(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6602891
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】鉄道車両のための選択的な制動力配分
(51)【国際特許分類】
B60T 8/00 20060101AFI20191028BHJP
B61H 13/26 20060101ALI20191028BHJP
【FI】
B60T8/00 ZZJT
B61H13/26
【請求項の数】13
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-554064(P2017-554064)
(86)(22)【出願日】2016年4月15日
(65)【公表番号】特表2018-511527(P2018-511527A)
(43)【公表日】2018年4月26日
(86)【国際出願番号】EP2016058331
(87)【国際公開番号】WO2016166274
(87)【国際公開日】20161020
【審査請求日】2017年12月5日
(31)【優先権主張番号】102015105792.1
(32)【優先日】2015年4月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503159597
【氏名又は名称】クノル−ブレムゼ ジステーメ フューア シーネンファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Knorr−Bremse Systeme fuer Schienenfahrzeuge GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ペーター ロラ
【審査官】
杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−035933(JP,A)
【文献】
特表2006−527688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12−8/1769
8/32−8/96
B61H 13/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個々の台車(31〜34)または車両に割り当てられた、鉄道車両(100)の複数の摩擦ブレーキ装置(312,322,332,342)を有するブレーキシステムを制御するための装置(20)において、
前記装置(20)は、全ての摩擦ブレーキ装置のサブグループに対して総制動力を選択的に配分するように構成されており、
前記装置(20)は、停止過程時に少なくとも1つの台車または車両が制動力なしに維持されるように、かつ制動される台車または車両の摩擦ブレーキ装置に、相応に増加された制動力が印加されるように、前記総制動力が配分されるように構成されている、
装置(20)。
【請求項2】
前記装置(20)は、選択的な制動力配分を、トリガ信号に応答して開始するように構成されている、
請求項1記載の装置(20)。
【請求項3】
前記装置(20)は、前記鉄道車両(100)が所定の速度を下回った場合に前記トリガ信号を出力する速度センサ(10)を有する、
請求項2記載の装置(20)。
【請求項4】
前記装置(20)は、所定の場所領域内の位置に到達した場合に前記トリガ信号を出力する位置センサ(10)を有する、
請求項2または3記載の装置(20)。
【請求項5】
前記サブグループは、前記鉄道車両(100)の前方領域にある前記摩擦ブレーキ装置(312,322,332)が制動力なしに維持されるように、前記鉄道車両(100)の最後に位置する所定の数の摩擦ブレーキ装置(342)を含む、
請求項1から4までのいずれか1記載の装置(20)。
【請求項6】
前記サブグループは、前記鉄道車両(100)の最後尾の台車(34)または車両の摩擦ブレーキ装置のみを含む、
請求項5記載の装置(20)。
【請求項7】
複数の摩擦ブレーキ装置(312,322,332,342)と、請求項1から6までのいずれか1項記載の装置(20)を備える少なくとも1つの動力車とを有する、鉄道車両(100)。
【請求項8】
請求項1から6までのいずれか1項記載の装置(20)を備える、動力車。
【請求項9】
個々の台車(31〜34)または車両に割り当てられた、鉄道車両(100)の複数の摩擦ブレーキ装置(312,322,332,342)を有するブレーキシステムを制御するための方法において、
