(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたステアリングコラム装置では、アウターチューブとインナーチューブとからなるコラムジャケット(ステアリングコラム)を、アウターチューブと一体のコラムブラケットとアッパーブラケットとの重合部においてテレスコピック位置調整機構の締付軸にて締め込むことで支持している構造であるため、支持剛性および曲げ剛性の向上に限界がある。
【0008】
加えて、転動体の介在による相応の摺動抵抗低減効果が期待できても、二次衝突時の衝撃エネルギー吸収をアウターチューブとインナーチューブの相対摺動ストロークのみに依存しているため、チューブ全長ひいてはステアリングコラムの長さの短縮化を図りつつ装置全体の小型化を図るにも自ずと限界があるばかりでなく、必要十分な衝撃エネルギー吸収効果を得るためには、転動体による摺動抵抗低減効果の度合い調整もしくは加減が難しいという問題がある。
【0009】
しかも、インナーチューブにはテレスコピック位置調整機構の締付軸に付帯する偏心カムが当接しているため、締付軸の締め込み加減によって衝撃エネルギー吸収時のアウターチューブとインナーチューブの摺動抵抗が変動してしまい、安定した衝撃エネルギー吸収特性が望めないおそれがある。
【0010】
また、特許文献2に記載されたステアリングコラム装置では、アウターチューブと一体のコラムクランプ部材がスリットにてすり割られていて、このコラムクランプ部材をテレスコピック位置調整機構の締付軸にて締め込むことで支持している構造であるため、上記スリットの存在によって、特許文献1に記載されたものと同様に支持剛性および曲げ剛性の向上に限界がある。
【0011】
さらに、特許文献2に記載されたステアリングコラム装置では、転動体が介装されている位置が、同時に衝撃エネルギー吸収時以外のアウターチューブとインナーチューブの相対位置を規制する締付部となっているため、衝撃エネルギー吸収に際して、アウターチューブとインナーチューブとの摺動動作の初期動作時に転動体を締付部から離脱させる必要があり、締付度合いのばらつき等により上記と同様に安定した衝撃エネルギー吸収特性が望めないおそれがある。
【0012】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、ステアリングコラム装置の剛性の向上を図る一方で、衝撃エネルギー吸収機構のエネルギー吸収部と摺動ガイド部とが機能的にも構造的にも独立していることを前提に、「こじれ」が作用した場合にも安定した衝撃エネルギー吸収特性が得られるようにしたステアリングコラム装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、車体に固定される下向きコ字状の取付ブラケットと、前記取付ブラケットのコ字状の内側に配置されて当該取付ブラケットに支持された上向きコ字状のロアジャケットと、前記ロアジャケットのコ字状の内側に配置されて当該ロアジャケットに支持された多角筒状のミッドジャケットと、前記ミッドジャケットに摺動可能に挿入支持されて当該ミッドジャケットと相似形をなす多角筒状のアッパージャケットと、二次衝突時にその衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収機構と、を備えたステアリングコラム装置である。
【0014】
その上で、前記衝撃エネルギー吸収機構は、衝撃エネルギー吸収のための荷重発生部として機能するエネルギー吸収部とは別に、二次衝突時にミッドジャケットとアッパージャケットとの摺動・収縮動作を円滑にするための収縮ガイド部を有していて、前記収縮ガイド部は、ミッドジャケットとアッパージャケットとの重合部に、両者の摺動方向に少なくとも二つ並べた転動体を
両者の摺動方向に沿って配置されたバー状の保持器に支持させてなる直動案内部材を介装することで形成してあり、前記ミッドジャケットとアッパージャケットとは、衝突時にせん断されるピン部材により衝突時以外の相対位置が規制されている構造のものとした。
【0015】
この場合において、前記ミッドジャケットとアッパージャケットとの相対摺動動作の安定化を図る上では、請求項2に記載のように、前記多角筒状のミッドジャケットと同じく多角筒状のアッパージャケットとの重合部において、多角形のそれぞれの角隅部に直動案内部材を介装してあることが望ましい。
【0016】
また、直動案内部材の取扱性や組付性を考慮した場合には、請求項3に記載のうように、複数の直動案内部材の保持器同士は、ミッドジャケットとアッパージャケットとの摺動時においても前記ピン部材よりも車両前方側に配置された連結部材により互いに連結されていることが望ましい。
【0017】
さらに、前記直動案内部材の組付性を考慮した場合には、請求項4に記載のように、直動案内部材の少なくとも後端部はミッドジャケットの後端部に係止されていて、ミッドジャケットに対する直動案内部材の位置決めがなされていることが望ましい。
【0018】
加えて、前記直動案内部材を介してのミッドジャケットとアッパージャケットとの相対摺動動作のさらなる安定化と相対回転の阻止とを図る上では、請求項5に記載のように、前記ミッドジャケットとアッパージャケットのそれぞれには、直動案内部材の転動体が転動するガイド溝が形成されていることが望ましい。
【0019】
ここで、前記衝撃エネルギー吸収機構のエネルギー吸収部はどのようなタイプのものであってもよいが、装置全体の小型化の観点からは、請求項6に記載のように、前記ミッドジャケットは、多角筒状のジャケット本体と、このジャケット本体の上部に固定された下向きコ字状のディスタンスブラケットと、から形成されていて、前記衝撃エネルギー吸収機構のエネルギー吸収部は、ディスタンスブラケットのコ字状空間に設けられていることが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の発明によれば、ミッドジャケットとアッパージャケットが共に多角筒状のものであることもさることながら、コ字状をなす取付ブラケットと同じくコ字状をなすロアジャケットとで、アッパージャケットが挿入されたミッドジャケットを上下から箱状に覆うようにして支持しているため、ステアリングコラム装置全体としての剛性、すなわち支持剛性や曲げ剛性が高く、強度に著しく優れたものとなる。
