(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6603039
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】液体水素を投棄する配管を備えた船舶
(51)【国際特許分類】
F16L 59/147 20060101AFI20191028BHJP
B63B 25/16 20060101ALI20191028BHJP
F16L 59/075 20060101ALI20191028BHJP
【FI】
F16L59/147
B63B25/16 A
F16L59/075
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-96148(P2015-96148)
(22)【出願日】2015年5月11日
(65)【公開番号】特開2016-211665(P2016-211665A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2018年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智実
(72)【発明者】
【氏名】海野 峻太郎
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 智教
(72)【発明者】
【氏名】梅村 友章
(72)【発明者】
【氏名】小山 優
【審査官】
吉澤 伸幸
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/203470(WO,A1)
【文献】
特開平03−050497(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/203530(WO,A1)
【文献】
特公昭48−000036(JP,B1)
【文献】
実開昭53−050544(JP,U)
【文献】
特開2003−254653(JP,A)
【文献】
特開平06−156579(JP,A)
【文献】
特開平10−220681(JP,A)
【文献】
米国特許第04154446(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/147
B63B 25/16
F16L 59/075
F16L 53/00
F17C 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンクに貯留された積荷である液体水素を海上に投棄するための配管を備えた船舶において、
前記配管は、液体水素を流すための内管と、この内管との間に環状隙間を空けて配設された外管とを備え、
前記外管の先端側部分の表面積を増大させる為に、外管の先端側所定長さ部分の外周部には複数の放射状のフィンが配管の軸心方向と平行に設けられていることを特徴とする船舶。
【請求項2】
タンクに貯留された積荷である液体水素を海上に投棄するための配管を備えた船舶において、
前記配管は、液体水素を流すための内管と、この内管との間に環状隙間を空けて配設された外管とを備え、
前記外管の先端側部分の表面積を増大させる為に、外管の先端側所定長さ部分を蛇腹状のベローズ部で構成したことを特徴とする船舶。
【請求項3】
前記内管と外管の間の環状隙間に真空層を形成したことを特徴とする請求項1に記載の船舶。
【請求項4】
タンクに貯留された積荷である液体水素を海上に投棄するための配管を備えた船舶において、
前記配管は、液体水素を流すための内管と、この内管との間に環状隙間を空けて配設された外管とを備え、
前記内管と外管の間の環状隙間に水素ガスを流す水素ガス流路が形成され、
前記水素ガス流路の先端に水素ガスを噴射する噴射部を設けたことを特徴とする船舶。
【請求項5】
前記タンクに貯留された液体水素を気化させて前記水素ガス流路と噴射部に供給する水素ガス供給ラインを備えたことを特徴とする請求項4に記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンク中の液体水素を海上に投棄する配管を備えた船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
LNG等の低温液化ガスを輸送する低温液化ガス輸送船では、座礁や浸水等の緊急時、タンク内の低温液化ガスを海上に投棄することがある。
投棄用の配管を輸送船に取り付け、この配管を介して低温液化ガスを海上に投棄する。
【0003】
低温液化ガス用の配管が特許文献1、2に開示されている。
特許文献1の配管は、ウレタンフォームにより外周が被覆された一重管である。
