【実施例】
【0014】
図1は、被検眼眼底の立体断層像の所定部位の容積を計測するための容積計測装置全体を示すブロック図である。符号1で示すものは、被検眼Eの眼底(網膜)Erを観察及び撮像する眼底正面画像撮影ユニット(眼底カメラ)1であり、照明光学系4、眼底フォーカス光学系5、2次元CCD、CMOSで構成された撮像装置100、第1のフォーカス調整機構28を備えている。
【0015】
照明光学系4は、ハロゲンランプ等の観察光源とキセノンランプ等の撮影光源を備え、これらの光源からの光は照明光学系4、対物レンズ10を介して眼底Erに導かれて眼底Erを照明する。眼底フォーカス光学系5は、撮影レンズ、合焦レンズなどの光学系を備え、眼底Erにより反射された撮影光を撮影光路に沿って撮像装置100に導き、眼底Erを撮影する。合焦レンズは、第1のフォーカス調整機構28に配置されたフォーカスノブ28aを手動で操作することで被検眼の視度に合うように位置が調整され、フォーカスノブ28aの内部に配置されたエンコーダー(不図示)によってその位置情報(視度情報)を出力する。
【0016】
走査ユニット6は、断層画像撮影ユニット(光干渉断層計)2の低コヒーレンス光源20からの光を
図1のx方向及びy方向にラスタースキャンするための公知のガルバノミラー11、フォーカス光学系(視度補正レンズユニット)27、第2のフォーカス調整機構29などを備えている。
【0017】
本実施例における眼底のスキャン方法はラスタースキャンを用いるが、ラスタースキャンに限らず、中心点から漸次的に半径を大きくしながら円を描くようにスキャンする方法や、中心点から放射状にスキャンする方法などでも良い。
【0018】
走査ユニット6は、コネクタ7及び接続線8を介して眼底Erの断層像を撮像する断層画像撮影ユニット2と光学的に接続されている。
【0019】
断層画像撮影ユニット2は、例えばフーリエドメイン方式(スペクトラルドメイン法)で動作する公知のもので、
図2にその詳細な構成が図示されており、波長が700nm〜1100nmで数μm〜数十μm程度の時間的コヒーレンス長の光を発光する低コヒーレンス光源20を有する。
【0020】
低コヒーレンス光源20で発生した低コヒーレンス光L0は、光ファイバ22aにより光カプラ22に導かれ、参照光LRと信号光LSに分割される。参照光LRは、光ファイバ22b、コリメータレンズ23、ガラスブロック24、濃度フィルタ25を経て光路長を合わせるための光軸方向に移動可能な参照ミラー26に到達する。ガラスブロック24、濃度フィルタ25は、参照光LRと信号光LSの光路長(光学距離)を合わせるための遅延手段として、また参照光LRと信号光LSの分散特性を合わせるための手段として機能する。
【0021】
信号光LSは、光ファイバ22cを経て、接続線8に挿通された光ファイバにより
図1のコネクタ7を介して走査ユニット6に導かれ、対物レンズ10を経由して眼底Erに到達し、眼底をx、y方向に走査する。眼底Erに到達した信号光LSは、眼底Erで反射し、上記の経路を逆にたどって光カプラ22に戻ってくる。
【0022】
参照ミラー26で反射した参照光LRと眼底Erで反射した信号光LSは、光カプラ22により重畳され干渉光LCとなる。干渉光LCは、光ファイバ22dによりOCT信号検出装置21に導かれる。干渉光LCはOCT信号検出装置21内でコリメータレンズ21aで平行な光束とされたのち、回折格子21bに入射し分光され、結像レンズ21cによりCCD21dに結像される。OCT信号検出装置21は、分光された干渉光により眼底の深度方向(z方向)の情報を示すOCT信号を発生する。
【0023】
走査ユニット6に設けられたフォーカス光学系(視度補正レンズユニット)27はフォーカスレンズ27a、27b(
図3)を備え、その内フォーカスレンズ27bは、光軸方向に移動可能で、被検眼の視度に応じて断層画像撮影ユニット2の光学系を眼底に合焦させる。第2のフォーカス調整機構29は第1のフォーカス調整機構28と連動しており、第1のフォーカス調整機構28に設けられたフォーカスノブ28aを検者が回転することで眼底に合焦したときの眼底フォーカス光学系5の合焦レンズの視度情報を得ることで、不図示のステッピングモーターを制御して自動的に眼底に合焦するようフォーカスレンズ27bを移動する機構を有する。
【0024】
図3には、フォーカス光学系27の具体的な構成が、他の光学系とともに図示されている。同図において、フォーカス光学系27のレンズ27a、27bを通過した信号光LSは、走査ユニット6のガルバノメーター11でy軸方向に走査され、対物レンズ10を経て被検眼Eの瞳Epから眼底Erに入射する。
【0025】
