【実施例】
【0100】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0101】
[実施例A1]
<繊維前処理液の作製>
ジヒドロキシナフタレン10質量部、メチルアミン4質量部およびホルマリン(ホルムアルデヒドの含有量:37質量%)8質量部を含むモノマーと、溶媒としてエタノール水(エタノールの含有量:50質量%)600質量部とを均一に混合して、モノマーを溶解してなるモノマー溶液を作製した。
【0102】
モノマー溶液を攪拌しながら溶液温度が60℃となるように加熱して30分間に亘って保持し、モノマーの一部を重合させて、ナフトキサジン樹脂粒子を析出させて、ナフトキサジン樹脂粒子を含む繊維前処理液を作製した。
【0103】
繊維前処理液を一部取って光学顕微鏡(KEYENCE社製 商品名「VH−2500」)を用いて観察したところ、ナフトキサジン樹脂粒子を観察することができた。
【0104】
ナフトキサジン樹脂粒子の平均粒子径は3μmであった。モノマー溶液中に含まれていたモノマーの転化率は50%であり、繊維前処理液中にはモノマーが残存していた。
【0105】
<強化繊維束の開繊>
開繊前の繊維束として、PAN系炭素繊維束(炭素繊維数:3000本、炭素繊維の繊維径:7μm、目付:200g/m
2、厚み:0.19mm)を平織りしてなる平織物(台湾プラスチック社製 商品名「EC3C」)を用意した。
【0106】
平織物に繊維前処理液を含浸させて含浸繊維束を作製した。平織物は、繊維前処理液を含浸することによって膨潤していた。
【0107】
平織物を200℃に保持された熱板上に3分間に亘って載置して繊維前処理液中の溶媒を蒸発させて除去した。さらに、繊維前処理液中のモノマーを重合させて、繊維前処理液中に予め含有させていたナフトキサジン樹脂粒子を核としてナフトキサジン樹脂粒子を成長させると共に、繊維前処理液中に予め含有させていたナフトキサジン樹脂粒子を核とすることなくナフトキサジン樹脂粒子を新たに析出させた。
【0108】
繊維前処理液中に予め含有されていたナフトキサジン樹脂粒子を核として成長したナフトキサジン樹脂粒子が単独で、または互いに接続して熱硬化性樹脂列を形成しながら、強化繊維と接続一体化し、強化繊維間にナフトキサジン樹脂粒子が強化繊維間を架け渡した状態に配設された。強化繊維とナフトキサジン樹脂粒子との間には、このナフトキサジン樹脂粒子よりも小径のナフトキサジン樹脂粒子が複数個介在していた。
【0109】
そして、強化繊維間に配設されたナフトキサジン樹脂粒子は直ちに炭化されて炭化化合物粒子とされて強化繊維束が作製された。強化繊維束の強化繊維間には、炭素同素体粒子を含む架橋部が配設されていた。架橋部の両端は、強化繊維に接続一体化していた。炭素同素体粒子は、アモルファスカーボンから形成されていた。
【0110】
得られた強化繊維束を光学顕微鏡(KEYENCE社製 商品名「VH−2500」)を用いて観察した拡大写真を
図6および
図7に示した。
【0111】
強化繊維束において、炭素同素体粒子の平均粒子径は3μmであった。大径の炭素同素体粒子の平均粒子径は5μmであった。小径の炭素同素体粒子の平均粒子径は1μmであった。架橋部を構成している炭素同素体粒子の平均数は3個であった。強化繊維束の厚みをデジタルマイクロメーター(エスコ社製 商品名「EA725EB11」)を用いて測定したところ、0.21mmであった。
【0112】
<繊維強化複合体の作製>
次に、マトリックス樹脂としてメタクリル樹脂(住友化学社製 商品名「MH」)を用意し、メタクリル樹脂をフィルム状に押出し、溶融状態のメタクリル樹脂フィルムを強化繊維束上に積層した後に、250℃に加熱しながら1MPaの圧力で3分間に亘って圧縮することによりメタクリル樹脂を強化繊維束中に含浸させて、厚みが250μmの繊維強化複合体を得た。なお、繊維強化複合体中において、強化繊維束の含有量は、40質量%であった。
【0113】
[比較例A1]
50質量%エタノール水(和光純薬社製 商品名「057−00456」)20質量部、1,5−ジヒドロキシナフタレン(和光純薬社製 商品名「048−02342」)2.0質量部、40質量%メチルアミン水溶液(和光純薬社製 商品名「132−01857」)1.0質量部および37質量%のホルムアルデヒド水溶液(和光純薬社製 商品名「064−00406」)2.0質量部をこの順番でビーカーに供給して攪拌することでモノマー溶液を作製した。
【0114】
平織物(台湾プラスチック社製 商品名「EC3C」)とモノマー溶液とを接触させた後に、ゴムローラーでピンチすることにより、平織物にモノマー溶液を含浸させた。
