(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
魚釣用リールでは、リール本体に形成される収容部内に設けられる駆動部への浸水を防止し、水等が浸入し易い過酷な環境下においても常に安定した駆動性能を得るために、駆動部にシール機構が設けられる。シール機構の一種として、例えば、特許文献1から特許文献3に開示される磁気シール機構が知られている。
【0003】
特許文献1には、リール本体に形成される収容部内に設けられる駆動部への浸水を防止し、水等が浸入し易い過酷な環境下においても常に安定した駆動性能を得るために、磁気シール機構が用いられた魚釣用リールが記載されている。
また、特許文献2には、軸受けに用いられるグリスとこれをシールする磁気シール機構の磁性流体が混ざり合うことを防止する技術が記載されている。特許文献2の魚釣用リールは、ハンドルの回転操作に伴って回転駆動される磁性を有する駆動部と、駆動部に配設される一方向クラッチと、一方向クラッチをシールするように配設される磁気シール機構とを備えている。磁気シール機構は、駆動部に対して所定間隔をおいて配置される磁石と、磁石を挟持して保持する一対の極板と、磁石、極板および駆動部によって形成される磁気回路に保持される磁性流体とを備えており、駆動部には、磁性流体と一方向クラッチとの間に溝が形成されている。
【0004】
特許文献3には、磁気シール機構を備えるインテグラル型軸受装置が記載されている。特許文献3のインテグラル型軸受装置は、シャフトを内輪とする構成の軸受け本体と、この軸受け本体の一側でシャフト周りの空間を密封する磁性流体シールとからなるインテグラル型軸受装置において、磁性流体シールと軸受本体との間に相当するシャフトの外周面に溝が形成されている。溝は、環状もしくは螺旋状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2および特許文献3はいずれも、回転軸が磁性体であって、回転軸に直に磁性流体が接触する構造である。特許文献1でも、磁気シール機構が軸受に組み込まれる構造以外では、回転軸が磁性体である。回転軸に溝を形成するので、回転軸の強度が低下しないように軸の径を大きくしたり、強度の大きい材料を用いたりする必要がある。また、回転軸が磁性体でない場合には、適用できなかった。特許文献1の軸受に組み込まれる磁気シール機構でも、軸受の内輪は回転軸と同等であって、同様の問題がある。
【0007】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであって、回転軸を制約することなく、磁気シール機構からシールする対象に磁性流体が流出するのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明
の観点に係る
魚釣用リールは、リール本体と、リール本体に回転可能に支持される回転軸と、回転軸に嵌合し、回転軸の一方向の回転を制限する一方向クラッチと、回転軸に嵌合して回転軸とともに回転し、回転軸に接する部分が一方向クラッチの側に延びるボス部を含む回転体と、開口部から回転軸を突出させて回転軸を部分的に収容し、リール本体に対して固定される収容部と、収容部の開口部で収容部と回転軸の間をシールする磁気シール機構と、を備える。
磁気シール機構は、一方向クラッチが嵌合されて一方向の回転が制限される回転軸に、一方向クラッチとは別体で回転軸の外周に接して嵌合される、外形が円筒部を有する磁性カラーと、磁性カラーの円筒部の外周面に間隙を空けて配置される環状磁石と、円筒部の外周面で、環状磁石および磁性カラーで磁気回路を形成し、環状磁石と磁性カラーとの間に保持される磁性流体と、を備え
る。磁性カラーの円筒部は、ボス部の回転方向外周に一巡して形成され、磁性カラーは、円筒部から半径方向内周に向かって延び、かつ、回転軸の外周に接する円環板状の部分を含み、磁性カラーは、外周面に、周方向の全周に亘る溝部、および、周方向の全周に亘って外径が円筒部の外径以上であるフランジ部、が形成されている。
磁気シール機構は、溝部が環状磁石より収容部の内部側に位置する向きで配置される。
【0009】
好ましくは、溝部およびフランジ部は、磁性カラーの外周面上で、環状磁石との対向領域以外の非対向領域に形成されている。
【0010】
