特許第6602147号(P6602147)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大阪瓦斯株式会社の特許一覧

特許6602147炊飯対象米の含水状態判定方法、浸漬時間判定装置および炊飯設備
<>
  • 特許6602147-炊飯対象米の含水状態判定方法、浸漬時間判定装置および炊飯設備 図000002
  • 特許6602147-炊飯対象米の含水状態判定方法、浸漬時間判定装置および炊飯設備 図000003
  • 特許6602147-炊飯対象米の含水状態判定方法、浸漬時間判定装置および炊飯設備 図000004
  • 特許6602147-炊飯対象米の含水状態判定方法、浸漬時間判定装置および炊飯設備 図000005
  • 特許6602147-炊飯対象米の含水状態判定方法、浸漬時間判定装置および炊飯設備 図000006
  • 特許6602147-炊飯対象米の含水状態判定方法、浸漬時間判定装置および炊飯設備 図000007
  • 特許6602147-炊飯対象米の含水状態判定方法、浸漬時間判定装置および炊飯設備 図000008
  • 特許6602147-炊飯対象米の含水状態判定方法、浸漬時間判定装置および炊飯設備 図000009
  • 特許6602147-炊飯対象米の含水状態判定方法、浸漬時間判定装置および炊飯設備 図000010
  • 特許6602147-炊飯対象米の含水状態判定方法、浸漬時間判定装置および炊飯設備 図000011
  • 特許6602147-炊飯対象米の含水状態判定方法、浸漬時間判定装置および炊飯設備 図000012
  • 特許6602147-炊飯対象米の含水状態判定方法、浸漬時間判定装置および炊飯設備 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6602147
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】炊飯対象米の含水状態判定方法、浸漬時間判定装置および炊飯設備
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/10 20060101AFI20191028BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20191028BHJP
   G01N 21/59 20060101ALI20191028BHJP
   A47J 27/14 20060101ALI20191028BHJP
【FI】
   G01N33/10
   A23L7/10 D
   G01N21/59 Z
   A47J27/14 K
   A47J27/14 N
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-203659(P2015-203659)
(22)【出願日】2015年10月15日
(65)【公開番号】特開2016-105074(P2016-105074A)
(43)【公開日】2016年6月9日
【審査請求日】2018年5月17日
(31)【優先権主張番号】特願2014-236859(P2014-236859)
(32)【優先日】2014年11月21日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名 日本食品工学会 刊行物名 日本食品工学会第16回(2015年度)年次大会講演要旨集 発行年月日 2015年7月27日 〔刊行物等〕 集会名 日本食品工学会第16回(2015年度)年次大会 開催場所 広島市立大学(広島県広島市安佐南区大塚東3‐4‐1) 開催日 2015年8月10〜11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】冨田 晴雄
(72)【発明者】
【氏名】竹森 利和
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−156170(JP,A)
【文献】 特開昭63−235849(JP,A)
【文献】 特開平06−245860(JP,A)
【文献】 特開平02−279112(JP,A)
【文献】 特開平05−285363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/10
G01N 21/59
A23L 7/10
A47J 27/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に浸漬した状態に配置された炊飯対象米の米粒を光学的に監視して、炊飯対象米の米粒ごとの含水率に関連する含水率関連情報を経時的に測定し、前記含水率関連情報から推定される炊飯対象米の米粒ごとの含水率の飽和状態を検知して、炊飯対象米が炊飯に適した含水状態であると判定する炊飯対象米の含水状態判定方法。
【請求項2】
前記含水率関連情報が、炊飯対象米からの光を監視して得られる炊飯対象米の米粒ごとの吸水に伴う炊飯対象米の米粒ごとの大きさの変化から求められる膨張率である請求項1に記載の炊飯対象米の含水状態判定方法。
【請求項3】
前記含水率関連情報が、炊飯対象米からの透過光を監視して得られる炊飯対象米の米粒ごとの吸水に伴う透過光強度である請求項1に記載の炊飯対象米の含水状態判定方法。
【請求項4】
水に浸漬した状態に配置された炊飯対象米の米粒を光学的に監視する監視部を備え、炊飯対象米の米粒ごとの含水率に関連する含水率関連情報を経時的に測定し、前記含水率関連情報から推定される炊飯対象米の米粒ごとの含水率が飽和状態に達するのに要する飽和浸漬時間を求める飽和浸漬時間演算部を備えた浸漬時間判定装置。
【請求項5】
炊飯対象米を水に浸漬する浸漬装置を備えるとともに、浸漬装置において吸水した炊飯対象米を受け入れて炊飯する炊飯装置を備えた炊飯設備であって、
請求項4に記載の浸漬時間判定装置を備え、前記飽和浸漬時間演算部により求められる前記飽和浸漬時間に基づき設定浸漬時間を設定し、前記浸漬装置に浸漬された炊飯対象米が前記設定浸漬時間水に浸漬されたことを検知して、炊飯対象米を前記浸漬装置から取り出して炊飯装置に移送させる浸漬完了制御部を備えた炊飯設備。
【請求項6】
前記浸漬完了制御部に設定浸漬時間を入力する浸漬時間入力部を備えた請求項5に記載の炊飯設備。
【請求項7】
