【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
〔実施例1〕
[要約]
血圧は常に変動し概日リズムを示す。この概日リズムは中枢及び末梢神経系を介して制御される。しかしながら、その機序の詳細は明らかではない。我々は、末梢性機序の一つとしていままで前駆体としてのみ考えられて来たL-ドーパ(ドーパ)がGPR143を介して血管のα1
B-アドレナリン受容体の感受性を感作することを通じて血圧の概日リズムの調節因子としての役割を果たすことを見出した。GPR143の全身および血管平滑筋特異的遺伝子欠損マウスにおいて、フェニレフリンによる血圧上昇応答が減弱する。ドーパは大動脈平滑筋細胞において、フェニレフリンによる血管収縮ならびに細胞内カルシウム応答を増強する。Gpr143遺伝子欠損マウスにおいて、ストレスに対する昇圧応答や夜間における血圧上昇が認められない。我々の結果は、交感神経系は、DOPA-GPR143を介するシグナル伝達経路によって心血管機能の概日リズムを制御することを示す。
【0031】
[本文]
血圧は心拍数と末梢血管のトーヌスによって決まる。この両者はα1アドレナリン受容体(α1AR)を含むGタンパク質連関型受容体 (GPCR) を介して交感神経から放出されるノルアドレナリンによって制御される(文献1-5)。
ドーパはカテコールアミンの前駆体として確立され、それ自体は活性がないとされてきた。この一般概念に反して、ドーパ自体が伝達物質様に遊離され、芳香族アミノ酸脱炭酸酵素 (AADC)阻害下においても一定の薬理学的作用が認められること、そしてこれらの作用がDOPA シクロヘキシルエステル(DOPA CHE)をはじめとするドーパに構造が類似した化合物によって拮抗される(7)。圧受容器反射は、心血管系をネガティブフィードバックに制御する血圧制御の基本的な機構である。圧受容器反射の一次求心性線維は、孤束核 (NTS)と呼ばれる中枢にある減圧神経に神経終末を送るが、ドーパはその部位で圧受容器反射を媒介する神経伝達物質として作動する。ドーパは眼白子症の原因遺伝子OA1(ocular albinism-1) (GPR143)というG蛋白質連関型受容体を介して脳幹部孤束核における圧受容器反射一次求心性線維の伝達物質として作動する(8,9)。しかし、この生体内における役割は未だ明らかではない。ドーパの生体内における役割を明らかにするため、我々は今回、Grp143遺伝子欠損(Gpr143
-/y)マウスにおいて、α1作動薬のフェニレフリンに対する昇圧応答を検討した。野生型マウスに比して、Gpr143
-/yマウスにおいては、この応答が野生型に比べて低下していることを発見した(
図1B, C)。バソプレシンもクラスB GPCRに属するV1a受容体を介して血管収縮をひき起す(12)。バソプレシンはGpr143
-/yマウスにおいても、野生型と同程度に用量依存性に血圧を上昇させた (
図1E)。この結果は、GPR143はα1アドレナリン作動性神経伝達を選択的に修飾することを示唆する。血管の緊張性は、α
1ARによって制御されるため、GPR143が血管平滑筋(VSMCs)に発現しているかどうかを検討した。GPR143の免疫陽性シグナルはおもにVSMCsの細胞質に検出された(
図5)。Gpr143
-/yマウスにおいて同シグナルは検出されなかった。さらにフェニレフリン応答の減弱が平滑筋に発現するGPR143の機能によるものかどうかを検討するため、Tg(Taglin-cre)1Her/J, (smooth muscle protein 22-alpha; sm22)-cre (sm22-cre; Gpr143