好ましくは、溝部は、対向領域に隣接して形成されている。
【0011】
好ましくは、フランジ部は、溝部の対向領域と反対側に、溝部に隣接して形成されている。
【0012】
溝部は、それぞれが周方向の全周に亘る複数の溝からなっていてもよい。
【0013】
磁気シール機構は、溝部またはフランジ部の外周面に対向する、磁性流体を吸収可能な環状部材を備えてもよい。環状部材の内径は、磁性カラーの外径より大きくてもよい。
【0014】
磁気シール機構は、溝部またはフランジ部の外周面に対向する、環状の遮蔽部材を備えていてもよい。遮蔽部材は、溝部またはフランジ部の外周面に対向して、溝部から磁性流体が保持される部分に向かうにつれて内径が小さく、かつ、厚さが薄くなるように形成されてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、外周面に、周方向の全周に亘る溝部、および、周方向の全周に亘って外径が円筒部の外径以上であるフランジ部、が形成された磁性カラーを回転軸に嵌合させ、環状磁石および磁性カラーで磁気回路を形成し、環状磁石と磁性カラーとの間に磁性流体を保持するので、回転軸を制約することなく、磁気シール機構からシールする対象に磁性流体が流出するのを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る魚釣用リールの断面図である。実施の形態では、魚釣用リールとしてスピニングリール100を対象とする。スピニングリール100は、
図1に向かって左方向が釣り竿の先端(前方)に向かうように、釣り竿に取り付けられる。スピニングリール100は、リール本体1、ロータ11、スプール12およびハンドル13を備える。スプール12に巻かれた釣り糸(図示せず)は、前方すなわち
図1の左方向に繰り出される。
【0019】
ロータ11は、クランクであるハンドル13を回すことによって、前後方向すなわち
図1の左右方向に延びる中心軸の周りに回転する。ハンドル13を回すとロータ11の回転と同期してスプール12が前後方向に往復動する。その動作によって、繰り出されていた釣り糸はロータ11に案内されてスプール12の円筒面に均されて巻き付けられる。
【0020】
ロータ11は、ピニオンギア3の取付部32に嵌合してピニオンギア3に固定され、ピニオンギア3とともに回転する。ピニオンギア3は、リール本体1に回転可能に支持される。ピニオンギア3は中空の筒状で、ピニオンギア3を貫通してスプール軸2が配置される。スプール軸2とピニオンギア3は、相対的に回転および往復動する。スプール軸2の先端側には、ドラグ機構16を介してスプール12が装着されている。スプール軸2の後端側は、オシレーティング機構15に接続されている。
【0021】
ハンドル13はクランクになっており、クランク軸に駆動ギア14が取り付けられている。駆動ギア14は、例えば、かさ歯車で、ピニオンギア3のギア部31と噛み合っている。オシレーティング機構15は、ピニオンギア3と同期して回転する。オシレーティング機構15が回転すると、スプール軸2を前後方向に往復動させる。スプール軸2の後端側、ピニオンギア3のギア部31側、駆動ギア14およびオシレーティング機構15は、リール本体1に収容されている。
【0022】
ピニオンギア3が一方向にのみ回転するように、ピニオンギア3と収容部材4の間に一方向クラッチ5が配置されている。収容部材4は、リール本体1に固定される。一方向クラッチ5の内輪は、ピニオンギア3に嵌合してピニオンギア3とともに回転する。一方向クラッチ5の外輪は、収容部材4に嵌合して固定される。
【0023】
一方向クラッチ5は、例えばローラ式のワンウェイクラッチである。ローラ式のワンウェイクラッチは外輪、内輪、ローラおよびスプリングから構成され、外輪の内周または内輪の外周にカム面が形成されている。カム面に対向してローラが配置され、スプリングによって外輪のカム面と内輪の外周、あるいは内輪のカム面と外輪の内周に接触するように保たれている。外輪に対して内輪がカム面の狭くなる方向に回転しようとするとカム面とローラとの接触面圧が高くなり、抵抗となって内輪は外輪に対して回転しない。内輪が逆方向に回転しようとすると、カム面とローラとの接触面圧が低くなり、ローラは遊転して内輪は外輪に対して回転する。その結果、ピニオンギア3は一方向にのみ回転する。
【0024】
