【実施例1】
【0023】
図1は、実施例1に係るフィルタを示す回路図である。
図1に示すように、フィルタ100は、ラダー型フィルタ40および横結合型共振器50を備えている。ラダー型フィルタ40は、1または複数の直列共振器S1からS4と1または複数の並列共振器P1からP3とを備えている。直列共振器S1からS4は、入力端子T2と出力端子T1との間に直列に接続され、並列共振器P1からP3は、入力端子T2と出力端子T1との間に並列に接続されている。直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP3は、圧電薄膜共振器である。
図1は6段ラダー型フィルタの例であるが、直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP3の個数および接続は所望の特性に応じ適宜設定可能である。
【0024】
横結合型共振器50は、ラダー型フィルタ40と並列に入力端子T2と出力端子T1との間に接続されている。横結合型共振器50と直列にキャパシタC1およびC2が出力端子T1と入力端子T2との間に接続されている。キャパシタC1は、横結合型共振器50と出力端子T1との間に、キャパシタC2は、横結合型共振器50と入力端子T2との間に接続されている。横結合型共振器50において、圧電膜14bを挟むように下部電極12bおよび上部電極16bが形成されている。
【0025】
図2は、実施例1に係るフィルタが形成されたチップの平面図である。
図3(a)および
図3(b)は、実施例1に係るフィルタが形成されたチップの断面図である。
図3(a)は、
図2のA−A断面図、
図3(b)は、
図2のB−B断面図である。
図2から
図3(b)に示すように、ラダー型フィルタ40において、基板10上に圧電膜14aが形成されている。圧電膜14aを挟むように、下部電極12aおよび上部電極16aが形成されている。圧電膜14aを挟み下部電極12aと上部電極16aとが対向する領域が共振領域20である。共振領域20は楕円形状である。基板10の上面は平坦であり、下部電極12aは基板10との間に空隙18aが形成されるように設けられている。圧電膜14aが
図3(a)中の縦方向の矢印のような厚み縦振動に主に寄与する。直列共振器S1からS4は、出力端子T1と入力端子T2との間に直列に接続され、並列共振器P1からP3は、出力端子T1と入力端子T2との間に並列に接続されている。並列共振器P1からP3の一端は共通にグランド端子Gndに接続されている。
【0026】
横結合型共振器50において、基板10上に圧電膜14bが形成されている。圧電膜14bを挟むように、下部電極12bおよび上部電極16bが形成されている。上方からみて、下部電極12bは、2つの上部電極16bを含むように形成されている。上部電極16bは横方向に対向して設けられ、一方の上部電極16bが出力端子T1に、他方が入力端子T2に接続されている。下部電極12bはグランド端子Gndに接続されている。キャパシタC1およびC2は、それぞれ横方向に対向した櫛型電極を有する。一対の櫛形電極の電極指は互い違いに設けられている。櫛型電極は、上部電極16bから形成される。
【0027】
基板10としては、例えばシリコン基板等の半導体基板、またはガラス基板等の絶縁基板を用いることができる。圧電膜14、14aおよび14bとしては、例えば窒化アルミニウム膜または酸化亜鉛等を用いることができる。下部電極12aおよび12b、並びに上部電極16aおよび16bとしては、ルテニウム、クロムまたはチタン等の金属膜を用いることができる。入力端子T2、出力端子T1およびグランド端子Gndは、例えば半田または金等のバンプである。
【0028】
図4(a)は、横結合型共振器の等価回路であり、
図4(b)は、横結合共振器の周波数に対する減衰量および位相を示す図である。
図4(a)に示すように、横結合型共振器50の等価回路は、抵抗R01、R02、インダクタL01からL04およびキャパシタC01からC04を有している。端子T01とT02との間に抵抗R01、インダクタL01およびキャパシタC01が直列に接続されている。端子T01とグランドとの間に、抵抗R02、インダクタL02、キャパシタC02およびインダクタL03が直接に接続されている。端子T02とグランドとの間にインダクタL04が接続されている。端子T01およびT02とグランドとの間に、それぞれキャパシタC03およびC04が接続されている。抵抗R01、インダクタL01およびキャパシタC01は、共振周波数fr1を有する直列共振回路であり、抵抗R02、インダクタL02およびキャパシタC02は、共振周波数fr2を有する直列共振回路である。共振周波数fr1とfr2とは異なり、やや離れている。2つの直列共振回路はインダクタL03およびL04により誘電結合されている。
【0029】
図4(b)において、実線は減衰量、破線は位相を示す。共振周波数fr1およびfr2は、それぞれ1.84GHzおよび1.92GHzである。減衰量は共振周波数fr1およびfr2で極小となる。共振周波数fr1とfr2との間で、位相がほぼ90°の誘導性となる。また、1.67GHz以下においても位相がほぼ90°の誘導性である。