flox/y) マウスを用いて、平滑筋特異的Gpr143遺伝子欠損マウスを作製した。フェニレフリンによる血圧上昇応答は、平滑筋特異的Gpr143遺伝子欠損マウスにおいても全身遺伝子欠損マウス同様に減弱していた(図 1F)。この結果は、血管平滑筋に発現するGPR143がα1アドレナリン受容体を介する交感神経伝達を陽性に制御し血圧調節に関わることを示唆する。このフェニレフリンに対する応答能の減弱が血管収縮・弛緩機能や交感神経系の興奮調節機能に関わるα1ARなどの受容体の発現レベルの変化に基づくのかもしれない。しかしながら、Gpr143
-/yマウスの下降大動脈におけるα1アドレナリン受容体、心臓β受容体、そして孤束核のグルタミン酸受容体は野生型との間に差は認められなかった(
図6)。また、カテコラミン合成酵素であるチロシン水酸化酵素 (TH) はgpr143欠損マウスにおいても野生型と同程度に、交感神経系を含む組織および副腎に発現していた(
図7A, B)。ドーパおよびカテコラミンは中枢神経系、交感神経、副腎髄質細胞からカルシウム依存性に遊離される(7,13,14)。我々は野生型およびGpr143
-/yマウスにおける夜間と昼間のドーパ、ノルアドレナリン、アドレナリンの血中濃度を測定したが、両群に有意な差異は認められなかった(
図7C)。
【0032】
もしGPR143が生理学的に血圧、心拍数を緊張性に制御しているとすれば、Gpr143
-/yマウスの血圧・心拍数は野生型と比して低下していると考えられる。しかし、実際には野生型とgpr143遺伝子欠損マウスとの間に基礎平均血圧および心拍数には差がなかった。これは、遺伝子欠損マウスにおいて良く起こる代償性変化によるものかもしれない。GPR143がドーパによる緊張性制御を受け、血圧制御に関わるか否かを検討するため、DOPA CHE単独の血圧・心拍数に対する効果を検討した。DOPA CHEの静脈内注射は、用量依存性に野生型マウスにおいて平均血圧を低下した。一方、DOPA CHEはGpr143
-/yマウスにおいて無作用であった(
図1G)。この結果は、ドーパ受容体であるGPR143の血圧維持における緊張性機能を示唆する。
【0033】
Gpr143
-/yマウスのフェニレフリン応答の低下は、GPR143とα1アドレナリン受容体(αAR)の機能的連関を示唆する。血管平滑筋にはα1
A, 1
B, 1
Dの三種類のα1ARが発現している。α1
Aとα1
D受容体が交感神経系による血管収縮における主要な役割を果たしている(15)。α1
BARはマイナーではあるが、重要な役割を果たしている(16-18)。興味深いことに、α1
BARはGPR143が高い発現を示す網膜ではフェニレフリンによる血管収縮における主要な役割を果たす(19)。従って、GPR143はα1BARと相互作用し、フェニレフリンによる血管収縮を修飾する可能性がある。α1
BとGPR143の機能的連関の可能性を検討するため、α1
BARとGPR143との局在関係を免疫組織化学的に検討した。HEK293細胞に発現させたα1BAR-mCherryとGPR143-EGFPとは共局在した(
図2A)。免疫沈降法では、GPR143はα
1A, α
1B および α
1DARのいずれとも共沈することが明らかになった (図 2B, C,
図8A, B)。この相互作用は、37℃下にドーパ10 nMを作用させることにより増強した(図 2C,
図9メンブレン全体)。α
1BAR と GPR143との機能的連関を検討するため、ERKのリン酸化アッセイを行った。免疫沈降法アッセイもまた、GRP143がα1ARと相互作用することを示した(
図2B)。GPR143とα1BARとの相互作用はドーパを一分間、37℃でインキュベートした際に増強した(
図2C、