特許文献2の配管は、低温液化ガスを内部に流すための内管と、内管との径方向隙間に真空層を形成するための外管とを備えた二重管である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−295729号公報
【特許文献2】特開昭60−192198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、天然ガスに代わる代替エネルギーとして環境負荷の少ない水素燃料の使用が推進されつつある。水素燃料も、天然ガス等の従来の燃料と同様に、液体状態で低温液化ガス輸送船により輸送される。
液体水素を投棄用の配管から投棄する間、この配管の外周部は内部を流れる液体水素により液体水素の温度(−253℃)近傍まで冷却される。
特許文献1、2のような断熱性の高い配管を用いたとしても、配管外周部の少なくとも先端は液体水素の温度近傍まで冷却される。この温度は、空気を構成する窒素や酸素の凝固点よりも低温である。そのため、配管外周部の少なくとも先端では、配管に接触した外気が冷却されて固化する。この固体空気により配管外周部の先端が閉塞されると液体水素の投棄が妨げられる虞がある。
【0006】
本発明の目的は、液体水素を海上に投棄する配管を備えた船舶において、配管外周部の先端が固体空気により閉塞されることを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、タンクに貯留された積荷である液体水素を海上に投棄するための配管を備えた船舶において、前記配管は、液体水素を流すための内管と、この内管との間に環状隙間を空けて配設された外管とを備え、前記外管の先端側部分の表面積を増大させる為に、外管の先端側所定長さ部分の外周部には複数の放射状のフィンが配管の軸心方向と平行に設けられていることを特徴としている。
【0008】
請求項2の発明は、タンクに貯留された積荷である液体水素を海上に投棄するための配管を備えた船舶において、前記配管は、液体水素を流すための内管と、この内管との間に環状隙間を空けて配設された外管とを備え、前記外管の先端側部分の表面積を増大させる為に、外管の先端側所定長さ部分を蛇腹状のベローズ部で構成したことを特徴としている。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記内管と外管の間の環状隙間に真空層を形成したことを特徴としている
。
【0010】
請求項
4の発明は、タンクに貯留された積荷である液体水素を海上に投棄する配管を備えた船舶において、前記配管は、液体水素を流すための内管と、この内管との間に環状隙間を空けて配設された外管とを備え、前記内管と外管の間の環状隙間に水素ガスを流す水素ガス流路が形成され、前記水素ガス流路の先端に水素ガスを噴射する噴射部を設けたことを特徴としている。
【0011】
請求項
5の発明は、請求項
4の発明において、前記タンクに貯留された液体水素を気化させて前記水素ガス流路と噴射部に供給する水素ガス供給ラインを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、外管の先端側所定長さ部分の外周部に設けた複数の放射状のフィンにより外管の表面積が増大するため冷熱の放出が促進される。この先端側所定長さ部分の温度は空気を構成する窒素や酸素の凝固点よりも十分に高くなる。そのため、この先端側所定長さ部分に接触した空気が固化する虞がなくなる。その結果、固体空気により配管の先端近傍が閉塞されること抑制することができる。
請求項2の発明によれば、外管の先端側所定長さ部分を構成する蛇腹状のベローズ部で
冷熱の放出が促進される。それ故、請求項1と同様の効果を奏する。
【0013】
請求項3の発明によれば、前記配管が液体水素が内部を流れる内管と外管とを有し、内管と外管の間の環状隙間に真空層を形成するため、内管と外管の間は真空断熱された状態となる。そのため、配管内を流れる液体水素の一部が昇温、気化する虞がなく、配管内における流体の気液二相流化を抑制できる。
【0014】
【0015】
請求項
4の発明によれば、前記内管と外管の間の環状隙間に水素ガスを流す水素ガス流路が形成され、前記水素ガス流路の先端に水素ガスを噴射する噴射部を備えたため、この環状隙間から空気が排除され、水素雰囲気になる。そのため、この環状隙間で空気が固化する虞がなくなり、その結果、固体空気により配管の先端近傍が閉塞されることを抑制することができる。
【0016】
請求項
5の発明によれば、前記環状隙間に水素ガス流路が形成され、前記タンクに貯留した液体水素を気化させて水素ガス流路と前記噴射部に供給する水素ガス供給ラインを備えたため、船舶の構成を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態1に係る液体水素輸送船の斜視図である。
【
図6】実施形態1の変形例に係る
図5相当図である。
