特許第6602227号(P6602227)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6602227加締め装置、及び、シールド電線の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6602227
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】加締め装置、及び、シールド電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 43/048 20060101AFI20191028BHJP
   H01R 4/18 20060101ALI20191028BHJP
   H01R 13/655 20060101ALI20191028BHJP
【FI】
   H01R43/048 A
   H01R4/18 A
   H01R13/655
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-30428(P2016-30428)
(22)【出願日】2016年2月19日
(65)【公開番号】特開2017-147207(P2017-147207A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2019年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 憲太
(72)【発明者】
【氏名】北川 拓樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐也
(72)【発明者】
【氏名】藤井 竜太
【審査官】 高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−171057(JP,A)
【文献】 特開2002−233918(JP,A)
【文献】 特開2015−82429(JP,A)
【文献】 特開2016−110770(JP,A)
【文献】 米国特許第4828516(US,A)
【文献】 国際公開第2011/102536(WO,A1)
【文献】 実開昭60−13691(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/00− 4/22
H01R13/56−13/72
H01R43/027−43/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の加締め部材を所定の対象物の外周に加締め固定する加締め装置であって、
前記加締め部材をその軸線に交差する方向に挟んで多角形筒状の加締め形状に加圧変形させる第1金型及び第2金型を有し、
前記第1金型及び前記第2金型の少なくとも一方は、
前記加締め形状の各側面に対応する金型面のうちの前記第1金型と前記第2金型との合わせ面に隣接する隣接金型面に、金型空間に向けて突出し且つ前記隣接金型面に対して前記軸線と平行な軸線周りに相対回転可能である突起状回転体を有する、
加締め装置。
【請求項2】
請求項1に記載の加締め装置において、
前記第1金型及び前記第2金型が、
前記隣接金型面とは別の金型面に、前記金型空間に向けて突出し且つ前記金型面に対して相対回転しない突起部、又は、前記突起状回転体を有する、
加締め装置。
【請求項3】
請求項2に記載の加締め装置において、
前記加締め形状が、六角形筒状の形状であり、
前記第1金型及び前記第2金型の各々が、
前記加締め形状の各側面に対応する6つの前記金型面のうちの3つの前記金型面を有し、3つの前記金型面のうちの2つの前記隣接金型面に前記突起状回転体を有すると共に、3つの前記金型面のうちの前記隣接金型面とは別の1つの金型面に前記突起部を有する、
加締め装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の加締め装置において、
前記対象物が、
被覆電線と前記被覆電線を覆う筒状の編組導体とを備えたシールド電線であり、
前記加締め部材が、
前記編組導体に加締め固定される筒状の接地用部材である、
加締め装置。
【請求項5】
被覆電線と、前記被覆電線を覆う筒状の編組導体と、前記編組導体に加締め固定された接地用部材と、を有するシールド電線を製造する方法であって、
前記接地用部材は、筒状のシールド端子、及び、筒状の加締めスリーブを含み、
前記被覆電線が挿通された前記編組導体の開口端部に前記シールド端子を配置する工程と、
