特許第6603018号(P6603018)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6603018
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】畜水産加工食品の食感を向上する方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/00 20160101AFI20191028BHJP
   A23L 13/40 20160101ALI20191028BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20191028BHJP
【FI】
   A23L13/00 A
   A23L13/40
   A23L17/00 101C
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-252905(P2014-252905)
(22)【出願日】2014年12月15日
(65)【公開番号】特開2016-111961(P2016-111961A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山崎 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】佐賀 正治
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−296319(JP,A)
【文献】 特開2014−187922(JP,A)
【文献】 特開平11−169101(JP,A)
【文献】 特開2002−281942(JP,A)
【文献】 特開平04−237476(JP,A)
【文献】 日本水産学会誌,1986年,vol.52, no.10,pp.1799-1805
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 13/00−13/70
A23L 17/00−17/60
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸又はその塩、並びに増粘多糖類及び/又は水難溶性金属塩を練り込んだ状態で含有する具材(アルギン酸塩のゲル状組成物を含むものを除く)を、二価以上の金属塩含有溶液と接触することを特徴とする、畜水産加工食品の食感を向上する方法。
【請求項2】
アルギン酸又はその塩、並びに増粘多糖類及び/又は水難溶性金属塩を練り込んだ状態で含有する具材(アルギン酸塩のゲル状組成物を含むものを除く)を、二価以上の金属塩含有溶液と接触することを特徴とする、畜水産加工食品の製造方法。
【請求項3】
具材中のアルギン酸又はその塩の含量が0.1質量%以上である、請求項2に記載の畜水産加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜水産加工食品の食感を向上する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、畜水産加工食品は加熱調理が必要であり、また、加温状態で流通、販売される場合もある。しかし、このような加熱処理を経ると、熱による具材からの水分の放出や肉汁の流出等が起き、得られる畜水産加工食品のジューシーさが損なわれたり、硬化したりして、食感が損なわれてしまうという問題がある。
【0003】
従来から、具材表面に被膜を形成することで、加熱処理による具材中の水分の放出や油分の流出を防ぐ方法が知られている。例えば、金属イオンとの反応でゲルを形成する海藻由来の高分子多糖類、及びパルプ由来の可食性植物性繊維を含むことを特徴とする可食性皮膜組成物(特許文献1)、金属イオンとの反応でゲルを形成する高分子多糖類、還元糖、乳清タンパク質、乳清タンパク質加水分解物及びアミノ酸を含む可食性被膜組成物(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−296319号公報
【特許文献2】特開2006−87395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された技術は、具材との結着性を得るために、パルプ由来の可食性植物性繊維(例:セルロース)を必須成分とする。これは、高分子多糖類(例:アルギン酸ナトリウム)単独では、具材との結着性が十分に得られないためである。しかし、セルロースを使用した加工食品は、被膜が白く濁るため、商品形態によっては外観上好ましくないという問題を有している。
特許文献2に開示された技術は、食肉加工品に適度な焼色と焦げを付与することを目的の一つとしており、そのため、被膜組成物中に還元糖、乳清タンパク質、乳清タンパク質加水分解物及びアミノ酸を用いる必要がある。しかし、これらを使用した被膜組成物は、特有の味を食肉加工品に付与してしまい、食肉加工品の本来の味を損ねる等の問題を有している。