炊飯対象米を水に浸漬する浸漬装置を備えるとともに、浸漬装置において吸水した炊飯対象米を受け入れて炊飯する炊飯装置を備えた炊飯設備であって、
前記浸漬装置が炊飯対象米の一部をサンプリングするサンプリング部と、サンプリング部に採取された炊飯対象米を水に浸漬した状態で炊飯対象米の米粒を光学的に監視する監視部と、を備え、
前記監視部で炊飯対象米の米粒ごとの含水率に関連する含水率関連情報を経時的に測定し、前記含水率関連情報から推定される炊飯対象米の米粒ごとの含水率の飽和状態を検知して、炊飯対象米を前記浸漬装置から取り出して炊飯装置に移送させる浸漬完了制御部を備えた炊飯設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炊飯対象米の含水状態判定方法、浸漬時間判定装置および炊飯設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炊飯された米の食味を評価する方法が検討されており、米をおいしく炊く技術が検討されている(たとえば特開2002−323418号公報(特許文献1)等参照)。一般的に米の食味を左右する代表的な要因として炊飯米の硬さ、炊飯米の粘り等に基づく食感が挙げられるが、炊飯米の硬さ、炊飯米の粘りを直接測定して炊き上がり状態を制御することは困難であるため、炊飯前の米の状態を測定し炊き上がりの食感を制御することが考えられる。また、炊飯方法によっても炊飯米の食感は大きく変わり、米の洗浄、浸漬、炊飯(加熱)の工程を制御することによりコメの炊き上がり品質は大きく左右される。ここで、米の炊飯前の水への浸漬工程は、炊飯後の米飯の食感を制御するうえで、特に重要な工程である。
【0003】
浸漬工程を行う際の浸漬条件(時間、温度、濃度など)により米の含水状態は大きく変わることが知られている。一般的に、米の含水状態は、浸漬後のサンプルを水分率計で測定する方法により評価されている。
【0004】
また、含水状態を左右する要因として炊飯米の内部構造をMRI(核磁気共鳴マイクロイメージング)により評価する試みもなされている(たとえば特開2000−065768号公報(特許文献2)、Mitsuru Yoshida, "Observation of Moisture Distribution Affecting Texture of Food by MRI", Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi Vol. 59, No. 9, 478〜483 (2012)(非特許文献1)等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−323418号公報
【特許文献2】特開2000−065768号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Mitsuru Yoshida, "Observation of Moisture Distribution Affecting Texture of Food by MRI", Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi Vol. 59, No. 9, 478〜483 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の測定方法によれば、浸漬後の米粒を、測定のたびにサンプリングする必要があるので、同一の米粒について連続的に経時的な変化を測定することが困難である。また、水に浸漬された米粒から余分な水分を拭き取って重量変化を測定する作業が必要になるので、水分の除去程度のばらつきがそのまま測定値に大きく影響してしまう。そのため、上記測定方法は、複雑で誤差も大きく、経時的な含水状態の変化を把握するのに不向きである。したがって、浸漬工程の都度、コメの含水状態を評価するために煩雑な作業が必要になり、信頼性高く含水状態を評価するには熟練を要し、正確な含水率を求めるには信頼性が不十分という現状にある。
【0008】
また、MRIによる測定を行う場合にあっても、浸漬後の同一の米粒について連続的に経時的な変化を測定することができるものの、装置構成が大掛かりになるとともに、特殊なサンプリングが必要になるなど、測定に煩雑な作業を要するため、簡便に含水状態の変化を把握できないものであった。
【0009】
そこで、本願は、水に浸漬される米の含水状態を簡便的確に評価することができ、炊飯後の米飯の食感を好適に制御するための一助となり得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の炊飯対象米の含水状態判定方法の特徴構成は、
水に浸漬した状態に配置された炊飯対象米の米粒を光学的に監視して、炊飯対象米の米粒ごとの含水率に関連する含水率関連情報を経時的に測定し、前記含水率関連情報から推定される炊飯対象米の米粒ごとの含水率の飽和状態を検知して、炊飯対象米が炊飯に適した含水状態であると判定する点にある。
【0011】
炊飯対象米を水に浸漬した状態に配置すると、その米には水が浸透してコメの含水率が次第に上昇する。このとき、米は水分を吸収することによって膨張したり、透過光強度が変化したりする。以下、コメの吸水に伴いこのように状態変化する情報を「含水率関連情報」と称する。
【0012】
また、「水に浸漬する」という場合、水としては、常温の水に限らず、冷却、加熱した水も含み、水に浸漬する温度は問わないものである。また、米のみを水に浸漬する場合の他、炊き込みご飯のように、米以外の具材等をともに浸漬している場合や、水に調味料、果汁等の他の成分が溶解している場合についても、「水に浸漬する」状態に含まれるものとする。
【0013】
この時の米の含水率の変化は、米の銘柄(種類)、産地、収穫時期等によって異なり、さらに、保管状態、保管期間等によっても変化するため、一概に水に浸漬した時間で管理できるものではない。そのため、同一銘柄の米を同一の設定浸漬時間で炊飯した場合でも、米の含水率が十分にならなければ、ごわごわした食感の炊飯米となり、また、含水率が高くなってしまうと、べとべとした食感の炊飯米となるなど、食味に大きな差が現れる場合がある。
【0014】