一方向クラッチ5は、蓋部材6で収容部材4に保持される。蓋部材6は、ピニオンギア3とロータ11のピニオンギア3に嵌合する部分であるボス部で構成される回転部分を除いて、収容部材4の前面を覆っている。蓋部材6は、回転部分に接触しないように固定される。
【0025】
蓋部材6とロータ11のボス部との間をシールするために、環状の磁石8および磁性板9a、9bを含む磁気シール機構が配置される。また、ピニオンギア3の回転方向外周に一巡する環状に形成された磁性カラー7が、ピニオンギア3に嵌合されている。磁性カラー7は磁性体で形成され、磁性カラー7の外周面と磁石8および磁性板9a、9bの内周面とは対向し、磁性カラー7と磁石8および磁性板9a、9bの間には隙間がある。磁性カラー7の、磁石8および磁性板9a、9bと対向する部分の外形は円筒である。磁石8、磁性板9a、9bおよび磁性カラー7で磁気回路が形成される。磁性カラー7と磁性板9a、9bの間に磁性流体が保持されて、蓋部材6と磁性カラー7(ボス部)との間がシールされる。
【0026】
ロータ11のボス部および磁性カラー7は、ピニオンギア3に相対回転しないように嵌合される。蓋部材6と収容部材4は、回転軸であるピニオンギア3とボス部および磁性カラー7を開口部から突出させて、ピニオンギア3を部分的に収容する収容部を構成する。蓋部材6と収容部材4は、リール本体1に対して固定される。磁気シール機構は、収容部の開口部で収容部と回転軸の間をシールするものである。
【0027】
図2は、実施の形態1に係る磁気シール機構部分の断面図である。
図2では、スプール軸2の中心線に対して片側だけが示されている。
【0028】
ロータ11は、円筒部111、壁部112およびボス部113から構成される。これらは1つの部材によって一体的に形成されている。円筒部111は、円筒状の部材であって、内部に収容空間が形成されている。壁部112は、円形の板状に形成されており、中央に開口部を有する。壁部112の外周は、円筒部111の内周と連結している。ボス部113は、壁部112の内周側端部から一方向クラッチ5側に延びている。ボス部113は、ピニオンギア3の取付部32に嵌合して固定され、ロータ11はピニオンギア3とともに回転する。
【0029】
収容部材4は、リール本体1の前方に、リール本体1に対して回転しないように、例えばネジで固定される。収容部材4の内部に一方向クラッチ5が収容される。蓋部材6は、収容部材4の外周を覆う円筒部と、収容部材4の前面を覆う蓋部とから構成される環状の部材である。蓋部材6は、蓋部で一方向クラッチ5を収容部材4の内部空間に保持する。蓋部材6は、例えばネジで、リール本体1に固定される。蓋部材6の円筒部の端部とリール本体1との間にOリング17が介在している。蓋部材6の内周面は、磁性カラー7の外周面と間隔をあけて対向する。
【0030】
磁性カラー7は、ボス部113の回転方向外周に一巡する環状に形成され、ボス部113に嵌合している。
図2の例では、磁性カラー7はピニオンギア3の外周に接する円環板状の部分を含む。磁性カラー7は、内周でピニオンギア3に嵌合しており、磁性カラー7の外周面は磁性カラー7および磁性カラー7とピニオンギア3の嵌め合いで規定される。
【0031】
磁性カラー7の円筒部71に間隙を有し外周面に対向して、磁石8が配置される。磁石8は環状に形成されている。また、磁性カラー7の円筒部71に間隙を有し外周面に対向して、磁性板9a、9bが配置される。磁性板9a、9bはともに、磁性カラー7の回転半径方向の外周を囲む環状である。磁性板9aおよび9bは、磁石8を回転軸の方向に挟持している。磁石8の蓋部材6(収容部)側に配置される磁性板9aの外径は、磁石8の蓋部材6とは反対側に配置される磁性板9bの外径より大きい。
【0032】
磁石8、磁性板9aおよび磁性板9bは、例えば接着剤で相互に固定され、磁石構成体を形成する。磁性板9aが、固定部材、例えばネジ91で蓋部材6に締結されて、磁石構成体は蓋部材6に固定される。ネジ91は、蓋部材6に形成されたネジ穴に螺合するネジ部と、磁性板9aを押さえるネジ頭を有する。ネジ91は、ピニオンギア3の中心軸を中心とする円周上に等間隔に2つ以上配置される。蓋部材6のロータ11側の端面は平面である。
【0033】
