【文献】
Susan T.L. Harrison, et al.,Assessing solids concentration homogeneity in Rushton-agitated slurry reactors using electrical resistance tomography(ERT),Chemical Engineering Science,2012年 3月 6日,Vol. 71,P. 392-399
【文献】
小川浩平,装置内の局所的及び総括的混合性能を示す指標の一定義法,化学工学論文集,1981年 3月10日,第7巻 第2号,P. 207-210
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、発明者らが既に開発している上記の混合度測定装置には、改善すべき以下の課題がある。すなわち、上記の混合度測定装置では、混合開始後の標準偏差を混合開始前の標準偏差で除算した除算値を1から差し引いた値を混合度として測定している。つまり、上記の混合度測定装置では、混合開始前の標準偏差が異なると、異なった値の混合度が測定されることとなる。一方、各混合対象を収容容器に収容したときには、一般的に、収容した直後から混合が開始される。このため、上記の混合度測定装置では、各混合対象を収容容器に収容してから混合開始前の標準偏差の測定を開始するまでの時間の相違によって混合開始前の標準偏差が異なることとなり、これによって混合度も異なることとなる。言い換えると、混合度が測定開始時の混合状態に影響される(依存する)こととなる。したがって、上記の混合度測定装置には、混合度を正確に測定することが困難となるおそれがあり、この点の改善が望まれている。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、混合度を正確に測定し得る混合度測定装置および混合度測定方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、請求項1記載の混合度測定装置は、物性が互いに異なる複数種類の混合対象の混合度を測定可能に構成された混合度測定装置であって、前記各混合対象が収容される収容容器と、前記収容容器に収容された前記各混合対象内に規定した仮想平面の外周部に沿って配設された複数の電極と、前記各電極を介して電気信号を供給している状態で当該各電極における電位を検出する検出部と、当該検出部によって検出された前記電位に基づいて前記混合度を算出する処理を行う処理部とを備え、前記処理部は、前記仮想平面を予め決められた平面形状のN個(Nは2以上の整数)の分割領域D
iで分割すると共に、前記電位から算出されるインピーダンスに基づく物理量ζ
iを前記分割領域D
i毎に算出し、前記物理量ζ
iに基づく前記分割領域D
i毎の
下記の数式(B)で与えられるパラメータ値p
iを用いて下記の数式(A)で与えられるエントロピーHに基づいて前記混合度を算出する。
H=-Σ[i=1,N]p
i・lnp
i…(A)
pi=(ζi・e^(-ζiΣ[j=1(j≠i),N]bji・ζj))/(Σ[i=1,N]ζi・e^(-ζiΣ[j=1(j≠i),N]bji・ζj))…(B)
但し、jは前記分割領域Diの周囲の分割領域を表す分割領域Djの添字であり、bjiは負ではない実数であり、ζjは前記分割領域Dj毎の前記インピーダンスに基づく物理量である。
【0010】
また、請求項
2記載の混合度測定装置は、物性が互いに異なる複数種類の混合対象の混合度を測定可能に構成された混合度測定装置であって、前記各混合対象が収容される収容容器と、前記収容容器に収容された前記各混合対象内に規定した仮想立体の外周部に沿って配設された複数の電極と、前記各電極を介して電気信号を供給している状態で当該各電極における電位を検出する検出部と、当該検出部によって検出された前記電位に基づいて前記混合度を算出する処理を行う処理部とを備え、前記処理部は、前記仮想立体を予め決められた立体形状のN個(Nは2以上の整数)の分割領域F
iで分割すると共に、前記電位から算出されるインピーダンスに基づく物理量ζ
iを前記分割領域F
i毎に算出し、前記物理量ζ
iに基づく前記分割領域F
i毎の
下記の数式(B)で与えられるパラメータ値p
iを用いて下記の数式(A)で与えられるエントロピーHに基づいて前記混合度を算出する。
H=-Σ[i=1,N]p
i・lnp
i…(A)
pi=(ζi・e^(-ζiΣ[j=1(j≠i),N]bji・ζj))/(Σ[i=1,N]ζi・e^(-ζiΣ[j=1(j≠i),N]bji・ζj))…(B)
但し、jは前記分割領域Fiの周囲の分割領域を表す分割領域Fjの添字であり、bjiは負ではない実数であり、ζjは前記分割領域Fj毎の前記インピーダンスに基づく物理量である。