【0021】
また、衝撃エネルギー吸収機構におけるエネルギー吸収部と収縮ガイド部とが機能的にも構造的にも分割されたものとなっていて、収縮ガイド部は、多角筒状のミッドジャケットとアッパージャケットとの重合部に直動案内部材を介装したものであるため、二次衝突時にコラムジャケットに「こじれ」が生じた場合でも、ミッドジャケットとアッパージャケットとをスムーズに摺動・収縮動作させて衝撃エネルギー吸収を行うことができ、車両衝突時の条件の相違や車両へのステアリングコラムの搭載角度の相違にかかわらず、衝撃エネルギー吸収特性がきわめて安定したものとなる。
【0022】
さらに、収縮ガイド部はエネルギー吸収部から独立しているため、エネルギー吸収部でのエネルギー吸収特性を考慮することなくミッドジャケットとアッパージャケットとの摺動ストロークを単独で設定することができ、収縮ガイド部では直動案内部材本来のいわゆる転がり軸受機能が発揮されることになるので、衝撃エネルギー吸収特性が一段と安定したものとなる。
【0023】
請求項2に記載の発明によれば、多角筒状のミッドジャケットとアッパージャケットとの重合部において、多角形のそれぞれの角隅部に直動案内部材を介装してあるため、上記のように二次衝突時に「こじれ」が加わったとしても、ミッドジャケットとアッパージャケットとの相対摺動動作がきわめて安定して行われる利点がある。
【0024】
請求項3に記載の発明によれば、複数の直動案内部材の保持器同士は、前記ピン部材よりも車両前方側に配置された連結部材により互いに連結されているため、複数の直動案内部材がそれぞれに分離・独立している場合と比べて、直動案内部材の取り扱いが容易になるとともに、衝突時にミッドジャケットとアッパージャケットとが相対摺動動作するためにはピン部材がせん断される必要があるが、このピン部材のせん断に際して連結部材が障害となることがない。
【0025】
請求項4に記載の発明によれば、直動案内部材の少なくとも後端部はミッドジャケットの後端部に係止されてその位置決めがなされていることにより、ステアリングコラム装置の組立時の作業性が良好なものとなる。
【0026】
請求項5に記載の発明によれば、ミッドジャケットとアッパージャケットのそれぞれには、直動案内部材の転動体が転動するガイド溝が形成されているため、直動案内部材の本来の案内効果および相対回転を阻止する回転阻止効果が一段と顕著となり、ミッドジャケットとアッパージャケットの相対摺動動作がより安定化するとともに、相対回転の阻止が安定して行われるようになる。
【0027】
請求項6に記載の発明によれば、前記衝撃エネルギー吸収機構のエネルギー吸収部は、ディスタンスブラケットのコ字状空間に設けられているため、機能的にも位置的にも互いに独立しているエネルギー吸収部と収縮ガイド部とを、各ジャケットの軸心方向において互いにオーバーラップさせて配置することができ、これによってもまたステアリングコラム装置の小型化に寄与できる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1〜8は本発明に係るステアリングコラム装置を実施するためのより具体的な第1の形態を示し、ここでは手動操作にてチルト・テレスコピック操作が可能なステアリングコラム装置の例を示している。そして、
図1はステアリングコラム装置全体の斜視図を示し、
図2は
図1に示したステアリングコラム装置における主たる構成要素の分解斜視図を示している。また、
図3,4は
図1に示したステアリングコラム装置の側面図および断面図を、
図5は
図1に示したステアリングコラム装置の縦断面図をそれぞれ示している。
【0030】
図1,2に示すように、ステアリングコラム装置は、大きく分けて、図示しない車体への取付部材として機能する取付ブラケット1と、取付ブラケット1に対し車両上下方向(
図3の矢印a方向)に揺動操作可能(チルト位置調整可能)に支持されるロアジャケット2と、ロアジャケット2に対し車両前後方向(
図3の矢印b方向)に進退移動可能(テレスコピック位置調整可能)に支持されるミッドジャケット3と、ミッドジャケット3にその軸心方向で相対摺動可能に内挿支持されるアッパージャケット4と、アッパージャケット4に内挿されて回転可能に支持されるステアリングシャフト5と、上記チルト位置調整およびテレスコピック位置調整に備えて、取付ブラケット1とロアジャケット2およびミッドジャケット3の三者の圧締締結とその解除を司るロック機構6と、を備えている。そして、ステアリングシャフト5の後端部に図示しないステアリングホイールのボス部がセレーション結合される。
【0031】
図1,2に示すように、取付ブラケット1は、下面が開放されたいわゆる下向きコ字状の本体部1aと、本体部1aの上面に固定された前後一対のプレート状のステー1bとから構成され、本体部1aの上面中央部も開口部1cをもって開放されている。そして、それぞれのステー1bに形成された取付穴1dに挿入されるボルトにより車体に固定される。なお、本体部1aにおける双方の側壁部には、下方側を縁取りするかの如く補強リブ1eが直立形成されている。
【0032】
また、
図2に示すように、本体部1aにおける双方の側壁部の前端部には軸穴7が形成されているほか、双方の側壁部の後端部にはクランプ片8が延長形成されている。この一対のクランプ片8は、
