(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜12の何れか1項に記載の硫化リチウムの製造方法により、硫化リチウムを得、次いで、得られた硫化リチウムと、硫化リン、硫化ケイ素、硫化ゲルマニウム、硫化ホウ素、硫化アルミニウム、硫化ガリウム、リン酸リチウム、ケイ酸リチウム及びヨウ化リチウムの群から選ばれる1種又は2種以上の化合物と、を反応させることを特徴とする無機固体電解質の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
【0018】
本発明の硫化リチウムの製造方法は、予め粒状セラミックを敷いた焼成容器に、リチウム源及びイオウ源を含む原料混合物を仕込んで、焼成することを特徴とするものである。
【0019】
即ち、本製造方法は、リチウム源及びイオウ源を含む原料混合物を得る原料混合工程、該原料混合物を焼成する焼成工程、及び必要により粒状セラミックを焼成物と分離する分離工程を含むものである。
(1)原料混合工程;
原料混合工程に係るリチウム源としては、炭酸リチウム、水酸化リチウムが好ましく、特に水酸化リチウムが好ましい。
【0020】
原料混合工程に係るイオウ源としては、イオウ単体が好ましい。
【0021】
また、原料混合工程に係るリチウム源及びイオウ源は、リチウム及びイオウの両方を含むものであってもよい。該リチウム及びイオウの両方を含む化合物としては、硫酸リチウムが好ましい。
【0022】
原料混合工程に係るリチウム源又はイオウ源は、如何なる製造方法により得られたものであってもよく、市販品であってもよい。高純度の硫化リチウムを得る上で、リチウム源及びイオウ源は、不純物の含有量が少ないものほど好ましい。また、リチウム源及びイオウ源は、含水物であっても無水物であってもよい。
【0023】
また、リチウム源及びイオウ源の粒径は、特に制限されない。
【0024】
リチウム源及びイオウ源の原料混合物中のリチウム原子に対するイオウ原子の比、原子換算のモル比(S/Li)で0.2〜3が好ましく、0.3〜1が特に好ましい。
【0025】
本製造方法において、更に用いるリチウム源及びイオウ源の種類により、必要により還元剤を原料混合物に含有させることができる。
【0026】
即ち、炭酸リチウム、水酸化リチウム等のリチウム源を用い、イオウ単体等をイオウ源とする場合には、還元剤は必ずしも必須ではないが、硫酸リチウムをリチウム源及びイオウ源とする場合には、還元剤を用いることが好ましい。
【0027】
原料混合工程に係る還元剤は、例えば、炭素材、複数の水酸基を有する有機化合物等が挙げられる。
【0028】
前記炭素材としては、炭素原子のみからなる材料であり、例えば、カーボンブラック、炭素繊維、黒鉛、活性炭等が挙げられる。炭素材に係るカーボンブラックは、如何なる製造方法により得られたものであるかは制限されず、例えば、ファーネス法で得られたファーネスブラック、チャンネル法で得られたチャンネルブラック、アセチレン法で得られたアセチレンブラック、サーマル法で得られたサーマルブラック等が挙げられる。炭素材に係る炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。
【0029】
前記複数の水酸基を有する有機化合物は、糖類、多価アルコール類が反応性に優れている観点から好ましい。
【0030】
前記糖類としては、例えば、フルクトース等の単糖類、スクロース、ラクトース等の二糖類、単糖が3〜20分子程度結合したオリゴ糖類、でんぷん、セルロース等の多糖類、キシリトール、ソルビトール等の糖アルコール類が挙げられる。
【0031】
前記多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の2価のアルコール類、グリセリン、トリメチロールプロパン等の3価のアルコール類、分子中に4以上のヒドロキシル基を有する4価以上のアルコール類、ポリビニルアルコール等の多数のヒドロキシル基を有するポリマー等が挙げられる。
【0032】
本製造方法において、還元剤は糖類が好ましく、異相の含有量が少ない硫化リチウムを得るという効果が高まると共に、硫化リチウム中に残存する炭素の量が少なくなる点で、単糖類又は二糖類が好ましく、スクロースが特に好ましい。
