特許第6602085号(P6602085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6602085
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】小便器、及び搬送可能トイレ
(51)【国際特許分類】
   E03D 13/00 20060101AFI20191028BHJP
【FI】
   E03D13/00
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-152032(P2015-152032)
(22)【出願日】2015年7月31日
(65)【公開番号】特開2017-31644(P2017-31644A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198802
【氏名又は名称】積水成型工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100100479
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 三喜夫
(72)【発明者】
【氏名】中島 淳一
(72)【発明者】
【氏名】福井 孝志
【審査官】 油原 博
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第07992231(US,B1)
【文献】 特開2014−234621(JP,A)
【文献】 特開昭63−125739(JP,A)
【文献】 実開平05−089575(JP,U)
【文献】 米国特許第06470504(US,B1)
【文献】 特開2000−328635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 11/00−13/00
A47K 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者からの尿流を受けるボウル部(110)と、ボウル部の底部に配置された排水口(150)とを備え、上記ボウル部は、使用者に対向し尿流が当たるボウル部壁面(112)と、ボウル部壁面の周囲を取り囲む外側壁面(114)と、ボウル部壁面の上部から使用者側へ延在する上部壁面(116)とを有する小便器(101)であって、
当該小便器は、樹脂材をブロー成型した物であり、
上記ボウル部壁面に設けられる凸部で、当該小便器の中心軸(102)に対して左右対称位置の2箇所にて使用者側へ突出した状態で当該小便器の左右方向(101b)に広がることなく鉛直方向である上下方向(101a)に延在する凸部(120)と、
2つの上記凸部の間に位置し、両凸部を連結する円弧状の凹部(130)と、
をさらに備え
上記ボウル部壁面は、底部側に上記排水口につながる円弧面(117)を有し、該円弧面の接線が鉛直線となる位置である変曲位置(N)を有し、
上記凸部は、円弧状の凹部における尿流の入射角度を鋭角にすると共に凹部にて左右側へ跳ね返った尿を再び上記凹部の方へ配向する部分であり、上記上下方向において高さが変化し高さが最も大きい頂部(121)を有しかつ、上下方向において、上記ボウル部壁面の上端のうち上記中心軸における位置とボウル部壁面の上記変曲位置との範囲(L1)に存在し、
上記頂部は、上記上下方向において、上記ボウル部壁面の上端のうち上記中心軸における位置から上記範囲(L1)の3割から8割の間に位置する
ことを特徴とする小便器。
【請求項2】
当該小便器の左右方向(101b)において、2つの上記凸部間の距離X1は、当該小便器の全幅Xに対して3割と6割との間の値である、請求項1に記載の小便器。
【請求項3】
上記凸部は、当該小便器の奥行き寸法(W)に対して2割から3割の高さを有する、請求項1又は2に記載の小便器。
【請求項4】
当該小便器は水洗タイプであり、
上記ボウル部壁面の上部に設けられ、ボウル部壁面を流れる水洗水の水流を調整する突起であり、当該小便器の中心を頂点として両側の上記外側壁面の方へ傾斜して直線状に延在する山形形状を有し、上記水流を外側壁面の方へ導くと共に、ボウル部壁面と一体成型されている一つの水流調整突起(140)をさらに備えた、請求項1からのいずれかに記載の小便器。
【請求項5】
使用者からの尿流を受けるボウル部(110)と、ボウル部の底部に配置された排水口(150)とを備え、上記ボウル部は、使用者に対向し尿流が当たるボウル部壁面(112)と、ボウル部壁面の周囲を取り囲む外側壁面(114)と、ボウル部壁面の上部から使用者側へ延在する上部壁面(116)とを有する小便器(101)であって、