図3から明らかなように、その上側に位置するステー1bおよび本体部1aの上面とは切り離されていることにより、クランプ片8,8同士が互いに接近離間する方向に自己弾性力の範囲内で弾性変形可能となっている。さらに、それぞれのクランプ片8には軸穴7を中心とする円弧状の長穴8aが形成されていて、後述するようにこの長穴8aの範囲内でチルト位置調整が可能となっている。
【0033】
図2に示すロアジャケット2は、上面が開放されたいわゆる上向きコ字状のものであり、前端部のみにがエンドプレート2aの付設によりボックス状に形成されている。ロアジャケット2の双方の側壁部の前端延長部にはそれぞれに軸穴9が形成されてているほか、双方の側壁部の中央部には前後方向に沿ってテレスコピック位置調整のための長穴10が形成さているとともに、双方の側壁部の後端部には一対の締結片2bが上方に向けて延長形成されている。
【0034】
ロアジャケット2は、
図4に示すように、取付ブラケット1のコ字状空間内に納まるように組み付けられ、その際にロアジャケット2側の軸穴9と取付ブラケット1側の軸穴7とを合致させた上でヒンジピン10を挿入してかしめ固定することにより、ロアジャケット2はヒンジピン10を支点として揺動可能に、すなわちチルト位置調整可能に取付ブラケット1に対し支持される。そして、上記のように、上向きコ字状のロアジャケット2が下向きコ字状の取付ブラケット1のコ字状空間内に納まるように組み付けられることにより、両者の重合部では略箱形(ボックス状)の断面形状を呈するかたちとなる。
【0035】
また、ロアジャケット2の周囲には当該ロアジャケット2を取り囲むようにして引っ張りコイルばねタイプのリターンスプリング11が装着される。このリターンスプリング11の両上端部のフック部は
図3に示すように取付ブラケット1側の後側のステー1bに形成された係止穴に係止される。これにより、取付ブラケット1に対しチルト位置調整可能なロアジャケット2は、常時上方側、すなわちヒンジピン10を支点として
図3の反時計周り方向に付勢されていることになる。
【0036】
図2に示すように、ロアジャケット2に形成されたテレスコピック位置調整のためのそれぞれの長穴10には、外側から当該長穴10に嵌合するように長穴12a(
図1,3参照)を有する摺動ガイド12が嵌合支持され、それらの長穴10,12aには後述する共締めピン45が摺動可能に挿通している。摺動ガイド12は例えば摩擦係数の小さな樹脂材料で形成される。
【0037】
ロアジャケット2の双方の側壁部の後端部に形成された締結片2bは、それらの締結片2b,2b同士が互いに接近離間する方向に自己弾性力の範囲内で弾性変形可能となっていて、それぞれに正方形または矩形状の軸穴2cが形成されている。
【0038】
図1,2に示すミッドジャケット3は、後述するように四角形または変形八角形の筒状をなすジャケット本体13と、そのジャケット本体13の上面に固定されたディスタンスブラケット14と、ジャケット本体13の双方の側壁部の前端から延長形成された一対の摺接片13aとから構成されている。
【0039】
ディスタンスブラケット14は下面が開放された下向きコ字状のものであり、その下端部側がジャケット本体13を跨ぐように近接させた上で溶接等によりジャケット本体13に固定してある。ミッドジャケット3は、ジャケット本体13が四角形または変形八角形の筒状のものでありながらも、それとは別に、そのジャケット本体13の側面の略中心位置(コラム中心の水平線と重なる位置)までディスタンスブラケット14で覆われたボックス断面形状を有し、ロアジャケット2の内側面に摺接する。このディスタンスブラケット14の双方の側壁部には、前後方向に沿ってテレスコピック位置調整のための長穴14aが形成さている。
【0040】
さらに、
図2に示すように、ディスタンスブラケット14の一方の側壁部は、ロアジャケット2の内側面と接する面からへこんだ凹面を有し、この凹面の外側には上記長穴14aと重なる長穴15a(
図1,3参照)を有するツースプレート15が固着される。
【0041】
ここで、ディスタンスブラケット14の一側面に固定されたツースプレート15には、
図1,3に示すように、長穴15aとともに長穴15aの一方の縁に長手方向に沿ってラックの如き形態のツース面15bがツースプレート15の表面よりも低くなるように形成されている。そのため、ロアジャケット2に組み付けられた状態でツースプレート15と正対することになるロアジャケット2側の一方の締結片2bの内側面がこのツース面15bに接することはない。したがって、後述するように、共にコ字状をなす取付ブラケット1とロアジャケット2とによりミッドジャケット3のディスタンスブラケット14が圧締締結される。
【0042】
図2に示すように、ジャケット本体13の前端に延長形成された一対の摺接片13aは、それらの摺接片13a,13a同士が互いに接近離間する方向に自己弾性力の範囲内で弾性変形可能となっていて、それぞれに軸穴が形成されている。
【0043】
一対の摺接片13aに形成された軸穴は、上記のようにミッドジャケット3が上向きコ字状のロアジャケット2のコ字状空間内に納まるように組み付けられた状態で、ロアジャケット2側の長穴10と摺動ガイド12の長穴12aとに重なり合うようにして軸穴と長穴10,12aに共締めピン45を挿入してかしめることで、ミッドジャケット3側の摺接片13aがロアジャケット2側の長穴10(摺動ガイド12の長穴12aを含む)に沿ってスライド可能なように連結される。その結果として、ロアジャケット2に対しミッドジャケット3がその軸心方向に摺動可能に支持される。
【0044】
図1,2に示すアッパージャケット4はミッドジャケット3のジャケット本体13と相似形の四角形または変形八角形の筒状をなしていて、ジャケット本体13に摺動可能に挿入される。さらに、アッパージャケット4には、