【0033】
還元剤の配合量は、用いるリチウム源及びイオウ源により異なるが、リチウム源及びイオウ源としては、硫酸リチウムを用いる場合は、無水物換算の硫酸リチウム(Li
2SO
4)中のO
2に対する還元剤中の炭素原子のモル比(C/O
2)で、1.00〜2.10、好ましくは1.40〜2.00である。硫酸リチウム中のO
2に対する還元剤中の炭素原子のモル比が上記範囲にあることにより、焼成後の硫化リチウム中の炭素の残存が少なく、また、無機固体電解質として用いたときにイオン伝導度が高くなる傾向がある。
【0034】
また、リチウム源として炭酸リチウム及び/又は水酸化リチウムを用い、イオウ源としてイオウ単体を用いる場合には、原料混合物中のリチウム原子に対する還元剤由来の炭素原子の比が、原子換算のモル比(C/Li)で、0.05〜0.5が好ましく、0.1〜0.3が特に好ましい。原料混合物中のリチウム原子に対する炭素原子の比が上記範囲にあることにより、焼成後の硫化リチウム中の炭素の残存が少なく、また、無機固体電解質として用いたときにイオン伝導度が高くなる傾向がある。
【0035】
また、本製造方法において、複数の水酸基を有する有機化合物から選ばれる還元剤(1)を用いて、次工程の焼成反応を行うと、焼成容器内で急激な反応に伴う焼成物の飛散が起こり易いが、複数の水酸基を有する有機化合物から選ばれる還元剤(1)と、炭素材から選ばれる還元剤(2)とを併用することで、急激な反応を抑制しながら還元反応を行うことができ、更に焼成後においても、焼成容器からの焼成物の硫化リチウムの取り出しがいっそう容易になる。また、このようにして得られる硫化リチウムにおいても、無機固体電解質として用いたときにイオン伝導度が高いものが得られる。還元剤(1)と併用する還元剤(2)の炭素材は、多孔質炭素材料がその細孔内にリチウム源及びイオウ源と還元剤(1)を取り込んで、反応場となり、焼成物の飛散を抑制する効果が高い点で好ましく、特に活性炭が、焼成物の飛散防止効果が高く、また、比表面積が高いものを安価に大量に入手できる観点から好ましい。また、用いる多孔質炭素材料のBET比表面積は、好ましくは500m
2/g以上、特に好ましくは800〜3000m
2/gとすることが焼成物の飛散防止を抑制する効果が高くなる観点から好ましい。
【0036】
なお、以下、「還元剤(1)」及び「還元剤(2)」を総称して単に「還元剤」と言う。
【0037】
前記還元剤(1)と前記還元剤(2)の重量換算の配合比(還元剤(1)/{還元剤(1)+還元剤(2)})は、85〜99質量%、好ましくは88〜96質量%とすることが、還元反応を効率よく進行させ、かつ焼成物の飛散防止効果を得る観点から好ましい。
【0038】
原料混合工程に係るリチウム源、イオウ源及び必要により添加する還元剤の混合手段は、特に制限されるものではなく、上記各原料が均一に分散した混合物となるように、湿式法或いは乾式法にて行われる。
【0039】
湿式法は、ボールミル、ディスパーミル、ホモジナイザー、振動ミル、サンドグラインドミル、アトライター及び強力撹拌機等の装置にて行うことができる。
【0040】
一方、乾式法では、ハイスピードミキサー、スーパーミキサー、ターボスフェアミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー及びリボンブレンダー、V型混合機等の装置を用いることができる。なお、これら均一混合操作は、例示した機械的手段に限定されるものではない。また、所望によりジェットミル等で粉砕処理して粒度調整を行っても差し支えない。また、実験室レベルでは、家庭用ミキサー或いは手作業での混合でも十分である。
【0041】
均一混合処理された原料混合物は、予め粒状セラミックを敷いた焼成容器に投入し焼成工程に付される。
(2)焼成工程;
焼成工程においては、焼成容器に粒状セラミックを敷いた状態下に、前記原料混合物を焼成容器に加える。
【0042】
焼成容器に粒状セラミックを敷いた状態で、焼成反応を行うことにより、無機固体電解質として用いたときにイオン伝導度が高いものが得られる。
【0043】
