特許第6603014号(P6603014)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6603014非水電解液及びこれを備えたリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6603014
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】非水電解液及びこれを備えたリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20191028BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20191028BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20191028BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M10/052
   H01M10/0568
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-139194(P2014-139194)
(22)【出願日】2014年7月4日
(65)【公開番号】特開2016-18619(P2016-18619A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年4月6日
【審判番号】不服2018-12251(P2018-12251/J1)
【審判請求日】2018年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 弘行
(72)【発明者】
【氏名】西田 俊文
(72)【発明者】
【氏名】石田 知史
(72)【発明者】
【氏名】勝山 裕大
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 健夫
【合議体】
【審判長】 平塚 政宏
【審判官】 池渕 立
【審判官】 中澤 登
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/024990(WO,A1)
【文献】 特開2011−150958(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/203912(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/0567
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物と、芳香族化合物とを含み、
前記芳香族化合物は、最高占有分子軌道のエネルギー準位が−7eV以下フッ素含有芳香族化合物であることを特徴とする非水電解液。
(XSO2)(FSO2)NLi (1)
(一般式(1)中、Xはフッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記フッ素含有芳香族化合物は、4.6V以上で分解し、重合を開始するものである請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
前記フッ素含有芳香族化合物が、フッ素含有ベンゼン、フッ素含有ビフェニル、フッ素含有アルキル基置換ベンゼンよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の非水電解液。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の非水電解液を備えたリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
定格充電電圧が4.25V〜4.5Vである請求項4に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解液及びこれを備えたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、スマートフォンやパーソナルコンピューター用の電源、さらには自動車用電源として用いられている。これらの用途に使用される電池では、安全性の確保、高出力化、高エネルギー密度化、サイクル特性やレート特性の改善といった各種特性の向上を目的とした研究が重ねられている。
【0003】
電池の安全性を高める技術としては、電解液に添加した化合物の電解重合により電極に被膜(抵抗膜)を形成させて過充電時の発熱による電池温度の上昇や電池の膨れを抑制する技術がある(過充電抑制剤)。斯かる過充電抑制剤としてはシクロヘキシルベンゼンやビフェニル等の芳香族化合物の他、ハロゲン化ビフェニル、ハロゲン化トルエンといった、芳香環にハロゲン原子やハロアルキル基又はハロアルコキシ基等が置換したハロゲン原子置換芳香族化合物が知られている(特許文献1〜3)。
【0004】
また、特許文献4では、一般に用いられるカーボネート系列有機溶媒よりもHOMO値が高く、且つ酸化反応電位の異なる2種以上の有機化合物を組み合わせて使用することが提案されており(例えば4−クロロトルエンとビスフェノールAとの組み合わせ)、特許文献5では、AM1計算法により求められるLUMOエネルギーが−0.5eV〜1.9eVであり、HOMOエネルギーが−11.0eVより低い化合物であるフッ素原子を含有するカーボネートやフッ素原子を含有するエーテルを使用することが提案されている。これらの技術は、化合物の耐酸化性と最高占有分子軌道(HOMO)エネルギーとが関連し、また耐還元性と最低非占有分子軌道(LUMO)エネルギーとが関連するとの知見に基づいた技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−257479号公報
【特許文献2】特開2008−103330号公報
【特許文献3】特開2013−26042号公報
【特許文献4】特開2005−142157号公報
【特許文献5】特開2010−34050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電池の保存安定性やサイクル特性を向上させる技術としてはまた、特定の電解質塩を使用することも提案されている。しかしながら、本発明者らは、特定の電解質塩と過充電抑制剤とを併用する場合には、電池を4.2Vを超える高電圧下で使用すると、放電性能が低下したり電池に膨れが生じたりして、電池性能及び電池の安全性を確保し難くなることがあり、斯かる電池性能の低下は、電解質塩としてスルホニルイミド基(−SO2NSO2−)を有する化合物を使用する場合に顕著になることを見出した。