当該小便器は、樹脂材をブロー成型した物であり、
上記ボウル部壁面に設けられる凸部で、当該小便器の中心軸(102)に対して左右対称位置の2箇所にて使用者側へ突出した状態で当該小便器の左右方向(101b)に広がることなく鉛直方向である上下方向(101a)に延在する凸部(120)と、
2つの上記凸部の間に位置し、両凸部を連結する円弧状の凹部(130)と、を備え、 上記凸部及び上記凹部を有する上記ボウル部壁面を構成する曲面は、上記上下方向において、上記ボウル部壁面の上端のうち上記中心軸における位置(M)、上記ボウル部壁面の変曲位置(N)、及び上記凸部の頂部の位置(T)の3位置における各断面をつないで形成される曲面であり、
上記ボウル部壁面は、底部側に上記排水口につながる円弧面(117)を有し、該円弧面の接線が鉛直線となる位置である変曲位置(N)を有し、
上記凸部は、円弧状の凹部における尿流の入射角度を鋭角にすると共に凹部にて左右側へ跳ね返った尿を再び上記凹部の方へ配向する部分であり、かつ、上記上下方向において、上記ボウル部壁面の上端のうち上記中心軸における位置とボウル部壁面の上記変曲位置との範囲(L1)に存在し、
上記頂部は、上記上下方向において、上記ボウル部壁面の上端のうち上記中心軸における位置から上記範囲(L1)の3割から8割の間に位置する、
ことを特徴とする小便器。
【請求項6】
請求項1からのいずれかに記載の小便器を備えた搬送可能トイレ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小便器、及び該小便器を備えた搬送可能トイレに関する。
【背景技術】
【0002】
男性用小便器には、いわゆる朝顔型の壁掛けタイプ、床置き型のストールタイプ、及び壁掛け式であるがストールタイプのように縦長の低リップタイプ、等が存在する。これらのいずれのタイプにおいても、小便器は、使用者からの尿流を受けるボウル部と、ボウル部の底部に配置された排水口とを有する。ここでボウル部は、使用者に対向し尿流が当たるボウル部壁面と、このボウル部壁面の周囲を取り囲む外側壁面と、ボウル部壁面の上端から使用者側へ延在する上部壁面とを有して構成される。
また、小便器は、屋内に据え付けられるものの他、例えば工事現場あるいはイベント会場等へ搬送可能な簡易トイレ内に備わるものもある。
【0003】
上述したいずれの小便器においても、上記ボウル部壁面は、特に尿流が当たる箇所では、平面あるいは緩やかな曲面で形成されている。このようなボウル部壁面では、ボウル部壁面に対する尿流の入射角度が直角近くになり易く、その結果、ボウル部壁面で尿が跳ね返り、ボウル部の内外へ飛び散るという問題がある。
【0004】
このような問題を解決すべく、例えば特許文献1には、尿の跳ね返りを抑えた小便器が開示されている。この小便器では、尿が衝突する衝突面に、使用者側へ突出した凸形状の稜部が取り付けられている。この稜部は、水平断面が2等辺三角形であり、衝突面の中央部にのみ位置する。このような稜部を取り付けることで、特許文献1の小便器は、稜部に衝突するときの尿流の衝突角度を鋭角にして、尿の跳ね返りを抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4782815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1の小便器では、尿の跳ね返りを抑えるための稜部は、上述のように衝突面の中央部の一箇所にのみ取り付けている。通常、尿流は小便器中央部に当たることから、必然的に稜部の頂点に当たることが多くなると推測される。この場合、尿は稜部の頂点で左右に別れることから、逆に、尿の跳ね返りが多くなると推察される。また、特許文献1では小便器に対して一つの入射角度のみで尿が当たるとして検討しているが、実際には様々な角度が考えられ、小便器の一箇所に単に稜部を設けただけでは、尿の跳ね返りを防ぐことは非常に困難であると言わざるを得ない。さらにまた、小便器中央部に稜部を設けていることから、稜部の左右壁面から小便器の側壁つまり小便器外部までの距離は、小便器中央部からの距離に比べて短い。よって尿流が稜部の頂点以外に当たった場合には、尿が小便器外部へ飛び散り易くなる。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決するために成されたもので、従来に比べて、尿の跳ね返り、飛び散りを抑えることができる小便器、及び該小便器を備えた搬送可能トイレを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は以下のように構成する。
