特許第6603043号(P6603043)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6603043芳香族ジアミン及びその中間体、並びにこれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6603043
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】芳香族ジアミン及びその中間体、並びにこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 277/66 20060101AFI20191028BHJP
【FI】
   C07D277/66CSP
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-106275(P2015-106275)
(22)【出願日】2015年5月26日
(65)【公開番号】特開2016-216428(P2016-216428A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】515087514
【氏名又は名称】セイカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(72)【発明者】
【氏名】竹田 元則
(72)【発明者】
【氏名】笠松 正裕
(72)【発明者】
【氏名】玉置 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】森 清一
(72)【発明者】
【氏名】井本 充隆
【審査官】 早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/091106(WO,A2)
【文献】 国際公開第03/074516(WO,A1)
【文献】 特開2011−001279(JP,A)
【文献】 CHEN, J. et al.,Novel polyimides containing benzimidazole for temperature proton exchange membrane fuel,Journal of Membrane Science,2015年 2月28日,483,pp. 144-154,ISSN: 0376-7388
【文献】 TOISERKANI H.,Modified Poly(ether-imide-amide)s with Pendent Benzazole Structures: Synthesis and Characterization,Journal of Applied Polymer Science,2012年,125(2),pp. 1576-1585,ISSN: 0021-8995
【文献】 TOISERKANI H. et al.,New organosoluble and thermally stable poly(amide-imide)s with benzoxazole or benzothiazole pendent,Polymers Advanced Technologies,2011年,22(11),pp. 1494-1501,ISSN: 1042-7147
【文献】 RICHARDSON, T. O. et al.,Synthesis of 7-Benzoxazol-2-yl and 7-Benzothiazol-2-yl-6-fluoroquinolines,Journal of Heterocyclic Chemistry,1998年,35(6),pp. 1301-1304,ISSN: 0022-152X
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D277/66
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物
【化1】
(式中、R、R、R及びRは、互いに独立に、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、又は炭素原子数1〜3のアルコキシ基であり、A及びBは、互いに独立に、ニトロ基又はアミノ基である)。
【請求項2】
A及びBが共にアミノ基である、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
下記式(1−e)で表される化合物の製造方法であって、
【化2】
(式中、R、R、R及びRは、互いに独立に、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、又は炭素原子数1〜3のアルコキシ基であり、Bはニトロ基又はアミノ基である)
下記式(2)で表されるニトロフェニルベンゾチアゾール化合物:
【化3】
(式中、R、R、R及びRは上記の通りであり、Xはハロゲン原子である)
と下記式(3)で示されるフェノール化合物またはその金属塩:
【化4】
(式中、Bはニトロ基又はアミノ基である)
とを反応させて上記式(1−e)で表される化合物を得る工程を含む、前記製造方法。