前記方法は、停止過程時に、少なくとも1つの台車または車両が制動力なしに維持されるように、かつ制動される台車または車両の摩擦ブレーキ装置に、相応に増加された制動力が印加されるように、前記摩擦ブレーキ装置(312,322,332,342)のサブグループに対して総制動力を選択的に配分するステップを含む、
方法。
【請求項10】
制動力を選択的に配分する前記ステップを、トリガ信号の受信に応答して実施する、
請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記鉄道車両(100)が所定の速度を下回った場合、または前記鉄道車両(100)が所定の場所領域に到達した場合に、前記トリガ信号を生成するステップをさらに含む、
請求項10記載の方法。
【請求項12】
実行時に請求項9から11までのいずれか1項記載の方法のステップを実行する、コンピュータシステム上で実行可能なプログラムコードが保存されている、コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項13】
実行時にコンピュータシステム上で請求項9から11までのいずれか1項記載の方法のステップを実行するコード手段を有する、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個々の台車または車両に割り当てられた、鉄道車両の複数の摩擦ブレーキ装置を有するブレーキシステムを制御するための装置および方法に関する。本発明はさらに、コンピュータシステム上で上述した方法のステップを実行するためのコード手段を有するコンピュータプログラムと、コンピュータプログラムのコード手段を有するプログラムコードが保存されたコンピュータ可読記憶媒体とに関する。
【0002】
鉄道車両または軌条車両のブレーキシステムは、大きな移動質量を所定の距離の枠内で確実に停止させなければならないように構成されている。このために例えば、所定の制動距離のために想定されたいわゆるブレーキパネルが開発された。ブレーキパネルにおいて、鉄道車両(例えば列車)の制動距離、最高速度、勾配比率、および制動能力の間における関係が構築される。ここから、鉄道交通の最高速度が増加し続けていることに伴い、ますます高性能なブレーキシステムの必要性も生じている。
【0003】
一般的に、鉄道車両には、制動力を発生させるための種々異なる手段が設けられている。ブレーキは、物理的な作用原理に応じて、摩擦ブレーキ(固体摩擦による制動力の発生)と、エレクトロダイナミックブレーキ(例えば渦電流ブレーキ)と、ハイドロダイナミックブレーキ(例えば液圧ブレーキ)とに分類することができる。
【0004】
鉄道車両のためのブレーキシステムを開発する際には、ブレーキシステムを提供できるようにするために多数の異なる条件を考慮しなければならない。一方では、ブレーキシステムの特性を考慮する必要があり、他方では、場合によって顧客要求と法的要件とを満たす必要がある。とりわけブレーキシステムが、作用方式の異なる複数のブレーキを有する場合には、ブレーキシステムの開発が非常に複雑になる可能性がある。達成すべき制動力または制動力配分に関する要件に加えて、例えば制動力経過における熱的条件も満たされなければならない。
【0005】
以下の問題提起から、ブレーキシステムの設計時のさらなる要件が生じる。
【0006】
動力分散列車は、それぞれ機能に応じて動力車、中間車、および制御車と呼ばれる複数の車両からなる1つのユニットであって、固有の駆動部が設けられており、通常の動作時には分離することができない1つのユニットである。複数の部分からなる連接形自走可能車は、例えば動力分散列車と呼ばれる。このような動力分散列車では、通常時の制動(いわゆる常用ブレーキ)のために、ダイナミックブレーキ装置および摩擦ブレーキ装置が使用される。動力分散列車では、多くの場合、制動作用がもっぱら摩擦ブレーキ装置のみによって達成されるように、典型的には低速領域において、すなわち停止付近および/または停止直前において、ダイナミックブレーキ装置が戻される。滑らかな停止、ひいては均等な停止を達成するために、最終的には摩擦ブレーキ装置のための制動力も戻される。この段階では、静止摩擦と滑り摩擦との間の差によって望ましくない耳障りな摩擦騒音が発生する。
【0007】
したがって、本発明の基礎となる課題は、停止過程時の望ましくない摩擦騒音を回避することができるように、または少なくとも低減することができるように、鉄道車両のためのブレーキシステムを発展させることである。
【0008】
上記の課題は、独立請求項に記載の特徴によって解決される。
【0009】
本発明のさらなる有利な実施形態および発展形態は、従属請求項から明らかになる。
【0010】
