特許第6603107号(P6603107)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6603107消臭性シート及びその消臭性能の再生方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6603107
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】消臭性シート及びその消臭性能の再生方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/01 20060101AFI20191028BHJP
   A61L 9/014 20060101ALI20191028BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20191028BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20191028BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20191028BHJP
   D06M 11/44 20060101ALI20191028BHJP
   D06M 11/45 20060101ALI20191028BHJP
   D06M 11/46 20060101ALI20191028BHJP
   D06M 11/79 20060101ALI20191028BHJP
【FI】
   A61L9/01 B
   A61L9/014
   B01J20/34 E
   B01J20/34 F
   B01J20/34 G
   B01J20/18 C
   B01J20/28 Z
   D06M11/44
   D06M11/45
   D06M11/46
   D06M11/79
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-224780(P2015-224780)
(22)【出願日】2015年11月17日
(65)【公開番号】特開2017-86798(P2017-86798A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000239862
【氏名又は名称】平岡織染株式会社
(72)【発明者】
【氏名】狩野 俊也
(72)【発明者】
【氏名】相馬 宏樹
【審査官】 松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−212238(JP,A)
【文献】 特開2010−264137(JP,A)
【文献】 特開2003−339831(JP,A)
【文献】 特開2004−041277(JP,A)
【文献】 特開2001−058002(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/056486(WO,A1)
【文献】 特開平02−289185(JP,A)
【文献】 特開2012−077997(JP,A)
【文献】 特開2007−284407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00− 9/22
B01J 20/00− 20/28
B01J 20/30− 20/34
D06M 10/00− 11/84
D06M 16/00
D06M 19/00− 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂被覆層を有する糸条を織編要素に含む通気性可撓シートであって、前記樹脂被覆層が、〔酸化亜鉛/アルミナ〕複合体、及び〔酸化マグネシウム/アルミナ〕複合体から選ばれた1種以上の塩基性複合体粒子群(A)と、〔二酸化珪素/アルミナ〕複合体(但しゼオライトを除く)、及び〔二酸化チタン/アルミナ〕複合体から選ばれた1種以上の酸性複合体粒子群(B)とを、(A):(B)質量比2:1〜1:2とする酸化物複合体混合物(C)と、ゼオライト(D)を含み、前記酸化物複合体混合物(C)との質量比(C):(D)を4:1〜1:1とすることを特徴とする消臭性シート。
【請求項2】
前記樹脂被覆層が、気泡痕を1〜25体積%含む請求項1に記載の消臭性シート。
【請求項3】
前記織編要素の製織交点の、一部または全部が熱融着している請求項1または2に記載の消臭性シート。
【請求項4】
臭気成分を吸着している請求項1〜3の何れかの消臭性シートを、1)水洗、または水への浸漬を行うことで前記臭気成分を溶出除去する工程、2)ヒーター加熱(熱風)により、前記臭気成分を放出除去する工程、3)天日干し(日射熱、紫外線)により、前記臭気成分を放出除去する工程、の何れかの単独リセット工程によって、好ましくは1)と2)の併用リセット工程、または1)と3)の併用リセット工程によって、初期消臭性能の50%以上に回復させる消臭性シートの消臭性能の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は臭気吸着による減臭効果を有するシート状織物に関し、詳しくは、体育館、スポーツジムなどの公共施設、食品工場、化学品工場、畜産農業施設、水産施設、ゴミ処理施設など産業施設における、空間仕切り、壁掛け幕、敷物、天井膜、積荷カバー、ブラインドなど、使い捨ての出来ない大型サイズで使用される用途で、悪臭成分、及びVOC成分などの臭気成分全般に対して濃度を効果的に減少させる減臭効果、並び消臭効果を発現し、しかもその消臭性能が繰り返し回復可能である消臭性シートと、その消臭性能の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