この含水率関連情報は光学的に監視することができ、含水率関連情報に対応してコメの含水率を求めることができる。そのため、水に浸漬された米を光学的に監視することによって、米の含水率の変化を経時的に観測することができる。この含水率の経時的な変化が少なくなると、米が通常含水できる水分を十分吸水して飽和した状態になったものと考えられ、この時点で米は炊飯に適した含水率となっている。この時点より以前では、含水率が不十分で炊飯してもごわごわした食感の炊飯米になるし、含水が飽和してなお、水への浸漬状態を維持し続けると、米への含水が過飽和になって、炊飯してもべとべとした食感の炊飯米となるなど、食味が低下する。
【0015】
したがって、米の含水率の飽和状態を検知することにより、米が炊飯に適した含水状態であると判定することができる。すなわち、米を光学的に監視するだけの簡便な方法・装置により、米が炊飯に適した含水状態であることを定量的に判定することができる。
【0016】
また、米を光学的に観測することにより含水状態を判定するものであるから、炊き込みご飯など、米以外の材料をともに含んだ状態での炊飯の場合であっても、米以外の材料や溶解成分の影響を受けることなく含水率を測定することができるので、有効に利用することができる。
【0017】
このように炊飯に適した含水状態であると判定された米を炊飯すると、食感に優れ、おいしいとの評価を得られやすい炊飯米として提供できるようになる。
【0018】
なお、米の含水率が飽和状態になったかどうかは、種々の手法を用いることができる。たとえば、含水率に対応する測定値自体の値が所定の閾値を超えた時点で飽和状態と判定する方法、含水率に対応する測定値の変化率が所定の閾値よりも小さくなった時点で飽和状態と判定する方法などである。このような場合に用いられる閾値としても、慣用されているように、測定誤差、炊飯時における影響度などを踏まえて設定される許容範囲を考慮した値などを適宜採用することができる。
【0019】
また、含水率関連情報の測定方法についても以下に例示されるように種々の方法を採用することができる。
【0020】
前記含水率関連情報が、炊飯対象米からの光を監視して得られる炊飯対象米の米粒ごとの吸水に伴う炊飯対象米の米粒ごとの大きさの変化から求められる膨張率とすることができる。
【0021】
炊飯対象米からの光を監視した場合、米が吸水するのに伴って、米が膨張する現象を観測することができる。すなわち、米からの光を監視すると炊飯対象米の吸水に伴う炊飯対象米の大きさが変化するので、その米の膨張率が測定できる。米の膨張率は、米の含水率と相関を有する含水率関連情報として取り扱うことができる。したがって、膨張率を含水率関連情報として含水率を推定し炊飯対象米の含水率の飽和状態を検知すれば、米が炊飯に適した含水状態であると判定できる。なお炊飯対象米の大きさは、平面視すなわち鉛直方向上方からの監視により得てもよいし、側面視すなわち鉛直方向に直交する方向からの監視により得てもよいし、他の方向からの観測により得てもよい。
【0022】
したがって、たとえば光学カメラ装置のような炊飯対象米からの光を監視可能な簡便な装置によって、炊飯対象米が炊飯に適した含水状態であることを判定することができる。
また、簡便な構成をもって判定することができるから、炊飯設備に対しても容易に適用することができ、炊飯後の米飯の食感を好適に制御するのに利用することができる。
【0023】
前記含水率関連情報が、炊飯対象米からの透過光を監視して得られる炊飯対象米の米粒ごとの吸水に伴う透過光強度とすることができる。
【0024】
米からの光として透過光を監視した場合、米が吸水するのに伴って、透過光の強度が変化する。すなわち、米からの透過光を監視すると炊飯対象米の吸水に伴う光透過度が変化するので、その米の吸水に伴う透過光強度を求めることができる。米の光透過度は、含水率の向上に伴うでんぷん質の物性変化により光の透過性が損なわれることにより低下するものと推定される(理論に拘泥されるものではないが、でんぷんの結晶構造を構成するでんぷん鎖の間に水分子が浸入することによって、でんぷん鎖の間隔が開き、透過光の散乱を促し、透過光強度が低下するものと説明できる)から、透過光強度は、米の含水率と相関を有する含水率関連情報として取り扱うことができる。したがって、透過光強度を含水率関連情報として含水率を推定し炊飯対象米の含水率の飽和状態を検知すれば、米が炊飯に適した含水状態であると判定できる。
【0025】
したがって、たとえば光学顕微鏡装置のような透過光監視可能な簡便な装置によって、米が炊飯に適した含水状態であることを判定することができる。また、簡便な構成をもって判定することができるから、炊飯設備に対しても容易に適用することができ、炊飯後の米飯の食感を好適に制御するのに利用することができる。
【0026】
上記目的を達成するための本発明の浸漬時間判定装置の特徴構成は、
水に浸漬した状態に配置された炊飯対象米の米粒を光学的に監視する監視部を備え、炊飯対象米の米粒ごとの含水率に関連する含水率関連情報を経時的に測定し、前記含水率関連情報から推定される炊飯対象米の米粒ごとの含水率が飽和状態に達するのに要する飽和浸漬時間を求める飽和浸漬時間演算部を備えた点にある。
【0027】
ここで、水に浸漬した状態に配置された炊飯対象米を光学的に監視することにより、炊飯対象米の含水率に関連する含水率関連情報を経時的に測定することができる。これにより、米の含水状態を経時的に観察することができる。また、含水率関連情報は、米の含水率と相関のある情報であるから、含水率関連情報から米の含水率を推定することができる。したがって、飽和浸漬時間演算部により、含水率関連情報を基に米の含水率の経時変化を解析することにより、米の含水率が飽和状態に達するのに要する飽和浸漬時間を求めることができる。
【0028】
したがって、米が炊飯に適した含水状態であることを判定することができ、その飽和浸漬時間に基づき、米を水に浸漬するための設定浸漬時間を設定するのに利用することができる。そのため、浸漬炊飯設備に対しても容易に適用することができ、炊飯後の米飯の食感を好適に制御するのに利用することができる。
【0029】
上記目的を達成するための本発明の炊飯設備の特徴構成は、
炊飯対象米を水に浸漬する浸漬装置を備えるとともに、浸漬装置において吸水した炊飯対象米を受け入れて炊飯する炊飯装置を備えた炊飯設備であって、