【0007】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、4.2V超の高電圧下で使用する場合にも放電性能の低下や電池の膨れの発生を抑制することのできる非水電解液及びこれを用いたリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成し得た本発明の非水電解液とは、下記一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物と、最高占有分子軌道(HOMO)のエネルギー準位(以下、「HOMOエネルギー準位」と称する場合がある)が−7eV以下であるフッ素含有芳香族化合物とを含有するところに特徴を有している。
(XSO2)(FSO2)NLi (1)
(一般式(1)中、Xは、フッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表す。)
【0009】
上記フッ素含有芳香族化合物は、4.6V以上で分解し、重合を開始するものであるのが好ましく、当該フッ素含有芳香族化合物としては、フッ素含有ベンゼン、フッ素含有ビフェニル、フッ素含有アルキル基置換ベンゼンよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物が好ましく用いられる。
【0010】
本発明には、上記非水電解液を備えたリチウムイオン二次電池も含まれる。本発明のリチウムイオン二次電池は、定格充電電圧が4.25V〜4.5Vであることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の非水電解液は、4.2Vを超える高電圧下で使用してもリチウムイオン二次電池の放電性能の低下や電池膨れの発生抑制に効果を発揮する。したがって、本発明の非水電解液によれば放電特性の低下が抑制され、且つ過充電時の安全性が一層高められたリチウムイオン二次電池を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.非水電解液
本発明の非水電解液とは、一般式(1);(XSO2)(FSO2)NLi(一般式(1)中、Xはフッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表す。)で表されるスルホニルイミド化合物と(以下、スルホニルイミド化合物(1)と称する。)、最高占有分子軌道のエネルギー準位が−7eV以下であるフッ素含有芳香族化合物とを含むところに特徴を有している。
【0013】
本発明者等は、上記構成の本発明の非水電解液を使用すれば、4.2Vを超える高電圧条件でリチウムイオン二次電池を稼動させても放電性能の低下が抑制され、また電池の膨れも抑制できることを見出し、本発明を完成した。
非水電解液がスルホニルイミド化合物(1)と、HOMOエネルギー準位が−7.0eV以下であるフッ素含有芳香族化合物(以下、フッ素含有芳香族化合物(3)と称する場合がある)とを含有する場合に、リチウムイオン二次電池の放電性能の低下及び電池の膨れが抑制される理由について、本発明者等は次のように考えている。
【0014】
スルホニルイミド化合物(1)は正極にスルホニルイミド化合物由来の成分からなる導電性の良い被膜を形成する。これにより正極の抵抗が低くなり、かつ正極の自己放電が抑えられるため、充放電時や高温放置時の正極電位が高くなる。したがって非水電解液にスルホニルイミド化合物(1)が含まれている場合には正極電位が高い状態となり、電解液材料を酸化させ易いという特徴がある。
【0015】
このような特徴を有する、スルホニルイミド化合物(1)を含む非水電解液に、過充電抑制剤として使用されるシクロヘキシルベンゼン(CHB)やビフェニル(BP)といった芳香族系化合物を添加した場合には電池の放電性能の低下や電池膨れが生じてしまう。これは、CHBやBPは酸化電圧が比較的低い(4.4V〜4.5V)ためと推測される。すなわち、スルホニルイミド化合物(1)の影響により正極でのCHBやBPの分解が促進され、対向するセパレーターや負極に分解生成物が堆積し、また、芳香族系化合物の分解ガスが発生するためと考えられる。
【0016】
しかしながら、芳香族系化合物の中でもフッ素原子を有する化合物は比較的酸化電圧が高いものである。また、フッ素含有芳香族化合物の中でもHOMOエネルギー準位が−7.0eV以下である化合物は、酸化電圧が更に高く4.6Vでも分解しにくいものと考えられる。そのため非水電解液中にスルホニルイミド化合物(1)が存在していても正極でのフッ素含有芳香族化合物(3)の分解は進行し難く、負極やセパレーターへの分解生成物の堆積も生じ難くなるため、非水電解液にCHBやBPが含まれる場合のような電池性能の低下が抑制されるものと考えられる。
また、スルホニルイミド化合物(1)は、LiPF6の分解を抑制する事で電解液中でのフッ化水素の発生を抑制し、正極活物質中の遷移金属の溶出を抑制する効果を有することに加え、比較的高いイオン伝導度を示すという効果も有する。
【0017】
以上の効果が相互に作用することによって、スルホニルイミド化合物(1)とフッ素含有芳香族化合物(3)とを含む本発明の非水電解液は高電圧条件下で使用しても電池の性能低下を抑制でき、良好な電池特性を維持できるものと考えられる。また、上述の通りフッ素含有芳香族化合物(3)の分解が抑制されるため、電池が過充電状態となった場合にも電解液中にフッ素含有芳香族化合物(3)が十分存在しており、フッ素含有芳香族化合物(3)に由来する過充電防止性能が発揮され、電池膨れも抑制できるものと推測される。以下、本発明の非水電解液について説明する。
【0018】
1−1.スルホニルイミド化合物(1)
本発明に係るスルホニルイミド化合物(1)は、一般式(1);(XSO2)(FSO2)NLiで表される。一般式(1)中、Xはフッ素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数1〜6のフルオロアルキル基を表す。炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基であるのが好ましく、直鎖状のアルキル基がより好ましい。炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。炭素数1〜6のフルオロアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が有する水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたものが挙げられる。具体的には、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。これらの中でも、フッ素原子、トリフルオロメチル基及びペンタフルオロエチル基がXとして好ましい。
【0019】