【請求項4】
下記式(1−f)で表される化合物の製造方法であって、
【化5】
(式中、R、R、R及びRは、互いに独立に、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、又は炭素原子数1〜3のアルコキシ基であり、Bはニトロ基又はアミノ基である)
下記式(4)で示されるアミノフェニルベンゾチアゾール化合物:
【化6】
(式中、R、R、R及びRは上記の通りであり、Xはハロゲン原子である)
と下記式(3)で示されるフェノール化合物またはその金属塩:
【化7】

(式中、Bはニトロ基又はアミノ基である)
とを反応させて上記式(1−f)で表される化合物を得る工程を含む、前記製造方法。
【請求項5】
下記式(1−a)で表される化合物の製造方法であって、
【化8】
(式中、R、R、R及びRは、互いに独立に、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、又は炭素原子数1〜3のアルコキシ基である)
下記式(1−e)又は式(1−d)で表される化合物のニトロ基を還元して上記式(1−a)で表される化合物を得る工程を含む、前記製造方法
【化9】
(式中、R、R、R及びRは、互いに独立に、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、又は炭素原子数1〜3のアルコキシ基であり、Bはニトロ基又はアミノ基である)
【化10】
(式中、R、R、R及びRは、互いに独立に、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、又は炭素原子数1〜3のアルコキシ基である)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドをはじめとした高機能性高分子および種々の有機化合物のための原料として有用なジアミノ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル及びその誘導体、及びその製造方法に関する。さらに本発明は、該ジアミン化合物の前駆体であるアミノニトロ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル、ジニトロ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル、及びこれらの誘導体、並びにこれら化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、宇宙空間などの過酷な条件下での使用に耐える高耐熱性、高破壊靱性、及び易成形性を併せ持つ高分子材料が求められている。特許文献1には、成形時に良好な加工性を保ちつつ、熱硬化により揮発成分を発生することなく高耐熱性を賦与する方法として、ポリイミドオリゴマーを加熱してフェニルエチニルフタル酸無水物等の封止剤で封止して成形した後、さらに加熱し、フェニルエチニル基を利用して架橋及び硬化させる方法が記載されている。特に、炭素繊維などとポリイミドとの複合材料を製造する際のオリゴマーの流動性を高め加工性を向上させるための改良法として、特許文献2には非対称のテトラカルボン酸無水物を用いる方法が記載されており、特許文献3にはカルド型ジアミンを用いる方法が記載されており、特許文献4にはジアミン成分が非対称の2−(4−アミノフェノキシ)−5−アミノビフェニルが記載されている。
【0003】
特に、特許文献4に記載されている2−(4−アミノフェノキシ)−5−アミノビフェニルは、高耐熱性、高破壊靱性、及び易成形性を併せ持った高分子を得るための原料であり、非対称ポリイミドの可能性を大きく広げた化合物である(非特許文献1)。また、非対称ポリイミドの多くは、ガラス転移温度の高温側では活発なセグメント運動により高い溶融流動性を示す特徴を有している(非特許文献2)。そのため、非対称ポリイミド原料となる非対称系ジアミンの開発が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許5,567,800号
【特許文献2】特開2000−219741号公報
【特許文献3】特開2006−104440号公報
【特許文献4】特開2011−1279号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】最新ポリイミド−基礎と応用− 日本ポリイミド・芳香族系高分子研究会編、P.222−230
