(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記少なくとも2つの位置センサ、前記重心位置算出部、前記ビーム位置及び角度算出部、前記ステアリング電磁石、及び前記制御部は、全体がモジュール化して構成されていることを特徴とする請求項1に記載の粒子線ビーム位置安定化装置。
前記ステアリング電磁石は、前記少なくとも2つの位置センサで挟まれた前記粒子線ビームの軌道の外側に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の粒子線ビーム位置安定化装置。
前記少なくとも2つの位置センサは、複数の第1の線状電極が第1の方向に並列配置され、かつ複数の第2の線状電極が前記粒子線ビームの輸送方向及び前記第1の方向と直交する第2の方向に並列配置されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の粒子線ビーム位置安定化装置。
前記制御部は、前記粒子線ビームの照射中に定周期で前記粒子線ビームの軌道の補正演算処理を実行することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の粒子線ビーム位置安定化装置。
前記制御部は、前記粒子線ビームのビームエネルギーに応じて前記ビーム偏向角に対する変換係数を変更することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の粒子線ビーム位置安定化装置。
前記制御部は、前記ステアリング電磁石の最大偏向角を算出し、要求される偏向角が最大偏向角から逸脱した場合、前記粒子線ビームの出射を中断するインターロック信号を出力することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の粒子線ビーム位置安定化装置。
前記粒子線ビーム位置安定化装置は、稼働前に前記粒子線ビームの軌道の補正演算処理を実行する制御部を有することを特徴とする請求項8に記載の粒子線ビーム照射装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施形態に係る粒子線ビーム位置安定化装置及び方法、粒子線ビーム照射装置について、図面を参照して説明する。
【0016】
(粒子線ビーム照射装置)
図1は一実施形態を適用した粒子線ビーム照射装置の全体構成を示すブロック図である。
【0017】
図1に示すように、粒子線ビーム照射装置1は、ビーム生成部10、出射制御部20、ビーム走査部30、X軸用電磁石30a、Y軸用電磁石30b、一実施形態の粒子線ビーム位置安定化装置(以下、ビーム位置安定化装置とも記す。)40、線量モニタ部50、位置モニタ部51、リッジフィルタ60、レンジシフタ70、制御部80、及び重心位置算出部90等を備えて構成されている。
【0018】
粒子線ビーム照射装置1は、炭素等の粒子や陽子等を高速に加速して得られる粒子線ビームを照射対象であるがん患者100の患部200に向けて照射し、がん治療を行う装置である。粒子線ビーム照射装置1では、患部200を3次元の格子点に離散化し、各格子点に対して細い径の粒子線ビームを順次走査する3次元スキャニング照射法を実施することが可能である。
【0019】
具体的には、患部200を粒子線ビームの軸方向(
図1右上に示す座標系におけるZ軸方向)にスライスと呼ばれる平板状の単位で分割し、分割したスライスZi、スライスZi+1、スライスZi+2等の各スライスの2次元格子点(
図1に示す座標系におけるX軸及びY軸方向の格子点)を順次走査することによって3次元スキャニングを行っている。
【0020】
ビーム生成部10は、炭素イオンや陽子等の粒子を生成するとともに、シンクロトロン等の加速器(主加速器)によってこれらの粒子を患部200の奥深くまで到達できるエネルギーまで加速して粒子線ビームを生成している。
【0021】
出射制御部20では、後述するビーム位置安定化装置40のフィードバック制御部46又は制御部80からそれぞれ出力される制御信号、すなわちインターロック信号及びビーム出射許可信号に基づいて、ビーム生成部10により生成された粒子線ビームの出射のオン、オフ制御を行っている。
【0022】
ビーム走査部30は、Z軸方向に輸送される粒子線ビームをX方向及びY方向に偏向させ、スライス面上を2次元で走査するものであり、X軸方向に走査するX軸用電磁石30aとY軸方向に走査するY軸用電磁石30bの励磁電流を制御している。なお、X軸、Y軸、及びZ軸は、互いに直交している。
