特許第6602175号(P6602175)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太平洋セメント株式会社の特許一覧

特許6602175セメントキルン排ガスの処理装置及び処理方法
<>
  • 特許6602175-セメントキルン排ガスの処理装置及び処理方法 図000002
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6602175
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】セメントキルン排ガスの処理装置及び処理方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/60 20060101AFI20191028BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20191028BHJP
   F27D 17/00 20060101ALI20191028BHJP
【FI】
   C04B7/60ZAB
   B09B5/00 N
   F27D17/00 105K
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-231314(P2015-231314)
(22)【出願日】2015年11月27日
(65)【公開番号】特開2017-95325(P2017-95325A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】輪達 仁司
(72)【発明者】
【氏名】林 康太郎
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−030883(JP,A)
【文献】 特開平11−035354(JP,A)
【文献】 特開2011−088770(JP,A)
【文献】 特開2010−158670(JP,A)
【文献】 国際公開第97/021638(WO,A1)
【文献】 特開2011−207678(JP,A)
【文献】 特開2009−234869(JP,A)
【文献】 特開2017−064593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 − 32/02
B09B 5/00
F27D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントキルンの窯尻からプレヒータの最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼排ガスの一部を冷却しながら抽気する抽気装置と、該抽気装置による抽気ガスを、粗粉と、微粉及びガスとに分離する分級機と、該分級機の排ガスを冷却する冷却器と、該冷却器の排ガスから前記微粉を回収する集塵機とを備える塩素バイパスシステムと、
前記抽気装置に付設された冷却媒体供給装置を介して該抽気装置にセメントキルン排ガスから回収したダストを添加する添加装置とを備えることを特徴とするセメントキルン排ガスの処理装置。
【請求項2】
セメントキルンの窯尻からプレヒータの最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼排ガスの一部を冷却しながら抽気する抽気装置と、該抽気装置による抽気ガスを、粗粉と、微粉及びガスとに分離する分級機と、該分級機の排ガスを冷却する冷却器と、該冷却器の排ガスから前記微粉を回収する集塵機とを備える塩素バイパスシステムと、
前記抽気装置の後段に配置され、該抽気装置による抽気ガスに二次冷却用の冷却媒体を供給する冷却媒体供給装置と、
該冷却媒体供給装置を介して前記抽気装置による抽気ガスにセメントキルン排ガスから回収したダストを添加する添加装置とを備えることを特徴とするセメントキルン排ガスの処理装置。
【請求項3】
セメントキルンの窯尻からプレヒータの最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼排ガスの一部を冷却しながら抽気する抽気装置と、該抽気装置による抽気ガスを、粗粉と、微粉及びガスとに分離する分級機と、該分級機の排ガスを冷却する冷却器と、該冷却器の排ガスから前記微粉を回収する集塵機とを備える塩素バイパスシステムを用い、前記抽気装置に冷却媒体を供給すると共に、セメントキルン排ガスから回収したダストを添加することを特徴とするセメントキルン排ガスの処理方法。
【請求項4】
セメントキルンの窯尻からプレヒータの最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼排ガスの一部を冷却しながら抽気する抽気装置と、該抽気装置による抽気ガスを、粗粉と、微粉及びガスとに分離する分級機と、該分級機の排ガスを冷却する冷却器と、該冷却器の排ガスから前記微粉を回収する集塵機とを備える塩素バイパスシステムを用い、前記抽気装置から排出される抽気ガスに二次冷却用の冷却媒体を供給すると共に、セメントキルン排ガスから回収したダストを添加することを特徴とするセメントキルン排ガスの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントキルンから排出される燃焼排ガスから水銀を回収する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水銀による地球規模での環境汚染を防止するため、日本では水銀を大気中に排出することを規制する法律の制定が検討され、世界規模では、水銀による健康被害や環境汚染を防止するため、水銀鉱山の新たな開発を禁じたり、体温計等の水銀含有製品の製造や輸出入を禁止する水俣条約が採択された。