図5に示すように、アッパーシャフト5bがベアリング16,17を介して回転可能に支持されるとともに、このアッパーシャフト5bにセレーション嵌合して軸方向に移動可能に且つ一体で回転可能にロアシャフト5aが嵌合される。なお、ロアシャフト5aの先端部は、ロアジャケット2にベアリング16aを介して回転可能に支持されるとともに、キーロックカラー取付部5cを有しており、図示しない自在継手や他の軸部材を介してステアリングギヤに接続される。
【0045】
そして、後述する
図6のほか
図1,3に示すように、ミッドジャケット3のジャケット本体13とアッパージャケット4との軸心方向での相対位置決めを行い、双方の側壁部に形成されたピン穴18a,18bに両者にまたがるようにせん断可能なピン部材として例えば樹脂製のシャーピン(せん断ピン)19を圧入することで、ミッドジャケット3のジャケット本体13とアッパージャケット4とを固定してある。なお、シャーピン19の機能は、通常時にはミッドジャケット3のジャケット本体13とアッパージャケット4との相対摺動動作を阻止するように両者を連結しているものの、車両衝突時にアッパージャケット4に所定の荷重が加わった場合に初めてせん断されて、ミッドジャケット3のジャケット本体13とアッパージャケット4との相対摺動動作を許容することになる。
【0046】
図2に示すロック機構6は、ボルト状の操作軸20と、操作レバー21、円環状の可動カム部材22および固定カム部材23等から構成される。下向きコ字状の取付ブラケット1のコ字状空間内にミッドジャケット3がロアジャケット2とともに納まるように組み付けられた状態で、操作軸20は、操作レバー21、可動カム部材22、固定カム部材23、ロックばね61およびロック部材62のそれぞれを貫通した上で、さらに取付ブラケット1側のクランプ片8に形成された長穴8aと、ロアジャケット2の締結片2bに形成された軸穴2cと、ディスタンスブラケット14の長穴14a(ツースプレート15の長穴15aを含む)と、ディスタンスブラケット14の内部に固定したブロック33の長穴33dと、をそれぞれ貫通するようにして挿入される。
図4に示すように、ロック部材62は、長穴8a、軸穴2c、長穴14a,15aを貫通するとともに、ツースプレート15のツース面15bに噛み合い可能なロック歯を有する。
【0047】
そして、一方のクランプ片8の外側に操作軸20の頭部とともに操作レバー21と可動カム部材22および固定カム部材23のそれぞれが位置し、他方のクランプ片8の外側まで突出した操作軸20の先端にロック部材66、ロックばね61、受け駒24、スラスト軸受67およびワッシャー68がナット25により締め付けられることで、操作軸20の抜け止めが施される。
【0048】
操作軸20は、操作レバー21と可動カム部材22と一体に回転可能に固定されており、固定カム部材23に対しては相対回転可能に貫通する。また、固定カム部材23は一方のクランプ片8の長穴8aに回転不能に嵌合し、受け駒24も他方のクランプ片8に回転不能に嵌合する。他方のクランプ片8の外側にはチルトツースプレート65が固定されており、このチルトツースプレート65は長穴8aと重なる長穴を有し、この長穴の少なくとも一方の縁に沿って形成されたツース面にロック部材66のロック歯が噛み合い可能に設けられている。そのため、操作レバー21を回動操作すれば当該操作レバー21と操作軸20および可動カム部材22の三者が一体的に回転し、可動カム部材22と固定カム部材23とが相対回転することになる。そして、可動カム部材22と固定カム部材23のうち互いに対向しつつ圧接することになるそれぞれの対向面には、円周方向で山部と谷部とを凹凸状に交互に形成してそれらの山部と谷部とを傾斜面にて接続してなるカム面が形成されている。なお、各ロック部材62,66とブロック33の側面との間には、ブロック33側に配置するワッシャー64を介して解除ばね63がそれぞれ配置されている。この解除ばね63はロックばね61よりもばね力が弱く設定される。
【0049】
ここで、本発明の主たる特徴は車両衝突時の衝撃エネルギーを吸収する機構にあるが、当該衝撃エネルギー吸収機構の説明の前に、これまでの説明に基づくステアリングコラム装置でのチルト位置調整操作およびテレスコピック位置調整操作について説明する。
【0050】
図1に示すように、操作レバー21が下方に回動操作されていて且つ操作軸20上の可動カム部材22と固定カム部材23におけるカム面の山部同士が互いに乗り上げている状態では、チルト位置調整機能およびテレスコピック位置調整機能が共にロック状態となっている。
【0051】
すなわち、可動カム部材22と固定カム部材23におけるカム面の山部同士が互いに乗り上げていることにより、操作軸20がその軸心方向で頭部側に引っ張られて固定カム部材23と受け駒24の間隔が狭まることで、取付ブラケット1側の一対のクランプ片8を最も外側にして、その内側のロアジャケット2側の一対の締結片2bと、ミッドジャケット3のディスタンスブラケット14とが、操作軸20の軸心方向において圧締締結されている。同時に、テレスコロック部材62のロック歯がディスタンスブラケット14の一方の側面に設けたツースプレート15のツース面15aと噛み合うとともに、チルトロック部材66のロック歯が他方のクランプ片8の外側に設けたチルトツースプレート65のツース面と噛み合う。
【0052】
ここで、ロック部材62,66のロック歯とツースプレート15,65のツース面とが互いに歯先同士で接続するいわゆる歯先ロックの状態となった場合でも、ロックばね61が弾性変形することで上記圧締締結に影響することなくロックできる。
【0053】
これにより、ロアジャケット2が取付ブラケット1に対してチルト位置調整不能に、且つミッドジャケット3がロアジャケット2に対してテレスコピック位置調整不能に、それぞれロックされている。これにより、ステアリングコラム装置は
図1,3の状態を自己保持していて、ステアリングホイールによるステアリング操作が可能となっている。
【0054】
その一方、チルト位置調整(車両上下方向での位置調整)またはテレスコピック位置調整(車両前後方向での位置調整)に際しては、