前記浸漬時間判定装置を備え、前記飽和浸漬時間演算部により求められる前記飽和浸漬時間に基づき設定浸漬時間を設定し、前記浸漬装置に浸漬された炊飯対象米が前記設定浸漬時間水に浸漬されたことを検知して、炊飯対象米を前記浸漬装置から取り出して炊飯装置に移送させる浸漬完了制御部を備えた点にある。
【0030】
上記炊飯設備は浸漬装置を備えるから、米を水に浸漬して炊飯に適した含水状態にまで含水させることができ、吸水した米を受け入れて炊飯する炊飯装置を備えるから、吸水した米を炊いて炊飯米を得ることができる。
【0031】
ここで、浸漬時間判定装置を備えるから、水に浸漬した状態に配置された炊飯対象米を光学的に監視して、炊飯対象米の含水率に関連する含水率関連情報を経時的に測定することができる。これにより、米の含水状態を経時的に観察することができる。したがって、浸漬時間判定装置により、飽和浸漬時間を求めることができる。
【0032】
そこで、得られた飽和浸漬時間に基づき設定浸漬時間を設定し、浸漬装置に浸漬された炊飯対象米を設定浸漬時間だけ水に浸漬すると得られた米は、含水率が飽和状態に達して炊飯に適した含水状態となっているといえる。そのため、浸漬時間判定装置が、米が設定浸漬時間浸漬されたことを検知することにより米の含水率を適切に制御することができる。このようにして得られた米を浸漬完了制御部により浸漬装置から取り出して炊飯装置に移送させると、適切な含水率となった米を速やかに炊飯することができる。そのため、米を光学的に監視するだけの簡便な装置により、米が炊飯に適した含水状態であることを判定できるとともに、食感の優れた炊飯米を提供できるようになる。
【0033】
また、前記浸漬完了制御部に設定浸漬時間を入力する浸漬時間入力部を備えてもよい。
【0034】
浸漬時間判定装置により求められた設定浸漬時間を浸漬完了制御部に入力すると、浸漬完了制御部は、設定浸漬時間だけ米を浸漬することにより、含水率が飽和状態に達して米を炊飯に適した含水状態にすることができる。
【0035】
ここで、浸漬完了制御部は、炊飯に際して、炊飯対象米を炊飯に適した含水状態とするために水に浸漬させる毎に、各回の炊飯対象米について浸漬時間判定装置から飽和浸漬時間を取得して、各飽和浸漬時間に基づいて直接各設定浸漬時間を設定してもよい。
一方で、浸漬時間入力部を備える場合には、水に炊飯対象米を一度だけ浸漬させて炊飯に適した含水状態とし、浸漬時間判定装置から飽和浸漬時間を一度だけ取得して設定浸漬時間を設定し、その後の炊飯対象米の設定浸漬時間に関しては、浸漬時間入力部に入力される設定浸漬時間を設定浸漬時間として設定したものを用いる構成とすることができる。
【0036】
このような場合、米の生産地、銘柄、収穫時期、保管方法、期間等が明らかな共通のロットでは、共通の設定浸漬時間を採用して炊飯を行うことができると考えられるから、同じロットの米に対して共通の設定浸漬時間を適用して炊飯する場合の設定浸漬時間を手動で設定できることになり、より簡易かつ確実に適した含水状態の米を炊飯することができる。
【0037】
上記目的を達成するための本発明の別の炊飯設備の特徴構成は、
炊飯対象米を水に浸漬する浸漬装置を備えるとともに、浸漬装置において吸水した炊飯対象米を受け入れて炊飯する炊飯装置を備えた炊飯設備であって、
前記浸漬装置が炊飯対象米の一部をサンプリングするサンプリング部と、サンプリング部に採取された炊飯対象米を水に浸漬した状態で炊飯対象米の米粒を光学的に監視する監視部と、を備え、
前記監視部で炊飯対象米の米粒ごとの含水率に関連する含水率関連情報を経時的に測定し、前記含水率関連情報から推定される炊飯対象米の米粒ごとの含水率の飽和状態を検知して、炊飯対象米を前記浸漬装置から取り出して炊飯装置に移送させる浸漬完了制御部を備えた点にある。
【0038】
上記炊飯設備は浸漬装置を備えるから、米を水に浸漬して炊飯に適した含水状態にまで含水させることができ、吸水した米を受け入れて炊飯する炊飯装置を備えるから、吸水した米を炊いて炊飯米を得ることができる。
【0039】
ここで、水に浸漬した状態に配置された炊飯対象米を光学的に監視する監視部を設けたから、炊飯対象米の含水率に関連する含水率関連情報を経時的に測定することができる。
これにより、米の含水状態を経時的に観察することができる。また、含水率関連情報は、米の含水率と相関のある情報であるから、含水率関連情報から米の含水率を推定することができる。その結果、含水率関連情報を基に米の含水率の経時変化を解析することにより、米の含水率の飽和状態を検知することができる。
【0040】
また、本構成においては、浸漬装置が炊飯対象米の一部をサンプリングするサンプリング部を設けてあり、前記サンプリング部で採取された米を監視対象とするから、浸漬装置内部に浸漬されている米の状態を直接観察することができる。そのため、米の浸漬を行いながら、米の含水率の飽和状態を検知するのに基づき設定浸漬時間を同時に求めることができる。
【0041】
そこで、得られた設定浸漬時間に基づき、前記浸漬装置に浸漬された炊飯対象米を水に浸漬すると、得られた米は、先述の炊飯対象米の含水状態判定方法により炊飯に適した含水状態であると判定できる。そのため、米の含水率を適切に制御することができる。このようにして得られた米を浸漬完了制御部により浸漬装置から取り出して炊飯装置に移送させると、適切な含水率となった米を速やかに炊飯調理することができる。したがって、正確な時間水に浸漬できるとともに、浸漬から炊飯に移行できる。そのため、米を光学的に監視するだけの簡便な装置により、米が炊飯に適した含水状態であることを判定できるとともに、食感の優れた炊飯米を提供できるようになる。
【発明の効果】
【0042】
したがって、水に浸漬される米の含水状態を簡便的確に評価することができ、炊飯後の米飯の食感を好適に制御するための一助とすることができた。
なお、炊飯米の食感などのおいしさを高く維持することの他にも、米の炊飯時の炊き増えを維持し、炊飯米の品質の安定化を図ることができるなど、商業的にも様々なメリットが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】炊飯設備の概略図
図2】光学的に求めた米の膨張率の経時変化を示すグラフ
図3】水分計で測定した米の含水率の経時変化を示すグラフ
図4】膨張率と含水率の相関を示すグラフ
図5】未浸漬米と浸漬米との透過光強度の分布を示すグラフ
図6】光学的に求めた米の暗割合の経時変化を示すグラフ
図7】暗割合と含水率の相関を示すグラフ