前記編組導体の前記開口端部を径方向外側へ折り返すと共に、折り返された前記開口端部を前記シールド端子の外周面と加締めスリーブの内周面とによって挟むように、加締めスリーブを配置する工程と、
前記加締めスリーブを第1金型と第2金型とによってその軸線に交差する方向に挟んで多角形筒状の加締め形状に加圧変形させる工程と、を含み、
前記第1金型及び前記第2金型の少なくとも一方は、
前記加締め形状の各側面に対応する金型面のうちの前記第1金型と前記第2金型との合わせ面に隣接する隣接金型面に、金型空間に向けて突出し且つ前記隣接金型面に対して前記軸線と平行な軸線周りに相対回転可能である突起状回転体を有する、
シールド電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状の加締め部材を所定の対象物の外周に加締め固定する加締め装置、及び、シールド電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、筒状の加締め部材を所定の対象物の外周に加締め固定する手法が提案されている。例えば、従来の加締め装置の一つ(以下「従来装置」という。)は、被覆電線と、被覆電線を覆う編組導体(銅線等を編み込んだ筒状体)と、を備えたシールド電線に対し、編組導体を接地するための筒状の接地用金具(シールド端子および加締めスリーブ等)を加締め固定するようになっている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
より具体的には、従来装置は、一対の金型によって接地用金具を挟んで六角形筒状の加締め形状に加圧変形させるにあたり、加締め形状(六角形筒状)の各側面に対応する各々の金型面に、金型空間に向けて突出した突部を設けている。この突部により、接地用金具が編組導体に食い込むような圧着点(外見上は窪み)が形成され、編組導体と接地用金具との間の電気的接続の信頼性が高まることになる。更に、従来装置は、金型の合わせ面に接地用金具が侵入すること(及び、その結果としてのバリ発生)を防ぐべく、一方の金型の合わせ面に侵入防止用の薄板状凸部を設け、他方の金型の合わせ面にその突起が挿入・収容される凹部を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−171057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した従来装置では、加締め部材(接地用金具)へのバリ発生を防止可能であるものの、加締め工程において薄板状凸部が凹部を画成する金型母材(例えば、凹部の内側側面など)に接触する場合がある。そのような接触が生じても、バリ発生を防止するという機能自体が即座に損なわれることはない。しかし、そのような接触に起因する薄板状凸部の摩耗及び変形等を考慮すると、薄板状突起がない単純な構造の金型に比べ、金型の交換頻度が高まる可能性がある。その結果、バリ発生の防止は可能であるものの、加締め処理に係るコスト(ひいては、シールド電線の製造コスト)が増大する可能性がある。
【0006】
なお、上記説明から理解されるように、上述した金型の交換頻度に関する懸念は、加締め部材を加締めることになる対象物(従来装置であれば、接地用金具を加締めることになるシールド電線)に依らず生じ得る。例えば、従来装置のようにシールド電線に接地用金具を加締めるための加締め装置においても、筒状の接点部(いわゆるクローズドバレル)を有する端子を被覆電線の導体に加締めるための加締め装置においても、上記同様の懸念が生じ得る。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、筒状の加締め部材を所定の対象物に加締め固定する際のバリ発生の防止と、加締め処理に係るコストの低減と、を両立可能な加締め装置を提供すること、及び、その加締め装置を用いたシールド電線の製造方法、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために、本発明に係る「加締め装置」は、下記(1)〜(4)を特徴としている。
(1)
筒状の加締め部材を所定の対象物の外周に加締め固定する加締め装置であって、
前記加締め部材をその軸線に交差する方向に挟んで多角形筒状の加締め形状に加圧変形させる第1金型及び第2金型を有し、
前記第1金型及び前記第2金型の少なくとも一方は、
前記加締め形状の各側面に対応する金型面のうちの前記第1金型と前記第2金型との合わせ面に隣接する隣接金型面に、金型空間に向けて突出し且つ前記隣接金型面に対して前記軸線と平行な軸線周りに相対回転可能である突起状回転体を有する、
加締め装置であること。
(2)
上記(1)に記載の加締め装置において、
前記第1金型及び前記第2金型が、