本明細書の枠内では、軌条上で動作するための鉄道車両を設けることができる。鉄道車両は、1つまたは複数の車両および/または牽引車を有することができる。鉄道車両の車両は、固有の駆動部を有する動力車とすることができる。鉄道車両のブレーキシステムを制御するための制御装置は、ソフトウェアとして、ハードウェアとして、またはソフトウェアとハードウェアの組み合わせとして実装することができる。鉄道車両は、鉄道車両の他の設備との適切なデータ交換を可能にするために、1つまたは複数のインターフェースを有することができる。制御装置は、1つまたは複数のモジュールおよび/またはプロセスおよび/またはオブジェクトおよび/またはスレッドとして実装することができる。鉄道車両のブレーキシステムは、一般的に、それぞれ異なる原理で動作する複数のブレーキを有することができる。このようなブレーキは、例えば摩擦ブレーキ、ダイナミックブレーキ、レールブレーキ、またはエアロダイナミックブレーキのようなその他のブレーキとすることができる。ブレーキは、複数のブレーキ装置を有することができ、これらのブレーキ装置は、鉄道車両の個々の車両、車輪、および/または車軸を制動するために設けることができる。摩擦ブレーキは、例えば踏面ブレーキ、またはディスクブレーキ、または踏面ブレーキとディスクブレーキの組み合わせとすることができる。摩擦ブレーキは、液圧式、空圧式、または電気式に操作可能とすることができる。液圧式に操作される摩擦ブレーキは、液圧ブレーキと呼ぶことができる。空圧式に操作される摩擦ブレーキは、空圧ブレーキと呼ぶことができる。空圧ブレーキは、直接的または間接的な空圧ブレーキとすることができる。直接的な空圧ブレーキの場合には、直接的にブレーキ装置に対してブレーキ圧力が制御され、間接的な空圧ブレーキの場合には、ブレーキ装置を間接的に操作するために主制御管におけるブレーキ圧力の降下が使用される。ダイナミックブレーキは、一般的に、必要な制動力を全ての制動状況において供給できるわけではないので、ダイナミックブレーキに対する信頼性の高い補完物として摩擦ブレーキが使用される。とりわけ摩擦ブレーキは、高い動作安全性を有しており、制御ユニットの故障時にも大きな制動力を確実に供給することができるので、非常ブレーキとして使用される。ダイナミックブレーキは、エレクトロダイナミックブレーキ、回転式の渦電流ブレーキ、またはハイドロダイナミックブレーキとすることができる。エレクトロダイナミックブレーキは、例えば電気モータを有する鉄道車両のエンジンブレーキとすることができる。ダイナミックブレーキは、実質的に摩耗のないブレーキである。ダイナミックブレーキは、操作時に制動中に制動からエネルギーを回収して、場合によっては貯蔵することが可能な、発電ブレーキまたは回生ブレーキとすることができる。
【0011】
列挙した種類のブレーキは、それぞれ異なる制動作用原理を有しており、その場合、制動力がそれぞれ異なるように発生されるか、または制動力を発生させるためにそれぞれ異なる操作力が作用する。ブレーキシステムの各ブレーキは、鉄道車両上にそれぞれ個別に制御可能に設けることができる。現代の鉄道車両では、ブレーキの磨耗をできるだけ小さく抑えることができるように、好ましくはダイナミックブレーキが使用される。ダイナミックブレーキは、一般的に摩擦ブレーキと比較してより小さい制動作用しか発揮することができないので、ダイナミックブレーキの制動作用は、全ての制動状況にとって十分であるとは限らない。したがって制動過程時には、所望の制動作用を達成するために、ダイナミックブレーキに加えて摩擦ブレーキ、および/または摩擦力に基づかないブレーキがしばしば使用される。ただし、ブレーキシステムを設計する際には、場合によって摩擦ブレーキが単独で緊急制動を実施できるようになっている必要があることを考慮しなければならない。
【0012】
制動力または制動作用は、一般的に、鉄道車両の減速をもたらす力または作用を意味する。この場合、制動過程時に操作された複数のブレーキの個々の制動力の寄与から構成することができる総制動力が、車両に作用しうる。制動力を発生させるためにブレーキ装置に作用する力を、操作力であると見なすことができる。操作力は、力発生器によって、例えば空圧ブレーキの空圧式に操作されるシリンダによって供給することができる。一般的に、複数のブレーキを同時に使用する場合には、印加すべき制動力を、複数の異なるブレーキに配分しなければならない。このような制動力配分は、「ブレンディング」とも呼ばれる。ブレンディングは、とりわけダイナミックブレーキと摩擦ブレーキとの間の制動力配分を意味することができる。
【0013】