本製造方法に係る反応は、例えば硫酸リチウム1水塩をスクロースにより還元する反応は、主に下記反応式(1)に従って進行するものと本発明らは推測している。
【0044】
3Li
2SO
4・H
2O+C
12H
22O
11
→3Li
2S+14H
2O+12CO↑ ・・(1)
本発明において、焼成容器に粒状セラミックを敷いた状態で、焼成を行うことにより、無機固体電解質として用いたときにイオン伝導度が高いものが得られる理由は定かではないが、本発明者らは、還元反応で副生するCO、水蒸気等のガス状物質を効率よく粒状セラミックが媒体となって排除しながら反応を行うことが出来るので、還元反応が完結し易くなり、このことに起因して、生成される硫化リチウムを無機固体電解質として用いると、イオン伝導度が高いものになると本発明者らは推測している。
【0045】
また、焼成容器に粒状セラミックを敷いた状態下に、前記原料混合物を焼成容器に加えることにより、原料混合物は焼成容器の底に直接接触しなくなる。その結果、反応生成物である硫化リチウムが焼成容器へ固着することを抑制し焼成容器から剥離しやすくなる。また、不純物の混入が少なくなるという利点もある。
【0046】
粒状セラミックの種類は、原料混合物及び硫化リチウムに対して不活性なものであることが、高純度の硫化リチウムを得る観点から好ましい。具体的には、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、窒化ケイ素、クロム鋼、ステンレス鋼、メノー、タングステンカーバイド等を用いることが出来、特に不活性であり、かつ安価で大量に入手しやすい観点からアルミナが好ましい。
【0047】
粒状セラミックの形状は、特に制限はなく、球状、立方状、長方状、円錐状、板状、棒状等の形状であってもよい。
【0048】
粒状セラミックの大きさは、ノギスなどで直接粒子径を測定する方法等により求めた平均粒子径が0.5mm以上、好ましくは1〜10mmとすることが粒状セラミックのハンドリングの点、焼成物との分離のしやすさの点から好ましい。
【0049】
粒状セラミックの敷き方によって、焼成容器と焼成物との剥離性や焼成物中の不純物濃度、反応にムラが出ることから、粒状セラミックは焼成容器の底及び可能であれば壁面に沿って均一に敷くことが好ましい。
【0050】
焼成容器の材質は、不純物の混入が少ない容器であれば、特に制限されるものではないが、例えば金属アルミニウム、アルミナ、コージェライト、ダルマイト、ムライト、金属の表面をセラミックコートしたようなホウロウガラスからなる容器等が挙げられる。
【0051】
原料混合物を焼成するときの焼成温度は、750〜1000℃、好ましくは800〜1000℃である。焼成温度が上記範囲にあることにより、異相の生成を抑えて、効率よく硫化リチウムを得ることができる。原料混合物を焼成するときの焼成時間は、未反応の原料が残らない範囲で、適宜選択される。原料混合物を焼成するときの焼成雰囲気は、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気又は水素ガス等の還元性ガス雰囲気である。
【0052】
原料混合物を焼成した後、焼成物、すなわち、生成した硫化リチウムを、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下、水素ガス等の還元性ガス雰囲気下、又は真空下で冷却し、冷却後、必要に応じて、更に、粉砕又は解砕、分級、包装等を行い、製品の硫化リチウムを得る。このとき用いる不活性ガス又は還元性ガスは、不純物の混入を防止する観点から、純度が高いほど好ましい。また、水分との接触を避ける点で、不活性ガス又は還元性ガスの露点は、−50℃以下が好ましく、−60℃以下が特に好ましい。
【0053】
なお、粒状セラミックは、生成する焼成物の硫化リチウムに付着して焼成容器から焼成物と共に回収される場合があるが、焼成物に付着した粒状セラミックは、焼成物をそのまま粉砕又は解砕し、次いで使用した粒状セラミックの粒径より小さい目開きの篩等で分級する分離工程を行うことにより、焼成物と粒状セラミックとを分離し、目的とする焼成物の硫化リチウムのみを分離回収することが出来る。
【0054】
