特許第6603104号(P6603104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6603104
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/12 20060101AFI20191028BHJP
   B23Q 15/013 20060101ALI20191028BHJP
   G05B 19/416 20060101ALI20191028BHJP
   B23G 3/00 20060101ALI20191028BHJP
【FI】
   B23Q15/12 A
   B23Q15/013
   G05B19/416 F
   B23G3/00 B
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-219763(P2015-219763)
(22)【出願日】2015年11月9日
(65)【公開番号】特開2017-87338(P2017-87338A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩平
【審査官】 藤井 浩介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−087888(JP,A)
【文献】 特開2012−088968(JP,A)
【文献】 特開2014−087887(JP,A)
【文献】 特開2013−244576(JP,A)
【文献】 特開2013−063497(JP,A)
【文献】 特開2012−086347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00−15/28
G05B 19/18−19/416;19/42−19/427
B23G 1/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状のワークを把持する把持手段と、
前記ワークに対してその径方向及び軸方向へ移動可能な工具と、
前記ワークと前記工具とを相対的に前記ワークの軸線周りに回転させながら、前記ワークに対して前記工具を径方向へ切り込ませて前記軸方向へ移動させた後、前記工具を径方向へ逃がすといった工具パスを繰り返してねじ切り加工を行う加工制御手段と、
前記ワークと前記工具の相対的な回転速度を前記工具パス単位で変更可能な回転速度制御手段と、
前記工具パス毎の前記回転速度を演算する回転速度演算手段と
表示を行う表示部と
を備えた工作機械であって、
前記回転速度制御手段は、
前記回転速度を、基準回転速度の設定値である基準回転速度設定値から変更幅の設定値である変更幅設定値分高い速度である変更最大速度と、前記変更幅設定値分低い速度である変更最小速度とで変更するか、又は複数の回転速度候補値の何れかに変更すると共に、
びびり振動が抑制されるものとして予め記憶された前記基準回転速度と前記変更幅又は前記回転速度候補値の条件を示す速度条件情報を参照して、前記基準回転速度設定値及び前記変更幅設定値の少なくとも一方又は前記回転速度候補値が前記条件を満たさない場合には、前記条件を満たすように前記基準回転速度設定値及び前記変更幅設定値の少なくとも一方の変更、又は前記回転速度候補値の変更を行い、あるいは変更を促す表示を前記表示部において行い、
前記表示部は、前記変更最大速度又は前記回転速度候補値が予め決定された回転速度の上限値である回転上限速度以下となるような、前記変更幅と前記基準回転速度との関係又は前記回転速度候補値を表示する
ことを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記速度条件情報は、予め決定された回転速度の上限値である回転上限速度を前記変更最大速度が超えないような、前記基準回転速度と前記変更幅の前記条件、又は前記回転速度候補値の前記条件を示す
ことを特徴とする請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記回転速度制御手段は、前記変更最大速度又は前記回転速度候補値が前記回転上限速度と一致するように前記基準回転速度設定値の変更又は前記回転速度候補値の変更を行い、あるいは変更を促す表示を行う
ことを特徴とする請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記速度条件情報は、びびり振動が抑制されるものとして予め決定された前記変更幅の推奨値である推奨変更幅を含み、
前記回転速度制御手段は、前記推奨変更幅と一致するように前記変更幅設定値の変更を行い、あるいは変更を促す表示を行う