本発明によれば、個々の台車または車両に割り当てられた、鉄道車両の複数の摩擦ブレーキ装置を有するブレーキシステムを制御するための装置が設けられている。前記装置は、停止過程時に、少なくとも1つの台車または車両が制動力なしに維持されるように、かつ制動される台車または車両の摩擦ブレーキ装置に、相応に増加された制動力が印加されるように、全ての摩擦ブレーキ装置のサブグループに対して総制動力を選択的に配分するように構成されている。
【0014】
上記の手段により、望ましくない摩擦騒音が、制動力のない台車または車両では完全に発生しなくなるように、かつ相応に増加された制動力が印加される台車または車両では低減されるか、または完全に回避されるようにすることができる。なぜなら、増加された制動力は、有害な摩擦騒音を引き起こさないからである。
【0015】
好ましくは、前記装置は、選択的な制動力配分を、トリガ信号に応答して開始するように構成されることができる。これによって、本発明による選択的な制動力配分は、望ましくない摩擦騒音を回避すべき特定の動作状況においてのみ使用されることとなる。
【0016】
前記トリガ信号は、例えば前記鉄道車両が所定の速度を下回った場合に速度センサによって生成することができ、この場合、前記所定の速度を下回っていることは、停止過程と、ひいては停止過程に関連する摩擦騒音とを指示する。
【0017】
これに加えてまたはこれに代えて、前記トリガ信号は、前記鉄道車両の地理的位置を指示する位置センサによって生成することができ、これによって前記トリガ信号は、所定の場所領域内の所定の位置に到達した場合に出力される。これにより、騒音発生が有害である場所でのみ、騒音を低減させる選択的な制動力配分が使用されることを保証することができる。
【0018】
好ましくは、前記サブグループは、前記鉄道車両の前方領域にある前記摩擦ブレーキ装置が制動力なしに維持されるように、前記鉄道車両の最後に位置する所定の数の摩擦ブレーキ装置を含むことができる。このことは、特に駅領域における停車過程時に有利である。なぜなら、この手段によって、場合によって残留しうる騒音発生が、鉄道車両の最後に限定されているからである。前記サブグループは、前記鉄道車両の最後または最後尾の台車または車両の摩擦ブレーキ装置のみとすることもできる。
【0019】
本発明はさらに、個々の台車または車両に割り当てられた、鉄道車両の複数の摩擦ブレーキ装置を有するブレーキシステムを制御するための方法において、前記方法は、停止過程時に、少なくとも1つの台車または車両が制動力なしに維持されるように、かつ制動される台車または車両の摩擦ブレーキ装置に、相応に増加された制動力が印加されるように、前記摩擦ブレーキ装置のサブグループに対して総制動力を選択的に配分するステップを含む、方法に関する。
【0020】
本発明はさらに、上述した方法のステップを生成または実施する、コンピュータシステム上で実行可能なプログラムコードが保存されている、コンピュータ可読記憶媒体に関する。
【0021】
本発明はさらに、実行時にコンピュータシステム上で上述した方法のステップを生成または実施するコード手段を有する、コンピュータプログラムに関する。
【0022】
以下では、本発明を、添付の図面を参照しながら実施例に基づいて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1の実施例による制動力制御装置を有する鉄道車両の概略ブロック図である。
【
図2】第2の実施例による制動力制御方法のフローチャートである。
【
図3】従来技術による均等な制動力配分を示す概略線図である。
【
図4】第1および第2の実施例による本発明の選択的な制動力配分を示す線図である。
【0024】
以下は、4つの台車を有する例示的な鉄道車両に基づく有利な実施例の説明であり、これらの台車は、対応するダイナミックブレーキ装置と、摩擦ブレーキ装置とによって制動することができる。
【0025】
図1は、4つの台車31〜34を有する鉄道車両100の概略ブロック図を示す。これらの台車31〜34はそれぞれ、対応するダイナミックブレーキ装置(DB1〜DB4)311,321,331,341と、摩擦ブレーキ装置(RB1〜RB4)312,322,332,342とによって制動することができる。台車31〜34は、鉄道車両100の走り装置であり、走り装置では、2組以上の車輪を、ばねによって付勢された状態で1つの台車枠にて支持することができ、台車枠は、鉄道車両100の走行時に対応する車体に対して円弧上で回転することができる。このようないわゆるダブルターンテーブルステアリングによって、比較的長い車両の構築、または比較的急カーブの走行が可能となる。
【0026】
これに代えて、
図1のブロック31〜34は、鉄道車両100の対応する車両を表すこともできる。
【0027】