具体的なスルホニルイミド化合物(1)としては、例えば、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(メチルスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(エチルスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド等が挙げられる。好ましくはリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドであり、より好ましくはリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミドである。
本発明の非水電解液には1種のスルホニルイミド化合物(1)が単独で含まれていてもよく、また、2種以上のスルホニルイミド化合物(1)が含まれていてもよい。また、スルホニルイミド化合物(1)は、市販品を使用してもよいし、従来公知の方法により合成した物を用いてもよい。
【0020】
非水電解液中のスルホニルイミド化合物(1)の濃度は0.01mol/L以上であるのが好ましく、より好ましくは0.1mol/L以上であり、さらに好ましくは0.2mol/L以上であり、1.5mol/L以下であるのが好ましく、より好ましくは1.0mol/L以下であり、さらに好ましくは0.8mol/L以下である。スルホニルイミド化合物(1)の非水電解液中の濃度が高すぎると非水電解液の粘度が上昇してイオン伝導度が低下する虞や、スルホニルイミド化合物(1)に起因して正極集電体に腐食が生じる虞がある。一方、濃度が低すぎるとLiPF6の分解が十分に抑制されず非水電解液中にフッ化水素が生じてしまい、正極材料の溶出抑制効果とイオン伝導度の向上効果が得られ難くなる場合がある。
【0021】
1−2.電解質塩
本発明の非水電解液は、スルホニルイミド化合物(1)とは異なる電解質塩を含んでいてもよい(以下、電解質塩(2)と称する場合がある)。従来公知の非水電解液に用いられる電解質塩はいずれも本発明の非水電解液に使用できる。電解質塩としては、電解液中での解離定数が大きく、また、後述する非水系溶媒と溶媒和し難いアニオンを有するものが好ましい。具体的な電解質塩としては、LiCF3SO3、NaCF3SO3、KCF3SO3等のトリフロロメタンスルホン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiC(CF3SO23、LiN(CF3CF2SO22等のパーフルオロアルカンスルホン酸イミド又はビスパーフルオロアルキルスルホニルイミドのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiPF6、NaPF6、KPF6等のヘキサフルオロリン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiClO4、NaClO4等の過塩素酸アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiBF4、NaBF4等のテトラフルオロ硼酸塩;リチウムテトラシアノボレート、リチウムトリシアノメトキシボレート、ナトリウムトリシアノメトキシボレート、マグネシウムビス(トリシアノメトキシボレート)、リチウムトリシアノイソプロポキシボレート、リチウムトリシアノブトキシボレート、リチウムトリシアノフェノキシボレート、リチウムトリシアノ(ペンタフルオロフェノキシ)ボレート、リチウムトリシアノ(トリメチルシロキシ)ボレート、リチウムトリシアノ(ヘキサフルオロイソプロポキシ)ボレート、リチウムトリシアノメチルチオボレート、リチウムジシアノジメトキシボレート、リチウムシアノトリメトキシボレート等のシアノホウ酸のアルカリ金属塩;LiAsF6、LiI、LiSbF6、LiAlO4、LiAlCl4、LiCl、NaI、NaAsF6、KI等のアルカリ金属塩;過塩素酸テトラエチルアンモニウム等の過塩素酸の第4級アンモニウム塩;(C254NBF4、(C253(CH3)NBF4等のテトラフルオロ硼酸の第4級アンモニウム塩;テトラエチルアンモニウムテトラシアノボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレート、トリエチルメチルアンモニウムテトラシアノボレート、テトラエチルアンモニウムテトラシアノボレート、テトラエチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノイソプロポキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノブトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノフェノキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノ(ペンタフルオロフェノキシ)ボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノ(トリメチルシロキシ)ボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノメチルチオボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノ(ヘキサフルオロイソプロポキシ)ボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリブチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムジシアノジメトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムシアノトリメトキシボレート等のシアノホウ酸のアンモニウム塩;(C254NPF6等の第4級アンモニウム塩;(CH34P・BF4、(C254P・BF4等の第4級ホスホニウム塩;等が挙げられる。これらの電解質塩は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
上記電解質塩の中でも、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩が好適である。アルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が好適であり、アルカリ土類金属塩としては、カルシウム塩、マグネシウム塩が好適である。より好ましいのはリチウム塩である。非水系溶媒中での溶解性、イオン伝導度の観点からは、LiPF6、LiBF4、LiAsF6が好ましい。
【0023】