【非特許文献2】ポリイミド・芳香族高分子 最新の進歩2013年 横田力男編、P.20−25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明は、可溶性ポリイミドの製造に好適な非対称ジアミンおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、新規な非対称ジアミンであるジアミノ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル及びその誘導体、並びに、該化合物の前駆体であるアミノニトロ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル及びジニトロ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル、並びにこれらの誘導体を製造した。さらに本発明者らは、ジアミノ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル及びその誘導体が、上述した2−(4−アミノフェノキシ)−5−アミノビフェニルに匹敵する性能を有すること、さらに製造が比較的容易であることを見出し、本発明を成すに至った。
【0008】
即ち本発明は、下記式(1)で表される化合物を提供する。
【化1】
(式中、R、R、R及びRは、互いに独立に、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、又は炭素原子数1〜3のアルコキシ基であり、A及びBは、互いに独立に、ニトロ基又はアミノ基である)。
【0009】
本発明はさらに上記式(1)で表される化合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
アミノ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル及びその誘導体は、非対称系ジアミンとして好適に使用することができ、該化合物から誘導されるポリイミドの利用分野の可能性を大きく広げ、新しい機能性材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は実施例2で製造した化合物のH−NMRスペクトルのチャートである。
図2図2は実施例2で製造した化合物の13C−NMRスペクトルのチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本発明の化合物]
本発明の化合物は下記式(1)で表される、アミノ基及び/又はニトロ基を有するベンゾチアゾール−2−イルジフェニルエーテル及びその誘導体である。
【化2】
(式中、R、R、R及びRは、互いに独立に、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、又は炭素原子数1〜3のアルコキシ基であり、A及びBは、互いに独立に、ニトロ基又はアミノ基である)。
【0013】
上記式(1)において、Aで示される基はベンゼン環の3位、4位、5位及び6位のいずれか1か所にある炭素原子に結合しており、Bで示される基はベンゼン環の2’位、3’位及び4’位のいずれか1か所にある炭素原子に結合している。前記炭素原子の位置は以下に示す通りである。
【化3】
【0014】
上記式(1)において、炭素原子数1〜6のアルキル基は分岐を有するものであってもよく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、及びヘキシル基等が挙げられる。中でも炭素原子数1〜3のアルキル基が好ましい。炭素原子数1〜3のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基が挙げられる。特に好ましくは、R、R、R及びRは、互いに独立に、水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基であるのがよく、さらに好ましくはR、R、R及びRが水素原子であるのがよい。
【0015】
上記式(1)においてA及びBが共にアミノ基である化合物は、下記式(1−a)で表され、ジアミノ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル及びその誘導体という。
【化4】
(R、R、R及びRは上記の通りである)
【0016】
上記式(1−a)で表される化合物は、特に好ましくは下記式で表される。
【化5】
(R、R、R及びRは上記の通りであり、特に好ましくは、水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基であり、さらに好ましくは水素原子である)
【0017】
上記式(1)においてA及びBが共にニトロ基である化合物は、下記式(1−b)で表され、ジニトロ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル及びその誘導体という。該化合物は、後述する通り、上記ジアミノ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル及びその誘導体(式(1−a)の化合物)の前駆体となり得る。
【化6】
(R、R、R及びRは上記の通りである)
【0018】
上記式(1)においてA又はBのいずれか一方がアミノ基でありもう一方がニトロ基である化合物は、下記式(1−c)又は式(1−d)で表され、アミノニトロ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル及びその誘導体という。該化合物は、後述する通り、上記ジアミノ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル及びその誘導体(式(1−a)の化合物)の前駆体となり得る。
