(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明にかかる高炉休風方法の実施形態を、図を参照して説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。従って、本発明の技術的範囲は、本実施形態に開示内容だけに限定されるものではない。
また、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称及び機能も同じである。従って、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0014】
まず、本実施形態の高炉休風方法の概略について述べる。
本実施形態の高炉休風方法は、予め休風の過去実績から、以下に示す3つの関係((i)〜(iii))を整理して準備しておく。
(i) 休風前に高炉1内の溶銑滓に投入する還元材に関する還元材比増加量と、休風中の溶銑温度低下の傾きの関係を求めておく。
【0015】
(ii) 休風立ち上げ時における高炉1からの溶銑滓の排出状況が良好であるか、不良であるかを判定し、休風立ち上げ時における溶銑温度の下限温度を求めておく。
(iii) 休風前の還元材比増加量と、休風立ち上げ時における溶銑中[Si]濃度の最大値との関係を求めておく。
(iv) 予め事前準備しておいた上記関係を用いて、以下に示す休風前から休風立ち上げ間のパラメータを求める。
【0016】
(v) 休風立ち上げ時の溶銑温度が、予め求めておいた下限温度を下回らないように、休風前の還元材比増加量を決定する。
(vi) 決定した休風前の還元材比増加量に対応する、休風立ち上げ時における溶銑中[Si]%の増加量を推定する。
(vii) 推定した溶銑中[Si]%の増加量に対応するスラグ成分の変化量を推定する。
【0017】
(viii) 推定したスラグ成分の変化量を基に、休風立ち上げで溶銑滓の排出が良好となるように、高炉1に投入する副原料の成分を調整する。
このように、決定した還元材比増加量((v)で決定)、及び副原料((viii)で決定)を、休風前の高炉1に投入した後、休風を行い、その後、休風立ち上げを行って高炉1の操業を再開する。
【0018】
続いて、本実施形態の高炉休風方法を、詳細に説明する。なお、以下の(A1)〜(A5)に示すデータは過去実績の一例である。
(A1)
具体的には、休風前の溶銑温度と、休風立ち上げ後の溶銑温度と、休風時間より、休風前から休風立ち上げの間における溶銑温度低下の傾きを予め求めておく。なお、この事前準備手順は、
図32中の手順(1)に該当する。
【0019】
ここで、休風とは、通常操業中の高炉1に吹き込む熱風を停止することを指す。なお、休風を実施しているときは、熱放散により高炉1から熱が奪われるため、高炉1の炉内温度は時間とともに低下する。また、休風立ち上げとは、休風中の高炉1内に熱風を吹き込み、通常の操業を再開することを示す。また、休風時間とは、高炉1内に熱風の送風を停止した時から、熱風の送風を再開するまでの時間のことを指す。
【0020】
本実施形態においては、休風中においては、熱風が吹き込まれておらず、炉内の溶銑の温度が低下しているので、その期間の溶銑温度低下の傾きを予め求めることとしている。
図1に、休風前から休風立ち上げ後にかけての熱風の送風流量の推移を示す。
熱風の送風流量は、高炉1に備えられている、すべての羽口から吹き込む熱風の合計であり、1分間あたりに、何ノルマル立米(Nm
3/min)高温空気を、高炉1内に吹き込むかを指す。
【0021】
図1に示すように、通常操業時の熱風の送風流量は、およそ6000(Nm
3/min)程度で推移している。なお、
図1では、1時間毎の送風流量の平均値をプロットしている。
図1中の横軸の数字は日付であり、休風を含む10日間(1/17〜1/27)の推移を示している。
図1中にプロットしている、熱風の送風流量が0となっている時間が休風時間である。
図2に、休風前から休風立ち上げ後にかけての溶銑温度の推移を示す。
【0022】
図2に示すように、通常操業時は、還元材(コークス、微粉炭等)の燃焼熱と、酸化鉄の還元熱及び炉頂や炉体からの放散熱がバランス(均衡)しており、炉内の溶銑温度は1480℃から1540℃程度の範囲で推移している。
しかし、休風中にはコークス、微粉炭の燃焼が止まるため、休風時間に応じた放散熱が失われ、炉内の溶銑温度が低下することとなる。
【0023】
そこで、休風前に測定した炉内の溶銑温度と、休風立ち上げ後に、最初に測定した炉内の溶銑温度の差を、休風時間で割った値を、休風前から休風立ち上げの間の溶銑温度低下の傾きとした。
(A2)
続いて、休風前における還元材比増加量と、手順(1)で求めた休風前から休風立ち上げの間における炉内の溶銑温度低下の傾きとの関係を予め求めておく。なお、この事前準備手順は、
図32中の手順(2)に該当する。
【0024】
以下の説明においては、溶銑1t製造するために必要な還元材の量を、還元材比(kg/tp)と呼ぶこととする。この還元材は、コークス、微粉炭などで構成されている。
本実施形態においては、休風中の溶銑温度低下を抑制し、休風立上げ後に炉熱を早期回復させるために、休風前に炉内に投入する還元材の量を増やし、還元材比を増加させることとしている。
【0025】
図3に、休風前から休風立ち上げ後にかけての還元材比の推移を示す。
休風前においては、通常操業時の還元材比に対して、高い還元材比で操業している。
図3に示すように、休風前における還元材比の最大値と、通常操業時における還元材比の値との差を、休風前の還元材比増加量(kg/tp)と呼ぶこととする。なお、通常操業時の還元材比は、休風48時間前から、休風36時間前の平均の還元材比とした。
【0026】
休風前の還元材比増加量と、炉内の溶銑温度低下の傾きの過去実績を、10点以上集めて、横軸を休風前の還元材比増加量とし、縦軸を炉内の溶銑温度低下の傾きとした上で、集めた過去実績をプロットして関係を求めた。その求めた関係を、
図4に示す。