本発明の硫化リチウムの製造方法により得られる硫化リチウムの平均粒子径は、特に制限されないが、好ましくは10〜500μm、特に好ましくは30〜300μmである。硫化リチウムの平均粒子径が上記範囲にあることにより、無機固体電解質の製造に用いる場合に、その製造が容易になる。
【0055】
また、本発明の硫化リチウムの製造方法では、リチウム源、イオウ源及び必要により還元剤とを反応させているので、本発明の硫化リチウムの製造方法は、有機溶媒を用いる製造方法ではなく、且つ、硫化水素等の有毒な気体の硫黄源を用いる製造方法ではない。また、本発明の硫化リチウムの製造方法では、硫酸リチウムと還元剤とを混合し、次いで、予め粒状セラミックを敷いた焼成容器を用いて焼成することにより、硫化リチウムが得られるので、本発明の硫化リチウムの製造方法は、工程数が少ない製造方法である。
【0056】
本発明の硫化リチウムの製造方法により得られる硫化リチウムは、無機固体電解質の原料として好適に用いられる。
【0057】
本発明の無機固体電解質の製造方法は、本発明の硫化リチウムの製造方法により硫化リチウムを得、次いで、得られた硫化リチウムと、硫化リン、硫化ケイ素、硫化ゲルマニウム、硫化ホウ素、硫化アルミニウム、硫化ガリウム、リン酸リチウム、ケイ酸リチウム及びヨウ化リチウムの群から選ばれる1種又は2種以上の化合物とを反応させることを特徴とする無機固体電解質の製造方法である。なお、以下、本発明の無機固体電解質の製造方法において、硫化リチウムと反応させる化合物を、硫化リチウムと区別するために化合物(A)と記載する。
【0058】
本発明の無機固体電解質の製造方法により得られる無機固体電解質は、Li
2S−P
2S
5、Li
2S−SiS
2、Li
2S−GeS
2、Li
2S−Ga
2S
3、Li
2S−B
2S
3、Li
2S−Al
2S
3、Li
4SiO
4−Li
2S−SiS
2、Li
3PO
4−Li
2S−SiS
2、LiI−Li
2S−P
2S
5等が挙げられる。
【0059】
本発明の無機固体電解質の製造方法に用いられる化合物(A)の物性等は、特に制限されないが、硫化リチウムとの均一混合が容易になる点で、化合物(A)の平均粒子径は、20μm以下が好ましく、1〜10μmが特に好ましい。
【0060】
本発明の無機固体電解質の製造方法において、硫化リチウムと化合物(A)とを反応させる方法としては、例えば、(i)硫化リチウムと、化合物(A)とをメカニカルミリングによりガラス化する方法、(ii)硫化リチウムと化合物(A)とを混合し、得られる混合物を不活性ガス雰囲気中で、加熱して溶融させた後、急冷する方法等が挙げられる。また、(i)や(ii)で得られたガラス化物をガラス転移以上の温度で加熱処理する加熱処理工程を行うことにより、イオン伝導率を向上させる方法が挙げられる。
【0061】
前記(i)及び(ii)の方法において、目的とする無機固体電解質の組成に合わせて、硫化リチウムと化合物(A)との配合割合を適宜選択する。例えば、無機固体電解質として、硫化リチウムと五硫化リンからLi
2S−P
2S
5の組成のものを得る場合には、硫化リチウム1モルに対する五硫化リンの配合量は、0.1〜0.7モル、好ましくは0.25〜0.5モルである。
【0062】
また、(i)及び(ii)の方法において、硫化リチウムと化合物(A)以外に、組成調整を目的として、必要により硫黄を配合してもよい。
【0063】
(i)の方法に係るガラス化工程は、所定量の硫化リチウムと、所定量の化合物(A)とを、遊星ボールミル等の機械的手段を用いて、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下でメカニカルミリングする。メカニカルミリングを行う機器としては、例えば、ビーズミル、遊星型ボールミル、振動ミル等の粉砕機器、つまり、混合対象である粉体中に粒状媒体を存在させて、それらを高速で流動させる機器が挙げられる。そして、それらを高速で流動させることで、粒状媒体により、混合対象である粉体に、機械的エネルギーが加えられる。メカニカルミリングの回転速度及び回転時間をコントロールすることで、より微細で均質なガラス粉末を調製することができるが、装置の種類や原料の種類或いは使用用途に応じて適切な条件を適宜選択してメカニカルミリングを行うことが好ましい。なお、回転速度が速いほどがガラスの生成速度は速くなり、回転時間が長いほどガラスへの転化率は高くなる傾向にある。