図9ではメンブレンの全体を示す)。この相互作用の機能的連関を調べるため、ERKのリン酸化アッセイを行った。フェニレフリンはα1ARを発現する細胞(20)および血管平滑筋細胞(21)においてERKのリン酸化を引き起こす。我々はHEK293細胞において、このα1ARを介するフェニレフリンの効果がGPR143の存在によって修飾されるかどうかを検討した。フェニレフリンは濃度依存性にEGFPとα
1A, α
1B および α
1DAR-Mycを発現する細胞においてERKのリン酸化を増加した。このα1AR単独発現細胞におけるフェニレフリンの増加効果は、GPR143-EGFPとα1
BAR-Myc発現細胞においてさらに増強する一方、GPR143-EGFP と、α
1Aあるいは α
1DAR-Myc発現細胞においては認められなかった(
図2D, E,
図10)。フェニレフリンはGpr14
+/yマウス血管平滑筋において濃度依存性にERKのリン酸化を引き起こした。一方、Gpr143
-/yマウス由来平滑筋細胞においては、この作用は認められなかった(
図11)。加えて、受容体結合実験は、GPR143-EGFPとα1BAR-Mycとの双方を発現するHEK293細胞において、α1
BARに対するフェニレフリンの親和性を、α1
BAR-Mycのみを発現する細胞に比し(Ki = 2.4 μM, n = 3)、高い親和性を示した(Ki = 9.3 μM, n = 3)(
図2F)。この結果は、α
1BAR とGPR143との機能的連関がα
1AR受容体を介する情報伝達をポジティブに制御することを示唆する。 たとえば、ドパミンD1受容体はプロスタグランディンEP1と相互作用し、D1受容体作用はEP1作動薬依存性に増強される(23)。CXCR4とα1Aおよびα1Bとの相互作用は、α1AR受容体機能を修飾する(4)。
【0034】
この受容体間相互作用の生理学的な妥当性についての証拠を得るため、Gpr143
-/yおよび野生型マウスの下行大動脈において、フェニレフリンによる血管収縮を検討した。野生型マウスの血管標本において、フェニレフリンは濃度依存性に収縮を引き起こした。一方、Gpr143
-/yマウス血管標本においては有意に抑制されていた(
図3A)。DOPA CHEの前処置はフェニレフリンの効果を抑制した(
図3B)。ドーパ(1と10 nM)の前処置は、濃度依存性に野生型大動脈においてフェニレフリン (100 nM)の効果を増強したが、Gpr143
-/y大動脈においては増強しなった(
図3C)。この効果はドーパからドパミンへの変換を触媒する芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(Aromatic L-amino acid decarboxylase, AADC)阻害剤であるα-Hydrazino-m-cresol dihydrochloride, 3-(Hydrazinomethyl)phenol dihydrochloride (NSD-1015)(10 μM) 存在下にAADCを阻害した条件下においても認められた。これらの結果はナノモル濃度のドーパが血管平滑筋においてGPR143を介してフェニレフリンに対する収縮応答を増強することを示す。このドーパの有効濃度は、血液中のドーパ濃度に匹敵する(
図7C)ものであり、GPR143を介するドーパの生理学的作用を示唆する。次に、マウス血管平滑筋細胞におけるフェニレフリン誘発性カルシウム応答を検討した(図 3D, E)。野生型細胞ではドーパ10 nMはフェニレフリンの効果を増強したが、gpr143遺伝子欠損平滑筋細胞においては増強しなかった(
図3D,E)。導入したタンパク質が2つに効率的に開裂されるようなブタテッショウウイルスの配列由来のあるペプチド配列を用いて、α1
BARとGPR143を両方発現するベクターを構築した。ヒト網膜色素上皮細胞株(ARPE19)細胞に遺伝子導入したこの発現ベクター産物のブロットパターンは、α1