【0013】
また、請求項
3記載の混合度測定装置は、請求項1
または2記載の混合度測定装置において、前記処理部は、前記数式(A)で算出した前記エントロピーHを当該数式(A)で算出し得る前記エントロピーHの最大値H
maxで除算した除算値をべき乗した値を前記混合度として算出する。
【0014】
また、請求項
4記載の混合度測定方法は、物性が互いに異なる複数種類の混合対象の混合度を測定する混合度測定方法であって、収容容器に収容した前記各混合対象内に規定した仮想平面の外周部に沿って配設した複数の電極を介して電気信号を供給している状態で当該各電極における電位を検出し、前記仮想平面を予め決められた平面形状のN個(Nは2以上の整数)の分割領域D
iで分割すると共に、前記電位から算出されるインピーダンスに基づく物理量ζ
iを前記分割領域D
i毎に算出し、前記物理量ζ
iに基づく前記分割領域D
i毎の
下記の数式(B)で与えられるパラメータ値p
iを用いて下記の数式(A)で与えられるエントロピーHに基づいて前記混合度を算出する。
H=-Σ[i=1,N]p
i・lnp
i…(A)
pi=(ζi・e^(-ζiΣ[j=1(j≠i),N]bji・ζj))/(Σ[i=1,N]ζi・e^(-ζiΣ[j=1(j≠i),N]bji・ζj))…(B)
但し、jは前記分割領域Diの周囲の分割領域を表す分割領域Djの添字であり、bjiは負ではない実数であり、ζjは前記分割領域Dj毎の前記インピーダンスに基づく物理量である。
【0015】
また、請求項
5記載の混合度測定方法は、物性が互いに異なる複数種類の混合対象の混合度を測定する混合度測定方法であって、収容容器に収容した前記各混合対象内に規定した仮想立体の外周部に沿って配設した複数の電極を介して電気信号を供給している状態で当該各電極における電位を検出し、前記仮想立体を予め決められた立体形状のN個(Nは2以上の整数)の分割領域F
iで分割すると共に、前記電位から算出されるインピーダンスに基づく物理量ζ
iを前記分割領域F
i毎に算出し、前記物理量ζ
iに基づく前記分割領域F
i毎の
下記の数式(B)で与えられるパラメータ値p
iを用いて下記の数式(A)で与えられるエントロピーHに基づいて前記混合度を算出する。
H=-Σ[i=1,N]p
i・lnp
i…(A)
pi=(ζi・e^(-ζiΣ[j=1(j≠i),N]bji・ζj))/(Σ[i=1,N]ζi・e^(-ζiΣ[j=1(j≠i),N]bji・ζj))…(B)
但し、jは前記分割領域Fiの周囲の分割領域を表す分割領域Fjの添字であり、bjiは負ではない実数であり、ζjは前記分割領域Fj毎の前記インピーダンスに基づく物理量である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の混合度測定装置、および請求項8記載の混合度測定方法では、平面形状のN個の分割領域D
i毎に物理量ζ
iを算出し、分割領域D
i毎の物理量ζ
iに基づくパラメータ値p
iを用いて数式(A)式で与えられるエントロピーHに基づいて混合度を算出する。つまり、この混合度測定装置および混合度測定方法では、複数種類の混合対象を収容容器に収容してから測定を開始するまでの時間の相違によって異なることがあるパラメータ値を用いることなく(測定開始時の混合状態に影響されることなく)混合度を測定することができる。したがって、この混合度測定装置および混合度測定方法によれば、混合度を正確に測定することができる。
【0018】
ま
た、数式(B)で与えられるパラメータ値p
iを用いることにより、分割領域D
iの周囲の分割領域D
jの物理量ζ
jをパラメータ値p
iに反映させることができるため、例えば、同じ物理量ζ
iの各分割領域D
iが仮想平面内に複数存在するときに、各分割領域D
iの分布状態に応じて異なる値のエントロピーHが算出される結果、混合対象の混合の度合いをエントロピーHによって正しく表すことができる。
【0019】
また、請求項
2記載の混合度測定装置、および請求項
5記載の混合度測定方法では、立体形状のN個の分割領域F
i毎に物理量ζ
iを算出し、分割領域F
i毎の物理量ζ
iに基づくパラメータ値p
iを用いて数式(A)式で与えられるエントロピーHに基づいて混合度を算出する。つまり、この混合度測定装置および混合度測定方法では、複数種類の混合対象を収容容器に収容してから測定を開始するまでの時間の相違によって異なることがあるパラメータ値を用いることなく(測定開始時の混合状態に影響されることなく)混合度を測定することができる。したがって、この混合度測定装置および混合度測定方法によれば、混合度を正確に測定することができる。
【0021】
ま