図4に示すように、休風前の還元材比増加量(kg/tp)が多いほど、溶銑温度低下の傾き(℃/h)が小さくなることがわかる。
【0027】
図4に、最小二乗法で求めた近似直線を点線で示す。また
図4に、近似直線よりも、溶銑温度低下の傾きが大きいプロットの中で、近似直線から最も離れている点を通る直線を実線で示す。
この
図4中の実線を、休風前の還元材比増加量と、炉内の溶銑温度低下の傾きの関係式とした。その関係式を式(1)に示す。
【0028】
溶銑温度低下の傾き(℃/h)=−0.0347×休風前の還元材比増加量(kg/tp)+8.1965 ・・・(1)
(A3)
休風立ち上げ時における溶銑滓の排出状況を、溶銑滓の排出良好データと、溶銑滓の排出不良データとに層別し、層別された溶銑滓の排出データより、休風立ち上げ時における溶銑滓の排出状況が、良好となる溶銑の下限温度を予め求めておく。なお、この事前準備手順は、
図32中の手順(3)に該当する。
【0029】
休風前に増加させる還元材比が不十分ならば、休風立ち上げ時の溶銑温度が大きく低下してしまい、溶銑とスラグが混在する溶銑滓の流動性が低下することとなる。
このように、溶銑・スラグの流動性が低下すると、粘性が高く出銑樋を流れなかったり、凝固してしまったりといったことが発生し、炉内から溶銑滓を排出することが困難となり、出銑不能などの大きなトラブルに至ってしまう虞がある。
【0030】
ここで、10回以上の休風の過去実績データついて、検討した。
この過去実績データのうち、休風立ち上げ時の溶銑滓の排出状況が良好であるものを、溶銑滓の排出良好データとし、排出状況が不良であるものを、溶銑滓の排出不良データとして、層別した。
休風立ち上げの溶銑滓の排出状況を、排出良好データと排出不良データに層別するにあたっては、以下の2点を基準にして行った。
【0031】
・炉内に残留する溶銑滓の増加により、炉内通気性に問題が生じ、通気不良となって減風に至った例。
・炉外に排出させた溶銑滓が凝固し、出銑不可能となった例。
図5に、出銑口2から出た溶銑滓の流れの概略図を示す。
図5に示すように、例えば、出銑口2から排出されたスラグが、スラグ処理設備(ドライピット3、水砕設備4)に流れるまでの間に凝固する場合、又はスラグの粘性が高く出銑樋を流れない場合、出銑が継続できなくなる、すなわち出銑不可能となる。
【0032】
上記の2点を、休風立ち上げ時の溶銑滓の排出不良データ(不可)とし、上記の2点のような問題が生じなかったデータを、立ち上げ時の溶銑滓の排出良好データ(良)とした。
溶銑滓の排出状況を層別したデータ(排出良好データ及び排出不良データ)について、横軸を休風時間とし、縦軸を休風立ち上げの溶銑温度とした上で、集めた10点以上の過去実績をプロットして関係を求めた。その求めた関係を、
図6に示す。
【0033】
図6より、休風立ち上げ時の溶銑温度が1360℃を下回ると、溶銑滓の排出不良となるため、休風立ち上げ時の溶銑温度の下限温度を1360℃と決定した。
(A4)
休風前における還元材比増加量と、休風立ち上げ後における溶銑中[Si]%の最大値との関係を予め求めておく。なお、この事前準備手順は、
図32中の手順(4)に該当する。
【0034】
図7に、休風前から休風立ち上げ後にかけての溶銑中[Si]%の推移を示す。なお、溶銑中[Si]%は、溶銑に含まれる[Si]の質量%で示した濃度である。また、(質量%で示した濃度)を単に(%)と表していることもある。
図7に示すように、溶銑中[Si]%は、休風立ち上げ時に最大値となり、以降は減少し、通常操業時の溶銑[Si]%へと戻ることがわかる。
【0035】
そこで、本願発明者は、休風立ち上げ時にピークとなる点を、溶銑中[Si]%の最大値とした。ところで、休風前には溶銑中[Si]%がやや高くなる点(小さなピーク)が存在しており、その小さなピークを溶銑中[Si]%の最大値とする事例(例えば、特開2013−256698号公報)はあるが、
図7に示す如く溶銑中[Si]%は休風立ち上げ時に最大となるのは明らかであるので、前述の小さなピークを最大値とすることは好ましくない。
【0036】
そして、10回以上の休風の過去実績データについて、休風前の還元材比増加量と溶銑中[Si]%の最大値の過去実績データを集め、横軸を休風前の還元材比増加量とし、縦軸を溶銑[Si]%の最大値とした上で、集めた過去実績データをプロットして関係を求めた。その求めた関係を、
図8に示す。
図8中の実線は、最小二乗法で求めた近似直線である。この
図8中の直線を、休風前の還元材比増加量と、休風立ち上げ後の溶銑中[Si]%の最大値の関係式とした。その関係式を式(2)に示す。
【0037】
溶銑中[Si]%の最大値=0.0104×休風前の還元材比増加量(kg/tp)+0.5695 ・・・(2)
(A5)
休風立ち上げにおいて、溶銑滓の排出状況が良好となるスラグの塩基度(CaO)%/(SiO
2)%、及びスラグ中(Al
2O
3)%の適正条件を予め求めておく。なお、この事前準備手順は、
図32中の手順(5)に該当する。
【0038】
スラグの塩基度は、スラグ中の(CaO)%及び(SiO
2)%を用いて、下式で計算する。なお、(CaO)%は(CaO)の質量%で示した濃度であり、(SiO
2)%は(SiO
2)の質量%で示した濃度である。
スラグの塩基度=(C/S)=(CaO)%÷(SiO
2)%
溶銑滓の排出が良好となるように以下に示す2つの条件を満足するスラグ成分を、適正値とする。
【0039】
・排出したスラグの温度が、結晶化温度を下回らないこと。
・スラグの粘度が、できる限り低位であること。
本実施形態においては、スラグの塩基度及びスラグ中の(Al
2O
3)%の適正値については、以下に示す公知の文献等をもとに設定した。
参考文献の(星ら:CAMP-ISIJ,12(1999),709,10)によれば、スラグの温度が低下して固相が析出し、且つスラグの粘度が急上昇する温度を結晶化温度とし、スラグの成分と結晶化温度について、以下の関係式を求めている。
【0040】
結晶化温度(℃)=195×(C/S)+7.1×(MgO)%+11.5×(Al
2O
3)%+0.9×(TiO
