(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の発明によれば、レーザ光の光軸をウォータジェットの中心軸に一致させることはできるが、ノズルから噴出するウォータジェットは、ノズルの製造誤差や取り付け誤差によって、レーザ加工機の機械座標系、特にZ軸に対して傾いてしまうことがある。ウォータジェットが傾いてしまうと、ウォータジェットに対してレーザの光軸を調整しても、加工精度が低下してしまう。
【0005】
本発明は、こうした従来技術の問題を解決することを技術課題としており、レーザ加工機の機械座標系に対するウォータジェットの傾きを測定する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、本発明によれば、光学ヘッドから
ノズルを通過して噴出する
超純水のウォータジェットの内部に導入、案内されたレーザ光とテーブルに固定されたワークとを相対移動させ、ワークを加工するレーザ加工機のウォータジェットの傾き測定方法において、
前記ウォータジェットの内部を通るレーザ光が反射して軸線方向へ進むことが可能な安定長
を、前記ノズルの直径および前記ノズルに供給される超純水の圧力から求め、前記光学ヘッドを鉛直の第1の送り軸に沿って第1の高さ位置に配置し、前記光学ヘッドからウォータジェットを略鉛直下方向へ噴出し、前記ウォータジェットの中心位置を水平な平面内で測定し、前記光学ヘッドを前記第1の送り軸に沿って前記求めた安定長の範囲内の第2の高さ位置に配置し、前記光学ヘッドからウォータジェットを略鉛直下方向へ噴出し、前記ウォータジェットの中心位置を前記水平な平面内で測定し、前記第1の高さ位置における前記ウォータジェットの中心位置と、前記第2の高さ位置における前記ウォータジェットの中心位置との差分と、第1と第2の高さ位置の前記第1の送り軸に沿った長さとに基づいて、前記第1の送り軸に対する前記ウォータジェットの傾きを算出するレーザ加工機のウォータジェットの傾き測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、安定長の範囲でウォータジェットの傾きを測定するようにしたので、ウォータジェットの傾きを正確に測定可能となり、該ウォータジェットの傾きに基づいて、レーザ加工機のX、Y、Z軸の直線送り軸の移動量を調整し、必要に応じてA、B、C軸の回転送り軸を調整し、ウォータジェットの傾きを補正することが可能となる。これによって、光学ヘッドが生成するレーザ光をワーク表面に対して垂直に照射することが可能となり、加工精度が向上する。更に、ウォータジェットの傾きをワーク表面に対して任意の角度に調整可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に、本発明を適用可能な工作機械の一例としてレーザ加工機の光学ヘッドを示す。
図1において、レーザ加工機は、光学ヘッド10と、光学ヘッド10の下方に配設されたテーブル36とを具備している。光学ヘッド10とテーブル36とはX軸、Y軸、Z軸の直線送り軸装置(図示せず)によって直交3軸方向に相対移動可能となっている。本実施形態では、光学ヘッド10は、第1の送り軸としてのZ軸送り装置によって、上下方向に移動可能となっている。テーブル36は、第2と第3の送り軸としてX軸送り装置とY軸送り装置とによって、左右方向(
図1において左右方向)および前後方向(
図1の紙面に垂直な方向)に移動可能となっている。また、各直線送り軸装置はレーザ加工機の制御装置(図示せず)によって制御される。該制御装置は、また、各直線送り軸装置の座標を読み取るために、各軸に設けられたリニアスケール(図示せず)や、各送り軸装置を駆動するサーボモータのロータリエンコーダ(図示せず)のような座標読取り装置に接続されている。
【0010】
光学ヘッド10は、ハウジング12内に配設され、レーザ発振器14からのレーザ光を光ファイバのような導光部材14aを介して受け取り、コリメーションレンズ18へ向けて照射するレーザ照射ヘッド16を具備している。レーザ照射ヘッド16からのレーザ光は、コリメーションレンズ18で平行光線となって、第1のミラー20によって第2のミラー22に向けて反射され、該第2のミラー22によってフォーカスレンズ24へ向けて反射される。フォーカスレンズ24で絞られたレーザ光は、ノズルヘッド26を通してハウジング12の外部へZ軸方向に照射される。