【化7】
【化8】
(R、R、R及びRは上記の通りである)
【0019】
[製造方法]
(1)ジニトロ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル及びその誘導体(1−b)、及びアミノニトロ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル及びその誘導体(1−c)の製造
上記式(1−b)及び式(1−c)で表される化合物(以下、まとめて下記式(1−e)で表す)は、2−(2−クロロ−5−ニトロフェニル)ベンゾチアゾール等のニトロフェニルベンゾチアゾール化合物を、4−ニトロフェノール塩及び4−アミノフェノール等のフェノール化合物またはその金属塩と反応させることにより得ることができる。後記において製造方法1としてさらに詳細に説明する。
【化9】
(式中、R、R、R及びRは、互いに独立に、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、又は炭素原子数1〜3のアルコキシ基であり、Bはニトロ基又はアミノ基である)
【0020】
(2)アミノニトロ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル及びその誘導体(1−d)の製造
上記式(1−d)で表される化合物は、2−(2−クロロ−5−アミノフェニル)ベンゾチアゾール等のアミノフェニルベンゾチアゾール化合物を4−ニトロフェノール塩等のフェノール化合物またはその金属塩と反応させることにより得ることができる。後記において製造方法2としてさらに詳細に説明する。
【0021】
(3)ジアミノ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル及びその誘導体(1−a)の製造
上記式(1−a)で表される化合物は、2−(2−クロロ−5−アミノフェニル)ベンゾチアゾール等のアミノフェニルベンゾチアゾール化合物を4−アミノフェノール等のフェノール化合物またはその金属塩と反応させることにより得ることができる。後記において製造方法2として詳細に説明する。
また、上記式(1−a)で表される化合物は、上記式(1−b)、式(1−c)、又は式(1−d)で表される化合物のニトロ基を還元することにより得ることができる。後記において製造方法3としてさらに詳細に説明する。
【0022】
以下、上記製造方法1〜3についてさらに詳細に説明する。
【0023】
(1)製造方法1
本発明の製造方法1は、上記式(1−e)で表される化合物の製造方法である。
上記式(1−e)で表される化合物は、下記式(2)で表されるニトロフェニルベンゾチアゾール化合物:
【化10】
(式中、R、R、R及びRは上記の通りであり、Xはハロゲン原子である)
と下記式(3)で示されるフェノール化合物またはその金属塩:
【化11】
(式中、Bはニトロ基又はアミノ基である)
とを反応させ、エーテル化を経て得ることができる。
【0024】
上記式(3)で示されるフェノール化合物及びその金属塩としては、2−ニトロフェノール、3−ニトロフェノール、4−ニトロフェノール、2−アミノフェノール、3−アミノフェノール、4−アミノフェノール、2−ニトロフェノールナトリウム塩、3−ニトロフェノールナトリウム塩、4−ニトロフェノールナトリウム塩、2−アミノフェノールナトリウム塩、3−アミノフェノールナトリウム塩、4−アミノフェノールナトリウム塩、2−ニトロフェノールカリウム塩、3−ニトロフェノールカリウム塩、4−ニトロフェノールカリウム塩、2−アミノフェノールカリウム塩、3−アミノフェノールカリウム塩、4−アミノフェノールカリウム塩、2−ニトロフェノールカルシウム塩、3−ニトロフェノールカルシウム塩、4−ニトロフェノールカルシウム塩、2−アミノフェノールカルシウム塩、3−アミノフェノールカルシウム塩、及び4−アミノフェノールカルシウム塩などが挙げられる。
【0025】
上記式(2)で表されるニトロフェニルベンゾチアゾール化合物は、2−アミノチオフェノール等のアミノチオフェノール化合物(下記式(a))と2−クロロ−5−ニトロベンゾイルクロリド等のニトロベンゾイルクロリド化合物(下記式(b))とを反応させ、アミド化および環化を経て得ることができる。
【化12】
上記式(a)において、R、R、R及びRは上記の通りであり、式(b)においてXはハロゲン原子である。ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子等が挙げられ、特に好ましくは塩素原子である。
【0026】