前記隣接金型面とは別の金型面に、前記金型空間に向けて突出し且つ前記金型面に対して相対回転しない突起部、又は、前記突起状回転体を有する、
加締め装置であること。
(3)
上記(2)に記載の加締め装置において、
前記加締め形状が、六角形筒状の形状であり、
前記第1金型及び前記第2金型の各々が、
前記加締め形状の各側面に対応する6つの前記金型面のうちの3つの前記金型面を有し、3つの前記金型面のうちの2つの前記隣接金型面に前記突起状回転体を有すると共に、3つの前記金型面のうちの前記隣接金型面とは別の1つの金型面に前記突起部を有する、
加締め装置であること。
(4)
上記(1)〜上記(3)の何れか一つに記載の加締め装置において、
前記対象物が、
被覆電線と前記被覆電線を覆う筒状の編組導体とを備えたシールド電線であり、
前記加締め部材が、
前記編組導体に加締め固定される筒状の接地用部材である、
加締め装置であること。
【0009】
上記(1)の構成の加締め装置によれば、第1金型及び第2金型による加締めの際、隣接金型面に設けられた突起状回転体が、加締め部材(及び対象物)を押圧して塑性変形させつつ、加締め部材の外周面上を回転しながら(転がりながら)相対移動し得る。そのため、従来装置のように単なる突起が設けられている場合に比べ、加締め部材を合わせ面に近付ける方向に押圧する力が小さくなる。これは、突起状回転体と加締め部材との接触点においては転がり摩擦(及び、その結果としての転がり摩擦力)が生じることに対し、従来装置においては突起が回転しないため同接触点において滑り摩擦(及び、その結果としての滑り摩擦力)が生じることに起因する。なお、周知のように、動摩擦力に関し、転がり移動と滑り移動との相違以外の条件が同一であれば、転がり摩擦力は滑り摩擦力よりも遥かに小さい。よって、本構成の加締め装置は、従来装置に比べ、加締め部材へのバリ発生を防止できる。
【0010】
更に、突起状回転体は、従来装置における薄板状凸部に比べ、その構造に起因して破損し難い。よって、本構成の加締め装置は、従来装置に比べ、金型の交換頻度を低減できる。
【0011】
したがって、本構成の加締め装置は、筒状の加締め部材を所定の対象物に加締め固定する際のバリ発生の防止と、加締め処理に係るコストの低減と、を両立可能である。
【0012】
上記(2)の構成の加締め装置によれば、隣接金型面とは別の金型面に突起部が設けられている場合、突起部がない(金型面が平坦である)場合に比べ、加締め部材を対象物に押し付ける突起部の数が多い分、加締め部材と対象物との間の接続強度を高められる。一方、隣接金型面とは別の金型面に突起状回転体が設けられている場合、単なる突起部が設けられている場合に比べ、上記(1)と同様の原理により、加締め部材へのバリ発生をより確実に防止できる。よって、本構成の加締め装置は、加締めによる接続強度を向上させ、更には加締め部材へのバリ発生を更に確実に防止できる。
【0013】
上記(3)の構成の加締め装置によれば、加締め部材が六角形筒状の形状に加締められることになる。一般に、加締め形状(多角形筒状)の断面における頂点数が増えるにつれて、加締め形状の断面が円形に近付くことになる。このとき、例えば、処理前の加締め部材の形状が円筒である場合、処理後の加締め形状が円形に近付くほど加締めによる形状変化が小さくなり、加締めによる接続強度が低下することになる。一方、加締め形状の断面における頂点数が少なくなるにつれて、加締め時の形状変化が大きくなり、対象物(従来装置であればシールド電線)に破損等が生じる可能性がある。以上を考慮して発明者が行った実験等によれば、加締め形状が六角形筒状であれば、加締めによる接続強度と、対象物の破損防止と、をバランス良く実現できることが確認された。よって、本構成の加締め装置は、バリ発生の防止およびコストの低減に加え、加締めによる接続強度と対象物の破損防止との両立も可能である。
【0014】
上記(4)の構成の加締め装置によれば、シールド電線の編組導体と接地用部材との加締め固定において、接地用部材へのバリ発生の防止と、シールド電線への加締め処理に係るコストの低減と、を両立できる。
【0015】
更に、前述した目的を達成するために、本発明に係る「シールド電線の製造方法」は、下記(5)を特徴としている。
(5)
被覆電線と、前記被覆電線を覆う筒状の編組導体と、前記編組導体に加締め固定された接地用部材と、を有するシールド電線を製造する方法であって、
前記接地用部材は、筒状のシールド端子、及び、筒状の加締めスリーブを含み、
前記被覆電線が挿通された前記編組導体の開口端部に前記シールド端子を配置する工程と、