図8】光学的に求めた米の平均輝度の経時変化を示すグラフ
図9】水分計で測定した米の含水率の経時変化を示すグラフ
図10】平均輝度と含水率の相関を示すグラフ
図11】トマトライスの膨張率の経時変化を示すグラフ
図12】別実施形態の浸漬装置の概略図
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に、本発明の実施形態にかかる炊飯対象米の含水状態判定方法、浸漬時間判定装置および炊飯設備を説明する。なお、以下に好適な実施形態を記すが、これら実施形態はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0045】
〔炊飯対象米の含水状態判定方法〕
本発明の実施形態にかかる炊飯対象米の含水状態判定方法は、水に浸漬した状態に配置された炊飯対象米をたとえば光学顕微鏡装置としてのDMS(デジタルマイクロスコープ)等を用いて光学的に監視して、米の含水率に関連する含水率関連情報として、たとえば米の膨張率や透過光強度の変化等を経時的に測定し、含水率関連情報から推定される炊飯対象米の含水率の飽和状態を検知して、炊飯対象米が炊飯に適した含水状態であると判定するものである。
【0046】
なお、膨張率は、たとえば、炊飯対象米からの反射光をカメラ装置にて監視して、得られる撮像もしくは映像における炊飯対象米の大きさ(面積)をモニタし、炊飯対象米の吸水に伴う炊飯対象米の大きさの変化から求めることができる。例えば、吸水前の炊飯対象米の大きさに対して、吸水後の炊飯対象米の大きさが変化(膨張)した比率を膨張率とする。
なお、炊飯対象米からの反射光ではなく、炊飯対象米からの透過光をカメラ装置にて監視して、得られる撮像もしくは映像における炊飯対象米の大きさ(面積)をモニタし、炊飯対象米の吸水に伴う炊飯対象米の大きさの変化から求めることもできる。
【0047】
ここで炊飯対象米の大きさは、平面視すなわち鉛直方向上方からの監視により得てもよいし、側面視すなわち鉛直方向に直交する方向からの監視により得てもよいし、他の方向からの観測により得てもよい。複数の方向からの観測を組み合わせてもよい。米の内部組織や組成は異方性を有する場合がある。例えば、日本の米は胚乳細胞の配列が放射線状ではなく、厚み方向(長手方向に垂直な断面における、短軸方向)はデンプンが密につまって硬く、水が浸透しにくいと考えられる。すると、厚み方向に大きさが変化(増加)した場合には、米に水が十分に浸透したと推測でき、炊飯により適した含水状態であると判断できる。よって厚み方向の観測は重要である。上述した側面視からの観測は、厚み方向に見た米の大きさの変化を観測しやすいため、有用である。
【0048】
また、透過光強度は、たとえば、炊飯対象米からの透過光を顕微鏡装置にて監視して、得られる炊飯対象米の吸水に伴う透過光強度を測定することにより得られる。例えば、吸水前の炊飯対象米に対して、光を照射して、背景(明)領域を255、不透明(暗)領域を0とする256階調に数値化することにより、炊飯対象米の透過光強度の分布を測定することができる。
【0049】
このような炊飯対象米の含水状態判定方法を行うための浸漬時間判定装置および炊飯設備の具体的な実施形態の例を以下に示す。
【0050】
〔炊飯設備〕
本発明の実施形態にかかる炊飯設備は、図1に示すように、たとえば洗米機1から供給される炊飯対象米(以下単に米と称する場合もある)rを水に浸漬する浸漬装置2を備えるとともに、浸漬装置2において吸水した炊飯対象米rを受け入れて加熱炊飯する炊飯装置3を備える。
また、浸漬装置2において炊飯対象米rの含水率が飽和状態に達するのに要する飽和浸漬時間を求める浸漬時間判定装置4を備え、浸漬装置2において設定浸漬時間浸漬された米rを炊飯装置3に移送する移送装置5を備える。
また、飽和浸漬時間に基づき設定浸漬時間を設定し、浸漬装置2に浸漬された炊飯対象米rが水に設定浸漬時間浸漬されたことを検知して、炊飯対象米rを浸漬装置2から取り出して炊飯装置3に移送させる浸漬完了制御部61を備える。
さらに、移送装置5の動作を制御する米移送制御部62、炊飯装置3の火加減を制御する加熱制御部63等を備えてなる制御装置6を備える。
この制御装置6は、CPU、メモリー等を備えたマイコンから構成され、各浸漬装置2、浸漬時間判定装置4、移送装置5、炊飯装置3の動作制御を行うことにより、浸漬装置2、浸漬時間判定装置4、移送装置5、炊飯装置3の一部として機能する。
【0051】
〔浸漬時間判定装置〕
浸漬時間判定装置4は、水に浸漬した状態に配置された炊飯対象米を光学的に監視する監視部を備え、炊飯対象米の含水率に関連する含水率関連情報を経時的に測定し、前記含水率関連情報から推定される炊飯対象米の含水率が飽和状態に達するのに要する飽和浸漬時間を求める飽和浸漬時間演算部を備える。なお、上述した浸漬完了制御部が、飽和浸漬時間演算部として機能してもよい。
【0052】
具体的には、炊飯対象米rの一部をサンプリングして洗米するとともに、水に浸漬した状態に配置する米保持部41を備えるとともに、吸水に伴う炊飯対象米rの大きさの変化を経時的に監視測定する監視部としてDMS42を備え、浸漬完了制御部61とともに米rの含水率が飽和状態に達する飽和浸漬時間を判定自在に構成してある。
【0053】
DMS42で撮像された米の映像は、制御装置6の浸漬完了制御部61に伝達される。
浸漬完了制御部61では、映像データを基に、米粒ごとに輪郭線を判別し、その輪郭線内の面積が経時的にどのように変化するかについて解析する。たとえば(測定された面積/浸漬開始時の面積)として求められる面積の変化量が所定の閾値を超えた時点、あるいは、たとえば(経過時間tにおける面積/経過時間t+Δtにおける面積)として求められる面積の変化率が所定の閾値(図2においては、面積の変化率が0.05%/分以下)を下回ったことを検知した時点で、米の含水率が飽和状態に達し、炊飯に適した含水状態であると判定される(図2中矢示した時点)。
【0054】
なお、DMS42に代えて、光学カメラ装置を用いることもでき、米の透過光から米の膨張率を測定するのに代えて米の反射光から米の膨張率を測定することもできる。米の含水率が飽和状態になったかどうかは、種々の手法を用いることができる。たとえば、含水率に対応する測定値自体が所定の閾値を超えた時点で飽和状態と判定する方法、含水率に対応する測定値の変化率が所定の閾値よりも小さくなった時点で飽和状態と判定する方法、含水率に対応する測定値の変化率から、飽和状態に達する時間を予測する方法などである。