即ち、本発明の第1態様における小便器は、使用者からの尿流を受けるボウル部と、ボウル部の底部に配置された排水口とを備え、上記ボウル部は、使用者に対向し尿流が当たるボウル部壁面と、ボウル部壁面の周囲を取り囲む外側壁面と、ボウル部壁面の上部から使用者側へ延在する上部壁面とを有する小便器であって、
当該小便器は、樹脂材をブロー成型した物であり、
上記ボウル部壁面に設けられる凸部で、当該小便器の中心軸に対して左右対称位置の2箇所にて使用者側へ突出した状態で当該小便器の上下方向に延在する凸部と、
2つの上記凸部の間に位置し、両凸部を連結する円弧状の凹部と、
をさらに備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の第2態様における搬送可能トイレは、第1態様における小便器を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1態様における小便器によれば、2つの凸部、及び両凸部間に凹部を形成したことから、凹部におけるボウル部壁面は、その曲面の曲率が、従来の小便器における尿流衝突面の曲率に比べて大きく、カーブがきつくなる。したがって、凹部におけるボウル部壁面に対する尿流の入射角度は、鋭角となり、従来に比べて尿の跳ね返りを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態における小便器の正面図である。
図2A図1に示すA−A部における小便器の断面図である。
図2B図1に示すB−B部における小便器の断面図である。
図2C図1に示すC−C部における小便器の断面図である。
図2D図1に示すD−D部における小便器の断面図である。
図2E図1に示すE−E部における小便器の断面図である。
図2F図1に示すF−F部における小便器の断面図である。
図2G図1に示すG−G部における小便器の断面図である。
図2H図1に示すH−H部における小便器の断面図である。
図2I図3Aに示すM位置における小便器の断面図である。
図2J図3Aに示すN位置における小便器の断面図である。
図3A図1に示すJ−J部、即ち図1に示す小便器の中心軸に沿った断面図である。
図3B図1に示すK−K部、即ち図1に示す稜線に沿った凸部の断面図である。
図4図1に示す小便器の斜視図である。
図5A図1に示す小便器に追加可能な段差を示す正面図である。
図5B図5Aに示す段差を示すための断面図である。
図6図1に示す小便器を取り付け可能な搬送可能トイレを示す正面図である。
図7】搬送可能トイレに取り付けた状態における図1に示す小便器の側面図である。
図8図1に示す小便器におけるボウル部壁面、凸部及び凹部を形成するための断面を規定する値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態である小便器、及び該小便器を備えた搬送可能トイレについて、図を参照しながら以下に説明する。尚、各図において、同一又は同様の構成部分については同じ符号を付している。また、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け当業者の理解を容易にするため、既によく知られた事項の詳細説明及び実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。また、以下の説明及び添付図面の内容は、特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0013】
第1実施形態;
以下に説明する実施形態では、例えば工事現場あるいはイベント会場等で使用される、搬送可能トイレに取り付けることができる小便器を例に採るが、本実施形態はこれに限定するものではなく、屋内に据え付けられる公衆用及び家庭用の小便器に対しても適用可能である。この場合、小便器は陶器製であってもよい。また、以下の実施形態では、上述したいわゆる壁掛け式の低リップタイプの小便器を例に採るが、本実施形態は、これに限定するものではなく、ストールタイプ、あるいはいわゆる壁掛け式朝顔型にも適用することができる。
【0014】
図1から図4には、実施形態における、搬送可能トイレに備わる小便器101の一例を示している。当該小便器101は、図6に示すような搬送可能トイレ200に取り付けられる小便器であり、搬送可能トイレ200の取付面201に対して壁掛け式にて取り付けられる低リップタイプである。
また、当該小便器101は、例えばポリエチレン材を含む熱可塑性の樹脂材を金型内でブロー成型することで、その全体が一体成型され作製されるものである。また小便器101の重さは、一例として約2kgである。