た、数式(B)で与えられるパラメータ値p
iを用いることにより、分割領域F
iの周囲の分割領域F
jの物理量ζ
jをパラメータ値p
iに反映させることができるため、例えば、同じ物理量ζ
iの各分割領域F
iが仮想平面内に複数存在するときに、各分割領域F
iの分布状態に応じて異なる値のエントロピーHが算出される結果、混合対象の混合の度合いをエントロピーHによって正しく表すことができる。
【0022】
また、請求項
3記載の混合度測定装置によれば、数式(A)で算出したエントロピーHを数式(A)で算出し得るエントロピーHの最大値H
maxで除算した除算値をべき乗した値を混合度として算出することにより、除算値「H/H
max」をべき乗することで、混合時間の経過に対するべき乗後の値「(H/H
max)
a」の変化率を十分大きくすることができるため、混合時間の経過に対するエントロピーHの変化率が小さい領域(混合の度合いが完全混合状態に近い領域)内に目標とする混合度(値H’)を設定した場合においても、混合度が目標とする混合度Mに達したか否かを確実に判別することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、混合度測定装置および混合度測定方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0025】
最初に、
図1に示す混合度測定装置1の構成について説明する。混合度測定装置1は、混合度測定装置の一例であって、物性が互いに異なる複数種類の混合対象の混合度Mを後述する混合度測定方法に従って測定可能に構成されている。
【0026】
ここで、「混合度M」は、複数種類の混合対象を混合するときの混合の度合いを示す指標であって、例えば、
図5に示すように、混合対象100a,100bが完全に分離している状態(以下、「完全分離状態」ともいう)のときの値と、
図6に示すように、混合対象100a,100bが完全に混合している状態(以下、「完全混合状態」ともいう)のときの値との比較値で混合の度合いを示している。一例として、完全分離状態のときの混合度Mの値を「0」と規定すると共に、完全混合状態のときの混合度Mの値を「lnN」(Nの自然対数:Nは、後述する仮想平面A内の分割領域(メッシュ)D
i(
図4参照)の総数)と規定して、0〜lnNの間の値によって混合の度合いを示す。この例では、混合度Mが0に近いほど混合の度合いが低い(混合していない)ことを示し、混合度MがlnNに近いほど混合の度合いが高い(混合している)ことを示している。
【0027】
一方、混合度測定装置1は、
図1に示すように、収容容器2、例えば15個の電極3a〜3o(
図3参照:以下、区別しないときには「電極3」ともいう)、切替え部4、電源部5、検出部6、撹拌機構7、記憶部8および処理部9を備えて構成されている。
【0028】
収容容器2は、
図2に示すように、一例として、円筒状に形成されて、例えば、
図5に示す2種類の混合対象100a,100b(以下、区別しないときには「混合対象100」ともいう)を収容可能に構成されている。
【0029】
各電極3は、
図2に示すように、収容容器2の内周面21に配設されている。この場合、各電極3は、切替え部4によって電源部5に接続されて、電源部5から出力される測定用信号P(電気信号)を収容容器2に収容される混合対象100に供給するための電極として機能する。また、電極3は、切替え部4によって検出部6に接続されて、電極3が配設されている配設位置の電位を検出するための電極としても機能する。この場合、電極3は、
図2,3に示すように、収容容器2の中心軸に直交する仮想平面Aと収容容器2の内周面21とが交差する仮想円B(仮想平面Aの外周部)に沿って等間隔で離間するように(この例では、仮想円Bの中心と隣接する2つの電極3で構成される中心角が24°となるように)配置されている。なお、収容容器2に混合対象100が収容された状態では、上記した仮想平面Aが、混合対象100内において規定した仮想平面に相当する。
【0030】
切替え部4は、複数のスイッチを備えて構成されて、処理部9の制御に従い、各電極3と電源部5との接続および接続解除、並びに各電極3と検出部6との接続および接続解除を行う。電源部5は、処理部9の制御に従って測定用信号P(例えば、交流定電流)を出力する。検出部6は、切替え部4によって接続された電極3における電位V(具体的には、図外の基準電位と電極3との間の電圧)、およびその電圧(基準電位と電極3との間の電圧)と測定用信号Pとの位相差θを検出する。撹拌機構7は、
図2に示すように、モータ7aおよび撹拌翼7bを備えて構成され、収容容器2に収容されている混合対象100を撹拌する。
【0031】