前記編組導体の前記開口端部を径方向外側へ折り返すと共に、折り返された前記開口端部を前記シールド端子の外周面と加締めスリーブの内周面とによって挟むように、加締めスリーブを配置する工程と、
前記加締めスリーブを第1金型と第2金型とによってその軸線に交差する方向に挟んで多角形筒状の加締め形状に加圧変形させる工程と、を含み、
前記第1金型及び前記第2金型の少なくとも一方は、
前記加締め形状の各側面に対応する金型面のうちの前記第1金型と前記第2金型との合わせ面に隣接する隣接金型面に、金型空間に向けて突出し且つ前記隣接金型面に対して前記軸線と平行な軸線周りに相対回転可能である突起状回転体を有する、
シールド電線の製造方法であること。
【0016】
上記(5)の構成のシールド電線の製造方法によれば、上記(1)と同様、第1金型及び第2金型による加締めの際、隣接金型面に設けられた突起状回転体が、接地用部材(及びシールド電線の編組導体)を押圧して塑性変形させつつ、接地用部材の外周面上を回転しながら(転がりながら)相対移動し得る。そのため、従来装置のように単なる突起が設けられている場合に比べ、接地用部材を合わせ面に近付ける方向に押圧する力が小さくなる。これは、転がり摩擦(及び、その結果としての転がり摩擦力)と、滑り摩擦(及び、その結果としての滑り摩擦力)と、の大小関係に起因する。よって、本構成のシールド電線の製造方法によれば、従来装置を用いた製造方法に比べ、接地用部材へのバリ発生を防止しながらシールド電線を製造できる。更に、突起状回転体は、従来装置における薄板状凸部に比べ、その構造に起因して破損し難い。よって、本構成のシールド電線の製造方法は、従来装置を用いた製造方法に比べ、金型の交換頻度を低減できる。
【0017】
したがって、本構成のシールド電線の製造方法は、筒状の接地用部材をシールド電線の編組導体を加締め固定する際のバリ発生の防止と、加締め処理に係るコストの低減と、を両立可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、筒状の加締め部材(例えば、シールド電線用の接地用部材)を所定の対象物(例えば、シールド電線の編組導体)に加締め固定する際のバリ発生の防止と、加締め処理に係るコストの低減と、を両立可能な加締め装置を提供すること、及び、その加締め装置を用いたシールド電線の製造方法、を提供できる。
【0019】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の実施形態に係る加締め装置を用いて製造された接地用部材付きシールド電線の概略斜視図である。
図2図2は、図1に示したシールド電線の製造過程を説明するための第1の図である。
図3図3は、図1に示したシールド電線の製造過程を説明するための第2の図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る加締め装置の金型の主要断面を示す模式図であり、図4(a)は加締め前の状態を示し、図4(b)は加締め後の状態を示す。
図5図5は、従来装置の金型の主要断面を示す模式図であり、図5(a)は加締め前の状態を示し、図5(b)は加締め後の状態を示す。
図6図6は、従来装置において、接線力として、比較的大きな動摩擦力(滑り摩擦力)が作用することを説明するための図である。
図7図7は、本発明の実施形態に係る加締め装置において、接線力として、比較的小さな動摩擦力(転がり摩擦力)が作用することを説明するための図である。
図8図8は、本発明の実施形態の変形例に係る加締め装置の図4に対応する主要断面図であり、図8(a)は加締め形状が四角形(正方形)の筒状である場合を示し、図8(b)は加締め形状が八角形(正八角形)の筒状である場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る加締め装置、及び、その加締め装置を用いた本発明の実施形態に係るシールド電線の製造方法、について説明する。
【0022】
<シールド電線の構成>
図1は、接地用部材付きのシールド電線100を示している。具体的には、シールド電線100は、被覆電線10(芯線11及び絶縁体12)と、被覆電線10を覆う筒状の編組導体20と、を備えている。このシールド電線100の編組導体20に対し、接地用部材(シールド端子30及び加締めスリーブ40)が加締め固定されることにより、図1の全体像に示すような接地用部材付きのシールド電線100が製造される。
【0023】
なお、本例におけるシールド電線100は、編組導体20が外部に露出するように形成されている。しかし、シールド電線100は、必要に応じ、編組導体20の外周を覆う絶縁外皮(シース)を更に備えてもよい。
【0024】