図1の操作レバー21を下方に所定量だけ回動操作する。この操作レバー21の下方への回動操作により、可動カム部材22のカム面の山部が固定カム部材23のカム面の谷部に落ち込み、操作軸20の引っ張り軸力が緩められて、それまで取付ブラケット1のクランプ片8等に作用していた圧締締結力が解除されていわゆるアンロック状態となる。このアンロック状態では、各解除ばね63のばね力により各ロック部材62,66がツースプレート15,65から離脱した状態を維持する。
【0055】
このアンロック状態で、ヒンジピン10を揺動中心として取付ブラケット1に対しロアジャケット2を車両上下方向(
図3の矢印a方向)に揺動操作すれば、そのロアジャケット2とミッドジャケット3およびアッパージャケット4の三者を一体とした位置の調整が可能であり、取付ブラケット1側の一対のクランプ片8に形成された長穴8aの範囲内で、チルト位置調整(車両上下方向での位置調整)が可能となる。
【0056】
また、上記アンロック状態で、アッパージャケット4をミッドジャケット3とともに車両前後方向(
図3のb方向)に進退移動させれば、ロアジャケット2および摺動ガイド12の長穴10の範囲内で、テレスコピック位置調整(車両前後方向での位置調整)が可能となる。この場合において、操作軸20はミッドジャケット3のディスタンスブラケット14に形成された長穴14aにも挿通されているので、操作軸20がテレスコピック位置調整に支障をきたすことはない。
【0057】
このようにしてチルト位置調整またはテレスコピック位置調整を行った後に、操作レバー21を再度
図1の位置まで上方に回動操作すれば、先のロック状態に復帰することになる。
【0058】
このようなチルト位置調整機能およびテレスコピック位置調整機能が実現されるステアリングコラム装置においては、共締めピン45によって、ロアジャケット2の側壁部がミッドジャケット3の側壁部の一部でもある摺接片12に共締めされることで、ロック機構6の圧締締結力を受けてロアジャケット2側の締結片2bとディスタンスブラケット14とが接触する部分だけでなく、上記共締めピン45の共締め力でロアジャケット2の側壁部とミッドジャケット3の摺接片12とが接触することになる部分においても、ロアジャケット2がミッドジャケット3を保持するかたちとなるため、ステアリングコラム全体の支持剛性のほか上下および左右方向での曲げ剛性が高いものとなる。
【0059】
また、ミッドジャケット3のジャケット本体13とそれに内挿されるアッパージャケット4が共に四角形または変形八角形の筒状のものであることに加えて、下向きコ字状の取付ブラケット1のコ字状空間内に上向きコ字状のロアジャケット2を受容するように支持することで、両者の関係としては箱形(ボックス状)の閉断面を形成するかたちとなるため、これによってもまたステアリングコラム全体の支持剛性のほか上下および左右方向での曲げ剛性が高いものとなる。
【0060】
その上、上記のように、ミッドジャケット3側の摺接片13aをロアジャケット2側の側壁部の内面に摺動可能に当接させつつ共締めピン45にて共締めすることで、摺接片13aの自己弾性力によって、ミッドジャケット3におけるジャケット本体13の前端での「ぶれ」や「がたつき」を抑制することができる。
【0061】
次に、上記ステアリングコラム装置における衝撃エネルギー吸収機構について主として
図6〜8を用いて説明し、必要に応じて
図1〜5を参照するものとする。
【0062】
図6に示したステアリングコラム装置における衝撃エネルギー吸収機構26は、衝撃荷重の入力時に、ミッドジャケット3のジャケット本体13に対するアッパージャケット4の摺動動作に基づいて両者のスムーズな収縮動作を許容する収縮ガイド部27と、上記ジャケット本体13とアッパージャケット4との収縮動作に基づく入力荷重を吸収するべく、それに抵抗または対抗する荷重を発生させる荷重発生部として機能するエネルギー吸収部28と、で構成される。
【0063】
図6は上記衝撃エネルギー吸収機構26の構成要素のみを抜き出した分解図であり、ミッドジャケット3のジャケット本体13とアッパージャケット4とは後述するように互いに相似形で且つ四角形または変形多角形の筒状をなしていて、ジャケット本体13に対してアッパージャケット4が摺動可能に内挿されること、および両者がそれぞれの側壁部のピン穴18a,18bに圧入されてせん断可能なシャーピン19により連結されることは先に述べたとおりである。そのため、ミッドジャケット3のジャケット本体13とアッパージャケット4とは、シャーピン19による連結状態において
図5に示す所定の重合長Qをもって互いに重合している。
【0064】
その上で、
図6に示すように、ミッドジャケット3のジャケット本体13とアッパージャケット4との間には、直動案内部材としての複数のリニアガイド29を介装してある。ここでは、薄いバー状の保持器29aに転動体としての複数のボール(鋼球)29bを長手方向に並べて支持させたものを直動案内部材としてのいわゆるリニアボールベアリングタイプのリニアガイド29とし、さらに四つのリニアガイド29の前端部同士を連結部材としての薄板状のステー30にて不離一体的に連結してリニアガイドユニット31としてユニット化してある。このリニアガイドユニット31は、ミッドジャケット3のジャケット本体13とアッパージャケット4との
図5に示す重合長Qに相当する長さを有していて、
図5のc−c線断面に相当する
図7から明らかなように、ジャケット本体13とアッパージャケット4との間に確保された隙間Gに配置されている。
【0065】
より具体的には、