【0003】
ところで、セメントキルン排ガスには、極微量の水銀が含まれている。その起源は、セメントの主原料である石灰石等の天然原料が含有する水銀の他、フライアッシュ等の多品種にわたるリサイクル資源に含まれる水銀である。今後、廃棄物のセメント原料化及び燃料化によるリサイクルが推進され、廃棄物の処理量が増加するに従い、セメントキルン排ガスに含まれる水銀濃度が増加する可能性が考えられる。
【0004】
そこで、例えば特許文献1には、セメントキルン排ガスから回収したダストを加熱し、ダストに含まれる水銀を揮発させる外熱キルンと、外熱キルンから排出された揮発水銀を含む水銀含有ガスを、水銀含有ガスと水銀除去ダストとに分離するバグフィルタと、分離された水銀含有ガスに含まれる揮発水銀を回収する活性炭吸着塔とを備え、活性炭吸着塔において水銀含有ガス中の水銀を活性炭に吸着させて回収する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−080741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の技術では、セメントキルン排ガスから水銀を効率よく回収することができるが、水銀を回収するために吸着剤として活性炭を用いると共に、外熱キルンやバグフィルタ等の装置を必要とするため、装置コスト及び運転コストの面で改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来技術における問題点に鑑みてなされたものであって、セメントキルン排ガスから低コストで効率よく水銀を回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、セメントキルンの窯尻からプレヒータの最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼排ガスの一部を冷却しながら抽気する抽気装置と、該抽気装置による抽気ガスを、粗粉と、微粉及びガスとに分離する分級機と、該分級機の排ガスを冷却する冷却器と、該冷却器の排ガスから前記微粉を回収する集塵機とを備える塩素バイパスシステムと、前記抽気装置に付設された冷却媒体供給装置を介して該抽気装置にセメントキルン排ガスから回収したダストを添加する添加装置とを備えることを特徴とする。
また、本発明は、セメントキルンの窯尻からプレヒータの最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼排ガスの一部を冷却しながら抽気する抽気装置と、該抽気装置による抽気ガスを、粗粉と、微粉及びガスとに分離する分級機と、該分級機の排ガスを冷却する冷却器と、該冷却器の排ガスから前記微粉を回収する集塵機とを備える塩素バイパスシステムと、前記抽気装置の後段に配置され、該抽気装置による抽気ガスに二次冷却用の冷却媒体を供給する冷却媒体供給装置と、該冷却媒体供給装置を介して前記抽気装置による抽気ガスにセメントキルン排ガスから回収したダストを添加する添加装置とを備えることを特徴とする。
【0009】
上記両発明によれば、塩素バイパスシステム内の熱を利用してセメントキルン排ガスから回収したダストを加熱して水銀を揮発させ、粗粉を分離した後に冷却することで水銀が濃縮した微粉を集塵機で回収することができるため、加熱装置等や吸着剤としての活性炭が不要となり、セメントキルン排ガスから低コストで効率よく水銀を回収することができる。また、ダストの搬送ガスを別途用意する必要がない。
【0012】
さらに、本発明は、セメントキルン排ガスの処理方法であって、セメントキルンの窯尻からプレヒータの最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼排ガスの一部を冷却しながら抽気する抽気装置と、該抽気装置による抽気ガスを、粗粉と、微粉及びガスとに分離する分級機と、該分級機の排ガスを冷却する冷却器と、該冷却器の排ガスから前記微粉を回収する集塵機とを備える塩素バイパスシステムを用い、前記抽気装置に冷却媒体を供給すると共に、セメントキルン排ガスから回収したダストを添加することを特徴とする。
また、本発明は、セメントキルン排ガスの処理方法であって、セメントキルンの窯尻からプレヒータの最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼排ガスの一部を冷却しながら抽気する抽気装置と、該抽気装置による抽気ガスを、粗粉と、微粉及びガスとに分離する分級機と、該分級機の排ガスを冷却する冷却器と、該冷却器の排ガスから前記微粉を回収する集塵機とを備える塩素バイパスシステムを用い、前記抽気装置から排出される抽気ガスに二次冷却用の冷却媒体を供給すると共に、セメントキルン排ガスから回収したダストを添加することを特徴とする。