先に本出願人は粗目織物と、粗目織物を被覆する熱可塑性樹脂層とで構成された、特定の充実率と単位表面積とを有する可撓性メッシュシートの熱可塑性樹脂層に、臭気分子に対して、物理的吸着性を有する無機多孔性物質、化学反応性を有する無機酸化・還元性物質、及び無機分解反応触媒物質などの臭気分子不活性化粒子を任意に用いることにより、体臭、ペット臭、調理臭、ゴミ臭、カビ臭などの生活臭全般を低減させる機能を付帯させたメッシュシート(特許文献1)を提案した。また特許文献2には、四大悪臭成分(アンモニア、トリメチルアミン、硫化水素、メチルカプタン)をはじめとする塩基性、硫黄系、酸性の各悪臭成分及び、アルデヒド化合物に対して消臭効果を発揮する消臭性繊維製品(衣類・カーテンなど)の製造方法として、(A)二酸化ケイ素と酸化亜鉛との複合物、(B)非晶質シリカ及び/又はシリカアルミナとフィロケイ酸塩及び/又はアルミニウムフィロケイ酸塩との複合物、(C)ポリヒドラジド化合物、並びに、(D)ポリカルボン酸及び/又はポリカルボン酸の塩を含有する分散液を、繊維素材に付与する方法が開示されている。しかし、これら特許文献1のメッシュシート及び特許文献2の繊維製品では、長期間の使用で、臭気分子の吸着飽和、化学反応飽和となって消臭効果が経時的に減衰する問題があり、定期的な新品との交換を必要としていた。特に家庭用では必要に応じての新品交換も許容されるが、しかし体育館、スポーツジムなどの公共施設、食品工場、化学品工場、畜産農業施設、水産施設、ゴミ処理施設など産業施設における、空間仕切り、壁掛け幕、敷物、天井膜、日除けテント、ブラインドなど大型規格で使用される用途での使い捨て交換は不経済のため許容されるものではなかった。従って、消臭(減臭)効果を発現し、しかもその消臭性能が繰り返し回復可能である消臭性シートが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−212238号公報
【特許文献2】特開2006−336176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、公共施設、食品工場、化学品工場、畜産農業施設、水産施設、ゴミ処理施設など産業施設における、空間仕切り、壁掛け幕、敷物、天井膜、日除けテント、ブラインドなど大型規格で使用される用途で、消臭(減臭)効果を発現し、しかもその消臭性能が繰り返し回復可能である消臭性シート、及びその消臭性能の再生方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、樹脂被覆層を有する糸条を織編要素に含む通気性可撓シートにおいて、樹脂被覆層が、特定の塩基性複合体粒子群と特定の酸性複合体粒子群、及びゼオライトを含むことで、消臭(減臭)効果を発現し、しかもその消臭性能が繰り返し回復可能である消臭性シートと、その消臭性能の再生方法を見出して本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明の消臭性シートは、樹脂被覆層を有する糸条を織編要素に含む通気性可撓シートであって、前記樹脂被覆層が、〔酸化亜鉛/アルミナ〕複合体、及び〔酸化マグネシウム/アルミナ〕複合体から選ばれた1種以上の塩基性複合体粒子群(A)と、〔二酸化珪素/アルミナ〕複合体(但しゼオライトを除く)、及び〔二酸化チタン/アルミナ〕複合体から選ばれた1種以上の酸性複合体粒子群(B)とを、(A):(B)質量比2:1〜1:2とする酸化物複合体混合物(C)と、ゼオライト(D)を含み、前記酸化物複合体混合物(C)との質量比(C):(D)を4:1〜1:1とすることが好ましい。これによって塩基性複合体粒子群(A)が、硫化水素(卵の腐敗臭)、メチルメルカプタン(玉葱の腐敗臭)、酢酸、イソ吉草酸(足の裏臭)、ノネナール(加齢臭)などの酸性悪臭を減臭(消臭)し、かつ酸性複合体粒子群(B)が、アンモニア(尿臭)、トリメチルアミン(魚の腐った臭)などの塩基性悪臭を減臭(消臭)し、粒子群(A)及び粒子群(B)が酸性悪臭と塩基性悪臭とを選択的に、互いに阻害し合うことなく不活性化する役割を担い、同時にゼオライト(D)が、シンナーやトルエンなどの有機溶剤、ホルムアルデヒドなどの揮発性化学物質臭などの吸着性を附帯するので、より広い臭気成分(VOC含む)に対しての減臭(消臭)効果を発現することを可能とする。
【0007】
本発明の消臭性シートは、前記樹脂被覆層が、気泡痕を1〜25体積%含むことが好ましい。これによって樹脂被覆層の表面積を増大させ、それにより塩基性複合体粒子群(A)と、酸性複合体粒子群(B)の減臭(消臭)効果をより迅速かつ効率的なものとする。
【0008】
本発明の消臭性シートは、前記織編要素の製織交点の、一部または全部が熱融着していることが好ましい。これによって得られる通気性可撓シートにフレキシブル性及び形態安定性の兼備をコントロールすると同時に、ぶつかり変形や破壊(裂け、穴開き)の事故に対する抵抗力を増すことができる。
【0009】
本発明の消臭性シートの消臭性能の再生方法は、臭気成分を吸着している消臭性シートを、1)水洗、または水への浸漬を行うことで前記臭気成分を溶出除去する工程、2)ヒーター加熱(熱風)により、前記臭気成分を放出除去する工程、3)天日干し(日射熱、紫外線)により、前記臭気成分を放出除去する工程、の何れかの単独リセット工程によって、好ましくは1)と2)の併用リセット工程、または1)と3)の併用リセット工程によって、初期消臭性能の50%以上に回復させることが好ましい。1)の回復工程によって、硫化水素、メチルメルカプタン、酢酸、イソ吉草酸、ノネナールなどの酸性悪臭成分が塩基性複合体粒子群(A)から脱離し、水に溶解することで消臭性シートから溶出除去され、また同様にアンモニア、トリメチルアミンなどの塩基性悪臭成分が酸性複合体粒子群(B)から脱離して、水に溶解することで消臭性シートから溶出除去される。この後連続して2)または3)の回復工程によって、ゼオライト(D)が吸着したシンナーやトルエンなどの有機溶剤、ホルムアルデヒドなどの揮発性化学物質を消臭性シートから放出すること、更に1)の回復工程で消臭性シートから溶出除去しきれなかった酸性悪臭成分、及び塩基性悪臭成分の放出除去を補助する。特に3)の回復工程では紫外線の作用により上記酸性悪臭成分の塩基性複合体粒子群(A)からの脱離、及び上記塩基性悪臭成分の酸性複合体粒子群(B)からの脱離を促す効果が高いので、初期消臭性能の50%以上、80%程度までに回復させることを可能とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の消臭性シートは、塩基性複合体粒子群(A)が、硫化水素(卵の腐敗臭)、メチルメルカプタン(玉葱の腐敗臭)、酢酸、イソ吉草酸(足の裏臭)、ノネナール(加齢臭)などの酸性悪臭を減臭(消臭)し、かつ酸性複合体粒子群(B)が、アンモニア(尿臭)、トリメチルアミン(魚の腐った臭)などの塩基性悪臭を減臭(消臭)し、粒子群(A)及び粒子群(B)が酸性悪臭と塩基性悪臭とを選択的に、互いに阻害し合うことなく不活性化する役割を担い、同時にゼオライト(D)が、シンナーやトルエンなどの有機溶剤、ホルムアルデヒドなどの揮発性化学物質臭などの吸着性を附帯するので、より広い臭気成分(VOC含む)に対しての減臭(消臭)効果を発現することを可能とし、また臭気成分を吸着している消臭性シートを、1)水洗、または水への浸漬を行うことで吸着した臭気成分を溶出除去する工程、2)ヒーター加熱(熱風)により、吸着した臭気成分を放出除去する工程、3)天日干し(日射熱、紫外線)により、吸着した臭気成分を放出除去する工程、の何れかの単独リセット工程によって、好ましくは1)と2)の併用リセット工程、または1)と3)の併用リセット工程によって、初期消臭性能の50%以上に回復させることを可能とするので、体育館、スポーツジムなどの公共施設、食品工場、化学品工場、畜産農業施設、水産施設、ゴミ処理施設など産業施設における、空間仕切り、壁掛け幕、敷物、天井膜、積荷カバー、ブラインドなど、使い捨ての出来ない大型サイズで使用される用途に適して用いることができる。