記憶部8は、処理部9の制御に従い、検出部6によって検出された電位Vおよび位相差θを記憶する。また、記憶部8は、処理部9によって実行される後述する検出処理および混合度算出処理において算出される各種の値を記憶する。
【0032】
処理部9は、混合度測定装置1を構成する各部を制御する。また、処理部9は、後述する検出処理、分割処理および混合度算出処理を実行して、検出部6によって検出された電位Vおよび位相差θに基づいて混合対象100の混合度Mを算出する。
【0033】
次に、混合度測定装置1を用いて混合対象100の混合度Mを測定する混合度測定方法について図面を参照して説明する。
【0034】
まず、
図5に示すように、物性が互いに異なる2種類の混合対象100a,100bを収容容器2に収容する。なお、同図および
図6では、電極3および撹拌機構7の図示を省略している。この場合、例えば、物性の一例としての導電率が低い有機溶媒を混合対象100aとし、導電率が高い導電性粒子(カーボンブラック等)を混合対象100bとする。また、収容容器2に収容した混合対象100a,100bの上面が各電極3の配設位置よりも上方に位置するように、(各電極3が混合対象100a,100bに浸されるように)混合対象100a,100bの量を調整する。
【0035】
次いで、図外の操作部を操作して撹拌機構7を作動させ、撹拌を開始させる。これにより、混合対象100a,100bの混合が開始される。続いて、処理部9は、撹拌機構7を制御して、予め決められた時間だけ撹拌(混合)を継続させた後に、撹拌を停止させる。
【0036】
次いで、
図6に示すように、混合対象100a,100bを混合した状態(以下、「混合状態」ともいう)において、操作部を操作して、検出処理の実行を指示し、これに応じて、処理部9が検出処理を実行する。この検出処理では、処理部9は、15個の電極3a〜3oの中から隣接して配設されている2つの電極3(例えば、電極3a,3b)を選択する。
【0037】
続いて、処理部9は、切替え部4を制御して、電極3a,3bを電源部5に接続させる。次いで、処理部9は、電源部5を制御して測定用信号Pを出力させる。この際に、電極3a,3bを介して測定用信号Pが混合対象100a,100bに供給される。
【0038】
続いて、処理部9は、電極3a,3bを介して測定用信号Pが供給されている状態(以下、「第1の供給状態」ともいう)において、切替え部4を制御して、電極3aを検出部6に接続させる。この際に、検出部6が、電極3aにおける電位V(図外の基準電位との間の電圧)、およびその電圧と測定用信号Pとの位相差θを検出し、次いで、処理部9が、検出部6によって検出された電極3aにおける電位Vおよび位相差θを記憶部8に記憶させる。続いて、処理部9は、第1の供給状態において、切替え部4を制御して、電極3aに代えて、他の電極3(例えば、電極3b)を検出部6に接続させる。この際に、検出部6が、電極3bにおける電位Vおよび位相差θを検出し、処理部9が、電位Vおよび位相差θを記憶部8に記憶させる。
【0039】
次いで、処理部9は、電極3bに代えて、他の電極3(例えば、電極3c)を検出部6に接続させる。この際に、検出部6が、電極3cにおける電位Vおよび位相差θを検出し、処理部9が、電位Vおよび位相差θを記憶部8に記憶させる。以下、処理部9は、切替え部4を制御して、電極3を順次切り替えて検出部6に接続させ、その際に検出部6よって検出された各電極3における電位Vおよび位相差θを記憶部8に記憶させる。
【0040】
続いて、処理部9は、第1の供給状態において、全ての電極3における電位Vおよび位相差θの検出が終了したときには、隣接して配設されている他の2つの電極3(例えば、電極3b,3c)を選択し、次いで、切替え部4を制御して、電極3b,3cを電源部5に接続させる。この際に、電極3b,3cを介して測定用信号Pが混合対象100a,100bに供給される。
【0041】
続いて、処理部9は、電極3b,3cを介して測定用信号Pが供給されている状態(以下、「第2の供給状態」ともいう)において、切替え部4を制御して、電極3aを検出部6に接続させる。この際に、検出部6が、電極3aにおける電位Vおよび位相差θを検出し、処理部9が、電位Vおよび位相差θを記憶部8に記憶させる。次いで、処理部9は、上記した第1の供給状態に行った切替え部4に対する制御と同様にして切替え部4を制御して、電極3を順次切り替えて検出部6に接続させ、その際に検出部6よって検出された各電極3における電位Vおよび位相差θを記憶部8に記憶させる。
【0042】
続いて、処理部9は、第2の供給状態において、全ての電極3における電位Vおよび位相差θの検出が終了したときには、隣接して配設されている他の2つの電極3として、電極3c,3dを選択し、切替え部4を制御して、電極3c,3dを電源部5に接続させる。この際に、電極3b,3cを介して測定用信号Pが混合対象100a,100bに供給される。