磁石8および磁性板9a、9bの内周と磁性カラー7の間には隙間がある。その隙間に磁性流体10が配置される。磁性カラー7、磁石8、磁性板9a、9bおよび磁性流体10は磁気シール機構を構成する。
【0034】
磁石8、磁性板9a、磁性カラー7および磁性板9bで磁気回路が形成される。磁性流体10は、たとえば炭化水素油やフッ素油ベースの溶媒に粒径が数nm〜十数nmの強磁性体微粒子を界面活性剤を用いて安定に分散させた物質である。磁性カラー7の磁石8と磁性板9a、9bに対向する部分が磁化されるので、磁性流体10は磁石8、磁性板9a、9bおよび磁性カラー7で囲まれる領域に保持される。磁石8および磁性板9a、9bと磁性カラー7の間の隙間は磁性流体10でシールされ、異物が円筒部111の収容空間から一方向クラッチ5側に浸入するのを防止する。この磁気シール機構は、磁性カラー7の周りを液体で取り囲むため、気体に対して高い密封性がある。また、シール部分での固体接触がないので、ダストの発生がない。さらにシール部分に固体摺動がないので、損失トルクが小さく回転性能が低下しにくい。
【0035】
図2では、磁性流体10が磁石8、磁性板9a、9bおよび磁性カラー7で囲まれる領域全体に満たされているが、磁性流体10は、磁性板9aと磁性カラー7との間、または、磁性板9bと磁性カラー7との間にだけ保持されてもよい。また、磁性板9aと磁性カラー7との間、および、磁性板9bと磁性カラー7との間の2つの部分に分けて、磁性流体10が保持されてもよい。
【0036】
磁石8の磁力線は、磁性板9a、9bおよび磁性カラー7に引き寄せられてその中を通るので、一方向クラッチ5側に磁石8の磁束が漏れることはない。そのため、一方向クラッチ5の内輪51は磁化されることがなく、一方向クラッチ5の作動に磁石8の影響が及ぶことはない。その結果、本実施の形態によれば、一方向クラッチ5としての機能を低下させることなく、組み立ても容易で安定した防水性能を維持することができる。
【0037】
ところで、例えば、スピニングリール100に衝撃など何らかの外力が加わると、磁石8、磁性板9a、9bおよび磁性カラー7で囲まれる領域から、磁性流体10の一部が移動する可能性がある。磁性流体10が、例えば、一方向クラッチ5に流出すると、一方向クラッチ5の一部が磁化され、ローラがカム面の接触面圧が高い方または低い方のいずれかに磁力で引きつけられるおそれがある。その場合、一方向クラッチ5の回転を止めるべきときに拘束できなかったり、回転すべきときの抵抗が増大するおそれがある。また、一方向クラッチ5または軸受の潤滑剤と磁性流体10とは成分が異なり、潤滑剤に磁性流体10が混じると、潤滑および被覆保護などの潤滑剤の適正な性質が損なわれる。
【0038】
そこで、磁性流体10が一方向クラッチ5または軸受など、磁気シール機構のシールする対象に流出することを防止する必要がある。実施の形態1では、磁性カラー7の外周面に、周方向の全周に亘る溝部72、および、周方向の全周に亘って外径が磁性カラー7の円筒部の外径以上であるフランジ部73、が形成されている。
【0039】
図3は、実施の形態1に係る磁気シール機構部分の拡大断面図である。
図3は、スプール軸2に対して片側だけが示されている。なお、
図3の構成では、磁性板9aと蓋部材6の間に、Oリング18が介在している。
【0040】
磁性カラー7は、円筒部71、溝部72およびフランジ部73が形成されている。磁性カラー7の、磁石8および磁性板9a、9bと対向する部分は、円筒部71である。溝部72は、磁性カラー7の外周面に、周方向の全周に亘って形成されている。フランジ部73は、磁性カラー7の周方向の全周に亘って外径が円筒部71の外径以上である。
【0041】
溝部72およびフランジ部73は、磁性カラー7の外周面上で、磁石8および磁性板9a、9bとの対向領域以外の非対向領域に形成されている。溝部72は、磁石8および磁性板9a、9bとの対向領域に隣接して形成されている。すなわち、円筒部71から外径が大きくなることなく、溝部72につながっている。溝部72と円筒部71の間に、円筒部71より外径が大きい部分が形成されていてもよい。
【0042】
フランジ部73は、溝部72の対向領域と反対側に、溝部72に隣接して形成されている。すなわち、溝部72の対向領域と反対側で円筒部71と同じ外径になったところから、フランジ部73になっている。溝部72とフランジ部73の間に、円筒部71と同じ外径の部分が形成されていてもよい。