シールド端子30は、円筒形状を有する金属製の筒体であり、編組導体20の開口端部の近傍に配置されている。更に、編組導体20の開口端部は、シールド端子30の先端部を覆うように折り返されている。加締めスリーブ40は、筒形状(図1では六角形筒状の形状)を有する金属製の筒体であり、上述したように折り返された編組導体20の外周に加締め固定されている。加締めスリーブ40の各側面には、略半球形状の窪み41が形成されている。
【0025】
なお、詳細は後述されるように、加締めスリーブ40は、図1に示すように加締め固定される前は円筒形状を有しており、後述する加締め装置200によって加締められることにより(いわゆる6角6点圧着により)、六角形筒状に加圧変形されている。換言すると、加締め装置200による加締めにより、加締めスリーブ40の外周形状が六角形(正六角形)に成形されると共に、6つの側面のそれぞれの中央部に略半球状の窪み41が形成される。
【0026】
上述したように加締めスリーブ40が編組導体20に(6角6点圧着により)加締め固定されることにより、過剰な加圧変形による編組導体20及び被覆電線10等の破損を防ぎつつ、6つの側面の各々に形成された合計6つの窪み41によってバランスの良い多点接触が実現され、編組導体20とシールド端子30との間の接続強度および電気的接続の信頼性が高められる。なお、シールド端子30は、編組導体20が捕集した電磁ノイズを接地対象に逃がすためのアース部材として用いられ得る。
【0027】
<シールド電線の製造方法>
次いで、図1に示したシールド電線100の製造方法について、図2及び図3を参照しながら説明する。
【0028】
先ず、図2(a)に示すように、編組導体20が外周に設けられた被覆電線10と、円筒状のシールド端子30と、円筒状の加締めスリーブ40と、が準備される。次いで、図2(b)に示すように、編組導体20の開口端部21の近傍(より具体的には、シールド端子30の先端部31が開口端部21の後端側に隣接する位置)に、シールド端子30が挿通・配置される。次いで、図2(c)に示すように、編組導体20の開口端部21が拡径される。
【0029】
次いで、図3(a)に示すように、拡径された編組導体20の開口端部21が、シールド端子30の先端部31を起点として径方向外側へ(シールド端子30の外周面を覆う向きに)折り返される。これにより、編組導体20の開口端部21は、シールド端子30の先端部31を覆うように、シールド端子30の先端部の外周に配置される。
【0030】
次いで、図3(b)に示すように、加締めスリーブ40が、折り返された編組導体20の開口端部21の外周に挿通・配置される。これにより、折り返された開口端部21が、シールド端子30の先端部の外周面と加締めスリーブ40の内周面とによって挟まれた状態が得られる。
【0031】
次いで、図3(c)に示すように、加締めスリーブ40が編組導体20の開口端部21に加締め固定(6角6点圧着)される。これにより、上述したように、シールド端子30が編組導体20に対して強固に固定され且つ電気的に接続されたシールド電線100が製造される。
【0032】
<加締め装置>
次いで、図4図7を参照しながら、上述したシールド電線100の製造に用いられる本発明の実施形態に係る加締め装置200について説明する。
【0033】
図4に示すように、加締め装置200は、上側ダイス50(第1金型)、及び、下側ダイス60(第2金型)を備えている。上側ダイス50及び下側ダイス60は、それぞれ、図3(b)に示す状態における加締めスリーブ40の上方、及び、下方に配置される。
【0034】
上側ダイス50及び下側ダイス60のそれぞれは、3つの金型面70を有している。3つの金型面70は、上側ダイス50の合わせ面51及び下側ダイス60の合わせ面61を合わせたときに六角形(断面)の対向する一対の頂点が合わせ面51,61上に位置するような六角形の筒状の金型空間を構成している。以下、説明の便宜上、合わせ面51,61に隣接する金型面70を、隣接金型面71と呼び、隣接金型面71とは別の金型面70を金型面72と呼ぶ。隣接金型面71は、後述するバリ防止の原理から、合わせ面51,61に対して傾斜していること(換言すると、合わせ面51,61に対して垂直な面ではないこと)が好ましい。
【0035】
上側ダイス50及び下側ダイス60のそれぞれは、2つの隣接金型面71と、1つの金型面72と、を備える。隣接金型面71は、合わせ面51,61に対して傾斜しており、金型面72は、合わせ面51,61に対して平行になっている。
【0036】