【0055】
〔浸漬装置〕
浸漬装置2は、洗米機1から供給される洗浄済みの米rを計量して受け入れるとともに、米重量に応じた水を受け入れて米rを水に浸漬保持する浸漬容器21を備え、その浸漬容器21には、浸漬済みの米rを取り出す取り出し口22を備えるとともにその取り出し口22に開閉制御弁23を設けて、浸漬完了制御部61からの開閉指示に基づいて浸漬を完了し、水に浸漬された米rを浸漬容器21から排出自在に構成してある。
【0056】
このような構成により、浸漬容器21に供給された米rは、計量後水に浸漬されることになり、浸漬は浸漬完了制御部61からの開閉制御弁23の開動作により完了させられる。
【0057】
〔移送装置〕
移送装置5は、浸漬装置2の取り出し口22から排出された浸漬済みの米rを、水切りする水切り部51を備え、水切りされた浸漬済みの米rを、炊飯装置3に移送する移送部52を備える。
【0058】
このような構成により、浸漬済みの米rは水切りされた後、後述の炊飯装置3に設けられる計量部31に設けられた炊飯釜30に投入することができる。
【0059】
〔炊飯装置〕
炊飯装置3は、炊飯釜30に投入された米rを計量して、米rの量に応じた水を加えて炊飯準備を行う計量部31と、加熱装置32aにより炊飯釜30に投入された米rを加熱炊飯する加熱部32と、炊飯された米rをほぐして、取り出し可能にする取り出し部33とを備える。計量部31で炊飯準備された炊飯釜30は、制御装置6の米移送制御部62により動作制御される搬送装置34により、順次加熱部32、取り出し部33へと搬送される。
【0060】
このような構成により、移送装置5から受け入れた米rは、制御装置6の加熱制御部63により適切な火加減で順次加熱されて、炊飯米に加工され、たとえば、弁当などの容器に個別に包装する下流側の装置等に受け渡すことができる。
【0061】
〔実験例〕
以下に、上述の炊飯対象米の含水状態判定方法、浸漬時間判定装置または炊飯設備によって炊飯される炊飯米の含水率の測定と炊飯結果との関係について調べた実験例について詳述する。
【0062】
〔実験例1:膨張率〕
炊飯対象米を水に浸漬し、DMS42で観察し、得られた画像を二値化して、米の輪郭線に囲まれる領域の(平面視での)面積を算出したところ、図2の様に変化した。すなわち、各時間における測定面積の初期面積(未浸漬での面積)に対する比率(膨張率)は、浸漬開始初期に速やかに大きくなり、たとえば10℃において60〜90分で飽和に達していることがわかる。
【0063】
また、水温を種々変更して同様に比率(膨張率)の傾向を調べたところ、この傾向は、水温に拠らず同様であるが、水温が低いほど、膨張速度が低いが最終膨張率が大きいことがわかる。なお、図2では、水温を、10℃、25℃、40℃、55℃に変更して比率(膨張率)を調べた。
【0064】
なお、膨張率を測定する際に、DMS42で観察するのに代えて、たとえば、光学カメラ装置を用いても同様に米の輪郭線の検出が可能である。また、米の透過光に代えて反射光を用いて米の輪郭線を検出することもできる。要するに米からの光を用いて米の輪郭線を検出して米の大きさを定量的に把握できる観察方法であれば、種々の技術を採用することができる。
【0065】
〔比較実験例1〕
上記膨張率と含水率の関係を調べるため、上記実験例で用いた炊飯対象米と同じロットの炊飯対象米を水に浸漬し、従来と同様に水分率計を用いて米の含水率の経時変化を調べたところ図3のようになった。すなわち、含水率も浸漬開始初期に速やかに大きくなり、60〜90分で飽和に達していることがわかる。
【0066】
また、膨張率と含水率の相関関係を調べたところ図4のようになり、高い相関が得られることがわかった。したがって、膨張率は、含水率関連情報として有効に利用でき、米を適した含水状態で炊飯することにより炊飯米の食感を好適に制御できることがわかった。
【0067】
水分率計による含水率の測定結果を参照すると、いずれの温度で浸漬を行った場合であっても、米の含水率の飽和状態で炊飯に適した含水状態となっていることが確認されているので、膨張率を経時的に測定し、膨張率から推定される炊飯対象米の含水率の飽和状態を検知して、炊飯対象米が炊飯に適した含水状態であると判定できることが分かった。
【0068】
〔実験例2:透過光強度(暗割合)〕
炊飯対象米を水に浸漬して光を照射し、DMSで米の透過光を観察し、得られた画像をデジタル処理した。デジタル処理として、米の輪郭線に囲まれる領域を多数のピクセルに分割するとともに、そのピクセルごとに濃淡を、背景(明)領域を255、不透明(暗)領域を0とする256階調に数値化した。濃淡がそれぞれの階調に含まれるピクセル数をカウントしたところ、水に未浸漬の米(未浸漬米)は、130〜180程度の濃淡値をピークとする濃度分布を示し、120分以上水に浸漬した米(浸漬米)は、70〜120程度の濃淡値をピークとする濃度分布を示すことが分かった(図5参照)。
【0069】
そこで、米の輪郭線に囲まれる領域(ピクセル)に占める濃淡値として130(閾値)以下の領域(ピクセル)の占める割合(暗割合)について、実施例1同様に経時変化を調べたところ図6のようになった。すなわち、暗割合は、浸漬開始初期に速やかに大きくなり、60〜90分で飽和に達していることがわかる。
また、水温を種々変更して同様に割合(暗割合)の傾向を調べたところ、この傾向は、水温に拠らず同様であるが、水温が低いほど、暗割合の増加速度が低いが最終割合はほぼ同じであることがわかる。なお、図6では、水温を、10℃、25℃、40℃、55℃に変更して割合(暗割合)を調べた。
なお、米の透過光を測定する際、DMSで観察するのに代えて、通常の光学顕微鏡装置を用いても同様に暗割合を測定することができる。透過光としても、可視光の透過光強度や、特定波長の光の透過光強度を適用することもできるし、さらにその光の偏光等を測定することにより暗割合を求めることもできる。要するに米の含水に伴う透過光の強度変化や偏光度合いの変化等を定量的に把握できる観察方法であれば、種々の技術を採用することができる。
【0070】
〔比較実験例2〕