BARおよびGPR143のブロットパターンとそれぞれほぼ同等であるため、この発現ベクターから得られた産物が2つのタンパクに正しく開裂されていることが確認できた(
図12A, B)。α1
BARとGPR143とを発現するARPE19細胞においてフェニレフリン (500 pM)はわずかではあるが有意に細胞内Ca2+の上昇を惹起した。この効果はドーパ10 nMによって顕著に増強され、このドーパの効果は10 μMのDOPA CHEにより抑制された(
図12C,D)。
【0035】
我々は次にGPR143を介する制御が生理学的な状況下で作動するかを検討した。我々はGpr143
-/yマウスと野生型マウスとでテールピンチによる昇圧応答と血圧の日内変動を検討した。テールピンチは野生型マウスに血圧上昇をもたらした。この上昇はプラゾシン前処置により消失した(
図4a, b)。この結果はテールピンチ刺激が交感神経を介して昇圧応答を引き起こすことを示す。テールピンチによる昇圧応答はGpr143
-/yマウスにおいては野生型に比し、減弱していた(
図4Aa, b)。同様な減弱は、Gpr143の血管平滑筋特異的欠損マウスにおいても認められた(
図4Ac)。この結果は血管に発現するGPR143が急性ストレスの昇圧応答に関わることを示す。さらにGpr143
-/yマウスは血圧の日内リズムにも異常を示した(
図4B)。この血圧・心拍の日内リズムは、交感神経系の活動変動と血管平滑筋の感受性変化の2つのうちどれかあるいは双方が関わる可能性がある。我々の検討でも血中のドーパおよびカテコラミンには明らかな日内変動が認められた(
図7B,中央および右)。ドーパおよびノルアドレナリンの血中レベルは昼間よりも夜間の方が有意に高い値を示した(
図7C)。野生型では、夜間の血圧が高く、同時に血中カテコラミンレベルも高値を示した(
図4Ba,
図7C)。注目すべきは、Gpr143
-/yマウスにおいてはこの血圧の概日リズムは障害されていた(
図4Ba)。野生型とGpr143
-/yマウスの間に血中カテコラミンレベルの日内変動の相違は認められなかった(
図7C)。血管平滑筋におけるα1AR、GPR143についての日内変動についても野生型およびGpr143
-/yマウスともに認められなかった(
図13)。
【0036】
我々の結果は、血管平滑筋のGPR143が痛みのストレスや日内変動下における血圧制御に関わることを示す(
図4)。さらに血中ドーパが夜間の活動期に上昇することは、ドーパ-GPR143伝達が交感神経伝達におけるα1
BARの修飾を介して血圧の生理学的な調節に関与することを示唆する。このカテコラミンの前駆体による制御機構の異常は、早朝高血圧、non-dipper, riser、不整脈、心筋梗塞や血圧異常などの循環器障害の発症に関与する昼夜の循環制御リズムの異常につながるかもしれない。ドーパの生理学的な機構の理解は心血管調節の異常に対する新たな治療戦略に貢献する。
[材料と方法]
[実験手順]
すべての手技は横浜市立大学大学院医学研究科において定めた実験動物計画の基準および米国NIHの実験動物取り扱い基準に準拠した。実験を通じ、実験動物の使用数と苦痛の軽減に最大限の努力を払った。
[動物]
遺伝子型 Gpr143
-/y (8), Gpr143
flox (8), SM22-cre (23)マウス (体重、20-25 g)を使用した。Gpr143
-/yを用いた実験は一つの遺伝学的バックグランド(C57BL/6J)において行った。SM22-creはJaxson laboratory から購入したものを用いた。マウスは室温23 ± 1 ℃、湿度55 %下、12時間の明暗サイクル下に制御された部屋に、食餌と水の制限なしに飼育した.