【0115】
次に、平織物を2枚のポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製 賞悲鳴「G2−100」)で狭持した状態で70℃に設定された熱風オーブン中に配置し、3分間に亘って加熱した。
【0116】
ポリエチレンテレフタレートフィルムから平織物を取り外して目視確認したところ、平織物は、濡れた状態であり、溶媒が蒸発せずに残存していることが確認された。
【0117】
次に、平織物を170℃に設定された熱風オーブン中に20分に亘って放置することにより溶媒を除去して強化繊維束を得た。強化繊維束の厚みをデジタルマイクロメーター(エスコ社製 商品名「EA725EB11」)を用いて測定したところ、0.19mmであった。
【0118】
得られた強化繊維束を光学顕微鏡(KEYENCE社製 商品名「VH−2500」)を用いて観察した拡大写真を
図8に示した。
【0119】
炭素同素体は強化繊維束の表面に半球状に付着一体化しているものの、炭素同素体は、強化繊維同士を架け渡した状態にはなかった。
【0120】
得られた強化繊維束を用いて実施例A1と同様の要領で繊維強化複合体を製造した。
【0121】
得られた繊維強化複合体の曲げ弾性率および曲げ強度を下記の要領で測定し、その結果を表A1に示した。
【0122】
(曲げ弾性率および曲げ強度)
ポリ塩化ビニル板(タキロン社製、厚み:4mm)の両面に繊維強化複合体を熱融着一体化させて積層体を作製した。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度をJIS K7074に準拠して測定した。なお、市販のポリ塩化ビニル板(厚み:3mm)の曲げ弾性率および曲げ強度をJIS K7074に準拠して測定したところ、3194MPaおよび93MPaであった。
【0123】
【表1】
【0124】
[実施例B1]
<繊維前処理液の作製>
まず、1,5−ジヒドロキシナフタレン(和光純薬社製 商品名「048−02342」)10質量部、40質量%メチルアミン水溶液(和光純薬社製 商品名「132−01857」)4質量部および37質量%ホルムアルデヒド水溶液(和光純薬社製 商品名「064−00406」)8質量部を含むモノマーと、溶媒として50質量%エタノール水(和光純薬社製 商品名「057−00456」)600質量部とを均一に混合してモノマー溶液を調製した。
【0125】
次に、モノマー溶液を攪拌しながら溶液温度が60℃となるように加熱して30分間に亘って保持し、モノマーの一部を重合させて、ナフトキサジン樹脂粒子を析出させて、ナフトキサジン樹脂粒子を含む繊維前処理液を作製した。
【0126】
繊維前処理液を一部取って光学顕微鏡(KEYENCE社製 商品名「VH−2500」)を用いて観察したところ、ナフトキサジン樹脂粒子を観察することができた。
【0127】
ナフトキサジン樹脂粒子の平均粒子径は3μmであった。モノマー溶液中に含まれていたモノマーの転化率は50%であり、繊維前処理液中にはモノマーが残存していた。
【0128】
<強化繊維織物の準備>
開繊前の繊維束として、PAN系炭素繊維束(束数:3000本、繊維径:7μm、目付:200g/m
2)を用い、これを平織りしてなる市販の平織物(台湾プラスチック社製炭素繊維織物 商品名「EC3C」)を準備した。
【0129】
平織物を構成する繊維束の水平方向の厚み(幅)は、経糸幅および緯糸幅のいずれも、1.50mm(10か所の平均値)であった。なお水平方向の厚み(幅)は、光学顕微鏡(KEYENCE社製 商品名「VH−2500」)による画像処理を用いて測定した(以下同じ)。
【0130】
また、平織物を構成する繊維束の垂直方向の厚みは、0.19mm(10か所の平均値)であった。なお、垂直方向の厚みは、デジタルマイクロメーター(エスコ社製 商品名「EA725EB11」)を用いて測定した(以下同じ)。
【0131】
<強化繊維織物の作製および評価>
まず、上記平織物を上記繊維前処理液に含浸させて含浸繊維束を含む炭素繊維織物を作製した。本実施例において、含浸工程は、炭素繊維織物を重合反応によって熱硬化性樹脂を生成するモノマーが含まれる繊維前処理液に接触させる工程である。具体的には、繊維束から構成される平織物を繊維前処理液に接触させた後に、ゴムローラーでピンチすることにより、平織物に繊維前処理液を含浸させた。その後、水平方向にロールで引っ張る処理を行った。目視での観察により、このように繊維前処理液を含浸することによって繊維束は表面張力により処理液を吸収して膨潤し、その後、水平方向にロールで扱うことで、繊維束は水平方向へと開繊した。このように、本実施例においては、繊維前処理液は、開繊溶液と称することができる。
