−1産生阻害物質、これらを発現するベクターなどが挙げられる。
【0082】
α1アンチトリプシン阻害物質としては、限定することなく、例えば、α1アンチトリプシンに対する抗体などのPAI−1活性阻害物質、α1アンチトリプシンに対するRNAi分子、リボザイム、アンチセンス核酸などのα1アンチトリプシン産生阻害物質、これらを発現するベクターなどが挙げられる。
【0083】
アンギオテンシノーゲン阻害物質としては、限定することなく、例えば、アンギオテンシノーゲンに対する抗体などのアンギオテンシノーゲン活性阻害物質、アンギオテンシノーゲンに対するRNAi分子、リボザイム、アンチセンス核酸などのアンギオテンシノーゲン産生阻害物質、これらを発現するベクターなどが挙げられる。
【0084】
本明細書において、RNAi分子は、RNAi活性を有する任意の分子を意味し、例えば、限定されずに、siRNA(small interfering RNA)、miRNA(micro RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、ddRNA(DNA-directed RNA)、piRNA(Piwi-interacting RNA)、rasiRNA(repeat associated siRNA)などのRNAおよびこれらの改変体を包含する。また、本明細書における核酸は、RNA、DNA、PNA、またはこれらの複合物を含む。
【0085】
本明細書において、標識は、それ自体、またはそれが付されたものを直接的または間接的に検出せしめることができる任意の物質を指す。標識は、当業者に公知な任意のもの、例えば、気体もしくは生理条件下で気体を発生する物質、任意の放射性同位体、磁性体、核磁気共鳴する元素(例えば、水素、リン、ナトリウム、フッ素等)、核磁気共鳴する元素の緩和時間に影響を与える物質(例えば、金属原子もしくはこれを含む化合物)、標識化物質に結合する物質(例えば抗体)、蛍光物質、フルオロフォア、化学発光物質、酵素、ビオチンもしくはその誘導体、アビジンもしくはその誘導体などから選択することができる。
【0086】
本明細書において、標識は検出可能なものであってよく、これには、既存の任意の検出手段により検出し得る任意の標識が含まれる。検出手法としては、限定されることなく、例えば、肉眼、光学検査装置(例えば、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、位相差顕微鏡、in vivoイメージング装置など)、X線装置(例えば、単純X線装置、CT(コンピュータ断層撮影)装置など)、MRI(磁気共鳴イメージング)装置、核医学検査装置(シンチグラフ装置、PET(positron emission tomography)装置、SPECT(single photon emission computed tomography)装置など)、超音波検査装置およびサーモグラフィー装置によるものなどが挙げられる。各検出手法に適した標識は当業者に知られており、例えば、Lecchi et al., Q J Nucl Med Mol Imaging. 2007;51(2):111-26などに記載されている。
【0087】
肉眼および光学検査装置での検出に適した標識としては、例えば、種々の蛍光標識および発光標識が挙げられる。
【0088】
具体的な蛍光標識としては、限定されることなく、例えば、Cy
TMシリーズ(例えば、Cy
TM2、3、5、5.5、7など)、DyLight
TMシリーズ(例えば、DyLight
TM 405、488、549、594、633、649、680、750、800など)、Alexa Fluor
(R)シリーズ(例えば、Alexa Fluor
(R) 405、488、549、594、633、647、680、750など)、HiLyte Fluor
TMシリーズ(例えば、HiLyte Fluor
TM 488、555、647、680、750など)、ATTOシリーズ(例えば、ATTO488、550、633、647N、655、740など)、FAM、FITC、テキサスレッド、GFP、RFP、Qdotなどを用いることができる。in vivoイメージングに適した蛍光標識としては、例えば、生体透過性が高く、自家蛍光の影響を受けにくい波長、例えば、近赤外波長の蛍光を発するものや、蛍光強度の強いものが挙げられる。かかる蛍光標識としては、限定することなく、例えば、Cy
TMシリーズ、DyLight
TMシリーズ、Alexa Fluor
(R)シリーズ、HiLyte Fluor
TMシリーズ、ATTOシリーズ、テキサスレッド、GFP、RFP、Qdotおよびこれらの誘導体などが挙げられる。
【0089】
具体的な発光標識としては、限定されることなく、例えば、ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン、イクオリンなどを用いることができる。
【0090】
X線装置での検出に適した標識としては、例えば、種々の造影剤が挙げられる。具体的な造影剤としては、限定されることなく、例えば、ヨウ素原子、ヨウ素イオン、ヨウ素含有化合物などを用いることができる。
【0091】
MRI装置での検出に適した標識としては、例えば、核磁気共鳴する元素や核磁気共鳴する元素の緩和時間に影響を与える物質などが挙げられる。核磁気共鳴する元素には、例えば、水素、リン、ナトリウム、フッ素等が含まれる。核磁気共鳴する元素の緩和時間に影響を与える物質としては、限定されずに、種々の金属原子や1種または2種以上の該金属原子を含む化合物、例えば1種または2種以上の該金属原子の錯体などが挙げられる。具体的には、限定されることなく、例えば、ガドリニウム(III)(Gd(III))、イットリウム−88(
88Y)、インジウム−111(
111In)、およびこれらと、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−四酢酸(DOTA)、(1,2−エタンジイルジニトリロ)四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン、2,2’−ビピリジン(bipy)、1,10−フェナントロリン(phen)、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(DPPE)、2,4−ペンタンジオン(acac)、シュウ酸塩(ox)などの配位子との錯体、超常磁性酸化鉄(SPIO)、酸化マンガン(MnO)などを用いることができる。
【0092】
核医学検査装置での検出に適した標識としては、例えば、種々の放射性同位体や1種または2種以上の該放射性同位体を含む化合物、例えば1種または2種以上の該放射性同位体の錯体などが挙げられる。放射性同位体としては、限定されることなく、例えば、テクネチウム−99m(
99mTc)、インジウム−111(
111In)、ヨウ素−123(
123I)、ヨウ素−124(
124I)、ヨウ素−125(
125I)、ヨウ素−131(
131I)、タリウム−201(
201Tl)、炭素−11(
11C)、窒素−13(
13N)、酸素−15(
15O)、フッ素−18(
18F)、銅−64(
64Cu)、ガリウム−67(
67Ga)、クリプトン−81m(
81mKr)、キセノン−133(
133Xe)、ストロンチウム−89(
89Sr)、イットリウム−90(