[観血的血圧・心拍測定]
マウスはウレタン(1.2 g/kg, i.p.)で麻酔した。大腿動脈と静脈に各々、血圧のモニターと静脈内投与とを目的としてカニューレを挿入した(7、24)。フェニレフリン(0.3-2.4 μg/kg)、バソプレシン (0.25-2.0 μg/kg) そして DOPA CHE (1-20 mg/kg)に対する心血管系の急性応答は血圧と心拍を測定することによって行った。L-DOPA CHE 10 mg/kg, i.v.を前投与する際にはフェニレフリンの投与5分前に行った。テールピンチに対する昇圧応答では、マウスは3% イソフルレンにて麻酔導入を行い、2 %で維持した。カニューレ挿入後は、血圧と心拍数を記録し、マウスのテールピンチは10秒間行った。
[テールカフによる間接測定法による血圧・心拍数のモニタリング]
収縮期血圧はスフィングモナノメーター(BP-monitor MK-2000; Muromachi Kikai Co., Tokyo, Japan)を用い、テールカフ法により測定した(28)。マウスをホルダーに入れ、血圧と心拍数を麻酔下に測定した。8:30-11:30 amに測定した血圧を昼間血圧とし、8:30-11:30 pmに測定した血圧を夜間血圧とした。
[血中ドーパ及びカテコラミンの測定]
マウスをイソフルランで麻酔し11:00 amおよび 9:00 pmに、心臓から血液を採取した。除タンパクを行うため、予め血清に10 ngのイソプロテレノールを内部標準として加えた後、トリクロロ酢酸4%、エチレンジアミン四酢酸(EDTA) 0.1 %(いずれも最終濃度)を加え、30分間、氷上に置いた。遠心後、上清中のドーパとカテコラミンをアルミナを用いて部分精製し、0.1規定塩酸により溶出し、高速液体クロマトグラフィーと電気化学的検出器(Eicom, Kyoto, Japan) を用いて測定した。
[下行大動脈血管環の等尺性緊張度測定]
野生型およびGpr143遺伝子欠損マウスをイソフルランを用いて麻酔し、下行大動脈を摘出し、容器に移して37℃に保った。2本のタングステンワイヤー(40 μm径)を管腔に通し、2チャンネルの筋運動記録器(Dial wire myograph system-410A, Unique Medical, Tokyo, Japan)に装着した。張力が安定した後、フェニレフリン (10-8~10-5 M)を適用した。DOPA CHE (1 mM)はフェニレフリン投与前、5分で投与した。ドーパ(1, 10 nM)はフェニレフリン処置2.5 分前にNSD1015 10 μM処置下に投与した。実験終了後、高カリウム溶液 (NaCl, 22mM; KCl, 120mM; CaCl2, 1.5mM; glucose, 6mM; MgCl, 1mM; HEPES, 5mM; pH7.4)により収縮が起こることを確認した。
[リアルタイムPCR]
マウス下行大動脈、心臓、下位脳幹部の総RNAをTRIzol試薬 (Invitrogen, CA, USA)により抽出した。一本鎖cDNAを得るため、500 ng総RNAを50 pmolの oligo(dt)20, 10 pmol dNTP混合液を混ぜ、13.5 μl容量で65℃で5分間インキュベートし、1分間氷上に置いた。そしてこの混合液に緩衝液、5 mMジチオスレイトール、100 UのSuperScript逆転写酵素(Invitrogen, CA, USA)を加え、50℃、50分間インキュベート、さらに70℃、15分間インキュベートした。これを鋳型としてα
1AAR, α
1BAR, α
1DAR, α
1AR, α
2AR, GluR1, GluR2, NR2A, NR2B mRNAについての判定量的PCR解析を行った。GAPDHは内部標準として用いた。それぞれのプライマーの配列は別表に示した。リアルタイムPCRは95℃、20秒間、続いて95℃、5秒間と60℃で20秒の45サイクルで行った。結果は、RQマネージャー1.2ソフトウェア(Invitrogen)を用いて相対的2
-ΔΔCt法で評価した。すべてのデータは野生型における各レベルを基準とした相対値で示した。
プライマー:
【0037】
[マウス下行大動脈からの血管平滑筋細胞培養]