【0013】
上記両発明によれば、塩素バイパスシステム内の熱を利用してセメントキルン排ガスから回収したダストを加熱して水銀を揮発させ、粗粉を分離した後に冷却することで水銀が濃縮した微粉を集塵機で回収することができるため、ダストの加熱等に要するコストを低減することができ、また、活性炭を用いないため、低コストで効率よく水銀を回収することができる。また、ダストの搬送ガスを別途用意する必要がない。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、セメントキルン排ガスから低コストで効率よく水銀を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るセメントキルン排ガスの処理装置の一実施形態を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明に係るセメントキルン排ガスの処理装置の一実施形態について、図1を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明では、抽気ガスを2段階で冷却するセメントキルン排ガスの処理装置を例示する。
【0019】
このセメントキルン排ガスの処理装置1は、セメントキルン2の窯尻からプレヒータ3の最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部G1を一次冷却しながら抽気する抽気装置としてのプローブ4と、抽気ガスG3から粗粉D1を分離するための分級機としてのサイクロン5と、サイクロン5から排出された微粉D2を含む抽気ガスG4を冷却する冷却器6と、冷却器6から排出された排ガスG5から微粉D2を回収する集塵機としてのバグフィルタ7等を備える塩素バイパスシステムと、プローブ4から排出された抽気ガスG2に冷却空気A2が添加された後の抽気ガスG3に、セメントキルン排ガスから回収したダスト(以下「キルンダスト」という)KDを添加するための添加装置10等で構成される。
【0020】
プローブ4は、セメントキルン2の窯尻からキルン排ガス流路の一部として上方へ向かう立上り部に突設され、冷却空気A1を介して抽気ガスG1を一次冷却するための冷却ファン11が設けられる。プローブ4の後段には、プローブ4から排出された抽気ガスG2を冷却空気A2を介して二次冷却するための冷却ファン12が付設される。
【0021】
サイクロン5、冷却器6及びバグフィルタ7は、従来のセメントキルン排ガスの処理装置で用いられるものと同様の構造を有する。
【0022】
次に、上記構成を有するセメントキルン排ガスの処理装置1を用いた、本発明に係るセメントキルン排ガスの処理方法について図1を参照しながら説明する。
【0023】
セメントキルン2の窯尻からプレヒータ3の最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部G1をプローブ4で抽気すると同時に、800〜1100℃程度の抽気ガスG1を冷却ファン11からの冷却空気A1でKCl等の塩素化合物の融点である600℃以下、好ましくは400℃以下にまで一次冷却する。これによって、抽気ガスG1中のKCl等の塩素化合物が析出して抽気ガスG2中の微粉の表面等に付着する。
【0024】
次に、抽気ガスG2を冷却ファン12からの冷却空気A2で400℃以下、好ましくは300℃以下にまで二次冷却する。これによって、抽気ガスG2中に残存するKCl等の塩素化合物が析出して抽気ガスG3中の微粉の表面等に付着する。
【0025】
二次冷却後の抽気ガスG3に、添加装置10からキルンダストKDを添加する。抽気ガスG3の熱によってキルンダストKDに含まれる水銀が揮発する。
【0026】
抽気ガスG3をサイクロン5に導入し、粗粉D1と、微粉D2を含む抽気ガスG4とに分離し、粗粉D1をキルン系に戻すと共に、微粉D2を含む抽気ガスG4を冷却器6で200℃以下、好ましくは100℃以下にまで冷却する。これにより、揮発水銀が液化して微粉D2に濃縮する。
【0027】
冷却器6の排ガスG5をバグフィルタ7に導入して微粉D2を回収する。回収した微粉D2は水銀濃度に応じて、セメントに添加するか廃棄処分する。バグフィルタ7の排ガスG6はキルン排ガス系に戻す。
【0028】
以上のように、本実施の形態によれば、塩素バイパスシステム内の熱を利用してキルンダストKDを加熱して水銀を揮発させ、粗粉D1を分離した後に冷却器6で冷却することで水銀が濃縮した微粉D2をバグフィルタ7で回収することができるため、加熱装置や活性炭が不要となり、キルンダストKDから、低コストで効率よく水銀を回収することができる。
【0029】
尚、上記実施の形態においては、二次冷却後の抽気ガスG3に、添加装置10からキルンダストKDを添加したが、これに限らず、プローブ4のセメントキルン2側端部の近傍や、プローブ4そのもの、又はプローブ4の下流側からサイクロン5の上流側までの間に添加してもよく、冷却空気A1、A2を介して添加することもできる。
【符号の説明】
【0030】
1 セメントキルン排ガスの処理装置
2 セメントキルン
3 プレヒータ
4 プローブ
5 サイクロン
6 冷却器
7 バグフィルタ
10 添加装置
11、12 冷却ファン
図1