【0132】
次いで、加熱処理によるさらなる開繊処理を行った。具体的には以下のとおりである。
【0133】
まず、含浸繊維束を含む平織物を、200℃に保持された熱板上に3分間に亘って載置して繊維前処理液中の溶媒を蒸発させて除去すると共に、ナフトキサジン樹脂粒子の成長および炭化が生じ、アモルファスカーボン粒子を含む炭素繊維の開繊織物を得た。
【0134】
次いで、繊維前処理液中に予め含有されていたナフトキサジン樹脂粒子を核として成長したナフトキサジン樹脂粒子が単独で、または互いに接続して熱硬化性樹脂列を形成しながら、強化繊維と接続一体化し、強化繊維間にナフトキサジン樹脂粒子が強化繊維間を架け渡した状態に配設された。強化繊維とナフトキサジン樹脂粒子との間には、このナフトキサジン樹脂粒子よりも小径のナフトキサジン樹脂粒子が複数個介在していた。
【0135】
そして、強化繊維間に配設されたナフトキサジン樹脂粒子は直ちに炭化されて炭化化合物粒子とされて強化繊維束が作製された。強化繊維束の強化繊維間には、炭素同素体粒子を含む架橋部が配設されていた。架橋部の両端は、強化繊維に接続一体化していた。炭素同素体粒子は、アモルファスカーボンから形成されていた。
【0136】
得られた強化繊維束(炭素繊維開繊織物を構成する)を光学顕微鏡(KEYENCE社製 商品名「VH−2500」)を用いて観察したところ、炭素同素体粒子の平均粒子径は3μmであった。大径の炭素同素体粒子の平均粒子径は5μmであった。小径の炭素同素体粒子の平均粒子径は1μmであった。架橋部を構成している炭素同素体粒子の平均数は3個であった。
【0137】
図9および
図10に、開繊処理前の繊維束から構成される強化繊維織物、および開繊処理後の強化繊維束から構成される本発明の強化繊維開繊織物の顕微鏡写真をそれぞれ示す。
図10に示したとおり、経糸束および緯糸束は、開繊処理によって、それぞれ、ほぼ隣り合った繊維束と密着していることがわかる。
【0138】
このように、本実施例においては、炭素繊維織物は、開繊処理を受けて開繊状態にあるため、炭素繊維開繊織物と称することができる。
【0139】
乾燥後の炭素繊維開繊織物を構成する得られた強化繊維束の水平方向の厚み(幅)は、経糸幅および緯糸幅のいずれも、1.99mm(10か所の平均値)であり、開繊処理前に比べて、0.49mm増加した。
【0140】
また、乾燥後の炭素繊維開繊織物を構成する得られた強化繊維束の垂直方向の厚みは、0.21mm(10か所の平均値)であり、興味深いことに、水平方向と同様に、開繊処理前に比べて増加した。通常、糸束(繊維束)が水平方向に開いた後は、垂直方向には、単繊維が積層する数が減少するために、垂直方向の厚みが減少すると考えられるが、本実施例の開繊処理では、上記のとおり、開繊処理前の0.19mmから開繊処理後の0.21mmへと、垂直方向においても、繊維束の厚みが増加していることが判明した。
【0141】
これは、上記の加熱処理で合成された耐熱性の高強度樹脂であるナフトキサジン樹脂により、繊維間が開いた状態のままで固定され保持されたためであると推察される。
【0142】
[比較例B1]
繊維前処理液として、50質量%エタノール水600gを使用した以外は、実施例B1と同様の手順で炭素繊維織物の作製および評価を行った。
【0143】
比較例B1において得られた乾燥後の強化繊維束の水平方向の厚み(幅)は、経糸幅および緯糸幅のいずれも、1.99mm(10か所の平均値)であり、処理前に比べて、0.49mm増加した。
【0144】
また、比較例B1において得られた乾燥後の強化繊維束の垂直方向の厚みは、0.16mm(10か所の平均値)であり、処理前に比べて減少した。通常、糸束(繊維束)が水平方向に開いた後は、垂直方向には、単繊維が積層する数が減少するために、垂直方向の厚みが減少すると考えられるところ、予期されるとおり、比較例B1の処理では、処理前の0.19mmから処理後の0.16mmへと、垂直方向の繊維束の厚みが減少していることが判明した。
【0145】
これは、実施例B1とは異なり、繊維間が開いた状態のままで固定されず安定的に保持されていないためであると推察される。
【0146】
[参考例B1]
比較例A1において使用した繊維前処理液を使用した以外は、実施例1と同様の手順で炭素繊維織物の作製および評価を行った。
【0147】
得られた強化繊維束を、実施例1と同様に観察したところ、炭素同素体は強化繊維束の表面に半球状に付着一体化しているものの、炭素同素体は、強化繊維同士を架橋した状態にはないことがわかった。