本発明の非水電解液における電解質塩濃度は(スルホニルイミド化合物(1)と電解質塩(2)との合計)0.7mol/L以上であるのが好ましく、より好ましくは0.8mol/L以上であり、さらに好ましくは0.9mol/L以上であり、3.0mol/L以下であるのが好ましく、より好ましくは2.0mol/L以下であり、さらに好ましくは1.5mol/L以下である。電解質塩濃度が少なすぎると所望の伝導度が得られ難い場合があり、一方、電解質塩濃度が高すぎるとイオンの移動が阻害される虞がある。
【0024】
なお、電解質塩(2)をスルホニルイミド化合物(1)と併用する場合、スルホニルイミド化合物(1)と電解質塩(2)の使用量は、モル比で、スルホニルイミド化合物(1):電解質塩(2)=1:200〜11:1となるようにするのが好ましく、より好ましくは1:40〜5:1であり、さらに好ましくは1:20〜1:1である。
【0025】
1−3.フッ素含有芳香族化合物(3)
本発明の非水電解液は最高占有分子軌道(HOMO)のエネルギー準位が−7eV以下であるフッ素含有芳香族化合物を含む。本発明に係るフッ素含有芳香族化合物(3)は、過充電防止性能を有する化合物として機能する。本発明において過充電防止性能とは、化合物が特定の電圧以上で分解し、重合を開始して正極上に抵抗被膜を形成する事で、電池抵抗を増加させ、最終的に抵抗体となることにより充電電流を遮断する性能を有すること、または過充電時の正極の発熱と化合物の重合による発熱が同時に生じることで、電池の発熱が大きくなり、浅い充電深度でPTC(Positive Temperature Coefficient)などの電池に附属する過充電保護素子をトリップさせ(抵抗値の増加)、充電電流を遮断することを意味する。
【0026】
なお、非水電解液にスルホニルイミド化合物(1)が含まれていない場合に、フッ素含有芳香族化合物(3)を用いると、フッ素含有芳香族化合物(3)の影響により、電解液のイオン伝導度が低下し、電池抵抗が増加したり、負極の充電受入れ性が悪化して、高率充電時や、低温充電時に金属リチウムの電析が促進され電池性能が低下する傾向がある。また−7eV以下のフッ素含有芳香族系化合物(3)は酸化電圧が高いため、過充電時の発熱が遅くなり、電流遮断までに時間が長くかかるため、過充電防止効果が低減する。しかしながら、フッ素含有芳香族化合物(3)がスルホニルイミド化合物(1)と共に非水電解液に含まれていることで、スルホニルイミド化合物(1)の効果により、電解液のイオン伝導度が向上し、電池抵抗を低下させることができる。また負極上に良好な被膜が形成されるため、負極の充電受入れ性が向上し、その結果、フッ素含有芳香族化合物(3)による電池性能低下が抑制される。さらに、スルホニルイミド化合物(1)の効果により正極電位が高く維持されるため、フッ素含有芳香族化合物(3)の酸化分解が促進され、過充電時の発熱が早まり、電流遮断までの時間が短くなる結果、過充電防止効果が高まるものと考えられる。
【0027】
フッ素含有芳香族化合物(3)のHOMOエネルギー準位は−7.5eV以下であるのが好ましく、−8eV以下であるのがより好ましい。HOMOエネルギー準位の下限は特に限定されないが、例えばHOMOエネルギー準位は−12eV以上であるのが好ましく、−11eV以上であるのがより好ましく、−10eV以上であるのがさらに好ましい。フッ素含有芳香族化合物は、HOMOエネルギー準位が高いほど酸化分解され易い傾向があり、特に電解液中にスルホニルイミド化合物(1)が含まれる場合には正極の電位が高くなるため、フッ素含有芳香族化合物の分解が促進され易くなる。フッ素含有芳香族化合物(3)のHOMOエネルギー準位が上記範囲内であれば電解液中にスルホニルイミド化合物(1)が含まれていても酸化分解が生じ難くなる傾向がある。
【0028】
本発明において、最高占有分子軌道のエネルギー準位とは、量子化学計算による化合物の構造最適化計算より求められる値であり、例えば分子軌道計算用ソフトウェア(Gaussian09、Gaussian社)を用い、密度汎関数にB3LYP、基底関数に6−311+G(2d,p)を用いた密度汎関数法による計算結果である。
【0029】
HOMOエネルギー準位が−7eV以下であるフッ素含有芳香族化合物(3)としては、例えば、フルオロベンゼン、1,2−ジフルオロベンゼン、1,3−ジフルオロベンゼン、1,4−ジフルオロベンゼン、1,2,3−トリフルオロベンゼン、1,3,5−トリフルオロベンゼン、1,2,3,4−テトラフルオロベンゼン、1,2,3,5−テトラフルオロベンゼン、1,2,4,5−テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン等のフッ素含有ベンゼン;ヘキサフルオロビフェニル、ヘプタフルオロビフェニル、オクタフルオロビフェニル、ノナフルオロビフェニル等のフッ素含有ビフェニル;1−シクロへキシル−4−トリフルオロメチルベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、トリフルオロメチルブロモベンゼン、トリフルオロエチルベンゼン、ジフルオロメチルベンゼン、ペンタフルオロエチルベンゼン等の炭素数1〜2のフッ素化されていてもよいアルキル基を有するフッ素含有アルキル基置換ベンゼン等が挙げられる。
【0030】
本発明に係るフッ素含有芳香族化合物(3)としては、フッ素含有ベンゼン、フッ素含有ビフェニル及びフッ素含有アルキル基置換ベンゼンよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物が好ましく、フルオロベンゼン、(1,2−、1,3−、または1,4−)ジフルオロベンゼン、(1,2,3−、または1,3,5−)トリフルオロベンゼンがより好ましく、フルオロベンゼンがさらに好ましい。フッ素含有芳香族化合物(3)は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
本発明に係るフッ素含有芳香族化合物(3)は、4.6V以上で分解し、重合を開始するものであるのが好ましい。フッ素含有芳香族化合物(3)が4.6V以上で分解するとは、当該フッ素含有芳香族化合物(3)の酸化電圧が4.6V以上であることを意味する。したがって、本発明の非水電解液に含まれるフッ素含有芳香族化合物(3)は、酸化電圧が4.6V以上であることが好ましく、より好ましくは4.65V以上であり、さらに好ましくは4.7V以上である。酸化電圧が上記範囲内であれば、本発明の非水電解液を定格充電電圧が4.2V超の電池に適用した場合でも、電池を安全に駆動させることが出来る。また、予期せず規定の駆動電圧を超えた電圧が電池に印加された場合には、フッ素含有芳香族化合物(3)が過充電防止性能を有する化合物として機能するため、安全に電池の作動を停止することが出来る。酸化電圧が高すぎると、フッ素含有芳香族化合物(3)の分解による過充電防止効果が発揮される前に、正極の充電深度が進み、電池の破裂、発火に至る虞があるため、酸化電圧は5.0V以下が好ましく、より好ましくは4.9V以下、更に好ましくは4.8V以下である。
【0032】