90Y)などを用いることができる。また、放射性同位体を含む化合物としては、限定されることなく、例えば、
123I−IMP、
99mTc−HMPAO、
99mTc−ECD、
99mTc−MDP、
99mTc−テトロフォスミン、
99mTc−MIBI、
99mTcO
4−、
99mTc−MAA、
99mTc−MAG3、
99mTc−DTPA、
99mTc−DMSA、
18F−FDGなどが挙げられる。
【0093】
超音波検査装置での検出に適した標識としては、限定されることなく、例えば、生体許容性の気体もしくは生理条件下で気体を発生する物質、脂肪酸、または、これらの物質を含む物質が挙げられる。気体としては、限定されずに、例えば、空気、希ガス、窒素、N
2O、酸素、二酸化炭素、水素、不活性希ガス(例えば、ヘリウム、アルゴン、キセノンまたはクリプトン)、フッ化硫黄(例えば、六フッ化硫黄、十フッ化二硫黄、トリフルオロメチル硫黄ペンタフルオリド)、六フッ化セレニウム、ハロゲン化シラン(例えば、テトラメチルシラン)、低分子炭化水素(例えば、C
1〜7アルカン(メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン等)、シクロアルカン(シクロブタン、シクロペンタン等)、アルケン(エチレン、プロペン、ブテン等)など)、フッ素含有ガス、アンモニアなど、生理条件下で気体を発生する物質としては、限定されずに、例えば、ドデカフルオロペンタン(DDFP)、生理条件下で気化するパーフルオロカーボン(特開2010-138137)などが、上記物質を含む物質としては、上記物質を含むナノ粒子、リポソームなどが挙げられる。フッ素含有ガスとしては、限定されずに、例えば、ハロゲン化炭化水素ガス(例えばブロモクロロジフルオロメタン、クロロジフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、ブロモトリフルオロメタン、クロロトリフルオロメタン、クロロペンタフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン、パーフルオロカーボン)、フッ素化ケトン(例えば、パーフルオロアセトン等)、フッ素化エーテル(例えば、パーフルオロジエチルエーテル等)などが挙げられる。
【0094】
パーフルオロカーボンとしては、限定されずに、例えばパーフルオロアルカン(例えば、パーフルオロメタン、パーフルオロエタン、パーフルオロプロパン、パーフルオロブタン、パーフルオロ−n−ブタン、パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタン等)、パーフルオロアルケン(例えば、パーフルオロプロペン、パーフルオロブテン(例えば、パーフルオロブト−2−エン等)、パーフルオロブタジエン等)、パーフルオロアルキン(例えば、パーフルオロブト−2−イン等)、パーフルオロシクロアルカン(例えば、パーフルオロシクロブタン、パーフルオロメチルシクロブタン、パーフルオロジメチルシクロブタン、パーフルオロトリメチルシクロブタン、パーフルオロシクロペンタン、パーフルオロメチルシクロペンタン、パーフルオロジメチルシクロペンタン、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロシクロヘプタン等)などが挙げられる。
【0095】
超音波検査装置での検出に適した標識として、既に市販されているものを利用することもできる。市販されている超音波検査用標識としては、限定されずに、例えば、第1世代のAlbunex(Mallinckrodt)、Echovist(SHU 454、Schering)、Levovist(SHU 508、Schering)、Myomap(Quadrant)、Quantison(Quadrant)、Sonavist(Schering)、Sonazoid(GE Healthcare)など、第2世代のDefinity/luminity(Bristol-Myers Squibb Medical Imaging)、Imagent-imavist(Alliance)、Optison(GE Healthcare)、biSphere/cardiosphere(POINT Biomedical)、SonoVue (BR1, Bracco)、AI700/imagify(Acusphere)など、第3世代のEchogen(Sonus Pharmaceuticals)などが挙げられる(Reddy et al., World J Gastroenterol. 2011 Jan 7;17(1):42-8)。また、超音波検査装置での検出に適した標識は、上記のほか、特開平5-194278、特開平8-310971、特開平8-151335、特開2002-308802、WO 2004/069284、WO 2005/120587などにも記載されている。
【0096】
本発明の複合体の機能的部分に含まれる標識は特に限定されず、上述の任意の標識から選択することができる。また、本発明の複合体の機能的部分に含まれる薬物は、上述の任意の標識により標識されていてもよい。本発明の複合体の機能的部分に含まれる担体も特に限定されず、上述の任意の担体から選択することができる。当該担体は、上述の1または2以上の薬物および/または標識を担持していてもよい。
【0097】
本発明の複合体の機能的部分に含まれる薬物、標識および/または担体は、結合部分との結合に適合するよう、その機能が損なわれない程度に修飾されていてもよい。所定の物質との化学結合に適合する修飾は当技術分野においてよく知られている。かかる修飾の非限定例としては、例えば、ジスルフィド結合を形成するための修飾(例えば、チオール化等)、クリックケミストリーのための修飾(例えば、アジド化、アルキン化等)、アビジン−ビオチン結合を形成するための修飾(例えば、アビジン化、ビオチン化等)などが挙げられる。
【0098】
機能的部分は、単一の標識、薬物または担体を含んでも、複数の標識、薬物もしくは担体またはこれらの組み合わせを含んでもよい。機能的部分が複数の標識、薬物または担体を含む場合、これらは同じであっても異なっていてもよい。また、機能的部分には、単一の結合部分を介して単一の標的化部分が結合していてもよいが、単一のまたは複数の結合部分を介して、複数の標的化部分が結合していてもよい。機能的部分が複数の結合部分および/または標的化部分と結合している場合、該結合部分および/または標的化部分は同じであっても異なっていてもよい。
【0099】
一態様において、本発明の複合体は化合物の形態を有する。化合物の形態を有する本発明の複合体の非限定例としては、例えば、標的化分子が、リンカーを介して(または介さずに)、標識化合物もしくは治療化合物、または標識化合物および/もしくは治療化合物が結合した担体化合物(例えばポリマー)に結合したものなどが挙げられる。別の態様において、本発明の複合体は組成物の形態を有する。組成物の形態を有する本発明の複合体の非限定例としては、例えば、標的化分子が、リンカーを介して(または介さずに)、標識化合物または治療化合物が結合した担体組成物(例えばリポソーム)に結合したものなどが挙げられる。
【0100】