【0148】
参考例B1において得られた乾燥後の強化繊維束の水平方向の厚み(幅)は、経糸幅および緯糸幅のいずれも、1.99mm(10か所の平均値)であり、処理前に比べて、0.49mm増加した。
【0149】
また、参考例1において得られた乾燥後の強化繊維束の垂直方向の厚みは、0.16mm(10か所の平均値)であり、処理前に比べて減少した。通常、糸束(繊維束)が水平方向に開いた後は、垂直方向には、単繊維が積層する数が減少するために、垂直方向の厚みが減少すると考えられるところ、予期されるとおり、本比較例の処理では、処理前の0.19mmから処理後の0.16mmへと、垂直方向の繊維束の厚みが減少していることが判明した。
【0150】
これは、実施例B1とは異なり、上記の加熱処理で耐熱性の高強度樹脂であるナフトキサンジン樹脂が合成されることはなく、よって、繊維間が開いた状態のままで固定されず安定的に保持されることがないためであると推察される。
【0151】
[実施例B2]
<炭素繊維強化複合体の作製>
マトリックス樹脂としてポリプロピレン(PP)樹脂(プライムポリマー社製 商品名「J108M」)を用いた。
【0152】
ポリプロピレン樹脂をフィルム状に押出し、溶融状態のポリプロピレン樹脂フィルムを、実施例1で得られた炭素繊維開繊織物を構成する強化繊維束上に積層した後に、250℃に加熱しながら1MPaの圧力で3分間に亘って圧縮することにより、ポリプロピレン樹脂を強化繊維束中に含浸させて、厚みが250μmの炭素繊維強化複合体を得た。なお、炭素繊維強化複合体中において、強化繊維の含有量は、50質量%であった。
【0153】
<曲げ弾性率および曲げ強度>
上記した炭素繊維強化複合体を、複数枚数重ねて、熱融着一体化させて積層体を作製した。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度をJIS K7074に準拠して測定した。
【0154】
結果を表B1に示す。表B1から明らかなように、実施例B2の炭素繊維強化複合体は、後述する比較例B2の炭素繊維複合体と比べて、優れた曲げ弾性率および曲げ強度を有することが実証された。
【0155】
[比較例B2]
比較例B1で得られた炭素繊維織物を用いた以外は、実施例B2と同じマトリックス樹脂を用い、実施例B2と同様に、炭素繊維複合体を作製し、これを用いて得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。
【0156】
結果を表B1に示す。表B1から明らかなように、比較例B2の炭素繊維複合体は、実施例B2の炭素繊維強化複合体と比べて、曲げ弾性率および曲げ強度の点で劣ることが示された。
【0157】
[実施例B3]
<炭素繊維強化複合体の作製>
マトリックス樹脂としてポリカーボネート(PC)樹脂(住友アクリル販売社製、フィルム厚み75μm、品番「C000」)を用いた。
【0158】
ポリカーボネート樹脂を、実施例B1で得られた炭素繊維開繊織物を構成する強化繊維束上に積層した後に、250℃に加熱しながら1MPaの圧力で3分間に亘って圧縮することにより、ポリカーボネート樹脂を強化繊維束中に含浸させて、厚みが250μmの炭素繊維強化複合体を得た。なお、炭素繊維強化複合体中において、強化繊維の含有量は、50質量%であった。
【0159】
<曲げ弾性率および曲げ強度>
上記した炭素繊維強化複合体を、複数枚数重ねて、熱融着一体化させて積層体を作製した。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度をJIS K7074に準拠して測定した。
【0160】
結果を表B1に示す。表B1から明らかなように、実施例B3の炭素繊維強化複合体は、後述する比較例B3の炭素繊維複合体と比べて、優れた曲げ弾性率および曲げ強度を有することが実証された。
【0161】
[比較例B3]
比較例B1で得られた炭素繊維織物を用いた以外は、実施例B3と同じマトリックス樹脂を用い、実施例B3と同様に、炭素繊維複合体を作製し、これを用いて得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。
【0162】
結果を表B1に示す。表B1から明らかなように、比較例B3の炭素繊維複合体は、実施例B3の炭素繊維強化複合体と比べて、曲げ弾性率および曲げ強度の点で劣ることが示された。
【0163】
[実施例B4]
<炭素繊維強化複合体の作製>