マウス血管平滑筋細胞を既報に従って調整した(29)。野生型ないしgpr143遺伝子欠損マウスをイソフルランで麻酔し、大動脈を中央でカットし放血し、1000U/mlのヘパリンを含む生理的食塩水 1 mLで左室から還流した。大動脈を大動脈弓から腹部大動脈にかけて摘出した。血管は縦軸にそって切開し、60 mmのディッシュに置いて2,3 mm程度の大きさに細断した。大動脈に付着した溶液を軽く乾燥させてから10 % FBSを含むDMEM溶液を加え、細胞をインキュベーターに置き、10日培養した。
[免疫沈降]
FuGENE6 (Roche, Meylan, France)を用いてα
1AAR-Myc, α
1BAR-Myc 及び α
1DAR-Myc と GPR143-HAとをHEK293細胞に発現させた。2日後、細胞を免疫沈降液(20mM Tris-HCl, pH 8.0, 150 mM NaCl, 1mM 2-({2-[bis(carboxymethyl)amino]ethyl}(carboxymethyl)amino)acetic acid (EDTA), 10mM NaF, 1 mM Na
3VO
4, 0.1 % Nonidet P-40 and 0.1 % protease inhibitor) 300 μlにて溶解した。細胞溶解液をさらに破砕し、4℃、20分、15000rmpで遠心した。上清をアガロースに結合したMyc抗体(sc-40 AC, Santa Cruz, San Diego, CA)およびHA抗体(sc-7392 AC, Santa Cruz, San Diego, CA)と共に3.5時間、4℃、インキュベートした。免疫沈降液で3回洗浄した後、サンプルを抗Myc抗体(sc-789, Santa Cruz, San Diego, CA)とHA抗体により検出した(sc-805, Santa Cruz, San Diego, CA)。
[イムノブロット解析]
培養したHEK293細胞ないし血管平滑筋細胞をフェニレフリンあるいはDOPA CHEを処置10分で37℃インキュベートした後、回収した。細胞を免疫沈降緩衝液(20mM Tris-HCl, pH 8.0, 150 mM NaCl, 1mM EDTA, 10mM NaF, 1 mM Na
3VO
4, 0.1 % Nonidet P-40 and 0.1 % protease inhibitor)中にて溶解した。溶解液は15000回転で20分間、4℃で遠心した。タンパク量はBCAアッセイ(Thermo scientific, Hudson, NH, USA)で行った。まず同量のタンパク質(15 μg)をジチオスレイトール(50 μM)を含むSDS 4Xサンプル緩衝液に溶解し、9%SDS-PAGEにより分離した後PVDF膜(Millipore, Bedford, MA)に移した。サンプルをERKおよびリン酸化ERK抗体(diluted 1:6000, Cell Signaling, Danvers, MA)によるイムノブロット解析にかけた。一次抗体で処置した後、膜を3度洗った後、二次抗体であるhorseradish パーオキシダーゼ (HRP)に結合したウサギIgG抗体で検出した。抗原-抗体複合体はWestern Chemiluminescent HRP Substrate (Millipore, Bedford, MA)で検出した。
[免疫組織化学]
マウスの下行大動脈は4%パラフォルムアルデヒド/PBS pH7.4で室温に10分間固定した。切片を0.1 %TritonX-100/PBS(PBST)溶液に10分間、さらに0.3% H2O2に30分間室温下に浸した。ついで、切片を10%ヤギ血清を含むTriton-Tris緩衝液[137 mM NaCl, 2.68 mM KCl, 25 mM Tris base, 0.1 % TritonX-100](TBST)を用いて固定した。切片は、抗TH抗体(Immunostar, Hudson, WI)を4℃、24時間インキュベートし、室温で30分間、Dako EnVision + Dual Link System Peroxidase (DAKO, Glostrup, Denmark)にてインキュベートした。特異的結合をImmPACT DAB Peroxidase substrate kit (Vector Laboratories, CA, USA)により検出した。
[免疫細胞化学]