ことを特徴とする請求項1ないしは請求項3の何れかに記載の工作機械。
【請求項5】
前記速度条件情報は、前記変更最小速度又は前記回転速度候補値が、予め決定された回転速度の下限値である回転下限速度以上となるような、前記基準回転速度と前記変更幅の前記条件、又は前記回転速度候補値の前記条件を示す
ことを特徴とする請求項1ないしは請求項4の何れかに記載の工作機械。
【請求項6】
前記表示部は、前記変更最大速度又は前記回転速度候補値と予め決定された回転速度の上限値である回転上限速度とが等しくなる前記条件を満たす前記変更幅と前記基準回転速度又は前記回転速度候補値を表示する
ことを特徴とする請求項1ないしは請求項5の何れかに記載の工作機械。
【請求項7】
更に、びびり振動を検出する振動検出部を備えており、
前記回転速度制御手段は、前記振動検出部で検出した振動が予め記憶されたしきい値以上であると、前記基準回転速度設定値を小さくする変更、及び前記変更幅設定値を推奨変更幅に近づける変更の少なくとも一方、又は前記回転速度候補値の変更を行い、あるいは変更を促す表示を行う
ことを特徴とする請求項1ないしは請求項6の何れかに記載の工作機械。
【請求項8】
前記回転速度制御手段は、前記変更幅と前記基準回転速度について、前記変更最大速度と予め決定された回転速度の上限値である回転上限速度とが等しくなる状態で変更を行う
ことを特徴とする請求項7に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばねじ切り加工が可能な旋盤等の工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
軸状のワークに対してその径方向及び軸方向へ移動可能な工具によってねじ切り加工する際のびびり振動を抑制する工作機械として、下記特許文献1に記載のものが知られている。この工作機械では、軸線周りで回転するワークに対して工具を径方向へ切り込ませて軸方向へ移動させた後径方向へ逃がす工具パスが繰り返され、ワークの回転速度は工具パス毎に所定の高速回転速度(変更最大速度)と所定の低速回転速度(変更最小速度)とで変更され、特定回数目(最終)の工具パスが高速回転速度で行われるように、1回目の工具パスにおける回転速度が決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−87888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の工作機械では、各種のワークに対してびびり振動を効率的に抑制するための高速回転速度と低速回転速度の差(変更幅)は必ずしも明確ではなく、作業者がワーク毎に適切な変更幅を探して設定することが比較的に困難である。又、工具パス毎に回転速度の変更幅を設定したにもかかわらず、びびり振動が抑制できなかった場合の対応が明確でない。更に、ワークの回転速度の上限(回転上限速度)を超える変更幅が指令可能であり、指令に係る回転速度(回転上限速度より速い速度の指令)と実際の回転速度(回転上限速度)が相違してしまう可能性がある。
【0005】
そこで、請求項1に記載の発明は、びびり振動を効率的に抑制可能な回転速度やその変更幅等を容易に設定し得る工作機械を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、軸状のワークを把持する把持手段と、前記ワークに対してその径方向及び軸方向へ移動可能な工具と、前記ワークと前記工具とを相対的に前記ワークの軸線周りに回転させながら、前記ワークに対して前記工具を径方向へ切り込ませて前記軸方向へ移動させた後、前記工具を径方向へ逃がすといった工具パスを繰り返してねじ切り加工を行う加工制御手段と、前記ワークと前記工具の相対的な回転速度を前記工具パス単位で変更可能な回転速度制御手段と、前記工具パス毎の前記回転速度を演算する回転速度演算手段と、表示を行う表示部とを備えた工作機械であって、前記回転速度制御手段は、前記回転速度を、基準回転速度の設定値である基準回転速度設定値から変更幅の設定値である変更幅設定値分高い速度である変更最大速度と、前記変更幅設定値分低い速度である変更最小速度とで変更するか、又は複数の回転速度候補値の何れかに変更すると共に、びびり振動が抑制されるものとして予め記憶された前記基準回転速度と前記変更幅又は前記回転速度候補値の条件を示す速度条件情報を参照して、前記基準回転速度設定値及び前記変更幅設定値の少なくとも一方又は前記回転速度候補値が前記条件を満たさない場合には、前記条件を満たすように前記基準回転速度