マトリックス樹脂としてポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂フィルム(住友アクリル販売社製、フィルム厚み75μm 品番「S001G」)を用いた。
【0164】
ポリメタクリル酸メチル樹脂フィルムを、実施例B1で得られた炭素繊維開繊織物を構成する強化繊維束上に積層した後に、250℃に加熱しながら1MPaの圧力で3分間に亘って圧縮することにより、ポリメタクリル酸メチル樹脂を強化繊維束中に含浸させて、厚みが250μmの炭素繊維強化複合体を得た。なお、炭素繊維強化複合体中において、強化繊維の含有量は、50質量%であった。
【0165】
<曲げ弾性率および曲げ強度>
上記した炭素繊維強化複合体を、複数枚数重ねて、熱融着一体化させて積層体を作製した。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度をJIS K7074に準拠して測定した。
【0166】
結果を表B1に示す。表1から明らかなように、実施例B4の炭素繊維強化複合体は、後述する比較例B4の炭素繊維複合体と比べて、優れた曲げ弾性率および曲げ強度を有することが実証された。
【0167】
[比較例B4]
比較例B1で得られた炭素繊維織物を用いた以外は、実施例B4と同じマトリックス樹脂を用い、実施例B4と同様に、炭素繊維複合体を作製し、これを用いて得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。
【0168】
結果を表B1に示す。表B1から明らかなように、比較例B4の炭素繊維複合体は、実施例B4の炭素繊維強化複合体と比べて、曲げ弾性率および曲げ強度の点で劣ることが示された。
【0169】
【表2】
【0170】
[実施例C1−1]
<炭素繊維織物の準備>
12K炭素繊維織物1:PAN系炭素繊維束(フィラメント数:12000本)を綾織平織してなる、目付量:400g/m
2、厚み:0.575mmの織物(台湾プラスチック社製 商品名「ECCN」)、および
12K炭素繊維織物2:PAN系炭素繊維束(フィラメント数:12000本)を平織してなる、目付量:192g/m
2、厚み:0.21mmの織物(東レ社製 商品名「トレカクロスCK6273C」)
を準備した。
【0171】
<熱可塑性樹脂の準備>
ポリプロピレン(PP)樹脂(プライムポリマー社製 商品名「J108M」)を100質量部と、マレイン酸変性ポリプロピレン(三洋化成工業株式会社製、商品名「ユーメックス1010」)を10質量部とを混合し、押出機にて溶融混練して製膜化したPP樹脂フィルム、および
ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム(住友化学株式会社製 商品名「テクノロイC000」)
を準備した。
【0172】
12K炭素繊維織物1に対し、マトリックス樹脂としてPP樹脂フィルムを上下に5層積層した。積層体のサイズは200×200mmであり、厚み2mmであった。
次に、該積層体を内寸が200×200mm角の穴の開いた口の字状スペーサー内に配置し、平板金型を用いて、常温から200℃まで加熱、200℃で10分保持、さらに2MPaの圧力で10分間に亘って加熱加圧を行った。その後、同じ圧力を保持したまま約30分かけて冷却し、金型を開放しプリプレグを得た。
該プリプレグにおいて、縦方向および横方法を含め、最もピッチ幅が広くなっている部分を定規で測定した。その結果を表C1に示す。
【0173】
[実施例C1−2]
マトリックス樹脂をPC樹脂フィルムに変更し、金型温度を270℃にしたこと以外は、実施例C1−1と同様の条件でプリプレグを製造した。ピッチ幅の測定結果を表C1に示す。
【0174】
[比較例C1−1]
12K炭素繊維織物2に変更したこと以外は、実施例C1−1と同様の条件でプリプレグを製造した。ピッチ幅の測定結果を表C1に示す。
【0175】
[比較例C1−2]
12K炭素繊維織物2に変更したこと以外は、実施例C1−2と同様の条件でプリプレグを製造した。ピッチ幅の測定結果を表C1に示す。
【0176】
【表3】
【0177】
プレス成形前の炭素繊維織物1のピッチ幅は約4mmで均一であり、織物2のピッチ幅は約7.5mmで均一あったが、目付量が200g/m
2の織物を用いた比較例C1−1および比較例C1−2では、目ずれが発生した。これに対して、目付量が400g/m
2の織物を用いた実施例C1−1および実施例C1−2では、目ずれは殆ど発生せず、ピッチ幅は共に4.1mmであった。以上の結果より、目付量を特定の数値以上とすることで、炭素繊維織物の意匠性を保持できることが明らかとなった。
【0178】
[実施例C2−1]
<開繊含浸液の作製>