上側ダイス50の各隣接金型面71の中央部には、それぞれ、隣接金型面71に開口すると共に隣接金型面71に直交する方向に延びる円筒状の貫通孔52が形成されている。各貫通孔52には、それぞれ、球体81が回転可能かつ分離不能に先端側に設けられた円筒状部材82が、球体81(いわゆるボールインデント)が隣接金型面71から突出するように固定されている。換言すると、上側ダイス50の各隣接金型面71の中央部には、それぞれ、金型空間に向けて突出し且つ隣接金型面71に対して相対回転可能な球体81が設けられている。
【0037】
同様に、下側ダイス60の各隣接金型面71の中央部にも、それぞれ、隣接金型面71に開口すると共に隣接金型面71に直交する方向に延びる円筒状の貫通孔62が形成されている。各貫通孔62には、それぞれ、球体81(ボールインデント)を備えた円筒状部材82が、球体81が隣接金型面71から突出するように固定されている。換言すると、下側ダイス60の各隣接金型面71の中央部にも、それぞれ、金型空間に向けて突出し且つ隣接金型面71に対して相対回転可能な球体81が設けられている。以下、球体81を、便宜上、突起状回転体81とも呼ぶ。
【0038】
一方、上側ダイス50及び下側ダイス60の各金型面72の中央部には、それぞれ、金型空間に向けて半球状に突出する突起部83(突起状回転体81のように回転はしない、単なる突起)が設けられている。このように、上側ダイス50及び下側ダイス60のそれぞれは、3つの金型面70のうち2つの隣接金型面71に突起状回転体81をそれぞれ有すると共に、3つの金型面70のうち隣接金型面71とは別の1つの金型面72に突起部83を有している。
【0039】
以上、説明した上側ダイス50及び下側ダイス60を、図4(a)の白矢印に示すように、加締めスリーブ40を挟むように上下方向に相対的に近づけることにより、加締めスリーブ40が加圧変形されると共に編組導体20に対して加締められる。
【0040】
具体的には、加締めを開始すると、先ず、6つの突起(4つの突起状回転体81,2つの突起部83)が加締めスリーブ40の外周における周方向に等間隔の6点で接触し、この6点が集中的に押圧されて加締めスリーブ40の径方向内側へ窪んでいく。これに伴い、加締めスリーブ40の内部に位置するシールド端子30、編組導体20、及び、絶縁体12の外周における対応するそれぞれの位置も径方向内側へ窪んでいく。
【0041】
更に加締めが進行すると(上側ダイス50及び下側ダイス60が更に上下方向に近づくと)、突起(突起状回転体81,突起部83)が完全に加締めスリーブ40に埋没し、加締めスリーブ40における6つの窪みの周辺部分が、突起(突起状回転体81,突起部83)の周辺の金型面70に接触するようになる。
【0042】
そして、図4(b)に示すように、加締めが完了する時点(上側ダイス50及び下側ダイス60の合わせ面51,61同士が密着する時点)では、6つの金型面70のほぼ全域に亘って加締めスリーブ40の外周面が接触(密着)した状態となる。この結果、上述したように、加締めスリーブ40の外周形状が六角形(正六角形)に成形されると共に、6面のそれぞれの中央部に、1つの半球状の窪み41が形成されることになる(即ち、6角6点圧着がなされることになる)。
【0043】
ここで、本発明の実施形態に係る加締め装置200では、4つの隣接金型面71に突起状回転体81が設けられている。これにより、図4(b)に示すA部(合わせ面51,61同士の間の空間、以下、「合わせ面空間」という。)に加締めスリーブ40の一部が侵入し難くなり、その結果、加締めスリーブ40にバリが発生し難くなる。以下、この点について、従来装置900と比較しながら説明する。
【0044】
図5(a)に示すように、従来装置900では、4つの隣接金型面71に対して突起部83(単なる突起)が設けられている点においてのみ、4つの隣接金型面71に対して突起状回転体81が設けられている本発明の実施形態に係る加締め装置200と異なる。換言すると、従来装置900では、6つの金型面70の全てに対して突起部83が設けられている。以下、特に、加締めスリーブ40における隣接金型面71の突起部83との接触点に着目する。
【0045】
図6に示すように、従来装置900の隣接金型面71の突起部83との接触点において、加締めスリーブ40が受ける押圧力Fは、接触点においてシールド電線100の中心軸方向に作用する分力F1(以下、「向心力」という。)と、接触点における接線方向に作用する分力F2(以下、「接線力」という。)と、に分けて考えることができる。
【0046】
向心力F1は、加締めスリーブ40を所望する加締め形状に塑性変形させる力として作用する。一方、接線力F2は、加締めスリーブ40の一部を上述した合わせ面空間に向けて押し出す力として作用し得る。よって、接線力F2が大きいと、加締めスリーブ40の一部が合わせ面空間に進入し易くなり、加締めスリーブ40にバリが発生し易くなる。