【0015】
このような小便器101は、使用者からの尿流を受けるボウル部110と、ボウル部110の底部に配置された排水口150とを備える。ボウル部110は、ボウル部壁面112と、外側壁面114と、上部壁面116とを有し、これらの各壁面が一体成型されてボウル部110を形成している。ここでボウル部110は、図1に「h1」で示す範囲が相当し、小便器101の上端116aから排水口150の上端までの範囲をいう。
【0016】
ボウル部壁面112は、使用者に対向して位置する壁面であり、特に使用者の尿流が当たる壁面が相当する。また、図3A及び図3B(総称して図3と記す場合もある)に示すように、ボウル部壁面112は、小便器101の上下方向101aにおいて範囲Lに相当する部分である。ここで範囲Lにおける上端は、ボウル部壁面112の上端に位置する段差140が相当し、下端はボウル部110の底部、詳しくは排水口150の上端、に相当する。ここで段差140は、ボウル部壁面112と上部壁面116との境界部に相当し、後述するように小便器101が水洗タイプの場合における水流調整突起の一例に相当し、水流方向を調整する部分である。尚、非水洗タイプであっても段差140は形成されている。
【0017】
外側壁面114は、ボウル部壁面112の周囲を取り囲む壁面であり、主にボウル部壁面112の左右両側に位置する壁面である。
上部壁面116は、ボウル部壁面112の上部から使用者側に向かって延在する壁面である。
【0018】
尚、ブロー成型に起因して成型直後の成型体では、開口109(図3A)は形成されておらず、ボウル部110は露出していない。よってブロー成型後、不要部分である前面部が成型体から切除されて、図3Aに示すような開口109を有しボウル部110が露出した小便器101が作製される。
【0019】
また、ボウル部110においてボウル部壁面112と外側壁面114との境界辺りには、特に水洗タイプにて有効となり洗浄水が流れるための流路143(図1図2F)も設けている。
【0020】
さらにボウル部壁面112は、ボウル部壁面112から使用者側へ突出した2つの凸部120と、これら2つの凸部120間に位置する凹部130とを有する。それぞれの凸部120、及び凹部130は、ボウル部壁面112と一体成型されている。
【0021】
凸部120は、図1に示すように、小便器101の中心軸102に対して左右方向101bにおいて左右対称に位置する2箇所を稜線103とし、使用者側104へ突出して成型された部分であり、小便器101の上下方向101aに連続して延在して成型されている。このような凸部120は、ボウル部壁面112における上下方向101aの全範囲、つまり上述の範囲L、にわたり形成することができる。ここで凸部120は、範囲Lにわたり一定の突出高さであってもよい。
【0022】
一方、本実施形態のように、凸部120は、図2Aから図2H(総称して図2と記す場合もある)に示すように、あるいは、凸部120を側方から見たとき、上下方向101aにおいて図3に示すように「く」字形状に成型してもよい。尚、図2Aから図2Hは、図1に示すAからHの各位置での、左右方向101bつまり水平方向における小便器101の断面を示している。
【0023】
図2を参照して説明すると、特に図2Bから図2Gにて分かるように、小便器101の裏面105からの、稜線103での凸部120の高さは、小便器101の上部、言い換えると上記範囲Lの上端、から図1に示す略C位置にかけて徐々に大きくなり、略C位置にて最も高く、略C位置から図1に示す略G位置にかけて徐々に小さくなる。このような形態にて各凸部120は、成型されている。換言すると、凸部120は、稜線103に沿って小便器101の上部から略G位置まで形成されている。尚、裏面105は、小便器101を設置する取付壁面と接する面となる。
【0024】
より具体的には、凸部120は、本実施形態では図3Aに示すM位置とN位置との上下方向101aにおける範囲「L1」内に存在する。ここでM位置は、上述のように範囲「L」に相当して存在するボウル部壁面112の上端のうち、小便器101の中心軸102における位置に相当し、N位置は、ボウル部壁面112における変曲位置に相当する。つまりボウル部壁面112は、その下部に円弧面117(図3A)を有し、この円弧面117は、小便器101の下部に位置して排水口150につながる円弧面である。よって上記変曲位置は、ボウル部壁面112に含まれる円弧面117における接線が鉛直線となる位置に相当する。