【0011】
第1と第2のミラー20、22は平面状の反射面を有しており、該反射面の方向(反射面に垂直な方向)を調節し、光学ヘッド10から照射されるレーザ光の方向を調節するためミラー配向変更手段としてモータ20a、22aを有している。また、第1と第2のミラー20、22、特にフォーカスレンズ24へ向けレーザ光を反射する第2のミラー22は、レーザ発振器14から照射されるレーザ光の波長に適合し、該レーザ光を反射し、かつ、該レーザ光の波長以外の波長の光を透過する誘電体多層膜を含んでいる。より詳細には、ガラス板にこうした誘電体多層膜を蒸着して形成されている。第2のミラー22を誘電体多層膜から形成することによって、ノズル26bを通過するレーザ光とノズル26bとの位置関係をカメラ32によって監視することが可能となっている。
【0012】
光学ヘッド10に対面させてテーブル36が配設されている。テーブル36の上面には、ロータリテーブル38が取り付けられており、該ロータリテーブル38にワークWが取り付けられる。ロータリテーブル38は、少なくとも1つの回転送り軸方向にワークWを回転送り可能となっている。
図1の実施形態では、ロータリテーブル38は、簡略表示されており、ワークWをY軸に平行な(
図1の紙面に垂直な)軸線を中心とするB軸方向およびZ軸に平行な(
図1において上下方向の)軸線を中心とするC軸方向に回転送り可能となっている。
【0013】
ノズルヘッド26は、超純水供給装置30から管路28を介して超純水の供給を受ける中空状の部材である。超純水供給装置30は、例えば、活性炭フィルタのようなフィルタ(図示せず)によって予め濾過した都市用水や水道水を、ポンプ(図示せず)によって加圧して逆浸透膜装置(図示せず)、紫外線殺菌装置(図示せず)、イオン交換樹脂(図示せず)等によって超純水を生成する。こうして生成された超純水は、超純水供給装置30内に配設されているタンク(図示せず)に貯留された後、前記ポンプによって、管路28を経て光学ヘッド10のノズル26bへ向けて供給される。
【0014】
ノズルヘッド26のテーブル36に対面する底壁にウォータジェット34を噴出するノズル26bが設けられ、該底壁の反対側のフォーカスレンズ24に対面する上面にガラス等の透明な部材より成る窓26aが設けられている。ノズル26bは、光学ヘッド10のハウジング12の底面に形成されているオリフィス12aを通じてハウジング12の外部に連通している。
【0015】
レーザ照射ヘッド16からのレーザ光は、コリメーションレンズ18、第1のミラー20、第2のミラー22に、フォーカスレンズ24を経てノズルヘッド26へ至り、ノズル26bからから噴出するウォータジェット34内に入射する。入射したレーザ光は、ウォータジェット34内で全反射しながら該ウォータジェットに案内されて光学ヘッド10の外部へ照射される。ウォータジェット34内に導入されたレーザ光が、ウォータジェット34の周囲空気との界面で全反射を繰り返すためには、ウォータジェット34の流れが安定していなければならない。ウォータジェットがノズル26bから噴出した直後は層流状態であるが、流れ方向にレイノルズ数が高くなるにつれ乱流へと次第に遷移し、徐々に渦や飛沫を生じ、ウォータジェット34は末広がり状に直径が大きくなる。ウォータジェット34内に渦を生じたり、ウォータジェット34の表面から飛沫が飛散する領域では、ウォータジェット34内に導入されたレーザ光は、その一部が、全反射せずにウォータジェット34の表面から外部に漏洩する。本願では、ウォータジェット34内に導入されたレーザ光の略全てがウォータジェット34の内で全反射できるウォータジェット34の長さを安定長と称する。安定長は、ノズル26bの直径や形状、ノズル26bから噴出するウォータジェットの速度またはノズル26bに供給される超純水の圧力等によって変化する。表1に、安定長(mm)の変化をノズル26bの直径(μm)、ノズル26bに供給される超純水の圧力(MPa)をパラメータとして示す。また、表1の例を
図9のグラフに示す。
【表1】
【0016】