【0043】
次いで、処理部9は、上記した第1の供給状態および第2の供給状態に行った切替え部4に対する制御と同様にして切替え部4を制御して、電極3を順次切り替えて検出部6に接続させ、その際に検出部6よって検出された各電極3における電位Vおよび位相差θを記憶部8に記憶させる。
【0044】
以下、処理部9は、同様にして、隣接して配設されている2つの電極3の組み合わせを変更して選択し、その2つの電極3を電源部5に接続して測定用信号Pが供給されている状態において、切替え部4を制御して、電極3を順次切り替えて検出部6に接続させ、その際に検出部6よって検出された各電極3における電位Vおよび位相差θを記憶部8に記憶させる。
【0045】
続いて、処理部9は、隣接して配設されている2つの電極3の全ての組み合わせについて、各電極3における電位Vおよび位相差θの測定および記憶が終了したときには、電源部5を制御して、測定用信号Pの出力を停止させる。以上により、混合状態における検出処理が終了する。この場合、この例では、隣接して配設されている2つの電極3の組み合わせが全部で15種類存在し、1つの組み合わせについて15個の電極3a〜3oにおける電位Vおよび位相差θを測定しているため、合計で225種類(225個)の電位Vおよび位相差θが検出されている。
【0046】
続いて、操作部を操作して、混合度Mの算出の実行を指示する。これに応じて、処理部9は、分割処理を実行する。この分割処理では、処理部9は、
図4に示すように、予め決められたアルゴリズムに従い、三角形(予め決められた平面形状の一例)のN個の分割領域(メッシュ)D
i(以下、各分割領域D
iを区別するときには、「分割領域D
1〜D
N」ともいう)で上記した仮想平面Aを分割する。
【0047】
次いで、処理部9は、混合度算出処理を実行する。この混合度算出処理では、処理部9は、まず、上記した検出処理で検出した電位Vおよび位相差θを記憶部8から読み出す。続いて、処理部9は、読み出した電位V、位相差θおよび測定用信号Pの電流値に基づき、予め決められたアルゴリズムで、仮想平面A内における各電極3間のインピーダンスの分布状態を特定し、その分布状態から各分割領域D
iのインピーダンスを算出する。次いで、処理部9は、算出したインピーダンスに基づき、各分割領域D
iの導電率σを算出する。
【0048】
続いて、処理部9は、各分割領域D
iの導電率σに基づき、次に示す数式(1)から物理量ζ
iを算出し、次に示す数式(2)から物理量ζ
0を算出する。この場合、物理量ζ
i,ζ
0(以下、区別しないときには「物理量ζ」ともいう)が、インピーダンスに基づく物理量に相当する。
ζ
i=(S
i・σ
i)/S)・・・数式(1)
ζ
0=(Σ[i=1,N](S
i・σ
i))/S・・・数式(2)
なお、数式(1),(2)において、S
iは、分割領域D
iの面積を意味し、σ
iは、分割領域D
iの導電率を意味し、Sは、仮想平面Aの全体の面積を意味し、Nは、仮想平面A内の各分割領域D
iの総数を意味する。この場合、物理量ζ
iは、数式(1)から明らかなように、仮想平面Aの全体の面積に対する各分割領域D
iの面積の比率を反映させた導電率σを表している。また、物理量ζ
0は、数式(2)から明らかなように、仮想平面Aの全体の面積に対する各分割領域D
iの面積の比率を反映させた各分割領域D
iにおける各導電率σ
iの総和を表している。
【0049】
次いで、処理部9は、次に示す数式(3)から、物理量ζ
iを物理量ζ
0で除算した(物理量ζ
iに基づく)パラメータ値p
iを算出する。
p
i=ζ
i/ζ
0・・・数式(3)
続いて、処理部9は、パラメータ値p
iを用いて次に示す数式(A)式で与えられるエントロピーHを算出する。
H=−Σ[i=1,N]p
i・lnp
i・・・数式(A)
続いて、処理部9は、算出したエントロピーHを、混合度Mとして記憶部8に記憶させる。これにより、混合度Mを測定する混合度算出処理が終了する。続いて、処理部9は、算出した混合度Mを図外の表示部に表示させる。
【0050】
ここで、完全分離状態の一例として、各分割領域D
iのうちの1つの分割領域D
iにおいて、物理量ζ
i=αで、他の全ての分割領域D
iにおいて、物理量ζ
i=0の場合を想定する。この場合には、物理量ζ
0=αとなるため、上記した1つの分割領域D
iにおいてのみ、パラメータ値p
i=α/α=1となり、他の全ての分割領域D
iにおいて、パラメータ値p
i=0/α=0となる。したがって、この場合には、エントロピーH=0となる。
【0051】