【0023】
ここで、一実施形態のビーム位置安定化装置40の構成及び作用については、後述する。また、出射制御部20とビーム位置安定化装置40との間には、
図2に示すように複数の電磁石から構成されたビーム輸送部25が設置されている。このビーム輸送部25は、出射制御部20から出射したビームをビーム位置安定化装置40に輸送する。
【0024】
線量モニタ部50は、照射対象であるがん患者100の患部200に照射する線量をモニタするためのものであり、その筐体内に、粒子線の電離作用によって生じた電荷を平行電極で収集する電離箱や、筐体内に配置された二次電子放出膜から放出される二次電子を計測するSEM(Secondary Electron Monitor)装置等によって構成されている。
【0025】
位置モニタ部51は、治療照射中に走査されたビーム位置を検出し、あらかじめ設定された位置からずれがあったか否かを検出するためのものである。位置モニタ部51は、線量モニタ部50と類似した電荷収集用の平行電極を有している。位置モニタ部51の電荷収集用電極は、線状電極(例えば複数の短冊状の電極や、複数のワイヤからなる電極)がX軸方向及びY軸方向にそれぞれ並列に配列されている。複数の短冊状電極が配列されたものはストリップ型と呼ばれ、複数のワイヤ電極が配列されたものはマルチワイヤ型と呼ばれる。
【0026】
リッジフィルタ60は、ブラッグピークと呼ばれる体内深さ方向における線量のシャープなピークを拡散させるために設けられている。ここで、リッジフィルタ60によるブラッグピークの拡散幅は、スライスの厚み、すなわちZ軸方向の格子点の間隔とほぼ等しくなるように設定される。
【0027】
レンジシフタ70は、患部200のZ軸方向の照射位置を制御する。レンジシフタ70は、例えば複数の厚さのアクリル板から構成されており、これらのアクリル板を組み合わせることによってレンジシフタ70を通過するビームエネルギー、すなわち体内飛程を患部200におけるスライスのZ軸方向の位置に応じて段階的に変化させることができる。レンジシフタ70による体内飛程の大きさは、通常等間隔で変化するように制御され、この間隔がZ軸方向の格子点の間隔に相当する。なお、体内飛程の切り替え方法としては、レンジシフタ70のように粒子線ビームの経路上に減衰用の物体を挿入する方法のほか、ビーム生成部10の制御によってビームエネルギー自体を変更する方法でもよい。
【0028】
制御部80は、粒子線ビーム照射装置1全体の制御を行うためのものであり、格子点毎の照射線量の測定、スポット毎の照射位置の健全性確認、出射制御部20に対するビーム出射のオン、オフ制御、ビーム走査部30に対するビーム走査に関する指示、レンジシフタ70に対するスライス変更に伴うレンジシフタ厚の制御等を行っている。
【0029】
なお、重心位置算出部90の細部構成は、後述するビーム位置安定化装置40の重心位置算出部44と同様であるので、その説明を省略する。
【0030】
(ビーム位置安定化装置の一実施形態)
(構 成)
図2は一実施形態の粒子線ビーム位置安定化装置を示すブロック図である。
【0031】
図2に示すように、ビーム位置安定化装置40は、補正電磁石としてのX軸用ステアリング電磁石41a,Y軸用ステアリング電磁石41bと、粒子線ビームの輸送方向の異なる位置に少なくとも2つ設置された位置センサ42,43と、重心位置算出部44と、ビーム位置及び角度算出部45と、制御部としてのフィードバック制御部46と、ステアリング電磁石電源47と、を備える。
【0032】
ビーム位置安定化装置40は、全体がモジュール化して構成され、ビーム輸送方向において出射制御部20とX軸用電磁石30a,Y軸用電磁石30bとの間であれば、如何なる位置に設置してもよい。具体的には、本実施形態では、ビーム輸送部25の下流側に設置しているが、ビーム輸送部25の上流側に設置してもよい。
【0033】
図3はストリップ型の位置センサ42,43の構成を示す説明図である。
図3に示すように、位置センサ42,43は、粒子線ビームの軌道上に、互いにあらかじめ設定された間隔をあけて異なる位置に設置されている。位置センサ42,43は、それぞれビームの輸送方向に対して交差する方向に設置されて、ビームを通過可能に構成されている。
【0034】