設定値及び前記変更幅設定値の少なくとも一方の変更、又は前記回転速度候補値の変更を行い、あるいは変更を促す表示を前記表示部において行い、前記表示部は、前記変更最大速度又は前記回転速度候補値が予め決定された回転速度の上限値である回転上限速度以下となるような、前記変更幅と前記基準回転速度との関係又は前記回転速度候補値を表示することを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、上記発明にあって、前記速度条件情報は、予め決定された回転速度の上限値である回転上限速度を前記変更最大速度が超えないような、前記基準回転速度と前記変更幅の前記条件、又は前記回転速度候補値の前記条件を示すことを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、上記発明にあって、前記回転速度制御手段は、前記変更最大速度又は前記回転速度候補値が前記回転上限速度と一致するように前記基準回転速度設定値の変更又は前記回転速度候補値の変更を行い、あるいは変更を促す表示を行うことを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、上記発明にあって、前記速度条件情報は、びびり振動が抑制されるものとして予め決定された前記変更幅の推奨値である推奨変更幅を含み、前記回転速度制御手段は、前記推奨変更幅と一致するように前記変更幅設定値の変更を行い、あるいは変更を促す表示を行うことを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、上記発明にあって、前記速度条件情報は、前記変更最小速度又は前記回転速度候補値が、予め決定された回転速度の下限値である回転下限速度以上となるような、前記基準回転速度と前記変更幅の前記条件、又は前記回転速度候補値の前記条件を示すことを特徴とするものである。
請求項6に記載の発明は、上記発明にあって、前記表示部は、前記変更最大速度又は前記回転速度候補値と予め決定された回転速度の上限値である回転上限速度とが等しくなる前記条件を満たす前記変更幅と前記基準回転速度又は前記回転速度候補値を表示することを特徴とするものである。
請求項7に記載の発明は、上記発明にあって、更に、びびり振動を検出する振動検出部を備えており、前記回転速度制御手段は、前記振動検出部で検出した振動が予め記憶されたしきい値以上であると、前記基準回転速度設定値を小さくする変更、及び前記変更幅設定値を推奨変更幅に近づける変更の少なくとも一方、又は前記回転速度候補値の変更を行い、あるいは変更を促す表示を行うことを特徴とするものである。
請求項8に記載の発明は、上記発明にあって、前記回転速度制御手段は、前記変更幅と前記基準回転速度について、前記変更最大速度と予め決定された回転速度の上限値である回転上限速度とが等しくなる状態で変更を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、びびり振動を効率的に抑制可能な回転速度やその変更幅等を容易に設定し得る工作機械を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る工作機械の概略図である。
図2図1の工作機械に係る、主軸回転速度が工具パス(パス)単位で変更される場合の、主軸回転速度とパスの関係の例が示される説明図である。
図3図1の工作機械に係る、変更最大速度が回転上限速度を超えない変更幅と基準回転速度との関係の表示例が示される説明図である。
図4図1の工作機械に係る、よりびびり振動を抑制し易い変更幅設定値と基準回転速度設定値とを案内する表示例が示される説明図であって、(a)は基準回転速度設定値Sが推奨回転速度S以下である(S≦S)場合の図であり、(b)は基準回転速度設定値Sが推奨回転速度Sを超えて回転上限速度Smax未満である(S<S<Smax)場合の図であり、(c)は、基準回転速度設定値Sが回転上限速度Smax以上である(S≧Smax)場合の図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態の例が、適宜図面に基づいて説明される。尚、本発明の実施形態は、以下の例に限定されない。
【0011】
図1は当該例に係る工作機械17の概略図である。工作機械17は、主軸1の先端に把持手段としてのチャック2を備え、チャック2により軸状のワーク3を把持可能となっている。主軸1を回転自在に支持する主軸台4内には、主軸1を回転させるためのモータ5、及び主軸1の回転速度を検出するためのエンコーダ6が内蔵されている。回転速度制御手段としての主軸制御部9は、エンコーダ6によって、主軸1の回転速度を監視するとともに、主軸1の回転速度を制御する。工具8は、ワーク3の径方向および長手方向に動作可能な刃物台7に固定されている。