上記用途において、本発明の消臭性シートには写真や画像・イラストレーション・文字などのデザインや広告効果を附帯させることもできるので産業上の利用に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の臭気吸着メッシュシートのアンモニアガスに対する 臭気吸着性能の回復効果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の消臭性シートは、樹脂被覆層を有する糸条を織編要素に含む通気性可撓シートであって、樹脂被覆層が、〔酸化亜鉛/アルミナ〕複合体、及び〔酸化マグネシウム/アルミナ〕複合体から選ばれた1種以上の塩基性複合体粒子群(A)と、〔二酸化珪素/アルミナ〕複合体(但しゼオライトを除く)、及び〔二酸化チタン/アルミナ〕複合体から選ばれた1種以上の酸性複合体粒子群(B)とを、(A):(B)質量比2:1〜1:2とする酸化物複合体混合物(C)と、ゼオライト(D)を含み、酸化物複合体混合物(C)との質量比(C):(D)を4:1〜1:1とし、さらに樹脂被覆層が気泡痕を1〜25体積%含み、さらに織編要素の製織交点の一部または全部が熱融着しているものである。
【0013】
本発明の消臭性シートにおいて、樹脂被覆層を有する糸条とは、糸条の全周が樹脂で覆われた外観の態様で、糸条の全周が樹脂で覆われた外観の態様であれば、糸条内部空隙の一部または全部に樹脂が含浸固着した態様も樹脂被覆層を有する糸条として扱う。糸条を被覆する樹脂は、通気性可撓シートの製織交点における熱融着性を確保するために、熱可塑性樹脂が好ましく、これらは具体的に、軟質塩化ビニル樹脂、塩化ビニル系共重合体樹脂、オレフィン樹脂、オレフィン系共重合体樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン系共重合体樹脂、アクリル樹脂、アクリル系共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル系共重合体樹脂、スチレン樹脂、スチレン系共重合体樹脂、ポリエステル樹脂、およびポリエステル系共重合体樹脂、フッ素系共重合体樹脂、などが使用でき、これらは単独もしくは、2種以上の併用としてもよい。糸条を被覆する樹脂被覆層の厚さは0.03mm〜0.6mm、特に0.05mm〜0.3mmが好ましい。本発明において特に好ましい熱可塑性樹脂は、塩化ビニル樹脂(可塑剤、安定剤等を配合した軟質〜半硬質塩化ビニル樹脂を包含する)、オレフィン系共重合体樹脂、ウレタン系共重合体樹脂、およびフッ素系共重合体樹脂である。これらの熱可塑性樹脂を被覆した糸条は、糸条をコーティングダイスに芯通しした押出成型機を用い、特定配合の熱可塑性樹脂をホットメルト状態(150〜300℃)でコーティングダイスノズル孔から押出すと同時に、樹脂被覆糸条を引き取り冷却することで得られる。また樹脂被覆層を有する糸条は、塩化ビニル樹脂ペーストゾルのような粘重液状組成物、有機溶剤に可溶化した熱可塑性樹脂溶液組成物、エマルジョンやラテックスのような水性熱可塑性樹脂組成物に糸条をディッピングし、糸条全体に含浸、もしくは部分的に含浸させ、これを熱処理乾燥して得た含浸被覆糸条を用いてもよい。樹脂被覆層には必要に応じて顔料、可塑剤、安定剤、充填剤、滑剤、紫外線吸収剤、酸化劣化防止剤、接着剤、防炎剤、防黴剤、抗菌剤、帯電防止剤など公知の添加剤を含むことができる。着色剤はアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、染付けレーキ顔料、アントラキノン系顔料類、チオインジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料などの有機顔料、酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化チタン(ルチル型、アナターゼ型)、三酸化アンチモン、酸化鉄、酸化鉛、酸化クロム、酸化ジルコニウム、スピネル構造酸化物、ルチル型酸化物などの無機顔料の他、パール顔料、アルミ粉顔料、光輝性顔料、蓄光顔料、染料などを自由に使用でき、その組み合わせに制限は無い。
【0014】
樹脂被覆層には、塩基性複合体粒子群(A)と、酸性複合体粒子群(B)とを、(A):(B)質量比2:1〜1:2で含み(A+B=C)、樹脂被覆層の質量に対する酸化物複合体混合物(C)の含有率は3〜30質量%、特に5〜20質量%、好ましくは10〜20質量%である。3質量%未満だと消臭効果が不十分となることがあり、また30質量%を超えると樹脂被覆層の形成加工に支障をもたらすと同時に、樹脂被覆層の強度を脆くするなどのデメリットを生じることがある。塩基性複合体粒子群(A)は具体的に〔酸化亜鉛/アルミナ(AlO)〕複合体、及び/又は〔酸化マグネシウム/アルミナ(AlO)〕複合体で、硫化水素(卵の腐敗臭)、メチルメルカプタン(玉葱の腐敗臭)、酢酸、イソ吉草酸(足の裏臭)、ノネナール(加齢臭)などの酸性臭の無(減)臭化に作用する平均粒子径0.01μm〜5μm程度の粒子群である。〔酸化亜鉛/アルミナ(AlO)〕複合体は、水溶性亜鉛塩と、水溶性アルミニウム塩、または水溶性アルミン酸塩とを水媒体中で(加熱)複分解・熟成させることで得られ具体的に、塩化亜鉛と塩化アルミニウムとの複分解・熟成によって得ることができる。同様に〔酸化マグネシウム/アルミナ(AlO)〕複合体は、水溶性マグネシウム塩として、塩化マグネシウムを用いることで得られる。また酸性複合体粒子群(B)は具体的に〔二酸化珪素/アルミナ(AlO)〕複合体(但しゼオライトを除く)、及び/又は〔二酸化チタン/アルミナ(AlO)〕複合体で、アンモニア(尿臭)、トリメチルアミン(魚の腐った臭)など塩基性臭の無(減)臭化に作用する平均粒子径0.01μm〜5μm程度の粒子群である。〔二酸化珪素/アルミナ(AlO)〕複合体は、ケイ酸ナトリウム(水酸化ナトリウム存在下)と、水溶性アルミニウム塩、または水溶性アルミン酸塩とを水媒体中で(加熱)複分解・熟成することで得られ具体的に、ケイ酸ナトリウムと塩化アルミニウムとの反応・熟成によって得ることができる。同様に〔二酸化チタン/アルミナ(AlO)〕複合体は、具体的に、塩化チタンと塩化アルミニウムとの複分解・熟成によって得ることができる。