図3において、上方に図示したものは、標準視度を有する被検眼Eの例で、被検眼の眼軸長がX1で示されている。下方に図示したものは、近視眼の被検眼E’の例で、被検眼E’の眼軸長はX1より長くX2で示されている。被検眼Eに対してピントが合っている場合には、近視眼の被検眼E’に対しては合焦位置がずれるので、検者はフォーカスノブ28aを操作して眼底フォーカス光学系5を調整し、ピント合わせを行う。すると眼底フォーカス光学系5の視度情報が第2のフォーカス調整機構に伝わり、不図示のステッピングモーターによってフォーカスレンズ27bを光軸に沿って移動させ、
図3下方に図示したように、被検眼E’の眼底Erにピントを合わせることができる。
【0026】
立体断層像計測装置には、例えば、眼底正面画像撮影ユニット1に内蔵されたマイクロコンピュータ、あるいは眼底正面画像撮影ユニット1と接続されたパーソナルコンピュータ等によって構成される画像処理装置3が設けられる。画像処理装置3には、CPU、RAM、ROMなどで構成された制御演算部30が設けられ、制御演算部30は画像処理プログラム、容積計測プログラムを実行することにより、全体の画像処理並びに容積計測処理を制御する。また、画像処理装置3が眼底正面画像撮影ユニット1の外部に設けられる場合には、制御演算部30は眼底正面画像撮影ユニット1に接続され、眼底あるいはその断層像の撮影に必要な指示を出力し、また眼底正面画像撮影ユニット1から当該撮影に必要な情報を受けて眼底並びにその断層像の撮影工程、画像処理工程、並びに容積計測工程を制御する。
【0027】
表示部31は、例えば、LCDなどのディスプレイ装置によって構成され、画像処理装置3で生成あるいは処理された画像や、被検者に関する情報などの付随する情報などが表示される。
【0028】
入力部32は、例えば、マウスやキーボード、操作パネル等を有し、操作者が画像処理装置3などに指示を与えるために用いられる。
【0029】
また、画像処理装置3には、断層画像形成部41が設けられる。断層画像形成部41は、フーリエドメイン法(スペクトラルドメイン法)などの公知の解析方法を実行する専用の電子回路、または、前述のCPUが実行する画像処理プログラムにより実現され、OCT信号検出装置21が検出したOCT信号に基づいて、眼底Erの断層画像を形成する。断層画像形成部41で形成された断層画像は、例えば半導体メモリ、ハードディスク装置等により構成された記憶部42に格納される。記憶部42は、さらに上述した画像処理プログラム、容積計測プログラムなども格納する。
【0030】
画像処理部50は、立体断層画像形成手段51、輪郭決定手段52を有し、立体断層画像形成手段51は、眼底Erをスキャンして得られる複数枚の2次元の断層画像(Bスキャン画像)から3次元の立体断層画像を形成する。輪郭決定手段52は、立体断層画像を構成する各断層画像毎に断層画像内の病変部などの所定部位の輪郭を決定する。輪郭は、例えば、ユーザーが入力部32のマウスなどで輪郭を指定することにより決定することができ、あるいは輪郭を自動抽出するソフトウェアを用いて決定することもできる。
【0031】
画像補正係数出力手段53は、合焦時のフォーカス光学系の位置と眼底画像の大きさの関係を格納したテーブルあるいは2次元マップから構成され、フォーカスレンズ27bの光軸位置に対応する画像補正係数を出力する。この補正係数は、以下のようにして求められる。
【0032】
被検眼の視度に応じて合焦させるために第1のフォーカス調整機構28のフォーカスノブ28aを回転すると、視度情報が第2のフォーカス調整機構29に伝わり、不図示のステッピングモーターによって
図3、
図7に示したように、フォーカス光学系27のフォーカスレンズ27bの光軸位置が変化し、それによりガルバノミラー11の走査範囲で定まる合焦時のy軸方向の眼底での測定長さLや眼底画像の面積が変化する。そこで、標準視度の被検眼Eの測定長さをL、標準視度と異なる被検眼E’の測定長さをL’として、L/L’を立体断層画像の測定部位の容積を演算するときの補正係数γとして求め、また合焦時のフォーカスノブ28aの位置(回転角度=視度情報)Rを合焦時のフォーカス光学系27の位置として求め、フォーカスノブ位置Rと補正係数γの関係をテーブルの形で作成する。
【0033】
テーブルは実験もしくはシミュレーションにより作成することができ、実験で求める場合は、多数の被検眼の視度と眼軸長の値を測定し、その分布の近似式を求める。合焦時の測定長さは眼軸長とガルバノミラーの振れ角度によりtanで計算されるので、フォーカスノブ位置と測定長さの関係を示す式が得られ、合焦時のフォーカスノブ位置Rと、その時の標準視度の測定長さLとの比、つまり補正係数γの関係をテーブルとして求める。