【0012】
又、工作機械17は、工作機械17全体の挙動を制御する工作機械制御部10を備えている。工作機械制御部10は、回転速度制御手段としての主軸制御部9、及び刃物台7の動作を制御する図示しない送り軸制御部(加工制御手段)と接続されている。又、工作機械制御部10には、入力部11と、記憶部12と、演算部13と、表示部14と、パラメータ自動調整部15と、振動検出部16とがそれぞれ接続されている。工作機械制御部10は、振動検出部16からの情報に基づいて、びびり振動の有無を判断できるようになっている。工作機械17は、工作機械制御部10を介して主軸1に支持されたワーク3の回転速度を制御すると共に(回転速度演算手段)、工具8をワーク3の径方向に切込み、長手方向に送るといった加工動作を周知の構成により制御する(加工制御手段の制御手段)ようになっている。尚、工作機械制御部10単独、あるいは送り軸制御部との組合せについて加工制御手段と捉えることも可能である。
【0013】
図2は、ねじ切り加工において、主軸1の回転速度である主軸回転速度が工具パス(パス)単位で変更される例が示される説明図である。1つのパスは、主軸1(チャック2)によって回転しているワーク3に対して工具8を径方向へ切り込ませてワーク3の軸方向へ移動させた後、径方向へ逃がすといったものであり、工作機械17にあってはかようなパスが適宜繰り返される。図2では、最初の(加工開始から数えて1番目の)パスが1と表示され、次のパスが2と表示され、同様にそれ以降のパスが示されている。演算部13は、主軸回転速度の基準回転速度Sの現在の設定値である基準回転速度設定値Sや、基準回転速度設定値Sからの変更度合を示す変更幅W(%)の現在の設定値である変更幅設定値Wといったパラメータに基づいて、記憶部12に記憶された下記[数1]を参照し、主軸回転速度を変更した場合の主軸回転速度の最大値である変更最大速度Sと、主軸回転速度の最小値である変更最小速度Sとを算出する。そして、工作機械制御部10は、主軸回転速度を、パス単位で、算出された変更最大速度Sと変更最小速度Sの何れかに変更するよう主軸制御部9に指令を送るようになっている。
【0014】
【数1】
【0015】
次に、本発明の要部となる、変更最大速度Sが主軸回転速度の上限(回転上限速度Smax)を超えない変更幅Wと基準回転速度Sとの関係の表示例、及び、よりびびり振動を抑制し易い変更幅Wと基準回転速度Sとを案内する表示例について説明される。図3は、前者の表示例が示される説明図である。図3に示される例では、パラメータが変更幅Wおよび基準回転速度Sとされており、演算部13から演算結果を受信した工作機械制御部10は、変更幅Wを縦軸に、基準回転速度Sを横軸にそれぞれとった平面上に、基準回転速度設定値Sがプロットされたものを、表示部14において表示するよう制御している。ここで、変更幅Wの上限値である変更幅上限値Wmaxは予め決定される値であって記憶部12で記憶されており、回転下限速度Sminはねじ切り加工における(びびり振動の発生しないものとして経験的に定められた)主軸回転速度の下限を示す予め決定された値であって記憶部12に記憶されており、回転上限速度Smaxは、主軸回転速度の上限を示す値であって記憶部12に記憶されている。横軸は、ここでは回転下限速度Sminから始まり、回転上限速度Smaxを中央付近で含むように設定されている。又、線A、線Bはそれぞれ次の[数2],[数3]により演算部13で演算されて描かれたものである。更に、線A,Bや縦軸と横軸で囲まれる(図3,4で影(ハッチング)付で示される)領域Cは、変更最大速度Sが回転上限速度Smaxを超えない変更幅Wと基準回転速度Sとの関係を示し、次の[数4],[数5]を満たす。
【0016】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【0017】
図4は、よりびびり振動を抑制し易い変更幅Wと基準回転速度Sとを案内する表示例が示される説明図である。図4において、推奨変更幅Wは経験等に基づき予め設定される推奨の変更幅Wであり、線Rは次の[数6]により表示される。又、推奨回転速度Sは線Rと線Bとの交点として表される回転速度である。図4(a),(b),(c)は、基準回転速度設定値Sが、推奨回転速度Sや回転上限速度Smaxに対してそれぞれ次の[数7],[数8],[数9]の関係を満たす場合の表示例である。
【0018】