尚、図3Aは、図1に示すJ−J部、即ち小便器101の中心軸102に沿った断面を示している。また図1に示すように、左右方向101bにおいて凸部120は中心軸102から離れて位置している。よって図3Aにおいて凸部120を表現している線分は、凸部120の側面を表しておりその断面を示すものではない。
【0025】
M、N位置間に相当する範囲L1は、上述した範囲「h1」(ボウル部110の上下方向101aにおける範囲)の約7〜8割に相当する。また、上下方向101aにおいて上記M位置を起点としたとき、稜線103での、裏面105からの凸部120の高さが最も大きい頂部121(図3)は、範囲「L1」の約3割から約8割の間に位置する。
ここで3割未満にて頂部121が位置する場合、換言すると頂部121がM位置に近くなる場合、凸部120は尿の飛び散り防止に寄与する程度が非常に低くなってしまう。また、成型上の問題も生じるとともに、小便器101が水洗タイプの場合には段差140へ流水するためのノズル145(図5B)の取り付けが困難となるという製作上の問題も生じる。
一方、8割を超えて頂部121が位置する場合、換言すると頂部121がN位置に近くなる場合、頂部121に尿が当たる割合が多くなると予想され尿の飛び散りが多くなってしまうことが懸念される。また、小便器101が水洗タイプの場合に流水に影響が生じる可能性がある。
【0026】
また、稜線103での裏面105からの凸部120の高さは、小便器101の奥行き方向101cにおける奥行き長さW(図3A)に対して約2割から約3割の寸法である。凸部120の高さが2割未満となると左右2つの凸部120間における凹部130の形状を保持し難くなり、尿の飛散、跳ね返り防止効果が低下する。また凸部120の高さが3割を超えると、凸部120と外側壁面114との隙間が小さくなり、掃除等のメンテナンス上、支障が生じると思われる。よって、上述の範囲に凸部120の高さを設定することで、より効果的に尿の跳ね返りを抑えることができる。
【0027】
また、左右方向101bにおける2つの凸部120の稜線103間の距離X1(図1)は、小便器101の全幅X(図1)に対して、約3割から約6割の間の値に設定される。
ここで3割未満の距離X1にて2つの凸部120を配置した場合には、2つの凸部120間に位置する凹部130が狭くなってしまうことから、凹部130以外の場所へ尿流が位置する可能性が多くなる。その結果、尿の飛び散りが多くなってしまうと想像される。
一方、6割を超える距離X1にて2つの凸部120を配置した場合には、各凸部120は外側壁面114に近接して位置することになる。よって、凸部120と外側壁面114との隙間が小さくなり、掃除等のメンテナンス上、支障が生じると思われる。
【0028】
凹部130は、上述のように成型された2つの凸部120の間に位置し、詳しくは各凸部120の各稜線103の間に位置し、両方の凸部120を一体に連結する円弧状の曲面を有する部分である。図1からも明らかなように、稜線103間に位置する凹部130は、中心軸102に沿って小便器101の中央部に存在し、かつ、本実施形態では小便器101の左右方向101bにおいて約半分以上を占める。また、大人の使用者の場合、図1に示すE位置を中心に略D位置から略F位置の間で尿流がボウル部壁面112に当たると予想される。
【0029】
このように、本実施形態の小便器101では、ボウル部壁面112の2箇所に凸部120を上下方向101aに沿って形成したことで、各凸部120の稜線103間に形成される凹部130におけるボウル部壁面112は、例えば図2C及び図2Dに示すように、その曲面の曲率が、従来の小便器における尿流衝突面の曲率に比べて大きくなる、つまりカーブがきつくなる。また稜線103間に位置する凹部130は、小便器101の左右方向101bにおける幅の、上述のように、約半分以上を占める。したがって、凹部130におけるボウル部壁面112に対する尿流の入射角度は、鋭角となり、従来に比べて尿の跳ね返りを抑えることができ、その結果、ボウル部110外への飛び散りも抑えることができる。
【0030】
また、ボウル部壁面112の左右2箇所に凸部120を配置し、これらの凸部120間に相当する小便器101の中央部には凹部130が位置ことから、当該小便器101は、使用者の視覚に訴えて、小便器101の中央部に尿流が当たるように放尿したくなる心理的作用も生じさせることができる。さらにこのような心理的作用を生じさせ易くするために、使用者が凸部120及び凹部130を視認し易いように、上部壁面116には使用者側104から裏面105側へ凹んだ湾曲部118(図2A図4)を設けている。