1,5−ジヒドロキシナフタレン(和光純薬社製 商品名「048−02342」)10質量部、メチルアミン(和光純薬社製 商品名「132−01857」)4質量部、およびホルマリン(ホルムアルデヒドの含有量:37質量%、和光純薬社製 商品名「064−00406」)8質量部を含むモノマーと、溶媒としてエタノール水(エタノールの含有量:50質量%、和光純薬社製 商品名「057−00456」)600質量部とを均一に混合して、モノマーを溶解してなる開繊含浸液を作製した。
【0179】
開繊含浸液を攪拌しながら、溶液温度が60℃となるように加熱して30分間に亘って保持し、モノマーの一部を重合させて、ナフトキサジン樹脂粒子を析出させて、ナフトキサジン樹脂粒子を含む開繊含浸液を作製した。
【0180】
開繊含浸液を一部取って光学顕微鏡(KEYENCE社製 商品名「VHX−6000」)を用いて観察したところ、ナフトキサジン樹脂粒子を観察することができた。任意の20点のナフトキサジン粒子の平均粒子径は2μmであった。また、モノマー溶液中に含まれていたモノマーの転化率は50%であり、開繊含浸液中にはモノマーが残存していた。
【0181】
<開繊炭素繊維束の作製>
12K炭素繊維織物1に開繊含浸液を含浸させて含浸繊維束を作製した。12K炭素繊維織物1は、開繊含浸液を含浸することによって膨潤していた。
【0182】
12K炭素繊維織物1を200℃に保持された熱板上に3分間に亘って載置して開繊含浸液中の溶媒を蒸発させて除去した。さらに、開繊含浸液中のモノマーを重合させて、開繊含浸液中に予め含有させていたナフトキサジン樹脂粒子を核としてナフトキサジン樹脂粒子を成長させると共に、開繊含浸液中に予め含有させていたナフトキサジン樹脂粒子を核とすることなくナフトキサジン樹脂粒子を新たに析出させた。
【0183】
開繊含浸液中に予め含有されていたナフトキサジン樹脂粒子を核として成長したナフトキサジン樹脂粒子が単独で、または互いに接続して熱硬化性樹脂列を形成しながら、炭素繊維と接続一体化し、炭素繊維間にナフトキサジン樹脂粒子が炭素繊維間を架け渡した状態に配設された。炭素繊維とナフトキサジン樹脂粒子との間には、このナフトキサジン樹脂粒子よりも小径のナフトキサジン樹脂粒子が複数個介在していた。
【0184】
そして、炭素繊維間に配設されたナフトキサジン樹脂粒子は直ちに炭化されて、炭素同位体粒子を含む開繊炭素繊維束が作製された。炭素繊維束の炭素繊維間には、炭素同素体粒子を含む架橋部が配設されていた。架橋部の両端は、炭素繊維に接続一体化していた。炭素同素体粒子は、炭素同素体から形成されていた。炭素同素体粒子の平均粒子径は3μmであった。
【0185】
<繊維強化複合材の製造および評価>
次に、上記したPP樹脂フィルムと12K炭素繊維織物1とを5層重ね合わせて、常温から200℃まで加熱、200℃で10分保持、さらに2MPaの圧力で10分間に亘って加熱加圧を行った。その後、同じ圧力を保持したまま約30分かけて冷却し、繊維強化複合材を得た。
【0186】
得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度をJIS K7074に準拠して測定した。測定結果は、下記表C2に示される通りであった。
【0187】
[実施例C2−2]
実施例C2−1で作製した開繊含浸液において、1,5−ジヒドロキシナフタレン12部、メチルアミン11部、ホルマリン6部に変更した以外は実施例C2−1と同様の方法で開繊含浸液を作製した。
【0188】
上記で得られた開繊含浸液の一部を50%エタノール水溶液で希釈し、その少量を採取してプレパラート上に滴下し、溶媒を蒸発させた後、光学顕微鏡(KEYENCE社製 装置名「VHX−6000」)により、粒子の形状および分散性を確認した。結果として、個々の粒子(一次粒子)は真球状に近い形状であり、一部に、一次粒子が20個程度凝集している箇所も観察されるものの、全体として、良好な分散性を示した。また、粒子の粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製 商品名「SALD−2200」)で測定した結果、平均粒子径であるメディアン径(D50)は3.1μmであった。
【0189】
<開繊炭素繊維束の作製>
実施例C2−2で作製した開繊含浸液を用いたこと以外は、実施例C2−1と同様の方法で開繊炭素繊維束を作製した。炭素同素体粒子の平均粒子径は4μmであった。
【0190】