【0015】
酸化物複合体混合物(C)を含む樹脂被覆層には、さらにゼオライト粒子(D)を含み、酸化物複合体混合物(C)との質量比(C):(D)を4:1〜1:1、好ましくは2:1〜1:1とすることで、シンナーやトルエンなどの有機溶剤、ホルムアルデヒドなどの揮発性化学物質臭などに対する吸着性を附帯するので、より臭気成分全般(VOC含む)に対して濃度を減少させる減臭効果、及び経時的に人間の感知限界濃度に引き下げる消臭効果を発現する。ゼオライトはA型、X型、LSX型、L型、Y型、ベータ型、フェリライト型、モルデナイト型など、三次元骨格構造を有し、一般式M2/nO・NaO・AlO・2.5SiO・xHOで表される(一般式中のxは結晶水の数を表す整数で、Mは陽イオン、nは陽イオンの原子価を示す)平均粒子径0.1μm〜5μmのものが使用できる。陽イオンは、アルカリ金属(Naイオン、Kイオン、Liイオン)、アルカリ土類金属(Caイオン、Mgイオン)、NHイオンなどである。
【0016】
また樹脂被覆層には必要に応じて、活性炭、添着活性炭、白竹炭、活性白土、ベントナイト、セピオライト、アルミノ珪酸金属塩、珪酸銅、シラス、シリカ−マグネシア、モレキュラーシーブ、電気石(トルマリン鉱石)、金属フタロシアニン錯体、金属フタロシアニン錯体テトラカルボン酸、(これらの錯体形成金属として、銅、鉄、コバルト、マンガンなど)などを樹脂被覆層の質量に対して0.1〜5質量%程度併用していてもよく、さらにヒドラジン化合物、スチレン−マレイン酸加水分解物、シクロデキストリン、ポリフェノール類、テルペノイド類、フラボノイド類などを補助的に0.1〜3質量%程度併用してもよい。
【0017】
また樹脂被覆層には難燃剤粒子を併用することができ、難燃剤粒子は、a).金属リン酸塩、金属有機リン酸塩、リン酸誘導体、ポリリン酸アンモニウム、及びポリリン酸アンモニウム誘導体(メラミン変性体など)などのリン原子含有化合物、b).(イソ)シアヌレート系化合物、(イソ)シアヌル酸系化合物、グアニジン系化合物(ジシアンジアミドなど)、尿素系化合物(ジメチロール尿素など)、及び、これらの誘導体化合物(例えばメラミンシアヌレート)などの窒素原子含有化合物、c).金属水酸化物(水酸化アルムニウムなど)、金属酸化物(酸化アンチモンなど)、金属炭酸塩化合物(塩基性炭酸マグネシウムなど)、金属硫酸塩化合物(硫酸バリウムなど)、ホウ酸化合物(ホウ酸亜鉛など)、及び無機系化合物複合体(ハイドロタルサイトなど)などの無機系化合物、d).臭素置換有機化合物、塩素置換有機化合物から選ばれた1種以上である。
【0018】
また樹脂被覆層には、粒径0.03mm〜0.3mm程度の気泡痕を1〜25体積%、特に5〜15体積%程度含むことで実質的に有効な表面積を増大させることで臭気分子との接触面積を増し、ガス交換性を促す効果によって迅速かつ効果的な減臭(消臭)効果を得る同時に、吸音効果を向上させることができる。これらの気泡痕は連続気泡化することでガス交換性及び通気性に優れた構造、または部分的に連続気泡化したガス交換通気性の構成とするものである。これらの気泡痕は液状粘性体の熱可塑性樹脂組成物の機械攪拌による強制的な気泡巻込ムースの塗工と熱処理による気泡痕形成、液状粘性体の熱可塑性樹脂組成物(アルコール、トルエン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤含有、または水分)の塗工と熱処理蒸散による揮発痕形成、熱分解ガス発生物質群(アゾジカルボアミド、オキシビスベンゼンスルフォニルヒドラジド、ベンゼンスルフォニルヒドラジド、p−トルエンスルフォニルヒドラジド、ジアゾアミノベンゼン、アゾビスイソブチロニトリルなど熱分解温度が180〜250℃のもの)を含有する熱可塑性樹脂組成物層を熱処理して熱分解ガス発生物質群を強制的に熱分解させての揮発性ガス生成による気泡痕形成、砂糖粒や塩粒などの水溶性粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物層の水洗処理による砂糖粒や塩粒の溶出による空洞痕形成など、何れの方法によって形成された気泡痕であってもよい。
【0019】
樹脂被覆層を有する糸条における糸条材質は、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、バサルト繊維、炭素繊維などの無機マルチフィラメント、及びステンレス繊維などの金属マルチフィラメント、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリパラベンズアミド繊維、パラフェニレン3,4オキシジフェニレンテレフタルアミド共重合繊維などのアラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾイミダゾール繊維、ポリパラフェニレンベンゾオキサゾール繊維、ポリパラフェニレンベンズチアゾール繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリスルホン繊維などの耐熱マルチフィラメントまたは短繊維紡績糸、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維などの合成マルチフィラメントまたは短繊維紡績糸、セルロースの水酸基を、ホウ酸エステル化、またはリン酸エステル化、またはケイ酸エステル化した不燃化綿、不燃化ケナフなどの短繊維紡績糸などが使用できる。これらの繊維は、撥水処理、吸水防止処理、接着処理、難燃処理などの薬剤処理を施した形態で用いてもよい。
【0020】