【0047】
従来装置900では、図6に示すように、隣接金型面71に設けられた突起部83が、加締めスリーブ40を押圧して塑性変形させつつ、加締めスリーブ40の外周面に対して滑りを伴いながら相対移動していく。換言すると、加締めの過程において、接線力F2として、比較的大きな動摩擦力(滑り摩擦力)が作用し続ける。その結果、この比較的大きな接線力F2に起因し、図5(b)に示すB部にバリが発生し易い。
【0048】
これに対し、図7に示すように、本発明の実施形態に係る加締め装置200では、隣接金型面71に設けられた突起状回転体81が、加締めスリーブ40を押圧して塑性変形させつつ、加締めスリーブ40の外周面に対して滑りを伴うことなく転がりながら相対移動し得る。換言すると、加締めの過程にて、接線力F2として、比較的小さな動摩擦力(転がり摩擦力)が作用し得る。即ち、図7における接線力F2は、図6における接線力F2よりも小さい。なお、突起状回転体81の転がりは、突起状回転体81が接線力F2の反力f2を受けることによって発生する。その結果、本発明の実施形態に係る加締め装置200では、比較的大きな動摩擦力(滑り摩擦力)が作用し続ける従来装置900と比べ、接線力F2が小さくなるため、上述したバリが発生し難くなる。
【0049】
なお、上述したように、隣接金型面71とは別の金型面72は、合わせ面51,61と平行である。そのため、金型面72には、上述した接線力が実質的に作用しないため、接線力低減のために突起状回転体81を設ける必要がない。よって、本発明の実施形態に係る加締め装置では、突起状回転体81を設ける必要がない金型面72には、突起部83(単なる突起)が設けられている。
【0050】
<作用・効果>
本発明の実施形態に係る加締め装置200、及び、加締め装置200を用いた接地用部材付きのシールド電線100の製造方法によれば、隣接金型面71に設けられた突起が、従来装置900のような突起部83(単なる突起)ではなく、突起状回転体81である。突起状回転体81は、加締めスリーブ40を押圧して塑性変形させつつ、加締めスリーブ40の外周面に対して滑りを伴うことなく転がりながら相対移動し得る。換言すると、加締めの過程にて、接線力F2として、比較的小さな動摩擦力(転がり摩擦力)が作用し得る(図7を参照。)。よって、比較的大きな動摩擦力(滑り摩擦力)が作用し続ける従来装置900と比べ、接線力F2が小さくなる分、加締めスリーブ40にバリが発生し難くなる。
【0051】
更に、突起状回転体81は、従来装置900が採用する薄板状凸部に比べ、その構造に起因して破損し難い。よって、従来装置900と比べ、金型の交換頻度を低くすることができる。よって、シールド電線100に加締め固定する加締めスリーブ40におけるバリの発生を抑制すること、及び、シールド電線100の製造コストを低減すること、を両立できる。
【0052】
更に、隣接金型面71とは別の金型面72には、突起部83が設けられている。よって、金型面72に突起部83が設けられない場合に比べ、より多くの点での加締めが実現できる分、編組導体20に対するシールド端子30の接続強度が高くなる。
【0053】
更に、加締め形状が六角形筒状であるため、加締めによる接続強度と、シールド電線100の破損防止と、をバランス良く実現できる。加えて、接線力低減のために突起状回転体81を設ける必要がない金型面72には、突起部83(単なる突起)が設けられている。よって、6つの金型面の全てに突起状回転体81を設ける場合に比べ、金型の製造コストを低減できる。
【0054】
<他の態様>
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用できる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0055】
例えば、上記実施形態では、隣接金型面71とは別の金型面72には、突起部83(単なる突起)が設けられている。しかし、金型面72にも、隣接金型面71と同様に突起状回転体81が設けられてもよい。また、金型面72には突起が設けられていなくてもよい。
【0056】
更に、上記実施形態では、突起状回転体81が球体である。しかし、突起状回転体81は、加締めスリーブ40の軸線と平行な軸線周りに相対回転可能な回転体であればよく、例えば、ラグビーボール状の回転体であってもよく、円柱状の回転体であってもよい。
【0057】