【0043】
溝部72は、移動した磁性流体10を保持するだけの容積があればどのような形状でも構わない。溝部72の断面形状は、磁性流体10がフランジ部73に移動しにくいように、フランジ部73側の傾斜を軸に直交する向きに近く形成するのが好ましい。また、磁性流体10が対向領域に戻りやすいように、対向領域側の傾斜をフランジ部73側の面よりなだらかに形成するのが好ましい。
【0044】
実施の形態1の磁気シール機構によれば、磁性カラー7には、溝部72およびフランジ部73が形成されているので、磁性流体10の一部が円筒部71から蓋部材6の側に移動しても溝部72に溜まり、フランジ部73を超えて一方向クラッチ5に流出することがない。溝部72に溜まった磁性流体10は、円筒部71側への外力が加わったときに、磁石8および磁性板9a、9bとの対向領域に戻る。そして、ピニオンギア3の材料や強度は磁気シール機構のために制約されることがない。
【0045】
[実施の形態2]
図4は、本発明の実施の形態2に係る磁気シール機構部分の拡大断面図である。
図4は、スプール軸2に対して片側だけが示されている。実施の形態2では、磁性カラー7の溝部72が複数の溝から構成される。その他の構成は、実施の形態1と同様である。
図4では、磁性板9aと磁性カラー7との間、および、磁性板9bと磁性カラー7との間の2つの部分に分けて、磁性流体10が保持される例が示されている。
【0046】
図4の例では、溝部72は3条の溝からなる。複数の溝の幅と深さは異なっていてもよいし、同じでもよい。また、溝の間に円筒部71の外径以上の部分があってもよい。溝はそれぞれ環状でもよいし、一部または全部が螺旋でもよい。例えば、円筒部71側の溝とフランジ部73側の溝を環状に形成し、中間の溝を螺旋に形成してもよい。溝を螺旋だけで形成する場合は、フランジ部73の外径を円筒部71の外径より大きくすることが好ましい。
【0047】
溝の一部または全部を螺旋で形成する場合、ロータ11が回転したときに溝部72に溜まった磁性流体10が、磁石8および磁性板9a、9bとの対向領域側に移動する向きに螺旋を形成することが好ましい。例えば、スピニングリール100を前方から見て、釣り糸を巻き取るときにロータ11が時計回りに回転する場合は螺旋を右ねじに、ロータ11が反時計回りに回転する場合は螺旋を左ねじに形成するのが好ましい。
【0048】
実施の形態2の磁気シール機構によれば、溝部72を複数の溝で構成するので、磁性流体10がさらにフランジ部73側に移動しにくく、フランジ部73を超えて一方向クラッチ5に流出するのをより確実に防止できる。
【0049】
[実施の形態3]
図5は、本発明の実施の形態3に係る磁気シール機構部分の拡大断面図である。
図5は、スプール軸2に対して片側だけが示されている。実施の形態3では、実施の形態1の構成に加えて、溝部72またはフランジ部73の外周面に対向して、磁性流体10を吸収可能な環状部材19を備える。環状部材19は、磁性カラー7の溝部72またはフランジ部73の外周を一巡して取り巻く環状に形成されている。環状部材19は、例えば、磁性流体10を吸収しやすいフェルトなどの不織布で形成されている。環状部材19の材質は、フェルトに限らず、磁性流体10を吸収できる材料であればよい。
【0050】
好ましくは、環状部材19の内径を磁性カラー7の外径より大きく形成する。磁性流体10の全部が、磁性カラー7と磁石8および磁性板9a、9bとの対向領域に保持されている状態で、環状部材19の内径を環状部材19が磁性流体10に接触しない大きさにし、環状部材19が磁性流体10に接触しないように配置する。
図5では、環状部材19が半径方向に偏っても、磁性流体10に接触しない大きさになっている。磁性カラー7に、円筒部71より外径が大きい部分があれば、環状部材19の内径が磁性カラー7の外径より小さい場合があり得る。例えば、フランジ部73の外径が円筒部71の外径より大きく、環状部材19がフランジ部73の外周に対向していなければ、環状部材19の内径がフランジ部73の外径より小さくてもよい。
【0051】
環状部材19は、Oリング18に代えて、あるいは、Oリング18とともに設けられる。
図5では、Oリング18のない構成が示されている。Oリング18を設ける場合は、ピニオンギア3の回転半径方向外側にOリング18を配置し、Oリング18の内側に環状部材19を配置する。