2)%+870.1
通常、スラグ中の(MgO)%,(Al
2O
3)%,(TiO
2)%は、(MgO)%:5〜8(%),(Al
2O
3)%:13.5〜16(%),(TiO
2)%:1〜2(%)程度で操業をしている。なお、(MgO)%は(MgO)の質量%で示した濃度であり、(Al
2O
3)%は(Al
2O
3)の質量%で示した濃度であり、(TiO
2)%は(TiO
2)の質量%で示した濃度である。
【0041】
本実施形態においては、(MgO)%=6.8%,(Al
2O
3)%=14.0%,(TiO
2)%=1.6%として、上記式に従い、塩基度と結晶化温度の関係を求めた。その求めた関係を、
図9に示す。
また、参考文献の(星ら:CAMP-ISIJ,12(1999),709,10)によれば、1400℃におけるスラグの粘度について、以下の関係式を求めている。
粘度=0.3×{12.6×(C/S)
2−33.1×(C/S)−0.52×(MgO)%+0.42×(Al
2O
3)%−0.29×(TiO
2)%+21.72}
また、(MgO)%=6.8%,(Al
2O
3)%=14.0%,(TiO
2)%=1.6%として、上記式に従い、塩基度と粘度の関係を求めた。その求めた関係を、
図10に示す。
【0042】
上記2つ(結晶化温度、粘度)の式の適用範囲は、以下の通りである。
1.0<(CaO)%/(SiO
2)%<1.4
4.5%<(MgO)%<8.5%
14%<(Al
2O
3)%<18%
図11に、出銑口2から排出された溶銑滓の流れの概略図を示す。
【0043】
図11に示すように、炉内から排出されたスラグは出銑樋を流れて、水砕設備4にて水冷されるか、乃至は、ドライピット3にて徐冷されてリサイクル製品となる。ところが、この排出されたスラグは、各冷却設備に到達するまでの間に、大気や出銑樋に熱を放散して温度が低下することとなる。
ここで、各溶銑温度を測定したところ、溶銑とスラグを分離する主樋スキンマー部5で測定した溶銑温度と、スラグの徐冷設備であるドライピット3入口におけるスラグの温度には、30℃〜40℃の差があることを確認した。
【0044】
そして、(A3)で設定した溶銑の下限温度1360℃から、スラグの温度低下分40℃を差し引くと、想定されるスラグの最低温度は1320℃となる。
図12に示すように、スラグの塩基度と結晶化温度の関係より、スラグの塩基度が1.22以上であり、且つスラグの温度が1320℃となった場合には、結晶化温度を下回り、急激にスラグの粘度が上昇することとなる。
【0045】
そこで、スラグの塩基度は1.22未満に設定する必要がある。
また、
図13に示すように、スラグの塩基度と粘度の関係より、スラグの塩基度が1.0〜1.3の範囲では、スラグの塩基度が高い方がスラグの粘度が低い。よって、スラグの粘度の観点からは、スラグの塩基度は高い方が望ましいといえる。
図14に、休風における還元材比増加量と、溶銑中[Si]%の最大値の関係を示す。
【0046】
図14を参照すると、還元材比の増加に伴い、溶銑中[Si]%の最大値は上昇するが、バラつきがあることがわかる。
図14に、最小二乗法で求めた近似直線の式を実線で示す。この近似直線の式を使用して、推定した溶銑中[Si]%の推定値と、過去実績の溶銑中[Si]%の差を計算して、もっとも差が大きい例を、
図14中の点線で示す。
図14中の2本の点線のように、最大で±0.27程度の差があることがわかる。
【0047】
溶銑中[Si]%が変動すると、スラグ中の塩基度(C/S)が変動する。そのスラグ中の塩基度(C/S)の計算方法を以下に示す。
表1に、各原料毎の装入量(t/ch)を示す。表2に、各原料毎の各成分(%)を示す。
【0050】
表1に示すすべての原料の装入量(t/ch)及び、表2に示す鉱石、コークス、微粉炭や副原料などの高炉1に投入する各原料の成分(質量%濃度)から、T.Fe(鉄分),SiO
2,MnO,TiO
2,CaO,Al
2O
3,MgOの各成分の装入量(t/ch)を、下式により求める。
各原料毎の各成分の装入量(t/ch)=各原料中の各成分(%)×各原料の装入量(t/ch)
表3に、各原料毎の各成分の装入量(t/ch)を示す。
【0052】
ここで、(t/ch)とは1チャージあたりの装入量(t)である。また、1日に必要な鉱石やコークス等の原燃料(装入物)をおよそ80〜100(回/日)程度に分けて装入している。
表4に、各原料毎の各成分の装入量の合計(表3の合計)を示す。
【0054】
表4に示す、各成分のうち、CaO,Al
2O
3,MgOは、すべてスラグになることとなる。それに対して、SiO
2,MnO,TiO
2の各成分の一部は溶銑になり、また各成分の残りはスラグになることとなる。
装入物中のFeは、すべて溶銑になるとして、下式で溶銑中Fe(t/ch)を求める。
溶銑中Fe(t/ch)=装入物中T.Fe(t/ch)
また、溶銑中Mn量、溶銑中Ti量は、簡易的に以下のように計算する。
【0055】
溶銑中Mn(t/ch)=装入MnO(t/ch)×Mn分配率(%)×55÷71
溶銑中Ti(t/ch)=装入TiO
2(t/ch)×Ti分配率(%)×48÷(48+16×2)
ただし、Mn分配率(溶銑へ入る割合)を85%とし、Ti分配率を50%とした。
表5に既知の部分のみの溶銑成分(t/ch)を示し、表6に既知の部分のみの溶銑成分(%)を示す。
【0058】
ところで、溶銑には、炭素が多く溶け込むが、その量は大きくは変化しない。そこで、表6に示すように、溶銑中[C]%を4.8%の固定値とした。また、溶銑中[Si]%は適宜、値を与えることとし、溶銑中[Si]%を0.4%とした例を表6に示す。
表5、表6に示す既知の成分から、下記3つの式を用いて解くと、表7、表8になる。
つまり、溶銑中[Si]%の値を与えると、下記3つの式を用いて解くと、溶銑中[Si](t/ch)を得られる。
【0059】
溶銑成分合計(t/ch)=C(t/ch)+Fe(t/ch)+Si(t/ch)+Mn(t/ch)+Ti(t/ch)
すなわち、z=x+89.25+y+0.16+0.17