フッ素含有芳香族化合物(3)の酸化電圧は、電解質と有機溶媒とを含み、フッ素含有芳香族化合物(3)が含まれていない非水電解液のLSV測定(リニアスィープボルタンメトリ)を行った際に、掃引電圧が4.9Vである時の電流値をリファレンスとし、電解質、有機溶媒及びフッ素含有芳香族化合物(3)を含む非水電解液について同様の測定を行った際にリファレンスと同じ電流値が観測された時の掃引電圧を、非水電解液に含まれるフッ素含有芳香族化合物(3)の酸化電圧とする。具体的な測定方法は後述する。
【0033】
本発明の非水電解液中のフッ素含有芳香族化合物(3)の濃度は0.01質量%以上であるのが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上であり、より一層好ましくは0.5質量%以上であり、さらに好ましくは1質量%以上であり、7質量%以下であるのが好ましく、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。フッ素含有芳香族化合物(3)の濃度が高過ぎる場合には電解液の粘度上昇が顕著となってイオン伝導度が低下したり、フッ素含有芳香族化合物(3)によりセパレーターに目詰まりが生じて、電池性能を低下させる虞がある。一方、フッ素含有芳香族化合物(3)の濃度が低過ぎると、過充電防止効果が得られ難くなる虞がある。
【0034】
1−4.溶媒
本発明の非水電解液は溶媒を含んでいてもよい。本発明の非水電解液に用いることのできる溶媒としては、電解質塩(スルホニルイミド化合物(1)及び上述の電解質塩(2))やフッ素含有芳香族化合物(3)等を溶解、分散させられるものであれば特に限定されず、例えば、非水系溶媒、溶媒に代えて用いられるポリマー及びポリマーゲル等の媒体等、電池に用いられる従来公知の溶媒はいずれも使用できる。
【0035】
非水系溶媒としては、誘電率が大きく、電解質塩等の溶解性が高く、沸点が60℃以上であり、且つ、電気化学的安定範囲が広い溶媒が好適である。より好ましくは、含有水分量が低い有機溶媒である。このような有機溶媒としては、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2,6−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、クラウンエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエ−テル、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン等のエーテル類;炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジフェニル、炭酸メチルフェニル等の鎖状炭酸エステル類;炭酸エチレン、炭酸プロピレン、2,3−ジメチル炭酸エチレン、炭酸1,2−ブチレン及びエリスリタンカーボネート等の飽和環状炭酸エステル類;炭酸ビニレン、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、2−ビニル炭酸エチレン及びフェニルエチレンカーボネート等の不飽和結合を有する環状炭酸エステル類;フルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート及びトリフルオロプロピレンカーボネート等のフッ素含有環状炭酸エステル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル等の芳香族カルボン酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等のラクトン類;リン酸トリメチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、2−メチルグルタロニトリル、バレロニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等の硫黄化合物類;ベンゾニトリル、トルニトリル等の芳香族ニトリル類;ニトロメタン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン等を挙げることができる。
【0036】
これらの中でも、鎖状炭酸エステル類、環状炭酸エステル類等の炭酸エステル類(カーボネート系溶媒)、ラクトン類、エーテル類が好ましく、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等がより好ましく、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等のカーボネート系溶媒がさらに好ましい。上記非水系溶媒は1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
上記ポリマーやポリマーゲルを溶媒に代えて用いる場合は次の方法を採用すればよい。すなわち、従来公知の方法で成膜したポリマーに、上述の非水系溶媒に電解質塩を溶解させた溶液を滴下して、電解質塩並びに非水系溶媒を含浸、担持させる方法;ポリマーの融点以上の温度でポリマーと電解質塩とを溶融、混合した後、成膜し、ここに非水系溶媒を含浸させる方法(以上、ゲル電解質);予め電解質塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液とポリマーとを混合した後、これをキャスト法やコーティング法により成膜し、有機溶媒を揮発させる方法;ポリマーの融点以上の温度でポリマーと電解質塩とを溶融し、混合して成形する方法(真性ポリマー電解質);等が挙げられる。
【0038】
溶媒に代えて用いられるポリマーとしては、エポキシ化合物(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、アリルグリシジルエーテル等)の単独重合体又は共重合体であるポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系ポリマー、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のメタクリル系ポリマー、ポリアクリロニトリル(PAN)等のニトリル系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン等のフッ素系ポリマー、及びこれらの共重合体等が挙げられる。
【0039】
1−5.その他の成分
本発明に係る非水電解液は、リチウムイオン二次電池の各種特性の向上を目的とする添加剤を含んでいてもよい。