【
図7】実施形態2に係る液体水素噴出前の
図5相当図である。
【
図8】実施形態2に係る液体水素噴出後の
図5相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る船舶について実施形態に基づいて説明する。以下の説明は、本発明を球形タンク方式の液体水素輸送船1に適用した場合を例にして説明する。
【0019】
まず、液体水素輸送船1の全体構造について説明する。
図1は本実施形態に係る液体水素輸送船1の全体構造を示す図である。
図1は液体水素輸送船1に座礁や浸水等の虞がある緊急時の様子を示している。
図1に示すように、液体水素輸送船1は、球形タンク2に貯留した液体水素を積荷基地(図示略)から揚荷基地(図示略)に向けて輸送する船舶である。本実施形態の液体水素輸送船1は、球形タンク2を4つ備えている。
【0020】
図2に示すように、液体水素輸送船1は基地側タンク(図示略)と球形タンク2との間で液体水素を移送するための移送システム3を備えている。
移送システム3は、各球形タンク2外部に設置されたマニホールド4と、複数の球形タンク2内部の底面近傍に夫々設置された複数のカーゴポンプ5と、マニホールド4と各カーゴポンプ5を結ぶ複数の移送配管6とを有している。マニホールド4は、ローディングアーム(図示略)に接続可能な船側継手4aと開閉弁4bとを含む。各移送配管6は開閉弁6aを含む。
【0021】
積荷基地で球形タンク2に液体水素を積荷する場合、ローディングアームの陸側継手を船側継手4aに接続し、開閉弁4b、6aを閉状態から開状態へと切替える。その後、積荷基地の液体水素を、ローディングアーム、マニホールド4、移送配管6を介して球形タンク2まで移送する。
揚荷基地で球形タンク2から液体水素を揚荷する場合、ローディングアームの陸側継手を船側継手4aに接続して開閉弁4b、6aを閉状態から開状態へと切替える。その後、カーゴポンプ5で吸い上げた液体水素を、移送配管6、マニホールド4、ローディングアームを介して揚荷基地まで移送する。
【0022】
ところで、液体水素輸送船1に座礁や浸水等の虞がある場合、球形タンク2内の液体水素を海上に投棄することがある。そのため、
図1に示すように、液体水素輸送船1は、球形タンク2内の液体水素を海上に投棄するための配管7を備えている。配管7は、マニホールド4の船側継手4aに取り付けられており、船上クレーン8により略水平姿勢に支持されている。
液体水素を海上に投棄する場合は、配管7を船側継手4aに取り付けて開閉弁4b、6aを閉状態から開状態へと切替える。その後、カーゴポンプ5で吸い上げた液体水素を、移送配管6、マニホールド4、配管7を介して海上まで移送する。尚、配管7は、緊急時に限って船側継手4aに取り付けられるものであり、通常時には液体水素輸送船1内に収容されている。
【0023】
本実施形態の配管7について詳しく説明する。
図3〜
図5に示すように、配管7は、所謂真空二重構造の配管である。
配管7は、筒状の内管7aと、内管7aとの間に所定間隔を空けて外嵌された筒状の外管7bと、内管7aの先端部と外管7bの先端部とを閉塞する環状壁部7cと、内管7aの基端部と外管7bの基端部とを閉塞するフランジ7dとを備えている。
内管7aの内部空間は、液体水素が流れる投棄流路7eとなっている。
内管7a、外管7b、環状壁部7c及びフランジ7dにより気密状に囲まれた環状空間には真空層7fが形成されている。フランジ7dは、マニホールド4の船側継手4aと接続可能に構成されている。船側継手4aのフランジ7dとの接続部近傍部分には、真空層7fに対応した真空層が設けられている。
【0024】
外管7bの外周部の先端側所定長さ部分には、外周から放射状に延びる複数、例えば8つのフィン9が設けられている。これら8つのフィン9は、外管7bの周方向に均等間隔に配設され、外管7bの先端近傍位置から基端側途中部に亙って配管7の軸心方向と略平行に夫々形成されている。
【0025】
次に、本実施形態に係る液体水素輸送船1の作用、効果について説明する。
液体水素を投棄用の配管7から投棄する間、この配管7の外周部先端は内部を流れる液体水素により冷却される。ここで、この部分には複数のフィン9が形成されており、この部分では、この部分を除いた他の部分よりも外気との接触面積が大きく、配管7から外気への放熱が促進される。そのため、この部分がその内部を流れる液体水素の温度近くまで冷却されることはなくなり、大気を構成する窒素や酸素の凝固点よりも十分に高い温度を保つ。尚、液体水素の温度は大気条件で−253℃、窒素と酸素の凝固点は夫々−210℃、−216℃である。そのため、この部分において外気が冷却、固化される虞はなく、その結果、配管7の先端近傍が固体空気により閉塞されることを抑制することができる。