【0030】
実施例1のフィルタを受信フィルタとした分波器についてシミュレーションを行った。
図5(a)は、シミュレーションに用いた実施例1のフィルタの回路図である。
図5(a)に示すように、横結合型共振器50の端子T01はキャパシタC1を介し端子T1に接続され、端子T02はキャパシタC2を介し端子T2に接続されている。ラダー型フィルタ40の直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP3は圧電薄膜共振器である。並列共振器P1とグランドとの間にインダクタL1が接続され、並列共振器P2およびP3とグランドとの間にインダクタL2が接続されている。インダクタL1およびL2は、通過帯域の高周波数側および低周波数側の減衰量を向上させる。端子T2から横結合型共振器50を通過し端子T1に至る経路を経路52、端子T2からラダー型フィルタ40を通過し端子T1に至る経路を経路54とする。
【0031】
図2から
図3(b)における圧電膜14aおよび14bは窒化アルミニウム膜、下部電極12a、12b、上部電極16aおよび16bは、ルテニウム膜とクロム膜の積層膜とした。
【0032】
図5(b)は、分波器の回路図である。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ30が接続されている、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ32が接続されている。受信フィルタ30を実施例1に係るフィルタ100とした。
【0033】
図6(a)は、通過特性を示す図、
図6(b)はアイソレーション特性を示す図である。
図6(a)は、送信端子Txから共通端子Antの通過特性、共通端子Antから受信端子Rxの通過特性を示している。
図6(b)は、送信端子Txから受信端子Rxのアイソレーション特性を示している。送信帯域56および受信帯域58である。実線は、実施例1のフィルタを受信フィルタ30に用いた特性を示し、破線は、横結合型共振器50を有さない比較例1のフィルタを受信フィルタ30に用いた特性を示す。
【0034】
図6(a)に示すように、実施例1では、比較例1に比べ送信帯域56における受信フィルタ30の減衰量が向上している。
図6(b)に示すように、送信帯域56における最悪のアイソレーションは、比較例では−55dBに対し、実施例1では−62dBと7dB改善している。
【0035】
図7(a)および
図7(b)は、実施例1の経路52および54を通過する電流の周波数に対する振幅および位相を示す図である。振幅|Y|および位相∠YはアドミッタンスY特性で示している。
図7(a)に示すように、送信帯域56において、経路52および54の振幅はほぼ同じである。キャパシタC1およびC2の容量値を適切に選択することにより、経路52の振幅が経路54とほぼ同じになるように設定できる。キャパシタC1およびC2の容量値は、例えば0.3pFとすることができる。
図7(b)に示すように、送信帯域56において経路52および54の位相はほぼ逆相である。このように、横結合型共振器50の共振周波数fr1およびfr2を送信帯域56の両側に位置するようにする。これにより、送信帯域56における横結合型共振器50の位相が誘導性となる。一方、送信帯域56はラダー型フィルタ40の通過帯域外となり、位相が容量性となる。このように、経路52と54との位相がほぼ逆相となる。
【0036】
実施例1によれば、
図1のように、入力端子T2と出力端子T1との間に、直列共振器S1からS4に並列に横結合型共振器50が接続されている。
図7(b)のように、ラダー型フィルタ40の通過帯域外の横結合型共振器50の位相が誘導性となる任意の周波数帯域において、経路52と54との位相をほぼ逆相とできる。よって、挿入損失を劣化させず、高い減衰量を実現できる。横結合型共振器50は、1または複数の直列共振器S1からS4のうち少なくとも1つの直列共振器と並列に接続されていればよい。
【0037】
図2から
図3(b)のように、横結合型共振器50は、圧電膜14b(第1圧電膜)と、圧電膜14bを挟む下部電極12b(第1下部電極)および複数の上部電極16b(第1上部電極)と、を備える。これにより、
図4(a)の等価回路を有する横結合型共振器を実現できる。
【0038】
また、直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP3は、圧電膜14a(第2圧電膜)、圧電膜14aを挟む下部電極12a(第2下部電極)および上部電極16a(第2上部電極)と、を備える圧電薄膜共振器である。圧電膜14aと圧電膜14bとは同じ圧電膜14を用いる。すなわち、圧電膜14aと14bは同じ材料からなり、その膜厚は略等しい。これにより、直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP3の厚み縦振動に主に寄与する圧電膜14aと、横結合型共振器50の振動に主に寄与する圧電膜14b、とを同一の製造工程で製造できる。よって、製造する工数を削減できる。