図7に示すように、ミッドジャケット3のジャケット本体13とそれに内挿されたアッパージャケット4は、共に断面が四角形の筒状体の四隅部(角隅部)にいわゆるC面取りを施したものと理解することができ、一つ置きの一辺部である短辺部の長さが他の一辺部である長辺部の長さに比べて大幅に小さな変形八角形の筒型構造のものとなっている。そして、ジャケット本体13とアッパージャケット4との間の隙間Gうちジャケット本体13側の短辺部とそれに対応するアッパージャケット4側の短辺部との間にそれぞれのリニアガイド29が位置するように、ジャケット本体13とアッパージャケット4との間に四つのリニアガイド29の集合体であるリニアガイドユニット31を介装してある。言い換えるならば、ミッドジャケット3のジャケット本体13とそれに内挿されたアッパージャケット4を共に断面が四角形の筒状体と理解する場合には、両者の重合部の四隅部(角隅部)にそれぞれにリニアガイド29が介装されていることになる。
【0066】
ここで、
図7から明らかなように、ジャケット本体13の短辺部の内側面にはその長手方向に沿って円弧状のガイド溝32aが形成されているとともに、アッパージャケット4の短辺部の外側面にはジャケット本体13側のガイド溝32aに対向するように同じく長手方向に沿って円弧状のガイド溝32bが形成されていて、これら双方のガイド溝32a,32bに各リニアガイド29のそれぞれのボール29bが着座している。そして、これらのガイド溝32a,32bはそれぞれのボール29bの軌道溝として機能し、ミッドジャケット3のジャケット本体13とアッパージャケット4とが収縮動作したときには、各ガイド溝32a,32bに沿って各リニアガイド29のボール29bが極めて低摩擦係数のもとで転動するようになっている。
【0067】
以上の説明から明らかなように、ジャケット本体13側のガイド溝32aとアッパージャケット4側のガイド溝32b、および四つのリニアガイド29の集合体であるリニアガイドユニット31とにより、衝撃エネルギー吸収機構26のうち、ミッドジャケット3のジャケット本体13に対するアッパージャケット4の摺動動作に基づいて両者のスムーズな収縮動作を許容する収縮ガイド部27が形成されている。
【0068】
他方、
図1,3,5に示すように、ミッドジャケット3におけるジャケット本体13の上面とディスタンスブラケット14との間のボックス状の空間には、衝撃エネルギー吸収機構26のエネルギー吸収部28が収容配置されている。このエネルギー吸収部28は、
図6に示すように、抵抗部材として抵抗ブロック33とこの抵抗ブロック33に巻き掛けられたワイヤ34とで形成されている。
【0069】
抵抗ブロック33は、
図3に示すように、ディスタンスブラケット14の全長に及びつつ一部がディスタンスブラケット14の後方側に突出するように上記ボックス状空間に挿入支持されていて、前後一対のねじ35によりディスタンスブラケット14に一体的に固定されている。
【0070】
また、この抵抗ブロック33は、
図6に示すように、ディスタンスブラケット14の後方側に突出する後端部が他の一般部よりも幅広で且つ後方側に向かって漸次高さが小さくなる先細りテーパ形状に形成された略シャトル状のものであり、後端部以外の下半部が
図5に示すすり割り溝33aをもってすり割られているとともに、後端部の裏面から上面側に跨るかたちで一対のワイヤガイド溝33bが略V字形状に形成されている。さらに、抵抗ブロック33の前端部には、両側面に突出する係合ガイド部33cが形成されている。
【0071】
この抵抗ブロック33はディスタンスブロック14のボックス状空間に挿入配置される故に、ディスタンスブロック14の側壁部に形成された長穴14a(
図2に示したツースプレート15の長穴15aを含む)の機能を阻害しないようにそれと重なる位置に長穴33dが形成されていて、結果として、
図3,5に示すように、この抵抗ブロック33に形成された長穴33dを先に述べたロック機構6の操作軸20が車幅方向に貫通している。
【0072】
抵抗ブロック33と共にエネルギー吸収部28を形成することになるワイヤ34は、
図6に示すように、例えば断面が円形の単一のピアノ線その他の強靱な金属ワイヤを全長を二分する位置で二つ折りしたいわゆる松葉状のものであり、その折り曲げ基部34aをアッパージャケット4に対する固定部として当該アッパージャケット4の先端上面に突出形成したフック部4aに係止させてあるとともに、折り曲げ基部34aから双方の端末までの中間部で折り返して抵抗部材に巻き掛けてある。
【0073】
より詳しくは、二つ折りしたワイヤ34の折り曲げ基部34aをフック部4aに係止させつつ、抵抗ブロック33の下面に沿わせるようにして後方側に一旦引き出し、さらに抵抗ブロック33の後端部においてワイヤガイド溝33bに沿わせるように上向きに巻き掛けて折り返した上で、一般部の両側面とディスタンスブラケット14の上面に沿わせつつ、双方の自由端部側の端末部を係合ガイド部33cに案内させながら抵抗ブロック33の先端側に引き出してある。
【0074】
また、抵抗ブロック33に形成された長穴33dをロック機構6の操作軸20が貫通していることにより、その抵抗ブロック33に巻き掛けられたワイヤ34は結果として操作軸20の上下にまたがるかたちで配索されていることになる。
【0075】
なお、ワイヤガイド溝33bは略V字形状に傾斜して形成されているため、ディスタンスブラケット14とジャケット本体13の上下方向の間隔を直径とする円弧よりもワイヤガイド溝33bの曲率を大きくすることが可能となる。これにより、ディスタンスブラケット14とジャケット本体13の上下方向の隙間を大きくすることなく、エネルギー吸収に必要なワイヤガイド溝33bの曲率を設定することが可能となり、ディスタンスブラケット14の小型化が図れる。
【0076】
このように、本実施の形態のステアリングコラム装置では、
図6に示す衝撃エネルギー吸収機構26において、衝撃荷重の入力時に、ミッドジャケット3のジャケット本体13に対するアッパージャケット4の摺動動作に基づいて両者のスムーズな収縮動作を許容する収縮ガイド部27と、上記ジャケット本体13とアッパージャケット4の収縮動作に基づく入力荷重を吸収するべく、それに抵抗または対抗する荷重を発生させる荷重発生部として機能するエネルギー吸収部28と、が機能分割されていて、収縮ガイド部27とエネルギー吸収部28とが別個の位置に配置されている。