上記式(a)で示されるアミノチオフェノール化合物としては、2−アミノチオフェノール、3−メチル−2−アミノチオフェノール、4−メチル−2−アミノチオフェノール、5−メチル−2−アミノチオフェノール、6−メチル−2−アミノチオフェノール、3−エチル−2−アミノチオフェノール、4−エチル−2−アミノチオフェノール、5−エチル−2−アミノチオフェノール、6−エチル−2−アミノチオフェノール、3−プロピル−2−アミノチオフェノール、4−プロピル−2−アミノチオフェノール、5−プロピル−2−アミノチオフェノール、6−プロピル−2−アミノチオフェノール、3−イソプロピル−2−アミノチオフェノール、4−イソプロピル−2−アミノチオフェノール、5−イソプロピル−2−アミノチオフェノール、6−イソプロピル−2−アミノチオフェノール、3,4−ジメチル−2−アミノチオフェノール、3,5−ジメチル−2−アミノチオフェノール、3,6−ジメチル−2−アミノチオフェノール、3,4,5−トリメチル−2−アミノチオフェノール、3,4,6−トリメチル−2−アミノチオフェノール、3,5,6−トリメチル−2−アミノチオフェノール、3,4,5,6−テトラメチル−2−アミノチオフェノール、3,4−ジエチル−2−アミノチオフェノール、3,5−ジエチル−2−アミノチオフェノール、3,6−ジエチル−2−アミノチオフェノール、3,4,5−トリエチル−2−アミノチオフェノール、3,4,6−トリエチル−2−アミノチオフェノール、3,5,6−トリエチル−2−アミノチオフェノール、3,4,5,6−テトラエチル−2−アミノチオフェノール、3,4−ジプロピル−2−アミノチオフェノール、3,5−ジプロピル−2−アミノチオフェノール、3,6−ジプロピル−2−アミノチオフェノール、3,4,5−トリプロピル−2−アミノチオフェノール、3,4,6−トリプロピル−2−アミノチオフェノール、3,5,6−トリプロピル−2−アミノチオフェノール、3,4,5,6−テトラプロピル−2−アミノチオフェノール、3,4−ジイソプロピル−2−アミノチオフェノール、3,5−ジイソプロピル−2−アミノチオフェノール、3,6−ジイソプロピル−2−アミノチオフェノール、3,4,5−トリイソプロピル−2−アミノチオフェノール、3,4,6−トリイソプロピル−2−アミノチオフェノール、3,5,6−トリイソプロピル−2−アミノチオフェノール、3,4,5,6−テトライソプロピル−2−アミノチオフェノールなどが挙げられる。
【0027】
上記式(b)で示されるニトロベンゾイルクロリド化合物としては、2−クロロ−3−ニトロベンゾイルクロリド、2−クロロ−4−ニトロベンゾイルクロリド、2−クロロ−5−ニトロベンゾイルクロリド、2−クロロ−6−ニトロベンゾイルクロリド、2−ブロモ−3−ニトロベンゾイルクロリド、2−ブロモ−4−ニトロベンゾイルクロリド、2−ブロモ−5−ニトロベンゾイルクロリド、2−ブロモ−6−ニトロベンゾイルクロリド、2−ヨード−3−ニトロベンゾイルクロリド、2−ヨード−4−ニトロベンゾイルクロリド、2−ヨード−5−ニトロベンゾイルクロリド、及び2−ヨード−6−ニトロベンゾイルクロリド等が挙げられる。
【0028】
(2)製造方法2
本発明の製造方法2は、上記式(1−d)で表される化合物及び上記式(1−a)で表される化合物(以下、まとめて下記式(1−f)で表す)の製造方法である。
【化13】
(式中、R、R、R及びRは、上記の通りであり、Bはニトロ基又はアミノ基である)
【0029】
上記式(1−f)で表される化合物は、下記式(4)で表されるアミノフェニルベンゾチアゾール化合物:
【化14】
(式中、R、R、R及びRは上記の通りであり、Xはハロゲン原子である)
と下記式(3)で示されるフェノール化合物またはその金属塩:
【化15】
(式中、Bはニトロ基またはアミノ基である)
とを反応させ、エーテル化を経て得ることができる。
【0030】
上記式(3)で示されるフェノール化合物及びその金属塩としては、上記製造方法(1)で例示した化合物が挙げられる。
【0031】
上記式(4)で表されるアミノフェニルベンゾチアゾール化合物は、2−アミノチオフェノール等のアミノチオフェノール化合物(下記式(a))と2−クロロ−5−アミノベンゾイルクロリド等のアミノベンゾイルクロリド化合物(下記式(c))とを反応させ、アミド化および環化を経て得ることができる。
【化16】
上記式(a)において、R、R、R及びRは上記の通りであり、式(c)においてXはハロゲン原子である。ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子等が挙げられ、特に好ましくは塩素原子である。
【0032】
上記式(c)で示されるアミノベンゾイルクロリド化合物としては、2−クロロ−3−アミノベンゾイルクロリド、2−クロロ−4−アミノベンゾイルクロリド、2−クロロ−5−アミノベンゾイルクロリド、2−クロロ−6−アミノベンゾイルクロリド、2−ブロモ−3−アミノベンゾイルクロリド、2−ブロモ−4−アミノベンゾイルクロリド、2−ブロモ−5−アミノベンゾイルクロリド、2−ブロモ−6−アミノベンゾイルクロリド、2−ヨード−3−アミノベンゾイルクロリド、2−ヨード−4−アミノベンゾイルクロリド、2−ヨード−5−アミノベンゾイルクロリド、及び2−ヨード−6−アミノベンゾイルクロリド等が挙げられる。
【0033】
上記製造方法1及び2において、アミド化及び環化反応に供する各原料化合物の量比は、アミノチオフェノール化合物(式(a))1モルに対しベンゾイルクロリド化合物(式(b)又は(c))を好ましくは0.8〜1.5モル、さらに好ましくは1〜1.1モルとなる量比がよい。