ダイナミックブレーキ装置311,321,331,341と、摩擦ブレーキ装置312,322,332,342とによって発生される制動力を制御するために、制動力制御装置20が設けられている。制動力制御装置20は、それぞれのブレーキ装置に対応する制御信号を出力し、これによって、複数の異なる台車31〜34にわたる所期の制動力配分を実現する。
【0028】
鉄道車両100の停止過程では、望ましくない摩擦騒音ができるだけ回避されるように制動力が複数の異なる台車31〜34に配分される動作モードへと、制動力制御装置20を、例えば対応するトリガ信号によって移行させることができる。摩擦騒音は、摩擦ブレーキ装置312,322,332,342のみによって発生され、ダイナミックブレーキ装置311,321,331,341は、停止過程では一般的に作動されないので、停止させるために必要な総制動力は、摩擦ブレーキ装置312,322,332,342だけに配分することができる。摩擦騒音を回避するために、従来実施されてきた複数の異なる台車31〜34への総制動力の均等な配分を、取り止めることが提案される。
【0029】
図3は、4つの台車DG1〜DG4を有する鉄道車両の例における、従来の均等な制動力配分を示す。
図3から見て取れるように、それぞれの摩擦ブレーキ装置312,322,332,342に供給される制動力は、4つの台車DG1〜DG4の全てにおいて相対値「1」を有する。この値は、所定の制動作用のための所定の制動力に相当する。
【0030】
第1の実施形態によれば、所定の数または所定のサブグループの台車または車両が制動力なしに維持されるように、かつ残りの個数または残りのサブグループの台車または車両に、相応に増加された制動力が印加されるように、上記の従来の制動力配分が変更される。これによって、制動されていない台車または車両においても、増加された制動力が印加される台車または車両においても、有害な摩擦騒音が発生しないようにすることができる。
【0031】
図4は、例示的な制動力配分を示す線図を示す。ここでは、台車DG1〜DG3は制動力を受けておらず、鉄道車両の最後または最後尾の台車DG4だけが制動され、この場合、供給される制動力は、例えば、
図3のそれぞれの台車にそれぞれ均等に配分された制動力の約4倍であり、これによって同等の総制動力が達成される。したがって、第4の台車DG4に選択的に供給される増加された制動力は、例えば相対値「4」を有する。しかしながら、
図4の例は、制動力配分の一例に過ぎず、決して限定するものとして理解すべきではないことに留意すべきである。本発明によれば、鉄道車両の少なくとも1つの台車または車両が制動力なしに制御される限り、それぞれ他の制動力配分が可能である。
【0032】
選択的な制動力配分の動作のためのオプションのトリガ信号は、例えばセンサ(S)10によって出力することができ、このセンサ(S)は、位置センサまたは速度センサ等とすることができる。位置センサは、鉄道車両の地理的位置を検出し、鉄道車両100が所定の場所領域内の所定の位置(場所)に来るとすぐにトリガ信号を出力することができる。この場所領域は、例えば駅領域、または騒音発生が望ましくないその他の領域とすることができる。
【0033】
これに代えてまたはこれに加えて速度センサが用いられる場合には、鉄道車両100が所定の速度を下回り、これにより、開始された停止過程が指示されると、トリガ信号が生成される。
【0034】
これに代えて、トリガ信号を、鉄道車両100の運転者の手動入力(例えばスイッチ、ペダル等の操作)によって生成することもできる。
【0035】
これにより、特定の場所領域において、かつ/または特定の速度において、かつ/または鉄道車両100の運転者の要求に応じて、停止過程を有害な摩擦騒音なしに、または少なくとも摩擦騒音が大幅に低減された状態で実施可能であることを保証することができる。
【0036】
したがって、提案される選択的な制動力配分によれば、全体として生成すべき制動力を、鉄道車両の最後の1つまたは複数の台車に「シフト」させることができる。この場合には、最初の方の台車または車両は、制動力なしに維持されるので、始めに駅に入ってくる列車部分は、制動騒音を発生させず、(1つ/複数の)後方の列車部分、もしくは(1つ/複数の)後方の台車または車両のブレーキ装置は、より良好な動作範囲で動作され、これによって制動騒音の発生が少なくなるか、またはそれどころか全く発生しなくなる。
【0037】
図2は、第2の実施形態による制動力制御方法のフローチャートを示し、この制動力制御方法は、例えばコンピュータ制御式の制動力制御装置におけるソフトウェアとして実装することができる。
【0038】