糸条はマルチフィラメント糸条、または短繊維紡績糸条が好ましく、フィラメント直径3〜10μm、繊度69〜2223dtex、特に138〜1112dtexのマルチフィラメント糸条で、フィラメント数50〜500本、特に100〜300本を集束して無撚糸、または撚糸に束ね、その断面形状を円形、楕円形、及び扁平(横長に潰れた楕円形)とする糸条であり、本発明においては特に扁平楕円断面のマルチフィラメント糸条が好ましく、樹脂被覆された後の糸条も同様に扁平楕円断面を有することが好ましい。この樹脂被覆糸条の扁平楕円断面における高さ:幅の比が3:4〜1:4、特に2:3〜2:5の扁平楕円であることが、得られる織物の表面積を大きくする効果により、臭気分子の吸着及び捕集効率を向上させると同時にシートの引裂強度を向上させる。短繊維紡績糸条は、10番手(591dtex)、20番手(295dtex)、30番手(197dtex)、40番手(148dtex)、60番手(97dtex)の範囲のもの、特に10番手(591dtex)、14番手(422dtex)、16番手(370dtex)、20番手(295dtex)、24番手(246dtex)、30番手(197dtex)の範囲が好ましく使用できる。(番手数は10の倍数に限定されるものではない。)これらの短繊維紡績糸条は単糸及び、双糸、さらには単糸3本以上の撚糸、またはこれらの2本合糸、あるいは2本合撚糸などの糸条態様、さらにマルチフィラメント糸条を内層(芯)として外層(鞘)に短繊維糸条を巻き付けて紡績したコアスパン糸条態様で使用されることで、得られる織物の表面積(毛羽による表面積増大効果)を大きくする効果により、臭気分子の吸着及び捕集効率を向上させる。
【0021】
本発明の消臭性シートは、樹脂被覆された糸条を織編要素に含むシート状織物で、その織編要素の例として、1)経糸条群及び緯糸条群(二軸織物)、または2)経糸条群及び左斜上・右斜上バイアス糸条群(三軸織物)、または3)経糸条群、緯糸条群、及び左斜上・右斜上バイアス糸条群(四軸織物)で、かつ前記織物が単層織物、二重織物、及び三重織物、から選ばれた何れか1種の態様である。織編要素1)及び2)の織編交点の孔状隙間(通気部)の総和を空隙率と定義した時の値は5%以下が好ましい。孔状隙間の孔径は直径0.05〜1.0mmの範囲で、好ましくは0.05〜0.5mmと特に小さく、孔状隙間数が(タテ8個×ヨコ8個)〜(タテ60個×ヨコ60個)/25.4mmの範囲で、この孔状隙間(通気部)を抜ける空気量は、(JIS L1096:フラジール法)5〜100cc/cm2/秒、特に10〜50cc/cm2/秒が消臭性発現のためのガス交換通気に優れる。
【0022】
単層織物は、平織物、2/2ななこ(バスケット)織物、2/2畝織物、綾織物:2/1綾織物、2/2綾織物、3/1斜文(四枚綾)、3/1破れ斜文(四枚綾)、3/2斜文(五枚綾)、4/1斜文(五枚綾)、5/1斜文(六枚綾)、4/2斜文(六枚綾)、1・3/1・1斜文(六枚綾)など、朱子織物:2飛び4/1朱子(五枚朱子)、3飛び4/1朱子(五枚朱子)、2飛び3/2朱子(五枚朱子)、3飛び3/2朱子(五枚朱子)など、及びこれらの変化平織物、変化綾織物、変化朱子織物など、さらに蜂巣織物、梨子地織物、破れ斜文織物、昼夜朱子織物、もじり織物(紗織物、絽織物)、縫取織物、ラッセル編物などが使用でき、これらは質量0.2〜1.2kg/m、空隙率5%以下(織編交点に生じる孔状隙間の総和の占有率)、かつ通気度(JIS L1096:フラジール法)5〜100cc/cm2/秒を満たすものが例示され、この通気度により消臭効果発現のためのガス交換通気に優れる。
【0023】
二重織物は、表経・裏経の経糸条及び表緯・裏緯の緯糸条を用いて上下2枚に重なり合った織物で、上部の織物が表経糸条と表緯糸条とで空隙率10%以下(織編交点に生じる孔状隙間の総和の占有率)を成し、下部の織物が裏経糸条と裏緯糸条とで空隙率10%以下(織編交点に生じる孔状隙間の総和の占有率)を成し、質量0.4〜2.4kg/m、共有空隙率5%以下(積重した織物に生じる孔状隙間の重なり部分の総和の占有率)、かつ通気度(JIS L1096:フラジール法)5〜100cc/cm2/秒を満たすものが例示される。このうち経二重織物は1組の緯糸条に表経と裏経が組織して一重の織物の裏にも1つ余分の経糸条が織付いたもので表経と裏経の配列は1:1、2:1、3:1などである。緯二重織物は1組の経糸条に表緯と裏緯が組織して一重の織物に別の緯糸条が織付いたもので表緯と裏緯の配列は1:1、2:1、3:1などで、また経緯二重織物は2枚の織物を同一織機で織り、その織糸条で上下2枚の織物(各々質量0.4〜1.2kg/m)を接結したものである。同様に三重織物は、表経・中経・裏経の経糸条及び表緯・中緯・裏緯の緯糸条を用いて上中下の織物3枚が積重した織物で、上部織物、中部織物、下部織物、各々が、空隙10%以下(織編交点に生じる孔状隙間の総和の占有率)、かつ質量0.2〜1.0kg/mで成り、質量0.6〜3.0kg/m共有空隙率5%以下(積重した織物に生じる孔状隙間の重なり部分の総和の占有率)、かつ通気度(JIS L1096:フラジール法)5〜100cc/cm2/秒を満たす、経三重織物、緯三重織物、経緯三重織物などである。
【0024】
上述した織物個々において糸条同士の織交点は熱融着により互いに固定されたものはシート状織物の形態安定性に優れ、織り交点に熱溶融固定が一切なされないものや熱癒着が軽微なものは消臭性シートのフレキシブル性をより柔軟とする。織交点の熱融着による固定は、織物全体に及んでいてもよく、また上下左右に等間隔、もしくはランダムな部分的な織り交点の熱融着であってもよい。熱融着は、樹脂被覆層の軟化温度以上の加熱を施し、製織交点を溶融癒着させる手段、例えば150〜300℃の熱風セット、150〜230℃の熱ロールによる織物全面ニップ、または部分的ニップ、熱板による織物全面プレス、または部分的プレスなどが例示できる。
【0025】
本発明の消臭性シートの施工は、体育館、スポーツジムなどの公共施設、食品工場、化学品工場、畜産農業施設、水産施設、ゴミ処理施設など産業施設における、空間仕切り、壁掛け幕、敷物、天井膜、積荷カバー、ブラインドなど、幅1m〜3mの任意、長さ1m〜50mの任意の規格シートを自在に組み合わせて使用できる。特に1).1枚が幅1m〜3m程度、長さ1m〜5m程度の織物シートは、四角形、長方形、三角形、菱形、などの形態でアルミフレーム(押材)により織物シート全周を固定したパネル同士の組み合わせで、天井梁や壁に固定、または吊り下げることで平面の空間仕切りや幾何学立体の空間仕切りに使用できる。2).また1枚が幅1m〜3m程度、長さ1m〜10m程度の長尺織物シートを、幅方向の2辺を天井梁やアルミ押材に固定し、張力を掛けずに織物シートを自重で弛んだ半円弧状態に懸垂し、多数の織物シートで半円弧の並びを表現したデザインアート空間仕切りに使用できる。3).また1枚が幅1m〜3m程度、長さ1m〜5m程度の織物シートは、四角形、長方形、三角形、菱形、などの形態で織物シートの外周のポイント毎にハトメ、ターンバックル、取付金具、ジョイントナットなどを設け、ロープやバネを用いて天井梁や壁にサスペンジョン固定することで張力をコントロールして得たドレープを利用するデザインアート空間仕切りに使用できる。4).また、本発明の消臭性シートは幅(緯糸方向)が100cm以下、長さ方向(経糸方向)100cm以下のサイズで用いることもでき、例えば、トイレ壁掛けタペストリー、トイレ・浴室の敷物、下駄箱や押入れの敷物、ペット用ケージ内敷物、介護ベッド用敷物などの形態でも使用でき、A4サイズ以下での使用例としては靴の中敷(下駄箱収納時)も可能である。本発明の消臭性シートは任意の着色が可能であり、公知の印刷技術の応用により、メッシュシート片面または両面に写真画像・イラストレーション・文字などをプリントして、装飾効果や広告効果を附帯させることもできる。