【0077】
したがって、本実施の形態におけるステアリングコラム装置の衝撃エネルギー吸収機構26によれば、車載状態での通常時には
図1,3,5の状態を自己保持していて、ステアリングホイールによるステアリング操作のほか、先に述べたステアリングホイールのチルト位置調整やテレスコピック位置調整が可能となっている。
【0078】
その一方、車両の衝突に伴う乗員の二次衝突時に、ステアリングホイールおよびステアリングシャフト5を介してアッパージャケット4に設定荷重以上の荷重が加わると、それまでミッドジャケット3のジャケット本体13とアッパージャケット4とを固定していた
図6のシャーピン19がせん断され、リニアガイドユニット31を主要素とする収縮ガイド部27の機能によって、ジャケット本体13とアッパージャケット4との摺動動作が許容されることになる。
【0079】
これに伴い、ジャケット本体13とアッパージャケット4とが両者の間に介在しているリニアガイドユニット31を介してスムーズに摺動動作して、両者が低摩擦係数のもとで滑らかに収縮動作することになる。この収縮動作の安定性は、
図6,7に示したように、リニアガイドユニット31を形成しているそれぞれのリニアガイド29のボール29bが、ジャケット本体13およびアッパージャケット4側のそれぞれのガイド溝32a,32bに沿って転動することで確保される。これは、仮に二次衝突時にコラムジャケットに対する荷重として「こじれ」が生じた場合であっても同様である。
【0080】
これらのジャケット本体13とアッパージャケット4との収縮動作の際には、同時に、抵抗ブロック33とワイヤ34とを主要素とするエネルギー吸収部28が機能することを意味する。すなわち、ジャケット本体13とアッパージャケット4との収縮動作の際には、
図6に示すように、同時にアッパージャケット4の先端部に二つ折り状態で係止されているワイヤ34が車両前方側に牽引または引っ張られることになる。この場合において、車両前方側に引っ張られるワイヤ34は、ディスタンスブラケット14に固定されている抵抗ブロック33に
図6に示すように所定半径で形成されたワイヤガイド溝33bに折り返された状態で巻き掛けられているので、抵抗ブロック33の後端部のワイヤガイド溝33bにおいてしごき抵抗を受けながら徐々に引き出されることになる。
【0081】
より詳しくは、ミッドジャケット3のジャケット本体13とアッパージャケット4との収縮動作に伴って車両前方側に引き出されるワイヤ34は、抵抗ブロック33の後端部に巻き掛けられている部分において、その相対摺動によっていわゆる巻き癖を付けるような形態でしごき抵抗を受けるとともに、抵抗ブロック33の下側部分に及ぶようになると、先に付けられた巻き癖を矯正するように真直状態に戻されながら、アッパージャケット4の摺動によって車両前方側に引き出されることになる。
【0082】
そのため、収縮ガイド部27の主要素であるリニアガイドユニット31の介在のために、ミッドジャケット3のジャケット本体13とアッパージャケット4とが低摩擦係数のもとでその摺動動作が可能であったとしても、同時に、ジャケット本体13とアッパージャケット4との収縮動作に基づく入力荷重を吸収するべく、エネルギー吸収部28の抵抗ブロック33とワイヤ34との相対摺動に基づくしごき抵抗によって、上記入力荷重に抵抗または対抗する荷重を発生させることになる。これにより、ミッドジャケット3のジャケット本体13とアッパージャケット4との摺動抵抗の影響を受けることなく、車両の衝突に伴う乗員の二次衝突時の衝撃エネルギーを効果的に且つ安定して吸収することが可能となる。
【0083】
なお、
図8は、二次衝突時の衝撃エネルギー吸収に際して、ミッドジャケット3のジャケット本体13とアッパージャケット4とが所定ストロークのもとで収縮動作(摺動動作)した状態を示す。
【0084】
ここで、上記ワイヤ34の直径や、ワイヤガイド溝33bの溝幅や深さ、さらには抵抗ブロック33のうちワイヤ34の引き出しに際して当該ワイヤ34と摺動することになる後端部での曲率を変更することにより、二次衝突時の衝撃エネルギー吸収特性を調整することが可能である。
【0085】
このように本実施の形態によれば、衝撃エネルギー吸収機構26におけるエネルギー吸収部28と収縮ガイド部27とが機能的にも構造的にも分割されたものとなっていて、そのうち収縮ガイド部27は、ミッドジャケット3とアッパージャケット4との重合部に、保持器29aに転動体としてボール29bを支持させてなる直動案内部材としての複数のリニアガイド29を介装したものであるため、仮に二次衝突時にコラムジャケットに「こじれ」が生じた場合でも、ミッドジャケット3とアッパージャケット4とをスムーズに摺動・収縮動作させて衝撃エネルギー吸収を行うことができ、車両衝突時の条件の相違や車両へのステアリングコラムの搭載角度の相違にかかわらず、衝撃エネルギー吸収特性がきわめて安定したものとなる。
【0086】
しかも、収縮ガイド部27はエネルギー吸収部28から独立しているため、エネルギー吸収部28でのエネルギー吸収特性を考慮することなくミッドジャケット3とアッパージャケット4との摺動ストロークを単独で設定することができ、その摺動ストロークの短縮化によりステアリングコラム装置の小型化を図ることができるとともに、収縮ガイド部27では直動案内部材であるリニアガイド29本来のいわゆる転がり軸受機能が発揮されることになるので、衝撃エネルギー吸収特性が一段と安定したものとなる。
【0087】
ここで、上記以外の本実施の形態によってもたらされる効果を列挙するならば下記の通りである。
【0088】