実施例C2−2で作製した開繊炭素繊維束を用いたこと以外は、実施例C2−1と同様の方法で繊維強化複合材を作製し積層体を得た。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度について、実施例2−1と同様にして測定した。測定結果は、下記表C2に示される通りであった。
【0191】
[実施例C2−3]
<開繊含浸液の作製>
1,5−ジヒドロキシナフタレン10質量部、40質量%メチルアミン水溶液4質量部、およびホルマリン(ホルムアルデヒドの含有量:37質量%)8質量部からなるモノマーと、溶媒としてエタノール水(エタノールの含有量:50質量%)600質量部とを均一に混合して、モノマーを溶解してなる開繊含浸液を作製した。
【0192】
次に該開繊含浸液にシリカ粒子(日揮触媒化成株式会社製、商品名「ESPHERIQUE N150」、平均粒子径10μm、比表面積5m
2/g)を20質量部添加した。
【0193】
<開繊炭素繊維束の作製>
続いて、12K炭素繊維織物1を用意し、上記の開繊含浸液に浸漬した後に引き上げ、その後、200℃で2分間加熱した。この加熱によって、ナフトキサジン樹脂の重合反応と、炭化が生じ、ナフトキサジン樹脂由来の炭素同素体が生成し、開繊炭素繊維束が得られた。開繊炭素繊維束におけるシリカ粒子および炭素同素体の合計付着量は、1質量%であった。また、被膜粒子の平均粒子径は6μmであった。
【0194】
<繊維強化複合材の製造および評価>
実施例C2−3で作製した開繊炭素繊維束を用いたこと以外は、実施例C2−1と同様の方法で繊維強化複合材を作製し積層体を得た。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度について、実施例C2−1と同様にして測定した。測定結果は、下記表C2に示される通りであった。
【0195】
[比較例C2−1]
<繊維強化複合材の製造および評価>
開繊処理を行っていない12K炭素繊維織物1を用いたこと以外は、実施例C2−3と同様の方法でプリプレグを作製した。
【0196】
比較例C2−1で製造した炭素繊維束を用いたこと以外は、実施例C2−1と同様の方法で繊維強化複合材を作製し積層体を得た。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度について、実施例C2−1と同様にして測定した。測定結果は、下記表C2に示される通りであった。なお、表中、R
CFとは、繊維強化複合材に占める炭素繊維含有率(体積%)を表す。
【0197】
【表4】
【0198】
上記評価結果から、未開繊の炭素繊維束からなる織物を用いた積層体(比較例C2−1)に対して、開繊炭素繊維束からなる織物を用いた積層体(実施例C2−1〜C2−3)は、意匠性を維持しながら、機械強度が向上していることが明らかになった。また、実施例C2−1の積層体よりも、大きなスペーサー粒子によって開繊された開繊炭素繊維束を用いた積層体(実施例C2−2、C2−3)の方が、理論曲げ弾性率に対する曲げ弾性率の比が向上し、機械強度が著しく向上していることが明らかとなった。これは、大きなスペーサー粒子によって炭素繊維束が十分に開繊され、マトリックス樹脂の含浸性が向上したことによるものであると考えられる。
【0199】
[実施例C3−1]
PP樹脂フィルムをPC樹脂フィルムに変更し、金型温度を270℃とした以外は実施例C2−1と同様の方法で繊維強化複合材を作製した。
【0200】
得られた繊維強化複合材を、複数枚数重ねて、熱融着一体化させて積層体を製造した。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度をJIS K7074に準拠して測定した。測定結果は、下記表C3に示される通りであった。
【0201】
[実施例C3−2]
PP樹脂フィルムをPC樹脂フィルムに変更し、金型温度を270℃とした以外は実施例C2−2と同様の方法で繊維強化複合材を作製し積層体を得た。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度について、実施例C3−1と同様にして測定した。測定結果は、下記表C3に示される通りであった。
【0202】
[実施例C3−3]
PP樹脂フィルムをPC樹脂フィルムに変更し、金型温度を270℃とした以外は実施例C2−3と同様の方法で繊維強化複合材を作製し積層体を得た。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度について、実施例C3−1と同様にして測定した。測定結果は、下記表C3に示される通りであった。
【0203】
[比較例C3−1]