添加剤としては、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、フェニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物;エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブサルファン、スルホラン、スルホレン、ジメチルスルホン、テトラメチルチウラムモノスルフィド、トリメチレングリコール硫酸エステル等の含硫黄化合物;1−メチル−2−ピロリジノン、1−メチル−2−ピペリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルスクシンイミド等の含窒素化合物;モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩等のリン酸塩;ヘプタン、オクタン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素化合物;等が挙げられる。
【0040】
上記添加剤は、本発明の非水電解液100質量%中0.1質量%以上、10質量%以下の範囲で用いるのが好ましい(より好ましくは0.2質量%以上、8質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以上、5質量%以下)。添加剤の使用量が少なすぎるときには、添加剤に由来する効果が得られ難い場合があり、一方、多量に他の添加剤を使用しても、添加量に見合う効果は得られ難く、また、非水電解液の粘度が高くなり伝導率が低下する虞がある。
なお、非水電解液100質量%とは、上述したスルホニルイミド化合物(1)、電解質塩(2)、フッ素含有芳香族化合物(3)、溶媒及び適宜用いられる添加剤等、非水電解液に含まれる全ての成分の合計を意味する。
【0041】
2.リチウムイオン二次電池
本発明のリチウムイオン二次電池とは、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な正極活物質を含有する正極、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な負極活物質を含有する負極、及び非水電解液を有する。より詳細には、正極と負極との間にはセパレーターが設けられており、非水電解液は上記セパレーターに含浸された状態で、正極、負極等と共に外装ケースに収容されている。本発明のリチウムイオン二次電池は、上述した本発明の非水電解液を備えている。
【0042】
2−1.正極
正極は、正極活物質、導電助剤及び結着剤等を含む正極合剤が正極集電体に担持されてなるものであり、通常、シート状に成形されている。
【0043】
正極の製造方法は特に限定されないが、例えば、(i)分散用溶媒に正極合剤を溶解又は分散させた正極活物質組成物を正極集電体にドクターブレード法等で塗工したり、正極集電体を正極活物質組成物に浸漬した後、乾燥する方法;(ii)正極活物質組成物を混練成形し乾燥して得たシートを正極集電体に導電性接着剤を介して接合し、プレス、乾燥する方法;(iii)液状潤滑剤を添加した正極活物質組成物を正極集電体上に塗布又は流延して、所望の形状に成形した後、液状潤滑剤を除去し、次いで、一軸又は多軸方向に延伸する方法;等が挙げられる。また、必要に応じて乾燥後の正極合剤層を加圧してもよい。これにより正極集電体との接着強度が増し、電極密度も高められる。
【0044】
正極集電体の材料、正極活物質、導電助剤、結着剤、正極活物質組成物に用いられる溶媒(正極合剤を分散または溶解する溶媒)は特に限定されず、従来公知の材料を用いればよい。例えば、特開2014−13704号公報に記載の各材料を用いることができる。
【0045】
正極活物質の使用量は、正極合剤100質量部に対して75質量部以上、99質量部以下とするのが好ましく、より好ましくは85質量部以上であり、さらに好ましくは90質量部以上であり、好ましくは98質量部以下であり、より好ましくは97質量部以下である。
【0046】
導電助剤を用いる場合の、正極合剤中の導電助剤の含有量としては、正極合剤100質量%に対して、0.1質量%〜10質量%の範囲で用いるのが好ましい(より好ましくは0.5質量%〜10質量%、さらに好ましくは1質量%〜10質量%)。導電助剤が少なすぎると、導電性が極端に悪くなり、負荷特性及び放電容量が劣化する虞がある。一方、多すぎると正極合剤層のかさ密度が高くなり、結着剤の含有量をさらに増やす必要があるため好ましくない。
【0047】
結着剤を用いる場合の、正極合剤中の結着剤の含有量としては、正極合剤100質量%に対して0.1質量%〜10質量%が好ましい(より好ましくは0.5質量%〜9質量%、さらに好ましくは1質量%〜8質量%)。結着剤が少なすぎると良好な密着性が得られず、正極活物質や導電助剤が集電体から脱離してしまう虞がある。一方、多すぎると内部抵抗の増加を招き電池特性に悪影響を及ぼしてしまう虞がある。
導電助剤及び結着剤の配合量は、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視等)、イオン伝導性等を考慮して適宜調整することができる。
【0048】
2−2.負極
負極は、負極活物質、結着剤及び必要に応じて導電助剤等を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなるものであり、通常、シート状に成形されている。
負極の製造方法としては、正極の製造方法と同様の方法を採用することができる。また、負極の製造時に使用する導電助剤、結着剤、材料分散用の溶媒も、正極で用いられるものと同様のものが用いられる。
【0049】
負極集電体の材料、負極活物質としては、従来公知の負極活物質を用いればよく、例えば、特開2014−13704号公報に記載の各材料を用いることができる。
【0050】
2−3.セパレーター
セパレーターは正極と負極とを隔てるように配置されるものである。セパレーターには特に制限がなく、本発明では、従来公知のセパレーターはいずれも使用でき、例えば、例えば、特開2014−13704号公報に記載の各材料を用いることができる。
【0051】
2−4.電池外装材
正極、負極、セパレーター及び非水電解液等を備えた電池素子は、リチウムイオン二次電池使用時の外部からの衝撃、環境劣化等から電池素子を保護するため電池外装材に収容される。本発明では、電池外装材の素材は特に限定されず従来公知の外装材はいずれも使用することができる。
【0052】
本発明に係るリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されず、円筒型、角型、ラミネート型、コイン型、大型等、リチウムイオン二次電池の形状として従来公知の形状はいずれも使用することができる。また、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に搭載するための高電圧電源(数10V〜数100V)として使用する場合には、個々の電池を直列に接続して構成される電池モジュールとすることもできる。