【0026】
本発明の消臭性シートは使用環境による程度差はあるが、1ヶ月程度の経過毎に、吸着飽和に達した消臭性シートを、1)水洗、または水への浸漬を行うことで吸着した臭気成分を溶出除去する工程、2)ヒーター加熱(熱風)により、吸着した臭気成分を放出除去する工程、3)天日干し(日射熱、紫外線)により、吸着した臭気成分を放出除去する工程、の何れかの単独リセット工程によって、好ましくは1)と2)の併用工程、または1)と3)の併用リセット工程の何れか、または複数のリセット工程処理を施すことで、本発明の消臭性シートの臭気吸着性能を初期の50%以上に回復させることができ、定期的なメンテナンスを行うことで、消臭性シートとして繰り返しの使用が可能である。
【実施例】
【0027】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。下記実施例及び比較例において、試験シートの減臭性・消臭性、及び臭気吸着性能の回復効果は下記の試験方法により測定し、評価した。
〈減臭性・消臭性〉
容積5LのTedlar(登録商標)バッグを4個用意し、各々のバッグに濃度10ppm
に調整した個々の化学物質ガス、アンモニア(塩基性)、イソ吉草酸(酸性)、硫
化水素(酸性)、トルエン(VOC)を各々3L封入し、10cm×10cmサイ
ズの試験シートを、試験シートの表裏面ともバッグ内壁に触れないようにアンモニ
アバッグ内に固定し、30分後のアンモニアガス濃度を測定し、この試験シートを
次にイソ吉草酸バッグ内に固定し30分後のイソ吉草酸ガス濃度を測定し、この
試験シートを次に硫化水素バッグ内に固定し、30分後の硫化水素ガス濃度を測定
し、この試験シートを次にトルエンバッグ内に固定し、30分後のトルエンガス
濃度を測定した。
〈臭気吸着性能の回復〉
2−1)10cm×10cmサイズの試験シートを容積5LのTedlar(登録商標)
バッグに入れ、試験シートの表裏面ともバッグ内壁に触れないようバッグ内に固定
し、濃度10ppmに調整したアンモニアガスを3L封入したバッグ内環境に60分
間晒し、10分毎にアンモニアガス濃度を検知管で測定し1回目の減臭曲線を描い
た。取出した試験シートを新たなTedlar (登録商標)バッグに入れ、1回目の試験
同様濃度10ppmに調整したアンモニアガスを3L封入したバッグ内環境に120
分間晒し、10分、30分、60分、120分毎にアンモニアガス濃度を検知管で
測定し2回目の減臭曲線を描いた。同様に3回目の試験を繰り返し3回目の減臭曲
線を描いた。
2−2)3回目の試験を終えた試験シートを5Lの水道水を入れたバット内に浸漬
した状態で20℃×60分間静置し水洗処理した。次に取出した試験シートを80
℃設定のギアーオーブン(電気ヒーター式)内に吊るして30分間の熱風加熱処理
を行った。この水洗〜加熱処理を行った試験シートを、再度容積5LのTedlar(登
録商標)バッグに入れ、試験シートの表裏面ともバッグ内壁に触れないようバッグ
内に固定し、濃度10ppmに調整したアンモニアガスを3L封入したバッグ内環境
に120分間晒し、10分、30分、60分、120分毎にアンモニアガス濃度を
検知管で測定し4回目(再生処理後)の減臭曲線を描き、1回目(初期消臭性能)
の減臭曲線のピークとの対比による再生率を求めた。
2−3)上記1)試験と同じ要領で、連続で4種のガスに対しての減臭試験を行い
、回復の処理を施した後(2−2処理後)の減臭曲線ピークと、1回目(初期消臭
性能)の減臭曲線ピークとの対比による再生率を求めた。
〈通気度〉
JIS L1096 8.27.1 A法に定めるフラジール形法により求めた。
【0028】
[実施例1]
1).樹脂被覆層を有する糸条(1)
(無アルカリ)ガラス繊維糸条(フィラメント径9μm、400本フィラメント:75番手:687dtex)のマルチフィラメント扁平糸を芯糸とし、コーティングダイスに芯通しした押出成型機を用い、下記配合1の軟質塩化ビニル系樹脂ペースト状組成物をコートダイスノズル孔から押出すことで芯糸の全周に樹脂被覆を行い、180℃の熱処理ゲル化工程を経て、これを冷却して引き取ることで樹脂被覆糸条(1)を得た。
〔配合1〕軟質塩化ビニル樹脂ペースト組成物
ペースト塩化ビニル樹脂(重合度1700) 100質量部
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニル(可塑剤) 60質量部
※商品名:ヘキサモールDINCH(BASF社製)
エポキシ化大豆油(可塑剤) 5質量部
バリウム/亜鉛複合安定剤 2質量部
※塩基性複合体粒子(A)
〔酸化亜鉛/アルミナ〕複合体(平均粒子径1μm) 15質量部
※酸性複合体粒子(B)
〔二酸化珪素/アルミナ〕複合体(平均粒子径1μm) 15質量部
※ゼオライト粒子(D)
合成ゼオライト(平均粒子径2μm) 15質量部
アゾジカルボアミド(熱分解ガス発生物質) 4質量部
ベンゾトリアゾール(紫外線吸収剤) 0.3質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 10質量部
酸化チタン(白顔料) 2質量部
2)〈通気性可撓シート(1)〉
樹脂被覆糸条(1)を経糸条群及び緯糸条群として、各々2本揃とする2/2ななこ(バスケット)織物による単層織物で、経糸条群は1インチ間28本の織密度、また緯糸条群は1インチ間30本の織密度とする織物を得た。次にこの織物を200℃で2分間熱処理を施し、熱分解ガス発生物質の熱分解ガス生成による発泡気泡痕(12体積%)を形成すると同時に、2/2ななこ織物の織り交点を熱融着により織り組織が固定された、空隙率2%(0.1mm以下の空隙部の総和)は、通気度30cc/cm2/秒、質量860g/m、外観が白色の通気性可撓シート(1)を得た。糸条2本揃とする2/2ななこ(バスケット)織物、経糸条群は1インチ間28本の織密度、緯糸条群は1インチ間30本の織密度とする空隙率2%の織物の織交点に生じる空隙部の数は、(28/2)−1本×(30/2)−1本=182個/インチ、またインチに対する2%は12.9mmであるから1個の空隙部の面積は約0.07mmとなる。