【0039】
さらに、下部電極12aと12bとを同じ材料および略同じ膜厚とする。上部電極16aと16bとを同じ材料および略同じ膜厚とする。これにより、フィルタ100を製造する工数を削減できる。
【0040】
さらに、キャパシタC1およびC2が直列共振器S1からS4に並列、かつ横結合型共振器50に直列に接続されている。これにより、キャパシタC1およびC2の容量値を適切に設定することにより、経路52と54を通過する信号の振幅をほぼ同じとすることができる。また、キャパシタC1およびC2の容量値は、経路52のインピーダンスが横結合型共振器50のインピーダンスからあまり変わらない程度に小さく設定することが好ましい。キャパシタC1およびC2はいずれか一方だけ設けてもよい。
【0041】
このように、信号を抑圧させたい抑圧帯域において、経路52を通過する信号と経路54を通過する信号との振幅を略一致させ、位相を略逆相とする。これにより、任意の抑圧帯域において、減衰量を向上できる。経路52を通過する信号と経路54を通過する信号との振幅は、例えば±50%の範囲で一致していることがより好ましく、±20%の範囲で一致していることがより好ましい。また、位相は、±89°の範囲で逆相であればよく、±20%の範囲で逆相であることがより好ましい。
【0042】
キャパシタC1およびC2は、横結合型共振器50の出力端子T1側と入力端子T2側に設けられている。これにより、ラダー型フィルタ40と横結合型共振器50を接続する際のインピーダンス整合が得られやすくなる。
【0043】
図5(b)のように、分波器の受信フィルタ30と送信フィルタ32の少なくとも一方を実施例1に係るフィルタとすることができる。このとき、横結合型共振器50の共振周波数を、送信フィルタ32および受信フィルタ30のうち相手方フィルタの通過帯域における位相が誘導性となるような周波数とする。これにより、相手フィルタの通過帯域において、経路52と54の位相を逆相とできる。よって、高アイソレーション特性が得られる。
【0044】
図8(a)は、実施例1の変形例1に係るフィルタの平面図、
図8(b)はA−A断面図である。
図8(a)および
図8(b)に示すように、横結合型共振器50の上部電極16bは櫛型電極である。一対の櫛形電極の電極指が交互に設けられている。その他の構成は実施例1と同じであり、説明を省略する。
【0045】
実施例1の変形例1によれば、複数の上部電極16bは、互いに対向する櫛型電極である。これにより、上部電極16bの効率的な配置が可能となり、チップ面積を削減できる。
【0046】
図9および
図10は、実施例1の変形例2に係るフィルタの平面図である。
図9および
図10に示すように、キャパシタC1およびC2は、圧電膜14を下部電極12bおよび上部電極16bが挟むMIM(Metal Insulator Metal)キャパシタである。その他の構成は実施例1およびその変形例1と同じであり説明を省略する。
【0047】
実施例1の変形例2のように、キャパシタとしてMIMキャパシタを用いることもできる。
【0048】
図11は、実施例1の変形例3に係るフィルタの断面図である。
図11に示すように、横結合型共振器50の下部電極12bと基板10との間に空隙が形成されていない。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0049】
図12(a)から
図12(f)は、横結合型共振器の例を示す図である。
図12(a)から
図12(c)は、上部電極16bが2つであり、2極型共振器の例である。
図12(d)から
図12(f)は、上部電極16bが3つあり、3極型共振器である。
図12(a)は、実施例1に用いた横結合型共振器である。
図12(b)に示すように、下部電極12bを端子T02に接続し、上部電極16bの一方を端子T01に他方をグランドに接続してもよい。
図12(c)に示すように、下部電極12bを端子T02に、上部電極16bを共通に端子T01に接続してもよい。
図12(d)のように、下部電極12bをグランドに接続し、両側の上部電極16bを端子T01およびT02に、中央の上部電極16bをグランドに接続してもよい。
図12(e)のように、下部電極12bを端子T02に、両側の上部電極16bを共通に端子T01に、中央の上部電極16bをグランドに接続してもよい。
図12(f)のように、下部電極12bと中央の上部電極16bを共通に端子T02に、一方の上部電極16bを端子T01に、他方の上部電極16bをグランドに接続してもよい。
【0050】
2極型共振器は構造が単純であり、チップ面積を小さくできる。3極型共振器は通信帯域に3つの極が形成でき、多様な電気的特性を実現できる。横結合型共振器50として、4極以上の共振器を用いてもよい。これらの共振器を直列および/または並列に接続してもよい。実施例1およびその変形例に
図12(a)から
図12(f)の横結合型共振器を用いることができる。