FuGENE6 (Roche, Meylan, France)を用いてHEK293 細胞に一過性にα
1BAR-mCherryおよびGPR143-EGFPを発現させた。2日培養後、細胞を4 %パラフォルムアルデヒドにより室温で10分固定し、PSBで洗浄した。蛍光は共焦点顕微鏡(LSM510, Carl Zeiss, Oberkochen, Germany)で観察した。培養平滑筋細胞は4%パラフォルムアルデヒド室温、10分間固定した。グラスボトムディッシュ上の細胞は、PBSTに10分間浸け、その後0.3 % H2O2に30分間室温で処置した。細胞は10 %ヤギ血清を含むTBST溶液に室温で1時インキュベートした。細胞を抗GPR143抗体(12)ないし平滑筋アクチン抗体(Sigma, St. Louis, MO)に付け、4℃で24時間処置した後、Alexa594を結合させたヤギのウサギ抗IgG抗体ないしAlexa594を結合させたヤギのマウス抗IgG抗体(Invitrogen, CA, USA)を処置した。GPR143のConjugateおよびペプチド吸収テストは4℃で一昼夜行った。マウスの大動脈細胞はヤギ血清10 %を含むTBST中にてブロックした。細胞を抗GPR143抗体(Santa Cruz, San Diego , CA)にて4℃24時間インキュベートし、Dako EnVIsion + Dual Lin system Peroxidase (DAKO, Glostrup, Denmark)で室温、30分処置した。特異的結合はImmPACT DAB Peroxidase Substrate kit (Vecoto Laboratoreis, CA, USA)を用いて検出した。この後、ヘマトキリンーエオジン染色を用いて核染色を行った。
[カルシウムイメージング]
α1
BARおよびGPR143を発現する ARPE-19細胞またはマウス培養血管平滑筋細胞を2.5 μM Fura2-AM (WAKO, Osaka, Japan)を含む10 mM HEPESを含む Hanks’ balanced salt solution (HBSS-HEPES緩衝液、pH7.4)に1時間、37℃でインキュベートし、カルシウム蛍光指示薬を負荷する。ドーパを投与する場合は、10 μM NSD-1015存在下に指示薬を負荷する。負荷後、細胞を10分間さらにインキュベートし、回復させた。Fura-2によるカルシウムイメージングは対物レンズ 20 x (UAPo/340)を装着した顕微鏡(Olympus IX71)を用いて行った。フィルターを用いて200 Wキセノンバルブからの励起光を340 nmと380 nmとの波長で交互に当てるようにした。510 nmにおいて中央化した、30 nmのバンドパスフィルターを励起蛍光として選び、これをCCDカメラ(iXon3)に通した。340/380 nmの比をMetaFluor (Molecular device, CA, USA)により算出した。各々の実験で2秒毎に150秒採取した。ドーパ(10 nM)およびフェニレフリン(1 μM)は30および90秒投与した。最後に、KCl (10 mM)をポジティブコントロールとして適用した。この結果が2倍以上の細胞内カルシウム上昇を示した細胞のみをデータとして作用した。
[受容体結合実験]
α1
BAR-MycならびにEGFPまたはα1BAR-MycならびにGPR143-EGFPを発現するHEK293細胞を10cmディッシュに播く。細胞を氷上で冷やし、25 mM Tris, 150 mM NaCl, 5 mM EDTA (pH7.4)を含む結合実用緩衝液でリンスする。細胞を0.4 x 10
6個に調整し、[
3H]-prazosin 0.4 nM (Perkin Elmer-Cetus, Norwalk, CT)およびフェニレフリン (0.005-50 μM)を含む緩衝液でインキュベートした。細胞は5回、冷やした結合実験用緩衝液で洗浄する。[
3H]-prazosinの特異的結合は総結合量からフェニレフリン1 mM存在下で得られた結合量を差し引いて求めた。
[データ解析]
結果は独立の実験の平均値 ± 標準誤差で表した。統計解析は二群間の対応のないスチューデントt-testあるいは一要因、二要因のBonferroniの多重解析で行った。すべての統計解析はPrism version 5.0a (GraphPad Software, Inc., La Jolla, CA, USA)。P値が0.05以下を有意とみなした。