Si(t/ch)=溶銑成分合計(t/ch)×[Si]%
すなわち、y=z×0.4(%)
C(t/ch)=溶銑成分合計(t/ch)×[C]%
すなわち、x=z×4.8(%)
【0062】
そして、表4に示す各成分の装入量合計から、表5に示す各成分の溶銑に分配される量を差し引いて、スラグに分配される量(t/ch)を求める。表9に、スラグに分配される量(t/ch)を示す。
【0064】
装入CaO量、装入Al
2O
3量、装入MgO量、スラグ中SiO
2量、スラグ中MnO量、スラグ中TiO
2量を合計し、計算スラグ量とした。表10に、計算スラグ量を示す。
【0066】
装入CaO量、装入Al
2O
3量、スラグ中SiO
2量を、計算スラグ量で割り、スラグ中の(SiO
2)%,(CaO)%,(Al
2O
3)%を計算した。表11に、スラグ中における各成分(%)を示す。
【0068】
スラグの塩基度は、スラグ中の(CaO)%,(SiO
2)%を用いて、下式で計算する。
スラグの塩基度=(C/S)=(CaO)%÷(SiO
2)%
表12に、スラグ塩基度を示す。
【0070】
以上、例示した溶銑中[Si]%=0.4%より、スラグの塩基度は1.27、(Al
2O
3)%は15.1(%)と推定される。
上で述べた塩基度の計算方法に従って、溶銑中[Si]%が変化した際におけるスラグの塩基度(CaO)%/(SiO
2)%の推定値の変化を、
図15に示す。
図15に示すように、例えば、溶銑中[Si]%が0.27変化すると、スラグの塩基度が0.11程度変化することが推定される。
【0071】
図16に示すように、溶銑中[Si]%の変動により、スラグの塩基度が0.11変動したとしても、上で設定したスラグの塩基度1.22未満を保てるように、スラグの塩基度の目標値を1.1と設定した。
また、CaO,SiO
2,Al
2O
3から成るスラグの状態図から、最も凝固点が低くなるよう、(Al
2O
3)%の目標値を13%とした。
【0072】
続いて、(A1)〜(A5)に沿って事前準備した上で、(B1)〜(B5)に沿って休風前に高炉1に投入する還元材比増加量及び副原料を決定する。
(B1)
(A2)で求めた休風前の還元材比増加量と溶銑温度低下の傾きとの関係と、予め設定されている休風時間と、休風前の溶銑温度とから、休風立ち上げ時における溶銑温度が、予め(A3)で求めた溶銑の下限温度を下回らないように、休風前の還元材比増加量を決定する。なお、この決定手順は、
図32中の手順(6)に該当する。
【0073】
通常操業時には、溶銑温度が1510℃となるように、熱風の温度等を調整しているが、休風前においては溶銑温度が1520℃になるように調整している。ここでは、休風前の溶銑温度を1520℃とする。また、休風時間は、休風中に実施する工事の工程により決定する。
休風前の溶銑温度1520℃から、休風立ち上げまでの間に、溶銑温度が下限温度を下回らないような溶銑温度低下の傾きを求める。
【0074】
次いで、休風前の還元材比増加量と、溶銑温度低下の傾きの関係から、溶銑温度が下限温度を下回らないために必要な休風前の還元材比増加量を決定する。
例えば、30時間の休風で1520℃から1360℃(下限温度)まで低下するとした場合、
図17に示すように、溶銑温度低下の傾きは5.3(℃/h)となり、休風前の還元材比増加量は83(kg/tp)必要になることがわかる。
【0075】
このように、休風立ち上げの溶銑温度が下限温度を下回らないように、休風前の還元材比増加量を設定する。
(B2)
休風立ち上げ時における溶銑温度が溶銑の下限温度を下回らないように決定した休風前の還元材比増加量から、休風立ち上げ後における溶銑中[Si]%の最大値を推定する。なお、この推定手順は、
図32中の手順(7)に該当する。
【0076】
図18に示すように、(A4)で求めた休風前の還元材比増加量と、休風立ち上げ後の溶銑中[Si]%の最大値の関係から、休風立ち上げ後の溶銑中[Si]%の最大値を推定する。
(B3)
推定した溶銑中[Si](%)の最大値から、スラグの塩基度(C/S)、及び(Al
2O
3)%の推定値を求める。なお、この推定手順は、
図32中の手順(8)に該当する。
【0077】
(A5)に記載しているスラグ中の塩基度の計算方法と同様に、溶銑中[Si]%の値から、スラグの塩基度、及び(Al
2O
3)%を計算して推定値を求める。
(B4)
休風立ち上げ後における溶銑中[Si]%の最大値での、スラグの塩基度(CaO)%/(SiO
2)%、及び(Al
2O
3)%が適正条件を満たすように、副原料を決定する。なお、この決定手順は、
図32中の手順(9)に該当する。
【0078】
副原料の使用量を変化させて、(A5)に記載しているスラグ中の塩基度の計算方法と同様に、スラグの塩基度及び(Al
2O
3)%を計算する。この計算を繰り返し行い、スラグの塩基度、及び(Al
2O
3)%が目標の値になる、高炉1に投入する副原料の使用量を決定する。
このように、決定した還元材比増加量及び副原料を、休風前の高炉1に投入した後、休風を行い、その後、休風立ち上げを行って当該高炉1の操業を再開する。
[実施例]
以下に、本発明の高炉休風方法の実施例について、図を基に説明する。
【0079】
まず、実施条件を以下に示す。
高炉1について、内容積が4500m
3で、出銑口数が4個のベル・アーマー高炉を用いた。通常操業時の操業条件については、出銑量を8000〜8500(t/D)とし、溶銑温度を1480℃〜1540℃とした。また、還元材比を500〜530(kg/tp)とした。還元材には、コークス及び微粉炭を用いた。原料には、焼結鉱、ペレット、塊鉱石を用いた。休風の条件については、休風時間を24時間〜40時間とした。
【0080】
(A1)
図19に、休風前から休風立ち上げ後にかけての溶銑温度の推移を示す。
溶銑温度は、出銑口2から排出された溶銑滓が溶銑とスラグに分離される主樋スキンマー部5で測定した。出銑開始後、約300tの溶銑が排出されたタイミングから測定を開始し、30分〜1時間おきに測定した。
【0081】
その結果、