プログラムスタート後、ステップ201においてまず始めに、全てのダイナミックブレーキ装置および摩擦ブレーキ装置を用いて鉄道車両の走行動作に対する従来の制動力制御が開始される。その後、騒音の少ない停止過程の開始を指示する少なくとも1つの所定のトリガ信号が、アクティブであるかどうかが連続的にチェックされる。該当しない場合には、フローチャートはステップ201に戻り、走行動作に対する従来の制動力制御が維持される。しかしながら、ステップ202において、例えば
図1のセンサ10の信号のようなアクティブなトリガ信号が認識されるとすぐに、フローチャートはステップ203に進み、騒音の少ない選択的な制動力配分を伴う制動力制御が、停止動作のために開始される。このことはつまり、所定の摩擦ブレーキ装置(例えば鉄道車両の前方領域)が制動なしに制御され、かつ残りの摩擦ブレーキ装置(例えば鉄道車両の後方領域)に、相応により大きい制動力が印加されるということを意味する。その後、制御プロシージャが終了し、鉄道車両の発進後に改めて開始することができる。
【0039】
上述した実施形態において、制動力配分のための追加的なパラメータを使用してもよいことに留意すべきである。説明は、本発明に関連している制動力制御の特徴に関してのみなされている。ブレーキの制動力の時間的な推移を計算および/または決定する際には、摩擦要素の摩擦係数と、ひいては発揮される制動力とに影響を与えうる、とりわけ摩擦要素の熱負荷を考慮することができる。制動力配分は、それぞれ異なる制動条件に対して、複数の異なるブレーキ装置へのそれぞれ異なる制動力配分を想定することも可能である。この場合、最適化によって、それぞれ異なる制動条件に対して、複数のブレーキ装置へのそれぞれ異なる制動力配分をもたらすことができる。
【0040】
鉄道車両のブレーキ装置のための具体的な制御信号を決定する際には、車両パラメータおよび/またはブレーキシステムパラメータおよび/または制動条件パラメータを記述したデータセットを使用することができる。保存されたデータセットのコンフィギュレーションまたはコンフィギュレーションの一部は、読み込み装置を介して読み込むことができ、かつ/またはユーザによって入力インターフェースを介して供給することができ、これによってコンフィギュレーションおよび/またはコンフィギュレーションの一部を規定することができる。コンフィギュレーションデータは、コンフィギュレーションのパラメータを備えるデータセットを有することができる。読み込み装置によって、複数の異なるコンフィギュレーションデータソースからコンフィギュレーションデータを読み込むことが考えられる。そのようなコンフィギュレーションデータソースは、例えばファイルおよび/またはユーザ入力インターフェースとすることができる。この場合、種々異なる制動条件の下での急制動および/または非常制動および/または適応制動のために、種々異なるコンフィギュレーションを設けることができる。制動条件はとりわけ、例えばダイナミックブレーキの所定のブレーキまたはブレーキ装置の故障、および/または制動開始時における車両の種々異なる初期速度に関係しうる。
【0041】
したがって、種々異なる制動要件および/または種々異なる速度での非常制動および/または急制動および/または適応制動の場合に、それぞれ制動力配分の最適化を、騒音発生に関しても実施することができる。その後、
図1の制動力制御装置20は、保存されている制御データを、ブレーキ装置を駆動するための制御命令に変換することができ、なお、制御データは、例えばテーブル形式で、および/またはアルゴリズムの形態で、および/または制御命令の形態で、制動力制御装置20に供給することができる。データは、例えば記憶媒体に適切な方法で保存することができる。
【0042】
さらには、制動力制御装置20を、プログラム制御式のコンピュータ装置によって実現することもでき、この場合、
図2のステップと、ブレーキ装置に対する制御命令または制御信号における制御データの処理もまた、コンピュータプログラムによって制御され、このコンピュータプログラムは、例えばコンピュータ可読記憶媒体に保存されているか、もしくは例えばインターネットまたはローカルエリアネットワークのようなネットワークを介してダウンロードすることが可能である。
【0043】
上述した説明、図面、および特許請求の範囲に開示されている本発明の特徴は、単独でも任意の組み合わせでも、本発明を実現するための本質を成すものとすることができる。
【符号の説明】
【0044】
10 センサ装置
20 制動力制御装置
31〜34 第1〜4の台車
100 鉄道車両
201〜203 制動力制御方法のステップ
311,321,331,341 第1〜4のダイナミックブレーキ装置
312,322,332,342 摩擦ブレーキ装置