また、配管7を真空二重構造としているため、配管7の内部を流れる液体水素の一部が昇温、気化する虞がなく、配管7の内部における流体の気液二相流化を抑制できる。
【0026】
本実施形態の一部を変形する例について説明する。
図6の配管7Cに示すように、フィン9の代わりに、蛇腹状のベローズ部7gを外管7bの先端側所定長さ部分に形成しても良い。
この構成によれば、平坦な部分よりも外気との接触面積が大きいベローズ部7gにより外管7bから外気への放熱が促進される。そのため、外管7bにフィン9を設けたときと同様の効果が得られる。
【0027】
次に、
図7,
図8に基づき、実施形態2に係る液体水素輸送船について説明する。
本実施形態に係る液体水素輸送船は、投棄用の配管7Aを除いて実施形態1に係る液体水素輸送船1と同じ構成を備えている。
図7に示すように、配管7Aの内管7a、外管7b、環状壁部7c、及びフランジ7dとで囲まれた環状空間には、真空層7fの代わりに窒素ガスを充填したガス封入層7hが形成されている。
【0028】
窒素ガスの凝固点は、水素の沸点(−253℃)よりも高い−210℃である。
そのため、
図8に示すように、投棄流路7eに液体水素が流れた場合、ガス封入層7hに封入されている窒素ガスが液体水素の冷熱により凝固して固体窒素層7iが形成されると共に、この固体窒素層7iと外管7bとの間に、大気よりも真空度が高い擬似真空層7jが形成される。
尚、窒素ガスの代わりに水素の沸点よりも高い凝固点を有するガスを用いてもよい。窒素ガスや炭酸ガスのような不活性ガスを用いることが望ましい。
【0029】
本実施形態に係る液体水素輸送船によれば、実施形態1に係る液体水素輸送船1と同様の効果が得られる。しかも、液体水素輸送船1のような真空層7fを形成する手間を要しない。
【0030】
次に、
図9〜
図11に基づき、実施形態3に係る液体水素輸送船1Bについて説明する。
本実施形態に係る液体水素輸送船1Bは、一部を除いて実施形態1とほぼ同じ構成を備えている。
図10,
図11に示すように、投棄用の配管7Bは内管7a、外管7b及びフランジ7dを備えているが、環状壁部7cを備えない。即ち、内管7aと外管7bの間に形成される環状隙間は配管7Bの先端側において開口している。このような構成により、水素ガスを流すための環状の水素ガス流路7kが内管7aと外管7bとの間に形成されている。
水素ガス流路7kの先端には、配管7Bの先端近傍に水素ガスを噴出するための環状の噴出部7lが形成されている。
【0031】
図9,
図11に示すように、液体水素輸送船1Bは、球形タンク2に貯留された液体水素を気化させて噴出部7lに供給するための水素ガス供給ライン10を備えている。水素供給ライン10は、開閉弁10aとポンプ10bと継手10cと蒸発器10dとを備えている。開閉弁10aと蒸発器10dは球形タンク2の外側に配置されている。ポンプ10bは球形タンク2の内部(底部)に配置されている。水素ガス供給ライン10の下流側(配管7B側)は、継手10cを介して水素ガス流路7kに接続している。開閉弁10aを閉状態から開状態へと切り替えることで、球形タンク2中の液体水素が、ポンプ10bにより吸い上げられ、水素ガス供給ライン10に流れる。液体水素は、蒸発器10dを通過することで気化する。こうして生成された水素ガスは、水素ガス供給ライン10、水素ガス流路7kを介して噴出部7lに供給される。この水素ガスは、噴出部7lから配管7Bの先端近傍へ向けて噴出する。
【0032】
本実施形態に係る液体水素輸送船1Bの作用、効果について説明する。配管7Bを介して球形タンク2内の液体水素を海上投棄する間、配管7Bの先端近傍の空気が噴出部7lから噴出された水素ガスにより排除される。即ち、この部分は水素雰囲気になる。そのため、この部分で空気が固化する虞がなく、その結果、配管7Bの先端近傍が固体空気により閉塞することを抑制することができる。また、球形タンク2の液体水素を気化させて噴出部7lから噴出するように構成したため構成を簡素化することができる。
【0033】
本実施形態の一部を変形する例について説明する。水素ガス供給ライン10に供給される水素ガスは、球形タンク2に貯留された水素ガス以外のものであってもよい。また、配管7Bの代わりに実施形態1の配管7を採用し、水素ガス供給ライン10から配管7Bの先端近傍に向けて水素ガスを直接噴出するように構成してもよい。
【0034】
その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施形態に種々の変更を付加した形態で実施可能で、本発明はそのような変更形態を包含するものである。
【符号の説明】
【0035】
1,1B 液体水素輸送船
2 球形タンク
7,7A,7B,7C 配管
7a 内管
7b 外管
7f 真空層
7g ベローズ部
7h ガス封入層
7l 噴出部
9 フィン