一方、完全混合状態のときには、全ての分割領域D
iにおいて、物理量ζ
iが同じ値(例えば、物理量ζ
i=β)となる。このため、全ての分割領域D
iにおいて、パラメータ値p
i=β/Nβ=1/Nとなる。したがって、この場合には、エントロピーH=−N(1/N)・ln(1/N)=lnNとなる。
【0052】
上記したように、エントロピーHは、完全分離状態において、最小値「0」となり、完全混合状態において、最大値「lnN」となる。つまり、混合度Mは、混合対象100a,100bの混合の度合いに応じて0〜lnNの間で変化する。具体的には、混合の度合いが低い(混合していない)ほど、混合度Mは0に近い値となり、混合の度合いが高い(混合している)ほど、混合度MはlnNに近い値となる。したがって、混合度Mから混合の度合いを把握することができる。
【0053】
この場合、混合開始前の標準偏差および混合開始後の標準偏差の双方を用いて混合度Mを測定する従来の混合度測定装置では、混合対象100a,100bを収容容器2に収容してから混合開始前の標準偏差の測定を開始するまでの時間の相違によって混合開始前の標準偏差が異なることとなり(混合度Mが測定開始時の混合状態に影響される(依存する)こととなり)、混合度Mを正確に測定することが困難となるおそれがある。これに対して、この混合度測定装置1では、上記したように混合開始後の物理量ζ
iのみに基づくパラメータ値p
iを用いて数式(A)で与えられるエントロピーHを混合度Mとして算出することができる。つまり、この混合度測定装置1では、混合対象100a,100bを収容容器2に収容してから測定を開始するまでの時間の相違によって異なることがあるパラメータ値を用いることなく(測定開始時の混合状態に影響されることなく)混合度Mを測定することができる。したがって、この混合度測定装置1では、混合度Mを正確に測定することが可能となっている。
【0054】
なお、表示部に表示された混合度Mから、混合対象100a,100bの混合度Mが目標の値よりも小さい、つまり、混合の度合いが目標のよりも低いと判断したときには、撹拌機構7を作動させて混合対象100a,100bをさらに撹拌(混合)した後に、各処理(検出処理、分割処理および混合度算出処理)を処理部9に実行させて混合度Mを表示させる工程を繰り返すことで、混合度Mが目標の値となるように混合対象100a,100bを混合することができる。
【0055】
このように、この混合度測定装置1および混合度測定方法では、平面形状のN個の分割領域D
i毎に物理量ζ
iを算出し、分割領域D
i毎の物理量ζ
iに基づくパラメータ値p
iを用いて数式(A)式で与えられるエントロピーHに基づいて混合度Mを算出する。つまり、この混合度測定装置1および混合度測定方法では、混合対象100a,100bを収容容器2に収容してから測定を開始するまでの時間の相違によって異なることがあるパラメータ値を用いることなく(測定開始時の混合状態に影響されることなく)混合度Mを測定することができる。したがって、この混合度測定装置1および混合度測定方法によれば、混合度Mを正確に測定することができる。
【0056】
また、この混合度測定装置1および混合度測定方法によれば、仮想平面Aの全体の面積S
0に対する各分割領域D
iの面積S
iの比率を反映させた物理量ζ
iを分割領域D
i毎に算出することにより、エントロピーHを正確に算出することができるため、エントロピーHに基づく混合度Mを一層正確に測定することができる。
【0057】
次に、混合度測定装置および混合度測定方法の他の構成および方法として、
図7に示す収容容器2Aを備えた混合度測定装置1A、および混合度測定装置1Aを用いる混合度測定方法について説明する。なお、以下の説明において、上記した混合度測定装置1と同じ構成要素については、同じ符号を付して、重複する説明を省略し、上記した混合度測定方法と同様の手順については重複する説明を省略する。
【0058】
図7に示すように、この混合度測定装置1Aでは、収容容器2Aが、一例として、直方体状(断面が矩形の筒状)に形成されて、混合対象100を収容可能に構成されている。また、この混合度測定装置1Aでは、同図に示すように、電極3が、収容容器2Aの4つの側壁の内面にマトリクス状に配列されている。この場合、収容容器2Aに混合対象100が収容された状態では、混合対象100における収容容器2Aの底面に接している部分と、混合対象100における収容容器2Aの各側壁の内面に接している部分と、混合対象100の上面とによって構成される立体が仮想立体E(
図8参照)に相当する。したがって、電極3は、仮想立体Eの外周部に沿って配設されていることとなる。
【0059】
また、この混合度測定装置1Aでは、処理部9が、分割処理において、