また、前記従来技術は、高分子多糖類を含む一次液で具材表面を処理し、続いて金属イオンを含む二次液で具材表面を処理するという、二度の処理工程を経る必要があり、作業が煩雑となるため製造効率が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は上記のような事情に鑑みて開発されたものであり、食品本来の味及び外観を損ねることなく、畜水産加工食品の食感を向上する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のごとき課題を解決すべく鋭意研究した結果、アルギン酸又はその塩を含有する具材を製造し、当該具材を金属塩含有溶液と接触することで、食品本来の味及び外観を損ねることなく、畜水産加工食品の食感を向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下の態様を有する、畜水産加工食品の食感を向上する方法に関する;
項1.アルギン酸又はその塩を含有する具材を、金属塩含有溶液と接触することを特徴とする、畜水産加工食品の食感を向上する方法。
項2.さらに、増粘多糖類を具材に含有することを特徴とする、項1に記載の畜水産加工食品の食感を向上する方法。
項3.さらに、水難溶性金属塩を具材に含有することを特徴とする、項1又は2に記載の畜水産加工食品の食感を向上する方法。
また本発明は、以下の態様を有する、畜水産加工食品の製造方法に関する;
項4.アルギン酸又はその塩、並びに増粘多糖類及び/又は水難溶性金属塩を含有する具材を、金属塩含有溶液と接触することを特徴とする、畜水産加工食品の製造方法。
項5.具材中のアルギン酸又はその塩の含量が0.1質量%以上である、項4に記載の畜水産加工食品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、畜水産加工食品の食感が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(畜水産加工食品)
本発明において畜水産加工食品とは、畜肉原料及び/又は水産原料を用いて調製された加工食品をいう。加工食品中の畜肉原料及び/又は水産原料の含量は特に制限されないが、好ましい含量は10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上である。加工食品中の畜水産原料の含量の上限は特に制限されないが、例えば80質量%である。畜肉原料としては、特に制限されないが、例えば牛、豚、鶏、馬、羊、鹿、猪等の動物由来の原料が挙げられ、これらを単独又は組み合わせて使用することができる。水産原料としては、特に制限されないが、例えば魚類、貝類、甲殻類(例えばエビ、カニ等)、イカ、タコ、クジラ等の水産物由来の原料が挙げられ、これらを単独又は組み合わせて使用することができる。また、本発明の畜水産加工食品は、畜肉原料と水産原料を単独又は組み合わせて使用してもよい。
【0011】
本発明における畜水産加工食品は、前記畜水産原料を含む原材料を混合し、加熱調理を経て得られるものをいい、例えば、ハンバーグ、パティ、ミートボール、ナゲット、つくね、ソーセージ、餃子、しゅうまい、肉饅頭、つみれ、海老カツ、かまぼこ等が挙げられる。なお、本発明における畜水産加工食品は、畜水産原料の組織そのものを崩すことなく加熱処理した食品(例えば、ステーキ、唐揚げ、豚カツ等)を含まない。
【0012】
本発明の畜水産加工食品の食感を向上する方法は、畜水産加工食品の原料である具材にアルギン酸又はその塩を含有させ、前記具材を金属塩含有溶液と接触させることを特徴とする。本発明において「食感を向上する」とは、畜水産加工食品が、加熱処理(加熱調理を含む)を経ても、食品本来の味及び外観が損なわれることなく、ジューシーかつソフトな食感を有することをいう。
【0013】
本発明では、アルギン酸又はその塩のいずれかが具材に含まれていればよく、アルギン酸及びその塩の双方が具材に含まれていてもよい。アルギン酸の塩としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム等が挙げられる。本発明で使用するアルギン酸又はその塩としては、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、及びアルギン酸アンモニウムからなる群から選択される1種以上を用いることが好ましく、アルギン酸ナトリウムを用いることがより好ましい。
【0014】
具材中のアルギン酸又はその塩の含量は特に制限されないが、好ましい含量は0.1質量%以上であり、より好ましくは0.15〜2質量%、さらに好ましくは0.15〜1.5質量%である。アルギン酸又はその塩の含量が0.1質量%未満では、畜水産加工食品の食感を十分に向上できない場合があり、前記含量が2質量%を上回るとアルギン酸又はその塩を具材に練り込みづらくなる場合がある。
【0015】