【0029】
[実施例2]
〈通気性可撓シート(2)〉
実施例1の配合1に用いた塩基性複合体粒子(A)としての〔酸化亜鉛/アルミナ〕複合体15質量部を、〔酸化マグネシウム/アルミナ〕複合体15質量部に置換え、同様に配合1に用いた酸性複合体粒子(B)としての〔二酸化珪素/アルミナ〕複合体15質量部を〔酸化チタン/アルミナ〕複合体15質量部に置換えた(配合2)による樹脂被覆糸条(2)を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例1と同規格の2/2ななこ(バスケット)織物:空隙率2%(1個の空隙部の面積は約0.07mm)、通気度30cc/cm2/秒、質量860g/mを得た。
【0030】
[実施例3]
〈通気性可撓シート(3)〉
実施例1の配合1に用いた塩基性複合体粒子(A)としての〔酸化亜鉛/アルミナ〕複合体15質量部を、〔酸化マグネシウム/アルミナ〕複合体15質量部に置換えた(配合3)による樹脂被覆糸条(3)を用い、経糸群の打ち込み密度42本/インチ、緯糸群の打ち込み密度36本/インチである二重織物を、上層織物組織を右上がりの2/1の斜文織、下層織物組織を左上がりの2/1の斜文織、上層織物と下層織物とを5本跨ぎの結線で結接して製織し、次にこの織物を200℃で2分間熱処理を施し、熱分解ガス発生物質の熱分解ガス生成による発泡気泡痕(12体積%)を形成すると同時に、二重織物の織り交点を熱融着して接着して織り組織が固定された、空隙率1.2%(1個の空隙部の面積は約0.02mm)、通気度18cc/cm2/秒、質量1160g/m、外観が白色の通気性可撓シート(3)を得た。
【0031】
[実施例4]
〈通気性可撓シート(4)〉
実施例1の配合1に用いた酸性複合体粒子(B)としての〔二酸化珪素/アルミナ〕複合体15質量部を〔酸化チタン/アルミナ〕複合体15質量部に置換えた(配合4)による樹脂被覆糸条(4)を用いた以外は実施例3と同様の二重織物として、空隙率1.2%(1個の空隙部の面積は約0.02mm)、通気度18cc/cm2/秒、質量1160g/m、外観が白色の通気性可撓シート(4)を得た。
【0032】
[実施例5]
〈通気性可撓シート(5)〉
ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(アラミド繊維:フィラメント径12μm、843dtex)のマルチフィラメント扁平糸を芯糸とし、コーティングダイスに芯通しした押出成型機を用い、下記配合5の軟質塩化ビニル系樹脂ペースト状組成物をコートダイスノズル孔から押出すことで芯糸の全周に樹脂被覆を行い、180℃の熱処理ゲル化工程を経て、これを冷却して引き取ることで得られた樹脂被覆糸条(5)に変更した以外は実施例1と同様として、2/2ななこ織物:空隙率3%(1個の空隙部の面積は約0.1mm)、通気度45cc/cm2/秒、質量825g/m、外観が白色の通気性可撓シート(5)を得た。
〔配合5〕軟質塩化ビニル樹脂ペースト組成物
※配合1において、塩基性複合体粒子(A);〔酸化亜鉛/アルミナ〕複合体15質量部を20質量部に増量し、酸性複合体粒子(B):〔二酸化珪素/アルミナ〕複合体15質量部を10質量部に減量し、(A):(B)質量比を2:1に変更した以外は配合1と同一。
【0033】
[実施例6]
〈通気性可撓シート(6)〉
炭素繊維(フィラメント径8μm、660dtex)のマルチフィラメント扁平糸を芯糸とし、コーティングダイスに芯通しした押出成型機を用い、下記配合6の軟質塩化ビニル系樹脂ペースト状組成物をコートダイスノズル孔から押出すことで芯糸の全周に樹脂被覆を行い、180℃の熱処理ゲル化工程を経て、これを冷却して引き取ることで得られた樹脂被覆糸条(6)に変更した以外は実施例1と同様として、2/2ななこ織物:空隙率2.5%(1個の空隙部の面積は約0.09mm)、通気度38cc/cm2/秒、質量810g/m、外観が白色の通気性可撓シート(6)を得た。
〔配合6〕軟質塩化ビニル樹脂ペースト組成物
※配合1において、塩基性複合体粒子(A);〔酸化亜鉛/アルミナ〕複合体15質量部を10質量部に減量し、酸性複合体粒子(B):〔二酸化珪素/アルミナ〕複合体15質量部を20質量部に増量し、(A):(B)質量比を1:2に変更した以外は配合1と同一。
【0034】
[実施例7]
〈通気性可撓シート(7)〉
実施例1で用いた樹脂被覆糸条(1)を、ポリエステル(PET)繊維(フィラメント径10μm、833dtex)のマルチフィラメント扁平糸を芯糸とし、コーティングダイスに芯通しした押出成型機を用い、配合1の軟質塩化ビニル系樹脂ペースト状組成物をコートダイスノズル孔から押出すことで芯糸の全周に樹脂被覆を行い、180℃の熱処理ゲル化工程を経て、これを冷却して引き取ることで得られた樹脂被覆糸条(7)に変更した以外は実施例1と同様として、2/2ななこ織物:空隙率2%(1個の空隙部の面積は約0.07mm)、通気度30cc/cm2/秒、質量780g/m、外観が白色の通気性可撓シート(7)を得た。
【0035】
[実施例8]
〈通気性可撓シート(8)〉
樹脂被覆糸条(7)を経糸条群及びバイアス糸条群とする単層織物で、経糸条群は1インチ間22本の織密度、右上バイアス糸条群は1インチ間18本、左上バイアス糸条群は1インチ間18本の織密度とする三軸織物を得た。次にこの織物を200℃で2分間熱処理を施し、熱分解ガス発生物質の熱分解ガス生成による発泡気泡痕(12体積%)を形成すると同時に、織り交点を熱融着により織り組織が固定された、空隙率2.2%(1個の空隙部の面積は約0.025mm)、通気度33cc/cm2/秒、質量980g/m、外観が白色の通気性可撓シート(8)を得た。
【0036】