先の比較実験例1と同様に、暗割合と含水率との相関関係を調べたところ、図7のようになった(ただし図7においては暗割合を評価する閾値を110としている)。すなわち、暗割合と含水率との間には高い相関性があり、米の透過光強度は、含水率関連情報として有効に利用でき、米を適した含水状態で炊飯することにより炊飯米の食感を好適に制御できることがわかった。
【0071】
水分率計による含水率の測定結果を参照すると、いずれの温度で浸漬を行った場合であっても、米の含水率が飽和状態に達した時点で炊飯に適した含水状態となっていることが確認されているので、米の透過光強度を経時的に測定し、その透過光強度から推定される炊飯対象米の含水率の飽和状態を検知して、炊飯対象米が炊飯に適した含水状態であると判定できることが分かった。
【0072】
〔実験例3:透過光強度(平均輝度)〕
実験例2と同様に、炊飯対象米を水に浸漬して光を照射し、DMSで米の透過光を観察し、得られた画像をデジタル処理した。デジタル処理として、米の輪郭線に囲まれる領域を多数のピクセルに分割し、そのピクセルごとに濃淡を、背景(明)領域を255、不透明(暗)領域を0とする256階調に数値化した。そして、米の輪郭線に囲まれる領域内の全ピクセルの濃淡値(輝度)を合計してピクセル総数で除し、平均輝度を算出した。
【0073】
平均輝度の経時変化を調べた結果が図8である。平均輝度は、浸漬を開始してから減少を続け、時間が経過するにつれて減少の度合いが小さくなり、60〜90分で飽和に達している。10℃、25℃、40℃、55℃の4つの水温にて平均輝度の経時変化を調べたが、各温度で同様の傾向を示した。
【0074】
〔比較実験例3〕
平均輝度と含水率との相関関係を調べるため、実験例3で用いたものと同ロットの米について、水分計を用いて米の含水率の経時変化を調べた。その結果を図9に示す。先の実験例と同様に、含水率は浸漬開始初期に速やかに大きくなり、60〜90分で飽和に達している。
【0075】
平均輝度と含水率との相関関係を調べたところ、図10のようになり、両者の間に高い相関が存在することがわかった。したがって、平均輝度は含水率関連情報として有効に利用でき、米を適した含水状態で炊飯することにより炊飯米の食感を好適に制御できることがわかった。
【0076】
〔実験例4:トマトライス〕
炊飯対象米を、トマト果汁を含んだ水に浸漬した以外は、実験例1と同様に米の膨張率を観測したところ図11のようになった。すなわち、米を浸漬する水として、炊き込みご飯の様に他の成分が含まれている水を用いたとしても、飽和浸漬時間と膨張率の関係は、大きくは変化しないことがわかり、同様に含水状態判定方法を適用することができることが分かった。
【0077】
〔別実施形態〕
(1)
上述の実施形態では、炊飯設備は、浸漬時間判定装置4により求められた飽和浸漬時間にしたがって、自動で設定浸漬時間が設定され、洗米機1、浸漬装置2、炊飯装置3を順次運転するものとしたが、これに代えて、測定された飽和浸漬時間に基づき設定浸漬時間を手動で入力するための浸漬時間入力部を備えた構成とすることもできる。すなわち、米の生産地、銘柄、収穫時期、保管方法、期間等が明らかな共通のロットでは、共通の飽和浸漬時間となっているものと考えることができるから、同じロットの米を共通の飽和浸漬時間を有するものとして炊飯する場合の設定浸漬時間を手動で設定できることになり、より簡易かつ確実に適した含水状態の米を炊飯することができる。
【0078】
(2)
また、上記構成では、浸漬時間判定装置4を浸漬装置2とは別途設けた例を示したが、業務用の連続式のものでは、浸漬装置2とは別途飽和浸漬時間を求める浸漬時間判定装置4を設ける構成とするほうが汎用性に優れ、浸漬時間判定用の米を必要に応じてサンプリングして用いるのが効率面で有利と考えられるのに対し、小規模のものであれば、炊飯ごとに確実に設定浸漬時間の最適化が行われる方が好ましいと考えられる場合もある。このような場合、以下のように構成することもできる。
【0079】
〔炊飯設備〕
この実施形態にかかる炊飯設備は、本実施形態と共通する部分については同様の構成を採用することができるので説明を省略するが、図12に示すように、浸漬装置2が炊飯対象米rの一部をサンプリングするサンプリング部41bと、サンプリング部41bに採取された炊飯対象米rを水に浸漬した状態で光学的に監視する光学カメラ装置42等を備えた監視部42bと、を備え、
前記監視部42bで炊飯対象米rの大きさや透過光強度を経時的に測定し、前記含水率関連情報から推定される炊飯対象米の含水率の飽和状態を検知して、炊飯対象米rを前記浸漬装置2から取り出して炊飯装置3に移送させる浸漬完了制御部61を備えて構成してある。
【0080】
この例では、サンプリング部41bは、浸漬装置2の浸漬容器21の壁部に設けた透光窓21a近傍にメッシュ状壁部材21bで区画された隙間領域21cで構成されている。
また、浸漬装置2に米rを投入する際には、サンプリング部41b近傍に自動的に米が採取され、また、米rの投入完了後には、メッシュ状壁部材21bが透光窓21aに対して押し当てられることで、複数の米rが透光窓21aに密着して並列された状態に保持されるように構成してある。この状態で、米rを水に浸漬する際にはサンプリング部41b内部の米rが水に浸漬された状態になる。また、メッシュ状壁部材21bは、浸漬装置2から水に浸漬済みの米rを排出する際に、透光窓21aから離間して隙間領域21cに採取した米rも容易に同時に排出できる構成となる。これにより、サンプリング部41bに採取した米rの含水状態は、透光窓21aから監視部42bにより監視することができる。
【0081】
この場合、浸漬装置2自体がサンプリング部41bを備えるとともに、サンプリング部41bに採取した米rを監視する監視部42bを備えるので、浸漬装置2内部に浸漬されている米rの状態を直接観察することができる。そのため、米rの浸漬を行いながら、米rの含水率が飽和状態に達するのに要する飽和浸漬時間を浸漬装置2における米の浸漬と同時進行で求めることができる。また、サンプリング部41bに米rを採取する作業を、浸漬装置2に米rを投入する作業を行う際に自動的に行える構成とできるから、簡易な構成でより確実に適切な米の飽和浸漬時間を管理できるようになるので好ましい。また、浸漬装置2の浸漬容器21壁部に透光窓21aを設けて外側から監視部42bにより監視する構成とすれば、監視部42b自体の防水等を考慮する必要が少なく、保守管理容易とできる。
【0082】
(3)