本発明で用いる金属塩含有溶液は、溶液中に二価以上の金属イオンが存在する状態に調製された溶液であれば特に制限されない。例えば、二価の金属イオンとしてカルシウムイオン、マグネシウムイオン等、三価の金属イオンとしてアルミニウムイオンが挙げられる。カルシウムイオンを供給するカルシウム化合物として、例えば乳酸カルシウム、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、硫酸カルシウム、第二リン酸カルシウム等が、また、マグネシウムイオンを供給するマグネシウム化合物として、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム等が、アルミニウムイオンを供給するアルミニウム化合物として、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム等が挙げられる。
【0016】
上記金属塩含有溶液は、水に金属塩を添加することで調製できる。金属塩含有溶液における金属塩の含有量は特に制限されないが、通常、0.05〜20質量%、好ましくは0.5〜15質量%、より好ましくは1〜10質量%となるように調製することが望ましい。
【0017】
本発明では、アルギン酸又はその塩を含有する具材を、金属塩含有溶液と接触させることを特徴とする。具材と金属塩含有溶液の接触方法は、具材表面、好ましくは具材表面全体に金属塩含有溶液が接触する方法であれば特に制限されず、各種方法を利用できる。例えば、金属塩含有溶液を具材に噴霧する方法や塗布する方法、又は金属塩含有溶液に具材を浸漬する方法等である。好ましくは浸漬方法を例示できる。浸漬方法における浸漬時間は特に制限されないが、例えば1秒〜5分、好ましくは1秒〜2分、より好ましくは5秒〜1分である。また、二重ノズルからアルギン酸又はその塩を含有する具材と金属塩含有溶液を同時に押し出しする方法も利用可能である。
【0018】
また、本発明において「食感を向上する」とは、前記のとおり、畜水産加工食品が加熱処理(加熱調理を含む)を経ても、ジューシーかつソフトな食感を有することに加えて、畜水産加工食品の表面のフィルム感を軽減することをいう。
アルギン酸又はその塩は、金属塩含有溶液と接触させることにより、ゲルを形成する性質を有する。そのため、アルギン酸又はその塩を含有する具材を金属塩含有溶液と接触させると、畜水産加工食品の表面にフィルム感を感じる場合がある。本発明では、このフィルム感を軽減し、畜水産加工食品の食感をより向上させる目的で、アルギン酸又はその塩に加えて、1種以上の増粘多糖類を具材に含有させることが好ましい。
【0019】
本発明で用いる増粘多糖類の種類は特に制限されない。例えば、カラギナン、タマリンドシードガム、ジェランガム、ペクチン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム等が挙げられ、好ましい増粘多糖類はジェランガム、カラギナン、ペクチン、タマリンドシードガム及びキサンタンガムからなる群から選択される1種以上であり、より好ましくはカラギナン及び/又はタマリンドシードガムである。
【0020】
具材中の増粘多糖類の含量は特に制限されないが、好ましくは具材中のアルギン酸又はその塩100質量部に対し、増粘多糖類が0.1〜70質量部、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは2〜40質量部となるように含有させることが望ましい。
【0021】
さらに、本発明において「食感を向上する」とは、前記のとおり、畜水産加工食品が加熱処理(加熱調理を含む)を経ても、ジューシーかつソフトな食感を有することに加えて、畜水産加工食品の内部のぬめりを軽減することをいう。本発明では、畜水産加工食品の内部のぬめりを軽減し、食感をより向上する目的で、アルギン酸又はその塩に加えて、水難溶性金属塩を具材に含有させることが好ましい。
【0022】
本発明で用いる水難溶性金属塩は、25℃における水への溶解度が0.5g/100g以下の金属塩をいう。金属塩として、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。本発明で用いる水難溶性金属塩の種類は特に制限されないが、例えば、リン酸一水素カルシウム、クエン酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられ、好ましくはリン酸一水素カルシウム、クエン酸カルシウムである。
【0023】
具材中の上記水難溶性金属塩の含量は特に限定されないが、好ましくは具材中のアルギン酸又はその塩100質量部に対し、水難溶性金属塩が0.1〜100質量部、好ましくは10〜90質量部、より好ましくは20〜80質量部となるように含有させることが望ましい。
【0024】
本発明では、アルギン酸又はその塩に加えて、増粘多糖類と水難溶性金属塩の両方を具材に含有させてもよい。そうすることで、畜水産加工食品の表面のフィルム感と、内部のぬめりの両方を軽減することができる。