テーブル36には、また、ウォータジェットの傾斜測定装置100が取り付けられている。本実施形態では、傾斜測定装置100は、矩形状の枠体102と、該枠体102から下方へ延びる脚部104と、枠体102の内面に取り付けられた非接触式センサとを具備している。本実施形態では、非接触センサは、X軸方向にレーザ光を照射する第1のレーザセンサ104a、104bと、Y軸方向にレーザ光を照射する第2のレーザセンサ106a、106bとを具備している。例えば、オムロン株式会社からファイバセンサの商品名で市販されている光電センサを第1のレーザセンサ104a、104bおよび第2のレーザセンサ106a、106bとして用いることができる。第1と第2のレーザセンサの各々は、照射部104a、106aと、受光部104b、106bとを含み、レーザ光を生成するアンプ(図示せず)からレーザ光が光ファイバ(図示せず)を介して照射部104a、106aへ導光され、受光部104b、106bで受け取ったレーザ光が光ファイバ(図示せず)を介して前記アンプへ導光されるようになっている。照射部104a、106aから受光部104b、106bへ向けて照射されるレーザ光が遮られると、前記アンプからレーザ加工機の制御装置へスキップ信号が送出されるようになっている。傾斜測定装置100のセンサは、レーザセンサのみならず、超音波式センサを用いてもよい。更には、レーザセンサに代えてカメラにより撮像した画像を解析するようにしてもよい。
【0017】
以下、本実施形態の作用を説明する。
図4を参照すると、ウォータジェット34の傾き測定が開始すると(ステップS10)、テーブル36がX軸およびY軸の送り装置によって光学ヘッド10に対して水平方向に移動し、測定装置100を光学ヘッド10の下側の所定の測定位置へ移動する(ステップS12)。次いで、Z軸送り装置によって、光学ヘッド10が、ウォータジェット34の安定長の範囲内で選択されたZ軸上の第1の測定位置(上測定位置)P
1(Z=Z
1)(
図6)へ移動する(ステップS14)。
【0018】
次いで、超純水供給装置30のポンプが起動して、ノズル26bからウォータジェット34が噴出され(ステップS16)、次いで、後述するウォータジェットの中心位置測定が開始される(ステップS20)。ここで、ウォータジェットの中心位置測定を開始する前に、光学ヘッド10に配設したエアノズル(図示せず)から空気を噴出させて、センサ104a、104b、106a、106bの表面を清掃することが好ましい(ステップS18)。
【0019】
ステップS20において、ウォータジェットの中心位置測定サブルーチン(
図5)が呼び出され、ウォータジェットの中心位置の測定が開始する(ステップS32)と、先ず、後述する工程によって、レーザ光のX軸方向に+側の側面位置が測定される(ステップS34)。X軸送り装置によってテーブル36がX軸沿いに負の方向に送られる。このとき、ノズル26bから噴出されるウォータジェット34は、第1のレーザセンサ104a、104bが作るレーザ光40に対して、
図7において矢印A
X1で示すように、X軸沿いに正の方向に相対移動する。ウォータジェット34のX軸方向に正側の側面34
+Xがレーザ光40を遮ると、第1のレーザセンサ104a、104bのアンプからスキップ信号がレーザ加工機の制御装置に送出される。レーザ加工機の制御装置は、該スキップ信号を受信したときのX座標を、例えばレーザ加工機が有するX軸リニアスケールやX軸送り装置の駆動モータのロータリエンコーダから読み取り、これを記憶する。
【0020】
ウォータジェット34がレーザ光40を通過した後、後述する工程によって、ウォータジェット34のX軸方向の負側の側面34
-Xの位置が測定される(ステップS36)。X軸送り装置によってテーブル36をX軸沿いに正方向に送り、ウォータジェット34をレーザ光40に対して矢印A
X2で示すようにX軸沿いに負の方向に相対移動する。ウォータジェット34のX軸方向の負側の側面34
-Xがレーザ光40を遮ると、第1のレーザセンサ104a、104bのアンプからスキップ信号がレーザ加工機の制御装置に送出される。レーザ加工機の制御装置は、該スキップ信号を受信したときのX座標を記憶する。
【0021】
次いで、
図8に示すように、X座標の場合と同様に、ウォータジェット34のY軸方向の正側の側面34
+Yおよび負側の側面34
-YのY座標が測定される(ステップS38およびステップS40)。
【0022】
こうして測定されたウォータジェット34のX軸方向の正側および負側の側面34
+X、34