【0034】
上記製造方法1及び2において、アミド化及び環化反応は溶剤存在下で行うことができる。該溶剤の種類及び量は公知の方法に従い適宜選択されればよい。例えば、非プロトン性極性溶剤を使用することができる。非プロトン性極性溶剤としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、及びヘキサメチルホスホルトリアミドなどが挙げられる。
【0035】
上記製造方法1及び2において、環化反応には、脱水剤としてポリリン酸を使用する方法や、酸触媒の存在下にトルエン、キシレンなどを共存させて反応中に生成する水を共沸により除去する方法などが使用できる。
【0036】
上記製造方法1及び2において、アミド化及び環化の反応温度及び時間は公知の方法に従い適宜選択すればよい。例えば、アミド化は、0〜100℃の範囲にある温度、好ましくは0〜50℃の範囲にある温度で1〜10時間、好ましくは2〜5時間行えばよい。環化反応は、例えば、0〜150℃の範囲にある温度、好ましくは30〜100℃の範囲にある温度で1〜10時間、好ましくは2〜5時間行えばよい。反応生成物の処理方法は特に制限されるものでない。例えば、反応液にメタノールを滴下して反応を終了させ、冷却後、生成した固体を濾過、水洗、乾燥することにより、上記式(2)又は(4)で表される化合物を得ることができる。
【0037】
上記製造方法1及び2において、エーテル化反応に供する各原料化合物の量比は、ベンゾチアゾール化合物(式(2)又は(4))1モルに対しフェノール化合物(式(3))またはその金属塩を好ましくは0.8〜1.3モル、さらに好ましくは1.0〜1.2モルとなる量比がよい。
【0038】
上記製造方法1及び2において、エーテル化反応は溶剤存在下で行うことができる。該溶剤は、例えばN−メチルピロリドンを使用することができる。エーテル化の反応温度及び時間は適宜調整すればよい。例えば、100〜200℃の範囲にある温度、好ましくは120〜150℃の範囲にある温度で、0.5〜10時間、好ましくは1〜5時間反応させればよい。反応生成物の処理方法は特に制限されるものでない。例えば、反応液をメタノール水溶液に添加して反応を終了させ、その後、生成した固体を濾過、水洗、乾燥した後、さらに精製することにより、上記式(1−e)または(1−f)の化合物を得ることができる。
【0039】
(3)製造方法3
本発明の製造方法3は、上記式(1−a)で表される化合物の製造方法である。上記式(1−a)で表される化合物は、上記式(1−b)、式(1−c)、又は式(1−d)で表される化合物のニトロ基を還元することにより得ることができる。該式(1−b)、式(1−c)、及び式(1−d)で表される化合物は上記製造方法1または2により製造される。従って、本発明の製造方法3は、還元反応工程の前に、上記製造方法1又は2により上記式(1−b)、式(1−c)、又は式(1−d)で表される化合物を得る工程を含んでいてよい。
【0040】
本発明の製造方法3における還元反応は、接触還元、ベシャン還元、亜鉛末還元、塩化スズ還元、及びヒドラジン還元などであってよい。特に好ましくは、接触還元又はヒドラジン還元である。
【0041】
還元反応に用いられる溶剤は、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−メトキシエタノール、及び2−エトキシエタノールなどのアルコール系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノンなどのアミド系溶剤、及び、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、及びジエチレングリコールなどのエーテル系溶剤が挙げられる。溶剤の量は適宜調整されればよい。
【0042】
還元反応に使用される触媒は上記各還元反応の触媒として公知の触媒を使用すればよい。例えば、接触還元またはヒドラジン還元に用いられる触媒としては、活性炭、カーボンブラック、グラファイト、アルミナなどに担持させたパラジウム、白金、ロジウムなどの貴金属触媒、ラネーニッケル触媒、及びスポンジニッケル触媒が挙げられる。触媒の量は特に制限されるものでないが、通常0.1〜10wt%である。
【0043】
還元反応の反応温度及び時間は適宜選択されればよい。例えば、50〜150℃の範囲にある温度、好ましくは60〜130℃の範囲にある温度で、1〜10時間、好ましくは3〜7時間反応させればよい。反応終了後は、例えば、触媒を除去し、冷却した後、生成した固体を濾過、水洗、乾燥することにより、上記式(1−a)で示される化合物を得ることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
下記実施例においてHPLC測定にはSHIMADZU製SPD−10Aを使用し、融点測定にはYAMATO製MP−21を使用した。
【0045】
[合成例1]
2−(2−クロロ−5−ニトロフェニル)ベンゾチアゾールの合成