【0053】
本発明のリチウムイオン二次電池の定格充電電圧は特に限定されないが、4.2V超であるのが好ましい。本発明による効果は特に4.2Vを超える電圧で使用する場合に顕著となる。より好ましくは4.25V以上であり、より一層好ましくは4.3V以上であり、さらに好ましくは4.35V以上である。定格充電電圧が高いほど、エネルギー密度を高めることはできるが、高すぎると安全性や、電池特性の長期信頼性を確保し難い場合がある。したがって、定格充電電圧は4.6V以下であるのが好ましい。より好ましくは4.5V以下である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0055】
1.非水電解液の調製
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、3:7(体積比)で混合した非水溶媒に、電解質塩(2)として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6、キシダ化学株式会社製)を溶解させて、LiPF6濃度1.0mol/Lの非水電解液1を調製した。
この非水電解液1に、芳香族化合物としてシクロヘキシルベンゼン(和光純薬社製、以下CHBと称する場合がある)を濃度1質量%となるように溶解させて非水電解液2を調製した。
【0056】
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、3:7(体積比)で混合した非水溶媒に、スルホニルイミド化合物(1)としてリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(株式会社日本触媒製、以下LiFSIと称する場合がある)、及び電解質塩(2)として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6、キシダ化学株式会社製)を溶解させて、LiPF6濃度0.5mol/L、LiFSI濃度0.5mol/Lの非水電解液3を調製した。
【0057】
この非水電解液3に、芳香族化合物としてCHBを濃度1質量%となるように溶解させて非水電解液4を調製した。
また、芳香族化合物の種類と濃度を表1に示すように変更したこと以外は非水電解液4と同様にして非水電解液5〜10を調製した。
【0058】
2.酸化電圧の測定
2−1.作用極シートの作製
酸化コバルト(CoO2、シグマアルドリッチ社製)、導電助剤1(アセチレンブラック、AB、電気化学工業社製)、導電助剤2(グラファイト)、及び結着剤(ポリフッ化ビニリデン、株式会社クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン製「クレハL#1120」)を93:2:2:3の質量比で混合しN−メチルピロリドンに分散させた合剤スラリーをアルミニウム箔(正極集電体)上に片面塗工し、乾燥、圧縮して、作用極シートを作製した。
【0059】
2−2.コインセル型リチウムイオン二次電池の作製
上記で作製した作用極シート、金属リチウム(負極)、及びポリエチレン製のセパレーター(16μm)を、それぞれ円形(正極φ12mm、負極φ14mm、セパレーターφ16mm)に打ち抜いた。宝泉株式会社より購入したCR2032コイン型電池用部品(正極ケース(アルミクラッドSUS304L製)、負極キャップ(SUS316L製)、スペーサー(1mm厚、SUS316L製)、ウェーブワッシャー(SUS316L製)、ガスケット(ポリプロピレン製))を用いてコイン型リチウム電池を作製した。具体的には、ガスケットを装着した負極キャップ、ウェーブワッシャー、スペーサー、負極、セパレーターをこの順で重ねた後、70μLの非水電解液1をポリエチレン製のセパレーターに含浸させた。次いで、合剤塗布面が負極と対向するように作用極シートを設置し、その上に正極ケースを重ね、カシメ機でかしめることによりコインセル型リチウムイオン二次電池1−1を作製した。
非水電解液を変更したこと以外は上記同様にして、コインセル型リチウムイオン二次電池1−2〜1−10を作製した。
【0060】
2−3.酸化電圧の測定(サイクリックボルタンメトリー)
北斗電工社製のオートマチック ポラリゼーションシステム「HSV―110」を使用して、コインセルの正極端子を作用極に、コインセルの負極端子を対極と参照極に接続し、コインセル型リチウムイオン二次電池の電気化学測定を行った。測定条件は以下の通りである。
掃引速度:20mV/min
掃引電圧:3.0V−5.0V
掃引サイクル数:2サイクル
温度:85℃
【0061】
芳香族化合物が含まれていない非水電解液1,3を含むコインセルの測定において掃引電圧が4.9Vの時の電流値(0.5mA/cm2)を酸化電圧と定義し、非水電解液2、4〜10を含む各コインセルにおいて0.5mA/cm2の電流が観測された時の掃引電圧を、これらの非水分解液に添加したフッ素含有芳香族化合物の酸化電圧とした。掃引電圧3.0V−5.0Vの範囲において観測される最大電流が大きいほど芳香族化合物の分解がより促進されているものと判断した。
また、量子化学計算により化合物の構造最適化計算を行い、非水電解液2及び4〜10で使用したフッ素含有芳香族化合物(3)の最高非占有軌道(HOMO)のエネルギー準位を求めた。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1中、「BP」はビフェニル(キシダ化学社製)、「FBz」はフルオロベンゼン(アルドリッチ社製)、「1,2−DFBz」は1,2−ジフルオロベンゼン(東京化成社製)、「1,2,3−TFBz」は1,2,3−トリフルオロベンゼン(アルドリッチ社製)、「2,4−DFA」は2,4−ジフルオロアニソール(東京化成社製)を表し、また、HOMO準位は計算ソフトウェア:Gaussian09(gaussian社製)を用い、密度汎関数にB3LYP、基底関数に6−311+G(2d,p)を用い密度汎関数法により算出した値である。
【0064】
表1より、従来過充電抑制剤として使用されてきた芳香族化合物であってHOMO準位が−7.0V超である化合物をスルホニルイミド化合物(1)と併用した非水電解液2,4,5及び9では、芳香族化合物を用いなかった非水電解液1,3に比べて酸化電圧が低く、最大電流が大きいことから、スルホニルイミド化合物(1)との併用により芳香族化合物の分解が促進されていることが分かる。
これに対して、HOMO準位が−7.0V以下のフッ素含有芳香族化合物(3)を用いた非水電解液6〜8では酸化電圧は高く維持されており、また、最大電流も非水電解液2,4,5及び9に比べて低いものであった。
また、フッ素含有芳香族化合物(3)をスルホニルイミド化合物(1)と併用した非水電解液6では、非水電解液10に比べて酸化電圧が低下しており、最大電流も増加していた。この結果から、フッ素含有芳香族系化合物(3)をスルホニルイミド化合物(1)と併用することで、フッ素含有芳香族系化合物(3)の分解が促進されることが分かる。