実施例1〜8の通気性可撓シート1〜8は、何れも樹脂被覆層を有する糸条を織編要素に含み、樹脂被覆層には、〔酸化亜鉛/アルミナ〕複合体、及び〔酸化マグネシウム/アルミナ〕複合体から選ばれた1種以上の塩基性複合体粒子群(A)と、〔二酸化珪素/アルミナ〕複合体、及び〔二酸化チタン/アルミナ〕複合体から選ばれた1種以上の酸性複合体粒子群(B)とを、(A):(B)質量比2:1〜1:2とする酸化物複合体混合物(C)と、ゼオライト(D)を含み、質量比(C):(D)を2:1とするもので、この要件を満たすことによって、塩基性複合体粒子群(A)の存在により、硫化水素、メチルメルカプタン、酢酸、イソ吉草酸、ノネナールなどの酸性悪臭に対する減臭(消臭)効果と、酸性複合体粒子群(B)の存在によって、アンモニア、トリメチルアミンなどの塩基性悪臭に対する減臭(消臭)効果を同時発現し、また樹脂被覆層にゼオライト粒子(D)を含有することでシンナーやトルエンなどの有機溶剤、ホルムアルデヒドなどの揮発性化学物質臭などに対しても吸着性を発現し、しかも吸着効果が飽和状態となっても、(熱)水洗、ヒーター加熱、及び天日干し、の単独、または併用の処理によって臭気吸着率が初期の50%以上に容易に回復できることなどの特徴が確認された。また通気度(JIS L1096:フラジール法)0.5〜65cc/cm2/秒の空隙部は通気によるガス交換で消臭効果をより高いのもとした。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
[比較例1]
実施例1の配合1を下記配合7に変更し、配合7で樹脂被覆した糸条(8)を用いた以外は実施例1と同様として、空隙率2%、通気度30cc/cm2/秒、質量860g/m外観が白色の2/2ななこ織柄の通気性可撓シート(9)を得た。得られたシート(9)は酸化亜鉛、二酸化珪素、及びアルミナを含むものであったが、塩基性複合体粒子(A);〔酸化亜鉛/アルミナ〕複合体、及び酸性複合体粒子(B):〔二酸化珪素/アルミナ〕複合体の形態を取らないことで、実施例1のシート(1)と比較して、アンモニア、イソ吉草酸、硫化水素、トルエンとも減臭効果に劣り、それによってアンモニア、イソ吉草酸、硫化水素、トルエンなどの臭気吸着性能の回復性を大きく損なうものであった。
〔配合7〕軟質塩化ビニル樹脂ペースト組成物
※配合1において、塩基性複合体粒子(A);〔酸化亜鉛/アルミナ〕複合体15質量部、及び酸性複合体粒子(B):〔二酸化珪素/アルミナ〕複合体15質量の合計30質量部を省略し、酸化亜鉛(平均粒子径1μm)10質量部、二酸化珪素(平均粒子径1μm)10質量部、及びアルミナ(平均粒子径1μm)10質量部の合計30質量部と置き換えた以外は配合1と同一。
【0040】
[比較例2]
実施例1の配合1を下記配合8に変更し、配合8で樹脂被覆した糸条(9)を用いた以外は実施例1と同様として、空隙率2%、通気度30cc/cm2/秒、質量860g/m外観が白色の2/2ななこ織柄の通気性可撓シート(10)を得た。得られたシート(10)は酸性複合体粒子(B)の含有量が塩基性複合体粒子(A)の1/5と少ないことで、実施例1のシート(1)と比較して特にアンモニアの減臭効果が不十分なものであり、しかもそれによってアンモニアの減臭効果の回復性も不十分なものであった。
〔配合8〕軟質塩化ビニル樹脂ペースト組成物
※配合1において、塩基性複合体粒子(A);〔酸化亜鉛/アルミナ〕複合体15質量部を25質量部に増量し、酸性複合体粒子(B):〔二酸化珪素/アルミナ〕複合体15質量部を5質量部に減量し、(A):(B)質量比を5:1に変更した以外は配合1と同一。
【0041】
[比較例3]
実施例1の配合1を下記配合9に変更し、配合9で樹脂被覆した糸条(10)を用いた以外は実施例1と同様として、空隙率2%、通気度30cc/cm2/秒、質量860g/m外観が白色の2/2ななこ織柄の通気性可撓シート(11)を得た。得られたシート(11)は塩基性複合体粒子(A)の含有量が酸性複合体粒子(B)の1/5と少ないことで、実施例1のシート(1)と比較して、特にイソ吉草酸、及び硫化水素の減臭効果が不十分なものであり、しかもそれによってイソ吉草酸、及び硫化水素の減臭効果の回復性も不十分なものであった。
〔配合9〕軟質塩化ビニル樹脂ペースト組成物
※配合1において、塩基性複合体粒子(A);〔酸化亜鉛/アルミナ〕複合体15質量部を5質量部に減量し、酸性複合体粒子(B):〔二酸化珪素/アルミナ〕複合体15質量部を25質量部に増量し、(A):(B)質量比を1:5に変更した以外は配合1と同一。
【0042】
[比較例4]
実施例1の配合1を下記配合10に変更し、配合10で樹脂被覆した糸条(11)を用いた以外は実施例1と同様として、空隙率2%、通気度30cc/cm2/秒、質量860g/m外観が白色の2/2ななこ織柄の通気性可撓シート(12)を得た。得られたシート(12)はゼオライト粒子(D)15質量部を3質量部に減量し、酸化物複合体混合物(C)との質量比(C):(D)を10:1としたことで、実施例1のシート(1)と比較して特にトルエンガスの消臭効果が劣り、トルエンガスの消臭効果の回復性も希薄なものであった。
〔配合10〕軟質塩化ビニル樹脂ペースト組成物
※実施例1の配合1からゼオライト粒子(D)15質量部を3質量部に減量し、酸化物複合体混合物(C)との質量比(C):(D)を10:1とした以外は配合1と同一。
【0043】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の消臭性シートは、塩基性複合体粒子群(A)が、硫化水素(卵の腐敗臭)、メチルメルカプタン(玉葱の腐敗臭)、酢酸、イソ吉草酸(足の裏臭)、ノネナール(加齢臭)などの酸性悪臭を減臭(消臭)し、かつ酸性複合体粒子群(B)が、アンモニア(尿臭)、トリメチルアミン(魚の腐った臭)などの塩基性悪臭を減臭(消臭)し、粒子群(A)及び粒子群(B)が酸性悪臭と塩基性悪臭とを選択的に、互いに阻害し合うことなく不活性化する役割を担い、同時にゼオライト(D)が、シンナーやトルエンなどの有機溶剤、ホルムアルデヒドなどの揮発性化学物質臭などの吸着性を附帯するので、より広い臭気成分(VOC含む)に対しての減臭(消臭)効果を発現することを可能とし、また長期使用により吸着飽和に達した消臭性シートを、1)水洗、または水への浸漬を行うことで吸着した臭気成分を溶出除去する工程、2)ヒーター加熱(熱風)により、吸着した臭気成分を放出除去する工程、3)天日干し(日射熱、紫外線)により、吸着した臭気成分を放出除去する工程、の何れかの単独リセット工程によって、好ましくは1)と2)の併用リセット工程、または1)と3)の併用リセット工程によって、初期消臭性能の50%以上に回復させることを可能とするので、体育館、スポーツジムなどの公共施設、食品工場、化学品工場、畜産農業施設、水産施設、ゴミ処理施設など産業施設における、空間仕切り、壁掛け幕、敷物、天井膜、積荷カバー、ブラインドなど、使い捨ての出来ない大型サイズで使用される用途において、消臭機性能の再生を繰り返しながら長期間の使用を可能とする。上記用途において、本発明の消臭性シートには写真や画像・イラストレーション・文字などのデザインや広告効果を附帯させることもできるので産業上の利用に極めて有用である。
図1