本発明の別の側面は、本発明の標的化分子、標的化剤、標的化担体および複合体からなる群から選択される成分を含む組成物に関する。本発明の組成物は、本発明の標的化分子、標的化剤、標的化担体および/または複合体のほか、追加の成分、例えば、その用途に適した成分(例えば、薬物などの活性成分や、標識、賦形剤などの添加剤等)を含むことができる。本発明の組成物は、疾患の処置に用いる医薬組成物であってもよい。本発明の医薬組成物は、1または2以上の薬学的に許容し得る添加物(例えば、界面活性剤、担体、希釈剤、賦形剤など)を含んでもよい。薬学的に許容し得る添加物は医薬分野でよく知られており、例えば、その全体を本明細書に援用するRemington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed., Mack Publishing Co., Easton, PA (1990)などに記載されている。
【0101】
本発明の複合体および組成物は、星細胞、筋線維芽細胞、がん随伴線維芽細胞、腫瘍細胞、およびSTRA6発現細胞からなる群から選択される標的細胞またはその近傍に薬物などを特異的に送達することができるため、当該標的細胞に関連する疾患、例えば、線維症や腫瘍性疾患の処置に用いることができる。かかる用途に用いる場合、本発明の複合体および組成物は当該疾患を処置する薬物、例えば、標的細胞の活性または増殖を抑制する薬物を含む。かかる用途に用いる本発明の複合体および組成物を、処置用化合物または処置剤(もしくは処置用組成物)と呼ぶ場合もある。
【0102】
本明細書において、「処置」は、疾患の治癒、一時的寛解または予防などを目的とする医学的に許容される全ての種類の予防的および/または治療的介入を包含するものとする。例えば、本明細書における「処置」は、標的細胞に関連する疾患の進行の遅延または停止、病変の退縮または消失、当該疾患発症の予防または再発の防止などを含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。
【0103】
したがって、本発明の処置用化合物または処置剤には、標的細胞に関連する疾患を治療するための治療用化合物または治療剤(もしくは治療用組成物)、および標的細胞に関連する疾患を予防するための予防用化合物または予防剤(もしくは予防用組成物)が含まれる。
【0104】
星細胞に関連する疾患としては、限定されずに、例えば、肝線維症、肝硬変、膵線維症、声帯瘢痕形成、声帯粘膜線維症、喉頭の線維化などの線維症が挙げられる(特許文献1参照)。
【0105】
筋線維芽細胞に関連する疾患としては、限定されずに、例えば、肝線維症、肝硬変、声帯瘢痕形成、声帯粘膜線維症、喉頭の線維化、肺線維症、膵線維症、骨髄線維症、心筋梗塞、心筋梗塞後の心筋の線維化、心筋線維症、心内膜心筋線維症、脾線維症、縦隔線維症、舌粘膜下線維症、腸管線維化(例えば、炎症性腸疾患に伴うものなど)、後腹膜線維症、子宮線維症、強皮症、乳腺線維症等の各種臓器線維症が挙げられる。
【0106】
がん随伴線維芽細胞に関連する疾患としては、限定されずに、例えば、脳腫瘍、頭頚部癌、乳癌、肺癌、食道癌、胃癌、十二指腸癌、虫垂癌、大腸癌、直腸癌、肝癌、膵癌、胆嚢癌、胆管癌、肛門癌、腎癌、尿管癌、膀胱癌、前立腺癌、陰茎癌、精巣癌、子宮癌、卵巣癌、外陰癌、膣癌、皮膚癌、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、血管肉腫、カポジ肉腫、リンパ管肉腫、滑膜肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫などの固形がんが挙げられる。
【0107】
腫瘍細胞に関連する疾患としては、限定されずに、例えば、身体の任意の部位、例えば、脳、頭頚部、胸部、四肢、肺、心臓、胸腺、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸(結腸、盲腸、虫垂、直腸)、肝臓、膵臓、胆嚢、肛門、腎、尿管、膀胱、前立腺、陰茎、精巣、子宮、卵巣、外陰、膣、皮膚、横紋筋、平滑筋、滑膜、軟骨、骨、甲状腺、副腎、腹膜、腸間膜、骨髄、血液、血管系、リンパ節等のリンパ系などにおける任意の良性腫瘍および悪性腫瘍などの腫瘍性疾患が挙げられる。悪性腫瘍の非限定例としては、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、血管肉腫、カポジ肉腫、リンパ管肉腫、滑膜肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫などの肉腫、脳腫瘍、頭頚部癌、乳癌、肺癌、食道癌、胃癌、十二指腸癌、虫垂癌、大腸癌、直腸癌、肝癌、膵癌、胆嚢癌、胆管癌、肛門癌、腎癌、尿管癌、膀胱癌、前立腺癌、陰茎癌、精巣癌、子宮癌、卵巣癌、外陰癌、膣癌、皮膚癌などの癌腫、さらには白血病や悪性リンパ腫などが挙げられる。
【0108】
STRA6発現細胞に関連する疾患としては、上記の腫瘍細胞に関連する疾患のほか、RPE細胞、セルトリ細胞、星状細胞からなる群から選択される細胞に関連する疾患、例えば、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症、セルトリ細胞腫、星状細胞腫などが挙げられる。
【0109】
本発明の複合体および組成物は、星細胞、筋線維芽細胞、がん随伴線維芽細胞、腫瘍細胞、およびSTRA6発現細胞からなる群から選択される標的細胞の活性または増殖を制御する(例えば、抑制、維持または促進する)ためのものであってもよく、その場合、標的細胞の活性または増殖を抑制する薬物を含む。
【0110】
本発明の標的化分子、標的化剤、標的化担体、複合体および組成物は、星細胞、筋線維芽細胞、がん随伴線維芽細胞、腫瘍細胞、およびSTRA6発現細胞からなる群から選択される標的細胞に物質を送達するためのものであってもよい。送達される物質は特に限定されずに、例えば、上述の本発明の標的化担体が担持し得る送達物や、本発明の複合体の機能的部分に含まれる上述の薬物や本明細書に記載の標識などを含む。物質の送達は、in vitroまたはin vivoでなされてもよい。
【0111】
本発明の複合体および組成物は、星細胞、筋線維芽細胞、がん随伴線維芽細胞、腫瘍細胞、およびSTRA6発現細胞からなる群から選択される標的細胞に標識を送達することができるため、当該標的細胞またはこれを含む組織を標識するために用いることができる。かかる用途に用いる本発明の複合体および組成物を、標識用化合物または標識剤(もしくは標識用組成物)と呼ぶ場合もある。本発明の標識用化合物または標識剤は標識を含む。標識の非限定例は、上記に示したものを含む。本発明の標識用化合物または標識剤は、上記標的細胞またはこれを含む組織の検出またはイメージングに用いることができる。かかる用途に用いる本発明の標識剤を、特に検出用化合物または検出剤(もしくは検出用組成物)、またはイメージング用化合物またはイメージング剤(もしくはイメージング用組成物)と呼ぶ場合がある。
【0112】
細胞または組織の標識、検出またはイメージングは、in vitroまたはin vivoでなされてもよい。また、細胞または組織の検出またはイメージングは、非破壊的に、好ましくは非侵襲的になされてもよい。ここで、「非破壊的に」とは、検出またはイメージングの対象となる組織を破壊しないことを意味し、例えば、対象となる組織が肝臓であれば、開腹して肝臓を露出することや、内視鏡により肝臓表面の画像を得ることなどは含むが、肝臓を切開してその内部を探索することまでは含まない。また、「非侵襲的に」とは、生体を意図的に傷つけることなく、検出剤またはイメージング剤に含まれる標識を検出することを意味し、典型的には生体外からの検出を含むが、口腔、鼻腔、肛門、尿道、耳道、膣などの天然の開口部から内視鏡や超音波プローブなどの検出器を挿入して検出することも含む。