【0034】
シミュレーションで求める場合は、模型眼上でそれぞれの視度における眼軸長を算出し、その後は上記と同様の作業で、合焦時のフォーカスノブ位置Rと補正係数γの関係をテーブルとして求める。
【0035】
このようにして求められたテーブルを
図8で示したように2次元マップの形で格納して画像補正係数出力手段53とする。
【0036】
容積演算手段30aは、輪郭決定手段51で決定された輪郭で定まる所定部位の各面積を、被検眼の視度に応じた補正係数で補正して積算し所定部位の容積を演算する。
【0037】
次に、立体断層画像の所定部位の容積を計測する流れを、
図4に示すフローチャートを参照して説明する。この計測処理は、制御演算部30が記憶部42に格納された容積計測プログラムを読み出して実行することにより行われる。
【0038】
眼底正面画像撮影ユニット1のアライメントとフォーカス調整が終わったあと(ステップS1)、断層画像撮影ユニット2の低コヒーレンス光源20をオンにして、断層画像撮影ユニット2からの信号光を走査ユニット6でx,y方向に掃引し、眼底Erをラスタースキャンする(ステップS2)。この状態が
図5に図示されており、網膜の黄斑部が存在する一点鎖線で示した領域が、x軸と平行な方向に、それぞれn本の主走査線y1、y2、・・・、ynでラスタースキャンされる。
【0039】
眼底Erで反射された信号光LSは、断層画像撮影ユニット2で参照ミラー26で反射された参照光LRと重畳される。それにより干渉光LCが発生し、OCT信号検出装置21からOCT信号が発生する。
【0040】
走査ユニット6の光学系が正確に眼底に合焦したら、画像補正係数出力手段53からフォーカスノブ位置Rに対応する補正係数γを出力させる(ステップS3)。眼軸長がX1の標準視度の被検眼Eの場合には、
図3、
図7に示したように、フォーカスノブ位置はR1であり、画像補正係数出力手段53は、
図8に示したように、補正係数γ1=1を出力する。これに対して、眼軸長がX1より長いX2の近視眼の被検眼E’の場合には、合焦時のフォーカスノブ位置はR2となり、画像補正係数出力手段53は、1より小さな補正係数γ2を出力する。
【0041】
このように、被検眼の視度に応じてフォーカス調整が行われ、走査ユニット6の光学系が正確に眼底に合焦したら、断層像の撮影が行われ(ステップS4)、断層画像形成部41でOCT信号に基づいて眼底Erの断層画像が形成され(ステップS5)、形成された断層画像は記憶部42に格納される。
【0042】
立体断層画像形成手段51は、
図6aに示したように、各主走査線yi(i=1〜n)でラスタースキャンすることにより得られる眼底Erのxz断層画像(B−スキャン画像)B1、B2、B3、B4.....から眼底の立体断層画像Bを形成する(ステップS6)。
【0043】
輪郭決定手段52は各断層画像B1、B2、B3、B4.....毎に断層画像内の病変部などの所定部位Mの輪郭を決定する。断層画像Bi(i=1〜n)の所定部位Mi(i=1〜n)は、ユーザーが各部位Miの輪郭を入力部32のマウス、入力ペンなどで指定することにより決定する(ステップS7)。あるいは各部位Miの輪郭は輪郭を自動抽出するソフトウェアを用いて決定することもできる。
図6bには、このようにして決定ないし抽出された断層画像B1、B2、B3、B4の所定部位M1、M2、M3,M4が図示されている。
【0044】
このように各部位の輪郭が求められたら、制御演算部30に設けられた容積演算手段30aは、輪郭線で囲まれた各部位の面積を、画素数を合計することにより演算し(ステップS8)、続いて各部位の面積を画像補正係数出力手段53で得られた補正係数で掛け算して積算し、所定部位Mの容積を演算する(ステップS9)。この容積の演算は、各部位の面積毎に補正係数を掛け算して補正し、補正された各部位の面積を積算するのではなく、最初に各部位の面積を積算し、積算された面積に補正係数を掛け算して求めるようにしてもよい。
【0045】
例えば、標準視度の被検眼Eの場合には、補正係数γ=1であるので、補正なしと同じ結果になるが、近視眼の被検眼E’の場合には、補正係数が1より小さいので、各部位の面積は小さい値となり、各部位の面積の積算値である部位Mの容積も小さくなり、視度補正のために変化した容積値を補正することが可能になる。
【0046】
本発明では、被検眼の視度に応じたフォーカス調整により拡大ないし縮小した画像を、拡大ないし縮小のない画像に補正する補正係数を用いて病変部などの測定部位の容積を補正するようにしているので、異なる視度の被検眼であっても、視度補正の影響が排除され、異なる視度の被検眼同士の定量的な比較が可能となる。