更に、上記実施形態では、加締め形状が六角形筒状である。しかし、加締め形状は、断面における頂点が3つ以上の多角形筒状であればよい。例えば、図8(a)に示すように、加締め形状は四角形(正方形)であってもよい。この場合、4つの金型面の全てが隣接金型面71となり、4つの隣接金型面71の全てに対して突起状回転体81が設けられる。
【0058】
更に、図8(b)に示すように、加締め形状は八角形(正八方形)であってもよい。この場合、4つの隣接金型面71に突起状回転体81が設けられる。一方、隣接金型面71とは別の4つの金型面72には、突起部83(単なる突起)が設けられてもよく、突起状回転体81が設けられてもよい。このように、隣接金型面71に加えて金型面72にも突起状回転体81を設けることで、上記同様の原理により、加締めスリーブ40におけるバリが更に発生し難くなる。
【0059】
更に、上記実施形態では、シールド端子30及び加締めスリーブ40の2つの部材によって接地用部材が構成されているが、1つの部材によって接地用部材が構成されてもよい。
【0060】
ここで、上述した本発明に係る加締め装置、及び、シールド電線の製造方法の実施形態の特徴をそれぞれ以下(1)〜(5)に簡潔に纏めて列記する。
(1)
筒状の加締め部材(40)を所定の対象物(100)の外周に加締め固定する加締め装置(200)であって、
前記加締め部材(40)をその軸線に交差する方向に挟んで多角形筒状の加締め形状に加圧変形させる第1金型(50)及び第2金型(60)を有し、
前記第1金型及び前記第2金型の少なくとも一方は、
前記加締め形状の各側面に対応する金型面(70)のうちの前記第1金型と前記第2金型との合わせ面(51,61)に隣接する隣接金型面(71)に、金型空間に向けて突出し且つ前記隣接金型面(71)に対して前記軸線と平行な軸線周りに相対回転可能である突起状回転体(81)を有する、
加締め装置。
(2)
上記(1)に記載の加締め装置において、
前記第1金型(50)及び前記第2金型(60)が、
前記隣接金型面とは別の金型面(72)に、前記金型空間に向けて突出し且つ前記金型面に対して相対回転しない突起部(83)、又は、前記突起状回転体(81)を有する、
加締め装置。
(3)
上記(2)に記載の加締め装置において、
前記加締め形状が、六角形筒状の形状であり、
前記第1金型(50)及び前記第2金型(60)の各々が、
前記加締め形状の各側面に対応する6つの前記金型面(70)のうちの3つの前記金型面を有し、3つの前記金型面のうちの2つの前記隣接金型面(71)に前記突起状回転体(81)を有すると共に、3つの前記金型面のうちの前記隣接金型面とは別の1つの金型面(72)に前記突起部(83)を有する、
加締め装置。
(4)
上記(1)〜上記(3)の何れか一つに記載の加締め装置において、
前記対象物が、
被覆電線(10)と前記被覆電線を覆う筒状の編組導体(20)とを備えたシールド電線(100)であり、
前記加締め部材が、
前記編組導体(20)に加締め固定される筒状の接地用部材(30,40)である、
加締め装置。
(5)
被覆電線(10)と、前記被覆電線を覆う筒状の編組導体(20)と、前記編組導体に加締め固定された接地用部材(30,40)と、を有するシールド電線(100)を製造する方法であって、
前記接地用部材は、筒状のシールド端子(30)、及び、筒状の加締めスリーブ(40)を含み、
前記被覆電線が挿通された前記編組導体の開口端部(21)に前記シールド端子(30)を配置する工程と、
前記編組導体の前記開口端部(21)を径方向外側へ折り返すと共に、折り返された前記開口端部を前記シールド端子(30)の外周面と加締めスリーブ(40)の内周面とによって挟むように、加締めスリーブ(40)を配置する工程と、
前記加締めスリーブ(40)を第1金型(50)と第2金型(60)とによってその軸線に交差する方向に挟んで多角形筒状の加締め形状に加圧変形させる工程と、を含み、
前記第1金型及び前記第2金型の少なくとも一方は、
前記加締め形状の各側面に対応する金型面(70)のうちの前記第1金型と前記第2金型との合わせ面(51,61)に隣接する隣接金型面(71)に、金型空間に向けて突出し且つ前記隣接金型面に対して前記軸線と平行な軸線周りに相対回転可能である突起状回転体(81)を有する、
シールド電線の製造方法。
【符号の説明】
【0061】
10 被覆電線
20 編組導体
21 開口端部
30 シールド端子(接地用部材)
40 加締めスリーブ(接地用部材)
50 上側ダイス(第1金型)
51 合わせ面
60 下側ダイス(第2金型)
61 合わせ面
70 金型面
71 隣接金型面
72 金型面(隣接金型面とは別の金型面)
81 突起状回転体
83 突起部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8