-XのX座標の平均を演算し、Y軸方向の正側および負側の側面34
+Y、34
-YのY座標の平均を演算することによって、ウォータジェット34の中心座標が算出される(ステップS42)。算出された中心座標はレーザ加工機の制御装置に記憶される。こうして、ステップS34〜ステップS42を所定回数繰返してウォータジェット34の中心座標が所定回数算出される(ステップS44)。所定回数算出されたウォータジェット34の中心座標の平均値を算出して(ステップS46)、第1の測定位置P
1におけるウォータジェット34の中心座標(X
1、Y
1)とし、該サブルーチンが終了する(ステップS48)。
【0023】
ウォータジェットの中心位置測定サブルーチンが終了し、
図4のメインルーチンに戻ると、次いで、光学ヘッド10がZ軸方向に下動し、ウォータジェット34の安定長の範囲内で選択された第2の測定位置(下側定位置)P
2(Z=Z
2)(
図6)へ移動する(ステップS22)。光学ヘッド10が第2の測定位置P
2へ移動すると、
図5のウォータジェットの中心位置測定サブルーチンが再び呼び出され、該第2の測定位置P
2において、ステップS32〜ステップS48でウォータジェット34の中心座標(X
2、Y
2)が測定され、メインルーチンへ戻る。
【0024】
こうして、第1の測定位置P
1と第2の測定位置P
2におけるウォータジェット34の中心座標(X
1、Y
1)、(X
2、Y
2)が測定されると、次いで、以下の式から、X軸方向およびY軸方向へのウォータジェット34の傾きθ
X、θ
Yが演算される(ステップS26)。
【数1】
ここで、
θ
X:Z軸に対するウォータジェットのX軸方向の傾き
δZ:第1の測定位置(上測定位置)P
1と、第2の測定位置(下測定位置)P
2との間のZ軸方向の距離(=Z
1−Z
2)
δX:第1の測定位置(上測定位置)P
1と、第2の測定位置(下測定位置)P
2とで測定したウォータジェットの中心のX座標の差分(=X
1−X
2)
である。δZは、第1の測定位置P
1と、第2の測定位置P
2との間のZ軸方向の距離であるが、表1に記載の安定長よりも少し短い距離(2〜5mm)が好ましい。
【数2】
ここで、
θ
Y:Z軸に対するウォータジェットのY軸方向の傾き
δY:第1の測定位置(上測定位置)P
1と、第2の測定位置(下測定位置)P
2とで測定したウォータジェットの中心のY座標の差分(=Y
1−Y
2)
である。
【0025】
本実施形態によれば、ウォータジェット34のZ軸に対するX軸方向の傾きθ
XおよびY軸方向の傾きθ
Yに基づいて、A軸およびB軸の回転送り軸を調整し、ウォータジェット34のZ軸に対する傾きを補正することが可能となる(ステップS28)。これによって、光学ヘッド10が生成するレーザ光をワークWの表面に対して垂直に照射することが可能となる。更に、ウォータジェット34のZ軸に対するX軸方向の傾きθ
XおよびY軸方向の傾きθ
Yに基づいて、テーブル36のX軸およびY軸方向の送り量を補正可能となる。この測定から補正に至る動作は、自動的に行わせることができる。加工形状に応じでウォータジェットの径を変更する必要があるときはノズル26bを交換する。この交換後に測定を行うこともあれば、精密な加工を行う直前に測定を行うこともある。
【0026】
本実施形態では、テーブル側にB軸およびC軸がある場合について述べたが、この構成に代えて、テーブル側には回転送り装置がなく、光学ヘッド10側にA′軸およびB′軸がある場合が、
図1に仮想的に示されている。つまり、光学ヘッド10はX軸と平行な軸線周りにA′軸方向に回転送り可能であると共に、Y軸と平行な軸線周りにB′軸方向に回転送り可能な構成が考えられる。この構成では、ステップS26で算出したウォータジェット34の傾きθ
X、θ
Yを打ち消すようにA′軸およびB′軸を回転させることによって、ウォータジェット34をZ軸と平行に補正することができる。この構成の場合は、その後はNCプログラムで指令されるX、Y、Z軸の送り量を調整することなく送ることによって、所望の精度に加工することができる。
【0027】
また、図示されていないが、ノズル26bがノズルヘッド26に対して回転調整可能に取り付けられていても、傾き補正は可能であるし、ワークWがテーブル36に対して回転調整可能な治具によって取り付けられていても傾き補正は可能である。