図19に示すように、休風前の最後に測定した溶銑温度が1524℃で、休風立ち上げ後の最初に測定した溶銑温度が1367℃であったため、休風の間に低下した溶銑温度は、1524−1367=157℃と求まる。
また、休風時間が30.2時間であることから、休風前から休風立ち上げの間の溶銑温度低下の傾きは、157÷30.2=−5.2(℃/h)と求まる。
【0082】
ところで、(A1)を実施しないことで起こる不具合について、休風前から休風立ち上げの間における炉内の溶銑温度低下の傾きを求めなければ、(A2)の休風前の還元材比増加量と休風前から休風立ち上げの間における炉内の溶銑温度低下の傾きの関係を求めることができない。
(A2)
休風前の還元材比増加量と、炉内の溶銑温度低下の傾きの過去実績を、10点以上集めて、横軸を休風前の還元材比増加量とし、縦軸を溶銑温度低下の傾きとした上で、その過去実績をプロットして関係を求めた。その求めた関係を、
図20に示す。
【0083】
図20に、最小二乗法で求めた近似直線を点線で示す。また
図20に、近似直線よりも、炉内の溶銑温度低下の傾きが大きいプロットの中で、最も近似直線から離れている点を通る直線を実線で示す。
この
図20中の実線を、休風前の還元材比増加量と、炉内の溶銑温度低下の傾きの関係式とした。その関係式を式(1)に示す。
【0084】
溶銑温度低下の傾き(℃/h)=−0.0347×休風前の還元材比増加量(kg/tp)+8.1965 ・・・(1)
ところで、(A2)を実施しないことで起こる不具合について、休風前の還元材比増加量と、休風前から休風立ち上げの間における炉内の溶銑温度低下の傾きの関係を求めなければ、高炉1内に投入する休風前の還元材比増加量を決定することができない。
【0085】
(A3)
10回以上の休風の過去実績データついて、休風立ち上げ時の溶銑滓の排出状況が良好なデータと、不良なデータに層別した。なお、休風立ち上げ時の溶銑滓の排出状況の層別については、以下の2点を基準で行った。
・炉内に残留する溶銑滓の増加により、炉内通気性に問題が生じ、通気不良となって減風に至った例。
【0086】
・炉外に排出させた溶銑滓が凝固し、出銑不可能となった例。
図21に、出銑口2から出た溶銑滓の流れの概略図を示す。
図21に示すように、例えば、出銑口2から排出されたスラグが、スラグ処理設備(ドライピット3、水砕設備4)に流れるまでの間に凝固する場合、又はスラグの粘性が高く出銑樋を流れない場合、出銑が継続できなくなる、すなわち出銑不可能となる。
【0087】
上記の2点を、休風立ち上げ時の溶銑滓の排出不良データ(不可)とし、上記の2点のような問題が生じなかったデータを、立ち上げ時の溶銑滓の排出良好データ(良)とした。
溶銑滓の排出状況を層別したデータ(排出良好データ及び排出不良データ)について、横軸を休風時間とし、縦軸を休風立ち上げの溶銑温度とした上で、過去実績をプロットして関係を求めた。その求めた関係を、
図22に示す。
【0088】
図22より、休風立ち上げ時の溶銑温度が1360℃を下回ると、溶銑滓の排出不良となるため、休風立ち上げ時の溶銑温度の下限温度を1360℃と決定した。
ところで、(A3)を実施しないことで起こる不具合について、溶銑滓の排出不良となってしまう、休風立ち上げ時の溶銑の下限温度が分からなければ、高炉1内に投入する休風前の還元材比増加量を決定することができない。
【0089】
(A4)
図23に、休風前から休風立ち上げ後にかけての溶銑中[Si]%の推移を示す。なお、溶銑中[Si]%は、溶銑に含まれる[Si]の質量%濃度である。
サンプリングは、250t〜280t毎に1回実施し、X線回折で分析した。
図23に示すように、溶銑中[Si]%は、休風立ち上げ時に最大値となり、以降は減少し、通常操業時の溶銑中[Si]%へと戻る。
【0090】
10回以上の休風の過去実績データについて、休風前の還元材比増加量と、溶銑中[Si]%の最大値の過去実績データを集め、横軸を休風前の還元材比増加量とし、縦軸を溶銑中[Si]%の最大値とした上でそれらのデータをプロットして関係を求めた。その関係を、
図24に示す。
図24中の実線は、最小二乗法で求めた近似直線である。この近似直線を、休風前の還元材比増加量と、休風立ち上げ後の溶銑中[Si]%の最大値の関係式とした。その関係式を式(2)に示す。
【0091】
溶銑中[Si]%の最大値=0.0104×休風前の還元材比増加量(kg/tp)+0.5695 ・・・(2)
ところで、(A4)を実施しないことで起こる不具合について、休風前の還元材比増加量と、休風立ち上げ後の溶銑中[Si]%の最大値の関係を求めなければ、スラグの塩基度、(Al
2O
3)%の推定値を求めることができない。
(A5)
ところで、結晶化温度を求めるにあたっては、下式を用いることとする。
【0092】
結晶化温度(℃)=195×(C/S)+7.1×(MgO)%+11.5×(Al
2O
3)%+0.9×(TiO
2)%+870.1
ただし、(MgO)%=6.8%、(Al
2O
3)%=14.0%、(TiO
2)%=1.6%とした。
上式に従い、塩基度と結晶化温度の関係を求める。その関係を
図25に示す。
また、粘度を求めるにあたっては、下式を用いることとする。
粘度={1+0.007×(1500−T)}×{12.6×(C/S)
2−33.1×(C/S)−0.52×(MgO)%+0.42× (Al
2O
3)%−0.29×(TiO
2)%+21.72}
ただし、(MgO)%=6.8%、(Al
2O
3)%=14.0%、(TiO
2)%=1.6%とした。
【0093】
上記式に従い、塩基度と粘度の関係を求める。その関係を
図26に示す。
ここで、各溶銑温度を測定したところ、溶銑とスラグを分離する主樋スキンマー部5で測定した溶銑温度と、スラグ徐冷設備であるドライピット3入口におけるスラグの温度には、30℃〜40℃の差があることを確認した。
そして、(A3)で設定した溶銑の下限温度1360℃から、スラグの温度低下40℃を差し引くと、推定されるスラグの最低温度は1320℃となる。
【0094】