【0064】
(ii)の方法は、硫化リチウムと化合物(A)とを混合し、得られる混合物を不活性ガス雰囲気中で、加熱して溶融させる溶融工程と、溶融物を急冷する急冷工程と、を有する。
【0065】
(ii)の方法に係る溶融工程は、所定量の硫化リチウムと、所定量の化合物(A)とを、機械的手段を用いて、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で混合を行って均一混合物を得る。用いることができる混合装置としては、均一混合ができるものであれば特に制限はなく、例えば、ビーズミル、ボールミル、ペイントシェイカー、アトライター、サンドミルが挙げられる。次いで、原料の混合物を、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で、加熱して混合物を溶融させる。加熱温度は、溶融させる混合物の組成により異なるが、Li
2S−P
2S
5の組成のものを得る場合には、加熱温度は700〜1000℃、好ましくは800〜950℃であり、加熱時間は1時間以上、好ましくは3〜6時間である。
【0066】
(ii)の方法に係る急冷工程では、溶融工程で得た溶融物を急冷して無機固体電解質を得る。急冷工程では、急冷により溶融物を、10℃以下、好ましくは0℃以下まで冷却する。また、そのときの冷却速度は、1〜1000℃/秒、好ましくは100〜1000℃/秒である。急冷する方法としては、例えば、水冷、液体窒素による急冷、双ローラー急冷、スプラット急冷方法等の常用の方法が挙げられる。
【0067】
(i)又は(ii)の方法で得られたガラス化物を、更に加熱処理する方法では、得られたガラス化物を、更にそのガラス転移温度以上の温度で追加加熱して、加熱処理することにより加熱処理工程を行う。この加熱処理工程により、ガラス化工程のみを行ったものに比べて、リチウムイオン伝導性を向上させることができる。加熱処理工程での加熱温度は、用いる原料の種類や配合量により異なるが、例えば、Li
2S−P
2S
5の組成の無機固体電解質を得る場合は、200℃以上、好ましくは250〜400℃である。また、加熱時間は、1時間以上、好ましくは3〜12時間である。また、無機固体電解質の酸化による、リチウムイオン伝導性の低下を抑制する観点から、不活性ガス雰囲気又は真空下で加熱を行うことが好ましい。
【0068】
本発明の無機固体電解質の製造方法により無機固体電解質を得た後、必要により、無機固体電解質を粉砕して、或いはシート状に成形し、例えば、少なくとも正極と負極と無機固体電解質から構成される全固体リチウム電池の無機固体電解質、あるいは、正極、負極、セパレータ、及びリチウム塩を含有する非水の有機電解液からなるリチウム二次電池において、正極材或いは負極に使用するリチウム金属又はリチウム合金の被覆材として使用する。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)X線回折測定
装置名:D8 ADVANCE、メーカー:Bruker AXSを用いて、測定条件:ターゲットCu−Kα、管電圧40kV、管電流40mA、走査速度0.1°/sec、により、X線回折測定を行った。
【0070】
また、以下により、硫化リチウム結晶中の異相のLi
2CO
3の存在度を求めた。なお、回折ピーク強度比は、回折ピークの面積比である。
<Li
2CO
3の存在度>
回折ピークの強度比(d/a)=(a)硫化リチウムに由来する2θ=27°付近(111面)の回折ピーク強度/(d)炭酸リチウムに由来する2θ=21°付近(110面)の回折ピーク強度
(2)イオン伝導度測定
無機固体電解質の両面を電極(95重量%のNiと、5重量%のSnで構成される)0.30gで挟んだのち、20MPaで5分間保持することにより3層構造の成型体を作成した。当該成型体を測定サンプルとして、交流インピーダンス測定装置(ソーラトロン社製)を用いることにより、イオン伝導度を測定した。
(3)坩堝中の焼成物の飛散の状態の評価