【0113】
本発明の標識用化合物または標識剤は、標的細胞に関連する疾患の検査または診断のために用いることができる。例えば、星細胞や筋線維芽細胞は、線維症の病巣において増殖することが知られているところ、ある組織で検出される標識の量が多ければ、そこに星細胞や筋線維芽細胞が多数存在していることとなり、当該組織が線維症に侵されていることの指標となる(例えば、特許文献7参照)。また、がん随伴線維芽細胞や腫瘍細胞は、がん組織や腫瘍組織に局在しているため、対象の身体の特定の部位に多くの標識が検出されれば、当該部位にがんや腫瘍が存在することの指標となる。かかる用途に用いる本発明の標識用化合物または標識剤を、特に検査用化合物または検査剤(もしくは検査用組成物)、または診断用化合物または診断剤(もしくは診断用組成物)と呼ぶ場合がある。ここで、疾患の検査は、例えば、測定した指標(例えば、標識剤からのシグナルの強度)を所定の基準(例えば、所定のカットオフ値)と比較し、これに基づいて疾患に関連する検査結果(例えば、陽性または陰性の検査結果)を提示することなどを含むが、疾患を特定することまでは含まない。したがって、疾患の検査は、医師の判断を必要としない。一方、疾患の診断は、医師が様々な情報をもとに疾患を特定することを含む。
【0114】
本発明の標識用化合物または標識剤はまた、標的細胞に関連する疾患のモニタリングのために用いることができる。かかる用途に用いる本発明の標識用化合物または標識剤を、特にモニタリング用化合物またはモニタリング剤(もしくはモニタリング用組成物)と呼ぶ場合がある。ここで、疾患のモニタリングは、特定の対象における疾患の推移、例えば、疾患の緩和、増悪、持続などを、経時的にモニターすることを意味する。
【0115】
本発明の検出用化合物、検出剤、イメージング用化合物およびイメージング剤は、標的細胞が特定の疾患において特徴的な挙動を示す場合、例えば、限定されずに、標的細胞が特定の疾患において異常に増殖するような場合、当該疾患の検査、診断またはモニタリングに用いることもできる。かかる特定の疾患は、標的細胞に関連する疾患を含む。したがって、本発明の検出用化合物、検出剤、イメージング用化合物およびイメージング剤が、本発明の検査用化合物、検査剤、診断用化合物、診断剤、モニタリング用化合物またはモニタリング剤の一態様となることがある。
【0116】
本発明の標識用化合物または標識剤はまた、標的細胞に関連する疾患に対する処置の効果を評価するために用いることができる。かかる用途に用いる本発明の標識用化合物または標識剤を、特に評価用化合物または評価剤(もしくは評価用組成物)と呼ぶ場合がある。
【0117】
本発明の複合体および組成物は、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、限定することなく、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、直腸、動脈内、門脈内、心室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内、肺内および子宮内等の経路で投与してもよく、各投与経路に適した剤形に製剤してもよい。かかる剤形および製剤方法は任意の公知のものを適宜採用することができる(例えば、標準薬剤学、渡辺喜照ら編、南江堂、2003年、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed., Mack Publishing Co., Easton, PA (1990)などを参照)。
【0118】
例えば、経口投与に適した剤形としては、限定することなく、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、シロップ剤などが挙げられ、また非経口投与に適した剤形としては、溶液性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、用時調製型注射剤などの注射剤が挙げられる。非経口投与用製剤は、水性または非水性の等張性無菌溶液または懸濁液の形態であることができる。
【0119】
本発明の複合体および組成物は、いずれの形態で供給されてもよいが、保存安定性の観点から、用時調製可能な形態、例えば、医療の現場あるいはその近傍において、医師および/または薬剤師、看護士、もしくはその他のパラメディカルなどによって調製され得る形態で提供されてもよい。この場合、本発明の複合体および組成物は、これらに必須の構成要素の少なくとも1つを含む1個または2個以上の容器として提供され、使用の前、例えば、24時間前以内、好ましくは3時間前以内、そしてより好ましくは使用の直前に調製される。調製に際しては、調製する場所において通常入手可能な試薬、溶媒、調剤器具などを適宜使用することができる。
【0120】
本発明のさらなる側面は、本発明の標的化担体、複合体もしくは組成物、またはその構成要素を含む、本発明の標的化担体、複合体および組成物を調製するための、標的細胞に物質を送達するための、標的細胞の活性または増殖を制御するための、標的細胞に関連する疾患を処置、検査、診断またはモニタリングするための、標的細胞またはそれを含む組織を標識、検出またはイメージングするための、標的細胞に関連する疾患に対する処置の効果を評価するためのキットまたはパック、ならびに、そのようなキットまたはパックの形で提供される本発明の標的化担体、複合体もしくは組成物、またはその必要構成要素にも関する。
【0121】
本発明のキットまたはパックに含まれる、本発明の標的化担体、複合体または組成物の各構成要素は、本発明の標的化担体、複合体または組成物について上記したとおりである。本キットは、上記のほか、本発明の標的化担体、複合体または組成物の調製方法や使用方法(例えば、投与方法等)などに関する指示、例えば、使用説明書や、使用方法に関する情報を記録した媒体、例えば、フレキシブルディスク、CD、DVD、ブルーレイディスク、メモリーカード、USBメモリーなどをさらに含んでいてもよい。また、本発明のキットまたはパックは、本発明の標的化担体、複合体または組成物を完成するための構成要素の全てを含んでいてもよいが、必ずしも全ての構成要素を含んでいなくてもよい。したがって、本発明のキットまたはパックは、医療現場や、実験施設などで通常入手可能な試薬や溶媒、例えば、無菌水や、生理食塩水、ブドウ糖溶液などを含んでいなくてもよい。
【0122】
本発明の別の側面は、星細胞、筋線維芽細胞、がん随伴線維芽細胞、腫瘍細胞、およびSTRA6発現細胞からなる群から選択される標的細胞の活性または増殖を制御するための方法であって、該方法が、前記標的細胞の活性または増殖を制御する薬物を含む有効量の本発明の複合体または組成物を、それを必要とする対象、または細胞もしくは組織に投与する工程を含む、前記方法に関する。ここで、標的細胞の活性または増殖の制御は、当該活性または増殖の抑制、維持または促進を含む。したがって、上記方法における有効量とは、例えば、標的細胞の活性または増殖を抑制、維持または促進させ得る量である。標的細胞の活性または増殖の維持は、標的細胞の活性または増殖が経時的に抑制または促進される状態において、当該活性または増殖を初期の状態に維持することを含む。本発明の複合体または組成物を投与する細胞もしくは組織は、典型的には標的細胞を含み、生体内に存在しても、生体外に存在してもよい。したがって、本発明の複合体または組成物を細胞もしくは組織に投与する工程を含む前記方法は、in vitro、ex vivoまたはin vivoでなされるものを含む。