図27に示すように、スラグの塩基度と結晶化温度の関係より、スラグの塩基度が1.22以上であり、且つスラグの温度が1320℃となった場合には、結晶化温度を下回り、急激にスラグの粘度が上昇することとなる。
そこで、スラグの塩基度は1.22未満に設定する必要がある。
また、
図28に示すように、スラグの塩基度と粘度の関係より、スラグの塩基度が1.0〜1.3の範囲では、スラグの塩基度が高い方がスラグの粘度が低い。よって、スラグの粘度の観点からは、スラグの塩基度は高い方が望ましいといえる。
【0095】
図29に、休風における還元材比増加量と、溶銑中[Si]%の最大値の関係を示す。
図29を参照すると、還元材比の増加に伴い、溶銑中[Si]%の最大値は上昇するが、バラつきがあることがわかる。
図29に、最小二乗法で求めた近似直線の式を実線で示す。この近似直線の式を使用して、推定した溶銑中[Si]%の推定値と、過去実績の溶銑中[Si]%の差を計算して、もっとも差が大きい例を、
図29中の点線で示す。
図29中の2本の点線のように、最大で±0.27程度の差があることがわかる。
【0096】
溶銑中[Si]%が変動すると、スラグ中の塩基度(C/S)が変動する。そのスラグ中の塩基度(C/S)の計算方法を以下に示す。
すべての原料の装入量(t/ch)及び、鉱石、コークス、微粉炭や副原料などの高炉1に投入する各原料の成分(質量%濃度)から、T.Fe(鉄分),SiO
2,MnO,TiO
2,CaO,Al
2O
3,MgO各成分の装入量(t/ch)を求める(表1〜3参照)。
【0097】
ここで、(t/ch)とは1回あたりの装入量(t)である。また、1日に必要な鉱石やコークス等の原燃料(装入物)をおよそ80〜100(回/日)程度に分けて装入している。
上記の各成分(表4参照)のうち、CaO,Al
2O
3,MgOは、すべてスラグになることとなる。対して、SiO
2,MnO,TiO
2の各成分の一部は溶銑になり、また各成分の残りはスラグになることとなる。
【0098】
装入物中のFeは、すべて溶銑になるとして、下式で溶銑中Fe(t/ch)を求める。
溶銑中Fe(t/ch)=装入物中T.Fe(t/ch)
また、溶銑中Mn量、溶銑中Ti量は、簡易的に以下のように計算する。
溶銑中Mn(t/ch)=装入MnO(t/ch)×Mn分配率(%)×55÷71
溶銑中Ti(t/ch)=装入TiO
2(t/ch)×Ti分配率(%)×48÷80
ただし、Mn分配率を85%とし、Ti分配率を50%とした。
【0099】
ところで、溶銑には、炭素が多く溶け込むが、その量は大きくは変化しない。そこで、溶銑中[C]%を4.8%の固定値とした。
また、溶銑中[Si]%の値を与え、以下に示す3つの式より方程式を解くと、溶銑中Si(t/ch)を得られる(表5〜8参照)。
溶銑成分合計(t/ch)=C(t/ch)+Fe(t/ch)+Si(t/ch)+Mn(t/ch)+Ti(t/ch)
Si(t/ch)=溶銑成分合計(t/ch)×[Si]%
C(t/ch)=溶銑成分合計(t/ch)×[C]%
各成分の装入量合計(表4参照)から、各成分の溶銑に分配される量(表5参照)を差し引いて、スラグに分配される量(表9参照)を求める。
【0100】
装入CaO量、装入Al
2O
3量、装入MgO量、スラグ中SiO
2量、スラグ中MnO量、スラグ中TiO
2量を合計し、計算スラグ量(表10参照)とした。
装入CaO量、装入Al
2O
3量、スラグ中SiO
2量を、計算スラグ量で割り、スラグ中の(SiO
2)%,(CaO)%,(Al
2O
3)%を計算した(表11参照)。
スラグの塩基度は、スラグ中の(CaO)%,(SiO
2)%を用いて下式で計算する(表12参照)。
【0101】
スラグの塩基度=(C/S)=(CaO)%÷(SiO
2)%
上で述べたスラグ中の塩基度の計算方法に従って、溶銑中[Si]%が変化した際におけるスラグの塩基度(CaO)%/(SiO
2)%の推定値の変化を、
図30に示す。
図30に示すように、溶銑中[Si]%が0.27変化すると、スラグの塩基度が0.11程度変化することが推定される。
【0102】
図31に示すように、溶銑中[Si]%の変動により、スラグ塩基度が0.11変動したとしても、上で設定したスラグの塩基度1.22未満に保てるように、スラグの塩基度の目標値を1.1と設定した。
また、CaO,SiO
2,Al
2O
3から成るスラグの状態図から、最も凝固点が低くなるよう、(Al
2O
3)%の目標値を13%とした。
【0103】
このように、(A1)〜(A5)までが、休風前の還元材比増加量及び副原料を決定するにあたっての事前準備工程である。
ところで、(A5)を実施しないことで起こる不具合について、休風立ち上時の溶銑滓の排出良好となるスラグの塩基度、(Al
2O
3)%の適正条件を求めなければ、副原料の添加量を決定することができない。
(B1)
まず、溶銑温度低下の傾きを求める。式(1)及び、休風時間:36時間、休風前の溶銑温度:1520℃、溶銑の下限温度:1360℃、として計算すると、
溶銑温度低下の傾き(℃/h)=−(下限温度(℃)−休風前の溶銑温度(℃))/休風時間(h)
=−(1360−1520)/36=4.44
このように得られた、溶銑温度低下の傾き=4.44を、式(1)に代入することで、休風前の還元材比増加量を求めることができる。
【0104】
休風前の還元材比増加量(kg/tp)=(8.1965−4.44)/0.0347=108
この結果より、休風前の還元材比増加量を110(kg/tp)とした。
ところで、(B1)を実施しないことで起こる不具合について、休風前の還元材比増加量を決定しないと、休風立ち上げ後の溶銑中[Si]%を推定することができない。
(B2)
次いで、上記の(B1)で求めた、休風前の還元材比増加量=110(kg/tp)を、式(2)に代入して、休風立ち上げ後の溶銑中[Si]%の最大値を推定した。
【0105】
溶銑中[Si]%の最大値=0.0104×休風前の還元材比増加量(kg/tp)+0.5695
=0.0104×110+0.5695=1.7
休風立ち上げ後の溶銑中[Si]%の最大値は、1.7(%)と推定される。