(ア)ミッドジャケット3における多角筒状のジャケット本体13とアッパージャケット4との重合部において、ジャケット本体13およびアッパージャケット4の多角形断面を四角形のものと理解するならばそれぞれの角隅部(四隅部)に、同様にジャケット本体13およびアッパージャケット4の多角形断面を変形八角形のものと理解するならば
図7のそれぞれの短辺部に相当する位置に、直動案内部材としてのリニアガイド29を介装してあるため、上記のように二次衝突時に「こじれ」が加わったとしても、ミッドジャケット3とアッパージャケット4との相対摺動動作がきわめて安定して行われる利点がある。
【0089】
(イ)直動案内部材としての複数のリニアガイド29の保持器29a,29a同士は、ピン部材としてのシャーピン19と干渉しないように配置されたステー30により互いに連結されているため、複数のリニアガイド29がそれぞれに分離・独立している場合と比べて、リニアガイド29の取り扱いが容易になるとともに、衝突時にミッドジャケット3とアッパージャケット4とが相対摺動動作するためにはシャーピン19がせん断される必要があるが、このシャーピン19のせん断に際してステー30が障害となることがない。
【0090】
(ウ)ミッドジャケット3のジャケット本体13とアッパージャケット4のそれぞれには、リニアガイド29の転動体であるボール29bが転動するガイド溝32a,32bが形成されているため、リニアガイド29の本来の案内効果が一段と顕著となり、ミッドジャケット3とアッパージャケット4の相対摺動動作がより安定して行われるようになる。
【0091】
(エ)衝撃エネルギー吸収機構26のエネルギー吸収部28は、ミッドジャケット3のジャケット本体13とディスタンスブラケット14との間の空間に設けられているため、機能的にも位置的にも互いに独立しているエネルギー吸収部28と収縮ガイド部27とを、各ジャケット3,4の軸心方向において互いにオーバーラップさせて配置することができ、これによってもまたステアリングコラム装置の小型化、特に全長の縮小化にも寄与できる。
【0092】
図9〜11は本発明に係るステアリングコラム装置の第2の実施の形態を示す図で、先に説明した
図6等と共通する部分には同一符号を付してある。
【0093】
この第2の実施の形態では、
図9と
図6とを比較すると明らかなように、直動案内部材としての複数のリニアガイド29をステー30にて連結してユニット化してあるリニアガイドユニット41の構造が
図6のものと異なっている。
【0094】
より具体的には、
図9,10に示すように、四つのリニアガイド29の前端部同士および後端部同士を共に連結部材としての薄板状のステー30にて相互に連結してユニット化することでリニアガイドユニット41を形成してある。そして、
図11にも示すように、各リニアガイド29の保持器29aの後端には外側に突出する係止突起36を、各リニアガイド29の保持器29aの前端には内側に突出する係止突起37をそれぞれに形成してある。その上で、ミッドジャケット3のジャケット本体13とアッパージャケット4との重合部にリニアガイドユニット41が介装された正規組付状態においては、
図9に示すように各リニアガイド29の後端の係止突起36がジャケット本体13の後端面に係止され、同様に各リニアガイド29の前端の係止突起37がアッパージャケット4の前端面に係止されるようになっている。
【0095】
なお、各リニアガイド29の少なくとも後側の係止突起36は、ミッドジャケット3のジャケット本体13とアッパージャケット4が相対摺動動作した時には、破断またはせん断により各リニアガイド29の保持器29aから比較的容易に分離可能となっている。
【0096】
かかる構造によれば、四つのリニアガイド29の集合体であるリニアガイドユニット31がジャケット本体13およびアッパーチューブ4のそれぞれに対して位置決めされることになるので、ステアリングコラム組立時の組付作業性が良好となるとともに、リニアガイドユニット31の位置がずれてしまうことがない。また、先に述べた二次衝突に際して、ミッドジャケット3のジャケット本体13とアッパージャケット4とが相対摺動した時には、リニアガイドユニット31の少なくとも後側のそれぞれの係止突起36は、対応するリニアガイド29の保持器29aから破断またはせん断により分離することになる。
【0097】
なお、各リニアガイド29の前後の係止突起36,37のうち前側の係止突起37を廃止しても所期の目的は達成することができる。
【0098】
この第2の実施の形態においても、先の第1の実施の形態のものと同様の効果が得られることになる。
【0099】
ここで、上記第1,第2の実施の形態では、ミッドジャケット3のジャケット本体13およびアッパージャケット4として四角形または変形八角形の筒状のものを採用しているが、両者は共に相似形の多角形であれば良く、例えば正六角形や正八角形あるいはそれらを変形した多角形の筒状のものであっても良い。
【0100】
また、上記衝撃エネルギー吸収機構26のエネルギー吸収部28として、抵抗部材としての抵抗ブロック33とワイヤ34とを組み合わせたものを採用しているが、エネルギー吸収部28の具体的構造としてはこのタイプのものに限定されることはなく、収縮ガイド部27に対して機能的にも構造的にも独立していて且つ同等の機能を発揮できるタイプのものであれば、例えば裂開タイプや圧入タイプ等のような他のタイプのものであっても良い。
【0101】
さらに、直動案内部材としてのリニアガイド29の数やタイプも
図6,10に図示のものに限定されるものではなく、例えば転動体としてボール29bを採用したタイプのものに代えて、転動体として例えばニードルやころ等を採用したタイプのものであっても良い。さらに、リニアガイド29の介装位置も、ミッドジャケット3のジャケット本体13とアッパージャケット4との相対摺動動作を円滑化できる位置であるならば、必ずしも
図7に示した位置に限定されるものではない。