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
【0019】
工作機械制御部10は、[数7]〜[数9]の何れの関係を満たしている場合であるかを判断し、表示部14は、工作機械制御部10の制御により、それぞれの場合に応じ、図4(a),(b),(c)に示されるように、領域Cの範囲内で変更幅設定値Wを推奨変更幅Wに向かって上げるように促す案内を表示するようになっている。図4(a)に示されるように、[数7]の関係を満たしており、変更幅設定値Wを推奨変更幅Wと同値に維持可能である((基準回転速度設定値S,推奨変更幅W)の点が領域C内にあるという条件を充足している)場合は、(基準回転速度設定値S,0)の点から縦軸に平行な方向に(基準回転速度設定値S,推奨変更幅W)の点まで延びる矢印と、(基準回転速度設定値S,推奨変更幅W)の点から(0,推奨変更幅W)の点まで延びる矢印の組からなる矢印群D1により、パラメータを現在の(基準回転速度設定値S,推奨変更幅W)に維持する旨の案内がなされる。
【0020】
一方、図4(b)に示されるように、[数8]の関係を満たしており、変更幅設定値Wを推奨変更幅Wまで上げる前に線Bに達する場合は、基準回転速度設定値Sを推奨回転速度Sまで下げ、変更幅設定値Wを推奨変更幅Wに向かって上げるよう促す案内(基準回転速度設定値Sが推奨回転速度Sと等しいという条件を満たし、変更幅設定値Wが推奨変更幅Wと等しいという条件を満たす案内)を矢印群D2として表示するようになっている。尚、工作機械制御部10は、低減する基準回転速度設定値Sの値について、変更幅設定値Wを推奨変更幅Wに設定することができる範囲で最も加工能率の高い推奨回転速度Sの値として演算している。
【0021】
他方、図4(c)に示されるように、[数9]の関係を満たしており、基準回転速度設定値Sが領域Cの範囲外である場合、表示部14は、まず領域Cの範囲内になるまで基準回転速度設定値Sを下げて推奨回転速度Sとするような案内(基準回転速度設定値Sが推奨回転速度Sと等しいという条件を充足するための案内)を矢印群D3によって表示するようになっている。
【0022】
又、表示部14は、びびり振動が抑制されない場合のために、変更幅設定値Wを推奨変更幅Wに向かって上げた後に基準回転速度設定値Sを低減するように促す案内も表示するようになっている。即ち、工作機械制御部10は、振動検出部16からの情報に基づきびびり振動の発生を把握すると(振動検出部16で検出された振動が予め決定され記憶されたしきい値以上であると)、変更幅Wが推奨変更幅Wになっていない場合には、変更幅Wが推奨変更幅Wとなるように促す案内を、上向きの矢印の描画によって表示する。又、変更幅Wが推奨変更幅Wであったとしても、基準回転速度設定値Sを更に低減するように促す案内を、例えば現在の基準回転速度設定値Sから左向きの矢印を表示部14において描画することで表示する。工作機械制御部10は、変更幅Wが推奨変更幅Wとされ、あるいは基準回転速度設定値Sが下げられていった場合において、振動検出部16で検出された振動が予め決定されたしきい値未満となると、基準回転速度設定値Sの降下を停止することができる。
【0023】
図3に示される回転上限速度Smaxと変更幅Wとの関係の情報や、図4に示されるパラメータの変更に関する情報は、速度条件情報として、記憶部12によって保持されている。オペレータは、表示部14に表示された内容に基づいて、入力部11を介して変更幅設定値W、基準回転速度設定値Sを変更することができる。
【0024】
上記工作機械17は、軸状のワーク3を把持する主軸1のチャック2と、ワーク3に対してその径方向及び軸方向へ移動可能な工具8と、ワーク3と工具8とを相対的にワーク3の軸線周りに回転させながら、ワーク3に対して工具8を径方向へ切り込ませてワーク3の軸方向へ移動させた後、工具8を径方向へ逃がすといった工具パスを繰り返してねじ切り加工を行う送り軸制御部と、ワーク3と工具8の相対的な回転速度に相当する主軸回転速度を工具パス単位で変更可能な主軸制御部9と、工具パス毎の主軸回転速度を演算する工作機械制御部10とを備えており、主軸制御部9は、主軸回転速度を、基準回転速度Sの設定値である基準回転速度設定値Sから変更幅Wの設定値である変更幅設定値W分高い速度である変更最大速度Sと、変更幅設定値W分低い速度である変更最小速度Sとで変更すると共に、びびり振動が抑制されるものとして予め記憶された基準回転速度Sと変更幅Wの条件を示す速度条件情報を参照して、基準回転速度設定値S及び前記変更幅設定値Wの少なくとも一方が速度条件情報の条件を満たさない場合には、条件を満たすように基準回転速度設定値S及び変更幅設定値Wの少なくとも一方の変更を促す表示を表示部14において行う。よって、びびり振動を効率的に抑制可能な回転速度やその変更幅等を容易に設定し得る工作機械17を提供することができる。