アルギン酸又はその塩、必要に応じて増粘多糖類及び/又は水難溶性金属塩を具材に含有させる方法は、特に限定されないが、例えば、これらを具材原料と共に混合する方法が挙げられる。なお、扱いやすさ、具材への練り込みやすさの観点からは、アルギン酸又はその塩、並びに増粘多糖類は、予めそれらの水溶液を調製し、当該水溶液を具材に添加して含有させることが好ましい。
【0025】
以上のように、本発明はアルギン酸又はその塩を含有する具材を金属塩含有溶液と接触させることで、食品本来の味及び外観を損ねることなく、畜水産加工食品の食感を向上することができる。本発明の畜水産加工食品は、例えば、畜水産原料、アルギン酸又はその塩、並びにその他原料を混合して具材生地を調製し、これを適当な大きさ、形状に成形し、金属塩含有溶液と接触させた後、加熱調理(例えば焼成、蒸し、フライ、ボイル等)することで得ることができる。本発明の畜水産加工食品は、特別な設備を必要とせず、既存の設備で簡便に製造することができ、工業規模での利用価値が高い。
【0026】
かくして得られる畜水産加工食品は、食品本来の味及び外観を損なわずに食感が向上し、ジューシーかつソフトな食感を有する。さらに、前記畜水産加工食品は、加熱調理後に冷蔵又は冷凍して流通され、小売業者、外食業者又は消費者等によって、さらなる加熱処理(例えば焼成、蒸し、フライ、ボイル、電子レンジ加熱及びホットベンダーによる保温等)が行われた場合であっても、食品本来の味及び外観を損ねることなく、食感の向上効果が発揮される。例えば、コンビニエンスストアー等では、加熱調理された畜水産加工食品は、ホットベンダーによる長時間の加熱処理を施されることがある。この場合、ソーセージ類のように外部を被膜で覆う形態を有していないハンバーグやつくね等の畜肉加工品は、具材中の水分の放出や肉汁の流出が著しく、ジューシーかつソフトな食感が損なわれてしまう。しかし、本発明の畜水産加工食品は、前記のような場合でも、食品本来の味及び外観を損ねずに、食感を向上することができる。
【0027】
本発明による畜水産加工食品の食感向上効果は、畜水産加工食品の「歩留り」及び「硬さ」を算出することで評価できる。
【0028】
本発明において畜水産加工食品の「歩留り」とは、加熱処理(加熱調理を含む)後の具材重量の残存率をいい、加熱処理後に具材中の水分や肉汁がどれだけ保持されているかの指標となる。歩留りが低下した畜水産加工食品は、ジューシーな食感が損なわれている。一方で、本発明により食感が向上した畜水産加工食品はジューシーな食感を有する。歩留りは、下記式に従って算出することができる。
【式1】
【0029】

(歩留り)=(加熱処理後の重量(g)÷加熱処理前の重量(g))×100
【0030】
また、本発明において加熱処理後の畜水産加工食品の「硬さ」は、例えば、テクスチャーアナライザーを用いて、破断強度(N)を測定することで算出できる。破断強度の数値が大きい畜水産加工食品は、ソフトな食感が損なわれている。一方で、本発明により食感が向上した畜水産加工食品はソフトな食感を有する。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、それぞれ「質量部」「質量%」を意味し、また、文中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製であること、及び文中「※」印は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを意味する。
【0032】
実験例1 畜水産加工食品(つくね)の調製1
(つくね具材)
表1及び表2に記載の原料を秤量し、混合して、つくね具材を調製した。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
(金属塩含有溶液の調製)
水90質量部に塩化カルシウム10質量部を添加、撹拌し、金属塩含有溶液を調製した。
【0036】
(畜肉加工食品(つくね)の調製)
調製したつくね具材を50gずつに小分けし、高さ1.2cm、直径6cmの円柱状に成型し、上記金属塩含有溶液に30秒間浸漬し、次いで加熱調理(180℃で5分間焼成)を行って畜肉加工食品を調製した。
【0037】
加熱調理後、下記式に基づいて歩留りを算出した。焼成歩留りの数値が大きい程、歩留りが向上されていることを意味する。
・焼成歩留り(%)=(焼成後の重量(g)÷焼成前の重量(g))×100
さらに、加熱処理後30分間常温で静置した畜肉加工食品と、加熱処理後に保温処理(70℃,6時間)を行った畜肉加工食品の硬さを、テクスチャーアナライザーを用いて測定した。条件は測定温度:20±2℃、プランジャー:1cmΦ、圧縮速度:10mm/秒とした。結果を表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