位置センサ42,43は、Y軸方向に延びる複数の短冊状電極(複数の第1の線状電極)がX軸方向(第1の方向)に並列配置されたX軸電極42a,43aと、X軸方向に延びる複数の短冊状電極(複数の第2の線状電極)がY軸方向(第1の方向と直交する第2の方向)に並列配置されたY軸電極42b,43bと、を有している。
【0035】
位置センサ42,43は、それぞれX軸用ステアリング電磁石41a,Y軸用ステアリング電磁石41bを通過したビームのX軸方向(第1の方向)及びY軸方向(第2の方向)の位置を検出する。X軸電極42a,43aからは、第1の信号が出力される。Y軸電極42b,43bからは、第2の信号が出力される。
【0036】
図4は
図2における重心位置算出部44の細部構成を示すブロック図である。
【0037】
重心位置算出部44は、第1の線状電極から出力される第1の信号と、第2の線状電極から出力される第2の信号とから粒子線ビームの重心位置を算出する。以下、具体的に説明する。
【0038】
図4に示すように、位置センサ42,43のX軸電極42a,43a、Y軸電極42b,43bの数(チャンネル数)は、特に限定するものではないが、以下では、X軸方向、Y軸方向のチャンネル数が共に120チャンネルである場合を例として説明する。
【0039】
図4に示すように、X軸電極42a,43aの出力電流は、電流電圧変換(I/V変換)部911aで電圧に変換され、増幅部912aで適宜の電圧に増幅された後、AD変換器(ADC)92aでデジタル信号に変換される。次段のデータ補正処理部93aは、このデジタル信号に対してオフセット補正処理や平均化処理を施して、重心位置算出部94aに出力する。
【0040】
なお、上記のI/V変換部911a、増幅部912a、ADC92a、及びデータ補正処理部93aは、X軸電極42a,43aのそれぞれに対して設けられており、本例では、120チャンネル分としている。
【0041】
Y軸電極42b,43bのそれぞれに対しても、同様に、120チャンネル分のI/V変換部911b、増幅部912b、ADC92b、データ補正処理部93b、及び重心位置算出部94bが設けられている。
【0042】
次段の重心位置算出部94a、94bでは、オフセット補正処理や平均化処理が施されたX軸方向、Y軸方向の各チャンネル信号の振幅値から、粒子線ビームのX軸方向の重心位置と、Y軸方向の重心位置をそれぞれ算出している。これらX軸方向の重心位置を示す信号と、Y軸方向の重心位置を示す信号は、ビーム位置及び角度算出部45に出力される。
【0043】
1次元ビーム形状(X)抽出部95aは、算出されたX軸方向重心位置の周辺の複数のXチャンネル信号(第1の信号)の振幅値からX軸方向(第1の方向)の1次元ビーム形状(第1ビーム形状)を求めている。1次元ビーム形状(Y)抽出部95bも同様にY軸方向の1次元ビーム形状を求めている。
【0044】
2次元ビーム形状抽出部96は、上記のようにして得られたX軸方向及びY軸方向のそれぞれの1次元ビーム形状F(Xi)とF(Yj)の積から2次元ビーム形状G(Xi,Yj)を求めている。算出された2次元ビーム形状G(Xi,Yj)は、ビーム位置及び角度算出部45に出力される。
【0045】
ビーム位置及び角度算出部45は、互いに対をなす位置センサ42,43の重心位置から、第1及び第2の方向におけるビーム入射位置及びビーム入射角度を算出する。具体的な算出方法は、後述する。
【0046】
図2において、X軸用ステアリング電磁石41a及びY軸用ステアリング電磁石41bは、X軸方向及びY軸方向のビーム入射角度を偏向させる。
【0047】
フィードバック制御部46は、ビーム位置及び角度算出部45により算出したビーム入射位置及びビーム入射角度と、想定しているビーム目標位置及びビーム目標角度とのずれ量(差分)から、X軸用ステアリング電磁石41a及びY軸用ステアリング電磁石41bのビーム偏向角に対する補正電流値、すなわちステアリング電磁石電源47の設定電流値を算出する。
【0048】
フィードバック制御部46は、例えばパーソナルコンピュータ等のコンピュータ資源によって構成される。フィードバック制御部46は、図示しないハードディスク装置等の記録媒体に記憶された動作プログラム及び各種データ等をCPU(Central Processing Unit)が読み出してメインメモリに展開し、この展開した動作プログラムを順次CPUが実行する。
【0049】