【0123】
本発明の別の側面は、星細胞、筋線維芽細胞、がん随伴線維芽細胞、腫瘍細胞、およびSTRA6発現細胞からなる群から選択される標的細胞に関連する疾患を処置する方法であって、該方法が、前記疾患を処置する薬物を含む有効量の本発明の複合体または組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、前記方法に関する。ここで、有効量とは、例えば、当該疾患の発症および再発を予防し、または当該疾患を治癒する量である。標的細胞に関連する疾患およびこれを処置する薬物は、本発明の処置用化合物および処置剤について上記したとおりである。
【0124】
本発明の別の側面は、星細胞、筋線維芽細胞、がん随伴線維芽細胞、腫瘍細胞、およびSTRA6発現細胞からなる群から選択される標的細胞またはこれを含む組織を標識、検出またはイメージングする方法であって、該方法が、標識を含む有効量の本発明の複合体または組成物を、それを必要とする対象、または細胞もしくは組織に投与する工程を含む、前記方法に関する。ここで、有効量とは、例えば、標的細胞もしくは標的組織を検出可能に標識し得る量である。また、前記方法における標識としては、例えば、本明細書に記載されたものを用いることができる。本発明の複合体または組成物を投与する細胞もしくは組織は、標的細胞を含んでもよく、生体内に存在しても、生体外に存在してもよい。したがって、本発明の複合体または組成物を細胞もしくは組織に投与する工程を含む前記方法は、in vitro、ex vivoまたはin vivoでなされるものを含む。
【0125】
本発明の別の側面は、星細胞、筋線維芽細胞、がん随伴線維芽細胞、腫瘍細胞、およびSTRA6発現細胞からなる群から選択される標的細胞に関連する疾患を検査、診断またはモニタリングする方法であって、該方法が、標識を含む有効量の本発明の複合体または組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、前記方法に関する。ここで、有効量とは、例えば、標的細胞もしくは標的組織を検出可能に標識し得る量である。また、前記方法における標識としては、例えば、本明細書に記載されたものを用いることができ、標的細胞に関連する疾患は、本発明の処置用化合物および処置剤について上記したとおりである。標的細胞に関連する疾患の検査、診断またはモニタリングは、標的細胞が当該疾患において特徴的な挙動を示す場合、例えば、限定されずに、標的細胞が特定の疾患において異常に増殖するような場合、標識を含む有効量の本発明の複合体または組成物で標的細胞を検出またはイメージングすることによって行うこともできる。
【0126】
本発明の別の側面は、星細胞、筋線維芽細胞、がん随伴線維芽細胞、腫瘍細胞、およびSTRA6発現細胞からなる群から選択される標的細胞に関連する疾患に対する処置の効果を評価するための方法であって、該方法が、標識を含む有効量の本発明の複合体または組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、前記方法に関する。ここで、有効量とは、例えば、標的細胞もしくは標的組織を検出可能に標識し得る量である。また、前記方法における標識としては、例えば、本明細書に記載されたものを用いることができ、標的細胞に関連する疾患は、本発明の処置用化合物および処置剤について上記したとおりである。
【0127】
本発明の別の側面は、星細胞、筋線維芽細胞、がん随伴線維芽細胞、腫瘍細胞、およびSTRA6発現細胞からなる群から選択される標的細胞に物質を送達する方法であって、該方法が、前記物質を本発明の標的化分子、標的化剤または標的化担体で標的化する工程、標的化された前記物質を対象、または標的細胞を含む媒体に投与する工程を含む、前記方法に関する。送達する物質は特に限定されず、例えば、標識、薬物、標識および/または薬物を含んでいてもよい担体などが挙げられる。本発明の送達方法は、in vitro、ex vivoまたはin vivoでなされるものを含む。
【0128】
本発明の各種方法における本発明の複合体または組成物の有効量は、投与による利益を超える悪影響が生じないものが好ましい。本発明の各種方法における本発明の複合体または組成物の有効量は、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラット、イヌまたはブタなどの実験動物や、疾患モデル動物における試験に基づき適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。
【0129】
本発明の方法において対象に投与する複合体または組成物の具体的な用量は、投与を要する対象に関する種々の条件、例えば、標的の種類、方法の目的、治療内容、疾患の種類、症状の重篤度、対象の一般健康状態、年齢、体重、対象の性別、食事、投与の時期および頻度、併用している医薬、治療への反応性、および治療に対するコンプライアンスなどを考慮して決定され得る。本発明の複合体または組成物の1日総投与量は、限定されずに、例えば、約1μg/kg〜約1000mg/体重kg、約10μg/kg〜約100mg/体重kg、約100μg/kg〜約10mg/体重kgであってもよい。あるいは、投与量は患者の表面積に基づいて計算してもよい。
【0130】
投与経路としては、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、直腸、動脈内、門脈内、心室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内、肺内および子宮内等の経路が含まれる。
【0131】
投与頻度は、用いる製剤または組成物の性状や、上記のような対象の条件によって異なるが、例えば、1日多数回(すなわち1日2、3、4回または5回以上)、1日1回、数日毎(すなわち2、3、4、5、6、7日毎など)、1週間に数回(例えば、1週間に2、3、4回など)、1週間毎、数週間毎(すなわち2、3、4週間毎など)であってもよい。
【0132】
本発明の標識、検出、イメージング、検査、診断、モニタリングおよび/または評価方法は、標識を含む本発明の複合体または組成物に含まれる標識を検出することをさらに含んでもよい。標識は、検出の時点で複合体または組成物に含まれていても、これと分離して存在していてもよい。標識の検出は、標識を検出し得る任意の手法、例えば、限定することなく、肉眼、光学検査装置(例えば、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、位相差顕微鏡、in vivoイメージング装置など)、X線装置(例えば、単純X線装置、CT(コンピュータ断層撮影)装置など)、MRI(磁気共鳴イメージング)装置、核医学検査装置(シンチグラフ装置、PET装置、SPECT装置など)、超音波検査装置およびサーモグラフィー装置による手法などにより行うことができる。各検出手法に適した標識は当業者に知られており(例えば、上記Lecchi et al., 2007などを参照)、非限定的な例はすでに上記したとおりである。
【0133】