ところで、(B2)を実施しないことで起こる不具合について、休風立ち上げ後の溶銑中[Si]%の最大値を推定しなければ、スラグの塩基度、及び(Al
2O
3)%を推定することができない。
(B3)
ここでまず、表13〜24を参照しながら、通常操業時のスラグの塩基度、及び(Al
2O
3
)%を推定する手順ついて、説明する。なお、表13〜24に示すデータは通常操業時の一例である。
【0106】
すべての原料の装入量(t/ch)及び、鉱石、コークス、微粉炭や副原料などの高炉1に投入する各原料の成分(質量%濃度)から、T.Fe(鉄分),SiO
2,MnO,TiO
2,CaO,Al
2O
3,MgO各成分の装入量(t/ch)を、下式より求める(表13〜15参照)。
各原料毎の各成分の装入量(t/ch)=各原料中の各成分(%)×各原料の装入量(t/ch)
【0110】
下記の各成分(表16参照)のうち、CaO,Al
2O
3,MgOは、すべてスラグになることとなる。対して、SiO
2,MnO,TiO
2の各成分の一部は溶銑になり、また各成分の残りはスラグになることとなる。またT.Feは、すべて溶銑になることとなる。
【0112】
上記した成分の装入量を用いて、下式より、各溶銑中の成分を計算する。
溶銑中Fe(t/ch)=装入物中T.Fe(t/ch)
溶銑中Mn(t/ch)=装入MnO(t/ch)×Mn分配率(%)×55÷71
溶銑中Ti(t/ch)=装入Ti(t/ch)×Ti分配率(%)×48÷(48+16×2)
ただし、Mn分配率を85%とし、Ti分配率を50%とした。
【0113】
表18に示すように、溶銑中[C]%を4.8(%)とした。また、溶銑中[Si]%は適宜、値を与えることとし、ここでは溶銑中[Si]%を0.4(%)とした例を示す。
【0116】
このように、表17、表18に示す既知の成分から、下記方程式を用いて解くと、表19、表20に示すようになる。
溶銑成分合計(t/ch)=C(t/ch)+Fe(t/ch)+Si(t/ch)+Mn(t/ch)+Ti(t/ch)
すなわち、z=x+96.38+y+0.18+0.18
Si(t/ch)=溶銑成分合計(t/ch)×[Si]%
すなわち、y=z×0.4(%)
C(t/ch)=溶銑成分合計(t/ch)×[C]%
すなわち、x=z×4.8(%)
【0119】
各成分の装入量合計(表16参照)から、各成分の溶銑に分配される量(表17参照)を差し引いて、スラグに分配される量(表21参照)を計算する。
【0121】
装入CaO量、装入Al
2O
3量、装入MgO量、スラグ中SiO
2量、スラグ中MnO量、スラグ中TiO
2量を合計し、計算スラグ量(表22参照)とした。
【0123】
装入CaO量、装入Al
2O
3量、スラグ中SiO
2量を、計算スラグ量で割り、スラグ中の(SiO
2)%,(CaO)%,(Al
2O
3)%を計算した(表23参照)。
【0125】
スラグの塩基度は、スラグ中の(CaO)%,(SiO
2)%を用いて計算する(表24参照)。
【0127】
通常操業時においては、例示した溶銑中[Si]%=0.4%より、スラグの塩基度は1.27、(Al
2O
3)%は15.3%と推定される。
続いて、表25〜36を参照しながら、推定した溶銑中[Si]%の最大値における、スラグの塩基度、及び(Al
2O
3)%を推定する手順の比較例について、説明する。表25〜36に示すデータは、本発明の高炉休風方法と比較するために挙げた一例である。
【0128】
すべての原料の装入量(t/ch)及び、鉱石、コークス、微粉炭や副原料などの高炉1に投入する各原料の成分(質量%濃度)から、T.Fe(鉄分),SiO
2,MnO,TiO
2,CaO,Al
2O
3,MgO各成分の装入量(t/ch)を、下式より求める(表25〜27参照)。
各原料毎の各成分の装入量(t/ch)=各原料中の各成分(%)×各原料の装入量(t/ch)
【0132】
下記の各成分(表28参照)のうち、CaO,Al
2O
3,MgOは、すべてスラグになることとなる。対して、SiO
2,MnO,TiO
2の各成分の一部は溶銑になり、また各成分の残りはスラグになることとなる。またT.Feは、すべて溶銑になることとなる。
【0134】
上記した成分の装入量を用いて、下式より、各溶銑中の成分を計算する。
溶銑中Fe(t/ch)=装入物中T.Fe(t/ch)
溶銑中Mn(t/ch)=装入MnO(t/ch)×Mn分配率(%)×55÷71
溶銑中Ti(t/ch)=装入Ti(t/ch)×Ti分配率(%)×48÷(48+16×2)
ただし、Mn分配率(%)を85%とし、Ti分配率(%)を50%とした。
【0135】
表30に示すように、溶銑中[C]%を4.8%とした。また、溶銑中[Si]%は適宜、値を与えることとし、ここでは溶銑中[Si]%を1.7%とした例を示す。
【0138】
このように、表29、表30に示す既知の成分から、下記方程式を用いて解くと、表31、表32に示すようになる。
溶銑成分合計(t/ch)=C(t/ch)+Fe(t/ch)+Si(t/ch)+Mn(t/ch)+Ti(t/ch)
すなわち、z=x+78.21+y+0.14+0.16
Si(t/ch)=溶銑成分合計(t/ch)×[Si]%
すなわち、y=z×1.7(%)
C(t/ch)=溶銑成分合計(t/ch)×[C]%
すなわち、x=z×4.8(%)
【0141】
各成分の装入量合計(表28参照)から、各成分の溶銑に分配される量(表29参照)を差し引いて、スラグに分配される量(表33参照)を計算する。
【0143】
装入CaO量、装入Al
2O
3量、装入MgO量、スラグ中SiO
2量、スラグ中MnO量、スラグ中TiO
2量を合計し、計算スラグ量(表34参照)とした。
【0145】
装入CaO量、装入Al
2O
3量、スラグ中SiO
2量を、計算スラグ量で割り、スラグ中の(SiO
2)%,(CaO)%,(Al
2O
3)%を計算した(表35参照)。
【0147】
スラグの塩基度は、スラグ中の(CaO)%,(SiO
2)%を用いて計算する(表36参照)。