【0051】
図13(a)および
図13(b)は、圧電薄膜共振器の例を示す図である。
図13(a)に示すように、基板10の上面に窪みが形成されており、下部電極12aは平坦に形成されている。これにより、空隙18aが基板10の窪みに形成される。空隙18aは、共振領域20を含むように形成されている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。空隙18aは基板10を貫通するように形成されていてもよい。下部電極12aの下面に絶縁膜が形成されていてもよい。その他の構成は、
図3(a)の圧電薄膜共振器と同じであり説明を省略する。
【0052】
図13(b)に示すように、共振領域20内の基板10内に音響反射膜21が形成されている。音響反射膜21は、音響インピーダンスの低い膜と音響インピーダンスの高い膜とが交互に設けられている。各膜の膜厚は例えばほぼλ/4(λは弾性波の波長)である。これにより、音響反射膜21は、分布ブラック反射器として機能する。その他の構成は、
図3(a)の圧電薄膜共振器と同じであり説明を省略する。
【0053】
図3(a)および
図13(a)のように、圧電薄膜共振器は、共振領域20において空隙18aが基板10と下部電極12aとの間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。また、
図13(b)のように、圧電薄膜共振器は、共振領域20において下部電極12a下に圧電膜14aを伝搬する弾性波を反射する音響反射膜21を備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。共振領域20が楕円形状の例を説明したが、他の形状でもよい。例えば、共振領域20は、四角形または五角形等の多角形でもよい。
【実施例2】
【0054】
実施例2は、実施例1に係るフィルタを用いた分波器の例である。
図14は、実施例2に係る分波器の回路図である。
図14に示すように、分波器110は、受信フィルタ30、送信フィルタ32および横結合型共振器50を備えている。受信フィルタ30および送信フィルタ32は、ラダー型フィルタである。受信フィルタ30は、直列共振器S11からS14および並列共振器P11からP13を備えている。送信フィルタ32は、直列共振器S21からS24および並列共振器P21からP23を備えている。横結合型共振器50は、受信端子Rxと送信端子Txとの間に接続されている。
【0055】
図15は、実施例2に係る分波器の平面図である。
図15に示すように、受信フィルタ30は、基板10に形成されている。直列共振器S11からS14および並列共振器P11からP13は基板10上に形成された圧電薄膜共振器である。横結合型共振器50およびキャパシタC1は、基板10に形成されている。送信フィルタ32は、基板36に形成されている。基板36は、圧電基板であり、例えばリチウム酸タンタル基板またはリチウム酸ニオブ基板である。直列共振器S21からS24および並列共振器P21からP23は基板36上に形成された弾性表面波共振器である。共振端子Ant、送信端子Tx、受信端子Rx、接続端子T3、T4およびグランド端子Gndは例えば基板10または36上に形成されたバンプである。基板10および36はパッケージ38上に搭載される。
【0056】
実施例2によれば、横結合型共振器50が送信端子Txと受信端子Rxとの間に送信フィルタ32および受信フィルタ30と並列に接続されている。送信端子Txから受信端子Rxに送信フィルタ32および受信フィルタ30を通過する経路62と、送信端子Txから受信端子RxにキャパシタC2、横結合型共振器50およびキャパシタC1を通過する経路64と、で所望の周波数帯域における信号の振幅をほぼ同じとし、位相をほぼ逆相とする。これにより、送信端子Txから受信端子Rxへのアイソレーション特性を向上できる。
【0057】
また、送信フィルタ32および受信フィルタ30の少なくとも一方は、圧電薄膜共振器を含み、横結合型共振器50の圧電膜14bと圧電薄膜共振器の圧電膜14aは、同じ材料であり、同じ膜厚であることが好ましい。これにより、圧電膜14を形成する製造工程を簡略化できる。
【0058】
図16は、実施例2の変形例1に係る分波器の回路図である。受信フィルタ30に並列に横結合型共振器50が接続されている。その他の構成は、実施例2と同じであり説明を省略する。
【0059】
実施例2の変形例1のように、送信フィルタ32および受信フィルタ30の少なくとも一方を実施例1およびその変形例のフィルタとすることができる。
【0060】
実施例2およびその変形例において、送信フィルタ32および受信フィルタ30の一方は多重モード型フィルタでもよい。
【0061】
ラダー型フィルタ40の共振器として圧電薄膜共振器を用いる例を説明したが、共振器は、弾性表面波共振器、弾性境界波共振器またはラブ波共振器でもよい。
【0062】
以上、本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。