PP樹脂フィルムをPC樹脂フィルムに変更し、金型温度を270℃とした以外は比較例C2−1と同様の方法で繊維強化複合材を作製し積層体を得た。得られた積層体の曲げ弾性率および曲げ強度について、実施例C3−1と同様にして測定した。測定結果は、下記表C3に示される通りであった。なお、表中、R
CFとは、繊維強化複合材に占める炭素繊維含有率(体積%)を表す。
【0204】
【表5】
【0205】
上記評価結果から、マトリックス樹脂をPC樹脂に変更しても、表C2で示した結果と同様に、開繊炭素繊維束を用いた積層体の方が、理論曲げ弾性率に対する曲げ弾性率の比が向上し、意匠性を維持しながら機械強度が著しく向上していることが明らかとなった。
【0206】
[実施例D1]
<開繊炭素繊維束の作製>
1,5−ジヒドロキシナフタレン10質量部、40質量%メチルアミン水溶液4質量部、およびホルマリン(ホルムアルデヒドの含有量:37質量%)8質量部からなるモノマーと、溶媒としてエタノール水(エタノールの含有量:50質量%)800質量部とを均一に混合して、モノマーを溶解してなるモノマー溶液を作製した。
【0207】
次に上記モノマー溶液にジビニルベンゼン架橋重合体からなる粒子(積水化学工業株式会社社製、商品名「ミクロパールSP」、平均粒径3μm)を10質量部添加し、開繊含浸液を作製した。
【0208】
続いて、PAN系炭素繊維束から構成される炭素繊維織物(炭素繊維数:3000本、炭素繊維の平均径:7μm、目付:200g/m2、厚み:0.19mm、平織)を用意し、上記の開繊含浸液に浸漬した後に引き上げ、その後、200℃で2分間加熱した。この加熱によって、ナフトキサジン樹脂の重合反応と、炭化が生じ、ナフトキサジン樹脂由来のアモルファスカーボンが生成し、開繊炭素繊維束の織物が得られた。開繊炭素繊維束における有機粒子および炭素同素体の合計付着量は、1質量%であった。
【0209】
<炭素繊維強化複合体の作製および評価>
マトリックス樹脂としてポリカーボネート(PC)樹脂(エスカーボシート株式会社製 商品名「TECHNOLLOY C000」)を用いた。ポリカーボネート樹脂をフィルム状に押出し、溶融状態のポリカーボネート樹脂フィルムを、上記で得られた開繊炭素繊維束からなる織物上に積層し、その後、270℃に加熱しながら3MPaの圧力で15分間に亘って圧縮することにより、ポリカーボネート樹脂を開繊炭素繊維束中に含浸させて、厚みが400μmの炭素繊維強化複合体を得た。なお、炭素繊維強化複合体中において、炭素繊維の含有量は、50体積%であった。
【0210】
得られた炭素繊維強化複合体を、複数枚数重ねて、熱融着一体化させて積層体を作製した。得られた積層体の曲げ強度を、レバー式小型手動計測(株式会社イマダ製 スタンド型番:SVL−1000N)および、デジタルフォースゲージ (株式会社イマダ製 型番:DSV−1000N)を組み合わせた簡易型曲げ試験装置で計測した(圧子:直径4mm、試験方法:3点曲げ試験)。計測した試験体は、厚さ0.4mm〜0.5mm、幅15mm、長さ40mmであり、支点間距離を16mmとして5試験体を測定し、得られた最大試験力から曲げ応力を算出した。測定結果は、下記表D1に示される通りであった。
【0211】
[実施例D2]
<開繊炭素繊維束の作製>
平均粒径が10μmのジビニルベンゼン架橋重合体からなる粒子(積水化学工業株式会社社製、商品名「ミクロパールSP」)を用いたこと以外は、実施例D1と同様にして開繊炭素繊維束からなる織物を製造した。開繊炭素繊維束における有機粒子および炭素同素体の合計付着量は、1質量%であった。また、光学顕微鏡画像における任意の10点の被膜有機粒子の直径を測定した結果、その平均は11μmであった。
【0212】
<炭素繊維強化複合体の作製および評価>
実施例D2の開繊炭素繊維束からなる織物を用いたこと以外は、実施例D1と同様にして炭素繊維強化複合体を作製した。実施例D1と同様にして、実施例D2の炭素繊維強化複合体から積層体を作製し、曲げ強度を作製した。測定結果は、下記表D1に示される通りであった。
【0213】
[比較例D1]
<炭素繊維強化複合体の作製および評価>
開繊されていない炭素繊維束を用いたこと以外は、実施例D1と同様にして炭素繊維強化複合体を作製した。実施例D1と同様にして、比較例D1の炭素繊維強化複合体から積層体を作製し、曲げ強度を作製した。測定結果は、下記表D1に示される通りであった。
【0214】
【表6】
【0215】
以上、本発明の好ましい実施形態に従い限定的ではなく例示的に本発明を説明したが、当業者であれば、添付された特許請求の範囲によって規定される発明の範囲から逸脱することなく、その変形および/または修正を行うことが
可能であると理解されるべきである。