具材中にアルギン酸ナトリウムを含む実施例1−1〜1−5は、加熱処理後、さらには70℃で6時間保温した後であっても、アルギン酸ナトリウムを含まない比較例1と比べて歩留りの向上及び硬化の抑制が認められた。実施例1−1〜1−5の畜肉加工食品はいずれも、食品本来の味及び外観を損なわずに、比較例1と比べてジューシーかつソフトな食感を有し、食感の向上効果が認められた。
【0040】
実験例2 畜水産加工食品(つくね)の調製2
金属塩と反応してゲル化する性質を有する多糖類として、アルギン酸ナトリウムの他にジェランガム又はペクチンを使用し、畜肉加工食品(つくね)を調製した。
(つくね具材)
表4及び5に記載の原料を秤量し、混合して、つくね具材を調製した。
【0041】
【表4】
【0042】
【表5】
【0043】
調製したつくね具材を50gずつに小分けし、高さ1.2cm、直径6cmの円柱状に成型し、実験例1と同処方の金属塩含有溶液に30秒間浸漬した。前記具材を一晩冷凍し、次いで加熱調理(180℃で5分間油ちょう)を行い、畜肉加工食品を調製した。
【0044】
加熱処理後、下記式に従って歩留りを測定した。
・歩留り(%)=(油ちょう後の重量(g)÷油ちょう前の重量(g))×100
さらに、調製後の加工食品の硬さを、実験例1と同様の方法で測定した。結果を表6に示す。
【0045】
【表6】
【0046】
具材にアルギン酸ナトリウムを含む実施例2は、アルギン酸ナトリウムを含まない比較例2−3と比べて、歩留りの向上及び硬化の抑制が認められ、ジューシーかつソフトな食感を有し、食感の向上効果が認められた。一方、具材にジェランガムを含む比較例2−1、及びペクチンを含む比較例2−2では、比較例2−3に比べて、僅かに歩留り向上及び硬化の抑制がみられたものの、その効果は十分でなく、アルギン酸ナトリウムを含む実施例2のような食感向上効果は認められなかった。
【0047】
実験例3 畜水産加工食品(つくね)の調製3
(つくね具材)
表7及び8に記載の原料を秤量し、混合して、つくね具材を調製した。
【0048】
【表7】
【0049】
【表8】
【0050】
調製したつくね具材を50gずつに小分けし、高さ1.2cm、直径6cmの円柱状に成型し、実験例1と同処方の金属塩含有溶液に30秒間浸漬し、次いで加熱調理(180℃で5分間焼成)を行って畜肉加工食品を調製した。その後、さらに加熱処理(80℃で10分間スチーム処理)を行った。
【0051】
得られた畜肉加工食品について、焼成及びスチーム処理における歩留り、具材表面のフィルム感、並びに硬さを評価した。
焼成歩留りについては実験例1と同様の方法で算出し、スチーム歩留り及び最終歩留りは、下記式に基づいて算出した。
・スチーム歩留り(%)=(スチーム後の重量(g)÷スチーム前の重量(g))×100
・最終歩留り(%)=(焼成歩留り(%)×スチーム歩留り(%))÷100
また、畜肉加工食品の表面のフィルム感について、以下のように評価を行った。
○:フィルム感をほとんど感じない。
△:フィルム感を僅かに感じる。
×:フィルム感をはっきりと感じる。
さらに、実験例1と同様の方法で、テクスチャーアナライザーを用いて、加熱調理後の畜肉加工食品の硬さを測定した。結果を表9に示す。
【0052】
【表9】
【0053】
具材にアルギン酸ナトリウムを含む実施例3−1〜3−8は、アルギン酸ナトリウムを含まない比較例3と比べて、いずれも歩留りの向上及び硬化の抑制が認められ、ジューシーかつソフトな食感を有し、食品本来の味及び外観を損なわずに食感の向上効果が得られた。また、具材中にアルギン酸ナトリウム及び増粘多糖類を含む実施例3−2〜3−8は、アルギン酸ナトリウムのみを含む実施例3−1に比べ、畜肉加工食品の表面のフィルム感が軽減されており、より優れた食感を有していた。
【0054】
実験例4 畜水産加工食品(つくね)の調製4
(つくね具材)
表10及び11に記載の原料を秤量し、混合して、つくね具材を調製した。
【0055】
【表10】
【0056】
【表11】
【0057】
調製したつくね具材を50gずつに小分けし、高さ1.2cm、直径6cmの円柱状に成型し、実験例1と同処方の金属塩含有溶液に30秒間浸漬した。その後、前記具材を実験例3と同様の方法で加熱調理(焼成)して畜肉加工食品を調製し、その後加熱処理(スチーム処理)を行った。
【0058】
実験例3と同様の方法で、調製した畜肉加工食品の歩留り、硬さを測定した。また、畜肉加工食品の内部のぬめりについて、以下のように評価を行なった。
○:ぬめりを感じない。
△:ぬめりを若干感じる。
×:ぬめりをはっきりと感じる。
結果を表12に示す。
【0059】
【表12】
【0060】
具材にアルギン酸ナトリウムを含む実施例4−1及び4−2は、アルギン酸ナトリウムを含まない比較例4と比べて、いずれも歩留りの向上及び硬化の抑制が認められ、ジューシーかつソフトな食感を有し、食品本来の味及び外観を損なわずに食感の向上効果が得られた。また、具材中にアルギン酸ナトリウム及び水難溶性金属塩(リン酸一水素カルシウム)を含む実施例4−2は、アルギン酸ナトリウムのみを含む実施例4−1に比べ、畜肉加工食品の内部のぬめりが軽減されており、より優れた食感を有していた。