一態様において、標的細胞はin vivoで検出またはイメージングされる。かかる検出またはイメージングには、限定することなく、光学検査装置(例えば、in vivoイメージング装置など)、X線装置(例えば、単純X線装置、CT(コンピュータ断層撮影)装置など)、MRI(磁気共鳴イメージング)装置、核医学検査装置(シンチグラフ装置、PET装置、SPECT装置など)、超音波検査装置およびサーモグラフィー装置などの、in vivo検出に適した任意の装置を用いることができ、かかる検出に適した標識も当業者に知られている(例えば、上記Lecchi et al., 2007などを参照)。
【0134】
標的細胞をin vivoで検出またはイメージングすることにより、標的細胞の存在部位(例えば、臓器や器官)や、標的細胞に関連する疾患の病巣を決定することができる。したがって、本発明は、標識を含む本発明の複合体または組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、標的細胞の存在部位および/または標的細胞に関連する疾患の病巣を決定する方法にも関する。かかる方法は、標的細胞に関連する疾患の診断に資することができる。
【0135】
また、標識をin vitroまたはin vivoで検出することにより、標的細胞の数、分布など、標的細胞に関連する疾患の診断に資する情報を得ることができる。したがって、本発明は、標識を含む本発明の複合体または組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、標的細胞に関連する疾患の診断を補助する方法にも関する。同方法は、標的細胞に関連する疾患の診断に資する情報を、医師に提供することをさらに含んでもよい。
【0136】
本発明の標的細胞に関連する疾患の検査および診断方法、および標的細胞に関連する疾患の診断を補助する方法は、対象における標識の検出結果と、基準となる標識の検出結果とを比較する工程をさらに含んでもよい。基準となる標識の検出結果は、例えば、標的細胞に関連する疾患を有しないことが分かっている対象(「陰性対象」とも称する)における標識の検出結果(「陰性基準」とも称する)、または、標的細胞に関連する疾患を有していることが分かっている対象(「陽性対象」とも称する)における標識の検出結果(「陽性基準」とも称する)であってもよい。基準となる標識の検出結果は、複数の陰性対象または陽性対象における検出結果の平均値または中央値であってもよい。
【0137】
したがって、本発明の標的細胞に関連する疾患の検査方法は、例えば、対象における標識の検出結果が陰性基準と同等である(例えば、それと顕著に異ならない)場合に、陰性の検査結果を提示する工程、および/または、対象における標識の検出結果が陰性基準を顕著に上回る場合に、陽性の検査結果を提示する工程、および/または、対象における標識の検出結果が陽性基準と同等である(例えば、それと顕著に異ならない)場合に、陽性の検査結果を提示する工程などをさらに含むことができる。
【0138】
本発明の検出、イメージング、検査、診断、モニタリングおよび/または評価方法における標識の検出結果は、検出された標識のシグナル強度および/またはシグナル分布であってもよい。
【0139】
ここで標識のシグナル強度は、標識から発せられる種々のシグナル、例えば、蛍光シグナル、発光シグナル、磁性シグナル、放射性シグナルなどの強さまたはこれに類する測定値を意味し、典型的には適切な検出手段で測定される。検出手段の具体例は、すでに上述したとおりである。シグナル強度は、対象の全体から得られるものであっても、対象の特定の部位または領域から得られるものであってもよい。また、シグナル強度は、測定する部位の面積または体積に対する平均値であってもよいし、積算値であってもよい。シグナル強度が経時的に変化する場合、本方法におけるシグナル強度は、ある特定の時点のものであってもよいし、ある期間について積算されたものであってもよい。疾患の進行に従って標的細胞の数、活性等が増大する場合、シグナル強度の増大は疾患の存在または進行の指標となり得、逆にシグナル強度の低減は、疾患の改善の指標となり得る。
【0140】
標識のシグナル分布は、標識から発せられるシグナルの対象における位置に関する情報を意味し、これは2次元的なものであっても3次元的なものであってもよい。シグナル分布を、解剖学的な臓器の位置関係、または、CT像、MRI像、超音波像などの組織の構造的な情報と照合することにより、シグナルがどの組織から発せられているのかを特定することができる。シグナル分布が経時的に変化する場合、本方法におけるシグナル分布は、ある特定の時点のものであってもよいし、ある期間について積算されたものであってもよい。疾患の進行に従って標的細胞の存在領域が拡大する場合、シグナル分布の拡大は疾患の存在または進行の指標となり得、逆にシグナル分布の縮小は、疾患の改善の指標となり得る。
【0141】
本発明の方法においては、シグナル強度とシグナル分布とを組み合わせて評価することも可能である。どの位置にどの程度の強度のシグナルが検出されるかを評価することにより、より精確な判定や、より正確な情報の提供を行うことができる。
【0142】
本発明のモニタリング方法は、第1の時点の標識の検出結果と、第1の時点より後の第2の時点の標識の検出結果とを比較することをさらに含んでもよい。例えば、検出結果が標的細胞の数に関する指標(例えば、標的細胞に取り込まれた標識からのシグナル強度、シグナル分布など)である場合、第2の時点での指標が第1の時点での指標よりも小さいことは、標的細胞の数の減少を示し、標的細胞に関連する疾患が、標的細胞の増殖により悪化するものであれば、当該標的細胞に関連する疾患が改善したことを意味する。例えば、ここで、第2の時点におけるシグナル強度が第1の時点におけるシグナル強度よりも低ければ、疾患が改善しているとの結果を提示することができ、また逆に第2の時点におけるシグナル強度が第1の時点におけるシグナル強度よりも高ければ、疾患が悪化しているとの結果を提示することができる。また、例えば、第2の時点におけるシグナル分布が第1の時点におけるシグナル分布よりも縮小していれば、疾患が改善しているとの結果を提示することができ、また逆に第2の時点におけるシグナル分布が第1の時点におけるシグナル分布よりも拡大していれば、疾患が悪化しているとの結果を提示することができる。
【0143】
本発明の評価方法は、処置前の第1の時点の標識の検出結果と、第1の時点より後の、処置後の第2の時点の標識の検出結果、または、第1の処置の後の第1の時点の標識の検出結果と、第1の処置の後になされた第2の処置の後の第2の時点の標識の検出結果とを比較することをさらに含んでもよい。例えば、検出結果が標的細胞の数に関する指標(例えば、標的細胞に取り込まれた標識からのシグナル強度、シグナル分布など)である場合、第2の時点での指標が第1の時点での指標よりも小さいことは、標的細胞の数の減少を示し、標的細胞に関連する疾患が、標的細胞の増殖により悪化するものであれば、当該標的細胞に関連する疾患が改善したこと、すなわち、処置の効果がポジティブであることを意味する。例えば、ここで、第2の時点におけるシグナル強度が第1の時点におけるシグナル強度よりも低ければ、疾患が処置により改善しており、したがって、処置が成功しているとの結果を提示することができ、また逆に第2の時点におけるシグナル強度が第1の時点におけるシグナル強度よりも高ければ、疾患が処置により悪化しており、処置があまり成功していないか、不成功であるとの結果を提示することができる。また、例えば、第2の時点におけるシグナル分布が第1の時点におけるシグナル分布よりも縮小していれば、疾患が処置により改善しており、したがって、処置が成功しているとの結果を提示することができ、また逆に第2の時点におけるシグナル分布が第1の時点におけるシグナル分布よりも拡大していれば、疾患が処置により悪化しており、処置があまり成功していないか、不成功であるとの結果を提示することができる。