【0052】
実施の形態3の磁気シール機構によれば、ピニオンギア3の回転半径方向に移動する磁性流体10は、環状部材19に吸収されるので、磁性流体10が一方向クラッチ5に流出するのをより確実に防止できる。
【0053】
[実施の形態4]
図6は、本発明の実施の形態4に係る磁気シール機構部分の拡大断面図である。
図6は、スプール軸2に対して片側だけが示されている。実施の形態4では、溝部72の外周面に対向して、環状の遮蔽部材20を備える。遮蔽部材20は、磁性カラー7の溝部72の外周を一巡して取り巻く環状に形成されている。遮蔽部材20は、磁性カラー7の溝部72から磁石8および磁性板9a、9bとの対向領域に向かうにつれて内径が小さく、かつ、厚さが薄くなるように形成されている。
図6の例では、遮蔽部材20は、スペーサ22を挟んで磁性板9aと蓋部材6と
の間に保持されている。
【0054】
遮蔽部材20の内周の径は、磁性カラー7の外径に近いが、接触しない程度、または、わずかに接触する程度である。遮蔽部材20は、例えば、NBR、SBR、シリコーンゴムなどの合成樹脂弾性体で形成される。遮蔽部材20が磁性カラー7に接触しない場合は、遮蔽部材20は弾性体でなくても構わない。しかし、遮蔽部材20が磁性カラー7にわずかでも接触する場合は、少なくとも内周側のリップ部分が、変形しやすい弾性体で形成されるべきである。遮蔽部材20が弾性体から形成される場合、剛性のある補強リング(図示せず)を包み込むように遮蔽部材20を形成してもよい。
【0055】
遮蔽部材20の内周と磁性カラー7の外周が全周で接触する場合、磁性流体10は、遮蔽部材20に遮られて、フランジ部73側に漏れる量が極めて少ない。遮蔽部材20の内周と磁性カラー7の外周が接触しない場合でも、磁性流体10は、遮蔽部材20と磁性カラー7との間の毛細管作用で保持されるので、フランジ部73側にはわずかしか漏れない。その結果、磁性流体10が一方向クラッチ5に流出するのをより確実に防止できる。
【0056】
図7は、実施の形態4の変形例に係る磁気シール機構部分の拡大断面図である。この変形例では、遮蔽部材21の外径が、磁性板9aを蓋部材6に固定するネジ91を通す穴の位置より大きく、遮蔽部材21は磁性板9aとともに蓋部材6にネジ止めされる。この構造では、磁石8、磁性板9aおよび磁性板9bからなる磁石構成体と遮蔽部材21とを予め結合しておいて、蓋部材6に取り付けることができる。なお、実施の形態4では、遮蔽部材21がOリング18の機能を兼ねている。
【0057】
実施の形態4では、遮蔽部材20または21の内周部分は、磁性カラー7の溝部72から磁石8および磁性板9a、9bとの対向領域に向かうにつれて内径が小さく、かつ、厚さが薄くなる形状に形成されている。遮蔽部材20または21の内周部分の断面は、先端が薄い形状でなくてもよい。例えば、溝部72から磁石8および磁性板9a、9bとの対向領域に向かうにつれて内径が小さくなるように傾斜させるが、磁性カラー7側の角が90°に近い角度で、先端に向かって厚さが一様の形状でもよい。また、先端の断面に丸みをもたせた形状でもよい。それらの形状でも、遮蔽部材20または21が磁性カラー7の外周に接触しない状態で、磁性流体10は、遮蔽部材20または21と磁性カラー7との間の毛細管作用で保持される。
【0058】
実施の形態1から4の構成は、適宜組み合わせて用いることができる。例えば、実施の形態3の環状部材19を実施の形態2の複数の溝からなる溝部72と合わせて用いたり、実施の形態4の遮蔽部材20を実施の形態2の複数の溝からなる溝部72と合わせて用いることができる。実施の形態3の環状部材19を、実施の形態4の遮蔽部材20とともに用いてもよい。その場合、環状部材19を磁石8の側に配置してもよいし、蓋部材6側に配置してもよい。実施の形態2から4を合わせて磁気シール機構を構成してもよい。
【0059】
実施の形態では、スピニングリール100のロータ11を駆動するピニオンギア3に嵌合する一方向クラッチ5を、磁気シール機構でシールする構成を説明したが、魚釣用リールの磁気シール機構は、この例に限らない。上述の実施の形態は、回転軸を開口から突出させて回転軸を部分的に収容する収容部の開口部をシールする磁気シール機構に適用することができる。