【0065】
3.電池評価
3−1.ラミネート型リチウムイオン二次電池の作製
正極活物質(LiCoO2)、導電助剤1(アセチレンブラック、電気化学工業製)、導電助剤2(グラファイト)及び結着剤(PVdF、株式会社クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン製「クレハL#1120」)を93:2:2:3の質量比で混合しN−メチルピロリドンに分散させた正極合剤スラリーをアルミニウム箔(正極集電体)上に両面塗工し、乾燥、圧縮して、正極シートを作製した。
【0066】
負極活物質として人造黒鉛、導電助剤(VGCF、昭和電工社製)、及び結着剤(スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース)を100:0.5:2.6(質量比)の割合で混合し、これをN−メチルピロリドンと混合してスラリー状の溶液を作製した。この負極合剤スラリーを銅箔(負極集電体)上に片面塗工し、乾燥、圧縮して負極シートを作製した。
【0067】
上記正極シート(150μm)の両面に対向する様に負極シート(85μm)を積層し、その間にポリエチレン製のセパレーター(径16μm)各1枚を挟んだ。2枚のアルミニウムラミネートで負極シート、セパレーター、正極シート、セパレーター、負極シートの順に積層された積層体を挟み込みアルミラミネートフィルム内を0.7mLの非水電解液1で満たし、真空状態で密閉した(容量64mAh)。
非水電解液を表2に示すように変更したこと以外は上記と同様にして、ラミネート型リチウムイオン二次電池3−2〜3−10を作製した。
【0068】
上記ラミネート型リチウムイオン二次電池3−1〜3−10について、充放電試験装置(アスカ電子株式会社製「ACD−01」)を用いて、12.8mAの電流値で90分充電した後、3日間25℃で放置し、さらに32mAの電流値で4.35Vまで5時間の定電流定電圧充電を行った。10分間の休止後、12.8mAの電流値で2.75Vまで放電した。放電後、ガス抜きのためアルミラミネートフィルムを開放し真空中で再封止を行いラミネート型リチウムイオン二次電池3−1〜3−10を完成させた。
【0069】
3−2.初期容量及びレート特性の測定
充放電試験装置(アスカ電子株式会社製「ACD−01」)を使用して、温度25℃の環境下、ラミネート型リチウムイオン二次電池を、64mAの電流値、4.35V定電圧で、1.28mAまで電流が垂下するまで充電した後、0.2Cで2.75Vまで定電流放電を行った。この時の放電容量を0.2C容量とした。次いで、再び上記条件で充電を行った後、1.0Cで2.75Vまで定電流放電を行った。このときの放電容量を1.0C容量とした。得られた放電容量の値から下記式より、初期レートを算出した。結果を表2に示す。
初期レート特性 (%)=(1.0C容量/0.2C容量)×100
【0070】
上記測定の後、4.35V、1Cの条件で3時間充電を行ったラミネート型リチウムイオン二次電池を85℃に設定した恒温槽内に3日間保管し、保管前後のラミネート型リチウムイオン二次電池の厚みから、セル膨れを求めた(セル膨れ=100×[(保管後セル厚み−保管前セル厚み)/保管前セル厚み])。なお、高温保管後のラミネート型リチウムイオン二次電池の厚みの最も大きな部分を「保管後セル厚み」とした。
【0071】
また、高温保管後のラミネート型リチウムイオン二次電池について0.2Cで2.75Vまで定電流放電を行った。ついで、再び上記条件でラミネート型リチウムイオン二次電池を充電した後、0.2Cで2.75Vまで定電流放電を行い、この時の容量を0.2C回復容量とした。電流値を1.0Cに変更したこと以外は同様に充電及び定電流放電を行って1.0C回復容量を測定した。0.2C回復容量に対する1.0C回復容量の比率を下記式より求め、保管後レートとした。結果を表2に示す。
保管後レート特性 (%)=(1.0C回復容量/0.2C回復容量)×100
【0072】
【表2】
【0073】
表2より、HOMO準位が−7eVより大きい芳香族化合物を含む非水電解液2,4,5及び9を用いたリチウムイオン二次電池では、芳香族化合物を含まない非水電解液1,3を用いたリチウムイオン二次電池に比べて高温保管後の膨れが大きく、また、初期レートと比較して放置後レートの低下が著しいものであった。
これに対して、HOMO準位が−7.0eV以下のフッ素含有芳香族化合物(3)を含む非水電解液6〜8では、高温保管後のセルの膨れも、また、初期レート値も保管後レート値も非水電解液1,3の場合と同程度であり、電池性能の劣化も非水電解液2,4,5及び9の場合に比べて抑制されていた。
【0074】
3−3.過充電性能の評価
上記初期容量及びレート特性の測定と同様にして製造したラミネート型リチウムイオン二次電池について、定電流定電圧電源(菊水電子工業株式会社製「PMC−35−2A」)を使用して、25℃の雰囲気下、上限10Vまで64mAの電流値で定電流充電を行った。充電中の二次電池の温度を観察し、充電開始から2℃温度上昇するまでの時間と、その時のラミネート型リチウムイオン電池の電圧(セル電圧)を測定した。結果を表3に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
表3より、HOMO準位が−7eV以下のフッ素含有芳香族化合物(3)を含む非水電解液6〜8を用いたリチウムイオン二次電池では、芳香族化合物を含まない非水電解液1,3を用いた場合に比べて、芳香族系化合物の重合による発熱で比較的早い段階でセル温度が上昇し、またセル電圧の上昇も重合物による抵抗上昇のため非水電解液1,3の場合に比べて大きかった。また、非水電解液6、10を用いたリチウムイオン二次電池では、温度が2℃上昇するまでの経過時間に3分もの差が見られた。
【0077】
以上の結果より、本発明に係るフッ素含有芳香族化合物(3)はスルホニルイミド化合物(1)と同時に使用する場合にも過充電抑制剤として機能し、また、スルホニルイミド化合物(1)と組み合わせて使用することでフッ素含有芳香族化合物(3)が本来有する過充電抑制効果を有効に発揮させられることがわかる。
【0078】
なおフッ素含有芳香族化合物(3)が過充電抑制剤として機能し得ることは、表1の結果からも明らかである。すなわち、芳香族化合物を含まない非水電解液1,3に比べて非水電解液6〜8の酸化電圧がやや低く、最大電流値が大きいものであることや、HOMO準位が−7eV超の芳香族化合物を含む非水電解液2,4,5及び9に比べて、HOMO準位が−7eV以下のフッ素含有芳香族化合物を含む非水電解液6〜8での酸化電圧は高く、また最大電流値も低いことから、高電圧下でも早期に分解してしまわずに、過充電抑制剤として機能し得ることが理解できる。