【0144】
本明細書において、用語「対象」は、任意の生物個体、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体を意味し。本発明において、対象は健常(例えば、特定のまたは任意の疾患を有しない)であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、標的細胞に関連する疾患の処置、検査、診断、モニタリング等が企図される場合には、典型的には当該疾患に罹患しているか、罹患するリスクを有する対象を、標的細胞に関連する疾患に対する処置の効果の評価が企図される場合には、典型的には当該疾患に対する治療を受けているか、受けようとしている対象を、それぞれ意味する。
【実施例】
【0145】
以下の例で本発明をより詳細に説明するが、これらの例は例証を目的とするものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【0146】
例1 標的化分子−担体複合体の作製
標的化分子として、以下のペプチドを用意した:
【表1】
【0147】
上記ペプチドは、いずれもSigma-Genosysより得た。陽性対照として、ビタミンA(オールトランスレチノール、Sigma Aldrich)を用意した。ビタミンAは、DMSO中に10mMの濃度で溶解して原液を調製し、使用時まで凍結保存した。標的化分子を結合させる担体として、リポソーム形成性カチオン性脂質DC−6−14を含むLipoTrust
TM SR(北海道システム・サイエンス)を、担体に担持させる薬物としてHSP47に対するsiRNA(HSP47C、北海道システム・サイエンス)をそれぞれ用意した。siRNAの配列を以下に示す(配列中、小文字はRNA、大文字はDNAをそれぞれ表す)。
センス鎖:5’ggacaggccucuacaacuaTT 3’(配列番号14)
アンチセンス鎖:5’uaguuguagaggccuguccTT 3’(配列番号15)
siRNAは、ヌクレアーゼフリー水(Ambion, Cat. No. AM9937)に10mg/mlの濃度で溶解して原液を調製し、使用時まで凍結保存した。
【0148】
LipoTrust
TM SRをヌクレアーゼフリー水(Ambion, Cat. No. AM9937)中にカチオン性脂質あたり1mMの濃度で溶解したリポソーム溶液10μlをエッペンドルフチューブに入れ、これにDMSO中に所定の濃度で溶解した上記各ペプチドの原液(
図1に結果を示す実験については、1.1mM、1.25mM、2.5mM、3.4mM、5mMまたは10mM、
図2に結果を示す実験については、90mM)または上記ビタミンA原液を1μl加え、15秒間ボルテックスで撹拌した。この混合液に、上記siRNA原液を1.5μl加えて混合した後、5%ブドウ糖水溶液(大塚糖液5%、大塚製薬)を17.5μl加えて混合した。こうして得られたリポソーム−ペプチド(またはビタミンA)−siRNA複合体(リポプレックス)溶液は、遮光して15分間室温にて静置した。また、対照として、LipoTrust
TM SRを含まない、ペプチドとsiRNAとの混合物も用意した。
【0149】
例2 siRNAの星細胞への導入
siRNA導入の2日前に、Schaeferら(Schaefer et al., Hepatology. 1987 Jul-Aug;7(4):680-7)の方法に従ってラット肝臓から調製した肝星細胞(HSC)を、0.2×10
5個/ウェルの密度で6ウェルプレート上に均一に播種し、10%ウシ胎児血清(Thermo HyClone, Cat. No. SH30070.03)、2%L−グルタミン(Sigma Aldrich, Cat. No. G7513)および1%ペニシリン・ストレプトマイシン(Sigma Aldrich, Cat. No. G1146)を含むダルベッコ改変イーグル培地(D-MEM, Sigma Aldrich, Cat. No. D6546、以下「培養培地」と称する)中で培養した。
【0150】
培養培地を除去し、各ウェルに新たに培養培地を900μl加え、37℃にて30分以上インキュベーションした。例1で得た各種リポプレックス溶液30μlに5%ブドウ糖水溶液100μlを加え130μlとした混合溶液のうち100μlを、対応するウェルに加えた。このときのsiRNAの終濃度は11.5μg/mlであった。37℃、5%CO
2にて30分間インキュベーションした後、リポプレックス溶液を含む培地を除去し、培養培地に置換して24〜36時間通常培養した。
【0151】
各サンプルの全RNAの抽出は、RNeasy Mini kit(Qiagen)を用いて行った。まず培養培地を除去し、事前にRNeasy Mini kit付属のRLT溶液に2−メルカプトエタノール(2ME、Wako)を1%(v/v)混合して調製したRLT/2ME溶液を、1ウェルにつき350μlずつ分注した。細胞溶解物の全量をQIAshredder(Qiagen)でホモジナイズし、4℃にて12000rpmで2分間遠心した後、製造者の指示に従い全RNAを抽出した。得られたRNAは、NanoDrop 2000(Thermo Fisher Scientific)で定量し、RT−PCRでcDNAを合成した。反応液は、チューブ1本当たり逆転写酵素ミックス(Super Script VILO Master Mix, Invitrogen, 11755-250)4μl、各サンプルの全RNA16μl(100〜500ng以上のRNAを含む)の合計20μlからなり、25℃で5分間、42℃で60分間、そして85℃で5分間それぞれ反応させた後で、4℃で保存した。
【0152】
HSP47の発現抑制は、定量PCRで解析した。標準テンプレートとしては、未処理細胞サンプルの10倍希釈系列(原液、10倍希釈溶液および100倍希釈溶液)を用いた。MicroAmp(Optical 96-well Reaction Plate, Applied Biosystems, Cat. No. 4306737)の各ウェルに、無菌水22μl、Power SYBR
(R) Green(Applied Biosystems, Cat. No. 4367669)25μlおよびプライマーミックス1μlからなる48μlのプレミックスを加えた。プライマーミックスは以下に示すHSP47または内部標準遺伝子であるGAPDHに対するプライマーセットをそれぞれ50μM含んでいた。
ラットHSP47:
5’TGACCTGCAGAAACATCTGG 3’(フォワードプライマー、配列番号16)
5’AGGAAGATGAAGGGGTGGTC 3’(リバースプライマー、配列番号17)
GAPDH(内部標準、ヒト・ラット共通)
5’ACCATCTTCCAGGAGCGAGA 3’(フォワードプライマー、配列番号18)
5’GCATGGACTGTGGTCATGAG 3’(リバースプライマー、配列番号19)