ステアリング電磁石電源47は、X軸用ステアリング電磁石41a及びY軸用ステアリング電磁石41bに対応して設けられている。ステアリング電磁石電源47は、X軸用ステアリング電磁石41a及びY軸用ステアリング電磁石41bに流れる電流値を調整することにより、X軸用ステアリング電磁石41a及びY軸用ステアリング電磁石41bの磁場を変化させる。
【0050】
(作 用)
次に、本実施形態のビーム位置安定化装置40の作用を説明する。
【0051】
図5は一実施形態のスキャニング照射法によるビーム位置の安定化を示す説明図である。
【0052】
図5に示すように、ビーム軌道(ビーム位置及びビーム角度)は、位置モニタ部51上の基準位置Aを常に通るように制御されている。この基準位置Aは、照射対象としての患者100の患部200の照射座標基準点(以下、アイソセンターと記す。)である目標位置XとX軸用電磁石30aの中心の2点を通る直線上に定義されている。なお、
図5では、図面を簡素化するためY軸の例を省略し、X軸の例としてX軸用電磁石30a、ステアリング電磁石41aを用いて説明する。
【0053】
X軸用電磁石30aの磁場がヒステリシス等の影響によりずれた場合には、X軸用電磁石30aの電流値を補正することで、基準位置Aにビームが向かうように制御されている。仮に、制御中にX軸用電磁石30aのビーム入口部でビーム軌道が数mmずれた場合、アイソセンターでは目標位置XからX’にビーム位置が移動し、誤照射の要因となる。
【0054】
そこで、本実施形態では、X軸用電磁石30aのビーム輸送方向の上流側にビーム位置安定化装置40を設置し、X軸用電磁石30aのビーム入口部でビーム軌道が数mmずれた場合でも、X軸用電磁石30aの中心を常に通るようにビーム位置を安定化させている。これにより、
図5に示すようにアイソセンターではX’から目標位置Xにビーム位置が移動し、上記のような位置ずれを回避することができる。
【0055】
次に、本実施形態のビーム位置安定化装置40の原理を説明する。
【0056】
図6及び
図7は一実施形態の粒子線ビーム安定化装置の原理を示す説明図である。
【0057】
図6に示すように、ビーム軸上に2台の位置センサ42,43と、ステアリング電磁石41aを配置する。通常、ステアリング電磁石は、X軸、Y軸の2台が必要であるが、
図6及び
図7では、図面を簡素化するためにX軸一台(ステアリング電磁石41a)のみを設置した例について説明する。また、ステアリング電磁石41aの配置位置は、2台の位置センサ42,43で挟まれたビーム軌道の外側であれば、その上流側、下流側のいずれでもよい。
【0058】
まず、ステアリング電磁石電源47から消磁のための電流パターンが供給されてステアリング電磁石41aを消磁するとともに、励磁をオフにする。これにより、ステアリング電磁石41aを初期化する。すなわち、式(1)に示すようにステアリング電磁石41aの電流値I
ST1を0とする。
I
ST1=0 (1)
【0059】
次に、ビーム位置及び角度算出部45は、2台の位置センサ42,43及び重心位置算出部44で算出した重心位置X
1,X
2から、式(2),(3)に示すようにステアリング電磁石41aの入射角θ
in、及びステアリング電磁石41aの入射位置X
ST1を算出する。なお、以下の式において、L
1は、ステアリング電磁石41aにおけるビーム輸送方向の中間と位置センサ42との間の長さである。L
2は、2台の位置センサ42,43間の長さである。
θ
in=tan
−1((X
1−X
2)/L
2) (2)
X
ST1=(1+(L
1/L
2))
*X
1−(L
1/L
2)
*X
2 (3)
【0060】
そして、入射位置X
ST1から、式(4)に示すようにステアリング電磁石41aへの入射角(ここでは、前述の入射角θ
inと区別するため目標角θ
pとする。)を算出し、入射角θ
inと目標角θ
pの差分から、式(5)に示すようにステアリング電磁石41aの偏向角θ
defを算出する。
θ
p=tan
−1(X
ST1/(L
1/L
2)) (4)
θ
def=θ
in−θ
p (5)
【0061】
偏向角θ
defを、変換係数aを用いてステアリング電磁石41aの電流値I
STM-Xに変換し、ステアリング電磁石41aを実際に励磁する。その結果を、2台の位置センサ42,43及び重心位置算出部44を用いて重心位置X’
1,X’
2として観測する。
【0062】
ここで、ビームエネルギーの値が異なると、同じ偏向角θ
defの変換係数aでステアリング電磁石41aの電流値I
STM-Xに変換し、ステアリング電磁石41aを励磁したとしても、磁場強度が異なることとなる。