温度計、玉入り冷却管を取り付けた200mL四つ口フラスコに、2−アミノチオフェノール8.1gとN−メチルピロリドン40gを仕込み溶解させ、内温を10〜15℃に保ちつつ、2−クロロ−5−ニトロベンゾイルクロリド15.0gとN−メチルピロリドン25gの溶解液を0.5時間で滴下した。2時間撹拌した後、50℃まで昇温し、その温度で3時間反応させた。メタノール65gを滴下し、35℃まで冷却した後、生成した固体を濾過し、水洗し、次いで乾燥して、2−(2−クロロ−5−ニトロフェニル)ベンゾチアゾール15.6gを得た。HPLCで測定した純度は99.3%であり、mp.は189.0〜190.5℃であった。
【0046】
[実施例1]
2−(ベンゾチアゾール−2−イル)−4,4’−ジニトロジフェニルエーテルの合成
温度計、玉入り冷却管を取り付けた100mL四つ口フラスコに、合成例1で得た2−(2−クロロ−5−ニトロフェニル)ベンゾチアゾール5.0g、4−ニトロフェノールソーダ3.8g(純度97.8%)、及びN−メチルピロリドン50gを仕込み、120〜125℃で1時間反応させた。該反応液を70%メタノール水75gに加え、生成した固体を濾過し、水洗し、次いで乾燥して、2−(2−ベンゾチアゾール−2−イル)−4,4’−ジニトロジフェニルエーテルの粗生成物6.2gを得た。HPLCで測定した純度は98.9%であった。該粗生成物を活性炭により脱色し、N−メチルピロリドンより再結晶して、精製された2−(ベンゾチアゾール−2−イル)−4,4’−ジニトロジフェニルエーテル5.7gを得た。HPLCで測定した純度は99.4%であり、mp.は239.0〜240.5℃であった。
【0047】
[実施例2]
4,4’−ジアミノ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテルの合成
温度計、玉入り冷却管を取り付けた200mL四つ口フラスコに、実施例1で得た精製された2−(ベンゾチアゾール−2−イル)−4,4’−ジニトロジフェニルエーテル3.0g、5%Pd/C0.05g、及び2−メトキシエタノール100gを仕込み、還流温度でヒドラジン水溶液5.0gを0.5時間で滴下し、6時間反応させた。該反応液より触媒を除去した後、2−メトキシエタノール50gを留去し、30℃まで冷却した。その後、生成した固体を濾過し、固体を水洗し、次いで乾燥して、淡黄緑色粉末である生成物2.3gを得た。HPLCで測定した純度は99.6%であり、mp.は195.5〜197.0℃であった。
【0048】
上記で得られた生成物について、(i)H核磁気共鳴スペクトル分析、(ii)13C核磁気共鳴スペクトル分析、及び(iii)質量分析を行った。
H核磁気共鳴スペクトル分析および、13C核磁気共鳴スペクトル分析には、Bruker Biospin製AVANCE400型を用い、共鳴周波数400MHzで測定した。測定溶媒はジメチルスルホキシド−d6であった。
・質量分析には、SHIMADZU製AXIMA Confidenceを使用した。
以下に示す結果より、得られた固体生成物は4,4’−ジアミノ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテルであった。
(i)H核磁気共鳴スペクトル分析結果は以下の通りである。H−NMRスペクトルのチャートを図1に示す。
δ4.9ppm(2H)および5.2ppm(2H)にアミノ基のプロトンのシングレット、δ6.6ppm(2H)にベンゼン核のプロトンのダブレット、δ6.7〜6.8ppm(4H)にベンゼン核のプロトン、およびベンゾチアゾール基のついたベンゼン核のプロトンのマルチプレット、δ7.7ppm(1H)にベンゾチアゾール基のついたベンゼン核のプロトンのトリプレット、δ7.4ppm(1H)、7.5ppm(1H)、8.0ppm(1H)および8.1ppm(1H)にベンゾチアゾール基のベンゼン核のトリプレット、トリプレット、ダブレット、およびダブレットが確認された。
(ii)13C核磁気共鳴スペクトル分析の結果、16本のピークが確認された。13C−NMRスペクトルのチャートを図2に示す。
(iii)質量分析の結果、333にメインピークが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明により提供されるジアミノ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル及びその誘導体は、新たな非対称系ジアミンとして好適に使用することができ、該化合物から誘導されるポリイミド分野の可能性を大きく広げ、新しい機能性材料としての可能性が期待できる。また、ジニトロ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル及びアミノニトロ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル、並びにこれらの誘導体は、上記ジアミノ−2−(ベンゾチアゾール−2−イル)ジフェニルエーテル及びその誘導体の前駆体として使用することができ、上記非対称ジアミン化合物と同様にポリイミド分野の可能性を大きく広げることが期待できる。
図1
図2