焼成後に坩堝の中身を目視で観察し、
坩堝の底面以外の内壁の全体に焼成物の付着があるものを「×」、
坩堝の底面以外の内壁に焼成物の付着がところどころあるものを「△」、
坩堝の底面以外の内壁に焼成物の付着がほとんどないものを「○」、
として評価した。
(4)焼成物の坩堝への固着状態の評価
坩堝を逆さまにすることにより、焼成物を回収した後、坩堝の内壁の底面部の状況を目視で観察し、
坩堝の内壁の底面部に焼成物の付着が全体的に認められるものを「×」、
坩堝の内壁の底面部に焼成物の付着がところどころあるものを「△」、
坩堝の内壁の底面部に焼成物の付着がほとんどないものを「○」、
として評価した。
{実施例1}
(1)原料混合工程;
硫酸リチウム一水和物(Li
2SO
4・H
2O、平均粒子径30μm)10.83g、スクロース(C
12H
22O
11)9.17gとを乾式コーヒーミルで30秒間混合し原料混合物を得た。
(2)焼成工程;
予めアルミナビーズ(直径:3mmφ)10gを底一面に満遍なく敷きつめたアルミナ製坩堝(サイズ;50mmφ)に原料混合物を投入し、焼成炉中、窒素ガス雰囲気下、5℃/分で850℃まで昇温し、850℃で6時間焼成を行った。
【0071】
焼成終了後、120℃まで冷却し、焼成物の入った坩堝をグローブボックスへ速やかに移動した。
【0072】
次いで、坩堝中の焼成物の飛散の状態を観察し、また、焼成物から坩堝を逆さまにすることにより、ビーズごと焼成物を回収し、焼成物の坩堝への固着状態を観察した。次いで、回収した焼成物を軽く乳鉢で粉砕した後、目開き2mmの篩を通してビーズと焼成物とを分離した。次いで、分離した焼成物を再度乳鉢で粉砕し、目開き200μmの篩を通して硫化リチウム4gを得た。
【0073】
また、得られた硫化リチウムについてXRD分析を行ったところ、異相は観察されず、硫化リチウム単相であった。X線回折チャートを
図1に示す。
{実施例2〜5}
(1)原料混合工程;
硫酸リチウム一水和物(Li
2SO
4・H
2O、平均粒子径30μm)、スクロース(C
12H
22O
11)と活性炭(日本エンバイロンケミカルズ社製;白鷹A;BET比表面積1000m
2/g)とを表1の配合割合となるように秤量し、乾式コーヒーミルで30秒間混合し原料混合物を得た。
(2)焼成工程;
予めアルミナビーズ(直径:3mmφ)10gを底一面に満遍なく敷きつめたアルミナ製坩堝(サイズ;50mmφ)に原料混合物を投入し、焼成炉中、窒素ガス雰囲気下、表1に示す焼成温度で焼成反応を行った。
【0074】
焼成終了後、120℃まで冷却し、焼成物の入った坩堝をグローブボックスへ速やかに移動した。
【0075】
次いで、焼成物から坩堝を逆さまにすることにより、ビーズごと焼成物を回収し、軽く乳鉢で粉砕した後、目開き2mmの篩を通してビーズと焼成物とを分離した。次いで、分離した焼成物を再度乳鉢で粉砕し、目開き200μmの篩を通して硫化リチウムを得た。
【0076】
また、得られた硫化リチウムについてXRD分析を行ったところ、いずれも異相は観察されず、硫化リチウム単相であった。
【0077】
{比較例1}
予めアルミナビーズを敷かないアルミナ製坩堝(サイズ;50mmφ)を用いた以外は、実施例1と同様にして原料混合工程及び焼成工程を行った。
【0078】
焼成終了後、120℃まで冷却し、焼成物の入った坩堝をグローブボックスへ速やかに移動した。
【0079】
次いで、焼成物から坩堝を逆さまにすることにより、もしくは坩堝に付着したものを薬さじ等で掻き落とすことにより、焼成物を回収し、乳鉢で粉砕し、目開き200μmの篩を通して硫化リチウム4gを得た。
【0080】
また、実施例1と同様にして、焼成物の飛散の状態及び焼成物の坩堝への固着の状態を観察した。
【0081】
また、得られた硫化リチウムについてXRD分析を行ったところ、異相としてLi
2SO
4、Li
2CO
3が観察された。Li
2CO
3の存在度も併せて評価し、その結果を表2に示した。X線回折チャートを
図1に示す。
【0082】
【表1】
表中の「還元剤(1)の配合割合(wt%)」は、還元剤(1)/{(還元剤(1)+還元剤(2)}として表した。また、還元剤の添加量は、無水物換算の硫酸リチウム中のO