【0063】
そのため、本実施形態では、ビームエネルギーの値に応じて偏向角θ
defの変換係数aがフィードバック制御部46にあらかじめ記憶されている。そして、本実施形態では、式(6)に示すようにビームエネルギーの値に応じて偏向角θ
defの変換係数aを変更するようにしている。
I
STM−X=a
*θ
def (6)
【0064】
次に、ビーム位置及び角度算出部45は、位置センサ42,43の重心位置X’
1,X’
2から、式(7)〜式(9)に示すようにステアリング電磁石41aの励磁中の修正角θ
cor、ステアリング電磁石41aの励磁中の入射位置X’
ST1、ステアリング電磁石41aの励磁中の目標角θ’
pをそれぞれ算出する。
θ
cor=tan
−1((X’
1−X’
2)/L
2) (7)
X’
ST1=(1+(L
1/L
2))
*X’
1−(L
1/L
2)
*X’
2 (8)
θ’
p=tan
−1(X’
ST1/(L
1/L
2)) (9)
【0065】
ここで、修正角θ
corは、ステアリング電磁石41aの励磁中にビーム軌道が変化しなければ、目標角θ
pと一致する。ステアリング電磁石41aの励磁中にビーム軌道が変化する場合、目標角θ
pも変化するため、目標角θ’
pとして区別する。
【0066】
修正角θ
corと目標角θ’
pとの差分から、フィードバック制御部46は、式(10)に示すように偏向角に関する補正量Δθ
defを算出し、式(11)に示すようにステアリング電磁石41aの補正電流値ΔI
STM-Xとする。この補正電流値ΔI
STM-Xを上記初期化したステアリング電磁石41aの電流値I
STに加算し、式(12)に示すようにステアリング電磁石41aの電流設定値I
STM−Xとする。
Δθ
def=θ
cor−θ’
p (10)
ΔI
STM−X=a
*Δθ
def (11)
I
STM−X=I
STM−X+ΔI
STM−X (12)
【0067】
そして、ビーム位置及び角度算出部45及びフィードバック制御部46は、上述した式(7)〜(12)の演算を繰り返す。
【0068】
このように本実施形態では、ビーム軌道の変化に応じてステアリング電磁石41aの電流補正値を更新することにより、ステアリング電磁石41aのビーム入口部におけるビーム位置を固定化し、かつ安定化させることができる。
【0069】
図8は一実施形態の粒子線ビーム安定化装置の基本的な処理を示すフローチャートである。
【0070】
図8に示すように、まず、ビーム照射開始前に、ビームエネルギー情報を取得し、ビームエネルギーの値に応じてステアリング電磁石41a,41bの電流値と偏向角の変換係数aをフィードバック制御部46に設定する(ステップST1)。
【0071】
ここで、本実施形態では、フィードバック制御部46の記憶部に変換係数aを設定するようにしたが、これに限らず、フィードバック制御部46の外部にあらかじめ記憶部を設置しておき、この外部の記憶部に変換係数aをあらかじめ設定するようにしてもよい。
【0072】
次いで、ステアリング電磁石41a,41bの残留磁場を排除するために消磁を行う(ステップST2)。このステップST2の処理では、ステアリング電磁石41a,41bの励磁をオフにする。そして、フィードバック制御部46は、出射制御部20にビーム出射許可信号を出力することで、ビームの出射を開始する(ステップST3)。
【0073】
ビーム位置及び角度算出部45は、2台の位置センサ42,43及び重心位置算出部44で算出したビーム重心位置を示す信号を受信する(ステップST4)。ビーム位置及び角度算出部45は、ビーム重心位置を示す信号から偏向角(θ
def)、補正角度(偏向角に関する補正量Δθ
def)を算出する。そして、フィードバック制御部46は、θ
def(X)+Δθ
def(X),θ
def(Y)+Δθ
def(Y)を算出し、フィードバック処理を実行する。
【0074】
フィードバック制御部46は、上記θ
def(X)+Δθ
def(X),θ
def(Y)+Δθ
def(Y)があらかじめ設定された範囲内であるかを判定し、その判定結果がOKでない場合(ステップST5:No)には、全体の処理を終了する。また、判定結果がOKである場合(ステップST5:Yes)の場合には、ステップST6に進む。
【0075】