図8に示すように、予め決められたアルゴリズムに従い、直方体状の(予め決められた立体形状の一例)の複数の分割領域(メッシュ)F
iで上記した仮想立体Eを分割する。また、処理部9は、混合度算出処理において、仮想立体Eの全体の体積に対する各分割領域F
iの体積の比率を反映させて(つまり、上記した数式(1),(2)において、S
iに替えて分割領域F
iの体積を用いて)物理量ζ
i,ζ
0を算出する。
【0060】
この混合度測定装置1Aおよび混合度測定方法においても、混合対象100a,100bを収容容器2に収容してから測定を開始するまでの時間の相違によって異なることがあるパラメータ値を用いることなく混合度Mを測定することができるため、混合度Mを正確に測定することができる。
【0061】
また、この混合度測定装置1Aおよび混合度測定方法においても、仮想立体Eの全体の体積に対する各分割領域F
iの体積の比率を反映させた物理量ζ
iを分割領域F
i毎に算出することにより、エントロピーHを正確に算出することができるため、エントロピーHに基づく混合度Mを正確に測定することができる。
【0062】
なお、混合度測定装置および混合度測定方法は、上記の構成および方法構成に限定されない。例えば、物理量ζ
iを物理量ζ
0で除算したパラメータ値p
iを用いて算出したエントロピーHを混合度Mとする構成および方法について上記したが、次に示す数式(B)から算出したパラメータ値p
iを用いて上記した数式(A)式で与えられるエントロピーHを混合度Mとする構成および方法を採用することもできる。
p
i=(ζ
i・e^(−ζ
iΣ[j=1(j≠i),N]b
ji・ζ
j))/(Σ[i=1,N]ζ
i・e^(−ζ
iΣ[j=1(j≠i),N]b
ji・ζ
j))・・・数式(B)
なお、数式(B)において、jは、上記した分割領域D
iの周囲の分割領域である分割領域D
jの添字を意味する。また、b
jiは、負ではない実数を意味する。また、ζ
jは、分割領域D
j毎のインピーダンスに基づく物理量(分割領域D
i毎の物理量ζ
iと同様の物理量)を意味する。
【0063】
上記した数式(B)における右辺の分子部分は、分割領域D
iの物理量ζ
iに分割領域D
jの物理量ζ
jを反映させた物理量を表し、数式(B)における右辺の分母部分は、各分割領域D
iの各物理量ζ
iに各分割領域D
jの各物理量ζ
jを反映させた物理量の総和を表している。このため、上記した数式(B)から算出したパラメータ値p
iには、分割領域D
iの物理量ζ
iに、分割領域D
jの物理量ζ
jが反映されている。この場合、b
jiは、数式(B)によって算出されたパラメータ値p
iに物理量ζ
jを反映させる分割領域D
jの範囲(分割領域D
iを中心としてその分割領域D
iの周囲に存在する分割領域D
jのうちの、物理量ζ
jを反映させるべき分割領域D
jの範囲)を規定するための値であって、b
jiが「0」に近いほど、パラメータ値p
iに反映させる分割領域D
jの範囲が小さくなる。例えば、b
ji=0のときには、数式(B)から算出したパラメータ値p
iと上記した数式(3)から算出したパラメータ値p
iとが同じ値となって、分割領域D
jの物理量ζ
jが反映されないパラメータ値p
iとなる。
【0064】
ここで、例えば、同じ物理量ζ
iの分割領域D
iが仮想平面A内に複数存在するときに、上記した数式(3)から算出したパラメータ値p
i(物理量ζ
jが反映されないパラメータ値p
i)を用いて上記した数式(A)式で与えられるエントロピーHを算出する場合を想定する。この場合、同じ物理量ζ
iの各分割領域D
iが仮想平面A内の特定の部位に集まっている状態におけるエントロピーHと、各分割領域D
iが仮想平面A内に均等に分布している分散している状態におけるエントロピーHとは同じ値となる。つまり、このようなときには、混合対象100の混合の度合いが異なる2つの状態においてエントロピーHが互いに同じ値となり、混合対象100の混合の度合いをエントロピーHによって正しく表すことが困難となることがある。
【0065】
これに対して、上記した数式(B)から算出したパラメータ値p
iを用いて上記した数式(A)式で与えられるエントロピーHを混合度Mとする構成および方法では、分割領域D
iの周囲の分割領域D
jの物理量ζ
jを反映させることができるため、上記したように、例えば、同じ物理量ζ
iの各分割領域D
iが仮想平面A内に複数存在するときに、各分割領域D
iの分布状態に応じて異なる値のエントロピーHが算出される結果、混合対象100の混合の度合いをエントロピーHによって正しく表すことができる。なお、立体形状の複数の分割領域F
iで仮想立体Eを分割した各分割領域F
iにおける物理量ζ
iに基づくパラメータ値p