【0149】
以上、例示した溶銑中[Si]%の最大値=1.7%より、スラグの塩基度は1.69、(Al
2O
3)%は17.7%と推定される。
このように、スラグの塩基度は1.22を超え、(Al
2O
3)%は13%を超えているので、溶銑・スラグの流動性が低下することとなり、炉内から溶銑滓を排出することが困難(出銑不能)となる虞がある。
【0150】
ところで、(B3)を実施しないことで起こる不具合について、溶銑中[Si]%の最大値から、スラグの塩基度、及び(Al
2O
3)%の推定値を求めなければ、適正条件を満たすような副原料の添加量を決定することができない。
(B4)
ここで、表37〜50を参照しながら、推定した溶銑中[Si]%の最大値における、スラグの塩基度、及び(Al
2O
3)%を推定する手順ついて、説明する。なお、表37〜50に示すデータは本実施例を示す一例である。
【0151】
本実施例においては、副原料使用量を変化させながら、(A5)に示す計算方法でスラグ成分を計算し、スラグの塩基度が目標値である1.1、(Al
2O
3)%は目標値である13%となるように、石灰を3.0(t/ch)から7.9(t/ch)に、硅石を0から5.9(t/ch)に増加させることとした(表37参照)。
すべての原料の装入量(t/ch)及び、鉱石、コークス、微粉炭や副原料などの高炉1に投入する各原料の成分(質量%濃度)から、T.Fe(鉄分),SiO
2,MnO,TiO
2,CaO,Al
2O
3,MgO各成分の装入量(t/ch)を、下式より求める(表37〜39参照)。
【0152】
各原料毎の各成分の装入量(t/ch)=各原料中の各成分(%)×各原料の装入量(t/ch)
【0156】
下記の各成分(表40参照)のうち、CaO,Al
2O
3,MgOは、すべてスラグになることとなる。対して、SiO
2,MnO,TiO
2の各成分の一部は溶銑になり、また各成分の残りはスラグになることとなる。またT.Feは、すべて溶銑になることとなる。
【0158】
上記、成分の装入量を用いて、下式より、各溶銑中の成分を計算する。
溶銑中Fe(t/ch)=装入物中T.Fe(t/ch)
溶銑中Mn(t/ch)-=装入MnO(t/ch)×Mn分配率(%)×55÷71
溶銑中Ti(t/ch)=装入Ti(t/ch)×Ti分配率(%)×48÷(48+16×2)
ただし、Mn分配率(%)を85%とし、Ti分配率(%)を50%とした。
【0159】
表42に示すように、溶銑中[C]%は4.8%とした。また、溶銑中[Si]%は、適宜、値を与えることとし、ここでは、溶銑中[Si]%を1.7%とした例を示す。
【0162】
このように、表41、表42に示す既知の成分から、下記方程式を用いて解くと、表43、表44に示すようになる。
溶銑成分合計(t/ch)=C(t/ch)+Fe(t/ch)+Si(t/ch)+Mn(t/ch)+Ti(t/ch)
すなわち、z=x+78.29+y+0.14+0.16
Si(t/ch)=溶銑成分合計(t/ch)×[Si]%
すなわち、y=z×1.7(%)
C(t/ch)=溶銑成分合計(t/ch)×[C]%
すなわち、x=z×4.8(%)
【0165】
各成分の装入量合計(表40参照)から、各成分の溶銑に分配される量(表41参照)を差し引いて、スラグに分配される量(表45参照)を計算する。
【0167】
装入CaO量、装入Al
2O
3量、装入MgO量、スラグ中SiO
2量、スラグ中MnO量、スラグ中TiO
2量を合計し、計算スラグ量(表46参照)とした。
【0169】
装入CaO量、装入Al
2O
3量、スラグ中SiO
2量を、計算スラグ量で割り、スラグ中の(SiO
2)%,(CaO)%,(Al
2O
3)%を計算した(表47参照)。
【0171】
スラグの塩基度は、スラグ中の(CaO)%,(SiO
2)%を用いて計算する(表48参照)。
【0173】
例示した溶銑中[Si]%の最大値=1.7%より、スラグの塩基度は1.1、(Al
2O
3)%は13.0%と推定される。
以上の結果より、炉内からの溶銑滓の排出が悪化することなく、高炉1の休風立ち上げを行うことができた。
ところで、(B4)を実施しないことで起こる不具合について、副原料を添加し、適正条件を満たすようなスラグ塩基度、(Al
2O
3)%にしなければ、スラグの流動性が低下してしまう。このように、スラグの流動性が低下すると、炉内からの溶銑滓排出が困難となり、出銑不能などの大きなトラブルに至ってしまう虞がある。
【0174】
表49、50に、本発明にかかる高炉休風方法の他の実施例の結果について示す。
表49、50に示すように、他の実施条件における休風についても、本発明の手法を実施することで、溶銑滓の排出を悪化させることなく、休風を立ち上げることができた。
【0177】
以上述べた本発明によれば、
図32の手順(2)に示すように、休風前の還元材比増加量と、溶銑温度低下の傾きとの関係を求め、
図32の手順(3)に示すように、溶銑の下限温度を決めることで、休風の準備段階で、休風時間に応じた還元材比増加量を決めることができる。
また、
図32の手順(3)に示すように、休風立ち上げの溶銑滓の排出を良好、不良に層別することで、目標とする溶銑の下限温度を決めることができる。
【0178】
また、
図32の手順(4)に示すように、休風前の還元材比増加量と、休風立ち上げの溶銑中[Si]%の最大値との関係を求めることで、休風前に溶銑中[Si]%の最大値を予測することができ、予めスラグの成分調整をすることができる。
本発明を実施することで、高炉1の休風(休止)、休風立ち上げ(稼働再開)に関して、トラブル無く、且つ円滑に立ち上げることができるので、休風立ち上げでの溶銑滓の排出不良に起因する炉内通気性の悪化や、それに伴う送風量の低減をさせることなく、通常操業へ移行することができる。
【0179】
なお、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する領域を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。