ステップST6では、上記偏向角、上記補正角度をステアリング電磁石41a,41bの電流値に反映させて、照射が継続している場合(ステップST7:Yes)には、ステップST4に戻り、フィードバック制御を継続する。照射が継続していない場合(ステップST7:No)には、ステップST8に進む。
【0076】
ステップST8では、ビームエネルギーの変更がない場合(ステップST8:No)には、全体の処理を終了する。ビームエネルギーの変更がある場合(ステップST8:Yes)には、ステップST1に戻る。このようにビームエネルギーの変更に伴うビーム中断がある場合は、ステップST7、ステップST8を経由してステップST1に戻る。
【0077】
図9は一実施形態の粒子線ビーム位置安定化装置がオフのときの状態を示す説明図である。
図10は一実施形態の粒子線ビーム位置安定化装置がオンのときの効果を示す説明図である。
【0078】
図9及び
図10に示すように、ビーム照射中、フィードバック制御部46は、ステップST4からステップST7までの処理を1ミリ秒以下の高速かつ定周期で行うことにより、経時的な位置ドリフトだけでなく、1スピル内(数秒オーダー)で発生するビーム位置の変動についてもリアルタイムで位置補正を行うことで、ビーム位置を安定化させることができる。
【0079】
このように本実施形態では、ビーム位置及び角度算出部45により算出したビーム入射位置及びビーム入射角度と、想定しているビーム目標位置及びビーム目標角度とのずれ量(差分)から、フィードバック制御部46は、ステアリング電磁石41a,41bのビーム偏向角に対する補正電流値、すなわちステアリング電磁石電源47の設定電流値を算出し、この設定電流値をステアリング電磁石41a,41bに出力する。ステアリング電磁石41a,41bは、補正電流値を用いて自動的にビーム軌道の偏向させている。
【0080】
これにより、本実施形態によれば、ビーム軌道の調整作業を簡素化することができ、ビーム位置を安定化させることができる。また、ビーム軌道のずれに起因する誤照射を発生させるリスクを回避し、粒子線治療を中断させずに継続させることができる。さらに、高度な専門知識を有するエキスパートがいなくても、ビーム軌道の調整作業が可能になる。
【0081】
また、本実施形態によれば、フィードバック制御部46は、ビーム軌道を常に監視することで、仮に、ステアリング電磁石41a,41bのビーム偏向能力を超えてビーム軌道が大きく変動した場合でも、即座にインターロック信号を発生させることで、安全に照射を中断させることができる。
【0082】
さらに、本実施形態によれば、加速器及びビーム輸送系のビーム軌道の調整作業では、ビーム位置安定化装置40の入射側で要求される位置精度が緩和すると同時に、ビーム位置安定化装置40がビーム軌道モニタとして機能する。これにより、加速器及びビーム輸送系のビーム軌道の調整作業時間の短縮化及び効率化を図ることができる。
【0083】
なお、本実施形態では、粒子線ビーム照射装置1を設置し、患者100にビームを照射する稼働前に、ビーム位置安定化装置40を用いてビームを偏向させてビーム位置を安定化させることができる。このように粒子線ビーム照射装置1の稼働前にビーム位置安定化装置40を用いてビームの調整作業を行うことで、粒子線ビーム照射装置1の設置時のビーム調整作業が容易になる。
【0084】
また、本実施形態では、Y軸方向に延びる複数の短冊状電極がX軸方向に並列配置されたX軸電極42a,43aと、X軸方向に延びる複数の短冊状電極がY軸方向に並列配置されたY軸電極42b,43bと、を有する位置センサ42,43を用いた例について説明したが、これに限らず粒子線ビームを照射することにより、蛍光を発する蛍光膜方式等による位置モニタを用いてもよい。
【0085】
さらに、本実施形態では、粒子線ビームの軌道上の異なる位置に2つの位置センサ42,43を設置した例について説明したが、これに限らずそれを超える数を設置してもよく、要するに少なくとも2つ設置すればよい。
【0086】
(その他の実施形態)
本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0087】
例えば、前記実施形態では、ビーム位置安定化装置40をビーム輸送方向において出射制御部20の下流側からX軸用電磁石30a,Y軸用電磁石30bの上流側に1台設置した例について説明したが、これに限らず複数台直列に設置してもよい。このように設置した粒子線ビーム照射装置によれば、一段と正確にビーム軌道を調整することができ、スキャニング照射装置へのビーム位置を安定化させることが可能となる。