これらの結果、上述の特許文献1の小便器に比べると、たとえ尿が飛び散った場合でも尿の飛び散り距離が物理的に短くなり、小便器101の外部まで尿が飛び散ることを防止することができる。
【0031】
さらに、凹部130は、2つの凸部120の谷間に存在することから、たとえ尿流が凹部130のボウル部壁面112にて跳ね返ったとしても、跳ね返った尿は両側に位置する凸部120の壁面に当たり、凹部130の外側へ飛び散るのを防止することも可能となる。このことからも、ボウル部110外への尿の飛び散りを従来に比べて低減することが可能となる。
【0032】
以上説明したような形状にて、特に、ボウル部壁面112、凸部120、及び凹部130は形成される。一方、一般的に、物の表面特に曲面にてなる表面を設計する場合、この表面上の3位置における断面形状を規定し、これら3位置の断面形状をつないで物の表面を設計する手法がある。
凸部120及び凹部130を有するボウル部壁面112を構成する面についても、この手法を用いて設計することが可能である。
即ち、上述の3位置に相当する位置として、ここでは上下方向101aにおける、上述のM位置、凸部120の頂部121の位置(ここでは「T」位置と記す)、及び上述のN位置を用いる。これらの各位置における断面を規定するパラメータとして、左右方向101bにおける以下の3地点I,II,IIIでの、小便器101の奥行き方向101cにおける裏面105からの距離w1,w2,w3を用いる。ここで地点Iは小便器101の中心軸102における凹部130の位置であり、地点IIは片側の凸部120の稜線103における位置であり、地点IIIは上記稜線103と外側壁面114との間の谷106の位置である。また、距離w1,w2,w3は、それぞれ、最大値と最小値との間の値を採ることができる。
上述の、M位置、T位置、N位置のそれぞれの位置における、3地点I,II,IIIでの距離w1,w2,w3について図8に示す。
【0033】
したがって、凸部120及び凹部130を有するボウル部壁面112を構成する面は、M位置、T位置、N位置のそれぞれにおける、距離w1,w2,w3を基にした各断面をつないで形成される曲面である。また、このようにして形成される曲面は、上述の最大値と最小値との間で可変である値によって変形することになる。
【0034】
以上説明した小便器101は、水洗機能を設けていない形態であるが、水洗機能を取り付けることもできる。この場合、上部壁面116にパイプを突設し、このパイプに例えば、ハンドルを有する手動式の蛇口が取り付けられる。また、この蛇口を通してボウル部110へ流入する水流がボウル部壁面112の全面へ一様に流れることができるように、図5A及び図5B(総称して図5と記す場合もある)に示すように、上記蛇口に接続するノズル145を通して流入する水流を調整する段差140をボウル部壁面112に形成してもよい。
【0035】
この段差140は、小便器101の中心軸102を頂点としてその左、右側の外側壁面114の方へ下方に傾斜する各斜部141を有する山形形状である。よって頂点部分に流入した水は、中心軸102に沿って下方へ流れるとともに、各斜部141に案内されながらボウル部壁面112を伝って下方へ流れることができる。したがって、段差140を設けることで、ボウル部壁面112の左右方向101bにおける全面に水を流すことができる。
【0036】
第2実施形態;
次に、本発明の第2実施形態における搬送可能トイレについて説明する。
上述した小便器101は、図6及び図7に示すように、搬送可能トイレ200のボックス内に取り付けることができる。図7では、小便器101は水洗タイプを示しているが、非水洗タイプでもよい。また、排水口150にはS字形のトラップ管210を接続しているが、ストレート管を接続してもよい。トラップ管210及びストレート管は、床面202の下方に設置されるタンクに接続される。
【0037】
上述した各変形例を組み合わせた構成を採ることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、小便器、及び該小便器を備えた搬送可能トイレに適用可能である。
【符号の説明】
【0039】
101…小便器、101a…上下方向、101b…左右方向、102…中心軸、
110…ボウル部、112…ボウル部壁面、114…外側壁面、116…上部壁面、
120…凸部、130…凹部、150…排水口、
200…搬送可能トイレ。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図2I
図2J
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8