米を光学的に経時的に測定するのに、上述の実施形態ではDMSを用いたが、汎用性のあるカメラ装置や、光学顕微鏡装置を採用することができる。また、経時的に測定するという場合、カメラ装置で映像を観察することのみを意味するものではなく、実際的には画像を観察するものとし、数秒〜数十秒程度の間隔でとらえた撮像を連続的に観察する場合についても、「経時的に測定」とみなすものとする。
【0083】
(4)
また、飽和浸漬時間は環境温度に依存することから、浸漬装置および/または浸漬時間判定装置に温度計と温度制御装置とを設けて、浸漬装置における浸漬条件と浸漬時間判定装置における浸漬条件が同一温度になるよう制御することもできる。また、浸漬装置の温度と浸漬時間判定装置の温度が異なった場合、測定温度により設定浸漬時間を補正することもできる。さらに、設定浸漬時間として確保できる時間が飽和浸漬時間に比べて短い場合(たとえば、炊き上がり目標時刻までに十分な時間がなく、短い設定浸漬時間で炊飯を開始しなければならない状況など)、浸漬温度を制御することにより、あらかじめ決められた設定浸漬時間が、米の含水率が飽和状態に達す飽和浸漬時間になるように浸漬温度を制御することもできる。
【0084】
(5)
また、本発明にいう炊飯対象米は、ご飯として提供される白米に限らず、玄米であってもよいし、もち米等であってもよい。さらに、炊飯対象米の用途としても、ご飯など直接食する米以外であっても、種々用途で加熱加工される米を対象として含水状態の判定に利用することができる。例えば、米を原料とする菓子類の炊飯前の浸漬工程や、日本酒製造時の麹づくり前の浸漬工程などにも本発明を利用することができることはいうまでもない。
【0085】
(6)
上述の実施形態では、炊飯設備は浸漬時間判定装置4を備えていたが、炊飯設備は含水状態判定装置を備えてもよい。含水状態判定装置は、水に浸漬した状態に配置された炊飯対象米を光学的に監視する監視部を備え、炊飯対象米の含水率に関連する含水率関連情報を経時的に測定し、前記含水率関連情報から推定される炊飯対象米の含水率の飽和状態を検知して、炊飯対象米が炊飯に適した含水状態であると判定する飽和判定部を備える。飽和判定部においては、上述した炊飯対象米の含水状態判定方法を用いて判定が行われる。
【0086】
含水状態判定装置を備える炊飯設備は、次の様に構成することができる。炊飯設備は、浸漬装置2と炊飯装置3と含水状態判定装置と浸漬完了制御部61とを備える。浸漬装置2は、炊飯対象米を水に浸漬する。炊飯装置3は、浸漬装置2において吸水した炊飯対象米を受け入れて炊飯する。含水状態判定装置は、含水率関連情報から推定される炊飯対象米の含水率の飽和状態を検知して、炊飯対象米が炊飯に適した含水状態であると判定する。浸漬完了制御部61は、含水状態判定装置によって炊飯対象米が炊飯に適した含水状態であると判定されると、炊飯対象米を浸漬装置2から取り出して炊飯装置3に移送させる。
【0087】
(7)
上述の実施形態では、透過光強度として暗割合と平均輝度を用いる実験例を示した。透過光強度としては、光学的監視から得られる他の情報を用いることができる。例えば、米の輪郭線に囲まれる領域における濃度分布中で、最も多くの画素(ピクセル)が属する階調(ピーク強度)を用いてもよい。また、米に対応する画素の階調を全て足し合わせた値(合計輝度)を用いてもよい。
【0088】
(8)
上述の実験例2および比較実験例2では、暗割合と含水率との間に高い相関性があることを示した。実験例3および比較実験例3では、平均輝度と含水率との間に高い相関性があることを示した。そして、米の透過光強度を経時的に測定し、その透過光強度、すなわち暗割合または平均輝度から炊飯対象米の含水率の飽和状態を検知して、炊飯対象米が炊飯に適した含水状態であると判定できることを示した。この判定において更に、米における含水の不均一性を観測し、不均一性が解消した場合に、炊飯対象米が炊飯に適した含水状態であると判定してもよい。
【0089】
暗割合や平均輝度は、米の全体的な含水率を把握する数値といえるが、これらの数値が含水率の飽和状態を示しても、位置による含水の不均一が生じている場合がある。説明すると、米への吸水は表面だけでなくクラックや胚芽跡からも進行する。そうすると、クラック等からの吸水により米全体として画像上暗い部分が増えても、部分的に明るい部分すなわち吸水が十分でない部位が存在する場合がある。そのような状態で炊飯すると、炊飯後の米飯に硬い部分が残る可能性がある。そのような米については、さらに吸水させ、不均一性が解消した後に炊飯すると好適である。上述のように不均一性を加味して判定することにより、炊飯対象米が炊飯に適した含水状態である旨の判定を、さらに適切に行うことができる。
【0090】
不均一性の解消の判断は、例えば、図5に示すような米の撮影画像における濃度分布(輝度分布)に基づいて行ってもよい。詳しくは、輝度分布において最大輝度の±10の区間内に全ピクセルの70%以上が分布する場合に、不均一性が解消したと判断してもよい。不均一性の判断は、輝度分布の標準偏差が所定の閾値を下回ることや、輝度分布のFWHM(半値全幅)が所定の閾値を下回ること等を条件に行ってもよい。
【0091】
(9)
上述した光学的監視および含水率関連情報の測定は、単一の米(米粒)に対して行ってもよい。また、複数の米粒に対して行って、得られた暗割合や平均輝度等の数値を複数の米粒の間で平均し、平均値を用いて含水率の飽和状態を推定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の炊飯対象米の含水状態判定方法および炊飯設備は、食感に優れた炊飯米を提供するのに利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 :洗米機
2 :浸漬装置
21 :浸漬容器
22 :取り出し口
23 :開閉制御弁
3 :炊飯装置
30 :炊飯釜
31 :計量部
32 :加熱部
32a :加熱装置
33 :取り出し部
34 :搬送装置
4 :浸漬時間判定装置
41 :米保持部
42 :DMS(監視部)
5 :移送装置
51 :水切り部
52 :移送部
6 :制御装置
61 :浸漬完了制御部(飽和浸漬時間演算部)
62 :米移送制御部
63 :加熱制御部
r :炊飯対象米(米)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12