【0153】
対応するウェルに、各サンプルから得たテンプレートcDNA2μlを加え、合計50μlとした。プレートをフィルムで密封し、リアルタイムPCR装置(7300 Real Time PCR System, Applied Biosystems)にセットし、下表の条件で反応させた。
【表2】
【0154】
結果を
図1〜2に示す。グラフは、各条件におけるGAPDHに対するHSP47の相対発現量を未処理細胞を100として示しており、値が小さい程HSP47の発現が抑制されたこと、すなわち、siRNAが効率的に導入されたことを示す。
図1に示す結果は、ループ1およびループ2を標的化分子として使用した場合に濃度依存的なHSP47の発現抑制が見られ、特にループ1を標的化分子として使用した複合体による抑制率がビタミンAのそれに匹敵することを示している。また、
図2に示す結果は、ループ1のN末端およびC末端から1アミノ酸ずつ短くしたペプチド(ペプチドNo.10およびNo.10−1〜10−6)を含む部分を標的化分子として使用した複合体による抑制率が、ループ1およびビタミンAのそれに匹敵することを示している。下表は
図2に示す結果を数値化したものである。
【0155】
【表3】
【0156】
以上の結果は、RBPの細胞結合部分の配列を含むペプチドが、薬物などを星細胞特異的に送達する標的化分子として有用であることを示すものである。
【0157】
例3 変異ペプチドによる標的化
RBPループ1による星細胞への標的化が、ペプチドのアミノ酸組成によるものなのか、アミノ酸配列によるものなのかを検証するため、細胞としてラット肝星細胞を、ペプチドとしてRBPループ1および下表に示す変異ペプチドをそれぞれ用いて、例2と同様の実験を行った。各ペプチドを含むリポプレックスは、DMSO中の10mMのペプチド原液を用いて例1と同様に調製し、ペプチドの終濃度が7.7μM、siRNAの終濃度が11.5μg/mlとなるように、ラット肝星細胞を含むウェルに加えた。
【表4】
なお、変異ペプチド1はRBPループ1の3位のリジンがグルタミン酸に、6位のグルタミン酸がリジンにそれぞれ置換されたものであり、変異ペプチド2は、3位のリジンがアスパラギン酸に、4位のアスパラギン酸がリジンにそれぞれ置換されたものであり、変異ペプチド3は、3位のリジンがアスパラギン酸に、12位のアスパラギン酸がリジンにそれぞれ置換されたものである。したがって、これらの変異ペプチドはRBPループ1とアミノ酸組成は同じだが、アミノ酸配列が異なっている。
【0158】
図3に示す結果から、変異ペプチド1、2および3を標的化分子として使用した群のいずれにおいても、RBPループ1を標的化分子として使用した群と比べて、HSP47遺伝子発現の抑制の程度が低かったことから、遺伝子発現抑制にはRBPループ1のアミノ酸組成ではなく、アミノ酸配列自体が重要であることが示唆された。
【0159】
例4 ペプチド模倣物による標的化
RBPの細胞結合部分のペプチド模倣物が星細胞への標的化分子として作用するかを検証するため、細胞としてラット肝星細胞、ペプチド模倣物としてRBPループ1のレトロインベルソ型ペプチド(RI:d−INDQLFLGEPDKKA−アミド(配列番号3とは逆の配列を有するD−アミノ酸で構成されたペプチド))、対照ペプチドとしてRBPループ1(L1:配列番号3)をそれぞれ用いて、例2と同様の実験を行った。なお、各ペプチドを含むリポプレックスは、DMSO中の30mMのペプチド原液を用いて例1と同様に調製し、ペプチドの終濃度が23.1μM、siRNAの終濃度が11.5μg/mlとなるように、ラット肝星細胞を含むウェルに加えた。
【0160】
図4に示す結果から、レトロインベルソ型ペプチドが、RBPループ1とほぼ同じ標的化能を有することが分かる。レトロインベルソ型ペプチドは、親ペプチドと類似した側鎖の空間立体構造(トポロジー)を有することから、この結果は、例1〜3に記載したような星細胞への標的化分子として作用するペプチドと同様の側鎖トポロジーを有するペプチド模倣物も、星細胞への標的化分子として作用することを示すものである。
【0161】
例5 スクランブルペプチドによる標的化
RBPループ1による星細胞への標的化が、ペプチドのアミノ酸組成ではなく、アミノ酸配列に依存していることを確認するため、細胞としてラット肝星細胞を、試験ペプチドとしてRBPループ1(L1:配列番号3)を、比較ペプチドとして、試験ペプチドとアミノ酸組成は同じだがアミノ酸配列が異なるスクランブルペプチド(scr:AKFQKLEPGDDLNI、配列番号23)をそれぞれ用いて、例2と同様の実験を行った。なお、各ペプチドを含むリポプレックスは、DMSO中の10mMのペプチド原液を用いて例1と同様に調製し、ペプチドの終濃度が7.7μM、siRNAの終濃度が11.5μg/mlとなるように、ラット星細胞を含むウェルに加えた。
図5に示す結果から、RBPループ1を標的化分子として使用した群ではHSP47遺伝子発現率が顕著に低下したのに対し、スクランブルペプチドを標的化分子として使用した群では、標的化分子を使用していない群(VA(-))での結果とほぼ同じであったことから、標的化にはRBPループ1のアミノ酸組成ではなく、アミノ酸配列自体が重要であることが示唆された。
【0162】
例6 がん細胞への標的化
RBPの細胞結合部分のペプチドが、がん細胞への標的化分子として作用するかを検証するため、細胞としてヒト線維肉腫細胞系のHT−1080細胞を、試験ペプチドとしてRBPループ1(L1:配列番号3)を、陰性対照ペプチドとしてスクランブルペプチド(scr:AKFQKLEPGDDLNI、配列番号23)をそれぞれ用いて、例2と同様の実験を行った。なお、各ペプチドを含むリポプレックスは、DMSO中の10mMのペプチド原液を用いて例1と同様に調製し、ペプチドの終濃度が7.7μM、siRNAの終濃度が11.5μg/mlとなるように、HT−1080細胞を含むウェルに加えた。また、HSP47に対するプライマーセットとして以下のものを用いた(GAPDHに対するプライマーセットは、例2に記載のヒト・ラット共通のものを用いた)。
ヒトHSP47:
5’TGACCTGCAGAAACACCTGG 3’(フォワードプライマー、配列番号24)
5’AGGAAGATGAAGGGGTGGTC 3’(リバースプライマー、配列番号25)
【0163】
図6に示す結果から、RBPの細胞結合部分のペプチドが、ビタミンAと同様に、がん細胞への標的化分子として作用することが分かる。ビタミンAが種々のがん細胞への標的化分子として作用することは知られていることから(特許文献2参照)、この結果は、例1〜4に記載したペプチドおよびペプチド模倣物も、種々のがん細胞への標的化分子として作用することを示すものである。
【0164】
例1〜6の結果はまた、本発明の標的化分子が、特許文献1〜9および非特許文献1に記載のビタミンA等と同等の標的化能を有し、これらの文献に記載の用途、例えば、各種臓器線維症や腫瘍性疾患の処置、検出、イメージングおよび診断、星細胞、筋線維芽細胞、がん随伴線維芽細胞、腫瘍細胞などの細胞の標識、検出およびイメージングなどに成功裏に適用できることを示唆するものである。
【0165】
多数の様々な改変が、本発明の精神から逸脱せずになされ得ることを当業者は理解する。したがって、本明細書に記載された本発明の形態は例示にすぎず、本発明の範囲を制限する意図がないことを理解すべきである。