2と還元剤(還元剤(1)+還元剤(2))中のC原子のモル比(C/O
2)で表した。
【0083】
【表2】
表2の結果、実施例1と比較例1を比較すると、本製造方法により、坩堝への焼成物の固着が改良され、また、得られる硫化リチウムについても異相のないものが得られることが分かる。また、実施例1と実施例2を比較すると、還元剤(1)と還元剤(2)を併用することで、焼成物の飛散を抑制し、更に坩堝からの焼成物の硫化リチウムの取り出しがいっそう容易になることが分かる。
(実施例6〜10及び比較例2)
実施例及び比較例で得られた硫化リチウム0.383g(75モル%)と、五二硫化リン(Aldrich社製)0.617g(25モル%)を秤量し、それらを、遊星ミルにて、400回転で20時間処理して、無機固体電解質を得た。得られた無機固体電解質のイオン伝導度を測定した。その結果を表3に示す。
【0084】
【表3】
表3の結果より、実施例1及び比較例1を比較して分かるように、予め粒状セラミックを敷いた焼成容器で焼成を行った硫化リチウムを用いることにより、無機固体電解質のイオン伝導度が高くなることが分かる。
【0085】
{実施例11}
(1)原料混合工程;
水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O、日本化学工業社製、BQ品)をワンダーブレンダーで15秒粉砕した後、212μm篩でふるったものを20.00g、硫黄(細井化学製、微粉砕品)8.79gとを乾式コーヒーミルで30秒間混合し原料混合物を得た。
(2)焼成工程;
予めアルミナビーズ(直径:3mmφ)5gを底一面に満遍なく敷きつめたアルミナ製坩堝(サイズ;50mmφ)に原料混合物5.00gを投入し、焼成炉中、窒素ガス雰囲気下、100℃/時間で900℃まで昇温し、900℃で3時間焼成を行った。
【0086】
焼成終了後、120℃まで冷却し、焼成物の入った坩堝をグローブボックスへ速やかに移動した。
【0087】
次いで、焼成物から坩堝を逆さまにすることにより、ビーズごと焼成物を回収し、焼成物の坩堝への固着状態を観察した。次いで、回収した焼成物を軽く乳鉢で粉砕した後、目開き2mmの篩を通してビーズと焼成物とを分離した。次いで、分離した焼成物を再度乳鉢で粉砕し、目開き200μmの篩を通して硫化リチウム0.94gを得た。
【0088】
また、得られた硫化リチウムについてXRD分析を行ったところ、異相は観察されず、硫化リチウム単相であった。X線回折チャートを
図2に示す。
【0089】
{比較例3}
(1)原料混合工程
実施例11と同様にして原料混合工程を行った。
(2)焼成工程
アルミナビーズは敷かずにアルミナ製坩堝(サイズ;50mmφ)に原料混合物5.00gを直接投入し、焼成炉中、窒素ガス雰囲気下、100℃/時間で900℃まで昇温し、900℃で3時間焼成を行った。
【0090】
焼成終了後、120℃まで冷却し、焼成物の入った坩堝をグローブボックスへ速やかに移動した。
【0091】
次いで、焼成物から坩堝を逆さまにすることにより、もしくは坩堝に付着したものを薬さじ等で掻き落とすことにより、焼成物を回収し、乳鉢で粉砕し、目開き200μmの篩を通して硫化リチウム2.41gを得た。
【0092】
また、実施例11と同様にして、焼成物の坩堝への固着の状態を観察した。
【0093】
また、得られた硫化リチウムについてXRD分析を行ったところ、異相としてLi
2SO
4が観察された。X線回折チャートを
図2に示す。
【0094】
【表4】
表4の結果、実施例11と比較例3を比較すると、本製造方法により、坩堝への焼成物の固着が大幅に改良され、また、得られる硫化リチウムについても還元剤を用いなくとも異相のないものが得られることが分かる。
(実施例12)
実施例11で得られた硫化リチウム0.383g(75モル%)と、五二硫化リン(Aldrich社製)0.617g(25モル%)を秤量し、それらを、遊星ミルにて、400回転で20時間処理して、固体電解質を得た。得られた固体電解質のイオン伝導度を測定した。その結果を表5に示す。
【0095】
【表5】
実施例12の結果から明らかなように、実施例11で得られた硫化リチウムを用いた無機固体電解質はイオン伝導度が高いことが分かる。