【0025】
又、速度条件情報は、予め決定された主軸回転速度の上限値である回転上限速度Smaxを変更最大速度Sが超えないような、基準回転速度Sと変更幅Wの条件を示す。よって、びびり振動を確実に抑制することができる。加えて、主軸制御部9は、変更最大速度Sが回転上限速度Smaxと一致するように基準回転速度設定値Sの変更を促す表示を行うので、びびり振動を抑制しながら加工能率を十分に確保することができる。
【0026】
更に、速度条件情報は、びびり振動が抑制されるものとして予め決定された変更幅Wの推奨値である推奨変更幅Wを含み、主軸制御部9は、推奨変更幅Wと一致するように変更幅設定値Wの変更を促す表示を行う。よって、びびり振動をより効率的に抑制することができる。
【0027】
又更に、表示部14は、変更最大速度Sが回転上限速度Smax以下となるような変更幅Wと基準回転速度Sとの関係(領域C)を表示するので、びびり振動抑制のために変更すべき基準回転速度設定値Sや変更幅設定値Wが分かり易く、変更最大速度Sと回転上限速度Smaxが等しくなる条件を満たす変更幅Wと基準回転速度S(線B)の表示により、びびり振動を抑制しながら優れた加工能率を確保するために変更すべき基準回転速度設定値Sや変更幅設定値Wが分かり易い。
【0028】
尚、本発明に係る工作機械は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、表示部や工作機械全体に係る構成等を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。例えば、表示部に表示された情報に基づいて、オペレータがパラメータを手動で変更することに代えて、記憶部に保持された情報に基づいてパラメータ自動調整部(工作機械制御部や主軸制御部やこれらの組合せでも良い)が自動的に上述のようにパラメータを連続的に変更し、振動検出部によって検出した振動が予め設定したしきい値を下回った場合にパラメータ変更を完了することも可能である。又、上記実施形態では、変更幅設定値や基準回転速度設定値の維持や変更の案内が連続線の矢印群によってなされたが、単独の矢印であっても良いし、他の線種が用いられても良いし、矢印の根元から先端へ点滅が順に送られる態様が用いられても良いし、維持の場合と変更の場合で表示態様が変えられても良い。加えて、領域Cへの影(ハッチングや色塗り等)の付与は省略されても良い。
【0029】
更に、上記実施形態では、変更幅が回転速度差と基準回転速度の比とされたが、変更幅は回転速度差とされて良いし、基準回転速度の代わりに主軸オーバーライドが用いられても良い。更に、上記実施形態では、図4(b)の場合において変更幅設定値を上げて線Bに達した後、基準回転速度設定値を下げてから変更幅設定値を上げるように案内することとしたが、線Bに達した後、線Bに沿って基準回転速度設定値と変更幅設定値を調整するように案内しても良いし、線Bに達する前に基準回転速度設定値を下げてから変更幅設定値を上げるように案内しても良い。又、上記実施形態では、高速側と低速側の2つの回転速度(変更最大速度と変更最小速度)をパス毎に変更する場合について説明したが、更に多くの回転速度をパス毎に変更する場合についても最大の回転速度(変更最大速度)と最小の回転速度(変更最小速度)との差を用いて変更幅を定義することにより同様に実施することが可能である。又、上記実施形態は、変更最大速度が回転上限速度を超えないように変更幅設定値と基準回転速度設定値との調整を案内するようになっているが、変更最小速度が主軸回転速度の下限値(回転下限速度)となる変更幅設定値や基準回転速度設定値を演算し、実際の主軸回転速度が予め決定された回転下限速度より小さくならないように変更幅設定値と基準回転速度設定値との調整を案内するようにしても良い。又、上記実施形態では、主軸回転速度を変更するためのパラメータとして変更幅と基準回転速度とが用いられたが、変更前後の主軸回転速度を直接指定する複数の回転速度候補値が用いられても良い。
【符号の説明】
【0030】
1・・主軸、2・・チャック、3・・ワーク、4・・主軸台、5・・モータ、6・・エンコーダ、7・・刃物台、8・・工具、9・・主軸制御部、10・・工作機械制御部、11・・入力部、12・・記憶部、13・・演算部、14・・表示部、15・・パラメータ自動調整部、16・・振動検出部、17・・工作機械。
図1
図2
図3
図4