【0038】
(文献)
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【0039】
〔実施例2〕GS416
γセクレターゼ阻害剤であるGS416(5β,6α-ビス(ベンジルオキシ)-2-シクロヘキセン-1-オン(2S,3R)-2,3-ビス(ベンジルオキシ)-5-シクロヘキセン-1-オン)を用いて、以下の実験を行った。
【0040】
マウスGPR-143の 翻訳領域cDNAを2つのプライマー(Mouse-OA1 forward 5’- atcgaattccgaatggcctccccgcgcctgggaattttc -3’(配列番号21), Mouse-OA1 reverse5’- atcctcgagtcagagttccccctgggcttgggaaatgga -3’(配列番号22))を用いマウス網膜由来のpoly-(A)+RNAからRT-PCRによりクローニングした。さらにGPR143C末端にEGFPを融合させた発現ベクターを作成した。マウス GPR143-EGFPをCHO細胞に発現させた。GPR143-EGFP発現細胞を用い [
3H]-L-DOPA の結合実験を行った。特異的 [
3H]-L-DOPA結合は、EGFPを発現させたCHO細胞への[
3H]-L-DOPA結合を非特異的結合としてGPR143-EGFPへの結合量から差し引いて求めた。1μM [
3H]-L-DOPA結合に対してGS416の濃度を変化させ、拮抗阻害を検討した。
【0041】
結果を
図14に示す。GS416はGPR143を発現するCHO細胞における特異的3H-DOPA結合を阻害した。
【0042】
次に、α1
Bアドレナリン受容体 (α1
BAR) およびGPR143を発現する ARPE-19細胞を2.5 μM Fura2-AM (WAKO, Osaka, Japan)を含む10 mM HEPESを含む Hanks’ balanced salt solution (HBSS-HEPES緩衝液、pH7.4)に1時間、37℃でインキュベートし、カルシウム蛍光指示薬を負荷した。ドーパを投与する場合は、10 μM NSD-1015存在下に指示薬を負荷した。負荷後、細胞を10分間さらにインキュベートし、回復させた。Fura-2によるカルシウムイメージングは対物レンズ 20 x (UAPo/340)を装着した顕微鏡(Olympus IX71)を用いて行った。フィルターを用いて200 Wキセノンバルブからの励起光を340 nmと380 nmとの波長で交互に当てた。510 nmにおいて中央化した、30 nmのバンドパスフィルターを励起蛍光として選び、これをCCDカメラ(iXon3)に通した。340/380 nmの比をMetaFluor (Molecular device, CA, USA)により算出する。各々の実験で2秒毎に150秒採取した。ドーパ(10 nM)およびフェニレフリン(1 μM)は30および90秒投与した。最後に、KCl (10 mM)をポジティブコントロールとして適用した。この結果が2倍以上の細胞内カルシウム上昇を示した細胞のみをデータとして作用した。
【0043】
結果を
図15に示す。L-DOPAおよびGS416はα1
Bアドレナリン受容体 (α1
BAR) およびGPR143を発現する ARPE-19細胞 において、フェニレフリンに対する細胞内カルシウム応答を濃度異存的に増強した。結合実験における有効濃度に比べて低濃度で増強作用が現れることが注目される。この増強はDOPA CHEにより拮抗される。
【0044】
また、雄性ラット(240-250g)をウレタンで麻酔し、さらに筋弛緩薬であるツボクラリンを投与後、人工呼吸下に脳を固定し、孤束核にL-DOPAないしGS416溶液を50 nLをおよそ2秒間の速度で微量注入し、投与前後の血圧および心拍数を記録した。実験終了時にエバンスブルーを同様に微量注入し、注入部位を組織学的に確認した。GS416はドーパ同様に降圧・徐脈応答を惹起し、これらの作用はDOPA CHEにより拮抗された(
図16)。
【0045】
以上の結果は、GS416がドーパ作動薬であることを示唆している。