iを用いてエントロピーHを算出する構成および方法において上記した数式(B)から算出したパラメータ値p
iを用いることもでき、この構成および方法においても同様の効果を実現することができる。
【0066】
また、上記した混合度測定装置1および混合度測定方法では、円形の仮想平面Aを三角形の分割領域D
iで分割しているが、円形以外の形状(例えば、多角形や楕円形)の仮想平面Aを三角形の分割領域D
iで分割したり、これらの各種形状の仮想平面Aを三角形以外の形状(例えば、四角以上の多角形、円および楕円)の分割領域D
iで分割したりすることもできる。また、上記した混合度測定装置1Aおよび混合度測定方法では、直方体の仮想立体Eを直方体の分割領域F
iで分割しているが、直方体以外の形状(例えば、球状、円柱状、楕円柱状、および断面が三角形または5角以上の多角形の柱状)の仮想立体Eを直方体の分割領域F
iで分割したり、これらの各種形状の仮想立体Eを直方体以外の形状(例えば、球状、円柱状、楕円柱状、および断面が三角形または5角以上の多角形の柱状)の分割領域F
iで分割したりすることもできる。
【0067】
また、仮想平面Aの全体の面積に対する各分割領域D
iの面積の比率を反映させて物理量ζを算出する例、および仮想立体Eの全体の体積に対する各分割領域Fの体積の比率を反映させて物理量ζを算出する例について上記したが、このような分割領域D
i,F
iの面積や体積を反映させることなく物理量ζを算出する構成および方法を採用することができる。
【0068】
また、インピーダンスに基づいて算出した導電率σから、インピーダンスに基づく物理量としての物理量ζを算出する例について上記したが、インピーダンスに基づいて誘電率や透磁率を算出し、その誘電率や透磁率から、インピーダンスに基づく物理量としての物理量ζを算出し、その物理量ζのエントロピーHに基づいて混合度Mを算出する構成および方法を採用することもできる。
【0069】
また、各電極3における電位Vおよび位相差θを検出して、電位V、位相差θおよび測定用信号Pの電流値に基づいてインピーダンスの分布状態を特定する例について上記したが、検出位相差θを用いることなく(位相差θを検出することなく)電位Vおよび測定用信号Pの電流値に基づいてインピーダンス(抵抗値)の分布状態を特定する構成を採用することもできる。
【0070】
また、2種類の混合対象100a,100bを混合する際の混合度Mを測定する例について上記したが、3種類以上の混合対象100を混合する際に混合度測定装置1を用いることができ、この際にも、上記した効果と同様の効果を実現することができる。
【0071】
また、有機溶媒およびカーボンブラック等の導電性粒子を複数種類の混合対象100とした例について上記したが、水と食塩のように、溶媒と溶媒に溶解する溶質とを複数種類の混合対象100とすることもできる。また、同じ物質で構成されて粒径が互いに異なる(物性が互いに異なる)複数種類の物体を複数種類の混合対象100とすることもできる。さらに、同じ物質で構成されて結晶構造が互いに異なる(物性が互いに異なる)複数種類の物体を複数種類の混合対象100とすることもできる。
【0072】
また、上記の構成および方法では、上記した数式(A)で与えられるエントロピーHそのものを混合度Mとしているが、数式(A)で算出し得る最大値であるエントロピーH
maxでエントロピーHを除算した除算値をべき乗した値H’を混合度Mとする構成および方法を採用することもできる。具体的には、次に示す数式(C)から算出した値H’を混合度Mとすることができる。
H’=(H/H
max)
a・・・数式(C)
なお、数式(C)において、aは、正の実数であり、任意に規定することができる。
【0073】
ここで、混合対象100の混合の度合いが完全混合状態に近づくに従い、混合(撹拌)時間の経過に対するエントロピーHの値の変化率(変化量)が小さくなることが知られている。したがって、エントロピーHそのものを混合度Mとしている上記の構成および方法では、各混合対象100を混合する際に目標とする混合度Mが完全混合状態における混合度Mに近いときには、混合度Mが目標とする混合度Mに達したか否かを判別することが困難となることがある。これに対して、上記した数式(C)から算出した値H’を混合度Mとする構成および方法では、除算値「H/H
max」をべき乗することで、混合時間の経過に対するべき乗後の値「(H/H
max)
a」の変化率を十分大きくすることができるため、混合時間の経過に対するエントロピーHの変化率が小さい領域(混合の度合いが完全混合状態に近い領域)内に目標とする混合度M(値H’)を設定した場合においても、混合度Mが目標とする混合度Mに達したか否かを確実に判別することができる。